特許第5886722号(P5886722)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5886722-脱硝装置を備えた燃焼炉 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5886722
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月16日
(54)【発明の名称】脱硝装置を備えた燃焼炉
(51)【国際特許分類】
   F23J 7/00 20060101AFI20160303BHJP
【FI】
   F23C99/00 317
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-216578(P2012-216578)
(22)【出願日】2012年9月28日
(65)【公開番号】特開2014-70785(P2014-70785A)
(43)【公開日】2014年4月21日
【審査請求日】2015年3月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】新日鉄住金化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100082739
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 勝夫
(74)【代理人】
【識別番号】100087343
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 智廣
(74)【代理人】
【識別番号】100088203
【弁理士】
【氏名又は名称】佐野 英一
(72)【発明者】
【氏名】有福 裕二
(72)【発明者】
【氏名】堀内 克己
(72)【発明者】
【氏名】舛添 太祐
(72)【発明者】
【氏名】屋我 満
(72)【発明者】
【氏名】下川 将広
【審査官】 黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭52−135906(JP,A)
【文献】 特開2005−331204(JP,A)
【文献】 特開平6−341610(JP,A)
【文献】 特開昭52−140028(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスの燃焼を行う炉内にガス燃焼用バーナ及び還元剤吹込み用ノズルを設置してなる脱硝装置を備えた燃焼炉において、筒状体を当該ガス燃焼用バーナから発生する炎又は炎に続く高温燃焼ガスの側面周囲を取り囲むように設置し、還元剤吹込み用ノズル先端を筒状体の内部に設けたことを特徴とする脱硝装置を備えた燃焼炉。
【請求項2】
前記筒状体が、円筒型であることを特徴とする請求項1に記載の燃焼炉。
【請求項3】
前記脱硝装置が、無触媒脱硝反応用装置であることを特徴とする請求項1又は2に記載の燃焼炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規な排ガス脱硝装置を備えた燃焼炉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、廃棄物の減少、低コスト化や資源の有効利用を目的として、化学設備等にて発生する燃料としては低品質の副生ガス等を燃料として、燃焼炉で燃焼させてその熱を水や熱媒等の液体や、固体及び気体の加熱等に使用することが多くなっている。しかし、副生ガスはしばしば窒素化合物を含有することから、副生ガスの燃焼により発生する燃焼排ガス中の窒素酸化物(NOx)が増加するため、還元剤により脱硝することで排ガス中のNOxを排出基準以下とする必要がある。
【0003】
脱硝方法の一つに、無触媒脱硝方法がある。無触媒脱硝方法は、NOxを含むガスに高温状態でアンモニア等の還元剤を導入することにより、触媒を使用することなくNOxを還元除去する方法であり、他の方法より設備コストがかからない利点がある。この無触媒脱硝方法において、脱硝反応に影響を及ぼす主な要因は、排ガス温度、反応時間、排ガスと還元剤との混合条件等が挙げられる。
【0004】
しかし、副生ガスの多くは窒素ガス等の不燃成分を含むことが多く、燃焼における発熱量が小さいため、燃焼炉の容積が大きい場合は、火炎又は火炎に接続する高温燃焼ガスからの輻射による放熱や炉内を対流する低温の循環排ガスによる冷却効果により、無触媒脱硝帯域における燃焼ガスの温度が十分に上がらないか、無触媒脱硝に必要な温度領域(700〜1050℃程度)を十分に確保できず、脱硝反応が十分に進行しない問題があった。また、触媒を使用する脱硝であっても、燃焼ガスの温度が低すぎたり、反応温度領域において必要な滞留時間をとることができないと、脱硝反応が十分に進行しない。
【0005】
一般に、一定規模以上の既設の燃焼炉には脱硝装置が備えられているが、プロパンガスやLNGのような高発熱量の燃料ガスを低発熱量の副生ガスに変える場合、燃焼ガス温度が低下し、既設の脱硝装置では十分な脱硝ができないという問題が生じる。
【0006】
この問題を解決する方法として、例えば、スプレーノズルの改良による還元剤の微粒子化(特許文献1)が報告されているが、かかる方法は当然ながら、スプレーノズルだけでなく付帯する配管等の設計を大幅に見直す等の改造コストがかかると予想される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−136837
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の問題を解決するために、ガス燃焼炉またはその付帯設備の大幅な改造を必要とせず、排ガスの脱硝、特に無触媒脱硝を効率よく行う装置およびその方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明は、ガスの燃焼を行う炉内にガス燃焼用バーナ及び還元剤吹込み用ノズルを設置してなる脱硝装置を備えた燃焼炉において、筒状体を当該ガス燃焼用バーナから発生する炎又は炎に続く高温燃焼ガスの側面周囲を取り囲むように設置し、還元剤吹込み用ノズル先端を筒状体の内部に設けたことを特徴とする脱硝装置を備えた燃焼炉である。
【0010】
上記筒状体の形状としては、円筒型であることが好ましい。また、上記脱硝装置としては、無触媒脱硝反応用の装置であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の脱硝装置を備えた燃焼炉は、ガス燃焼用バーナの近傍に筒状体を設置するというものであるので、ガス燃焼炉の大幅な改造なしに、簡便な方法で排ガスの温度や流動等の状態をコントロールできる。その結果、例え低質の副生ガスの燃焼排ガスについても脱硝を効率よく行うことができる。また、燃焼炉を新設する場合であっても、簡単な設計変更で済むという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の熱媒加熱装置の一例を示す概略の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を更に説明する。
本発明の燃焼炉は、炉内にガス燃焼用バーナ及び脱硝用の還元剤吹込み用ノズルを設置してなり、ガス燃焼用バーナから発生する炎又は炎に続く高温燃焼ガスと還元剤吹込み用ノズルからの還元剤ガスの側面周囲を取り囲むように筒状体を設置したものである。この筒状体は炎又は炎に続く高温燃焼ガスを保護するように設けられる。ここで、保護するとは、高温燃焼ガスの温度低下速度を抑制することを意味し、具体的には対流による低温排ガスの混入又は輻射による熱放散を抑制することなどである。
【0014】
以下、本発明の燃焼炉を、一例を示す図面を参照して説明する。
燃焼炉は、燃焼部10と燃焼部からの排ガス又は熱によって加熱される加熱室を有する。燃焼部10は、バーナ15を有し、そこに燃料ガスが供給される。バーナ15の周囲からは酸素含有ガス、有利には空気14が供給され、燃焼が生じ、燃焼炎とそれに続く高温燃焼ガス(以下、燃焼炎とそれに続く高温燃焼ガスをまとめて高温排ガスという。)が生じる。一方、脱硝用の還元剤ガスは、高温排ガスと接触して、混合するように管16から吹き込まれる。バーナ15の先端は、炉壁12より下部に設けられているが、炉壁と同じ高さであってもよいし、上部であってもよい。図面ではバーナ17の先端は、炉壁12より下部に設けられており、炉壁12とバーナ15の先端の間の側壁はバーナタイル13で構成されている。高温排ガスは開口部17から筒状体11内に流入する。筒状体11内に流入する高温排ガスは、燃焼炎部分を含んでもよく、それに続く高温燃焼ガスだけでもよく、両方を含んでもよい。
【0015】
燃料ガス15が低発熱量の副生ガス等である場合は、高温排ガスの温度が低く、還元剤ガスと接触しても、脱硝に必要な温度と十分な温度領域を確保できないことがある。そこで、本発明では筒状体11を炉壁12に接して設けている。筒状体11は高温排ガスの温度低下速度を抑制するように設ければよく、バーナタイル12に接して設ける以外の手段で設けてもよい。
【0016】
この筒状体11は、筒状体中の高温排ガスの温度を高い状態に保ち、脱硝反応の進行を促進する。そして、本発明の燃焼炉は、筒状体11を中心とする脱硝装置に特徴があるので、ガス燃焼炉の材質、形状及び容積は、燃料ガスの燃焼に耐え得る耐熱性と、排気装置以外から排ガスが漏洩しない密封性を備えていれば特に制限はない。
【0017】
また、ガス燃焼用バーナ15及び還元剤吹込み用管16に設けられるノズルの大きさ、形状及び位置は、ガス燃焼炉、筒状体及びガス燃焼用バーナ開口部の形状、還元ガス噴霧量及び濃度、被燃焼ガス及び排ガスの全体量、含窒素量、酸素濃度及びNOx濃度により、適宜調整し最適化することができる。例えば、図1に例示するように、ガス燃焼炉中に開口部17を設け、開口部17に埋没するようにガス燃焼用バーナを設置し、ガス燃焼用バーナ及び燃焼炎を取り囲むように、バーナタイル等の耐火物を設置して、上部を除く周囲を密封してもよい。
【0018】
また、筒状体の材質は、燃料ガスの燃焼に耐え得る耐熱性を備えていれば特に制限はないが、キャスタブル、セラミックウールをSUS板等で補強したものや、耐火レンガが保温性、耐久性の観点から好ましい。また、筒状体の形状は、筒形状を有していれば良く、例えば角筒、三角筒等の多角筒や円筒、楕円筒が挙げられるが、高温排ガスの対流や保温性の観点から円筒型が好ましい。
【0019】
また、筒状体の大きさは、高温排ガスの温度、排ガス量、排ガス中の酸素濃度及びNOx濃度等により適宜調整し最適化できるが、脱硝反応開始温度以上で、一定時間以上、還元剤を燃焼排ガスと効率よく接触させるという観点から定めることができる。好ましくは、無触媒脱硝の場合は、700〜1050℃の温度領域で、0.1秒以上接触させるように定める。また、温度が低い場合は接触時間を長くするように定めることがよい。したがって、上記接触時間から筒状体の体積又は高さが定まる。
【0020】
また、燃焼炉は複数の燃焼用バーナを有することもでき、この場合燃焼用バーナの全てに筒状体を設置しても、しなくともよい。燃焼炉の形状には制限はないが、筒状体を出た高温排ガスが加熱炉内の被加熱材料を所定温度に加熱し、一定温度に低下したガスが外部に出る排気装置を備えることがよい。
【0021】
また、無触媒脱硝反応は700℃〜1050℃の温度領域で効率よく進行するが、好ましくは850℃〜1050℃の温度領域である。従って、高温排ガスと還元ガスの接触箇所における温度が、上記温度領域になるように、高温排ガスの温度を還元ガスが未接触時において、800℃〜1300℃とすることが好ましい。触媒脱硝反応は無触媒脱硝反応より十分に低い温度で進行するので、300℃〜600℃程度の温度領域とすればよい。
【0022】
還元剤は、排ガス中のNOxを窒素に還元できれば、その種類は問わない。例えば、尿素、アンモニア水、アンモニアガス等を使用できるが、水分蒸発による排ガス温度低下防止の観点から、アンモニアガスが好ましい。また、複数の上記還元ガスを使用してもよく、またCO、水素等の還元ガスを混合させてもよい。
【0023】
また、本発明の脱硝装置は、燃料ガスとして化学設備等にて発生する低質の副生ガスを使用した場合、排ガスの脱硝効果が大きいが、液化天然ガスのような含窒素濃度が低いガスを使用した場合でも、排ガスの脱硝効果は十分にある。
【実施例】
【0024】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明について更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより制限されるものではない。
【0025】
脱硝前後における排ガス中のNOx濃度は、堀場製作所製の煙道排ガス分析装置(型式:ENDA−5220)により連続測定し、酸素濃度6%換算した値を使用した。脱硝率は、アンモニア添加前後の安定した値より算出した。
【0026】
実施例1
図1に示す構造のガス燃焼炉を使用して、脱硝試験を行った。このガス燃焼炉は、ガス燃焼用バーナ18本及びアンモニア吹込み用ノズルを備え、ガス燃焼用バーナ上部の開口部17の開口部直径は410mmである。このガス燃焼用バーナの上部の開口部17に接して円筒型の筒状体(内径=1000mm、高さ=650mm、厚さ=100mm、キャスタブル製)を設置した。
【0027】
上記ガス燃焼用バーナで含窒素燃料を燃焼した。この時発生する排ガスは、バーナ1本当たり350Nm3/hであり、バーナ近傍の燃焼炎温度は1200℃であり、筒状体中央部付近の高温排ガスの温度は約900℃であった。
上記ガス燃焼炉中のNOx濃度が安定した後に、ガス燃焼炉中のNOx濃度を測定したところ、534ppmであった。
次に、上記アンモニア吹込み用ノズルから、空気及びアンモニアの混合ガス(バーナ1本あたりアンモニア=2Nm3/hに相当)を導入した。上記ガス燃焼炉中のNOx濃度が安定した後に、再びガス燃焼炉中のNOx濃度を測定したところ、203ppmであった。アンモニアガスの導入による脱硝率は62%と計算される。
【0028】
実施例2
ガス燃焼用バーナ6本及びアンモニア吹込み用ノズルを備えた、ガス燃焼用バーナの開口部の開口直径295mmの燃焼炉を準備した。そして、全てのガス燃焼用バーナの上部に、円筒型の筒状体(内径=1000mm、高さ=2000mm、厚さ=100mm、セラミックウール製)を設置した。
上記ガス燃焼用バーナで含窒素燃料を燃焼した。この時発生する排ガスは、バーナ1本当たり2000Nm3/hであり、ガス燃焼用バーナ近傍のガス炎温度は900〜1000℃であった。筒状体中央部付近の高温排ガスの温度は約850℃であった。
【0029】
上記ガス燃焼炉中のNOx濃度が安定した後に、ガス燃焼炉中のNOx濃度を測定したところ、529ppmであった。
次に、上記アンモニア吹込み用ノズルから、空気及びアンモニアの混合ガス(バーナ1本あたりアンモニア=4.67Nm3/hに相当)を導入した。上記ガス燃焼炉中のNOx濃度が安定した後に、再びガス燃焼炉中のNOx濃度を測定したところ、118ppmであった。アンモニアガスの導入による脱硝率は77.7%と計算される。
【0030】
比較例1
ガス燃焼用バーナの上部に、円筒型の筒状体を設置しなかった他は、実施例1と同じ条件で、アンモニアガスの導入前後における熱媒加熱炉中のNOx濃度及び脱硝率を測定した。
アンモニアガスの導入前における、熱媒加熱炉中のNOx濃度は534ppmであった。また、アンモニアガスの導入後における、熱媒加熱炉中のNOx濃度は331ppmであった。アンモニアガスの導入による脱硝率は38.0%と計算される。
【符号の説明】
【0031】
10 燃焼部
11 筒状体
12 炉壁
13 バーナタイル
14 空気
15 バーナ
16 還元剤導入管
17 開口部
図1