(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記のような印刷用シートは、印刷層の表面に保護シートが剥離可能に設けられている。即ち、半固化状態の漆喰を含む印刷層の如き無機固化物の層がシート同士の擦れや外部からの押圧等によって破損しないように、その表面を保護する剥離可能な保護シートが設けられ、印刷に際しては、この保護シートは引き剥がされるわけである。
【0007】
しかるに、この保護シートは、印刷前の段階での無機固化物層を保護する機能と同時に、この無機固化物層に印刷面を形成するための型材シートとしての機能も有している。即ち、無機固化物層を形成する漆喰等の固化性の無機物は、完全に硬化する前の状態に保持され、印刷後に、例えば炭酸ガスの吸収等によって完全に固化するようになっている。このため、上記の保護シートが設けられている状態において、無機固化物層の表面は半固化状態であり、このため、無機固化物層の表面に保護シートを密着させ、印刷に際して保護シートを引き剥がしたとき、印刷が施される無機固化物層の表面には、保護シートの表面が転写されることとなるからである。
【0008】
上記の事実から理解されるように、保護シートの表面(無機固化物層の表面に密着する面)は、転写により無機固化物層の表面に反映されるため、保護シートとしては、織布や不織布等の繊維性のシートが好適に使用されていた。即ち、樹脂製のフィルムなどを保護シートとして用いた場合には、無機固化物の表面は凹凸の小さい表面となるため、この表面に印刷を施したとき、印刷像に立体感や奥行き感はあまり付与されないが、繊維性の保護シートを用いた場合には、無機固化物層の表面には、繊維による凹凸が付与され、このような凹凸によって、印刷像に立体感や奥行き感が付与されるからである。
【0009】
しかしながら、繊維性のシートを保護シートとして用いた場合には、これを引き剥がしたとき、繊維シートの種類によっては、印刷用シートの無機固化物層の表面に繊維が一部付着して残存してしまうという問題があり、さらには、印刷像に滲みを生じ易く、印刷像が不鮮明になるという問題もあった。これらの問題は、特に、保護シートして不織布シートを用いた場合に顕著に発生していた。
【0010】
従って、本発明の目的は、無機固化物層を印刷層として有しており、印刷が施される無機固化物層の表面への繊維の付着残存が有効に防止されていると共に、印刷像の滲みを有効に防止し、鮮明な印刷像を得る印刷面が形成されている印刷用シートを提供することにある。
本発明の他の目的は、印刷用シートの無機固化物層の表面に、上記のような印刷面を形成するための型材としての機能を有する型材シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、印刷用シートに形成されている無機固化物層の表面状態が印刷像の画質について与える影響について多くの実験を行い研究した結果、この表面に密着して設けられるシート(型材シート)が熱融着性の芯鞘繊維から形成され且つ一定の条件でロール圧着されている場合には、これを無機固化物層表面から引き剥がしたときに、繊維の付着残存が防止されているばかりか、印刷像の滲みも有効に防止され、鮮明な画像が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
即ち、本発明によれば、
転写用表面を有しており、該転写用表面を印刷用シートの無機固化物層の表面に密着し、引き剥がすことにより、該無機固化物層の表面に該転写用表面を転写して印刷面とするための型材シートにおいて、
該型材シートは、ポリプロピレン或いはポリエステルを芯材とし且つポリエチレンを鞘材とする芯鞘繊維の不織布シートから形成されており、
前記転写用表面は、倍率100倍の電子顕微鏡写真において、連続した平坦面と該平坦面に囲まれた不定形の凹部とが混在して形成され、該平坦面は、単位面積当り70〜90%の割合で存在しており、且つ、該凹部は、1mm2当り、長径が10〜300μmの大きさのものが45〜250個の数で観察されることを特徴とする型材シートが提供される。
【0013】
また、本発明によれば、基材シートと該基材シートの表面に積層された無機固化物層とからなり、該無機固化物層の表面が印刷面となる印刷用シートと、
該印刷用シートの無機固化物層に転写用表面が密着するように設けられた、前記型材シートとからなる印刷用積層体が提供される。
【0014】
本発明の印刷用積層体においては、前記無機固化物層が半固化状態の漆喰を含む層であることが好適である。
【0015】
更にまた、本発明によれば、前記印刷用積層体から型材シートを引き剥がして、
倍率100倍の電子顕微鏡写真において、連続した平坦面と該平坦面に囲まれた不定形の凸部とが混在した面となっており、該凸部は、単位面積当り10〜30%の割合で存在しており、且つ該凸部として、1mm2当り、長径が10〜300μmの大きさのものが50〜300個の数で観察される印刷面を形成することを特徴とする印刷用シートの製造方法が提供される。
【0016】
上記の印刷用シートと型材シートとは、この印刷用シートの無機固化物層に転写用表面が密着するように、上記の型材シートを設けて印刷用積層体として搬送、保存され、使用時に型材シートを引き剥がして、印刷用シートの無機固化物層の表面に印刷が施される。
【発明の効果】
【0017】
本発明の印刷用シートは、基材シートの表面に積層されている無機固化物層の表面を印刷面とし、この面に印刷が施されるものであるが、倍率100倍の電子顕微鏡写真で観察すると、この印刷面は、連続した平坦面と該平坦面に囲まれた不定形の凸部とが混在した面となっている。即ち、平坦面の間に不定形の凸部が存在しており、かかる不定形の凸部は、単位面積当り10乃至30%の割合で存在し、且つ不定形の凸部として、1mm
2当り、長径が10乃至300μmの大きさのものが50乃至300個の数で観察される。このような凸部の存在割合及び個数から理解されるように、本発明の印刷用シートでは、不定形の細かな凸部が平坦面の間に数多く存在しており、このような平坦面及び凸部に印刷インキが付着し且つ内部に浸透していく結果、印刷像の滲みが防止される。このような滲みの防止は、細部まで鮮明な印刷像の形成を可能とする。特に、多くの実験結果から、ある程度の面積割合で存在する凸部は、印刷像の滲みの防止に効果的に作用するものと本発明者等は考えている。
さらに、凹部や平坦面がランダムに混在しているため、従来のデジタル写真では得られない立体感や奥行き感などの自然な風合い有する印刷像を形成することが可能となる。
【0018】
例えば、凸部の形状が不定形ではなく、丸や四角などの定形であり、さらに規則正しく配列されているような場合には、自然な風合いが損なわれてしまい、機械的に合成された印象を与えるようになってしまう。また、上記のような大きさの不定形凸部の個数が上記範囲よりも少ない場合及び多い場合の何れの場合にも、印刷像の滲みを生じ易く、得られる印刷像が不鮮明なものとなり易い。
【0019】
さらに、上記の印刷用シートの印刷面となっている無機固化物層の表面は、この表面に型材シート(或いは保護シートとも呼ばれる)を密着し、これを引き剥がすことにより形成されるのであるが、かかる型材シートとして、加熱ロールによる圧着処理がされた不織布シートを使用することによって、上記のようなバランスで多数の不定形凸部が形成される。この結果、本発明の印刷用シートでは、その印刷面に、繊維が付着残存するという不都合は有効に防止されており、このような残存繊維による画質の低下を生じることはない。加熱圧着処理により、繊維同士が融着しているためである。さらに、印刷面への繊維の付着は、印刷像の滲みをももたらすが、本発明では、このような繊維の付着が防止されているため、印刷像の滲みをより確実に防止することができる。
【0020】
本発明において、上記のような印刷面を無機固化物層の表面に形成するための型材シートは、その転写用表面(即ち、前記無機固化物層の表面に密着する面)が、やはり倍率100倍の電子顕微鏡写真で観察したとき、連続した平坦面と該平坦面に囲まれた不定形の凹部とが混在しており、該凹部は、単位面積当り10乃至30%の割合で存在しており、且つ、不定形の凹部として、1mm
2当り、長径が10乃至300μmの大きさのものが45乃至250個の数で観察される。即ち、この転写用表面の不定形の凹部は、前述した印刷用シートの印刷面における不定形の凸部に対応し、転写用表面の平坦部は、印刷面の平坦部に対応する。この転写用表面を印刷用シートの無機固化物層の表面に密着させたとき、完全に固化していない無機固化物が不定形の凹部に侵入していくが、平坦部では無機固化物の侵入が遮断され、この結果、転写用表面(型材シート)を引き剥がしたとき、不定形の凹部に侵入していた部分が破断し、不定形の凸部として観察されることとなる。この場合、この転写用シートの不定形の凹部の数の範囲(45乃至250個)が、印刷面の凸部の数の範囲(50乃至300個)よりも若干少ない方にシフトしているが、これは、転写用表面を引き剥がしたときに、大きな凹部に侵入していた部分が複数に分割して破断し、複数の凸部を形成することがあるからである。
また、上記のように、転写用表面に侵入した無機固化物の破断により印刷面の凸部が形成されることから、このような凸部が印刷像の滲みを防止するように作用するものと思われる。即ち、このような凸部の表面は破断によってかなり粗い面となっており、この部分インキが付着すると、印刷層へのインキの浸透が速く、その結果、面方向へのインキの拡がりを有効に抑制するものと考えられるからである。
【0021】
尚、本発明において、上述した印刷面での平坦面や不定形凸部の存在割合、及び所定の大きさの凸部の数は、後述する実施例に示されているように、上記倍率での電子顕微鏡写真で得られた画像を画像処理により該画像のコントラストを2値化処理し、さらにその画像から同じく画像処理により算出することができる。これは、型材シートの平坦面や不定形凹部についても同様である。
【0022】
また、本発明において、上記のような転写用表面を有する型材シートは、熱融着性の芯鞘繊維を用いて形成された不織布シートを熱ロールによって圧着処理することにより得られる。即ち、熱ロールによる圧着処理によって芯部分を溶融させずに鞘部分を溶融せしめることにより、繊維の形態を残しながら、繊維同士の融着と同時に平坦化を行い、これにより、上述した平坦部と不定形の凹部(即ち、繊維同士の隙間)を形成することができ、このような凹部に対応した凸部を、無機固化物層の表面に形成することが可能となるのである。
【0023】
例えば、熱ロールによる圧着処理が行われていない不織布シートを型材シートとして用いた場合には、該シートを無機固化物層の表面から引き剥がしたときに繊維の付着残存を生じるばかりか、印刷面に形成される平坦部と不定形の凸部とをバランスよく一様に形成することができない。
即ち、熱ロールによる圧着処理は、印刷面への繊維の付着残存を防止すると同時に、印刷面に平坦部を生成せしめるものであり、従って、平坦部の生成は、繊維の付着残存防止に繋がるため、印刷像の滲み防止をもたらす。一方、上記でも述べたように、印刷面に凸部を生成することも印刷像の滲み防止をもたらすが、平坦面が生成するほど凸部の面積割合が減少することとなる。従って、型材シートの引き剥がしにより形成される印刷面には、平坦部と凸部とがある程度のバランスで生成させることが、確実且つ安定に印刷像の滲みを防止するために必要となる。上記のような不織布シートの使用は、平坦部と凸部との生成にムラが生じ、局部的に平坦部或いは凸部ばかりが存在する部分などが生じる結果、印刷像の滲み防止効果が不安定となってしまい、良質の印刷像(きめ細やかな像)の形成には不適当となってしまうのである。
【0024】
また、芯鞘繊維を用いず、通常の繊維からなる不織布シートを熱処理して用いた場合には、熱処理の程度を制御することが著しく難しく、不織布シートの表面部分の繊維が全体的に融着してしまい、繊維による凹凸感が損なわれ、表面が平坦なフィルムを型材シートとして用いた場合と同様、無機固化物層の表面を印刷層とする印刷用シートの利点が損なわれてしまう。
【0025】
さらに、不織布シートの代わりに織布シートを型材シートとして用いた場合には、該シートを無機固化物層の表面から引き剥がしたときに繊維の付着残存は不織布シートを用いた場合ほどではないが、無機固化物が侵入する不定形の凹部が十分に形成されておらず、従って、インキの拡がりを抑制し、印刷像の滲みに効果的な凸部を印刷面に十分に形成することが困難となり、やはり、印刷像の滲み防止効果が不安定となってしまい、鮮明な印刷像の形成には不適当となってしまう。また、織布シートに形成される凹部は定形で且つ規則的に配列されている場合が多く、従って、印刷面の平坦部が繊維に沿って規則正しく配列されてしまい、刑される印刷像の風合いを損ねてしまうという不都合もある。
【0026】
本発明の印刷用シートは、従来公知のものと同様、インクジェットプリンタ用の記録材として極めて有用であり、例えばデジタルカメラによる写真像なども、本発明の印刷用シートに印刷することにより、絵画調のものに転換され、且つ、印刷像の劣化を防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
図1を参照して、本発明の印刷用シート1は、無機固化物層3が基材シート5の上に積層された構造を有しており、この無機固化物層3の表面には、保護シートとしても機能する剥離可能な型材シート7が密着して設けられている。即ち、この印刷用シート1は、
図1に示されているように、無機固化物層3の上に型材シート7が設けられた印刷用積層体10の形態で保存され、使用時に型材シート7を無機固化物層3の表面から引き剥がし、露出した無機固化物層3の表面3a(即ち印刷面)に印刷が施されることとなる。
【0029】
かかる印刷用シート1において、無機固化物層3は、完全固化の前の状態に保持されており、この状態で印刷され、印刷後に完全に固化する形態の無機物層であり、例えば、石膏のような空気中の水分により固化するようなものから形成することもできるが、半固化状態の漆喰を含む層を無機固化物層として使用することが、印刷像の耐摩擦性、耐紫外線性を高め、堅牢で安定な印刷像を形成する上で最適である。
以下、このような半固化状態の漆喰を含む層を無機化固化物層3として用いた場合を例にとって説明する。
【0030】
即ち、上記のような無機固化物層3は、消石灰(水酸化カルシウム)の粉末と水との混練物を基材シート5の親水性の面にコーティングし、乾燥などにより形成された混練物層中の水分を除去することにより形成される。かかる層は、乾燥工程中に一部の消石灰(水酸化カルシウム)が空気中の炭酸ガスと反応し半固化状態の漆喰前駆体(消石灰と炭酸カルシウムとの混合物)となるが、更に空気中に放置した場合、半固化状態の漆喰前駆体中に残存する消石灰が空気中の炭酸ガスと反応して炭酸カルシウムを生成することにより、さらに固化が進行して漆喰を形成する。即ち、消石灰の一部が炭酸化して炭酸カルシウムが存在する半固化状態の漆喰前駆体を含む層を無機固化物層3として基材シート5の表面に設けるわけである。
【0031】
このような無機固化物層3は、水酸化カルシウム(消石灰)が完全に炭酸化して完全に固化する前の半固化状態の漆喰前駆体を含むものであればよいが、好ましくは、この漆喰前駆体中の水酸化カルシウムが、少なくとも10重量%、好ましくは15重量%以上である。即ち、水酸化カルシウムの含有量が上記範囲よりも少ないと、画像の堅牢性が低下し、色落ちなどを生じ易くなる傾向がある。また、印刷インクを無機固化物層3の表面に施して印刷を行なったとき、印刷インク中に溶出し、表面に移行する水酸化カルシウムの量が少なくなるため、印刷画像の保護効果が低下し、紫外線等による印刷画像の劣化抑制効果が低下するという不都合も生じる。
【0032】
また、無機固化物層3中の水酸化カルシウムの量は、上記目的を達成するために多いほどよいが、あまり多すぎると無機固化物層3の硬度が不十分となり、印刷工程中に無機固化物層3の破損等を生じ易くなる。従って、無機固化物層3中の水酸化カルシウム量は、90重量%以下、好ましくは、80重量%以下に抑制されていることが好ましい。
尚、無機固化物層3における水酸化カルシウムの量は、示差熱分析により確認することができる。
【0033】
また、無機固化物層3中の水酸化カルシウムの含有量は、この層の形成に用いる水酸化カルシウムの炭酸化率(前述したスラリーの調製に用いた消石灰の重量に対し、生成した炭酸化カルシウムの重量割合)及び後述するバインダー材、無機細骨材、吸液性無機粉体などの添加剤の割合によって調整することができる。
上記調整方法のうち、水酸化カルシウムの炭酸化率を調整する方法を採用する場合、炭酸化率の上限は、80%、特に40%とすることが望ましい。即ち、炭酸化が過度に進みすぎた場合、無機固化物層3の表面が緻密化され、印刷インクの浸透性が低下する傾向がある。
【0034】
上記のような無機固化物層3を画像の印刷後に大気中に放置することにより、該層中の漆喰前駆体が炭酸化して最終的には漆喰となるが、このような無機固化物層3の靭性を向上させるために、この層中には、バインダー材としてポリマーのエマルジョン固形分を含有していることが好適である。このようなポリマーのエマルジョンは、水媒体中にモノマー、オリゴマー或いはこれらの重合体等が分散したものであり、例えばアクリル樹脂、スチレン−アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリウレタン、スチレン/ブタジエンゴム系等の重合体のエマルジョンを挙げることができる。このようなエマルジョンは、乾燥工程で、媒体(水)が蒸発してエマルジョン中のポリマー成分が無機固化物層3中に残存することとなる。しかるに、このようなエマルジョンの固形分(即ちポリマー)が過度に存在すると、印刷画像(印刷インク)の無機固化物層3中への浸透性が低下する傾向があるため、無機固化物層3の靭性を高め且つインクの浸透性を確保するために、一般に、この層3におけるポリマーエマルジョンの固形分は、3〜50重量%の範囲であることが好ましい。
【0035】
また、無機固化物層3中には、上記のエマルジョン以外にも、物性を調整するための各種添加剤、例えば各種繊維材、無機細骨材、吸液性無機粉体等が配合されていてよい。これらの添加剤は、印刷層として機能する無機固化物層3の強度等の物理特性を向上させるものである。
【0036】
繊維材の例としては、ガラス繊維、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、アクリル繊維、アラミド繊維、カーボン繊維、金属繊維等を挙げることができる。また、繊維の形状としては短繊維、長繊維、織布、不織布等の形状のものが使用できるが、これらのうち短繊維は無機固化物層3の靱性および切断加工性の向上に特に有効である。このような短繊維の長さおよび直径は特に制限されないが、長さは1mm〜10mm、特に2mm〜6mmであり、直径は5〜50μm、特に10〜30μmであることが、無機固化物層3の靱性をより向上させ、場合によっては、切断加工性においても優れたものとするために好適である。
【0037】
また、無機細骨材は、平均粒子径が0.01〜2mm程度の範囲内にある無機粒状物であり、この範囲内で、印刷層3の厚みの1/4以下の平均粒子径を有するもの、具体的には、珪砂、寒水砂、マイカ、施釉珪砂、施釉マイカ、セラミックサンド、ガラスビーズ、パーライト、或いは炭酸カルシウムなどを挙げることができる。
【0038】
さらに、無機固化物層3中にポリマーエマルジョンを配合することによる親水性インクとの親和性の低下を回避し、しかも、水酸化カルシウムの炭酸化の進行に伴い低下する吸液性を補うため、無機固化物層3中に吸液性無機粉体を配合することが好ましい。この吸液性無機粉体は、多孔質であり、吸油量が100ml/100g以上と高い、微細な無機粉末、例えばレーザ回折散乱法で測定される体積換算での平均粒径(D
50)が0.1μm以下のアルミナ粉末、ゼオライト粉末などである。
【0039】
即ち、前述したポリマーエマルジョンは、靭性を向上させ、さらには基材シート5と無機固化物層3との接合強度を高めるためには有効であるが、反面、無機固化物層3の親水性を低下させ、例えば親水性インクなどを用いて印刷を行った場合、インクをはじいてしまい、印刷画像が滲んでしまうなどの不都合を生じることがある。しかるに、上述した吸液性無機粉体の使用は、印刷インクの吸収性を向上させるため、上記の不都合を有効に防止し得ることができる。特に、この吸液性無機粉体は、0.5乃至10重量%程度の量で漆喰を含む無機固化物層3中に配合されていることが好ましい。
【0040】
また、無機固化物層3中には、目的に応じて、上記以外にもそれ自体公知の各種添加剤を1種または2種以上の組み合わせで配合することができるが、何れにしろ、印刷インクの無機固化物層3への浸透や固定が損なわれない程度の量で配合すべきであり、例えば、消石灰が炭酸化して形成される炭酸カルシウムの含有量(即ち、炭酸化率100%のときの炭酸カルシウム含有量)が50重量%以上に維持される範囲において、各種の添加剤が配合されることが望ましい。
【0041】
上記のような無機固化物層3の厚みは、印刷可能な適宜の範囲に設定されるが、一般的には、0.05乃至0.3mm、特に0.1乃至0.25mm程度の範囲が好適である。即ち、この厚みが過度に薄いと、画像を印刷したときに、印刷インクの浸透による画像固定性が低下したり、或いは凹凸などによって発現する画像の深みが損なわれたりするおそれがある。また、あまり厚いと経済的に不利となったり、折り曲げによって折り目が形成され易くなったりするなど、印刷に際して用いるプリンタが制限されるおそれなどを生じるからである。
【0042】
上記のような無機固化物層3を支持している基材シート5としては、例えば、その表面に漆喰前駆体を含むスラリーを塗布して無機固化物層3を形成し得るものであれば、特に制限されず、任意の材料で形成されていてよい。
その適当な例としては、木材パルプ紙、或いはポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル等のビニル系樹脂、ポリ(メタ)アクリレート等のアクリル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂などの各種の樹脂シート乃至樹脂フィルムなどを例示することができる。また、ガラス繊維、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、アクリル繊維、アラミド繊維、カーボン繊維等の繊維状物からなる織布または不織布であってもよく、さらには、これらの積層フィルム乃至シートであってもよい。
【0043】
また、好適な基材シート5は、可撓性を有しており、適度な腰の強さを有しているものである。このような性質を有する基材シート5では、これを折り曲げても折り目が形成され難く、この基材シート5上に設けられる無機固化物層3に割れ目が形成されるなどの不都合を有効に抑制することができるからである。このような基材シート5の材質は、かなり制限されることとなるが、一般的には、パルプ紙が好適に使用される。パルプ紙は、一般的に入手可能な紙であり、可撓性や曲げ強さを有し、しかも無機固化物層3との密着性を良好なものとすることができる。さらに、このようなパルプ紙以外にも、ガラス繊維、ポリ酢酸ビニル繊維、ポリエステル繊維、ビニロン繊維等の化学繊維をバインダー繊維としてパルプ紙と混抄された合成紙を使用することができる。
【0044】
尚、基材シート5の表面は、コロナ処理などを行って親水性を向上させてもよく、これにより、無機固化物層3と基材シート5との接合強度を向上させることができる。
また、基材シート5の厚みは、その用途に応じて適宜の範囲に設定され、通常、0.02〜0.5mmである。例えば、この印刷用シートをプリンタ用の記録材として使用する場合には、この印刷用シートが容易にプリンタを通すことができるように基材シート5の厚みが設定される。
【0045】
このような本発明の印刷用シート1は、基材シート5の一方の表面に、無機固化物層3を形成するための無機スラリー、例えば漆喰形成用のスラリーを塗布し、さらに型材シート7を貼着し、適度に乾燥して無機固化物層3を形成することにより製造される。
尚、漆喰を形成するためのスラリーは、消石灰の粉末と水との混練物に、前述したバインダー材や各種添加剤を配合したものである。
【0046】
かかるスラリーの調製に用いる消石灰粉末は、例えば粒径が5μm以下の微粒子を20乃至80重量%の量で含み、且つ粒径が10乃至50μmの粗粒子を10乃至40重量%の量で含有しているものを使用することが好ましい。即ち、微粒子成分は、無機固化物層3の形態保持性や強度を付与し、一方、粗粒子成分は、印刷インクの浸透性を高めるために有用であり、このような微粒子成分と粗粒子成分とを上記のような量割合で含有している消石灰粉末を使用することにより、印刷インクの浸透性を損なうことなく、強度や耐久性の良好な漆喰層を形成する上で極めて好適である。例えば、上記のような微粒子成分のみからなる消石灰粉末を用いた場合には、インクの浸透性が損なわれ、鮮明な印刷像を得ることが困難になる恐れが生じる。
【0047】
また、このスラリー中には、各種の配合剤を均一に分散させるための界面活性剤や、混練物をコーティングする際に垂れなどを生じないように、適宜、増粘剤などが配合され、適度な粘度に調製されていることが好適である。スラリーのコーティングは、バーコーター、ロールコーター、フローコーター、ナイフコーター、コンマコーター、スプレー、ディッピング、吐出、型材転写等により行うことができ、必要に応じてコテ押さえ、口金絞り、ローラ転圧、1軸プレス等を採用することができる。
【0048】
上記のようなスラリーの塗布厚みは、乾燥後の厚みが前述した無機固化物層3の厚みとなるように設定される。また、スラリー塗布後の乾燥は、漆喰含有の無機固化物層3の含水率が5%以下となる程度に行えばよい。この含水率があまり高いと、層としての形態が維持できなかったり、或いは、この含水率が高い状態で維持されたまま印刷が行われたとき、インクの滲みなどを生じ易くなってしまうからである。乾燥は、熱風の吹き付けなどにより、スラリーの塗布層を40乃至150℃程度に加熱することにより行われる。この際、加熱温度を必要以上に高くすると、基材シート5や型材シート7の熱による変形が生じてしまうため、注意を要する。
【0049】
尚、水酸化カルシウム(消石灰)の炭酸化反応は炭酸ガスとの接触により反応が進行するが、上述したスラリーを非通気性の袋や容器等に密封状態で保存している限り、所定の炭酸化率を維持し、印刷層3中の水酸化カルシウム量を一定の範囲に保持する上で支障を生じることはない。
【0050】
ところで、
図1に示されているように、上記印刷用シート1の無機固化物層3の上には、型材シート7が密着して設けられ、このような印刷用シート1と型材シート7との積層体10の形態で印刷用シート1は保存され、印刷に際して、型材シート7が剥がされ、無機固化物層3の表面3aに印刷が施されることとなる。
即ち、無機固化物層3の表面3aは完全に固化しておらず、半固化状態であるため、型材シート7の引き剥がしにより、型材シート7の転写用表面7aから内部に侵入した無機固化物層3の表面部分が型材シート7と共に脱落乃至破壊され、この結果、無機固化物層3の表面3aには、型材シート7の転写用表面7aが転写されることとなる。
【0051】
このような型材シート7は、当然、無機固化物層3の表面を保護する保護シートとしての機能も有する。即ち、無機固化物層3は、無機粒子(例えば水酸化カルシウムや炭酸カルシウムの粒子)から形成されているため、比較的脆く、外部からの圧力によって傷が付いたり、或いは表面が脱落してしまうなどの不都合を生じ易いが、上記のような型材シート7が、印刷用シート1の製造直後から印刷直前まで設けられていることにより、このような不都合を有効に防止することができる。
【0052】
本発明は、型材シート7の転写用表面7aが無機固化物層3の表面3aに転写されることを利用して、この表面3aを印刷適正に優れた印刷面とするものである。
このために、上記の型材シート7としては、熱融着性繊維からなる不織布シートであって熱ロールによる圧着処理によって、印刷適性に優れた面が転写されるように調整されたものが使用される。
【0053】
即ち、本発明で用いる型材シート7の転写用表面7aは、
図2に示されているように、倍率100倍の電子顕微鏡写真で観察して、連続した平坦面と該平坦面に囲まれた不定形の凹部とが混在した面となっている。即ち、
図2において、丸で囲まれている白色度が低い領域すなわち黒い領域が不定形の凹部A(即ち繊維間の間隙)として観察され、この凹部Aの周囲の白色度が高い部分が平坦面となっている。
【0054】
本発明においては、このような転写用表面7aにおいて、平坦面が単位面積当り70乃至90%の割合で存在しており、このような平坦面で囲まれるようにして、1mm
2当り、長径が10乃至300μmの大きさの凹部Aが45乃至250個の数で観察されるように設定されていることが、無機固化物層3の表面3aを印刷適性に優れた印刷面とするために必要である。即ち、型材シート7の転写用表面7aを無機固化物層3の表面3aに密着して積層することにより、無機固化物層3の表面部分の無機固化物が転写用表面7aの不定形凹部A内に侵入する。従って、この型材シート7を引き剥がすとき、転写用表面7aの凹部A内に侵入した部分が破断し、この結果、無機固化物層3の表面3aには、このような不定形凹部Aに対応して不定形の凸部が形成されることとなる。即ち、転写用表面7aに、上記のような大きさの不定形の凹部Aが所定の個数で形成されていることにより、これに対応して所定の大きさを有し且つ表面の粗い不定形の凸部が無機固化物層3の表面3aに形成されることとなり、この結果、このような凸部の存在が印刷インキの無機固化物層への浸透速度を高め、印刷像の滲み防止に効果的であり、鮮明な印刷像を得ることにに適した印刷面を形成するのである。また、このような不定形の凸部は、印刷像に立体感、奥行き感或いは自然な風合いなどを持たせるという点でも効果的である。
【0055】
従って、上記のような大きさの不定形の凹部Aを所定の割合で形成するために、熱融着性繊維からなる不織布シートを使用し、この不織布シートを加熱ロールによって圧着処理したものを型材シートして使用することが必要となるわけである。即ち、加熱ロールによる圧着によって、繊維表面をフラットな表面とし、凹部Aを明瞭に存在させることができる。
【0056】
例えば、不織布シートではなく、織布シートを用いた場合には、熱融着を行うと、転写用表面7aがフラットな面となってしまい、凹凸のある面を無機固化物層3の表面3aに形成することができなくなってしまう。仮に、凹部を明瞭に存在させることができたとしても、繊維が規則正しく織られているため、定形の凹部が規則正しく配列されているような面となってしまい、無機固化物層3の表面に印刷が施される印刷用シート1に特有の特性が損なわれてしまう。さらには、凹部を十分な面積割合で存在させることできず、従って、印刷面での凸部の生成が不十分となり、印刷像の滲みを有効に抑制することが困難となって、鮮明な印刷像を得ることはできない。
【0057】
また、不織布シートを用いたとしても、熱融着がされていない場合には、剥がし取った際に繊維の一部が無機固化物層3の表面に付着してしまい、その印刷適性を損ねてしまうばかりか、繊維表面が熱により潰されていないため、凹部Aを明瞭に存在させることができず、このため、無機硬化物層3の表面3aに転写される凸部が不安定となり、印刷像の滲みを効果的に防止することができず、安定して鮮明な印刷像を形成し得る印刷面を得ることができない。
【0058】
さらに、本発明においては、上記の不織布シートは、熱融着性の芯鞘繊維(芯材を高融点繊維、鞘を低融点繊維とする)により形成されていることが好ましい。例えばポリプロピレンを芯材とし、ポリエチレンを鞘とする市販の芯鞘繊維からなる不織布シートが好適に使用される。即ち、このような芯鞘繊維からなる不織布を使用することにより、熱ロールによる圧着処理によって芯部分を溶融させずに鞘部分の低融点繊維を溶融せしめることにより、繊維の形態を残しながら、繊維同士の融着と同時に平坦化を行い、これにより、上述した平坦部と不定形の凹部A(即ち、繊維同士の隙間)を形成することができるのである。
【0059】
尚、熱ロールによる圧着は、繊維間の間隙となる凹部が潰されないように温度、時間及びロール圧を調整して行われ、例えば、上記のような芯鞘繊維の不織布を用いた場合には、鞘となる低融点繊維の融点以上、芯の高融点繊維の融点未満の温度で圧着処理を行うことが好ましく、例えば、ポリプロピレンを芯材とし、ポリエチレンを鞘とする芯鞘繊維の不織布シートの場合、90乃至150℃程度の温度で圧着処理を行うことが望ましい。
【0060】
また、不織布を構成する繊維やその目付け量は、前述した割合で平坦部及び所定の大きさの凹部Aが形成されるように設定される。例えば、前述した芯鞘繊維(ポリプロピレン繊維/ポリエチレン繊維)では、その繊維径が10〜50μm程度の長繊維が好適であり、その目付け量が30乃至120g/m
2程度に設定することが好適であり、これにより、例えば型材シート7を適度な剥離強度で無機固化物層3の表面に密着して保持せしめることができ、安定した転写効果と保護効果を発揮させることができる。
【0061】
上記のようにして熱ロールによる圧着処理がなされ且つ所定の条件を満足する転写用表面7aを有する不織布シートを型材シート7として使用し、これを無機固化物層3の表面に密着して設け、引き剥がすことにより、無機固化物層3の表面3aを印刷適性に優れた面とすることができる。
【0062】
図3及び
図4を参照して、上記のような無機固化物層3の表面3aは、倍率100倍の電子顕微鏡写真で観察して、連続した平坦面Cと該平坦面に囲まれた不定形の凸部Bとが混在した面となっている。例えば、
図3において、丸で囲まれている白色度が高い領域が不定形の凸部Bであり、この凸部Bが、前述した型材シート7の転写用表面7aの凹部A(繊維間の間隙)に対応して観察され、この凸部Bの周囲の白色度の低い部分が平坦面Cとなっている。
【0063】
即ち、本発明の印刷用シート1は、無機固化物層3の表面3aに前述した型材シート7の転写用表面7aの不定形凹部Aが転写されて不定形凸部Bが形成されるが、引き剥がしにより凸部Bが形成されるため、
図4から理解されるように、この凸部Bの表面は、かなり粗い面となり、この結果、この部分に付着した印刷インキは印刷層への浸透が速く、これが、前述した型材シート7の引き剥がし時の繊維の付着残存防止効果と共に、印刷像の滲みを防止する要因の一つとなっているわけである。
【0064】
本発明においては、倍率100倍の電子顕微鏡写真で観察して、かかる不定形の凸部Bは、単位面積当り10乃至30%の割合で存在し、且つ不定形の凸部Bとして、1mm
2当り、長径が10乃至300μmの大きさのものが50乃至300個の数で観察される。即ち、不定形の細かな凸部Bが平坦面Cの間に一定のバランスで数多くランダムに存在しており、このような平坦面C及び凸部Bに印刷インキが付着し且つ内部に浸透していくことにより、印刷像の滲みが有効に防止され、鮮明な印刷像を形成することが可能となる。
【0065】
また、形成される印刷像には、無機固化物層を用いて形成される印刷面に特有の自然な風合いも損なわれることがない。即ち、インクの滲みが有効に抑制されていることに加え、形状の定まっておらず且つある程度の大きさを有する不定形の凸部Bがランダムに数多く、平坦部Cの間に形成されているため、特に鮮明な画質を自然の風合いを損なわずに効果的に映し出すことができるのである。例えば、数多くの凸部が形成されているとしても、凸部の形状が丸や四角などの定形であったり、或いは規則正しく配列されているような場合には、自然さが損なわれ、機械的に合成された印象を与えるようになってしまう。
さらに、このような無機固化物3の表面3aには、繊維の付着等がなく、繊維痕等による画質の低下も有効に防止されている。
【0066】
本発明の印刷用シート1は、
図1に示されているように、型材シート7が積層されて印刷用積層体10の形態で市販されるが、通常、印刷用シート1の表面に形成されている無機固化物層3を半固化状態に維持しておくために、ガスバリア性の樹脂フィルム等により積層体10の束を包装した形態に保存される。例えば、漆喰含有の無機固化物層3では、これを大気中に放置しておくと、漆喰前駆体の炭酸化が進行していくため、印刷適性(例えば画像の浸透・固定性)などが低下してしまう。このような不都合を回避するため、印刷時点まで、炭酸化を抑制しておく必要があり、このために、ガスバリア性を有する樹脂フィルムなどにより包装しておくわけである。
勿論、適度の大きさに裁断された印刷用積層体10をロール状に巻取り、このロールをガスバリア性を有するフィルムで包装して保存することもできる。
尚、このようなガスバリア性を有するフィルムとしては、特に制限されるものではなく、一般に包装用フィルムとして使用されている各種の樹脂フィルムが使用されるが、コスト等の観点から、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリエステルフイルム等のポリオレフィンフィルムが好適である。
【0067】
上記のようにして販売される印刷用積層体10は、包装フィルムを除去し、次いで型材シート7を引き剥がして、無機固化物層3の表面3aを露出させ、この面に印刷が施される。
【0068】
印刷手段としては、所定の顔料乃至染料が分散乃至溶解したインクを使用し、グラビア印刷などによって、所定の大きさのものを連続して印刷することもできるし、インクジェットプリンタによって印刷を行うこともできる。用いるインクは、水溶性染料が溶解し或いは顔料が界面活性剤などで水(或いは水/アルコール混合溶媒など)に分散された親水性のインクが最も好適である。このような親水性のインクを用いた場合には、無機固化物層3上に滲みがなく且つ安定に保持された鮮鋭な画像を形成することができる。特に、本発明においては、顔料を使用したインクが好適に使用される。
【0069】
無機固化物層3が漆喰を含む層である場合、上記のようにして印刷像が印刷されると、既に述べたように、これを大気中に放置することにより(通常、2〜30日程度)、大気中の炭酸ガスを吸収し、残存する水酸化カルシウムの炭酸化が進行し、固化が進行した漆喰となり、特に、印刷像は、凹凸のある多孔質の漆喰に浸透して固定されて壁画調となり、写真画像などと比較すると、深みのあるものとなっている。また、形成された印刷像は堅牢性に優れ、これを擦ったりしても色落ち等を生じることがなく、また、紫外線等からインク成分を保護することができ、長期間、安定に保持される。
【0070】
本発明の印刷用シート1は、印刷像が形成される無機固化物層3の表面に一定の大きさの不定形の凸部が一定の割合で数多く形成されているため、印刷像の滲みが有効に防止され、特に人物像や静物画像の如き、鮮明さが要求される像を、立体感や深みのある絵画調を損なわずに表示することができるという点で極めて有用である。
また、この印刷用シート1は、耐候性等に優れているため、特にインクジェットプリンタに用いるインクジェット記録材としての用途に極めて有用である。
【実施例】
【0071】
本発明の優れた効果を、次の実験例で説明する。
なお、以下に、実験例で用いた各試験方法および材料を示す。
【0072】
(1)無機固化物層或いは不織布の凹部または凸部の数量測定方法:
電子顕微鏡(EFI社製、Qanta200.Genesis2000型)を用いて無機固化物層或いは不織布の倍率100倍の表面画像をデジタル画像として撮影した。得られたデジタル画像データを画像処理ソフト(デジタルビーイングキッズ社製、「PopImaging4.00」)を使って、判別分析法により二値化処理を行い凹部と凸部を明確に区別した。さらに同画像処理ソフトの画像計測機能により、単位面積当たりの凹部或いは凸部の総数および面積比を計測した。
【0073】
(2)耐候性試験:
各実施例及び比較例に示す条件で作製された印刷用シート(A4判)および市販の印刷用紙(A4判)を用意した。それぞれの用紙の1枚を4つの領域に等分割し、その4つの領域にインクジェットプリンタ(エプソン製PX−5500型、顔料が分散された水性インク使用)により、イエロー、シアン、マゼンダ、ブラックの4色を各領域に印刷したものを各用紙2枚ずつ用意した。各々1枚ずつを紫外線照射用蛍光ランプ(三菱電機製、蛍光ランプ、型式:FL30SBL−360)により、500μW/cm
2の強度の紫外線を照射し、残りの1枚ずつは暗所に保存した。
一定時間、紫外線を照射した用紙と暗所に保存した用紙を取り出し、分光色差計(日本電色工業製、ハンディ型簡易分光色差計、型番:NF333)でイエロー、シアン、マゼンダ、ブラックの4色について、JIS Z 8730に準じて、紫外線照射部分と未照射部分の各色のL*、a*、b*表色系における色差(△E1〜△E4)を求めた。さらに、次式によりそれらを平均した△Eavを求めて、耐候性の指標とした。
△Eav=(△E1+△E2+△E3+△E4)/4
尚、色の変化が大きいとこの値が大きくなる。
△E1:イエローの領域における紫外線照射部分と未照射部分の色差
△E2:シアンの領域における紫外線照射部分と未照射部分の色差
△E3:マゼンダの領域における紫外線照射部分と未照射部分の色差
△E4:ブラックの領域における紫外線照射部分と未照射部分の色差
【0074】
(3)耐摩擦試験:
JIS−A 6921にしたがって、湿潤時の摩擦試験を行い、5段階評価における耐摩擦度(級)を測定した。
耐摩擦度:1〜5級の5段階評価;耐摩擦度としては5級が最も高い。
【0075】
(4)印刷画像のにじみの確認試験:
インクジェットプリンタ(エプソン製PX−5500型)により、各実施例及び比較例で作製した印刷用シートの表面に、幅0.5mmのブラックの直線を印刷した。得られた印刷直線をルーペで観察し、にじみの発生の有無を目視で観察した。
【0076】
実施例及び比較例で用いた材料は、以下の通りである。
基材シート;
パルプ紙:富士共和製紙製インクジェット原紙「FKスラットR−IJ
」(商品名)
(厚み0.17mm、目つけ量160g/m
2)
ガラス繊維混抄紙:北越製紙株式会社製「MPS−01」(商品名)
(厚み0.35mm、目つけ量85g/m
2)
水酸化カルシウム;
消石灰:宇部マテリアルズ製「高純度消石灰CH」(商品名)
無機粉体;
炭酸カルシウム:薬仙石灰製「ホワイト7」(商品名)
水性アクリル樹脂エマルジョン;
ポリトロン:旭化成工業株式会社製「ポリトロンA1480」(商品名
)(アクリル系共重合体ラテックス、固形分40重量%)
吸液性無機粉体;
アルミナ微粉末:平均粒径(D
50)0.05μm、吸油量180ml
/100g
不織布シート;
不織布α:シンワ株式会社製芯(ポリプロピレン)鞘(ポリエチレン)
繊維不織布
(繊維径0.02mm、厚み0.14mm、目つけ量60g
/m
2)
不織布β:廣瀬製紙株式会社製芯(ポリプロピレン)鞘(ポリエチレン
)繊維不織布「HOP−30H」(商品名)
(繊維径0.02mm、厚み0.09mm、目つけ量30g
/m
2)
不織布γ:旭化成せんい製ポリエステル繊維不織布「エルタスフラット
」(商品名)
(繊維径0.02mm、厚み0.14mm、目つけ量35g
/m
2)
【0077】
(製造例1〜4)
不織布αおよび不織布βを熱カレンダー処理して、それぞれ表1に示す型材シートA〜Dを得た。これら型材シートの凹部の単位面積当たりの総数と面積比を上記の測定方法にて測定した。その結果を表1に示す。
【0078】
【表1】
【0079】
次に、消石灰100重量部、水性アクリル樹脂エマルジョン60重量部、水20重量部、吸液性無機粉体(アルミナ微粉末)5重量部の配合比で混練し、消石灰スラリーを得た。基材シートとして、パルプ紙(300×300mm)を使用し、その表面に得られた消石灰スラリーをバーコーターで塗布し、直後に表1に示す型材シートA〜Dをスラリー表面に圧着させ、50℃の乾燥機中で30分間乾燥させた。得られた積層体の表面に密着している型材シートを剥ぎ取ったところ、表面に繊維の付着はなかった。次に、このときの無機固化物層表面の凸部の単位面積当たりの総数と面積比を上記の測定方法にて測定した。その結果を表2に示す。
【0080】
【表2】
【0081】
(比較製造例1、2)
前記製造例において用いた型材シートに代わり、不織布α(比較製造例1)、不織布β(比較製造例2)を使用した以外は、同様の組成のスラリーを使用し、無機固化物層(印刷層)を有する積層体を得た。得られた積層体において、無機固化物層表面に密着している不織布α或いはβを剥ぎ取ったところ、無機固化物層表面に繊維の残存が確認された。
次に不織布α或いはβを剥がして得られた印刷用シートの表面の凸部の単位面積当たりの総数と面積比を上記の測定方法にて測定した。その結果を表3に示す。
【0082】
【表3】
【0083】
(実施例1〜4、比較例1、2)
製造例1〜4、比較製造例1、2で得られた印刷用シートを用い、にじみの確認試験を行ったところ、比較製造例1および2の印刷用シートにおいて、無機固化物層の表面に残存する繊維にインク顔料が付着し、部分的ににじみが発生した。
次に、イエロー、シアン、マゼンダ、ブラックの4色を印刷し、炭酸化するために30日間室内に放置した後、耐候試験および耐摩擦試験を行ない、平均色差(△Eav)および耐摩擦度(級)を測定した。これらの結果を表4に示す。
【0084】
【表4】
【0085】
(製造例5、6)
消石灰90重量部、水性アクリル樹脂エマルジョン55重量部、水25重量部、無機粉体(炭酸カルシウム)10重量部の配合比で混練し、消石灰スラリーを得た。次に、基材シートとしてガラス繊維混抄紙(500×500mm)を使用し、その表面に得られた消石灰スラリーをバーコーターで塗布し、直後に製造例1〜2で得られた表1に示す型材シートA〜Bをスラリー表面に圧着させ、70℃の乾燥機中で10分間乾燥させた。得られた積層体の表面に密着している型材シートを剥ぎ取ったところ、表面に繊維の付着はなかった。次に、このときの無機固化物層表面の凸部の単位面積当たりの総数と面積比を上記の測定方法にて測定した。また、無機固化物層中の消石灰(水酸化カルシウム)の含量を示差熱分析で測定した。その結果を表5に示す。
【0086】
(比較製造例3、4)
前記実施例において消石灰の代わりに、炭酸カルシウムを使用した以外は、同様の組成のスラリーを使用し、無機固化物層(印刷層)を有する印刷用シートを得た。次に、このときの無機固化物層表面の凸部の単位面積当たりの総数と面積比を上記の測定方法にて測定した。その結果を表5に示す。
【表5】
【0087】
(実施例5、6、比較例3、4)
製造例5、6で得られた印刷用シートを用い、イエロー、シアン、マゼンダ、ブラックの4色を印刷し、炭酸化するために40日間室内に放置した。また、比較製造例3、4で得られた印刷用シートも同様にイエロー、シアン、マゼンダ、ブラックの4色を印刷したが、炭酸化は行っていない。これらの印刷用シートの耐候試験および耐摩擦試験を行ない、平均色差(△Eav)および耐摩擦度(級)を測定した。その結果を表6に示す。
【表6】
【0088】
(比較例5)
比較製造例1において、不織布αの代わりに不織布γを使用した以外は、同様の組成のスラリーを使用し、無機固化物層(印刷層)を有する積層体を得た。得られた積層体の無機固化物層表面の不織布γを剥がそうとしたところ、不織布γと無機固化物層とが強固に密着していたため無機固化物層が崩壊し、印刷用シートを得ることができなかった。
【0089】
(実施例7)
製造例5の方法と同様にして得られた印刷用積層体より、保護シートを剥離した後、得られた印刷用シートを厚み100μmのポリエチレン製の袋に入れて熱融着により密封した。その後、3ヶ月経過した時点で、袋を開封したところ、印刷層における水酸化カルシウムの割合は、60重量%となっていた。また、上記印刷用シートについて、実施例5と同様に、耐候試験、耐摩擦度の測定を行った。その結果、耐候試験においては、色差の平均は、40日後で1.9であり、耐摩擦度は5級であった。
【0090】
(比較例6)
不織布αの熱カレンダー処理条件を変えて、下記仕様の型材シートEを得、さらに、この型材シートEを用いて製造例1と同様にして、下記仕様の印刷シートを得た。
型材シートE:
不織布: α
厚み: 0.89mm
凹部総数: 27個/1mm
2
凹部面積比: 6%
(平坦部面積比): 94%
印刷用シート:
無機固化物層厚さ: 0.12mm
凸部総数: 33個/1mm
2
凸部面積比: 5%
【0091】
上記の印刷用シートを使用し、滲みの確認試験を行ったところ、印刷面への繊維の付着は認められなかったが、滲みが部分的に発生していた。
【0092】
(比較例7)
不織布αの熱カレンダー処理条件を変えて、下記仕様の型材シートFを得、さらに、この型材シートFを用いて製造例1と同様にして、下記仕様の印刷シートを得た。
型材シートF:
不織布: α
厚み: 0.13mm
凹部総数: 380個/1mm
2
凹部面積比: 41%
(平坦部面積比): 59%
【0093】
印刷用シート:
無機固化物層厚さ: 0.13mm
凸部総数: 460個/1mm
2
凸部面積比: 62%
【0094】
上記の印刷用シートの表面には繊維の付着が多く、滲みの確認試験を行ったところ、得られた印刷像は滲みの発生が顕著であった。