(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。
【0011】
本発明に従うソバ粉は、ダッタンソバ種子の粉砕により得られたソバ粉であって、ルチン分解酵素活性値が20nkat/g以下、ルチン含有量が500mg%以上であり、且つ70℃以上での加熱履歴を有しないことを特徴とするソバ粉である。このようなソバ粉は、例えば、以下のような新規ダッタンソバから得られてもよい。
【0012】
1.新規ダッタンソバ
本発明に従うダッタンソバは、rutA遺伝子を有し、種子1g当たりルチン分解活性が20nkat以下であるダッタンソバである。rutA遺伝子は、ルチン分解酵素活性の大きさに関与する遺伝子である。rutA遺伝子を有するダッタンソバ個体は、ルチン分解酵素活性が、rutA遺伝子を有さないダッタンソバ個体と比べて約0.5%以下と極めて低い。
【0013】
rutA遺伝子を有するダッタンソバの例は、例えば、「芽系T26号」(2011年3月28日に独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに受託番号FERM P−22092で寄託された)、「芽系T27号」(2011年3月28日に独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに受託番号FERM P−22093で寄託された)などがあるが、これに限定するものではない。
【0014】
「芽系T26号」および「芽系T27号」(以下、単に、“芽系T26号”または“芽系T27号”と記す)は、次のようにして得られた新規のダッタンソバである。即ち、世界各地から収集したダッタンソバ遺伝資源の中より、ルチン分解酵素活性の低い個体を含む遺伝資源を見出した。その遺伝資源からルチン分解酵素活性の低い個体を純系分離後、農業特性を高めるため北海道の主要ダッタンソバ品種である「北海T8号」(以下、単に、“北海T8号”と記す)と交配し、選抜を行い、芽系T26号および芽系T27号を育成した。
【0015】
更に、芽系T27号について、ルチン分解酵素低活性形質の遺伝様式を調査するため、それらと北海T8号を交配し、得られたF
2個体についてルチン含有量及びルチン分解活性を調査した。
【0016】
具体的には次の通りである。北海T8号(対照品種として使用した従来のダッタンソバである。これは通常のルチン分解酵素活性を有する品種である)と芽系T27号(これはルチン分解酵素低活性系統である)を六笠らの方法(参考文献1)により温湯除雄法を用いて交配した。
【0017】
即ち、芽系T27号の花房を44℃のお湯に3分間浸漬し花粉を不活化し、自身の花粉がめしべにかかっても結実しない状態にした後、そのめしべに北海T8号の花粉を人工的に受粉させ、交配種子を得た。得られた交配当代種子をポットに播種および生育させ、F
1個体の種子を獲得した。その後、その種子をポットに播種および生育させF
2個体の種子(157粒)を獲得した。
【0018】
次に、F
2個体157粒それぞれについて鈴木らの方法(参考文献2)に従いルチン含量とルチン分解活性を調査した。その結果、ルチン含量はおよそ14〜19mg/g種子の範囲であった。一方でルチン分解活性は、115個体は4,000nkat/g種子以上であったのに対し、残りの42個体は20nkat/g種子以下であり、明確に2つのグループに分類できた。
【0019】
χ
2(カイ二乗)検定の結果、4,000nkat/g種子以上と20nkat/g種子以下の個体数は分離比3:1に適合した。よってメンデルの法則によりルチン分解酵素低活性形質は劣性単一因子支配であることが明らかになり、この遺伝子をrutAと命名した。
【0020】
なお補足ではあるが、「芽系T26」および「芽系T27」は系統名である。そのため、今後の品種化に際して、当該ダッタンソバの名称は変化することもある。しかしながら、このような品種化に伴う名称の変更により、rutA遺伝子についての特性を含めた植物学的な特徴に変化が生じるものではない。
【0021】
2.新規ダッタンソバを使用した食品
本発明に従う食品は、rutA遺伝子を有し、種子1g当たりのルチン分解活性が20nkat以下であるダッタンソバの種子または種子成分を含む食品であり、好ましくはモル比でケルセチン1に対して1以上の割合でルチンを含む食品である。このような食品は、苦味が抑制され、風味が維持された食品であり、且つ一般流通に耐え得る保存性を有する。
【0022】
rutA遺伝子を持つとルチン分解酵素のアイソザイムが両方とも検出できない程度に少なくなるため、粗酵素液を未変性の条件で電気泳動を行い、展開ゲルを銅・ルチン染色し、従来ダッタンソバで観察できる位置にルチン分解酵素のシグナルが検出できないことでrutA遺伝子を確認する事が出来る(JOURNAL OF THE SCIENCE OF FOOD AND AGRICULTURE (2004) 84 (13), p1691-1694, In-gel detection and study of the role of flavonol 3-glucosidase in the bitter taste generation in tartary buckwheat. Tatsuro Suzuki, Yutaka Honda, Wakako Funatsuki, Keiji Nakatsuka.参照)。
【0023】
このような本発明に従う食品は、例えば、上記の新規ダッタンソバ、芽系T26号および/または芽系T27号を用いて製造することが可能である。
【0024】
ここにおいて「種子」とは、殻が付いた状態の種子をいう。種子のルチン分解酵素活性は次の通りである。
【0025】
一般的な芽系T26号の種子は、殻が付いた状態の種子を粉砕して得られたソバ粉1g当たりのルチン分解酵素活性が約11.1nkatであり、殻を取り除いた状態の種子を粉砕して得られたソバ粉1g当たりのルチン分解酵素活性が約15.3nkatである。
【0026】
一般的な芽系T27号の種子は、殻が付いた状態の種子を粉砕して得られたソバ粉1g当たりのルチン分解酵素活性が約7.53nkatであり、殻を取り除いた状態の種子を粉砕して得られたソバ粉1g当たりのルチン分解酵素活性が約9.57nkatである。
【0027】
従って、種子1g当たり約20nkat以下のルチン分解酵素活性は、殻を除いた種子粉砕粉1gの場合では約30nkatに相当すると考えられる。
【0028】
食品中のルチンおよびケルセチンの検出は、それ自身公知の何れかの方法により行うことが可能である。そのような方法により得られたルチンとケルセチンの比を算出すればよい。本発明に従う食品は、モル比でケルセチン1に対してルチンの割合が1以上であればよく、好ましくはルチンの割合が3以上であり、より好ましくはルチンの割合が4以上である。
【0029】
ここにおいて、ダッタンソバの「種子」とは、殻付きのままの種子および殻を排除した種子をいう。「ソバ粉」とは、粉砕した前記何れかの種子、粉末化された前記何れかの種子およびその混合物であってよい。
【0030】
本発明に従う食品は、当該ダッタンソバ種子またはソバ粉と他の成分とを混合して含む食品であってもよく、当該ダッタンソバ種子またはソバ粉からなる食品であってもよい。
【0031】
本発明に従う食品は、当該ダッタンソバ種子の場合、乾燥重量として食品全体の1%〜100%で含んでよく、好ましくは30%〜100%で含んでよい。本発明に従う食品は、ソバ粉の場合、乾燥重量として食品全体の1%〜100%で含んでよく、好ましくは30%〜100%含んでよい。
【0032】
本発明に従う食品は、rutA遺伝子を有するダッタンソバの種子を利用し、ルチンを豊富に含みながら、ケルセチンの発生を抑制できるために苦味を抑制でき、且つ風味を損なわずに保存可能な食品を提供することが可能である。このような食品は、ソバ特有の風味、色調に優れている。
【0033】
本発明に従う食品の例は、ソバ粥、ソバ粉、生麺、半生麺、乾麺、即席麺および冷凍麺などの麺類、並びにギョウザ、シューマイおよびワンタンなどの麺帯加工食品などであってよい。
【0034】
また、本発明に従う食品は、苦味が抑制され、風味が維持された保存可能な食品である。従って、市場における流通時に食品中のルチン分解酵素によりルチンの分解が考えられる食品、例えば、生麺および半生麺の場合には、風味を損なわない条件でソバ粉の段階で加熱を行う必要がある。
【0035】
ソバ粉の加熱の条件の例は、温度80℃以上、好ましくは90℃以上で、例えば30秒〜90秒間加熱すればよい。例えば、加熱手段は、スチーム、高温ヒーターおよび/またはオーブンなど、何れの加熱手段であってもよい。
【0036】
例えば、蒸し庫において不織布に包んだ状態で、100℃で60秒または90秒の加熱を行えばよい。
【0037】
このような本発明に従う加熱は、ソバ種子および/またはソバ粉に対して行われてよい。例えば、加熱されたソバ種子は、その後、一般的な手段により粉砕されてソバ粉を得てもよく、そのまま提供されてもよい。そのような加熱処理を受けた本願発明に従うソバ粉は、ルチン分解酵素活性が、更に10nkat/g以下となる。また、このような加熱処理を受けた本発明に従うソバ粉は「加熱ソバ粉」と称されてもよい。加熱ソバ粉は、そのままソバ粉として提供されてもよく、更に麺類やその他の加工食品の形態に加工されて提供されてもよい。
【0038】
そのような加熱処理を行ったソバ粉およびソバ粉を使用した生麺および半生麺は、スーパーや小売店での販売のために市場で流通する一定期間内においても、ルチンの分解が抑制されることから、苦味を抑制でき、且つソバ特有の風味、色調に優れた状態を維持したままで保存することが可能である。
【0039】
なお、このような加熱処理を、生麺および半生麺以外の食品に利用してもよい。
【0040】
本発明に従うソバ粥は、rutA遺伝子を有するダッタンソバの種子を脱穀し、得られた脱穀種子を水またはスープなどの液体中で炊くことにより製造されればよい。製造されたソバ粥は、レトルトパックなどの容器に封入された状態で提供されてもよい。容器への封入および滅菌などの加工はそれ自身公知の何れかの方法で行われてよい。
【0041】
本発明に従うソバ粉は、rutA遺伝子を有するダッタンソバの種子を粉砕することにより得られる。粉砕はそれ自身公知の何れかの方法を使用してよい。
【0042】
このソバ粉を用いて製造された乾麺、即席麺、冷凍麺、ギョウザ、シューマイおよびワンタンなども本発明の範囲内である。またこれらの食品は、上述の加熱ソバ粉を用いても同様に製造され、且つ提供されてもよく、これらもまた本発明の範囲内である。
【0043】
本発明に従う即席麺、生麺、半生麺、冷凍麺、ギョウザ、シューマイおよびワンタンは、前記ソバ粉を、所望に応じて任意の他の穀粉と任意に混合し、水、調味料、香味料、甘味料および添加物などを加えて生地を形成し、その生地を所望に応じた形態とし、必要に応じてフィリングを包み、加熱することにより製造することが可能である。何れもそれ自身公知の方法を使用して製造することが可能である。それ自身公知の通常の製造方法により製造された場合であっても、従来よりも苦味の少ない加工食品が提供される。
【0044】
本発明の即席麺は、rutA遺伝子を有し、種子1g当たりのルチン分解活性が20nkat以下であるダッタンソバの種子由来のソバ粉を含む主原料から製造された即席麺であってよい。
【0045】
ここで「主原料」とは、生地を構成するための穀粉をいい、例えば、主原料が本発明に従うダッタンソバの種子由来のソバ粉からなってもよく、本発明に従うダッタンソバの種子由来のソバ粉を約1%〜100%、好ましくは約10%〜100%、より好ましくは約30%〜100%でそれ自身公知の何れかの他の穀粉と混合されてもよい。
【0046】
本発明の即席麺は、それ自身公知の何れの方法により製造された何れの種類の即席麺をも含む。例えば、本発明の即席麺は、即席油揚げ麺、即席ノンフライ麺であってもよく、中華、和風および洋風など何れの風味であってもよく、うどん、ラーメン、焼きソバおよびパスタなど何れの種類の麺であってもよい。
【0047】
ここにおいて「麺類」とは、生麺、半生麺および即席麺、うどん、ラーメン、焼きソバおよびバスタ、ロングパスタおよびショートパスタなど当業者により一般的に麺として分類される種々の麺を総称する語である。
【0048】
一般的に、「麺帯」は、主原料に水および添加物などを添加し、例えば、攪拌および混練して得た麺生地を、例えば、圧延などにより特定の厚みとし、更に任意に切断することによって得られる。ここにおいて、麺帯加工食品とは、所望の形状に切断された麺帯を使用して製造される食品をいう。例えば、麺帯でフィリングを被覆した形態の食品、例えば、ギョウザ、シューマイ、ワンタン、ラビオリおよびラザニアなどの惣菜などであってもよい。
【0049】
[例]
例1
<試験方法>
北海T8号と芽系T27号を六笠らの方法(参考文献1)により温湯除雄法を用いて交配し、F
2個体の種子におけるルチン含量とルチン分解活性を調査した。
【0050】
<種子のルチン含量測定方法>
種子を乳鉢上で粗く砕き、殻を取り除いた後、残りの部分を粉になるまで粉砕した。粉を0.1%(v/v)のリン酸を含む90%メタノールにて37℃で3時間抽出し、フィルター濾過後、鈴木らの方法(参考文献2)によりHPLCを用いてルチンを定量した。
【0051】
<種子のルチン分解活性の測定方法>
種子を乳鉢上で粗く砕き、殻を取り除いた後、残りの部分を粉になるまで粉砕した。粉の粗タンパク質液を50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)にて抽出し、遠心上清を酵素液とした。得られた酵素液を用いて鈴木らの方法(参考文献2)によりルチン分解活性を測定した。
【0052】
その結果を、
図1に示す。その結果、ルチン分解酵素低活性形質は劣性単一因子支配であることが明らかになり、遺伝子をrutAと命名した。rutAを有するダッタンソバ個体はルチン分解酵素活性が従来品種の0.5%以下と極めて低くなった。芽系27号はrutAを有した。
【0053】
例2 ルチン分解活性
<試験方法>
種子を乳鉢上で粗く砕き、殻を取り除いた後、残りの部分を粉になるまで粉砕した。粉の粗タンパク質液を50mM酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.0)にて抽出し、遠心上清を酵素液とした。得られた酵素液を用いて鈴木らの方法(参考文献2)によりルチン分解活性を測定した。
【0054】
その結果を以下の表1に示す。
【表1】
【0055】
例3 即席麺用ダッタンソバ粉の製粉
即席麺を製造するためのソバ粉は、ダッタンソバ種子をQuadrumat(r) Junior(BRABENDER社)にて製粉し、60メッシュのふるいを用いて歩留まりが63%になるよう調整して使用した。
【0056】
例4 加熱処理のルチン分解酵素活性に対する効果
ダッタンソバ粉について、蒸し庫での加熱処理後のルチン分解酵素活性を測定した。各ソバ粉を不織布(95mm×70mmの俵形の袋)に80gずつ入れて、蒸し庫(100℃)にて0、30、60および90秒間加熱処理した。
【0057】
<粗酵素の調製>
ダッタンソバ粉からの粗酵素の調製は、以下の操作に従って行った。ダッタンソバ粉1.0gに20mM酢酸緩衝液(pH5)30mlを加え、1時間撹拌抽出した後、20,000gで10分間遠心分離し、上清を東洋濾紙No.1で濾過したものを粗酵素液とした。
【0058】
<ルチン分解活性測定法>
ルチン25mgに5mlのメタノールを添加後、20mM酢酸緩衝液(pH5)で25mlに定容し、これを基質液とした。
【0059】
基質液300μlに、適宜20mM酢酸緩衝液(pH5)で希釈した粗酵素液を100μl添加し、40℃で正確に3分間あるいは15分間反応後、2.0mlのメタノールを添加して反応を止め、0.5μm液クロディスクで濾過したものを前述のHPLC条件で分析し、ルチンおよびケルセチンの定量を行った。基質300μgに対するルチンの分解率を求め、これを酵素活性の指標として用いた。
【0060】
酵素活性は、1秒間にルチン1molを分解する酵素量を1kat(カタール)として示した。結果を以下の表に示す。なお、当該表には、参考として、kat単位で表示した値の右側に、1分間にルチン1μmolを分解する酵素量を1U(ユニット)で示した値を併記した。
【表2】
【0061】
低ルチン分解酵素活性系統から製造したソバ粉は、従来品種に比べて有意に活性値が低かった。
【0062】
例5 即席麺の製造
2つの系統、即ち、北海T8号および芽系T27号のダッタンソバの種子から得たソバ粉を使用して、以下の方法により、油揚げ即席麺とノンフライ即席麺を製造した。
【0063】
各々の生地の組成を以下の表に示す。
【表3】
【0064】
(1)油揚げ即席麺
油揚げ即席麺の製造は以下の通りに行った。小麦粉1590g、ダッタンソバ粉950g、でん粉460gの主原料をミキサーに投入し、前記主原料に対して1.0kgの水を別に用意し、これに食塩45g、リン酸塩15gを加えて攪拌した後、前記ミキサー内に投入し、20分間混練して麺生地とした。次いで、前記麺生地を常法に従ってロール圧延して1mmの厚さとし、20番角刃で切り出して麺線とした。続いてこの麺線を、90秒間蒸し、水を散布したのち、定量にカットしてリテーナに収納し、150℃、90秒間油揚げを行って即席和風油揚げ麺を得た。
【0065】
(2)ノンフライ即席麺
ノンフライ即席麺は以下の通りに行った。小麦粉2065gとダッタンソバ粉935gの主原料をミキサーに投入し、前記主原料に対して1.0kgの水を別に用意し、これに食塩15.1g、リン酸塩6.1gを加えて攪拌した後、前記ミキサー内に投入し、20分間混練して麺生地とした。次いで、前記麺生地を常法に従ってロール圧延して1.1mmの厚さとし、22番角刃で切り出して麺線とした。続いてこれら麺線を、150秒間蒸したのち、定量にカットし110℃の熱風で20分間乾燥してノンフライ麺を得た。
【0066】
例6
例5に記載の通りに製造された油揚げ即席麺とノンフライ即席麺についてルチンとケルセチンの含有量を測定した。
【0067】
<ルチンおよびケルセチン分析>
ルチンおよびケルセチンの分析はHPLC法により行った。
【0068】
即席麺からのルチンおよびケルセチンの抽出は、0.5gの粉砕した即席麺にメタノールを20ml加えて80℃で60分間還流抽出した。
【0069】
抽出液を東洋濾紙No.5cで濾過し、25mlに定容後、0.5μm液クロディスクで濾過してHPLC分析用サンプルとした。HPLC条件は、CAPCELL PAK C
18カラム(資生堂製)を用いてUV検出器(検出波長360nm)にて、A液(0.1%リン酸:メタノール=70:30)、B液(メタノール=100)のグラジェント溶出により行った。
【0070】
その結果を以下の表に示す。
【表4】
【0071】
例7 生麺および半生麺の製造
例3と同様の方法により準備したソバ粉を用いて以下の方法により生麺および半生麺を製造した。
【0072】
(1)生麺の製造
生麺の試作は以下のように行った。小麦粉1300g、ソバ粉700gの主原料をミキサーに投入し、前記主原料に対して600kgの水を別に用意し、これに食塩60gを加えて攪拌した後、前記ミキサー内に投入し、20分間混練して麺生地とした。次いで、前記麺生地を常法に従ってロール圧延して1.5mmの厚さとし、20番角刃で切り出して麺線とした。続いてこれら麺線を定尺にカットし製品とした。
【0073】
(2)半生麺の製造
半生麺の試作は以下のように行った。小麦粉1300g、ソバ粉700gの主原料をミキサーに投入し、前記主原料に対して600kgの水を別に用意し、これに食塩60gを加えて攪拌した後、前記ミキサー内に投入し、20分間混練して麺生地とした。次いで、前記麺生地を常法に従ってロール圧延して1.5mmの厚さとし、20番角刃で切り出して麺線とした。続いてこれら麺線を定尺にカットして竿掛けし、30℃、1時間乾燥の後製品とした。
【表5】
【0074】
例8 生麺と半生麺の成分分析
例7で得られた生麺と半生麺のルチンおよびケルセチンの含有量を分析した。
【0075】
<ルチンおよびケルセチン分析>
ルチンおよびケルセチンの分析はHPLC法により行った。
【0076】
例7で得られた生麺と半生麺からのルチンおよびケルセチンの抽出は、乳鉢で粉砕した0.5gの各麺にメタノールを20ml加えて80℃で60分間還流抽出した。
【0077】
抽出液を東洋濾紙No.5cで濾過し、25mlに定容後、0.5μm液クロディスクで濾過してHPLC分析用サンプルとした。HPLC条件は、CAPCELL PAK C
18カラム(資生堂製)を用いてUV検出器(検出波長360nm)にて、A液(0.1%リン酸:メタノール=70:30)、B液(メタノール=100)のグラジェント溶出により行った。
【0078】
その結果を以下の表に示す。表から明らかなように、10日間保存後も、実施例9、11は殆どすべてのルチンが分解することなく残存していた。
【表6】
【0079】
例9 官能試験
例3に記載の方法と同様に得たソバ粉と、例5に記載の方法と同様に得た即席油揚げ麺と例7に記載の方法と同様に得た生麺について官能試験を行った。
【0081】
(A)そばがきについての評価
例3の実施例3および実施例4、並びに比較例1および比較例2と同様の方法により作製されたソバ粉からそばがきを作製した。これらについて16名のパネルによる官能評価を行った。結果を以下の表7にまとめた。
【0082】
そばがきは、製法が非常にシンプルであり、ソバ粉本来の味や香りを確認するためには非常に適した食品であることから、本評価でもこれを採用した。
【0083】
そばがきは次のように準備した。即ち、各ソバ粉50gに対して熱湯40gを注いだ後、攪拌してそばがきを作製した。
【0084】
これらを、食味、風味に関して評価し、食味については、「苦味を感じない」をA、「苦味を感じる」をB、「非常に強く苦味を感じる」をCと判断した。風味については、「強い風味がある」をA、「風味を感じる」をB、「風味らしい風味がない」をCと判断した。
【0085】
(B)即席麺についての評価
また、例5に記載の方法により得た実施例7および比較例6と同様の即席油揚げ麺について10名のパネルによる官能評価を行った。結果を以下の表7にまとめた。
【0086】
各即席油揚げ麺について、熱湯を注加後、食味、風味に関して評価した。結果は、「好ましい」をA、「普通」をB、「好ましくない」をCと判断した。
【0087】
(C)生麺についての評価
さらに、例7に記載の方法により得た実施例10および比較例9と同様の生麺について、10名のパネルによる官能評価を行った。結果を以下の表7にまとめた。
【0088】
各生麺について、熱湯で3分間蒸煮後、冷水で冷やした後、食味、風味に関して評価した。結果は、「好ましい」をA、「普通」をB、「好ましくない」をCと判断した。
【0089】
結果
官能評価の結果を以下の表7にまとめた。
【表7】
【0090】
上記結果から、本発明の新規ダッタンソバ粉は、従来品のダッタンソバ粉と比較して食味および風味に優れており、それらを使用した即席麺、生麺等の食品においても、ソバ粉と同様に食味および風味の両方について優れたものが得られることが明らかとなった。
【0091】
例10 麺帯加工食品(シューマイ、ギョウザ、ワンタン)の製造
麺帯加工食品(シューマイ、ギョウザ、ワンタン)の皮の試作は以下のように行った。ソバ粉500g、小麦粉300g、でん粉200gの主原料をミキサーに投入し、前記主原料に対して380gの水を別に用意して加え、20分間混練して生地とした。次いで、常法に従ってロール圧延を行い、シューマイは0.7mmの厚さとし、70mm×70mmの大きさに切り出して皮とした。ギョウザ、ワンタンは0.9mmの厚さとし、直径80mmの円形状に切り出してそれぞれの皮とした。
【0092】
それぞれの製品については、以下の通り、一般的に知られた具材を包み、調理して製品を得た。具材例は次の通りである。
【0093】
<シューマイ>
豚ひき肉 250g
たまねぎみじん切り 150g
片栗粉 15g
しょうゆ 15g
酒 15g
ごま油 10g
塩 5g
上記素材を良く捏ねて具材とした。
【0094】
<ギョウザ、ワンタン>
豚ひき肉 250g
キャベツみじん切り 150g
たまねぎみじん切り 150g
にら 100g
しょうゆ 15g
酒 15g
ごま油 10g
塩 5g
上記素材を良く捏ねて具材とした。
【0095】
本発明に従う新規ダッタンソバ粉を使用した麺帯加工食品の例として製造したシューマイ、ギョウザおよびワンタンは何れも、ソバ粉と同様に食味および風味の両方について優れていた。
【0096】
[参考文献]
参考文献1
Euphytica 156, (2007) 319-326.
Emasculation of Tartary buckwheat (Fagopyrum tataricum Gaertn.) using hot water.
Yuji Mukasa, Tatsuro Suzuki, Yutaka Honda
参考文献2
Plant Science 163 (2002) 417_423
Purification and characterization of flavonol 3-glucosidase, and its activity during ripening in tartary buckwheat seeds
Tatsuro Suzuki, Yutaka Honda, Wakako Funatsuki, Keiji Nakatsuka