【0010】
図2は、FIB加工による微細加工が可能な荷電粒子線装置の構成を示した模式図である。イオンビーム照射系1は、イオン源2、集束レンズ3、偏向器4、対物レンズ5から構成され、イオンビーム6を形成し、試料面上に集束・走査させる機能を有する。元試料13は、試料ステージ14上に固定される。チャンバー15には、イオンビーム照射系1、試料ステージ14、イオンビーム6照射により発生した二次荷電粒子16を検出する二次荷電粒子検出器17、微小試料を摘出可能なメカニカルプローブ18、ガスを噴出し成膜可能なデポジションノズル19、、真空ポンプ20が具備されている。それらは、制御部21により制御される。光学系の設定ウインドウや二次荷電粒子線像は、CRT22上に表示される。試料ステージ14上には、元試料13や、メカニカルプローブ18を用いて摘出した微小試料を固定するための試料台が設置可能である。イオンビーム照射系は、元試料13や微小試料上を走査可能である。
図3に、一般的なマイクロサンプリング法の手順を示す。元試料13を荷電粒子線装置内に挿入し、デポジション機能により元試料13の表面に導電膜23を成膜する(
図3a)。次に、FIB24で、導電膜23を残して周辺加工する(
図3b)。試料傾斜して、FIB24で底部25を切断をする(
図3c)。試料傾斜を元の角度に戻す。メカニカルプローブ18を試料表面に接触させる。デポジション機能を用いて導電膜23を成膜し、メカニカルプローブと試料を固定する(
図3d)。FIB24で支持部26を切り離す(
図3e)。微小試料27を摘出する(
図3f)。摘出した微小試料27を試料台28に接触させる。デポジション機能で導電膜23を成膜し、微小試料27と試料台28を固定する(
図3g)。メカニカルプローブ18をFIB24で切断する(
図3h)。FIB24を用いて微小試料を薄膜加工し、薄膜試料29を作製する(
図3i)。現在は、導電膜成膜(
図3a)から試料摘出(
図3f)まで、および薄膜加工(
図3i)が自動化されている。
【0011】
図4に、メカニカルプローブを用いた試料との接触検知法を示す。メカニカルプローブ18は、接触検知判定部31と接続されている。接触検知判定部31は、試料13とメカニカルプローブ18間の接触検知判定信号を読み取ることができる。接触検知判定信号が、しきい値以下において非接触、しきい値以上において接触と判定される。
図5および
図6は、本発明による試料表面への導電性膜成膜の実施例である。これらの実施例は、FIB装置、FIB-SEM装置、FIB-STEM装置のどれでも実施可能である。メカニカルプローブと試料表面の電気的導通が確保できなくなる例として、FIB加工により発生したスパッタ物の試料表面への再付着がある。まず、荷電粒子線装置に元試料を挿入する前に、試料全面に導電材をコーティングする。これは、帯電防止及びメカニカルプローブと試料との接触検知機能を動作させるためである。コーティング後、荷電粒子線装置に試料を挿入する。始めに、ポジション機能を用いて観察対象領域の表面に導電膜を成膜、周辺加工、底部切断を実施する。これらの作業は、既に導電材41をコーティングしているため、帯電の影響を受けずに実施可能である(
図5a)。しかし、周辺加工や底部切断時に発生したスパッタ物42が、表面43、側面44に再付着する。加工部位が電気的に孤立するため、メカニカルプローブと試料との電気的導通が確保できず、接触検知が不可となる問題がある。そこで、デポジション機能を用いて表面43に導電膜を形成する(
図5b)。
図5bは、デポジションノズル19からガス45を噴出し、FIB24を照射しながら導電膜を成膜している様子を示す。この処理により表面43に導電膜23が成膜され、メカニカルプローブ18と表面43の電気的導通経路46が確保できるため、接触検知が正常に動作するようになる(
図5c)。
図6は、本発明による試料表面への導電性膜成膜の実施例である。各図の観察方向は、FIBの入射方向とした。
図5と同様に、周辺加工で発生したスパッタ物42が表面43、側面44に再付着したとする(
図6a)。試料傾斜する(
図6b)。以降、
図6bから
図6eまでの図は、試料を傾斜した状態で観察しているため、縦方向に縮尺を縮めている。FIB24で底部25を切断する(
図6c)。次に、加工部位の表面43、側面44、底部切断面51にデポジションする。
図6dは、デポジションノズル19からガス45を噴出、FIB24を照射しながら導電膜を成膜している様子を示す。より確実に底部切断面にデポジションを実施するため、底部切断した角度からさらに傾斜した状態でデポジションしても良い。この処理により、表面43、側面44、底部切断面51に導電膜23が成膜され、メカニカルプローブと試料表面の電気的導通経路が確保できるため、接触検知が正常に動作するようになる(
図6e)。
図7および
図8は、本発明による試料表面への導電性膜成膜の実施例を示す。これらの実施例は、FIB装置、FIB-SEM装置、FIB-STEM装置のどれでも実施可能である。メカニカルプローブと試料表面の電気的導通が確保できない例として、支持部上部の導電材の消失がある。一般的に、FIBのビーム強度はガウス分布に従い、中心部分が最も強く、周辺部ほど弱くなる。加工領域の周辺部分は、ビーム強度の弱い部分(ビームフレア)の影響のため、表面がわずかにスパッタリングされてしまう。特に、支持部では、長手方向と直交する方向の長さが短いため、この影響が顕著に現れやすい。また、加工時間が長くなると、表面の導電材のスパッタリングが顕著になり易い。このために、メカニカルプローブと試料表面との電気的導通が確保できず、接触検知が不可となる問題がある。そこで、周辺加工後の導電材41が消失した支持部26の表面43にデポジションする(
図7a)。
図7bは、デポジションノズル19からガス45を噴射し、FIB24でスキャンしながら導電膜を成膜している様子を示す。この処理により、導電膜23が形成され、メカニカルプローブ18と表面43の電気的導通経路46が確保できるようなる(
図7c)。また、予めマイクロサンプリング開始時のデポジションにおいて、支持部上部に導電膜23を成膜してもよい(
図8a)。この時の導電膜の厚さは、ビームフレアで消失しないように、少し厚めになるように調整するのが望ましい。この処理により、周辺加工をしても支持部上部の導電膜23は消失しなくなるため、メカニカルプローブ18と表面43の電気的導通経路46が確保できるようなる(
図8b)。
【0012】
メカニカルプローブを固定した微小試料は、支持部切断後、摘出、試料台上に固定される。メカニカルプローブ、摘出した微小試料、試料台との接触検知は、それらの間の電気的導通検知により行われる。しかし、試料が絶縁材料の様な場合や、スパッタ物が付着している場合などは、電気的導通が確保できず、接触検知が正常に動作しないという問題点があった。
図9、
図10、
図11は、本発明による試料への導電性膜成膜の実施例を示す。これらの実施例は、FIB装置、FIB-SEM装置、FIB-STEM装置のどれでも実施可能である。
図9は、摘出した微小試料の底部を試料台に固定する場合、微小試料の表面および側面への導電性膜成膜の実施例を示す。
図9aは、メカニカルプローブ18で摘出した微小試料27を試料台28上に接触させる前の模式図である。次に、微小試料27の表面43、側面44にデポジションする。
図9bは、デポジションノズル19からガス45を噴出し、FIB24を照射しながら導電膜を成膜している様子を示す。この処理により表面43、側面44に導電膜23が形成され(
図9c)、メカニカルプローブ18、微小試料27、試料台28との間の電気的導通経路46が確保できるため、接触検知が正常に動作するようになる(
図9d)。
図10は、摘出した微小試料の底部を試料台に固定する場合、微小試料の表面、側面、底部切断面への導電性膜成膜の実施例を示す。
図10aは、メカニカルプローブ18で摘出した微小試料27を試料台28上に接触させる前の模式図である。この状態のまま、微小試料27の表面43、側面44にデポジションする。
図10bは、デポジションノズル19からガス45を噴出し、FIB24を照射しながら導電膜を成膜している様子を示す。
図10cは、表面43、側面44に導電膜23が形成された後、メカニカルプローブ18の回転機構を用いて、微小試料27をα方向へ回転した後の模式図である。次に、この状態のまま、微小試料27の底部切断面51にデポジションする。
図10dは、デポジションノズル19からガス45を噴出し、FIB24で照射しながら、側面、底部切断面をFIB24から見込める試料状態で底部切断面に導電膜を成膜している様子を示す。以上の処理により底部切断部51にも導電膜23が形成される(
図10e)。メカニカルプローブ18の回転機構を用いて元の角度に戻す(
図10f)。メカニカルプローブ18、微小試料27、試料台28の電気的導通経路46が確保できるため、接触検知が正常に動作するようになる(
図10g)。
図11では、摘出した微小試料の側面を試料台に固定する場合、微小試料の表面、側面、底部への導電性膜成膜の実施例を示す。
図11aは、メカニカルプローブ18で摘出した微小試料27を試料台28上に接触させる前の模式図である。次に、表面43、側面44にデポジションする。
図11bは、デポジションノズル19からガス45を噴出し、FIB24で照射しながら導電膜を成膜している様子を示す。この処理により、表面43、側面44に導電膜23が形成され(
図11c)、メカニカルプローブ18、微小試料27、試料台28の電気的導通経路46が確保できるため、接触検知が正常に動作するようになる(
図11d)。また、微小試料の側面を試料台に固定する場合、以下の様な手順で行ってもよい。まず、
図10で説明したように、微小試料の表面、側面にデポジションし、導電性膜を成膜する。次に、メカニカルプローブの回転機構を用いて微小試料を回転し、側面、底部切断面をFIBから見込める試料状態で底部切断面にデポジションし、導電性膜を成膜する。そのまま試料台に固定するか、回転角度を元の状態に戻してから試料台に固定してもよい。
図5から
図11の実施例は、FIBによる導電膜成膜に関する実施例であるため、FIB装置、FIB-SEM装置、FIB-STEM装置のどれでも実施可能である。しかし、電子ビームを用いた導電膜の成膜は、FIB-SEM装置やFIB-STEM装置でのみ実施可能である。すなはち、
図5から
図11の実施例は、導電膜成膜に用いるFIBの代わりに、電子ビームを用いても同様の処理が実施可能になる。ここでは代表例として、
図5および
図6の実施例に関して、導電膜成膜に電子ビームを用いた場合の実施例を示す。
図12は、本発明による試料表面への導電性膜成膜の実施例である。周辺加工や底部切断実施後、スパッタ物42が、表面43、側面44に再付着する(
図12a)。加工部位が電気的に孤立するため、メカニカルプローブと試料との電気的導通が確保できず、接触検知が不可となる問題がある。そこで、デポジション機能を用いて表面に導電膜を成膜する(
図12b)。
図12bは、デポジションノズル19からガス45を噴出し、電子ビーム12でスキャンしながら表面43に導電膜を成膜している様子を示す。この処理により表面43に導電膜23が成膜され、メカニカルプローブ18と表面43の電気的導通経路46が確保できるため、接触検知が正常に動作するようになる(
図12c)。
図13は、本発明による試料表面への導電性膜成膜の実施例である。各図の観察方向は、電子ビームの入射方向とした。
図12と同様に、周辺加工で発生したスパッタ物42が表面43、側面44に再付着したとする(
図13a)。試料傾斜し(
図13b)、FIB24で底部を切断する(
図13c)。
図3cでは、底部が電子線入射方向から見込めていないため図示していない。試料傾斜を戻す(
図13d)。この状態のまま、表面43、側面44、底部切断面51にデポジションする。
図13eは、デポジションノズル19からガス45を噴出し、電子ビーム12でスキャンしながら導電膜を成膜している様子を示す。より確実に底部切断面にデポジションを実施するため、底部切断面が電子ビームで観察できるように角度調整してからデポジションしても良い。この処理により導電膜23が成膜され、メカニカルプローブと試料表面の電気的導通経路が確保できるため、接触検知が正常に動作するようになる(
図13f)。尚、
図13a、d、e、fは、試料傾斜した状態で観察しているため、縦方向に縮尺を縮めている。
図14に本発明を適用可能な試料断面構造の模式図を示す。本発明は、絶縁材や導電材中に一部絶縁材を含む試料など、電気的導通経路が確保できない試料に適用可能である。また、導電性材料にも使用可能である。
図14aは、絶縁材料の断面模式図である。絶縁材料には、セラミックス、高分子、生物試料など様々な材料がある。ここでは、代表例としてセラミックスの例を示す。一般的に、セラミックス140は、多数のグレイン141の焼結体構造である。
図14bは、導電材中に一部絶縁材を含む試料の断面模式図である。ここでは、代表例として半導体の例を示す。簡単のため、半導体142は、導電材であるSi基板143上に、絶縁膜144、導電膜145が積層されている構造とした。メカニカルプローブが導電性膜の表面に接触しても、Si基板143と導電性膜145の間に絶縁膜144が存在するため、電気的導通経路が確保できない問題がある。本発明を適用することで、メカニカルプローブと元試料との間の電気的導電性が確保でき、接触検知が可能となる。また、摘出した微小試料に対して本発明を適用することで、メカニカルプローブ、微小試料、試料台との間の電気的導電性が確保でき、接触検知が可能になる。
図5から
図14までの実施例は、マイクロサンプリング法の自動加工および手動操作に適用可能である。
図15に、本発明をマイクロサンプリング法の自動加工に適用した際の加工手順を示す。まず、自動加工開始前に、パラメーター設定を行う。パラメーターには。加工エリアサイズ、加工時間、加工場所、摘出した試料を固定する場所などのパラメータがある。自動加工を開始する。デポジションによる導電膜形成、周辺加工、底部切断を実施する。本発明を用いて表面、側面、底部切断面にデポジションし、導電膜を成膜する。メカニカルプローブを挿入する。メカニカルプローブを試料表面に接触させる。電気的導通経路が確保され、接触検知が作用する。その先端部と元試料をデポジションで固定する。FIBで支持部を切断する。微小試料を摘出し、メカニカルプローブと一緒に退避する。元試料を退避する。試料台を挿入する。摘出した微小試料を挿入する。本発明を用いて、摘出した微小試料の表面、側面、底部切断面にデポジションし、導電膜を成膜する。微小試料を試料台に接触させる。電気的導通経路が確保され、接触検知が作用する。微小試料と試料台をデポジションで固定する。FIBでメカニカルプローブを切断する。メカニカルプローブを退避する。その後、自動薄膜薄膜加工を行い、薄膜試料を作製する。また、断面SEM観察を目的とした場合、FIBで断面を仕上げるだけでも良い。本発明を適用することで、薄膜試料作製までを自動で実施可能となる。また、上記手順は、マイクロサンプリング法の手動操作でも可能である。