特許第5887283号(P5887283)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5887283電磁波シールド用金属箔及び電磁波シールド材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5887283
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月16日
(54)【発明の名称】電磁波シールド用金属箔及び電磁波シールド材
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20160303BHJP
   B32B 15/01 20060101ALI20160303BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20160303BHJP
   C25D 5/48 20060101ALI20160303BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20160303BHJP
   C25D 7/06 20060101ALI20160303BHJP
【FI】
   H05K9/00 W
   B32B15/01 K
   C23C14/06 N
   C25D5/48
   C25D7/00 G
   C25D7/06 B
【請求項の数】13
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-105(P2013-105)
(22)【出願日】2013年1月4日
(65)【公開番号】特開2014-187056(P2014-187056A)
(43)【公開日】2014年10月2日
【審査請求日】2013年2月6日
【審判番号】不服2014-16649(P2014-16649/J1)
【審判請求日】2014年8月22日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113022
【弁理士】
【氏名又は名称】赤尾 謙一郎
(72)【発明者】
【氏名】田中 幸一郎
【合議体】
【審判長】 小柳 健悟
【審判官】 冨岡 和人
【審判官】 小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−274417(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔からなる基材の片面または両面に、Sn又はAgから選ばれる1種のA元素群と、Ni、Fe、及びCoの群から選ばれる1種以上のB元素群とからなる合金層が形成され(但し、Sn−Fe、Ag−Fe及びAg−Coを除く)、
前記合金層の表面に前記A元素群からなる金属層が存在せず、
かつ前記合金層をSEMで表面観察したとき、一つ一つの突起の凸部を取り囲むことのできる最小円の直径の平均値で表される平均径0.1〜2.0μmの複数の針状又は柱状の突起を有さず、
前記基材の片面の前記A元素群の総付着量が10μmol/dm以上、かつ前記B元素群の総付着量が40μmol/dm以上である電磁波シールド用金属箔。
【請求項2】
金属箔からなる基材の片面または両面に、Sn又はAgから選ばれる1種のA元素群と、Ni、Fe、及びCoの群から選ばれる1種以上のB元素群とからなる合金層が形成され(但し、Sn−Fe、Ag−Fe及びAg−Coを除く)、
かつ前記合金層をSEMで表面観察したとき、一つ一つの突起の凸部を取り囲むことのできる最小円の直径の平均値で表される平均径0.1〜2.0μmの複数の針状又は柱状の突起を有さず、
前記合金層の表面に、前記A元素群からなる金属層から構成される第2層が形成され、
前記基材の片面の前記A元素群の総付着量が10μmol/dm以上、かつ前記B元素群の総付着量が40μmol/dm以上である電磁波シールド用金属箔。
【請求項3】
金属箔からなる基材の片面または両面に、Sn又はAgから選ばれる1種のA元素群と、Ni、Fe、及びCoの群から選ばれる1種以上のB元素群とからなる合金層が形成され(但し、Sn−Fe、Ag−Fe及びAg−Coを除く)、
前記合金層の表面に前記A元素群からなる金属層が存在せず、
かつ前記合金層をSEMで表面観察したとき、一つ一つの突起の凸部を取り囲むことのできる最小円の直径の平均値で表される平均径0.1〜2.0μmの複数の針状又は柱状の突起を有さず、
前記合金層と前記基材との間に、前記B元素群からなる金属層から構成される第1層が形成され、
前記基材の片面の前記A元素群の総付着量が10μmol/dm以上、かつ前記B元素群の総付着量が40μmol/dm以上である電磁波シールド用金属箔。
【請求項4】
金属箔からなる基材の片面または両面に、Sn又はAgから選ばれる1種のA元素群と、Ni、Fe、及びCoの群から選ばれる1種以上のB元素群とからなる合金層が形成され(但し、Sn−Fe、Ag−Fe及びAg−Coを除く)、
かつ前記合金層をSEMで表面観察したとき、一つ一つの突起の凸部を取り囲むことのできる最小円の直径の平均値で表される平均径0.1〜2.0μmの複数の針状又は柱状の突起を有さず、
前記合金層の表面に、前記A元素群からなる金属層から構成される第2層が形成され、
前記合金層と前記基材との間に、前記B元素群からなる金属層から構成される第1層が形成され、
前記基材の片面の前記A元素群の総付着量が10μmol/dm以上、かつ前記B元素群の総付着量が40μmol/dm以上である電磁波シールド用金属箔。
【請求項5】
前記合金層がさらに、P、Wの群から選ばれる1種以上のC元素群を含み、
前記合金層全体に対する前記C元素群の合計含有率が1〜40質量%の範囲である請求項1に記載の電磁波シールド用金属箔。
【請求項6】
前記合金層がさらに、P、Wの群から選ばれる1種以上のC元素群を含み、
前記合金層全体に対する前記C元素群の合計含有率が1〜40質量%の範囲である請求項2又は4に記載の電磁波シールド用金属箔。
【請求項7】
前記合金層がさらに、P、Wの群から選ばれる1種以上のC元素群を含み、
前記合金層全体に対する前記C元素群の合計含有率が1〜40質量%の範囲である請求項3又は4に記載の電磁波シールド用金属箔。
【請求項8】
前記第2層は、前記A元素群と前記C元素群とからなる請求項6に記載の電磁波シールド用金属箔。
【請求項9】
前記第1層は、前記B元素群と前記C元素群とからなる請求項7に記載の電磁波シールド用金属箔。
【請求項10】
前記合金層又は前記第2層の表面に、クロム酸化物層が形成されている請求項2又は4に記載の電磁波シールド用金属箔。
【請求項11】
前記基材が金、銀、白金、ステンレス、鉄、ニッケル、亜鉛、銅、銅合金、アルミニウム、又はアルミニウム合金からなる請求項1〜10のいずれかに記載の電磁波シールド用金属箔。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の電磁波シールド用金属箔の片面に、樹脂層が積層されている電磁波シールド材。
【請求項13】
前記樹脂層は樹脂フィルムであることを特徴とする請求項12に記載の電磁波シールド材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂層又は樹脂フィルムを積層されて電磁波シールド材に用いられる金属箔、及び電磁波シールド材に関する。
【背景技術】
【0002】
Snめっき被膜は耐食性に優れ、かつ、はんだ付け性が良好で接触抵抗が低いと言う特徴を持っている。このため、例えば、車載電磁波シールド材の複合材料として、銅等の金属箔にSnめっきされて使用されている。
上記の複合材料としては、銅又は銅合金箔からなる基材の一方の面に樹脂層又はフィルムを積層し、他の面にSnめっき被膜を形成した構造が用いられている(特許文献1参照)。又、プラズマディスプレイ用の電磁波シールド体として、銅箔の回路を透明基材上に形成し、銅箔の表示画面側の面に錫とニッケルとモリブデンとからなる合金めっきを施すことで、反射率を低減した技術が報告されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開WO2009/144973号
【特許文献2】特開2003―201597号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、自動車用途をはじめとした屋外環境で使用される電磁波シールド材には厳しい耐食性が要求され、さらにNOやSOといった腐食ガスに対する耐性も必要である。
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、従来のSnめっきよりも耐食性に優れた電磁波シールド用金属箔および電磁波シールド材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは種々検討した結果、金属箔の表面に所定の元素からなる合金層を形成することで、従来のSnめっきよりも耐食性を向上させることに成功した。
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明の電磁波シールド用金属箔は、金属箔からなる基材の片面または両面に、Sn又はAgから選ばれる1種のA元素群と、Ni、Fe、及びCoの群から選ばれる1種以上のB元素群とからなる合金層が形成され(但し、Sn−Fe、Ag−Fe及びAg−Coを除く)、前記合金層の表面に前記A元素群からなる金属層が存在せず、かつ前記合金層をSEMで表面観察したとき、一つ一つの突起の凸部を取り囲むことのできる最小円の直径の平均値で表される平均径0.1〜2.0μmの複数の針状又は柱状の突起を有さず、前記基材の片面の前記A元素群の総付着量が10μmol/dm以上、かつ前記B元素群の総付着量が40μmol/dm以上である。
又、本発明の電磁波シールド用金属箔は、金属箔からなる基材の片面または両面に、Sn又はAgから選ばれる1種のA元素群と、Ni、Fe、及びCoの群から選ばれる1種以上のB元素群とからなる合金層が形成され(但し、Sn−Fe、Ag−Fe及びAg−Coを除く)、かつ前記合金層をSEMで表面観察したとき、一つ一つの突起の凸部を取り囲むことのできる最小円の直径の平均値で表される平均径0.1〜2.0μmの複数の針状又は柱状の突起を有さず、前記合金層の表面に、前記A元素群からなる金属層から構成される第2層が形成され、前記基材の片面の前記A元素群の総付着量が10μmol/dm以上、かつ前記B元素群の総付着量が40μmol/dm以上である。
又、本発明の電磁波シールド用金属箔は、金属箔からなる基材の片面または両面に、Sn、Ag及びInの群から選ばれる1種以上のA元素群と、Ni、Fe、及びCoの群から選ばれる1種以上のB元素群とからなる合金層が形成され(但し、Sn−Fe、Ag−Fe及びAg−Coを除く)、前記合金層の表面に前記A元素群からなる金属層が存在せず、かつ前記合金層をSEMで表面観察したとき、一つ一つの突起の凸部を取り囲むことのできる最小円の直径の平均値で表される平均径0.1〜2.0μmの複数の針状又は柱状の突起を有さず、前記合金層と前記基材との間に、前記B元素群からなる金属層から構成される第1層が形成され、前記基材の片面の前記A元素群の総付着量が10μmol/dm以上、かつ前記B元素群の総付着量が40μmol/dm以上である。
又、本発明の電磁波シールド用金属箔は、金属箔からなる基材の片面または両面に、Sn、Ag及びInの群から選ばれる1種以上のA元素群と、Ni、Fe、及びCoの群から選ばれる1種以上のB元素群とからなる合金層が形成され(但し、Sn−Fe、Ag−Fe及びAg−Coを除く)、かつ前記合金層をSEMで表面観察したとき、一つ一つの突起の凸部を取り囲むことのできる最小円の直径の平均値で表される平均径0.1〜2.0μmの複数の針状又は柱状の突起を有さず、前記合金層の表面に、前記A元素群からなる金属層から構成される第2層が形成され、前記合金層と前記基材との間に、前記B元素群からなる金属層から構成される第1層が形成され、前記基材の片面の前記A元素群の総付着量が10μmol/dm以上、かつ前記B元素群の総付着量が40μmol/dm以上である。


【0007】
前記合金層がさらに、P、W群から選ばれる1種以上のC元素群を含み、前記合金層全体に対する前記C元素群の合計含有率が1〜40質量%の範囲であることが好ましい。
請求項に記載の電磁波シールド用金属箔において、前記第2層は、前記A元素群と前記C元素群とからなることが好ましい。
請求項に記載の電磁波シールド用金属箔において、前記第1層は、前記B元素群と前記C元素群とからなることが好ましい。
前記合金層又は前記第2層の表面に、クロム酸化物層が形成されていることが好ましい。
前記基材が金、銀、白金、ステンレス、鉄、ニッケル、亜鉛、銅、銅合金、アルミニウム、又はアルミニウム合金からなることが好ましい。
【0008】
本発明の電磁波シールド材は、前記電磁波シールド用金属箔の片面に、樹脂層が積層されている。
前記樹脂層は樹脂フィルムであることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来のSnめっきよりも耐食性に優れた電磁波シールド用金属箔及び電磁波シールド材が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る電磁波シールド用金属箔を示す断面図である。
図2】本発明の第2の実施の形態に係る電磁波シールド用金属箔を示す断面図である。
図3】本発明の実施の形態に係る電磁波シールド材を示す断面図である。
図4】実施例4の試料のSTEMによる断面像を示す図である。
図5】実施例4の試料のSTEMによる線分析の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について説明する。なお、本発明において%とは、特に断らない限り、質量%を示すものとする。
【0012】
図1(b)に示すように、本発明の第1の実施の形態に係る電磁波シールド用金属箔10は、金属箔からなる基材1と、基材1の片面に形成された合金層2とを有する。
(基材)
基材1は、電磁波シールド効果を発揮する導電性の高い金属であればなんでもよい。基材1としては金、銀、白金、ステンレス、鉄、ニッケル、亜鉛、銅、銅合金、アルミニウム、又はアルミニウム合金などの箔が挙げられるが、銅又はアルミニウムの箔が一般的である。
基材1の形成方法は特に限定されず、例えば圧延して製造してもよく、電気めっきで箔を形成してもよい。また、後述する電磁波シールド材の樹脂層又は樹脂フィルムの表面に、乾式めっきして基材1を成膜してもよい。
基材1の厚みは、電磁波シールドの対象とする周波数と表皮効果を考慮して決定するのがよい。具体的には、基材1を構成する元素の導電率と、対象となる周波数を下式(1)に代入して得られる表皮深さ以上とするのが好ましい。例えば、基材1として銅箔を使用し、対象となる周波数が100MHzの場合、表皮深さは6.61μmであるので、基材1の厚みを約7μm以上とするのがよい。基材1の厚みが厚くなると、柔軟性や加工性に劣り、原料コストも増加することから100μm以下とするのがよい。
d={2/(2π×f×σ×μ)}1/2 (1)
d:表皮深さ(μm)
f:周波数(GHz)
σ:導体の導電率(S/m)
μ:導体の透磁率(H/m)
【0013】
基材1として銅箔を用いる場合、銅箔の種類に特に制限はないが、典型的には圧延銅箔や電解銅箔の形態で用いることができる。一般的には、電解銅箔は硫酸銅めっき浴やシアン化銅めっき浴からチタン又はステンレスのドラム上に銅を電解析出して製造され、圧延銅箔は圧延ロールによる塑性加工と熱処理を繰り返して製造される。
圧延銅箔としては、純度99.9%以上の無酸素銅(JIS-H3100(C1020))又はタフピッチ銅(JIS-H3100(C1100))を用いることができる。又、銅合金箔としては要求される強度や導電性に応じて公知の銅合金を用いることができる。公知の銅合金としては、例えば、0.01〜0.3%の錫入り銅合金や0.01〜0.05%の銀入り銅合金が挙げられ、特に、導電性に優れたものとしてCu-0.12%Sn、Cu-0.02%Agがよく用いられる。例えば、圧延銅箔として導電率が5%以上のものを用いることができる。電解銅箔としては、公知のものを用いることができる。
又、アルミニウム箔としては、純度99.0%以上のアルミニウム箔を用いることができる。又、アルミニウム合金箔としては、要求される強度や導電率に応じて公知のアルミニウム合金を用いることができる。公知のアルミニウム合金としては、例えば、0.01〜0.15%のSiと0.01〜1.0%のFe入りのアルミニウム合金、1.0〜1.5%のMn入りアルミニウム合金が挙げられる。
【0014】
(合金層)
合金層2は、Sn又はAg群から選ばれる1種A元素群と、Ni、Fe及びCoの群から選ばれる1種以上のB元素群とからなる(但し、Sn−Fe、Ag−Fe及びAg−Coを除く)
Snめっき被膜は耐食性に優れるとされているが、NOやSOといった腐食ガスに対する耐性が必ずしも高くない。
そこで、Snの代わりに、所定の元素からなる合金層を形成することで、Snの付着量を低減し又はSnを用いずに、なおかつ耐食性を向上させることができる。合金層2に含まれるA元素群とB元素群の質量比は、(A元素群の合計量)/(B元素群の合計量)=8/2〜1/9であるのが好ましい。
合金層2がさらに、P、W群から選ばれる1種以上のC元素群を含んでもよい。C元素群の元素が含まれることでさらに耐食性を向上させることができる。合金層2全体に対するC元素群の合計含有率は、STEM(走査透過型電子顕微鏡)による線分析で、合金層2を構成する各元素を指定元素とし、指定元素の合計を100%として1〜40質量%の範囲であることが好ましく、5〜20質量%の範囲であることがさらに好ましい。
【0015】
(総付着量)
上記A元素群の総付着量が10μmol/dm以上であることが好ましく、30μmol/dm以上であることがより好ましい。
A元素群の総付着量が10μmol/dm未満であると、合金層2が十分に形成されず、合金層2の耐食性が低下する場合がある。上限は特に限定されるものではなく、厚いほど耐食性は向上するが、コストの観点から、例えば1000μmol/dm以下とすることができる。
【0016】
上記B元素群の総付着量が40μmol/dm以上であることが好ましく、75μmol/dmであることがより好ましい。
B元素群の総付着量が40μmol/dm未満であると、合金層2が十分に形成されず、合金層2の耐食性が低下する場合がある。B元素群は比較的安価な金属からなるため、その総付着量の上限は特に限定されないが、コスト等の観点から1000μmol/dm以下とすることが好ましい。
【0017】
総付着量とは、合金層2のみ形成されている場合は合金層2中の付着量であり、合金層2の他に、後述する第1層3及び/又は第2層5が形成されている場合は、これらのすべての層中の付着量である。従って、B元素群の総付着量は、合金層2に含まれるB元素群の量だけでなく、後述する第1層3のB元素群の量を加算した値である。同様に、A元素群の総付着量は、合金層2に含まれるA元素群の量だけでなく、後述する第2層5のA元素群の量を加算した値である。
又、総付着量とは、合金層2等が基材1の両面に形成されている場合は、各面における合金層2等の付着量の合計である。
【0018】
(合金層の形成方法)
合金層2は、合金めっき(湿式めっき)、合金層を構成する合金のターゲットを用いたスパッタ、合金層を構成する成分を用いた蒸着等によって形成することができる。
又、図1(a)に示すように、例えば、基材1の片面にまずB元素群からなる第1めっき層21を形成し、第1めっき層21の表面にA元素群からなる第2めっき層22を形成した後、熱処理して第1めっき層21の元素を第2めっき層22中に拡散させ、図1(b)に示す合金層2を形成することもできる。熱処理の条件は特に限定されないが、例えば、120〜500℃で2秒〜10時間程度とすることができる。
又、図1(a)に示す方法で合金層2を形成する場合であって、第1めっき層21又は第2めっき層22が拡散しやすい元素であれば、熱処理せずに常温で合金化させることもできる。
【0019】
次に、図2を参照し、本発明の第2の実施の形態に係る電磁波シールド用金属箔11について説明する。電磁波シールド用金属箔11は、第1の実施の形態に係る電磁波シールド用金属箔10において、さらに基材1と合金層2との間に、第1層3が形成されていると共に、合金層2の表面にA元素群からなる第2層5が形成され、第2層5の表面にクロム酸化物層6が形成されている。
第1層3は、B元素群からなる金属層、又はB元素群とC元素群とからなる合金層から構成されている。第2層5は、A元素群からなる金属層、又はA元素群とC元素群とからなる合金層から構成されている。
第1層3及び第2層5は、例えば図1(a)の第1めっき層21及び第2めっき層22の厚みを厚くし、熱処理後に第1めっき層21及び第2めっき層22の一部を合金層2とせずに残存させることで形成することができる。勿論、基材1の表面に、熱処理せずに直接第1層3、合金層2、及び第2層5をこの順でめっき等で形成してもよい。又、第1層3、合金層2、及び第2層5等は、湿式めっきの他、蒸着、PVD、CVD等によって形成することもできる。
なお、基材1と合金層2との間にB元素群からなる第1層3が形成されている構成や、合金層2の表面にA元素群からなる第2層5が形成されている構成も本発明に含まれる。又、本発明の電磁波シールド用金属箔の最表面(合金層又は第2層)にクロム酸化物層6が形成されている構成も本発明に含まれる。
【0020】
次に、図3を参照し、本発明の実施の形態に係る電磁波シールド材100について説明する。電磁波シールド材100は電磁波シールド用金属箔10と、この金属箔10の片面に樹脂層又は樹脂フィルム4とを積層してなる。
樹脂層としては例えばポリイミド等の樹脂を用いることができ、樹脂フィルムとしては例えばPET(ポリエチレンテレフタラート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)のフィルムを用いることができる。樹脂層や樹脂フィルムは、接着剤により金属箔に接着されてもよいが、接着剤を用いずに溶融樹脂を金属箔上にキャスティングしたり、フィルムを金属箔に熱圧着させてもよい。また、樹脂フィルムにPVDやCVDで直接銅やアルミニウムの層を基材として形成したフィルムや、樹脂フィルムにPVDやCVDで銅やアルミニウムの薄い層を導電層として形成した後、この導電層上に湿式めっきで金属層を厚く形成したメタライズドフィルムを用いてもよい。
樹脂層や樹脂フィルムとしては公知のものを用いることができる。樹脂層や樹脂フィルムの厚みは特に制限されないが、例えば1〜100μm、より好ましくは3〜50μmのものを好適に用いることができる。又、接着剤を用いた場合、接着層の厚みは例えば10μm以下とすることができる。
材料の軽薄化の観点から、電磁波シールド材100の厚みは1.0mm以下、より好ましくは0.01〜0.5mmであることが好ましい。
【実施例】
【0021】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(基材)
圧延銅箔としては、厚さ8μmの圧延銅箔(JX日鉱日石金属製の型番C1100)を用いた。
電解銅箔としては、厚さ8μmの無粗化処理の電解銅箔(JX日鉱日石金属製の型番JTC箔)を用いた。
Cuメタライズドフィルムとしては、厚さ8μmのメタライジングCCL(日鉱金属製の製品名「マキナス」)を用いた。
アルミニウム箔としては、厚さ12μmのアルミニウム箔(サン・アルミニウム工業社製)を用いた。
Alメタライズドフィルムとしては、厚さ12μmのPETフィルム(東洋紡績社製)に真空蒸着でアルミニウムを2μm形成したものを用いた。
【0022】
(合金層)
合金層を、上記基材の片面に形成した。表1に、合金層の形成方法を示す。
表1において「めっき」とは、図1(a)に示す方法で第1めっき層21、第2めっき層22をこの順でめっきした後、表1に示す条件で熱処理したものである。表1において「合金めっき」は、合金めっきにより合金層を形成したものである。
なお、Ni、Sn、Ag、Cu、Zn、Ni−Sn合金、Co−Sn合金の各めっきは、以下の条件で形成した。
Niめっき:硫酸Ni浴(Ni濃度:20g/L、電流密度:2〜10A/dm
Sn:フェノールスルホン酸Sn浴(Sn濃度:40g/L、電流密度:2〜10A/dm
Agめっき:シアン化Ag浴(Ag濃度:10g/L、電流密度:0.2〜4A/dm
Cuめっき:硫酸Cu浴(Cu濃度:20g/L、電流密度:2〜10A/dm
Znめっき:硫酸Zn浴(Zn濃度:20g/L、電流密度:1〜5A/dm
Ni−Sn:ピロリン酸塩浴(Ni濃度10g/L、Sn濃度10g/L、電流密度:0.1〜2A/dm
Co−Snめっき:ピロリン酸塩浴(Co濃度20g/L、Sn濃度20g/L、電流密度:0.2〜3A/dm
Ni−P:硫酸浴(Ni濃度:20g/L、P濃度:20g/L、電流密度:2〜4A/dm
Ni−W:硫酸浴(Ni濃度:20g/L、W濃度:20g/L、電流密度:0.1〜2A/dm
Ni−Fe:硫酸浴(Ni濃度:20g/L、Fe濃度:10g/L、電流密度:0.1〜2A/dm
Ni−Co:硫酸浴(Ni濃度:20g/L、Co濃度:10g/L、電流密度:0.1〜2A/dm
【0023】
表1において「スパッタ」は、Ni,Snをこの順でスパッタした後、表1に示す条件で熱処理したものである。
表1において「合金スパッタ」は、対応する合金のターゲット材を用いてスパッタして合金層を形成したものである。なお、合金スパッタで成膜される層は合金層そのものの組成であるので、熱処理は行わなかった。
なお、スパッタ、合金スパッタは以下の条件で行った。
スパッタ装置:バッチ式スパッタリング装置(アルバック社、型式MNS−6000)
スパッタ条件:到達真空度1.0×10-5Pa、スパッタリング圧0.2Pa、スパッタリング電力50W
ターゲット:Ni(純度3N)、Ag(純度3N)、Ni−Sn(Ni:Sn=20:80at%)
【0024】
表1において「蒸着」は、以下の条件で行った。
蒸着装置:真空蒸着装置(アルバック社、型式MB05−1006)
蒸着条件:到達真空度5.0×10-3Pa、電子ビーム加速電圧6kV
蒸着源:Ni(純度3N)、In(純度3N)
【0025】
(付着量の測定)
得られた電磁波シールド用金属箔を50mm×50mmに切り出し、表面の皮膜をHNO3(2重量%)とHCl(5重量%)を混合した溶液に溶解した。そして、溶液中の金属濃度をICP発光分光分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、SFC−3100)にて定量し、単位面積当たりの金属重量から付着量(μmol/dm2)を算出した。
(層構成の判定)
得られた電磁波シールド用金属箔について、STEM(走査透過型電子顕微鏡、日本電子株式会社製JEM−2100F)による線分析を行い、層構成を判定した。分析した指定元素は、A元素群、B元素群、C元素群、C、S及びOである。また、上記した指定元素の合計を100%として、各元素の濃度(質量%)を分析した(加速電圧:200kV、測定間隔:2nm)。
A元素群の元素の合計、及びB元素群の元素の合計を、それぞれ5質量%以上含む層を合金層2とした。例えば、A元素群としてSn,Agの2元素を含む場合、SnとAgの濃度の合計値を採用する。
合金層2よりも表層側に位置し、A元素群の元素の合計を5質量%以上含むと共に、B元素群の元素の合計が5質量%未満の層を第2層5とした。
合金層2よりも下層側に位置し、B元素群の元素の合計を5質量%以上含むと共に、A元素群の元素の合計が5質量%未満の層を第1層3とした。
又、図5に例示するチャートから、上記合金層として定義される深さ領域のC元素群の元素の面積と、他のすべての元素の合計の面積とをそれぞれ計算し、合金層中のC元素群の合計含有率を求めた。
【0026】
又、得られた電磁波シールド用金属箔の合金層側の面について、それぞれ耐食性試験(塩水噴霧試験、及びガス腐食試験)を行ったのち、合金層側の最表面の接触抵抗を測定した。
接触抵抗の測定は山崎精機株式会社製の電気接点シミュレーターCRS−1を使用して四端子法で測定した。プローブ:金プローブ、接触荷重:20gf、バイアス電流:10mA、摺動距離:1mm
塩水噴霧試験は、JIS−Z2371(温度:35℃、塩水成分:塩化ナトリウム、塩水濃度:5質量%、噴霧圧力:98±10kPa、噴霧時間:48h)に従った。
○:接触抵抗が100mΩ以下
×:接触抵抗が100mΩ以上
塩水噴霧試験の評価が○であれば実用上、問題はない。
ガス腐食試験は、IEC60512−11−7の試験方法4(温度:25℃、湿度:75%、H2S濃度:10ppb、NO2濃度:200ppb、Cl2濃度:10ppb、SO2濃度:200ppb、試験時間:7日間または21日間)に従った。
○:21日間後も接触抵抗が100mΩ以下
△:21日間後は接触抵抗が100mΩ以上であったが、7日間後は接触抵抗が100mΩ以下
×:7日間後も接触抵抗が100mΩ以上
ガス腐食試験の評価が○又は△であれば実用上、問題はない。
【0027】
得られた結果を表1、及び図4図5に示す。
【0028】
【表1】
【0029】
表1から明らかなように、A元素群とB元素群(さらに、必要に応じてC元素群)からなる合金層を有する各実施例の場合、耐食性に優れていた。
なお、実施例6は、熱処理を行っていないが、SnとNiが拡散しやすい元素であるので、常温で合金層が形成された。又、実施例6は、熱処理を行っていないため、Snめっき層とNiめっき層のうち、合金層とならずにそれぞれSnとNiが残った第1及び第2層が形成された。実施例2〜5は、熱処理を行ったが、もとのSn層及びNi層の付着量を多くしたので、これら層の一部が合金化せずに残存し、第1又は第2層が形成された。他の実施例も同様である。
特に、A元素群の総付着量が10μmol/dm以上、かつB元素群の総付着量が40μmol/dm以上である実施例1〜20の場合、A元素群又はB元素群の総付着量が上記範囲未満である参考例21、22に比べて耐食性がさらに優れていた。
なお、図4、5は、それぞれ実施例4の試料のSTEMによる断面像、及びSTEMによる線分析の結果を示す。断面像におけるX層、Y層は、線分析の結果から、それぞれNi−Sn合金層、Ni層であることがわかる。
又、線分析の結果からわかるようにY層(合金層)のSnとNiの質量比が、Ni/Sn=3/7程度となっており、この値と、Sn−Ni状態図より合金層がNiSnであると考えられる。なお、図5の横軸の距離0.00μmが、銅箔基材の厚み方向の任意の位置であり、図5の右側が表層側である。
【0030】
一方、合金層を形成せず、Ni、又はNiCo層を形成した比較例1、4、5の場合、塩水噴霧試験及びガス腐食試験の評価が劣り、耐食性が大幅に劣った。
B元素群としてCuを用いて合金層を形成した比較例2、6の場合、ガス腐食試験の評価が劣り、耐食性が劣った。これは、Cuが合金層に耐食性を付与しないためと考えられる。
又、A元素群としてZnを用いて合金層を形成した比較例3の場合も、ガス腐食試験の評価が劣り、耐食性が劣った。これは、Znが合金層に耐食性を付与しないためと考えられる。
【符号の説明】
【0031】
1 金属箔
2 合金層
3 第1層
4 樹脂層又は樹脂フィルム
5 第2層
10、11 電磁波シールド用金属箔
100 電磁波シールド材
図1
図2
図3
図4
図5