特許第5887366号(P5887366)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5887366
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月16日
(54)【発明の名称】遷移金属を含む膜をエッチングする方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20160303BHJP
   H01L 43/12 20060101ALI20160303BHJP
【FI】
   H01L21/302 105A
   H01L43/12
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-5194(P2014-5194)
(22)【出願日】2014年1月15日
(65)【公開番号】特開2014-209552(P2014-209552A)
(43)【公開日】2014年11月6日
【審査請求日】2014年2月3日
(31)【優先権主張番号】特願2013-64372(P2013-64372)
(32)【優先日】2013年3月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122507
【弁理士】
【氏名又は名称】柏岡 潤二
(72)【発明者】
【氏名】谷 ▲シュン▼
(72)【発明者】
【氏名】寒川 誠二
【審査官】 内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−236144(JP,A)
【文献】 特表2006−501651(JP,A)
【文献】 特開2005−294516(JP,A)
【文献】 特開2009−043975(JP,A)
【文献】 特開2001−319923(JP,A)
【文献】 特開2010−027788(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
H01L 43/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板処理装置を用いて遷移金属を含む膜をエッチングする方法であって、
前記基板処理装置は、
処理室及びプラズマ生成室を画成する処理容器と、
前記処理室と前記プラズマ生成室との間に設けられており、前記処理室と前記プラズマ生成室とを連通させる複数の開口を有し、紫外線に対する遮蔽性を有し、且つ、前記プラズマ生成室において生成されるイオンに電子を供与して該イオンを中性化することにより生成した中性粒子を前記処理室に放出する遮蔽部と、
を備えており、
該方法は、
前記膜を有する被処理体を収容した前記処理室に、酸素原子の中性粒子を供給する工程であり、前記プラズマ生成室において酸素を含有する第1のガスのプラズマを発生させ、該プラズマ生成室において発生した酸素イオンを前記遮蔽部において中性化することにより、前記遮蔽部の前記複数の開口を介して前記酸素原子の中性粒子を前記処理室に供給して、前記遷移金属を酸化させる、該工程と、
前記処理室に、前記酸素原子の中性粒子を供給する工程において酸化された遷移金属を錯化させるための第2のガスを供給する工程であり、酸化された遷移金属から錯体を生成する、該工程と、
前記処理室に希ガス原子の中性粒子を供給する工程であり、前記プラズマ生成室において希ガスのプラズマを発生させ、該プラズマ生成室において発生した希ガス原子のイオンを前記遮蔽部において中性化することにより、前記遮蔽部の前記複数の開口を介して前記希ガス原子の中性粒子を前記処理室に供給して、前記錯体を除去する、該工程と、
を含む方法。
【請求項2】
前記第2のガスは、ヒドロキシ酸又はカルボン酸を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第2のガスは、エタノールを含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2のガスを供給する工程と前記希ガス原子の中性粒子を供給する工程が同時に行われる、請求項1〜3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記酸素原子の中性粒子を供給する工程、前記第2のガスを供給する工程、及び前記希ガス原子の中性粒子を供給する工程が、同時に行われる。請求項4に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも前記第2のガスを供給する工程と前記希ガス原子の中性粒子を供給する工程を含むサイクルが繰り返される、請求項1〜5の何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記被処理体は、前記膜上にマスクを有しており、該マスクは窒化膜から構成されている、請求項1〜6の何れか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の種々の側面及び実施形態は、遷移金属を含む膜をエッチングする方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子デバイスの製造においては、被処理体の被エッチング層にパターンを形成するために当該被エッチング層をエッチングする処理が行われる。近年、被エッチング層として、遷移金属を含む膜をエッチングする試みが行われている。このような膜は、例えば、MTJ(磁気トンネル接合)素子の一部を構成する膜として用いられ得る。
【0003】
遷移金属を含む膜のエッチングには、一般的にArイオンミリング法が用いられている。しかしながら、Arイオンミリング法は、微細加工が困難であり、エッチング生成物が被処理体に再付着するという問題も生じ得る。このため、ハロゲンガスを用いたプラズマエッチングによって遷移金属を含む膜をエッチングすることも行われている。このような技術については、例えば、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−282844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ハロゲンガスを用いたプラズマエッチングでは、遷移金属とハロゲン元素との反応を促進させるために、また、エッチング生成物、即ち、ハロゲン化物を気化させて排気するために、高温環境下でエッチングを進行させる必要がある。しかしながら、高温環境下でのプラズマエッチングは、製造しようとするデバイスにダメージを与え得る。
【0006】
したがって、本技術分野においては、遷移金属を含む膜を低温でエッチングする方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一側面においては、基板処理装置を用いて遷移金属を含む膜をエッチングする方法が提供される。基板処理装置は、処理室及びプラズマ生成室を画成する処理容器と、処理室とプラズマ生成室との間に設けられており、処理室とプラズマ生成室とを連通させる複数の開口を有し、紫外線に対する遮蔽性を有する遮蔽部と、を備えている。この方法は、(a)プラズマ生成室において酸素を含有する第1のガスのプラズマを発生させることにより、前記膜を有する被処理体を収容した処理室に、酸素原子の中性粒子を供給する工程(以下「工程(a)」という)と、(b)前記処理室に、前記酸素原子の中性粒子を供給する工程において酸化された遷移金属を錯化させるための第2のガスを供給する工程(以下「工程(b)」という)と、(c)前記プラズマ生成室において希ガスのプラズマを生成させることにより、前記処理室に希ガス原子の中性粒子を供給する工程(以下「工程(c)」という)と、を含む。一形態においては、第2のガスは、ヒドロキシ酸又はカルボン酸を含み得る。また、一形態においては、第2のガスは、エタノールを含み得る。
【0008】
一側面に係る方法では、遷移金属を含有する膜(以下、「遷移金属膜」という)に酸素原子の中性粒子を照射することで、低温で遷移金属を酸化させることが可能である。また、酸化した遷移金属を錯化させ、錯体に希ガス原子の中性粒子を照射することにより、低温で錯体を除去することが可能である。したがって、本方法によれば、遷移金属を含む膜を低温でエッチングすることが可能となる。
【0009】
一形態においては、工程(b)と工程(c)が同時に行われてもよい。この形態によれば、遷移金属の錯化と錯体の除去を同時に行うことができるので、スループットが改善され、厚い遷移金属膜のエッチングに要する時間を短縮することが可能となる。また、更なる一形態では、工程(a)、工程(b)及び工程(c)の全てが同時に行われてもよい。この形態によれば、スループットが更に改善される。また、一形態においては、少なくとも工程(b)と工程(c)を含むサイクルが繰り返されてもよい。工程(b)と工程(c)を含むサイクルが繰り返されることにより、厚い遷移金属膜をエッチングすることも可能となり得る。なお、一サイクル中に、工程(a)が更に含まれていてもよい。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、遷移金属を含む膜を低温でエッチングする方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態に係る遷移金属を含む膜をエッチングする方法の流れ図である。
図2】基板処理装置の一例を示す図である。
図3図1に示す方法の各工程を説明するための図である。
図4】基板処理装置の別の一例を示す図である。
図5】スロット板の一例を示す平面図である。
図6】実験例1〜3及び比較実験例1の評価結果を示す図である。
図7】実験例4及び比較実験例2の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して種々の実施形態について詳細に説明する。なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を附すこととする。
【0013】
図1は、一実施形態に係る遷移金属を含む膜をエッチングする方法の流れ図である。図1に示すように一実施形態に係る遷移金属を含む膜をエッチングする方法MT1は、工程ST1〜工程ST3を含んでいる。工程ST1では、遷移金属を含む膜(以下、「遷移金属膜」ということがある)を有する被処理体を収容した処理室に、酸素原子の中性粒子が供給される。これにより、遷移金属膜が酸化される。続く工程ST2において、処理室に第2のガスが供給される。第2のガスは、酸化された遷移金属膜から錯体を形成するためのガス、即ち錯化ガスである。続く工程ST3において、処理室に希ガス原子の中性粒子が供給される。この工程ST3では、形成された金属錯体が除去される。これにより、遷移金属膜がエッチングされる。
【0014】
一実施形態においては、工程ST4において方法MT1の終了条件が満たされるか否かが判定される。例えば、工程ST2と工程ST3を含むサイクルが所定回数実施されたか否かが判定される。終了条件が満たされない場合には、工程ST2からの処理が繰り返される。一方、終了条件が満たされる場合には、方法MT1は終了する。このように、上記サイクルを複数回繰り返すことで、厚い膜をエッチングすることが可能となる。なお、別の実施形態では、工程ST1〜ST3を含むサイクルが所定回数繰り返されてもよい。
【0015】
別の実施形態においては、工程ST2と工程ST3とが同時に実施され得る。この場合には、工程ST4は不要となり得る。工程ST2と工程ST3とを同時に実施することにより、スループットが改善され、比較的厚い膜のエッチングに要する時間が短縮され得る。また、更なる実施形態では、工程ST1、工程ST2、及び工程ST3の全てが同時に実施され得る。この実施形態によれば、スループットを更に改善することができる。
【0016】
以下、上述した実施形態の方法の実施に用いることが可能な基板処理装置の一例について説明する。図2は、基板処理装置の一例を示す図である。図2に示す基板処理装置10は、処理容器12を備えている。処理容器12は、軸線Zが延びる方向(以下、「軸線Z方向」という)に延在する略筒形状の容器であり、その内部に空間を画成している。この空間は、プラズマ生成室S1、及び、当該プラズマ生成室S1の下方に設けられた処理室S2を含んでいる。
【0017】
一実施形態においては、処理容器12は、第1側壁12a、第2側壁12b、底部12c、及び蓋部12dを含み得る。これら処理容器12を構成する部材は、接地電位に接続されている。
【0018】
第1側壁12aは、軸線Z方向に延在する略筒形状を有しており、プラズマ生成室S1を画成している。第1側壁12aの上端は開口している。第1側壁12a上には、当該第1側壁12aの開口を閉じるよう、蓋部12dが設けられている。また、蓋部12dの下面には、円盤形状の電極板ELが取り付けられている。蓋部12d及び電極板ELには、軸線Zに沿って当該蓋部12d及び電極板ELを貫通する孔が形成されており、当該孔には、プラズマ生成室S1に接続するよう管P1が通されている。
【0019】
管P1には、バルブV11、マスフローコントローラといった流量制御器M1、及びバルブV12を介して、ガスソースG1が接続されている。また、管P1には、バルブV21、マスフローコントローラといった流量制御器M2、及びバルブV22を介して、ガスソースG2が接続されている。ガスソースG1は、酸素を含有するガス(以下、「酸素含有ガス」という)のソースであり、例えば、Oガスのソースである。また、ガスソースG2は、希ガスのソースであり、例えば、Arガスのソースである。装置10では、ガスソースG1からの酸素含有ガス及びガスソースG2からの希ガスのうち少なくとも一種を選択的にプラズマ生成室S1に供給することが可能である。
【0020】
第1側壁12aの周囲には、コイルCLが巻き回されている。コイルCLの一端はグランドに接続されており、コイルCLの他端は、高周波電源RFGに接続されている。装置10では、コイルCLに高周波電源RFGから電力を供給することにより、プラズマ生成室S1内に誘導磁界を発生させることができる。これにより、プラズマ生成室S1内に供給されたガスを励起することができ、プラズマ生成室S1内においてプラズマを発生させることができる。
【0021】
上述した第1側壁12aの下方には、当該第1側壁12aに連続して第2側壁12bが延在している。第2側壁12bは、軸線Z方向に延在する略円筒形状を有しており、処理室S2を画成している。装置10は、この処理室S2内に、載置台36を更に備えている。載置台36は、その上面において被処理体Wを支持し得る。一実施形態においては、載置台36は、処理容器12の底部12cから軸線Z方向に延在する支持体38によって支持されている。この載置台36は、静電チャックといった吸着保持機構、並びに、チラーユニットに接続された冷媒流路及びヒータといった温度制御機構を備え得る。
【0022】
また、処理室S2内には、載置台36の上方において軸線Z中心に環状に延在する管P21が設けられている。この管P21には、処理室S2にガスを噴射する複数の噴射口H2が形成されている。管P21には、第2側壁12bを貫通して処理容器12の外部まで延在する管P22が接続している。この管P22には、バルブV31、マスフローコントローラといった流量制御器M3、及びバルブV32を介して、ガスソースG3が接続している。ガスソースG3は、酸化された遷移金属を錯化させるためのガス(以下、「錯化ガス」という)のソースである。この装置10では、ガスソースG3からの第2のガス、即ち錯化ガスを処理室S2に供給することが可能である。ガスソースG3によって供給される錯化ガスは、限定されるものではないが、ヒドロキシ酸又はカルボン酸を含み得る。例えば、ガスソースG3によって供給される錯化ガスは、エタノールを含んでいてもよく、或いは、酢酸を含んでいてもよい。
【0023】
また、底部12cには処理室S2に接続するよう排気管48が通されている。この排気管48には、圧力調整器50及び減圧ポンプ52が接続されている。これら圧力調整器50及び減圧ポンプ52は、排気装置を構成している。装置10では、圧力調整器50及び減圧ポンプ52を動作させ、プラズマ生成室S1に供給されるガスの流量及び処理室S2に供給されるガスの流量を調整することにより、プラズマ生成室S1の圧力及び処理室S2の圧力を調整することが可能となっている。
【0024】
この装置10では、プラズマ生成室S1と処理室S2との間に遮蔽部40が設けられている。遮蔽部40は、略円盤状の部材であり、当該遮蔽部40には、プラズマ生成室S1と処理室S2とを連通させる複数の開口40hが形成されている。
【0025】
遮蔽部40は、例えば、第1側壁12aによって支持される。一実施形態においては、遮蔽部40は、絶縁性部材60と絶縁性部材62との間に挟持されており、これら絶縁性部材60,62を介して、第1側壁12aに支持されている。したがって、一実施形態では、遮蔽部40は、第1側壁12aから電気的に分離されている。
【0026】
遮蔽部40は、プラズマ生成室S1において発生した紫外線に対する遮蔽性を有する。即ち、遮蔽部40は、紫外線を透過しない材料から構成され得る。また、一実施形態においては、遮蔽部40は、プラズマ生成室S1において発生したイオンが開口40hを画成する内壁面によって反射されつつ当該開口40hを通過するときに、当該イオンに電子を供与する。これにより、遮蔽部40は、イオンを中性化し、中性化されたイオン、即ち中性粒子を処理室S2に放出する。一実施形態においては、遮蔽部40は、シリコン製の部材であり得る。また、別の実施形態では、遮蔽部40は、グラファイトから構成され得る。更に別の実施形態においては、遮蔽部40は、アルミニウム製の部材、又は、表面がアルマイト処理された又は表面にイットリア膜を設けたアルミニウム製の部材であってもよい。
【0027】
一実施形態においては、遮蔽部40には、バイアス電力を当該遮蔽部40に与えるためのバイアス電源PGが接続されていてもよい。バイアス電源PGは、高周波バイアス電力を発生する高周波電源であってもよい。或いは、バイアス電源PGは、直流電源であってもよい。バイアス電源PGによって遮蔽部40に電力が与えられると、プラズマ生成室S1において発生したイオンは、遮蔽部40に向けて加速される。その結果、遮蔽部40を通過する粒子の速度が高められる。
【0028】
また、一実施形態においては、電極板ELに直流電源DCGが接続されていてもよい。直流電源DCGに直流電圧を与えることによっても、プラズマ生成室S1において発生したイオンを遮蔽部40に向けて加速させることが可能である。
【0029】
図2に示すように、一実施形態においては、装置10は、制御部Cntを更に備え得る。制御部Cntは、プログラム可能なコンピュータ装置といった制御器であり得る。制御部Cntは、レシピに基づくプログラムに従って装置10の各部を制御し得る。例えば、制御部Cntは、バルブV11,V12に制御信号を送出して、ガスソースG1からの酸素含有ガスの供給及び供給停止を制御することができ、流量制御器M1に制御信号を送出して、ガスソースG1からの酸素含有ガスの流量を制御することができる。また、制御部Cntは、バルブV21,V22に制御信号を送出して、ガスソースG2からの希ガスの供給及び供給停止を制御することができ、流量制御器M2に制御信号を送出して、ガスソースG2からの希ガスの流量を制御することができる。また、制御部Cntは、バルブV31,V32に制御信号を送出して、ガスソースG3からの錯化ガスの供給及び供給停止を制御することができ、流量制御器M3に制御信号を送出して、ガスソースG3からの錯化ガスの流量を制御することができる。また、制御部Cntは、圧力調整器50に制御信号を送出して、排気量を制御することができる。さらに、制御部Cntは、高周波電源RFGに制御信号を送出して、高周波電力を調整し、バイアス電源PGに制御信号を送出して、遮蔽部40へのバイアス電力の供給及び供給停止、更には、バイアス電力を調整することが可能である。更には、制御部Cntは、載置台36の温度制御機構を制御して、被処理体Wの温度を制御することも可能である。
【0030】
また、一実施形態においては、装置10は、質量分析計(QMS)70を更に備え得る。質量分析計70は、処理室S2内に設けられ得る。この質量分析計70は、処理室S2内において存在する錯体又は錯化ガスの量を検出し、当該量を示す出力信号を制御部Cntに出力する。制御部Cntは、質量分析計70からの出力信号を受け、当該出力信号に基づき、処理室S2内に存在する錯体又は錯化ガスの量の変化を検出する。制御部Cntは、例えば、錯体の量が減少しているときに、方法MT1の実施を終了させることができる。或いは、制御部Cntは、錯化ガスの量が増加するときに、方法MT1の実施を終了させることができる。遷移金属膜のエッチングの終点を迎えると、処理室S2内に存在する錯体の量が減少し、一方、錯化ガスがエッチングによって消費されなくなるので、錯化ガスの量は増加する。したがって、質量分析計70の出力信号を利用することにより、遷移金属膜のエッチングの終点を検出することが可能となる。
【0031】
以下、図1及び図2と共に、図3を参照して、一実施形態に係る方法MT1についてより詳細に説明する。図3は、図1に示す方法の各工程を説明するための図である。方法MT1では、まず、被処理体Wが処理室S2内に収容され、載置台36上に載置される。ここでは、図3の(a)に示すように、被処理体Wは、下地層UL及び遷移金属を含む膜MLを有するものとする。膜MLは、下地層UL上に設けられている。この膜ML上には、マスクMSKが設けられている。膜MLを構成する遷移金属は、例えば、Ta(タンタル)、Ru(ルテニウム)、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Co(コバルト)、Fe(鉄)などであってもよい。また、膜MLを構成する金属は、例えば、CoFeB(コバルト鉄ボロン)、PtMn(白金マンガン)、IrMn(イリジウムマンガン)、FePt(鉄白金)、FePd(鉄パラジウム)、TbFeCo(テルビウム鉄コバルト)などといった合金であってもよい。また、マスクMSKは、例えば、Ta、TiN(窒化チタン)などから構成され得る。一実施形態においては、マスクMSKは、SiN、TiN、又はTaNといった窒化膜から構成され得る。窒化膜は酸素の中性粒子に対して酸化し難い性質を有する。したがって、マスクMSKを窒化膜から構成することにより、マスクMSKの酸化を抑制することができ、その結果、マスクMKのエッチングを抑制することができる。即ち、マスクMKに対する膜MLのエッチングの選択比を向上させることが可能となる。
【0032】
次いで、方法MT1では、工程ST1において、処理室S2に酸素原子の中性粒子が供給される。装置10で方法MT1を実施する場合には、ガスソースG1から酸素含有ガスがプラズマ生成室S1に供給され、高周波電源RFGからの高周波電力がコイルCL与えられる。これにより、プラズマ生成室S1において、酸素含有ガスのプラズマが生成される。このプラズマ中の酸素の活性種、例えば、イオンが遮蔽部40を通過するときに、当該活性種は中性化され、処理室S2には酸素原子の中性粒子が供給される。そして、工程ST1では、図3の(b)に示すように、酸素原子の中性粒子(図中、円で囲まれた「O」で示している)が、被処理体Wの表面に照射され、膜MLのマスクMSKに覆われていない部分における遷移金属が酸化され、当該部分が酸化された遷移金属を含む膜MLXに変化する。このように方法MT1では、工程ST1において、酸素の活性種ではなく、酸素原子の中性粒子を膜MLに照射することにより、膜MLを酸化させることができる。即ち、運動エネルギーをもった酸素原子の中性粒子により膜MLを酸化させることができ、工程ST1において被処理体Wを加熱する必要がない。なお、工程ST1の実施時の被処理体Wの温度は、例えば、−30℃といった温度に設定される。
【0033】
次いで、方法MT1では、ガスソースG1からの酸素含有ガスのプラズマ生成室S1への供給、及び、プラズマ生成室S1でのプラズマの生成が停止され、続く工程ST2が行われる。工程ST2では、ガスソースG3からの錯化ガスが処理室S2に供給される。この工程ST2では、図3の(c)に示すように、錯化ガスに含まれる分子が膜MLXに照射され、当該分子が膜MLXに吸着する。これにより、膜MLXに含まれる遷移金属と錯化ガスに含まれる分子から錯体が形成されて、図3の(d)に示すように、表面からある厚みの範囲において膜MLXが膜MLCに変化する。この工程ST2においても、被処理体Wを加熱することなく、膜MLXに含まれる遷移金属を錯化させることが可能である。なお、工程ST2の実施時の被処理体Wの温度は、例えば、−30℃といった温度に設定される。工程ST2では、錯化ガスに含まれる分子が膜MLXの表面に吸着され、錯体反応が生じない場合もある。この場合には、後述する工程ST3において供給される希ガス原子の中性粒子の運動エネルギーが錯体反応を促進することにより、錯体が形成される。なお、工程ST2において錯体が形成されるか、工程ST3において錯体が形成されるかは、錯化ガスと膜MLXの反応のし易さに依存する。
【0034】
また、方法MT1では、工程ST3が行われる。工程ST3では、処理室S2に希ガス原子の中性粒子が供給される。装置10で方法MT1を実施する場合には、ガスソースG2から希ガスがプラズマ生成室S1において供給され、高周波電源RFGから高周波電力がコイルCL与えられる。これにより、プラズマ生成室S1において、希ガスのプラズマが生成される。このプラズマ中の希ガス原子の活性種、例えば、イオンが遮蔽部40を通過するときに、当該活性種は中性化され、処理室S2には希ガス原子の中性粒子が供給される。工程ST3では、図3の(e)に示すように、希ガス原子の中性粒子(図中、円で囲まれた「Ar」で示している)が、被処理体Wの表面に照射され、膜MLCのマスクMSKに覆われていない部分の錯体が除去される。これにより、方法MT1では、遷移金属を含む膜MLのエッチングが進行する。この工程ST3においても、運動エネルギーをもった希ガス原子の中性粒子により膜MLCを除去することが可能であり、被処理体Wを加熱する必要がない。なお、工程ST3の実施時の被処理体Wの温度は、例えば、−30℃といった温度に設定される。したがって、方法MT1では、遷移金属膜MLを低温でエッチングすることが可能である。なお、工程ST2において錯化ガス中の分子が膜MLXに吸着されて錯体反応が生じない場合には、工程ST3において中性粒子の運動エネルギーが錯体反応を促進し、また、形成された錯体が当該中性粒子の運動エネルギーにより除去される。
【0035】
上述したように、一実施形態では、工程ST2及び工程ST3を含むサイクルが繰り返され得る。これは、工程ST2又は工程ST3での錯化が厚み方向において膜MLXの表面からの一部にしか達しないことがあるからである。したがって、工程ST2及び工程ST3を含むサイクルにより、膜厚の厚い遷移金属膜MLをエッチングすることが可能となる。また、別の実施形態では、工程ST1〜ST3を含むサイクルが繰り返されてもよい。
【0036】
また、上述したように、別の実施形態では、工程ST2と工程ST3とが同時に行われてもよい。工程ST2と工程ST3とを同時に行うことで、錯化と錯体の除去を同時に進行させることができる。その結果、スループットを改善することができ、厚い遷移金属膜MLのエッチングに要する時間を短縮することができる。また、更なる実施形態では、工程ST1、工程ST2、及び工程ST3の全てが同時に行われる。これにより、スループットを更に改善することが可能となる。
【0037】
以下、上述した実施形態の実施に用いることが可能な基板処理装置の別の一例について説明する。図4は、基板処理装置の別の一例を示す図である。基板処理装置10は誘導結合型のプラズマ源を有しているが、上述した実施形態の方法の実施に用いられる装置のプラズマ源は、誘導結合型に限定されるものではなく、例えば、マイクロ波であってもよい。その一例として、図4に示す基板処理装置100は、マイクロ波をプラズマ源とするものであり、所謂ラジアルラインスロットアンテナを備えている。以下、基板処理装置100について、基板処理装置10からの相違点を説明し、重複する説明は省略する。
【0038】
装置100では、第1側壁12aに、ガスラインP11及びP12が形成されている。ガスラインP11は、第1側壁12aの外面から延びて、ガスラインP12に接続している。ガスラインP12は、第1側壁12a内において軸線Z中心に略環状に延在している。ガスラインP12には、プラズマ生成室S1にガスを噴射するための複数の噴射口H1が接続している。
【0039】
ガスラインP11には、上述したガスソースG1が、バルブV11、流量制御器M1、及びバルブV12を介して接続されている。また、ガスラインP11には、上述したガスソースG2が、バルブV21、流量制御器M2、及びバルブV22を介して接続されている。
【0040】
第1側壁12a上に設けられた蓋部12dには開口が設けられており、当該開口内には、アンテナ14が設けられている。また、アンテナ14の直下には、プラズマ生成室S1を封止するように、誘電体窓16が設けられている。
【0041】
アンテナ14は、誘電体窓16を介して、プラズマ生成室S1にマイクロ波を供給する。一実施形態においては、アンテナ14は、ラジアルラインスロットアンテナである。このアンテナ14は、誘電体板18及びスロット板20を含んでいる。誘電体板18は、マイクロ波の波長を短縮させるものであり、略円盤形状を有している。誘電体板18は、例えば、石英又はアルミナから構成される。誘電体板18は、スロット板20と冷却ジャケット22の金属製の下面との間に挟持されている。アンテナ14は、したがって、誘電体板18、スロット板20、及び、冷却ジャケット22の下面によって構成され得る。
【0042】
スロット板20は、複数のスロット対が形成された略円盤状の金属板である。図5は、スロット板の一例を示す平面図である。スロット板20には、複数のスロット対20aが形成されている。複数のスロット対20aは、径方向に所定の間隔で設けられており、また、周方向に所定の間隔で配置されている。複数のスロット対20aの各々は、二つのスロット孔20b及び20cを含んでいる。スロット孔20bとスロット孔20cは、互いに交差又は直交する方向に延在している。
【0043】
装置100は、更に、同軸導波管24、マイクロ波発生器26、チューナ28、導波管30、及び、モード変換器32を備え得る。マイクロ波発生器26は、例えば2.45GHzの周波数のマイクロ波を発生する。なお、装置100の制御部Cntは、装置10の制御部Cntの高周波電源RFGの制御機能に代えて、マイクロ波発生器26を制御する機能を有している。装置100の制御部Cntの他の機能は、装置10の制御部Cntの機能と同様である。
【0044】
マイクロ波発生器26は、チューナ28、導波管30、及びモード変換器32を介して、同軸導波管24の上部に接続されている。同軸導波管24は、その中心軸線である軸線Zに沿って延在している。同軸導波管24は、外側導体24a及び内側導体24bを含んでいる。外側導体24aは、軸線Z中心に延在する筒形状を有している。外側導体24aの下端は、導電性の表面を有する冷却ジャケット22の上部に電気的に接続され得る。内側導体24bは、外側導体24aの内側に設けられている。内側導体24bは、軸線Zに沿って延びる略円柱形状を有している。内側導体24bの下端は、アンテナ14のスロット板20に接続している。
【0045】
この装置100では、マイクロ波発生器26により発生されたマイクロ波が、同軸導波管24を通って、誘電体板18に伝播され、スロット板20のスロット孔から誘電体窓16に与えられる。
【0046】
誘電体窓16は、略円盤形状を有しており、例えば、石英又はアルミナから構成されている。誘電体窓16は、スロット板20の直下に設けられている。誘電体窓16は、アンテナ14から受けたマイクロ波を透過して、当該マイクロ波をプラズマ生成室S1に導入する。これにより、誘電体窓16の直下に電界が発生し、プラズマ生成室S1に供給されるガスのプラズマが発生する。即ち、工程ST1においては、酸素含有ガスのプラズマをプラズマ生成室S1において生成することができ、工程ST3においては、希ガスのプラズマをプラズマ生成室S1において生成することができる。このような、装置100でも、上述した実施形態の方法の実施が可能である。
【0047】
以下、上述した実施形態に係る方法の評価のために行った種々の実験について説明する。
【0048】
(実験例1〜3及び比較実験例1)
【0049】
実験例1〜3では、工程ST1の効果を確認するために、装置10を用いてTa製の膜を酸化させた。具体的に、実験例1〜3では、シリコン基板上に5.0nmの膜厚のTa製の膜を有する被処理体を用いた。そして、プラズマ生成室S1に20sccmのOガスを供給し、プラズマ生成室S1の圧力を6Pa、処理室S2の圧力を0.1Paに設定し、高周波電源RFGからコイルCLに1600Wの高周波電力を与えた。また、被処理体の温度は−30℃に設定した。実験例1〜3ではそれぞれ、かかる酸化処理(工程ST1)のための処理時間を1分、2分、8分に設定した。
【0050】
実験例1〜3の処理によって酸化されたTa製の膜中の酸素原子濃度をXPS(X線光電子分光)によって評価した。また、同様の被処理体のTa製の膜を自然酸化させたものを比較実験例1として、当該比較実験例1のTa製の膜に含まれる酸素原子濃度をXPSによって評価した。結果を図6に示す。図6において、横軸は、XPSスパッタリング時間であり、膜の表面からの深さに対応している。また、縦軸は、酸素原子濃度である。図6から明らかなように、実験例1〜3の処理によれば、比較実験例1の自然酸化膜よりも、Ta製の膜が深くまで酸化されることが確認された。このことから、工程ST1によれば、低温での酸化が可能であることが確認された。
【0051】
(実験例4及び比較実験例2)
【0052】
実験例4では、装置10を用いて工程ST1〜工程ST3を含むサイクルを8回繰り返すことにより、Ta製の膜をエッチングした。具体的に、実験例4では、シリコン基板上に5.0nmの膜厚のTa製の膜を有する被処理体を用いた。実験例4における1サイクル中の各工程の条件は以下の通りである。
【0053】
(工程ST1)
高周波電源RFGの電力:1600W
プラズマ生成室S1の圧力:6Pa
処理室S2の圧力:0.1Pa
ガスの流量:20sccm
被処理体温度:−30℃
処理時間:30秒
(工程ST2)
処理室S2の圧力:0.8Pa
エタノールガスの流量:7sccm
被処理体温度:−30℃
処理時間:30秒
(工程ST3)
高周波電源RFGの電力:1600W
プラズマ生成室S1の圧力:42Pa
処理室S2の圧力:0.5Pa
Arガスの流量:200sccm
被処理体温度:−30℃
処理時間:30秒
【0054】
また、サイクル中に工程ST2を含まない点で実験例4とは異なる比較実験例2を行った。即ち、比較実験例2では、実験例4と同じ被処理体に対して、酸化のための工程ST1を実施し、錯化のための工程ST2を行わずに、続けて工程ST3を行うサイクルを8回繰り返した。比較実験例2のその他の条件は、実験例4と同様である。
【0055】
実験例4及び比較実験例2の処理後の被処理体の原子濃度をXPS(X線光電子分光)によって評価した。結果を図7に示す。図7において、横軸は、XPSスパッタリング時間であり、被処理体の表面からの深さに対応している。また、縦軸は、原子濃度である。図7には、実験例4及び比較実験例2それぞれのSi原子濃度、酸素(O)原子濃度、Ta原子濃度が示されている。図7から明らかなように、実験例4の処理後の被処理体では、比較実験例2の処理後の被処理体よりも短いスパッタリング時間で多くのSi、即ち下地の構成原子が検出されている。このことから、実験例4の結果、被処理体からTa製の膜厚が減少していること、即ち、Ta製の膜がエッチングされていることが確認された。
【符号の説明】
【0056】
10…基板処理装置、12…処理容器、36…載置台、40…遮蔽部、40h…開口、50…圧力調整器、52…減圧ポンプ、CL…コイル、G1…ガスソース(酸素を含有するガス)、G2…ガスソース(希ガス)、G3…ガスソース(錯化ガス)、PG…バイアス電源、RFG…高周波電源、S1…プラズマ生成室、S2…処理室、W…被処理体。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7