【実施例1】
【0016】
図1は、低圧グラジエント方式による送液を行う液体クロマトグラフ装置の構成の概略を示す。
【0017】
本装置では、複数の容器1a〜1dに収納された複数の種類の溶離液が、複数の開閉弁を有する切換装置2により選択され、送液装置3により吸引、吐出される。吐出された溶離液は、切換装置2へ送液される。
【0018】
切換装置2は、容器1a〜1dの溶離液を選択的に切り替えることで、送液装置3から送液される溶離液の混合比を変化させ、溶離液の組成比を変えることができる。
【0019】
試料注入部4は、切換装置2によって切り換えられた溶離液の流路中に、分析対象である液体試料を注入する。
【0020】
注入された液体試料は、分離カラム5にて成分ごとに分離される。分子量や疎水性、電荷等の違いにより、分離カラム5から出てくる時間は各成分において異なる。
【0021】
分離カラム5は、温度を一定に保つためにカラムオーブン内に設置される場合もある。
【0022】
検出器6は、時間差を生じて分離カラム5から出てきた各成分を検出する。
【0023】
図2は、
図1に示した送液装置3の構成の一例を示している。
【0024】
本構成では、プランジャとシリンダからなる2つのポンプユニットを直列に接続し、シリーズ方式による送液を採用している。
【0025】
各々のポンプユニットにおいては、カムにより、モータの回転運動をプランジャの往復運動に変換している。
【0026】
モータ21の回転動作は、ベルト18によってカムシャフト17へ伝達され、第1カム15により第1プランジャ13が往復動作し、第2カム16により第2プランジャ14が往復動作する。
【0027】
カムシャフト17の回転数は、制御ユニット22にて認識される。
【0028】
この認識の仕方については種々の方法があるが、例えばカムシャフト17にスリットを設けた円板19を取り付け、センサ20で、光学、静電容量、磁力線などの方法でスリットを検知することで、カムシャフト17の回転数を検知することができる。
【0029】
第2シリンダ11の下流の配管には、配管内の圧力を計測する圧力センサ12が設けられ、この圧力センサ12で計測された配管内の圧力の値が制御ユニット22へ送られる。
【0030】
制御ユニット22は、この配管内の圧力の値に応じて、モータ21の回転数を制御し、カムシャフト17の回転数は前述したセンサ20で計測されて制御ユニット22へ送られ、モータ21の回転数が調整される。
【0031】
複数の溶離液の混合比を時間とともに徐々に変化させる低圧グラジエント方式では、第1シリンダ9の吸引動作区間内の入口側逆止弁8が開放している区間において切換装置2に設置された複数の開閉弁7a〜7dが開閉動作を行う。
【0032】
制御ユニット22は、該当する溶離液に対応する開閉弁7a〜7dの開閉時間とタイミングを調整することにより混合比を変化させ、様々な溶離液の組成比率を実現させる。
【0033】
図4は、本発明の実施の形態に係る制御ユニット(データ処理装置)22の構成図の一部である。なお、ここで図示したもの以外にも、データ処理装置22は、各種プログラムを実行するための演算手段としての演算処理装置(例えば、CPU)と、当該プログラムをはじめ各種データを記憶するための記憶手段としての記憶装置と、各装置へのデータ及び指示等の入出力制御を行うための入出力演算処理装置を備えている。
【0034】
図4において、データ処理装置22は、入力部24と、演算部25と、記憶部26と、送液制御部27と、出力部28を備えている。
【0035】
入力部24は、送液装置3の制御に係る設定条件(例えば、流量、混合比、時間等)のほか、演算部25において、減圧区間のパルス数S
offset、実吸引区間のパルス数S
Rを取得するために要する各種の情報(例えば、プランジャ移動距離l、シリンダの容積V
ALL、プランジャの径d、吸引区間のパルス数S
S、送液圧力)が外部から入力される部分である。
【0036】
ここで、吸引区間とは第1プランジャ13が吸引動作を行っている区間全体、減圧区間とは第1プランジャ13が吸引動作を開始してからシリンダ内の送液圧力が大気圧まで減圧し、入口側逆止弁8が開放されるまでの区間、実吸引区間とは溶離液が実際に吸引される区間のことである。
【0037】
上記の入力方法としては、例えば、入力装置24による入力のほかに、これらの情報が記憶された記憶メディアを介した入力、他のコンピュータとネットワークを介した通信によるもの等がある。
【0038】
演算部25は、入力部24より入力された情報をもとに、後述する演算式に基づいてそれぞれ演算を行う。具体的には、減圧区間のパルス数S
offset取得部により減圧区間のパルス数S
offsetを、実吸引区間のパルス数S
R取得部により実吸引区間のパルス数S
Rをそれぞれ求める。
【0039】
記憶部26は、入力部24を介して入力された情報、及び演算部25により求められた減圧区間のパルス数S
offset、実吸引区間のパルス数S
Rが記憶される部分である。
【0040】
送液制御部27は、記憶部26に記憶された減圧区間のパルス数S
offset、実吸引区間のパルス数S
Rに基づいて、送液装置3の制御を行う部分である。具体的には、ポンプ部23、開閉弁7の動作を制御するように指示を与える。
【0041】
出力装置28は、送液制御部27より取得した指示に基づいて送液装置3へ制御信号を出力する。
【0042】
図3は送液装置の送液工程における吸引区間の圧力変化の一例を示すグラフである。横軸はプランジャの動作に要するモータ21のパルス数(n)、縦軸は圧力センサ12が検出する圧力の値(MPa)を示す。
【0043】
ここで、S
sは吸引区間におけるパルス数、S
offsetは減圧区間おけるパルス数、S
Rは実吸引区間におけるパルス数をそれぞれ示している。
【0044】
図5は、本発明の実施の形態に係る送液装置3の動作フローである。
【0045】
図7は第1シリンダ9の圧力変化の概略図と送液工程における吸引側逆止弁、吐出側逆止弁と開閉弁の動作状態の一例を示している。また、
図7では、
図3で示した吸引区間の圧力変化とその時の開閉弁の開閉タイミングの一例についても示している。第1プランジャ13の吸引動作開始と共に開閉弁の開閉制御を開始した場合、第1シリンダ9の減圧区間で開放状態となっている開閉弁に接続された溶媒は、第1シリンダ9が大気圧まで減圧されていない為に吸引されない。
【0046】
図3、
図5、及び
図7に基づいて、本実施の形態に係る送液制御について説明する。
【0047】
まず、第1プランジャ13の吸引動作が開始されると(S501)、それに伴って第1シリンダ9内の送液圧力が大気圧まで減圧され(S502)、入口側逆止弁8が開放される(S503)。これにより、実際に溶離液の吸引が始まる(S504)。
【0048】
第1プランジャ13の吸引動作により、第1シリンダ9内が溶離液で満たされ、充填が完了すると(S505)、次に第1プランジャ13の押し込み動作が開始される(S506)。
【0049】
第1プランジャ13の押し込み動作により生じる流体の動き(や圧力変化)に伴い入口側逆止弁8が閉鎖されると(S507)、第1シリンダ9内の溶離液が圧縮され第1シリンダ9内が加圧される(S508)。
【0050】
第1シリンダ9内の圧力が、第2シリンダ11から吐出される溶離液の圧力に達すると吐出側逆止弁10が開き(S509)、第2シリンダ11の第2プランジャ14が、第1プランジャ13の押し込み動作に同期して吸引動作を行い、第2シリンダ11内を溶離液で満たす(S510)。
【0051】
第2シリンダ11内が溶離液で満たされ、充填が完了すると(S511)、次に第2プランジャ14の押し込み動作が開始される(S512)。
【0052】
第2プランジャ14の押し込み動作により生じる流体の流れにより、吐出側逆止弁10が閉鎖されると(S513)、第2シリンダ11の内部の溶離液が吐出される(S514)。
【0053】
ここで、
図6は、本発明の実施の形態に係る操作手順とそれに伴うデータ処理装置110の処理を示すフローチャートである。
【0054】
まず
図5に示した吸引工程の終了後に開始される送液工程において、〈1〉入口側逆止弁8が閉鎖し(S503)、〈2〉第1プランジャ13の押し込み動作が開始されてから(S506)、〈3〉第1シリンダ9内の圧力が第2シリンダ11から吐出される溶離液の圧力Pに達し(S508)、〈4〉吐出側逆止弁10が開くまで(S509)に要した第1プランジャ13の移動距離l
C計測する(S601)。
【0055】
この時の移動距離l
C はデータ処理装置22の入力部24により計測され、例えばステッピングモータを使用している場合はパルス数から求められる。またロータリーエンコーダ等を使用し圧縮工程のプランジャ移動距離をモータの回転数から求めることもできる。
【0056】
ここで吸引開始時に大気圧まで減圧する際の体積の増加量dVは、吸引開始時のシリンダ容量V
0、シリンダ1の吐出体積V
d、シリンダ1の圧縮体積dV
Cを用いて式(1)に基づいて求められる。
【0057】
ここで、dV、V
d、dV
Cを減圧するまでのプランジャ13の移動距離l
offset、圧縮工程のプランジャ13移動距離l
C、送液工程のプランジャ13移動距離l
dで置換えると式(2)が求められる。
【0058】
S
offsetは上記式とパルス数変換係数kを用いると下記式で表わされる。
【0059】
次に上記式(2)に基づいて求めたパルス数S
offsetと吸引区間におけるパルス数S
Sから実吸引区間におけるパルス数S
Rが下記式より求められる。
【0060】
前記制御ユニット22は、上記の演算を行い、ここで求められた実吸引区間におけるパルス数S
Rにおいて、開閉弁7a〜7dの開閉時間とタイミングを調整することにより(S605)、正確かつ高精度な混合比を実現することが可能になる。
【0061】
図2に示された送液装置3の構成では、第2シリンダ11に接続された圧力センサ12により測定される圧力により制御されている。
【0062】
別の態様として、入口側逆止弁8と吐出側逆止弁10の間に圧力センサを追加した送液装置においても適応することができる。この実施例では追加した圧力センサにより第1シリンダ9内の圧力を直接測定することができるため、第1シリンダ9が大気圧から第2シリンダ11が送液する圧力までより正確に圧縮することにより圧力脈動の小さい送液が可能になる。
【0063】
図2に示された本実施例の送液装置3の概要図では、2つのシリンダを直列に接続したシリーズ型送液装置を示しているが、2つのシリンダを並列に接続したパラレル型送液装置や、各シリンダがそれぞれモータを有しプランジャが独立して駆動することを特徴とする送液装置においても、送液装置の駆動方式に関わらず、低圧グラジエント送液方式について適用可能である。以下にこれらの実施形態について説明する。
【実施例3】
【0071】
図9は
図2で示した実施例とは異なり、各シリンダを並列に接続した事を特徴とする送液装置の一例を示している。
【0072】
図9で示した送液装置にて低圧グラジエントを適用する場合、第1シリンダ47、第2シリンダ50へ溶媒を供給する分岐点45よりも上流側に切換え弁7a〜7dを有する切換装置2を設置する必要がある。
【0073】
各シリンダをパラレル(並列)方式に接続した送液装置では、接続された各シリンダが溶媒の吸引、圧縮、吐出工程を有することを特徴とする。
【0074】
第1シリンダ47の溶媒吸引から吸引した溶媒の圧縮工程を終えるまでは、第2シリンダ50が単独で下流のシステムへ吐出を行い、第2シリンダ50が溶媒吸引から吸引した溶媒の圧縮工程を終えるまでは、第1シリンダ47が単独で下流のシステムへ吐出を行う。
【0075】
第1シリンダ47の吸引工程では第1プランジャ53の引き込み動作により第1シリンダ47内の圧力が大気圧まで減圧され、入口側逆止弁46が開放されると同時に溶媒の充填が開始される。入口側逆止弁46が開放している区間において、制御ユニット62は開放弁7a〜7dの開閉時間とタイミングを調整し、混合比を変化させることで溶離液の組成比を変化させる。
【0076】
第1シリンダ47内が溶媒で充填された後に、第1プランジャ53の押し込み動作が開始され発生した流体流れにより入口側逆止弁46が閉鎖し、第1シリンダ47内の溶離液が圧縮される。
【0077】
第1シリンダ47内の圧力が、圧力センサ52で検知される第2シリンダ50が送液する圧力まで圧縮されると、吐出側逆止弁48が開放され第1シリンダ47による送液が開始される。
【0078】
また送液を続けている第2シリンダ50は送液流量が一定になるように、圧力変動が発生しないように、第1シリンダ47の吐出を補償しながら減速する。
【0079】
この時、入口側逆止弁46が閉鎖してから、第1シリンダ47内が第2シリンダ50の吐出圧力まで圧縮され吐出側逆止弁48が開放されるまでの第1プランジャ53の移動距離l
1を計測し、上記式(1)、(2)に基づいて第1シリンダ47の減圧区間におけるパルス数S
1offsetと実吸引区間におけるパルス数S
1Rを算出する。
【0080】
算出されたS
1R、S
1offsetを用いて、第1シリンダ47の次の吸引工程において開閉弁7a〜7dの開閉動作を調整する。
【0081】
第2シリンダ50の第2プランジャ54が停止すると、第2シリンダ50の吐出側逆止弁51は第1シリンダ47からの吐出により生じる流体流れにより閉鎖し、第1シリンダ47による単独吐出へと移行する。第1シリンダ47の吐出区間において、第2シリンダ50は吸引動作による溶媒の吸引と、吸引した溶媒の送液圧力までの圧縮を行う。
【0082】
第2シリンダ50内の圧力が、圧力センサ52で検知される第1シリンダ47が送液する圧力まで圧縮されると、吐出側逆止弁51が開放され第2シリンダ50による送液が開始される。
【0083】
また送液を続けている第1シリンダ47は送液流量が一定になるように、圧力変動が発生しないように、第2シリンダ50の吐出を補償しながら減速する。
【0084】
この時、第1シリンダ同様に第2シリンダ50の圧縮率V
2Pを算出する。
【0085】
入口側逆止弁49が閉鎖してから、第2シリンダ50内が第1シリンダの吐出圧力まで圧縮され吐出側逆止弁51が開放されるまでの第2プランジャ54の移動距離l
2を計測し、上記式(1)、(2)に基づいて第2シリンダ50の減圧区間におけるパルス数S
2offsetと実吸引区間におけるパルス数S
2Rを算出する。
【0086】
算出された圧縮率V
2Pと式(2)及び(3)から算出されるS
2R、S
2offsetを用いて、第2シリンダ50の次の吸引工程において開閉弁7a〜7dの開閉動作を調整する。
【0087】
各シリンダを並列に接続した送液装置では上記駆動サイクルを繰り返すことで、圧力変動の小さい送液を実現する。
各シリンダの圧縮工程で制御ユニットより算出されるプランジャ移動距離lと、プランジャ移動距離lから算出される減圧区間と実吸引区間に基づいて各シリンダの吸引工程時の切換え弁の切換時間を調整することで本発明を適応することができる。
【0088】
なお、上記の実施形態においては、吸引区間、減圧区間、実吸引区間のそれぞれにおけるプランジャのパルス数を用いて開閉弁の制御を行う場合について説明したが、本発明の適用対象はこれに限られず、例えば、プランジャの移動速度を考慮して、時間(sec)を基準とした制御を行うことも可能である。