特許第5887449号(P5887449)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5887449銅合金、冷間圧延板材およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5887449
(24)【登録日】2016年2月19日
(45)【発行日】2016年3月16日
(54)【発明の名称】銅合金、冷間圧延板材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 9/01 20060101AFI20160303BHJP
   C22C 9/00 20060101ALI20160303BHJP
   C22C 9/06 20060101ALI20160303BHJP
   C22F 1/08 20060101ALI20160303BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20160303BHJP
【FI】
   C22C9/01
   C22C9/00
   C22C9/06
   C22F1/08 H
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 630A
   !C22F1/00 630D
   !C22F1/00 630K
   !C22F1/00 640A
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 686Z
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 694A
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-108703(P2015-108703)
(22)【出願日】2015年5月28日
(65)【公開番号】特開2016-27193(P2016-27193A)
(43)【公開日】2016年2月18日
【審査請求日】2015年8月18日
(31)【優先権主張番号】特願2014-134565(P2014-134565)
(32)【優先日】2014年6月30日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】510312950
【氏名又は名称】日立金属MMCスーパーアロイ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】日立金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139240
【弁理士】
【氏名又は名称】影山 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100113826
【弁理士】
【氏名又は名称】倉地 保幸
(72)【発明者】
【氏名】村井 琢弥
【審査官】 相澤 啓祐
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−143574(JP,A)
【文献】 特開昭55−161040(JP,A)
【文献】 特公昭53−041096(JP,B1)
【文献】 特開2005−206861(JP,A)
【文献】 特開昭62−142735(JP,A)
【文献】 特開平05−311286(JP,A)
【文献】 特開平10−298678(JP,A)
【文献】 特開平06−240387(JP,A)
【文献】 WYSIECKI M, LABUC' L,“Optimization of chemical composition of five-component aluminium bronze for the production of ship's propellers. Part I. Results of experimental test.”,Int J Mater Prod Technol,スイス,1990年,Vol.5 No.4,p.327-338
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00−9/10
C22F 1/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1〜7質量%のAlと、2〜4質量%のFeと、0.8〜4質量%のNiと、0.5質量%以下のMnと、残部がCu及び不可避不純物からなる組成を有する銅合金からなり、厚みが1〜2mmの冷間圧延板材。
【請求項2】
前記銅合金は、0.1質量%以下のZnを更に含む請求項に記載の冷間圧延板材。
【請求項3】
引張強さが350〜690MPa、耐力が230〜440MPa、および伸びが25〜40%である機械特性を有する請求項またはに記載の冷間圧延板材。
【請求項4】
1〜7質量%のAlと、2〜4質量%のFeと、0.8〜4質量%のNiと、0.5質量%以下のMnと、残部がCu及び不可避不純物からなる組成を有する銅合金の鋳塊を熱間鍛造して厚板状の分塊とする熱間鍛造工程と、
前記分塊を加熱して熱間圧延して圧延材を得る熱間圧延工程と、
前記圧延材を焼鈍する焼鈍工程と、
前記焼鈍工程後、冷間圧延して冷間圧延材を得る冷間圧延工程と、
を少なくとも含む、冷間圧延板材の製造方法。
【請求項5】
前記銅合金は、0.1質量%以下のZnを更に含む請求項に記載の冷間圧延板材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は銅を主成分とする銅合金、銅合金からなる冷間圧延板材および冷間圧延板材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
銅合金は、従来から、そのすぐれた強度、熱伝導性、導電性、耐食性、耐摩耗性等を生かし、電子部品、装飾品、耐食部材等の幅広い分野で利用されているが、この中でも、アルミニウム青銅と呼ばれるCu−Al−Ni系の銅合金は、高強度で、耐食性及び耐摩耗性が良いことで知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、自動車のトランスミッション機構のミッションギアー及びモーター回転子等に使用されるスペーサ等の素材として使用される高力銅合金であって、耐摩耗性が要求される高力銅合金として、4〜8重量%のAl、0.5〜5重量%のNi、0.5〜5重量%のFe、0.01〜0.5重量%のCr、0.01〜0.5重量%のMn及び0.1〜5重量%のZnを含有し、残部がCu及び不可避的不純物からなる、耐摩耗性高力銅合金が提案されている。
【0004】
特許文献2には、良伝導性とすぐれた耐食性、機械的強度を備える銅合金として、1〜7重量%のAl、1.5〜6重量%のNi、0.5〜5重量%のFe、0.1〜2.5重量%のMn、0.001〜0.05重量%のB、0.5〜8重量%のZn、残部Cuからなる析出硬化型銅合金が提案されている。
【0005】
特許文献3には、装飾用アルミ青銅として、5〜7重量%のAl、0.2〜1.5重量%のNi、0.2〜1.0重量%のFeの他に、0.05〜0.1重量%のMn、0.01〜0.05重量%のCr、0.002〜0.005重量%のGe、0.002〜0.005重量%のTiのうち2種以上を含有し残部Cuからなるアルミニウム青銅が、また、5〜7重量%のAl、0.2〜1.5重量%のNi、0.01〜0.05重量%のCr、0.0025〜0.005重量%のSi、0.002〜0.005重量%のTi、残部Cuからなるアルミニウム青銅が提案されている。
【0006】
特許文献4には、耐食性、耐変色性、鋳造性、展延性に優れたアルミニウム青銅として、5〜9重量%のAl、0.2〜4重量%のNi、0.01〜0.2重量%のCrの他に、0.1〜0.5重量%のFe、0.0025〜0.2重量%のBe、0.001〜0.01重量%のTi、0.0025〜0.2重量%のGeのうちの2種以上を含有し、残部が実質的にCuからなるアルミニウム青銅が提案されている。
【0007】
特許文献5には、耐変色性を有し、美術工芸品、装身具、食器類、展伸材、鋳造品等として好適な合金として、5〜9重量%のAl、1〜4重量%のNi、0.005〜0.3重量%のInの他に、0.1〜0.5重量%のMn、0.001〜0.01重量%のCo、0.0025〜0.2重量%のBe、0.001〜0.01重量%のTi、0.05〜0.2重量%のCr、0.001〜0.5重量%のSi、0.005〜0.5重量%のZu、0.003〜0.4重量%のSn、0.0025〜0.2重量%のGeのうちの一種又は二種を含有し、残部Cuからなる銅合金が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−311286号公報
【特許文献2】特開平10−298678号公報
【特許文献3】特開2000−336440号公報
【特許文献4】特開2002−60867号公報
【特許文献5】特開2004−143574号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記従来のCu−Al−Ni系の銅合金は、強度、熱伝導性、導電性、耐食性、耐摩耗性等には優れるものの、冷間加工することが困難であったため、熱間加工による厚物の製造が主流であって、冷間加工によって得られる条材又は薄板の量産は、限定的に行われているのみであった。
なお、上記特許文献1では、Cu−Al−Ni系の銅合金に、0.01〜0.5質量%のCr、0.1〜5質量%のZnを含有させ、加工性を改善する試みもなされているが、加工性が十分であるとはいえない。
また、上記特許文献2においても、Cu−Al−Ni系の銅合金に、Bを0.001〜0.05質量%、およびZnを0.5〜8質量%の範囲内で含有させることによって、析出硬化を図るとともに、加工性の改善を図る試みもなされているが、加工性が向上する効果が、十分であるとはいえない。
このため、Cu−Al−Ni系の銅合金の用途は、鋳物品及び鍛造品等の厚物材料として利用されることが多く、冷間加工によって得られる条材及び薄板材料としての利用は、実際上限られているのが現状である。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、冷間加工が難しいとされていたCu−Al−Ni系の銅合金の冷間加工性を向上させ、その薄板化及び条材化を容易としたCu−Al−Ni系の銅合金、当該合金からなる冷間圧延板材および当該冷間圧延板材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明の銅合金は、1〜7質量%のAlと、2〜4質量%のFeと、0.8〜4質量%のNiと、0.5質量%以下のMnと残部がCu及び不可避不純物からなる組成を有する銅合金である。当該銅合金は、0.1質量%以下のZnを更に含んでも良い。
【0012】
本発明は、別の側面で、冷間圧延板材であり、当該冷間圧延板材は、1〜7質量%のAlと、2〜4質量%のFeと、0.8〜4質量%のNiと、0.5質量%以下のMnと、残部がCu及び不可避不純物からなる組成を有する銅合金からなり、厚みが1〜2mmの冷間圧延板材である。前記銅合金は、0.1質量%以下のZnを更に含んでも良い。
【0013】
本発明は、別の側面で、冷間圧延板材の製造方法であり、当該製造方法は、1〜7質量%のAlと、2〜4質量%のFeと、0.8〜4質量%のNiと、0.5質量%以下のMnと、残部がCu及び不可避不純物からなる組成を有する銅合金の鋳塊を熱間鍛造して厚板状の分塊とする熱間鍛造工程と、前記分塊を加熱して熱間圧延して圧延材を得る熱間圧延工程と、前記圧延材を焼鈍する焼鈍工程と、前記焼鈍工程後、冷間圧延して冷間圧延材を得る冷間圧延工程と、を少なくとも含む、冷間圧延板材の製造方法である。前記銅合金は、0.1質量%以下のZnを更に含んでも良い。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来材の強度、耐食性の水準を維持しつつ加工性を向上させることができるため、その薄板化及び条材化を容易とし、強度、耐食性、耐摩耗性が求められる幅広い分野に適用することが可能となる。結果として、冷間圧延による加工性に優れた銅合金を提供することができる。また、優れた機械特性を有する冷間圧延板材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明の銅合金を構成する合金成分を添加する理由及びその添加量の範囲について説明する。
【0016】
[Al]
Alは、主に固溶強化により銅合金の母相を強化すると共に、耐食性を向上させる元素である。銅合金中のAlの含有量が1質量%未満の場合には、強度と耐食性の向上効果を期待することはできない。一方、Alの含有量が7質量%を超えると、銅合金の強度は向上するものの、靭性および延性が低下し、特に冷間加工性が悪くなる。このため、本発明では、銅合金中のAlの含有量を1〜7質量%と定めた。なお、強度を低下させることなく加工性を高めるという観点からは、Alの含有量の下限を4質量%、上限を7質量%とすることが望ましく、下限を5質量%、上限を6質量%とすることがさらに望ましい。
【0017】
[Fe]
Feは、銅合金の組織を微細化する上で重要である。組織を微細化する結果として、銅合金の強度及び耐摩耗性や疲労強度などを向上させることができる。また、鋳造時にも組織を微細化させる効果が、ある程度期待できる。同時に添加するNiの量に影響を受けるものの、Feの含有量が2質量%未満の場合は、強度および耐摩耗性や疲労強度の向上といった効果が十分に得られない。また、Feの含有量が4質量%を超える場合は、かえって冷間加工性が悪くなる。このため、Feの含有量は2〜4質量%と定めた。
【0018】
[Ni]
Niは、Feと共に添加することで銅合金へのFeの溶解度を増加し、Feを添加することにより得られる効果を高める。また、Niは銅合金の耐力を向上させるが、特に高温での耐摩耗性を向上させる。Niの含有量が0.8質量%未満の場合は、このような効果が不十分であり、一方、Niの含有量が4質量%を超える場合は、延性が低下するため加工性の低下を招く。したがって、Niの含有量を0.8〜4質量%と定めた。
【0019】
[Mn]
Mnはβ相を安定化させることができる。Mnの含有量が0.5質量%を超える場合は加工性ではなく薄板の耐食性の観点で不利となる。このため、Mnの含有量は0.5質量%以下と定めた。また、Mnはα相に固溶し、強度及び耐摩耗性の向上に寄与するが、0.01質量%以下ではその効果が得られず、一方0.5質量%を超えると耐食性能の低下を招くことから、Mnの含有量は、下限が0.01質量%、上限が0.5質量%であることが好ましい。
【0020】
[Zn]
ZnもMnと同様、α相に固溶し、強度及び耐摩耗性の向上に寄与する。そのため、より一層、銅合金の強度及び耐摩耗性の向上をはかる場合は、必要に応じて添加することができる。Znの含有量が0.1質量%を超えると、靭性及び耐食性を低下させることから、Znの含有量は0.1質量%以下とする。Znの含有量の下限は、添加の効果が認められる0.01質量%であることが好ましい。
【0021】
上記合金成分の組成から成る銅合金からなる冷間圧延板材は、その厚みが1〜2mmであればよい。本発明の冷間圧延板材は、機械特性に優れ、引張強さが350〜690MPa、耐力が230〜440MPa、および伸びが25〜40%である。
【0022】
本発明の冷間圧延板材の製造方法は、熱間鍛造工程と、熱間圧延工程と、焼鈍工程と、冷間圧延工程と、を少なくとも含む。前記熱間鍛造工程は、1〜7質量%のAlと、2〜4質量%のFeと、0.8〜4質量%のNiと、0.5質量%以下のMnと、残部がCu及び不可避不純物からなる組成を有する銅合金の鋳塊を熱間鍛造して厚板状の分塊とする工程である。前記熱間圧延工程は、前記分塊を加熱して熱間圧延して圧延材を得る工程である。前記焼鈍工程は、前記圧延材を焼鈍する工程である。前記冷間圧延工程は、前記焼鈍工程後、冷間圧延して冷間圧延材を得る工程である。本発明の冷間圧延板材の製造方法は、上記工程の他、前記冷間圧延材に更に最終焼鈍工程を含むことができる。
【実施例】
【0023】
以下に、実施例に基づいて、本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例によって限定されるものではない。
【0024】
所定の成分組成となるようにCu、Al、Fe、Ni、Mn及びZnを配合し、これを溶解炉で溶解して溶湯を得た。この溶湯を、鋳型を用いて鋳造して、直径約70mm、高さ約80mm程度の円柱状の銅合金鋳塊を製造した。表1に、本発明の銅合金鋳塊の成分組成を示す。
また、比較のため、所定の成分組成となるように原料成分を配合し、溶解炉で溶解した溶湯を鋳造して、表2に示す比較例の成分組成の銅合金鋳塊を製造した。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
次いで、これらの鋳塊を熱間鍛造することにより、厚さが約10mmの厚板状の分塊を製造した。
【0028】
この厚板状の分塊を、900℃に加熱後、約4mmの厚さになるまで熱間圧延した。そして、さらに900℃で1時間加熱する中間焼鈍を施した。
【0029】
最後に、約50%の冷間圧延を施して、最終的に厚さが1.8mmの冷間圧延板材を得た。表3に、冷間圧延板材の最終板厚と、冷間圧延加工をした際の加工性の良否を示す。なお、圧延途中で、板端割れ(耳割れ)が発生したものについては、その旨を表3に記した。
【0030】
【表3】

【0031】
その後、これらの冷間圧延板材に880℃で0.1時間加熱する最終焼鈍を施した。次いで、最終焼鈍を施した冷間圧延板材を試験材として、各試験材から圧延方向に平行に切り出したJIS Z2241 5号試験片を使用して引張試験を行い、引張強さ、耐力及び伸びを測定した。表4に、引張試験の結果を示す。
【0032】
【表4】

【0033】
表3、表4に示す結果から明らかなように、比較銅合金1〜4は、いずれも、冷間圧延時に板端割れが発生した。一方、本発明に係る銅合金1〜4は、いずれも、板端割れ発生を生じずに加工することが可能であり、冷間圧延加工において、加工性に優れることが分かった。また、本発明に係る銅合金1〜4は、引張試験において比較銅合金1〜4と同程度の機械的特性を示すことを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0034】
以上説明したように、本発明によれば、冷間加工が難しいとされていたCu−Al−Ni系の銅合金の冷間加工性を向上させ、しかも、従来材と遜色のない機械特性を備える銅合金を提供できることから、その薄板化及び条材化を可能とし、これによりさらに幅広い分野への展開および進出が可能となる。