【実施例】
【0057】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
実施例1 5’脂質修飾2本鎖RNAのルシフェラーゼ遺伝子発現阻害効果
1.ルシフェラーゼ遺伝子をターゲットとした脂質修飾2本鎖RNAの合成
1−1.センス鎖RNA及びアンチセンス鎖RNAの配列
ウミシイタケルシフェラーゼと相同配列を持ち、ウミシイタケルシフェラーゼの遺伝子発現を抑制できる21〜27塩基長のセンス鎖RNAと21〜27塩基長のアンチセンス鎖RNAの2本鎖RNAをデザインした。該二本鎖RNAはアンチセンス鎖とセンス鎖の組み合わせにより様々な形態の二本鎖を形成できる。該2本鎖RNAにおいて、ダングリングエンド(一本鎖領域)を持たない完全2本鎖RNA(センス鎖RNAの5’末端側及び3’末端側が共に平滑末端である2本鎖RNA)をDS (double strand) RNA;二本鎖RNAの両末端にダングリングエンド(オーバーハング)を持つ2本鎖RNAをSi RNA;センス鎖の5’末端を左側に示したときに右側のみにダングリングエンドを持つ2本鎖RNAをRO (Right Overhang) RNA、と名付けた。また、各種2本鎖RNAの命名はセンス鎖をA(A1又はA2)、アンチセンス鎖をBとし、センス鎖及びアンチセンス鎖となる1本鎖RNAの塩基の数を記載することにより区別している。また、センス鎖は2種類のものをデザインしたので区別のためにA1及びA2としている。また、センス鎖の5’末端を脂質で修飾したものについてはセンス鎖RNA名の次にCx(x=16又は12)と記載している。使用したRNAの配列は、以下の通りである。
<センス鎖>
27nt 27A1:5’-CUGGCCUUUCACUACUCCUACGAGCAC-3’(配列番号1)
25nt 25A1:5’-CUGGCCUUUCACUACUCCUACGAGC-3’(配列番号2)
23nt 23A1:5’-CUGGCCUUUCACUACUCCUACGA-3’(配列番号3)
21nt 21A1:5’-CUGGCCUUUCACUACUCCUAC-3’(配列番号4)
21nt 21A2:5’-GGCCUUUCACUACUCCUACGA-3’(配列番号5)
<アンチセンス鎖>
27nt 27B:5’-GUGCUCGUAGGAGUAGUGAAAGGCCAG-3’(配列番号6)
25nt 27B:5’-GCUCGUAGGAGUAGUGAAAGGCCAG -3’(配列番号7)
23nt 27B:5’-UCGUAGGAGUAGUGAAAGGCCAG-3’(配列番号8)
21nt 27B:5’-GUAGGAGUAGUGAAAGGCCAG-3’(配列番号9)
1−2.ルシフェラーゼ遺伝子をターゲットとした脂質未修飾2本鎖RNAの合成
これら上記センス鎖RNA及びアンチセンス鎖を用いて様々な2本鎖RNAを作成した。2本鎖RNAの作成は、universal buffer(林化成株式会社)中、同モルのセンス鎖及びアンチセンス鎖RNAを混合し、92℃で2分間加熱した後、4℃まで徐々に温度を下げることで作成した。合成した各種2本鎖RNAは、20% ポリアクリルアミドゲルを用い、250Vの条件化で60分間電気泳動し、その後、銀染色キット(GEヘルスケア バイオサイエンス)で2本鎖RNAを染色することにより確認した。未修飾の2本鎖RNAの構造を
図1Aに示す。
【0058】
1−3.ルシフェラーゼ遺伝子をターゲットとした脂質修飾2本鎖RNAの合成
ルシフェラーゼ遺伝子の発現を抑制できる2本鎖RNAのセンス鎖の5’末端に脂質を結合させた脂質修飾センス鎖RNAを合成した。当該脂質修飾センス鎖RNAにおいて、脂質は上記センス鎖RNAの5’末端に連結されているアミノアルキル基(Amino Modifier C6; Glen Research)を介して共有結合で結合している。脂質修飾センス鎖RNAは、活性エステル基もつ脂質化合物(以下、活性エステル化脂質化合物と表記する)と5’末端をアミノ化修飾したセンス鎖RNAとを液相中で反応させることで合成した(反応式1、2)。
【0059】
【化3】
【0060】
具体的な合成法を以下に示す。センス鎖RNAの5’末端をアミノ化するために、RNA固相合成上で5’-Amino-Modifier C6 (Glen Research)を用いて通常の方法(ホスホロアミダイト合成法)を実施すればよく、これによって、5’末端アミノアルキル基修飾センス鎖RNA(21塩基長)が合成できる。なお、上記5’末端アミノアルキル基修飾センス鎖RNAはHPLC精製、MALDI-TOF MS解析済みのものを林化成株式会社より購入した。合成された5’末端アミノアルキル基修飾センス鎖RNAは、該末端(5’末端側から1番目のヌクレオチドのリン酸残基)に−(CH
2)
6−NH
2が結合されている。合成した1本鎖RNAは、UVスペクトル検出器を用い、260nmの吸光度を測定することにより濃度を算出した。このアミノアルキル基修飾1本鎖RNAと、DMF(N,N-ジメチルホルムアミド)に溶解した活性エステル化脂質化合物[Palmitic acid N-hydroxy succinimide easter(シグマ−アルドリッチ社)、又はラウリン酸-4-ニトロフェニルエステル(TCI)]と、縮合反応条件下で混合して、脂質修飾センス鎖RNAを合成した。反応後、脂質修飾センス鎖RNAが含まれる反応液中の不要な試薬を取り除くため、反応液をHPLCで精製した。HPLC精製は、緩衝液としてA:100% 20mM TEAA(pH 7.0), B:70% CH
3CN/20mM TEAA (pH 7.0)を用い、10% B緩衝液から100% B緩衝液を50分のリニアーグラジェントになるよう設定し精製を行った。また、精製用カラムはCAP CELL (4.6 x 150 mm, 5μm;SHISEIDO)を使用した。HPLC解析結果の一例を
図2に示す。HPLCにおいて精製された脂質修飾センス鎖RNAは凍結乾燥し、精製水に溶解させた後、UVスペクトル解析により濃度及び合成収率を算出した。
【0061】
以下に脂質修飾センス鎖RNAの構造モデル及び収率を示す。
【0062】
【化4】
【0063】
合成した脂質修飾センス鎖RNAは、アンチセンスRNAと2本鎖を形成させ、脂質修飾2本鎖RNAを得た。2本鎖RNAの形成は、上記と同様の方法で行い、20% ポリアクリルアミドゲル電気泳動により確認した。脂質修飾2本鎖RNAの構造を
図1Bに示す。
図1Bにおいて、Xはパルミチン酸誘導体を結合させたときはX=16、ラウリン酸誘導体を結合させたときはX=12となる。
【0064】
2.脂質修飾2本鎖RNAの分解酵素耐性
脂質修飾27nt dsRNA(Ds 27A1C16/27B)のヌクレアーゼ耐性を検討した。まず、最終濃度が2 μMになるよう調整したセンス鎖5’-末端脂質修飾27nt dsRNAを10%FBS(三光純薬株式会社)を含むRPMI-1640培地(インビトロジェン)中 (最終量110μl)、37℃でインキュベートし、0h、0.5h、1h、2h、4h、6h、8h、12h、24h、48h後にそれぞれ10μl取り、2μlのローディングダイを含むサンプルチューブに添加した。次いで、分解反応を停止させる為、サンプル採取後すばやく液体窒素中にて凍結し、−20℃にて保存した。得られた産物を20% ポリアクリルアミドゲルを用い250Vで70分間サンプルを電気泳動した。その後、銀染色キット(GEヘルスケア バイオサイエンス)で産物を染色し(染色条件は製品マニュアル参照)、ChemiImager 4000(Alpha Innotech corporation)でゲル解析を行った。また比較として一般に広く使用されている21塩基長からなる21siRNA(si 21A2/21B)及び未修飾27nt dsRNA(Ds 27A1/27B)のヌクレアーゼ耐性結果も同様に評価した。ゲル電気泳動の結果を
図3に示す。
【0065】
その結果、21siRNAは血清を含む培地中において速やかに分解されており、1〜2時間程度で21siRNAの消失が確認された。一方、未修飾27nt dsRNA及び脂質修飾27nt dsRNAは、21siRNAに比べ非常に高いヌクレアーゼ耐性を示し、48時間後においても2本鎖RNAは生存していた。この結果から、脂質修飾2本鎖RNAは一般に広く使用されている21siRNAに比べ格段に高い生体内安定性を保有しているという新たな知見が得られた。
【0066】
3.ルシフェラーゼ遺伝子をターゲットとした脂質修飾2本鎖RNAのDicerによるプロセシング
合成した2本鎖RNA及び脂質修飾2本鎖RNAのリコンビナントDicerによるプロセシングを検討した。Dicerによる切断実験は、20mM Tris-HCl(pH 8.0), 15 mM NaCl, 2.5mM Mg
2Cl溶液中、0.5 UのリコンビナントDicer(Gene Therapy Systems)と最終濃度2 μMになるよう調整した未修飾2本鎖RNA及び脂質修飾2本鎖RNAをサンプルチューブに10μl準備し、37℃に設定したインキュベーター中、12時間インキュベートした。その後、Dicerによる切断反応を停止させる為に、2μlのDicer Stop Solution (Gene Therapy Systems)を反応溶液に加え、更に2μlのローディングダイを加えた。得られた産物を20% ポリアクリルアミドゲルを用い250Vで70分間サンプルを電気泳動した。その後、銀染色キット(GEヘルスケア バイオサイエンス)で産物を染色し(染色条件は製品マニュアル参照)、ChemiImager4000(Alpha Innotech corporation)でゲル解析を行った。また、コントロールとして未修飾の21siRNA(si 21A2/21B)もゲル電気泳動にて解析した。その結果を
図4に示す。
【0067】
得られた結果から、Ds RNA (Ds 27A1/27B、Ds 25A1/25B、Ds 23A1/23B、Ds 21A1/21B)のセンス鎖RNAを脂質で修飾した2本鎖RNAにおいて、Ds 27A1C16/27B及びDs 27A1C12/27BはリコンビナントDicerの働きにより、未修飾21 siRNAと同様の位置にバンドが確認され、Dicerの切断によって2塩基のダングリングエンドを含む21塩基長のsiRNAが生成していることが強く示唆された。また、Ds 25A1C16/25B及びDs 23A1C16/23BにおいてもDicer存在下において21siRNAと同様の位置に新たなバンドが確認され、Dicerによるプロセシングを受けていることが明らかとなった。一方、Ds 21A1C16/21B においてはDicer存在下においても顕著な変化は観察されず、Dicerによるプロセシングを受けていないことが明らかとなった。
【0068】
また、センス鎖RNAの3’末端に2塩基のダングリングエンドを持つRO RNA (RO 27A1/25B、RO 25A1/23B、RO 23A1/21B、RO 21A1/19B)のセンス鎖を脂質で修飾した2本鎖RNAにおいて同様にDicerによるプロセシングを検討した結果、RO 27A1C16/25B、RO 25A1C16/23B、RO 23A1C16/21Bの3種でDicer存在下において21siRNAと同位置に新たなバンドが確認され、Dicerによるプロセシングが行われていることが明らかとなった。特に、RO 27A1C16/25B及びRO 25A1C16/23BはDcierによる顕著なプロセシング効果が確認された。一方、比較的短いRO 21A1C16/19Bにおいては、Dicer存在下においても2本鎖RNAに変化が観測されず、Dicerによるプロセシングを受けていないことが示唆された。
【0069】
更に、センス鎖RNAの3’末端に4塩基のダングリングエンドを持つRO RNA(RO 27A1/23B、RO 25A1/21B)、6塩基のダングリングエンドを持つRO RNA (RO 27A1/21B)のセンス鎖RNAを脂質で修飾した2本鎖RNAについても同様にDicerによるプロセシングを検討した。その結果、上記のRO RNAにおいて全てDicerによるプロセシングを受け21nt siRNAと同位置に新たなバンドが確認された。
【0070】
そして更に、アンチセンス鎖RNAの5’末端にダングリングエンドを持つRO RNA(RO 25A1/27B、RO 23A1/25B、RO 23A1/27B)のセンス鎖を脂質で修飾した2本鎖RNAについても同様にDicerによるプロセシングを検討した。その結果、アンチセンス鎖の5’末端にダングリングエンドを持つ脂質修飾RO RNAは、その一部はDicerによるプロセシングを受け新たなバンドが確認されたが、同時にDicer非存在下時と同様の位置にバンドが確認され、Dicerによるプロセシング速度がDs RNAやその他のRO RNAに比べ遅いということが明らかとなった。
【0071】
4.脂質修飾2本鎖RNAのルシフェラーゼ遺伝子発現抑制
合成した未修飾2本鎖RNA及び脂質修飾2本鎖RNAのRNA干渉効果はウミシイタケルシフェラーゼをターゲットとして評価した。実験前に1x10
5cell/mlに調整したHeLa細胞(ヒト子宮頸ガン細胞、東北大学加齢医学研究所)を96wellプレート上にそれぞれ100μl撒き、37℃で一晩インキュベートした。翌日、ウェル上の古い培地を取り除き、抗生物質を含まない新しい培地をウェルにそれぞれ80 μl加え、ホタル及びウミシイタケルシフェラーゼを発現するベクター(psiCHECK
TM-2 Vector: プロメガ)とLipofectamine
TM 2000 (商品名、インビトロジェン)の複合溶液を10μlずつHeLa細胞が入ったそれぞれのウェルに加えた。ここで発現ベクターは1ウェルあたり0.02μgになるように、またLipofectamine
TM 2000は1ウェルあたり0.2μlになるよう設定し、OptiMem(インビトロジェン)で必要量を調整した。また、複合体を形成させる為に、発現ベクターとLipofectamine
TM 2000をOptiMemを用いて混合した後、室温で30分間インキュベートした。複合溶液を加えた後、細胞を5% CO
2 存在下、37℃で4時間インキュベートした。その後、ウミシイタケルシフェラーゼの遺伝配列と相同的なアンチセンス配列を含む未修飾の2本鎖RNA及び末端脂質修飾2本鎖RNA を最終濃度が0nM, 0.2nM, 0.5nM, 1nM, 2nM, 5nM, 10nMになるようLipofectamine
TM 2000 (インビトロジェン)と複合体を形成させ、10μlの複合体溶液を発現ベクターを導入したHeLa細胞に加えた。ここで、1ウェルあたりの最終量は100 μlとなる。RNAとLipofectamine
TM 2000の複合溶液は、1ウェルあたり5 μlのRNA水溶液と5 μlのLipofectamine
TM 2000 (0.2μl)及びOptiMemの溶液を混合し、30分間室温でインキュベートすることにより作成した。RNAを導入させた後、48時間インキュベートしDula-Glo
TM Luciferase Assay System(プロメガ)を用いてホタル及びウミシイタケルシフェラーゼの発現量をルミノメーター(MicroLumat LB96p: BERTHOLD)で測定し、ホタルルシフェラーゼの発現量をコントロールとしてウミシイタケルシフェラーゼの発現抑制効果を算出した。
【0072】
図5に未修飾2本鎖RNA及び脂質修飾2本鎖RNAの濃度が0.2 nMのときの遺伝子発現抑制効果を示す。その結果、DS RNAやRO RNAのようなセンス鎖RNAの5’末端側が平滑末端である2本鎖RNAに脂質を修飾することにより、脂質が修飾されていない同様の構造の2本鎖RNAに比べ飛躍的なRNA干渉効果の向上が観察された。また、その効果はRO RNAにおけるダングリングエンドの鎖長や位置に関係なく、センス鎖の5’末端を脂質修飾することにより修飾していない同じ構造をもつRO RNAに比べ高いRNA干渉効果が得られた。この結果より、DS RNAやRO RNAといったセンス鎖の5’末端側が平滑末端となっているRNA干渉分子のセンス鎖の5’末端に、脂質修飾を施すことにより飛躍的にRNA干渉効果が向上するという新たな知見が得られた。また、21nt siRNAのセンス鎖の5’末端に脂質を修飾したsi 21A2C16/21B及びsi 21A2C12/21Bについても、未修飾の21nt siRNAに比べ高いRNA干渉効果を奏することが確認された。
【0073】
5.ルシフェラーゼ遺伝子をターゲットとした脂質修飾2本鎖RNAのRNA干渉効果 (遺伝子導入剤なし)
次に、Lipofectamine
TM 2000等の遺伝子導入剤と使用せず、脂質修飾2本鎖RNA単独で細胞内に導入し、かつ、RNA干渉効果を示すか検討した。
【0074】
実験前に1x10
5cell/mlに調整したHeLa細胞(ヒト子宮頸ガン細胞、東北大学加齢医学研究所)を96wellプレート上にそれぞれ100μl撒き、37℃で一晩インキュベートした。翌日、ウェル上の古い培地を取り除き、抗生物質を含まない新しい培地をウェルにそれぞれ80μl加え、ホタル及びウミシイタケルシフェラーゼを発現するベクター(psiCHECK
TM-2Vector: プロメガ)とLipofectamine
TM 2000 (商品名、インビトロジェン)の複合溶液を10μlずつHeLa細胞が入ったそれぞれのウェルに加えた。ここで発現ベクターは1ウェルあたり0.02μgになるように、またLipofectamine
TM 2000は1ウェルあたり0.2μlになるよう設定し、OptiMem(インビトロジェン)で必要量を調整した。また、複合体を形成させる為に、発現ベクターとLipofectamine
TM 2000をOptiMemを用いて混合した後、室温で30分間インキュベートした。複合溶液を加えた後、細胞を5% CO
2 存在下、37℃で4時間インキュベートした。その後、Lipofectamine
TM 2000を培地から取り除く為、100 μlの培地でウェルをそれぞれ3回洗浄した。その後、90 μlの抗生物質を含む培地を細胞に加え、ウミシイタケルシフェラーゼの遺伝配列と相同的なアンチセンス配列を含む未修飾2本鎖RNA及び脂質修飾2本鎖RNA型を最終濃度が0nM, 25nM, 50nM, 100nM, 200nM, 400nM, 600n, 800nM, 1μMになるようにOptiMemで調整したサンプル10μlを細胞へ添加し、37℃で48時間インキュベートした。Dula-Glo
TMLuciferase Assay System(プロメガ)を用いてホタル及びウミシイタケルシフェラーゼの発現量をルミノメーター(MicroLumat LB96p: BERTHOLD)で測定した。また、比較として未修飾の21nt siRNA (si 21A2/21B)及び27nt dsRNA(Ds 27A1/27B)も上記と同様の条件でRNA干渉効果を検討した。
【0075】
RNA干渉効果はホタルルシフェラーゼの発現量をコントロールとしウミシイタケルシフェラーゼの発現量を算出した。終濃度が50nM 〜1μMのときのsi 21A2/21B、Ds 27A1/27B、Ds 27A1C16/27Bの結果を
図6Aに、終濃度が25nM 〜800nMのときのDs 23A1/23B、Ds 23A1C16/23Bの結果を
図6Bに示す。その結果、パルミチン酸をセンス鎖の5’末端に修飾したDs 27A1C16/27B 及びDs 23A1C16/23Bにおいて、2本鎖RNAの濃度依存的にウミシイタケルシフェラーゼ発現を抑制しており、パルミチン酸を修飾することにより単独でも細胞内へ導入し、RNA干渉反応を起こしていることが明らかとなった。一方、未修飾の2本鎖RNA(si 21A2/21B、Ds 27A1/27B、Ds 23A1/23B)は高濃度領域においても顕著な遺伝子発現抑制効果が確認されなかったことからも、パルミチン酸修飾2本鎖RNAが、細胞内導入能が格段に優れており、遺伝子導入剤を使用しなくても優れた遺伝子発現抑制能を発揮していることが確認された。
【0076】
6.脂質修飾2本鎖RNAの細胞導入性の検討
実験前に1x10
5 cell/mlに調整したHeLa細胞(ヒト子宮頸ガン細胞、東北大学加齢医学研究所)、A549細胞(ヒト肺ガン細胞、東北大学加齢医学研究所)、SH10-TC細胞(ヒト胃ガン細胞、東北大学加齢医学研究所)及び2x10
5cell/mlに調整したJurkat細胞(急性リンパ性白血病細胞、東北大学加齢医学研究所)、K-562細胞(慢性骨髄性白血病細胞)を24ウェルプレートにそれぞれ1ml撒き10 % ウシ胎児血清 (FBS:三光純薬株式会社製)及び抗生物質含む培地中、5 % CO
2存在下、37 ℃で培養した。ここで用いた抗生物質及び培地について、全ての細胞でストレプトマイシンを抗生物質として、またHeLa細胞はMEM培地(インビトロジェン社)を、その他の細胞はRPMI-1640(インビトロジェン社)を培地として用いた。蛍光ラベル化オリゴヌクレオチド導入前に、抗生物質を含まない培地(450μl)へ交換した。蛍光ラベル化オリゴヌクレオチドは、27ntアンチセンス鎖RNAの5’末端を6-FAMラベル化したものを使用し、未修飾の27nt センス鎖RNA及び5’末端を脂質で修飾した27ntセンス鎖RNAと2本鎖を形成させた。細胞導入実験は、蛍光ラベル化オリゴヌクレオチドとLipofectamine
TM 2000 (インビトロジェン社製)との複合体を形成させる為に、10μM の蛍光ラベル化オリゴヌクレオチド水溶液10μlとOptiMem溶液15μlの混合溶液25μlと、Lipofectamine
TM 2000 (インビトロジェン社製)溶液2μlとOptiMem溶液23μlの混合溶液25μlそれぞれ混ぜ合わせた50μlの混合溶液を室温で30分間インキュベートした。また、Lipofectamine
TM 2000 (インビトロジェン社製)を使用しない場合(
図7中のF;‐LF2000)は、上記複合体形成条件中の2μlのLipofectamine
TM 2000溶液をOptiMem溶液に代え、同様の操作でサンプルを調整した。調整した50μlの蛍光ラベル化オリゴヌクレオチド複合体は、上記で準備した450μlの細胞へ添加し(2本鎖RNAの終濃度:200 nM)、5 % CO
2存在下、37 ℃で4時間インキュベートした。その後、細胞をPBS(-)又は培地で3回洗浄し、共焦点蛍光レーザー顕微鏡、及びフローサイトメトリーにて細胞導入を評価した。
【0077】
共焦点蛍光レーザー顕微鏡による評価では、Radiance 2000システム(Bio Rad社)を用い、アルゴンレーザーを用いて蛍光を観察した。フローサイトメトリーは、coulter EPICS XL cytometer(Beckman coulter)を用い、細胞10000カウントあたりの細胞導入性について測定した。フローサイトメトリー解析はXL EXPO32
TM software (Beckman coulter) を用いた。
【0078】
結果を
図7-1〜7-3に示す。
図7-3中のF(-LF2000)はLipofectamine
TM 2000を使用しなかった場合の結果であり、
図7-1〜7-3中のA〜E(+LF2000)はLipofectamine
TM 2000を導入剤として使用した場合の結果である。また、
図7-1中のAはHeLa細胞、
図7-1中のBはA549細胞、
図7-2中のCはSH10-TC細胞、
図7-2中のDはK-562細胞、
図7-3中のEはJurkat細胞に対して、Lipofectamine
TM 2000を導入剤として用いたときの各種2本鎖RNAの細胞導入性の結果である。また、
図7-3中のFはHeLa細胞に対し市販の導入剤を使用しなかったときの各種2本鎖RNAの細胞導入性の結果である。その結果、Lipofectamine
TM 2000存在下において未修飾2本鎖RNA及び脂質修飾2本鎖RNAは、全ての細胞(HeLa細胞、A549細胞、SH10-TC細胞、Jurkat細胞、K-562細胞)への導入が確認された。特にパルミチン酸をセンス鎖の5’末端に修飾したDs 27A1C16/27Bは未修飾2本鎖RNA及びラウリン酸修飾2本鎖RNAに比べ、非常に高い細胞導入性が共焦点蛍光顕微鏡及びフローサイトメトリーにおいて観測された。また、このパルミチン酸修飾2本鎖RNAは細胞内において積極的に細胞質へ局在化していることが共焦点蛍光顕微鏡観察により示唆された。特に接着細胞(HeLa細胞、A549細胞、SH10-TC細胞)において、その導入性は顕著に表れた。また、Lipofectamine
TM 2000存在下においてもパルミチン酸修飾2本鎖RNAは未修飾2本鎖RNAに比べ高い細胞導入性がフローサイトメトリー解析により確認された。この結果より、2本鎖RNAのセンス鎖の5’末端にパルミチン酸等の脂質を共有結合させることにより飛躍的に細胞導入性を向上させ、且つ、細胞内において細胞質へ局在化させることが可能であるという知見が得られた。
【0079】
実施例2 5’脂質修飾2本鎖RNAによるVEGF遺伝子発現阻害効果
1.VEGF遺伝子をターゲットとした脂質修飾2本鎖RNAの合成
1−1.センス鎖RNA及びアンチセンス鎖RNAの配列
VEGF(vascular endothelial growth factor: 血管内皮成長因子)と相同配列を持ち、VEGFの遺伝子発現を抑制できる27及び21塩基長のセンス鎖RNAと27及び21塩基長のアンチセンス鎖RNAの2本鎖RNAをデザインした。これらの2本鎖RNAを用いて、以下の実験を行った。なお、27nt dsRNAは、ダングリングエンド(1本鎖領域)を持たない完全2本鎖RNA(センス鎖RNAの5’末端側及び3’末端側が共に平滑末端である2本鎖RNA)であり、21siRNAはセンス鎖RNA及びアンチセンス鎖RNAの双方の3’末端に2塩基のダングリングエンドを持つ2本鎖RNAである。使用した27nt dsRNA及び21siRNAの配列は、以下の通りである。
27nt dsRNA センス鎖 v27A:5’- CUUCCUACAGCACAACAAAUGUGAAUG -3’(配列番号10)
アンチセンス鎖 v27B:3’- GAAGGAUGUCGUGUUGUUUACACUUAC-5’(配列番号11)
21siRNA センス鎖 v21A:5’- UCCUACAGCACAACAAAUGUG-3’(配列番号12)
アンチセンス鎖 v21B:3’- GAAGGAUGUCGUGUUGUUUAC−5’(配列番号13)
1−2.VEGF遺伝子をターゲットとした脂質未修飾2本鎖RNAの合成
これら上記センス鎖RNA及びアンチセンス鎖を用いて、実施例1と同様の方法でアニーリングし2本鎖を形成させ、脂質未修飾2本鎖RNAを得た。2本鎖形成確認は実施例1の同様の方法で20% アクリルアミドゲル電気泳動で確認した。
【0080】
1−3.VEGF遺伝子をターゲットとした脂質修飾2本鎖RNAの合成
VEGF遺伝子の発現を抑制できる上記2本鎖RNAのセンス鎖の5’末端に脂質を結合させた脂質修飾2本鎖RNAを合成した。当該脂質修飾2本鎖RNAにおいて、脂質は上記センス鎖RNAの5’末端に修飾されたアミノアルキル基(Amino Modifier C6; Glen Research)を介して共有結合で結合している。脂質修飾1本鎖RNA(センス鎖)は、実施例1と同様の方法で合成した。
【0081】
以下にVEGF遺伝子をターゲットとした脂質修飾RNAの構造モデル及び収率を示す。
【0082】
【化5】
【0083】
合成した脂質修飾センス鎖RNAは、アンチセンス鎖RNAと2本鎖を形成させることにより、脂質修飾2本鎖RNAを得た。2本鎖の形成は、実施例1と同様の方法で行い、20% ポリアクリルアミドゲル電気泳動により確認した。脂質修飾2本鎖RNAの構造を
図8に示す。なお、VEGF遺伝子をターゲットとした脂質修飾RNAにおいても、実施例1とほぼ同様の溶出時間であった。
2.VEGF遺伝子をターゲットとした脂質修飾2本鎖RNAのDicerによるプロセシング
合成した脂質未修飾2本鎖RNA及び脂質修飾2本鎖RNAのリコンビナントDicerによるプロセシングを検討した。Dicerによる切断実験は、実施例1と同様の方法で行った。その結果を
図9に示す。
【0084】
その結果、Ds v27AC16/v27B及びDs v27AC12/v27BはリコンビナントDicerの働きにより、未修飾21 siRNAと同様の位置にバンドが確認され、Dicerの切断によって2塩基のダングリングエンドを含む21塩基長のsiRNAが生成していることが強く示唆された。この結果より、27nt dsRNAのセンス鎖の5’末端に脂質を結合させてもDicerによるプロセシングを妨げないことが確認された。一方、si v21AC16/v21B及びsi v21AC12/v21Bは、Dicer存在下でも、非存在下に比べバンドの変化が確認されず、Dicerにプロセシングを受けていないことが明らかとなった。
【0085】
3.脂質修飾2本鎖RNAのVEGF遺伝子発現抑制
末端を修飾していない21nt siRNA、末端を修飾していない27nt dsRNA、センス鎖RNAの5’末端を脂質修飾した27nt dsRNA(末端脂質修飾27nt dsRNA)及びセンス鎖RNAの5’末端を脂質修飾した21nt siRNA(末端脂質修飾21nt siRNA)のVEGF遺伝子発現阻害効果をHeLa細胞(ヒト子宮頸ガン細胞、東北大学加齢医学研究所)、A549細胞(ヒト肺ガン細胞、東北大学加齢医学研究所)、SH10-TC細胞(ヒト胃ガン細胞、東北大学加齢医学研究所)Jurkat細胞(急性リンパ性白血病細胞、東北大学加齢医学研究所)、及びK-562細胞(慢性骨髄性白血病細胞、東北大学加齢医学研究所)を用いて評価した。また、VEGF遺伝子と相同な遺伝子配列を持たない2本鎖RNA(27nt dsRNA(Random)、21nt siRNA(Random))及びそれらの2本鎖RNAのセンスの5‘末端に脂質を結合させた脂質修飾2本鎖RNAについても同様の評価を行った。
【0086】
実験は以下の操作で行った。実験前に1x10
5 cell/mlに調整したHeLa細胞、A549細胞及びSH10-TC細胞、また、2x10
5cell/mlに調整したJurkat細胞及びK-562細胞を24wellプレート上にそれぞれ500μl撒き、37℃で一晩インキュベートした。翌日、ウェル上の古い培地を取り除き、抗生物質を含まない新しい培地をウェルにそれぞれ450 μl加えた。ここで、HeLa細胞はMEM培地、その他の細胞はPRMI-1640培地を用いた。VEGFの遺伝配列と相同的なアンチセンス配列を含む未修飾又は脂質修飾2本鎖RNA(25μl)とLipofectamine
TM 2000 (インビトロジェン)溶液(25μl)との複合体を形成させ、50μlの2本鎖RNA溶液を450μlの上記細胞に加えた。ここで、1ウェルあたりの最終量は500 μlとなる。RNAとLipofectamine
TM 2000の複合溶液は、1ウェルあたり25 μlのRNA水溶液と25 μlのLipofectamine
TM 2000 (2μl) 及びOptiMemの溶液を混合し、30分間室温でインキュベートすることにより作成した。RNAを導入させた後、37℃で48時間、5%CO
2存在下インキュベートした。インキュベート後、細胞をPBS(-)で3回洗浄し、RNeasy Plus Mini Kit (キアゲン)で細胞中のTotal-RNAを抽出した。その後、VEGFのmRNA量を測定するためにRT-PCR反応を行った。RT-PCR反応用としてQiagen OneStep RT-PCR Kit (キアゲン)を用い行い、VEGF用PCRプライマーとして、5’-CCC TGA TGA GAT CGA GTA CAT CTT-3’(配列番号14)及び5’-ACC GCC TCG GCT TGT CAC-3’(配列番号15)を用いた。またコントロールとしてGAPDH遺伝子を同様の方法で測定した。GAPDH用プライマーとして5’-GGAAAGCTGTGGCGTGATG-3’(配列番号16)及び5’-CTGTTGCTGTAGCCGTATTC-3’(配列番号17)を用いた。RT-PCR反応は、50℃で30分間RT(Reverse Transcripratase)反応を行い、PCR反応として92℃で30秒間2本鎖解離反応、55℃で30秒間アニーリング反応、68℃で45秒間伸長反応を25回〜28回(使用する細胞により異なる)繰り返し行い、最後に68℃で10分間インキュベートし、4℃まで温度を下げ反応を終了した。RT-PCRに用いた試薬、Total-RNA、プライマー等はQiagen OneStep RT-PCR Kit (キアゲン)の反応条件に従い作成した。RT-PCR反応後、ローディングダイを2μl加え、2%アガロースゲルでVEGF及びGAPDHのmRNAからのRT-PCR産物を確認した。遺伝子発現抑制効果の評価は、コントロール細胞(2本鎖RNAを導入していない細胞)のVEGF遺伝子発現量を100%としたときの、2本鎖RNA(未修飾、修飾を含む)を導入した細胞のVEGF発現量を測定することにより行った。また、各細胞間の発現量の誤差はコントロール遺伝子(GAPDH)の遺伝子発現量で補正した。
【0087】
図10-1〜10-3に、VEGFをターゲットとし、2本鎖RNA濃度が200nMの際の未修飾2本鎖RNA及び脂質修飾2本鎖RNAのRNA干渉効果の結果を示す。
図10-1中のAはHeLa細胞、
図10-2中のBはA549細胞、
図10-2中のCはSH10-TC細胞、
図10-3中のDはJurkat細胞、
図10-3中のEはK-562細胞に対する未修飾2本鎖RNA及び脂質修飾2本鎖RNAのVEGF遺伝子発現抑制効果を示すグラフである。この結果から、27塩基長の2本鎖RNA(Ds v27A/v27B)のセンス鎖の5’末端に脂質を修飾したDs v27AC16/v27B及びDs v27AC12/v27B、及び21塩基長の2本鎖RNA(si v21A/v21B)のセンス鎖の5’末端に脂質を修飾したsi v21AC16/v21B及びsi v21AC12/v21Bは、未修飾の2本鎖RNA(si v21A/21B及びDs v27A/v27B)比べ非常に高いVEGF遺伝子発現抑制効果を保有していることが明らかとなった。特に、パルミチン酸を修飾したDs v27AC16/v27Bは全ての細胞(HeLa細胞、A549細胞、SH10-TC細胞、Jurkat細胞、K-562細胞)において未修飾の2本鎖RNA(si v21A/21B及びDs v27A/v27B)に比べ格段に高い遺伝子発現抑制能を示し、パルミチン酸等の脂質を2本鎖RNAに修飾することによりRNA干渉効果を飛躍的に向上させ得ることが確認された。また、VEGF遺伝子と相同配列を持たない未修飾2本鎖RNA及び脂質修飾2本鎖RNAについても同様に遺伝子発現抑制能を検討したが、その全てにおいて顕著なVEGF遺伝子発現抑制は確認されなかった。この結果より、今回使用したVEGFをターゲットとした2本鎖RNAは配列特異性高く標的遺伝子の発現を抑制していることが明らかとなり、また2本鎖RNAに脂質を結合させることによって細胞に対する副作用をも低減できることが示唆された。