特許第5887742号(P5887742)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5887742
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月16日
(54)【発明の名称】ダイヤモンド基板
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/04 20060101AFI20160303BHJP
   C30B 33/00 20060101ALI20160303BHJP
   C23C 16/27 20060101ALI20160303BHJP
   C23C 16/50 20060101ALI20160303BHJP
   C23C 16/01 20060101ALI20160303BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20160303BHJP
【FI】
   C30B29/04 P
   C30B33/00
   C23C16/27
   C23C16/50
   C23C16/01
   H01L21/205
【請求項の数】1
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-159584(P2011-159584)
(22)【出願日】2011年7月21日
(65)【公開番号】特開2013-23408(P2013-23408A)
(43)【公開日】2013年2月4日
【審査請求日】2014年7月11日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)独立行政法人科学技術振興機構、平成22年度、「研究成果最適展開支援事業フィージビリティスタディ,シーズ顕在化タイプ」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(73)【特許権者】
【識別番号】500036831
【氏名又は名称】アリオス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】徳田 規夫
(72)【発明者】
【氏名】猪熊 孝夫
(72)【発明者】
【氏名】有屋田 修
(72)【発明者】
【氏名】山崎 聡
【審査官】 田中 則充
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/013108(WO,A1)
【文献】 特開2010−251599(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00−35/00
C23C16/00−16/56
H01L21/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に2°以上(2°を除く)のオフ角を有し、結晶面{111}からなる母ダイヤモンド基板の上に直接、化学気相成長法(CVD)を用いてラテラル成長が発現する条件下でダイヤモンドを成長させて得るものであり、
前記ラテラル成長が発現する条件は、
水素ガスにて希釈された炭素源ガスの供給量は0.05〜10%であり、
前記CVDはプラズマCVDであり、
成長して得られた膜厚が20μm以上で、表面がクラック等の欠陥のないRMSの値で3.38nm未満の平坦面であることを特徴とするダイヤモンド基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はダイヤモンド基板の上にラテラル成長型のエピタキシャル成長により得るダイヤモンド基板に関する。
【背景技術】
【0002】
単結晶のダイヤモンド膜のエピタキシャル成長において、{100}結晶構造と{111}結晶構造を比較すると{100}結晶構造はモザイクやヘテロエピタキシャル成長方法とプラズマCVDの採用により大面積化、低コスト化の可能性が期待されているが、ドーピングによりP型半導体を得ることができてもN型を得るのが困難である。
一方、{111}結晶構造はP型とN型の両方が可能であるが、これまでにダイヤモンドの種結晶を用いた高温高圧合成法しかなく、装置に制限があり、大きなサイズの基板を得ることは難しい問題がある。
【0003】
{111}結晶構造は、非特許文献に記載されているとおり、エピタキシャル成長に伴いクラックが発生し、厚膜化できなかった。
また、デバイス特性において重要な膜表面の平坦性を確保することができなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Hydrogen incorporation control in high quality homoepitaxial diamond(111)growth,DIAMOND AND RELATED MATERIALS,(1999)Vol.8,p1291-1295
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はクラック等の欠陥がなく表面の平坦性に優れ、成長速度が速く低コスト化が可能な単結晶ダイヤモンド基板の製造方法及びそれにより得られる厚膜ダイヤモンド基板の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るダイヤモンド基板の製造方法は、表面に2°以上(2°を除く)のオフ角を有し、結晶{111}からなる母ダイヤモンド基板の上に直接、化学気相成長法(CVD)を用いてラテラル成長が発現する条件下でダイヤモンドを成長させて得るものであり、前記ラテラル成長が発現する条件は、水素ガスにて希釈された炭素源ガスの供給量は0.05〜10%であり、前記CVDはプラズマCVDであり、成長して得られた膜厚が20μm以上で、表面がクラック等の欠陥のないRMSの値で3.38nm未満の平坦面であることを特徴とする。
【0007】
本発明は合成ダイヤモンド等の結晶構造{111}母基板[結晶面が{111}からなる基板]の表面に2°以上のオフ角(傾斜面)を形成することで化学気相成長法(CVD:Chemical Vapor Deposition)においてラテラル成長を発現させたものである。
詳細は後述するが非特許文献1に示すように母ダイヤモンド基板にオフ角を有しないと、ゆっくりとした条件でしかも10〜20μm程度の薄膜でないと表面にクラックが発生してしまうのに対して本発明は2°以上の高オフ角の結晶構造{111}母ダイヤモンド基板を用いたのでエピタキシャル成長においてクラックの発生を抑えるとともに表面の平坦化を可能にした。
本発明においてオフ角は2〜10°(2°を除く)の範囲が好ましい。
【0008】
本発明にてCVDにおける炭素源ガスの供給濃度は0.001〜10%の範囲が好ましく、特に0.05%以上の比較的高濃度でもよく、さらに0.2〜10%あるいは1.0〜10%のような高濃度の条件でラテラル成長が可能であり、高速にて厚膜が得られる。
また、本発明にてCVDはマイクロ波を用いたプラズマCVDを採用することができる。
【0009】
本発明は2°以上の高オフ角の結晶構造{111}の母ダイヤモンド基板の上にCVDによりラテラル成長させたので厚さ50μm以上の厚膜成長を可能にしたので形成された厚膜をレーザー等にて母基板より分離させることで自立型の単結晶{111}成長ダイヤモンド基板を得ることができる。
また、CVDによる成膜をデバイス等に利用する場合に2°以上のオフ角を有する結晶構造{111}のダイヤモンド基板上にCVDを用いて膜厚20μm以上の厚膜を形成することもできる。
特に表面の平坦性が優れ、欠陥の少ない厚み50μm以上の厚膜を形成することもできる。
【発明の効果】
【0010】
本発明はエピタキシャル成長させるための{111}母ダイヤモンド基板に2°以上のオフ角を形成したので、表面にクラックを発生させることなく平坦性に優れた厚膜の高速なラテラル成長を実現でき、母ダイヤモンド基板から成長厚膜を切り離すことで自立型の単結晶ダイヤモンド基板を得ることができるとともに、母ダイヤモンド基板を繰り返し使用でき、また自立ダイヤモンド基板を母ダイヤモンド基板として使用できるので低コストである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】母ダイヤモンド基板のオフ角の違いによる形成膜の表面性状の光学顕微鏡を示す。(a)は低倍率写真、(b)は高倍率写真を示す。
図2】AFM像(原子間力顕微鏡像)を示し、(a)はオフ角2°,(b)はオフ角0.5°の場合を示す。
図3】形成膜の表面写真を示し、(a)は本発明に係る製造方法によるものを示し、(b)は従来の方法によるものを示す。
図4】{111}母ダイヤモンド基板の上に螺旋状転位を起点としたスパイラル成長による成長丘の写真を示し、(a)は1重螺旋転位の場合、(b)は2重螺旋転位の場合を示す。
図5】螺旋転位を起点としたスパイラル成長からラテラル成長を発現させるオフ角の推定式を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る{111}単結晶母ダイヤモンド基板を用いたエピタキシャル成長にはCVD(化学気相成長法)を用いることができ、特にマイクロ波を用いたプラズマCVDを用いるのが好ましい。
ラテラル成長条件としては圧力:10〜200Torr,基板温度:600〜1200℃,マイクロ波の出力100〜5,000Wの範囲が好ましい。
また、炭素源ガスとして水素で希釈したメタンガス、エタンガス、あるいはこれらと一酸化炭素、二酸化炭素、酸素、アルゴン、窒素の混合ガスを用いることができる。
例えば水素ガス中のメタンガスの濃度を0.001〜10%の範囲に設定することができ、好ましくは0.05〜10%、特に0.2〜10%の相対的に高濃度の条件にすると高速な膜成長になる。
本発明に係る{111}単結晶のダイヤモンド膜(成長ダイヤモンド基板)はドーピングによりp型あるいはn型の両方の半導体膜を得ることができる。
ドーピング原子としては、ホウ素、リンが代表例である。
【0013】
次に{111}母ダイヤモンド基板のオフ角を変化させてエピタキシャル成長による膜形成を比較調査した。
水素ガス流量200sccm,メタンガス流量0.5sccm,7kPa,150W,1020℃、20hの条件にてエピタキシャル成長させた膜の結果を図1〜3に示す。
図3(a)は母ダイヤモンド基板のオフ角が9°で図3(b)は従来のオフ角0°の場合の表面光学顕微鏡像を示す。
オフ角0°の従来の方法では、表面に多数のクラックが発生していたのに対して本発明に係るオフ角9°のものはクラックの発生がなく正常であった。
図1にオフ角の変化による表面の光学顕微鏡像を示し、オフ角1°,0.5°のものは表面に段差状のスパイラル成長が認められるのに対して、オフ角2°,4°のものはスパイラル成長が認められずに平坦であった。
図2にAFM像を示すように(a)のオフ角2°のものはRMS=0.06nmであったのに対して(b)のオフ角0.5°のものはRMS=3.38nmであった。
ここでRMSとは、表面荒れの大きさを示す値で計算式は特開2010−251599号に開示する式を用いることができる。
【0014】
次に、2.45GHzのマイクロ波プラズマCVD装置を用いてオフ角9°の{111}母ダイヤモンド基板,水素ガス399sccm,メタンガス1sccm,酸素ガス0.25sccm,1200W,基板温度900℃,成長時間100時間の成長を実施した。
その結果、厚さ約0.1mmの成長膜を得ることができ、レーザーカットにより自立型の{111}単結晶成長ダイヤモンド基板を得ることができた。
【0015】
次に、母ダイヤモンド基板のオフ角を2°以上に設定した理由を説明する。
{111}母ダイヤモンド基板にエッチング方法でメサ構造を形成し、螺旋転位を起点とした略三角形のスパイラル成長をさせたステップ成長の成長丘の写真を図4に示す。
ステップ−ステップ間隔Ws−sは(a)の1重螺旋転位で最小Ws−s≒9nm,(b)の2重螺旋転位で最小Ws−s≒6nmであった。
図5に模式図を示す。
ラテラル成長になるようにオフ角を制限するにはWt<Ws−s,Wt=0.206[nm]/tanθ の条件からWt<6nm,θ>1.97°となり、オフ角θが約2°以上であればラテラル成長に抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0016】
ダイヤモンド基板は、Si,GaAs,SiC,GaN等に比較して半導体特性に優れ、本発明に係る成長ダイヤモンド基板は高速で成長が可能で、クラックの発生もなく表面が平坦であるので、電子デバイス,光デバイス,ホワイトデバイス等広くの分野への展開が期待される。
図5
図1
図2
図3
図4