(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5887992
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月16日
(54)【発明の名称】排水中の銀の回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 11/00 20060101AFI20160303BHJP
B01D 21/01 20060101ALI20160303BHJP
C02F 1/56 20060101ALI20160303BHJP
C22B 3/24 20060101ALI20160303BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20160303BHJP
【FI】
C22B11/00 101
B01D21/01 107A
B01D21/01 107B
C02F1/56 K
C22B3/24 101
C22B7/00 Z
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-39669(P2012-39669)
(22)【出願日】2012年2月27日
(65)【公開番号】特開2013-173991(P2013-173991A)
(43)【公開日】2013年9月5日
【審査請求日】2015年1月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱レイヨン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097928
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 数彦
(72)【発明者】
【氏名】亀谷 幸範
(72)【発明者】
【氏名】清水 浩二
(72)【発明者】
【氏名】桑原 裕一
(72)【発明者】
【氏名】國分 信孝
【審査官】
國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−152527(JP,A)
【文献】
特開平02−159326(JP,A)
【文献】
特開平03−252656(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00−61/00
B01D 21/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀含有排水に、先ず以下に規定するカチオン性高分子凝集剤(A)を添加混合し、次いで以下に規定するアニオン性高分子凝集剤(B)を添加混合することにより、凝集物を生成させ、得られた凝集物を分離処理することを特徴とする排水中の銀の回収方法(但し、カチオン性高分子凝集剤(A)を添加混合する前に、フェノール類とアルデヒド類の縮重合物のアルカリ水溶液を添加し、混合した後、当該排水系内をpH8.3以下に調整する方法を除く)。
[カチオン性高分子凝集剤(A)]
ジメチルアミノエチルメタクリレート4級塩を構造単位とするホモポリマー、ジメチルアミノエチルメタクリレート4級塩、ジメチルアミノエチルアクリレート4級塩、アクリルアミドを構造単位とするコポリマー、またはジメチルアミノエチルアクリレート4級塩とアクリルアミドを構造単位とするコポリマー。[アニオン性高分子凝集剤(B)]
アクリル酸(塩)とアクリルアミドを構造単位とするコポリマー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水中の銀の回収方法に関し、詳しくは、高分子凝集剤を使用する排水中の銀の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
排水中の銀の回収方法として、排水に2価の銅イオン(無機化合物)及び亜硫酸塩などの還元剤を存在させ、難溶性の塩を沈殿生成させて分離回収する方法が知られている(特許文献1)。しかし、この方法では銀の回収が不十分であるため処理水中に銀がまだ多く存在する。更に、無機化合物を添加しているため、銀イオンが無機塩を形成し、回収した銀をリサイクルできない問題点もある。一方、高分子凝集剤を利用する方法も提案されている(特許文献2)。しかし、この方法でも銀の回収が十分とは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭63−121625号公報
【特許文献2】特開平7−975号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、銀を効率的に回収することができるように改良された排水中の銀の回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意検討した結果、銀含有排水に凝集剤を特定の態様で添加することにより、銀の回収率を高めることが出来るとの知見を得た。
【0006】
本発明は、上記の知見を基に完成されたものであり、その要旨は、銀含有排水に、先ず
以下に規定するカチオン性高分子凝集剤(A)を添加混合し、次いで
以下に規定するアニオン性高分子凝集剤(B)を添加混合することにより、凝集物を生成させ、得られた凝集物を分離処理することを特徴とする排水中の銀の回収方法
(但し、カチオン性高分子凝集剤(A)を添加混合する前に、フェノール類とアルデヒド類の縮重合物のアルカリ水溶液を添加し、混合した後、当該排水系内をpH8.3以下に調整する方法を除く)に存する。
[カチオン性高分子凝集剤(A)]
ジメチルアミノエチルメタクリレート4級塩を構造単位とするホモポリマー、ジメチルアミノエチルメタクリレート4級塩、ジメチルアミノエチルアクリレート4級塩、アクリルアミドを構造単位とするコポリマー、またはジメチルアミノエチルアクリレート4級塩とアクリルアミドを構造単位とするコポリマー。[アニオン性高分子凝集剤(B)]
アクリル酸(塩)とアクリルアミドを構造単位とするコポリマー。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る銀の回収方法によれば、得られた凝集物の粒径が大きく且つ強度が強く、更に、銀の質量が大きいため、凝集物の沈降性が良好であり、その結果、処理水の濁度を低減し、処理水から銀を効率的に回収することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
先ず、本発明で対象となる銀含有排水について説明する。銀含有排水としては、写真製造工程から排出される排水、写真現像工程から排出される現像排水、メッキ工程から排出されるメッキ排水、例えばプラズマディスプレイ製造工程などの銀メッキを伴うプロセスから排出されるメッキ排水、貴金属精練工程から排出される精練排水などが挙げられる。
【0010】
次に、本発明で使用する凝集剤について説明する。本発明の特徴は、カチオン性高分子凝集剤とアニオン性高分子凝集剤とを特定の態様で添加する点にあり、凝集剤の種類は必ずしも限定されず、従来公知の凝集剤の中から適宜選択し得るが、特に以下の凝集剤が推奨される。
【0011】
カチオン性高分子凝集剤(A):
下記一般式(1)で表されるカチオン性単量体を構造単位として含む重合体、または当該カチオン性単量体と下記一般式(2)で表されるノニオン性単量体を構造単位として含む重合体。
【0012】
アニオン性高分子凝集剤(B):
下記一般式(3)で表されるアニオン性単量体を構造単位として含む重合体、または当該アニオン性単量体と下記一般式(2)で表されるノニオン性単量体を構造単位として含む重合体。
【0014】
[式(1)中、Xは酸素原子またはNHを示し、Yは炭素数1〜10の直鎖状または分岐状のアルキレン基を示し、R
1は水素原子またはメチル基を示し、R
2およびR
3は各々同一または異なって、水素原子、炭素数1〜12の直鎖状または分岐状のアルキル基、シクロアルキル基、フェニル基、置換フェニル基、またはベンジル基を示し、R
4は水素原子または炭素数1〜12の直鎖状または分岐状のアルキレン基を示し、Z
−はアニオン基を示す。式(2)中、R
5は水素原子またはメチル基を示す。式(3)中、R
6は水素原子またはメチル基を示し、Aは水素原子またはカチオン基を示す。]
【0015】
一般式(1)で表されるカチオン性単量体の代表例としては、ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレート系カチオン性単量体などが挙げられ、具体的には、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート及びジエチルアミノ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等のジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートの塩酸塩や硫酸塩などの3級塩;ジアルキルアミノアルキル(メタ)アクリレートの塩化メチル付加物などのハロゲン化アルキル付加物や塩化ベンジル等のハロゲン化アリール付加物などの4級塩などが挙げられる。また、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等のジアルキルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等の塩酸塩や硫酸塩などの3級塩;ジアルキルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドの塩化メチル付加物などのハロゲン化アルキル付加物や塩化ベンジル付加物などのハロゲン化アリール付加物などの4級塩も挙げられる。これらの中では、ジメチルアミノエチルメタクリレート4級塩が好ましい。
【0016】
一般式(2)で表されるノニオン性単量体としては、アクリルアミドまたはメタクリルアミドが挙げられるが、特に、アクリルアミドが好ましい。
【0017】
カチオン性高分子凝集剤(A)がカチオン性単量体とノニオン性単量体とを構造単位として含む重合体である場合、両者の重比率は、通常、カチオン性単量体/ノニオン性単量体=70/30〜100/0であり、好ましくは90/10〜100/0である。
【0018】
アニオン性高分子凝集剤(B)は、前記一般式(3)で表されるアニオン性単量体を構造単位として含む重合体、または当該アニオン性単量体と前記一般式(2)で表されるノニオン性単量体を構造単位として含む重合体である。
【0019】
一般式(3)で表されるアニオン性単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、これらの塩が挙げられるが、特に、アクリル酸および/またはその塩が好ましい。
【0020】
アニオン性高分子凝集剤(B)がアニオン性単量体とノニオン性単量体を構造単位として含む重合体である場合、両者の重比率は、通常、アニオン性単量体/ノニオン性単量体=10/90〜70/30であり、好ましくは50/50〜60/40である。
【0021】
カチオン性高分子凝集剤(A)及びアニオン性高分子凝集剤(B)は、何れも、実質的に公知の重合体であり、従って、公知の重合法で容易に得ることが出来る。カチオン性高分子凝集剤(A)の重量平均分子量は、通常50万〜1000万、好ましくは100万〜800万、より好ましくは100万〜200万である。アニオン性高分子凝集剤(B)の重量平均分子量は、通常500万〜2000万、好ましくは800万〜1600万である。
【0022】
本発明においては、銀含有排水に凝集剤を添加するに際し、先ずカチオン性高分子凝集剤(A)を添加混合し、次いでアニオン性高分子凝集剤(B)を添加混合することが重要である。
【0023】
上記の多段添加の方法としては、複数槽設置し、各凝集剤をそれぞれ別々の槽に添加して機械攪拌する方法、同一の槽に添加位置をずらして添加して機械攪拌する方法、排水ラインに添加してライン混合する場合は位置をずらして添加する方法などが考えられる。
【0024】
凝集剤の添加量は、銀含有排水の種類により変動するが、カチオン性高分子凝集剤(A)の添加量は、通常1〜100ppm、好ましくは20〜60ppm、アニオン性高分子凝集剤(B)の添加量は、通常0.1〜10ppm、好ましくは2〜8ppmである。また、多段添加の際の間隔(攪拌混合時間)は例えば30秒〜10分程度である。生成した凝集の分離処理は、常法に従って、浮上処理、沈殿処理、ろ過処理の等の方法で行うことが出来る。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例および比較例によって更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の諸例において採用した各測定方法は次の通りである。
【0026】
(1)フロック径:
凝集フロックのフロック径は、目視により全体の平均を測定した。
【0027】
(2)沈降時間:
高分子凝集剤の所定量を添加し、所定時間攪拌混合した後に攪拌を停止する。そして、生成した凝集フロックが500mlのビーカーの底に沈降する迄の時間を測定した。
【0028】
(3)上澄液濁度(SS):
濁度は、JIS K 0101に基づき測定した。上澄液濁度(SS)が低い程、銀の回収率が高いことを意味する。
【0029】
なお、SSは、フロック粒径、沈降時間を測定した後、2分間静置し、表面から3cmの深さより処理水を採取して測定した。
【0030】
実施例1:
銀含有排水として、プラズマディスプレイ製造工程から排出されるメッキ排水(Agイオン濃度78ppm、pH10.7)を使用した。カチオン性高分子凝集剤(A)及びアニオン性高分子凝集剤(B)として、表1に記載のものを使用した。
【0031】
【表1】
【0032】
先ず、ビーカーに銀含有排水500mlを採取し、カチオン性高分子凝集剤(A)40ppmを添加し、150rpmの回転数で1分間攪拌、混合した。次いで、アニオン性高分子凝集剤(B)4ppmを添加し、上記と同様に攪拌、混合した。そして、前記の各項目(1)〜(3)測定し、その結果を表2に示す。
【0033】
実施例2〜12及び比較例1〜5:
実施例1において、第1段目と第2段目の凝集剤の種類を表2に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様に行った。結果を表2に示す。
【0034】
【表2】