(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1の製造方法で得られたアルカリ金属含有無機塩を含む水溶液を、前記工程2で添加したポリハロ芳香族化合物の融点以下に冷却して、析出した固形分を分離、除去するアルカリ金属含有無機塩を含む水溶液の製造方法。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド樹脂に代表されるポリアリーレンスルフィド樹脂(PAS樹脂)は、耐熱性、耐薬品性等に優れ、電気電子部品、自動車部品、給湯機部品、繊維、フィルム用途等に幅広く利用されている。特に、リチウムイオン電池用パッキンやガスケット部材といった用途では、近年、特に高分子量ポリアリーレンスルフィド樹脂が、靭性および成形性に優れることから広く用いられている。
【0003】
ポリアリーレンスルフィド樹脂は、N−メチル−2−ピロリドン(以下、NMPと略すことがある)などの有機極性溶媒中で、スルフィド化剤と、ポリハロ芳香族化合物とを重合反応させる方法等により得られるが、目的物質のポリアリーレンスルフィド樹脂と共に、溶媒、塩化ナトリウムなどのアルカリ金属含有無機塩や下記一般式(1)
【0004】
【化1】
(式中、nは0〜2であり、Y
1はハロゲン原子を、Y
2は水素原子又はハロゲン原子を、R
1は水素原子又は炭素原子数1〜3のアルキル基又はシクロヘキシル基を表し、R
2は炭素原子数3〜5のアルキレン基を、Xは水素原子又はアルカリ金属原子を表す。)で表されるカルボキシアルキルアミノ基含有化合物などの有機塩といった副生成物を含有する粗反応生成物が得られる。重合反応後の粗反応生成物は適当な容器に取り出され、粗反応生成物中の溶媒は溶媒乾燥装置、濾過器、遠心分離器等の適当な固液分離装置を用いて脱溶媒処理により分離回収される(本操作を脱溶媒という)。
【0005】
さらに、脱溶媒処理後に得られる反応生成物は目的物質のポリアリーレンスルフィド樹脂と共に、前記アルカリ金属含有無機塩や前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物などの有機塩といった副生成物を含有するため、水洗と濾過が繰り返され、これら副生成物が除去される。一般には、100℃未満で行う水洗方法と、100℃以上の高温高圧下で行う熱水洗とがある。水洗又は熱水洗後に得られるポリアリーレンスルフィドは濾過器、遠心濾過器等で分離され、その後乾燥され、必要に応じて熱処理し架橋反応を行い製品とする。
【0006】
一方、水洗または熱水洗後に得られる廃水は、これまで産業廃棄物として処理されており有効活用されてこなかった。しかしながら、これら廃水中に含まれるカルボキシアルキルアミノ基含有化合物などの有機塩がCOD負荷原因となることから、環境負荷低減のために、COD物質を低減することが求められていた。
【0007】
しかしながら、該廃水中には塩化ナトリウムなどのアルカリ金属含有無機塩も同時に含まれており、アルカリ金属含有無機塩と前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物との分離が困難であった。
【0008】
廃水中のCOD物質を低減する処理方法としては、たとえば、廃水に、酸性凝集剤を加えてpH調整し、COD物質を不溶化させ、不溶化させたCOD物質を分離することを特徴とする廃水処理方法などが知られている(特許文献1参照)。しかしながら、この方法は、精製工程の廃水が導入され、混合機能を有し、且つpH指示調節計を備えておりpH調製と凝集処理が可能な凝集反応槽と、前記凝集反応槽より導入された不溶化したCOD物質を分離する連続式遠心分離装置を用いて分離する方法であるため、分離したCOD物質の含水率が高く嵩高くなるため取り扱いが煩雑となり、しかも分離したCOD物質が産業廃棄物となるため、好ましいものとは言えなかった。
【0009】
一方、本発明者らは、下記構造式(1)
【0010】
【化2】
(式中、nは0〜2であり、Y
1はハロゲン原子を、Y
2は水素原子又はハロゲン原子を、R
1は水素原子又は炭素原子数1〜3のアルキル基又はシクロヘキシル基を表し、R
2は炭素原子数3〜5のアルキレン基を、Xは水素原子又はアルカリ金属原子を表す。)で表されるカルボキシアルキルアミノ基含有化合物が、線状高分子量PAS樹脂の熱酸化架橋剤として作用するだけでなく、かつ、溶融時の増粘を抑えて樹脂の溶融安定性を向上させるとともに、成形固化時の結晶化速度の速い架橋型ポリアリーレンスルフィド樹脂およびその製造方法を提供できることを明らかにした(特願2012−020846号)。このため、前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を高純度で製造する方法が求められていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで本発明が解決しようとする課題は、アルカリ金属含有無機塩およびカルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液から、アルカリ金属含有無機塩を含む水溶液と前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物とを効率よく分離し、アルカリ金属含有無機塩を含む水溶液として、または前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物として、それぞれを得る方法、特に、ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造工程で精製後の廃水として得られるアルカリ金属含有無機塩およびカルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液から、アルカリ金属含有無機塩を含む水溶液と前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物とを効率よく分離し、アルカリ金属含有無機塩を含む水溶液として、または前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物として、それぞれを得る方法、を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明者らは種々の検討を行った結果、アルカリ金属含有無機塩およびカルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液を酸性処理することでカルボキシアルキルアミノ基含有化合物の末端をカルボン酸に変性した後、ポリハロ芳香族化合物を加えることで、アルカリ金属含有無機塩を含む水溶液からカルボキシアルキルアミノ基含有化合物を分離することが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、アルカリ金属含有無機塩および下記一般式(1)
【0014】
【化3】
(式中、nは0〜2であり、Y
1はハロゲン原子を、Y
2は水素原子又はハロゲン原子を、R
1は水素原子又は炭素原子数1〜3のアルキル基又はシクロヘキシル基を表し、R
2は炭素原子数3〜5のアルキレン基を、Xは水素原子又はアルカリ金属原子を表す。)で表されるカルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液から、アルカリ金属含有無機塩を含む水溶液と前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物とを分離して、前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を製造する方法であって、
(1)前記水溶液をpH6.0以下に調整する工程1、
(2)前記水溶液にポリハロ芳香族化合物を加えて、前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物およびポリハロ芳香族化合物を含む有機相と、アルカリ金属含有無機塩を含む水相に分離する工程2、
(3)分離したカルボキシアルキルアミノ基含有化合物およびポリハロ芳香族化合物を含む有機相を除去して、アルカリ金属含有無機塩を含む水溶液を回収する工程3、
を有することを特徴とするアルカリ金属含有無機塩を含む水溶液の製造方法に関する。
【0015】
また、本発明はアルカリ金属含有無機塩および下記一般式(1)
【0016】
【化4】
(式中、nは0〜2であり、Y
1はハロゲン原子を、Y
2は水素原子又はハロゲン原子を、R
1は水素原子又は炭素原子数1〜3のアルキル基又はシクロヘキシル基を表し、R
2は炭素原子数3〜5のアルキレン基を、Xは水素原子又はアルカリ金属原子を表す。)で表されるカルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液から、アルカリ金属含有無機塩を含む水溶液と前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物とを分離して、前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を製造する方法であって、
(1)前記水溶液をpH6.0以下に調整する工程1、
(2)前記水溶液にポリハロ芳香族化合物を加えて、前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物およびポリハロ芳香族化合物を含む有機相と、アルカリ金属含有無機塩を含む水相に分離する工程2、
(4)分離したアルカリ金属含有無機塩を含む水相を除去して、前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物およびポリハロ芳香族化合物を含む有機相を回収する工程4、を有することを特徴とするカルボキシアルキルアミノ基含有化合物およびポリハロ芳香族化合物を含む組成物の製造方法に関する。
【0017】
さらに、本発明は前記記載の製造方法で得られたカルボキシアルキルアミノ基含有化合物およびポリハロ芳香族化合物を含む組成物に、さらに、アルカリ性水溶液を加えて、前記ポリハロ芳香族化合物と、下記一般式(2)
【0018】
【化5】
(式中、nは0〜2であり、Y
1はハロゲン原子を、Y
2は水素原子又はハロゲン原子を、R
1は水素原子又は炭素原子数1〜3のアルキル基又はシクロヘキシル基を表し、R
2は炭素原子数3〜5のアルキレン基を、X’はアルカリ金属原子を表す。)で表されるカルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液と、に分離する工程5、続いて、
(6)分離したポリハロ芳香族化合物を除去して、該カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液を回収する工程6、を有するカルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液の製造方法に関する。
【0019】
そしてさらに、本発明は前記記載の製造方法で得られたカルボキシアルキルアミノ基含有化合物およびポリハロ芳香族化合物を含む組成物に、さらに、アルカリ性水溶液を加えて、前記ポリハロ芳香族化合物と下記一般式(2)
【0020】
【化6】
(式中、nは0〜2であり、Y
1はハロゲン原子を、Y
2は水素原子又はハロゲン原子を、R
1は水素原子又は炭素原子数1〜3のアルキル基又はシクロヘキシル基を表し、R
2は炭素原子数3〜5のアルキレン基を、X’はアルカリ金属原子を表す。)で表されるカルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液とに分離する工程5、続いて、
(7)分離した該カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液を除去して、ポリハロ芳香族化合物を回収する工程7、を有し、工程7で得られたポリハロ芳香族化合物を工程2で使用することを特徴とするアルカリ金属含有無機塩を含む水溶液またはカルボキシアルキルアミノ基含有化合物およびポリハロ芳香族化合物を含む組成物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、アルカリ金属含有無機塩およびカルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液から、アルカリ金属含有無機塩を含む水溶液と前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物とを効率よく分離し、アルカリ金属含有無機塩を含む水溶液として、または前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物として、それぞれを得る方法、特に、ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造工程で精製後の廃水として得られるアルカリ金属含有無機塩およびカルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液から、アルカリ金属含有無機塩を含む水溶液と前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物とを効率よく分離し、アルカリ金属含有無機塩を含む水溶液として、または前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物として、それぞれを得る方法、を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(工程1)
本発明は、アルカリ金属含有無機塩および下記一般式(1)
【0023】
【化7】
(式中、nは0〜2であり、Y
1はハロゲン原子を、Y
2は水素原子又はハロゲン原子を、R
1は水素原子又は炭素原子数1〜3のアルキル基又はシクロヘキシル基を表し、R
2は炭素原子数3〜5のアルキレン基を、Xは水素原子又はアルカリ金属原子を表す。)で表されるカルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液をpH6.0以下に調整する工程1を有する。
【0024】
ここで、アルカリ金属含有無機塩および前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液の調製は、少なくとも、アルカリ金属含有無機塩および前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液であって、水溶液中にアルカリ金属含有無機塩を0.1〜26質量%の範囲および前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を0.01〜5質量%の範囲で含有するよう行い、かつ、実質的にポリアリーレンスルフィド樹脂を含まないよう行う。アルカリ金属含有無機塩および前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液の調整方法は、上記組成を調製できればいかなる方法でも問題ないが、アルカリ金属含有無機塩および前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水にアルカリを加えてpH10.0〜13.0に調整し、40〜90℃の範囲に加熱して溶解させればよい。また、ポリアリーレンスルフィド樹脂重合の精製工程で得られる、アルカリ金属含有無機塩および前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液を用いることもできる。ただし、アルカリ金属含有無機塩および前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液が実質的にポリアリーレンスルフィド樹脂を含有しないとは、基本的には検出限界以下であることを指すものとするが、下記ポリアリーレンスルフィド樹脂の精製工程で調整される場合には、精製処理の方法やその度合いに応じて極微量のポリアリーレンスルフィド樹脂が含有される場合があり、その濃度は、該水溶液中のポリアリーレンスルフィド樹脂濃度1ppm以下、多い場合でも5ppm以下である。
【0025】
アルカリ金属含有無機塩および前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液をポリアリーレンスルフィド樹脂重合の精製工程で得る方法としては、有機極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させてポリアリーレンスルフィド樹脂とアルカリ金属含有無機塩と前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物と前記有機極性溶媒を含む粗反応混合物を得(重合工程)、その後、粗反応混合物から前記有機極性溶媒を固液分離させてポリアリーレンスルフィド樹脂とアルカリ金属含有無機塩と前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む反応混合物を得(固液分離工程)、その後、該反応混合物を水と接触させてポリアリーレンスルフィド樹脂を濾別する工程(精製工程)を経て、アルカリ金属含有無機塩および前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液を得る方法を挙げることができる。
【0026】
ここで、ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合工程で用いられるポリハロ芳香族化合物としては、例えば、芳香族環に直接結合した2個以上のハロゲン原子を有するハロゲン化芳香族化合物であり、具体的には、p−ジクロルベンゼン、o−ジクロルベンゼン、m−ジクロルベンゼン、トリクロルベンゼン、テトラクロルベンゼン、ジブロムベンゼン、ジヨードベンゼン、トリブロムベンゼン、ジブロムナフタレン、トリヨードベンゼン、ジクロルジフェニルベンゼン、ジブロムジフェニルベンゼン、ジクロルベンゾフェノン、ジブロムベンゾフェノン、ジクロルジフェニルエーテル、ジブロムジフェニルエーテル、ジクロルジフェニルスルフィド、ジブロムジフェニルスルフィド、ジクロルビフェニル、ジブロムビフェニル等のジハロ芳香族化合物及びこれらの混合物が挙げられ、これらの化合物をブロック共重合してもよい。これらの中でも好ましいのはジハロゲン化ベンゼン類であり、特に好ましいのはp−ジクロルベンゼンを80モル%以上含むものである。
【0027】
また、枝分かれ構造とすることによってポリアリーレンスルフィド樹脂の粘度増大を図る目的で、1分子中に3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族化合物を分岐剤として所望に応じて用いてもよい。このようなポリハロ芳香族化合物としては、例えば、1,2,4−トリクロルベンゼン、1,3,5−トリクロルベンゼン、1,4,6−トリクロルナフタレン等が挙げられる。
【0028】
更に、アミノ基、チオール基、ヒドロキシル基等の活性水素を持つ官能基を有するポリハロ芳香族化合物を挙げることが出来、具体的には、2,6−ジクロルアニリン、2,5−ジクロルアニリン、2,4−ジクロルアニリン、2,3−ジクロルアニリン等のジハロアニリン類;2,3,4−トリクロルアニリン、2,3,5−トリクロルアニリン、2,4,6−トリクロルアニリン、3,4,5−トリクロルアニリン等のトリハロアニリン類;2,2’−ジアミノ−4,4’−ジクロルジフェニルエーテル、2,4’−ジアミノ−2’,4−ジクロルジフェニルエーテル等のジハロアミノジフェニルエーテル類およびこれらの混合物においてアミノ基がチオール基やヒドロキシル基に置き換えられた化合物などが例示される。
【0029】
また、これらの活性水素含有ポリハロ芳香族化合物中の芳香族環を形成する炭素原子に結合した水素原子が他の不活性基、例えばアルキル基などの炭化水素基に置換している活性水素含有ポリハロ芳香族化合物も使用できる。
【0030】
これらの各種活性水素含有ポリハロ芳香族化合物の中でも、好ましいのは活性水素含有ジハロ芳香族化合物であり、特に好ましいのはジクロルアニリンである。
【0031】
ニトロ基を有するポリハロ芳香族化合物としては、例えば、2,4−ジニトロクロルベンゼン、2,5−ジクロルニトロベンゼン等のモノまたはジハロニトロベンゼン類;2−ニトロ−4,4’−ジクロルジフェニルエーテル等のジハロニトロジフェニルエーテル類;3,3’−ジニトロ−4,4’−ジクロルジフェニルスルホン等のジハロニトロジフェニルスルホン類;2,5−ジクロル−3−ニトロピリジン、2−クロル−3,5−ジニトロピリジン等のモノまたはジハロニトロピリジン類;あるいは各種ジハロニトロナフタレン類などが挙げられる。
【0032】
また、ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合工程で用いられるアルカリ金属硫化物としては、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム及びこれらの混合物が含まれる。かかるアルカリ金属硫化物は、水和物あるいは水性混合物あるいは無水物として使用することができる。また、アルカリ金属硫化物はアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物との反応によっても導くことができる。尚、通常、アルカリ金属硫化物中に微量存在するアルカリ金属水硫化物、チオ硫酸アルカリ金属と反応させるために、少量のアルカリ金属水酸化物を加えても差し支えない。
【0033】
また、ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合工程で用いられるアルカリ金属水硫化物としては、水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウム及びこれらの混合物が含まれる。かかるアルカリ金属水硫化物は、水和物あるいは水性混合物あるいは無水物として使用することができる。
【0034】
また、ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合工程で用いられるアルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等が挙げられるが、これらはそれぞれ単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いても良い。これらの中でも、入手が容易なことから水酸化リチウムと水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましく、特に水酸化ナトリウムが好ましい。
【0035】
また、ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合工程で用いられる有機極性溶媒としては、ホルムアミド、アセトアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、N−メチル−ε−カプロラクタム、ε−カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、N−ジメチルプロピレン尿素、1,3−ジメチル−2−イミダゾ
リノンなどのアミド、尿素及びラクタム類;スルホラン、ジメチルスルホラン等のスルホラン類;ベンゾニトリル等のニトリル類;メチルフェニルケトン等のケトン類及びこれらの混合物を挙げることができ、これらの中でもN−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、N−メチル−ε−カプロラクタム、ε−カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、N−ジメチルプロピレン尿素、1,3−ジメチル−2−イミダゾ
リノンの脂肪族系環状構造を有するアミドが好ましい。
【0036】
ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合反応は、これらの有機極性溶媒の存在下、スルフィド化剤として上記アルカリ金属硫化物と、ポリハロ芳香族化合物とを反応させる。または、ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合反応は、これらの有機極性溶媒の存在下、スルフィド化剤として上記アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と、ポリハロ芳香族化合物とを反応させる。重合条件は一般に、温度200〜330℃の範囲であり、圧力は重合溶媒及び重合モノマーであるポリハロ芳香族化合物を実質的に液相に保持するような範囲であるべきであり、一般には0.1〜20MPaの範囲、好ましくは0.1〜2MPaの範囲より選択される。ポリハロ芳香族化合物の配合量は、前記スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して、0.2モル〜5.0モルの範囲が挙げられる。
【0037】
上記した有機極性溶媒の存在下、スルフィド化剤とポリハロ芳香族化合物とを重合させる具体的態様としては、例えば、
1)アルカリ金属カルボン酸塩またはハロゲン化リチウム等の重合助剤を使用する方法、
2)芳香族ポリハロゲン化合物等の架橋剤を使用する方法、
3)少量の水の存在下に重合反応を行い次いで水を追加してさらに重合する方法、
4)アルカリ金属硫化物と芳香族ジハロゲン化合物との反応中に、反応釜の気相部分を冷却して反応釜内の気相の一部を凝縮させ液相に還流させる方法、などが挙げられる。
5)ポリハロ芳香族化合物の存在下、アルカリ金属硫化物、又は、含水アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と、脂肪族環状構造を有するアミド、尿素またはラクタムとを、脱水させながら反応させて固形のアルカリ金属硫化物を含むスラリーを製造する工程、該スラリーを製造した後、更にNMPなどの極性有機溶媒を加え、水を留去して脱水を行う工程、次いで、脱水工程を経て得られたスラリー中で、ポリハロ芳香族化合物と、アルカリ金属水硫化物と、前記脂肪族環状構造を有するアミド、尿素またはラクタムの加水分解物のアルカリ金属塩とを、NMPなどの極性有機溶媒1モルに対して反応系内に現存する水分量が0.02モル以下で反応させて重合を行う工程を必須の製造工程として有するポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法が挙げられる。
【0038】
このうち1)〜4)の重合方法でポリアリーレンスルフィド樹脂を製造すると、副生成物の生成がより多くなるため、精製後の廃水中に含まれるCOD値も高い傾向にある。このため、特に1)〜4)の重合方法でポリアリーレンスルフィド樹脂を製造する場合に、本発明の方法により、廃水中のCOD原因物質であるカルボキシアルキルアミノ基含有化合物を低減することが好ましい。
【0039】
なお、ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造時に、ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造原料として、例えば、有機極性溶媒がN−メチル−2−ピロリドン、ポリハロ芳香族化合物がp−ジクロロベンゼンである場合には前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物として、下記一般式(3)
【0040】
【化8】
(式中、Xはアルカリ金属原子または水素原子を表す。)で表されるものが得られる(この化合物を“CP−MABA”と略記する)。
【0041】
ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合終了後に、ポリアリーレンスルフィド樹脂とアルカリ金属含有無機塩と前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物と前記有機極性溶媒を含む粗反応混合物を得ることができる。次に、得られた粗反応混合物から有機極性溶媒を固液分離させて、ポリアリーレンスルフィド樹脂およびアルカリ金属含有無機塩と前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む反応混合物を得る。該固液分離には大きく分けて、後述するフラッシュ法とクウェンチ法の2種類がある。フラッシュ法は、溶媒を蒸発させて溶媒回収し、同時に固形物を回収する方法であり、一般的に、減圧下に加熱して溶媒を留去することにより行われる。
【0042】
一方、クウェンチ法は、重合反応物を、除冷して粒子状のポリアリーレンスルフィド樹脂を回収する方法であり、一般的に、反応釜内で反応スラリーを冷却後、ポリアリーレンスルフィド樹脂を晶析させた後に固液分離する方法が挙げられる。クウェンチ法における固液分離は、濾過やスクリューデカンター等の遠心分離機を用いて分離した後、得られた濾過残渣に直接水を加えスラリー化したのち、固液分離を繰り返し行う方法や、得られた濾過残渣を非酸化性雰囲気下で加熱して、残存する溶媒を除去する方法などが挙げられる。フラッシュ法は、固形物を比較的簡便に回収することができる点で好ましく、クウェンチ法は、ポリアリーレンスルフィド樹脂の粒度を制御しやすい点や晶析時にポリマー粒子にアルカリ金属含有無機塩やその他の不純物を取り込みにくくなるため、高純度のポリマーが得られる点で好ましい。
【0043】
続いて、前記反応混合物を、水と接触させてポリアリーレンスルフィド樹脂を濾別することによって、アルカリ金属含有無機塩および前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液を調製することができる。
【0044】
前記反応混合物を、水と接触させた後、固液分離しポリアリーレンスルフィド樹脂を濾別する方法(以下、「水洗」ということがある)としては、例えば、前記粗反応混合物から有機極性溶媒を固液分離させて得られた反応スラリーに水を加えて撹拌した後にろ過装置を用いてろ過する方法、前記したろ過によって得られた水分を含有するろ過残渣(以下「含水ケーキ」と略記する。)に再度水を加えてスラリーとした後にろ過する方法、または前記含水ケーキがろ過器に保持された状態で再度水を加えろ過する方法等が挙げられる。
【0045】
前記水洗の際に反応スラリーに加える水の量は最終的に得られるポリアリーレンスルフィドの理論収量に対して2倍〜10倍の範囲にあることが好ましく洗浄効率の点から好ましく、上記の量の水を2〜10回、好ましくは2〜4回に分割して水洗に供することが好ましい。前記水洗は、窒素ないし空気雰囲気下、水温50℃〜100℃の範囲、洗浄効率が良好となる点から、なかでも70℃〜90℃の範囲で行うことが好ましい。前記水洗は、一回または複数回繰り返し行うことができる。複数回繰り返し水洗浄する場合、前記雰囲気・温度条件は同一でも異なっていても良い。
【0046】
濾別されたポリアリーレンスルフィド樹脂には、微量のアルカリ金属含有無機塩やカルボキシアルキルアミノ基含有化合物が残留していることがあるため、さらに100〜275℃の範囲の水と接触させた後に固液分離し(以下、「熱水洗」ということがある)、ポリアリーレンスルフィド樹脂を濾別し、残留していたアルカリ金属含有無機塩およびカルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液を抽出することができ、この水溶液も本発明に用いることができる。
【0047】
熱水洗の温度は、例えば、120〜275℃の範囲であることが、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物の抽出効率が良好となる点から好ましい。更に具体的には、反応器内の気相の圧力を0.2〜4.6MPaなる条件下、140〜260℃の熱水で抽出処理を行うことが好ましい。このような熱水処理によりポリアリーレンスルフィド樹脂中に包含されて残留しているアルカリ金属や前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物をより効率よく水中に抽出することができ、続いてポリアリーレンスルフィド樹脂を濾別することによってアルカリ金属含有無機塩およびカルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液を得ることができる。
【0048】
このような熱水洗を行う具体的方法は、前記の水洗後に濾別されたポリアリーレンスルフィド樹脂を圧力容器中において所定の圧力条件及び温度条件下に水で攪拌下に洗浄する方法が挙げられる。熱水洗時の水量はポリアリーレンスルフィドの質量に対して1.5倍〜10倍であることが、前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物の抽出効率が良好となる点から好ましく、この量の熱水を2回以上に分けて熱水洗を行ってもよい。例えば、熱水洗を2回繰り返す場合、1回目の熱水洗と2回目の熱水洗の間にはろ過を行い、1回目の熱水洗で抽出したカルボキシアルキルアミノ基含有化合物を除去することが好ましい。また、熱水洗を一回実施した後に濾過を行い、前記した水洗を実施しても良い。この操作によってもカルボキシアルキルアミノ基含有化合物の除去がより促進される。また1回目の熱水洗工程と2回目の熱水洗工程の条件は前記の条件より任意に選ぶことができるものの、1回目の熱水洗工程の温度は例えば120℃〜200℃の範囲にある温度に設定して、まず高アルカリ性の濾液を濾別して除去した後に、2回目の熱水洗工程の温度を1回目の熱水洗工程の温度より高い温度、例えば150℃〜275℃の範囲にある温度に設定して実施することが前記熱水洗で用いられる装置の耐薬品性の観点から好ましい。
【0049】
さらに、熱水洗の際に酸や塩基を添加してpH調整をすることができ、特にカルボキシアルキルアミノ基含有化合物において式中Xがアルカリ金属原子となり水に抽出され易くなることから、熱水洗後のpHが11.0以上13.0未満の範囲になるように制御することが好ましい。熱水洗時に用いる酸としては、例えば、塩酸、硫酸、炭酸、酢酸等が挙げられ、これらの中でも炭酸や酢酸が好ましい。熱水洗時に用いる塩基としては水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、または炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、リン酸ナトリウム等が挙げられ、これらの中でも水酸化ナトリウムが好ましい。
【0050】
本発明において水洗は、撹拌機を有する水洗槽や、固液分離するための遠心分離機を用いることも可能であるが、容器内部に撹拌翼を有し、且つ、底部に濾過用フィルターが配設された混合機能を有す容器内で行うことができる。また、100℃を超える熱水洗でも、撹拌機を有する水洗槽や、固液分離するための遠心分離機を用いることも可能であるが、容器内部に撹拌翼を有し、且つ、底部に濾過用フィルターが配設された密閉型あるいは密閉可能な混合機能を有す容器内で行うことができる。本発明において、水洗ないし熱水洗は連続的に行っても良いし、バッチ式に行ってもいずれでも良い。
【0051】
なお、濾別されたポリアリーレンスルフィド樹脂は、その後、そのまま乾燥してポリアリーレンスルフィド樹脂粉末を得ても良いし、更に洗浄処理した後、固液分離し、乾燥を行って粉末状ないし顆粒状のポリアリーレンスルフィド樹脂として調製することができる。
【0052】
上記の1)〜4)の重合方法を経由して調整されたアルカリ金属含有無機塩および前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液は、前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を多く含む傾向にあり、その量は水洗工程での洗浄の程度にもよるが、工業的な観点から一般的に2000〔mg/L〕以上、より水洗浄を行ったものでも1500〔mg/L〕以上の割合である。また、上記の5)の重合方法を経由して調整されたアルカリ金属含有無機塩および前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液では、一般的に1500〔mg/L〕以上、より水洗浄を行ったものでも1100〔mg/L〕以上の割合である。
【0053】
(工程1)
このようにして調製されたアルカリ金属含有無機塩および前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液は、次に、酸を添加してpH6.0以下に調整する。これにより前記一般式(1)は、主に、式中のXが水素原子であるカルボキシアルキルアミノ基含有化合物(以下、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物(a1)という)となる。続く工程2において分離効率がさらに向上するため、該pH範囲は2.5〜5.5の範囲、さらには3.5〜4.5の範囲とすることが好ましい。この際に用いる酸としては、塩酸、硫酸、炭酸、酢酸などが挙げられ、これらの中でも塩酸が好ましい。また、酸の添加は0〜60℃の範囲、より好ましくは10〜40℃の範囲で、圧力0〜1.0Paの範囲で行うことができる。
【0054】
(工程2)
本発明は、前記水溶液にポリハロ芳香族化合物を加えて、前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物およびポリハロ芳香族化合物を含む有機相と、アルカリ金属含有無機塩を含む水相に分離する工程2を有する。
【0055】
工程2は、工程1で得られた、酸性にpH調整されたアルカリ金属含有無機塩および前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物(a1)を含む水溶液に非水溶性溶媒としてポリハロ芳香族化合物を加えて、前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物(a1)およびポリハロ芳香族化合物を含む有機相と、アルカリ金属含有無機塩を含む水相とに分離する。
【0056】
ポリハロ芳香族化合物としては、前記のポリアリーレンスルフィド樹脂の重合工程で用いたものと同じものを用いることができる。
【0057】
工程2におけるポリハロ芳香族化合物の添加量は、前記水溶液及びポリハロ芳香族化合物の混合後、相分離する量であれば特に限定されるものではない。具体的には、ポリハロ芳香族化合物中のカルボキシアルキルアミノ基含有化合物(a1)の種類や濃度、溶媒自身の種類等によって異なるものの、前記水溶液100質量部に対して、例えば、1〜200質量部の範囲、好ましくは5〜50質量部の範囲である。
【0058】
工程2における前記水溶液及びポリハロ芳香族化合物の混合は、例えば、水およびポリハロ芳香族化合物が凝固せず、かつ、水およびポリハロ芳香族化合物が蒸散しない温度範囲であり、好ましくは、60〜90℃の温度範囲より好ましくは70〜80℃の温度範囲を挙げることができる。
工程2における前記水溶液及びポリハロ芳香族化合物の混合は、攪拌装置、スタティックミキサー等の混合装置を用いて行ってよい。
【0059】
(工程3、4)
本発明は、工程2で相分離させたアルカリ金属含有無機塩を含む水溶液と、前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物およびポリハロ芳香族化合物を含む有機相(非水溶性溶媒相)とを、それぞれ別々に回収する工程として、「分離したカルボキシアルキルアミノ基含有化合物およびポリハロ芳香族化合物を含む有機相を除去して、アルカリ金属含有無機塩を含む水溶液を回収する工程3」、または、「分離したアルカリ金属含有無機塩を含む水相を除去して、前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物およびポリハロ芳香族化合物を含む組成物を回収する工程4」を有する。
【0060】
相分離させた前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物(a1)およびポリハロ芳香族化合物を含む有機相とアルカリ金属含有無機塩を含む水相とは、公知の手段によりそれぞれを効率よく分離、回収する。このような方法としては、静置した後、デカンテーション等の分離、回収手段を採用することも可能であるが、特に回収効率を上げるため、工業的には、接触を充分行うための混合(ミキサー)部と、これを分離してそれぞれの対向流を均一に保つ分離(セトラー)部とを備えた、いわゆるミキサー・セトラー式分離抽出装置などを用いて、工程2、工程3および工程4を同時または連続して行うことが好ましい。
【0061】
また、工程3および工程4の操作は、加圧状態、常圧状態、減圧状態いずれの状態でも行うことができ、装置の簡便さから、常圧状態で行うことが好ましい。また、窒素、希ガスなどの非酸化性雰囲気下で行うこともできるが、装置の簡便さから大気中で行うことが好ましい。
【0062】
なお、前記COD値を低減させるために、相分離された水相に、さらにポリハロ芳香族化合物を加え、再び前記工程2および工程3を繰り返してもよい。同様に、前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物の回収率を向上させるために、相分離された水相にポリハロ芳香族化合物を加え、再び前記工程2および工程4を繰り返してもよい。
【0063】
工程3を経て得られたアルカリ金属含有無機塩を含む水溶液のCOD値は、工程1に供された前記アルカリ金属含有無機塩およびカルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液のCOD値に対し、20%以上、好ましくは40%以上、さらに好ましくは70%以上にまで削減することができる。さらに前記工程2および工程3を繰り返し行うことによってカルボキシアルキルアミノ基含有化合物を検出限界以下にまで削減することができる。
【0064】
一方、工程4を経て得られたカルボキシアルキルアミノ基含有化合物はアルカリ金属含有無機塩を含む水溶液と分離されて、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物およびポリハロ芳香族化合物として回収され、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物の回収率(抽出率)は、工程1に供された前記アルカリ金属含有無機塩およびカルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液中に含まれるカルボキシアルキルアミノ基含有化合物に対して、質量基準で40%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは75%以上、さらに好ましくは90%以上の範囲である。さらに前記工程2および工程4を繰り返し行うことによって、99%以上とすることも可能である。
【0065】
工程4を経て得られたカルボキシアルキルアミノ基含有化合物およびポリハロ芳香族化合物を含む組成物は、ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合原料として用いることができる。
【0066】
また、工程3を経て得られたアルカリ金属含有無機塩を含む水溶液には、微量のポリハロ芳香族化合物が不純物として含まれる場合がある。このため、工程3を経て得られたアルカリ金属含有無機塩を含む水溶液は、工程2で添加したポリハロ芳香族化合物の融点以下、好ましくは50℃以下、さらに好ましくは室温以下に冷却することが好ましい。ポリハロ芳香族化合物が不純物として存在する場合には、固形分として晶析されるため、濾過等の分離操作で容易に除去でき、アルカリ金属含有無機塩を含む水溶液の純度を挙げることができる。一方、分離除去され、回収されたポリハロ芳香族化合物は工程2で再利用することができ、また、ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合原料として利用することもできる。
【0067】
(工程5)
さらに、本発明は、工程4で回収されたカルボキシアルキルアミノ基含有化合物(a1)およびポリハロ芳香族化合物を含む組成物に、さらに、アルカリ性水溶液を加えて、前記ポリハロ芳香族化合物を分離する工程5、を行うこともできる。
工程5では、該組成物中のカルボキシアルキルアミノ基含有化合物(a1)にアルカリ性水溶液を加えることによって、主に、前記一般式(1)中のXがアルカリ金属原子であるカルボキシアルキルアミノ基含有化合物(以下、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物(a2)という)となり、水相側に分離する。
【0068】
工程5で用いるアルカリ性水溶液は、工程1のポリアリーレンスルフィド樹脂の重合工程で用いるものと同様のアルカリ金属水酸化物またはアルカリ金属硫化物を用いて調製することができる。アルカリ性水溶液中の該アルカリ金属水酸化物またはアルカリ金属硫化物の濃度は、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物(a1)に対して同モル以上となるよう調整すれば特に問題ないが、具体的には0.2〜49質量%、好ましくは1.0〜10.0質量%の範囲である。
【0069】
(工程6、7)
さらに本発明は、工程5で相分離させたカルボキシアルキルアミノ基含有化合物(a2)を含む水溶液とポリハロ芳香族化合物とから、「ポリハロ芳香族化合物を除去して、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液を回収する工程6」、または「分離した該カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液を除去して、ポリハロ芳香族化合物を回収する工程7」を有する。
【0070】
工程5において、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物(a2)を含む水溶液とポリハロ芳香族化合物とを分離した後、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物(a2)を含む水溶液またはポリハロ芳香族化合物を回収する方法は、公知の手段により行うことができる。このような方法としては、静置した後、デカンテーション等の分離回収手段を採用することも可能であるが、特に回収効率を上げるため、工業的にはミキサー・セトラー式分離抽出装置などを用いて行うことが好ましい。
また、工程7で回収されたポリハロ芳香族化合物は、工程2において再利用することができる。
【0071】
本発明は、工程4で得られたカルボキシアルキルアミノ基含有化合物およびポリハロ芳香族化合物を含む組成物を、有機極性溶媒中に加え、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させるポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法の形態も包含する。また、本発明は、工程6で得られたカルボキシアルキルアミノ基含有化合物を含む水溶液を、有機極性溶媒中に加え、ポリハロ芳香族化合物と、(i)アルカリ金属硫化物とを、または、(ii)アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物とを反応させることを特徴とするポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法の形態をも包含する。ポリアリーレンスルフィド樹脂の原料中に前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物を加えることで、エポキシ接着性に優れたポリアリーレンスルフィド樹脂を製造することができる。
【0072】
さらに、工程4または工程6で得られたカルボキシアルキルアミノ基含有化合物は、熱酸化架橋剤として作用し、ポリアリーレンスルフィド樹脂1質量部に対し0.002〜0.01質量部の範囲となる割合で添加し、熱酸化架橋処理を行うことで、溶融成形時の増粘を抑えて樹脂の溶融安定性を向上させるとともに、成形固化時の結晶化速度の速い架橋型ポリアリーレンスルフィド樹脂を製造することができる。
【0073】
従来、カルボキシアルキルアミノ基含有化合物は、産業廃棄物として処理されていたものの、上記工程4または工程6を経て、アルカリ金属含有無機塩と分離することにより、原料としてポリアリーレンスルフィド重合工程で、または、ポリアリーレンスルフィド樹脂の熱酸化架橋時に添加剤として再利用できる。このため、ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造工程で排出されていた産業廃棄物の低減が可能である。
【0074】
上記のようにカルボキシアルキルアミノ基含有化合物を原料として重合されたポリアリーレンスルフィド樹脂や、添加剤として添加し熱酸化架橋処理されて得られた架橋型ポリアリーレンスルフィド樹脂は、本発明の効果を損ねない範囲で、離型剤、着色剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、発泡剤、防錆剤、難燃剤、滑剤、カップリング剤、充填材などの添加剤を含有せしめることができる。更に、同様に下記のごとき合成樹脂及びエラストマーを混合して使用することもできる。これら合成樹脂としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリーレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ四弗化エチレン、ポリ二弗化エチレン、ポリスチレン、ABS樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、液晶ポリマー等が挙げられ、エラストマーとしては、ポリオレフィン系ゴム、弗素ゴム、シリコーンゴム等が挙げられる。
【0075】
このようにして得られたポリアリーレンスルフィド樹脂は、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形のごとき各種溶融加工法により、耐熱性、成形加工性、寸法安定性等に優れた成形物にすることができ、例えば、コネクタ・プリント基板・封止成形品などの電気・電子部品、ランプリフレクター・各種電装部品などの自動車部品、各種建築物や航空機・自動車などの内装用材料、あるいはOA機器部品・カメラ部品・時計部品などの精密部品等の射出成形・圧縮成形品、あるいは繊維・フィルム・シート・パイプなどの押出成形・引抜成形品等として幅広く利用可能である。
【実施例】
【0076】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。これら例は例示的なものであって限定的なものではない。
【0077】
〔参考例〕 ポリアリーレンスルフォド樹脂製造
圧力計、温度計、コンデンサーを連結した撹拌翼および底弁付き150リットルオートクレーブに、45%水硫化ソーダ(47.55質量%NaSH)14.148部、48%苛性ソーダ(48.7重量%NaOH)9.317部と、N−メチル−2−ピロリドン38.0部を仕込んだ。窒素気流下攪拌しながら209℃まで昇温して、水12.150部を留出させた(残存する水分量はNaSH1モル当り1.13モル)。その後、オートクレーブを密閉して180℃まで冷却し、パラジクロロベンゼン17.129部及びN−メチル−2−ピロリドン16.0部を仕込んだ。液温150℃で窒素ガスを用いてゲージ圧で0.1MPaに加圧して昇温を開始した。液温260℃で3時間攪拌しつつ反応を進め、オートクレーブ上部を散水することにより冷却した。次に降温させると共にオートクレーブ上部の冷却を止めた。オートクレーブ上部を冷却中、液温が下がらないように一定に保持した。反応中の最高圧力は、0.86MPaであった。反応後、冷却し、温度170℃の時点でシュウ酸・2水和物0.284部をN−メチル−2−ピロリドン0.663部に含む溶液を加圧注入した。30分間撹拌後、冷却し、100℃で底弁を開き、反応スラリーを平板ろ過機に移送し120℃で加圧ろ過したのち、N−メチル−2−ピロリドン16.0部を加え、加圧ろ過した。ろ過後、撹拌翼付き真空乾燥機を用いて、減圧下150℃で2時間撹拌してN−メチル−2−ピロリドンを留去した。次に70℃温水90部を加え撹拌したのち、濾過し、さらに70℃温水25部を加え濾過し、濾液を集めて「水溶液(A)」を調製した。水溶液(A)のpHは9.3、CP−MABA濃度は1722〔ppm〕、CODは2103〔mg/L〕、ポリアリーレンスルフィド樹脂濃度は0〔質量%〕であった。
【0078】
〔実施例1〕
水溶液(A)500mlに撹拌しながら1mol/L塩酸を加えpHを4.0に調整した(水溶液(B)と記す)。その後、加温装置付き分液ロートにpH調整した水溶液(B)400mlを入れ、さらに70℃に加熱して溶融したp−ジクロロベンゼン(融点53℃)40mlを入れ、70℃に加熱したのち、5分間振とう後、静置した。p−ジクロロベンゼン相(有機相)と水相とに相分離した後、分離したp−ジクロロベンゼン相(a)と水相(a)とを、デカンテーションし、それぞれ別々に回収した。その後、p−ジクロロベンゼン相(a)のCP−MABA濃度を測定し、水溶液(A)からp−ジクロロベンゼン相(a)へ抽出したCP−MABAの抽出率(以下、「CP−MABA抽出率a」という)を算出し、さらに、水相(a)のCOD値を測定した。その結果を表1に示した。
【0079】
〔実施例2〕
水溶液(A)500mlに撹拌しながら1mol/L塩酸を加えpHを5.0に調整したこと以外は実施例1と同様に行い、CP−MABA抽出率、水相のCODを測定した。その結果を表1に示した。
【0080】
〔実施例3〕
水溶液(A)500mlに撹拌しながら1mol/L塩酸を加えpHを2.0に調整したこと以外は実施例1と同様に行い、CP−MABA抽出率、水相のCODを測定した。その結果を表1に示した。
【0081】
〔実施例4〕
70℃の溶融p−ジクロロベンゼン(融点53℃)40mlの代わりに、70℃の溶融p−ジクロロベンゼン(融点53℃)20mlとしたこと以外は実施例1と同様に行い、CP−MABA抽出率、水相のCODを測定した。その結果を表1に示した。
【0082】
〔実施例5〕
水溶液(A)500mlに撹拌しながら1mol/L塩酸を加えpHを2.0に調整したこと、および、70℃の溶融p−ジクロロベンゼン(融点53℃)40mlの代わりに、70℃の溶融p−ジクロロベンゼン(融点53℃)20mlとしたこと以外は実施例1と同様に行い、CP−MABA抽出率、水相のCODを測定した。その結果を表1に示した。
【0083】
〔比較例1〕
水溶液(A)のpH調整を行わなかったこと以外は実施例1と同様に行い、CP−MABA抽出率、水相のCODを測定した。その結果を表2に示した。
【0084】
〔比較例2〕
水溶液(A)500mlに撹拌しながら1mol/L塩酸を加えpHを6.5に調整したこと以外は実施例1と同様に行い、CP−MABA抽出率、水相のCODを測定した。その結果を表2に示した。
【0085】
【表1】
【0086】
【表2】
【0087】
水溶液(A)から非水溶性溶媒相(有機相)へ抽出したCP−MABAの抽出率および水相のCODは以下のとおり行った。
【0088】
[CP−MABA抽出率]
CP−MABA抽出率はHPLCで液中のCP−MABA濃度を測定し、算出した。
サンプル調製:p−ジクロロベンゼン中にCP-MABAが含まれる場合は、該p−ジクロロベンゼンをエバポレータで留去したたのち、残渣にHPLCの移動相を加え溶解して測定サンプルを調製した。水相中にCP−MABAが含まれる場合は、そのまま移動相を加えて調製した。
測定サンプルのHPLC測定を行い、下記の方法で作製した標準サンプルと同じ保持時間のピーク面積と検量線とから液中の濃度を求め、下記式よりCP−MABA抽出率を算出した。
【0089】
【数1】
【0090】
(標準物質:CP−MABAの合成)
48%NaOH水溶液83.4g(1.0モル)とN‐メチル‐2‐ピロリドン297.4g(3.0モル)を、撹拌機付き耐圧容器に仕込み、230℃で3時間撹拌した。この撹拌が終了した後、温度230℃のままバルブを開き、放圧し、N‐メチル‐2‐ピロリドンの蒸気圧程度である230℃において0.1MPaまで圧力を低下させ、水を留去した。その後、再び密閉し200℃程度まで温度を低下させた。
【0091】
p−ジクロロベンゼン147.0g(1.0モル)を60℃以上の温度条件下で加熱溶解して反応混合物中に投入し、250℃まで昇温後4時間撹拌した。この撹拌が終了した後、室温まで冷却した。p−ジクロロベンゼンの反応率は31モル%であった。冷却後、内容物を取り出し、水を加えて撹拌後、未反応のp−ジクロロベンゼンが不溶物となって残ったものをろ過によって取り除いた。
【0092】
次いで、ろ液である水溶液に塩酸を加えて該水溶液のpHを4に調整した。このとき水溶液中に褐色オイル状のCP−MABA(水素型)が生じた。そこにクロロホルムを加えて褐色オイル状物質を抽出した。このときの水相には、N‐メチル‐2‐ピロリドン及びその開環物である4−メチルアミノ酪酸(以下「MABA」と略記する。)が含まれるため水相は廃棄した。クロロホルム相は水洗を2回繰り返した。
【0093】
クロロホルム相に水を加えてスラリー化した状態で48%NaOH水溶液を加え、該スラリーのpHを13に調整した。このときCP−MABAはナトリウム塩となって水相に移り、クロロホルム相には副生成物であるp−クロロ−N−メチルアニリン及びN−メチルアニリンが溶解しているためクロロホルム相は廃棄した。水相はクロロホルム洗浄を2回繰り返した。
【0094】
水溶液に希塩酸を加えて該水溶液のpHを1以下に調整した。このときCP−MABAは塩酸塩となって水溶液中にとどまるので、水溶液にクロロホルムを加えて、副生成物であるp−クロロフェノールを抽出した。p−クロロフェノールが溶解したクロロホルム相は廃棄した。
【0095】
残った水溶液に48%NaOH水溶液を加え、該水溶液のpHを4に調整した。これにより、CP−MABAの塩酸塩が中和され、褐色オイル状のCP−MABA(水素型)が水溶液から析出した。CP−MABA(水素型)をクロロホルムで抽出し、クロロホルムを減圧除去することによってCP−MABA(水素型)を得た。
【0096】
[CODの測定]
JIS K0120に準拠しKMnO
4によるCODを測定した。
【0097】
[ポリアリーレンスルフィド樹脂濃度の測定]
水溶液(A)中におけるポリアリーレンスルフィド樹脂濃度は以下のとおり測定した。
該水溶液(A)100質量部にクロロホルム20質量部を加え、分析ロートで混合抽出し、分液してクロロホルム層と水層に分離した。移動相にクロロホルムを用いた液体クロマトグラフ装置でクロロホルム層を測定し、得られたピークから前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物のピークを除いたエリア面積(A)を求めた。但し、事前に所定濃度の前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物のクロロホルム溶液を測定し、保持時間を測定しておくことで、前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物のピークを判別した。また、別途ポリアリーレンスルフォド樹脂濃度0.32wt%のクロロホルム溶液のエリア面積(B)を求め、下記式より、該水溶液(A)中のポリアリーレンスルフィド樹脂濃度を算出した。
【0098】
【数2】