(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
(第一の実施形態)
以下、本発明の実施形態の一例について図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1に示される分配移相器1Aは、第一導線10、第二導線20および第三導線30と、これら導線10,20,30に跨って設けられた2つの可動導体40,50とを有する。具体的には、第一導線10と第二導線20とに跨って設けられた第一の可動導体40と、第二導線20と第三導線30とに跨って設けられた第二の可動導体50とを有する。
【0023】
第一導線10に入力された高周波信号は、第一の可動導体40を介して第二導線20に伝わる。第二導線20に伝った高周波信号は、第二の可動導体50を介して第三導線30に伝わり、第三導線30の両端からそれぞれ出力される。そこで、以下の説明では、第一導線10を“入力導線10”、第二導線20を“中間導線20”、第三導線30を“出力導線30”と呼んで区別する場合がある。もっとも、かかる区別は説明の便宜上の区別に過ぎない。
【0024】
入力導線10、中間導線20および出力導線30は、一対のグランド層と、これらグランド層の間に挟まれた信号層とを少なくとも有するトリプレート線路である。入力導線10と中間導線20は間隔を置いて一列に配置されている。換言すれば、入力導線10と中間導線20は同一直線上に配置されている。一方、出力導線30は、入力導線10および中間導線20に隣接し、これら導線10,20に対して平行に配置されている。本実施形態では、入力導線10および中間導線20と出力導線30とは、入力される高周波信号の波長(λ)の1/4倍(=λ/4)未満の間隔で平行に並んでいる。本明細書では、
図1に示されるように、導線10,20,30の線方向(長手方向)を“X方向”と定義し、X方向と直交する方向を“Y方向”と定義する。また、
図1の紙面下方から上方へ向かう方向を“+X方向”、紙面上方から下方へ向かう方向を“−X方向”と定義する。さらに、
図1の紙面左側から右側へ向かう方向を“+Y方向”、紙面右側から左側へ向かう方向を“−Y方向”と定義する。もっとも、かかる定義は説明の便宜上の定義に過ぎない。
【0025】
入力導線10の−X方向の端部(入力側端部10a)は入力端子60に接続されている。入力導線10の+X方向の端部(出力側端部10b)と第一の可動導体40の−X方向の端部は、互いに重なり合って結合部を構成している。中間導線20の−X方向の端部(入力側端部20a)と第一の可動導体40の+X方向の端部は、互いに重なり合って結合部を構成している。また、中間導線の+X方向の端部(出力側端部20b)と第二の可動導体50の一部は、互いに重なり合って結合部を構成している。さらに、出力導線30のX方向中間部30aと第二の可動導体50の他の一部は、互いに重なり合って結合部を構成している。また、出力導線30のX方向両端部30bは出力端子61,62にそれぞれ接続されている。なお、出力導線30の「X方向中間部」との用語は、X方向における中心のみを意味する限定的な用語ではなく、X方向両端部よりも内側の任意の部分を意味する用語である。このことは、出力導線30のX方向中間部30aに結合された高周波信号が出力導線30のX方向両端部30bに接続されている出力端子61,62からそれぞれ出力されることからも明らかである。
【0026】
第一の可動導体40および第二の可動導体50は、導電材料からなるブロックであり、それぞれ
図1に示される平面形状を有する。
【0027】
第一の可動導体40は、入力導線10の出力側端部10bと重なり合う入力部41と、中間導線20の入力側端部20aと重なり合う出力部42と、入力部41と出力部42とを繋ぐ接続部43とから構成されている。ここで、入力導線10および出力導線30は不図示の基板上に固定的に設けられているのに対し、中間導線20および第一の可動導体40は移動可能に設けられている。具体的には、第一の可動導体40は、不図示のガイド機構にガイドされて、入力導線10および中間導線20との重なり合いを維持したままX方向に往復移動可能(スライド可能)であり、第一の可動導体40の移動に伴って中間導線20も同方向に往復移動する。第一の可動導体40および中間導線20の移動については後に詳述する。
【0028】
図1および
図2に示されるように、第一の可動導体40はX方向に沿って一様な太さで細長く形成されており、その外形断面は矩形である。
図2(a)に示されるように、入力部41には、その端面において開口し、かつ、+X方向に延びる断面円形の挿入孔41aが形成されており、この挿入孔41aに入力導線10の出力側端部10bが挿入されている。
図2(b)に示されるように、第一の可動導体40の出力部42には、その端面において開口し、かつ、−X方向に延びる断面円形の挿入孔42aが形成されており、この挿入孔42aに中間導線20の入力側端部20aが挿入されている。換言すれば、第一の可動導体40のうち、挿入孔41aが形成されている部分が入力部41であり、挿入孔42aが形成されている部分が出力部42であり、入力部41および出力部42以外の部分が接続部43である。
【0029】
図2(a)に示されるように、挿入孔41aの内周面と入力導線10の出力側端部10bの外周面とは、容量結合可能となるように互いに重なり合っている。また、
図2(b)に示されるように、挿入孔42aの内周面と中間導線20の入力側端部20aの外周面とは、容量結合可能となるように互いに重なり合っている。具体的には、挿入孔41aの内周面と入力導線10の出力側端部10bの外周面とは誘電体としてのフッ素樹脂膜44aを介して重なり合っており、挿入孔42aの内周面と中間導線20の入力側端部20aの外周面とは誘電体としてのフッ素樹脂膜44bを介して重なり合っている。これらフッ素樹脂膜44a,44bは、挿入孔41a,42aの内周面に形成されていてもよく、入力導線10や中間導線20の外周面に形成されていてもよい。いずれにしても、フッ素樹脂膜44aは、挿入孔41aの内周面と入力導線10の外周面との間の摩擦抵抗を低減させ、フッ素樹脂膜44bは、挿入孔42aの内周面と中間導線20の外周面との摩擦抵抗を低減させ、総じて第一の可動導体40のスムーズな移動を実現する役割も果たす。
【0030】
挿入孔41a,42aは有底であり、その全長(深さ)は35.0mmである。挿入孔42aに挿入されている中間導線20の入力側端部20aは、挿入孔42aの最底部まで挿入されている。換言すれば、入力側端部20aの端面は挿入孔42aの底面に突き当たっている。ここで、挿入孔42aの内周面と、この挿入孔42aに挿入されている中間導線20の入力側端部20aの外周面とは固定されている。一方、挿入孔41aの内周面と、この挿入孔41aに挿入されている入力導線10の出力側端部10bの外周面とは固定されておらず、互いに摺動可能である。すなわち、第一の可動導体40は、入力導線10および中間導線20との重なり合いを維持した状態でX方向に最大35.0mm往復移動可能である。もっとも、挿入孔41a,42aの全長(深さ)に関する上記数値は一例であり、挿入孔41a,42aの全長は任意に延長または短縮することができる。上記のとおり、第一の可動導体40のうち、挿入孔41aが形成されている部分が入力部41であり、挿入孔42aが形成されている部分が出力部42であり、これら以外の部分が接続部43である。よって、挿入孔41a,42aの全長が延長または短縮された場合、これに応じて入力部41、接続部43、出力部42の全長もそれぞれ変化する。また、第一の可動導体40の最大移動距離も変化する。
【0031】
第二の可動導体50は、中間導線20の出力側端部20bと重なり合う入力部51と、出力導線30のX方向中間部30aと重なり合う出力部52と、入力部51と出力部52とを繋ぐ接続部53とから構成されている。ここで、出力導線30は不図示の基板上に固定的に設けられているのに対し、中間導線20および第二の可動導体50は移動可能に設けられている。具体的には、第二の可動導体50は、不図示のガイド機構にガイドされて、中間導線20および出力導線30との重なり合いを維持したままX方向に往復移動可能(スライド可能)である。ここで、第一の可動導体40の移動に伴って中間導線20が往復移動することは既述の通りである。第二の可動導体50は、第一の可動導体40の移動に伴って+X方向に移動する中間導線20に押されて同方向に同距離だけ移動する。すなわち、第二の可動導体50は、第一の可動導体40に連動して移動する。もっとも、第二の可動導体50は、第一の可動導体40から独立して単独でもX方向に往復移動可能である。第二の可動導体50の移動については後に詳述する。
【0032】
図1および
図3に示されるように、第二の可動導体50の入力部51はX方向に沿って細長く形成されており、その外形断面は矩形である。入力部51には、その端面において開口し、かつ、+X方向に延びる断面円形の挿入孔51aが形成されており、この挿入孔51aに中間導線20の出力側端部20bが挿入されている。また、第二の可動導体50の出力部52はX方向に沿って細長く形成されており、その外形断面は矩形である。換言すれば、出力部52は入力部51と平行であり、かつ、入力部51と略同一の断面形状を有する。出力部52には、その両端面において開口し、かつ、X方向に延びる断面円形の貫通孔52aが形成されており、この貫通孔52aに出力導線30が挿通されている。すなわち、出力導線30は出力部52を貫いている。換言すれば、第二の可動導体50のうち、挿入孔51aが形成されている部分が入力部51であり、貫通孔52aが形成されている部分が出力部52であり、入力部51および出力部52以外の部分が接続部53である。
【0033】
図3に示されるように、挿入孔51aの内周面と中間導線20の出力側端部20bの外周面とは、容量結合可能となるように互いに重なり合っている。また、貫通孔52aの内周面と出力導線30のX方向中間部30aの外周面とは、容量結合可能となるように互いに重なり合っている。具体的には、挿入孔51aの内周面と中間導線20の出力側端部20bの外周面とは誘電体としてのフッ素樹脂膜54aを介して重なり合っており、貫通孔52aの内周面と出力導線30のX方向中間部30aの外周面とは誘電体としてのフッ素樹脂膜54bを介して重なり合っている。これらフッ素樹脂膜54a,54bは、挿入孔51aや貫通孔52aの内周面に形成されていてもよく、中間導線20や出力導線30の外周面に形成されていてもよい。いずれにしても、フッ素樹脂膜54aは、挿入孔51aの内周面と中間導線20の外周面との間の摩擦抵抗を低減させ、フッ素樹脂膜54bは、貫通孔52aの内周面と出力導線30の外周面との摩擦抵抗を低減させ、総じて第二の可動導体50のスムーズな移動を実現する役割も果たす。
【0034】
挿入孔51aは有底であり、その全長(深さ)は35.0mmである。挿入孔51aの内周面と、この挿入孔51aに挿入されている中間導線20の出力側端部20bの外周面とは固定されておらず、互いに摺動可能である。また、貫通孔52aの内周面と、この貫通孔52aを貫通している出力導線30のX方向中間部30aの外周面とは固定されておらず、互いに摺動可能である。すなわち、第二の可動導体50は、中間導線20および出力導線30との重なり合いを維持した状態でX方向に単独で最大35.0mm往復移動可能である。ここで、第一の可動導体40の移動に伴って中間導線20が移動すると、中間導線20に押されて第二の可動導体50が移動することは既述の通りである。中間導線20に押されて第二の可動導体50が移動する際には、中間導線20と第二の可動導体50の相対的位置関係は変化しない。よって、中間導線20の出力側端部20bと第二の可動導体50の入力部51との重複部分の長さは変化しない。したがって、第二の可動導体50は、第一の可動導体40と一緒にX方向に最大35.0mm往復移動可能であり、かつ、単独でもX方向に最大35.0mm往復移動可能である。すなわち、第二の可動導体50は、中間導線20および出力導線30との重なり合いを維持した状態でX方向に最大70.0mm往復移動可能である。換言すれば、第二の可動導体50のX方向における最大移動距離は、第一の可動導体40の同方向における最大移動距離の2倍である。
【0035】
もっとも、挿入孔51aの全長(深さ)に関する上記数値は一例であり、挿入孔51aの全長は任意に延長または短縮することができる。上記のとおり、第二の可動導体50のうち、挿入孔51aが形成されている部分が入力部51であり、貫通孔52aが形成されている部分が出力部52であり、これら以外の部分が接続部53である。よって、挿入孔51aの全長が延長または短縮された場合、これに応じて入力部51および接続部53の全長もそれぞれ変化する。また、第二の可動導体50の最大移動距離も変化する。
【0036】
図1に示されるように、第二の可動導体50の接続部53は、入力部51の端部と出力部52の端部との間に延びて入力部51と出力部52とを繋いでいる。具体的には、接続部53は、入力部51の端部から+X方向に延在した後に+Y方向に延在して出力部52の端部に繋がっている。接続部53は、インピーダンスの整合を図るために、入力部51および出力部52に対して拡幅されている。
【0037】
上記のような構成を有する分配移相器1Aでは、
図1に示される入力端子60に入力された高周波信号は、入力導線10の入力側端部10aから出力側端部10bに伝わる。入力導線10の出力側端部10bに伝わった高周波信号は、フッ素樹脂膜44a(
図2(a))を介して第一の可動導体40の入力部41に伝わり、接続部43を経由して出力部42に伝わる。第一の可動導体40の出力部42に伝った高周波信号は、フッ素樹脂膜44b(
図2(b))を介して中間導線20の入力側端部20aに伝わり、出力側端部20bに至る。中間導線20の出力側端部20bに伝わった高周波信号は、フッ素樹脂膜54a(
図3)を介して第二の可動導体50の入力部51に伝わり、接続部53を経由して出力部52に伝わる。第二の可動導体50の出力部52に伝わった高周波信号は、出力部52において分岐し、一部は+X方向へ伝わり、残りの一部は−X方向へ伝わる。+X方向へ分岐した高周波信号は、フッ素樹脂膜54b(
図3)を介して出力導線30に伝わり、出力端子61から出力される。一方、−X方向へ分岐した高周波信号は、フッ素樹脂膜54b(図)3を介して出力導線30に伝わり、出力端子62から出力される。すなわち、入力端子60に入力された高周波信号は二分配されて出力端子61,62からそれぞれ出力される。
【0038】
以下の説明では、第二の可動導体50の出力部52の両端部のうち、出力端子61に近接している端部を“第一出力部52c”、出力端子62に近接している端部を“第二出力部52d”と呼んで区別する場合がある。
【0039】
図4(a)に示される第一の可動導体40を同図(b)に示されるように、+X方向へD1[mm]移動させると(スライドさせると)、これに連動して第二の可動導体50も同方向にD1[mm]移動する。すると、第一の可動導体40の入力部41は入力端子60からD1[mm]遠ざかる。また、第二の可動導体50の第一出力部52cは出力端子61にD1[mm]近づき、第二出力部52dは出力端子62からD1[mm]遠ざかる。すなわち、入力端子60から出力端子62までの距離(線路長)が2×D1[mm]増加する一方、入力端子60から出力端子61までの距離(線路長)は変化しない。
【0040】
さらに、
図4(b)に示される第二の可動導体50を同図(c)に示されるように、+X方向へD2[mm]移動させると(スライドさせると)、第二の可動導体50の入力部51は、第一の可動導体40の出力部42からD2[mm]遠ざかる。また、第二の可動導体50の第一出力部52cは出力端子61にD2[mm]近づき、第二出力部52dは出力端子62からD2[mm]遠ざかる。すなわち、入力端子60から出力端子62までの距離(線路長)が2×D2[mm]増加する一方、入力端子60から出力端子61までの距離(線路長)は変化しない。
【0041】
上記のように、第二の可動導体50が第一の可動導体40に連動して±X方向に移動すると、入力端子60から出力端子62に至る線路の長さは、第一の可動導体40の移動距離(=第二の可動導体50の移動距離)の2倍増減するのに対し、入力端子60から出力端子61に至る線路の長さは変化しない。さらに、第二の可動導体のみが±X方向に移動した場合にも、入力端子60から出力端子62に至る線路の長さは、第二の可動導体50の移動距離の2倍増減するのに対し、入力端子60から出力端子61に至る線路の長さは変化しない。
【0042】
よって、第一の可動導体40を±X方向にD1[mm]移動させ、かつ、第二の可動導体50を同方向にD2[mm]移動させると、入力端子60から出力端子62に至る線路の長さは2×(D1+D2)[mm]増減する一方、入力端子60から出力端子61に至る線路の長さは変化しない。
【0043】
ここで、第二の可動導体50のみの移動によって入力端子60から出力端子62に至る線路の長さを2×(D1+D2)[mm]増減させるためには、第二の可動導体50が中間導線20との重なり合いを維持した状態で(D1+D2)[mm]移動できなくてはならない。さらに、中間導線20との重なり合いを維持した状態での第二の可動導体50の最大移動距離が挿入孔51a(
図3)の全長(深さ)に依存することはこれまでの説明から明らかである。すなわち、第二の可動導体50のみの移動によって入力端子60から出力端子62に至る線路の長さを2×(D1+D2)[mm]増減させるためには、挿入孔51aの全長を延ばす必要がある。しかし、挿入孔51aの全長を延ばすと、第二の可動導体50が大型化してしまい、ひいては分配移相器1Aが大型化してしまう。この点、第二の可動導体50に加えて第一の可動導体40を有する本実施形態の分配移相器1Aによれば、第二の可動導体50の挿入孔51aの全長を可及的に短くしつつ、入力端子60から出力端子62に至る線路長の可変量を可及的に大きくすることができる。
【0044】
以上のように、本実施形態の分配移相器1Aによれば、入力導線10、中間導線20および出力導線30の物理長を変化させることなく、入力端子60から出力端子61に至る線路長と入力端子60から出力端子62に至る線路長とを異ならせることができる。よって、出力端子62から出力される高周波信号の位相は、入力された高周波信号の位相に対して変化するが、出力端子61から出力される高周波信号の位相は変化しない。かくして、本実施形態の分配移相器1Aでは、第一の可動導体40および第二の可動導体50の少なくとも一方を移動させることにより、分配された高周波信号に所望に位相差を与えることができる。
【0045】
また、第二の可動導体50に加えて第一の可動導体40を有する本実施形態の分配移相器1Aによれば、第二の可動導体50の挿入孔51aの全長を可及的に短くしつつ、入力端子60から出力端子62に至る線路長の可変量を可及的に大きくすることができる。かくして、本実施形態の分配移相器1Aは、小型でありながら、分配された高周波信号に大きな位相差を与えることができる。
【0046】
さらに、本実施形態の分配移相器1Aでは、第二の可動導体50の入力部51および接続部53は、入力される高周波信号の波長(λ)の1/4倍以上の長さを有する。すなわち、入力部51は、高周波信号に対して、その波長の1/4倍以上の長さを有する第一の線路を形成する。また、接続部53は、高周波信号に対して、その波長の1/4倍以上の長さを有し、かつ、上記第一の線路に直列に接続された第二の線路を形成する。換言すれば、第二の可動導体50は多段のインピーダンス変成器(トランス)として機能する。具体的には、第二の可動導体50の入力部51は一段目のλ/4変成器として機能し、接続部53は二段目のλ/4変成器として機能する。このように、本実施形態の分配移相器1Aでは、入力導線10および中間導線20と出力導線30との間に高周波信号の波長の1/4倍以上(本実施形態では1/2倍)の長さを持った線路が挿入されているに等しい。よって、入力導線10および中間導線20と出力導線30との間隔を高周波信号の波長の1/4倍未満として小型化を図りつつ、広帯域でインピーダンスの整合を図ることができる。
【0047】
(第二の実施形態)
以下、本発明の実施形態の他例について図面を参照しつつ詳細に説明する。本実施形態に係る分配移相器1Bの全体構成が
図5に示されている。
図5に示される分配移相器1Bは、
図1に示される分配移相器1Aと同一の基本構成を有する。そこで、
図1に示される分配移相器1Aと同一の構成については同一の符号を使用し、重複する説明は適宜省略する。
【0048】
本実施形態に係る分配移相器1Bを構成する第一の可動導体70の長手方向途中には、所定の特性インピーダンスおよび所定の長さを有する調整部71が設けられている。具体的には、
図1に示される第一の可動導体40は長手方向に沿って一様な太さ(幅)を有するのに対し、
図5に示される第一の可動導体70の長手方向途中は他の部分よりも太く形成されている(幅広に形成されている。)。
【0049】
第一の実施形態に係る分配移相器1Aと本実施形態に係る分配移相器1Bとは、入力導線10の端部が第一の可動導体40,70の一端に挿入され、中間導線20の端部が第一の可動導体40,70の他端に挿入されている点において共通している。かかる構造の場合、必然的に、第一の可動導体40,70が入力導線10および中間導線20よりも太くなるので(幅が広くなるので、)、第一の可動導体40,70の特性インピーダンスが入力導線10および中間導線20の特性インピーダンスよりも低くなり、入出力インピーダンスの不整合が生じる。
【0050】
そこで、第一の実施形態に係る分配移相器1Aでは、第一の可動導体40をインピーダンス変成器として機能させて入出力インピーダンスの整合を図っている。
図6に示されるように、第一の可動導体40は、第一の特性インピーダンス(Z1)、第一の長さ(L1)を有する変成部を二段有する多段インピーダンス変成器(トランス)として機能するように構成されている。具体的には、
図6に示される特性インピーダンス(Z1)および長さ(L1)が同図に示される数式に従って設定されている。なお、第一の可動導体40は長手方向に沿って一様な太さ(幅)を有するので、
図6に示される長さ(L2)は零となる。
【0051】
上記のようにして第一の可動導体40における特性インピーダンス(Z1)および長さ(L1)が設定される場合、
図6および
図7に示されるように、一つの共振周波数が得られる。換言すれば、VSWRに関する最適周波数は一つになる。
図6および
図7では、最適周波数が(f1)として示され、最適周波数から外れる周波数の一つが(f2)として示されている。
【0052】
例えば、上記周波数(f1)が2[GHz]、入力インピーダンス(Zin)および出力インピーダンス(Zout)が75[Ω]であり、その間のインピーダンス(Z2)を50[Ω]とすることを前提とした場合、
図6に示される数式に従って、特性インピーダンス(Z1)は61.2[Ω]に設定され、長さ(L1)は37.5[mm]に設定される。
【0053】
以上のように、第一の可動導体40の両端には、第一の特性インピーダンス(Z1)および第一の長さ(L1)を有する変成部(第一変成部)がそれぞれ設けられている。
【0054】
これに対し、本実施形態における第一の可動導体70では、長手方向途中に、所定の特性インピーダンスおよび所定の長さを有する調整部71が設けられている。すなわち、本実施形態における第一の可動導体70は、
図8に示されるように、特性インピーダンス(Z1)、長さ(L1)の変成部を二段有し、それら変成部の間に特性インピーダンス(Z2)、長さ(L2)の変成部をさらに有する多段インピーダンス変成器(トランス)として機能するように構成されている。具体的には、
図8に示される長さ(L1,L2)および特性インピーダンス(Z1,Z2)が同図に示される数式に従って設定されている。なお、
図8に示されるL2に関する数式は、
図10に示されるようにして導出されたものである。
【0055】
上記ようにして第一の可動導体70における特性インピーダンス(Z1,Z2)および長さ(L1,L2)が設定される場合、
図8および
図9に示されるように、2つの共振周波数が得られる。換言すれば、VSWRに関する最適周波数は2つになる。
図8および
図9では、2つの最適周波数(共振周波数)が(f1)および(f2)として示されている。
【0056】
例えば、上記周波数(f1)が2[GHz]、上記周波数(f2)が2.4[GHz]、入力インピーダンス(Zin)および出力インピーダンス(Zout)が75[Ω]であり、その間のインピーダンス(Z2)を50[Ω]とすることを前提とした場合、特性インピーダンス(Z1)は61.2[Ω]に設定され、長さ(L1)は37.5[mm]に設定される。また、特性インピーダンス(Z2)は50.0[Ω]に設定され、長さ(L2)は25.0[mm]に設定される。
【0057】
すなわち、第一の可動導体70の両端には、第一の特性インピーダンス(Z1)および第一の長さ(L1)を有する第一変成部がそれぞれ設けられ、2つの第一変成部の間には、第二の特性インピーダンス(Z2)および第二の長さ(L2)を有する第二変成部が設けられている。
【0058】
以上のように、本実施形態の分配移相器1Bでは、共振周波数が2つ得られる。よって、本実施形態に係る分配移相器1Bによれば、第一の実施形態に係る分配移相器1Aに比べて、より広い帯域において所望のVSWR特性が得られる。
【0059】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
図11(a)〜(c)に、第二の可動導体50の変形例のいくつかを示す。なお、既に説明した構成と同一または実質的に同一の構成については
図11中に同一の符号を付して重複する説明は省略する。
【0060】
図11(a)に示される可動導体50では、中間導線20および出力導線30の断面形状に応じて、挿入孔51aおよび貫通孔52aが矩形の断面を有する。
【0061】
図11(b)に示される可動導体50は、板状の第一部材50aおよび第二部材50bから構成されている。第一部材50aおよび第二部材50bは、中間導線20および出力導線30を挟んで互いに対向している。第一部材50aおよび第二部材50bには凹部55が2つずつ設けられており、対応する凹部55が突き合わされることにより、相手部材との間に挿入孔51aおよび貫通孔52aが形成されている。
【0062】
図11(c)に示される可動導体50は、第一基板50cおよび第二基板50dから構成されている。第一基板50cおよび第二基板50dは、中間導線20および出力導線30を挟んで互いに対向している。第一基板50cおよび第二基板50dと中間導線20および出力導線30との間には誘電体としてのフッ素樹脂膜54a,54bがそれぞれ介在している。
【0063】
図11には、第二の可動導体50の変形例のみを示したが、第一の可動導体40も同様に変形させることができる。
【0064】
第一の実施形態では、第二の可動導体50を第一の可動導体40に連動して移動させるために、中間導線20が第一の可動導体40に固定されていた。しかし、中間導線20が第二の可動導体50に固定されていても、第二の可動導体50を第一の可動導体40に連動して移動させることができる。また、中間導線20が第一の可動導体40および第二の可動導体50のいずれにも固定されていなくても、第一の可動導体40および第二の可動導体50を上記のように移動させることは可能であり、これにより線路長を上記のように変化させることが可能である。いずれにしても、第一の可動導体40および第二の可動導体50を上記のように移動させるための駆動機構は、2つの可動導体40,50に共通した単一の駆動機構であってもよく、それぞれの可動導体40,50に対応した2つ以上の独立した駆動機構であってもよい。