(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記架橋型ポリアリーレンスルフィド樹脂は、300℃における溶融粘度(ただし、フローテスターを用いて、温度300℃、荷重1.96MPa、オリフィス長とオリフィス径との、前者/後者の比が10/1であるオリフィスを使用して6分間保持した後の測定値)が20〜5,000〔Pa・s〕の範囲である請求項1記載の架橋型ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
前記架橋型ポリアリーレンスルフィド樹脂は、300℃における溶融粘度(ただし、フローテスターを用いて、温度300℃、荷重1.96MPa、オリフィス長とオリフィス径との、前者/後者の比が10/1であるオリフィスを使用して30分間した保持後の測定値)が20〜10,000〔Pa・s〕の範囲である請求項1記載の架橋型ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
前記ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の末端カルボキシ基およびそのアルカリ金属塩の合計数が25〜60〔μmol/g〕である請求項1記載の架橋型ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の架橋型ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法は、非ニュートン指数が0.90〜1.25であり、かつ300℃における溶融粘度(ただし、フローテスターを用いて、温度300℃、荷重1.96MPa、オリフィス長とオリフィス径との、前者/後者の比が10/1であるオリフィスを使用して6分間保持した後の測定値)が5〜1,000〔Pa・s〕の範囲にある線状高分子量PAS樹脂(A)(以下、単にPAS樹脂(A)と表記する)および下記構造式(1)で表される化合物(B)(以下、CP−MABA(B)と表記する)を、当該ポリアリーレンスルフィド樹脂(A)1質量部に対し当該化合物(B)が0.002〜0.01質量部の範囲となる割合で含有するポリアリーレンスルフィド樹脂組成物(C)(以下、単にPAS樹脂組成物(C)と表記する)を酸化性雰囲気下で加熱処理することを特徴とする。
【0015】
【化2】
(構造式(1)中、Y
1はハロゲン原子を、Y
2は水素原子又はハロゲン原子を、Xは水素原子又はアルカリ金属原子を、R
1は水素原子又は炭素原子数1〜3の範囲のアルキル基又はシクロヘキシル基を表し、R
2は炭素原子数3〜5の範囲のアルキレン基を表す。)
【0016】
本発明に用いるPAS樹脂組成物(C)は、非ニュートン指数が0.90〜1.25であり、かつ300℃における溶融粘度(ただし、フローテスターを用いて、温度300℃、荷重1.96MPa、オリフィス長とオリフィス径との、前者/後者の比が10/1であるオリフィスを使用して6分間保持した後の測定値)が5〜1,000〔Pa・s〕の範囲にある線状高分子量PAS樹脂(A)およびCP−MABA(B)を、当該線状高分子量PAS樹脂(A)1質量部に対し当該化合物(B)が0.002〜0.01質量部の範囲となる割合で含有する。
【0017】
このPAS樹脂組成物(C)は、例えば、有機極性溶媒中において、固形のアルカリ金属硫化物の存在下、ポリハロ芳香族化合物(a)、アルカリ金属水硫化物(b)および有機酸アルカリ金属塩(c)を重合反応させることによってPAS樹脂(A)とCP−MABA(B)を含む粗反応混合物を得た後、得られた粗反応混合物から前記溶媒を固液分離させてPAS樹脂(A)とCP−MABA(B)を含む反応混合物を得て、さらに、熱水洗工程を含む精製処理を行うことによって上記構造式(1)で表されるCP−MABA(B)を当該PAS樹脂(A)1質量部に対しCP−MABA(B)が0.002〜0.01質量部の範囲となるよう調整することによって得られる。以下、より具体的に説明する。
【0018】
本発明に用いるPAS樹脂組成物(C)の製造方法としては、例えば固形の無水アルカリ金属硫化物を含むスラリー(I)の製造工程、得られたスラリー(I)をさらに脱水するスラリー(II)の製造工程、得られたスラリー(II)を用いてスルフィド化剤と重合するPAS樹脂の重合工程を経て製造される方法を挙げることができる。
【0019】
ここで、固形の無水アルカリ金属硫化物を含むスラリー(I)の製造工程としては、例えば、非加水分解性有機溶媒の存在下、(i)含水アルカリ金属硫化物、又は、(ii)含水アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と、前記脂肪族系環状化合物(c1)とを、加熱脱水させながら反応させて、固形の無水アルカリ金属硫化物(d)、アルカリ金属水硫化物(b)、加水分解によって開環しうる脂肪族系環状化合物(c1)の加水分解物のアルカリ金属塩(c2)および非加水分解性有機溶媒を含むスラリー(以下スラリー(I)という)を製造する工程が挙げられる。
【0020】
前記含水アルカリ金属硫化物は、例えば硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム等の化合物の液状又は固体状の含水物が挙げられ、その固形分濃度は10〜80質量%の範囲、特に35〜65質量%の範囲であることが好ましい。
【0021】
前記含水アルカリ金属水硫化物は、例えば、水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム、水硫化ルビジウム及び水硫化セシウム等の化合物の液状又は固体状の含水物が挙げられ、その固形分濃度は10〜80質量%範囲のであることが好ましい。これらの中でも水硫化リチウムの含水物と水硫化ナトリウムの含水物が好ましく、特に水硫化ナトリウムの含水物が好ましい。
【0022】
前記アルカリ金属水酸化物は、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、及びこれらの水溶液が挙げられる。なお、該水溶液を用いる場合には、濃度20質量%以上の水溶液であることが工程1の脱水処理が容易である点から好ましい。アルカリ金属水酸化物の使用量は、固形のアルカリ金属硫化物の生成が促進される点から、アルカリ金属水硫化物(b)1モル当たり、0.8〜1.2モルの範囲が好ましく、特に0.9〜1.1モルの範囲がより好ましい。
【0023】
上記のとおり、固形の無水アルカリ金属硫化物(d)は、含水アルカリ金属硫化物を加熱脱水反応させ、又は、含水アルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物とを加熱脱水反応させることによって生成し、スラリー(I)中に存在するものであるが、市販の固形の無水アルカリ金属硫化物でも、また、予め硫化水素とアルカリ金属水酸化物とを反応させて得られた含水アルカリ金属水硫化物(H
2S+NaOH→NaSH+H
2O)を、アルカリ金属水酸化物と加熱脱水反応させることによって生成させたものであっても(例えば、NaSH+NaOH→Na
2S+H
2O)、さらには硫化水素に過剰量のアルカリ金属水酸化物を反応させ、直接、アルカリ金属硫化物を生成させたものを用いてもよい(例えば、H
2S+2NaOH→Na
2S+2H
2O)。
【0024】
スラリー(I)の製造工程における脱水処理としては、更に具体的には以下の方法が挙げられる。
【0025】
(方法1−A)加水分解によって開環し得る脂肪族系環状化合物(c1)、非加水分解性有機溶媒、含水アルカリ金属硫化物、更に必要に応じて前記アルカリ金属水硫化物又はアルカリ金属水酸化物の所定量を反応容器に仕込み、含水アルカリ金属硫化物の沸点以上で、かつ、水が共沸により除去される温度、具体的には80〜220℃の範囲、好ましくは100〜200℃の範囲にまで加熱して脱水する。
【0026】
(方法1−B)加水分解によって開環し得る脂肪族系環状化合物(c1)、非加水分解性有機溶媒、含水アルカリ水硫化物、及びアルカリ金属水酸化物の所定量を反応容器に仕込み、この仕込みとほぼ同時に含水アルカリ金属硫化物を生成させた後、前記含水アルカリ金属硫化物の沸点以上で、かつ、水が共沸により除去される温度、具体的には80〜220℃の範囲、好ましくは100〜200℃の範囲にまで加熱して脱水する。
【0027】
上記方法1−A及び方法1−Bは、共沸留出した水と非加水分解性有機溶媒とをデカンターで分離し、非加水分解性有機溶媒のみを反応系内に戻すか、共沸留出した量に相当する量の非加水分解性有機溶媒を追加仕込みするか、あるいは、共沸留去する量以上の非加水分解性有機溶媒を予め過剰に仕込んでおいてもよい。
【0028】
また、脱水初期段階の反応系内は、有機層/水層との2層になっているが、脱水が進行するとともに無水アルカリ金属硫化物が微粒子状となって析出し、非加水分解性有機溶媒中に均一に分散する。さらに、反応系内の加水分解によって開環し得る脂肪族系環状化合物(c1)のほぼ全てが加水分解するまで継続して脱水処理を行う。
【0029】
前記脱水処理後の反応系内の全水分量は極力少ない方が好ましく、具体的には、反応系内の硫黄原子1モル当たり、0.1モルを超え、0.99モル以下となる範囲、特に0.6〜0.96モルとなる範囲であって、かつ、反応系内に現存する水分量が反応系内の硫黄原子1モル当たり、0.03〜0.11モルの範囲となる割合であることが好ましい。ここで、「反応系内に現存する水分量」とは、反応系内の全水分量のうち、前記化合物(c1)の加水分解に消費された水分を除く水、即ち、結晶水、H
2O等として現に反応系内に存在する水分(以下、これらを「結晶水等」という。)の総量をいう。
【0030】
前記脂肪族系環状化合物(c1)の仕込み量は、含水アルカリ金属水硫化物又は含水アルカリ金属水硫化物1モルに対して0.01モル以上0.9モル未満となる割合で用いることが好ましく、さらに0.04〜0.4モルの範囲となる割合で用いることがより好ましい。
【0031】
前記非加水分解性有機溶媒としては、水に不活性な有機溶媒であればよく、例えば、汎用の脂肪族炭化水素類、芳香族炭化水素類、あるいはポリハロ芳香族化合物が挙げられる。本発明では特に、ポリハロ芳香族化合物(a)を用いることが、スラリー調整後、別途、反応系にポリハロ芳香族化合物を加える必要が無くなり生産性が良好となる点から好ましい。
【0032】
前記ポリハロ芳香族化合物(a)としては、例えば、p−ジハロベンゼン、m−ジハロベンゼン、o−ジハロベンゼン、1,2,3−トリハロベンゼン、1,2,4−トリハロベンゼン、1,3,5−トリハロベンゼン、1,2,3,5−テトラハロベンゼン、1,2,4,5−テトラハロベンゼン、1,4,6−トリハロナフタレン、2,5−ジハロトルエン、1,4−ジハロナフタレン、1−メトキシ−2,5−ジハロベンゼン、4,4’−ジハロビフェニル、3,5−ジハロ安息香酸、2,4−ジハロ安息香酸、2,5−ジハロニトロベンゼン、2,4−ジハロニトロベンゼン、2,4−ジハロアニソール、p,p’−ジハロジフェニルエーテル、4,4’−ジハロベンゾフェノン、4,4’−ジハロジフェニルスルホン、4,4’−ジハロジフェニルスルホキシド、4,4’−ジハロジフェニルスルフィド、及び、上記各化合物の芳香環に炭素原子数1〜18のアルキル基を核置換基として有する化合物が挙げられる。また、上記各化合物中に含まれるハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子であることが望ましい。
【0033】
前記非加水分解性有機溶媒の使用量は特に制限されるものではないが、得られるスラリー(I)の流動性が良好となる量が好ましい。特に、非加水分解性有機溶媒としてポリハロ芳香族化合物(a)を用いる場合には、後続のスラリー(II)の製造工程における反応性や重合性が優れる点を考慮して、含水アルカリ金属硫化物、又は、含水アルカリ水硫化物 1モルに対して、0.2〜5.0モルの範囲が好ましく、特に0.3〜2.0モルの範囲が好ましい。
【0034】
次に、スラリー(II)の製造工程としては、前記スラリー(I)に更に、非プロトン性極性有機溶媒を加え、水を留去し、PAS樹脂の重合工程時に反応系内に存在する非プロトン性極性有機溶媒1モルに対して反応系内現存する水分量を0.02モル以下となるまで脱水する工程が挙げられる。
【0035】
具体的には、スラリー(I)が形成された後、更に好ましくは、スラリー(I)内の結晶水等の存在量が反応系内の硫黄原子1モル当たり、0.03〜0.11モルとなる割合となった後に、反応系内に非プロトン性極性有機溶媒を加え脱水を行うものである。この際、加える非プロトン性極性有機溶媒の量は反応系内に存在する硫黄原子1モルに対して0.5〜5モルとなる割合であることが非プロトン性極性有機溶媒を加えることで残留する結晶水等を効率的に溶液中に抽出させることができる点から好ましい。スラリー(II)の製造工程における脱水処理は、通常、温度180〜220℃の範囲、ゲージ圧0.0〜0.1MPaの範囲の条件下、特に温度180〜200℃の範囲、ゲージ圧0.0〜0.05MPaの範囲の条件下で行うことが、脱水効率に優れ、かつ、重合を阻害する副反応の生成を抑制できる点から好ましい。
【0036】
具体的操作としては、上記の温度・圧力条件下に非プロトン性極性有機溶媒と水との混合物を蒸留によって単離し、この混合蒸気をコンデンサーで凝縮、デカンター等で分離し、共沸留出した非加水分解性有機溶媒を反応系内に戻す方法が挙げられる。上記操作により、PAS樹脂の重合工程の開始時に反応系内に現存する水分量を、反応系内の非プロトン性極性有機溶媒1モルに対して0.02モル以下、また、反応系内に存在する硫黄原子1モルに対して0.02モル未満、より好ましくは0.01モル以下となる割合に調整する。これを上回る場合には、PAS樹脂の重合工程で重合阻害となる副生成物の生成を生じることとなる。
【0037】
なお、スラリー(II)の製造工程で加える非プロトン性極性有機溶媒としては、例えば、NMP、N−シクロヘキシル−2−ピロリドン、N−メチル−ε−カプロラクタム、ホルムアミド、アセトアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、2−ピロリドン、ε−カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、テトラメチル尿素、N−ジメチルプロピレン尿素、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン酸のアミド尿素、及びラクタム類;スルホラン、ジメチルスルホラン等のスルホラン類;ベンゾニトリル等のニトリル類;メチルフェニルケトン等のケトン類及びこれらの混合物などを挙げることができる。
【0038】
次に、本発明においてPAS樹脂の重合工程としては、有機極性溶媒中において、固形のアルカリ金属硫化物の存在下、ポリハロ芳香族化合物(a)、アルカリ金属水硫化物(b)および有機酸アルカリ金属塩(c)を重合反応させる工程を挙げることができる。
より具体的には、例えば、ポリハロ芳香族化合物(a)と、アルカリ金属水硫化物(b)と、前記化合物(c1)の加水分解物のアルカリ金属塩(c2)とを、スラリー中で、かつ、反応系内の水分量を限りなく低減させた状態で反応させて重合を行う工程を挙げることができる。
【0039】
PAS樹脂の重合工程は、塩化リチウムと酢酸リチウムなど公知のリチウム塩化合物の存在下で行っても良い。該リチウム塩化合物は無水物、含水物又は水溶液として用いることができ、その使用量は、スラリー(I)で用いた含水アルカリ金属硫化物及びその後に加えたスルフィド化剤の合計モル数を1モルとした場合に、0.01モル以上0.9モル未満の範囲となる割合であることがPAS樹脂の重合工程における反応性の改善効果が顕著になる点から好ましく、特に前記アルカリ金属塩(c2)の存在割合が反応系内に存在する硫黄原子の1モルに対して0.04〜0.4モルの範囲となる割合であって、かつ、反応系内のリチウムイオン量が前記アルカリ金属塩(c2)に対して、モル基準で1.8〜2.2モルとなる範囲であることが、PAS樹脂がより高分子量化する点からより好ましい。
【0040】
また、反応ないし重合反応の原料である前記アルカリ金属水硫化物は、必要により、PAS樹脂の重合工程の任意の段階で別途添加しても良い。さらに、スラリーの固形分を構成するアルカリ金属硫化物の結晶中に、微量のアルカリ金属水硫化物やチオ硫酸アルカリ金属が存在するため、少量のアルカリ金属水酸化物を加えても良い。
【0041】
PAS樹脂の重合工程で反応及び重合を行う具体的方法は、スラリー(II)に、必要により、ポリハロ芳香族化合物(a)、アルカリ金属水硫化物(b)、非プロトン性極性有機溶媒、前記リチウム塩化合物を加え、180〜300℃の範囲、好ましくは200〜280℃の範囲で反応ないし重合させることが好ましい。重合反応は定温で行うこともできるが、段階的に又は連続的に昇温しながら行うこともできる。
【0042】
また、PAS樹脂の重合工程におけるポリハロ芳香族化合物(a)の量は、具体的には、反応系内の硫黄原子1モル当たり、0.8〜1.2モルの範囲が好ましく、特に0.9〜1.1モルの範囲がより高分子量のPAS樹脂を得られる点から好ましい。
【0043】
PAS樹脂の重合工程の反応ないし重合反応において、更に非プロトン性極性有機溶媒を加えてもよい。反応内に存在する非プロトン性極性有機溶媒の総使用量は、特に制限されるものではないが、反応系内に存在する硫黄原子1モル当たり0.6〜10モルの範囲となる様に非プロトン性極性有機溶媒を追加することが好ましく、更にはPAS樹脂のより一層の高分子量化が可能となる点から2〜6モルの範囲が好ましい。また、反応容器の容積当たりの反応体濃度の増加という観点からは、反応系内に存在する硫黄原子1モル当たり1〜3モルの範囲が好ましい。
【0044】
また、PAS樹脂の重合工程における反応ないし重合は、その初期においては、反応系内の水分量は実質的に無水状態となる。即ち、スラリーの製造工程における脱水工程で前記脂肪族系環状化合物(c1)の加水分解に供された水は、スラリー中の固形分が消失した時点以後、該加水分解物が閉環反応され、反応系内に出現することになる。従って、本発明のPAS樹脂の重合工程では前記固形のアルカリ金属硫化物の消費率が10%の時点における該重合スラリー中の水分量が0.2質量%以下となる範囲であることが、最終的に得られるPAS樹脂の高分子量化の点から好ましい。
【0045】
以上詳述した各工程に用いられる装置は、先ず、スラリー(I)および(II)の製造工程では、脱水容器に撹拌装置、蒸気留出ライン、コンデンサー、デカンター、留出液戻しライン、排気ライン、硫化水素捕捉装置、及び加熱装置を備えた脱水装置が挙げられる。また、これらの各工程の反応ないし重合で使用する反応容器は、特に限定されるものではないが、接液部がチタン、クロム、ジルコニウム等で作られた反応容器を用いることが好ましい。また上記の各工程の反応ないし重合は、バッチ方式、回分方式あるいは連続方式など通常の各重合方式を採用することができる。また、脱水工程及び重合工程何れにおいても、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行なうことが好ましい。
【0046】
上記のPAS樹脂の重合工程の反応終了後の粗反応混合液中には、PAS樹脂(A)、CP−MABA(B)などの副生成物、アルカリ金属塩やアルカリ金属水硫化物を始めとする未反応物質、溶媒などが含まれているため、該粗反応混合物から溶媒などを固液分離して、PAS樹脂(A)、CP−MABA(B)を含む反応混合物を回収する。回収方法としては、フラッシュ法、クウェンチ法など従来公知の方法を特に制限なく用いることができるが、簡便に固形物を回収する場合にはフラッシュ法が好ましく、一方、PAS樹脂の粒度を制御する場合にはクウェンチ法が好ましい。
【0047】
フラッシュ法は、粗反応混合物から常圧又は減圧下で脱溶媒することにより、反応溶媒を固液分離してPAS樹脂とCP−MABA(B)を含む反応混合物を回収する方法である。より具体的には、重合反応終了後の粗反応混合物を、高温高圧(通常230〜300℃、0.2〜3MPa)の状態から常圧もしくは減圧の雰囲気中へフラッシュさせ溶媒回収と同時に重合体を粉粒状にして回収する。
【0048】
一方、クウェンチ法は、粗反応混合物からポリアリーレンスルフィド樹脂を結晶化することにより、該粗反応混合物から前記溶媒を固液分離させてPAS樹脂と化合物(B)を含む反応混合物を回収する方法である。より具体的には重合反応終了後の粗反応混合物を、高温高圧(通常230〜300℃、0.2〜3MPa)の状態から、平均徐冷速度として0.01から5℃/分の範囲で徐々に冷却して反応系内のPAS成分を析出させ、かつ70℃以上、好ましくは100℃以上の状態で濾別することでPAS樹脂とCP−MABA(B)を含む反応混合物を含む回収する方法である。
【0049】
上記のように固液分離してPAS樹脂(A)とCP−MABA(B)とを含む反応混合物を得た後、次に、熱水洗工程として、反応混合物を水洗浄することにより、前記CP−MABA(B)の一部を反応混合液から除去して、PAS樹脂(A)に対する当該化合物(B)の残留量を質量基準で2,000〜10,000ppmの範囲、すなわち、PAS樹脂(A)1質量部に対し当該化合物(B)が0.002〜0.01質量部の範囲となる割合に調整する。
【0050】
その際、フラッシュ法で固液分離した反応混合物の場合には、沸点以上の熱水で当該反応混合物を洗浄する(高温熱水洗)。ただし、フラッシュ法での固液分離は反応混合物中に有機塩類やアルカリ金属ハロゲン化物などの無機塩類を多く含む傾向にあるため、一旦、沸点未満の水で当該反応混合物を洗浄(温水洗)した後に、高温熱水洗を行うことが好ましい。一方、クウェンチ法で固液分離した反応混合物は、PAS樹脂表面への水の浸透が良いため、固液分離後の反応混合物を温水洗のみ行うことが好ましい。
【0051】
温水洗の方法は、例えば反応スラリーに水を加えて撹拌した後にろ過装置を用いてろ過する方法、前記したろ過によって得られた水分を含有するろ過残渣(以下「含水ケーキ」と略記する。)に再度水を加えてスラリーとした後にろ過する方法、または前記含水ケーキがろ過器に保持された状態で再度水を加えろ過する方法等が挙げられる。水洗の際に反応スラリーに加える水の量は最終的に得られるポリアリーレンスルフィドの理論収量に対して2倍〜10倍の範囲にあることが好ましく洗浄効率の点から好ましく、上記の量の水を2〜10回、好ましくは2〜4回に分割して水洗に供することが好ましい。前記水洗時の水の温度は50〜90℃の範囲であることが、やはり洗浄効率が良好となる点から好ましく、なかでも70〜90℃の範囲であることが特に好ましい。
【0052】
一方、高温熱水洗における熱水の温度は、例えば、120〜200℃の範囲であることが好ましい。200℃を超える温度で熱水洗工程を行うと前記CP−MABA(B)が除去されやすく、PAS樹脂(A)に対し所定割合未満に除去される傾向にあり、一方、120℃未満では、CP−MABA(B)の除去効率が低くなり、また、アルカリ金属水硫化物やその酸化物、例えば硫黄原子(S)、その同素体、チオ硫酸アルカリ金属などの未反応物質やその誘導体の除去効率も低くなるため好ましくない。前記圧力条件としては、反応器内の気相圧力を0.2〜4.6MPaの範囲とすることが好ましい。
【0053】
高温熱水洗工程で用いる熱水の量はポリアリーレンスルフィド樹脂(A)の質量に対して1.5倍〜10倍の範囲であることが好ましい。1.5倍以上であれば、スラリーの流動性が改善され均一加熱されることにより前記CP−MABA(B)の除去効率が向上する。一方、10倍以下の場合、スラリーを加熱するために必要な熱量が経済的な範囲に抑制され易く好ましい。また、PAS樹脂(A)の質量に対して1.5倍〜10倍の範囲の量の熱水を2回以上に分けて熱水洗を行っても良い。
【0054】
高温熱水洗を行う場合は、圧力容器中においてPAS樹脂(A)、CP−MABA(B)および熱水を含むスラリーを攪拌することによって、PAS樹脂(A)の粒子中に包含されているCP−MABA(B)を所定の濃度範囲になるまで除去ないし残留させるよう調整することが好ましい。
【0055】
さらに、熱水洗工程の際に酸や塩基を添加してpH調整をすることによって、PAS樹脂(A)の反応性や結晶化速度、アルカリ金属含有量等を制御することができ、熱水洗工程後のpHが6.5〜11.5の範囲、より好ましくは6.5〜8.5の範囲となるように制御することができる。
【0056】
上記熱水洗工程を経て得られた反応生成物は、必要ならば酸処理してPAS樹脂(A)の分子構造中に存在するカルボン酸金属塩をカルボン酸に変換させても良い。
該酸処理は、熱水洗工程の熱水洗を実施した後に、得られたスラリーに対して酸処理する方法であってもよいし、または熱水洗後にろ過し、イオン交換水を加えて再度ろ過して得られた含水ケーキをスラリー化した後に酸処理する方法、または熱水洗後にろ過し、イオン交換水を加えて再度ろ過した後に固形分であるPASに対して酸処理する方法等が挙げられる。これらのなかでも、熱水洗後にろ過し、イオン交換水を加えて再度ろ過して得られた含水ケーキをスラリー化した後に酸処理する方法、または熱水洗後にろ過し、イオン交換水を加えて再度ろ過した後に固形分であるPASに対して酸処理する方法が前記CP−MABA(B)のアルカリ金属塩の除去効率に優れる点から好ましい。
【0057】
前記酸処理の温度条件は5〜100℃の範囲が挙げられるが、PAS樹脂(A)中のカルボン酸量を増大させ、かつ、酸による分子量低下を防止する点から特に15〜80℃の範囲の温度であることが好ましい。前記酸処理工程の際のpHは、酸処理工程後において5.0〜7.0の範囲に制御されることがPAS樹脂中のカルボキシ基含有量が高まる点から好ましい。特に、PAS樹脂中のカルボン酸含有率がより高く、かつ、酸による分子量低下を良好に防止できる点から5.5〜6.5なる範囲であることが好ましい。pHの測定方法は、例えば、スラリーに対して酸を添加する場合には該スラリーをろ過したろ液のpHを測定する方法が挙げられ、ろ過後の固形分であるPAS樹脂に対して酸処理する場合には、所定の酸濃度の水溶液を用いて洗浄を繰り返して得られたろ液を全て混合した洗浄ろ液のpHを測定する方法を挙げることができる。
【0058】
熱水洗工程における酸処理や熱水洗後の酸処理工程で用いる酸としては、例えば、塩酸、硫酸、炭酸、酢酸等が挙げられ、これらの中でも炭酸や酢酸が好ましい。また、pH調整に用いる塩基性化合物としては水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、または炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、リン酸ナトリウム等を用いても良い。
【0059】
上記の熱水洗工程およびその後の酸処理工程を経て得られたPAS樹脂(A)とCP−MABA(B)とを含むPAS樹脂組成物(C)は、そのまま用いることもできるし、水などの溶媒が蒸発する温度に加熱して、乾燥処理を行っても良い。乾燥は、真空下で行っても良いし、空気中や窒素などの不活性雰囲気下で行っても良い。
【0060】
以上の工程を経て得られたPAS樹脂組成物(C)中に含まれるPAS樹脂(A)は300℃で測定した溶融粘度(V6)が5〜1,000〔Pa・s〕の範囲のものとなる。ただし、300℃で測定した溶融粘度(V6)とは、フローテスターを用いて、温度300℃、荷重1.96MPa、オリフィス長とオリフィス径との、前者/後者の比が10/1であるオリフィスを使用して6分間保持した後の溶融粘度を表す。また、PAS樹脂(A)は、その非ニュートン指数が0.90〜1.25の範囲、好ましくは1.00〜1.20の範囲である。ただし、非ニュートン指数(N値)は、キャピログラフを用いて300℃、オリフィス長(L)とオリフィス径(D)の比、L/D=40の条件下で、剪断速度及び剪断応力を測定し、下記式を用いて算出した値である。
【0061】
【数1】
[ただし、SRは剪断速度(秒
−1)、SSは剪断応力(ダイン/cm
2)、そしてKは定数を示す。]N値は1に近いほどPPSは線状に近い構造であり、N値が高いほど分岐が進んだ構造であることを示す。さらに、本発明のPAS樹脂(A)は、末端にカルボキシ基およびそのアルカリ金属塩を樹脂中25〜60〔μmol/g〕の範囲、好ましくは30〜55〔μmol/g〕の範囲で含有する。そのカルボキシ基およびそのアルカリ金属塩は、熱水洗工程における熱水温度が高いほど当該樹脂中の末端カルボキシ基数が多くなり、逆に熱水温度が低いほど樹脂中の末端カルボキシ基数も少なくなる傾向となる。PAS樹脂(A)中の末端カルボキシ基の具体的な数値について特に限定する必要はないが、当該樹脂中に25〔μmol/g〕以下の割合とすることが好ましく、0〜20〔μmol/g〕の範囲とすることがより好ましくは、5〜15〔μmol/g〕の範囲とすることがさらに好ましい。なお、0〔μmol/g〕は好ましくは末端カルボキシ基を含有しないことを意味するが、通常は、検出限界以下であることを意味する。
【0062】
このようにして得られたPAS樹脂組成物(C)は、PAS樹脂(A)およびCP−MABA(B)を、当該PAS樹脂(A)1質量部に対しCP−MABA(B)を0.002〜0.01質量部の範囲となる割合で含有することから、樹脂の溶融安定性に優れ、溶融物の増粘を抑えることができる。このため、PAS樹脂組成物(C)に熱酸化架橋処理を行い、さらに高粘度、高靭性の架橋型PAS樹脂を製造することができる。
【0063】
この熱酸化架橋処理としては、前記PAS樹脂組成物(C)を、空気あるいは酸素富化空気中などの酸化性雰囲気下で加熱処理を行う方法が挙げられる。前記加熱処理は押出機等を用いてPAS樹脂の融点以上で、PAS樹脂(A)を溶融した状態で行ってもよいが、PAS樹脂(A)の熱劣化の可能性が高まるため、融点プラス100℃以下で行うことが好ましい。また、融点以下の固相(固体)状態で加熱処理する場合は、加熱処理に要する時間と、加熱処理後のPASの溶融時の熱安定性が良好となる観点から180℃〜PAS樹脂の融点より20℃低い温度範囲であることが好ましい。ただし、ここでの融点とは、示差走査熱量計(パーキンエルマー製DSC装置 Pyris Diamond)を用いてJIS K 7121に準拠して測定したものをさす。
【0064】
酸化性雰囲気の酸素濃度は好ましくは5〜30体積%の範囲、特に好ましくは10〜25体積%の範囲である。上記範囲を超えては、ラジカル発生量が増大して加熱処理時の増粘が著しくなり、また色相が暗色化して好ましくない。上記範囲未満では、酸化速度が遅くなり処理に長時間を要し好ましくない。
【0065】
このようにして得られた本発明の架橋型PAS樹脂は、その非ニュートン指数が1.26〜2.00の範囲であり、好ましくは1.30〜1.95の範囲であり、さらに好ましくは1.35〜1.90の範囲である。また、本発明の架橋型PAS樹脂は、300℃で測定した溶融粘度(V6)が20〜5,000〔Pa・s〕の範囲であり、より好ましくは100〜2,000〔Pa・s〕の範囲である。
さらに、本発明の架橋型PAS樹脂は、300℃で測定した溶融粘度(V30)が20〜10,000〔Pa・s〕の範囲であり、より好ましくは100〜4,000〔Pa・s〕の範囲である。ただし、300℃で測定した溶融粘度(V30)とは、フローテスターを用いて、温度300℃、荷重1.96MPa、オリフィス長とオリフィス径との、前者/後者の比が10/1であるオリフィスを使用して30分間保持した後の溶融粘度を表す。
また、本発明の架橋型PAS樹脂は、酸化性雰囲気下での加熱処理において、下記数式で表される増粘率αが1〜100%の範囲である。増粘率が100%以下であれば、溶融安定性に優れ、溶融物の増粘を抑えることができ、異常増粘やゲル化を防止できる。
【0066】
【数2】
(ただし、式中、V30およびV6はそれぞれ、フローテスターを用いて、温度300℃、荷重1.96MPa、オリフィス長とオリフィス径との、前者/後者の比が10/1であるオリフィスを使用して6分間および30分間保持した後の溶融粘度を表す。)
【0067】
さらに、本発明の架橋型PAS樹脂は、増粘率αを100%以下に低く抑え、溶融物の増粘を抑えることができることから、成形固化時の結晶化時間を短縮することができる。
【0068】
以上詳述した本発明の架橋型PAS樹脂は、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形の如き各種溶融加工法により、耐熱性、成形加工性、寸法安定性等に優れた成形物に加工することができる。
【0069】
また、本発明の架橋型PAS樹脂は、更に強度、耐熱性、寸法安定性等の性能を更に改善するために、各種充填材と組み合わせたPAS樹脂組成物として使用することができる。充填材としては、特に制限されるものではないが、例えば、繊維状充填材、無機充填材等が挙げられる。繊維状充填材としては、ガラス繊維、炭素繊維、シランガラス繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、金属繊維、チタン酸カリウム、炭化珪素、硫酸カルシウム、珪酸カルシウム等の繊維、ウォラストナイト等の天然繊維等が使用できる。また無機充填材としては、硫酸バリウム、硫酸カルシウム、クレー、バイロフェライト、ベントナイト、セリサイト、ゼオライト、マイカ、雲母、タルク、アタルパルジャイト、フェライト、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ガラスビーズ等が使用できる。また、成形加工の際に添加剤として離型剤、着色剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、発泡剤、防錆剤、難燃剤、滑剤等の各種添加剤を含有せしめることができる。
【0070】
更に、本発明により得られたPAS樹脂は、用途に応じて、適宜、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリーレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ四弗化エチレン、ポリ二弗化エチレン、ポリスチレン、ABS樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、液晶ポリマー等の合成樹脂、あるいは、ポリオレフィン系ゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム等のエラストマーを配合したPAS樹脂組成物として使用してもよい。
【0071】
本発明のPAS樹脂は、PAS樹脂の本来有する耐熱性、寸法安定性等の諸性能も具備しているので、例えば、コネクタ、プリント基板及び封止成形品等の電気・電子部品、ランプリフレクター及び各種電装品部品などの自動車部品、各種建築物、航空機及び自動車などの内装用材料、あるいはOA機器部品、カメラ部品及び時計部品などの精密部品等の射出成形若しくは圧縮成形、若しくはコンポジット、シート、パイプなどの押出成形、又は引抜成形などの各種成形加工用の材料として、あるいは繊維若しくはフィルム用の材料として幅広く有用である。特に、本発明の架橋型PAS樹脂は結晶化時間が短く、射出成形用の材料として用いた場合に有用であり、離型性を向上させ、成形サイクルをより短縮できることから、成形加工性や成形効率の向上が可能である。
【実施例】
【0072】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれら実施例にのみ限定されるものではない。
【0073】
[溶融安定性の評価]
フローテスター(島津製作所製高化式フローテスター「CFT−500D型」)を用いて、温度300℃、荷重1.96MPa、オリフィス長とオリフィス径との、前者/後者の比が10/1であるオリフィスを使用して6分間又は30分間保持後の溶融粘度を測定した。溶融安定性は、増粘率αにより比較した。増粘率αは次式のように定義した。
【0074】
【数3】
増粘率αが小さい程、樹脂の熱安定性が良いことを意味する。ここで、「V6」は6分保持値、「V30」は30分保持値である。
【0075】
[CP−MABAの定量]
PPS樹脂50gにイオン交換水140gと0.1mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液10gを加えて、よく撹拌して十分にスラリー化した後に耐圧容器中、230℃に昇温し30分間撹拌して、スラリーからCP−MABAを抽出した。この抽出液をHPLCで測定して、標準サンプルと同じ保持時間のピーク面積と検量線とから抽出液中の濃度を求め、PPS樹脂中のCP−MABA含有量を算出した。
【0076】
[カルボキシ基含有PAS樹脂(A)のカルボキシ基の定量方法]
定量方法A:実施例1〜5および比較例1〜3で得られたPPS樹脂を350℃でプレスしたのち、急冷することによって非晶性を示すフィルムを作成し、フーリエ変換赤外分光装置(以下「FT−IR装置」と略記する。)で測定した。赤外吸収スペクトルのうち630.6cm
−1の吸収に対する1705cm
−1の吸収の相対強度を求め、別途後述する方法により作成した検量線を用いて測定サンプル中のカルボキシ基の含有量(以下「カルボキシ基の全含有量」と略記する。)を求めた。カルボキシ基の含有量は樹脂組成物1g中のモル数で示され、その単位は〔μmol/g〕で表される。検量線の作成方法は酸処理を行わずにカルボン酸塩を分子末端に含有するポリアリーレンスルフィド樹脂に所定量の4−クロロフェニル酢酸を加え良く混合したのち、前記と同じようにしてフィルムを作成し、FT−IR装置で測定を行い、カルボキシ基含有量に対する、前記吸収の相対強度比をプロットした検量線を作成した。
【0077】
[カルボキシ基含有PAS樹脂(A)のカルボキシ基およびそのアルカリ金属塩の合計量の定量方法]
定量方法B:下記実施例1と同様にしてPPS樹脂の重合工程(工程2)まで行い、該重合工程で得られたスラリー650gを3リットルの水に注いで80℃で1時間撹拌した後、濾過した。このケーキを再び3リットルの温水で1時間撹拌し、洗浄した後、濾過した。この操作を4回繰り返した。このケーキを再び3リットルの温水と、塩酸を加え、pH3.0に調整した後、1時間撹拌し、洗浄した後、濾過した。このケーキを再び3リットルの温水で1時間撹拌し、洗浄した後、濾過した。この操作を2回繰り返した。熱風乾燥機を用いて120℃で一晩乾燥して白色の粉末状の測定用PPS樹脂を得た。その後、得られた測定用PPS樹脂を用い、定量方法Aに従って樹脂1g中のカルボキシ基含有量を算出した。
【0078】
[等温結晶化時間の測定方法]
示差走査型熱量計(パーキンエルマー製DSC装置)を用いて、窒素雰囲気中、350℃にて3分間溶融後、急冷し、240℃保持する。240℃での保持開始から結晶化時の発熱ピークの頂点までに要した時間τmaxを求めた。
【0079】
〔実施例1〕
(スラリー製造工程:無水硫化ナトリウム組成物の製造工程)
圧力計、温度計、コンデンサー、デカンター、精留塔を連結した撹拌翼付き150リットルオートクレーブにp−ジクロロベンゼン(以下、p−DCBと略す)33.222kg(226モル)、NMP2.280kg(23モル)、47.23質量%NaSH水溶液27.300kg(NaSHとして230モル)、及び49.21質量%NaOH水溶液18.533g(NaOHとして228モル)を仕込み、撹拌しながら窒素雰囲気下で173℃まで5時間掛けて昇温して、水27.300kgを留出させた後、釜を密閉した。脱水時に共沸により留出したDCBはデカンターで分離して、随時釜内に戻した。脱水終了後の釜内は微粒子状の無水硫化ナトリウム組成物がDCB中に分散した状態であった。
【0080】
(重合工程:PPSの製造工程)
(工程1) 上記脱水工程終了後に、内温を160℃に冷却し、NMP47.492kg(479モル)を仕込み、185℃まで昇温した。圧力が0.00MPaに到達した時点で、精留塔を連結したバルブを開放し、内温200℃まで1時間掛けて昇温した。この際、精留塔出口温度が110℃以下になる様に冷却とバルブ開度で制御した。留出したDCBと水の混合蒸気はコンデンサーで凝縮し、デカンターで分離して、DCBは釜へ戻した。留出水量は179gであった。
【0081】
(工程2) 内温200℃から230℃まで3時間掛けて昇温し、230℃で3時間撹拌した後、250℃まで昇温し、1時間撹拌した。最終圧力は0.30MPaであった。
【0082】
(熱水洗工程:PPSの精製工程)
冷却後に得られたスラリー260g中に含まれるNMPを、真空乾燥機で150℃、2時間減圧留去した。この混合物に70℃のイオン交換水360gを加えて10分間攪拌した後にろ過し、ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水480gを加えケーキ洗浄を行った。得られた含水ケーキとイオン交換水180gを0.5リッターオートクレーブに仕込み160℃で30分間攪拌を行った。室温まで冷却した後、ろ過し、ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水480gを加えケーキ洗浄を行った。その後、120℃で4時間乾燥し、溶融粘度(V6)230Pa・s、非ニュートン指数が1.16のPPS樹脂(1)とCP−MABA残留量8250ppmを含むPAS樹脂組成物(1)を得た。得られたPPS樹脂(1)の末端カルボキシ基含有量は13〔μmol/g〕であった。また、別途測定したPPS樹脂(1)に相当する測定用PPS樹脂の末端カルボキシ基およびそのNa塩の全含有量は38〔μmol/g〕であった。
【0083】
(熱処理工程:PPSの熱酸化架橋工程)
乾燥後に得られたPPS樹脂組成物(1)を熱風乾燥機で240℃、3時間熱処理し、溶融粘度(V6)1100Pa・s、溶融粘度(V30)1360Pa・s、溶融安定性α(増粘率)=24%、τmax=9.2分、非ニュートン指数が1.82の架橋型PPS樹脂を得た。
【0084】
〔実施例2〕
オートクレーブ中での熱水洗工程を190℃で行った以外は実施例1と同様の操作を行った。熱水洗工程後に溶融粘度(V6)220Pa・s、非ニュートン指数が1.16のPPS樹脂(2)とCP−MABA残留量2250ppmを含むPPS樹脂組成物(2)を得た。PPS樹脂(2)の末端カルボキシ基含有量は22〔μmol/g〕であった。その後、実施例1と同様に熱処理工程を240℃、6時間で行い、溶融粘度(V6)1030Pa・s、溶融粘度(V30)1810Pa・s、溶融安定性α(増粘率)=76%、τmax=10.4分、非ニュートン指数が1.82の架橋型PPS樹脂を得た。
【0085】
〔比較例1〕
オートクレーブ中での熱水洗工程を220℃で行った以外は実施例1と同様の操作を行った。熱水洗工程後に溶融粘度(V6)210Pa・s、非ニュートン指数が1.16のPPS樹脂(3)とCP−MABA残留量250ppmを含むPPS樹脂組成物(3)を得た。PPS樹脂(3)の末端カルボキシ基含有量は35〔μmol/g〕であった。その後、実施例1と同様に熱処理工程を240℃、9時間で行い、溶融粘度(V6)1090Pa・s、溶融粘度(V30)2690Pa・s、溶融安定性α(増粘率)=147%、τmax=15分以上、非ニュートン指数が1.82の架橋型PPS樹脂を得た。
【0086】
以上の結果から、実施例1、2の架橋型PPS樹脂は、比較例1のものと比較して溶融粘度(V6)がほぼ同じ値でありながら、溶融粘度(V30)を低減しており、溶融安定性に優れることが明らかとなった。また、同様に実施例1、2の架橋型PPS樹脂は、比較例1のものと比較して溶融粘度(V6)がほぼ同じ値でありながら、結晶化時間を短縮できることが明らかとなった。
【0087】
〔実施例3〕
(スラリー製造工程:無水硫化ナトリウム組成物の製造工程)
圧力計、温度計、コンデンサー、デカンター、精留塔を連結した撹拌翼付き150リットルオートクレーブにp−ジクロロベンゼン(以下、p−DCBと略す)34.986kg(238モル)、NMP4.560kg(46モル)、47.23質量%NaSH水溶液27.300kg(NaSHとして230モル)、及び49.21質量%NaOH水溶液18.533g(NaOHとして228モル)を仕込み、撹拌しながら窒素雰囲気下で173℃まで5時間掛けて昇温して、水26.794kgを留出させた後、釜を密閉した。脱水時に共沸により留出したDCBはデカンターで分離して、随時釜内に戻した。脱水終了後の釜内は微粒子状の無水硫化ナトリウム組成物がDCB中に分散した状態であった。
【0088】
(重合工程:PPSの製造工程)
(工程1) 上記脱水工程終了後に、内温を160℃に冷却し、NMP45.203kg(456モル)を仕込み、185℃まで昇温した。圧力が0.00MPaに到達した時点で、精留塔を連結したバルブを開放し、内温200℃まで1時間掛けて昇温した。この際、精留塔出口温度が110℃以下になる様に冷却とバルブ開度で制御した。留出したDCBと水の混合蒸気はコンデンサーで凝縮し、デカンターで分離して、DCBは釜へ戻した。留出水量は273gであった。
【0089】
(工程2) 内温200℃から230℃まで3時間掛けて昇温し、230℃で1時間撹拌した後、250℃まで昇温し、1時間撹拌した。最終圧力は0.50MPaであった。
【0090】
(熱水洗工程:PPSの精製工程)
冷却後に得られたスラリー260g中に含まれるNMPを、真空乾燥機で150℃、2時間減圧留去した。この混合物に70℃のイオン交換水360gを加えて10分間攪拌した後にろ過し、ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水480gを加えケーキ洗浄を行った。得られた含水ケーキとイオン交換水180gを0.5リッターオートクレーブに仕込み160℃で30分間攪拌を行った。室温まで冷却した後、ろ過し、ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水480gを加えケーキ洗浄を行った。その後、120℃で4時間乾燥し、溶融粘度(V6)15Pa・s、非ニュートン指数が1.07のPPS樹脂(4)とCP−MABA残留量9500ppmを含むPAS樹脂組成物(4)を得た。得られたPPS樹脂(4)の末端カルボキシ基含有量は15〔μmol/g〕であった。また、別途測定したPPS樹脂(4)に相当する測定用PPS樹脂の末端カルボキシ基およびそのNa塩の全含有量は51〔μmol/g〕であった。
【0091】
(熱処理工程:PPSの熱酸化架橋工程)
乾燥後に得られたPPS樹脂組成物(4)を熱風乾燥機で260℃、11時間熱処理し、溶融粘度(V6)168Pa・s、溶融粘度(V30)183Pa・s、溶融安定性α(増粘率)=9%、τmax=2.3分、非ニュートン指数が1.41の架橋型PPS樹脂(4)を得た。
【0092】
〔実施例4〕
オートクレーブ中での熱水洗工程を190℃で行った以外は実施例3と同様の操作を行った。熱水洗工程後に溶融粘度(V6)14Pa・s、非ニュートン指数が1.07のPPS樹脂(5)とCP−MABA残留量2800ppmを含むPPS樹脂組成物(5)を得た。PPS樹脂(5)の末端カルボキシ基含有量は23〔μmol/g〕であった。その後、実施例3と同様に熱処理工程を260℃、11時間で行い、溶融粘度(V6)173Pa・s、溶融粘度(V30)230Pa・s、溶融安定性α(増粘率)=33%、τmax=1.3分、非ニュートン指数が1.41の架橋型PPS樹脂(5)を得た。
【0093】
〔比較例2〕
オートクレーブ中での熱水洗工程を220℃で行った以外は実施例3と同様の操作を行った。熱水洗工程後に溶融粘度(V6)14Pa・s、非ニュートン指数が1.07のPPS樹脂(6)とCP−MABA残留量500ppmを含むPPS樹脂組成物(6)を得た。PPS樹脂(6)の末端カルボキシ基含有量は43〔μmol/g〕であった。その後、実施例3と同様に熱処理工程を260℃、9時間で行い、溶融粘度(V6)162Pa・s、溶融粘度(V30)330Pa・s、溶融安定性α(増粘率)=104%、τmax=6.3分、非ニュートン指数が1.41の架橋型PPS(6)樹脂を得た。
【0094】
以上の結果から、実施例3、4の架橋型PPS樹脂は、比較例2のものと比較して溶融粘度(V6)がほぼ同じ値でありながら、溶融粘度(V30)を低減しており、溶融安定性に優れることが明らかとなった。また、同様に実施例3、4の架橋型PPS樹脂は、比較例2のものと比較して溶融粘度(V6)がほぼ同じ値でありながら、結晶化時間を短縮できることが明らかとなった。
【0095】
〔実施例5〕
(スラリー製造工程:無水硫化ナトリウム組成物の製造工程)
実施例1と同様の操作を行った。
(重合工程:PPSの製造工程)
実施例1と同様の操作を行った。
【0096】
(熱水洗工程:PPSの精製工程)
冷却後に得られたスラリー260gに70℃のイオン交換水360gを加えて10分間撹拌した後に一回目のろ過し、ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水480gを加えケーキ洗浄を行った。得られた含水ケーキに70℃のイオン交換水360gを加えて10分間攪拌した後に二回目のろ過し、ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水480gを加えケーキ洗浄を行った。この操作を2回繰り返した。その後、120℃で4時間乾燥し、溶融粘度(V6)15Pa・s、非ニュートン指数が1.07のPPS樹脂(7)とCP−MABA残留量2100ppmを含むPAS樹脂組成物(7)を得た。得られたPPS樹脂(7)の末端カルボキシ基含有量は19〔μmol/g〕であった。また、別途測定したPPS樹脂(7)に相当する測定用PPS樹脂の末端カルボキシ基およびそのNa塩の全含有量は52〔μmol/g〕であった。
【0097】
(熱処理工程:PPSの熱酸化架橋工程)
乾燥後に得られたPPS樹脂組成物(7)を熱風乾燥機で260℃、12時間熱処理し、溶融粘度(V6)178Pa・s、溶融粘度(V30)250Pa・s、溶融安定性α(増粘率)=40%、τmax=2.4分、非ニュートン指数が1.41の架橋型PPS樹脂(7)を得た。
【0098】
〔比較例3〕
二回目のろ過、ケーキ洗浄の後、得られた含水ケーキとイオン交換水180gを0.5リッターオートクレーブに仕込み160℃で30分間攪拌を行い、室温まで冷却した後、ろ過し、ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水480gを加えケーキ洗浄を行った以外は実施例5と同様の操作を行った。熱水洗工程後に溶融粘度(V6)16Pa・s、非ニュートン指数が1.07のPPS樹脂(8)とCP−MABA残留量230ppmを含むPPS樹脂組成物(8)を得た。PPS樹脂(8)の末端カルボキシ基含有量は47〔μmol/g〕であった。その後、実施例5と同様に熱処理工程を260℃、8時間で行い、溶融粘度(V6)169Pa・s、溶融粘度(V30)362Pa・s、溶融安定性α(増粘率)=114%、τmax=6.5分、非ニュートン指数が1.41の架橋型PPS樹脂(8)を得た。
【0099】
以上の結果から、実施例5の架橋型PPS樹脂は、比較例3のものと比較して溶融粘度(V6)がほぼ同じ値でありながら、溶融粘度(V30)を低減しており、溶融安定性に優れることが明らかとなった。また、同様に実施例5の架橋型PPS樹脂は、比較例3のものと比較して溶融粘度(V6)がほぼ同じ値でありながら、結晶化時間を短縮できることが明らかとなった。