(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記糖化工程を経た混合物の少なくとも一部と、ポリビニルアルコール系重合体を主成分とする含水ゲル、又はイオン交換樹脂とを接触させ、上記混合物からゲル化剤を分離するゲル化剤分離工程
をさらに有する請求項3に記載の糖の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の糖の製造方法、糖及び糖の製造方法の実施の形態について詳説する。
【0033】
<糖の製造方法>
本発明の糖の製造方法は、セルロース系バイオマスを原料とし、
セルロース系バイオマス、親水性重合体及び水を含む混合物を得る混合工程と、
上記混合物に剪断力を付加してセルロース系バイオマスを分断する分断工程と、
分断された上記セルロース系バイオマスをセルロース分解酵素により糖化する糖化工程と、
上記糖化工程を経た混合物に無機塩を添加し、糖液と第一残渣とに分離する第一分離工程と、
上記第一残渣の少なくとも一部を、上記混合工程における混合物にさらに加える再利用工程と
を有する。
【0034】
当該製造方法によれば、第一分離工程により混合物から容易に糖液として糖を得ることができる。また、当該製造方法は、分解されなかったセルロース系バイオマス、親水性重合体等を含む第一残渣の少なくとも一部を再利用するため、原材料費及び廃棄物処理費等を抑えることができる。従って、当該製造方法は生産性に優れる。
【0035】
当該製造方法は、
上記第一分離工程で得られた第一残渣の少なくとも一部を水系溶媒で希釈し、親水性重合体溶液と第二残渣とに分離する第二分離工程
を有し、
上記再利用工程で加える第一残渣の少なくとも一部が上記第二分離工程で分離した親水性重合体溶液の少なくとも一部であることが好ましい。このように第二分離工程を経ることで、この親水性重合体溶液に含まれる親水性重合体及び好適成分として添加されるゲル化剤を効率的に再利用等することができる。
【0036】
当該製造方法は、さらに
上記糖化工程を経た混合物の少なくとも一部と、PVAを主成分とする含水ゲル、又はイオン交換樹脂とを接触させ、上記混合物からゲル化剤を分離するゲル化剤分離工程
を有することが好ましい。上記ゲル化剤分離工程を有することで、この分離されたゲル化剤の再利用、処分する廃棄物の削減、排水中の不純物(例えば、ホウ酸等)の削減等を行うことができる。従って、このゲル化剤分離工程を有する当該製造方法によれば、糖製造にかかるトータルコストをさらに削減でき、生産性に優れる。また、このゲル化剤分離工程において、PVAを主成分とする含水ゲルを用いた場合、この含水ゲルにゲル化剤を吸着させることによりゲル化剤を分離することができる。この場合、吸着したゲル化剤(ホウ酸塩等)は酸性状態とすることで含水ゲルから脱離させることができ、また、ゲル化剤が吸着した含水ゲルをそのまま混合物工程に利用することができる等、効率的である。
【0037】
当該製造方法は、さらに
上記第二残渣を水系溶媒で希釈し、分離液と第三残渣とに分離する第三分離工程
を有し、上記ゲル化剤分離工程において、上記含水ゲル又はイオン交換樹脂と接触させる混合物の少なくとも一部として上記分離液を用いることが好ましい。このような工程を経ることで、ゲル化剤の回収率を高め、この系における排水(例えば、第三分離工程を経た分離液)中のホウ酸濃度の低減を図ることなどができる。
【0038】
上記ゲル化剤分離工程で分離したゲル化剤の少なくとも一部を、上記混合工程における混合物に加えるゲル化剤再利用工程を有することが好ましい。上記ゲル化剤再利用工程を有することでゲル化剤を再利用することとなり、コスト削減等による生産性がさらに向上する。
【0039】
なお、上記混合工程、分断工程、糖化工程、第一分離工程及び再利用工程を、この順に複数回繰り返すとよい。この一連の工程を複数回繰り返すことで、リサイクル性を高め、さらなる低コスト化及び高生産性を達成できる。なお、好ましい工程として、第二分離工程、ゲル化剤分離工程、第三分離工程及びゲル化剤再利用工程を有する場合、これらも併せて複数回繰り返すことが好ましい。
【0040】
当該製造方法は、さらに上記混合工程に先駆けて、
セルロース系バイオマス原料を切断して、セルロース系バイオマスを適当なサイズの粒子とするセルロース系バイオマス原料切断工程(原料切断工程)
を有することが好ましい。
【0041】
以下、
図1を参照に、当該製造方法の一例を製造工程に沿って順に説明する。
【0042】
(1)セルロース系バイオマス原料切断工程
本工程においては、以降の工程における処理を効率的にするために、セルロース系バイオマス原料を切断し、適当なサイズの粒子とする。ここで用いられるセルロース系バイオマス原料としては特に限定されず、植物由来のバイオマスを好ましく用いることができ具体的には、例えば、間伐材等の木材、稲わら、麦わら、籾殻、バガス、トウモロコシやサトウキビ等澱粉系作物の茎、アブラヤシの空房(EFB)、ヤシの実の殻などを挙げることができる。このようなセルロース系バイオマス原料を、可能な限り土等の不要分を取り除いた後、剪断、叩解等の各種切断手段により、粒子状に小さくする。この切断工程においては、例えば、特表2004−526008号公報に記載の分断器や、パルプチップを製造する際に用いられる装置等を好適に採用することができる。
【0043】
この切断工程を経たセルロース系バイオマス粒子のサイズとしては、平均粒径2mm以下が好ましく、1mm以下がさらに好ましく、100μm以下が特に好ましく、20μm以上70μm以下がさらに特に好ましい。セルロース系バイオマス粒子の平均粒径を2mm以下とすることで、以降の混合工程や、特に分断工程を効率よく行うことができ、短時間で加水分解性の優れたセルロースを得ることができる。
【0044】
(2)混合工程
本工程においては、セルロース系バイオマス、親水性重合体及び水を混合させて、これらの混合物を得る。なお、この混合物は、その他の成分をさらに含有していてもよい。この混合方法としては、特に限定されないが、例えば(2−1)親水性重合体を水に溶かして水溶液とし(水溶液調製工程)、(2−2)この水溶液に必要に応じてゲル化剤を加えてゲル化させ(ゲル化工程)、(2−3)この親水性重合体水溶液にセルロース系バイオマスを添加する(添加工程)方法を採用することができる。
【0045】
(2−1)水溶液調製工程
本工程においては、親水性重合体を水に溶解して水溶液とする。この親水性重合体水溶液の濃度としては、特に限定されないが、3質量%以上30質量%以下が好ましく、5質量%以上20質量%以下がさらに好ましい。親水性重合体水溶液の濃度を上記範囲とすることで、水溶液に適当な粘性を付与することができる。従って、水溶液の濃度を上記範囲とすることで、混練の際に、水溶液を介してセルロース系バイオマスへ物理的な力が効果的に伝わる、すなわち水溶液によってセルロース鎖が引き剥がされることで、セルロース系バイオマスの分子レベルの分断を効果的に行うことができる。親水性重合体水溶液の濃度が3質量%未満の場合は、水溶液が適当な粘性を有さず物理的な作用による分断機能が十分に発揮されないおそれがある。逆に、親水性重合体水溶液の濃度が30質量%を超えると、水溶液の粘性が高すぎて混練しにくくなるため、分断工程における作業性が低下するおそれがある。
【0046】
(2−2)ゲル化工程
上述したセルロース系バイオマス原料切断工程によって得られたセルロース系バイオマスの粒子と、親水性重合体水溶液とを混合するに先駆けて、この親水性重合体水溶液にゲル化剤を加え、ゲル化することが好ましい。このようなゲル状の親水性重合体水溶液を用いることで、後の分断工程において混合物が混練の初期段階から高い粘性を有するため、混練の物理的作用がセルロース系バイオマスに効果的に伝わり、このセルロース系バイオマスを分子レベルで効率的に分断することができる。さらには、ゲル状の親水性重合体水溶液を用いることで、分断されたセルロースポリマー鎖間にこのゲル状水溶液が進入し、かつ留まることができるため、セルロースポリマー鎖の再準結晶化を防ぐことができ、分断能が向上することとなる。
【0047】
上記ゲル化剤としては、親水性重合体水溶液をゲル化させることができるものであれば特に限定されず、公知のものを用いることができるが、例えば、ホウ酸や、ホウ酸塩、チタニウム酢酸塩、その他の金属塩等を挙げることができる。これらの中でも、ホウ酸又はホウ酸塩が好ましい。ゲル化剤としてホウ酸又はホウ酸塩を用いることで、混合物を好適な状態にゲル化することができるため、糖の生産性をより高めることができる。
【0048】
ホウ酸塩を添加して親水性重合体水溶液をゲル化させる場合には、例えば、5質量%の親水性重合体水溶液100質量部に対して、四ホウ酸ナトリウムの飽和水溶液を1〜10質量部加えて混ぜ合わせることで行うことができる。このようにしてゲル状にされた親水性重合体水溶液は、当該製造方法において好適な粘性を有し、また、セルロース系バイオマスと混ぜ合わされて混練され続けても粘度が上昇(硬化)しにくいため容易かつ効率的に混練を行うことができる。なお、このゲル状の親水性重合体水溶液は、酸性であることが好ましく、具体的にはpHが4以上7未満であることが好ましい。
【0049】
(2−3)添加工程
次いで、上記工程にてゲル状にされた親水性重合体水溶液に、上記工程にて好ましいサイズに切断されたセルロース系バイオマスを混合して、これらを含む混合物を得る。なお、(2−2)ゲル化工程を経ず、ゲル化されていない親水性重合体水溶液に上記セルロース系バイオマスを混合して混合物を得てもよい。
【0050】
セルロース系バイオマスの混合量としては、特に限定されないが、混合物全体に対するセルロース系バイオマスの混合量が5質量%以上50質量%以下であることが好ましく、10質量%以上40質量%以下であることがさらに好ましい。セルロース系バイオマスの混合量が5質量%未満の場合は、混合物の粘性が低く物理的な作用による分断機能が十分に発揮されないおそれがあると共に、セルロース系バイオマスの処理量が低いため、作業効率が低下する。逆にセルロース系バイオマスの混合量が50質量%を超えると、バイオマスによる吸水性が強く、混合物の粘性が高すぎて、混練しにくくなるため、作業性が低下する。この混合物の粘度としては、例えば5.0×10
4mPa・s以上1.0×10
6mPa・s以下が好ましい。
【0051】
(3)分断工程
本工程においては、上述の混合工程にて得られた混合物に剪断力を付加することによって、セルロース系バイオマスを分子レベル(準結晶構造レベル)で分断する。つまり、準結晶構造を有するセルロースが部分的に水和され、また、親水性重合体が進入し、このセルロース分子間の水素結合が弱まり、加えて、剪断力の付加による物理的な力により、分子間の結合が弱まった状態でセルロースポリマー同士が互いに引き離されることで、細胞壁の微視的な構造が分断されることとなる。
【0052】
ここで、ゲル化剤を加えて、ゲル状とされた親水性重合体水溶液(混合物)を用いた場合は特に、剪断力の付加の最初の段階から常に好ましい粘性を有した混合物とすることができ、セルロース系バイオマスの分子レベルの分断を効率的に行うことができる。
【0053】
この分断工程における混合物に剪断力を付加する方法としては特に限定されず、例えば、混合物を練り混ぜる方法などが挙げられる。また、この分断工程に用いられる装置としては、特に限定されないが、熱可塑性樹脂の成形の際に一般的に使用される二軸押出成形機等が好適に用いられる。この分断工程に要する時間としては、混合物の量等に応じて適宜設定されるが、例えば30分以上10時間以内程度である。なお、この分断工程の際、粘度が減少した場合は、適宜、四ホウ酸ナトリウム水溶液の添加などによって、粘性を調整するとよい。
【0054】
(4)糖化工程
本工程においては、上記分断工程を経て、分断されたセルロース系バイオマスを含む混合物にセルロース分解酵素を添加し、糖化を行う。この糖化により、セルロース系バイオマスは容易にグルコースに分解(糖化)され、水溶液中に溶け出す。またセルロース系バイオマス中に含まれるヘミセルロース由来のキシロース等も、併せて水溶液中に溶け出す。この際、セルロース系バイオマスに含まれるリグニンが不溶な粒子として存在することがあるが、このリグニンは、例えば、ろ過や遠心分離によって分離することができる。このようにして得られた可溶性のグルコース等の糖類は、醗酵によってエタノールとし、燃料資源などとして好適に使用することができる。
【0055】
上記セルロース分解酵素としては、特に限定されず、公知のものを用いることができ、例えば、セルラーゼ、ペクチナーゼ、ヘミセルラーゼ、β−グルカナーゼ、キシラナーゼ、マンナーゼ、アミラーゼ、メイセラーゼ、アクレモニウムセルラーゼ(Acremonium cellulolyticus菌から得られるセルラーゼ)等を挙げることができる。これらは、1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0056】
上記セルロース分解酵素の添加量としては、例えばセルロース系バイオマス100質量部に対して、0.1質量部以上10質量部以下が好ましく、0.3質量部以上5質量部以下がより好ましい。
【0057】
なお、セルロース分解酵素を混合物に添加後、撹拌し、糖化を進めることが好ましい。この撹拌時間としては例えば、1時間以上12時間以下とすることができる。
【0058】
この糖化工程における混合物の温度としては、酵素の種類等によって適宜設定することができるが、例えば30℃以上70℃以下であり、40℃以上60℃以下が好ましい。
【0059】
また、この糖化工程における混合物のpHも、酵素の種類等によって適宜調整すればよく、例えばpH5〜7とすることが好ましい。このpHの調整は、公知の酸又は塩基の混合物への添加により行うことができる。
【0060】
(5)第一分離工程
本工程においては、上記糖化工程を経た混合物に無機塩を添加し、この混合物を糖液と第一残渣(固形分)とに分離する。上記無機塩の添加により、混合物中に溶解していた親水性重合体及びゲル化剤は析出し、これら析出物及び分解されなかったセルロース系バイオマス等が凝集沈殿する。
【0061】
上記無機塩としては、特に限定されないが、硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩、リン酸塩、炭酸水素塩からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。上記種類の無機塩を用いることで、親水性重合体やゲル化剤の析出と、この析出物及び分解されなかったセルロース系バイオマス等の凝集沈殿とを効率的に行うことができ、糖の生産性を高めることができる。
【0062】
これらの無機塩の中でも、水への高い溶解度、析出及び凝集沈殿をより効率的に行える点で硫酸塩がより好ましく、硫酸アンモニウムがさらに好ましい。
【0063】
なお、無機塩添加後、一定時間静置した後は、糖液と第一残渣(固形分)とを公知の手段(濾過等)を用いて、分離することができる。
【0064】
分離された糖液には、グルコースや、キシロース等の糖が溶解された水溶液である。この糖液は、各糖に分離して、それぞれ利用することもできるし、醗酵させてエタノールとして利用することもできる。
【0065】
(6)第二分離工程
本工程においては、上記第一残渣の少なくとも一部を水系溶媒で希釈し、親水性重合体溶液と第二残渣(固形分)とに分離する。なお、ゲル化剤を用いている場合、この親水性重合体溶液には、親水性重合体に加えて上記ゲル化剤も溶質として溶け込んでいる。特に、ホウ酸やホウ酸塩等をゲル化剤として使用した場合、これらは上記親水性重合体溶液に溶質として容易に溶け込むため、ホウ酸及びホウ酸塩等も第二残渣と効率的に分離することができる。
【0066】
上記水系溶媒としては、水や、水と他の溶媒(例えばエタノール等のアルコール等)との混合溶媒を挙げることができるが、取扱いの容易性やコストの面から水が好ましい。
【0067】
上記水系溶媒が酸性であることが好ましい。本工程において、このように酸性の水系溶媒を用いることで、親水性重合体溶液(ホウ酸等のゲル化剤を含む)と第二残渣との分離能が高まり、生産性を高めることができる。この水系溶媒で希釈した状態の混合液のpHとしては、3以上5以下が好ましい。上記混合液のpHを上記範囲とすることで、親水性重合体溶液と第二残渣との分離能をさらに高めることができる。
【0068】
上記水系溶媒を酸性にする手段としては、水系溶媒に公知の酸を添加する方法を挙げることができる。すなわち、上記水系溶媒として酸性の水溶液を用いればよい。上記酸としては、硫酸、亜硫酸、リン酸、亜リン酸、硝酸、過塩素酸、過臭素酸、塩酸等の無機酸や、カルボン酸、フタル酸、マレイン酸、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、フェノールスルホン酸等の有機酸を添加する方法を挙げることができるが、取扱性や分離性の点から、無機酸が好ましく、硫酸がさらに好ましい。なお、この酸の添加は、第一残渣を希釈する前の水系溶媒に対して行ってもよいし、第一残渣を水系溶媒で希釈した状態の混合液に対して行ってもよい。
【0069】
上記水系溶媒の使用割合としては特に限定されないが、例えば第一残渣の固形分に対して、質量比で1〜100倍程度である。
【0070】
この希釈においては、分離能を高めるために、第一残渣に水系溶媒を添加した後、公知の方法でこの混合液を撹拌させることが好ましい。上記撹拌後、必要に応じこの混合液を一定時間静置し、親水性重合体溶液と第二残渣(固形分)とを公知の手段(濾過、遠心分離等)を用いることで、分離することができる。
【0071】
(7)ゲル化剤分離工程(I)
この工程においては、第二分離工程により得られ、ゲル化剤を含む親水性重合体溶液(糖化工程を経た混合物の少なくとも一部)からゲル化剤を分離する。この分離手段としては、上記親水性重合体溶液と、PVAを主成分とする含水ゲル、又はイオン交換樹脂とを接触させる方法等を挙げることができる。
【0072】
(PVAを主成分とする含水ゲルを用いる場合)
上記親水性重合体溶液と上記含水ゲルとの接触方法としては、特に限定されないが、例えば親水性重合体溶液が入った槽に含水ゲルを浸漬する方法や、含水ゲルが充填された吸着塔に通液して行う方法などを挙げることができる。
【0073】
上記含水ゲルと接触させるときの親水性重合体溶液は、アルカリ性であることが好ましく、具体的にはpH8〜12であることが好ましい。親水性重合体溶液(糖化工程を経た混合物の少なくとも一部)をアルカリ性とすることで、ホウ酸等のゲル化剤の含水ゲルへの吸着性が高まる。一方、吸着後、含水ゲルからホウ酸等のゲル化剤を脱離は、酸性水溶液中へ含水ゲルを浸漬することで容易に行うことができる。この際、上記酸性水溶液のpHとしては、例えば2〜6が好ましい。この脱離されたホウ酸等は、後述する再利用工程等で再利用することができる。また、ホウ酸等を脱離することで、含水ゲルの複数回の使用を可能とする。このように、当該製造方法によれば、液性を制御することで、ホウ酸等のゲル化剤の含水ゲルへの脱着を容易に行うことができる。
【0074】
上記含水ゲルの主成分となるPVAの平均重合度としては、1,000以上10,000以下が好ましく、1,500以上5,000以下がより好ましい。上記範囲の平均重合度からなるPVAを用いることで、耐久性及び吸着性が優れた含水ゲルとなる。
【0075】
上記含水ゲルの主成分となるPVAのケン化度としては、95モル%以上が好ましく、98モル%以上がさらに好ましい。このPVAのケン化度を上記範囲とすることで、ホウ酸等の吸着性を高めることができる。
【0076】
上記含水ゲルは、PVAを主成分とするものであれば特に限定されないが、PVAが架橋されたものが好ましい。架橋されたPVAを用いることで、含水ゲルの耐久性が向上する。
【0077】
上記PVAの架橋としては、電子線やγ線による放射線架橋、凍結繰り返しなどによる物理架橋、アルデヒド化合物やホウ酸等を用いた化学架橋などが挙げられる。上記含水ゲルが、PVAの化学架橋により形成されたものであることが好ましい。化学架橋されたPVAからなる含水ゲルを用いることで、この含水ゲルの耐久性等が高まり、糖の生産性をより高めることができる。
【0078】
さらに、化学架橋の中でも、アルデヒド化合物により架橋されたPVA(アセタール化されたされたPVA)が好ましい。PVAがアルデヒド化合物により架橋されていることで、含水ゲルからのPVAの溶出が低減され、かつ、耐久性も高まる。以下、アルデヒド化合物を用いたPVAの化学架橋により形成された含水ゲルの具体的製造方法の一例について説明する。
【0079】
上記含水ゲルは、PVA水溶液を−5℃以下で凍結させることにより得られる。PVA水溶液の濃度としては、ゲルの強度面からは高いほうが好ましく、ホウ酸等の脱着性からは低いほうが好ましい。したがって、PVA水溶液の濃度は、1〜40質量%が好ましく、3〜20質量%がより好ましい。
【0080】
続いて、凍結によりゲル化されたPVAにアルデヒド化合物を加えることで、アセタール化(化学架橋)される。このアセタール化反応は、凍結したままでもよいが、一旦解凍した後の方が好ましい。また、網目構造を強固にするために、凍結解凍を反復してもよいし、凍結状態で減圧にして部分的に脱水してもよい。
【0081】
上記アルデヒド化合物としては、グリオキザール、ホルムアルデヒド、ベンズアルデヒド、スクシンアルデヒド、マロンジアルデヒド、グルタルアルデヒド、アジピンアルデヒド、テレフタルアルデヒド、ノナンジアールなどが挙げられる。
【0082】
PVAのアセタール化度(ホルマール化度)としては10〜50モル%が好ましく、20〜40モル%がより好ましい。アセタール化度(ホルマール化度)が低すぎると、耐水性が不十分であり、逆に、アセタール化度(ホルマール化度)が高すぎると、PVAが疎水化され、網目構造が崩壊してしまうことがある。
【0083】
なお、上記含水ゲルは、PVAのゲル化を阻害しない範囲で、PVA以外の公知の成分を含有してもよい。
【0084】
例えば、含水ゲルを任意の形状に成形するために、水溶性高分子多糖類を添加してもよい。具体的には、アルギン酸のアルカリ金属塩、カラギーナン、マンナン、キトサン等、陽イオンとの接触によってゲル化する能力のある水溶性高分子多糖類が挙げられる。この場合、含水ゲルを任意の形状に成形するために、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオンなどのアルカリ土類金属イオン、アルミニウムイオン、ニッケルイオン、セリウムイオンなどの多価金属イオン、カリウムイオン、アンモニウムイオンなどの水溶性高分子多糖類をゲル化させる陽イオンに、含水ゲルを接触させてもよい。
【0085】
上記含水ゲルの形状は特に限定されるものではなく、球状、繊維状、サイコロ状、フィルム状、円筒状などの任意の形状を適宜適択することができる。このようにして、得られたアセタール化PVA含水ゲルは、網目構造を有するためホウ酸等の脱着性がよく、かつ含水ゲルからのPVAの溶出が激減する。また、含水ゲルの劣化も起こりにくく耐久性が向上する。
【0086】
(イオン交換樹脂を用いる場合)
上記親水性重合体溶液と上記イオン交換樹脂との接触方法としては、特に限定されないが、例えば親水性重合体溶液をイオン交換樹脂が充填された吸着塔に通液して行う方法などを挙げることができる。なお、この吸着塔への通液の際の空間速度(SV)としては1〜10/時間が好ましい。
【0087】
上記イオン交換樹脂としては、公知のものを適宜用いることができ、ゲル化剤としてホウ酸又はホウ酸塩を用いた場合は、ホウ素選択性イオン交換樹脂を好適に用いることができる。上記ホウ素選択性イオン交換樹脂としては、ホウ素吸着性能を有するイオン交換樹脂であれば特に限定されないが、交換基としてN−メチルグルカミン基を有するホウ素吸着性樹脂が好ましい。N−メチルグルカミン基を有するイオン交換樹脂としては、例えばダイヤイオン(登録商標;三菱化学株式会社製)CRB01及びCRB02、アンバーライト(登録商標;ローム・ハース社製)IRA743、デュオライト(登録商標;住友化学工業株式会社製)A368などが挙げられる。
【0088】
なお、ホウ酸塩等を含む親水性重合体溶液との接触により、吸着能が低下したイオン交換樹脂は、適宜再生処理を行うことが好ましい。この再生処理としては、例えばホウ素脱離液をイオン交換樹脂と接触させることにより行われる。上記ホウ素脱離液としては、希薄鉱酸水溶液が好ましく、濃度1〜10質量%程度の塩酸又は硫酸水溶液がより好ましい。
【0089】
また、この際の親水性重合体溶液は、電気透析により塩を除去し、塩基性化合物を加えること等によりpHを6〜12に調整したものを用いることが好ましい。このような親水性重合体溶液を用いることで、ホウ酸等ゲル化剤の分離能をさらに高めることができる。上記電気透析としては、多価アニオン透過膜等を用いて行うことができる。また、上記塩基性化合物としては、苛性ソーダ等を用いることができる。
【0090】
(8)再利用工程
この工程においては、上記ゲル化剤分離工程で分離したゲル化剤、及び/又はゲル化剤を分離した上記親水性重合体溶液の少なくとも一部を、上記混合工程における混合物にさらに加える。この工程により、親水性重合体及び/又はゲル化剤を再利用するため、原材料費及び廃棄物処理費等を抑えることができる。なお、上記ゲル化分離工程において、親水性重合体とゲル化剤とを分離しているため、どちらかのみを再利用することができるし、これらの割合を適宜変更して再利用することなどもできる。さらには、これらを当該製造方法以外の他の用途に使用することもできる。
【0091】
この際、混合工程に用いられる親水性重合体やゲル化剤は、このリサイクルされたものから全てまかなってもよいし、新たな親水性重合体やゲル化剤を混合物に一部投入してもよい。
【0092】
なお、本明細書において、ゲル化剤分離工程で分離したゲル化剤の少なくとも一部を上記混合工程における混合物に加える工程を、特に「ゲル化剤再利用工程」と称する。ここで当該ゲル化剤再利用工程において混合物に加えられるゲル化剤は、上記第一残渣に由来するものである(すなわち、当該ゲル化剤再利用工程が上記再利用工程の一環として行われる)ことが好ましいが、糖液と第一残渣とに分離する前の上記糖化工程を経た混合物に由来するものであってもよい。本発明の糖の製造方法は、ゲル化剤再利用工程とそれ以外の再利用工程のうちのいずれか一方のみを有していてもよいが、両工程を共に有していてもよい。
【0093】
(9)第三分離工程及びゲル化剤分離工程(II)
第三分離工程においては、上記第二分離工程で分離された第二残渣を水系溶媒で希釈し、分離液と第三残渣とに分離する。上記第二残渣は、廃棄物として処理される成分が大部分とされるものであるが、この第三分離工程を経ることで、分離液中にホウ酸等のゲル化剤及び溶け残りの親水性重合体を取り出すことができ、リサイクル性を高め、また、環境負荷の低減を図ることができる。なお、この第三分離工程においては、第二分離工程に用いられなかった第一残渣の一部を第二残渣に加えて使用することなどもできる。
【0094】
なお、上記第三残渣は、分解されなかったセルロース系バイオマスや、分解されないリグニン等を含む。この第三残渣は、廃棄物として処分してもよいし、例えば肥料や燃料として利用することもできる。
【0095】
第三分離工程における具体的方法(水系溶媒の種類、酸性度等)は、上述した第二分離工程と同様である。
【0096】
ゲル化剤分離工程(II)においては、第三分離工程で分離された分離液を含水ゲルやイオン交換樹脂と接触させて、ゲル化剤を分離する。ゲル化剤分離工程(II)の具体的方法(含水ゲル及びイオン交換樹脂の種類等)については、上述したゲル化剤分離工程(I)と同様である。
【0097】
このゲル化剤分離工程(II)において含水ゲルを用いる場合、この含水ゲルと接触させるときの分離液は、アルカリ性であることが好ましく、具体的にはpH8〜12であることが好ましい。分離液(糖化工程を経た混合物の少なくとも一部)をアルカリ性とすることで、ホウ酸等のゲル化剤の含水ゲルへの吸着性が高まる。一方、吸着後、含水ゲルからホウ酸等のゲル化剤を脱離は、酸性水溶液中へ含水ゲルを浸漬することで容易に行うことができる。この際、上記酸性水溶液のpHとしては、例えば2〜6が好ましい。この脱離されたホウ酸等は、再利用工程等で再利用することができる。また、ホウ酸等を脱離することで、含水ゲルの複数回の使用を可能とする。
【0098】
このゲル化剤分離工程(II)を経ることにより、分離液中のゲル化剤(ホウ酸等)濃度を下げることができ、排水としての処理も効率的に行うことができる。具体的には、日本における排水中のホウ酸排出基準は、陸水域10ppm、海水域230ppmであるが、これらの濃度以下に、例えば8ppm以下に分離液中のホウ酸濃度を下げることもできる。
【0099】
(親水性重合体)
ここで、本発明の糖の製造に用いられる親水性重合体について詳説する。上記親水性重合体としては、特に限定されないが、例えば、ポリビニルアルコール系重合体(PVA)、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリビニルピロリドン等を挙げることができる。これらの中でも、PVAが好ましい。上記親水性重合体としてPVAを用いることで、分断工程における作業効率等が向上するため、より生産性を高めることができる。
【0100】
(PVA)
ここで、本発明の糖の製造に好適に用いられるPVAについて、詳説する。なお、PVA(ポリビニルアルコール系重合体)とは、ポリビニルアルコール及びビニルアルコール共重合体をいう。
【0101】
このPVAとしては、特に制限なく各種のものを使用することができるが、通常は、酢酸ビニルに代表されるビニルエステル系単量体又はビニルエステル単量体とエチレンとを各種方法(塊状重合、メタノール等を溶媒とする溶液重合、乳化重合、懸濁重合等)で重合した後、公知の方法(アルカリケン化、酸ケン化等)によりケン化することによって得られるPVAが用いられる。なお上記のビニルエステル単量体としては、酢酸ビニル以外に、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バーサチック酸ビニル、ピバリン酸ビニル等を用いることもできる。
【0102】
また、本発明に用いるPVAは、本発明の効果を損なわない範囲でビニルエステル系単量体との共重合が可能な単量体を共存させ、共重合することも可能である。このような単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、イソブテン等のオレフィン類;アクリル酸;アクリル酸エステル類;メタクリル酸;メタクリル酸エステル類;メチルビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、i−プロピルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、i−ブチルビニルエーテル、t−ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル類;塩化ビニル、塩化アリル等のアリル化合物;フマール酸、マレイン酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水フタル酸、無水トリメット酸、無水イタコン酸等のカルボキシル基含有化合物及びそのエステル;エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸基含有化合物;ジアセトンアクリルアミド、ジアセトンアクリレート、ジアセトンメタクリレート等のジアセトン基含有化合物;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシラン化合物;酢酸イソプロペニル;3−(メタ)アクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
【0103】
また、チオール酢酸、メルカプトプロピオン酸などのチオール化合物存在下で、酢酸ビニルなどのビニルエステル系単量体を重合し、それをケン化することによって得られる末端変性物も用いることができる。さらには、アセトアセチル化PVA等、各種PVAを後反応により変性した従来公知の後反応PVA等も用いることができる。
【0104】
上記PVAは、セルロース系バイオマスを原料とした加水分解性セルロースの製造に用いられるものである。具体的には、上述したように、PVAの水溶液と、セルロース系バイオマス等とを混合して混合物とし、この混合物を練り混ぜることなどにより剪断力を付加し、セルロース系バイオマスを分子レベル(準結晶構造レベル)で細かく分断するために用いられる。この際、このPVA水溶液を用いることで上記混合物の粘性を好適な状態に保つことができる。その結果、混合物の混練等の際、粘り気のある水溶液によってセルロースポリマー鎖を容易に引き剥がし、また、準結晶構造を有するポリマー鎖の内部に水及びPVAが効率的に進入することでポリマー鎖間の水素結合を弱めていくことができる。さらには、このように引き裂かれたポリマー鎖間にPVAが進入することで、この構造の再結晶化を防ぐことができる。なお、このように分子レベルで分断されたセルロースは、加水分解酵素等によって容易に分解される。
【0105】
上記PVAの平均重合度は、200以上5,000以下が好ましく、1,000以上4,000以下がより好ましく、1,800以上3,500以下がさらに好ましく、2,000以上3,000以下が特に好ましい。用いるPVAの平均重合度を上記範囲とすることで、このPVAを水溶液として用い、セルロース系バイオマス等と混合した際に、好適な粘性で効率よく、かつ均一に混ぜ合わせることができ、その結果、セルロースポリマー鎖を効率的に分断し、加水分解を容易に行うことができる状態とすることができる。また、このように平均重合度の高いPVAを用いることで、少ない量のゲル化剤(ホウ酸等)でゲル化させることができる。
【0106】
ここで、「平均重合度」とは、JIS K6726に準じて測定した粘度平均重合度(P)の値である。すなわち、ケン化度が99.5モル%未満の場合は、ポリビニルアルコール系重合体をケン化度99.5モル%以上に再ケン化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](デシリットル/g)から下記式(1)により求めた値である。
P=([η]×1000/8.29)
(1/0.62) (1)
【0107】
上記PVAの平均重合度が200未満の場合は、分子量が小さすぎるため、ある程度濃度を調整しても十分な粘性を水溶液に付与することができず、混練の際にセルロース鎖同士を物理的に引き離す力が弱くなる場合がある。逆に、この平均重合度が5,000を超えると粘性が高すぎて分断工程における作業性やハンドリング性が低下すると共に、分子量が大きすぎることでセルロースポリマー鎖間に進入し難くなり、水素結合を弱める作用が低下するおそれがある。
【0108】
上記PVAのケン化度の下限としては、70モル%が好ましく、75モル%がより好ましく、80モル%がさらに好ましく、85モル%が特に好ましい。一方、このケン化度の上限としては、99.9モル%が好ましく、99.5モル%がより好ましく、99.0モル%がさらに好ましい。用いられるPVAのケン化度を上記範囲とすることで、このPVAを水溶液として用い、セルロース系バイオマスと混合した際に、好適な粘性で効率よくかつ均一に混ぜ合わせることができ、その結果、セルロース鎖を効率的に分断し、加水分解を容易に行うことができる状態とすることができる。
【0109】
ここで、「ケン化度」とはJIS K6726に準じて測定した値である。
【0110】
上記PVAのケン化度が70モル%未満の場合は水溶性が落ちると共に、十分な粘性が得られず、混練等の際のセルロース分断能が低下する場合がある。逆に、このケン化度が99.9モル%を超えても、セルロースポリマー鎖の分子レベルの分断能は頭打ちとなるとともにハンドリング性が低下するおそれがある。
【0111】
上記PVAの分子量分布の下限は2が好ましく、2.2がより好ましく、2.25がさらに好ましい。一方、この分子量分布の上限は、5が好ましく、4がさらに好ましく、3.5が特に好ましい。上記PVAの分子量分布を上記範囲とすることで、このPVAを水溶液として用い、セルロース系バイオマス等と混合した際に、好適な粘性で効率よく、かつ均一に混ぜ合わせることができるとともに、様々なサイズを有するセルロースの準結晶構造の隙間に効果的に進入することができ、その結果、セルロースポリマー鎖を効果的に分断し、加水分解を容易に行うことができる状態とすることができる。
【0112】
ここで、「分子量分布」とは、質量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)により算出される値である。なお、質量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、単分散ポリメチルメタクリレートを標品とし、トリフルオロ酢酸ナトリウムを20ミリモル/リットル含有するヘキサフルオロイソプロパノールを移動相に用いて40℃でゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)測定を行い、得られた値である。
【0113】
上記PVAの分子量分布が上記下限未満の場合は、分子量のバラツキが小さく様々なサイズの準結晶構造の隙間に対応して進入することができず、水素結合を弱める機能が十分に発揮されないおそれがある。逆に、PVAの分子量分布が上記上限を超える場合も、分子量のバラツキが大きすぎるため、準結晶構造間の隙間に対応せず、進入できないPVAの割合が高まり、水素結合を弱める機能が十分に発揮されないおそれがある。
【0114】
このPVAの分子量分布を調整する場合は、例えば、以下のような方法で調整することができる。すなわち、(1)異なる重合度を有するPVAを混合して調製する方法、(2)異なる重合度を有するポリビニルエステルの混合物をケン化する方法、(3)アルデヒド、ハロゲン化アルキル、メルカプタン等の重合調整剤を用いてポリビニルエステルを重合し、得られたポリビニルエステルをケン化する方法、(4)重合度を調整しながら多段階でポリビニルエステルを重合し、得られたポリビニルエステルをケン化する方法、(5)重合速度を調整してポリビニルエステルを重合し、得られたポリビニルエステルをケン化する方法等である。
【0115】
また、当該糖の製造方法においては、再利用工程を有することで、一度以上使用されたPVAを再利用することとなる。この場合、PVA全体の分子量分布が上記範囲になるように、再利用するPVAと、新たに投入するPVAとの配合比等を調整することが好ましい。
【0116】
当該製造方法に好適に用いられるPVAは、平均重合度、ケン化度及び分子量分布の三要素を上記の範囲で特定することで、より効率的にセルロース系バイオマスの分子レベルの分断を行うことができる。つまり、平均重合度とケン化度とを特定することで、物理的作用を発揮させるための好適な粘性を水溶液に付与しつつ、分子量分布を特定することで、化学的な作用を発揮させるための準結晶構造間へのPVAの進入の確率を高め、バランスよくセルロースポリマー鎖の水素結合を弱めることができることができる。つまり、上記PVAは上記三要素を特定することで、セルロース系バイオマスの分子的な分断を物理的な作用及び化学的な作用をより一層バランスよく発揮させることができるため、酵素等で容易に加水分解されるセルロースを得ることができる。
【0117】
<糖>
本発明の糖は、当該製造方法により得られたものである。当該糖は、加熱プロセス等を経ることなく穏和な条件で得られているため、例えばキシロース等の高付加価値成分の含有量も高い。
【0118】
この糖は、グルコースやキシロース等に分離して利用することもできるし、醗酵させてエタノールとし、燃料資源などとして使用することもできる。
【0119】
<糖の製造装置>
本発明の糖の製造装置は、
セルロース系バイオマス、親水性重合体及び水を含む混合物を得る混合手段と、
上記混合物に剪断力を付加してセルロース系バイオマスを分断する分断手段と、
分断された上記セルロース系バイオマスをセルロース分解酵素により糖化する糖化手段と、
上記糖化工程を経た混合物に無機塩を添加し、糖液と第一残渣とに分離する第一分離手段と
を備える糖の製造装置である。当該製造装置によれば、セルロース系バイオマスを原料として糖を効率的に生産することができる。また、当該製造装置によれば、第一分離手段で分離された第一残渣を混合手段における混合物にさらに加えることを容易にし、リサイクルによるコスト削減や、廃棄物の低減を図ることができる。
【0120】
当該製造装置は、上記第一残渣の少なくとも一部を水系溶媒で希釈し、親水性重合体溶液と第二残渣とに分離する第二分離手段を備えることが好ましい。この第二分離手段を備えることで、リサイクル性等をより高めることができる。
【0121】
また、当該製造装置は、上記糖化を経た混合物の少なくとも一部と、PVAを主成分とする含水ゲル又はイオン交換樹脂とを接触させ、混合物からゲル化剤を分離するゲル化剤分離手段を備えることが好ましい。このようなゲル化剤分離手段を備えることで、ゲル化剤を含む混合物を用いた場合、ゲル化剤の分離により排水処理等を容易にし、生産性がより高まる。
【0122】
上記各手段は、公知の機器等を用いることができる。上記混合手段、糖化手段、第一及び第二分離手段並びにゲル化剤分離手段としては、例えば投入口及び排出口等を備える公知の混合槽を、上記分断手段としては例えば公知の二軸押出成形機等を用いることができる。
【0123】
また、一つの機器が複数の手段を備えていてもよい。さらには、各手段に対応する機器は連結されていてもよいし、分離されていてもよい。
【0124】
なお、本発明の糖の製造方法、糖及び糖の製造装置は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、糖化工程後の混合物に対し、分離工程を経ることなく直接ゲル化剤分離工程を行ってもよい。この場合、混合物からまず、ゲル化剤を分離し、この後、糖と取り出すことができるなど、製造工程のバリエーションの幅を広げることができる。また、第一分離工程で得られた第一残渣をゲル化剤分離工程に供してもよい。
【0125】
また、必須工程ではない第二分離工程及び/又はゲル化剤分離工程を省略した場合などは、分離されていない第一残渣自体やゲル化剤が分離されていない親水性重合体溶液の少なくとも一部を適宜再利用工程において、再利用してもよい。このようにすることで、少なくとも一部の親水性重合体等を再利用することができる。
【実施例】
【0126】
以下、合成例及び実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0127】
[合成例1](PVA1)
70.0kgの酢酸ビニルと30.0kgのメタノールとを、撹拌器、窒素挿入口及び開始剤挿入口を備える250リットル反応容器に投入し、60℃に加熱した。反応容器内は、30分の窒素置換により窒素雰囲気とした。その後、重合開始剤として、2,2’−azobisisobutyronitrile(AIBN)を反応容器に加えた。重合温度を60℃に維持したまま4時間重合を行い、仕込酢酸ビニルに対し30%が重合された。その後、冷却し、重合を止め、未反応の酢酸ビニルモノマーを減圧して除去し、ポリ酢酸ビニル(PVAc)のメタノール溶液を得た。
【0128】
メタノールを上述のPVAc溶液に加え、PVAc溶液の濃度が30質量%となるように調整した。アルカリモル比(PVAcポリマーのビニルエステル単位のモル量に対するNaOHのモル量の比)が0.11となるように、PVAc溶液333g(PVAc100g)に、アルカリ溶液(10%NaOHメタノール溶液)51.1gを加え、PVAcのケン化を行った。60℃に温度を保ち、1時間ケン化反応を進めた後、生成物(ケン化反応中、ゲル化したものを適宜反応容器から取り出してグラインダーで粉砕したものを含む)をろ過し、白色の固体を得た。この白色固体をメタノール1000gに混ぜ、室温で3時間放置することで洗浄を行った。この洗浄を3回行い、白色固体を遠心分離した後、乾燥機にて70℃二日間乾燥して、PVA1を得た。このPVA1の平均重合度は1700、ケン化度は98.8モル%、分子量分布(Mw/Mn)は2.24であった。
【0129】
[合成例2](PVA2)
アルカリモル比(PVAcポリマーのビニルエステル単位のモル量に対するNaOHのモル量の比)が0.07となるようにアルカリ溶液を32.5g加えたこと以外は、合成例1と同様にしてPVA2を得た。このPVA2の平均重合度は1740、ケン化度は86.2モル%、分子量分布(Mw/Mn)は2.30であった。
【0130】
[合成例3〜10](PVA3〜6、8〜11)
重合条件及びケン化条件を変えた以外は、PVA1と同様にしてPVA3〜6及びPVA8〜11を得た。これらの平均重合度、ケン化度及び分子量分布は、上述のPVA1及びPVA2の値と共に以下の表1及び表2に示す。
【0131】
[調製例1](PVA7)
50質量部のPVA−217(株式会社クラレ製)と50質量部のPVA−205(株式会社クラレ製)とを混合してPVA7を得た。このPVA7の平均重合度は1740、ケン化度は88.2モル%、分子量分布(Mw/Mn)は2.75であった。
【0132】
また、株式会社クラレ製のPVA系重合体であるPVA−217及びPVA−205についての平均重合度、ケン化度及び分子量分布を併せて表1及び表2に示す。
【0133】
[実施例1−1]
蒸留水にPVA1を添加し、撹拌しながら90℃まで加熱することで10質量%のPVA水溶液を調製した。このPVA水溶液は水より僅かに粘性を有するものであった。この水溶液100gを室温まで冷却した後、ホウ酸(H
3BO
3)の飽和水溶液2mLを加えて混合した。得られた水溶液のpHは5.0であった。更にこの水溶液に四ホウ酸ナトリウムの飽和水溶液0.5mLを加えて混合することで、水溶液を粘性のあるゲル状体とした。このゲル状体のpHは6.5であった。次に、セルロース系バイオマス粒子としてEFB(直径20〜70μmの粒子)50gをこのゲル状体に加えて、室温下でミキサー型混練機を用いて練り混ぜた。この混合物は、混練当初は比較的低粘性を有していたが、混練を続けるうちに、EFB(セルロース系バイオマス粒子)が水を吸収し、若干粘度が向上した。この混合物はローラで容易に伸ばし、練ることができた。一定時間混練を行う毎に、混合物の一部を取り出し、顕微鏡によって粒子サイズを確認した。この分断工程を進めるにつれて、粒子のサイズが減少すること、及び細胞構造が分断されることが観察できた。
【0134】
混練によるセルロースの分断が十分にされたことを顕微鏡により確認し、加水分解性セルロースの水溶液を得た。この後、混合物に蒸留水を添加し、粘性を低下させた。加水分解酵素の至適pHに調製するため、この混合物に更に水酸化ナトリウム溶液を添加し、pHを6.0に調製した。この混合物は、溶けたチョコレート程度の粘性を有した。この混合物に、加水分解酵素として、メイセラーゼ(明治製菓株式会社製)及びアクレモニウムセルラーゼ(Acremonium cellulolyticus菌から得られるセルラーゼ:明治製菓株式会社製)をEFB100質量部に対してそれぞれ0.5質量部ずつ添加し、50℃の温度で反応容器内で撹拌した。酵素を加えた後数十分で、この混合物の粘性は目立って減少した。この撹拌を6時間行い、糖液(混合物)を得た。
【0135】
得られた糖液(混合物)に無機塩として硫酸アンモニウム16gを水24gに溶解したものを添加し、撹拌させた後、3時間静置した。静置後、上記混合物をろ過し、分離された糖の溶液(糖液)を得た。
【0136】
この操作を3回繰り返した。なお、2回目及び3回目は、PVA水溶液の使用量を10g(1回目の使用量の10%)とし、前回の最終工程で分離された残渣(固形分)の90%をゲル化前のPVA水溶液に添加した。すなわち、2回目及び3回目においては、未使用のPVAの量を1回目の10%とし、これに残渣を加えてPVAを再利用することで、全体のPVAの量を補った。
【0137】
[実施例1−2〜1−15]
PVAをPVA1から表1の他のPVAにかえ、無機塩を表1の各無機塩を用いたこと以外は実施例1−1と同様にして、実施例1−2〜1−15を行い、糖液を得た。
【0138】
[比較例1−1]
2回目及び3回目で、前回の最終工程で分離された残渣をゲル化前のPVA水溶液に添加しなかったこと以外は、実施例1−1と同様の操作を行い、糖液を得た。
【0139】
[評価]
ろ過後分離された溶液(糖液)に蒸留水を加えて400mLとした後、このグルコース溶液のサンプル溶液を2mL(全溶液の0.5%)採取し、100℃にて5分間殺菌した。サンプル溶液を冷却した後、遠心分離器を用いて3000rpmで30分間遠心分離し、ろ過して、固形物を取り除いた後、ろ液を液体クロマトグラフィーに供して単糖類(グルコースなど)を検量した。用いたEFB(50g)に占めるセルロース及びヘミセルロースの質量比を50%と定め、以下の計算式にて糖化効率(%)を求めた。測定結果を表1に示す。
糖化効率=〔サンプル溶液中の単糖類質量(g)/{50(g)×0.005×0.5}〕×100(%)
【0140】
【表1】
【0141】
表1に示されるように、実施例1−1〜1−15は、いずれもPVA及び未分解セルロースを含む残渣をリサイクルすることで、1回目から3回目まで高い糖化効率を維持できることがわかる。なお、再利用される残渣中に未分解のバイオマスセルロース等が含まれていることで、2回目以降、見かけの糖化効率が上昇していると考えられる。
【0142】
[実施例2−1]
蒸留水にPVA1を添加し、撹拌しながら90℃まで加熱することで10質量%のPVA水溶液(A)を調製した。このPVA水溶液(A)は水より僅かに粘性を有するものであった。この水溶液(A)100gを室温まで冷却した後、ホウ酸(H
3BO
3)の飽和水溶液2mLを加えて混合した。得られた水溶液のpHは5.0であった。更にこの水溶液に四ホウ酸ナトリウムの飽和水溶液0.5mLを加えて混合することで、水溶液を粘性のあるゲル状体とした。このゲル状体のpHは6.5であった。次に、セルロース系バイオマス粒子としてEFB(直径20〜70μmの粒子)50gをこのゲル状体に加えて、室温下でミキサー型混練機を用いて練り混ぜた。この混合物は、混練当初は比較的低粘性を有していたが、混練を続けるうちに、EFB(セルロース系バイオマス粒子)が水を吸収し、若干粘度が向上した。この混合物はローラで容易に伸ばし、練ることができた。一定時間混練を行う毎に、混合物の一部を取り出し、顕微鏡によって粒子サイズを確認した。この分断工程を進めるにつれて、粒子のサイズが減少すること、及び細胞構造が分断されることが観察できた。
【0143】
混練によるセルロースの分断が十分にされたことを顕微鏡により確認し、加水分解性セルロースの水溶液を得た。この後、混合物に蒸留水を添加し、粘性を低下させた。加水分解酵素の至適pHに調製するため、この混合物に更に水酸化ナトリウム溶液を添加し、pHを6.0に調製した。この混合物は、溶けたチョコレート程度の粘性を有した。この混合物に、加水分解酵素として、メイセラーゼ(明治製菓株式会社製)及びアクレモニウムセルラーゼ(Acremonium cellulolyticus菌から得られるセルラーゼ:明治製菓株式会社製)をEFB100質量部に対してそれぞれ0.5質量部ずつ添加し、50℃の温度で反応容器内で撹拌した。酵素を加えた後数十分で、この混合物の粘性は目立って減少した。この撹拌を6時間行い、糖液(混合物)を得た。
【0144】
得られた糖液(混合物)に無機塩として硫酸アンモニウム16gを水24gに溶解したものを添加し、撹拌させた後、3時間静置し、残渣(第一残渣)の沈殿を確認した。静置後、上記混合物をろ過し、分離された糖の溶液(糖液)を得た。
【0145】
分離された上記第一残渣(固形分)の90%に水90gを添加し、さらに希硫酸を用いてpH4.0の混合物とした。この混合物を2時間撹拌して第一残渣を分散させ、その後、濾過し、分離されたPVA溶液(B)を得た。
【0146】
この操作を3回繰り返した。なお、2回目及び3回目は、PVA水溶液(A)の使用量を10g(1回目の使用量の10%)、ホウ酸の飽和水溶液の使用量を0.2mL(1回目の使用量の10%)とし、前回の最終工程で分離されたPVA溶液(B)をゲル化前のPVA水溶液(A)に添加した。すなわち、2回目及び3回目においては、未使用のPVA及びホウ酸の量を1回目の10%とし、これに分離されたPVA溶液(B)を加えてPVA及びホウ酸を再利用することで、全体のPVA及びホウ酸の量を補った。
【0147】
[実施例2−2〜2−15]
PVA及び無機塩として、表2に記載されているものを用いたこと以外は実施例2−1と同様にして、実施例2−2〜2−15を行い、糖液を得た。
【0148】
[実施例2−16及び2−17]
第一残渣の水による希釈後の希硫酸の使用量を調整し、混合物のpHを表2のとおりとしたこと以外は実施例2−1と同様にして、実施例2−16及び2−17を行い、糖液を得た。
【0149】
[比較例2−1]
2回目及び3回目において、前回の最終工程で分離されたPVA溶液(B)をゲル化前のPVA水溶液(A)に添加しなかったこと以外は、実施例2−1と同様の操作を行い、糖液を得た。
【0150】
[評価]
上記と同様の方法で糖化効率(%)を求めた。測定結果を表2に示す。
【0151】
【表2】
【0152】
表2に示されるように、実施例2−1〜2−17は、いずれもPVA及びホウ酸を含む残渣をリサイクルすることで、1回目から3回目まで高い糖化効率を維持できることがわかる。
【0153】
[製造例3−1]含水ゲル(I)
クラレ社製のPVA(平均重合度1,700、ケン化度99.8モル%)を40℃の温水で約1時間洗浄後、PVA濃度が8%となるように、PVAに水を加え、オートクレーブで121℃、30分間処理しPVAを溶解した。これを厚さ5mmとなるようにトレーに流延し、−20℃の冷凍庫で12時間凍結させ、室温で解凍させた。この板状成形物を、ホルムアルデヒド30g/L、硫酸200g/L、硫酸ナトリウム150g/Lの40℃の水溶液に30分間浸漬した後、水洗し、これを5mm角に切断してホルマール化度19モル%の含水ゲル(I)を得た。
【0154】
[製造例3−2]含水ゲル(II)
製造例1と同様のPVA8%水溶液を厚さ5mmとなるようにトレーに流延し、−20℃の冷凍庫で12時間凍結させ、室温で解凍させ、板状成形物を得た。これを5mm角に切断して含水ゲル(II)を得た。
【0155】
[実施例3−1]
蒸留水にPVA1を添加し、撹拌しながら90℃まで加熱することで10質量%のPVA水溶液(A)を調製した。このPVA水溶液(A)は水より僅かに粘性を有するものであった。この水溶液(A)100gを室温まで冷却した後、ホウ酸(H
3BO
3)の飽和水溶液2mLを加えて混合した。得られた水溶液のpHは5.0であった。更にこの水溶液に四ホウ酸ナトリウムの飽和水溶液0.5mLを加えて混合することで、水溶液を粘性のあるゲル状体とした。このゲル状体のpHは6.5であった。次に、セルロース系バイオマス粒子としてEFB(直径20〜70μmの粒子)50gをこのゲル状体に加えて、室温下でミキサー型混練機を用いて練り混ぜた。この混合物は、混練当初は比較的低粘性を有していたが、混練を続けるうちに、EFB(セルロース系バイオマス粒子)が水を吸収し、若干粘度が向上した。この混合物はローラで容易に伸ばし、練ることができた。一定時間混練を行う毎に、混合物の一部を取り出し、顕微鏡によって粒子サイズを確認した。この分断工程を進めるにつれて、粒子のサイズが減少すること、及び細胞構造が分断されることが観察できた。
【0156】
混練によるセルロースの分断が十分にされたことを顕微鏡により確認し、加水分解性セルロースの水溶液を得た。この後、混合物に蒸留水を添加し、粘性を低下させた。加水分解酵素の至適pHに調製するため、この混合物に更に水酸化ナトリウム溶液を添加し、pHを6.0に調製した。この混合物は、溶けたチョコレート程度の粘性を有した。この混合物に、加水分解酵素として、メイセラーゼ(明治製菓株式会社製)及びアクレモニウムセルラーゼ(Acremonium cellulolyticus菌から得られるセルラーゼ:明治製菓株式会社製)をEFB100質量部に対してそれぞれ0.5質量部ずつ添加し、50℃の温度で反応容器内で撹拌した。酵素を加えた後数十分で、この混合物の粘性は目立って減少した。この撹拌を6時間行い、糖液(混合物)を得た。
【0157】
得られた糖液(混合物)に無機塩として硫酸アンモニウム16gを水24gに溶解したものを添加し、撹拌させた後、3時間静置し、残渣(第一残渣)の沈殿を確認した。静置後、上記混合物をろ過し、分離された糖の溶液(糖液)を得た。
【0158】
分離された上記第一残渣(固形分)の90%に水90gを添加し、さらに希硫酸を用いてpH4.0の混合物とした。この混合物を2時間撹拌して第一残渣を分散させ、その後、濾過し、分離されたPVA溶液(B)を得た。
【0159】
一方、残りの10%の第一残渣、及びPVA溶液(B)から分離された第二残渣を合わせ、これに水を34g加え、撹拌した。この分散液を濾過し、分離液と第三残渣とに分離した。この分離液を上記含水ゲル(I)中に添加し2時間放置した。その後、含水ゲルを取り出して、残りを廃液(C)とした。一方、取り出した含水ゲルを水中に添加し、さらに硫酸の添加によりpHを4以下にして、吸着されたホウ酸を脱離させた。
【0160】
この操作を3回繰り返した。なお、2回目及び3回目は、PVA水溶液(A)の使用量を10g(1回目の使用量の10%)、ホウ酸の飽和水溶液の使用量を0.2mL(1回めの使用量の10%)とし、前回の最終工程で分離されたPVA溶液(B)をゲル化前のPVA水溶液(A)に添加した。すなわち、2回目及び3回目においては、未使用のPVA及びホウ酸の量を1回目の10%とし、これに分離されたPVA溶液(B)を加えてPVA及びホウ酸を再利用することで、全体のPVA及びホウ酸の量を補った。
【0161】
[実施例3−2〜3−3]
無機塩を表3の各無機塩を用いたこと以外は実施例3−1と同様にして、実施例3−2〜3−3を行い、糖液を得た。
【0162】
[実施例3−4〜3−5]
第一残渣の水による希釈後の希硫酸の使用量を調整し、混合物のpHを表3のとおりとしたこと以外は実施例3−1と同様にして、実施例3−4及び3−5を行い、糖液を得た。
【0163】
[比較例3−1]
2回目及び3回目において、前回の最終工程で分離されたPVA溶液(B)をゲル化前のPVA水溶液(A)に添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の操作を行い、糖液を得た。
【0164】
[実施例3−6]
含水ゲル(I)の代わりに、含水ゲル(II)を用いたこと以外は、実施例3−1と同様にして、実施例3−6を行った。
【0165】
[参考例3−1]
含水ゲル(I)の代わりに、市販のセラミックス吸着剤(粒径3〜5mm)を用いたこと以外は、実施例3−1と同様にして、参考例3−1を行った。
【0166】
[参考例3−2]
含水ゲル(I)の代わりに、市販の活性炭吸着剤(粒径3〜5mm)を用いたこと以外は、実施例3−1と同様にして、参考例3−2を行った。
【0167】
[評価]
(糖化効率)
上記と同様の方法で糖化効率(%)を求めた。測定結果を表3に示す。
【0168】
【表3】
【0169】
(ホウ酸濃度)
実施例3−1及び3−6、並びに参考例3−1及び3−2において、1回目の操作における廃液(C)のホウ酸濃度(ホウ酸換算)を測定した。評価結果を表4に示す。なお、含水ゲル又は吸着剤の添加前の分離液のホウ酸濃度はいずれも490ppmであった。
【0170】
【表4】
【0171】
表3に示されるように、実施例3−1〜3−5は、いずれもPVA及びホウ酸を含む残渣をリサイクルすることで、1回目から3回目まで高い糖化効率を維持できることがわかる。また、表4に示されるように、PVA含水ゲルを用いて処理することで、ホウ酸濃度を日本の排出基準(陸水域10ppm、海水域230ppm)に対応可能なほどの低濃度にできることがわかる。
【0172】
[実施例4−1]
蒸留水にPVA1を添加し、撹拌しながら90℃まで加熱することで10質量%のPVA水溶液(A)を調製した。このPVA水溶液(A)は水より僅かに粘性を有するものであった。この水溶液(A)100gを室温まで冷却した後、ホウ酸(H
3BO
3)の飽和水溶液2mLを加えて混合した。得られた水溶液のpHは5.0であった。更にこの水溶液に四ホウ酸ナトリウムの飽和水溶液0.5mLを加えて混合することで、水溶液を粘性のあるゲル状体とした。このゲル状体のpHは6.5であった。次に、セルロース系バイオマス粒子としてEFB(直径20〜70μmの粒子)50gをこのゲル状体に加えて、室温下でミキサー型混練機を用いて練り混ぜた。この混合物は、混練当初は比較的低粘性を有していたが、混練を続けるうちに、EFB(セルロース系バイオマス粒子)が水を吸収し、若干粘度が向上した。この混合物はローラで容易に伸ばし、練ることができた。一定時間混練を行う毎に、混合物の一部を取り出し、顕微鏡によって粒子サイズを確認した。この分断工程を進めるにつれて、粒子のサイズが減少すること、及び細胞構造が分断されることが観察できた。
【0173】
混練によるセルロースの分断が十分にされたことを顕微鏡により確認し、加水分解性セルロースの水溶液を得た。この後、混合物に蒸留水を添加し、粘性を低下させた。加水分解酵素の至適pHに調製するため、この混合物に更に水酸化ナトリウム溶液を添加し、pHを6.0に調製した。この混合物は、溶けたチョコレート程度の粘性を有した。この混合物に、加水分解酵素として、メイセラーゼ(明治製菓株式会社製)及びアクレモニウムセルラーゼ(Acremonium cellulolyticus菌から得られるセルラーゼ:明治製菓株式会社製)をEFB100質量部に対してそれぞれ0.5質量部ずつ添加し、50℃の温度で反応容器内で撹拌した。酵素を加えた後数十分で、この混合物の粘性は目立って減少した。この撹拌を6時間行い、糖液(混合物)を得た。
【0174】
得られた糖液(混合物)に無機塩として硫酸アンモニウム16gを水24gに溶解したものを添加し、撹拌させた後、3時間静置し、残渣(第一残渣)の沈殿を確認した。静置後、上記混合物をろ過し、分離された糖の溶液(糖液)を得た。
【0175】
分離された上記第一残渣(固形分)の90%に水90gを添加し、さらに希硫酸を用いてpH4.0の混合物とした。この混合物を2時間撹拌して第一残渣を分散させ、その後、濾過し、分離されたPVA溶液(B)を得た。
【0176】
一方、残りの10%の第一残渣、及びPVA溶液(B)から分離された第二残渣を合わせ、これに水を34g加え、撹拌した。この分散液を濾過し、分離液と第三残渣とに分離した。この分離液を蒸留水で洗浄したホウ素選択性イオン交換樹脂(ダイヤイオン(登録商標)CRB02、三菱化学社製)250mLを充填した吸着塔に通液した。
【0177】
この操作を3回繰り返した。なお、2回目及び3回目は、PVA水溶液(A)の使用量を10g(1回目の使用量の10%)、ホウ酸の飽和水溶液の使用量を0.2mL(1回目の使用量の10%)とし、前回の最終工程で分離されたPVA溶液(B)をゲル化前のPVA水溶液(A)に添加した。すなわち、2回目及び3回目においては、未使用のPVA及びホウ酸の量を1回目の10%とし、これに分離されたPVA溶液(B)を加えてPVA及びホウ酸を再利用することで、全体のPVA及びホウ酸の量を補った。
【0178】
[実施例4−2〜4−3]
無機塩を表5の各無機塩を用いたこと以外は実施例4−1と同様にして、実施例4−2〜4−3を行い、糖液を得た。
【0179】
[実施例4−4〜4−5]
第一残渣の水による希釈後の希硫酸の使用量を調整し、混合物のpHを表5のとおりとしたこと以外は実施例4−1と同様にして、実施例4−4及び4−5を行い、糖液を得た。
【0180】
[比較例4−1]
2回目及び3回目において、前回の最終工程で分離されたPVA溶液(B)をゲル化前のPVA水溶液(A)に添加しなかったこと以外は、実施例4−1と同様の操作を行い、糖液を得た。
【0181】
[評価]
(糖化効率)
上記と同様の方法で糖化効率(%)を求めた。測定結果を表5に示す。
【0182】
【表5】
【0183】
(ホウ酸濃度)
実施例4−1において、吸着塔に通液する前後の分離液のホウ酸濃度(ホウ酸換算)を測定した。通液前のホウ酸濃度は490ppmであり、通液後のホウ酸濃度は4.2ppmであった。
【0184】
表5に示されるように、実施例4−1〜4−5は、いずれもPVA及びホウ酸を含む残渣をリサイクルすることで、1回目から3回目まで高い糖化効率を維持できることがわかる。また、イオン交換樹脂を用いて処理することで、ホウ酸濃度を日本の排出基準(陸水域10ppm、海水域230ppm)に対応可能なほどの低濃度にできることがわかる。