特許第5890204号(P5890204)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5890204スラグチューナ、それを用いたマイクロ波プラズマ源、およびマイクロ波プラズマ処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5890204
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月22日
(54)【発明の名称】スラグチューナ、それを用いたマイクロ波プラズマ源、およびマイクロ波プラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
   H05H 1/46 20060101AFI20160308BHJP
   H01L 21/3065 20060101ALI20160308BHJP
   H01P 5/103 20060101ALI20160308BHJP
【FI】
   H05H1/46 B
   H01L21/302 101D
   H01P5/103 Z
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-48401(P2012-48401)
(22)【出願日】2012年3月5日
(65)【公開番号】特開2013-186939(P2013-186939A)
(43)【公開日】2013年9月19日
【審査請求日】2014年12月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099944
【弁理士】
【氏名又は名称】高山 宏志
(72)【発明者】
【氏名】河西 繁
(72)【発明者】
【氏名】池田 太郎
(72)【発明者】
【氏名】小松 智仁
【審査官】 山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−074154(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/105411(WO,A1)
【文献】 特開2010−003462(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/153053(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/032942(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05H 1/46
H01L 21/3065
H01P 5/103
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバ内にマイクロ波プラズマを形成してプラズマ処理を行うプラズマ処理装置において、マイクロ波電源から伝送されたマイクロ波が給電され、マイクロ波を放射する平面アンテナへマイクロ波を伝送するとともに、前記チャンバ内の負荷のインピーダンスを前記マイクロ波電源の特性インピーダンスに整合させるスラグチューナであって、
筒状をなす外側導体とその中に同軸的に設けられた筒状をなす内側導体とを有し、その先端部に前記平面アンテナが取り付けられ、基端部にマイクロ波が給電されるマイクロ波伝送路と、
前記外側導体と前記内側導体の間に設けられ、内側導体の長手方向に沿って移動可能な、環状をなし、誘電体からなるスラグと、
前記マイクロ波伝送路の基端側に設けられ、前記スラグを移動させる駆動機構と
を具備し、
前記外側導体は、内筒をなす第1部材と外筒をなす第2部材との二重管構造であり、
前記第1部材と前記第2部材とは固定されておらず、前記内側導体と前記第1部材とは基端側において連結されており、前記第2部材の先端部および前記内側導体の先端部は、前記平面アンテナに接続されており、前記第1部材の先端と前記第2部材の先端とは分離し、前記第2部材の先端部は前記第1部材の先端側に突出しており、前記プラズマの熱で前記内側導体が加熱されて膨張した際に、前記第1部材はそれにともなって基端側に移動し、前記第2部材は前記内側導体とともに前記平面アンテナに拘束されることにより、前記第1部材の先端と前記第2部材の先端との間に間隙が形成され、
前記外側導体は、前記第1部材と前記第2部材との間にチョーク構造を有し、
前記チョーク構造は、前記外側導体の先端部から基端側に延びるλg/2(ただし、λgはマイクロ波の実効波長である)の長さのチョーク溝を有し、前記チョーク溝の基端側端部を電流の定在波が腹となるショート状態とし、結果的に前記外側導体の前記先端部がショート状態となるようにしたことを特徴とするスラグチューナ。
【請求項2】
前記チョーク溝の前記先端部からλg/4の位置に、前記第1部材と前記第2部材とが合わさった部分が存在していることを特徴とする請求項1に記載のスラグチューナ。
【請求項3】
前記第1部材と前記第2部材とが合わさった部分に電磁シールド材を施すことを特徴とする請求項2に記載のスラグチューナ。
【請求項4】
前記チョーク溝に誘電体部材が埋め込まれていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のスラグチューナ。
【請求項5】
前記第1部材と前記第2部材との間に滑り部材が介装されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のスラグチューナ。
【請求項6】
チャンバ内にマイクロ波プラズマを形成してプラズマ処理を行うプラズマ処理装置に用いられるマイクロ波プラズマ源であって、
マイクロ波を生成して出力するマイクロ波出力部と、前記マイクロ波出力部から出力されたマイクロ波を伝送し前記チャンバ内に放射するためのマイクロ波供給部とを具備し、
前記マイクロ波供給部は、請求項1から請求項5のいずれかのスラグチューナと、前記マイクロ波を放射する平面アンテナとを有するマイクロ波放射部を備えることを特徴とするマイクロ波プラズマ源。
【請求項7】
前記マイクロ波供給部は、前記マイクロ波放射部を複数有することを特徴とする請求項6に記載のマイクロ波プラズマ源。
【請求項8】
被処理基板を収容するチャンバと、
前記チャンバ内にガスを供給するガス供給機構と、
請求項6または請求項7に記載のマイクロ波プラズマ源と
を具備し、
前記マイクロ波プラズマ源から前記チャンバ内に供給されたマイクロ波により前記ガス供給機構から供給されたガスをプラズマ化して前記チャンバ内の被処理基板に対してプラズマにより処理を施すことを特徴とするマイクロ波プラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波プラズマ処理装置においてインピーダンスの自動整合を行うスラグチューナ、それを用いたマイクロ波プラズマ源、およびマイクロ波プラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ処理は、半導体デバイスの製造に不可欠な技術であるが、近時、LSIの高集積化、高速化の要請からLSIを構成する半導体素子のデザインルールが益々微細化され、また、半導体ウエハが大型化されており、それにともなって、プラズマ処理装置においてもこのような微細化および大型化に対応するものが求められている。
【0003】
ところが、従来から多用されてきた平行平板型や誘導結合型のプラズマ処理装置では、生成されるプラズマの電子温度が高いため微細素子にプラズマダメージが生じてしまい、また、プラズマ密度の高い領域が限定されるため、大型の半導体ウエハを均一かつ高速にプラズマ処理することは困難である。
【0004】
そこで、高密度で低電子温度のプラズマを均一に形成することができるRLSA(Radial Line Slot Antenna)マイクロ波プラズマ処理装置が注目されている(例えば特許文献1)。
【0005】
RLSAマイクロ波プラズマ処理装置は、チャンバの上部に所定のパターンで多数のスロットが形成されたラジアルラインスロットアンテナ(Radial Line Slot Antenna)を設け、マイクロ波発生源から導かれたマイクロ波を、アンテナのスロットから放射させるとともに、その下に設けられた誘電体からなるマイクロ波透過板を介して真空に保持されたチャンバ内に放射し、このマイクロ波電界によりチャンバ内で表面波プラズマを生成し、これにより半導体ウエハ等の被処理体を処理するものである。
【0006】
また、マイクロ波を複数に分配し、上記平面アンテナを有する複数のアンテナモジュールを介してマイクロ波をチャンバ内に導きチャンバ内でマイクロ波を空間合成するマイクロ波プラズマ源を有するマイクロ波プラズマ処理装置も提案されている(特許文献2)。
【0007】
特許文献2の技術では、各アンテナモジュールにおいて、平面状のスロットアンテナと負荷(プラズマ)のインピーダンスのチューニングを行うためスラグチューナを一体的に設けるとともにアンプを近接して設けているため、マイクロ波プラズマ源自体を著しくコンパクト化することができ、また、インピーダンス不整合が存在するアンテナ取り付け部分においてチューニングすることができるので、チューニングが高精度であり、反射の影響を確実に解消することができる。また、スラグチューナは、管状の外部導体と外部導体内に設けられた内部導体とにより同軸状のマイクロ波伝送路が構成され、外部導体の内面と内部導体の外面との間の隙間内に内部導体の長手方向に沿って移動自在に少なくとも2つの誘電体からなるスラグが設けられ、これらスラグを駆動機構により移動させることによりインピーダンスチューニングを行うものであり、それ自体が極めてコンパクトで低損失である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−294550号公報
【特許文献2】国際公開第2008/013112号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、このようなマイクロ波プラズマ処理装置は、プラズマの発光による熱やマイクロ波の損失による熱によって、チャンバ、アンテナ、マイクロ波透過板の温度が上昇し、これによってスラグチューナの温度も高くなる。従来は、スラグチューナの内側導体と外側導体とは一体的に設けられており、外側導体は冷却構造となっているが内側導体は構造上直接冷却することが難しいため、プラズマによる温度上昇によって内側導体と外側導体との間に熱膨張差による応力が生じ、内側導体が変形して、スラグの移動性に影響を与えたり、シール機能に支障をきたす等の懸念がある。
【0010】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、プラズマの熱による悪影響を解消することができるスラグチューナ、ならびにそのようなスラグチューナを用いたマイクロ波プラズマ源およびマイクロ波プラズマ処理装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の第1の観点では、チャンバ内にマイクロ波プラズマを形成してプラズマ処理を行うプラズマ処理装置において、マイクロ波電源から伝送されたマイクロ波が給電され、マイクロ波を放射する平面アンテナへマイクロ波を伝送するとともに、前記チャンバ内の負荷のインピーダンスを前記マイクロ波電源の特性インピーダンスに整合させるスラグチューナであって、筒状をなす外側導体とその中に同軸的に設けられた筒状をなす内側導体とを有し、その先端部に前記平面アンテナが取り付けられ、基端部にマイクロ波が給電されるマイクロ波伝送路と、前記外側導体と前記内側導体の間に設けられ、内側導体の長手方向に沿って移動可能な、環状をなし、誘電体からなるスラグと、前記マイクロ波伝送路の基端側に設けられ、前記スラグを移動させる駆動機構とを具備し、前記外側導体は、内筒をなす第1部材と外筒をなす第2部材との二重管構造であり、前記第1部材と前記第2部材とは固定されておらず、前記内側導体と前記第1部材とは基端側において連結されており、前記第2部材の先端部および前記内側導体の先端部は、前記平面アンテナに接続されており、前記第1部材の先端と前記第2部材の先端とは分離し、前記第2部材の先端部は前記第1部材の先端側に突出しており、前記プラズマの熱で前記内側導体が加熱されて膨張した際に、前記第1部材はそれにともなって基端側に移動し、前記第2部材は前記内側導体とともに前記平面アンテナに拘束されることにより、前記第1部材の先端と前記第2部材の先端との間に間隙が形成され、前記外側導体は、前記第1部材と前記第2部材との間にチョーク構造を有し、前記チョーク構造は、前記外側導体の先端部から基端側に延びるλg/2(ただし、λgはマイクロ波の実効波長である)の長さのチョーク溝を有し、前記チョーク溝の基端側端部を電流の定在波が腹となるショート状態とし、結果的に前記外側導体の前記先端部がショート状態となるようにしたことを特徴とするスラグチューナを提供する。
【0012】
上記第1の観点において、前記チョーク溝の前記先端部からλg/4の位置に、前記第1部材と前記第2部材とが合わさった部分が存在していることが好ましい。また、前記第1部材と前記第2部材とが合わさった部分に電磁シールド材を施すことがさらに好ましい。さらに、前記チョーク溝に誘電体部材が埋め込まれていることが好ましい。さらにまた、前記第1部材と前記第2部材との間に滑り部材を介装させることができる。
【0013】
本発明の第2の観点では、チャンバ内にマイクロ波プラズマを形成してプラズマ処理を行うプラズマ処理装置に用いられるマイクロ波プラズマ源であって、マイクロ波を生成して出力するマイクロ波出力部と、前記マイクロ波出力部から出力されたマイクロ波を伝送し前記チャンバ内に放射するためのマイクロ波供給部とを具備し、前記マイクロ波供給部は、上記第1の観点のスラグチューナと、前記マイクロ波を放射する平面アンテナとを有するマイクロ波放射部を備えることを特徴とするマイクロ波プラズマ源を提供する。
【0014】
上記第2の観点において、前記マイクロ波供給部は、前記マイクロ波放射部を複数有するものとすることができる。
【0015】
本発明の第3の観点では、被処理基板を収容するチャンバと、前記チャンバ内にガスを供給するガス供給機構と、上記第2の観点のマイクロ波プラズマ源とを具備し、前記マイクロ波プラズマ源から前記チャンバ内に供給されたマイクロ波により前記ガス供給機構から供給されたガスをプラズマ化して前記チャンバ内の被処理基板に対してプラズマにより処理を施すことを特徴とするマイクロ波プラズマ処理装置を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、外側導体は、内筒をなす第1部材と外筒をなす第2部材との二重管構造とし、内側導体と第1部材とは基端側で連結されており、第1部材と第2部材とは固定されておらず、プラズマの熱で内側導体が加熱されて膨張した際に、第1部材の先端と第2部材の先端との間に間隙が形成されるようにしたので、内側導体と外側導体との熱膨張差による応力が緩和される。このため、内側導体の変形が生じず、スラグの移動性に影響を与えたり、シール機能に支障をきたしたりすることがない。この際に、内側導体の熱膨張により第1部材の先端と第2部材の先端との間の間隙が変化すると、電気抵抗が変化して伝送系が変化し、安定したプロセスが実現されないおそれがあるが、第1部材と第2部材との間にチョーク構造を形成し、チョーク溝を、外側導体の先端部から基端側に延びるλg/2の長さとし、チョーク溝の基端側端部を電流の定在波が腹となるショート状態とし、結果的に外側導体の先端部がショート状態となるようにしたので、先端部の間隙が変化しても、その部分の電気抵抗は変化しないので、一定の電流が流れ、伝送系が安定し、安定したプロセスを実現することができる。
【0017】
また、外側導体の第1部材と第2部材とが合わさった部分は内側導体の熱膨張により間隙が生じ、電磁波の漏洩が懸念される部位であるが、チョーク溝の先端部からλg/4の位置にその合わさった部分が配置されるようにすれば、その位置は電流が0のオープンチョークとなるため、電流の延長線上にある変位電流は誘導されない。このためその部分に間隙があっても、その部分からの電磁波の漏洩を極めて効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係るスラグチューナを有するマイクロ波放射部が搭載されたマイクロ波プラズマ処理装置の概略構成を示す断面図である。
図2図1のマイクロ波プラズマ処理装置のマイクロ波プラズマ源の構成を示す構成図である。
図3】マイクロ波プラズマ源におけるマイクロ波供給部を模式的に示す平面図である。
図4】マイクロ波プラズマ源におけるスラグチューナとアンテナ部からなるマイクロ波放射部を示す断面図である。
図5】外側導体の先端部の状態を示す拡大図であり、(a)は常温の状態、(b)はプラズマの熱が与えられた状態である。
図6】スラグチューナにおけるスラグと滑り部材を示す図4のVI−VI線による横断面図である。
図7】マイクロ波放射部の給電機構を示す図4のVII−VII線による横断面図である。
図8】外側導体の第1部材と第2部材との間のチョーク構造を説明するための図である。
図9】外側導体のチョーク溝に対応する部分の電流および電圧の定在波分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0020】
<マイクロ波プラズマ処理装置の構成>
図1は、本発明の一実施形態に係るスラグチューナを有するマイクロ波放射部が搭載されたマイクロ波プラズマ処理装置の概略構成を示す断面図、図2図1のマイクロ波プラズマ処理装置のマイクロ波プラズマ源の構成を示す構成図、図3はマイクロ波プラズマ源におけるマイクロ波供給部を模式的に示す平面図である。
【0021】
マイクロ波プラズマ処理装置100は、ウエハに対してプラズマ処理として例えばエッチング処理を施すプラズマエッチング装置として構成されており、気密に構成されたアルミニウムまたはステンレス鋼等の金属材料からなる略円筒状の接地されたチャンバ1と、チャンバ1内にマイクロ波プラズマを形成するためのマイクロ波プラズマ源2とを有している。チャンバ1の上部には開口部1aが形成されており、マイクロ波プラズマ源2はこの開口部1aからチャンバ1の内部に臨むように設けられている。
【0022】
チャンバ1内には被処理体であるウエハWを水平に支持するためのサセプタ11が、チャンバ1の底部中央に絶縁部材12a介して立設された筒状の支持部材12により支持された状態で設けられている。サセプタ11および支持部材12を構成する材料としては、表面をアルマイト処理(陽極酸化処理)したアルミニウム等が例示される。
【0023】
また、図示はしていないが、サセプタ11には、ウエハWを静電吸着するための静電チャック、温度制御機構、ウエハWの裏面に熱伝達用のガスを供給するガス流路、およびウエハWを搬送するために昇降する昇降ピン等が設けられている。さらに、サセプタ11には、整合器13を介して高周波バイアス電源14が電気的に接続されている。この高周波バイアス電源14からサセプタ11に高周波電力が供給されることにより、ウエハW側にプラズマ中のイオンが引き込まれる。
【0024】
チャンバ1の底部には排気管15が接続されており、この排気管15には真空ポンプを含む排気装置16が接続されている。そしてこの排気装置16を作動させることによりチャンバ1内が排気され、チャンバ1内を所定の真空度まで高速に減圧することが可能となっている。また、チャンバ1の側壁には、ウエハWの搬入出を行うための搬入出口17と、この搬入出口17を開閉するゲートバルブ18とが設けられている。
【0025】
チャンバ1内のサセプタ11の上方位置には、プラズマエッチングのための処理ガスをウエハWに向けて吐出するシャワープレート20が水平に設けられている。このシャワープレート20は、格子状に形成されたガス流路21と、このガス流路21に形成された多数のガス吐出孔22とを有しており、格子状のガス流路21の間は空間部23となっている。このシャワープレート20のガス流路21にはチャンバ1の外側に延びる配管24が接続されており、この配管24には処理ガス供給源25が接続されている。処理ガスとしては通常用いられるエッチングガスを用いることができる。
【0026】
一方、チャンバ1のシャワープレート20の上方位置には、リング状のプラズマ生成ガス導入部材26がチャンバ壁に沿って設けられており、このプラズマ生成ガス導入部材26には内周に多数のガス吐出孔が設けられている。このプラズマ生成ガス導入部材26には、プラズマ生成ガスを供給するプラズマ生成ガス供給源27が配管28を介して接続されている。プラズマ生成ガスとしてはArガスなどが好適に用いられる。
【0027】
プラズマ生成ガス導入部材26からチャンバ1内に導入されたプラズマ生成ガスは、マイクロ波プラズマ源2からチャンバ1内に導入されたマイクロ波によりプラズマ化され、このようにして生成されたプラズマ、例えばArプラズマがシャワープレート20の空間部23を通過しシャワープレート20のガス吐出孔22から吐出された処理ガスを励起し、処理ガスのプラズマを生成する。なお、プラズマ生成ガスと処理ガスとを同一の供給部材で供給してもよい。
【0028】
マイクロ波プラズマ源2は、チャンバ1の上部に設けられた支持リング29により支持された天板110を有しており、支持リング29と天板110との間は気密にシールされている。
【0029】
図2に示すように、マイクロ波プラズマ源2は、複数経路に分配してマイクロ波を出力するマイクロ波出力部30と、マイクロ波出力部30から出力されたマイクロ波を伝送しチャンバ1内に放射するためのマイクロ波供給部40とを有している。
【0030】
マイクロ波出力部30は、マイクロ波電源31と、マイクロ波発振器32と、発振されたマイクロ波を増幅するアンプ33と、増幅されたマイクロ波を複数に分配する分配器34とを有している。
【0031】
マイクロ波発振器32は、所定周波数(例えば、860MHz)のマイクロ波を例えばPLL発振させる。分配器34では、マイクロ波の損失ができるだけ起こらないように、入力側と出力側のインピーダンス整合を取りながらアンプ33で増幅されたマイクロ波を分配する。なお、マイクロ波の周波数としては、860MHzの他に、700MHzから3GHzの範囲を用いることができる。
【0032】
マイクロ波供給部40は、分配器34にて分配されたマイクロ波をチャンバ1内へ導く複数のアンテナモジュール41を有している。各アンテナモジュール41は、分配されたマイクロ波を主に増幅するアンプ部42と、マイクロ波放射部43とを有している。そして、各アンテナモジュール41におけるマイクロ波放射部43のアンテナ部45からチャンバ1内へマイクロ波が放射されるようになっている。図3に示すように、マイクロ波供給部40は、アンテナモジュール41を7個有しており、各アンテナモジュール41のマイクロ波放射部43が、円周状に6個およびその中心に1個、円形をなす天板110の上に配置されている。
【0033】
天板110は、真空シールおよびマイクロ波透過板として機能し、金属製のフレーム110aと、そのフレーム110aに嵌め込まれ、マイクロ波放射部43が配置されている部分に対応するように設けられた石英等の誘電体からなる誘電体部材110bとを有している(図1参照)。
【0034】
アンプ部42は、位相器46と、可変ゲインアンプ47と、ソリッドステートアンプを構成するメインアンプ48と、アイソレータ49とを有している。
【0035】
位相器46は、マイクロ波の位相を変化させることができるように構成されており、これを調整することにより放射特性を変調させることができる。例えば、各アンテナモジュール毎に位相を調整することにより指向性を制御してプラズマ分布を変化させることができる。また、隣り合うアンテナモジュールにおいて90°ずつ位相をずらすようにして円偏波を得ることができる。また、位相器46は、アンプ内の部品間の遅延特性を調整し、チューナ内での空間合成を目的として使用することができる。ただし、このような放射特性の変調やアンプ内の部品間の遅延特性の調整が不要な場合には位相器46を設ける必要はない。
【0036】
可変ゲインアンプ47は、メインアンプ48へ入力するマイクロ波の電力レベルを調整し、個々のアンテナモジュールのばらつきを調整またはプラズマ強度調整のためのアンプである。可変ゲインアンプ47を各アンテナモジュール毎に変化させることによって、発生するプラズマに分布を生じさせることもできる。
【0037】
ソリッドステートアンプを構成するメインアンプ48は、例えば、入力整合回路と、半導体増幅素子と、出力整合回路と、高Q共振回路とを有する構成とすることができる。
【0038】
アイソレータ49は、アンテナ部45で反射してメインアンプ48に向かう反射マイクロ波を分離するものであり、サーキュレータとダミーロード(同軸終端器)とを有している。サーキュレータは、アンテナ部45で反射したマイクロ波をダミーロードへ導き、ダミーロードはサーキュレータによって導かれた反射マイクロ波を熱に変換する。
【0039】
次に、マイクロ波放射部43について説明する。
図4に示すように、マイクロ波放射部43は、マイクロ波を伝送するとともにインピーダンスを整合させるためのスラグチューナ60と、スラグチューナ60の先端側に設けられ、増幅されたマイクロ波をチャンバ1内に放射する平面スロットアンテナ81を有するアンテナ部45とを有している。そして、マイクロ波放射部43からチャンバ1内に放射されたマイクロ波がチャンバ1内の空間で合成され、チャンバ1内で表面波プラズマが形成されるようになっている。
【0040】
スラグチューナ60は、筒状をなす外側導体52および外側導体52の中に同軸的に設けられた筒状をなす内側導体53を有する同軸構造のマイクロ波伝送路44と、外側導体52と内側導体53との間を上下に移動する2つのスラグ61a,61bと、スラグ駆動部70とを有している。マイクロ波伝送路44においては、内側導体53が給電側、外側導体52がアンテナ側に接続されており、先端部に平面スロットアンテナ81が取り付けられ、基端部に後述する給電機構54が設けられている。また、マイクロ波伝送路44とスラグ駆動部70との間には反射板58が設けられている。
【0041】
外側導体52は、内側筒を構成する第1部材521と外側筒を構成する第2部材522とを有する2重管構造となっており、両者は固定されていない。また、第1部材521と内側導体53とは、基端側で連結部材57で連結されており、アンテナ部45側は連結されていない。また、内側導体53と第2部材522とに平面スロットアンテナ81が固定されるようになっている。すなわち、内側導体53と第2部材522は平面スロットアンテナ81を介して連結されている。
【0042】
図5(a)の拡大図に示すように、外側導体52の先端部においては、第1部材521と第2部材522は分離している。そして、第2部材522の先端部には、第1部材521の先端部の下方に突出する突出部522aを有しており、突出部522aの上面には、誘電体部材523が取り付けられており、常温では誘電体部材523を介して第1部材521と突出部522aとは接した状態となっている。
【0043】
このように構成されることにより、プラズマが生成された際の熱により内側導体53が膨張した際に、外側導体52の第1部材521がそれにともなって基端側(上方)へ移動し、第2部材522は第1部材521に固定されていないので移動せず、図5(b)に示すように、第1部材521の先端部と第2部材522の先端部に間隙527が形成される。このため、内側導体53と外側導体52との熱膨張差による応力が緩和される。第1部材521と第2部材522との間には、滑り性の良好な材料、例えばテフロン(登録商標)等の樹脂材料からなる滑り部材524が設けられている。この滑り部材524は、第1部材521が内側導体53の熱膨張により基端側へ移動する際の滑りガイドとして機能する。
【0044】
2つのスラグ61a,61bのうち、スラグ61aは給電側に設けられ、スラグ61bはアンテナ部45側に設けられている。また、内側導体53の内部空間には、その長手方向に沿って例えば台形ネジが形成された螺棒からなるスラグ移動用の2本のスラグ移動軸64a,64bが設けられている。
【0045】
図6に示すように、スラグ61aは、誘電体からなる円環状をなし、その内側に滑り性を有する樹脂からなる滑り部材63が嵌め込まれている。滑り部材63にはスラグ移動軸64aが螺合するねじ穴65aとスラグ移動軸64bが挿通される通し穴65bが設けられている。一方、スラグ61bは、スラグ61aと同様、ねじ穴65aと通し穴65bとを有しているが、スラグ61aとは逆に、ねじ穴65aはスラグ移動軸64bに螺合され、通し穴65bにはスラグ移動軸64aが挿通されるようになっている。これによりスラグ移動軸64aを回転させることによりスラグ61aが昇降移動し、スラグ移動軸64bを回転させることによりスラグ61bが昇降移動する。すなわち、スラグ移動軸64a,64bと滑り部材63とからなるねじ機構によりスラグ61a,61bが昇降移動される。
【0046】
内側導体53には長手方向に沿って等間隔に3つのスリット53aが形成されている。一方、滑り部材63は、これらスリット53aに対応するように3つの突出部63aが等間隔に設けられている。そして、これら突出部63aがスラグ61a,61bの内周に当接した状態で滑り部材63がスラグ61a,61bの内部に嵌め込まれる。滑り部材63の外周面は、内側導体53の内周面と遊びなく接触するようになっており、スラグ移動軸64a,64bが回転されることにより、滑り部材63が内側導体53を滑って昇降するようになっている。すなわち内側導体53の内周面がスラグ61a,61bの滑りガイドとして機能する。
【0047】
滑り部材63を構成する樹脂材料としては、良好な滑り性を有し、加工が比較的容易な樹脂、例えばポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂を好適なものとして挙げることができる。
【0048】
上記スラグ移動軸64a,64bは、反射板58を貫通してスラグ駆動部70に延びている。スラグ移動軸64a,64bと反射板58との間にはベアリング(図示せず)が設けられている。また、内側導体53の下端には、導体からなる底板67が設けられている。スラグ移動軸64a,64bの下端は、駆動時の振動を吸収するために開放端となっている。なお、この底板67を軸受け部としてスラグ移動軸64a,64bの下端をこの軸受け部にて軸支させてもよい。
【0049】
スラグ駆動部70は筐体71を有し、スラグ移動軸64aおよび64bは筐体71内に延びており、スラグ移動軸64aおよび64bの上端には、それぞれ歯車72aおよび72bが取り付けられている。また、スラグ駆動部70には、スラグ移動軸64aを回転させるモータ73aと、スラグ移動軸64bを回転させるモータ73bが設けられている。モータ73aの軸には歯車74aが取り付けられ、モータ73bの軸には歯車74bが取り付けられており、歯車74aが歯車72aに噛合し、歯車74bが歯車72bに噛合するようになっている。したがって、モータ73aにより歯車74aおよび72aを介してスラグ移動軸64aが回転され、モータ73bにより歯車74bおよび72bを介してスラグ移動軸64bが回転される。なお、モータ73a,73bは例えばステッピングモータである。
【0050】
なお、スラグ移動軸64bはスラグ移動軸64aよりも長く、より上方に達しており、したがって、歯車72aおよび72bの位置が上下にオフセットしており、モータ73aおよび73bも上下にオフセットしているので、モータおよび歯車等の動力伝達機構のスペースを小さくすることができる。
【0051】
モータ73aおよび73bの上には、これらの出力軸に直結するように、それぞれスラグ61aおよび61bの位置を検出するためのインクリメント型のエンコーダ75aおよび75bが設けられている。
【0052】
スラグ61aおよび61bの位置は、スラグコントローラ68により制御される。具体的には、図示しないインピーダンス検出器により検出された入力端のインピーダンス値と、エンコーダ75aおよび75bにより検知されたスラグ61aおよび61bの位置情報に基づいて、スラグコントローラ68がモータ73aおよび73bに制御信号を送り、スラグ61aおよび61bの位置を制御することにより、インピーダンスを調整するようになっている。スラグコントローラ68は、終端が例えば50Ωになるようにインピーダンス整合を実行させる。2つのスラグのうち一方のみを動かすと、スミスチャートの原点を通る軌跡を描き、両方同時に動かすと位相のみが回転する。
【0053】
マイクロ波伝送路44の基端部にはマイクロ波(電磁波)を給電する給電機構54が設けられている。給電機構54は、マイクロ波伝送路44(外側導体52)の側面に設けられたマイクロ波電力を導入するためのマイクロ波電力導入ポート55を有している。マイクロ波電力導入ポート55には、アンプ部42から増幅されたマイクロ波を供給するための給電線として、内側導体56aおよび外側導体56bからなる同軸線路56が接続されている。そして、同軸線路56の内側導体56aの先端には、外側導体52の内部に向けて水平に伸びる給電アンテナ90が接続されている。
【0054】
給電アンテナ90は、例えば、アルミニウム等の金属板を削り出し加工した後、テフロン(登録商標)等の誘電体部材の型にはめて形成される。反射板58から給電アンテナ90までの間には、反射波の実効波長を短くするためのテフロン(登録商標)等の誘電体からなる遅波材59が設けられている。なお、2.45GHz等の周波数の高いマイクロ波を用いた場合には、遅波材59は設けなくてもよい。このとき、給電アンテナ90から反射板58までの距離を最適化し、給電アンテナ90から放射される電磁波を反射板58で反射させることで、最大の電磁波を同軸構造のマイクロ波伝送路44内に伝送させる。
【0055】
給電アンテナ90は、図7に示すように、マイクロ波電力導入ポート55において同軸線路56の内側導体56aに接続され、電磁波が供給される第1の極92および供給された電磁波を放射する第2の極93を有するアンテナ本体91と、アンテナ本体91の両側から、内側導体53の外側に沿って延び、リング状をなす反射部94とを有し、アンテナ本体91に入射された電磁波と反射部94で反射された電磁波とで定在波を形成するように構成されている。アンテナ本体91の第2の極93は内側導体53に接触している。
【0056】
給電アンテナ90がマイクロ波(電磁波)を放射することにより、外側導体52と内側導体53との間の空間にマイクロ波電力が給電される。そして、給電機構54に供給されたマイクロ波電力がアンテナ部45に向かって伝播する。マイクロ波伝送路44の外側導体52および内側導体53には定在波が形成される。
【0057】
上述したように、外側導体52の第1部材521の先端部と第2部材522の先端部の間隙により、プラズマによる内側導体53の熱膨張の影響を緩和することができるが、その間隙の変化により電気抵抗が変化し、それによりプロセスが不安定になるおそれがある。そのため、マイクロ波伝送路44が分布定数回路であることからその特性を応用して、図8に示すように、外側導体52の第1部材521と第2部材522との間をチョーク構造としている。すなわち、先端部のC点とC点からλg/2の位置のA点との間に環状にチョーク溝525を形成し、A点を電気的短絡(ショート)状態にしており、必然的にC点もショート状態となるようにしている。また、C点からλg/4の位置であるB点に、第1部材521と第2部材522とが合わさった部分526を対応させている。その結果、A点からB点の間はチョーク溝525は第1部材521内に形成され、B点からC点の間はチョーク溝525は第1部材521と第2部材522との間に形成される。
【0058】
具体的には、マイクロ波伝送路44が分布定数回路となり、定在波が形成されることとなるので、A点からC点までの間にチョーク溝525を形成して、定在波分布がA点において電流が腹および電圧が節となるように、すなわちショート状態となるようにチョーク溝525の長さを調整することができる。このときの電流と電圧の定在波分布は図9に示すようになり、A点をショート状態とすることにより、A点からλg/2の位置であるC点ではA点と同様、電流が腹および電圧が節となるショート状態であるため、外側導体52の第1部材521の先端部と第2部材522の先端部の間隙長さが変化してもC点での電気抵抗(インピーダンス)は変化しない。また、A点から位相がλg/4の位置のB点は、第1部材521と第2部材522とが合わさった部分526となっており、プラズマの熱により内側導体53が膨張したときに間隙が生じるが、図9に示すように、A点からλg/4の位置では電流が節および電圧が腹であり、電流がほぼ0となるオープンチョークとなるため、B点に間隙が生じても電流はほぼ流れず、電磁波の漏洩を極めて効果的に抑制することができる。
【0059】
なお、λgはマイクロ波の実効波長であり、
λg=λ/ε1/2
と表すことができる。ただし、εsはチョーク溝525の誘電率であり、λは空気中のマイクロ波の波長である。チョーク溝525が空間の場合には、λg=λであるが、波長によってはチョーク構造の長さが長くなってしまうため、λgを短くしてチョーク構造を短くする観点から、チョーク溝525に誘電体、例えばテフロン(登録商標)を充填することが好ましい。マイクロ波の周波数が860MHzの場合には、λ=348.6mmであるから、チョーク溝525が空間の場合はその長さ(λ/2)は174.3mmであるが、テフロン(登録商標)を挿入した場合には、その誘電率が2.1であるから、実効波長λgが240.6mmとなり、チョーク溝525の長さを120.3mmにすることができる。なお、チョーク溝525内にテフロン(登録商標)等を充填した場合には、チョーク溝525の下部の第1部材521と第2部材522との間の部分のテフロン(登録商標)等が滑り部材としても機能する。
【0060】
アンテナ部45は、マイクロ波放射アンテナとして機能する、平面状をなしスロット81aを有する平面スロットアンテナ81と、平面スロットアンテナ81の上面に設けられた遅波材82と、平面スロットアンテナ81の先端側に設けられた天板110の誘電体部材110bとを有している。スロット81aの形状は、マイクロ波が効率良く放射されるように適宜設定される。遅波材82の中心には導体からなる円柱部材82aが貫通して底板67と平面スロットアンテナ81とを接続している。したがって、内側導体53が底板67および円柱部材82aを介して平面スロットアンテナ81に接続されている。なお、遅波材82の周囲は外側導体52で覆われており、平面スロットアンテナ81の周囲は被覆導体84により覆われている。
【0061】
遅波材82および誘電体部材110bは、真空よりも大きい誘電率を有しており、例えば、石英、セラミックス、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂やポリイミド系樹脂により構成されており、真空中ではマイクロ波の波長が長くなることから、マイクロ波の波長を短くしてアンテナを小さくする機能を有している。遅波材82は、その厚さによりマイクロ波の位相を調整することができ、天板110と平面スロットアンテナ81の接合部が定在波の「はら」になるようにその厚さを調整する。これにより、反射が最小で、平面スロットアンテナ81の放射エネルギーが最大となるようにすることができる。
【0062】
天板110の誘電体部材110bは平面スロットアンテナ81に接するように設けられている。そして、メインアンプ48で増幅されたマイクロ波が内側導体53と外側導体52の周壁の間を通って平面スロットアンテナ81のスロット81aから天板110の誘電体部材110bを透過してチャンバ1内の空間に放射され、表面波プラズマが形成される。
【0063】
マイクロ波プラズマ処理装置100における各構成部は、マイクロプロセッサを備えた制御部120により制御されるようになっている。制御部120はマイクロ波プラズマ処理装置100のプロセスシーケンスおよび制御パラメータであるプロセスレシピを記憶した記憶部や、入力手段およびディスプレイ等を備えており、選択されたプロセスレシピに従ってプラズマ処理装置を制御するようになっている。
【0064】
<マイクロ波プラズマ処理装置の動作>
次に、以上のように構成されるマイクロ波プラズマ処理装置100における動作について説明する。
まず、ウエハWをチャンバ1内に搬入し、サセプタ11上に載置する。そして、プラズマ生成ガス供給源27から配管28およびプラズマ生成ガス導入部材26を介してチャンバ1内にプラズマ生成ガス、例えばArガスを導入しつつ、マイクロ波プラズマ源2からマイクロ波をチャンバ1内に伝送して表面波プラズマを生成する。
【0065】
そして、処理ガス供給源25から配管24およびシャワープレート20を介してチャンバ1内に処理ガス、例えばClガス等のエッチングガスが吐出される。吐出された処理ガスは、シャワープレート20の空間部23を通過してきたプラズマにより励起されてプラズマ化し、この処理ガスのプラズマによりウエハWにプラズマ処理、例えばエッチング処理が施される。
【0066】
上記表面波プラズマを生成するに際し、マイクロ波プラズマ源2では、マイクロ波出力部30のマイクロ波発振器32から発振されたマイクロ波電力はアンプ33で増幅された後、分配器34により複数に分配され、分配されたマイクロ波電力はマイクロ波供給部40へ導かれる。マイクロ波供給部40においては、このように複数に分配されたマイクロ波電力が、ソリッドステートアンプを構成するメインアンプ48で個別に増幅され、マイクロ波放射部43に給電される。マイクロ波放射部43ではスラグチューナ60によりインピーダンスが自動整合され、電力反射が実質的にない状態で、マイクロ波がマイクロ波伝送路44、遅波材82を経てアンテナ部45の平面スロットアンテナ81のスロットから放射され、さらに天板110の誘電体部材110bを透過し、プラズマに接する誘電体部材110bの表面を伝送され、この表面波によりチャンバ1内の空間に表面波プラズマが生成され、これにより被処理体であるウエハWがプラズマ処理される。
【0067】
このように、複数に分配されたマイクロ波を、ソリッドステートアンプを構成するメインアンプ48で個別に増幅し、平面スロットアンテナ81を用いて個別に放射した後にチャンバ1内で合成するので、大型のアイソレータや合成器が不要となる。また、マイクロ波放射部43はスラグチューナ60とアンテナ部45が一体化されているため極めてコンパクトである。さらに、メインアンプ48、スラグチューナ60および平面スロットアンテナ81が近接して設けられているため、スラグチューナ60により高精度でプラズマ負荷をチューニングすることができる。さらにまた、スラグチューナ60は2つのスラグ61a,61bを移動するだけでインピーダンス整合を行うことができるのでコンパクトで低損失であり、かつ、内側導体53内に、スラグ61a,61bに動力を伝達するスラグ移動軸64a,64bと、スラグ61a,61bを支持するとともに内側導体53内を昇降するガイド部材として機能する滑り部材63が設けられているので、スラグ駆動機構も極めてコンパクトである。
【0068】
ところで、このようなマイクロ波プラズマ処理を行う際に、マイクロ波出力部30からマイクロ波が投入されると、プラズマからの入熱およびマイクロ波の損失による熱により、チャンバ1、平面スロットアンテナ81および天板110の誘電体部材110bの温度が非常に高くなり、これによってスラグチューナ60の温度も高くなる。従来は、スラグチューナの内側導体と外側導体とは一体的に設けられており、外側導体は冷却構造となっているが内側導体は構造上直接冷却することが難しいため、プラズマによる温度上昇によって内側導体と外側導体との間に熱膨張差による応力が生じ、内側導体が変形して、スラグの移動性に影響を与えたり、シール機能に支障をきたす等の懸念があった。
【0069】
これに対して、本実施形態では、外側導体52を、内側筒を構成する第1部材521と外側筒を構成する第2部材522とを有する2重管構造とし、両者を固定せずに設け、第1部材521と内側導体53とを基端側で連結部材57により連結し、内側導体53と第2部材522とに平面スロットアンテナ81が固定されている。このため、プラズマが生成された際の熱により内側導体53が膨張した際に、外側導体52の第1部材521がそれにともなって基端側(上方)へ移動し、第2部材522は第1部材521に固定されていないので移動せず、図5(b)に示すように、第1部材521の先端部と第2部材522の先端部に間隙が形成され、内側導体53と外側導体52との熱膨張差による応力が緩和される。このため、内側導体53の変形が生じず、スラグ61a,61bの移動性に影響を与えたり、シール機能に支障をきたしたりすることがない。
【0070】
しかしながら、内側導体53および外側導体52とも上下方向に電流が流れるため、内側導体53が熱膨張することにより第1部材521の先端部と第2部材522の先端部の間隙が変化すると、電気抵抗が変化して伝送系が変化し、安定したプロセスが実現されないおそれがある。
【0071】
そこで、本実施形態では、マイクロ波伝送路44が分布定数回路であることから、その特性を利用して、外側導体52の第1部材521と第2部材522との間をチョーク構造としてこのような不都合を解消する。
【0072】
すなわち、マイクロ波伝送路44が分布定数回路となり、定在波が形成されることとなるので、先端部のC点とC点からλg/2の位置のA点との間に環状にチョーク溝525を形成し、定在波分布がA点において電流が腹および電圧が節となるように、すなわちショート状態となるようにチョーク溝525の長さを調整する。これにより、A点からλg/2の位置であるC点ではA点と同様、電流が腹および電圧が節となるショート状態であるため、外側導体52の第1部材521の先端部と第2部材522の先端部の間隙長さが変化してもC点での電気抵抗(インピーダンス)は変化しない。このため一定の電流が流れ、伝送系が安定し、安定したプロセスを実現することができる。
【0073】
また、外側導体52の第1部材521と第2部材522とが合わさった部分526は内側導体53の熱膨張により間隙が生じ、電磁波の漏洩が懸念される部位であるが、その部分に対応するB点はA点からλg/4の位置となり、電流が節および電圧が腹となってオープンチョークとなるため、電流が0となり、電流の延長線上にある変位電流は誘導されない。このためその部分に間隙があっても、その部分からの電磁波の漏洩を極めて効果的に抑制することができる。このことを確認するため、電磁シミュレーションを行った。ここでは、最大投入パワーを500W、B点での合わさった部分の間隙を7mmとした。その結果、500Wの入力に対して漏洩が50μWとなり、問題のないレベルであることが確認された。なお、第1部材521と第2部材522とが合わさった部分526電磁シールド材として金属スパイラルシールを施すことにより、さらなる電磁シール効果を期待することができる。
【0074】
<他の適用>
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく、本発明の思想の範囲内において種々変形可能である。例えば、マイクロ波出力部30の回路構成やマイクロ波供給部40、メインアンプ48の回路構成等は、上記実施形態に限定されるものではない。具体的には、平面スロットアンテナから放射されるマイクロ波の指向性制御を行ったり円偏波にしたりする必要がない場合には、位相器は不要である。また、マイクロ波供給部40は、必ずしも複数のマイクロ波放射部43で構成する必要はなく、マイクロ波放射部43は1個であってもよい。さらに、上記実施形態では、1つのチョーク溝を用いた場合を示したが、チョーク溝を二重(二段階)に設けてもよい。さらにまた、上記実施形態では、平面スロットアンテナ81のスロット81aの形状を明確には描いていないが、条件に応じて種々のスロットパターンを採用することが可能である。さらにまた、上記実施形態では、スラグを2つ設けた例を示したが、スラグの数は2つより多くてもよく、予めチューニング範囲が限定されている場合には1つでもよい。
【0075】
さらに、スラグの駆動機構についても上記実施形態に限るものではなく、駆動部からの駆動力をスラグ61a、61bに伝達する駆動伝達部やスラグの移動をガイドする駆動ガイド部がマイクロ波伝送路44の外部に設けられたものであってもよい。
【0076】
さらにまた、上記実施形態においては、プラズマ処理装置としてエッチング処理装置を例示したが、これに限らず、成膜処理、酸窒化膜処理、アッシング処理等の他のプラズマ処理にも用いることができる。また、被処理基板は半導体ウエハに限定されず、LCD(液晶ディスプレイ)用基板に代表されるFPD(フラットパネルディスプレイ)基板や、セラミックス基板等の他の基板であってもよい。
【符号の説明】
【0077】
1;チャンバ
2;マイクロ波プラズマ源
11;サセプタ
12;支持部材
15;排気管
16;排気装置
17;搬入出口
20;シャワープレート
30;マイクロ波出力部
31;マイクロ波電源
32;マイクロ波発振器
40;マイクロ波供給部
41;アンテナモジュール
42;アンプ部
43;マイクロ波放射部
44;マイクロ波伝送路
45;アンテナ部
52;外側導体
53;内側導体
54;給電機構
55;マイクロ波電力導入ポート
56;同軸線路
57;連結部材
58;反射板
60;スラグチューナ
81;平面スロットアンテナ
82;遅波材
100;マイクロ波プラズマ処理装置
110;天板
110b;誘電体部材
120;制御部
521;第1部材
522;第2部材
523;誘電体部材
524;滑り部材
525;チョーク溝
526;第1部材と第2部材とが合わさった部分
W;半導体ウエハ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9