特許第5890211号(P5890211)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5890211オレフィン重合反応装置、ポリオレフィン製造システム、及び、ポリオレフィン製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5890211
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月22日
(54)【発明の名称】オレフィン重合反応装置、ポリオレフィン製造システム、及び、ポリオレフィン製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/01 20060101AFI20160308BHJP
   C08F 2/34 20060101ALI20160308BHJP
   C08F 10/00 20060101ALI20160308BHJP
【FI】
   C08F2/01
   C08F2/34
   C08F10/00 510
【請求項の数】8
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2012-62635(P2012-62635)
(22)【出願日】2012年3月19日
(65)【公開番号】特開2012-214722(P2012-214722A)
(43)【公開日】2012年11月8日
【審査請求日】2014年12月12日
(31)【優先権主張番号】特願2011-67991(P2011-67991)
(32)【優先日】2011年3月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】小川 弘之
【審査官】 柳本 航佑
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−161733(JP,A)
【文献】 特開2000−072802(JP,A)
【文献】 特開2010−280869(JP,A)
【文献】 特開2008−120883(JP,A)
【文献】 特開2010−280867(JP,A)
【文献】 特開平01−151933(JP,A)
【文献】 特開2000−302807(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0004879(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00−2/60
C08F 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直方向に伸びる第一円筒部と、
前記第一円筒部内に配置され、下方に行くほど内径が小さくなると共に下端にガス導入用開口を有する第一縮径部と、
前記第一縮径部の外面に接触するように液体を供給する第一液体供給部と、
前記ガス導入用開口を介して、前記第一縮径部の内面と前記第一縮径部よりも上方の前記第一円筒部の内面とによって囲まれた第一反応領域内にオレフィン含有ガスを供給して、前記第一反応領域内に噴流層を形成するガス供給部と、を備えるオレフィン重合反応装置。
【請求項2】
前記第一縮径部の外面と、前記第一縮径部の前記ガス導入用開口とが連通し、前記液体が液体オレフィンである請求項1記載の装置。
【請求項3】
鉛直方向に延びる第二円筒部と、
前記第二円筒部内に配置され、下方に行くほど内径が小さくなると共に下端にガス導入用開口を有する第二縮径部と、
前記第二縮径部の外面に接触するように液体を供給する第二液体供給部と、
前記第一円筒部から排出されるガスを、前記第二縮径部のガス導入用開口を介して、前記第二縮径部の内面と前記第二縮径部よりも上方の前記第二円筒部の内面とによって囲まれた第二反応領域内に供給する連通構造と、をさらに備える請求項1に記載の装置。
【請求項4】
前記第二反応領域から前記第一反応領域にポリオレフィン粒子を移送する移送部をさらに備える、請求項3に記載の装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のオレフィン重合反応装置を用いてオレフィンの重合を行うポリオレフィン製造方法であり、
ポリオレフィン粒子の噴流層を前記第一反応領域内に形成する工程と、
前記第一縮径部の外面に接触するように液体を供給する工程と、を備えるポリオレフィン製造方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の噴流層型オレフィン重合反応装置を複数用いてオレフィンの重合を行う、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
オレフィン重合用触媒の存在下でオレフィンを重合させて、ポリオレフィン粒子を形成するオレフィン事前反応装置と、
前記オレフィン事前反応装置に接続された請求項1〜4のいずれか一項に記載のオレフィン重合反応装置と、を備えるポリオレフィン製造システム。
【請求項8】
請求項7に記載のポリオレフィン製造システムを用いてオレフィンの多段重合を行うポリオレフィン製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、噴流層を用いたオレフィン重合用の反応装置及びポリオレフィン製造システム、並びに、これらを用いてポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体触媒の存在下でオレフィンを重合させ、ポリオレフィン粒子を得るためのオレフィン重合反応装置として、流動層を形成することができる気相重合反応器が知られている。該反応装置は、一つの重合段からなる単段式気相重合反応器と、該反応器から回収された未反応オレフィンを含むガスを冷却及び一部凝縮して、該反応器内の除熱を行うことができる熱交換器と、該冷却されたガス及び凝縮液を再度該反応器に供給する配管とを備える(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、流動層を形成することができる気相重合反応器としては、2以上の重合段に区分され、ポリオレフィン粒子が最前段から最後段まで移動される一方、オレフィンモノマーを含むガスが上記最後段から最前段に向かって供給されるような多段式気相重合反応器も知られている(例えば、特許文献2、3参照)。このような多段式の気相重合反応器内の除熱を行う装置としては、通常、重合反応器の最前段から回収された未反応のオレフィンを含むガスの温度を下げる熱交換器と、温度が下がったガスを再度重合反応器の最後段に供給する配管とを備える装置が知られている。
【0004】
更に、オレフィン重合反応装置としては、噴流層を用いたオレフィン重合用の反応装置も知られており(例えば、特許文献4,5参照)、該噴流層型オレフィン重合反応装置において、除熱を行う装置としては、液体モノマーを反応領域内に添加し、その蒸発潜熱を利用して除熱を行う装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−302807号公報
【特許文献2】米国特許5235009号
【特許文献3】特開2003−277412号公報
【特許文献4】特開2009−161735号公報
【特許文献5】特開2009−161734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、上記特許文献4,5に記載の反応装置について、更なる検討、改良を行い、特許文献4,5の反応装置をスケールアップした場合や、該反応装置を用いるオレフィン重合に適用される種々の重合条件や装置の運転条件に対応でき、例えば、噴流層の底部であってガス導入用開口から離れた領域(図1の領域R)に、粒子が比較的長く滞留するようなことが起こったとしても、反応器内の除熱をより効率的に行うことができる装置を見出すに至った。
【0007】
本発明は、より高い除熱効率を達成可能な噴流層型オレフィン重合反応装置、ポリオレフィン製造システム及びポリオレフィン製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る噴流層型オレフィン重合反応装置は、鉛直方向に伸びる第一円筒部と、第一円筒部内に形成され、下方に行くほど内径が小さくなると共に下端にガス導入用開口を有する第一縮径部と、第一縮径部の外面に接触するように液体オレフィンを供給する手段第一液体供給部と、前記ガス導入用開口を介して、前記第一縮径部の内面と前記第一縮径部よりも上方の前記第一円筒部の内面とによって囲まれた第一反応領域内にオレフィン含有ガスを供給して、前記第一反応領域内に噴流層を形成するガス供給部とを備える。縮径部の内面と当該縮径部よりも上方の円筒部の内面とによって囲まれた反応領域内に噴流層が形成される。上記手段によって供給された液体オレフィンが気化することで縮径部が冷却される。
【0009】
上記反応装置によれば、外部から供給される液体オレフィンを縮径部の外面側で気化させることで、縮径部の効率的な冷却が可能であり十分に高い除熱効率を達成できる。縮径部の温度上昇を抑制することで、縮径部の内面上を移動する粒子の移送速度が遅くても重合反応が過度に進行することを十分に防止でき、得られるポリオレフィン粒子の均一性を向上でき、また縮径部の内面にポリオレフィンが固着するなどの不具合を十分に抑制できる。
【0010】
前記第一縮径部の外面と、前記第一縮径部の前記ガス導入用開口とが連通している場合には、前記液体が液体オレフィンであることが好ましい。
【0011】
本発明のオレフィン重合反応装置は、複数の上記反応領域を有し、当該反応領域をポリオレフィン粒子が順次通過することが好ましい。また、本発明の反応器は、鉛直方向に延びる第二円筒部と、
前記第二円筒部内に配置され、下方に行くほど内径が小さくなると共に下端にガス導入用開口を有する第二縮径部と、
前記第二縮径部の外面に接触するように液体を供給する第二液体供給部と、
前記第一円筒部から排出されるガスを、前記第二縮径部のガス導入用開口を介して、前記第二縮径部の内面と前記第二縮径部よりも上方の前記第二円筒部の内面とによって囲まれた第二反応領域内に供給する連通構造と、をさらに備えることが好ましい。反応装置は、前記第二反応領域から前記第一反応領域にポリオレフィン粒子を移送する移送部を備えることが好ましい。
【0012】
複数の反応領域は、鉛直方向に並ぶようにそれぞれ形成されてもよいし、水平方向に並ぶように形成されてもよい。複数の反応領域が鉛直方向に並ぶように形成される場合は、鉛直方向の上方の反応領域から下方の反応領域へとポリオレフィン粒子が順次通過してもよいし、鉛直方向の下方の反応領域から上方の反応領域へとポリオレフィン粒子が順次通過してもよい。装置の省スペース化の観点から、複数の反応領域は、鉛直方向に並ぶようにそれぞれ形成され、上方の反応領域から下方の反応領域へとポリオレフィン粒子が順次通過することがより好ましい。反応領域を複数設けて噴流層を多段化することで、粒子の滞留時間分布を十分に小さくすることができる。また、噴流層は流動層とは異なり若干プラグフローに近い混合が生じることから、流動層を多段化するよりも少ない段数で同等に滞留時間分布を狭化し得る。
【0013】
本発明に係るポリオレフィン製造方法は、上述の噴流層型オレフィン重合反応装置を用いてオレフィンの重合を行うポリオレフィン製造方法であり、ポリオレフィン粒子による噴流層を反応領域内に形成する工程と、縮径部の外面に接触するように液体オレフィンを供給する工程とを備える。
【0014】
上記方法によれば、外部から供給される液体オレフィンを縮径部の外面側で気化させることで、縮径部を高度に冷却でき、十分に高い除熱効率を達成できる。縮径部の温度上昇を抑制することで、縮径部の内面上を移動する粒子の移送速度が遅くても重合反応が過度に進行することを十分に防止でき、得られるポリオレフィン粒子の均一性を向上できる。
【0015】
本発明に係るポリオレフィン製造システムは、オレフィン重合用触媒の存在下でオレフィンを重合させて、ポリオレフィン粒子を形成するオレフィン事前反応装置と、オレフィン事前反応装置の後段に接続された上述の噴流層型オレフィン重合反応装置とを備える。
【0016】
本発明に係るポリオレフィン製造方法は、上述のポリオレフィン製造システムを用いてオレフィンの多段重合を行うものであってもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、より高い除熱効率を達成可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係るオレフィン重合反応装置の実施形態を示す概略構成図である。
図2】本発明に係るオレフィン重合反応装置の他の実施形態を示す概略構成図である。
図3】エジェクタを有する移送手段を備えたオレフィン重合反応装置を示す概略構成図である。
図4】L−バルブを有する移送手段を備えたオレフィン重合反応装置を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0020】
<第1実施形態>
(ポリオレフィン製造システム)
【0021】
図1に第1実施形態に係るポリオレフィン製造システム100Aを示す。この製造システム100Aは、オレフィン事前重合反応装置5と、このオレフィン事前重合反応装置5に接続された噴流層型のオレフィン重合反応装置10Aとを備える。
【0022】
(オレフィン事前重合反応装置)
【0023】
オレフィン事前重合反応装置5は、オレフィン重合用触媒の存在下でオレフィンを重合させてポリオレフィン粒子を形成する。
【0024】
オレフィン事前重合反応装置5としては、特に限定されないが、例えば、スラリー重合反応装置、塊状重合反応装置、攪拌槽式気相重合反応装置、流動層式気相重合反応装置が挙げられる。なお、これらの装置は、1種を単独で用いてもよく、同一種類の複数の装置を組み合わせて用いてもよく、異なる種類の装置を2以上の組み合わせて用いてもよい。
【0025】
スラリー重合反応装置としては、公知の重合反応装置、例えば、特公昭41−12916号公報、特公昭46−11670号公報、特公昭47−42379号公報に記載の攪拌槽型反応装置やループ型反応装置などを用いることができる。なお、スラリー重合は、プロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン等の脂環族炭化水素等の不活性溶媒に、プロピレン、ブテン等のオレフィン単量体を添加したものを重合溶媒とし、重合溶媒中にオレフィン重合用触媒をスラリー状に分散させて、生成する重合体が重合溶媒に溶解しない状態で重合を行う方法である。重合は、重合溶媒が液状に保たれ、生成する重合体が重合溶媒に溶解しない温度及び圧力で行う。重合温度は、通常、30〜100℃であり、好ましくは50〜80℃である。重合圧力は、通常、常圧〜10MPaG、好ましくは、0.3〜5MPaGである。
【0026】
塊状重合反応装置としては、公知の重合反応装置、例えば、特公昭41−12916号公報、特公昭46−11670号公報、特公昭47−42379号公報に記載の攪拌槽型反応装置やループ型反応装置などを用いることができる。なお、塊状重合は、プロパン、ブタン、イソブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン等の脂環族炭化水素等の不活性溶媒が実質的に存在せず、プロピレン、ブテン等のオレフィン単量体を重合溶媒とし、重合溶媒中にオレフィン重合用触媒を分散させて、生成する重合体が重合溶媒に溶解しない状態で重合を行う方法である。重合は、重合溶媒が液状に保たれ、生成する重合体が重合溶媒に溶解しない温度及び圧力で行う。重合温度は、通常、30〜100℃であり、好ましくは50〜80℃である。重合圧力は、通常、常圧〜10MPaG、好ましくは、0.5〜5MPaGである。
【0027】
攪拌槽式気相重合反応装置としては、公知の重合反応装置、例えば、特開昭46−31969号公報、特公昭59−21321号公報に記載の反応装置を用いることができる。なお、攪拌槽式気相重合は、気体状態の単量体を媒体として、その媒体中でオレフィン重合用触媒及びオレフィン重合体を攪拌機によって流動状態に保ちながら、気体状態の単量体を重合する方法である。重合温度は、通常、50〜110℃であり、好ましくは60〜100℃である。重合圧力は、攪拌槽式気相重合反応装置内でオレフィンが気相として存在し得る範囲内であればよく、通常、常圧〜5MPaG、好ましくは、0.5〜3MPaGである。
【0028】
流動層式気相重合反応装置としては、公知の反応装置、例えば、特開昭58−201802号公報、特開昭59−126406号公報、特開平2−233708号公報に記載の反応装置を用いることができる。なお、流動層式気相重合は、気体状態の単量体を媒体として、その媒体中でオレフィン重合用触媒及びオレフィン重合体を主として媒体の流れによって流動状態に保ちながら、気体状態の単量体を重合する方法である。流動化を促進するため、補助的に攪拌装置を設ける場合もある。重合温度は、通常、0〜120℃であり、より好ましくは20〜100℃であり、更に好ましくは40〜100℃である。重合圧力は、流動層式反応装置内でオレフィンが気相として存在し得る範囲内であればよく、通常、常圧〜10MPaG、より好ましくは0.2〜8MPaG、更に好ましくは0.5〜5MPaGである。
【0029】
また、各反応装置の組み合わせとしては、例えば、スラリー重合反応装置又は塊状重合反応装置に、流動層式気相重合反応装置又は攪拌槽式気相重合反応装置を接続した態様が挙げられる。
【0030】
また、スラリー重合反応装置又は塊状重合反応装置と、その後段に接続される、例えば、流動層式気相重合反応装置、攪拌槽式気相重合反応装置、又は、後述するオレフィン重合反応装置10A等の気相重合反応装置との間には、通常、未反応のオレフィンや重合溶媒とオレフィン重合体粒子とを分離するフラッシング槽が設けられる。但し、塊状重合反応装置と、その後段の気相重合反応装置との間では、フラッシング槽の設置は必ずしも必須ではない。
【0031】
(噴流層型オレフィン重合反応装置)
【0032】
オレフィン重合反応装置10Aは、オレフィン事前重合反応装置5によって生成したポリオレフィン粒子に対して、実質的に気相状態でオレフィン重合反応を行わせる装置である。
【0033】
図1に示すオレフィン重合反応装置10Aは、単段の噴流層8を形成できるように構成されたものであり、主として、鉛直方向に伸びる円筒(第一円筒部)12A、円筒12Aの上端及び下端をそれぞれ閉鎖する閉鎖板15a,15b、円筒12A内に配置されたそらせ板20、及び、円筒12A内に設けられた筒状バッフル(第一縮径部)30を備える。そらせ板20及び筒状バッフル30は、いずれも円筒12Aの軸と同軸に配置されることが好ましい。噴流層の安定化の観点からは、円筒12Aの内径は5m以下であることが好ましく、3.5m以下であることがより好ましい。オレフィン重合反応装置10Aにおいては、閉鎖板15aの下面と、円筒12Aの内面における筒状バッフル30よりも上の部分と、筒状バッフル30の内面30aとによって反応領域(第一反応領域)25が形成されている。他方、閉鎖板15bの上面と、円筒12Aの内面における筒状バッフル30よりも下の部分と、筒状バッフル30の外面30bとによって下部領域27が形成されている。
【0034】
反応領域25内においては、下部領域27に供給されたオレフィン含有ガスが筒状バッフル30の下端30cに設けられたガス導入用開口30oから上方に向かって高速で流入することによって、図1に示すように、ポリオレフィン粒子の噴流層8が形成されるようになっている。噴流層8は噴流部8aと環状粒子層8bとによって構成される。
【0035】
本実施形態では、下部領域27を形成する部分と、下部領域27に接続されたラインL30と、ラインL30に接続されたコンプレッサ54と、循環ラインL30に接続されてオレフィンを補給するラインL20とが、ガス供給部50を構成している。
【0036】
筒状バッフル30は、下方に向かうほど内径が小さくなるようにされたテーパー円筒であり、円筒12A内に形成されている。なお、筒状バッフル30の下端30cに形成されたガス導入用開口30oには、オレフィン重合反応装置10Aの起動時や一時停止時などに反応領域25内のポリオレフィン粒子がガス導入用開口から下方に流出しないように逆止弁(図示せず)を配設してもよい。
【0037】
反応領域25内において、噴流層8が形成され、ポリオレフィン粒子とオレフィンとが固気接触すると、重合反応が進行して熱が発生する。本発明者らの検討によると、噴流層8の底部であってガス導入用開口から離れた領域Rは、流入するガス量が少なくなりやすく、条件によっては粒子が移動しにくい。領域Rに粒子が比較的長く滞留して重合反応が過度に進行すると、領域Rの温度が他の領域と比較して高くなるおそれがある。
【0038】
オレフィン重合反応装置10Aは、筒状バッフル30の外面30bに接触するように、円筒12Aの外から内に液体オレフィンを供給する手段(第一液体供給部)40を備える。本実施形態においては、液体オレフィンを収容するタンク41と、タンク41内の液体オレフィンを下部領域27内に移送する移送管L42と、移送管L42の途中に設けられたポンプ43と、筒状バッフル30の下端30cを取り囲むように設けされた液体オレフィン収容部45とによって液体オレフィン供給手段40が構成されている。移送管L42を通じて供給された液体オレフィンが液体オレフィン収容部45において気化することで、筒状バッフル30の熱が奪われると共に冷たいオレフィンガスが筒状バッフル30の外面30bであって領域Rに対応する位置に当たり、領域Rの温度が過度に上昇するのを防止できる。
【0039】
なお、ここでは上記構成を有する液体オレフィン供給手段を例示したが、筒状バッフル30の外面30bに接触するように、液体オレフィンを供給できる構成であれば、これに限定されるものではない。例えば、筒状バッフル30をジャケット構造とし、液体オレフィンを上方及び/又は下方の開口から供給できる構成としてもよいし、液体オレフィンを外面30bに向けて吹き付けたり噴霧させたりする構成としてもよい。筒状バッフル30の外面30bに対して液体オレフィンを吹き付け又は噴霧する場合は、筒状バッフル30の全体を十分に冷却する観点からリングスパージャーを用いることが好ましい。
【0040】
また、本実施形態の装置は、筒状バッフル(第一縮径部)30の外面30bと、筒状バッフル(第一縮径部)30のガス導入用開口30oとが連通している構造、すなわち、外面30b上で気化したオレフィンガスがガス導入用開口30oを介して第一反応領域25に供給される構造を有するので、筒状バッフル30の外面に接触させる液体が液体オレフィンであることが好ましい。気化した液体オレフィンは第一反応領域25での重合の原料となることができる。この液体オレフィンは、ラインL20を介して反応器に供給されるオレフィンと同種でも異なる種でも良い。なお、液体オレフィン以外の液体を使用することも可能であり、例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン等のシクロオレフィン、プロパン、ブタン、ヘキサン等のパラフィン炭化水素、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、これらとオレフィンとの混合液などを使用することもできる。液体オレフィン以外の液体を使用する場合には、この装置が、筒状バッフル(第一縮径部)30の外面と、筒状バッフル(第一縮径部)30のガス導入用開口30cとが連通していない構造、すなわち、気化したガスがガス導入用開口30oを介して第一反応領域25に供給されない構造を有することが好ましい。
【0041】
反応領域25における筒状バッフル30の上方であり、そのガス導入用開口と対向する位置には、そらせ板20が配設されている。そらせ板20は噴流したポリオレフィン粒子の飛散を抑制する役割を果たしている。これによって、フリーボードゾーンを短縮することができ、高い容積効率が達成される。
【0042】
そらせ板20は、上端20aが閉じられると共に下方に向かうほど外径が大きくなる円錐形状をなし、下端20bは、円筒12Aの内壁からは離間されている。これにより、吹き上げられた粒子は、そらせ板20の内面に衝突し、噴流層8の環状粒子層8bへと取り込まれる。一方、ガスは下端20bの下方を通ってガス排出孔60から排出されることとなる。
【0043】
反応領域25の側壁面をなす円筒12Aには、ガス排出孔60が形成されており、反応領域25内のガスを排出できるようになっている。本実施形態に係るオレフィン重合反応装置10Aにあっては、円筒12Aの円周方向に沿って略等間隔となるように4つのガス排出孔60が形成されている。筒状バッフル30のガス導入用開口30oから上方に向けて流入したガスを、そのまま反応領域25の上方から排出するのではなく、4つのガス排出孔60から側方に排出することで、噴流層8の環状粒子層8bに拡散するガス量を増大できる。その結果、噴流層8の環状粒子層8bにおいて、粒子とオレフィン含有ガスの固気接触効率が向上する。ガス排出孔60は、反応領域25内のそらせ板20の下端20bよりも上方であることが好ましく、そらせ板20の上端20aよりも上方であることがより好ましい。このような高さにガス排出孔60を設けることで、ガスと共にガス排出孔60から排出される粒子を十分に低減できる。
【0044】
なお、ここではガス排出孔60を4つ設置することを例示したが、ガス排出孔60の設置数はこれに限定されない。ガス排出孔60の設置数は、4を超えても4未満であってもよいが、より均一なガス排出を行うために、2以上であることが好ましい。また、反応領域25内における固気接触効率を十分に確保できる場合にあっては、閉鎖板15aの中央部にガス排出孔60を1つ設けた態様であってもよい。
【0045】
反応領域25において安定な噴流層8を形成するためには、筒状バッフル30は以下の条件を満足することが好ましい。すなわち、筒状バッフル30は、筒状バッフル30の下端30cのガス導入用開口の開口径dの円筒12Aの内径dに対する比率(d/d)が0.35以下であることが好ましい。
【0046】
また、図1における筒状バッフル30の傾斜角、すなわち、筒状バッフル30の内面30aと水平面とのなす角は、円筒12A内に存在するポリオレフィン粒子の安息角以上とされることが好ましく、安息角以上であって、ポリオレフィン粒子が重力により全量自然に排出され得る角度以上とすることがより好ましい。これにより、ポリオレフィン粒子のスムーズな下方への移動が達成される。
【0047】
なお、筒状バッフル30の代わりにガス導入用開口が形成された平板を採用した場合でも噴流層を形成することはできるが、この平板上における円筒12Aの内面近傍には粒子が流動化しない領域が生じる。そうすると、この領域では除熱不良により粒子同士が溶融塊化するおそれがある。したがって、かかる事態を避けるためにも、筒状バッフル30の傾斜角は、上記の通り、所定の角度以上であることが好ましい。
【0048】
図1におけるそらせ板20の傾斜角、すなわち、そらせ板20の外面と水平面とのなす角も円筒12A内に存在するポリオレフィン粒子の安息角以上とされることが好ましい。これにより、そらせ板20にポリオレフィン粒子が付着することを十分に防止できる。
【0049】
ポリオレフィン粒子の安息角は、例えば、35〜50°程度であり、筒状バッフル30及びそらせ板20の傾斜角は、55°以上とすることが好ましい。
【0050】
なお、そらせ板20及び筒状バッフル30は、それぞれ、図示しないサポートにより、円筒12Aに固定されており、このサポートによるガス流れやポリオレフィン流れへの影響はほとんどない。円筒12A、そらせ板20及び筒状バッフル30の材質としては、例えば、カーボンスチール、SUS304及びSUS316Lなどを用いることができる。なお、SUSは、JIS(日本工業規格)で規定されるステンレス規格である。腐食成分(例えば、塩素などのハロゲン成分)を多く含む触媒を使用する場合にあっては、SUS316Lを用いることが好ましい。
【0051】
図1に示すように、円筒12Aの閉鎖板15bのガス導入孔15boには、オレフィン含有ガス供給用のラインL30が接続されており、その途中に配設されたコンプレッサ54によって、オレフィン含有ガスが下部領域27を通じて反応領域25内へと供給される。なお、円筒12Aの下部には、ガス供給孔以外に運転終了時にポリオレフィン粒子を排出できる排出ノズル(図示せず)を設けてもよい。また、運転終了時の円筒12A内の粉体残存量を軽減することを目的に、円筒12Aの下部のガス流れを阻害しない位置に、逆円錐形状の内装物(図示せず)を設置してもよい。
【0052】
円筒12Aの上部には、反応領域25からガスを排出するガス排出孔60に連結されたガス排出ラインL40が設けられている。ガス排出ラインL40を通じて排出されたガスは、必要に応じて設置されるサイクロン62によりガス同伴粒子が排出され、図示しない冷却手段等を経た後にラインL30によりリサイクルされる。このラインL30には外部からのオレフィン含有ガスをラインL30に供給するためのラインL20が接続されている。
【0053】
また、円筒12Aにおける噴流層8が形成される領域よりも高い位置には、ラインL5が接続され、オレフィン重合触媒固体粒子を含有するポリオレフィン粒子が反応領域25に供給される。一方、円筒12Aには、粒子排出管35が接続され、反応領域25内で成長したポリオレフィン粒子が粒子排出管35を通じて排出される。この粒子排出管35には2つのバルブV71,V72が直列に配設されており、これらのバルブを逐次開閉することにより、ポリオレフィン粒子を次工程に排出することができる。
【0054】
このようにして本実施形態では、オレフィン事前重合反応装置5、及び、オレフィン重合反応装置10Aの2機の反応器を用いた重合工程が実現されている。このようにオレフィン事前重合反応装置5によりポリオレフィン粒子を重合して成長させて、好ましくは粒径500μm以上、より好ましくは700μm以上、特に好ましくは粒径850μm以上の比較的大きなポリオレフィン粒子とすることにより、より安定な噴流層が形成できる。しかし、オレフィン事前重合反応装置5を有さない1機の反応器を用いた重合工程とすることも可能である。この場合には、オレフィン重合用触媒又は予備重合触媒が直接オレフィン重合反応装置10Aに供給され、オレフィンの重合がなされることとなる。また、オレフィン事前重合反応装置5やオレフィン重合反応装置10Aのような追加のオレフィン重合反応装置を、オレフィン重合反応装置10Aの後段にさらに、1又は複数設け、3段以上の重合工程を実現してもよい。
【0055】
(オレフィン、ポリオレフィン、触媒等)
【0056】
続いて、本実施形態に係る製造システム100Aにおける、オレフィン、ポリオレフィン、触媒等について詳しく説明する。
【0057】
本実施形態に係るオレフィン重合反応装置、ポリオレフィン製造方法、ポリオレフィン製造システムでは、オレフィンを重合(単独重合、共重合)して、ポリオレフィンすなわちオレフィン重合体(オレフィン単独重合体、オレフィン共重合体)の製造を行う。本実施形態において用いられるオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、5−メチル−1−ヘキセン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテンなどがあげられる。
【0058】
これらオレフィンは1種以上用いられ、また、用いるオレフィンを各重合工程において変更してもよく、多段重合法でおこなわれる場合は、用いるオレフィンを各段において互いに異ならせてもよい。オレフィンを2種以上用いる場合のオレフィンの組み合わせとしては、プロピレン/エチレン、プロピレン/1−ブテン、プロピレン/エチレン/1−ブテン、エチレン/1−ブテン、エチレン/1−ヘキセン、エチレン/1−オクテンなどがあげられる。また、オレフィンに加え、ジエンなどの他の共重合体成分を併用してもよい。
【0059】
本発明では、例えば、プロピレン単独重合体、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・1−ブテン共重合体、プロピレン・エチレン・1−ブテン共重合体などのオレフィン重合体(単独重合体、共重合体)を好適に製造できる。特に、重合体成分を構成する単量体単位の含有割合が異なる多段重合によって得られるオレフィン系重合体の製造に好適であり、例えば、オレフィン事前重合反応装置5、及び、オレフィン重合反応装置10Aにて1種のオレフィンの供給によりホモ重合体粒子を、あるいは少量の別種のオレフィンとを共重合したランダム共重合体粒子を形成し、更に後段にオレフィン事前重合反応装置5やオレフィン重合反応装置10Aのような追加のオレフィン重合反応器にてこれら重合体粒子に対して2種以上のオレフィンを供給して多段重合オレフィン系共重合体を生成することができる。こうすると、オレフィン重合反応装置10Aにおける滞留時間分布が狭いので、重合体粒子内の組成比率を一定にしやすく、成形時の不良低減に特に効果的である。
【0060】
該重合体としては、例えば、プロピレン−プロピレン・エチレン重合体、プロピレン−プロピレン・エチレン−プロピレン・エチレン重合体、プロピレン・エチレン−プロピレン・エチレン重合体、プロピレン−プロピレン・エチレン・1−ブテン重合体などをあげることができる。なお、ここでは、「−」は重合体間の境界を、「・」は重合体内で二種以上のオレフィンが共重合していることを示す。これらの中でも、プロピレンに基づく単量体単位を有する重合体であり、ハイインパクトポリプロピレンと称す(日本国内では慣用的にポリプロピレンブロックコポリマーとも称す)、結晶性プロピレン系重合部と非晶性プロピレン系重合部とを有する多段重合プロピレン系共重合体の製造に好適である。多段重合プロピレン系共重合体は、結晶性のホモポリプロピレン部あるいは少量のプロピレン以外のオレフィンを共重合したランダム共重合体部と、非晶性のエチレンとプロピレン、任意成分としてエチレン、プロピレン以外のオレフィンを共重合したゴム部とを、それぞれの重合体の存在下で、任意の順番で連続して多段に重合して得られるものであり、135℃の1,2,3,4−テトラヒドロナフタレン中で測定される極限粘度が、好ましくは0.1〜100dl/gの範囲内であるものである。この多段重合プロピレン系共重合体は、耐熱性、剛性及び耐衝撃性に優れるため、バンパーやドアトリムなどの自動車部品、レトルト食品包装容器などの各種包装容器などに用いることができる。
【0061】
また、本実施形態においては、オレフィン重合体の分子量分布を広げるために、各重合工程で製造されるオレフィン重合体成分の分子量を異なるものとしてもよい。本発明は、広分子量分布のオレフィン重合体の製造にも好適であり、例えば、最も分子量が高い重合体成分を製造する重合工程で製造される重合体成分の上記測定で得られる極限粘度が、好ましくは0.5〜100dl/g、より好ましくは1〜50dl/gの範囲内であり、特に好ましくは2〜20dl/gであり、該極限粘度は、最も分子量が低い重合体成分を製造する重合工程で製造される重合体成分の極限粘度の5倍以上であり、最も分子量が高い重合体成分を製造する重合工程で製造される重合体成分の量が、オレフィン重合体中に0.1〜80重量%含有するオレフィン重合体を好適に製造できる。
【0062】
本実施形態において用いるオレフィン重合用触媒としては、オレフィン重合に用いられる公知の付加重合用触媒を使用することができ、例えば、チタンとマグネシウムとハロゲン及び電子供与体を含有する固体触媒成分(以下、触媒成分(A)と称する。)と有機アルミニウム化合物成分と電子供与体成分とを接触してなるチーグラー系固体触媒、メタロセン化合物と助触媒成分とを粒子状担体に担持してなるメタロセン系固体触媒などをあげることができる。また、これらの触媒を組み合わせて用いることもできる。
【0063】
チーグラー系固体触媒の調製に用いられる触媒成分(A)としては、一般にチタン・マグネシウム複合型触媒と呼ばれているものを使用することができ、下記のようなチタン化合物、マグネシウム化合物、及び、電子供与体を接触させることにより得ることができる。
【0064】
触媒成分(A)の調製に用いられるチタン化合物としては、例えば、一般式Ti(OR4−a(Rは炭素数が1〜20の炭化水素基を、Xはハロゲン原子を、aは0≦a≦4の数を表す。)で表されるチタン化合物があげられる。具体的には、四塩化チタン等のテトラハロゲン化チタン化合物;エトキシチタントリクロライド、ブトキシチタントリクロライド等のトリハロゲン化アルコキシチタン化合物;ジエトキシチタンジクロライド、ジブトキシチタンジクロライド等のジハロゲン化ジアルコキシチタン化合物;トリエトキシチタンクロライド、トリブトキシチタンクロライド等のモノハロゲン化トリアルコキシチタン化合物;テトラエトキシチタン、テトラブトキシチタン等のテトラアルコキシチタン化合物をあげることができる。これらチタン化合物は、単独で用いてもよいし、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
触媒成分(A)の調製に用いられるマグネシウム化合物としては、例えば、マグネシウム−炭素結合やマグネシウム−水素結合を持ち、還元能を有するマグネシウム化合物、あるいは、還元能を有さないマグネシウム化合物等があげられる。還元能を有するマグネシウム化合物の具体例としては、ジメチルマグネシウム、ジエチルマグネシウム、ジブチルマグネシウム、ブチルエチルマグネシウム等のジアルキルマグネシウム化合物;ブチルマグネシウムクロライド等のアルキルマグネシウムハライド化合物;ブチルエトキシマグネシム等のアルキルアルコキシマグネシウム化合物;ブチルマグネシウムハイドライド等のアルキルマグネシウムハイドライド等があげられる。これらの還元能を有するマグネシウム化合物は、有機アルミニウム化合物との錯化合物の形態で用いてもよい。
【0066】
一方、還元能を有さないマグネシウム化合物の具体例としては、マグネシウムジクロライド等のジハロゲン化マグネシウム化合物;メトキシマグネシウムクロライド、エトキシマグネシウムクロライド、ブトキシマグネシウムクロライド等のアルコキシマグネシウムハライド化合物;ジエトキシマグネシウム、ジブトキシマグネシウム等のジアルコキシマグネシウム化合物;ラウリル酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム等のマグネシウムのカルボン酸塩等があげられる。これらの還元能を有さないマグネシウム化合物は、予め或いは触媒成分(A)の調製時に、還元能を有するマグネシウム化合物から公知の方法で合成したものであってもよい。
【0067】
触媒成分(A)の調製に用いられる電子供与体としては、アルコール類、フェノール類、ケトン類、アルデヒド類、カルボン酸類、有機酸又は無機酸のエステル類、エーテル類、酸アミド類、酸無水物類等の含酸素電子供与体;アンモニア類、アミン類、ニトリル類、イソシアネート類等の含窒素電子供与体;有機酸ハライド類をあげることが出来る。これらの電子供与体のうち、好ましくは、無機酸のエステル類、有機酸のエステル類及びエーテル類が用いられる。
【0068】
無機酸のエステル類としては好ましくは、一般式RSi(OR4−n(Rは炭素数1〜20の炭化水素基又は水素原子を表し、Rは炭素数1〜20の炭化水素基を表す。また、nは0≦n<4の数を表す。)で表されるケイ素化合物があげられる。具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン;メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、t−ブチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、ブチルトリエトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、t−ブチルトリエトキシシラン等のアルキルトリアルコキシシラン;ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジブチルジメトキシシラン、ジイソブチルジメトキシシラン、ジ−t−ブチルジメトキシシラン、ブチルメチルジメトキシシラン、ブチルエチルジメトキシシラン、t−ブチルメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジブチルジエトキシシラン、ジイソブチルジエトキシシラン、ジ−t−ブチルジエトキシシラン、ブチルメチルジエトキシシラン、ブチルエチルジエトキシシラン、t−ブチルメチルジエトキシシラン等のジアルキルジアルコキシシラン等があげられる。
【0069】
有機酸のエステル類として好ましくは、モノ及び多価のカルボン酸エステルが用いられ、それらの例として脂肪族カルボン酸エステル、脂環式カルボン酸エステル、芳香族カルボン酸エステルがあげられる。具体例としては、酢酸メチル、酢酸エチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、酪酸エチル、吉草酸エチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸ブチル、トルイル酸メチル、トルイル酸エチル、アニス酸エチル、コハク酸ジエチル、コハク酸ジブチル、マロン酸ジエチル、マロン酸ジブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジブチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸ジブチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジ−n−ブチル、フタル酸ジイソブチル等があげられる。好ましくはメタクリル酸エステル等の不飽和脂肪族カルボン酸エステル、マレイン酸エステル及びフタル酸エステルであり、さらに好ましくはフタル酸ジエステルである。
【0070】
エーテル類としては、例えば、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジイソブチルエーテル、ジアミルエーテル、ジイソアミルエーテル、メチルブチルエーテル、メチルイソアミルエーテル、エチルイソブチルエーテル等のジアルキルエーテルがあげられる。好ましくはジブチルエーテルと、ジイソアミルエーテルである。
【0071】
有機酸ハライド類としては、モノ及び多価のカルボン酸ハライド等があげられ、例えば、脂肪族カルボン酸ハライド、脂環式カルボン酸ハライド、芳香族カルボン酸ハライド等があげられる。具体例としては、アセチルクロライド、プロピオン酸クロライド、酪酸クロライド、吉草酸クロライド、アクリル酸クロライド、メタクリル酸クロライド、塩化ベンゾイル、トルイル酸クロライド、アニス酸クロライド、コハク酸クロライド、マロン酸クロライド、マレイン酸クロライド、イタコン酸クロライド、フタル酸クロライド等をあげることができる。好ましくは塩化ベンゾイル、トルイル酸クロライド、フタル酸クロライド等の芳香族カルボン酸クロライドであり、さらに好ましくはフタル酸クロライドである。
【0072】
触媒成分(A)の調製方法としては、例えば、下記の方法があげられる。(1)液状のマグネシウム化合物、あるいはマグネシウム化合物及び電子供与体からなる錯化合物を析出化剤と反応させたのち、チタン化合物、あるいはチタン化合物及び電子供与体で処理する方法。(2)固体のマグネシウム化合物、あるいは固体のマグネシウム化合物及び電子供与体からなる錯化合物をチタン化合物、あるいはチタン化合物及び電子供与体で処理する方法。(3)液状のマグネシウム化合物と、液状チタン化合物とを、電子供与体の存在下で反応させて固体状のチタン複合体を析出させる方法。(4)(1)、(2)あるいは(3)で得られた反応生成物をチタン化合物、あるいは電子供与体及びチタン化合物でさらに処理する方法。(5)Si−O結合を有する有機ケイ素化合物の共存下アルコキシチタン化合物をグリニャール試薬等の有機マグネシウム化合物で還元して得られる固体生成物を、エステル化合物、エーテル化合物及び四塩化チタンで処理する方法。(6)有機ケイ素化合物又は有機ケイ素化合物及びエステル化合物の存在下、チタン化合物を有機マグネシウム化合物で還元して得られる固体生成物を、エーテル化合物と四塩化チタンの混合物、次いで有機酸ハライド化合物の順で加えて処理したのち、該処理固体をエーテル化合物と四塩化チタンの混合物もしくはエーテル化合物と四塩化チタンとエステル化合物の混合物で処理する方法。(7)金属酸化物、ジヒドロカルビルマグネシウム及びハロゲン含有アルコ−ルとの接触反応物をハロゲン化剤で処理した後あるいは処理せずに電子供与体及びチタン化合物と接触する方法。(8)有機酸のマグネシウム塩、アルコキシマグネシウムなどのマグネシウム化合物をハロゲン化剤で処理した後あるいは処理せずに電子供与体及びチタン化合物と接触する方法。(9)(1)〜(8)で得られる化合物を、ハロゲン、ハロゲン化合物又は芳香族炭化水素のいずれかで処理する方法。
【0073】
これらの触媒成分(A)の調製方法のうち、好ましくは、(1)〜(6)の方法である。これらの調製は通常、全て窒素、アルゴン等の不活性気体雰囲気下で行われる。
【0074】
触媒成分(A)の調製において、チタン化合物、有機ケイ素化合物及びエステル化合物は、適当な溶媒に溶解もしくは希釈して使用するのが好ましい。かかる溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;シクロへキサン、メチルシクロヘキサン、デカリン等の脂環式炭化水素;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジイソアミルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル化合物等があげられる。
【0075】
触媒成分(A)の調製において、有機マグネシウム化合物を用いる還元反応の温度は、通常、−50〜70℃であり、触媒活性及びコストを高める観点から、好ましくは−30〜50℃、特に好ましくは−25〜35℃である。有機マグネシウム化合物の滴下時間は、特に制限はないが、通常30分〜12時間程度である。また、還元反応終了後、さらに20〜120℃の温度で後反応を行ってもよい。
【0076】
触媒成分(A)の調製において、還元反応の際に、無機酸化物、有機ポリマー等の多孔質物質を共存させ、固体生成物を多孔質物質に含浸させてもよい。かかる多孔質物質としては、細孔半径20〜200nmにおける細孔容積が0.3ml/g以上であり、平均粒径が5〜300μmであるものが好ましい。該多孔質無機酸化物としては、SiO、Al、MgO、TiO、ZrO又はこれらの複合酸化物等があげられる。また、多孔質ポリマーとしては、ポリスチレン、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体等のポリスチレン系多孔質ポリマー;ポリアクリル酸エチル、アクリル酸メチル−ジビニルベンゼン共重合体、ポリメタクリル酸メチル、メタクリル酸メチル−ジビニルベンゼン共重合体等のポリアクリル酸エステル系多孔質ポリマー;ポリエチレン、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、ポリプロピレン等のポリオレフィン系多孔質ポリマーがあげられる。これらの多孔質物質のうち、好ましくはSiO、Al、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体である。
【0077】
チーグラー系固体触媒の触媒の調製に用いられる有機アルミニウム化合物成分は、少なくとも分子内に一個のAl−炭素結合を有するものであり、代表的なものを一般式で下記に示す。
AlY3−m
Al−O−AlR(R〜Rは炭素数が1〜8個の炭化水素基を、Yはハロゲン原子、水素又はアルコキシ基を表す。R〜Rはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。また、mは2≦m≦3で表される数である。)
【0078】
有機アルミニウム化合物成分の具体例としては、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウム;ジエチルアルミニウムハイドライド、ジイソブチルアルミニウムハイドライド等のジアルキルアルミニウムハイドライド;ジエチルアルミニウムクロライド、ジイソブチルアルミニウムクロライド等のジアルキルアルミニウムハライド;トリエチルアルミニウムとジエチルアルミニウムクロライドの混合物のようなトリアルキルアルミニウムとジアルキルアルミニウムハライドの混合物;テトラエチルジアルモキサン、テトラブチルジアルモキサン等のアルキルアルモキサン等があげられる。これらの有機アルミニウム化合物のうち、好ましくはトリアルキルアルミニウム、トリアルキルアルミニウムとジアルキルアルミニウムハライドの混合物、アルキルアルモキサンであり、さらに好ましくはトリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムとジエチルアルミニウムクロライドの混合物、又はテトラエチルジアルモキサンが好ましい。
【0079】
チーグラー系固体触媒の調製に用いられる電子供与体成分としては、アルコール類、フェノール類、ケトン類、アルデヒド類、カルボン酸類、有機酸又は無機酸のエステル類、エーテル類、酸アミド類、酸無水物類等の含酸素電子供与体;アンモニア類、アミン類、ニトリル類、イソシアネート類等の含窒素電子供与体等の一般的に使用されるものをあげることができる。これらの電子供与体成分のうち好ましくは無機酸のエステル類及びエ−テル類である。
【0080】
該無機酸のエステル類として好ましくは、一般式RSi(OR104−n(式中、Rは炭素数1〜20の炭化水素基又は水素原子、R10は炭素数1〜20の炭化水素基であり、nは0≦n<4である)で表されるケイ素化合物である。具体例としては、テトラブトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、tert−ブチル−n−プロピルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、シクロヘキシルエチルジメトキシシラン等をあげることができる。
【0081】
該エ−テル類として好ましくは、ジアルキルエーテル、一般式
【化1】

(式中、R11〜R14は炭素数1〜20の線状又は分岐状のアルキル基、脂環式炭化水素基、アリール基、又はアラルキル基であり、R11又はR12は水素原子であってもよい。)で表されるジエーテル化合物があげられる。具体例としては、ジブチルエーテル、ジアミルエーテル、2,2−ジイソブチル−1,3−ジメトキシプロパン、2,2−ジシクロペンチル−1,3−ジメトキシプロパン等をあげることができる。
【0082】
これらの電子供与体成分のうち一般式R1516Si(OR17で表される有機ケイ素化合物が特に好ましく用いられる。ここで式中、R15はSiに隣接する炭素原子が2級もしくは3級である炭素数3〜20の炭化水素基であり、具体的には、イソプロピル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、tert−アミル基等の分岐鎖状アルキル基;シクロペンンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;シクロペンテニル基等のシクロアルケニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基等があげられる。また式中、R16は炭素数1〜20の炭化水素基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基等の直鎖状アルキル基;イソプロピル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、tert−アミル基、等の分岐鎖状アルキル基;シクロペンンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;シクロペンテニル基等のシクロアルケニル基;フェニル基、トリル基等のアリール基等があげられる。さらに式中、R17は炭素数1〜20の炭化水素基であり、好ましくは炭素数1〜5の炭化水素基である。このような電子供与体成分として用いられる有機ケイ素化合物の具体例としては、tert−ブチル−n−プロピルジメトキシシラン、ジシクロペンチルジメトキシシラン、シクロヘキシルエチルジメトキシシラン等をあげることができる。
【0083】
チーグラー系固体触媒の調製において、有機アルミニウム化合物成分の使用量は、触媒成分(A)に含まれるチタン原子1モル当たり、通常、1〜1000モルであり、好ましくは5〜800モルである。また、電子供与体成分の使用量は、触媒成分(A)に含まれるチタン原子1モル当たり、通常、0.1〜2000モル、好ましくは0.3〜1000モル、さらに好ましくは0.5〜800モルである。
【0084】
触媒成分(A)、有機アルミニウム化合物成分及び電子供与体成分は、多段重合反応装置に供給する前に予め接触させてもよく、多段重合反応装置に別々に供給して、多段重合反応装置内で接触させてもよい。また、これら成分の内の任意の2つの成分を接触させて、その後にもう1つの成分を接触させてもよく、各成分は、複数回に別けて接触させてもよい。
【0085】
メタロセン系固体触媒の調製に用いられるメタロセン化合物としては、下記一般式で表される遷移金属化合物があげられる。
M(式中、Mは遷移金属を表す。xは遷移金属Mの原子価を満足する数を表す。Lは遷移金属に配位する配位子であり、Lのうち少なくとも一つはシクロペンタジエニル骨格を有する配位子である。)
【0086】
上記Mとしては、元素の周期律表(IUPAC1989年)第3〜6族の原子が好ましく、チタン、ジルコニウム、ハフニウムがより好ましい。
【0087】
Lのシクロペンタジエニル骨格を有する配位子としては、(置換又は無置換)シクロペンタジエニル基、(置換又は無置換)インデニル基、(置換又は無置換)フルオレニル基などであり、具体的には、シクロペンタジエニル基、メチルシクロペンタジエニル基、tert−ブチルシクロペンタジエニル基、ジメチルシクロペンタジエニル基、tert−ブチル−メチルシクロペンタジエニル基、メチル−イソプロピルシクロペンタジエニル基、トリメチルシクロペンタジエニル基、テトラメチルシクロペンタジエニル基、ペンタメチルシクロペンタジエニル基、インデニル基、4,5,6,7−テトラヒドロインデニル基、2−メチルインデニル基、3−メチルインデニル基、4−メチルインデニル基、5−メチルインデニル基、6−メチルインデニル基、7−メチルインデニル基、2−tert−ブチルインデニル基、3−tert−ブチルインデニル基、4−tert−ブチルインデニル基、5−tert−ブチルインデニル基、6−tert−ブチルインデニル基、7−tert−ブチルインデニル基、2,3−ジメチルインデニル基、4,7−ジメチルインデニル基、2,4,7−トリメチルインデニル基、2−メチル−4−イソプロピルインデニル基、4,5−ベンズインデニル基、2−メチル−4,5−ベンズインデニル基、4−フェニルインデニル基、2−メチル−5−フェニルインデニル基、2−メチル−4−フェニルインデニル基、2−メチル−4−ナフチルインデニル基、フルオレニル基、2,7−ジメチルフルオレニル基、2,7−ジ−tert−ブチルフルオレニル基、及びこれらの置換体等があげられる。また、シクロペンタジエニル骨格を有する配位子が複数ある場合、それらは互いに同じであっても異なっていてもよい。
【0088】
Lのうち、シクロペンタジエニル骨格を有する配位子以外の配位子としては、ヘテロ原子を含有する基、ハロゲン原子、炭化水素基(但し、ここではシクロペンタジエン形アニオン骨格を有する基を含まない。)があげられる。
【0089】
ヘテロ原子を含有する基におけるヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、リン原子等があげられ、かかる基の例としてはアルコキシ基;アリールオキシ基;チオアルコキシ基;チオアリールオキシ基;アルキルアミノ基;アリールアミノ基;アルキルホスフィノ基;アリールホスフィノ基;酸素原子、硫黄原子、窒素原子、リン原子から選ばれる少なくとも一つの原子を環内に有する芳香族もしくは脂肪族複素環基などがあげられる。ハロゲン原子の具体例としてフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子があげられる。また、炭化水素基としてはアルキル基、アラルキル基、アリール基、アルケニル基等があげられる。
【0090】
二つ以上のLは、直接連結されていてもよく、炭素原子、ケイ素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子から選ばれる少なくとも1種の原子を含有する残基を介して連結されていてもよい。かかる残基の例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基等のアルキレン基;ジメチルメチレン基(イソプロピリデン基)、ジフェニルメチレン基などの置換アルキレン基;シリレン基;ジメチルシリレン基、ジエチルシリレン基、ジフェニルシリレン基、テトラメチルジシリレン基、ジメトキシシリレン基などの置換シリレン基;窒素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子などのヘテロ原子などが挙げられ、特に好ましくはメチレン基、エチレン基、ジメチルメチレン基(イソプロピリデン基)、ジフェニルメチレン基、ジメチルシリレン基、ジエチルシリレン基、ジフェニルシリレン基又はジメトキシシリレン基などがあげられる。
【0091】
メタロセン化合物としては、例えば、ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド、ビス(メチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド、ビス(インデニル)ジルコニウムジクロライド、ビス(4,5,6,7−テトラヒドロインデニル)ジルコニウムジクロライド、エチレンビス(インデニル)ジルコニウムジクロライド、ジメチルシリレンビス(トリメチルシクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロライド、ジメチルシリレンビス(インデニル)ジルコニウムジクロライド、ジメチルシリル(テトラメチルシクロペンタジエニル)(3,5−ジ−tert−ブチル−2−フェノキシ)チタニウムジクロライド等があげられる。また、ジクロライドをジメトキシドやジフェノキシドといった基に置き換えた化合物も例示することができる。
【0092】
メタロセン系固体触媒の調製に用いられる助触媒成分としては、有機アルミニウムオキシ化合物、有機アルミニウム化合物、ホウ素化合物などをあげることができる。
【0093】
該有機アルミニウムオキシ化合物としては、テトラメチルジアルミノキサン、テトラエチルジアルミノキサン、テトラブチルジアルミノキサン、テトラヘキシルジアルミノキサン、メチルアルミノキサン、エチルアルミノキサン、ブチルアルミノキサン、ヘキシルアルミノキサンなどがあげられる。
【0094】
該有機アルミニウム化合物としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリノルマルブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリノルマルヘキシルアルミニウムなどをあげることができる。
【0095】
該ホウ素化合物としては、トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン、トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリ(n−ブチル)アンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N−ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートなどをあげることができる。
【0096】
メタロセン系固体触媒の調製に用いられる粒子状担体としては、多孔性の物質が好ましく、SiO、Al、MgO、ZrO、TiO、B、CaO、ZnO、BaO、ThO等の無機酸化物;スメクタイト、モンモリロナイト、ヘクトライト、ラポナイト、サポナイト等の粘土や粘土鉱物;ポリエチレン、ポリプロピレン、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体などの有機ポリマーなどが使用される。
【0097】
メタロセン系固体触媒としては、例えば、特開昭60−35006号公報、特開昭60−35007号公報、特開昭60−35008号公報、特開昭61−108610号公報、特開昭61−276805号公報、特開昭61−296008号公報、特開昭63−89505号公報、特開平3−234709号公報、特表平5−502906号公報や特開平6−336502号公報、特開平7−224106号公報等に記載されているものを用いることができる。
【0098】
また、メタロセン系固体触媒は、オレフィンの重合において、必要に応じて、有機アルミニウム化合物、ホウ素化合物などの助触媒成分を併用してもよく、併用する場合、メタロセン系固体触媒及び助触媒成分は、重合反応装置に供給する前に予め接触させてもよく、重合反応装置に別々に供給して、重合反応装置内で接触させてもよい。また、各成分は、複数回に別けて接触させてもよい。
【0099】
以上のオレフィン重合用触媒の質量平均粒径は、通常、5〜150μmである。特に気相重合反応装置では、装置外への粒子飛散を抑制する観点から、10μm以上であるものが好ましく用いられ、15μm以上であるものがより好ましく用いられる。なお、本実施形態の重合触媒は、流動化助剤、静電気除去添加剤のような添加剤を含んでいてもよい。また、本実施形態の重合触媒は、重合体の分子量を調整するために水素などの連鎖移動剤を併用することも可能である。
【0100】
以上のオレフィン重合用触媒は、予め少量のオレフィン類で重合させたいわゆる予備重合触媒であってもよい。予備重合において用いられるオレフィン類としては、上述した重合で用いられるオレフィンが挙げられる。この場合1種類のオレフィンを単独で用いてもよく、2種類以上のオレフィンを併用してもよい。
【0101】
予備重合触媒の製造方法としては、特に制限されないが、スラリー重合、気相重合等が挙げられる。この中でも好ましくはスラリー重合である。この場合、製造において経済的に有利となることがある。また、回分式、半回分式、連続式のいずれを用いて製造してもよい。
【0102】
予備重合触媒の質量平均粒径は、通常、5〜1000μmである。特に気相重合反応装置では、装置外への飛散を抑制する観点から、10μm以上であるものが好ましく用いられ、15μm以上であるものがより好ましく用いられる。また、粒径が20μm以下、特に10μm以下の予備重合触媒は少ない方が好ましい。
【0103】
なお、重合触媒の反応装置への導入は炭化水素溶媒等に懸濁させて導入してもよく、或いはモノマーガス、窒素等の不活性ガスに同伴させて導入してもよい。
【0104】
続いて、このような、システムにおいて、ポリオレフィンを製造する方法について説明する。
【0105】
まず、オレフィン事前重合反応装置5において、公知の方法によりオレフィン重合用触媒を用いて重合活性のある触媒成分を含むポリオレフィン粒子を生成する。
【0106】
一方、オレフィン重合反応装置10AにおいてラインL30を介して円筒12A内にオレフィン含有ガスを供給し、重合圧力にまで昇圧すると共に、円筒12A内を加温する。重合圧力は、反応装置内でオレフィンが気相として存在し得る範囲内であればよく、通常、常圧〜10MPaG、より好ましくは0.2〜8MPaG、更に好ましくは0.5〜5MPaGである。重合圧力が常圧以上であると、生産性が向上するため好ましく、反応圧力が10MPaG以下であると、反応装置の設備コストが高くないため好ましい。重合温度は、モノマーの種類、製品の分子量等によっても異なるが、オレフィン重合体の融点以下、好ましくは融点よりも10℃以上低い温度である。具体的には、0〜120℃が好ましく、20〜100℃がより好ましく、40〜100℃が更に好ましい。また、実質的に水分が存在しない環境下で重合を行うと、重合活性が低下しないため好ましい。また、重合活性が低下しないように重合反応系内に酸素、一酸化酸素、二酸化炭素が過剰に存在しないことが好ましい。
【0107】
その後、公知の方法により別途得られた粒径0.5〜5.0mm程度のポリオレフィン粒子を、ラインL5に接続された供給ラインL6から円筒12A内へと供給する。通常、円筒12A内へと供給されるポリオレフィン粒子は重合活性のある触媒成分を含んでいないものを用いる場合が多いが、重合活性のある触媒成分を含んでいても差支えない。
【0108】
ラインL30を通じて反応領域25内にオレフィン含有ガスを供給しながら、供給ラインL6を通じて円筒12A内にポリオレフィン粒子を供給すると、図1に示すように、反応領域25内にポリオレフィン粒子の噴流層8が形成される。すなわち、ガス導入用開口30oからのガスの作用によって、反応領域25における円筒12Aの中心軸付近に粒子濃度が希薄であり且つこのガスと共に上向きに粒子が流れる噴流部8aが形成される一方、その周囲を粒子が重力の影響で移動層状に下降する環状粒子層8bが形成され、反応領域25内で粒子の循環運動が生じる。
【0109】
反応領域25内に噴流層8が形成された段階で、オレフィン事前重合反応装置5において生成された重合活性のある触媒成分を含むポリオレフィン粒子を、単位時間あたり一定量でラインL5から円筒12A内に供給し、オレフィン重合反応装置10Aの定常運転を開始する。
【0110】
他方、オレフィンモノマーを含むガスは、その一部が噴流部8aを形成して粒子層を吹き抜け、残りは環状粒子層8b内に拡散する。このようにオレフィン含有ガスと重合活性のある触媒成分を含むポリオレフィン粒子とが固気接触することとなり、ポリオレフィン粒子内の触媒の作用によりオレフィン重合反応が進行し、ポリオレフィン粒子が成長することとなる。そして、反応領域25内で成長したポリオレフィン粒子は、粒子排出管35から排出される。
【0111】
本実施形態に係る方法は、ポリオレフィン粒子の製造過程において、連続的に又は断続的にポンプ43を運転し、タンク41から液体オレフィン収容部45に液体オレフィンを供給する工程を備える。液体オレフィンが液体オレフィン収容部45において気化することで、領域Rの温度が過度の上昇するのを防止できる。液体オレフィンは、ラインL30を通じて供給されるオレフィンと同じものであることが好ましい。この場合、液体オレフィンが気化してなるガスはガス導入用開口を通じて反応領域25内へと導入され、そのまま原料ガスとして利用される。ガス排出ラインL40から排出されるオレフィンガスを冷却して液化させたものを冷却用の液体オレフィンとして利用してもよい。
【0112】
液体オレフィンの供給量は、運転条件やオレフィンの種類等に応じて適宜調整すればよい。なお、下部領域27を画成する円筒12A又は閉鎖板15bにガス排出孔を別途設け、このガス排出孔から外にオレフィンガスを適宜排出して反応領域25に導入するガスの量を調整できるようにしてもよい。
【0113】
反応領域25において安定な噴流層8を形成するためには、以下の運転条件を満足することが好ましい。すなわち、ガス空塔速度Uは、噴流層を形成し得る最小ガス空塔流速Ums以上であり、この最小ガス空塔速度Umsは取扱い粉体やガスの物性に加え、重合反応装置の形状に影響される。最小ガス空塔速度Umsの推算式は各種提案されているが、一例として下記式(1)を挙げることができる。
【数1】

式中、dは粒径を、ρは粒子の密度を、ρは反応領域の圧力・温度条件下におけるガスの密度を、ρAIRは室温条件下における空気の密度を、Lは噴流層高さを、それぞれ示す。
【0114】
また、反応領域25内における噴流層高さLは、噴流層を形成し得る最大噴流層高さLsMAXm以下であり、最大噴流層高さLsMAX以下であれば特に制限はない。最大噴流層高さLsMAXの推算式は各種提案されているが、一例として下記式(2)を挙げることができる。
【数2】

式中、uは粒子の終末速度を、umfは最小流動化速度を、それぞれ示す。
【0115】
なお、噴流層高さLは、容積効率やより安定な噴流層を形成させる観点から、筒状バッフル30よりも高い方が好ましい。
【0116】
本実施形態に係るオレフィン重合反応装置10Aによれば、以下の効果が奏される。すなわち、外部から供給される液体オレフィンを筒状バッフル30の外面30b側で気化させることで、筒状バッフル30の効率的な冷却が可能であり十分に高い除熱効率を達成できる。筒状バッフル30の温度上昇を抑制することで、領域Rを移動するポリオレフィン粒子の移送速度が遅くても重合反応が過度に進行することを十分に防止でき、得られるポリオレフィン粒子の均一性を向上でき、また筒状バッフル30の内面30aにポリオレフィンが固着するなどの不具合を十分に抑制できる。
【0117】
<第2実施形態>
【0118】
図2に示すポリオレフィン製造システム100Bは、オレフィン事前重合反応装置5と、反応領域25を上下方向に2段有する噴流層型のオレフィン重合反応装置10Bとを備える。なお、反応領域25の段数は2段に限定されず、3段以上であってもよい。以下、第2実施形態の第1実施形態と相違する点について主に説明し、第1実施形態と共通する構成(例えば、液体オレフィン供給手段40等)については説明及び図示は適宜省略する。
【0119】
図2に示すように、オレフィン重合反応装置10Bは、円筒12B内に2つの反応領域25を有し、下方から供給されるガスによって、それぞれの反応領域25内に噴流層8が形成されるようになっている。他方、ポリオレフィン粒子は、2つの反応領域25を順次通過するようになっており、上方の反応領域25から下方の反応領域25に移送される。
【0120】
具体的には、円筒12Bは、上側に第一円筒12B−1を、下側に第二円筒12B−2を有する。第一円筒12B−1内に第一筒状バッフル(第一縮径部)30−1が配置され、第二円筒12B−2内に第二筒状バッフル(第二縮径部)30−2が配置されている。また、システム100Bは、第一筒状バッフル30−1の外面に接触するように液体(好ましくは液体オレフィン)を供給する液体供給手段(第一液体供給部)40−1と、第二筒状バッフル30−2の外面に接触するように液体(好ましくは液体)を供給する液体供給手段(第二液体供給部)40−2と、を有する。
【0121】
第一反応領域25−1は、第一筒状バッフル30−1の内面と前記第一筒状バッフル30−1よりも上方の第一円筒部の内面とによって囲まれる部分、第二反応領域25−2は、第二筒状バッフル30−2の内面と前記第二筒状バッフル30−2よりも上方の第二円筒部12A−2の内面とによって囲まれる部分である。
【0122】
ガス供給部50は、第一筒状バッフル30−1のガス導入用開口30oを介して、第一反応領域25−1内にオレフィン含有ガスを供給して、第一反応領域25−1内に噴流層を形成させる。
【0123】
システム100Bは、第一円筒部12A−1から排出されるガスを、第二筒状バッフル30−2のガス導入用開口30oを介して、第二反応領域25−2内に供給する連通構造を有する。具体的には、本実施形態では、第一円筒部12A−1の上端と第二円筒部12A−2の下端部とが連結しており、これらが一つの鉛直円筒12Bを構成している。なお、第一円筒部12A−1の上端と第二円筒部12A−2の下端部とが直接連結されておらず、これらの円筒よりも細い配管を介してこれらが連通する連通構造も実施可能である。
【0124】
円筒12B−1,12B−2,筒状バッフル30−1、30−2、液体供給手段40−1、40−2の本実施形態で特に記載しない構成は、それぞれ第一実施形態の円筒12A,筒状バッフル30、及び、液体供給手段40と同じである。
【0125】
オレフィン重合反応装置10Bは、ガス流れ方向に対して下流側の第二反応領域25−2からガス流れ方向に対して上流側の第一反応領域25−1へのポリオレフィン粒子の移送手段として、上方の筒状バッフル30を貫通するように設けられたダウンカマー管70aを有する。ダウンカマー管70aは、上方の反応領域25から下方の反応領域25へとポリオレフィン粒子を降下させる。
【0126】
ポリオレフィン粒子の移送手段は、ダウンカマー管70aに限定されず、エジェクタ方式のものを採用してもよい。図3に示す移送手段70は、上段の反応領域25からポリオレフィン粒子を抜き出す粒子抜出管L31と、この粒子抜出管L31の先端に設けられたエジェクタ32と、エジェクタ32からのポリオレフィン粒子を下段の反応領域25に供給する粒子供給管L33とを有する。粒子抜出管L31の途中には開閉弁80が設けられている。この開閉弁80の上流側及び下流側において粒子抜出管L31にラインL38がそれぞれ接続されており、ラインL38を通じて粒子抜出管L31内に目詰まり防止用のガスを供給できるようになっている。
【0127】
エジェクタ32にはコンプレッサ64で昇圧されたガスの一部がラインL37を通じて供給されるようになっている。このガスがエジェクタ作動用のガスとして使用される。また、開閉弁80の上流側及び下流側の粒子抜出管L31には、コンプレッサ64で昇圧されたガスの一部がラインL38を通じて供給されるようになっている。このガスが開閉弁80及びエジェクタ32の目詰まり防止用のガスとして使用される。
【0128】
エジェクタ作動用のガスの流量は、ポリオレフィン粒子を排出可能な量以上であれば特に制限はない。一方、目詰まり防止用のガスは、エジェクタ作動用のガス100体積部に対して10体積部程度であることが好ましい。なお、開閉弁80及びエジェクタ32の目詰まりを確実に防止する観点から、オレフィン重合反応装置10Bで運転している間、開閉弁80の開閉状態に関わらず、ラインL38を通じて開閉弁80の上流側及び下流側にガスを常時供給することが好ましい。
【0129】
ポリオレフィン粒子の移送手段の上記以外の態様として、L−バルブと称されるバルブを円筒12Bの外に有するものが挙げられる。ここでいう「L−バルブ」は、粒子が充填された状態において下方からのガスの流入を抑制できるシール機能(粒子によるマテリアルシール機能)を有する垂直配管部と、下方の反応領域へポリオレフィン粒子を供給する水平配管部とを有する。L−バルブの他にも、同様のシール機能及びガスによる粒子移送機能を有するものとして、例えば、その形状からN−バルブ及びJ−バルブとそれぞれ称されるバルブがある。これらのバルブのうち、以下の観点からL−バルブが好ましい。すなわち、L−バルブは、経路の曲率が小さく、構造が簡単であるため、ポリオレフィン粒子の滞留抑制、移送性及びメンテナンスの点において優れている。このようなL−バルブを使用した場合、移送手段は、L−バルブと、L−バルブの垂直配管部の上端に接続されており上方の反応領域からポリオレフィン粒子を円筒部の外に抜き出す傾斜配管とを有する態様とすることができる。
【0130】
より具体的には、図4に示す移送手段70は、ポリオレフィン粒子が充填された状態において下方の反応領域25からのガスの流入を抑制できるシール機能を有する垂直配管部71と、下方の反応領域25へポリオレフィン粒子を供給する水平配管部72と、垂直配管部71の上端に接続されており上方の反応領域25からポリオレフィン粒子を円筒12Bの外に抜き出す傾斜配管73とを有する。L−バルブLVは、垂直配管部71及び水平配管部72によって構成される。ポリオレフィン粒子の移送性に優れ且つメンテナンスが容易であるという利点を有する。なお、例えば、特表2002−520426号公報及び特許第4076460号公報にはL−バルブに関する記載がある。
【0131】
L−バルブLVによれば、垂直配管部71の途中に接続された配管L75を通じて循環ガスの一部を駆動用ガスとして供給し、垂直配管部71及び水平配管部72内の粒子を移動させることで、上方の反応領域25から下方の反応領域25へとポリオレフィン粒子を移送できる。なお、垂直配管部71の途中に接続された配管L75と共に、あるいは、配管L75の代わりに、図4に示すように、垂直配管部71と水平配管部72の接続部から水平方向に駆動用ガスを供給する配管L76を接続してもよい。
【0132】
オレフィン重合反応装置10Bの各反応領域25における滞留時間やホールドアップを調整するために、ポリオレフィン粒子を上方から下方に移送することを一時的に中止する場合がある。このため、傾斜配管73の途中には、バルブV73を設けることが好ましい。更に、バルブV73を閉じたときに傾斜配管73内であってバルブV73よりも上方に充填されているポリオレフィン粒子の重合反応が進行しないように、当該配管内に配管L77を通じて冷却用ガスを供給できる構成とすることが好ましい。冷却用ガスとしては、重合粒子の重合活性に悪影響を与えない限りは特に限定されないが、不活性ガスや重合反応系内と同一組成のオレフィンガスであることが好ましい。不活性ガスはオレフィン重合粒子の重合進行を一時的ではあるが完全に抑制しつつ、その後、オレフィンガス雰囲気下に移送すれば重合進行を再開できることから非常に有効である。ただし、不活性ガスの使用量は、重合反応系内の組成に大きく影響を与えない範囲に制限される。
【0133】
本発明は上記実施形態に限定されず様々な変形態様が可能である。
【0134】
図2図4のシステムでは、第二円筒部12A−2及び第二筒状バッフル30−2が、第一円筒部12A−1及び第一筒状バッフル30−1よりも上に配置されているが、第一円筒部12A−1及び第一筒状バッフル30−2の横方向に配置されていても良い。また、第二円筒部12A−2及び第二筒状バッフル30−2が、第一円筒部12A−1及び第一筒状バッフル30−1より下に配置されていても実施は可能である。
【0135】
また、ガス供給部50の構成も図1図4の構成に限られない。例えば、ラインL3が、閉鎖板15bでなく、直接筒状バッフル30の下端30cと連結していても良い。
【0136】
本発明者らは、図4に示す構成のコールドモデル装置を用いて、L−バルブによる粉体の移送性及び噴流層形成への影響について検討した。噴流層形成用円筒コールドモデル装置は、内部状態を外部から観察可能な透明塩化ビニル樹脂製であり、この装置は、円筒内に二段の噴流層を形成できるように、ガス導入オリフィスを有する逆円錐形状の筒状バッフルと円錐形状のそらせ板とからなる組み合わせ2組が円筒内に鉛直方向に且つ同軸に配置されている。
【0137】
円筒コールド装置の内径dは500mmであり、筒状バッフル下端のガス導入オリフィスの開口径dは75mmである。従って、本試験においては、ガス導入用オリフィスの開口径dの円筒の内径dに対する比率(d/d)は、0.15である。
【0138】
逆円錐形状の筒状バッフルの内面と水平面とがなす傾斜角、及び、そらせ板の外面と水平面とがなす傾斜角は、いずれも65°とした。また、円錐状のそらせ板は、下端の外径が300mmであり、その内部は空洞となっている。
【0139】
上記コールドモデル装置は、上方から下方へ粉体を移送させる装置を有する。その装置は、上方の反応領域からポリオレフィン粒子を抜き出す傾斜配管と、下方からのガスの流入を抑制できる粒子によるマテリアルシール機能を有する垂直配管部と、下方の反応領域へポリオレフィン粒子を供給する水平配管部と、垂直配管部と水平配管部とにそれぞれ粒子排出駆動用ガスを供給するガス供給配管より構成されている。傾斜配管、垂直配管部及び水平配管部の内径はいずれも40mmである。
【0140】
装置本体に導入する噴流層形成用ガスは室温の空気であり、毎分6m供給した。また、粒子としては、平均粒径1000μmのポリプロピレン粒子を用いた。上段及び下段の反応領域にそれぞれにポリプロピレン粒子を30kg充填し、下段の筒状バッフルのガス導入オリフィスから上記流量のガスを供給することで、両反応領域内に噴流層を形成させた。
【0141】
その後、同一平均粒径のポリプロピレンを10kg上方領域にのみ供給し、粉体駆動ガスを100L/分で供給して、粉体を上方から下方の噴流層領域へ移送した。ポリプロピレン粒子10kgを移送するのに要する時間を計測して移送速度を求めた。粉体駆動ガスのレートを150L/分又は200L/分としたこと以外は、上記と同様にして移送速度を求めた。表1に結果を示す。
【表1】
【0142】
本試験で使用したポリプロピレン粒子(平均粒径1000μm)は、Geldartの粒子流動化特性の分類においてB粒子に分類され、流動化しやすいものであるが、このような粒子であっても噴流層が安定的に形成され、粒子の逆混合もなく安定的に粉体を移送できることが確認された。
【符号の説明】
【0143】
5…オレフィン事前重合反応装置、8…噴流層、10A,10B…オレフィン重合反応装置、12A,12B…円筒(円筒部)、25…反応領域、30…筒状バッフル(縮径部)、30a…縮径部の内面、30b…縮径部の外面、30c…縮径部の下端(ガス導入用開口)、32…エジェクタ、40…液体オレフィン供給手段、41…タンク、43…ポンプ、45…液体オレフィン収容部、L42…移送管、50…ガス供給部、LV…L−バルブ、70…移送手段、70a…ダウンカマー管、71…垂直配管部、72…水平配管部、73…傾斜配管、100A,100B…ポリオレフィン製造システム。
図2
図3
図4
図1