特許第5890764号(P5890764)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5890764
(24)【登録日】2016年2月26日
(45)【発行日】2016年3月22日
(54)【発明の名称】銅張積層体及び回路基板
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/088 20060101AFI20160308BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20160308BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20160308BHJP
   H05K 1/09 20060101ALI20160308BHJP
【FI】
   B32B15/088
   B32B15/08 J
   C08G73/10
   H05K1/09 C
【請求項の数】12
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2012-218807(P2012-218807)
(22)【出願日】2012年9月28日
(65)【公開番号】特開2014-69509(P2014-69509A)
(43)【公開日】2014年4月21日
【審査請求日】2015年3月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】新日鉄住金化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115118
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 和浩
(74)【代理人】
【識別番号】100107559
【弁理士】
【氏名又は名称】星宮 勝美
(74)【代理人】
【識別番号】100166257
【弁理士】
【氏名又は名称】城澤 達哉
(72)【発明者】
【氏名】森 亮
(72)【発明者】
【氏名】須藤 芳樹
(72)【発明者】
【氏名】山田 鋼
【審査官】 岸 進
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−129685(JP,A)
【文献】 特開2003−251741(JP,A)
【文献】 特開平11−241156(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/105428(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00− 43/00
H05K 1/09,1/16
C08G73/00− 73/26
C23C24/00− 30/00
C08K 3/00− 13/08
C08L 1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミドからなる絶縁層と、前記絶縁層の少なくとも片側の面に積層された銅箔と、を有し、硫黄含有有機化合物を含有するオイル中で使用される銅張積層体であって、
前記銅箔における前記絶縁層と接する面に付着したコバルト元素の量が2mg/dm以下であることを特徴とする銅張積層体。
【請求項2】
絶縁層と、前記絶縁層の少なくとも片側の面に積層された銅箔と、を有し、硫黄含有有機化合物を含有するオイル中で使用される銅張積層体であって、
前記銅箔における前記絶縁層と接する面に付着したコバルト元素の量が2mg/dm以下であるとともに、
前記絶縁層は、下記の成分(A)及び(B);
(A)重量平均分子量が10,000〜150,000の範囲内にあるポリアミド酸、
及び
(B)アクリル化合物、
を含み、前記(A)成分100重量部に対して、前記(B)成分を0.1〜60重量部の範囲内で含有するポリアミド酸組成物を熱処理してイミド化することにより得られたポリイミド組成物の樹脂層を含むことを特徴とする銅張積層体。
【請求項3】
前記(A)成分は、重量1g当たりに存在するラジカル重合性の不飽和結合の量が3mmol以下であり、
前記(B)成分は、[1分子中の(メタ)アクリロイル基の数/分子量]の値が0.001以上である請求項2記載の銅張積層体。
【請求項4】
前記ポリイミド組成物の樹脂層が、前記銅箔に接して積層されてなる請求項2又は3に記載の銅張積層体。
【請求項5】
前記絶縁層は、芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物との反応によって得られるポリアミド酸を熱処理し、イミド化して得られる熱可塑性ポリイミドであって、前記芳香族ジアミンが、炭素数2〜6の範囲内のラジカル重合性の不飽和結合を有する芳香族ジアミンを含有し、前記炭素数2〜6の範囲内のラジカル重合性の不飽和結合の量が、前記ポリアミド酸の1g当たり0.096mmol〜3mmolの範囲内にある熱可塑性ポリイミドの樹脂層を含む請求項1又は2に記載の銅張積層体。
【請求項6】
前記熱可塑性ポリイミドの樹脂層が、前記銅箔に接して積層されてなる請求項5に記載の銅張積層体。
【請求項7】
ポリイミドからなる絶縁層と、前記絶縁層上に形成された銅配線層と、を有し、硫黄含有有機化合物を含有するオイル中で使用される回路基板であって、
前記銅配線層は、前記絶縁層と接する面に付着したコバルト元素の量が2mg/dm以下であることを特徴とする回路基板。
【請求項8】
絶縁層と、前記絶縁層上に形成された銅配線層と、を有し、硫黄含有有機化合物を含有するオイル中で使用される回路基板であって、
前記銅配線層は、前記絶縁層と接する面に付着したコバルト元素の量が2mg/dm以下であるとともに、
前記絶縁層は、下記の成分(A)及び(B);
(A)重量平均分子量が10,000〜150,000の範囲内にあるポリアミド酸、
及び
(B)アクリル化合物、
を含み、前記(A)成分100重量部に対して、前記(B)成分を0.1〜60重量部の範囲内で含有するポリアミド酸組成物を熱処理してイミド化することにより得られたポリイミド組成物の樹脂層を含むことを特徴とする回路基板。
【請求項9】
前記(A)成分は、重量1g当たりに存在するラジカル重合性の不飽和結合の量が3mmol以下であり、
前記(B)成分は、[1分子中の(メタ)アクリロイル基の数/分子量]の値が0.001以上である請求項8記載の回路基板。
【請求項10】
前記ポリイミド組成物の樹脂層が、前記銅配線層に接して積層されてなる請求項8又は9に記載の回路基板。
【請求項11】
前記絶縁層は、芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物との反応によって得られるポリアミド酸を熱処理し、イミド化して得られる熱可塑性ポリイミドであって、前記芳香族ジアミンが、炭素数2〜6の範囲内のラジカル重合性の不飽和結合を有する芳香族ジアミンを含有し、前記炭素数2〜6の範囲内のラジカル重合性の不飽和結合の量が、前記ポリアミド酸の1g当たり0.096mmol〜3mmolの範囲内にある熱可塑性ポリイミドの樹脂層を含む請求項7又は8に記載の回路基板。
【請求項12】
前記熱可塑性ポリイミドの樹脂層が、前記銅配線層に接して積層されてなる請求項11に記載の回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブルプリント配線板等の製造に利用可能な銅張積層体及びそれを利用した回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、軽量化、省スペース化の進展に伴い、薄く軽量で、可撓性を有し、屈曲を繰り返しても優れた耐久性を持つフレキシブルプリント配線板(FPC;Flexible Printed Circuits)の需要が増大している。FPCは、限られたスペースでも立体的かつ高密度の実装が可能であるため、例えば、HDD、DVD、携帯電話等の電子機器の可動部分の配線や、ケーブル、コネクター等の部品にその用途が拡大しつつある。
【0003】
自動車においても軽量化を図る観点から、様々な部位、例えば自動車のエンジン周辺(具体的には、エンジン、吸気マニホールド、オルタネーター、ラジエーターなど)や、ギアボックス、トランスミッションなどにおいて、FPCの使用が増加している。
【0004】
FPCの基材となる絶縁樹脂には、ポリイミドエステルやポリイミドが多く用いられているが、使用量としては耐熱性のあるポリイミドが圧倒的に多い。一方、導電材には、導電性に優れていることから一般に銅箔が用いられている。
【0005】
FPCに使用される金属箔に関し、特許文献1では、ポリイミド金属積層板におけるポリイミド層と銅箔とのピール強度を高めるため、銅箔のポリイミド層と接する面の亜鉛の付着量が0.07mg/dm以下であるものを用いることが提案されている。
【0006】
また、特許文献2では、表面粗度Rzが0.3〜1.0μmの銅箔の表面に、少なくともニッケル、亜鉛、及びコバルトを析出させる金属析出処理と、カップリング剤による処理とを施すことが提案されている。この特許文献2では、金属析出処理した銅箔の表面は、ニッケル5〜15μg/cm、亜鉛1〜5μg/cm、及びコバルト0.1〜5μg/cmを有するものとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3664708号公報
【特許文献2】特開2011−66431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
自動車用FPCは、繰り返し高温環境に曝されることに加え、オイル(例えば、エンジンオイル、トランスミッション用オイルなど)に接触する機会が多いという特徴を有している。ところが、FPCは繰り返しオイルに曝される間に、樹脂層と配線層との接着性が低下し、配線層が剥離しやすくなるという問題があった。従って、自動車用FPCに使用される銅張積層体(CCL)には、一般的な電気・電子機器に必要とされる特性に加え、高温環境・オイル付着環境でも、銅箔と樹脂層との間で高い接着性を維持できることが求められる。
【0009】
従って、本発明の目的は、高温とオイル成分に繰り返し曝される使用環境でも、銅箔と樹脂層との接着力が低下しにくい積層体及び回路基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記のとおり、FPCなどの回路基板が高温環境及びオイル付着環境に繰り返し置かれると、配線層と樹脂層との接着力が低下する。この接着力低下の機構について調べたところ、オイル中に含まれている硫黄成分が原因であることが推定された。具体的には、オイル由来の硫黄化合物が、銅配線と絶縁層との界面に浸入し、そこで銅と硫黄化合物が反応して脆弱な硫化銅層を形成する。この脆弱層内で凝集破壊が起こるため、銅箔と絶縁層との間の接着力が低下する。このような機構で生じる接着力の低下(耐油性の低下)について、さらに検討を行ったところ、防錆処理によって銅箔表面にコバルト元素が存在する場合、硫黄化合物との反応性が高いコバルトが上記硫化銅層形成のトリガーになっている可能性が推定された。そこで、本発明では、銅箔表面に存在するコバルト元素の量を制御することによって、銅張積層体及び回路基板の耐オイル性を向上させ得ることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明の銅張積層体は、絶縁層と、前記絶縁層の少なくとも片側の面に積層された銅箔と、を有し、硫黄含有有機化合物を含有するオイル中で使用されるものである。この銅張積層体は、前記銅箔における前記絶縁層と接する面に付着したコバルト元素の量が2mg/dm以下であることを特徴とする。
【0012】
本発明の銅張積層体において、前記絶縁層は、下記の成分(A)及び(B);
(A)重量平均分子量が10,000〜150,000の範囲内にあるポリアミド酸、
及び
(B)アクリル化合物、
を含み、前記(A)成分100重量部に対して、前記(B)成分を0.1〜60重量部の範囲内で含有するポリアミド酸組成物を熱処理してイミド化することにより得られたポリイミド組成物の樹脂層を含むものであってもよい。
【0013】
本発明の銅張積層体において、前記(A)成分は、重量1g当たりに存在するラジカル重合性の不飽和結合の量が3mmol以下であり、
前記(B)成分は、[1分子中の(メタ)アクリロイル基の数/分子量]の値が0.001以上であってもよい。
【0014】
本発明の銅張積層体は、前記ポリイミド組成物の樹脂層が、前記銅箔に接して積層されてなるものであってもよい。
【0015】
本発明の銅張積層体において、前記絶縁層は、芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物との反応によって得られるポリアミド酸を熱処理し、イミド化して得られる熱可塑性ポリイミドであって、前記芳香族ジアミンが、炭素数2〜6の範囲内のラジカル重合性の不飽和結合を有する芳香族ジアミンを含有し、前記炭素数2〜6の範囲内のラジカル重合性の不飽和結合の量が、前記ポリアミド酸の1g当たり0.096mmol〜3mmolの範囲内にある熱可塑性ポリイミドの樹脂層を含むものであってもよい。
【0016】
本発明の銅張積層体は、前記熱可塑性ポリイミドの樹脂層が、前記銅箔に接して積層されてなるものであってもよい。
【0017】
本発明の回路基板は、絶縁層と、前記絶縁層上に形成された銅配線層と、を有し、硫黄含有有機化合物を含有するオイル中で使用されるものである。この回路基板において、前記銅配線層は、前記絶縁層と接する面に付着したコバルト元素の量が2mg/dm以下であることを特徴とする。
【0018】
本発明の回路基板において、前記絶縁層は、下記の成分(A)及び(B);
(A)重量平均分子量が10,000〜150,000の範囲内にあるポリアミド酸、
及び
(B)アクリル化合物、
を含み、前記(A)成分100重量部に対して、前記(B)成分を0.1〜60重量部の範囲内で含有するポリアミド酸組成物を熱処理してイミド化することにより得られたポリイミド組成物の樹脂層を含むものであってもよい。
【0019】
本発明の回路基板において、前記(A)成分は、重量1g当たりに存在するラジカル重合性の不飽和結合の量が3mmol以下であり、
前記(B)成分は、[1分子中の(メタ)アクリロイル基の数/分子量]の値が0.001以上であってもよい。
【0020】
本発明の回路基板は、前記ポリイミド組成物の樹脂層が、前記銅配線層に接して積層されてなるものであってもよい。
【0021】
本発明の回路基板において、前記絶縁層は、芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物との反応によって得られるポリアミド酸を熱処理し、イミド化して得られる熱可塑性ポリイミドであって、前記芳香族ジアミンが、炭素数2〜6の範囲内のラジカル重合性の不飽和結合を有する芳香族ジアミンを含有し、前記炭素数2〜6の範囲内のラジカル重合性の不飽和結合の量が、前記ポリアミド酸の1g当たり0.096mmol〜3mmolの範囲内にある熱可塑性ポリイミドの樹脂層を含むものであってもよい。
【0022】
本発明の回路基板は、前記熱可塑性ポリイミドの樹脂層が、前記銅箔に接して積層されてなるものであってもよい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の銅張積層体及び回路基板は、繰り返し高温環境及びオイル付着環境に置かれても、銅箔と樹脂層との接着力が低下しない。従って、本発明の積層体又は回路基板を用いることにより、電子部品の信頼性を向上させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0025】
[銅張積層体及び回路基板]
本実施の形態の銅張積層体は、絶縁層と、前記絶縁層の少なくとも片側の面に積層された銅箔と、を有し、硫黄含有有機化合物を含有するオイル中で使用される。また、本実施の形態の回路基板は、絶縁層と、前記絶縁層上に形成された銅配線層と、を有し、硫黄含有有機化合物を含有するオイル中で使用される。
【0026】
[銅箔、銅配線層]
本実施の形態の銅張積層体及び回路基板において、銅箔及び銅配線層は、絶縁層と接する面に付着したコバルト元素の量が2mg/dm以下であり、好ましくは1mg/dm以下、より好ましくは0.5mg/dm以下である。銅箔及び銅配線層の表面におけるコバルト元素の量は少ない程よく、実質的にコバルト元素を含有しないことが最も好ましい。コバルト元素の量が2mg/dmを超えると、コバルトは硫黄化合物と反応性が高いことにより、硫化銅層形成のトリガーになって銅箔と絶縁層との接着力の低下を引き起こす要因となる。なお、銅箔には、銅合金も使用できる。
【0027】
表面のコバルト元素の量が2mg/dm以下である銅箔としては、例えば古川サーキットフォイル社製電解銅箔F1−WS、F2−WS、日本電解社製電解銅箔HLB等の市販品を利用できる。
【0028】
本実施の形態の銅張積層体及び回路基板に使用する銅箔は、防錆処理を施したものであってもよい。防錆処理としては、例えば、ニッケル処理、クロメート処理、亜鉛もしくは亜鉛合金皮膜形成処理、これらの処理の組み合わせなどを行うことができる。また、有機防錆処理として、例えば、ベンゾトリアゾールやその誘導体による処理を行ってもよい。ここで、ニッケルやクロムは、金属表面に形成された緻密な酸化膜によって、硫黄化合物との反応性が低いが、コバルトや亜鉛は、硫黄化合物との反応性が高い。このような観点から、コバルト元素と亜鉛元素の合計量が、好ましくは2mg/dm以下、より好ましくは1mg/dm以下、更に好ましくは、0.5mg/dm以下がよい。
【0029】
本実施の形態の銅張積層体及び回路基板に使用する銅箔の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば8〜200μmの範囲内とすることができる。
【0030】
[絶縁層]
絶縁層としては、例えばポリイミド、エポキシ樹脂等の樹脂を用いることができる。これらの中でも、優れた耐熱性を有するポリイミドが好ましい。また、本実施の形態では、ポリイミドとして、硫黄含有有機化合物をトラップする機能を有するポリイミドを用いることが好ましい。そこで、硫黄含有有機化合物をトラップする機能を有するポリイミドについて、2つの好ましい態様を例示して説明する。
【0031】
(第1の態様)
硫黄含有有機化合物をトラップする機能を有するポリイミドの第1の態様として、下記の成分(A)及び(B);
(A)重量平均分子量が10,000〜150,000の範囲内にあるポリアミド酸、
及び
(B)アクリル化合物、
を含み、前記(A)成分100重量部に対して、前記(B)成分を0.1〜60重量部の範囲内で含有するポリアミド酸組成物を熱処理してイミド化することにより得られたポリイミド組成物を用いることができる。
【0032】
<(A)成分;ポリアミド酸>
第1の態様において、(A)成分のポリアミド酸は、ポリイミドの前駆体である。そこで、前駆体であるポリアミド酸と、イミド化後のポリイミドについてまとめて説明する。
【0033】
第1の態様において、ポリイミドとしては、例えば芳香族ポリイミド、脂肪族ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリイミドエステル、ポリエーテルイミド、ポリシロキサンイミド等の構造中にイミド基を有するポリマーからなる耐熱性樹脂を挙げることができる。
【0034】
ポリイミドとして、例えば回路基板の基材として適用する場合には、低熱膨張性のポリイミドが好適に利用できる。具体的には、線熱膨張係数(CTE)が1×10−6 〜30×10−6(1/K)の範囲内、好ましくは1×10−6 〜25×10−6(1/K)の範囲内、より好ましくは15×10−6 〜25×10−6(1/K)の範囲内である低熱膨張性のポリイミドである。このようなポリイミドを回路基板の基材として適用すると、回路基板としての反りを抑制できるので有利である。しかし、上記線熱膨張係数を超えるポリイミドも使用可能であり、その場合には銅箔との密着性を向上させることができる。
【0035】
上記低熱膨張性のポリイミドとしては、一般式(1)で現される構造単位を有するポリイミドが好ましい。一般式(1)中、Arは式(2)又は式(3)で表される4価の芳香族基を示し、Arは式(4)又は式(5)で表される2価の芳香族基を示し、Rは独立に炭素数1〜6の1価の炭化水素基又はアルコキシ基を示し、X及びYは独立に単結合又は炭素数1〜15の2価の炭化水素基、O、S、CO、SO、SO若しくはCONHから選ばれる2価の基を示し、nは独立に0〜4の整数を示し、qは構成単位の存在モル比を示し、0.1〜1.0の値である。
【0036】
【化1】
【0037】
上記構造単位は、単独重合体中に存在しても、共重合体の構造単位として存在してもよい。構造単位を複数有する共重合体である場合は、ブロック共重合体として存在しても、ランダム共重合体として存在してもよい。このような構造単位を有するポリイミドの中で、好適に利用できるポリイミドは、非熱可塑性のポリイミドである。
【0038】
ポリイミドは、一般に、ジアミンと酸無水物とを反応させて製造されるので、ジアミンと酸無水物を説明することにより、ポリイミドの具体例が理解される。上記一般式(1)において、Arはジアミンの残基ということができ、Arは酸無水物の残基ということができるので、好ましいポリイミドをジアミンと酸無水物により説明する。しかし、非熱可塑性のポリイミドは、ここで説明するジアミンと酸無水物から得られるものに限定されることはない。
【0039】
酸無水物としては、無水ピロメリット酸、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルフォンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物が好ましく例示される。また、酸無水物として、2,2',3,3'-、2,3,3',4'-又は3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3',3,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3',3,4'-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物等も好ましく例示される。さらに、酸無水物として、3,3'',4,4''-、2,3,3'',4''-又は2,2'',3,3''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、ビス(2,3-又は3.4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物等も好ましく例示される。
【0040】
その他の酸無水物としては、例えば1,2,7,8-、1,2,6,7-又は1,2,9,10-フェナンスレン-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)テトラフルオロプロパン二無水物、2,3,5,6-シクロヘキサン二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、2,6-又は2,7-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-(又は1,4,5,8-)テトラクロロナフタレン-1,4,5,8-(又は2,3,6,7-)テトラカルボン酸二無水物、2,3,8,9-、3,4,9,10-、4,5,10,11-又は5,6,11,12-ペリレン-テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、ピラジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、チオフェン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルメタン二無水物等が挙げられる。
【0041】
ジアミンとしては、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2’-メトキシ-4,4’-ジアミノベンズアニリド、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノベンズアニリド等が好ましく例示される。また、ジアミンとしては、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[1-(4-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[1-(3-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、ビス[4,4'-(4-アミノフェノキシ)]ベンズアニリド、ビス[4,4'-(3-アミノフェノキシ)]ベンズアニリド、9,9-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、9,9-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン等が好ましく例示される。
【0042】
その他のジアミンとして、例えば2,2−ビス-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4’-メチレンジ-o-トルイジン、4,4’-メチレンジ-2,6-キシリジン、4,4’-メチレン-2,6-ジエチルアニリン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、3,3’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエタン、3,3’-ジアミノジフェニルエタン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3-ジアミノジフェニルエーテル、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、ベンジジン、3,3’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメトキシベンジジン、4,4''-ジアミノ-p-テルフェニル、3,3''-ジアミノ-p-テルフェニル、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4'-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、4,4'-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、ビス(p-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(p-β-アミノ-t-ブチルフェニル)エーテル、ビス(p-β-メチル-δ-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(2-メチル-4-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(1,1-ジメチル-5-アミノペンチル)ベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,4-ビス(β-アミノ-t-ブチル)トルエン、2,4-ジアミノトルエン、m-キシレン-2,5-ジアミン、p-キシレン-2,5-ジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノ-1,3,4-オキサジアゾール、ピペラジン等が挙げられる。
【0043】
酸無水物およびジアミンは、それぞれ、その1種のみを使用することもできるし、あるいは2種以上を併用して使用することもできる。また、上記一般式(1)に含まれないその他の酸無水物又はジアミンを上記の酸無水物又はジアミンと共に使用することもでき、この場合、上記一般式(1)に含まれない酸無水物又はジアミンの使用割合は90モル%以下、好ましくは50モル%以下とすることがよい。酸無水物又はジアミンの種類や、2種以上の酸無水物又はジアミンを使用する場合のそれぞれのモル比を選定することにより、熱膨張性、接着性、ガラス転移温度(Tg)等を制御することができる。
【0044】
ポリイミドとして、熱可塑性のポリイミドを用いることもできる。熱可塑性のポリイミドは、例えば回路基板の配線層と絶縁層との接着層として適用する場合に好適に利用できる。熱可塑性のポリイミドの前駆体に使用されるポリアミド酸としては、一般式(6)で表される構造単位を有するポリアミド酸が好ましい。一般式(6)において、Arは式(7)、式(8)又は式(9)で表される2価の芳香族基を示し、Arは式(10)又は式(11)で表される4価の芳香族基を示し、Rは独立に炭素数1〜6の1価の炭化水素基又はアルコキシ基を示し、V及びWは独立に単結合又は炭素数1〜15の2価の炭化水素基、O、S、CO、SO若しくはCONHから選ばれる2価の基を示し、mは独立に0〜4の整数を示し、pは構成単位の存在モル比を示し、0.1〜1.0の値である。
【0045】
【化2】
【0046】
上記一般式(6)において、Arはジアミンの残基ということができ、Arは酸無水物の残基ということができるので、好ましい熱可塑性のポリイミドをジアミンと酸無水物により説明する。しかし、熱可塑性のポリイミドは、ここで説明するジアミンと酸無水物から得られるものに限定されることはない。
【0047】
熱可塑性のポリイミドの形成に好適に用いられるジアミンとしては、例えば、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2’-メトキシ-4,4’-ジアミノベンズアニリド、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノベンズアニリド等が挙げられる。その他、上記非熱可塑性のポリイミドの説明で挙げたジアミンを挙げることができる。
【0048】
熱可塑性のポリイミドの形成に好適に用いられる酸無水物としては、例えば、無水ピロメリット酸、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルフォンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物が挙げられる。その他、上記非熱可塑性のポリイミドの説明で挙げた酸無水物を挙げることができる。
【0049】
熱可塑性のポリイミドの形成に好適に用いられるジアミンおよび酸無水物は、それぞれ、その1種のみを使用してもよく2種以上を併用して使用することもできる。また、上記以外のジアミン及び酸無水物を併用することもできる。
【0050】
熱可塑性のポリイミドの前駆体であるポリアミド酸において、式(6)で表される構造単位は、単独重合体中に存在しても、共重合体の構造単位として存在してもよい。構造単位を複数有する共重合体である場合は、ブロック共重合体として存在しても、ランダム共重合体として存在してもよい。式(6)で表される構造単位は複数であるが、1種であっても2種以上であってもよい。有利には、式(6)で表される構造単位を主成分とすることであり、好ましくは60モル%以上、より好ましくは80モル%以上含む前駆体であることがよい。
【0051】
ポリイミドは、その前駆体であるポリアミド酸をイミド化(硬化)することによって形成することができる。低熱膨張性又は熱可塑性のポリイミドの前駆体であるポリアミド酸の合成は、上記酸無水物とジアミンを溶媒中で反応させることにより行うことができる。使用する溶媒については、例えば、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、n−メチルピロリジノン、2−ブタノン、ジグライム、キシレン等が挙げられ、これらの1種若しくは2種以上併用して使用することもできる。ポリアミド酸の合成は、酸無水物とジアミンのモル比(酸無水物のモル数/ジアミンのモル数)を1より大きくすることが好ましい。酸無水物を過剰に仕込むことによって、ポリアミド酸がアミン末端を持たない構造とすることが可能になり、アクリル化合物との反応性を抑制することができる。
【0052】
(A)成分のポリアミド酸は、ポリアミド酸溶液として使用される。通常、反応溶媒溶液として使用することが有利であるが、必要により濃縮、希釈又は他の有機溶媒に置換することができる。また、(A)成分のポリアミド酸は一般に溶媒可溶性に優れるので、アクリル化合物との混合も容易である。
【0053】
また、(A)成分のポリアミド酸は、アクリル化合物との反応を抑制するため、その分子骨格中にラジカル重合性不飽和結合を含有しないか、その含有量が少ないものが好ましい。具体的には、ポリアミド酸は、重量1g当たりに存在するラジカル重合性不飽和結合の量が好ましくは3mmol以下、より好ましくは2.5mmol以下がよい。このように、ポリアミド酸中に含まれるラジカル重合性不飽和結合の量を低く抑えることによって、アクリル化合物がポリアミド酸と反応して消費されてしまうことを抑制できるため、アクリル化合物を硫黄化合物のトラップ手段として効果的に機能させることができる。ここで、ラジカル重合性不飽和結合を有する官能基としては、(メタ)アクリル基、ビニル基又はアリル基を末端又は側鎖に有する1価の有機基などである。
【0054】
また、ポリアミド酸において、重量1g当たりに存在するラジカル重合性不飽和結合の量を3mmol/g以下に抑制するための酸無水物とジアミンの組み合わせは、特に限定されないが具体例を挙げると、好ましい酸無水物として例えば無水ピロメリット酸、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルフォンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-、2,3,3’,4’-又は3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、好ましいジアミンとして2,2’-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテルを挙げることができる。
【0055】
ポリアミド酸溶液としては、市販品も好適に使用可能であり、例えば宇部興産株式会社製の非熱可塑性ポリアミド酸ワニスであるU-ワニス-A(商品名)、同U-ワニス-S(商品名)、新日鐵化学株式会社製の熱可塑性ポリアミド酸ワニスSPI−200N(商品名)、同SPI−300N(商品名)、同SPI−1000G(商品名)、東レ株式会社製のトレニース#3000(商品名)等が挙げられる。
【0056】
(A)成分のポリアミド酸は、求核剤として作用し得るアミン末端を少なくしてアクリル化合物との反応を抑制する観点から、重量平均分子量が10,000以上であることが好ましく、10,000〜150,000の範囲内が好ましい。また、重量平均分子量を10,000以上とすることによって、分子鎖の運動性を低下させ、アミン末端の求核性を低下させる効果も期待できる。
【0057】
<(B)成分;アクリル化合物>
第1の態様において、アクリル化合物は、硫黄含有有機化合物を捕捉するトラップ手段として作用するものである。アクリル化合物には、メタアクリル化合物を含む。アクリル化合物としては、金属を硫化(酸化)させる硫黄含有基を持たないものが好ましい。より具体的には、例えばチオール基のように、金属に対して酸化剤として作用する(硫化する)官能基は含まないことが好ましい。ただし、主鎖中に−SO−のように存在する硫黄含有基は、酸化剤としての機能を持たないため使用しても差し支えない。
【0058】
アクリル化合物としては、例えば、[1分子中の(メタ)アクリロイル基の数/分子量]の値が0.001以上、好ましくは、0.003以上であるアクリル化合物が好ましい。上記値が0.001未満では、発明の効果を発現させるために必要なアクリル化合物の添加量が大きくなり、ポリイミドが本来有している耐熱性等の特長が低下する可能性がある。このような観点から、アクリル化合物としては、分子内に複数の(メタ)アクリロイル基を有する多官能のアクリル化合物が好ましい。
【0059】
アクリル化合物の具体例としては、例えば、2−エチルヘキシルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェート、2−メトキシエトキシエチルアクリレート、2−エトキシエトキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルフリールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、イソデシルアクリレート、ステアリルアクリレート、ラウリルアクリレート、グリシジルアクリレート、アリルアクリレート、エトキシアクリレート、メトキシアクリレート、N,N’−ジメチルアミノエチルアクリレート、ベンジルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリロイルホスフェート、ジシクロペンタジエニルアクリレート、ジシクロペンタジエンエトキシアクリレート等のモノアクリレートや、ジシクロペンテニルアクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレート、1,3−ブタンジオールジアクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ブタンジオールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ポリエチレングリコール200ジアクリレート、ポリエチレングリコール400ジアクリレート、ポリエチレングリコール600ジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ヒドロキシピバリン酸エステルネオペンチルグリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、ビス(アクリロキシエトキシ)ビスフェノールA、ビス(アクリロキシエトキシ)テトラブロモビスフェノールA、トリプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアネート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレート等の多官能アクリレートなどを用いることが可能である。上記例示のアクリル化合物の中でも、2官能以上のアクリル化合物が好ましく、例えば、トリプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアネート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタアクリレートを挙げることができる。
【0060】
アクリル化合物としては、市販品を好ましく利用できる。市販品としては、例えば、日本化薬株式会社製KAYARAD D−310、D−330、DPHA、DPCA−20、DPCA−30、DPCA−60、DPCA−120、DN−0075、DN−2475、SR−295、SR−355、SR−399E、SR−494、SR−9041、SR−368、SR−415、SR−444、SR−454、SR−492、SR−499、SR−502、SR−9020、SR−9035、SR−111、SR−212、SR−213、SR−230、SR−259、SR−268、SR−272、SR−344、SR−349、SR−601、SR−602、SR−610、SR−9003、PET−30、T−1420、GPO−303、TC−120S、HDDA、NPGDA、TPGDA、PEG400DA、MANDA、HX−220、HX−620、R−551、R−712、R−167、R−526、R−551、R−712、R−604、R−684、TMPTA、THE−330、TPA−320、TPA−330、KS−HDDA、KS−TPGDA、KS−TMPTA、東亞合成株式会社製アロニックスM−400、M−404、M−408、M−450、M−305、M−309、M−310、M−315、M−320、M−350、M−360、M−208、M−210、M−215、M−220、M−225、M−233、M−240、M−245、M−260、M−270、M−1100、M−1200、M−1210、M−1310、M−1600、M−221、M−203、TO−924、TO−1270、TO−1231、TO−595、TO−756、TO−1343、TO−902、TO−904、TO−905、TO−1330、共栄社化学株式会社製ライトアクリレート PE−4A、DPE−6A、DTMP−4A、大阪有機化学工業株式会社製PhSEA、ビスコート#802等を挙げることができる。
【0061】
ポリアミド酸組成物は、(A)成分のポリアミド酸100重量部に対し、(B)成分のアクリル化合物を0.1〜60重量部の範囲内で含有するものであり、1〜20重量部の範囲内がより好ましく、1〜10重量部の範囲内が最も好ましい。アクリル化合物の配合比率が、ポリアミド酸100重量部に対し0.1重量部未満では、硫黄化合物をトラップする効果が十分に得られない。アクリル化合物の配合比率が60重量部を超えると、アクリル化合物どうしの重合反応が生じやすくなり、オイル成分由来の硫黄化合物をトラップする効果が低下する場合がある。
【0062】
また、ポリアミド酸組成物は、さらに溶媒を含有することも可能である。溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、n-メチルピロリジノン、2-ブタノン、ジグライム、キシレン等が挙げられ、これらの1種若しくは2種以上併用して使用することもできる。
【0063】
ポリアミド酸組成物は、上記(A)成分のポリアミド酸と(B)成分のアクリル化合物を上記配合比率で仕込み、混合することによって調製される。ポリアミド酸組成物の調製にあたっては、必要によって溶媒を用いることが好ましい。
【0064】
ポリイミド組成物は、ポリアミド酸組成物を熱処理して、(A)成分のポリアミド酸をイミド化することにより得られるものである。イミド化の方法は、特に制限されず、例えば、80〜400℃の範囲内の温度条件で1〜60分間の範囲内の時間加熱するといった熱処理が好適に採用される。
【0065】
ポリイミド組成物において、アクリル化合物は、ポリイミド中に非結合状態で存在するものと考えられる。ここで、「非結合状態」とは、アクリル化合物の官能基がポリイミドとの間で結合を形成しておらず、アクリル化合物が配合時の状態を維持していることを意味する。ただし、ポリアミド酸中に混合されたアクリル化合物の全量が、ポリイミド中で非結合状態を維持している必要はなく、ポリイミドとの間で結合を形成したアクリル化合物が存在してもよい。このような観点から、例えば(A)成分のポリアミド酸が、その分子骨格中にラジカル重合性不飽和結合を含有しない場合、アクリル化合物の量は、ポリアミド酸組成物の重量1g当たりに存在する(メタ)アクリロイル基の量として好ましくは0.096mmol以上、3.0mmol以下、より好ましくは0.15mmol以上2.5mmol以下とすることがよい。重量1g当たりに存在する(メタ)アクリロイル基の量が0.096mmol未満では、硫黄化合物をトラップする効果が十分に得られない場合があり、3.0mmolを超えると、ポリイミド組成物を樹脂層として用いた積層体や回路基板の耐油性が低下するおそれがある。
【0066】
(第2の態様)
第2の態様の熱可塑性ポリイミドは、芳香族ジアミンと芳香族テトラカルボン酸二無水物との反応によって得られるポリアミド酸を熱処理し、イミド化して得られる熱可塑性ポリイミドである。ここで、芳香族ジアミンは、炭素数2〜6の範囲内のラジカル重合性の不飽和結合を有する芳香族ジアミンを含有し、ラジカル重合性の不飽和結合の量が、ポリアミド酸の1g当たり0.096mmol〜3mmolの範囲内である。
【0067】
第2の態様の熱可塑性ポリイミドを用いて作製した金属張積層体及び回路基板は、硫黄化合物を含有する150℃のオイル中に浸漬し、1000時間以上経過後も、金属層と樹脂層との間での高い接着力を維持することができる。このように、第2の態様において、熱可塑性ポリイミド中のラジカル重合性の不飽和結合は、硫黄化合物を捕捉するトラップ手段として作用するものである。
【0068】
第2の態様の熱可塑性ポリイミドを構成するポリイミドとしては、例えばポリイミド、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリイミドエステル、ポリエーテルイミド等の構造中にイミド基を有するポリマーからなる耐熱性樹脂を挙げることができる。
【0069】
第2の態様の熱可塑性ポリイミドに使用される前駆体としては、上記一般式(6)で表される構造単位を有するポリアミド酸が好ましい。特に、第2の態様では、一般式(6)において、Rは独立に炭素数1〜6の1価の炭化水素基又はアルコキシ基を示すが、Rのうち少なくとも一つは炭素数2〜6の範囲内のラジカル重合性の不飽和結合を有しているものを用いる。
【0070】
第2の態様の熱可塑性ポリイミドは、原料のジアミンに芳香族ジアミンを用いることによって、優れた耐熱性を有するものとなる。熱可塑性ポリイミドに炭素数2〜6の範囲内のラジカル重合性の不飽和結合を導入するためジアミンとして、好ましくは、下記一般式(12)で表される芳香族ジアミンを例示できる。
【化3】
(式中、Xは単結合、CH、C(CH及びSOから選択されるいずれかを示し、R、Rは炭素数2〜6の範囲内のラジカル重合性の不飽和結合を有する1価の有機基を示す。)
【0071】
式(12)において、R、Rはラジカル重合性の不飽和結合を有する1価の有機基を示すが、(メタ)アクリル基、ビニル基又はアリル基を末端又は側鎖に有する1価の有機基が好ましく、より好ましくはCH=CH−R−で表される基がよい。ここで、Rは直結合、炭素数1〜4の範囲内のアルキレン基を示すが、Rが直結合(つまり、式(12)中のR、Rはビニル基)であることが反応性の点では好ましい。そのような式(12)の化合物の具体例としては、2,2’−ジビニル−4,4’‐ジアミノ−ビフェニル等が挙げられる。
【0072】
また、炭素数2〜6の範囲内のラジカル重合性の不飽和結合を有するジアミン以外の芳香族ジアミンとして、例えば、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2’-メトキシ-4,4’-ジアミノベンズアニリド、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジヒドロキシ-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-ジアミノベンズアニリド等が挙げられる。
【0073】
熱可塑性ポリイミドの形成に好適に用いられる酸無水物としては、例えば、無水ピロメリット酸、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルフォンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物が挙げられる。
【0074】
上記ジアミンおよび酸無水物は、それぞれ、その1種のみを使用してもよく2種以上を併用して使用することもできる。また、上記以外のジアミン及び酸無水物を併用することもできる。
【0075】
また、ポリアミド酸は、重量1g当たりに存在する炭素数2〜6のラジカル重合性の不飽和結合の量が0.096mmol〜3mmolの範囲内であることが好ましく、0.15mmol〜2mmolの範囲内であることがより好ましい。ポリアミド酸の重量1g当たりに存在する炭素数2〜6のラジカル重合性の不飽和結合の量が0.096mmol未満では、硫黄化合物をトラップする効果が十分に得られない場合があり、3mmolを超えると、該不飽和結合どうしの重合反応が生じやすくなり、オイル成分由来の硫黄化合物をトラップする効果が低下する場合がある。
【0076】
ポリアミド酸の合成は、上記酸無水物とジアミンを溶媒中で反応させることにより行うことができる。使用する溶媒については、例えば、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、n−メチルピロリジノン、2−ブタノン、ジグライム、キシレン等が挙げられ、これらの1種若しくは2種以上併用して使用することもできる。ポリアミド酸の合成は、酸無水物とジアミンのモル比(酸無水物のモル数/ジアミンのモル数)を1より大きくすることが好ましい。酸無水物を過剰に仕込むことによって、ポリアミド酸がアミン末端を持たない構造とすることが可能になり、炭素数2〜6の範囲内のラジカル重合性の不飽和結合との反応性を抑制することができる。
【0077】
合成されたポリアミド酸は、ポリアミド酸溶液として使用される。通常、反応溶媒溶液として使用することが有利であるが、必要により濃縮、希釈又は他の有機溶媒に置換することができる。また、前駆体であるポリアミド酸は一般に溶媒可溶性に優れる溶液化も容易である。
【0078】
熱可塑性ポリイミドは、ポリアミド酸をイミド化(硬化)することによって調製される。イミド化の方法は、特に制限されず、例えば、80〜400℃の範囲内の温度条件で1〜60分間の範囲内の時間加熱するといった熱処理が好適に採用される。
【0079】
熱可塑性ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸の重量平均分子量は、求核剤として作用し得るアミン末端を少なくしてラジカル重合性の不飽和結合との反応を抑制する観点から、10,000以上であることが好ましく、50,000〜300,000の範囲内がより好ましく、50,000〜150,000の範囲内が最も好ましい。また、重量平均分子量を10,000以上とすることによって、分子鎖の運動性を低下させ、アミン末端の求核性を低下させる効果も期待できる。
【0080】
第2の態様のポリアミド酸組成物は、炭素数2〜6の範囲内のラジカル重合性の不飽和結合を有するポリアミド酸と溶媒との混合物である。ここで溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、n-メチルピロリジノン、2-ブタノン、ジグライム、キシレン等が挙げられ、これらの1種若しくは2種以上併用して使用することもできる。
【0081】
本実施の形態の積層体及び回路基板において、ポリイミド組成物の樹脂層は、銅箔(配線層を含む)に接した状態で積層して用いることが好ましい。本実施の形態の積層体及び回路基板は、後記実施例に示したように、硫黄含有有機化合物を含有する150℃のオイル中に浸漬し、例えば250時間以上経過後も、銅箔と樹脂層との間で高い接着力を維持することができる。
【0082】
本実施の形態の銅張積層体及び回路基板における絶縁層の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば3〜100μmの範囲内とすることができる。
【0083】
[回路基板の使用方法]
本実施の形態の回路基板の使用方法は、上記回路基板を、硫黄含有有機化合物を含有するオイル中で使用する。ここで、硫黄含有有機化合物を含有するオイルとしては、例えばエンジンオイル、トランスミッションオイルなどを挙げることができる。また、硫黄含有有機化合物としては、例えば、ベンゾチアゾールなどのチオール化合物を挙げることができる。上記オイル中における本実施の形態の回路基板の使用温度は、例えば常温から200℃程度である。
【0084】
[積層体及び回路基板の製造方法]
本実施の形態において、絶縁層と接する面に付着したコバルト元素の量が2mg/dm以下の銅箔を使用する以外、回路基板を作成する方法は問われない。例えば、ポリイミドの樹脂層と銅箔で構成される積層体を用意し、この銅箔をエッチングして配線を形成する方法(サブトラクティブ法)でもよい。
【0085】
サブトラクティブ法に用いる積層体は、例えばポリイミドによって構成される樹脂フィルムを用意し、これに銅箔を熱圧着などの方法でラミネートして積層体を形成してもよい。さらに、銅箔の上に樹脂溶液をキャストし、乾燥して塗布膜とした後、熱処理してイミド化することによって樹脂層を形成し積層体を調製してもよい。
【0086】
以下、代表的にキャスト法とサブトラクティブ法とを組み合わせ、絶縁層がポリイミドであるの場合を例に挙げて本実施の形態の回路基板の製造方法について、具体的に説明する。
【0087】
まず、積層体の製造は、
(1)銅箔上に、ポリアミド酸を含有する樹脂溶液を塗布し、塗布膜を形成する工程と、
(2)塗布膜を熱処理して、ポリアミド酸をイミド化することによりポリイミドの樹脂層を形成する工程と、を含むことができる。
また、回路基板の製造は、上記(1)、(2)の工程に加え、さらに、
(3)積層体の銅箔をパターニングして配線層を形成する工程と、を含むことができる。
【0088】
(1)銅箔上に、ポリアミド酸を含有する樹脂溶液を塗布し、塗布膜を形成する工程:
基材としての銅箔は、カットシート状、ロール状のもの、又はエンドレスベルト状などの形状で使用できる。生産性を得るためには、ロール状又はエンドレスベルト状の形態とし、連続生産可能な形式とすることが効率的である。さらに、回路基板における配線パターン精度の改善効果をより大きく発現させる観点から、銅箔は長尺に形成されたロール状のものが好ましい。
【0089】
塗布膜を形成する方法は、ポリアミド酸の溶液を銅箔の上に直接塗布した後に乾燥することで形成できる。塗布する方法は特に制限されず、例えばコンマ、ダイ、ナイフ、リップ等のコーターにて塗布することが可能である。
【0090】
ポリイミドの樹脂層は、単層でもよいし、複数層からなるものでもよい。ポリイミド層を複数層とする場合、異なる構成成分からなる前駆体の層の上に他の前駆体を順次塗布して形成することができる。前駆体の層が3層以上からなる場合、同一の構成の前駆体を2回以上使用してもよい。また、前駆体の層の厚み(乾燥後)は、3〜100μmの範囲内、好ましくは3〜50μmの範囲内にあることがよい。ポリアミド酸の溶液を塗布する本実施の形態の方法では、塗布膜の厚みを自由に調節することが可能である。
【0091】
ポリイミドの樹脂層を複数層とする場合、銅箔に接するポリイミドの樹脂層が熱可塑性のポリイミドの樹脂層となるように前駆体の層を形成することが好ましい。熱可塑性のポリイミドを用いることで、銅箔との密着性を向上させることができる。このような熱可塑性のポリイミドは、ガラス転移温度(Tg)が350℃以下であるものが好ましく、より好ましくは200〜320℃である。
【0092】
また、単層又は複数層の前駆体の層を一旦イミド化して単層又は複数層のポリイミド層とした後に、更にその上に前駆体の層を形成することも可能である。
【0093】
(2)塗布膜を熱処理して、ポリアミド酸をイミド化することによりポリイミドの樹脂層を形成する工程:
イミド化の方法は、特に制限されず、例えば、80〜400℃の範囲内の温度条件で1〜60分間の範囲内の時間加熱するといった熱処理が好適に採用される。銅箔の酸化を抑制するため、低酸素雰囲気下での熱処理が好ましく、具体的には、窒素又は希ガスなどの不活性ガス雰囲気下、水素などの還元ガス雰囲気下、あるいは真空中で行うことが好ましい。熱処理により、塗布膜中のポリアミド酸がイミド化し、ポリイミドが形成される。このようにして、ポリイミドの樹脂層(単層又は複数層)と銅箔とを有する積層体を製造することができる。
【0094】
(3)得られた積層体の銅箔をパターニングして配線層を形成する工程:
本工程では、銅箔を所定形状にエッチングすることによってパターン形成し、配線層に加工する。エッチングは、例えばフォトリソグラフィー技術などを利用する任意の方法で行うことができる。
【0095】
なお、以上の説明では、本実施の形態の回路基板の製造方法の特徴的工程のみを説明した。すなわち、回路基板を製造する際に、通常行われる上記以外の工程、例えば前工程でのスルーホール加工や、後工程の端子メッキ、外形加工などの工程は、常法に従い行うことができる。
【0096】
以上のように、本実施の形態では、絶縁層と接する面に付着したコバルト元素の量が2mg/dm以下である銅箔を用いることにより、繰り返し高温環境及びオイル付着環境に置かれても、銅箔と樹脂層との接着力が低下しない積層体を形成することができる。また、上記銅箔を用いることにより、回路基板の信頼性を向上させることができる。本実施の形態の回路基板は、例えば、自動車のエンジン、吸気マニホールド、オルタネーター、ラジエーターや、ギアボックス、トランスミッションなどのオイルが付着しやすい高温環境で使用される機器において、FPC等の用途で好ましく利用できる。
【0097】
[実施例]
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0098】
[接着強度の測定]
接着強度は、幅10mm、長さ100mmに切り出した評価サンプルを、引張試験機(東洋精機株式会社製、ストログラフ−M1)を用いて、180°方向に50mm/分の速度で、銅箔とポリイミド間を引き剥がす時の力を接着強度とした。
【0099】
[硫黄濃度の測定]
硫黄濃度(以下、「S濃度」と記すことがある)は、評価サンプルの銅とポリイミド間を引き剥がした後の銅箔側の剥離面のエネルギー分散型蛍光X線分析装置(EDX)分析により、得た。
【0100】
実施例等で用いた略号は以下の化合物を示す。
BAPP:2,2−ビス(4−アミノフェノキシフェニル)プロパン
VAB:2,2’−ジビニル−4,4’−ジアミノビフェニル
m−TB:2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル
TPE−R:1,3’−ビスアミノフェノキシベンゼン
PMDA:ピロメリット酸二無水物
BPDA:3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
DMAc:N,N−ジメチルアセトアミド
【0101】
合成例1−1〜1−2:
ポリアミド酸A、Bを合成するため、窒素気流下で、表1に示したジアミンを、200mlのセパラブルフラスコの中で攪拌しながら溶剤DMAcに溶解させた。次いで、表1に示したテトラカルボン酸二無水物を加えた。その後、溶液を室温で5時間攪拌を続けて重合反応を行い、一昼夜保持した。粘稠なポリアミド酸溶液が得られ、高重合度のポリアミド酸が生成されていることが確認された。得られたポリアミド酸A、Bの溶液(以下、ポリアミド酸溶液A、Bという)の固形分と溶液粘度を表1に示した。
【0102】
【表1】
【0103】
参考例1−1
合成例1−1で得られたポリアミド酸溶液Aの固形分100重量部に対し、アクリル化合物(日本化薬株式会社製、商品名;KAYARAD PET−30)を5重量部相当(アクリロイル基として0.56mmol/g)の0.63gを混合し、2時間室温にて攪拌させて、ポリアミド酸組成物1−1を調製した。銅箔A(Co量;2.68mg/dm、Zn量;0.13mg/dm、Cr量;0.08mg/dm、Ni量;0.76mg/dm)上にポリアミド酸組成物1−1を硬化後の厚みが2μmとなるように塗布し、130℃で加熱乾燥し溶剤を除去した後、その上に合成例1−2で得られたポリアミド酸溶液Bを硬化後の厚みが21μmとなるように塗布し、125℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。更に、その上にポリアミド酸溶液Aを硬化後の厚みが2μmとなるように塗布し、125℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。この後、130℃、145℃、160℃、210℃、280℃、320℃、360℃で各1〜15分間段階的な熱処理を行って、銅箔上に3層のポリイミド層からなる配線基板用積層体1−1を作製した。銅箔上のポリイミド層の厚みは、銅箔側から順に2μm/21μm/2μmである。配線基板用積層体1−1を10cm×3cmにカットした後、銅箔が9cm×2cmとなるように銅箔をエッチングし、銅箔側に10cm×3cmのカバーレイ(新日鐵化学株式会社製、商品名;エスパネックスSPC)を熱圧着して評価サンプル1−1を作製した。評価サンプル1−1の銅箔とポリイミド間の接着強度(接着強度1)は1.3kN/mであった。なお、ポリアミド酸溶液Aをイミド化して得られるポリイミドは熱可塑性であり、ポリアミド酸Bをイミド化して得られるポリイミドは非熱可塑性である。
【0104】
次に評価サンプル1−1に対し、オーブンでマツダ社製オートマチックトランスミッション用オイル(商品名;ATF M−III)中、150℃、250時間熱処理を行った。熱処理後の銅箔とポリイミド間の接着強度(接着強度2)を測定したところ、0.82kN/mであった。このときの銅箔側の剥離面のS濃度は0.4%であった。そして、オイル中、150℃、1,000時間熱処理後の銅箔とポリイミド間の接着強度(接着強度3)を測定したところ、0.18kN/mであった。結果を表2に示す。
【0105】
参考例1−2
ポリアミド酸溶液Aの固形分100重量部に対して、アクリル化合物を10重量部相当(アクリロイル基として1.17mmol/g)の1.25gを混合したこと以外、参考例1−1と同様の方法でポリアミド酸組成物1−2を得た後、配線基板用積層体1−2を得、評価サンプル1−2を得た。評価サンプル1−2の銅箔とポリイミド間の接着強度(接着強度1)は1.3kN/mであった。また、マツダ社製オートマチックトランスミッション用オイル(商品名;ATF M−III)中、150℃、250時間熱処理後の銅箔とポリイミド間の接着強度(接着強度2)は0.56kN/mであった。このときの銅箔側の剥離面のS濃度は5%であった。そして、150℃、1,000時間熱処理後の銅箔とポリイミド間の接着強度(接着強度3)を測定したところ、0.11kN/mであった。結果を表2に示す。
【0106】
参考例1−3
ポリアミド酸溶液Aの固形分100重量部に対して、アクリル化合物を20重量部相当(アクリロイル基として2.34mmol/g)の2.50gを混合したこと以外、参考例1−1と同様の方法でポリアミド酸組成物1−3を得た後、配線基板用積層体1−3を得、評価サンプル1−3を得た。評価サンプル1−3の銅箔とポリイミド間の接着強度(接着強度1)は1.3kN/mであった。また、マツダ社製オートマチックトランスミッション用オイル(商品名;ATF M−III)中、150℃、250時間熱処理後の銅箔とポリイミド間の接着強度(接着強度2)は0.5kN/mであった。このときの銅箔側の剥離面のS濃度は5%であった。そして、150℃、1,000時間熱処理後の銅箔とポリイミド間の接着強度(接着強度3)を測定したところ、0kN/mであった。結果を表2に示す。
【0107】
【表2】
【0108】
実施例1
銅箔1(Co量;0mg/dm、Zn量;0.04mg/dm、Cr量;0.10mg/dm、Ni量;0.22mg/dm)上にポリアミド酸溶液Aを硬化後の厚みが2μmとなるように塗布し、130℃で加熱乾燥し溶剤を除去した次に、その上に合成例1−2で得られたポリアミド酸溶液Bを硬化後の厚みが21μmとなるように塗布し、125℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。更に、その上にポリアミド酸溶液Aを硬化後の厚みが2μmとなるように塗布し、125℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。この後、130℃、145℃、160℃、210℃、280℃、320℃、360℃で各1〜15分間段階的な熱処理を行って、銅箔上に3層のポリイミド層からなる配線基板用積層体1−4を作成した。そして、参考例1−1と同様に配線基板用積層体1−4から評価サンプル1−4を得た。評価サンプル1−4の銅箔とポリイミド間の接着強度(接着強度1)は2kN/mを上回っていた。また、マツダ社製オートマチックトランスミッション用オイル(商品名;ATF M−III)中、150℃、250時間熱処理後の銅箔とポリイミド間の接着強度(接着強度2)は2kN/mを上回っていた。そして、150℃、1,000時間熱処理後の銅箔とポリイミド間の接着強度(接着強度3)を測定したところ、2kN/mを上回っていた。結果を表3に示す。
【0109】
実施例2
実施例1の銅箔1に代えて、銅箔2(Co量0mg/dm、Zn量;0.08mg/dm、Cr量;0.10mg/dm、Ni量;0.13mg/dm)を用いた以外は、実施例1と同様にして、配線基板用積層体1−5を作成した。そして、参考例1−1と同様に配線基板用積層体1−5から評価サンプル1−5を得た。評価サンプル1−5の銅箔とポリイミド間の接着強度(接着強度1)は1.4kN/mであった。また、マツダ社製オートマチックトランスミッション用オイル(商品名;ATF M−III)中、150℃、250時間熱処理後の銅箔とポリイミド間の接着強度(接着強度2)は1.4kN/mであった。このときの銅箔側の剥離面のS濃度は0%であった。そして、150℃、1,000時間熱処理後の銅箔とポリイミド間の接着強度(接着強度3)を測定したところ、1.4kN/mであった。結果を表3に示す。
【0110】
実施例3
実施例1の銅箔1に代えて、銅箔3(Co量0.42mg/dm、Zn量;0.10mg/dm、Cr量;0.05mg/dm、Ni量;0.43mg/dm)を用いた以外は、実施例1と同様にして、配線基板用積層体1−6を作成した。そして、参考例1−1と同様に配線基板用積層体1−6から評価サンプル1−6を得た。評価サンプル1−6の銅箔とポリイミド間の接着強度(接着強度1)は2kN/mを上回っていた。また、マツダ社製オートマチックトランスミッション用オイル(商品名;ATF M−III)中、150℃、250時間熱処理後の銅箔とポリイミド間の接着強度(接着強度2)は2kN/mを上回っていた。そして、150℃、1,000時間熱処理後の銅箔とポリイミド間の接着強度(接着強度3)を測定したところ、2kN/mを上回っていた。結果を表3に示す。
【0111】
比較例1
実施例1の銅箔1に代えて、銅箔Aを用いた以外は、実施例1と同様にして、配線基板用積層体1−7を作成した。そして、参考例1−1と同様に配線基板用積層体1−7から評価サンプル1−7を得た。評価サンプル1−7の銅箔とポリイミド間の接着強度(接着強度1)は1.3kN/mであった。また、マツダ社製オートマチックトランスミッション用オイル(商品名;ATF M−III)中、150℃、250時間熱処理後の銅箔とポリイミド間の接着強度(接着強度2)は0.12kN/mであった。このときの銅箔側の剥離面のS濃度は7%であった。そして、150℃、1,000時間熱処理後の銅箔とポリイミド間の接着強度(接着強度3)を測定したところ、0kN/mであった。結果を表3に示す。
【0112】
【表3】
【0113】
実施例1〜3では、Co量の少ない銅箔1〜3を用いたことによって、Co量が2mg/dmを超える銅箔Aを使用した比較例1と比較して、150℃のオイル中での長期耐油性試験の結果、明らかに耐油性の向上が確認された。
【0114】
合成例2−1 窒素気流下で、300mlのセパラブルフラスコに15.67gのBAPP(0.0382モル)、0.47gのビニル基を有するVAB(0.0020モル)、100gのDMAcを装入し、室温で攪拌して溶解させた。次に8.27gのPMDA(0.0379モル)及び0.59gのBPDA(0.00199モル)を添加し、溶液を室温で5時間攪拌を続けて重合反応を行い、ポリアミド酸溶液aを得た。
【0115】
合成例2−2〜2−5
表4に示す原料組成とした他は、合成例2−1と同様にしてポリアミド酸溶液b、c、d、eを調製した。
【0116】
【表4】
【0117】
参考例2−1
銅箔A上に合成例2−1で重合したポリアミド酸溶液aを硬化後の厚みが2μmとなるように塗布し、130℃で加熱乾燥し溶剤を除去した後、その上に合成例2−5で得られたポリアミド酸溶液eを硬化後の厚みが21μmとなるように塗布し、125℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。更に、その上に合成例2−4で得たポリアミド酸溶液dを硬化後の厚みが2μmとなるように塗布し、125℃で加熱乾燥し溶剤を除去した。この後、130℃、145℃、160℃、210℃、280℃、320℃、360℃で各1〜15分段階的な熱処理を行って、銅箔上に3層のポリイミド層からなる配線基板用積層体2−1を作製した。銅箔上のポリイミド層の厚みは、銅箔側から順に2μm/21μm/2μmである。次に、配線基板用積層体2−1を10cm×3cmにカットした後、銅箔が9cm×2cmとなるように銅箔をエッチングし、銅箔側に10cm×3cmのカバーレイ(新日鐵化学株式会社製、商品名;エスパネックスSPC)を熱圧着して評価サンプル2−1を作製した。評価サンプル2−1の銅箔とポリイミド間の接着強度(接着強度1)は1.3kN/mであった。
【0118】
次に評価サンプル2−1に対し、オーブンでマツダ社製オートマチックトランスミッション用オイル(商品名;ATF M−III)中、150℃、250時間熱処理を行った。熱処理後の銅箔とポリイミド間の接着強度(接着強度2)を測定したところ、0.30kN/mであった。このときの銅箔側の剥離面のS濃度は5%であった。そして、150℃、1,000時間熱処理後の銅箔とポリイミド間の接着強度(接着強度3)を測定したところ、0.05kN/mであった。結果を表5に示す。
【0119】
参考例2−2
銅箔A上に合成例2−2で重合したポリアミド酸溶液bを硬化後の厚みが2μmとなるように塗布したこと以外、参考例2−1と同様の方法で配線基板用積層体2−2を得た後、評価サンプル2−2を得た。評価サンプル2−2の銅箔とポリイミド間の接着強度(接着強度1)は1.3kN/mであった。また、マツダ社製オートマチックトランスミッション用オイル(商品名;ATF M−III)中、150℃、250時間熱処理後の銅箔とポリイミド間の接着強度(接着強度2)は0.76kN/mであった。このときの銅箔側の剥離面のS濃度は1%であった。そして、150℃、1,000時間熱処理後の銅箔とポリイミド間の接着強度(接着強度3)を測定したところ、0.18kN/mであった。結果を表5に示す。
【0120】
参考例2−3
銅箔A上に合成例2−3で重合したポリアミド酸溶液cを硬化後の厚みが2μmとなるように塗布したこと以外、参考例2−1と同様の方法で配線基板用積層体2−3を得た後、評価サンプル2−3を得た。評価サンプル2−3の銅箔とポリイミド間の接着強度(接着強度1)は1.3kN/mであった。また、マツダ社製オートマチックトランスミッション用オイル(商品名;ATF M−III)中、150℃、250時間熱処理後の銅箔とポリイミド間の接着強度(接着強度2)は0.55kN/mであった。このときの銅箔側の剥離面のS濃度は5%であった。そして、150℃、1,000時間熱処理後の銅箔とポリイミド間の接着強度(接着強度3)を測定したところ、0.05kN/mであった。結果を表5に示す。
【0121】
【表5】
【0122】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはない。例えば、上記実施の形態では、本発明のポリイミドの用途として、FPCなどの回路基板の基材を例に挙げたが、上記以外の用途、例えば回路基板の配線層を覆うカバーレイフィルム本体やカバーレイフィルム用の接着剤層、テープオートメーティッドボンディング(TAB)、チップサイズパッケージ(CSP)等における接着用樹脂などにも利用できる。