(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について実施形態及び例示物等を示して詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施形態及び例示物等に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施してもよい。
また、以下の説明において、「(メタ)アクリル」とは「アクリル」及び「メタクリル」のことを意味し、「(メタ)アクリレート」とは「アクリレート」及び「メタクリレート」のことを意味する。
また、MD方向(machine direction)は、製造ラインにおけるフィルムの流れ方向であり、通常は長尺のフィルムの長尺方向に一致する方向を表す。さらに、TD方向(traverse direction)は、フィルム面に平行な方向であって、MD方向に垂直な方向であり、通常は長尺のフィルムの幅方向に一致する方向を表す。
さらに、「レターデーション」とは、別に断らない限り、面内方向のレターデーション(面内方向の位相差)のことを意味する。ここで、各測定波長における面内方向のレターデーションは、|nx−ny|×dで表される値である。また、厚み方向のレターデーションは、{|nx+ny|/2−nz}×dで表される値である。前記の式において、nxは厚み方向に垂直な方向(面内方向)であって最大の屈折率を与える方向の屈折率を表し、nyは厚み方向に垂直な方向(面内方向)であってnxの方向に垂直な方向の屈折率を表し、nzは厚み方向の屈折率を表し、dは膜厚を表す。
【0014】
[1.光学フィルム]
本発明の光学フィルムは、所定のレターデーションを有し、樹脂組成物PからなるA層及び樹脂組成物RからなるB層を有する。
【0015】
[1−1.樹脂組成物P]
樹脂組成物Pは、シンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体とポリフェニレンエーテルとを含む。通常、ポリフェニレンエーテルは正の固有複屈折値を有し、一方ポリスチレン系重合体は負の固有複屈折値を有しうる。そして、これらの混合物を延伸することにより、逆波長分散を発現することが可能となる。ここで、固有複屈折値が正であるとは、延伸方向の屈折率が延伸方向に垂直な方向の屈折率よりも大きくなることを意味する。また、固有複屈折値が負であるとは、延伸方向の屈折率が延伸方向に垂直な方向の屈折率よりも小さくなることを意味する。固有複屈折値は、誘電率分布から計算することもできる。
【0016】
[1−1−1.ポリスチレン系重合体]
ポリスチレン系重合体は、スチレン類を重合して形成される構造単位(以下、適宜「スチレン類単位」という。)を含む重合体である。スチレン類としては、スチレン及びスチレン誘導体が挙げられる。スチレン誘導体とは、例えば、スチレンのベンゼン環またはα位に置換基が置換したものが挙げられる。
スチレン類の例を挙げると、スチレン;メチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン等のアルキルスチレン;クロロスチレン等のハロゲン化スチレン;クロロメチルスチレン等のハロゲン置換アルキルスチレン;メトキシスチレン等のアルコキシスチレン;などが挙げられる。中でもスチレン類としては、置換基を有しないスチレンが好ましい。また、スチレン類は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0017】
ただし、このポリスチレン系重合体としては、シンジオタクチック構造を有するものを用いる。ここで、ポリスチレン系重合体がシンジオタクチック構造を有する、とは、ポリスチレン系重合体の立体化学構造がシンジオタクチック構造となっていることをいう。また、シンジオタクチック構造とは、炭素−炭素結合で形成される主鎖に対して、側鎖であるフェニル基が、フィッシャー投影式において、交互に反対方向に位置する立体構造のことをいう。
【0018】
ポリスチレン重合体のタクティシティー(tacticity:立体規則性)は、同位体炭素による核磁気共鳴法(
13C−NMR法)により定量されうる。
13C−NMR法により測定されるタクティシティーは、連続する複数個の構成単位の存在割合により示すことができる。一般に、例えば、連続する構成単位が2個の場合はダイアッド、3個の場合はトリアッド、5個の場合はペンタッドとなる。この場合、前記シンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体とは、ラセミダイアッドで通常75%以上、好ましくは85%以上のシンジオタクティシティーを有するか、若しくは、ラセミペンタッドで通常30%以上、好ましくは50%以上のシンジオタクティシティーを有することをいう。
【0019】
ポリスチレン系重合体の例を挙げると、ポリスチレン、ポリ(アルキルスチレン)、ポリ(ハロゲン化スチレン)、ポリ(ハロゲン化アルキルスチレン)、ポリ(アルコキシスチレン)、ポリ(ビニル安息香酸エステル)、及びこれらの水素化重合体、並びにこれらの共重合体などが挙げられる。
ポリ(アルキルスチレン)としては、例えばポリ(メチルスチレン)、ポリ(エチルスチレン)、ポリ(イソピルスチレン)、ポリ(t−ブチルスチレン)、ポリ(フェニルスチレン)、ポリ(ビニルナフタレン)、ポリ(ビニルスチレン)などが挙げられる。
ポリ(ハロゲン化スチレン)としては、例えば、ポリ(クロロスチレン)、ポリ(ブロモスチレン)、ポリ(フルオロスチレン)などが挙げられる。
ポリ(ハロゲン化アルキルスチレン)としては、例えば、ポリ(クロロメチルスチレン)などが挙げられる。
ポリ(アルコキシスチレン)としては、例えば、ポリ(メトキシスチレン)、ポリ(エトキシスチレン)などが挙げられる。
【0020】
これらのうち特に好ましいポリスチレン系重合体としては、ポリスチレン、ポリ(p−メチルスチレン)、ポリ(m−メチルスチレン)、ポリ(p−t−ブチルスチレン)、ポリ(p−クロロスチレン)、ポリ(m−クロロスチレン)、ポリ(p−フルオロスチレン)、水素化ポリスチレン、及びこれらの構造単位を含む共重合体が挙げられる。
【0021】
また、ポリスチレン系重合体は、1種類の構造単位のみを有する単独重合体であってもよく、2種類以上の構造単位を有する共重合体であってもよい。また、ポリスチレン系重合体が共重合体である場合、2種類以上のスチレン類単位を含む共重合体であってもよく、スチレン類単位とスチレン類単位以外の構造単位とを含む共重合体であってもよい。ただし、ポリスチレン系重合体がスチレン類単位とスチレン類単位以外の構造単位とを含む共重合体である場合、ポリスチレン系重合体中のスチレン類単位以外の構造単位の含有量は、本発明の効果を著しく損なわない程度に少なくすることが好ましい。具体的には、ポリスチレン系重合体におけるスチレン類単位の含有量は、通常80重量%以上、好ましくは83重量%以上、より好ましくは85重量%以上である。通常は、スチレン類単位の量をこのような範囲にすることで、製造される光学フィルムに所望のレターデーションを発現させることができる。
【0022】
ポリスチレン系重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0023】
ポリスチレン系重合体の重量平均分子量は、通常130,000以上、好ましくは140,000以上、より好ましくは150,000以上であり、通常300,000以下、好ましくは270,000以下、より好ましくは250,000以下である。このような重量平均分子量とすると、ポリスチレン系重合体のガラス転移温度を高めて、光学フィルムの耐熱性を安定して改善することができる。
【0024】
ポリスチレン系重合体のガラス転移温度は、通常85℃以上、好ましくは90℃以上、より好ましくは95℃以上である。このようにポリスチレン系重合体のガラス転移温度を高めることにより、樹脂組成物Pのガラス転移温度を効果的に高め、ひいては光学フィルムの耐熱性を安定して改善することができる。また、光学フィルムの製造を安定して容易に行う観点から、ポリスチレン系重合体のガラス転移温度は、通常160℃以下、好ましくは155℃以下、より好ましくは150℃以下である。
【0025】
シンジオタクチック構造を有するポリスチレン系重合体は、例えば、不活性炭化水素溶媒中又は溶媒の不存在下において、チタン化合物及び水とトリアルキルアルミニウムの縮合生成物を触媒として、スチレン類を重合することにより製造してもよい(特開昭62−187708号公報参照)。また、ポリ(ハロゲン化アルキルスチレン)については、例えば、特開平1−46912号公報に記載の方法により製造してもよい。さらに、これらの水素化重合体は、例えば特開平1−178505号公報記載の方法により製造してもよい。
【0026】
[1−1−2.ポリフェニレンエーテル]
ポリフェニレンエーテルは、フェニレンエーテル又はフェニレンエーテル誘導体を重合して形成される構造単位を有する重合体である。通常は、フェニレンエーテル骨格を有する構造単位(以下、適宜「フェニレンエーテル単位」という。)を主鎖に有する重合体を、ポリフェニレンエーテルとして用いる。ただし、フェニレンエーテル単位におけるベンゼン環には、本発明の効果を著しく損なわない限り、置換基を有していてもよい。
【0027】
中でも、ポリフェニレンエーテルとしては、下記式(I)で表されるフェニレンエーテル単位を含む重合体が好ましい。
【0029】
式(I)において、Q
1は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、低級アルキル基(例えば炭素数7個以下のアルキル基)、フェニル基、ハロアルキル基、アミノアルキル基、炭化水素オキシ基、または、ハロ炭化水素オキシ基(ただし、そのハロゲン原子と酸素原子とを少なくとも2つの炭素原子が分離している基)を表す。中でも、Q
1としてはアルキル基及びフェニル基が好ましく、特に炭素数1以上4以下のアルキル基がより好ましい。
【0030】
式(I)において、Q
2は、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、低級アルキル基(例えば炭素数7個以下のアルキル基)、フェニル基、ハロアルキル基、炭化水素オキシ基、または、ハロ炭化水素オキシ基(ただし、そのハロゲン原子と酸素原子とを少なくとも2つの炭素原子が分離している基)を表す。中でも、Q
2としては水素原子が好ましい。
【0031】
ポリフェニレンエーテルは、1種類の構造単位を有する単独重合体(ホモポリマー)であってもよく、2種類以上の構造単位を有する共重合体(コポリマー)であってもよい。
式(I)で表される構造単位を含む重合体が単独重合体である場合、当該単独重合体の好ましい例を挙げると、2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル単位(「−(C
6H
2(CH
3)
2−O)−」で表される構造単位)を有する単独重合体が挙げられる。
式(I)で表される構造単位を含む重合体が共重合体である場合、当該共重合体の好ましい例を挙げると、2,6−ジメチル−1,4−フェニレンエーテル単位と2,3,6−トリメチル−1,4−フェニレンエーテル単位(「−(C
6H(CH
3)
3−O−)−」で表される構造単位)と組み合わせて有するランダム共重合体が挙げられる。
【0032】
また、ポリフェニレンエーテルは、フェニレンエーテル単位以外の構造単位を含んでいてもよい。この場合、ポリフェニレンエーテルは、フェニレンエーテル単位とそれ以外の構造単位とを有する共重合体となる。ただし、ポリフェニレンエーテルにおけるフェニレンエーテル単位以外の構造単位の含有量は、本発明の効果を著しく損なわない程度に少なくすることが好ましい。具体的には、ポリフェニレンエーテルにおけるフェニレンエーテル単位の含有量は、通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上である。
【0033】
ポリフェニレンエーテルは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0034】
ポリフェニレンエーテルの重量平均分子量は、通常15,000以上、好ましくは25,000以上、より好ましくは35,000以上であり、通常100,000以下、好ましくは85,000以下、より好ましくは70,000以下である。重量平均分子量を、前記範囲の下限値以上にすることによりP1層の強度を高めることができる。また、上限値以下にすることにより、ポリフェニレンエーテルの分散性を高めてポリフェニレンエーテルとスチレン系重合体とを高いレベルで均一に混合することが可能となる。
ここで、重量平均分子量は、テトラヒドロフランを溶媒にして温度30℃でゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した、標準ポリスチレン換算の値を採用する。
【0035】
ポリフェニレンエーテルの製造方法に制限は無く、例えば、特開平11−302529号公報に記載の方法により製造してもよい。
【0036】
[1−1−3.樹脂組成物Pの成分の量比、及び任意成分]
樹脂組成物Pにおいては、ポリスチレン系重合体とポリフェニレンエーテルとの重量比は、ポリスチレン系重合体/ポリフェニレンエーテル=65/35〜55/45であることが好ましく、63.5/36.5〜56.5/43.5であることがより好ましく、62/38〜58/42であることが特に好ましい。ポリフェニレンエーテルの割合を上に述べた下限値以上にすれば、樹脂組成物Pの強度を高めることができる。また、ポリフェニレンエーテルの割合を上に述べた上限値以下とすることにより、ポリフェニレンエーテルが有する正の固有複屈折値と、ポリスチレン系重合体が有する負の固有複屈折値とがバランスされて、逆波長分散性を発現させることができる。さらに、ポリフェニレンエーテルの分散性を高めて、ポリフェニレンエーテルとスチレン系重合体とを高いレベルで均一に混合することが可能となる。
【0037】
本発明の効果を著しく損なわない限り、樹脂組成物Pは、ポリフェニレンエーテル及びポリスチレン系重合体以外の成分を含んでいてもよい。
例えば、樹脂組成物Pは、上述したポリフェニレンエーテル及びポリスチレン系重合体以外にも重合体を含んでいてもよい。ポリフェニレンエーテル及びポリスチレン系重合体以外の重合体の量は、ポリフェニレンエーテル及びポリスチレン系重合体の合計量を100重量部として、15重量部以下が好ましく、10重量部以下がより好ましく、5重量部以下が特に好ましい。
【0038】
また、例えば、樹脂組成物Pは、配合剤を含んでいてもよい。配合剤の例を挙げると、層状結晶化合物;微粒子;酸化防止剤、熱安定剤、光安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、近赤外線吸収剤等の安定剤;可塑剤:染料及び顔料等の着色剤;帯電防止剤;などが挙げられる。また、配合剤は、1種類を用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
配合剤の量は、本発明の効果を著しく損なわない範囲で適宜定めうる。例えば光学フィルムの全光線透過率を85%以上に維持できる範囲である。
【0039】
上述した中でも、配合剤としては、可撓性及び耐候性を向上させることができる点で、微粒子及び紫外線吸収剤が好ましい。
微粒子としては、例えば、二酸化ケイ素、二酸化チタン、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸ストロンチウムなどの無機粒子;ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、セルロースアセテート、セルロースアセテートプロピオネートなどの有機粒子が挙げられる。中でも、有機粒子が好ましい。
【0040】
紫外線吸収剤としては、例えば、オキシベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、サリチル酸エステル系化合物、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、アクリロニトリル系紫外線吸収剤、トリアジン系化合物、ニッケル錯塩系化合物、無機粉体などが挙げられる。好適な紫外線吸収剤の例としては、2,2’−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール)、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2,4−ジ−tert−ブチル−6−(5−クロロベンゾトリアゾール−2−イル)フェノール、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノンが挙げられ、特に好適なものとしては、2,2’−メチレンビス(4−(1,1,3,3−テトラメチルブチル)−6−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)フェノールが挙げられる。
【0041】
[1−1−4.樹脂組成物Pの物性]
樹脂組成物Pのガラス転移温度は、通常115℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは125℃以上である。樹脂組成物Pはポリフェニレンエーテル及びポリスチレン系重合体を組み合わせて含むので、ポリスチレン系重合体のみを含む樹脂と比べて、ガラス転移温度を向上させることができる。ガラス転移温度がこのように高いことにより、樹脂組成物Pの配向緩和を低減することができるので、耐熱性に優れた光学フィルムを実現できる。また、樹脂組成物Pのガラス転移温度の上限に特に制限は無いが、通常は200℃以下である。
【0042】
樹脂組成物Pは、通常、ヘイズが小さい。これは、ポリフェニレンエーテル及びポリスチレン系重合体の分散性が優れるために、ポリフェニレンエーテルとポリスチレン系重合体とを容易に混練できるからである。具体的なヘイズの範囲は、光学フィルムに求められる透明性の程度に応じて設定してもよい。例えば厚み1mmでの樹脂組成物Pのヘイズの値は、通常10%以下、好ましくは5%以下であり、理想的には0%である。
【0043】
[1−2.樹脂組成物R]
樹脂組成物Rは、スチレン−無水マレイン酸共重合体を含む。
【0044】
[1−2−1.スチレン−無水マレイン酸共重合体]
スチレン−無水マレイン酸共重合体は、スチレン類単位と、無水マレイン酸を重合して形成される構造単位(以下、適宜「無水マレイン酸単位」という。)とを含む重合体である。
スチレン−無水マレイン酸共重合体中のスチレン類単位の例としては、上で述べた、樹脂組成物P中のポリスチレンに含まれるスチレン類単位の例と同様のものを挙げることができる。但し、スチレン−無水マレイン酸共重合体中のスチレン類単位が2以上連続する場合、これがシンジオタクチック構造を有していても有していなくてもよい。樹脂組成物P中のポリスチレンに含まれるスチレン類単位と、樹脂組成物R中のスチレン−無水マレイン酸共重合体に含まれるスチレン類単位は、同じであっても異なっていてもよい。
【0045】
スチレン−無水マレイン酸共重合体におけるスチレン類単位と無水マレイン酸単位との割合は、これらの合計に対する無水マレイン酸単位の割合として、通常2重量%以上、好ましくは4重量%以上、より好ましくは6重量%以上であり、通常25重量%以下、好ましくは20重量%以下、より好ましくは15重量%以下である。無水マレイン酸単位の割合を前記範囲内とすることにより、A層とB層との親和性を高めながら、B層と他の材料との接着性をも高めることができ、その結果、容易に他の部材と強固に接着することができ、且つ容易に製造できる光学フィルムを得ることができる。
スチレン類単位及び無水マレイン酸単位の共重合の態様は特に限定されず、ブロック、ランダム、交互のいずれであってもよい。
【0046】
さらに、スチレン−無水マレイン酸共重合体は、スチレン類単位及び無水マレイン酸単位以外の構造単位を含んでいてもよい。ただし、ポリスチレン系重合体中のスチレン類単位及び無水マレイン酸単位以外の構造単位の比率は、本発明の効果を著しく損なわない程度に少なくすることが好ましく、通常15重量%以下、好ましくは10重量%以下、より好ましくは5重量%以下である。
【0047】
スチレン−無水マレイン酸共重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いるようにしてもよい。
【0048】
スチレン−無水マレイン酸共重合体の重量平均分子量は、通常130,000以上、好ましくは140,000以上、より好ましくは150,000以上であり、通常300,000以下、好ましくは270,000以下、より好ましくは250,000以下である。このような重量平均分子量とすると、スチレン−無水マレイン酸共重合体のガラス転移温度を高めて、光学フィルムの耐熱性を高めることができる。
【0049】
スチレン−無水マレイン酸共重合体のガラス転移温度は、通常85℃以上、好ましくは90℃以上、より好ましくは95℃以上である。このようにポリスチレン系重合体のガラス転移温度を高めることにより、樹脂組成物Rのガラス転移温度を効果的に高め、ひいては光学フィルムの耐熱性を高めることができる。ただし、スチレン−無水マレイン酸共重合体のガラス転移温度を過度に高くすると光学フィルムの製造が容易でなくなる可能性があるので、通常160℃以下、好ましくは155℃以下、より好ましくは150℃以下である。
【0050】
スチレン−無水マレイン酸共重合体の製造方法に制限は無く、例えば、懸濁重合法、乳化重合法、塊状重合法などにより製造できる。
【0051】
[1−2−2.樹脂組成物Rの成分の量比、及び任意成分]
樹脂組成物Rは、スチレン−無水マレイン酸共重合体に加えて、これ以外の任意の重合体を含有ことができる。例えば、樹脂組成物Rは、ポリフェニレンエーテルをさらに含有することができる。樹脂組成物Rに含まれるポリフェニレンエーテルの例としては、上で述べた、樹脂組成物Pに含まれるポリフェニレンエーテルの例と同様のものを挙げることができる。但し、樹脂組成物Pに含まれるポリフェニレンエーテルと、樹脂組成物Rに含まれるポリフェニレンエーテルは、同じであっても異なっていてもよい。
【0052】
樹脂組成物Rがポリフェニレンエーテルを含有する場合、樹脂組成物R中の、スチレン−無水マレイン酸共重合体及びポリフェニレンエーテルの合計中のポリフェニレンエーテルの割合は、好ましくは5重量%以上、より好ましくは10重量%以上であり、好ましくは25重量%以下、より好ましくは20重量%以下である。ポリフェニレンエーテルの割合を前記範囲内とすることにより、A層とB層との親和性を高めながら、且つアクリル樹脂層からの剥離性を高めすことができ、その結果、容易に製造できる光学フィルムを得ることができる。
【0053】
本発明の効果を著しく損なわない限り、樹脂組成物Rは、スチレン−無水マレイン酸共重合体及びポリフェニレンエーテル以外の成分を含んでいてもよい。
例えば、樹脂組成物Rは、上述したスチレン−無水マレイン酸共重合体及びポリフェニレンエーテル以外にも、任意の重合体を含んでいてもよい。かかる任意の重合体の量は、スチレン−無水マレイン酸共重合体及びポリフェニレンエーテルの合計量を100重量部として、15重量部以下が好ましく、10重量部以下がより好ましく、5重量部以下が特に好ましい。
【0054】
また、例えば、樹脂組成物Rは、配合剤を含んでいてもよい。配合剤の例及びその好ましい割合としては、上で述べた、樹脂組成物Pに含まれる配合剤の例と同様のものを挙げることができる。但し、樹脂組成物Pに含まれる配合剤及びその割合と、樹脂組成物Rに含まれる配合剤及びその割合とは、同じであっても異なっていてもよい。
【0055】
[1−3.A層及びB層]
本発明の光学フィルムは、樹脂組成物PからなるA層及び樹脂組成物RからなるB層を有する。本発明の光学フィルムは、A層を1層のみ有していてもよく、2層以上有していてもよい。本発明の光学フィルムはまた、B層を1層のみ有していてもよく、2層以上有していてもよい。また、A層及びB層に加えて、任意の層をさらに有していてもよい。
好ましい態様において、本発明の光学フィルムは、A層を1層有し、且つ、A層のおもて面及び裏面のそれぞれに直接接して設けられた2層のB層を有することができる。かかる層構成とすることにより、両面において他の部材との接着性を向上させることができ、且つ両面にアクリル樹脂層を設けてから剥離する工程を可能とすることができる。
【0056】
A層の厚さは、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上であり、一方好ましくは150μm以下、より好ましくは100μm以下である。かかる範囲内の厚さとすることにより、薄型でありながら且つ十分なレターデーションを有する光学フィルムとすることができる。本発明の光学フィルムがA層を複数層有する場合は、光学フィルム内の全ての層の合計厚みが、かかる範囲内であることが好ましい。
【0057】
B層は、レターデーション等の光学特性の発現に関与しうる厚さとする必要は無く、したがってA層に比べて薄い層とすることができる。具体的には、B層の厚さは好ましくは3μm以下、より好ましくは2μm以下である。このような薄い層とすることにより、光学的な特性を損ねず、且つ薄型でありながら、他の部材との接着性及びアクリル樹脂層からの剥離性に優れた光学フィルムを構成することができる。一方B層の厚さの下限は特に限定されないが、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは1μm以上としうる。本発明の光学フィルムがB層を複数層有する場合は、光学フィルム内のそれぞれの層の単独厚みが、かかる範囲内であることが好ましい。
【0058】
[1−4.光学フィルムのレターデーション]
本発明の光学フィルムは、逆波長分散性を有し、従って、波長450nmの光における入射角0°での面内レターデーションRe
450、波長550nmの光における入射角0°での面内レターデーションRe
550、および波長650nmの光における入射角0°での面内レターデーションRe
650が、Re
450<Re
550<Re
650を満足する。かかる逆波長分散性を有することにより、光学フィルムを、例えば広視野角の表示装置用等の用途に好ましく用いることができる。
【0059】
本発明の光学フィルムの、測定波長550nmにおける複屈折Δn(即ちRe
550を、フィルムの厚み(nm)で除した値)は、好ましくは0.0010以上であり、より好ましくは0.0015以上であり、一方上限は限定されないが、通常は0.0200以下である。これにより、本発明の光学フィルムの厚さを薄くすることが可能になり、1/4波長板等の光学用途に好ましく適用することができる。
【0060】
本発明の光学フィルムは、光学部材としての機能を安定して発揮させる観点から、全光線透過率が85%以上であることが好ましい。光線透過率は、JIS K0115に準拠して、分光光度計(日本分光社製、紫外可視近赤外分光光度計「V−570」)を用いて測定できる。
【0061】
本発明の光学フィルムのヘイズは、好ましくは1%以下、より好ましくは0.8%以下、特に好ましくは0.5%以下である。ヘイズを低い値とすることにより、本発明の光学フィルムを組み込んだ表示装置の表示画像の鮮明性を高めることができる。ここで、ヘイズは、JIS K7361−1997に準拠して、日本電色工業社製「濁度計 NDH−300A」を用いて、5箇所測定し、それから求めた平均値である。
【0062】
本発明の光学フィルムは、ΔYIが5以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましい。このΔYIが上記範囲にあると、着色がなく視認性が良好となる。ΔYIは、ASTM E313に準拠して、日本電色工業社製「分光色差計 SE2000」を用いて測定する。同様の測定を五回行い、その算術平均値にして求める。
【0063】
本発明の光学フィルムは、厚みのばらつきが、全面で1μm以下であることが好ましい。これにより、本発明の光学フィルムを備える表示装置の色調のばらつきを小さくできる。また、長期使用後の色調変化を均一にできるようになる。
【0064】
本発明の光学フィルムは、60℃、90%RH、100時間の熱処理によって、長尺方向及び幅方向において収縮するものであってもよいが、その収縮率は、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.3%以下である。収縮率がこのように小さいことにより、高温高湿環境下でも本発明の光学フィルムが収縮応力によって変形して、表示装置から剥離することを防止できる。
【0065】
通常、本発明の光学フィルムは、その幅方向の寸法を、例えば1000mm〜2000mmとしてもよい。また、本発明の光学フィルムは、その長尺方向の寸法に制限は無く、長尺のフィルムであることが好ましい。フィルムが「長尺」とは、その幅に対して、少なくとも5倍以上の長さを有するものをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するものをいう。長尺のフィルムは製造ラインにおいて、長尺方向に連続的に搬送しながら製造工程を行なうことができる。このため、位相差フィルムを製造する場合に、各工程の一部または全部をインラインで行うことが可能であるので、製造を簡便且つ効率的に行なうことできる。
【0066】
本発明の光学フィルムが長尺のフィルムである場合、本発明の光学フィルムは、長尺方向に対して40°以上50°以下の範囲に配向角を有することが好ましい。本発明の光学フィルムを矩形の形状のフィルム片として製品にする場合、当該矩形の辺方向に対して斜め方向に遅相軸を有するものが求められることが多い。このような場合に、配向角が長尺方向に対して40°以上50°以下の範囲にあれば、長尺の本発明の光学フィルムから矩形の製品を切り出すときに、長尺方向に対して平行又は直交する向きに辺を有する矩形のフィルム片を切り出せばよくなるので、製造効率が良く、また大面積化も容易である。
【0067】
[2.製造方法]
本発明の光学フィルムは、
(I)(i)第1のアクリル樹脂層、(ii)前記層(i)に接して設けられた、前記A層及び前記B層を含む複数の層、及び(iii)前記層(ii)に接して設けられた第2のアクリル樹脂層をこの順に有する延伸前フィルムを共押し出しにより成形し、
(II)前記延伸前フィルムを延伸して延伸積層体を得、
(III)前記延伸積層体から、延伸された層(i)及び層(iii)を剥離して、前記A層及び前記B層を含む光学フィルムを得る
ことを含む製造方法により製造しうる。以下、この製造方法(以下において単に「本発明の製造方法」という。)について説明する。
【0068】
[2−1.工程(I):延伸前フィルムの成形]
本発明の製造方法では、まず、所定の層構成を有する延伸前フィルムを共押し出しにより成形する(工程(I))。かかる延伸前フィルムは、(i)第1のアクリル樹脂層、(ii)前記A層及び前記B層を含む複数の層、及び(iii)第2のアクリル樹脂層をこの順に有し、これらの層は直接接した層として設けられている。
【0069】
層(ii)は、樹脂組成物PからなるA層及び樹脂組成物RからなるB層を含む複数の層からなり、最終的に得られる光学フィルムと同様の層構成を有する。従って、好ましい態様において、B層/A層/B層の3層からなる層構成を有する層としうる。本願においては、文脈上明らかな場合は、延伸前のものであっても延伸後のものであっても、樹脂組成物Pからなる層及び樹脂組成物Rからなる層をそれぞれ単にA層及びB層という。同様に、層(i)〜層(iii)の文言も、延伸前のもの及び延伸後のものの共通の名称として用いる。
【0070】
層(i)及び層(iii)を構成するアクリル樹脂は、アクリル重合体を含む樹脂である。アクリル重合体とは、(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリル酸誘導体の重合体を意味する。アクリル重合体としては、例えば、アクリル酸、アクリル酸エステル、アクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリル酸およびメタクリル酸エステルなどの単独重合体及び共重合体が挙げられる。アクリル樹脂は強度が高く硬いため、層(ii)を適切に保護できるので、延伸積層体の強度を高めることができる。層(i)を構成するアクリル樹脂と、層(iii)を構成するアクリル樹脂とは、同一であっても異なっていてもよい。
【0071】
アクリル重合体としては、(メタ)アクリル酸エステルを重合して形成される構造単位を含む重合体が好ましい。(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば(メタ)アクリル酸のアルキルエステルが挙げられる。なかでも、(メタ)アクリル酸と炭素数1〜15のアルカノール又はシクロアルカノールから誘導される構造のものが好ましく、炭素数1〜8のアルカノールから誘導される構造のものがより好ましい。炭素数を前記のように小さくすることにより、延伸積層体の破断時の伸びを大きくすることができる。
【0072】
アクリル酸エステルの具体例としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸i−プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸i−ブチル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−デシル、アクリル酸n−ドデシルなどが挙げられる。
【0073】
また、メタクリル酸エステルの具体例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸i−プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸i−ブチル、メタクリル酸sec−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸n−デシル、メタクリル酸n−ドデシルなどが挙げられる。
【0074】
さらに、前記の(メタ)アクリル酸エステルは、本発明の効果を著しく損なわない範囲であれば、例えば水酸基、ハロゲン原子などの置換基を有していてもよい。そのような置換基を有する(メタ)アクリル酸エステルの例としては、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、アクリル酸4−ヒドロキシブチル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸4−ヒドロキシブチル、メタクリル酸3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸グリシジルなどが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0075】
また、アクリル重合体は、(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリル酸誘導体のみの重合体であってもよく、(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリル酸誘導体とこれに共重合可能な単量体との共重合体でもよい。共重合可能な単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル以外のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体、並びに、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体、アルケニル芳香族単量体、共役ジエン単量体、非共役ジエン単量体、カルボン酸不飽和アルコールエステル、およびオレフィン単量体などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0076】
(メタ)アクリル酸エステル以外のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体の具体例としては、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、イタコン酸ジメチルなどが挙げられる。
【0077】
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体は、モノカルボン酸、多価カルボン酸、多価カルボン酸の部分エステル及び多価カルボン酸無水物のいずれでもよい。その具体例としては、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、マレイン酸モノエチル、フマル酸モノn−ブチル、無水マレイン酸、無水イタコン酸などが挙げられる。
【0078】
アルケニル芳香族単量体の具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、メチルα−メチルスチレン、ビニルトルエンおよびジビニルベンゼンなどが挙げられる。
【0079】
共役ジエン単量体の具体例としては、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン、シクロペンタジエンなどが挙げられる。
【0080】
非共役ジエン単量体の具体例としては、1,4−ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネンなどが挙げられる。
【0081】
カルボン酸不飽和アルコールエステル単量体の具体例としては、酢酸ビニルなどが挙げられる。
【0082】
オレフィン単量体の具体例としては、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテンなどが挙げられる。
【0083】
アクリル重合体が共重合可能な単量体を含む場合、当該アクリル重合体における(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリル酸誘導体を重合して形成される構造単位の含有量は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは85重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。
【0084】
また、アクリル重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
これらのアクリル重合体のうち、ポリメタクリレートが好ましく、中でもポリメチルメタクリレートがより好ましい。
【0085】
アクリル樹脂は、ゴム粒子を含んでいてもよい。ゴム粒子を含むことにより、アクリル樹脂の可撓性を高め、延伸積層体の耐衝撃性を向上させることができる。また、ゴム粒子によって層(i)及び層(iii)の表面に凹凸が形成され、当該層の表面における接触面積が減少するので、通常は、層(i)及び層(iii)の表面の滑り性を高めることができる。
【0086】
ゴム粒子を形成するゴムとしては、例えば、アクリル酸エステル重合体ゴム、ブタジエンを主成分とする重合体ゴム、エチレン−酢酸ビニル共重合体ゴム等が挙げられる。アクリル酸エステル重合体ゴムとしては、例えば、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等を単量体単位の主成分とするものが挙げられる。これらの中でも、ブチルアクリレートを主成分としたアクリル酸エステル重合体ゴム及びブタジエンを主成分とする重合体ゴムが好ましい。
【0087】
また、ゴム粒子には、2種類以上のゴムが含まれていてもよい。また、それらのゴムは、均一に混ぜ合わせられていてもよいが、層状になったものであってもよい。ゴムが層状になったゴム粒子の例としては、ブチルアクリレート等のアルキルアクリレートとスチレンとをグラフト化したゴム弾性成分からなるコアと、ポリメチルメタクリレート及びメチルメタクリレートの一方又は両方とアルキルアクリレートとの共重合体からなる硬質樹脂層(シェル)とが、コア−シェル構造で層を形成している粒子が挙げられる。
【0088】
ゴム粒子は、数平均粒子径が、0.05μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましく、また、0.3μm以下であることが好ましく、0.25μm以下であることがより好ましい。数平均粒子径を前記範囲内とすることにより、層(i)及び層(iii)の表面に適度な凹凸を形成して、延伸積層体の滑り性を向上させることができる。
【0089】
ゴム粒子の量は、アクリル重合体100重量部に対して、好ましくは5重量部以上であり、好ましくは50重量部以下である。ゴム粒子の量を前記範囲内とすることにより延伸積層体の耐衝撃性を高めてハンドリング性を向上させることができる。
【0090】
また、アクリル樹脂は、本発明の効果を著しく損なわない限り、アクリル重合体及びゴム粒子以外の成分を含んでいてもよい。例えば、アクリル重合体以外に他の重合体を含んでいてもよい。ただし、本発明の利点を顕著に発揮させる観点からは、アクリル重合体以外の重合体の量は少ないことが好ましい。アクリル重合体以外の重合体の具体的な量は、例えばアクリル重合体100重量部に対して、10重量部以下が好ましく、5重量部以下がより好ましく、3重量部以下が更に好ましい。中でも、全く含まないことが特に好ましい。
【0091】
また、アクリル樹脂は、例えば配合剤などを含んでいてもよい。配合剤の例としては、樹脂組成物Pが含んでいてもよい配合剤と同様の例が挙げられる。なお、配合剤は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。また、配合剤の量は、本発明の効果を著しく損なわない範囲で適宜定めることができる。
【0092】
アクリル樹脂のガラス転移温度は、通常90℃以上、好ましくは95℃以上、より好ましくは100℃以上であり、通常145℃以下、好ましくは140℃以下、より好ましくは135℃以下である。アクリル樹脂のガラス転移温度を前記範囲の下限値以上にすることにより樹脂ペレットを高温で乾燥する時のブロッキングを抑制できるので、水分の混入を防止でき、また、上限値以下にすることにより溶融押出で成形する際の温度を低くでき、フィルムに異物が混入することを防止できる。
【0093】
延伸前フィルムは、前記本発明の製造方法においては、共押し出しにより成形する。より具体的には、例えば、共押出Tダイ法、共押出インフレーション法、共押出ラミネーション法等の共押出成形法により成形することができる。なかでも共押出Tダイ法が好ましい。また、共押出Tダイ法にはフィードブロック方式およびマルチマニホールド方式があるが、厚さのばらつきを少なくできる点でマルチマニホールド方式が特に好ましい。また、他の方法として、ドライラミネーション等のフィルムラミネーション成形法;共流延法;及び樹脂フィルム表面に樹脂溶液をコーティングする等のコーティング成形法;などの方法により延伸前フィルムを成形することもできる。但しこれらに比べて共押出成形法は、製造効率や、延伸前フィルムに溶剤などの揮発性成分を残留させないという観点から、好ましい。
【0094】
共押出Tダイ法を採用する場合、Tダイを有する押出機における樹脂の溶融温度は、層(i)〜層(iii)を構成する材料のガラス転移温度よりも、80℃高い温度以上にすることが好ましく、100℃高い温度以上にすることがより好ましく、また、180℃高い温度以下にすることが好ましく、150℃高い温度以下にすることがより好ましい。押出機での溶融温度を前記範囲の下限値以上にすることにより樹脂の流動性を十分に高くでき、上限値以下とすることにより樹脂が劣化を防止できる。
【0095】
押出成形法ではダイスの開口部から押出されたシート状の溶融樹脂を冷却ドラムに密着させる。溶融樹脂を冷却ドラムに密着させる方法は、特に制限されず、例えば、エアナイフ方式、バキュームボックス方式、静電密着方式などが挙げられる。
冷却ドラムの数は特に制限されないが、通常は2本以上である。また、冷却ドラムの配置方法としては、例えば、直線型、Z型、L型などが挙げられるが特に制限されない。またダイスの開口部から押出された溶融樹脂の冷却ドラムへの通し方も特に制限されない。
【0096】
冷却ドラムの温度により、押出されたシート状の樹脂の冷却ドラムへの密着具合が変化する。冷却ドラムの温度を上げると密着はよくなるが、温度を上げすぎるとシート状の樹脂が冷却ドラムから剥がれずに、ドラムに巻きつく不具合が発生するおそれがある。そのため、冷却ドラムの温度は、好ましくはダイスから押し出されてドラムに接触する層の樹脂のガラス転移温度をTgとすると、(Tg+30)℃以下、さらに好ましくは(Tg−5)℃〜(Tg−45)℃の範囲にする。そうすることにより滑りやキズなどの不具合を防止することができる。
【0097】
延伸前フィルムにおける層(ii)の具体的な厚みは、十分なレターデーション及び機械的強度を得る観点からは、好ましくは10μm以上、より好ましくは50μm以上であり、柔軟性及びハンドリング性を良好にする観点からは、好ましくは800μm以下、より好ましくは600μm以下である。層(ii)内のA層及びB層の厚みは、最終的に得られる光学フィルム中の所望のA層及びB層の厚みの比率に応じて適宜決定することができる。
一方層(i)及び層(iii)の厚みは、層(ii)とは異なり、レターデーションの発現性に制限されること無く設定しうる。延引前フィルムにおける具体的な層(i)及び層(iii)のそれぞれの厚みの範囲は、通常10μm以上、好ましくは20μm以上、より好ましくは30μm以上であり、通常100μm以下、好ましくは80μm以下、より好ましくは60μm以下である。
【0098】
本発明の光学フィルムは、厚みのばらつきが、全面で1μm以下であることが好ましい。これにより、本発明の光学フィルムを備える表示装置の色調のばらつきを小さくできる。また、長期使用後の色調変化を均一にできるようになる。これを実現するには、延伸前フィルムにおいて、層(ii)の厚みのばらつきを全面で1μm以下にすればよい。層(ii)の厚みのばらつきを全面で1μm以下とするためには、例えば共押出成形法を用いる場合には、(1)押出機内に目開きが20μm以下のポリマーフィルターを設ける;(2)ギヤポンプを5rpm以上で回転させる;(3)ダイス周りに囲い手段を配置する;(4)エアギャップを200mm以下とする;(5)フィルムを冷却ロール上にキャストする際にエッジピニングを行う;および(6)押出機として二軸押出機又はスクリュー形式がダブルフライト型の単軸押出機を用いる;を行うようにしてもよい。
【0099】
層(ii)の厚みは、市販の接触式厚み計を用いて、フィルムの総厚を測定し、次いで厚み測定部分を切断し断面を光学顕微鏡で観察して、各層の厚み比を求めて、その比率より計算できる。また以上の操作をフィルムの長尺方向及び幅方向において一定間隔毎に行い、厚みの平均値T
aveおよびばらつきを求めることができる。
ここで、厚みのばらつき(μm)は、T
ave−T
min、及びT
max−T
aveのうちの大きい方をいう。また、T
aveは上記で測定した測定値の算術平均値を表し、T
maxは測定した厚みTの内の最大値を表し、T
minは最小値を表す。
【0100】
また、延伸前フィルム中の残留溶剤の含有量は少なくすることが好ましい。そのための手段としては、(1)原料となる樹脂の残留溶剤を少なくする;(2)延伸前フィルムを成形する前に樹脂を予備乾燥する;などの手段が挙げられる。予備乾燥は、例えば樹脂をペレットなどの形態にして、熱風乾燥機などで行われる。乾燥温度は100℃以上が好ましく、乾燥時間は2時間以上が好ましい。予備乾燥を行うことにより、延伸前フィルムに含まれる残留溶剤を低減させることができ、さらに押し出されたシート状の樹脂の発泡を防ぐことができる。
【0101】
[2−2.工程(II):延伸前フィルムの延伸]
本発明の製造方法では、次に、延伸前フィルムを延伸して延伸積層体を得る(工程(II))。比較的強度が低い層(ii)に接して、強度が高い層(i)及び層(iii)が設けられているので、延伸前フィルム全体の強度は高くなっている。このため、延伸による破断を生じることなく延伸前フィルムを延伸できる。また、層(ii)が層(i)及び層(iii)で保護されるため、これらの層の境界においては層(ii)の成分がブリードアウトを生じることはない。したがって、インラインで延伸積層体を安定的に製造できるので、長尺の延伸積層体の効率的な製造が可能になる。
【0102】
延伸の操作としては、例えば、ロール間の周速の差を利用して長尺方向に一軸延伸する方法(縦一軸延伸);テンターを用いて幅方向に一軸延伸する方法(横一軸延伸);縦一軸延伸と横一軸延伸とを順に行う方法(逐次二軸延伸);延伸前フィルムの長尺方向に対して斜め方向に延伸する方法(斜め延伸);等を採用してもよい。なかでも、斜め延伸を採用すると、層(ii)において通常は斜め方向に遅相軸が発現するので、長尺の位相差フィルムから矩形の製品を切り出す際の無駄が少なく、大面積の位相差フィルムを効率よく製造できるから、好ましい。ここで「斜め方向」とは、平行でもなく、垂直でもない方向を意味する。
【0103】
斜め延伸の具体的な方法の例としては、テンター延伸機を用いた延伸方法を挙げることができる。かかるテンター延伸機としては、例えば、延伸前フィルムの左右(すなわち水平に搬送される延伸前フィルムをMD方向から観察した際のフィルム幅方向両端の左右)において、異なる速度の送り力、引張り力又は引取り力を付加できるようにしたテンター延伸機が挙げられる。また、例えば、TD方向又はMD方向に左右等速度の送り力、引張り力又は引取り力を付加し左右移動する距離が同じで軌道を非直線とすることにより斜め方向の延伸を達成しうるテンター延伸機も挙げられる。さらに、例えば、移動する距離を左右で異なる距離とすることにより斜め方向の延伸を達成しうるテンター延伸機も挙げられる。
【0104】
延伸を斜め方向に行う場合、延伸前フィルムの長尺方向に対して延伸方向がなす角度が、40°以上50°以下となる方向に延伸することが好ましい。これにより、長尺方向に対して40°以上50°以下の範囲に配向角を有する位相差フィルムが得られる。ここで「配向角」とは、位相差フィルムの長尺方向と、当該位相差フィルムの面内の遅相軸とがなす角である。
【0105】
延伸する際のフィルム温度は、層Aを構成する樹脂組成物Pのガラス転移温度をTg(℃)とすると、Tg−20〜Tg+20℃であることが好ましく、Tg−15〜Tg+2℃であることがより好ましく、Tg−10〜Tg℃であることがさらに好ましい。また、延伸倍率は、例えば1.2〜3倍としてもよい。
なお、延伸の回数は、1回でもよく、2回以上であってもよい。
【0106】
また、延伸前フィルムから延伸積層体を製造する際には、上述した以外の工程を行ってもよい。
例えば、延伸される前に延伸前フィルムに対して予熱処理を施してもよい。延伸前フィルムを加熱する手段としては、例えば、オーブン型加熱装置、ラジエーション加熱装置、又は液体中に浸すことなどが挙げられる。中でもオーブン型加熱装置が好ましい。予熱工程における加熱温度は、通常は延伸温度−40℃以上、好ましくは延伸温度−30℃以上であり、通常は延伸温度+20℃以下、好ましくは延伸温度+15℃以下である。なお延伸温度とは、加熱装置の設定温度を意味する。
【0107】
また、例えば、得られた延伸積層体に対して固定化処理を施してもよい。固定処理における温度は、通常は室温以上、好ましくは「延伸温度−40℃」以上であり、通常「延伸温度+30℃」以下、好ましくは「延伸温度+20℃」以下である。
さらに、必要に応じて、延伸積層体の保護及び取り扱い性の向上のため、例えばマット層、ハードコート層、反射防止層、防汚層等の他のフィルムを貼り合せてもよい。
【0108】
かかる延伸処理により、層(ii)内の層Aにおいては、延伸されたことにより、レターデーションが発現する。この際、層Aにおいて発現したレターデーションは通常は逆波長分散性を有する。
逆波長分散性を発現する仕組みは、次の通りと推察される。波長400nm〜700nmの可視領域においては、通常、正の固有複屈折値を有するポリフェニレンエーテルの波長分散性が、負の固有複屈折値を有するポリスチレン系重合体の波長分散性よりも大きくなっている。さらに、樹脂組成物Pでは、低波長側ではポリフェニレンエーテルの配向による影響よりもポリスチレン系重合体の配向による影響がやや大きく、かつ、長波長側に向かうにつれてポリスチレン系重合体の配向による影響がより大きく現れるように、その配合等が調整されている。
ここで、延伸前フィルムを延伸することにより発現するレターデーションは、通常、ポリフェニレンエーテルが配向することにより発現するレターデーションと、ポリスチレン系重合体が配向することにより発現するレターデーションとの和になる。そうすると、前記のように長波長側に向かうにつれて、ポリスチレン系重合体の影響が大きくなるように調整してあれば、層Aにおいて逆波長分散性を発現させることができる。層Aにおいて逆波長分散性を有するレターデーションが発現するので、最終的に得られる光学フィルムにおいては、通常、Re
450<Re
550<Re
650の関係が満たされる。
【0109】
[2−3.工程(III):層(i)(iii)の剥離]
本発明の製造方法では、次に、延伸積層体から、延伸された層(i)及び層(iii)を剥離して、前記A層及び前記B層を含む光学フィルムを得る(工程(III))。
層(i)及び層(iii)と、層(ii)を構成するA層及びB層との親和性は低く、特に、層(i)及び層(iii)とB層とが直接接している場合、B層を構成する樹脂組成物Rと、層(i)及び層(iii)を構成するアクリル樹脂との親和性が低い。そのため、特に容易に剥離を行うことができる。これを利用して、A層及びB層を備える薄い光学フィルムを安定して製造することができる。
【0110】
[3.用途]
本発明に係る光学フィルムは、複屈折の高度な補償が可能なので、それ単独で用いてもよく、他の部材と組み合わせて用いてもよい。例えば液晶表示装置、有機エレクトロルミネッセンス表示装置、プラズマ表示装置、FED(電界放出)表示装置、SED(表面電界)表示装置などに適用してもよい。
【0111】
液晶表示装置は、通常、光源側偏光板、液晶セル及び視認側偏光板がこの順に配置された液晶パネルと、液晶パネルに光を照射する光源とを備える。位相差フィルムとしての光学フィルムを、例えば液晶セルと光源側偏光板との間、液晶セルと視認側偏光板との間などに配置することで、液晶表示装置の視認性を大幅に向上できる。
【0112】
液晶セルの駆動方式としては、例えば、インプレーンスイッチング(IPS)モード、バーチカルアラインメント(VA)モード、マルチドメインバーチカルアラインメント(MVA)モード、コンティニュアスピンホイールアラインメント(CPA)モード、ハイブリッドアラインメントネマチック(HAN)モード、ツイステッドネマチック(TN)モード、スーパーツイステッドネマチック(STN)モード、オプチカルコンペンセイテッドベンド(OCB)モードなどが挙げることができる。
【0113】
液晶表示装置において、位相差フィルムとしての光学フィルムは液晶セルまたは偏光板に貼り合わせるようにしてもよい。また、光学フィルムは、2枚の偏光板のそれぞれに貼り合わせるようにしてもよい。さらに、光学フィルムを2枚以上用いるようにしてもよい。貼り合わせには接着剤を用いてもよい。
偏光板は、例えば、偏光子とその両面に貼り合わせられた保護フィルムとからなるものを用いてもよい。この際、保護フィルムに代えて位相差フィルムとしての本発明の光学フィルムを偏光子に直接貼り合せ、光学補償フィルム及び保護フィルムの両方の機能を有する層として用いてもよい。かかる構成をとることにより、保護フィルムが省略されて、液晶表示装置の薄型化、軽量化、低コスト化に貢献することができる。
【0114】
さらに、例えば、位相差フィルムとしての光学フィルムと円偏光フィルムとを組み合わせて輝度向上フィルムとし、この輝度向上フィルムを液晶表示装置に設けてもよい。
【実施例】
【0115】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施してもよい。
また、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り重量基準である。
さらに、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。
【0116】
以下の実施例及び比較例において、諸物性の評価は、以下の通り行った。
【0117】
(ガラス転移温度の測定方法)
示差走査熱量計(セイコーインストルメンツ社製EXSTAR6220)を用いて、20℃/分で昇温することにより、樹脂組成物のガラス転移温度を測定した。
【0118】
(Re
450、Re
550、Re
650の測定方法)
AXOMETRICS社製AxoScanを用いて、測定波長450nmでの面内方向のレターデーションRe
450(単位:nm)、測定波長550nmでの面内方向のレターデーションRe
550、および測定波長650nmでの面内方向のレターデーションRe
650を、それぞれ測定した。
【0119】
(複屈折Δnの測定方法)
上述したRe
550を、フィルムの厚み(nm)で除したものをΔnとした。
【0120】
(接着性の測定方法)
フィルム表面にコロナ処理を放電量300W/m
2/分で施した後、JIS R3257に従い水の接触角を測定し、接着性の指標とした。接触角が小さいほど接着性に優れる。なお接触角測定に際し、水滴の量は3μlとした。
【0121】
[製造例1:スチレン−無水マレイン酸共重合体R1の製造]
撹拌機を付した完全混合型反応器、塔式プラグフロー型反応器、及び予熱器を付した脱揮槽を直列に接続して製造装置を構成した。スチレン90重量部、無水マレイン酸10重量部、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−シクロヘキサン0.02重量部、及びn−ドデシルメルカプタン0.2重量部を混合し原料溶液とした。この原料溶液を温度130℃に制御した完全混合型反応器に導入し、180rpmで攪拌した。次いで完全混合型反応器より反応液を連続的に抜き出し、流れの方向に向かって温度130℃から160℃の勾配がつくように調整した塔式プラグフロー型反応器に導入した。この反応液を予熱器で加温しながら、温度235℃、圧力1.0kPaに制御した脱揮槽に導入し、未反応単量体等の揮発分を除去し、樹脂液を得た。この樹脂液をギアポンプで抜き出し、ストランド状に押出し切断することにより、スチレン−無水マレイン酸共重合体R1を製造した。得られたスチレン−無水マレイン酸共重合体R1は、スチレン単位92重量%、無水マレイン酸単位8重量%を有してい。また、スチレン−無水マレイン酸共重合体R1のガラス転移温度は、110℃であった。
【0122】
[実施例1]
(1−1.樹脂組成物P1の製造)
シンジオタクチックポリスチレン樹脂(出光興産社製「ザレック130ZC」)60重量部と、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンオキサイド)(アルドリッチ社カタログNo.18242−7)40重量部とを、2軸押出機で混練し、透明な樹脂組成物P1のペレットを作製した。得られた樹脂組成物P1のガラス転移温度は132℃であった。
【0123】
(1−2.樹脂組成物R2の製造)
スチレン−無水マレイン酸共重合体R1の80重量部と、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンオキサイド)20重量部とを、2軸押出機で混錬し、透明な樹脂組成物R2のペレットを作製した。得られた樹脂組成物R2のガラス転移温度は130℃であった。
【0124】
(1−3.共押出:延伸前フィルム1の製造)
3種5層の共押出成形用のフィルム成形装置を準備し、樹脂組成物P1のペレットを第1の一軸押出機に、樹脂組成物R2のペレットを第2の一軸押出機に、ゴム粒子を含有したポリメチルメタクリレート樹脂(住友化学社製スミペックスHT55X)を第3の一軸押出機に投入して、溶融させた。
【0125】
溶融された260℃の樹脂組成物P1、樹脂組成物R2、及びポリメチルメタクリレート樹脂を、それぞれ、目開き10μmのリーフディスク形状のポリマーフィルターを通した後、マルチマニホールドダイ(ダイスリップの表面粗さRa:0.1μm)の第1、第2、及び第3のマニホールドに供給した。
【0126】
樹脂組成物P1、樹脂組成物R2、およびポリメチルメタクリレート樹脂を該マルチマニホールドダイから260℃で同時に押し出して、ポリメチルメタクリレート樹脂層/樹脂組成物R2のB層/樹脂組成物P1のA層/樹脂組成物R2のC層/ポリメチルメタクリレート樹脂層からなる5層構成のフィルム状にした。該フィルム状溶融樹脂を表面温度120℃に調整された冷却ロールにキャストし、次いで表面温度50℃に調整された2本の冷却ロール間に通して延伸前フィルム1を得た。この延伸前フィルム1は、ポリメチルメチルメタクリレート層(厚み60μm)/樹脂組成物R2のB層(厚み2μm)/樹脂組成物P1のA層(厚み120μm)/樹脂組成物R2のC層(厚み2μm)/ポリメチルメチルメタクリレート層(厚み60μm)からなる5層構成を有し、幅1350mmで、かつ厚み244μmの、光学フィルム製造用の積層体である。
【0127】
(1−4.光学フィルムの製造及び評価)
次いで、延伸前フィルム1をテンター延伸機で、遅相軸がMD方向に対して45°傾いた方向になるように斜め延伸した。延伸時の温度は、樹脂組成物P1のガラス転移温度である132℃とし、延伸倍率は2.0倍とした。延伸後に表裏のポリメチルメタクリレート層を剥離し、樹脂組成物R2のB層(厚み1μm)/樹脂組成物P1のA層(厚み60μm)/樹脂組成物R2のC層(厚み1μm)からなる3層構成を有し、厚さ62μmの長尺の光学フィルムを得た。
得られた光学フィルムの配向を確認したところ、遅相軸はMD方向に対して45°傾いていた。また、得られた光学フィルムについて、上述した要領で面内方向のレターデーションRe
450、Re
550及びRe
650、並びに接着力を測定した。結果を表1に示す。
【0128】
[実施例2]
以下の点を変更した以外は、実施例1と同様にして、光学フィルムを得た。
・工程(1−2)の樹脂組成物R2の製造において、共重合体R1の割合を90重量部に、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンオキサイド)の割合を10重量部に変更した。
・工程(1−3)の共押出において押し出される各層の厚みを変更し、その結果工程(1−4)で得られる光学フィルムの各層の厚みを、樹脂組成物R2のB層(厚み2μm)/樹脂組成物P1のA層(厚み60μm)/樹脂組成物R2のC層(厚み2μm)とした。
【0129】
得られた光学フィルムの配向を確認したところ、遅相軸はMD方向に対して45°傾いていた。また、得られた光学フィルムについて、上述した要領で面内方向のレターデーションRe450、Re550及びRe650、並びに接着力を測定した。結果を表1に示す。
【0130】
[実施例3]
以下の点を変更した以外は、実施例1と同様にして、光学フィルムを得た。
・工程(1−1)の樹脂組成物P1の製造において、シンジオタクチックポリスチレン樹脂の割合を62重量部に、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンオキサイド)の割合を38重量部に変更した。
【0131】
得られた光学フィルムの配向を確認したところ、遅相軸はMD方向に対して45°傾いていた。また、得られた光学フィルムについて、上述した要領で面内方向のレターデーションRe450、Re550及びRe650、並びに接着力を測定した。結果を表1に示す。
【0132】
[比較例1]
(Cp1−1.共押出:延伸前フィルムCp1の製造)
2種3層の共押出成形用のフィルム成形装置を準備し、実施例1の工程(1−1)と同様にして得た樹脂組成物P1のペレットを第1の一軸押出機に、ゴム粒子を含有したポリメチルメタクリレート樹脂(住友化学社製スミペックスHT55X)を第2の一軸押出機に投入して、溶融させた。
【0133】
溶融された260℃の樹脂組成物P1、及びポリメチルメタクリレート樹脂を、それぞれ、目開き10μmのリーフディスク形状のポリマーフィルターを通した後、マルチマニホールドダイ(ダイスリップの表面粗さRa:0.1μm)の第1及び第2のマニホールドに供給した。
【0134】
樹脂組成物P1、およびポリメチルメタクリレート樹脂を該マルチマニホールドダイから260℃で同時に押し出して、ポリメチルメタクリレート樹脂層/樹脂組成物P1のA層/ポリメチルメタクリレート樹脂層からなる3層構成のフィルム状にした。該フィルム状溶融樹脂を表面温度120℃に調整された冷却ロールにキャストし、次いで表面温度50℃に調整された2本の冷却ロール間に通して延伸前フィルムCp1を得た。この延伸前フィルムCp1は、ポリメチルメチルメタクリレート層(厚み60μm)/樹脂組成物P1のA層(厚み120μm)/ポリメチルメチルメタクリレート層(厚み60μm)からなる3層構成を有し、幅1350mmで、かつ厚み240μmの光学フィルム製造用の積層体である。
【0135】
(Cp1−2.光学フィルムの製造及び評価)
次いで、延伸前フィルムCp1をテンター延伸機で、遅相軸がMD方向に対して45°傾いた方向になるように斜め延伸した。延伸時の温度は、樹脂組成物P1のガラス転移温度である132℃とし、延伸倍率は2.0倍とした。延伸後に表裏のポリメチルメタクリレート層を剥離し、樹脂組成物P1のA層のみからなる、厚さ60μmの長尺の光学フィルムを得た。
得られた光学フィルムの配向を確認したところ、遅相軸はMD方向に対して45°傾いていた。また、得られた光学フィルムについて、上述した要領で面内方向のレターデーションRe
450、Re
550及びRe
650、並びに接着力を測定した。結果を表1に示す。
【0136】
[比較例2]
以下の点を変更した以外は、実施例1と同様にして、光学フィルムを得た。
・工程(1−1)の樹脂組成物P1の製造において、シンジオタクチックポリスチレン樹脂の割合を65重量部に、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンオキサイド)の割合を35重量部に変更した。
【0137】
得られた光学フィルムの配向を確認したところ、遅相軸はMD方向に対して45°傾いていた。また、得られた光学フィルムについて、上述した要領で面内方向のレターデーションRe450、Re550及びRe650、並びに接着力を測定した。結果を表1に示す。
【0138】
[比較例3]
以下の点を変更した以外は、実施例1と同様にして、光学フィルムを得た。
・工程(1−1)の樹脂組成物P1の製造において、シンジオタクチックポリスチレン樹脂の割合を52重量部に、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンオキサイド)の割合を48重量部に変更した。
【0139】
得られた光学フィルムの配向を確認したところ、遅相軸はMD方向に対して45°傾いていた。また、得られた光学フィルムについて、上述した要領で面内方向のレターデーションRe450、Re550及びRe650、並びに接着力を測定した。結果を表1に示す。
【0140】
[比較例4]
以下の点を変更した以外は、実施例1と同様にして、光学フィルムを得た。
・工程(1−1)の樹脂組成物P1の製造において、シンジオタクチックポリスチレン樹脂65重量部に代えて、ポリスチレン(PSジャパン社製「HH102」)75重量部を用い、且つ、ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンオキサイド)の割合を25重量部に変更した。
【0141】
得られた光学フィルムの配向を確認したところ、遅相軸はMD方向に対して45°傾いていた。また、得られた光学フィルムについて、上述した要領で面内方向のレターデーションRe450、Re550及びRe650、並びに接着力を測定した。結果を表1に示す。
【0142】
【表1】
【0143】
表1において、略語はそれぞれ以下のものを示す。
SPS:シンジオタクチックポリスチレン樹脂(出光興産社製「ザレック130ZC」)
PPE:ポリ(2,6−ジメチル−1,4−フェニレンオキサイド)(アルドリッチ社カタログNo.18242−7)
SMA:製造例1で製造したスチレン−無水マレイン酸共重合体R1
GPPS:ポリスチレン(PSジャパン社製「HH102」)
【0144】
表1に示す結果より、本発明の要件を満たす実施例1〜3の光学フィルムは、良好な逆波長分散、高いΔn値及び良好な接着性を有していた。これに対し、B層及びC層を欠く比較例1の光学フィルムは、接着性に劣るものであった。A層におけるシンジオタクチックポリスチレン樹脂の含有割合が高すぎる比較例2の光学フィルムでは、逆波長分散を得られなかった。A層におけるシンジオタクチックポリスチレン樹脂の含有割合が低すぎる比較例3の光学フィルムでは、Δnの値が急激に低下し、逆波長分散を得られなかった。A層がシンジオタクチックポリスチレン樹脂を含有しない比較例4の光学フィルムでは、極めて低いレターデーションしか得られず、薄く且つレターデーションの大きい光学フィルムとすることができなかった。