(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬法として、硫酸を用いた高圧酸浸出法(High Pressure Acid Leach)が注目されている。この方法は、従来の一般的なニッケル酸化鉱石の製錬方法である乾式製錬法と異なり、還元及び乾燥工程等の乾式工程を含まず、一貫した湿式工程からなるので、エネルギー的及びコスト的に有利である。また、この方法では、ニッケル品位を50質量%程度まで上昇したニッケルとコバルトを含む硫化物(以下、「ニッケル・コバルト混合硫化物」又は「Ni・Co混合硫化物」ともいう。)を得ることができるという利点を有している。
【0003】
この高圧酸浸出法を用いたニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法は、ニッケル酸化鉱石を所定の大きさに粉砕等してスラリーとする鉱石処理工程と、鉱石スラリーに硫酸を添加して高温高圧下で浸出処理を施す(高圧酸)浸出工程と、浸出スラリーを多段洗浄する前に中和(以下、「予備中和」ともいう。)処理を施す予備中和工程と、予備中和処理を施して得られた浸出スラリーを多段洗浄しながら、浸出残渣とニッケル及びコバルトと共に不純物元素を含む浸出液とに固液分離する固液分離工程(以下、「CCD工程」ともいう。)と、得られた浸出液のpHを調整して不純物元素を含む中和澱物を分離し、ニッケル及びコバルトと共に亜鉛を含む中和終液を得る中和工程と、中和終液に硫化剤を添加することで亜鉛硫化物を形成して分離しニッケル回収用母液を得る脱亜鉛工程と、ニッケル回収用母液に硫化剤を添加することでニッケル及びコバルトを含む混合硫化物を形成させるニッケル回収工程と、ニッケル回収工程における排液(ろ液)やCCD工程の残渣を混合して中和処理を施す最終中和工程とを有する(例えば、特許文献1を参照。)。
【0004】
このように、ニッケル酸化鉱石からニッケルを回収する高圧酸浸出を利用した湿式製錬方法では、浸出工程で発生した浸出残渣や硫化工程にてニッケルを混合硫化物として回収した後のろ液は最終中和工程にて中和され、無害化された状態で系外に排出される。
【0005】
湿式製錬方法では、ニッケル酸化鉱石にニッケル以外にマグネシウム、アルミニウム、鉄等の不純物が含有されており、浸出工程においてニッケルと共に浸出液に分配される。ここで、湿式工程では、ニッケルをより効率的に浸出するために浸出液中の遊離硫酸の濃度を管理している。浸出液には、50g/l程度の遊離硫酸が含まれている。ニッケルは、浸出工程の後工程である硫化工程を経て混合硫化物として回収される。ろ液には、マグネシウム等の不純物が含有されている。これらの浸出残渣やろ液は、最終中和工程へ送られ、遊離硫酸を完全に中和し、不純物を水酸化物として固定した後、テーリングダム(廃棄物貯留場)へ移送され、テーリングダムから完全に無害化した上澄みが排水される。
【0006】
この最終中和工程は、撹拌機を有した複数の中和処理槽を直列に繋ぎ、第1槽目に浸出残渣やろ液を入れ、同時に石灰石を投入することでpHを約5〜6に調整し、残存する遊離硫酸を中和したり、鉄等の水酸化物を沈殿させる。
【0007】
次に、第1槽から排出されたスラリーを第2槽目に供給し、ここで第2槽に消石灰を投入し、pHを約9に調整することでMg等の残りの不純物を沈殿除去する。その後、十分な攪拌と反応を行うため、第3槽から第4槽へ連続的に供給する。そして、スラリーは、最終的に第4槽からテーリングダムへと供給する。このように最終中和工程では、第1槽及び第2槽でそれぞれ目的達成pHの異なる中和剤を添加することで段階的に中和、不純物の固定化を行っている。
【0008】
しかしながら、最終中和工程に送られた浸出残渣やろ液を含むスラリーに含まれる不純物品位は、ニッケル酸化鉱石の不純物品位に大きく影響を受ける。特に高圧酸浸出工程にてニッケル処理量を上昇させるためにニッケル品位の高い鉱石を使用した場合には、Mg等の不純物品位も上昇する。また、ニッケル酸化鉱石種の変更によって急激に不純物品位が変動することがある。このような場合には、最終中和工程でのpH管理や不純物濃度を一定に管理することが困難となり、テーリングダムへの排出を停止せざるを得なくなり、前工程の負荷を落とす事態が生じる。そのため、不純物品位が急上昇した場合には、最終中和工程での中和剤の添加量の調整が追いつかなくなるため、分析値とpHを監視しながら中和剤の過剰添加状態を維持することで、前もって不純物品位の変動に対応するといった操業操作が行われている。そのため、最終中和工程では、中和剤の使用量が増え、理論値に対する実績値の比(以下、原単位という)が大きくなってしまう。そこで、最終中和工程では、効率的な中和剤の使用方法が求められている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係るニッケル酸化鉱石の湿式製錬における中和方法について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0017】
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬における中和方法は、ニッケル酸化鉱石を高圧酸浸出による湿式製錬において発生した湿式残渣やニッケル回収後のろ液を湿式製錬プラント外に排出するために最終的に中和する最終中和工程における中和方法である。
【0018】
まず、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬について説明する。ニッケル酸化鉱石の湿式製錬は、例えば高圧酸浸出法(HPAL法)を用いて、ニッケル酸化鉱石からニッケル及びコバルトを浸出させて回収する湿式製錬方法である。
【0019】
図1に、ニッケル酸化鉱石の高圧酸浸出法による湿式製錬方法の工程(プロセス)の一例を示す。
図1に示すように、ニッケル酸化鉱石のスラリーに硫酸を添加して高温高圧下で浸出処理を施す浸出工程S1と、得られた浸出スラリーのpHを所定範囲に調整する予備中和を行う予備中和工程S2と、pH調整された浸出スラリーを多段洗浄しながら残渣を分離して、ニッケル及びコバルトと共に不純物元素を含む浸出液を得る固液分離工程S3と、浸出液のpHを調整し、不純物元素を含む中和澱物を分離してニッケル及びコバルトと共に亜鉛を含む中和終液を得る中和工程S4と、中和終液に硫化剤を添加することで亜鉛硫化物を生成させ、その亜鉛硫化物を分離除去してニッケル及びコバルトを含むニッケル回収用母液を得る脱亜鉛工程S5と、ニッケル回収用母液に硫化剤を添加することでニッケル及びコバルトを含む混合硫化物を形成するニッケル回収工程S6とを有する。さらに、この湿式製錬方法では、固液分離工程S3にて分離された浸出残渣やニッケル回収工程S6にて排出されたろ液を回収して無害化する最終中和工程S7を有する。
【0020】
(1)浸出工程
浸出工程S1では、ニッケル酸化鉱石に対して、例えば高圧酸浸出法を用いた浸出処理を施す。具体的には、原料となるニッケル酸化鉱石を粉砕等して得られた鉱石スラリーに硫酸を添加し、220〜280℃の高い温度条件下で加圧することによって鉱石スラリーを攪拌し、浸出液と浸出残渣とからなる浸出スラリーを形成する。
【0021】
浸出工程S1で用いるニッケル酸化鉱としては、主としてリモナイト鉱及びサプロライト鉱等のいわゆるラテライト鉱である。ラテライト鉱のニッケル含有量は、通常、0.8〜2.5重量%であり、水酸化物又はケイ苦土(ケイ酸マグネシウム)鉱物として含有される。また、鉄の含有量は、10〜50重量%であり、主として3価の水酸化物(ゲーサイト)の形態であるが、一部2価の鉄がケイ苦土鉱物に含有される。また、浸出工程S1では、このようなラテライト鉱の他に、ニッケル、コバルト、マンガン、銅等の有価金属を含有する酸化鉱石、例えば深海底に賦存するマンガン瘤等が用いられる。
【0022】
この浸出工程S1における浸出処理では、下記式(1)〜(3)で表される浸出反応と下記式(4)及び(5)で表される高温熱加水分解反応が生じ、ニッケル、コバルト等の硫酸塩としての浸出と、浸出された硫酸鉄のヘマタイトとしての固定化が行われる。ただし、鉄イオンの固定化は完全には進行しないため、通常、得られる浸出スラリーの液部分には、ニッケル、コバルト等の他に2価と3価の鉄イオンが含まれる。
【0023】
・浸出反応
MO+H
2SO
4→MSO
4+H
2O ・・・(1)
(なお、式中Mは、Ni、Co、Fe、Zn、Cu、Mg、Cr、Mn等を表す。)
2Fe(OH)
3+3H
2SO
4→Fe
2(SO
4)
3+6H
2O
・・・(2)
FeO+H
2SO
4→FeSO
4+H
2O ・・・(3)
【0024】
・高温熱加水分解反応
2FeSO
4+H
2SO
4+1/2O
2→Fe
2(SO
4)
3+H
2O
・・・(4)
Fe
2(SO
4)
3+3H
2O→Fe
2O
3+3H
2SO
4 ・・・(5)
【0025】
浸出工程S1における硫酸の添加量としては、特に限定されるものではなく、鉱石中の鉄が浸出されるような過剰量が用いられる。なお、浸出工程S1では、後工程の固液分離工程S3で生成されるヘマタイトを含む浸出残渣の濾過性の観点から、得られる浸出液のpHが0.1〜1.0にとなるように調整することが好ましい。
【0026】
(2)予備中和工程
予備中和工程S2では、浸出工程S1にて得られた浸出スラリーのpHを所定範囲に調整する。上述した高圧酸浸出法による浸出処理を行う浸出工程S1では、浸出率を向上させる観点から過剰の硫酸を加えるようにしている。そのため、得られた浸出スラリーにはフリー硫酸(浸出反応に関与しなかった余剰の硫酸、以下遊離硫酸ともいう)が含まれており、そのpHは非常に低い。このことから、予備中和工程S2では、次工程の固液分離工程S3における多段洗浄時に効率よく洗浄が行われるように、浸出スラリーのpHを所定の範囲に調整する。
【0027】
具体的に、洗浄処理に供する浸出スラリーとしては、そのpHを2〜6程度に調整したものであることが好ましい。pHが2より低いと、後工程の設備を耐酸性とするためのコストが必要となる。一方で、pHが6より高いと、浸出液(スラリー)中に浸出したニッケルが、洗浄の過程で(沈殿して)残渣として残るようになって洗浄効率が低下する可能性がある。
【0028】
pHの調整方法としては、特に限定されないが、例えば炭酸カルシウムスラリー等の中和剤を添加することによって所定の範囲に調整することができる。
【0029】
(3)固液分離工程
固液分離工程S3では、予備中和工程S2にて得られたpH調整後の浸出スラリーを多段で洗浄しながら、ニッケル及びコバルトのほか不純物元素として亜鉛を含む浸出液(粗硫酸ニッケル水溶液)と浸出残渣とを分離する。
【0030】
固液分離工程S3では、例えば、浸出スラリーを洗浄液と混合した後、凝集剤供給設備等から供給される凝集剤を用いて、シックナー等の固液分離設備により固液分離処理を施す。具体的には、先ず、浸出スラリーが洗浄液により希釈され、次に、スラリー中の浸出残渣がシックナーの沈降物として濃縮される。これにより、浸出残渣に付着するニッケル分をその希釈の度合いに応じて減少させることができる。
【0031】
この固液分離工程S3では、シックナー等の固液分離槽を多段に連結させて用い、浸出スラリーを多段洗浄しながら固液分離をすることが好ましい。具体的に、多段洗浄方法としては、例えば、浸出スラリーに対して洗浄液を向流に接触させる連続向流洗浄法(CCD法:Counter Current Decantation)を用いることができる。これにより、系内に新たに導入する洗浄液を削減できるとともに、ニッケル及びコバルトの回収率を95%以上に向上させることができる。
【0032】
洗浄液(洗浄水)としては、特に限定されないが、ニッケルを含まず、工程に影響を及ぼさないものを用いることが好ましい。その中でも、pHが1〜3の水溶液を用いることが好ましい。洗浄液のpHが高いと、浸出液中にアルミニウムが含まれる場合には嵩の高いアルミニウム水酸化物が生成され、浸出残渣の沈降不良の原因となる。このことから、洗浄液としては、好ましくは、後工程であるニッケル回収工程S6で得られる低pH(pHが1〜3程度)のろ液を繰り返して利用するとよい。
【0033】
使用する凝集剤としては、特に限定されるものではなく、例えばアニオン系の凝集剤を用いることができる。
【0034】
(4)中和工程
中和工程S4では、固液分離工程S3にて分離された浸出液(粗硫酸ニッケル水溶液)のpHを調整し、不純物元素を含む中和澱物を分離して、ニッケル及びコバルトと共に亜鉛を含む中和終液を得る。
【0035】
具体的に、中和工程S4では、分離された浸出液の酸化を抑制しながら、得られる中和終液のpHが4以下、好ましくは3.0〜3.5、より好ましくは3.1〜3.2になるように、その浸出液に炭酸カルシウム等の中和剤を添加して、中和終液と不純物元素として3価の鉄を含む中和澱物スラリーとを形成する。中和工程S4では、このようにして溶液中に残留する3価の鉄イオンやアルミニウムイオン等の不純物を中和澱物として除去し、ニッケル回収用母液の元となる中和終液を生成する。
【0036】
(5)脱亜鉛工程
脱亜鉛工程S5では、中和工程S4から得られた中和終液に硫化水素ガス等の硫化剤を添加して硫化処理を施すことにより亜鉛硫化物を生成させ、その亜鉛硫化物を分離除去してニッケル及びコバルトを含むニッケル回収用母液(脱亜鉛終液)を得る。
【0037】
具体的には、例えば、加圧された容器内にニッケル及びコバルトと共に亜鉛を含む中和終液を導入し、気相中へ硫化水素ガス等を吹き込むことによって、亜鉛をニッケル及びコバルトに対して選択的に硫化し、亜鉛硫化物とニッケル回収用母液とを生成する。
【0038】
(6)ニッケル回収工程
ニッケル回収工程S6では、脱亜鉛工程S5にて不純物元素である亜鉛を亜鉛硫化物として分離除去して得られたニッケル回収用母液に硫化水素ガス等の硫化剤を吹き込んで硫化反応を生じさせ、ニッケル及びコバルトを含む硫化物(ニッケル・コバルト混合硫化物)とろ液とを生成する。
【0039】
ニッケル回収用母液は、浸出工程S1から中和工程S4及び脱亜鉛工程S5を経て不純物成分が低減された硫酸溶液である。なお、このニッケル回収用母液には、不純物成分として鉄、マグネシウム、マンガン等が数g/L程度含まれている可能性があるが、これら不純物成分は、回収するニッケル及びコバルトに対して硫化物としての安定性が低く、生成する硫化物には含有されることはない。
【0040】
(7)最終中和工程
最終中和工程S7は、上述した固液分離工程S3から移送された遊離硫酸を含む浸出残渣と、ニッケル回収工程S6から移送されたマグネシウムやアルミニウム、鉄等の不純物を含むろ液の中和を行う。最終中和工程S7とは、湿式製錬プロセスから外部にスラリーを廃棄するために行う中和であり、湿式製錬プロセスの最後に行う中和工程のことをいう。浸出残渣やろ液は、中和剤によって所定のpH範囲に調整され、廃棄スラリー(テーリング)となる。この反応槽にて生成されたテーリングは、テーリングダム(廃棄物貯留場)に移送される。
【0041】
具体的に、最終中和工程S7では、浸出残渣に含まれる遊離硫酸を完全に中和し、ろ液に含まれる不純物を水酸化物として固定し、不純物の水酸化物を含むスラリーをテーリングダムに排出する。
【0042】
最終中和工程S7は、上述した固液分離工程S3から移送された遊離硫酸を含む浸出残渣と、ニッケル回収工程S6から移送されたマグネシウムやアルミニウム、鉄等の不純物を含むろ液を含むスラリーに石灰石を添加して硫酸を中和し、一部の不純物の水酸化物を生成する第1の中和工程と、第1の中和工程で発生した炭酸ガスをスラリーから除去するガス除去工程と、ガス除去工程後のスラリーに消石灰を添加して残りの不純物の水酸化物を生成する第2の中和工程とを有する。
【0043】
最終中和工程S7では、例えば
図2に示すような中和処理装置1により浸出残渣及びろ液を中和処理する。具体的に、中和処理装置1は、複数の中和処理槽2〜5が単一の系列で接続されている。
【0044】
第1の中和処理槽2は、単一の系列のうち最初の中和処理槽である。第1の中和処理槽2は、中和処理の対象となる浸出残渣やろ液が供給され、浸出残渣やろ液を含むスラリーに石灰石を添加して、残存している遊離硫酸を中和し、鉄等の不純物の水酸化物を沈殿させる第1の中和工程を行う槽である。第1の中和処理槽2は、上部に浸出残渣やろ液を槽内に供給及び中和剤を供給する供給口が設けられている。また、第1の中和処理槽2には、圧縮空気を槽内に供給するための空気供給口が設けられている。
【0045】
第2の中和処理槽3は、第1の中和処理槽2で石灰石が添加されたスラリーが送り込まれ、遊離硫酸の中和反応及び鉄等の水酸化物の生成、沈殿を完全に終わらせ、かつ中和反応により発生した炭酸ガスを除去するガス除去工程を行うための槽である。
【0046】
第1の中和処理槽2と第2の中和処理槽3は、互いの上端部で例えばオーバーフロー樋やオーバーフロー管6等により接続され、第1の中和処理槽2から第2の中和処理槽3にスラリーが供給される。オーバーフロー管6には、第2の中和処理槽3に供給されるスラリーのpHを測定するためのpH計が設けられている。最終中和工程S7では、第2の中和処理槽3に供給されるスラリーのpHを測定し、そのpH値から供給されるスラリー中の炭酸ガスの有無を推定することができる。また、第2の中和処理槽3には、図示しないが、第2の中和処理槽3中に収容されたスラリーのpHを測定するpH計が設けられている。最終中和工程S7では、第2の中和処理槽3で十分に第1の中和反応を進行させることができるため、石灰石を添加した後の安定状態のpHを確認することができる。これにより、第2の中和処理槽3では、石灰石を過剰に添加する必要がなく、石灰石の使用量を削減することができる。したがって、第2の中和処理槽3では、槽内のスラリーのpHを管理する。
【0047】
第3の中和処理槽4は、第2の中和処理槽3で第1の中和反応及びガス除去工程が完了したスラリーが供給される。第3の中和処理槽4は、スラリーに消石灰が添加され、マグネシウム等の残りの不純物の水酸化物を生成、沈殿する第2の中和工程を行う槽である。第2の中和処理槽3と第3の中和処理槽4は、互いの上端部で例えばオーバーフロー管7等により接続され、第2の中和処理槽3から第3の中和処理槽4にスラリーが供給される。オーバーフロー管7には、第3の中和処理槽4に供給されるスラリーのpHを測定するためのpH計が設けられている。最終中和工程S7では、第3の中和処理槽4に供給されるスラリーのpHを測定することで、そのpH値からスラリー中の炭酸ガスが除去されているか否かを確認することができる。
【0048】
第4の中和処理槽5は、第3の中和処理槽4で残りの不純物の水酸化物が生成されたスラリーが供給される。第3の中和処理槽4と第4の中和処理槽5は、互いの上端部で例えばオーバーフロー管8等により接続され、第3の中和処理槽4から第4の中和処理槽5にスラリーが供給される。第4の中和処理槽5では、スラリー中の不純物の水酸化物を沈殿させる。スラリーは、第4の中和処理槽5からテーリングダムに排出される。テーリングダムへスラリーを排出するためのポンプ9と第4の中和処理槽5との間には、テーリングダムに排出するスラリーのpHを測定するpH計が設けられている。最終中和工程S7では、排出されるスラリーのpHを測定し、環境への影響がないpHであることを確認する。例えば、pHは、9.0以下である。
【0049】
第1の中和処理槽2乃至第4の中和処理槽5は、下部に圧縮空気を槽内に供給するための空気供給口が設けられている。また、これらの中和処理槽2乃至5は、大きさや形状等は特に限定されず、湿式製錬で一般に使用される中和処理槽を使用することができる。
【0050】
図2に示す中和処理装置1を用いた中和処理方法について、より詳細に説明する。最終中和工程S7では、先ず、第1の中和処理槽2にて第1の中和工程を行う。第1の中和工程は、浸出残渣やろ液を第1の中和処理槽2に投入し、中和剤として石灰石スラリーを添加してpHを例えば5.5程度のスラリーに調整する。第1の中和工程では、第1の中和処理槽2にて浸出工程S1で生じた遊離硫酸を中和し、鉄等の不純物の一部を水酸化物として生成、沈殿させる。この第1の中和工程では、中和反応により炭酸ガスが発生する。第1の中和工程は、第1の中和処理槽2において完全に終わらせる必要があるが、pH5.5近辺では緩衝によりpHの上昇が遅くなる。このため、第1の中和工程では、pHを上昇させるために石灰石を過剰に添加することが好ましい。また、第1の中和工程では、酸化還元電位を上昇させるために、圧縮空気等の気体を第1の中和処理槽2に吹き込むことが好ましい。なお、圧縮空気等の気体の吹き込み量は適宜決定する。
【0051】
そして、第1の中和処理槽2中のスラリーがオーバーフロー管6を介して第2の中和処理槽3に供給される。第2の中和処理槽3では、中和剤を添加しない。第1の中和処理槽2から第2の中和処理槽3に供給される際には、第1の中和処理槽2の出口で炭酸ガスの発泡が続いている。これは、過剰に添加した石灰石の未反応のものが残存し、第1の中和処理槽2の出口においても硫酸の中和反応が生じているからである。硫酸の中和反応が未完了であることは、第1の中和処理槽2から第2の中和処理槽3に供給されるスラリーのpHを測定することによっても推定できる。このため、第2の中和処理槽3には、中和剤を添加せずに、硫酸中和反応及び一部の不純物の沈殿を完全に完了させる。すなわち、第2の中和処理槽3では、硫酸中和反応を完了させ、スラリーから炭酸ガスを除去するガス除去工程を行う。
【0052】
従来のように、第1の中和処理槽2にて石灰石スラリーで中和した後、第2の中和処理槽3に消石灰スラリーを添加した場合には、消石灰が炭酸ガスと接触することにより下記の式(6)に示すように石灰化が生じてしまう。消石灰が石灰化した場合には、第2の中和処理槽3において消石灰を有効に利用することができず、不純物の中和沈殿除去が不十分となってしまう。一方、本発明を適用した最終中和工程S7では、第2の中和処理槽3に消石灰スラリーを添加せず、第2の中和処理槽3で第1の中和工程を完了させている。最終中和工程S7では、第3の中和処理槽4に消石灰スラリーを添加することで、消石灰の石灰化を防止でき、消石灰を無駄にすることがない。
Ca(OH)
2+CO
2+H
2O→CaCO
3+2H
2O ・・・(6)
【0053】
ガス除去工程では、例えば第2の中和処理槽3に圧縮空気等の気体を導入して炭酸ガスの曝気を促進させて効率良く炭酸ガスを除去することが好ましい。圧縮空気等の気体の吹き込み量は、炭酸ガスが除去できる程度の吹き込み量となるように適宜決定する。
【0054】
次に、最終中和工程S7では、第2の中和処理槽3で第1の中和反応が完了したスラリーをオーバーフロー管7を介して第3の中和処理槽4に供給する。第3の中和処理槽4では、スラリーに中和剤として消石灰スラリーを添加してpHを例えば9.0程度に調整する。pHの調整は、第2の中和処理槽3と第3の中和処理槽4との間に設けられたpH計でスラリーのpHを測定し、第3の中和処理槽4に投入されるスラリーのpHにより、pH9.0となるように消石灰スラリーを投入する。最終中和工程S7では、第3の中和処理槽4にてスラリー中のマグネシウムやアルミニウム等の他の不純物を水酸化物として除去する第2の中和工程を行う。
【0055】
第2の中和工程では、硫酸中和反応が第2の中和処理槽3にて完了しているため、第3の中和処理槽4では炭酸ガスの発生が抑えられており、消石灰スラリーを第3の中和処理槽4に添加しても消石灰が石灰化することを防止できる。これにより、第2の中和工程では、消石灰を有効に利用でき、効率的に消石灰を中和に寄与させることができ、消石灰を予め過剰に添加しておく必要がなく消石灰の原単位を削減できる。
【0056】
第2の中和工程では、酸化還元電位を上昇させるために、圧縮空気等の気体を第3の中和処理槽4に吹き込むことが好ましい。圧縮空気等の炭酸ガスを含む気体を吹き込む場合には、吹き込んだ炭酸ガスにより消石灰が石灰化しないようにするため、吹き込み量を少なくすることが好ましい。
【0057】
第4の中和処理槽5は、第3の中和処理槽4からスラリーがオーバーフロー管8を介して供給される。第4の中和処理槽5では、不純物の水酸化物を完了させる。そして、不純物の水酸化物を含むスラリーは、ポンプ9で汲み取られ、テーリングダムに排出される。
【0058】
以上のような最終中和工程S7では、石灰石を利用した第1の中和工程後に続けて消石灰を添加せずに、スラリー中の炭酸ガスを除去するガス除去工程を挟むことにより、消石灰が炭酸ガスにより石灰化することを防ぐことができる。これにより、最終中和工程S7では、添加した消石灰をほとんど全て有効に利用でき、効率的に消石灰を中和反応に寄与させることができ、過剰に添加しなくても硫酸及び不純物の除去能力が損なわれない。その結果、最終中和工程S7では、不純物の品位が変動した場合でも中和剤を過剰に添加することを抑制でき、中和剤の使用量を削減することができるため中和剤の原単位を低減することができる。
【0059】
また、最終中和工程S7では、ガス除去工程において圧縮空気等の気体をスラリーに吹き込むことにより硫酸の中和反応により発生した炭酸ガスを効率良くスラリーから除去でき、消石灰と炭酸ガスとの接触をより抑制できる。これにより、最終中和工程S7では、添加した消石灰をより有効に利用することができ、過剰に添加していた従来よりも少ない添加量で不純物を十分に除去することができる。
【0060】
更に、最終中和工程S7では、石灰石を添加した後、第2の中和処理槽3で十分に第1の中和反応を進行させることができるため、石灰石を添加した後の安定状態のpHを確認することができる。これにより、最終中和工程S7では、従来のような中和剤の過剰添加を抑制でき、石灰石の添加量を従来よりも削減できる。
【0061】
以上のように、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬では、浸出工程S1で発生した湿式残渣やニッケル回収後のろ液を含むスラリーを最終中和工程S7にて石灰石と消石灰で中和する際に、過剰に添加せずに、適量添加した消石灰を効率良く利用することができる。また、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬では、第2の中和処理槽3にて石灰石を添加した後の安定状態のpHを確認することができるため、石灰石の添加量を削減できる。したがって、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬では、中和剤の原単位を低く抑えることができる。
【実施例】
【0062】
本発明を適用した実施例について説明する。なお、本発明は、下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0063】
操業例1及び操業例2では、
図2に示すような第1の中和処理槽乃至第4の中和処理槽を用いて中和処理を行った。操業例1及び操業例2は、ニッケル酸化鉱石の日々の操業において使用するニッケル酸化鉱石に含まれる不純物の品位は常に変動する。このため、操業例1及び操業例2では、消石灰を添加する中和処理槽を第2の中和処理槽から第3の中和処理槽に変更する前後における原単位を正確に比較した。即ち、理論原単位に対する実績原単位の比を用いて評価した。
【0064】
ここで、石灰石の理論原単位とは、高圧酸湿式工程から排出された湿式残渣及びニッケル回収工程から排出されたろ液中の鉄、アルミニウム、ケイ素を中和するために必要な石灰石量を生産量(ニッケルコバルト混合硫化物の量)で割った数値とする。消石灰の理論原単位とは、鉄等以外のマグネシウムやマンガン等の残りの不純物を完全に除去するために必要な消石灰量を生産量(ニッケルコバルト混合硫化物の量)で割った数値と定義する。
【0065】
<操業例1>
操業例1では、先ず、第1の中和処理槽に浸出残渣及びろ液を投入し、槽内のスラリーに石灰石スラリーを添加し、遊離硫酸の中和と鉄等の不純物を水酸化物として沈殿させた。
【0066】
次に、操業例1では、スラリーを第2の中和処理槽に送り、しばらくした後、第3の中和処理槽に送った。
【0067】
次に、操業例1では、第3の中和処理槽に消石灰スラリーを添加して、残りの不純物の水酸化物を沈殿させた。なお、操業例1を実施例1とする。
【0068】
<操業例2>
操業例2では、
図3に示すように、5月26日から8月14日までは第1の中和処理槽に石灰石を添加し、第2の中和処理槽に消石灰を添加した。そして、操業例2では、各中和処理槽に吹き込み、吹き込む圧縮空気のバランスを
図3に示すように調整したこと以外は操業例1と同様にして中和を行った。
【0069】
そして、8月14日から9月23日までは第1の中和処理槽に石灰石を添加し、第3の中和処理槽に消石灰を添加し、各中和処理槽に吹き込む圧縮空気のバランスを
図3に示すように調整したこと以外は操業例1と同様にして中和を行った。8月14日から9月23日までは、8月14日より前と比べて第2の中和処理槽に吹き込み量を多くし、第3の中和処理槽に吹き込む吹き込み量を少なくしている。なお、ここでは、5月26日から8月14日までを比較例とし、8月14日から9月23日までを実施例2とする。
【0070】
操業例2では、消石灰の添加する中和処理槽の変更と圧縮空気の調整を段階的に行い、変更及び調整の前後での操業における理論原単位に対する実績原単位の比率を求めた。
【0071】
以下の表1に、実施例1、2及び比較例の原単位についてまとめた。
【0072】
【表1】
【0073】
表1に示す結果から、実施例1は、比較例と比べて石灰石及び消石灰の平均原単位が小さくなり、平均原単位が好転した。また、実施例2では、各中和処理槽に吹き込む圧縮空気のバランスを調整した場合、比較例と比べて石灰石の平均原単位は実施例1ほどではないが好転し、消石灰の平均原単位は大きく好転した。
【0074】
一方、比較例のように、第1の中和処理槽に石灰石を添加し、第2の中和処理槽に消石灰を添加した場合には、消石灰が石灰化し、消石灰としての機能が十分に発揮しなかったと考えられる。