【実施例】
【0124】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0125】
〔実施例1:トサカノリからのポリペプチド(MPL)の単離〕
(抽出液の調製および硫安沈殿)
九州西岸にて採集したトサカノリ(Meristotheca papulosa (Montagne) J. Agardh)の凍結藻体500gを液体窒素下で粉末とした。これに500mlの20mM PBSA(Phosphate-buffered saline sodium azide;0.02%アジ化ナトリウム入り20mM PBS;pH7.0)を加え、4℃で一晩撹拌した後、遠心分離を行なって一次抽出液を得た。残渣を700mlの20mM PBSAで同様に抽出し、二次抽出液を得た。両抽出液を合一し、UV280nmの吸収および凝集活性を測定した。
【0126】
上記抽出液に硫安粉末を20%飽和となるように少しずつ撹拌しながら加え、この混合液を4℃で一晩静置した。これを遠心分離(8500rpm、30分間)して得られた沈殿を、PBSAに溶解後、同溶媒に対し十分透析した。透析終了後、内液を遠心分離し、得られた上清を20%飽和硫安塩析沈殿画分とした。一方、20%飽和硫安塩析処理で得られた上清に、硫安粉末を60%飽和となるように加え、同様に処理して、20〜60%飽和硫安塩析沈殿画分を得た。当該画分につき、UV280nmの吸収および凝集活性を測定した。
【0127】
(疎水クロマトグラフィー)
上記20〜60%飽和硫安塩析沈殿画分106mlのうち、10mlについて、20mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.0)に対して透析を行ない、内液6mlを得た。得られた内液を遠心分離(10,000 rpm、10分間)して上清を回収した。得られた上清5mlを同緩衝液で平衡化したHiPrep Phenyl FFカラム(16×100mm, Vt=20 ml)に注入し、20mMトリス−塩酸緩衝液,pH7.0(溶媒A)と、蒸留水(溶媒B)の2液を用いる濃度勾配法により溶出した。濃度勾配[溶媒B100%(10分)、溶媒:B0%−溶媒A100%(10−60分)、溶媒A100%(60−110分)]は、グラジェントプログラマー(CCPコントローラー、東ソー社製)を用いて設定し、流速は4ml/分とした。溶出液は5mlずつ分取し、UV280nmの吸光度を測定するとともに凝集活性を測定した。
【0128】
(ゲルろ過)
疎水クロマトグラフィーで分取した活性画分を合一し、限外濾過により5mlに濃縮した。そのうち1mlを、0.3 M NaCl を含む20mM PB (pH 7.0)で平衡化したTSKgel G3SWxLゲルろ過カラム(東ソー社製、7.8 x 300 mm、Vt=14.7 ml)に供した。20mMトリス−塩酸緩衝液(pH 7.0)を用いて流速1ml/minで溶出した。溶出液は1mlずつ分取し、各フラクションのUV280nmの吸光度および凝集活性を測定した。
【0129】
(凝集活性の検討)
赤血球凝集活性は、マイクロタイター法を用いて測定した。生理食塩水にて調製した各精製画分溶液の2倍段階希釈液、各25μlをマイクロタイタープレート上に作製した。各希釈液に2%赤血球浮遊液25μlを加えて軽く撹拌し、室温で1.5時間静置後、凝集能を観察した。凝集能は肉眼で判定し、赤血球の50%以上が凝集している場合を陽性とした。凝集活性は、赤血球凝集活性(力価)、すなわち凝集活性を示す最大希釈液の希釈倍数の逆数、および凝集素価(力価)、すなわち凝集活性を示す最大希釈液のタンパク質の濃度(最小凝集濃度)で示した。
【0130】
本実施例においては、赤血球としてトリプシン処理ウサギ赤血球(TRBC)を用いた。なお、赤血球浮遊液の調製は次のように行なった。まず、実験室で飼育中のウサギの耳から血液2mlを採取し、これを約50mlの生理食塩水で3回洗浄後、50mlの生理食塩水を加えて2%のウサギ赤血球浮遊液を調製した。これに1/10容の0.5%トリプシン−生理食塩水を加え、37℃で1.5時間静置した。このトリプシン処理赤血球を生理食塩水で3回洗浄後、45mlの生理食塩水を加え、トリプシン処理2%ウサギ赤血球浮遊液(TRBC)とした。
【0131】
トリプシン処理ウサギ赤血球(TRBC)に対する凝集活性成分を検討したところ、表1に示すように、上記抽出液、上記20〜60%飽和硫安塩析沈殿画分、上記疎水クロマトグラフィーによって得られた画分、および上記ゲルろ過によって得られた画分に強い赤血球凝集活性が検出された。
【0132】
【表1】
【0133】
表1中、「タンパク質濃度」は、「a」を付したものについてはUV280nmの吸収(A
280)を測定し、A
280(1mg/ml)=1.0より算出した。「b」を付したものについてはUV280nmの吸収(A
280)を測定し、本発明にかかるポリペプチドのアミノ酸配列から求めた分子吸光係数を用いてA
280(1mg/ml)=0.97より算出した。
【0134】
(SDS−PAGE)
上記ゲルろ過で得られた凝集活性を有する画分(精製画分)をSDS−PAGE(10%ゲル)に供した。結果を
図3に示す。レーン1は分子量マーカー、レーン2は20〜60%飽和硫安塩析沈殿画分(非還元下)、レーン3は20〜60%飽和硫安塩析沈殿画分(還元下)、レーン4は上記精製画分(非還元下)、レーン5は上記精製画分(還元下)を示す。なお、タンパク染色はCBB(Coomassie brilliant blue R-250)染色を行なった。
【0135】
SDS−PAGEの結果、精製画分は、還元下で14kDaの、非還元下で26kDaの単一バンドを与えるものであることが確認されたことから、同一サブユニット(14kDa)がジスルフィド結合(S−S結合)した2量体からなると推定される。以上のように、上記抽出液を硫安塩析、疎水クロマトグラフィーおよびゲルろ過に順次供した精製過程により最終的に0.4mgの精製画分が得られた。表1に示す収量6mgは藻体500g(湿重量)当たりに換算した値である。本発明者らは、当該精製画分を「MPL」と命名した。
【0136】
なお、本発明者は、上記MPLは、上記20〜60%飽和硫安塩析沈殿画分を陰イオン交換クロマトグラフィーに供することによって効果的に調製できることも確認した。陰イオン交換クロマトグラフィーによって、トサカノリに含まれる他のレクチン(MPAと称する)と上記MPLとを効果的に分離することができる。
【0137】
上記陰イオン交換クロマトグラフィーの条件を以下に示す。
【0138】
MPAとMPLの両レクチンを同時に精製することを意図して、先に調製した20〜60%飽和硫安塩析沈殿画分を、HiPrep QXL 16/10カラム(φ1.6×10 cm、Vt = 20 ml、GE Healthcare社)を用いる陰イオン交換クロマトグラフィーに供した。
【0139】
すなわち、上記カラムを0.02M トリス−塩酸緩衝液(pH 8.0)で平衡化し、20〜60%飽和硫安塩析沈殿画分5mlを添加した。カラムを上記緩衝液で十分洗浄した後、上記緩衝液中0M〜1M NaClの濃度勾配で溶出した。流速は5ml/minとした。洗浄液は10mlずつ、濃度勾配溶出液は5mlずつ分取した。
【0140】
各フラクションにつき、A280吸光度および赤血球凝集活性を測定した。赤血球凝集活性が見られた画分は、還元下SDS-PAGEに付した。その結果より、各フラクションを5つの画分に分けた。各画分につき、Folin-Lowry法によるタンパク質量の測定および赤血球凝集活性試験に供した。
【0141】
その結果、両レクチンはカラムに吸着し、MPAは0.37M NaCl付近、MPLは0.57M NaCl付近にそれぞれ活性ピークとして溶出した。このように、陰イオンクロトマトグラフィーを用いることにより、20〜60%飽和硫安塩析沈殿画分に混在する2種類のレクチン、MPA(29kDa)とMPL(26kDa)とを分離することができる。
【0142】
〔実施例2:MPLのcDNAのクローニング〕
以下に示すように、実施例1で得られた精製画分「MPL」の14kDaサブユニットの23N末端アミノ酸配列を、プロテインシーケンサー(Procise 492HT, Applied Biosystems)を用いてGVVDQLIVTYSDGTRVSHGQPGS(配列番号12)と決定した。当該配列の情報を参考に縮重プライマーを設計した。別途調製したトサカノリ由来1st strand cDNA溶液を鋳型にRapid Amplification of cDNA Ends(RACE)法を行うことにより、MPLのcDNAの全長塩基配列 949bpを明らかにした。
【0143】
まず、MPLの上記23N末端のアミノ酸配列を参考にして、MPL_d_R1およびMPL_d_R2の各プライマーを作製した。
【0144】
MPL_d_R1の塩基配列は、CCRTGISWIACICKIGTICCRTC(配列番号3)であり、MPL_d_R2の塩基配列は、TAIGTIACDATIARYTGRTC(配列番号4)である。ここで、DはG、AまたはTを、Iはイノシンを、KはGまたはTを、RはAまたはGを、YはCまたはTを、WはAまたはTを示すIUBコードである。
【0145】
RNAlater 中に−20℃で保存したトサカノリ藻体より Plant RNA Isolation Reagent(Life Technologies Corp.)を用いて全RNAを抽出後、NucleoTrap mRNA(Macherey-Nagel)によりmRNAを精製し、さらに GeneRacer Kit(Life Technologies Corp.)により完全長cDNAを調製した。
【0146】
次に、上記完全長cDNAを鋳型に GeneRacer_5'_Primer および MPL_d_R1のプライマーペアを用いてPCRを行った。GeneRacer_5'_Primer の塩基配列はCGACTGGAGCACGAGGACACTGA(配列番号5)である。
【0147】
上記PCRにより得られた産物の100倍希釈溶液を鋳型に、GeneRacer_5’_Nested_PrimerおよびMPL_d_R2のプライマーペアを用いてNested PCRを行った。GeneRacer_5’_Nested_Primerの塩基配列は、GGACACTGACATGGACTGAAGGAGTA(配列番号6)である。
【0148】
得られたNested PCRの産物を低融点アガロースにより精製後、pGEM-T Easy Vector System(PROMEGA製)を用いてサブクローニングを行い、得られたクローンから精製プラスミドを回収して、ダイデオキシ法により塩基配列の決定を行った(以上5’RACE)。
【0149】
得られた塩基配列に基づいて新たにプライマーMPL_F1を作製した。MPL_F1の塩基配列はTGTAGCAGCCATGTCTTTGC(配列番号7)である。
【0150】
上記完全長cDNAを鋳型として、MPL_F1およびGeneRacer_3’_Primerのプライマーペアを用いてPCRを行った。得られた増幅産物を低融点アガロースにより精製後、pGEM-T Easy Vector System(PROMEGA製)を用いてサブクローニングを行い、得られたクローンから精製プラスミドを回収して、ダイデオキシ法により塩基配列の決定を行った(以上、3’RACE)。
【0151】
GeneRacer_3’_Primerの塩基配列はGCTGTCAACGATACGCTACGTAACG(配列番号8)である。
【0152】
上記5’RACEおよび3’RACEから明らかとなったMPL cDNAの5’および3’末端配列から作製したMPL_5'_End_FおよびMPL_3'_End_Rのプライマーペア、ならびに高正確性DNAポリメラーゼを用いてPCRを行い、増幅産物につき塩基配列を決定することで、MPL cDNAの全長塩基配列を確認した。
【0153】
MPL_5'_End_Fプライマーの塩基配列はAATCCACATTCAACTGCACTG(配列番号9)であり、MPL_3'_End_Rプライマーの塩基配列はAAATCGACGCACACAGAAGTC(配列番号10)である。
【0154】
MPLのcDNAの全長塩基配列、およびその演繹アミノ酸配列を
図1に示す。
図1において、星印は終止コドン、破線はシグナルペプチド(SignalP 3.0を用いて予測)、実線は実施例1で得られた精製画分「MPL」の14kDaサブユニットの23N末端配列を示す。
【0155】
演繹アミノ酸配列の解析から、
図1に示すcDNAは、シグナルペプチド領域22残基(1−22)を含め、計198残基をコードすることがわかった。一方、演繹アミノ酸配列の解析から、
図1に示すcDNAは、プロペプチド領域74残基(23−96)および成熟タンパク質領域102残基(97−198)をコードすると考えられたが、後述する実施例6においてさらに詳細に検討したところ、成熟タンパク質領域は53番目−198番目の146アミノ酸残基であることが分かった。
【0156】
〔実施例3:MPLの糖結合特異性〕
MPLの糖結合特異性を赤血球凝集阻止試験により明らかにした。本赤血球凝集阻止試験には、実施例1で調製した20〜60%飽和硫安塩析沈殿画分および実施例1で調製したMPLを供試し、これらの赤血球凝集活性(力価4)を阻止する糖化合物を検索した。
【0157】
赤血球凝集阻止試験は以下のようにして行った。まず生理食塩水にて調製した糖溶液の2倍段階希釈液、各25μlをマイクロタイタープレート上に作製した。なお、使用した糖類の原液の濃度は単糖類および二糖類の場合は100mM、糖タンパク質の場合は2mg/mlとした。これに、それぞれ凝集素価(力価)4に調整した上記飽和硫安塩析沈殿画分の溶液およびMPL溶液、各25μlを加えて軽く撹拌後、室温で1.5時間静置した。これに25μlのTRBCを加え、室温で2時間静置後、凝集阻止能を観察した。
【0158】
凝集阻止能の有無は肉眼で判定し、赤血球の約100%が凝集していない場合を陽性とした。凝集阻止能(凝集阻止活性)は、最小阻止濃度すなわち凝集阻止能を示す最小濃度(mMまたはμg/ml)で表示した。結果を表2に示した。表2において、「最小凝集阻止濃度」は、上述の力価4の検液の赤血球凝集活性を阻止する糖化合物の最小濃度を表し、「NT」は未測定であることを表す。
【0159】
【表2】
【0160】
表2に示すように、本赤血球凝集阻止試験には、単糖類および二糖類としてD−グルコース(表中Glcと表示。以下、糖の名称に続く括弧内には、表2に示した略称を記載する。)、D−マンノース(Man)、D−ガラクトース(Gal)、N−アセチル−D−グルコサミン(GlcNAc)、N−アセチル−D−ガラクトサミン(GalNAc)、N−アセチルノイラミン酸(NeuAc)、L−フコース(Fuc)、D−キシロース(Xyl)、L−ラムノース(Rha)、ラクトースを用いた。
【0161】
糖タンパク質としては、複合型糖鎖を含有するものとして、トランスフェリン、アシアロトランスフェリンを用いた。また、高マンノース型糖鎖を含有する糖タンパク質として、イーストマンナンを用い、複合型糖鎖および高マンノース型糖鎖を含有する糖タンパク質として、ブタチログロブリン、アシアロブタチログロブリンを用いた。
【0162】
表2から明らかなように、MPLの赤血球凝集活性は供試した単糖類および二糖類では阻止されず、高マンノース型糖鎖を含む糖タンパク質、並びに、複合型糖鎖および高マンノース型糖鎖を含む糖タンパク質によってのみ阻止された。このように、MPLは従来公知のレクチンとの配列相同性が非常に低く、かつ、高マンノース型糖鎖に高い親和性を有することが示された。
〔実施例4:エイズウイルスの表面糖タンパク質・gp120とMPLとの相互作用〕
HIVの宿主への感染は、HIVの表面糖タンパク質であるgp120と宿主リンパ細胞の表面レセプターCD4との相互作用により成立する。該相互作用にはgp120の高マンノース型糖鎖が不可欠である。そのため、高マンノース型糖鎖に特異的に結合するレクチンはHIV感染の有力な阻害剤となりうる。
【0163】
そこで、MPLと市販品のリコンビナント糖付加HIV-1 IIIB gp120 (バキュロウイルス;1分子あたり15本の高マンノース型糖鎖を有する。ImmunoDiagnostics製)との相互作用を表面プラズモン共鳴(SPR)法を用いて定量解析した。SPR法にはBIAcore2000(GE Healthcare社製)を用いて、リコンビナント糖付加HIV-1 IIIB gp120をCM5センサーチップ(GE Healthcare社製)上に固定化し、MPLの溶液をアナライトとして用いて、マニュアルに従って測定、解析した。
【0164】
上記固定化はマニュアルに従って行った。具体的には、アミンカップリング法を用いて固定化を行った。なお、固定化量は300〜400RUの範囲になるよう、マニュアルインジェクション法によって調整した。
【0165】
SPR法では、生体分子を標識することなく、生体分子間の特異的な相互作用を微量かつ短時間で定量的に測定できる。本法では、リガンドをセンサーチップ表面上に固定化し、これに作用する物質(アナライト)を含む溶液を添加すると、分子の結合・解離により生ずる微量の質量変化がSPRシグナルの変化として検出される。
【0166】
質量変化はレゾナンスユニット(RU)で表され、1000RUは共鳴による反射角度0.1°の変化に相当し、アナライトがリガンドに 1 ng/mm
2 結合したことを意味する。センサーチップ表面の金薄膜上にはデキストランがコーティングされており、主としてこのデキストラン内に導入されたカルボキシル基を介してリガンドを固定化する。
【0167】
MPLと上記リコンビナントgp120とのSPR法による親和性解析に先立ち、予備実験で解析法を検討し、非線形最小二乗法によるカイネティクス解析が適当と判断した。そこで、得られたセンサーグラムからおおよそのK
D値を算出し、0.1〜10K
D[M]を濃度の目安として、2倍希釈列で5段階以上のアナライト(MPL)溶液を調製した。
【0168】
分析プログラムの作成には、マニュアルに従って“Customaized Application”を用い、センサーチップ内の4つのフローセルのうち、何も固定化していないフローセル1をコントロールとして、リコンビナントgp120を固定化したフローセルからの差し引き機能を使用した。本分析プログラム下で、アナライト(MPL)溶液をそれぞれセンサーチップ上に流速30μl/minで3分間流した後、バッファーを3分間流し、レクチンの結合・解離量を測定した。なお、アナライト添加開始後5秒から添加終了5秒前までのRUの増加量を結合量、バッファー添加開始後10秒から添加終了10秒前までのRU減少量を解離量とした。
【0169】
次に、100mM HClおよび100mM NaOHを用いて、センサーチップを洗浄して再生した。得られたセンサーグラムについて、結合相と解離相を同時にカーブフィッティングさせ、結合速度定数ka、解離速度定数kd、親和定数K
A、および解離定数K
Dを算出した。
【0170】
結果を
図2に示す。
図2のAは固定化したgp120とMPLとの相互作用のセンサーグラムであり、
図2のBはgp120とMPLとの親和定数を示す。
図2のBには、結合速度定数Ka(M
-1s
-1)、解離速度定数Kd(s
-1)、親和定数K
A(M
-1)、および解離定数K
D(M)を示した。なお親和定数は、その値が大きくなればなるほど、親和性が高い(結合力が強い)ことを意味する。
【0171】
図2に示すように、MPLはgp120に強い親和性(K
D= 4.50×10
-9 M)を持つことが認められた。このことから、MPLは、従来公知のレクチンとの配列相同性が非常に低い上に、HIVのgp120と宿主リンパ細胞のCD4との相互作用を十分に阻害できるといえる。それゆえ、MPLは新たな抗HIV剤として有望である。
【0172】
また、実施例3に示したように、MPLは高マンノース型糖鎖に高い親和性を有する。そのため、MPLは抗HIV剤として有望である。また、高マンノース型糖鎖を有する糖タンパク質が宿主のレセプターと結合することによって感染するタイプのウイルスに対しても有力な感染阻害剤となりうる。
【0173】
〔実施例5:MPLのさらなる精製〕
(実施例5−1:陰イオン交換クロマトグラフィーによるトサカノリレクチンの精製)
実施例1で述べたように、MPAとMPLとの分離に陰イオン交換クロマトグラフィーが有用であることが判明したので、陰イオン交換クロマトグラフィーによる精製についてさらなる検討を行い、精製方法を改良した。
【0174】
実施例1で調製した20〜60%飽和硫安塩析沈殿画分68mlを、20mMのトリス塩酸緩衝液(pH8.0)(以下、当該緩衝液を「TB」と称する)で平衡化したHiPrep QXL 16/10カラム(φ1.6×10 cm、Vt = 20 ml、GE Healthcare社)に添加し、カラムをTBで十分洗浄後、TB中0.2Mおよび1M NaClで順次、段階的に溶出した(ステップワイズ溶出)。その結果、活性成分は0.2M NaCl溶出画分に認められた。
【0175】
図4は、20〜60%飽和硫安塩析沈殿画分を、HiPrep QXL 16/10カラムを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー(ステップワイズ溶出)に供した結果を示す図である。
【0176】
図4中、横軸はフラクション番号であり、縦軸は左側が280nmの吸光度を表し、右側が赤血球凝集活性(力価)を表す。図中、当該吸光度測定結果を丸印で示し、赤血球凝集活性(力価)の測定結果を三角印で示した。
【0177】
括弧書き数字1は、上記カラムに20〜60%飽和硫安塩析沈殿画分を添加し、非吸着成分を洗浄後、TB中0.2M NaClにより吸着成分の溶出を開始した位置を示している。括弧書き数字2は、上記溶出後、TB中1M NaClにより他の吸着成分の洗浄を開始した位置を示している。
【0178】
図4に示すように、赤血球凝集活性成分は0.2M NaCl溶出画分に認められた。この赤血球凝集活性成分(粗レクチン画分)70mlを、TBで平衡化したHiPrep QXL 16/10カラムに添加し、カラムをTBで洗浄後、TB中NaClの濃度勾配(0〜0.2M)で溶出させた(グラジエント溶出法)。
【0179】
溶出液は280nmの吸光度をモニターするとともに、2mlずつ分取し、各画分の赤血球凝集活性を測定した。
図5は、上記粗レクチン画分を、HiPrep QXL 16/10カラムを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー(グラジエント溶出)に供した結果を示す図である。
図5に実線で示すように、上記溶出液は、凝集活性を示す3つのタンパク質のピークに分離した。
【0180】
図5において、横軸はフラクション番号である。左側の縦軸は280nmの吸光度を表し、吸光度の測定結果は実線で示されている。右側の縦軸では、「HA」が赤血球凝集活性(力価)を表し、赤血球凝集活性(力価)の測定結果は三角印で示されている。右側の縦軸のうち、”NaCl in TB”は、NaCl(TB中)の濃度勾配を示し、図中、濃度勾配は点線で示されている。
【0181】
上記溶出液を、
図5に示す4つの画分(I〜IV)に分画し、各画分とも、20μgのタンパク質に相当する量をSDS−PAGE(10%ゲル)に供した。結果を
図6に示す。なお、タンパク染色はCBB(Coomassie brilliant blue R-250)染色を行なった。
【0182】
図6のAは非還元下における泳動結果を示し、
図6のBは還元下における泳動結果を示す。Mは分子量マーカー、レーン1は20〜60%飽和硫安塩析沈殿画分、レーン2はHiPrep QXL 16/10カラム(ステップワイズ溶出)で得られた赤血球凝集活性成分(0.2M NaCl溶出画分)、レーン3は画分I、レーン4は画分II、レーン5は画分III、レーン6は画分IVを示す。なお、上記赤血球凝集活性成分は、「粗レクチン画分」とも称される。
【0183】
画分IおよびIIは、
図6のBに示すように、還元下で29kDaのほぼ単一のバンドを与えることが確認された。そこで、画分IをMPA−1、画分IIをMPA−2と命名し、最終精製レクチンとした。
【0184】
MPA−1およびMPA−2は、詳細は示さないが、分子量測定、N末端アミノ酸配列解析およびcDNAクローニングの結果から、実施例1で述べたMPA(29kDa)のアイソフォームであることが分かった。
【0185】
実施例1で述べたMPLは画分IVに溶出した。画分IVは、非還元下では26kDaおよび55kDaの2つのバンド成分を与え(
図6のA)、還元下では14kDaの主要バンド成分と、8kDaおよび5kDaの微量バンド成分を与えた。なお、画分IIIは還元下で29kDaおよび14kDaのバンド成分を与えることから、MPLとMPAとを混有すると考えられる。
【0186】
(実施例5−2:陰イオン交換クロマトグラフィーによるMPL−1およびMPL−2の単離)
上記MPL画分(画分IV)5mlを、TBで平衡化したTSKgel DEAE-5PWカラム(7.5×75 mm、東ソー社)に添加し、TB中NaClの濃度勾配(0−0.2M)によるグラジエント溶出を行った。操作中、280nmの吸光度をモニターしながらピークをそれぞれ分取した。
【0187】
図7は、MPLのTSKgel DEAE-5PWカラムを用いた陰イオン交換クロマトグラフィーによる精製結果を示す図である。図中、横軸は溶出時間を表し、左側の縦軸は280nmの吸光度、右側の縦軸はNaClの濃度を示す。また、実線は280nmの吸光度の測定結果を示し、点線はNaClの濃度を示す。(1)〜(4)はピーク番号である。
【0188】
TSKgel DEAE-5PWカラムによる陰イオン交換クロマトグラフィーの結果、
図7に示すように、MPLは4つのピーク(ピーク(1)〜(4))に分離された。そこで次に、ピーク(1)〜(4)をそれぞれ分取後、20μgのタンパク質に相当する量をSDS−PAGE(10%ゲル)に供した。結果を
図8に示す。
【0189】
図中、「非還元」は非還元下における泳動結果を示し、「還元」は還元下における泳動結果を示す。Mは分子量マーカーを示し、SはMPL、レーン1〜4はそれぞれピーク(1)〜(4)を泳動させた結果を示す。
【0190】
還元下において、ピーク(1)および(3)で14kDaのほぼ単一のバンドが認められた。ピーク(1)および(3)は、非還元下において26kDa付近のタンパク質性バンドを与えた。
【0191】
ピーク(2)および(4)については、非還元下で55kDa、還元下では14kDaの他に8kDaおよび5kDaのペプチドの存在が確認された。全ピークに共通して非還元下で26kDaおよび55kDaにタンパク質性バンドの存在が認められたが、ピーク(1)および(3)では26kDa成分、ピーク(2)および(4)では55kDa成分を主成分としていることがわかった。
【0192】
そこで、ピーク(1)をMPL−1、ピーク(3)をMPL−2と命名し、最終精製標品とした。MPL−1およびMPL−2につき、LTQ Orbitrap XL(Thermo Fisher Scientific)を用いる ESI-MSにより分子量の測定を行った。
図9はMPL−1およびMPL−2の分子量測定結果を示すものである。
【0193】
図9のA,Bより、MPL−1およびMPL−2の分子量はそれぞれ31,104.1 Daおよび31,132.0 Daであることが分かった。
【0194】
MPL−1およびMPL−2について、実施例3と同様の方法により、赤血球凝集阻止試験を行った。結果を表3に示す。
【0195】
【表3】
【0196】
表3では「単糖類および二糖類」と記載しているが、これは、実施例3と同様に、単糖類としてD−グルコース(Glc)、D−マンノース(Man)、D−ガラクトース(Gal)、N−アセチル−D−グルコサミン(GlcNAc)、N−アセチル−D−ガラクトサミン(GalNAc)、N−アセチルノイラミン酸(NeuAc)、L−フコース(Fuc)、D−キシロース(Xyl)またはL−ラムノース(Rha)を各100mMで用い、二糖類としてラクトース(Lac)を100mM用いたことを示す。
【0197】
複合型糖鎖を含有する糖タンパク質、高マンノース型糖鎖を含有する糖タンパク質、並びに、複合型糖鎖および高マンノース型糖鎖を含有する糖タンパク質としては、実施例3と同じものを用いた。加えて、N型糖鎖(複合型)およびO型糖鎖を含有する糖タンパク質としてフェツイン、アシアロフェツインを用い、O型糖鎖を含有する糖タンパク質としてウシ顎下線ムチン、アシアロウシ顎下線ムチンを用いた。
【0198】
表3から明らかなように、MPL−1およびMPL−2の赤血球凝集活性は、実施例3に示したMPLと同様に、高マンノース型糖鎖を含む糖タンパク質、並びに、複合型糖鎖および高マンノース型糖鎖を含む糖タンパク質によってのみ阻止された。このように、MPL−1およびMPL−2は、MPLと同様に、高マンノース型糖鎖に高い親和性を有することが示された。
【0199】
〔実施例6:MPLの構造解析〕
(実施例6−1:MPL画分のブロッティング)
実施例1で得られたMPL画分(26kDa)を非還元下および還元下(2-メルカプトエタノール添加)で12%トリス-トリシン系SDS−PAGEに付し、Polyvinylidene difluoride(PVDF)膜(Immobilon-P(登録商標)、Millipore)へ転写した。
【0200】
PVDF膜への転写は、セミドライブロッティング装置(AE-6677:ATTO CORPORATION)を用いてブロッティング緩衝液(CAPS buffer:メタノール:超純水= 1:1:8)中、144mAの定電流で1時間通電することによって行った。
【0201】
CAPS bufferはCAPS(3-Cyclohexylaminopropane sulfonic acid、和光純薬工業)11.1gを450mlの超純水に溶解し、NaOHを用いてpH11.0に調整した後、超純水で550 mlにメスアップしたものを使用した。転写後のPVDF膜はCBB染色を行い、一晩風乾後、目的とする14kDa成分および8kDaの成分を切り出して、実施例2同様に、Procise(登録商標)492HTを用いて、N末端アミノ酸配列を解析した。
【0202】
図10は、MPL画分をブロッティングし、CBB染色したPVDF膜を示す図である。
図10において、Mは分子量マーカーを示し、「非還元」は非還元下において得られたバンド、「還元」は還元下において得られたバンドを示す。
【0203】
(実施例6−2:N末端アミノ酸配列の解析およびMPL−1のアミノ酸配列の決定)
図10に示す8kDaの成分のN末端アミノ酸配列はGVVDQLI(配列番号14)と決定された。この配列は、実施例2で決定された配列番号12に示すアミノ酸配列のN末端と一致した。
【0204】
一方、14kDaの成分については、配列が解析できず、N末端がブロッキングされていると推測された。そこで、ピログルタミル基によるN末端ブロッキングと予測し、脱ピログルタミル化を試みた。
【0205】
すなわち、14kDa成分を転写したPVDF膜を60%メタノール1mlで2回洗浄後、90%メタノール1mlで1回洗浄し、これを0.5%(w/v)ポリビニルピロリドン(PVP)-55含有100mM 酢酸500μlに浸漬し、37℃で30分間静置した。次に、蒸留水で膜を10回以上洗浄し、膜をメタノールで湿らせ、酵素消化を行った。
【0206】
酵素消化は、Pfu Pyroglutamate Aminopeptitase(TAKARA)2mUを、酵素反応緩衝液(10mM ジチオトレイトール(DTT)、1mM EDTAおよび10mM PB(pH 7.0))200μl中に溶解し、本溶液中に膜を浸漬後、50℃で5時間反応させることによって行った。本反応によりピログルタミル基を除去後、膜を蒸留水で3回洗浄し、Procise(登録商標)492 HTを用いて分析した。
【0207】
その結果、2残基以降の配列がTGSCNTFQRS(配列番号15)と決定された。これらの結果から、14kDaの成分のN末端はグルタミンがピログルタミル化することによりブロッキングされ、そのN末端アミノ酸配列は、QTGSCNTFQRS(配列番号16)であることがわかった。
【0208】
本配列は、
図1に示すように、実施例2においてcDNAクローニングにより明らかとされたMPL cDNAの演繹アミノ酸配列中、実施例2でプロペプチドと予想された領域(23−96)の53番目の残基以降に認められた。
図1において、今回決定した14 kDa成分のN末端アミノ酸配列をボックスで示す。
【0209】
MPL cDNAの演繹アミノ酸配列うち、53−198残基からなる領域の算出分子量は15,553.3 Daであるが、ESI−MSによるMPL−1およびMPL−2の測定分子量は、実施例5−2で求めたように、それぞれ31,104.1 Daおよび31,132.0 Daである。SDS−PAGEの結果(
図6、8)から、MPLはS−S結合によるホモダイマーであると考えられることから、53−198残基からなる成分が1つのS−S結合により二量体を形成していると仮定すると、その算出分子量は31,104.6となり、MPL−1の測定分子量と一致する。
【0210】
これらの結果から、実施例2で得られたcDNAはMPL−1をコードするものであり、MPL−1は15.6kDaサブユニットのジスルフィド結合による二量体であることがわかった。
【0211】
すなわち、MPL−1のサブユニット(上記15.6kDaサブユニット)のcDNAの全長塩基配列は配列番号11に示される配列であり、当該塩基配列の演繹アミノ酸配列は配列番号13に示される配列である。また、MPL−1のサブユニットの成熟タンパク質をコードする塩基配列を配列番号1に示し、その演繹アミノ酸配列を配列番号2に示した。
【0212】
このことから、MPL−1は、高マンノース型糖鎖と結合するポリペプチドであって、(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列;または(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1個もしくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入、もしくは付加されたアミノ酸配列、からなるポリペプチドの二量体であるということができる。
【0213】
そして、当該二量体を含有する抗ウイルス剤も、高マンノース型糖鎖を備えるウイルスを標的とする抗ウイルス剤として用いることができる。また、当該二量体を例えば限外ろ過膜などに固定されてなる膜も、ウイルス除去膜として用いることができる。
【0214】
加えて、実施例2で得られたMPLのN末端アミノ酸配列(配列番号12)は8kDa成分のものであることがわかった。この8kDa成分は15.6kDa成分に由来することが明らかであるが、15.6kDa成分の分解産物であるか、MPLの構成成分として機能しているかどうかについてはさらなる解析が必要である。
【0215】
なお、ESI−MSによる測定分子量とSDS−PAGE上の推定分子量に差異がみられたが、SDS−PAGE によるタンパク質の移動度は、成分の性質(電荷、疎水性、構造等)により実際の分子量と数kDaのズレが生じることがある。
【0216】
そのため、SDS−PAGE上の成分について、例えば、SDS−PAGE上の推定分子量である14kDaと、ESI−MSによる測定分子量である15.6kDa成分とにずれがあることは特に問題はないと考えられる。
【0217】
Pfamプログラムによる分子内ドメイン検索にMPL−1を供したところ、MPL−1はJacalin-like lectinドメインを含み、紅藻 Griffithsia sp.由来レクチン Griffithsin(GRFT)およびバナナ Musa acuminataレクチンとの配列相同性(同一率)はそれぞれ33%および27%と非常に低いものであった。
【0218】
成熟タンパク質領域につきBasic Local Alignment Search Tool(BLAST)を用いて相同配列検索を行ったところ、上記2種のレクチンを含むJacalin-like lectinドメインを有するものが見られたが、その多くはhypothetical proteinであり、MPL−1と最も高い同一率を示したものは細菌Brevibacillus laterosporus由来hypothetical protein(35%)であった。
【0219】
このように、MPL−1には、部分的には既知レクチンのモチーフと類似するモチーフが存在することが示されたが、従来公知のレクチンとの配列相同性は非常に低く、全体配列から新規タンパク質であることが分かった。
【0220】
〔実施例7:MPL−1の糖鎖結合特異性〕
(実施例7−1:遠心限外ろ過−HPLC法)
上述のように精製されたMPL−1につき、糖鎖結合特異性を調べた。すなわち、まず、50mM トリス-塩酸緩衝液(pH7.0)中の500nM MPL−1溶液90μl(45pmol)と300nM ピリジルアミノ化(PA化)糖鎖水溶液10μl(3pmol)を軽く混合後、室温で60分間保温した。
【0221】
この反応液を微量遠心限外ろ過器(Nanosep 10K Omega、PALL)を用いて遠心ろ過(10,000×g、30秒)し、ろ液の20μlをHPLCに供し、溶出するPA化糖鎖の量を測定し遊離糖鎖量とした。
【0222】
次に、50mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.0)の90mlとPA化糖鎖水溶液10μlを混合後、同様に処理し、そのろ液の20μlをHPLCに供し、溶出するPA化糖鎖の量を測定して添加糖鎖量とした。
【0223】
結合糖鎖量は、添加糖鎖量から反応液の遊離糖鎖量を差し引いた値として算出した。レクチンの糖鎖結合活性は結合率、すなわち添加糖鎖量に対する結合糖鎖量の割合(%)で表示した。なお、結合試験は各糖鎖につき2回行い、結合率は平均値として算出した。
【0224】
PA化糖鎖の分離、定量は逆相系HPLCを用いて行った。すなわち、検液を40℃のカラムオーブン中、TSKgel ODS-80TM カラム(4.6×150 mm)に注入し、0.1M 酢酸アンモニウム−15%メタノールで溶出した。流速は1.0 ml/minとし、溶出液は励起波長320nm、蛍光波長400nmでモニターし、各糖鎖のピーク面積をEZChrom Elite(アジレントテクノロジー)で解析、定量した。
【0225】
供試糖鎖としてPA化糖鎖27種:N−グリコシド型糖鎖の複合型6種(PA-Sugar Chain 001、002、004、009、010、023、TAKARA)、高マンノース型11種(PA-Sugar Chain 017、018、019、020、051、052、053、054、055、056、058、TAKARA)、共通コア構造1種(PA-Sugar Chain 016、TAKARA)、共通コア関連糖鎖1種(PA-042、増田化学工業)、糖脂質系糖鎖3種(PA-Sugar Chain 027、028、038、TAKARA)、およびオリゴマンノース5種を用いた。このうち、PA−オリゴマンノースを除き、市販品(TAKARA)を用いた。
【0226】
PA−オリゴマンノースは、PA化装置(PALSTATION、TAKARA)を用いて以下のように調製した。
【0227】
すなわち、各50nmolのManα1-2Man、Manα1-3Man、Manα1-6Man、Manα1-6(Manα1-3)Man、Manα1-6(Manα1-3)Manα1-6(Manα1-3)Man(DextraLaboratories、Funakoshi)を凍結乾燥後、カップリング試薬(2-アミノピリジン/酢酸溶液、Pyridylamination Reagent Kit、TAKARA)20μlを加え、90℃で60分間反応させた。これに還元試薬(ボラン-ジメチルアミン/酢酸溶液)20μlを加え、80℃で60分間反応させた。この反応液にトリエチルアミン-メタノール20μlを加えてよく撹拌した後、トルエン40 μlを加えて撹拌し、窒素気流化で60℃、10分間減圧乾固した。
【0228】
これにメタノール20μlとトルエン40μlとを加えて撹拌し、同様に減圧乾固した後、トルエン50μlを加えて再び減圧乾固した。過剰の試薬は順相系HPLCにより除去した。
【0229】
すなわち、上記PA化物を25μlの超純水に溶解した後、40℃のカラムオーブン中、50mM 酢酸−トリエチルアミン(pH7.3)/アセトニトリル(25/75)で平衡化したTSKgel NH
2-60カラム(4.6×250 mm)に注入し、50mM酢酸−トリエチルアミン(pH7.3)/アセトニトリル(25/75)(溶媒A)と50mM酢酸−トリエチルアミン(pH7.3)/アセトニトリル(50/50)(溶媒B)の2液による濃度勾配[溶媒A 100%(0−5分)、溶媒A 0%−溶媒B 100%(5−55分)]を用いて、流速1.0ml/minで溶出した。溶出液は励起波長310nm、蛍光波長380nmでモニターし、PA化糖鎖(オリゴマンノース)ピークを分取した。
【0230】
得られたPA−オリゴマンノースの定量は以下のようにして行った。すなわち、上記の各オリゴマンノース画分の50μlを減圧乾固後、4N HCl/4M TFA(1/1(v/v))中100℃で4時間、気相酸加水分解した。
【0231】
この加水分解物を50μlの超純水に溶解し、その10μlを40℃のカラムオーブン中、TSKgel ODS-80TMカラム(4.6×150 mm)に注入し、0.1 M 酢酸アンモニウム−10%メタノールで溶出した。流速は1.0ml/minとし、溶出液は励起波長320nm、蛍光波長400mmでモニターした。
【0232】
これにより、PA−オリゴマンノースから加水分解により遊離したPA−マンノースのピーク面積を測定した。このPA−マンノースの定量は、10pmolの標準PA−マンノース(TAKARA)の同カラムからの溶出ピーク面積との比較により行い、PA−オリゴマンノース量とした。
【0233】
(実施例7−2:糖鎖結合特異性試験結果)
遠心限外ろ過−HPLC法により27種類のピリジルアミノ化(PA化)糖鎖に対するMPL−1の結合性を精査した。
図11は、PA化糖鎖27種の構造と、当該糖鎖へのMPL−1の結合活性を示すものである。図中、結合活性(単位%、結合糖鎖量/添加糖鎖量×100)が10%以下ものはハイフンで示した。
【0234】
図11に示すように、MPL−1は供試した糖鎖中、N−グリコシド型糖鎖のうち高マンノース型糖鎖とのみ特異的に結合することがわかった。複合型(
図11に示す1−6)、共通コア構造(
図11に示す23−24)とは結合しなかったことから、本レクチンは高マンノース型糖鎖構造のオリゴマンノースで構成される分岐糖鎖部分を認識することが判明した。さらに興味深いことに、高マンノース型糖鎖(
図11に示す7−17)に対する結合性について、分岐糖鎖部分のオリゴマンノース構造の違いにより結合活性に明瞭な差異が認められた。
【0235】
ここで、高マンノース型糖鎖の非還元末端は、トリマンノースコアのMan(α1-3)アーム(D1アーム)、同コアのMan(α1-6)アームから分岐したMan(α1-3)アーム(D2アーム)および同Man(α1-6)アームから分岐したMan(α1-6)アーム(D3アーム)の3つのアームからなる。
【0236】
MPL−1はD3アームの非還元末端にα1-2Manを有するもの(
図11に示す9、10、13、15)とのみ高い結合活性が認められ、その結合率は96%以上であった。一方、同Man残基を含まない高マンノース型糖鎖(
図11に示す7、8、11、12、14、16、17)およびオリゴマンノース(
図11に示す18−22)に対するMPL−1の結合活性は、
図11に示す糖鎖12を除いて10%以下であった。糖鎖12はD3アームにα1-2Manを含まず、D1アームの非還元末端にMan(α1-2)Man(α1-2)を有するM7糖鎖であるが、同様の構造を有するM8糖鎖(
図11に示す14)では結合がみられないことから、MPL−1の主要認識糖鎖構造ではないと考えられる。
【0237】
これらの結果から、MPL−1はD3アームの非還元末端にα1-2Man残基を有する高マンノース型糖鎖とのみ結合すると考えられる。単糖類(マンノースを含む)に結合せず、このような厳密な高マンノース型糖鎖認識をもつものは既知レクチン中に見出されていない。糖化合物による赤血球凝集阻止試験でMPL−1と同様のプロファイル(表3)を示したイソレクチンMPL−2においても同様の糖鎖結合特異性を有すると予測される。
【0238】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。