特許第5892671号(P5892671)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5892671立方体形又は四角柱形を有する岩塩型酸化物ナノ粒子と微細金属粒子との接合構造体、及び、その製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5892671
(24)【登録日】2016年3月4日
(45)【発行日】2016年3月23日
(54)【発明の名称】立方体形又は四角柱形を有する岩塩型酸化物ナノ粒子と微細金属粒子との接合構造体、及び、その製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 53/04 20060101AFI20160310BHJP
   C01G 51/04 20060101ALI20160310BHJP
   C23C 14/58 20060101ALI20160310BHJP
   C23C 14/00 20060101ALI20160310BHJP
【FI】
   C01G53/04
   C01G51/04
   C23C14/58 A
   C23C14/00 A
【請求項の数】10
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-528126(P2014-528126)
(86)(22)【出願日】2013年7月26日
(86)【国際出願番号】JP2013070377
(87)【国際公開番号】WO2014021230
(87)【国際公開日】20140206
【審査請求日】2015年3月27日
(31)【優先権主張番号】特願2012-171339(P2012-171339)
(32)【優先日】2012年8月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100131288
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 尚祐
(72)【発明者】
【氏名】古賀 健司
(72)【発明者】
【氏名】平澤 誠一
【審査官】 延平 修一
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−519057(JP,A)
【文献】 特開2005−097642(JP,A)
【文献】 特開2008−012658(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0167646(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0088843(US,A1)
【文献】 国際公開第2012/105631(WO,A1)
【文献】 Kenji KOGA et al.,Strain analysis of AuxCu1-x-Cu2O biphase nanoparticles with heteroepitaxial interface,Journal of Physical Chemistry C,Published on Web 01/19/2008,Vol.112, No.6, pp.2079-2085
【文献】 古賀 健司 ほか,気相中熱処理法による金-酸化銅(I)ヘテロ接合ナノ粒子の生成とCO酸化触媒活性,第108回触媒討論会討論会A予稿集,2011年 9月13日,第33ページ
【文献】 Shenghu ZHOU et al.,In situ phase separation of NiAu alloy nanoparticles for preparing highly active Au/NiO CO oxidation,A European Journal of Chemical Physics and Physical Chemistry,2008, Vol.9,pp.2475-2479
【文献】 Yu DING et al.,A novel NiO-Au hybrid nanobelts based sensor for sensitive and selective glucose detection,Biosensors and Bioelectronics,Available online 28 July 2011,Vol.28, pp.393-398
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/00 − 47/00
C01G 49/10 − 99/00
C23C 14/00
C23C 14/58
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貴金属を0.1〜90at.%含有し、残部が岩塩型酸化物を構成する卑金属と不可避不純物からなり、粒子径が1〜100nmの合金ナノ粒子を不活性ガス中で生成させ、不活性ガスで搬送する途中で、合金ナノ粒子を加熱、及び、高温の酸化性ガスと接触させることによって、浮遊する合金ナノ粒子を酸化させ、かつ、貴金属を含む金属成分と酸化卑金属成分とに相分離させ、立方体形または四角柱形を有する岩塩型酸化物ナノ粒子と金属ナノ粒子とのヘテロ接合構造体を得るとともに、金属ナノ粒子の特定の結晶面と岩塩型酸化物ナノ粒子の{100}面との平行な配列または両粒子の格子縞の界面を介しての接続を有する接合構造体の製造方法。
【請求項2】
合金ナノ粒子がさらにドーピング元素を含有するものであることを特徴とする請求項1に記載の接合構造体の製造方法。
【請求項3】
岩塩型酸化物ナノ粒子と金属ナノ粒子の接合構造体が独立分散された状態で得られることを特徴とする請求項1又は2に記載の接合構造体の製造方法。
【請求項4】
合金ナノ粒子の熱酸化処理は、気相中で行い、温度600℃以上、処理時間が10秒以内であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の接合構造体の製造方法。
【請求項5】
合金ナノ粒子を不活性ガス中で加熱中に酸化性ガスの導入を行う請求項1〜4のいずれか1項に記載の接合構造体の製造方法。
【請求項6】
合金ナノ粒子の生成法として、ガス中蒸発法、レーザーアブレーション法、スパッタリング法、アークプラズマ法、大気圧プラズマ法のいずれかを用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の接合構造体の製造方法。
【請求項7】
岩塩型酸化物の卑金属が、Ni,Co,Mg,Ti,Fe,V,Mn,Ta,Nb,Zr,Ca,Ba,Sr,Cd,Eu,Smから選ばれる1種以上であり、これら以外の元素をさらに含んでも良い、請求項1〜6のいずれか1項に記載の接合構造体の製造方法。
【請求項8】
金属ナノ粒子は、その金属成分が、Au,Pt,Pd,Rh,Ag,Ru,Irから選ばれる1種以上の貴金属であり、卑金属元素を含んでも良い請求項1〜7のいずれか1項に記載の接合構造体の製造方法。
【請求項9】
1辺が1〜100nmの立方体形又は1辺が1〜100nmでアスペクト比が10未満の四角柱形を有する岩塩型酸化物ナノ粒子の表面に粒子径1〜50nmの金属ナノ粒子が1個又は2個以上担持されたヘテロ接合構造体であって、金属ナノ粒子の特定の結晶面と岩塩型酸化物ナノ粒子の{100}面との平行な配列または両粒子の格子縞の界面を介しての接続を有し、岩塩型酸化物ナノ粒子は、その岩塩型酸化物の卑金属成分がNi,Co,Mg,Ti,Fe,V,Mn,Ta,Nb,Zr,Ca,Ba,Sr,Cd,Eu,Smから選ばれる1種以上であり、これら以外の元素をさらに含んでも良く、金属ナノ粒子は、その金属成分がAu,Pt,Pd,Rh,Ag,Ru,Irから選ばれる1種以上の貴金属であり、かつ、前記岩塩型酸化物の卑金属成分を含有しても良い、接合構造体。
【請求項10】
岩塩型酸化物ナノ粒子の岩塩型酸化物がNiO又はCoOであり、金属ナノ粒子の貴金属がAu又はPtである請求項9に記載の接合構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒や電子デバイスなどへの応用が期待できる、岩塩型酸化物ナノ粒子と金属ナノ粒子との接合構造体(以下、「接合構造体」と略すことがある。また、「接合構造体」は「接合体」、「複合構造体」、「接合ナノ粒子」、「複合ナノ粒子」ということもある。)、及び、その高純度な生成法であって、岩塩型酸化物ナノ粒子部分が立方体形又は四角柱形の形状を有することを特徴とする。
【背景技術】
【0002】
岩塩(NaCl)型構造を示す酸化物(以下、「岩塩型酸化物」と略す)は工業的に非常に重要な物質群として古くから知られてきた。岩塩型酸化物には、NiO,CoO,MgO,TiO,FeO,VO,MnO,TaO,NbO,ZrO,CaO,BaO,SrO,CdO,EuO,SmOなどの単金属の酸化物及び多くの複合酸化物が存在する。岩塩型酸化物は、+2価の金属陽イオンと-2価酸素陰イオンで構成されたイオン性結晶である。その結晶構造は立方晶系に属し、{100}、{111}、{110}の3種類の低指数面の内で最も安定に表面へ露出する結晶面は、電荷中性が保たれる{100}表面である。{111}表面では、金属イオン又は酸素イオンのどちらかのみが表面へ露出するために電荷的に最も不安定となり、{110}表面は表面エネルギーが高いために最安定表面とはならない。MgO結晶は{100}面で劈開することが良く知られているが、以上の性質によるものである。このように、岩塩型酸化物では、他の結晶構造を持つ物質と比較して、{100}表面のみに大きな安定性を示すために、{100}表面のみで構成された立方体形や直方体形のナノ粒子の生成に関して、最も有望な物質群である。非特許文献(1)及び非特許文献(2)によれば、岩塩型酸化物のNiOやCoOでは、立方体形及び四角柱形を有するナノ粒子が安定に形成される可能性を示唆している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】US2005/0167646 A1
【特許文献2】US2010/0044209 A1
【特許文献3】US2009/0088843 A1
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】C.-N. Huang et al.,J. Cryst. Growth,305,2007,285-295.
【非特許文献2】D.-P. Chen et al.,Cryst. Growth Des.,12,2012,2842-2849.
【非特許文献3】T. Mokari et al.,Science,304,2004,1787-1790.
【非特許文献4】T. Mokari et al.,Nature Mater.,4,2005,855-863.
【非特許文献5】D. Steiner et al.,Phys. Rev. Lett.,95,2005,056805-1-056805-4.
【非特許文献6】A. H. Khan et al.,Chem. Comm.,47,2011,8421-8423.
【非特許文献7】M. T. Sheldon et al.,Nano Lett.,9,2009,3676-3682.
【非特許文献8】L. Carbone et al.,J. Mater. Chem.,16,2006,3952-3956.
【非特許文献9】P. D. Cozzoli and L. Manna,Nature Mater.,4,2005,801-802.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ナノ粒子が立方体形(ナノキューブ)や四角柱形(ナノロッド)の形状を持つ場合、その最大の利点は、粒子を固体基板上に担持させたときに、6面の内の1面が基板表面と平行に設置される確率が非常に高くなることである。それ故、固体基板表面へナノ粒子を振り撒くだけで、特別の外部操作をすること無しに、個々のナノ粒子の特定の結晶面を基板表面へ容易に設置させることができる。この特質は、様々なナノデバイスの構築のために非常に有望なものである。また、粒子は表面同士が平行に接触しやすいために、規則的な配列も生まれやすく、球形の場合に比べ大きな充填率が得られるメリットもある。このような性質を生かすことによって、異種の立方体形や四角柱形ナノ粒子を特定の結晶表面同士で接合させて集積・積層させることが可能である。そのような積層は、たとえば半導体ナノデバイスの構築などで大変有望となる。
【0006】
立方体形や四角柱形を有する岩塩型酸化物ナノ粒子の表面上に、金属(貴金属や貴金属合金)のナノ粒子やクラスターを担持・接合させることによって、金属ナノ粒子との複合作用や接合界面に起因した新たな特性発現が期待できる。そのようなナノスケール素子は、立方体形や四角柱形の利点を生かした自己組織的配列制御による集積デバイスの構築にとって不可欠なものである。
【0007】
岩塩型酸化物ナノ粒子表面に原子レベルで接合された金属ナノ粒子は、電極としての機能も有する。NiOやCoOはホールをキャリアとするp型半導体であるが、これらの立方体形や四角柱形の半導体ナノ粒子をシリコンなどの半導体基板上へ配列させる際や、半導体ナノ粒子同士を結合させる際の電気的接合として非常に有用となる可能性がある。たとえば、特許文献(1)〜(3)、非特許文献(3)〜(8)では、液相合成によって得られたAu-CdSe、Au-CdS、Au-PbSの電子状態について精密な実験が行われており、CdSe、CdS、PbSなどの半導体ナノロッドへAuナノ電極が付与されたナノ構造体が次世代の光電子ナノデバイスなどの構築にとって非常に有望であると分析されている。また、非特許文献(9)では、半導体ナノロッドの先端部にAuナノ粒子を備える利点の1つとして、Auのみに選択的に結合する有機分子を用いることで、固体基板上の任意の場所へ半導体ナノロッドを制御配置させることが可能となることが指摘されている。
【0008】
以上の通り、立方体形や四角柱形を有する岩塩型酸化物ナノ粒子の表面上に金属ナノ粒子が接合された構造体、及び、その製造方法の開発が望まれている。得られた構造体を触媒やナノスケールデバイス構築のための部品として応用するためには、高い結晶性と表面の清浄性を兼ね備えた生成方法が強く望まれる。
したがって、本発明は、高い結晶性を有した、立方体形又は四角柱形の岩塩型酸化物ナノ粒子と金属ナノ粒子との接合構造体や、該接合構造体を気相中に連続的に発生させる製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、貴金属及び岩塩型酸化物を構成する卑金属と不可避不純物からなる所定の粒子径の合金ナノ粒子を不活性ガス中で生成させ、不活性ガスで搬送する途中で、合金ナノ粒子の加熱、及び、導入された酸化性ガスと接触させることによって、高い結晶性を有した、立方体形又は四角柱形の岩塩型酸化物ナノ粒子と金属ナノ粒子との接合構造体が得られるとの知見に基づくものであり、金属ナノ粒子が接合された立方体形(ナノキューブ)や四角柱形(ナノロッド)を有する岩塩型酸化物ナノ粒子、及び、それらを気相中において連続的に生成させる製造方法である。
【0010】
本発明は、次のような特徴を有するものである。
(1)貴金属を0.1〜90at.%含有し、残部が岩塩型酸化物を構成する卑金属と不可避不純物からなり、粒子径が1〜100nmの合金ナノ粒子を不活性ガス中で生成させ、不活性ガスで搬送する途中で、合金ナノ粒子を加熱、及び、高温の酸化性ガスと接触させることによって、浮遊する合金ナノ粒子を酸化させ、かつ、貴金属を含む金属成分と酸化卑金属成分とに相分離させ、立方体形または四角柱形を有する岩塩型酸化物ナノ粒子と金属ナノ粒子とのヘテロ接合構造体を得るとともに、金属ナノ粒子の特定の結晶面と岩塩型酸化物ナノ粒子の{100}面との平行な配列または両粒子の格子縞の界面を介しての接続を有する接合構造体の製造方法。
(2)合金ナノ粒子がさらにドーピング元素を含有するものであることを特徴とする上記(1)に記載の接合構造体の製造方法。
(3)岩塩型酸化物ナノ粒子と金属ナノ粒子の接合構造体が独立分散された状態で得られることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の接合構造体の製造方法。
(4)合金ナノ粒子の熱酸化処理は気相中で行い、温度600℃以上、処理時間が10秒以内であることを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の接合構造体の製造方法。
(5)合金ナノ粒子を不活性ガス中で加熱中に酸化性ガスの導入を行う上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の接合構造体の製造方法。
(6)合金ナノ粒子の生成法として、ガス中蒸発法、レーザーアブレーション法、スパッタリング法、アークプラズマ法、大気圧プラズマ法のいずれかを用いることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の接合構造体の製造方法。
(7)岩塩型酸化物の卑金属が、Ni,Co,Mg,Ti,Fe,V,Mn,Ta,Nb,Zr,Ca,Ba,Sr,Cd,Eu,Smから選ばれる1種以上であり、これら以外の元素をさらに含んでも良い、上記(1)〜(6)のいずれか1項に記載の接合構造体の製造方法。
(8)金属ナノ粒子は、その金属成分が、Au,Pt,Pd,Rh,Ag,Ru,Irから選ばれる1種以上の貴金属であり、卑金属元素を含んでも良い上記(1)〜(7)のいずれか1項に記載の接合構造体の製造方法。
(9)1辺が1〜100nmの立方体形又は1辺が1〜100nmでアスペクト比が10未満の四角柱形を有する岩塩型酸化物ナノ粒子の表面に粒子径1〜50nmの金属ナノ粒子が1個又は2個以上担持されたヘテロ接合構造体であって、金属ナノ粒子の特定の結晶面と岩塩型酸化物ナノ粒子の{100}面との平行な配列または両粒子の格子縞の界面を介しての接続を有し、岩塩型酸化物ナノ粒子は、その岩塩型酸化物の卑金属成分がNi,Co,Mg,Ti,Fe,V,Mn,Ta,Nb,Zr,Ca,Ba,Sr,Cd,Eu,Smから選ばれる1種以上であり、これら以外の元素をさらに含んでも良く、金属ナノ粒子は、その金属成分がAu,Pt,Pd,Rh,Ag,Ru,Irから選ばれる1種以上の貴金属であり、かつ、前記岩塩型酸化物の卑金属成分を含有しても良い、接合構造体。
(10)岩塩型酸化物ナノ粒子の岩塩型酸化物がNiO又はCoOであり、金属ナノ粒子の貴金属がAu又はPtである上記(9)に記載の接合構造体。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、立方体形や四角柱形を有する岩塩型酸化物ナノ粒子及び該ナノ粒子に貴金属などを担持した接合ナノ粒子を気相中で簡易的に生成できるという顕著な利点がある。生成物は非常に高純度な状態で得られ、液相合成で不可避な還元剤や有機物などの不純物の混入は一切無いために、これらを洗浄、焼失させる工程を一切必要としない。これらの後工程が不要な点は、特に触媒試料の安定な生成には非常に重要である。
【0012】
本発明で得られる岩塩型酸化物ナノ粒子の形状は、非常に角の鋭い立方体形や四角柱形を持ち、内部も非常に高い結晶性を持っている。このような構造的な完全性は、該形状のナノ粒子の応用にとって非常に大きな利点となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の立方体形又は四角柱形を有する岩塩型酸化物ナノ粒子の製造方法に用いる製造装置の1例を示す図面。
図2】レーザーアブレーションによりNi-5at.%Au合金ペレットから生成した合金ナノ粒子を900℃で熱酸化処理して得られた立方体形や四角柱形のNiOナノ粒子とAuナノ粒子の接合構造体の透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope;TEM)写真。
図3】レーザーアブレーションによりNi-5at.%Au合金ペレットから生成した合金ナノ粒子を900℃で熱酸化処理して得られた四角柱形のNiOナノ粒子とAuナノ粒子の接合構造体の高分解能TEM写真。
図4】レーザーアブレーションによりNi-20at.%Au合金ペレットから生成した合金ナノ粒子を900℃で熱酸化処理して得られた立方体形や四角柱形のNiOナノ粒子とAuナノ粒子の接合構造体のTEM写真。
図5】レーザーアブレーションによりNi-20at.%Au合金ペレットから生成した合金ナノ粒子を900℃で熱酸化処理して得られた四角柱形や立方体形のNiOナノ粒子とAuナノ粒子の接合構造体の高分解能TEM写真。
図6a】レーザーアブレーションによりNi-20at.%Au合金ターゲット表面から放出されたドロップレットを900℃で熱酸化処理して得られた四角柱形のNiOナノ粒子とAuナノ粒子の接合構造体のTEM写真。
図6b】レーザーアブレーションによりNi-20at.%Au合金ターゲット表面から放出されたドロップレットを900℃で熱酸化処理して得られた四角柱形のNiOナノ粒子とAuナノ粒子の接合構造体の図6a中のAおよびB箇所のエネルギー分散型X線分光分析データ。
図7】レーザーアブレーションによりNi-40at.%Au合金ペレットから生成した合金ナノ粒子を900℃で熱酸化処理して得られた立方体形や四角柱形のNiOナノ粒子とAuナノ粒子の接合構造体のTEM写真。
図8】レーザーアブレーションによりNi-40at.%Au合金ペレットから生成した合金ナノ粒子を900℃で熱酸化処理して得られた四角柱形や立方体形のNiOナノ粒子とAuナノ粒子の接合構造体の高分解能TEM写真。
図9】レーザーアブレーションによりNi-80at.%Au合金ペレットから生成した合金ナノ粒子を900℃で熱酸化処理して得られた立方体形のNiOナノ粒子とAuナノ粒子の接合構造体の高分解能TEM写真。
図10】レーザーアブレーションによりNi-5at.%Pt合金ペレットから生成した合金ナノ粒子を900℃で熱酸化処理して得られた立方体形や四角柱形のNiOナノ粒子とPtナノ粒子の接合構造体のTEM写真。
図11】レーザーアブレーションによりNi-5at.%Pt合金ペレットから生成した合金ナノ粒子を900℃で熱酸化処理して得られた四角柱形のNiOナノ粒子とPtナノ粒子の接合構造体の高分解能TEM写真。
図12】レーザーアブレーションによりNi-20at.%Pt合金ペレットから生成した合金ナノ粒子を900℃で熱酸化処理して得られた立方体形や四角柱形のNiOナノ粒子とPtナノ粒子の接合構造体のTEM写真。
図13】レーザーアブレーションによりNi-20at.%Pt合金ペレットから生成した合金ナノ粒子を900℃で熱酸化処理して得られた四角柱形のNiOナノ粒子とPtナノ粒子の接合構造体の高分解能TEM写真。
図14】レーザーアブレーションによりCo-5at.%Au合金ペレットから生成した合金ナノ粒子を900℃で熱酸化処理して得られた立方体形や四角柱形のCoOナノ粒子とAuナノ粒子の接合構造体のTEM写真。
図15】レーザーアブレーションによりCo-5at.%Au合金ペレットから生成した合金ナノ粒子を900℃で熱酸化処理して得られた四角柱形や立方体形のCoOナノ粒子とAuナノ粒子の接合構造体の高分解能TEM写真。
図16a】レーザーアブレーションによりNi-5at.%Au合金ペレットから生成した合金ナノ粒子を900℃で熱酸化処理して得られた立方体形や四角柱形を有するNiOナノ粒子とAuナノ粒子の接合構造体の電子回折図形から導出された1次元強度プロファイル。
図16b】レーザーアブレーションによりNi-20at.%Au合金ペレットから生成した合金ナノ粒子を900℃で熱酸化処理して得られた立方体形や四角柱形を有するNiOナノ粒子とAuナノ粒子の接合構造体の電子回折図形から導出された1次元強度プロファイル。
図16c】レーザーアブレーションによりNi-5at.%Pt合金ペレットから生成した合金ナノ粒子を900℃で熱酸化処理して得られた立方体形や四角柱形を有するNiOナノ粒子とPtナノ粒子の接合構造体の電子回折図形から導出された1次元強度プロファイル。
図16d】レーザーアブレーションによりCo-5at.%Au合金ペレットから生成した合金ナノ粒子を900℃で熱酸化処理して得られた立方体形や四角柱形を有するCoOナノ粒子とAuナノ粒子の接合構造体の電子回折図形から導出された1次元強度プロファイル。
図17a】レーザーアブレーションによりNi-5at.%Au合金ペレットから生成した合金ナノ粒子を900℃で熱酸化処理して得られた立方体形や四角柱形を有するNiOナノ粒子とAuナノ粒子の接合構造体のエネルギー分散型X線分光分析データ。
図17b】レーザーアブレーションによりNi-20at.%Au合金ペレットから生成した合金ナノ粒子を900℃で熱酸化処理して得られた立方体形や四角柱形を有するNiOナノ粒子とAuナノ粒子の接合構造体のエネルギー分散型X線分光分析データ。
図17c】レーザーアブレーションによりNi-5at.%Pt合金ペレットから生成した合金ナノ粒子を900℃で熱酸化処理して得られた立方体形や四角柱形を有するNiOナノ粒子とPtナノ粒子の接合構造体のエネルギー分散型X線分光分析データ。
図17d】レーザーアブレーションによりCo-5at.%Au合金ペレットから生成した合金ナノ粒子を900℃で熱酸化処理して得られた立方体形や四角柱形を有するCoOナノ粒子とAuナノ粒子の接合構造体のエネルギー分散型X線分光分析データ。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明の岩塩型酸化物ナノ粒子と金属ナノ粒子の接合構造体の製造方法に用いる製造装置の例を図1に示す。本発明の接合構造体の製造方法は、貴金属及び岩塩型酸化物を構成する卑金属と不可避不純物からなり、粒子径が1〜100nmの合金ナノ粒子を不活性ガス中で生成させ、不活性ガスで搬送する途中で、合金ナノ粒子の加熱、及び、導入された酸化性ガスと接触させることによって、浮遊する合金ナノ粒子を酸化させる等の工程を含む。
この製造方法では、金属成分を溶解性の化合物〔例えば、HAuCl4,H2PtCl6,Ni(NO3)2,Co(NO3)2〕として用いる必要がなく、合金ナノ粒子を不活性ガス中で生成させることができ、卑金属成分が岩塩型酸化物を形成する金属であれば採用することができる。それ故、液相合成のような化合物の制約による金属の種類の制限がないので、後述の実施例で用いたNi、Co、Au、Pt以外の金属や貴金属も幅広く採用することができる。
【0015】
この製造方法の実施に用いる岩塩型酸化物ナノ粒子と金属ナノ粒子の接合構造体の製造装置の一例は、図1に示す通り、原料の合金ナノ粒子生成装置(A)、熱酸化処理器(B及び3)、捕集器(C)、排気ポンプ(D)の直列結合によって構成される。配管(1)及び流量調整バルブ(2)を通じ、合金ナノ粒子生成装置(A)へ不活性ガスを導入する。不活性ガスは、加熱器(B)によって一定温度に加熱された加熱管(3)へ流入する。酸化性ガスを配管(5)及び流量調整バルブ(4)によって供給し、加熱管の内部の加熱領域の中心付近へ放出させ、不活性ガスと混合させる。酸化性ガスと不活性ガスとの混合ガスは、捕集器(C)、配管(6)及び圧力調整バルブ(7)を通過して、排気ポンプ(D)によって排気される。合金ナノ粒子生成装置(A)において、不活性ガス気流中に生成された合金ナノ粒子は、加熱管(3)へ流入し、所定温度に加熱される。加熱管(3)の中心部において、加熱されている合金ナノ粒子は、ほぼ同温度等の高温の酸化性ガスによって急激に酸化される。酸化された合金ナノ粒子は、捕集器(C)へ到達し捕集される。
合金ナノ粒子生成装置(A)内部及び加熱管(3)内部の圧力やガスの流速は、流量調整バルブ(2)、流量調整バルブ(4)及び圧力調整バルブ(7)によって最適な条件へ調整される。
【0016】
原料を構成する岩塩型酸化物を構成する金属は、限定されないが、例えば、Ni,Co,Mg,Ti,Fe,V,Mn,Ta,Nb,Zr,Ca,Ba,Sr,Cd,Eu,Smから選ばれる1種以上とすることができ、岩塩型結晶構造を形成する範囲でこれら以外の元素をドーピングのために微量に含んでも良い。
原料を構成する貴金属は、限定されないが、例えば、Au,Pt,Pd,Rh,Ag,Ru,Irから選ばれる1種以上とすることができる。
【0017】
原料となる合金ナノ粒子の気相中での生成には、低圧(例えば、0.1〜10kPa程度)から大気圧(101.3kPa)程度までの圧力範囲で稼動可能な生成装置を用いることができる。例えば、ガス中蒸発法、レーザーアブレーション法、スパッタリング法、アークプラズマ法、大気圧プラズマ法などであり、他にも様々な気相中でのナノ粒子の生成法を適宜用いることができる。生成にはヘリウム、アルゴン、窒素などの不活性ガスを用いて、1〜100nm(好ましくは2〜80nm、より好ましくは5〜60nm)程度の合金ナノ粒子を生成させる。合金ナノ粒子の粒子径は、一般に、蒸発源の温度(蒸発源へ投入するエネルギー)が大きいほど、又は、不活性ガスの圧力が大きく流速が遅いほど増大するので、実験結果を確認しつつ適宜調節することが可能である。
生成される合金ナノ粒子は、貴金属を0.1〜90at.%程度(好ましくは0.1〜50at.%、より好ましくは1〜30at.%、さらに好ましくは2〜20at.%、さらに一層好ましくは3〜10at.%)含有し、残部が岩塩形酸化物を構成する卑金属と不可避不純物からなるものとするのが好ましいが、接合構造体の用途や使用態様に応じて、適宜、ドーピング元素等の異種元素を微量(2at.%以下、好ましくは1at.%以下、より好ましくは0.5at.%以下)含有することもできる。
合金ナノ粒子生成装置において、合金ナノ粒子の生成に用いる原料としては、例えば、レーザーアブレーション法では、原料合金の組成と合金ナノ粒子の組成はほぼ一致するため、上記の合金ナノ粒子と同じ組成の原料合金を用いることができる。また、ガス中蒸発法等のように、原料合金の組成と合金ナノ粒子の組成が必ずしも一致しない場合には、卑金属と貴金属の蒸気圧等を考慮して、原料合金における貴金属の含有率を決定することが好ましい。また、合金ナノ粒子の生成過程で合金化が可能な場合などのように、合金ナノ粒子を生成させる手法によっては、必ずしも合金状態の原料を用いる必要が無く、たとえば、貴金属と卑金属とを併存させたものや、両者の粉末を混合したものなどを合金ナノ粒子生成装置における原料とすることもできる。
合金ナノ粒子を生成させる際、合金の一次粒子の凝集体からなるナノサイズの二次粒子が生成する場合、熱酸化処理器(B及び3)で熱酸化処理される前に、例えば熱酸化処理器の予備加熱機構等又は合金ナノ粒子生成装置(A)の後処理用加熱機構等によって、不活性雰囲気中で加熱、焼結し、孤立分散した合金ナノ粒子とすることもできる。また、目的とする合金ナノ粒子の生成は、成分金属夫々の単体ナノ粒子を最初に生成させ、それらを凝集させた後に、加熱機構等を使用して焼結させることによって生成することもできる。
【0018】
生成された合金ナノ粒子は、不活性ガスによって気相中を運搬され、熱酸化処理器内で高温の酸化性ガスと混合される。酸化性ガスとしては、酸素ガス単独、空気や酸素ガスと不活性ガス等とを混合したものが使用できる。高温の酸化性ガスは、熱酸化処理器(B及び3)の内部の加熱部分から加熱管(3)の内部へ放出させることが必要である。酸化性ガスは、加熱管の内部に供給する前に予め加熱しておいても良いが、その供給用配管(5)を加熱管の内部の所定距離以上に配置すると、予め加熱しておかなくても、該配管流通中において該加熱管の内部と同程度の高温とすることができる。
加熱管(3)の上流側の室温部分へ室温の酸化性ガスを導入放出させて不活性ガスと混合させた場合は、目的とする立方体形や四角柱形の粒子を得ることができない。
熱酸化処理器における合金ナノ粒子は、例えば石英管を炉心管とした管状型電気炉等を用い、高温に加熱された不活性ガスにより間接的に加熱しても良いし、また、誘導加熱、マイクロ波加熱等の手段を用い、直接的に加熱しても良い。
熱酸化処理は、ガスの圧力、流速、金属の種類にも依存するが、一般的には温度600℃以上(好ましくは700〜1200℃、より好ましくは800〜1100℃)、処理時間0.001〜30秒(好ましくは0.002〜10秒、より好ましくは0.005〜5秒)とすることができる。処理温度を高くすると処理時間を短くすることができる。熱酸化処理器は、そのような処理時間の間、合金ナノ粒子を加熱されるように、合金ナノ粒子の搬送経路に沿った加熱領域が設定される。
【0019】
熱酸化処理器から流出した岩塩型酸化物ナノ粒子と金属ナノ粒子の接合構造体は、自然冷却や適宜の冷却手段により常温程度まで冷却された後、捕集器内で回収される。捕集方法としては、エアロゾル捕集に用いられている乾式法、湿式法を適宜用いることができる。
上記プロセスにおいて、合金ナノ粒子を気相中で熱酸化させるためには、酸化性ガスと不活性ガスとの混合ガスの酸素濃度は0.1%以上が好ましい(より好ましくは5%以上、さらに好ましくは10%以上)。
なお、岩塩型酸化物が相分離した後の金属ナノ粒子は、原料合金における貴金属成分量や熱酸化処理の程度等に応じて、合金ナノ粒子よりも卑金属成分割合が減少した合金の金属ナノ粒子となるか、又は、該卑金属をほとんど含有しないほぼ純粋な貴金属の金属ナノ粒子となる。例えば、貴金属成分量が所定以上多い場合には、熱酸化処理条件にもよるが、酸化されない卑金属成分が残存し、残存卑金属と貴金属との合金の金属ナノ粒子となる場合がある。金属ナノ粒子は、触媒用複合ナノ粒子等の製造のためには不純物含有率が極力少ないことが望ましいが、原料の金属の不純物等に由来する不純物を含有しうる。不純物の含有率が触媒等の機能を大きく損なわない範囲(例えば、0.01at.%未満、好ましくは0.001at.%未満)となるように原料を選択することが望ましい。
【0020】
本発明の岩塩型酸化物ナノ粒子と金属ナノ粒子の接合構造体は、以上のような工程により非常にクリーンな状態で連続的に製造される。
該接合構造体の一方の構成要素である岩塩型酸化物ナノ粒子は、1辺が1〜100nmの立方体形又は1辺が1〜100nmでアスペクト比が10未満の四角柱形を有する。これらの辺長やアスペクト比は、接合構造体の用途や使用態様などに応じて、例えば、2〜50nm、5〜30nm、10〜50nm、20〜80nm、30〜70nm、50〜100nm等の辺長範囲や、1.2〜5、2〜7、1.5〜3等のアスペクト比範囲のように種々に設定することができる。岩塩型酸化物ナノ粒子の岩塩型酸化物は、その卑金属成分が単独元素で岩塩型酸化物となりうるNi,Co,Mg,Ti,Fe,V,Mn,Ta,Nb,Zr,Ca,Ba,Sr,Cd,Eu,Smから選ばれる1種以上を含むものであり、1種類の卑金属の酸化物であっても良いし、2種類以上の卑金属の複合酸化物でも良い。ここで、複合酸化物を構成する2種目以降の卑金属元素は複合酸化物が岩塩型構造を形成する限りおいて上記以外の元素(単独では岩塩型酸化物とならない元素)でも良い(ただし、次に記載するようなドーピング元素等として含有される含有量2at.%以下であるものを除く。)。岩塩型酸化物ナノ粒子は、岩塩型構造を形成していれば、これら卑金属の酸化物以外にドーピング元素等の異種元素を2at.%以下(好ましくは1at.%以下、より好ましくは0.5at.%以下)程度含んでも良い。
該接合構造体の他方の構成要素である金属ナノ粒子は、1個の岩塩型酸化物ナノ粒子に対し、通常1個接合するが、製造条件を調整することにより、2個以上接合したものも得ることができる。金属ナノ粒子は、粒子径が1〜50nmで、その主要な金属成分がAu,Pt,Pd,Rh,Ag,Ru,Irから選ばれる1種以上の貴金属であり、1種類の貴金属のみであっても良いし、2種類以上の貴金属の合金であっても良い。金属ナノ粒子は、これらの貴金属以外に、前記岩塩型酸化物の卑金属成分を含んだ合金でも良い。
【0021】
本発明の接合構造体の接合状態は、高分解能TEM観察等によって確認することが可能である。後述の実施例の写真に見られるように、高分解能TEM観察で確認できるヘテロ接合状態としては、金属ナノ粒子の特定の結晶面と岩塩型酸化物ナノ粒子の{100}面との平行な配列、両粒子の格子縞の界面を介しての接続等がある。また、接合状態は、物質の種類や組成比などによって大きく変化し得る。
なお、本発明では、TEM観察で得られる粒子(合金ナノ粒子、金属ナノ粒子)の像の重心を通る最大径と最小径の平均値を”粒子径”とする。
【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこの実施例によって何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で各種の設定調整や設計変更が可能であることは言うまでもない。
【0023】
(実施例1:立方体形又は四角柱形NiOナノ粒子とAuナノ粒子との接合構造体の製造)
(実施例1−1:Ni-5at.%Au合金ペレットを用いた例)
合金ナノ粒子生成装置として、レーザーアブレーション法による生成装置を用いた。装置内へ流入速度0.5L/minでヘリウムガスを導入し、油回転ポンプによって装置内の圧力を1.6kPaの減圧に保った。Ni-5at.%Au合金ペレット(純度99.9%,20 mmφ×5mmt)を原料ターゲットとし、その表面へNd:YAGレーザーの第二高調波(波長:532nm、出力:90mJ/pulse、繰り返し周波数:10Hz)を集光・照射することにより、ターゲット表面を瞬間的に蒸発させ、Ni-Au合金ナノ粒子の凝集体がヘリウムガス中に生成された。生成したNi-Au合金ナノ粒子凝集体はヘリウムガス流に乗って移動しつつ、生成装置内部の予備加熱機構(900℃)で焼結されることによって孤立分散のNi-Au合金ナノ粒子(粒子径約1〜10nm程度)となり、熱酸化処理器の加熱管(石英管、外形18mmφ、内径15mmφ)内へと運ばれた。酸素ガスは、加熱管内部に設置された酸素導入管(外形6mmφ,内径4mmφ)を通じ、加熱管の高温内部へ0.25L/minの流入速度で供給された(混合ガスの酸素濃度は33%)。高温の酸素によってNi-Au合金ナノ粒子は酸化され、Auナノ粒子が接合されたNiOナノ粒子となった。熱酸化処理時間は0.01秒程度である。生成したAuナノ粒子接合NiOナノ粒子は、捕集器内に設置した非晶質炭素膜上に希薄に自然付着させ、TEM観察のための試料となった。
【0024】
図2にNiOナノ粒子とAuナノ粒子との接合構造体のTEM写真を示す。非晶質炭素膜上に四角柱形のNiOナノ粒子が多数確認できる。各々の四角柱形のNiOナノ粒子の表面上に小さなAuナノ粒子が1個付着している像が確認できる。図3にAu-NiO接合構造体の高分解能TEM写真を示す。この写真の例では、四角柱形のNiOナノ粒子の底面または側面に半球状のAuナノ粒子が接合されている。どちらの場合も、NiO(100)面とAu(111)面が平行にヘテロ接合されている。
【0025】
図16(a)は、図2の試料の電子回折図形から導出された1次元強度プロファイルである。横軸は、散乱ベクトルs(4πsinθ/λ、2θ:回折角、λ:200kVで加速された電子の波長0.02508Å)である。出現した各ピーク位置は、図中に記入されたミラー指数の通り、岩塩型構造のNiOであることが同定された。なお、図3で確認された微小なAuナノ粒子からの電子回折ピークについては明瞭に確認できなかった。その理由は、Auの各ピークの出現位置がNiOのピーク位置に非常に近く、さらにAuの割合が相対的に小さく、NiOのピーク強度が相対的に強いことが原因である。
【0026】
図17(a)は、図2の試料のエネルギー分散型X線分光分析による粒子の組成分析の結果である。データ中の炭素Cは、粒子の捕集と観察のために使用した非晶質炭素膜に因るものである。データ中のCuは、非晶質炭素膜が貼られたCuメッシュに因るものである。これらを除外すると、金属成分はNiとAuのみが検出された。Ni Kα及びAu Lαの積分値から換算した結果、Auの組成は3.8at.%であった。この組成は原料合金ペレットのAuの組成とほぼ一致した。
【0027】
(実施例1−2:Ni-20at.%Au合金ペレットを用いた例)
Ni-20at.%Au合金ペレット(純度99.95%,19mmφ×4mmt)をターゲットとして用いることによって、Auナノ粒子とNiOナノ粒子との接合構造体の生成を試みた。実験条件は合金ペレット以外すべて実施例1−1と同一である。図4に接合構造体のTEM写真を示す。四角柱形のNiOが主に生成されており、各々の四角柱形の底面を接合面として半球状のAuナノ粒子が1個付着している像が確認できる。図5に、四角柱形のNiOナノ粒子および立方体形のNiOナノ粒子とAuナノ粒子との接合構造体の高分解能TEM写真を示す。図3と同様に、NiO(100)面とAu(111)面が平行にヘテロ接合されている。図16(b)の電子回折の結果から、NiOは岩塩型構造であることが同定された。図17(b)のエネルギー分散型X線分光分析による粒子の組成分析の結果、金属成分はNiとAuのみが検出され、Auの組成は19.7at.%であった。この組成は原料合金ペレットのAuの組成と一致した。なお、Alが微量に検出されたが、試料ホルダー等からの散乱に因るものである。
【0028】
レーザーアブレーションにおいては、ターゲットの最表面は溶融状態となっており、溶融層の突沸等の過程によって、サブミクロン〜ミクロンサイズの粗大粒子(ドロップレット)が生成することが知られており、実施例1−2において得られた試料中にも、当該プロセスによってドロップレットが酸化されたと考えられる粗大な接合ナノ粒子が存在していた。図6(a)は、そのような合金ドロップレットの酸化によって生成した粒子のTEM写真であり、長辺の長さが80nmの四角柱形のNiOの表面上に半球状のAuが1個接合した接合構造体となっている。エネルギー分散型X線分光分析によって、この粒子の組成分析を行った結果、金属成分中のAuの組成は33.1at.%であり、原料組成よりもAu組成の増大が見られた。図6(a)の濃いコントラストを示す半球状部分の先端部(A部分)に、半値強度全幅14nmφの電子ビームを照射し分析した結果、図6(b)の太線に示す通り、Niは検出されず、Auのみが検出された。また、図6(a)の薄いコントラストの四角柱部分の端(B部分)を同様に分析した結果、図6(b)の細線に示す通り、Auは検出されず、Niが検出された。ここで、Cuの信号は非晶質炭素膜が貼られたCuメッシュに因るものである。以上の結果から、このような大きな粒子においても、非常に良好にAuとNiOとの接合構造体が生成していることがわかった。
【0029】
(実施例1−3:Ni-40at.%Au合金ペレットを用いた例)
Ni-40at.%Au合金ペレット(純度99.95%, 19mmφ×4mmt)をターゲットとして用いることによって、Auナノ粒子とNiOナノ粒子との接合構造体の生成を試みた。実験条件は合金ペレット以外ほぼ実施例1−1と同一であるが、凝集体の焼結プロセスに用いた予備加熱機構(900℃)は粒子生成装置の外部に設置された。図7に接合構造体のTEM写真を示す。四角柱形のNiOが主に生成されており、各々の四角柱形の底面を接合面として半球状のAuナノ粒子が1個付着している像が確認できる。図8に、四角柱形のNiOナノ粒子および立方体形のNiOナノ粒子とAuナノ粒子との接合構造体の高分解能TEM写真を示す。図3図5と同様に、NiO(100)面とAu(111)面が平行にヘテロ接合されている。エネルギー分散型X線分光分析による粒子の組成分析の結果、成分金属元素中のAuの組成は40.7at.%であった。この組成は原料合金ペレットのAuの組成とほぼ一致した。
【0030】
(実施例1−4:Ni-80at.%Au合金ペレットを用いた例)
Ni-80at.%Au合金ペレット(純度99.95%, 16mmφ×3mmt)をターゲットとして用いることによって、Auナノ粒子とNiOナノ粒子との接合構造体の生成を試みた。実験条件は合金ペレット以外すべて実施例1−3と同一である。図9に、立方体形のNiOナノ粒子とAuナノ粒子との接合構造体の高分解能TEM写真を示す。エネルギー分散型X線分光分析による粒子の組成分析の結果、成分金属元素中のAuの組成は83.3at.%であった。この組成は原料合金ペレットのAuの組成に近い。
【0031】
(実施例2:立方体形又は四角柱形NiOナノ粒子とPtナノ粒子との接合構造体の製造)
(実施例2−1:Ni-5at.%Pt合金ペレットを用いた例)
Ni-5at.%Pt合金ペレット(純度99.9%,20mmφ×5mmt)をターゲットとして用いることによって、NiOナノ粒子とPtナノ粒子との接合構造体の生成を試みた。実験条件は合金ペレット以外すべて実施例1−1と同一である。図10に接合構造体のTEM写真を示す。各々の四角柱形や立方体形のNiOナノ粒子の表面上に小さなPtナノ粒子が1個付着している像が確認できる。図11に接合構造体の高分解能TEM写真を示す。NiOとPtとの格子縞が整列して接合されていることから、両相は良好にヘテロ接合されていることがわかる。図16(c)の電子回折の結果から、NiOは岩塩型構造であることが同定された。図17(c)のエネルギー分散型X線分光分析による粒子の組成分析の結果、金属成分はNiとPtのみが検出され、Ptの組成は3.9at.%であった。この組成は原料合金ペレットのPtの組成とほぼ一致した。
【0032】
(実施例2−2:Ni-20at.%Pt合金ペレットを用いた例)
Ni-20at.%Pt合金ペレット(純度99.95%, 17mmφ×4mmt)をターゲットとして用いることによって、Ptナノ粒子とNiOナノ粒子との接合構造体の生成を試みた。実験条件は合金ペレット以外すべて実施例1−3と同一である。図12に接合構造体のTEM写真を示す。四角柱形のNiOが主に生成されており、夫々にPtナノ粒子が1個付着している像が確認できる。図13に、四角柱形のNiOナノ粒子とPtナノ粒子との接合構造体の高分解能TEM写真を示す。エネルギー分散型X線分光分析による粒子の組成分析の結果、成分金属元素中のPtの組成は24.1at.%であった。この値は原料合金ペレットのPtの組成よりやや大きい。
【0033】
(実施例3:立方体形又は四角柱形CoOナノ粒子とAuナノ粒子との接合構造体の製造)
Co-5at.%Au合金ペレット(純度99.9%,20mmφ×5mmt)をターゲットとして用いることによって、CoOナノ粒子とAuナノ粒子との接合構造体の生成を試みた。実験条件は合金ペレット以外すべて実施例1−1と同一である。図14に接合構造体のTEM写真を示す。各々の四角柱形や立方体形のCoOナノ粒子の表面上に小さなAuナノ粒子が1個付着している像が確認できる。図15に接合構造体の高分解能TEM写真を示す。実施例1と似て、CoO(100)とAu(111)が平行になっており、両相は良好にヘテロ接合されていることがわかる。図16(d)の電子回折の結果から、CoOは岩塩型構造であることが同定された。図17(d)のエネルギー分散型X線分光分析による粒子の組成分析の結果、金属成分はCoとAuのみが検出され、Auの組成は2.2at.%であった。この組成は原料合金ペレットのAuの組成よりやや減少していた。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明は、岩塩型酸化物ナノ粒子と金属ナノ粒子との接合構造体、及び、その高純度な生成法であって、岩塩型酸化物ナノ粒子が立方体形や四角柱形の形状を有し、高い結晶性も兼ね備える。NiOやCoOは金属イオンが化学量論比よりも不足するp型半導体である。本発明によれば、p型半導体のNiOやCoOなどのナノ粒子の形状を立方体形や四角柱形とし、さらにその表面に金属ナノ粒子を接合させた接合構造体として提供することが可能である。立方体形や四角柱形のナノ粒子は、従来の球形を基本としたナノ粒子の形状とは異なり、固体基板表面への特定結晶方位での配列・接合などの点で非常に有望である。さらに、金属ナノ粒子が予め接合されているために、電極としてすぐに利用が可能である。以上の構造的な特徴から、ナノスケールのダイオード、抵抗スイッチング素子、光応答性センサーデバイス、太陽電池などへの応用が期待される。金属ナノ粒子は、主に貴金属であることから、貴金属/酸化物界面による触媒特性を得ることもできる。本発明の製造法で生成された粒子表面は原子レベルで清浄であり、液相合成においては不可欠な粒子表面の化学物質による汚染の除去などは一切不要なメリットもある。以上の通り、本発明はナノスケールでのデバイス構築や触媒生成にとって非常に有望な技術を有しており、非常に幅広い産業上の応用が期待できる。
【符号の説明】
【0035】
A 合金ナノ粒子生成装置
B 加熱器
C 捕集器
D 排気ポンプ
1 配管(不活性ガス供給用)
2 流量調節バルブ(不活性ガス供給用)
3 加熱管
4 流量調節バルブ(酸化性ガス供給用)
5 配管(酸化性ガス供給用)
6 配管(排気用)
7 圧力調整バルブ
8 配管(排気ポンプの排気用)
B及び3 熱酸化処理器
図1
図2
図3
図4
図5
図6a
図6b
図7
図8
図9
図10
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図12
図13
図14
図15
図16a
図16b
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図17a
図17b
図17c
図17d