(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記液晶ポリエステルが、下記式(1)で表される繰返し単位と、下記式(2)で表される繰返し単位と、下記式(3)で示される繰返し単位とを有することを特徴とする請求項1に記載の液晶ポリエステル含有液状組成物。
(1)−O−Ar1−CO−
(2)−CO−Ar2−CO−
(3)−X−Ar3−Y−
(Ar1は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。Ar2及びAr3は、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基を表す。Ar1、Ar2又はAr3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar4−Z−Ar5−
(Ar4及びAr5は、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
前記液晶ポリエステルが、自身を構成する全繰返し単位の合計量に対して、前記式(1)で表される繰返し単位を30モル%以上80モル%以下、前記式(2)で表される繰返し単位を10モル%以上35モル%以下、前記式(3)で示される繰返し単位を10モル%以上35モル%以下有することを特徴とする請求項2に記載の液晶ポリエステル含有液状組成物。
前記式(3)で示される繰返し単位において、X及びYのいずれか一方または両方が、イミノ基であることを特徴とする請求項2または3に記載の液晶ポリエステル含有液状組成物。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本実施形態の液晶ポリエステル含有液状組成物は、液晶ポリエステルと無機充填材と溶媒とを含む液晶ポリエステル含有液状組成物であって、前記液晶ポリエステル含有液状組成物中の前記無機充填材が、体積平均粒径が1.5μm以下であり、且つ、前記液晶ポリエステル液状組成物中の無機充填材の粒度分布の標準偏差が6以下である。
【0018】
また、本実施形態の液晶ポリエステル含有液状組成物の製造方法は、溶媒に無機充填材を分散させて分散液を得る工程と、前記分散液に液晶ポリエステルを溶解させる工程と、を有する。
なお、以下の説明においては、液晶ポリエステル含有液状組成物を「液状組成物」と略記することがある。以下、順に説明する。
【0019】
(液晶ポリエステル)
本実施形態で用いる液晶ポリエステルは、溶融状態で液晶性を示す液晶ポリエステルであり、450℃以下の温度で溶融するものであることが好ましい。なお、液晶ポリエステルは、液晶ポリエステルアミドであってもよいし、液晶ポリエステルエーテルであってもよいし、液晶ポリエステルカーボネートであってもよいし、液晶ポリエステルイミドであってもよい。液晶ポリエステルは、原料モノマーとして芳香族化合物のみを用いてなる全芳香族液晶ポリエステルであることが好ましい。
【0020】
液晶ポリエステルの典型的な例としては、芳香族ヒドロキシカルボン酸と芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを重合(重縮合)させてなるもの、複数種の芳香族ヒドロキシカルボン酸を重合させてなるもの、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物とを重合させてなるもの、及びポリエチレンテレフタレート等のポリエステルと芳香族ヒドロキシカルボン酸とを重合させてなるものが挙げられる。ここで、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンは、それぞれ独立に、その一部又は全部に代えて、その重合可能な誘導体が用いられてもよい。
【0021】
芳香族ヒドロキシカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸のようなカルボキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、カルボキシル基をアルコキシカルボニル基又はアリールオキシカルボニル基に変換してなるもの(エステル)、カルボキシル基をハロホルミル基に変換してなるもの(酸ハロゲン化物)、及びカルボキシル基をアシルオキシカルボニル基に変換してなるもの(酸無水物)が挙げられる。芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジオール及び芳香族ヒドロキシアミンのようなヒドロキシル基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、ヒドロキシル基をアシル化してアシルオキシル基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。芳香族ヒドロキシアミン及び芳香族ジアミンのようなアミノ基を有する化合物の重合可能な誘導体の例としては、アミノ基をアシル化してアシルアミノ基に変換してなるもの(アシル化物)が挙げられる。
【0022】
液晶ポリエステルは、下記式(1)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(1)」ということがある。)を有することが好ましく、繰返し単位(1)と、下記式(2)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(2)」ということがある。)と、下記式(3)で表される繰返し単位(以下、「繰返し単位(3)」ということがある。)と、を有することがより好ましい。
(1)−O−Ar
1−CO−
(2)−CO−Ar
2−CO−
(3)−X−Ar
3−Y−
(Ar
1は、フェニレン基、ナフチレン基又はビフェニリレン基を表す。Ar
2及びAr
3は、それぞれ独立に、フェニレン基、ナフチレン基、ビフェニリレン基又は下記式(4)で表される基を表す。X及びYは、それぞれ独立に、酸素原子又はイミノ基(−NH−)を表す。Ar
1、Ar
2又はAr
3で表される前記基にある水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基又はアリール基で置換されていてもよい。)
(4)−Ar
4−Z−Ar
5−
(Ar
4及びAr
5は、それぞれ独立に、フェニレン基又はナフチレン基を表す。Zは、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基又はアルキリデン基を表す。)
【0023】
前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が挙げられる。
【0024】
前記アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、n−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、n−オクチル基及びn−デシル基が挙げられ、その炭素数は、好ましくは1〜10である。
【0025】
前記アリール基の例としては、フェニル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、1−ナフチル基及び2−ナフチル基が挙げられ、その炭素数は、好ましくは6〜20である。
【0026】
前記水素原子がこれらの基で置換されている場合、その数は、Ar
1、Ar
2又はAr
3で表される前記基毎に、それぞれ独立に、好ましくは2個以下であり、より好ましくは1個である。
【0027】
前記アルキリデン基の例としては、メチレン基、エチリデン基、イソプロピリデン基、n−ブチリデン基及び2−エチルヘキシリデン基が挙げられ、その炭素数は好ましくは1〜10である。
【0028】
繰返し単位(1)は、所定の芳香族ヒドロキシカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(1)としては、Ar
1がp−フェニレン基であるもの(p−ヒドロキシ安息香酸に由来する繰返し単位)、又はAr
1が2,6−ナフチレン基であるもの(6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0029】
繰返し単位(2)は、所定の芳香族ジカルボン酸に由来する繰返し単位である。繰返し単位(2)としては、Ar
2がp−フェニレン基であるもの(テレフタル酸に由来する繰返し単位)、Ar
2がm−フェニレン基であるもの(イソフタル酸に由来する繰返し単位)、Ar
2が2,6−ナフチレン基であるもの(2,6−ナフタレンジカルボン酸に由来する繰返し単位)、又はAr
2がジフェニルエ−テル−4,4’−ジイル基であるもの(ジフェニルエ−テル−4,4’−ジカルボン酸に由来する繰返し単位)が好ましい。
【0030】
繰返し単位(3)は、所定の芳香族ジオール、芳香族ヒドロキシルアミン又は芳香族ジアミンに由来する繰返し単位である。繰返し単位(3)としては、Ar
3がp−フェニレン基であるもの(ヒドロキノン、p−アミノフェノール又はp−フェニレンジアミンに由来する繰返し単位)、又はAr
3が4,4’−ビフェニリレン基であるもの(4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4−アミノ−4’−ヒドロキシビフェニル又は4,4’−ジアミノビフェニルに由来する繰返し単位)が好ましい。
【0031】
繰返し単位(1)の含有量は、全繰返し単位の合計量(液晶ポリエステルを構成する各繰返し単位の質量をその各繰返し単位の式量で割ることにより、各繰返し単位の物質量相当量(モル)を求め、それらを合計した値)に対して、好ましくは30モル%以上、より好ましくは30モル%以上80モル%以下、さらに好ましくは30モル%以上60モル%以下、よりさらに好ましくは30モル%以上40モル%以下である。
【0032】
同様に、繰返し単位(2)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10モル%以上35モル%以下、さらに好ましくは20モル%以上35モル%以下、よりさらに好ましくは30モル%以上35モル%以下である。
【0033】
同様に、繰返し単位(3)の含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは35モル%以下、より好ましくは10モル%以上35モル%以下、さらに好ましくは20モル%以上35モル%以下、よりさらに好ましくは30モル%以上35モル%以下である。
【0034】
これらは、繰返し単位(1)の含有量が多いほど、耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、あまり多いと、有機溶媒に対する溶解性が低くなり易い。
【0035】
繰返し単位(2)の含有量と繰返し単位(3)の含有量との割合は、[繰返し単位(2)の含有量]/[繰返し単位(3)の含有量](モル/モル)で表して、好ましくは0.9/1〜1/0.9、より好ましくは0.95/1〜1/0.95、さらに好ましくは0.98/1〜1/0.98である。
【0036】
なお、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)を、それぞれ独立に、2種以上有してもよい。また、液晶ポリエステルは、繰返し単位(1)〜(3)以外の繰返し単位を有してもよいが、その含有量は、全繰返し単位の合計量に対して、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下である。
【0037】
液晶ポリエステルは、繰返し単位(3)として、XとYとのいずれか一方または両方がイミノ基であるものを有すること、すなわち、所定の芳香族ヒドロキシルアミンに由来する繰返し単位と、芳香族ジアミンに由来する繰返し単位と、のいずれか一方または両方を有することが、有機溶媒に対する溶解性が優れるので、好ましく、繰返し単位(3)として、XとYとのいずれか一方または両方がイミノ基であるもののみを有することが、より好ましい。
【0038】
液晶ポリエステルは、それを構成する繰返し単位に対応する原料モノマーを溶融重合させ、得られた重合物(プレポリマー)を固相重合させることにより、製造することが好ましい。これにより、耐熱性や強度・剛性が高い高分子量の液晶ポリエステルを操作性良く製造することができる。溶融重合は、触媒の存在下に行ってもよく、この触媒の例としては、酢酸マグネシウム、酢酸第一錫、テトラブチルチタネート、酢酸鉛、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、三酸化アンチモン等の金属化合物や、4−(ジメチルアミノ)ピリジン、1−メチルイミダゾール等の含窒素複素環式化合物が挙げられ、含窒素複素環式化合物が好ましく用いられる。
【0039】
液晶ポリエステルは、その流動開始温度が、好ましくは250℃以上、より好ましくは250℃以上350℃以下、さらに好ましくは260℃以上330℃以下である。流動開始温度が高いほど、耐熱性や強度・剛性が向上し易いが、あまり高いと、有機溶媒に対する溶解性が低くなり易かったり、液状組成物の粘度が高くなり易かったりする。
【0040】
なお、流動開始温度は、フロー温度又は流動温度とも呼ばれ、毛細管レオメーターを用いて、9.8MPa(100kg/cm
2)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、内径1mm及び長さ10mmのノズルから押し出すときに、4800Pa・s(48000ポイズ)の粘度を示す温度であり、液晶ポリエステルの分子量の目安となるものである(小出直之編、「液晶ポリマー−合成・成形・応用−」、株式会社シーエムシー、1987年6月5日、p.95参照)。
【0041】
(溶媒)
本実施形態の液状組成物では、溶媒として、用いる液晶ポリエステルが溶解可能なもの、具体的には50℃にて1質量%以上の濃度([液晶ポリエステル]/[液晶ポリエステル+溶媒])で溶解可能なものが、適宜選択して用いられる。
【0042】
溶媒の例としては、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、o−ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;p−クロロフェノール、ペンタクロロフェノール、ペンタフルオロフェノール等のハロゲン化フェノール;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル;アセトン、シクロヘキサノン等のケトン;酢酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステル;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート;トリエチルアミン等のアミン;ピリジン等の含窒素複素環芳香族化合物;アセトニトリル、スクシノニトリル等のニトリル;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド;テトラメチル尿素等の尿素化合物;ニトロメタン、ニトロベンゼン等のニトロ化合物;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の硫黄化合物;及びヘキサメチルリン酸アミド、トリn−ブチルリン酸等のリン化合物が挙げられる。これらの化合物は、2種以上を混合して用いてもよい。
【0043】
溶媒としては、腐食性が低く、取り扱い易いことから、非プロトン性化合物、特にハロゲン原子を有しない非プロトン性化合物を主成分とする溶媒が好ましい。このような非プロトン性化合物としては、液晶ポリエステルを溶解し易いことから、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミドを用いることが好ましい。溶媒全体に占める非プロトン性化合物の割合は、好ましくは50質量%以上100質量%以下、より好ましくは70質量%以上100質量%以下、さらに好ましくは90質量%以上100質量%以下である。
【0044】
また、溶媒としては、液晶ポリエステルを溶解し易いことから、双極子モーメントが3〜5である化合物を主成分とする溶媒が好ましい。溶媒全体に占める双極子モーメントが3〜5である化合物の割合は、好ましくは50質量%以上100質量%以下、より好ましくは70質量%以上100質量%以下、さらに好ましくは90質量%以上100質量%以下である。前記非プロトン性化合物として、双極子モーメントが3〜5(単位:デバイ)である化合物を用いることが好ましい。
【0045】
非プロトン性化合物であり、且つ双極子モーメントが3〜5である化合物としては、ジメチルスルホキシド(双極子モーメント:4.1デバイ)、N,N−ジメチルアセトアミド(3.7デバイ)、N,N−ジメチルホルムアミド(3.9デバイ)、N−メチルピロリドン(4.1デバイ)を例示することができる。
【0046】
また、溶媒としては、液状組成物の流延後や含浸後に除去し易いことから、1気圧における沸点が220℃以下である化合物を主成分とするとする溶媒が好ましい。溶媒全体に占める1気圧における沸点が220℃以下である化合物の割合は、好ましくは50質量%以上100質量%以下、より好ましくは70質量%以上100質量%以下、さらに好ましくは90質量%以上100質量%以下である。前記非プロトン性化合物として、1気圧における沸点が220℃以下である化合物を用いることが好ましい。
【0047】
非プロトン性化合物であり、且つ1気圧における沸点が220℃以下である化合物としては、N,N−ジメチルアセトアミド(沸点:160℃)N,N−ジメチルホルムアミド(153℃)を例示することができる。
【0048】
液状組成物中の液晶ポリエステルの含有量は、液晶ポリエステル及び有機溶媒の合計量に対して、好ましくは5質量%以上60質量%以下、より好ましくは10質量%以上50質量%以下、さらに好ましくは15質量%以上45質量%以下である。この含有量は、所望の液状組成物の粘度が得られるように適宜調整することができる。また、液晶ポリエステルフィルムの製造に用いる場合は、所望のフィルム厚が得られるように調整することとしてもよい。また、液晶ポリエステル含浸基材の製造に用いる場合は、繊維シートに所望量の液晶ポリエステルを含浸させることが可能となるように、調整することとしても構わない。
【0049】
(無機充填材)
本実施形態の液状組成物は、得られる成形体の寸法安定性、熱伝導性、電気特性など種々の特性の改善を目的として、目的に応じて適宜選択した無機充填材を含有する。無機充填材の例としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム等が挙げられる。無機充填材の含有量は、液晶ポリエステル100質量部に対して、0質量部より多く100質量部以下であることが好ましい。
【0050】
例えば、成形体の寸法安定性を改良する目的においては、シリカが好適に用いられる。また、シリカの形状は、略球状であることが好ましい。
【0051】
本実施形態の無機充填材として用いるシリカの体積平均粒径は、好ましくは0.1μm以上1.5μm以下、より好ましくは0.3μm以上1μm以下、さらに好ましくは0.4μm以上0.7μm以下である。シリカの体積平均粒径があまり小さいと、液状組成物の中でシリカ同士が凝集し易く、あまり大きいと、液状組成物から成形されたシートが高湿下に曝されたときに強度が低下し易い。なお、シリカの体積平均粒径は、レーザー回折法により測定できる。
【0052】
用いるシリカは、液状組成物の中で分散させ易くする、またシリカ同士の凝集を抑制する目的で表面処理を施してもよい。このような表面処理としては、特に限定されるものではないが、例えば、アルキル基やフルオロアルキル基を有するアルコキシシラン等のケイ素化合物などをシリカの表面に付着させ、シリカの表面エネルギーを低減させる処理を挙げることができる。
【0053】
本実施形態の液状組成物では、無機充填材は、体積平均粒径が1.5μm以下であり、且つ、液状組成物中の粒度分布の標準偏差が6以下となるように制御されている。このような液状組成物では、無機充填材の凝集体が少なく、凝集体が多く存在する液状組成物よりも粘度上昇が緩やかになる。
【0054】
なお、液状組成物中の無機充填材の体積平均粒径および標準偏差については、N,N−ジメチルアセトアミドを用いて液状組成物を固形分濃度約0.02質量%に希釈した後、希釈した液状組成物について、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置((株)堀場製、LA−950V2)を用い、測定して得られる値を採用した。
【0055】
(製造方法)
液状組成物の製造方法としては、無機充填材を溶媒に分散させる工程と、無機充填材と溶媒との分散液に液晶ポリエステルを溶解させる工程と、を有する製造方法を挙げることができる。この方法を採用することにより、液状組成物における無機充填材の凝集を抑制することができ、得られる液状組成物がゲル化するまでの時間を長くすることができる。
【0056】
液晶ポリエステルを溶媒に溶解させると、得られる溶液は溶媒よりも高粘度となるため、当該溶液に無機充填材を分散させようとしても分散しにくく、凝集しやすい。対して、液晶ポリエステルを溶解させる前に予め無機充填材を溶媒に分散させておくと、その後液晶ポリエステルを溶解させることにより、無機充填材の凝集を抑制することが可能となる。
【0057】
また、液状組成物における無機充填材を所望の分散状態(粒径及び標準偏差)とするために、用いる無機充填材の粒径、粒度分布、粒子形状、表面処理の有無を適宜制御することとしてもよい。
本実施形態の液状組成物は、以上のような構成となっている。
【0058】
以上のような構成の液晶ポリエステル含有液状組成物によれば、保存中の粘度上昇を抑制したものとなる。
【0059】
また、以上のような製造方法によれば、粘度上昇を抑制した液晶ポリエステル含有液状組成物を好適に製造することができる。
【実施例】
【0060】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、液晶ポリエステルの流動開始温度、液状組成物の粘度、液状組成物中の粒度分布および体積平均粒径は、以下の方法で測定した。
【0061】
〔液晶ポリエステルの流動開始温度の測定〕
フローテスター((株)島津製作所の「CFT−500型」)を用いて、液晶ポリエステル約2gを、内径1mm及び長さ10mmのノズルを有するダイを取り付けたシリンダーに充填し、9.8MPa(100kg/cm
2)の荷重下、4℃/分の速度で昇温しながら、液晶ポリエステルを溶融させ、ノズルから押し出し、4800Pa・s(48000P)の粘度を示す温度を測定した。
【0062】
〔液状組成物の粘度の測定〕
液状組成物について、B型粘度計(東機産業(株)の「TVL−20型」)を用いて、No.21のローターにより、測定温度23℃、回転数20rpmで測定した。用いた粘度計の測定上限は30000mPa・sであり、測定上限を超える粘度を有する液状組成物は「ゲル化」したものとして評価した。
【0063】
〔粒度分布および体積平均粒径の測定〕
N,N−ジメチルアセトアミドを用いて液状組成物を固形分濃度約0.02質量%に希釈した後、希釈した液状組成物について、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置((株)堀場製、LA−950V2)を用いて測定した。なお、液状組成物の希釈は、装置の測定セルに約180mLのN,N−ジメチルアセトアミドを入れ、そこに液状組成物を0.1〜0.2mL滴下した後、セル内の溶液を測定装置に付設されたポンプで循環させることにより行った。
【0064】
〔合成例:液晶ポリエステルの製造〕
攪拌装置、トルクメータ、窒素ガス導入管、温度計及び還流冷却器を備えた反応器に、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸1976g(10.5モル)、4−ヒドロキシアセトアニリド1474g(9.75モル)、イソフタル酸1620g(9.75モル)及び無水酢酸2374g(23.25モル)を入れ、反応器内のガスを窒素ガスで置換した後、窒素ガス気流下、攪拌しながら、室温から150℃まで15分かけて昇温し、150℃で3時間還流させた。
【0065】
次いで、副生酢酸及び未反応の無水酢酸を留去しながら、150℃から300℃まで2時間50分かけて昇温し、300℃で1時間保持した後、反応器から内容物を取り出し、室温まで冷却した。得られた固形物を、粉砕機で粉砕して、粉末状のプレポリマーを得た。このプレポリマーの流動開始温度は、235℃であった。
【0066】
次いで、このプレポリマーを、窒素雰囲気下、室温から223℃まで6時間かけて昇温し、223℃で3時間保持することにより、固相重合させた後、冷却して、粉末状の液晶ポリエステルを得た。この液晶ポリエステルの流動開始温度は、270℃であった。
【0067】
(実施例1)
球状溶融シリカ(アドマテック社製、「SO−C2」、体積平均粒径0.5μm)81.4gと、N,N−ジメチルアセトアミド54.3gとを、攪拌脱泡装置((株)シンキー社製、自転公転ミキサーあわとり練太郎ARE−500)を用いて分散させ、シリカのN,N−ジメチルアセトアミド分散液を作製した。詳しくは、球状溶融シリカとN,N−ジメチルアセトアミドとの混合液に、目的とする分散液の重量に対して約10%のガラスビーズを添加した後、上記攪拌脱泡装置を用いて1000rpmで5分間攪拌し、次いで1500rpmで5分間攪拌することにより、分散液を作製した。
【0068】
次いで、合成例で得られた液晶ポリエステル202.1gと、シリカのN,N−ジメチルアセトアミド分散液135.7gとを、N,N−ジメチルアセトアミド662.2gに加え、100℃で2時間攪拌して、液状組成物Aを得た。液状組成物Aの粒度分布を測定したところ、体積平均粒径が1.2μm、粒度分布の標準偏差(σ)が5.5であり、凝集体と思われる、10μmを超えるピークは見られなかった。
【0069】
液状組成物Aの粘度(初期)を測定したところ446mPa・sであった。また、23℃で保存したところ、液状組成物Aは6日後にゲル化した。
【0070】
(比較例1)
合成例で得られた液晶ポリエステル220g、N,N−ジメチルアセトアミド780gに加え、100℃で2時間攪拌して、液晶ポリエステル溶液を得た。この溶液の粘度(初期)を測定したところ200mPa・sであった。
【0071】
得られた液晶ポリエステル溶液275.6gと、球状シリカ(アドマテック社製、「SO−C2」、体積平均粒径0.5μm)24.4gとを、攪拌脱泡装置により分散させて液状組成物Bを得た。液状組成物Bの粒度分布を測定したところ、体積平均粒径が2.1μm、粒度分布の標準偏差(σ)が10.2で、凝集体と思われるピークが観測された。
【0072】
液状組成物Bの粘度(初期)を測定したところ311mPa・sであった。また、23℃で保存したところ、液状組成物Bは翌日にゲル化した。
【0073】
(比較例2)
合成例で得られた液晶ポリエステル220g、N,N−ジメチルアセトアミド780gに加え、100℃で2時間攪拌して、液晶ポリエステル溶液を得た。この溶液の粘度(初期)を測定したところ200mPa・sであった。
【0074】
得られた液晶ポリエステル溶液275.6gと、球状シリカ(龍森社製、「MP−8FS」、体積平均粒径0.5μm)24.4gとを、攪拌脱泡装置により分散させて液状組成物Cを溶液として得た。液状組成物Cの粒度分布を測定したところ、体積平均粒径が2.3μm、粒度分布の標準偏差(σ)が9.8で、凝集体と思われるピークが観測された。
【0075】
液状組成物Cの粘度(初期)を測定したところ236mPa・sであった。また、23℃で保存したところ、液状組成物Cは翌日にゲル化した。
【0076】
実施例1および比較例1、2について、初期及び保存中の液状組成物の23℃における粘度を下表1に示す。
【0077】
【表1】
【0078】
測定の結果、実施例1の液状組成物は、比較例1,2の液状組成物よりもゲル化するまでに長時間を要し、粘度上昇が抑制されていることが分かった。
これらの結果から、本発明の有用性が確かめられた。