(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
卵白は、アミノ酸バランスが良い上に体内で効率良く利用される良質の蛋白質であり、乾燥卵白や生卵白として栄養成分等を調整する目的で、多くの健康食品に配合されている。また、卵白をプロテアーゼ処理により加水分解した卵白加水分解物は、原料卵白では得られなかった機能を発揮する場合があり、従来から、卵白加水分解物の有効利用について検討されている。
【0003】
例えば、卵白加水分解物の抗酸化機能を利用した酸化安定性に優れた高度不飽和脂肪酸を含む油脂組成物(特許文献1)あるいは抗酸化力を有した調味料(特許文献2)、血圧降下作用を有する卵白の酵素加水分解物(特許文献3)のほか、さらなる卵白加水分解物の有効利用が望まれている。
【0004】
また、疲労を予防または回復させる目的で、蛋白質の加水分解物が利用されており、例えば、食肉蛋白質由来の蛋白加水分解物が提案されている(特許文献4)。
疲労は、身体的あるいは精神的負荷が連続して与えられたときに見られる、一時的な身体的および精神的作業能力の質的あるいは量的な低下現象である。疲労が自然に回復せず、常に疲れている状態から抜け出せなくなった時、慢性疲労と呼ばれる病気に近い状態や実際に病気となる場合があるため、疲労を抑制する蛋白質加水分解物は有用である。また、運動時の筋肉疲労を抑制する蛋白質加水分解物は、運動パフォーマンスの向上、長時間の運動を可能にできるため有用である。
【0005】
蛋白質加水分解物の製造方法としては、蛋白質を塩酸加水分解し、次いでアルカリ条件下で加熱する方法や(特許文献5)、プロテアーゼ処理で加水分解する方法が知られている。しかし、蛋白質の中でも卵白は、加熱すると硫黄臭が発生し、食品に用いた場合に食材の風味に影響を及ぼすという特有の問題があり、アルカリ存在下で加熱処理すると更に硫黄臭が強くなることが知られている。また、卵白をプロテアーゼ処理した場合も、その後のプロテアーゼの失活処理(例えば、80〜100℃、5〜30分)により同様の硫黄臭が発生するため、卵白加水分解物を食品に用いた場合も、同様の問題を有している。
【0006】
蛋白質加水分解物の風味改善方法としては、乳蛋白質加水分解物を濾過処理した後、加温処理し、これを活性炭処理及び限外濾過膜で処理する方法が知られている(特許文献6)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において、格別に断らない限り、「部」は「質量部」を意味し、「%」は「質量%」を意味する。
【0015】
1.抗疲労剤
本発明の抗疲労剤は、分解度が5〜40、かつ、平均分子量が200〜1500であり、硫化水素量が2ppm以下である卵白加水分解物を有効成分として含有することを特徴とする。
【0016】
説明の便宜上、本発明で規定する卵白加水分解物の代表的な製造方法を先に説明する。
【0017】
1.1.卵白加水分解物の製造方法
本発明に係る卵白加水分解物の製造方法は、液卵白1部に対し0.4〜3部の水で希釈した卵白希釈液を、pH9〜12、55〜90℃の条件下で加熱処理して卵白を変性させる前処理工程と、プロテアーゼにより加水分解処理する工程とを含むことを特徴とする。
【0018】
1.1.1.前処理工程
本発明に係る卵白加水分解物の製造方法は、液卵白1部に対し0.4〜3部の水で希釈した卵白希釈液を、pH9〜12、55〜90℃の条件下で加熱処理して卵白を変性させる前処理工程を含むことにより、卵白加水分解物の硫黄臭を低減することができる。
【0019】
本発明の原料として用いられる卵白としては、鶏卵等の家禽卵を割卵し卵黄を除いた生卵白は言うまでもなく、さらに生卵白を酵母、細菌、酵素により脱糖処理を施した卵白、あるいはこれらの卵白を逆浸透や限外濾過等で処理した濃縮卵白、噴霧乾燥や凍結乾燥により得られる乾燥卵白等が挙げられる。これらの中でも、褐変を防止することができる観点から、脱糖処理を施した卵白を用いることが好ましい。
【0020】
本発明において液卵白とは、生卵白と同等の水分含量(通常88%)である卵白のことをいい、生卵白と同等の水分含量となるように水戻しを行った乾燥卵白、濃縮卵白等も本発明の液卵白に含まれる。
【0021】
脱糖された卵白は、遊離グルコースが0.4mg/mL以下であることが好ましく、0.2mg/mL以下であることがより好ましい。ここで、遊離グルコースの濃度(mg/mL)は、固形分濃度が12%の卵白(mL)に含まれる遊離グルコースの質量(mg)を示す。
【0022】
遊離グルコースの濃度は、例えば、メディセーフリーダーGR−101(テルモ社製)、メディセーフチップMS−GC25(血糖試験測定チップ)(テルモ社製)を用いて測定することができる。具体的には、メディセーフリーダーにチップを装着し、固形分濃度が12%の卵白をチップにつけて遊離グルコースの濃度を測定する。また、ハイテスパーG栄研(栄研化学製)等の尿糖検査用試験紙を用いて判定してもよい。
【0023】
本発明に記載の卵白希釈液における加水量は、液卵白1部に対し、0.4〜3部であり、好ましくは0.6〜2.5部、より好ましくは0.8〜2部である。液卵白1部に対する加水量が0.4部未満である場合、加熱時に卵白が凝固し、後述するプロテアーゼによる加水分解処理ができない場合がある。一方、液卵白1部に対する加水量が3部を超える場合、収率が低下する場合がある。また、加水分解処理後の卵白加水分解物を乾燥させる場合、作業コストが大きくなり望ましくない。
【0024】
上記前処理工程におけるpHは9〜12であり、好ましくは9.5〜11.5、より好ましくは10〜11である。pHが9未満であると、本発明の硫黄臭低減効果を奏さない。一方、pHが12を超えると、加熱時に卵白が凝固し、後述するプロテアーゼによる加水分解処理ができない場合がある。また、pHが12以下の場合よりも硫黄臭が強くなる場合がある。なお、卵白加水分解物のpH調整は例えば、アルカリ性水溶液(例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムなど)を用いて行うことができる。
【0025】
前処理工程における加熱温度は55〜90℃であり、好ましくは60〜85℃、より好ましくは65〜75℃である。加熱温度が55℃未満であると、本発明の硫黄臭低減効果を奏さない。一方、加熱温度が90℃を超えると、加熱時に卵白が凝固し、後述するプロテアーゼによる加水分解処理ができない場合がある。また、加熱温度が90℃以下の場合よりも硫黄臭が強くなる場合がある。
【0026】
処理工程における加熱時間は、卵白が適度に変性する条件であれば特に限定するものではないが、3〜60分の範囲で適宜選択すればよい。
【0027】
1.1.2.プロテアーゼにより加水分解処理する工程
本発明に係る卵白加水分解物の製造方法は、上記前処理工程の後に、プロテアーゼにより加水分解処理する工程を含むことにより、卵白加水分解物の硫黄臭を低減することができる。
【0028】
本発明に係る卵白加水分解物の製造方法は、上記前処理した卵白希釈液をpH6〜8に調整した後、プロテアーゼにより加水分解処理することにより、卵白加水分解物の硫黄臭低減効果を高めることができるため好ましい。なお、卵白加水分解物のpHの調整は例えば、酸性水溶液(例えば塩酸、リン酸)を用いて行うことができる。
【0029】
加水分解に用いるプロテアーゼは、特に限定するものではないが、例えば、ペプシン、キモトリプシン、トリプシン、パンクレアチンなどの動物由来プロテアーゼ、パパイン、ブロメライン、フィシンなどの植物由来プロテアーゼ、微生物(乳酸菌、枯草菌、放線菌、カビ、酵母など)由来のエンドプロテアーゼ、エキソプロテアーゼならびにこれらの粗精製物および菌体破砕物等が挙げられ、これらの1種または2種以上を組合せて用いることができる。
【0030】
前処理した卵白希釈液のpHを6〜8に調整した後、加水分解処理する場合、これらのプロテアーゼのうち、中性プロテアーゼを使用して卵白を加水分解すると、反応が効率よく進むため、本発明に好適である。中性プロテアーゼとしては、バチルス属菌起源の中性プロテアーゼ、アスペルギルス属菌起源の中性プロテアーゼを用いればよい。バチルス属菌起源の中性プロテアーゼの市販品としては、例えば、商品名:プロテアーゼS「アマノ」(起源:Bacillus stearothermophilus、天野エンザイム社製)、商品名:プロテアーゼN「アマノ」G(起源:Bacillus
subtilis、天野エンザイム社製)などが挙げられ、アスペルギルス属菌起源の中性プロテアーゼの市販品としては、例えば、商品名:プロテアーゼA「アマノ」G(起源:Aspergillus
oryzae、天野エンザイム社製)、商品名:スミチームFP(起源:Aspergillus oryzae、新日本化学工業社製)、商品名:デナチームAP(起源:Aspergillus
oryzae、ナガセケムテックス社製)等が挙げられる。
【0031】
プロテアーゼにより蛋白質を加水分解する方法としては、例えば、卵白を中性プロテアーゼで加水分解する場合を例に挙げると、前処理した卵白希釈液のpHを6〜8に調整し、この卵白に中性プロテアーゼを添加し、ゆっくりと撹拌しながら、35〜60℃、好ましくは40〜55℃にて5分〜24時間保持する。次に、この液を加熱することでプロテアーゼの失活処理を行い、本発明の卵白加水分解物を得ることができる。また、得られた卵白加水分解物をろ過処理し不溶物を除去することで可溶性卵白加水分解物が得られる。可溶性卵白加水分解物は使用用途の幅が広がるため好ましい。さらに必要に応じてスプレードライ又はフリーズドライ等の乾燥処理を施しても良い。
【0032】
なお、温度条件および加熱時間は、使用するプロテアーゼの種類および組合せに応じて適宜調整するのが好ましい。
【0033】
1.2.卵白加水分解物
上述した製造方法で得られる卵白加水分解物は、分解度が5〜40、かつ、平均分子量が200〜1500であり、後述する手順で測定される硫化水素量が2ppm以下である。
【0034】
1.2.1.分解度
本発明において、卵白加水分解物の分解度は、ホルモル滴定法にて測定された値である。
すなわち、まず、卵白加水分解物をセミミクロケルダール法にて分析し、卵白加水分解物中の全窒素含量を求める。さらに、卵白加水分解物をホルモル滴定にて分析し、卵白加水分解物中のアミノ態窒素含量(%)を求める。これらの値から、アミノ態窒素含量を全窒素含量で除することにより、分解度(%)を算出する。
【0035】
本発明に係る卵白加水分解物は、分解度が5〜40であり、好ましくは7〜20、より好ましくは9〜15である。
卵白加水分解物の分解度が前記値より高いと、得られた卵白加水分解物を水溶液にした際、沈殿物や濁りが発生しやすくなるため好ましくない。また、卵白加水分解物の分解度が前記値よりも低いと、アミノ酸由来の苦み、旨味が強くなるため好ましくない。
【0036】
1.2.2.平均分子量
本発明において、卵白加水分解物の平均分子量は、以下のTNBS(2,4,6−トリニトロベンゼンスルホン酸)法により測定された値である。
【0037】
すなわち、亜硝酸ナトリウム126mgを精密に量り、製清水に溶かしたあと、精密に量った2,4,6−トリニトロベンゼンスルホン酸ナトリウム二水和物100mgを加え、正確に200mLとし、TNBS試薬とする。0.4gの卵白加水分解物(本品)を精密に量り、精製水に溶かし、正確に100mLとし、この溶液2mLを正確に量り、精製水を加えて正確に100mLとした溶液を試料溶液とする。あらかじめ105℃で3時間乾燥させたL−ロイシン0.656gを精密に量り、製清水に溶かし、正確に500mLとし、この溶液1mL、2mL、3mL並びに4mLを正確に量り、それぞれに精製水を加えて正確に100mLとした溶液を標準溶液とする。
【0038】
次に、試験管に製清水(対照)、前記試料溶液および標準溶液を0.5mLずつ量りとり、0.1mol/Lホウ酸緩衝液を2mLそれぞれに加える。さらに前記TNBS試薬をそれぞれに加えて撹拌混合し、37℃の恒温水槽中で2時間静置する。
その後、分光光度計で波長420nmにおける吸光度を測定し、得られた吸光度から、精製水を用いて同様に操作した対照の吸光度を差し引いた値を試料溶液の吸光度とする。同様に標準溶液の吸光度から対照の吸光度を差し引き、吸光度を縦軸に、L−ロイシンの換算した乾燥物に対する濃度(μmol L−ロイシン当量/mL)を横軸にとってグラフを描き、各点を結ぶ直線(検量線)と試料溶液の吸収度との交点から試料溶液のアミノ態窒素濃度(μmol L−ロイシン当量/mL)を求める。
ここで求められたアミノ態窒素濃度を以下の式に代入し、試料中のアミノ態窒素含量(mmol L−ロイシン当量/100g)を算出する。
【0039】
アミノ態窒素含量 =試料溶液のアミノ態窒素濃度×{(100×100)/(試料採取量g×2)}×10−3×100
【0040】
さらに、本発明の卵白加水分解物の原料として使用する卵白の総蛋白含量(%)を求め(通常約11%)、以下の式に代入し、卵白加水分解物の平均分子量を算出する。
【0041】
平均分子量=総蛋白含量/アミノ態窒素含量×1000
【0042】
本発明に係る卵白加水分解物は、平均分子量が200〜1500であり、好ましくは400〜1200、より好ましくは600〜1000である。
卵白加水分解物の平均分子量が前記値より高いと、卵白加水分解物の製造時に不溶物が多く収率が低下する傾向にあるため好ましくない。また、卵白加水分解物の平均分子量が前記値よりも低いと、アミノ酸由来の苦み、旨味が強くなるため好ましくない。
【0043】
1.2.3.硫化水素量
本発明において、卵白加水分解物の硫化水素量は、検知管式ガス測定器を用いて測定した値である。検知管式ガス測定器についてはJIS
K0804で規定されており、検知管式ガス採取器と検知管からなるガス測定器をいう。
【0044】
具体的には、卵白加水分解物を噴霧乾燥等により乾燥した粉末3gを500mLの三角フラスコに入れ、97gの精製水を加えて溶解し、80℃の恒温槽中で10秒間振り混ぜる。ガラス管およびガス検知管(株式会社ガステック製、「気体検知管 No.4LB 硫化水素」)を差し込んだゴム栓を三角フラスコに取り付け、ガラス管の下端の位置は卵白加水分解物の水溶液の液面に触れるようにする。ガス検知管にガス採取器(株式会社ガステック製、「気体採取器 GV−100」)を取り付け、ガス採取器を用いて100mLの気体を吸引し、ガス検知管の測定値を読み取り、これを硫化水素量とする。
【0045】
本発明に係る卵白加水分解物は、硫化水素量が2ppm以下であり、好ましくは1ppm以下、より好ましくは0.5ppm以下である。卵白加水分解物の硫化水素量が2ppmを超えると、硫黄臭を強く感じる場合がある。
本発明に係る卵白加水分解物は、硫化水素量が2ppm以下であることにより、硫黄臭が低減されているため、栄養価の高い卵白加水分解物を多種多様の食品に配合することが可能である。
【0046】
2.疲労の抑制
本発明の抗疲労剤は、疲労、特に身体的負荷が連続して与えられたときに見られる、一時的な身体的作業能力の質的あるいは量的な低下現象を経口摂取等により抑制することができる。具体的には、運動時の筋肉疲労を抑制することができる。そのため、運動パフォーマンスを向上し、また、長時間の運動をすることができる。
【0047】
本発明の抗疲労剤を摂取することによって疲労が抑制される作用機序については必ずしも明らかではないが、卵白加水分解物は抗酸化作用を有するため、運動時に筋肉中で発生する活性酸素を消去し、活性酸素による筋疲労の蓄積が抑制されるためであると考察される。
【0048】
本発明の抗疲労剤は、有効成分である卵白加水分解物またはその薬学的に許容される塩以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の原料を含むことができる。そのような原料の例としては水、賦形剤、抗酸化剤、防腐剤、湿潤剤、粘稠剤、緩衝剤、吸着剤、溶剤、乳化剤、安定化剤、界面活性剤、滑沢剤、水溶性高分子、甘味料、矯味剤、酸味料、アルコール類等が挙げられる。
【0049】
本発明の抗疲労剤の剤形は特に限定されないが、本発明の抗疲労剤を経口摂取する場合、例えば錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、丸剤等の固形製剤、水剤、懸濁剤、シロップ剤、乳剤等の液剤等の経口投与剤が挙げられる。
【0050】
卵白加水分解物は卵白を原料にしているため、多量に摂取しても副作用がない、またはきわめて低いと考えられるが、本発明の抗疲労剤として摂取する卵白加水分解物の量は、一日当たり10mg〜1000mg、好ましくは100〜500mgを目安とすることができる。投与回数は、疲労の程度、運動時間、運動強度に応じて一日当たり一回もしくは複数回を選択できる。
【0051】
3.実施例
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されない。
【0052】
3.1.実施例1
生卵白1部を等量の清水で希釈して得られた卵白希釈液を水酸化ナトリウム水溶液でpH10.5に調整した後、70℃で30分間加熱し前処理を行った。前処理した卵白希釈液を塩酸水溶液でpH7.0に調整した後、中性プロテアーゼ(スミチームFP、新日本化学工業社製)2000ユニットを添加し、40℃で6時間加水分解処理を行った。次いで、90℃で15分間加熱することでプロテアーゼの失活処理を行い、本発明の卵白加水分解物を得た。また、得られた卵白加水分解物をろ過処理することで不溶物を除去し、噴霧乾燥して本発明の可溶性卵白加水分解物を得た。
得られた卵白加水分解物および可溶性卵白加水分解物を喫食したところ、硫黄臭が十分に低減されていた。前処理後の卵白希釈液における卵白の平均分子量は4.5万であり、前処理によって卵白は加水分解されていないことが理解できる。また、得られた可溶性卵白加水分解物の分解度は10.4、平均分子量は840、硫化水素量は0.2ppmであった。
【0053】
3.2.比較例1
実施例1の可溶性卵白加水分解物の製造方法において、前処理工程を除いた以外は、実施例1と同様の方法で可溶性卵白加水分解物を得た。具体的には、生卵白1部を等量の清水で希釈して得られた卵白希釈液を塩酸水溶液でpH7.0に調整した後、中性プロテアーゼ(スミチームFP、新日本化学工業社製)2000ユニットを添加し、40℃で6時間加水分解処理を行った。次いで、90℃で15分間加熱することでプロテアーゼの失活処理を行い、ろ過により不溶物を除去して可溶性卵白加水分解物を得た。
得られた可溶性卵白加水分解物の硫黄臭を評価したところ、硫黄臭はほとんど低減されていなかった。また、得られた可溶性卵白加水分解物の分解度は12.4、平均分子量は700、硫化水素量は2.8ppmであった。
【0054】
3.3.試験例1
実施例1の可溶性卵白加水分解物の製造方法において、前処理工程の卵白希釈液における加水量、前処理工程のpH、加熱温度、及びプロテアーゼにより加水分解処理する工程のpHを表1に示すように変更した以外は実施例1と同様の方法で可溶性卵白加水分解物を得た。次いで、得られた可溶性卵白加水分解物の硫黄臭低減効果、可溶性卵白加水分解物の収率を下記の評価基準で評価した。また、得られた可溶性卵白加水分解物の分解度、平均分子量および硫化水素量の測定を行った。それぞれの結果を表1に示す。
【0055】
「可溶性卵白加水分解物の硫黄臭」の評価
ランク:基準
A:可溶性卵白加水分解物の硫黄臭が十分に低減されていた
B:可溶性卵白加水分解物の硫黄臭はやや低減されていた
C:可溶性卵白加水分解物の硫黄臭はほとんど低減されていなかった
【0056】
「可溶性卵白加水分解物の収率」の評価
ランク:基準
A:高い
B:低い
C:回収できなかった
【0058】
表1によれば、前処理工程の卵白希釈液において、液卵白1部に対する加水量が0.4〜3部であり、前処理工程のpHが9〜12、加熱温度が55〜90℃の条件で得られた可溶性卵白加水分解物(サンプルNo.2〜5、7〜11、14〜16、18〜20)は、硫黄臭が低減されており、硫化水素量が2ppm以下であることが理解できる。特に、液卵白1部に対する加水量が0.6〜2.5部であり、前処理工程のpHが9.5〜11.5、加熱温度が60〜80℃の条件で得られた可溶性卵白加水分解物は、より硫黄臭が低減されていた(サンプルNo.3、4、9、10、15、18〜20)。
なお、液卵白1部に対する加水量が0.5部未満のサンプル(No.1)、前処理工程のpHが12を超えるサンプル(No.12)、加熱温度が90℃を超えるサンプル(サンプルNo.17)は、前処理工程において卵白が過度に変性してしまい、卵白加水分解物が回収できなかった。
【0059】
3.4.比較例2
実施例1の可溶性卵白加水分解物の製造方法において、前処理工程と加水分解処理工程の順番を入れ替えた以外は、実施例1と同様の方法で可溶性卵白加水分解物を得た。具体的には、生卵白1部を等量の清水で希釈して得られた卵白希釈液を塩酸水溶液でpH7.0に調整した後、中性プロテアーゼ(スミチームFP、新日本化学工業社製)2000ユニットを添加し、40℃で6時間加水分解処理を行った。加水分解処理した卵白希釈液を水酸化ナトリウム水溶液でpH10.5に調整した後、65℃で30分間加熱した。次いで、90℃で15分間加熱することでプロテアーゼの失活処理を行い、ろ過により不溶物を除去して可溶性卵白加水分解物を得た。
得られた可溶性卵白加水分解物の硫黄臭を評価したところ、硫黄臭はほとんど低減されていなかった。また、得られた可溶性卵白加水分解物の硫化水素量は2.2ppmであった。
【0060】
3.5.試験例2
試験例2では、卵白加水分解物の疲労抑制作用を確認するため、マウスに卵白加水分解物を含む飼料を投与し、強制水泳試験を行った。
【0061】
4.5.1.飼料の調製
・陰性対照:AIN−93G組成 粉末飼料(カゼイン20%配合)
・陽性対照:カフェイン
・被験物質1:実施例1の卵白加水分解物を10%含有するように、AIN−93G組成飼料のカゼインの一部を置き換えて混餌した。
・被験物質2:実施例1の卵白加水分解物を20%含有するように、AIN−93G組成飼料のカゼインの一部を置き換えて混餌した。
・被験物質3:卵白(乾燥卵白Kタイプ、キユーピータマゴ株式会社販売)を20%含有するように、AIN−93G組成飼料のカゼインの一部を置き換えて混餌した。
【0062】
3.5.1.試験方法
ddyマウス(雄性、入手時7週齢、日本エスエルシー株式会社から入手)を8日間馴化飼育した後、水泳時間の測定を下記の方法により行い群分けを行った。上記飼料を14日間摂取させた。ただし、陽性対照のカフェインは、11目および14日目に、体重1kgあたり10mgを後述する水泳試験の30分前に胃内投与した。
【0063】
下記の手順で水泳持続時間の測定を行った。
マウスの下腹部に体重の10%のおもりをつけて、シリンダー(直径:19cm、水深:20cm、水温:23〜24℃)の中で泳がせた。マウスをシリンダーに入れてから、溺れるまでの時間を測定し、水泳持続時間とした。水泳中にマウスの口および鼻が10秒間持続して水没した場合を溺れたと判定した。
水泳持続時間の測定は、1日1回実施した。結果を
図1に示す。
【0064】
図1より、11日目以降で卵白加水分解物を10%(被験物質1)および20%(被験物質2)を含む飼料を摂取した群では、カゼイン20%(陰性対照)を含む飼料を摂取した群に対して有意に(p<0.05)長い水泳時間を示した。14日目の水泳持続時間(秒)は、カゼイン20%(陰性対照)群で181.8±23.3、卵白加水分解物20%(被験物質2)群で306.5±58.1であり、水泳時間が顕著に延長した。
また、カフェイン(陽性対照)は、11日目と14日目にのみ投与したが、11日目にカゼイン20%(陰性対照)群に対して、水泳時間が1.2倍延長した。しかし、卵白加水分解物摂取群との有意な差は見られなかった。一方、14日目には、卵白加水分解物を10%(被験物質1)群および卵白加水分解物20%(被験物質1)群は、カフェイン(陽性対照)群に対し、いずれも1.4倍延長した。
【0065】
3.6.実施例2
実施例1で使用した卵白加水分解物を抗疲労剤として使用して、内容物が下記の配合であるソフトカプセルを製した。
【0066】
[配合割合]
抗疲労剤(実施例1の卵白加水分解物) 20%
オリーブ油 50%
ミツロウ 10%
中鎖脂肪酸トリグリセリド 10%
乳化剤 10%
――――――――――――――――――――――――――――――――
100%
【0067】
3.7.実施例3
実施例1で使用した卵白加水分解物を抗疲労剤として使用して、下記の配合の散剤(顆粒剤)を製した。
【0068】
[配合割合]
抗疲労剤(実施例1の卵白加水分解物) 10%
乳糖 60%
トウモロコシデンプン 25%
ヒプロメロース 5%
――――――――――――――――――――――――――――――――
100%
【0069】
3.8.実施例4
実施例1で使用した卵白加水分解物を抗疲労剤として使用して、下記の配合の錠剤を製した。
【0070】
[配合割合]
抗疲労剤(実施例1の卵白加水分解物) 25%
乳糖 24%
結晶セルロース 20%
トウモロコシデンプン 15%
デキストリン 10%
乳化剤 5%
二酸化ケイ素 1%
――――――――――――――――――――――――――――――――
100%