特許第5893530号(P5893530)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5893530コンクリートの透気試験装置、並びに、コンクリートの透気係数分布の推定方法、推定装置及び推定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5893530
(24)【登録日】2016年3月4日
(45)【発行日】2016年3月23日
(54)【発明の名称】コンクリートの透気試験装置、並びに、コンクリートの透気係数分布の推定方法、推定装置及び推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 15/08 20060101AFI20160310BHJP
【FI】
   G01N15/08 C
【請求項の数】9
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2012-173253(P2012-173253)
(22)【出願日】2012年8月3日
(65)【公開番号】特開2014-32125(P2014-32125A)
(43)【公開日】2014年2月20日
【審査請求日】2015年1月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100087468
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 一美
(72)【発明者】
【氏名】蔵重 勲
【審査官】 北川 創
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−214117(JP,A)
【文献】 特開平07−300844(JP,A)
【文献】 特開2007−197941(JP,A)
【文献】 特開2003−262578(JP,A)
【文献】 特開2002−236122(JP,A)
【文献】 R. J. Torrent,A two-chamber vacuum cell for measuring the coefficient of permeability to air of the concrete cover on site,Materials and Structures,Kluwer Academic Publishers,1992年 7月,Vol. 25/No. 6,pp. 358-365
【文献】 蔵重 勲、廣永 道彦,コンクリートに内在する深さ方向の透気性分布を評価可能な非破壊試験法の開発,土木学会第67回年次学術講演会,日本,公益社団法人 土木学会,2012年 8月 1日,pp. 17-18
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 15/08
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面位置を同じくする開口面を有する平面視円形の中心チャンバー及び当該中心チャンバーを環状に囲む環状チャンバーと、前記中心チャンバー内及び前記環状チャンバー内を減圧するための真空源と、当該真空源によって前記中心チャンバー内及び前記環状チャンバー内が減圧されたときに閉められて前記中心チャンバー及び前記環状チャンバーをそれぞれ密閉するためにこれら中心チャンバー及び環状チャンバーのそれぞれに設けられたバルブと、前記中心チャンバー及び前記環状チャンバーのそれぞれに備えられた気圧センサとを有し、前記真空源によって減圧してから前記バルブを閉めて密閉した後の前記中心チャンバー内と前記環状チャンバー内とのそれぞれの気圧変化を前記気圧センサによって検出することを特徴とするコンクリートの透気試験装置。
【請求項2】
平面位置を同じくする開口面を有する平面視円形の中心チャンバー及び当該中心チャンバーを環状に囲む第一の環状チャンバー及び当該第一の環状チャンバーを環状に囲む第二の環状チャンバーと、これら各チャンバー内を減圧するための真空源と、当該真空源によって前記各チャンバー内が減圧されたときに閉められて前記各チャンバーをそれぞれ密閉するために前記各チャンバーのそれぞれに設けられたバルブと、前記各チャンバーのそれぞれに備えられた気圧センサとを有し、前記真空源によって減圧してから前記バルブを閉めて密閉した後の前記各チャンバー内のそれぞれの気圧変化を前記気圧センサによって検出することを特徴とするコンクリートの透気試験装置。
【請求項3】
前記第二の環状チャンバーを環状に囲む第三の環状チャンバーと、当該第三の環状チャンバーを環状に囲む第四の環状チャンバーと、のように前記第二の環状チャンバーを順に環状に囲む環状チャンバーを更に一つ以上有することを特徴とする請求項2記載のコンクリートの透気試験装置。
【請求項4】
平面位置を同じくする開口面を有する平面視円形の中心チャンバー及び当該中心チャンバーを環状に囲む第一の環状チャンバー及び当該第一の環状チャンバーを環状に囲む第二の環状チャンバーと、これら各チャンバー内を減圧するための真空源と、当該真空源によって前記各チャンバー内が減圧されたときに閉められて前記各チャンバーをそれぞれ密閉するために前記各チャンバーのそれぞれに設けられたバルブと、前記各チャンバーのそれぞれに備えられた気圧センサとを有する試験装置の前記各チャンバーの開口面をコンクリート表面に押し当て、前記真空源によって前記各チャンバー内を減圧してから前記バルブを閉めて前記各チャンバーをそれぞれ密閉し、前記気圧センサによって前記各チャンバー内の気圧を計測して前記バルブを閉めてからの経過時間と前記各チャンバー内の気圧値との組み合わせデータを取得し、一方で、前記コンクリート表面からの深さ方向における透気係数分布を仮定した上で前記経過時間と前記各チャンバー内の気圧値との組み合わせデータを計算し、当該計算による前記組み合わせデータが前記計測による前記組み合わせデータに対して予め定められた一致条件を満たすまで前記透気係数分布の仮定を変化させながら前記組み合わせデータの計算を繰り返し行うことによって前記透気係数分布を推定することを特徴とするコンクリートの透気係数分布の推定方法。
【請求項5】
前記試験装置が前記第二の環状チャンバーを環状に囲む第三の環状チャンバーと、当該第三の環状チャンバーを環状に囲む第四の環状チャンバーと、のように前記第二の環状チャンバーを順に環状に囲む環状チャンバーを更に一つ以上有し、前記組み合わせデータに四つ以上のチャンバー内の気圧値が含まれることを特徴とする請求項4記載のコンクリートの透気係数分布の推定方法。
【請求項6】
平面位置を同じくする開口面を有する平面視円形の中心チャンバー及び当該中心チャンバーを環状に囲む第一の環状チャンバー及び当該第一の環状チャンバーを環状に囲む第二の環状チャンバーと、これら各チャンバー内を減圧するための真空源と、当該真空源によって前記各チャンバー内が減圧されたときに閉められて前記各チャンバーをそれぞれ密閉するために前記各チャンバーのそれぞれに設けられたバルブと、前記各チャンバーのそれぞれに備えられた気圧センサとを有する試験装置の前記各チャンバーの開口面をコンクリート表面に押し当て、前記真空源によって前記各チャンバー内を減圧してから前記バルブを閉めて前記各チャンバーをそれぞれ密閉し、前記気圧センサによって前記各チャンバー内の気圧を計測して取得された前記バルブを閉めてからの経過時間と前記各チャンバー内の気圧値との組み合わせデータを読み込む手段と、前記コンクリート表面からの深さ方向における透気係数分布を仮定した上で前記経過時間と前記各チャンバー内の気圧値との組み合わせデータを計算する手段と、当該計算による前記組み合わせデータと前記計測による前記組み合わせデータとを対比する手段とを有し、前記計算による前記組み合わせデータが前記計測による前記組み合わせデータに対して予め定められた一致条件を満たすまで前記透気係数分布の仮定を変化させながら前記組み合わせデータの計算を繰り返し行うことによって前記透気係数分布を推定することを特徴とするコンクリートの透気係数分布の推定装置。
【請求項7】
前記試験装置が前記第二の環状チャンバーを環状に囲む第三の環状チャンバーと、当該第三の環状チャンバーを環状に囲む第四の環状チャンバーと、のように前記第二の環状チャンバーを順に環状に囲む環状チャンバーを更に一つ以上有し、前記組み合わせデータに四つ以上のチャンバー内の気圧値が含まれることを特徴とする請求項6記載のコンクリートの透気係数分布の推定装置。
【請求項8】
平面位置を同じくする開口面を有する平面視円形の中心チャンバー及び当該中心チャンバーを環状に囲む第一の環状チャンバー及び当該第一の環状チャンバーを環状に囲む第二の環状チャンバーと、これら各チャンバー内を減圧するための真空源と、当該真空源によって前記各チャンバー内が減圧されたときに閉められて前記各チャンバーをそれぞれ密閉するために前記各チャンバーのそれぞれに設けられたバルブと、前記各チャンバーのそれぞれに備えられた気圧センサとを有する試験装置の前記各チャンバーの開口面をコンクリート表面に押し当て、前記真空源によって前記各チャンバー内を減圧してから前記バルブを閉めて前記各チャンバーをそれぞれ密閉し、前記気圧センサによって前記各チャンバー内の気圧を計測して取得された前記バルブを閉めてからの経過時間と前記各チャンバー内の気圧値との組み合わせデータを読み込む手段、前記コンクリート表面からの深さ方向における透気係数分布を仮定した上で前記経過時間と前記各チャンバー内の気圧値との組み合わせデータを計算する手段、当該計算による前記組み合わせデータと前記計測による前記組み合わせデータとを対比する手段としてコンピュータを機能させ、前記計算による前記組み合わせデータが前記計測による前記組み合わせデータに対して予め定められた一致条件を満たすまで前記透気係数分布の仮定を変化させながら前記組み合わせデータの計算を繰り返し行うことによって前記透気係数分布を推定することを特徴とするコンクリートの透気係数分布の推定プログラム。
【請求項9】
前記試験装置が前記第二の環状チャンバーを環状に囲む第三の環状チャンバーと、当該第三の環状チャンバーを環状に囲む第四の環状チャンバーと、のように前記第二の環状チャンバーを順に環状に囲む環状チャンバーを更に一つ以上有し、前記組み合わせデータに四つ以上のチャンバー内の気圧値が含まれることを特徴とする請求項8記載のコンクリートの透気係数分布の推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートの透気試験装置、並びに、コンクリートの透気係数分布の推定方法、推定装置及び推定プログラムに関する。さらに詳述すると、本発明は、コンクリートに内在する深さ方向の透気性分布の非破壊での評価に用いて好適な透気試験装置並びに透気係数分布の推定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリートの耐久性検査に用いられる非破壊試験法としてTorrent法透気試験があり、実務への適用検討が進められている。このTorrent法は、内側チャンバーと当該内側チャンバーを環状に囲む外側チャンバーとのダブルチャンバー構造を有する装置を用い、内側チャンバー内と外側チャンバー内とを減圧した上で内側チャンバー内の気圧と外側チャンバー内の気圧とが等しくなるように制御してコンクリート表層において一次元の流れ場を形成することによってコンクリート表層の透気係数を評価する方法である(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】R.J.Torrent,“A two−chamber vacuum cell for measuring the coefficient of permeability to air of the concrete cover on site”,Materials and Structures,Vol.25,No.6,pp.358−365,1992年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、Torrent法では、計測の間は内側チャンバー内の気圧と外側チャンバー内の気圧とを等しく保つことが必要であり、すなわち計測の間中常に両チャンバー内の気圧が等しくなるように制御し続ける(具体的には、基本的には中心チャンバー内の気圧と等しくなるように外側チャンバーの吸引(減圧,真空引き)を行い続ける)ことが必要であり、手間がかかると共に装置構成が複雑になってしまい、したがって汎用性が高いとは言い難い。
【0005】
また、コンクリートの耐久性に影響を及ぼす代表的な施工因子として養生が挙げられるところ、養生が不十分な場合にはセメント水和に必要な水分がコンクリート表面から逸散してしまい、表層における品質の低下と共にコンクリート表面からの深さ方向における品質分布(言い換えると、品質の差違)とを生じる原因になる。
【0006】
そして、Torrent法では、養生の良否を相対的に評価することはできても、コンクリートを深さ方向において均質体であると仮定して深さ方向の分布(変化)を平均化した一つの透気係数を算出することになるため、深さ方向の品質分布(具体的には透気係数の深さ方向における変化)を直接評価することはできない。このため、Torrent法は、コンクリートの品質評価に必要な情報を十分に提供することができるとは言えず、したがって有用性・汎用性が高いとは言い難い。
【0007】
そこで、本発明は、コンクリートにおける深さ方向の透気性分布(具体的には透気係数の深さ方向における変化)を簡便に評価することができ、また、コンクリートにおける深さ方向の透気性分布(具体的には透気係数の深さ方向における変化)を非破壊で評価することができるコンクリートの透気試験装置並びにコンクリートの透気係数分布の推定方法、推定装置及び推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するため、本発明のコンクリートの透気試験装置は、平面位置を同じくする開口面を有する平面視円形の中心チャンバー及び当該中心チャンバーを環状に囲む環状チャンバーと、前記中心チャンバー内及び前記環状チャンバー内を減圧するための真空源と、当該真空源によって前記中心チャンバー内及び前記環状チャンバー内が減圧されたときに閉められて前記中心チャンバー及び前記環状チャンバーをそれぞれ密閉するためにこれら中心チャンバー及び環状チャンバーのそれぞれに設けられたバルブと、前記中心チャンバー及び前記環状チャンバーのそれぞれに備えられた気圧センサとを有し、前記真空源によって減圧してから前記バルブを閉めて密閉した後の前記中心チャンバー内と前記環状チャンバー内とのそれぞれの気圧変化を前記気圧センサによって検出するようにしている。
【0009】
したがって、このコンクリートの透気試験装置によると、各チャンバーの開口面をコンクリート表面に押し当てた状態で各チャンバー内を減圧してバルブを閉めて密閉してから各チャンバー内の気圧計測を行うことにより、バルブを閉めてからの経過時間と径方向二層状(言い換えると、中心+一環状)のチャンバー毎のチャンバー内気圧値との組み合わせデータが取得される。そして、この組み合わせデータから、実構造物のコンクリートを破壊することなく、コンクリート表面からの深さ方向における透気係数の変化についての定性的な評価を行うことができる。
【0010】
また、本発明のコンクリートの透気試験装置は、平面位置を同じくする開口面を有する平面視円形の中心チャンバー及び当該中心チャンバーを環状に囲む第一の環状チャンバー及び当該第一の環状チャンバーを環状に囲む第二の環状チャンバーと、これら各チャンバー内を減圧するための真空源と、当該真空源によって前記各チャンバー内が減圧されたときに閉められて前記各チャンバーをそれぞれ密閉するために前記各チャンバーのそれぞれに設けられたバルブと、前記各チャンバーのそれぞれに備えられた気圧センサとを有し、前記真空源によって減圧してから前記バルブを閉めて密閉した後の前記各チャンバー内のそれぞれの気圧変化を前記気圧センサによって検出するようにしている。
【0011】
したがって、このコンクリートの透気試験装置によると、各チャンバーの開口面をコンクリート表面に押し当てた状態で各チャンバー内を減圧してバルブを閉めて密閉してから各チャンバー内の気圧計測を行うことにより、バルブを閉めてからの経過時間と径方向三層状(言い換えると、中心+二環状)のチャンバー毎のチャンバー内気圧値との組み合わせデータが取得される。そして、この組み合わせデータから、実構造物のコンクリートを破壊することなく、コンクリート表面からの深さ方向における透気係数の変化についての定性的な評価を行うことができ、また、コンクリート表面からの深さ方向における透気係数分布(言い換えると、透気係数の変化)を推定することができる。
【0012】
本発明のコンクリートの透気試験装置においては、前記第二の環状チャンバーを環状に囲む第三の環状チャンバーと、当該第三の環状チャンバーを環状に囲む第四の環状チャンバーと、のように前記第二の環状チャンバーを順に環状に囲む環状チャンバーを更に一つ以上有するようにすることにより、バルブを閉めてからの経過時間と径方向四層以上(言い換えると、中心+三環状以上)のチャンバー毎のチャンバー内気圧値との組み合わせデータが取得される。
【0013】
また、本発明のコンクリートの透気係数分布の推定方法は、平面位置を同じくする開口面を有する平面視円形の中心チャンバー及び当該中心チャンバーを環状に囲む第一の環状チャンバー及び当該第一の環状チャンバーを環状に囲む第二の環状チャンバーと、これら各チャンバー内を減圧するための真空源と、当該真空源によって前記各チャンバー内が減圧されたときに閉められて前記各チャンバーをそれぞれ密閉するために前記各チャンバーのそれぞれに設けられたバルブと、前記各チャンバーのそれぞれに備えられた気圧センサとを有する試験装置の前記各チャンバーの開口面をコンクリート表面に押し当て、前記真空源によって前記各チャンバー内を減圧してから前記バルブを閉めて前記各チャンバーをそれぞれ密閉し、前記気圧センサによって前記各チャンバー内の気圧を計測して前記バルブを閉めてからの経過時間と前記各チャンバー内の気圧値との組み合わせデータを取得し、一方で、前記コンクリート表面からの深さ方向における透気係数分布を仮定した上で前記経過時間と前記各チャンバー内の気圧値との組み合わせデータを計算し、当該計算による前記組み合わせデータが前記計測による前記組み合わせデータに対して予め定められた一致条件を満たすまで前記透気係数分布の仮定を変化させながら前記組み合わせデータの計算を繰り返し行うことによって前記透気係数分布を推定するようにしている。
【0014】
また、本発明のコンクリートの透気係数分布の推定装置は、平面位置を同じくする開口面を有する平面視円形の中心チャンバー及び当該中心チャンバーを環状に囲む第一の環状チャンバー及び当該第一の環状チャンバーを環状に囲む第二の環状チャンバーと、これら各チャンバー内を減圧するための真空源と、当該真空源によって前記各チャンバー内が減圧されたときに閉められて前記各チャンバーをそれぞれ密閉するために前記各チャンバーのそれぞれに設けられたバルブと、前記各チャンバーのそれぞれに備えられた気圧センサとを有する試験装置の前記各チャンバーの開口面をコンクリート表面に押し当て、前記真空源によって前記各チャンバー内を減圧してから前記バルブを閉めて前記各チャンバーをそれぞれ密閉し、前記気圧センサによって前記各チャンバー内の気圧を計測して取得された前記バルブを閉めてからの経過時間と前記各チャンバー内の気圧値との組み合わせデータを読み込む手段と、前記コンクリート表面からの深さ方向における透気係数分布を仮定した上で前記経過時間と前記各チャンバー内の気圧値との組み合わせデータを計算する手段と、当該計算による前記組み合わせデータと前記計測による前記組み合わせデータとを対比する手段とを有し、前記計算による前記組み合わせデータが前記計測による前記組み合わせデータに対して予め定められた一致条件を満たすまで前記透気係数分布の仮定を変化させながら前記組み合わせデータの計算を繰り返し行うことによって前記透気係数分布を推定するようにしている。
【0015】
また、本発明のコンクリートの透気係数分布の推定プログラムは、平面位置を同じくする開口面を有する平面視円形の中心チャンバー及び当該中心チャンバーを環状に囲む第一の環状チャンバー及び当該第一の環状チャンバーを環状に囲む第二の環状チャンバーと、これら各チャンバー内を減圧するための真空源と、当該真空源によって前記各チャンバー内が減圧されたときに閉められて前記各チャンバーをそれぞれ密閉するために前記各チャンバーのそれぞれに設けられたバルブと、前記各チャンバーのそれぞれに備えられた気圧センサとを有する試験装置の前記各チャンバーの開口面をコンクリート表面に押し当て、前記真空源によって前記各チャンバー内を減圧してから前記バルブを閉めて前記各チャンバーをそれぞれ密閉し、前記気圧センサによって前記各チャンバー内の気圧を計測して取得された前記バルブを閉めてからの経過時間と前記各チャンバー内の気圧値との組み合わせデータを読み込む手段、前記コンクリート表面からの深さ方向における透気係数分布を仮定した上で前記経過時間と前記各チャンバー内の気圧値との組み合わせデータを計算する手段、当該計算による前記組み合わせデータと前記計測による前記組み合わせデータとを対比する手段としてコンピュータを機能させ、前記計算による前記組み合わせデータが前記計測による前記組み合わせデータに対して予め定められた一致条件を満たすまで前記透気係数分布の仮定を変化させながら前記組み合わせデータの計算を繰り返し行うことによって前記透気係数分布を推定するようにしている。
【0016】
したがって、これらのコンクリートの透気係数分布の推定方法、推定装置及び推定プログラムによると、各チャンバーの開口面をコンクリート表面に押し当てた状態で各チャンバー内を減圧してバルブを閉めて密閉してから各チャンバー内の気圧計測を行うことによって取得されたバルブを閉めてからの経過時間と径方向三層状(言い換えると、中心+二環状)のチャンバー毎のチャンバー内気圧値との組み合わせデータを用いるようにしているので、実構造物のコンクリートを破壊することなく、コンクリート表面からの深さ方向における透気係数分布(言い換えると、透気係数の変化)を推定することができる。
【0017】
本発明のコンクリートの透気係数分布の推定方法においては、前記試験装置が前記第二の環状チャンバーを環状に囲む第三の環状チャンバーと、当該第三の環状チャンバーを環状に囲む第四の環状チャンバーと、のように前記第二の環状チャンバーを順に環状に囲む環状チャンバーを更に一つ以上有し、前記組み合わせデータに四つ以上のチャンバー内の気圧値が含まれるようにすることにより、また、本発明のコンクリートの透気係数分布の推定装置においては、前記試験装置が前記第二の環状チャンバーを環状に囲む第三の環状チャンバーと、当該第三の環状チャンバーを環状に囲む第四の環状チャンバーと、のように前記第二の環状チャンバーを順に環状に囲む環状チャンバーを更に一つ以上有し、前記組み合わせデータに四つ以上のチャンバー内の気圧値が含まれるようにすることにより、また、本発明のコンクリートの透気係数分布の推定プログラムにおいては、前記試験装置が前記第二の環状チャンバーを環状に囲む第三の環状チャンバーと、当該第三の環状チャンバーを環状に囲む第四の環状チャンバーと、のように前記第二の環状チャンバーを順に環状に囲む環状チャンバーを更に一つ以上有し、前記組み合わせデータに四つ以上のチャンバー内の気圧値が含まれるようにすることにより、情報量がより一層多いデータを用いてのコンクリート表面からの深さ方向における透気係数分布の推定を行うことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明のコンクリートの透気試験装置によれば、バルブを閉めてからの経過時間と径方向二層状(中心+一環状)のチャンバー毎のチャンバー内気圧値或いは径方向三層状(中心+二環状)のチャンバー毎のチャンバー内気圧値との組み合わせデータを取得することができ、この組み合わせデータを用いてコンクリート表面からの深さ方向における透気係数の変化についての定性的な評価を行うことができるので、簡便な仕組みによる計測であり且つ実構造物のコンクリートを破壊する必要の無い計測によってコンクリートの品質評価に必要な情報を提供することが可能になり、したがってコンクリートの表層透気性の非破壊試験法としての有用性・汎用性の向上を図ることが可能になる。
【0019】
また、本発明のコンクリートの透気試験装置によれば、バルブを閉めてからの経過時間と径方向三層状(中心+二環状)のチャンバー毎のチャンバー内気圧値との組み合わせデータを取得することができ、この組み合わせデータを用いてコンクリート表面からの深さ方向における透気係数分布(言い換えると、透気係数の変化)を推定することができるので、簡便な仕組みによる計測であり且つ実構造物のコンクリートを破壊する必要の無い計測によってコンクリートの品質評価に有用な詳細な情報を提供することが可能になり、したがってコンクリートの表層透気性の非破壊試験法としての有用性・汎用性のより一層の向上を図ることが可能になる。
【0020】
さらに、本発明のコンクリートの透気試験装置によれば、バルブを閉めてからの経過時間と径方向四層以上(中心+三環状以上)のチャンバー毎のチャンバー内気圧値との組み合わせデータを取得するように構成することもできるので、情報量がより一層多いデータを取得することもでき、コンクリート表面からの深さ方向における透気係数分布の推定精度を向上させることが可能になる。
【0021】
また、本発明のコンクリートの透気係数分布の推定方法、推定装置及び推定プログラムによれば、バルブを閉めてからの経過時間と径方向三層状(中心+二環状)のチャンバー毎のチャンバー内気圧値との組み合わせデータを用いてコンクリート表面からの深さ方向における透気係数分布を推定することができるので、簡便な仕組みによる計測であり且つ実構造物のコンクリートを破壊する必要の無い計測によってコンクリートの品質評価に有用な詳細な情報を提供することが可能になり、したがってコンクリートの表層透気性の非破壊試験法としての有用性・汎用性の向上を図ることが可能になる。
【0022】
さらに、本発明のコンクリートの透気係数分布の推定方法、推定装置及び推定プログラムによれば、バルブを閉めてからの経過時間と径方向四層以上(中心+三環状以上)のチャンバー毎のチャンバー内気圧値との組み合わせデータを用いてコンクリート表面からの深さ方向における透気係数分布を推定するように構成することもできるので、情報量がより一層多いデータを用いるようにしてコンクリート表面からの深さ方向における透気係数分布の推定精度を向上させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明のコンクリートの透気試験装置の実施形態の一例を示す図である。(A)は底面図である。(B)は縦断面図である。
図2】本発明のコンクリートの透気係数分布の推定方法の実施形態の一例を説明するフローチャートである。
図3】実施形態のコンクリートの透気係数分布の推定方法をコンクリートの透気係数分布の推定プログラムを用いて実施する場合の当該プログラムによって実現されるコンクリートの透気係数分布の推定装置の機能ブロック図である。
図4】本発明が想定している状況及び意図している計測結果を説明する図である。(A)は本発明が想定している本発明のコンクリートの透気試験装置による計測時のコンクリート内における空気の流れを説明する概念図である。(B)は本発明が意図しているチャンバー毎のチャンバー内気圧の計測結果を説明する概念図である。
図5】コンクリートの透気係数分布を推定する際の座標系を説明する図である。
図6】チャンバーの数が二つの場合の計測結果を説明する概念図である。
図7】実施例1におけるチャンバー毎のチャンバー内気圧の計測結果を示す図である。(A)は水セメント比40%の供試体についての計測結果である。(B)は水セメント比60%の供試体についての計測結果である。
図8】実施例1における透気係数の推定結果を示す図である。(A)は水セメント比40%の供試体についての推定結果である。(B)は水セメント比60%の供試体についての推定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0025】
図1から図5に、本発明のコンクリートの透気試験装置並びにコンクリートの透気係数分布の推定方法、推定装置及び推定プログラムの実施形態の一例を示す。
【0026】
まず、本実施形態のコンクリートの透気試験装置1は、平面位置を同じくする開口面を有する平面視円形の中心チャンバー4A及び当該中心チャンバー4Aを環状に囲む第一の環状チャンバーとしての中間チャンバー4B及び当該中間チャンバー4Bを環状に囲む第二の環状チャンバーとしての外周チャンバー4Cと、これら各チャンバー4A,4B,4C内を減圧するための真空源5と、当該真空源5によって各チャンバー4A,4B,4C内が減圧されたときに閉められて各チャンバー4A,4B,4Cをそれぞれ密閉するために各チャンバー4A,4B,4Cのそれぞれに設けられたバルブ7A,7B,7Cと、各チャンバー4A,4B,4Cのそれぞれに備えられた気圧センサ6A,6B,6Cとを有し、真空源5によって減圧してからバルブ7A,7B,7Cを閉めて密閉した後の各チャンバー4A,4B,4C内のそれぞれの気圧変化を気圧センサ6A,6B,6Cによって検出するようにしている。
【0027】
本実施形態のコンクリートの透気試験装置1は、円筒状の周壁として形成されて同心円状に配置された径方向三層(言い換えると、三環状)の内隔壁2A,中間隔壁2B,外隔壁2Cとこれら隔壁2A,2B,2Cの上面を覆う天板3とを有し、内隔壁2Aの内側に中心チャンバー4Aが形成され、内隔壁2Aと中間隔壁2Bとの間に環状(ドーナツ状)の中間チャンバー4Bが形成され、中間隔壁2Bと外隔壁2Cとの間に環状(ドーナツ状)の外周チャンバー4Cが形成される。そして、これら中心,中間,外周チャンバー4A,4B,4Cは径方向三層(言い換えると、中心+二環状)をなすように構成される。
【0028】
全ての隔壁2A,2B,2C及び天板3は、各チャンバー4A,4B,4Cの気密性を確保することができるように、透気性がない材質で形成される。
【0029】
なお、各隔壁2A,2B,2Cの寸法は、特定の寸法に限定されるものではなく、試験の効率性や計測の精度や運搬・設置の容易性などを踏まえて適宜設定され得る。例えば、外隔壁2Cの外縁径を200〜300〔mm〕程度,高さを20〜40〔mm〕程度(天板を除く)にすることが考えられる。さらに、あくまで一例として挙げれば具体的には例えば、内隔壁2Aの外縁径を100〔mm〕,中間隔壁2Bの外縁径を150〔mm〕,外隔壁2Cの外縁径を210〔mm〕とすると共に各隔壁の高さを30〔mm〕とし、内隔壁2A及び中間隔壁2Bの厚さを10〔mm〕,外隔壁2Cの厚さを20〔mm〕とすることが考えられる。
【0030】
ここで、各隔壁2A,2B,2Cによって形成される各チャンバー4A,4B,4C内の空間の開口面からの高さが大きく異なると、コンクリート9から各チャンバー4A,4B,4C内に空気が流れ込んだときの各チャンバー4A,4B,4C内の気圧の変化の幅が大きく異なることになる。例えば、他のチャンバーと比べて開口面からの高さが極端に高いチャンバでは、減圧して密閉した後の時間の経過に伴う気圧の変化が他のチャンバーと比べて小さく、したがってコンクリートから空気を吸い込む力の低減の程度が小さく、このためにコンクリート内の空気の流れを乱してしまうことにもなり、図4(A)に示すような本発明が想定している本発明のコンクリートの透気試験装置による計測時のコンクリート9内における空気の流れ(図中のコンクリート9内の矢印群)が乱され、結果として、同図(B)に示すような本発明が意図しているチャンバー毎のチャンバー内気圧値の変化についての計測結果が得られない虞もある(なお、図4はあくまでも説明のための概念図であり、実際の空気の流れや計測結果を厳密に表すことを意図したものではない)。このため、各チャンバー4A,4B,4Cそれぞれの内部空間の開口面からの高さは、大きく異ならないことが好ましく、同じ若しくは概ね同じであることがより一層好ましい。
【0031】
なお、本発明が想定しているコンクリートの透気試験装置1による計測時のコンクリート9内における空気の流れは、具体的には、図4(A)中のコンクリート9内の矢印群のように、コンクリートの透気試験装置1の外周チャンバー4C内に吸い込まれる空気が透気試験装置1の周囲からコンクリート9の表層部分を外周チャンバー4C内に向かう流れを形成し(言い換えると、透気試験装置1の周囲からも空気を取り込む流れを形成し)、中心チャンバー4A内に吸い込まれる空気が当該中心チャンバー4Aの開口面の範囲で(つまり、中心チャンバー4Aの周囲からの取り込みは少なく)前記外周チャンバー4C内に吸い込まれる空気よりもコンクリート9内の深部から真っ直ぐに若しくは概ね真っ直ぐに中心チャンバー4A内に向かう割合が高い流れを形成し、中間チャンバー4B内に吸い込まれる空気が外周チャンバー4C内に吸い込まれる空気の流れと中心チャンバー4A内に吸い込まれる空気の流れとの間の周囲からの取り込みを伴って当該中間チャンバー4B内に吸い込まれる流れを形成するというものである。
【0032】
また、上記のコンクリート9内における空気の流れの想定に基づく本発明が意図しているチャンバー4A,4B,4C毎のチャンバー内気圧の計測結果は、具体的には、図4(B)のように、各チャンバー4A,4B,4C内の空間の開口面に対する高さが同じ若しくは概ね同じであれば、一般的には深部と比べて空隙が多いコンクリート9の表層を通過して透気試験装置1の周囲から取り込まれる空気の割合が高い外周チャンバー4C内の気圧の変化が最も大きく、空隙が徐々に少なくなる深部から取り込まれる空気の割合が次第に高くなる中間チャンバー4B,中心チャンバー4Aの順にチャンバー内の気圧の変化が小さくなるというものである。
【0033】
バルブ7A,7B,7Cは、チャンバー4A,4B,4C毎に設けられ、二つの開口のうち一方が天板3を貫通して各チャンバー4A,4B,4Cに連通すると共に他方は真空源5に接続される。これらバルブ7A,7B,7Cによって各チャンバー4A,4B,4Cの気密性の確保と開放とが制御され、そして本発明では、各バルブ7A,7B,7Cを開いた状態で真空源5によって各チャンバー4A,4B,4C内が減圧され、各バルブ7A,7B,7Cを閉めることによって各チャンバー4A,4B,4Cがそれぞれ密閉される。
【0034】
すなわち、本発明では、チャンバー4A,4B,4C毎に設けられたバルブ7A,7B,7Cを閉めることによってチャンバー4A,4B,4Cとして互いに独立した密閉空間が形成される。なお、バルブ7A,7B,7Cは、各チャンバー4A等からの排気は許容する一方で各チャンバー4A等への吸気は阻止する逆止め弁のようなものでも良い。
【0035】
各チャンバー4A,4B,4C内には気圧センサ6A,6B,6Cがそれぞれ備えられ、これら気圧センサ6A,6B,6Cによってチャンバー4A,4B,4C毎にチャンバー内の気圧が計測される。
【0036】
また、各隔壁2A,2B,2Cの、天板3とは反対側(言い換えると、透気試験装置1としての開口側)の縁部には、計測を行う際にコンクリート9の表面に押し当てられて各チャンバー4A,4B,4Cの気密性を確保するためのシール部材8が取り付けられる。シール部材8の材質や寸法(厚さ)などは特定のものには限定されない。具体的には例えばエチレンプロピレンゴム製のリングが各隔壁2A等の縁部全周に亘って取り付けられる。
【0037】
真空源5は、チャンバー4A,4B,4Cを減圧(吸引,真空引き)し得るものであれば特定のものに限定されるものではなく、具体的には例えば真空ポンプが用いられ得る。なお、図1(B)等では真空源5を一つ有するようにしているが、バルブ7A,7B,7C毎に真空源5を設けるようにしても良い。
【0038】
そして、本発明のコンクリートの透気係数分布の推定方法、推定装置及び推定プログラムは、上述においてその実施形態の一例を説明した本発明のコンクリートの透気試験装置を用いた計測によって取得されたデータを用いてコンクリートの透気係数のコンクリート表面からの深さ方向における分布を推定する。
【0039】
具体的には、本実施形態のコンクリートの透気係数分布の推定方法は、図2に示すように、上述のコンクリートの透気試験装置1の各チャンバー4A,4B,4Cの開口面をコンクリート9の表面に押し当て、真空源5によって各チャンバー4A,4B,4C内を減圧してからバルブ7A,7B,7Cを閉めて各チャンバー4A,4B,4Cをそれぞれ密閉し、気圧センサ6A,6B,6Cによって各チャンバー4A,4B,4C内の気圧を計測してバルブ7A,7B,7Cを閉めてからの経過時間と各チャンバー4A,4B,4C内の気圧値との組み合わせデータを取得し(S1)、一方で、コンクリート9の表面からの深さ方向における透気係数分布を仮定した上で(S2−1)経過時間と各チャンバー4A,4B,4C内の気圧値との組み合わせデータを計算し(S2−2)、当該計算による組み合わせデータが計測による組み合わせデータに対して予め定められた一致条件を満たすまで(S2−3:Yes)透気係数分布の仮定を変化させながら組み合わせデータの計算を繰り返し行うことによって(S2−1〜S2−3)透気係数分布を推定する(S2−4)ようにしている。
【0040】
また、本実施形態のコンクリートの透気係数分布の推定装置は、上述のコンクリートの透気試験装置1の各チャンバー4A,4B,4Cの開口面をコンクリート9の表面に押し当て、真空源5によって各チャンバー4A,4B,4C内を減圧してからバルブ7A,7B,7Cを閉めて各チャンバー4A,4B,4Cをそれぞれ密閉し、気圧センサ6A,6B,6Cによって各チャンバー4A,4B,4C内の気圧を計測して取得されたバルブ7A,7B,7Cを閉めてからの経過時間と各チャンバー4A,4B,4C内の気圧値との組み合わせデータを記憶装置から読み込む手段(11a)と、コンクリート9の表面からの深さ方向における透気係数分布を仮定する手段(11b)と、前記透気係数分布の仮定を用いて経過時間と各チャンバー4A,4B,4C内の気圧値との組み合わせデータを計算する手段(11c)と、当該計算による組み合わせデータと計測による組み合わせデータとを対比する手段(11d)とを有し、計算による組み合わせデータが計測による組み合わせデータに対して予め定められた一致条件を満たすまで透気係数分布の仮定を変化させながら組み合わせデータの計算を繰り返し行うことによって透気係数分布を推定するようにしている。
【0041】
さらに、本実施形態のコンクリートの透気係数分布の推定プログラムは、上述のコンクリートの透気試験装置1の各チャンバー4A,4B,4Cの開口面をコンクリート9の表面に押し当て、真空源5によって各チャンバー4A,4B,4C内を減圧してからバルブ7A,7B,7Cを閉めて各チャンバー4A,4B,4Cをそれぞれ密閉し、気圧センサ6A,6B,6Cによって各チャンバー4A,4B,4C内の気圧を計測して取得されたバルブ7A,7B,7Cを閉めてからの経過時間と各チャンバー4A,4B,4C内の気圧値との組み合わせデータを記憶装置から読み込む手段(11a)、コンクリート9の表面からの深さ方向における透気係数分布を仮定する手段(11b)、前記透気係数分布の仮定を用いて経過時間と各チャンバー4A,4B,4C内の気圧値との組み合わせデータを計算する手段(11c)、当該計算による組み合わせデータと計測による組み合わせデータとを対比する手段(11d)としてコンピュータを機能させ、計算による組み合わせデータが計測による組み合わせデータに対して予め定められた一致条件を満たすまで透気係数分布の仮定を変化させながら組み合わせデータの計算を繰り返し行うことによって透気係数分布を推定するようにしている。
【0042】
そして、コンクリートの透気係数分布の推定方法の実行にあたっては、まず、上述のコンクリートの透気試験装置を用いてチャンバー内気圧の計測が行われる(S1)。
【0043】
具体的には、透気試験装置1の各チャンバー4A,4B,4Cの開口面が検査・評価対象のコンクリート9の表面に押し当てられ、各チャンバー4A,4B,4Cに設けられたバルブ7A,7B,7Cが開けられて真空源5によって各チャンバー4A,4B,4C内が所定の気圧になるまで減圧(真空引き)される。なお、真空引きによって達成する気圧、言い換えると減圧の程度は、特定の水準に限定されるものではなく、従来の透気性の試験方法において選択されてきた減圧の程度を参考にして適宜設定される。具体的には例えば1〜5〔kPa〕程度以下にすることが考えられる。
【0044】
ここで、各チャンバー4A,4B,4Cの減圧の程度は、計測を開始する初期状態としては同一にしておく。すなわち、計測開始時における各チャンバー4A,4B,4C内の気圧は同じにしておく。本実施形態のように、チャンバー4A,4B,4Cのそれぞれのバルブ7A,7B,7Cを一元的に一つの真空源5で同時に真空引きすることによって各チャンバー4A,4B,4Cの減圧の程度が同じになる。
【0045】
そして、各チャンバー4A,4B,4C内の気圧(減圧の程度)が所定の水準に達したらバルブ7A,7B,7Cを同時に若しくは概ね同時に全て閉めて各チャンバー4A,4B,4Cをそれぞれ密閉すると共に真空引きを停止する。
【0046】
そして、バルブ7A,7B,7Cを全て閉めた時から各チャンバー4A,4B,4C内の気圧を各気圧センサ6A,6B,6Cによって計測する。この計測により、互いに独立した密閉空間であって所定の水準まで減圧された各チャンバー4A,4B,4Cにおける復圧の推移がチャンバー4A,4B,4C毎に計測される。なお、計測期間は、初期状態としての減圧の程度やコンクリートの特性などを踏まえて適宜設定される。具体的には例えば、中心チャンバー4Aの気圧が50〔kPa〕を超えるか(言い換えると、50〔kPa〕まで復圧するか)、或いは、バルブ7A,7B,7Cを全て閉めてから600〜800〔秒〕程度が経過するまでとすることなどが考えられる。
【0047】
なお、各チャンバー4A,4B,4Cの気密性が確保された上でこれら各チャンバー4A,4B,4C内が減圧されることにより、各チャンバー4A,4B,4Cの負圧による吸引力によって透気試験装置1はコンクリート9の表面に押し当てられた状態で固定される。
【0048】
なお、本発明では、計測当初において初期状態として各チャンバー4A,4B,4C内を減圧した後は、計測が終了するまでチャンバーの減圧(吸引,真空引き)は行わない。すなわち、Torrent法のように計測の間中常に各チャンバー内の気圧を等しく保つための計測中の減圧(吸引,真空引き)を行う必要が無い。
【0049】
上述の計測により、各バルブ7A,7B,7Cを閉めてからの経過時間(以下、計測経過時間という)とチャンバー4A,4B,4C毎のチャンバー内気圧値との組み合わせデータが取得される。
【0050】
次に、S1の処理によって計測され取得された計測経過時間とチャンバー毎のチャンバー内気圧値との組み合わせデータを用いてコンクリートの透気係数のコンクリート表面からの深さ方向における分布の推定が行われる(S2)。
【0051】
ここで、本発明のコンクリートの透気係数分布の推定方法におけるこのS2の処理は本発明のコンクリートの透気係数分布の推定装置によって実行され得る。
【0052】
そして、コンクリートの透気係数分布の推定方法におけるS2の処理及び当該処理を実行するコンクリートの透気係数分布の推定装置は、本発明のコンクリートの透気係数分布の推定プログラムをコンピュータ上で実行することによっても実現され得る。本明細書では、コンクリートの透気係数分布の推定プログラムをコンピュータ上で実行することによってS2の処理を実行するコンクリートの透気係数分布の推定装置が実現されると共にコンクリートの透気係数分布の推定方法におけるS2の処理が実行される場合を説明する。
【0053】
コンクリートの透気係数分布の推定プログラム17を実行するためのコンピュータ10(本実施形態では、コンクリートの透気係数分布の推定装置10でもある)の全体構成を図3に示す。このコンピュータ10(コンクリートの透気係数分布の推定装置10)は、制御部11、記憶部12、入力部13、表示部14及びメモリ15を備え相互にバス等の信号回線によって接続されている。また、コンピュータ10には記憶装置としてのデータサーバ16がバス等の信号回線によって接続されており、その信号回線を介してデータや制御指令等の信号の送受信(即ち出入力)が相互に行われる。
【0054】
制御部11は記憶部12に記憶されているコンクリートの透気係数分布の推定プログラム17によってコンピュータ10全体の制御並びにコンクリートの透気係数分布の推定に係る演算を行うものであり、例えばCPU(中央演算処理装置)である。
【0055】
記憶部12は少なくともデータやプログラムを記憶可能な装置であり、例えばハードディスクである。
【0056】
メモリ15は制御部11が種々の制御や演算を実行する際の作業領域であるメモリ空間となるものであり、例えばRAM(Random Access Memory の略)である。
【0057】
入力部13は少なくとも作業者の命令を制御部11に与えるためのインターフェイスであり、例えばキーボードである。
【0058】
表示部14は制御部11の制御によって文字や図形等の描画・表示を行うものであり、例えばディスプレイである。
【0059】
そして、本実施形態では、上述のS1の処理において計測され取得された計測経過時間とチャンバー4A,4B,4C毎のチャンバー内気圧値との組み合わせデータが気圧計測値データベース18としてデータサーバ16に格納(保存)される。
【0060】
そして、コンピュータ10(本実施形態では、コンクリートの透気係数分布の推定装置10でもある)の制御部11には、コンクリートの透気係数分布の推定プログラム17を実行することにより、S1の処理において計測され取得されたバルブ7A,7B,7Cを閉めてからの経過時間(即ち、計測経過時間)とチャンバー4A,4B,4C毎のチャンバー内気圧値との組み合わせデータを記憶装置としてのデータサーバ16から読み込む手段としてのデータ読込部11aと、コンクリート9の表面からの深さ方向における透気係数分布を仮定する手段としての透気係数分布仮定部11bと、前記透気係数分布の仮定を用いて計測経過時間とチャンバー4A,4B,4C毎のチャンバー内気圧値との組み合わせデータを計算する手段としての気圧計算部11cと、当該計算による組み合わせデータと計測による組み合わせデータとを対比する手段としての対比部11dとが構成される。
【0061】
そして、コンクリートの透気係数分布の推定プログラム17が実行されてコンピュータ10(コンクリートの透気係数分布の推定装置10)の制御部11に構成されたデータ読込部11aは、計測経過時間とチャンバー4A,4B,4C毎のチャンバー内気圧値との組み合わせデータの読み込みを行う。
【0062】
具体的には、データ読込部11aは、S1の処理において計測され取得されてデータサーバ16に格納されている気圧計測値データベース18に記録されている計測経過時間とチャンバー4A,4B,4C毎のチャンバー内気圧値との組み合わせデータをデータサーバ16から読み込む。そして、データ読込部11aは前記データを計測による組み合わせデータとしてメモリ15に記憶させる。
【0063】
続いて、本発明では、以下の手順によってコンクリート表面からの深さ方向における透気係数分布(言い換えると、透気係数の変化)の推定を行う。
【0064】
まず、制御部11の透気係数分布仮定部11bが、コンクリート表面からの深さ方向における透気係数分布を仮定する(S2−1)。
【0065】
具体的には、目的変数としての透気係数値Kdと説明変数としてのコンクリート表面からの深さdとの間の関係を表す関数形を仮定する。透気係数値Kdと深さdとの間の関係を表す関数形は、特定のものに限定されるものではなく、例えば、既存若しくは新規の知見に基づいて設定するようにしても良いし、過去の実績を踏まえて適当と考えられる関数形に設定するようにしても良い。
【0066】
具体的には例えば、透気係数の深さ方向における分布(言い換えると、深さ方向における変化)を、水分逸散が拡散側に従うものとして導いた累乗関数である数式1を用いて定義することが考えられる。
(数1) Kd=adb
ここに、Kd:表面からの深さdにおけるコンクリートの透気係数〔10-162〕,
d:コンクリート表面からの深さ〔m〕,
a,b:係数 をそれぞれ表す。
【0067】
そして、本発明では、数式1の係数a,bを求める(言い換えると、逆解析によって特定する)ことにより、コンクリートの透気係数の、コンクリート表面からの深さ方向における分布を推定する。
【0068】
本実施形態では、透気係数分布仮定部11bが、数式1の係数a,bを仮定し、当該仮定した係数a,bの値をメモリ15に記憶させる。なお、係数a,bの仮定の初期値は、特定の値に限定されるものではなく、既存若しくは新規の知見に基づいて設定するようにしても良いし、過去の実績を踏まえて適当と考えられる値に設定するようにしても良い。
【0069】
次に、制御部11の気圧計算部11cが、S2−1の処理において仮定されたコンクリート表面からの深さ方向における透気係数分布を用いて、時間の経過に伴う各チャンバー4A,4B,4C内の気圧値の計算を行う(S2−2)。
【0070】
具体的には、検査・評価対象のコンクリート構造物等における透気係数分布の推定対象部分(範囲)を円筒座標系に変換して二次元化し(図5参照)、基礎式として質量保存式(数式2)及び気体透過式として一般化されたダルシー式(数式3)を用いて数値計算を行い、時間tの経過に伴う各チャンバー4A,4B,4C内の気圧値の計算を行う。なお、実構造物のコンクリートについての座標系の設定範囲は、コンクリートの透気試験装置1の外隔壁2Cの外縁径及び当該外縁径の範囲を計測領域としたときの透気の影響範囲を踏まえて適宜設定される。
【0071】
【数2】
ここに、ρg_xy:座標(x,y)におけるガスの密度〔kg/m3〕,
ψy:座標yにおけるコンクリートの空隙率,
g_xy:座標(x,y)におけるガスの体積〔m3〕,
t:計測経過時間〔秒〕 をそれぞれ表す。
なお、ここでのガスは空気であり、コンクリート内の場所によって異なる気圧により密度や体積が変化することを考慮するようにしている。
【0072】
【数3】
ここに、Jg_xy:座標(x,y)における透気フラックス〔m/秒〕,
y:座標yにおけるコンクリートの透気係数〔10-162〕,
μg:ガスの粘性係数〔Pa・秒〕,
xy:座標(x,y)における気圧〔N/m2〕 をそれぞれ表す。
【0073】
なお、数式2や数式3における円筒座標系におけるY座標は、数式1におけるコンクリート表面からの深さdに対応する。
【0074】
また、コンクリートの透気係数Kと空隙率ψとの間の関係を仮定する。具体的には、目的変数としての透気係数Kと説明変数としての空隙率ψとの間の関係式を仮定する。透気係数Kと空隙率ψとの間の関係式は、特定のものに限定されるものではなく、例えば、既存若しくは新規の知見に基づいて設定するようにしても良いし、過去の実績を踏まえて適当と考えられる関係式に設定するようにしても良い。
【0075】
具体的には例えば、既往の実験データ(河野俊一,氏家勲:乾燥によるコンクリートの透気係数の変化に関する研究,コンクリート工学年次論文報告集,Vol.21,No.2,pp.847−852,1999年)を参考に、数式4によってコンクリートの透気係数Kと空隙率ψとの間の関係式を定義することが考えられる(式中のeは自然対数)。
(数4) K〔10-162〕=3.0×10-5×e1.1ψ
【0076】
そして、本実施形態では、気圧計算部11cが、S2−1の処理においてメモリ15に記憶された係数a,bの仮定値をメモリ15から読み込み、これら係数a,bの仮定値及び数式1〜4を用いて計測経過時間別に各チャンバー4A,4B,4C内の気圧値を計算する。すなわち上記で説明した計算であって概要としては、係数a,bを仮定した上で深さd(この深さdは座標yに対応する)を与えると数式1によってコンクリートの透気係数Kyが算出され、当該透気係数Kyに対応するコンクリートの空隙率ψyが数式4によって算出され、これら透気係数Kyと空隙率ψyとを数式2及び数式3に代入した上で、各チャンバー4A,4B,4C内の気圧上昇を計算する。なお、数式1〜4はコンクリートの透気係数分布の推定プログラム17に予め規定される。
【0077】
そして、気圧計算部11cは、計算された計測経過時間別の各チャンバー4A,4B,4C内の気圧値を計算による組み合わせデータとしてメモリ15に記憶させる。
【0078】
次に、制御部11の対比部11dが、S1の処理において計測され取得された計測による組み合わせデータ(即ち、コンクリートの透気試験装置1を用いての計測によって取得された計測経過時間とチャンバー4A,4B,4C毎のチャンバー内気圧値との組み合わせデータ)とS2−2の処理において計算された計算による組み合わせデータ(即ち、計測経過時間別の各チャンバー4A,4B,4C内の気圧値)との対比を行う(S2−3)。
【0079】
具体的には、対比部11dが、S1の処理において計測され取得されてメモリ15に記憶された計測による組み合わせデータとS2−2の処理において計算されてメモリ15に記憶された計算による組み合わせデータとをメモリ15から読み込み、これら二つの組み合わせデータを用いて計測経過時間毎にチャンバー4A,4B,4C毎のチャンバー内気圧値を対比する。
【0080】
そして、二つの組み合わせデータにおけるチャンバー4A,4B,4C毎のチャンバー内気圧値の差違が予め定められた一致条件を満たしていない場合には(S2−3:No)、計算値が計測値と一致していないので、S2−1の処理に戻り、透気係数分布仮定部11bが透気係数分布(具体的には、本実施形態では数式1の係数a,bの値)を変化させて仮定し直し、S2−2及びS2−3の処理をあらためて行う。
【0081】
上述の処理の流れは言い換えると、計測による組み合わせデータと計算による組み合わせデータとの差違を最小化するように数式1の係数a,bの値を逐次変化させながら繰り返し計算を行ってこれら係数a,bの値を最適化するという非線形最適化問題を解くということである。なお、非線形最適化問題の解法は、特定の方法に限定されるものではなく、既存若しくは新規の解法が用いられ、具体的には例えば勾配法のうちの最急降下法が用いられ得る。
【0082】
なお、計測経過時間別のチャンバー4A,4B,4C毎のチャンバー内気圧の計測値と計算値とが一致しているか否かを判断するための一致条件は、特定のものに限定されるものではなく、コンクリート表面からの深さ方向における透気係数分布の推定結果の活用場面等を踏まえて要請として設定され得る推定精度などを考慮して適宜設定される。例えば、計測経過時間別のチャンバー毎のチャンバー内気圧の計測値と計算値との差の絶対値の合計の上限を定めておくようにしたり、前記差の絶対値の最大値の上限を定めておくようにしたりすることなどが考えられる。
【0083】
上述の一致条件を含む非線形最適化問題の解法に纏わる処理はコンクリートの透気係数分布の推定プログラム17に予め規定される。
【0084】
一方、二つの組み合わせデータにおけるチャンバー4A,4B,4C毎のチャンバー内気圧値の差違が予め定められた一致条件を満たしている場合には(S2−3:Yes)、計算値が計測値と一致しているので、直前のS2−1の処理において仮定された透気係数分布が実際の透気係数分布であると特定する、すなわち、直前のS2−1の処理において仮定された透気係数分布を推定結果とする(S2−4)。
【0085】
そして、対比部11dは、S2の処理による推定結果として、コンクリート表面からの深さ別のコンクリートの透気係数の値を折線グラフとして描画して表示部14に表示したり、数式1の係数a,bの値を例えば記憶部12やデータサーバ16内に推定結果データファイルとして保存したりする。
【0086】
そして、制御部11は、コンクリートの透気係数分布の推定の処理を終了する(END)。
【0087】
以上の構成を有する本発明のコンクリートの透気試験装置1によれば、各チャンバー4A,4B,4Cの開口面をコンクリート9の表面に押し当てた状態で各チャンバー4A,4B,4C内を減圧してバルブ7A,7B,7Cを閉めて密閉してから各チャンバー4A,4B,4C内の気圧計測を行うことにより、各バルブ7A,7B,7Cを閉めてからの経過時間と径方向三層状(言い換えると、中心+二環状)のチャンバー4A,4B,4C毎のチャンバー内気圧値との組み合わせデータを取得することができる。そして、この組み合わせデータから、コンクリート9の表面からの深さ方向における透気係数分布(言い換えると、透気係数の変化)を推定することができる。
【0088】
また、以上の構成を有する本発明のコンクリートの透気係数分布の推定方法、推定装置及び推定プログラムによれば、各チャンバー4A,4B,4Cの開口面をコンクリート9の表面に押し当てた状態で各チャンバー4A,4B,4C内を減圧してバルブ7A,7B,7Cを閉めて密閉してから各チャンバー4A,4B,4C内の気圧計測を行うことによって取得された各バルブ7A,7B,7Cを閉めてからの経過時間と径方向三層状(言い換えると、中心+二環状)のチャンバー4A,4B,4C毎のチャンバー内気圧値との組み合わせデータを用いるようにしているので、コンクリート9の表面からの深さ方向における透気係数分布(言い換えると、透気係数の変化)を推定することができる。
【0089】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるものの本発明の実施の態様が上述の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述の実施形態では各隔壁2A,2B,2Cの開口側縁部にシール部材8が取り付けられるようにしているが、各チャンバー4A,4B,4Cの気密性を確保するためのシール部材8のような仕組みは試験装置自体に取り付けられなくても良く、計測を行う際に各隔壁2A,2B,2Cの開口側縁部の形状・大きさに合わせてシール剤をコンクリート9の表面に塗布したり盛ったりして当該シール剤の位置に各隔壁2A,2B,2Cの開口側縁部を合わせて押し当てるようにしても良い。
【0090】
また、上述の実施形態では径方向三層(言い換えると、三環状)の隔壁2A,2B,2Cを有するようにしてこれら隔壁によって形成される径方向三層(言い換えると、中心+二環状)のチャンバー4A,4B,4Cを有する構造としているが、本発明における層構造を構成するチャンバーの数は三つに限られるものではなく、二つでも良いし、四つ以上でも良い。
【0091】
そして、チャンバーの数が二つ(すなわち、平面視円形の中心チャンバーと当該中心チャンバーを環状に囲む環状チャンバーとの二層構造)であるコンクリートの透気試験装置を用いて同一コンクリート構造物の複数箇所で計測を行い、例えば図6に示すような計測結果が得られた場合にはこれらの結果を用いてコンクリートの品質について定性的な評価を行うことができる。具体的には、同図(a)に示す結果と比べて同図(b)に示す結果の方が中心チャンバー内の気圧値の変化と環状チャンバー内の気圧値の変化との乖離が大きくなっていることから((a)における気圧値の乖離は符号D1,(b)における気圧値の乖離は符号D2で示され、D2>D1である)コンクリート表層における透気係数が極端に大きくなっていると考えられ、この点において、同図(a)に示す結果が得られた箇所に比べて同図(b)に示す結果が得られた箇所の方がコンクリートの品質が悪いと評価することができる。
【0092】
また、チャンバーの数を四つ以上(すなわち、平面視円形の中心チャンバーと当該中心チャンバーを順に環状に囲む三つ以上の環状チャンバーとの四層以上の構造)にすると、上記のような定性的な評価に加え、上述の実施形態のようにコンクリート表面からの深さ方向における透気係数分布を解析的に推定することができる。さらに、チャンバーによって構成する層の数を多くすることにより、取得される計測経過時間とチャンバー毎のチャンバー内気圧値との組み合わせデータの情報量が増え、結果的に、コンクリート表面からの深さ方向における透気係数分布の推定精度を向上させることができる。
【0093】
また、上述の実施形態ではコンクリート9の表面からの深さ方向における透気係数分布を仮定した上で計測経過時間とチャンバー内気圧との組み合わせデータを計算した後に当該計算による組み合わせデータが計測による組み合わせデータに対して一致条件を満たすまで透気係数分布の仮定を変化させながら組み合わせデータの計算を繰り返し行うようにしているが、これに限られず、複数の透気係数分布の仮定に基づく計測経過時間とチャンバー内気圧との組み合わせデータを予め計算しておき、計測によって得られた組み合わせデータに最も良く一致する計算による組み合わせデータを選択して当該計算による組み合わせデータが前提としている透気係数分布を推定結果として特定するようにすることも考えられる。
【実施例1】
【0094】
コンクリート供試体を用いての、本発明のコンクリートの透気係数分布の推定方法の妥当性を検証した例を図7及び図8を用いて説明する。
【0095】
本実施例では、普通ポルトランドセメントコンクリートで作製した直径300×高さ300〔mm〕の円柱状の供試体を用いた。
【0096】
そして、本実施例では、40〔%〕と60〔%〕との二種類の水セメント比を設定し、水セメント比40〔%〕の供試体Aと水セメント比60〔%〕の供試体Bとの二種類の供試体のそれぞれについて、材齢5日で脱型した後に気中曝露したもの(以下、「短期脱型」と呼ぶ)と、材齢28日までフィルム被覆養生を行った後に気中曝露したもの(以下、「長期F養生」と呼ぶ)との二種類の養生を施した供試体を準備した。
【0097】
それら供試体A,B(それぞれについて短期脱型と長期F養生)を対象に材齢364日において本発明のコンクリートの透気試験装置を用いてチャンバー毎のチャンバー内気圧の計測を行った(S1)。
【0098】
本実施例では、上述の実施形態で説明したものと同様に、径方向三層(言い換えると、三環状)の内隔壁2A,中間隔壁2B,外隔壁2Cを有するようにしてこれら隔壁によって形成される径方向三層(言い換えると、中心+二環状)の中心チャンバー4A,中間チャンバー4B,外周チャンバー4Cを有する構造のコンクリートの透気試験装置を用いた。
【0099】
そして、計測経過時間とチャンバー毎のチャンバー内気圧値との組み合わせデータとして、水セメント比40〔%〕の供試体Aについて図7(A)に示す結果が得られ(短期脱型について中心チャンバー<図中凡例「短−1」>,中間チャンバー<同「短−2」>,外周チャンバー<同「短−3」>、及び、長期F養生について中心チャンバー<図中凡例「長−1」>,中間チャンバー<同「長−2」>,外周チャンバー<同「長−3」>)、水セメント比60〔%〕の供試体Bについて同図(B)に示す結果が得られた(短期脱型について中心チャンバー<図中凡例「短−1」>,中間チャンバー<同「短−2」>,外周チャンバー<同「短−3」>、及び、長期F養生について中心チャンバー<図中凡例「長−1」>,中間チャンバー<同「長−2」>,外周チャンバー<同「長−3」>)。
【0100】
図7に示す結果から、水セメント比が小さいほどチャンバー内気圧の上昇(言い換えると、復圧)速度が小さく、また、径方向三層をなすチャンバー毎のチャンバー内気圧の相互の差が大きくなっていることが認められ、径方向複数層をなすチャンバーが互いに独立した密閉空間を形成すると共にチャンバー毎にチャンバー内気圧が計測される本発明のコンクリートの透気試験装置を用いた計測によってコンクリートの水セメント比の差違を検知できることが確認された。したがって、本発明のコンクリートの透気試験装置を用いて計測され取得されたチャンバー毎のチャンバー内気圧値データを用いることにより、コンクリートの水セメント比の差違に関する定性的な品質評価が可能であり、さらに、コンクリートの水セメント比の差違が反映された透気係数を推定可能であることが確認された。
【0101】
図7に示す結果から、また、短期養生と比べて長期F養生の方がチャンバー内気圧の上昇(言い換えると、復圧)速度が小さくなっていることが認められ、径方向複数層をなすチャンバーが互いに独立した密閉空間を形成すると共にチャンバー毎にチャンバー内気圧が計測される本発明のコンクリートの透気試験装置を用いた計測によって、養生の差違を、さらに養生の良否による品質変化を検知できることが確認された。したがって、本発明のコンクリートの透気試験装置を用いて計測され取得されたチャンバー毎のチャンバー内気圧値データを用いることにより、養生の良否に関する定性的な品質評価が可能であり、さらに、養生の良否が反映された透気係数を推定可能であることが確認された。
【0102】
次に、図7に示す計測データを用い、本発明のコンクリートの透気係数分布の推定方法によってコンクリート表面からの深さ方向における透気係数の分布の推定を行った(S2)。
【0103】
本実施例では、円柱状の供試体を円筒座標系にて二次元化し(図5参照)、基礎式として質量保存式(前記の数式2)及び気体透過式として一般化されたダルシー式(前記の数式3)を含む数式1〜4を用いて計測経過時間別に各チャンバー4A,4B,4C内の気圧値を計算するようにした。
【0104】
そして、前記の数式1の係数a,bの値を逐次変化させながら繰り返し計算を行ってこれら係数a,bの値を最適化するという非線形最適化問題を解いてこれら係数a,bの値を特定し、これら係数a,bを含む前記数式1によって表されるコンクリート表面からの深さ方向における透気係数分布を推定した。
【0105】
推定の結果、コンクリート表面からの深さ方向における透気係数分布(透気係数の変化)について、水セメント比40〔%〕の供試体Aについて図8(A)に示す結果が得られ(短期脱型について<図中凡例「40−短」>,長期F養生について<同「40−長」>)、水セメント比60〔%〕の供試体Bについて同図(B)に示す結果が得られた(短期脱型について<図中凡例「60−短」>,長期F養生について<同「60−長」>)。
【0106】
図8に示す結果から、水セメント比が大きいほど、また、養生条件が悪いほど(即ち、短期脱型の方が)、透気係数が相対的に大きく、且つ、コンクリート表面近傍での透気性が高くなる傾向があり、妥当な結果が得られていることが確認された。
【0107】
図8に示す結果から、また、透気係数の値が変化する領域即ちコンクリート表面からの深さ範囲は、水セメント比40〔%〕の場合は1〜2〔cm〕程度になり(同図(A);図中凡例「40−短」及び「40−長」参照)、水セメント比60〔%〕の場合は2〜3〔cm〕程度になり(同図(B);図中凡例「60−短」及び「60−長」参照)、既往の知見と大差のない結果であり、妥当な結果が得られていることが確認された。
【0108】
また、供試体A,Bのうち長期F養生をしたものを対象に材齢91日においても本発明のコンクリートの透気試験装置を用いてチャンバー毎のチャンバー内気圧の計測を行った(S1)。
【0109】
そして、材齢91日における計測データを用いて本発明のコンクリートの透気係数分布の推定方法によってコンクリート表面からの深さ方向における透気係数の分布の推定を行い(S2)、水セメント比40〔%〕の供試体A且つ長期F養生について図8(A)中に凡例「40−長_91d」で示す結果が得られ、水セメント比60〔%〕の供試体B且つ長期F養生について図8(B)中に凡例「60−長_91d」で示す結果が得られた。
【0110】
ここで、透気係数分布はコンクリートからの水分逸散進行(具体的には、コンクリート中の水分はコンクリート表層から逸散し、水分の逸散範囲がコンクリート表層から内部へと徐々に進行する)と密接な関係があるものと考えられるところ、材齢91日における計測データを用いての透気係数分布の推定結果は材齢364日における計測データを用いての推定結果と比べて全体的に小さい値になっていることが認められた。このことから、径方向複数層をなすチャンバーが互いに独立した密閉空間を形成すると共にチャンバー毎にチャンバー内気圧が計測される本発明のコンクリートの透気試験装置を用いた計測によって、コンクリートにおける水分逸散進行の差違も検知できることが確認された。したがって、本発明のコンクリートの透気試験装置を用いて計測され取得されたチャンバー毎のチャンバー内気圧値データを用いることにより、コンクリートにおける水分逸散の過程に関する定性的な品質評価が可能であり、さらに、コンクリートにおける水分逸散進行の差違が反映された透気係数を推定可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0111】
1 コンクリートの透気試験装置
2A 内隔壁
2B 中間隔壁
2C 外隔壁
3 天板
4A 中心チャンバー
4B 中間チャンバー
4C 外周チャンバー
5 真空源
6A,6B,6C 気圧センサ
7A,7B,7C バルブ
8 シール部材
9 コンクリート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8