特許第5894734号(P5894734)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5894734
(24)【登録日】2016年3月4日
(45)【発行日】2016年3月30日
(54)【発明の名称】研磨用組成物及びそれを用いた研磨方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/00 20120101AFI20160317BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20160317BHJP
【FI】
   B24B37/00 H
   H01L21/304 622D
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2010-517904(P2010-517904)
(86)(22)【出願日】2009年6月15日
(86)【国際出願番号】JP2009060848
(87)【国際公開番号】WO2009154164
(87)【国際公開日】20091223
【審査請求日】2012年6月8日
【審判番号】不服2014-14747(P2014-14747/J1)
【審判請求日】2014年7月28日
(31)【優先権主張番号】特願2008-159192(P2008-159192)
(32)【優先日】2008年6月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】大津 平
(72)【発明者】
【氏名】大橋 圭吾
【合議体】
【審判長】 西村 泰英
【審判官】 栗田 雅弘
【審判官】 久保 克彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−182800(JP,A)
【文献】 特開2002−301655(JP,A)
【文献】 特表2006−519490(JP,A)
【文献】 特開2006−193695(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/059627(WO,A1)
【文献】 特開2008−117807(JP,A)
【文献】 特開2008−91524(JP,A)
【文献】 特開2000−315667(JP,A)
【文献】 特開2004−259417(JP,A)
【文献】 特開2004−162062(JP,A)
【文献】 特開2003−347248(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/038077(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B37/00
H01L21/304
B24B1/00
G11B5/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1):
−R−SO
(ただし、Rは、炭素数1〜4の直鎖アルキレン又はヒドロキシアルキレン基であり、Rは、Rが直鎖アルキレン基の場合にはヒドロキシ基、カルボキシ基又はスルホン酸基であって、Rが直鎖ヒドロキシアルキレン基の場合にはカルボキシ基又はヒドロキシメチル基である。)
又は、一般式(2):
−R
(ただし、Rは、スルホン酸基又はホスホン酸基である。)
で表される酸と砥粒としてコロイダルシリカとを含有し、pH0.5〜3であることを特徴とするハードディスク用ガラス基板又はフォトマスク用合成石英基板を研磨するための研磨用組成物。
【請求項2】
前記酸が一般式(1):
−R−SO
(ただし、Rは、炭素数1〜4の直鎖アルキレン又はヒドロキシアルキレン基であり、Rは、Rが直鎖アルキレン基の場合にはヒドロキシ基、カルボキシ基又はスルホン酸基であって、Rが直鎖ヒドロキシアルキレン基の場合にはカルボキシ基又はヒドロキシメチル基である。)
で表される酸である請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記酸がイセチオン酸、スルホプロピオン酸、スルホプロパンジオール、エチオン酸、及びベンゼンスルホン酸から選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
水溶性高分子をさらに含有する請求項1〜3のいずれか一項に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
前記水溶性高分子が、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリアクリル酸塩及びポリ酢酸ビニルから選ばれる少なくとも1種である請求項4に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
前記水溶性高分子の重量平均分子量が、1,000〜5,000,000である請求項4に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載の研磨用組成物を用いて、ハードディスク用ガラス基板又はフォトマスク用合成石英基板を研磨することを特徴とする研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化ケイ素材料を研磨する用途、より具体的には、例えば、ハードディスク用ガラス基板やフォトマスク用合成石英基板、半導体デバイスの二酸化シリコン膜、borophosphosilicate glass(BPSG)膜、phosphosilicate glass(PSG)膜、fluorosilicate glass(FSG)膜及び有機シロキサン膜などの低誘電率膜を研磨する用途において主に使用される研磨用組成物及びそれを用いた研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化ケイ素材料を研磨する用途で使用される研磨用組成物に対しては、研磨後の酸化ケイ素材料の品質向上のために、研磨後の酸化ケイ素材料の表面粗さが小さいこと及び研磨後の酸化ケイ素材料にスクラッチのような表面欠陥が少ないことが強く要求されている。また、研磨作業にかかる時間を短縮させるためには、酸化ケイ素材料の研磨速度(除去速度)が高いことも要求されている。
【0003】
酸化ケイ素材料を研磨する用途で使用しうる研磨用組成物として、従来、例えば特許文献1〜4に記載の研磨用組成物が知られている。特許文献1の研磨用組成物は、コロイダルシリカのような砥粒と、アクリル酸/スルホン酸共重合体のようなスルホン酸基を有する重合体とを含有している。特許文献2の研磨用組成物は、コロイダルシリカのような砥粒と、砥粒のゼータ電位を−15〜40mVに調整するための酸、塩基、塩又は界面活性剤からなるゼータ電位調整剤とを含有している。特許文献3の研磨用組成物は、平均一次粒子径が60nm以下のコロイダルシリカを含有し、pHが0.5〜4に調整されている。特許文献4の研磨用組成物は、会合度が1よりも大きいコロイダルシリカ及び酸を含有し、pHが1〜4に調整されている。しかしながら、これら従来の研磨用組成物は上記した要求のすべてを十分に満足させるには不十分であり、なお改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−167817号公報
【特許文献2】特開2006−7399号公報
【特許文献3】特開2007−213020号公報
【特許文献4】特開2008−117807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明の目的は、酸化ケイ素材料を研磨する用途においてより好適に使用可能な研磨用組成物及びそれを用いた研磨方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明の一態様では、一般式(1):
−R−SO
(ただし、Rは、炭素数1〜4の直鎖アルキレン又はヒドロキシアルキレン基であり、Rは、Rが直鎖アルキレン基の場合にはヒドロキシ基、カルボキシ基又はスルホン酸基であって、Rが直鎖ヒドロキシアルキレン基の場合にはカルボキシ基又はヒドロキシメチル基である。)
又は、一般式(2):
−R
(ただし、Rは、スルホン酸基又はホスホン酸基である。)
で表される酸と砥粒としてコロイダルシリカとを含有し、pH0.5〜3であることを特徴とするハードディスク用ガラス基板又はフォトマスク用合成石英基板を研磨するための研磨用組成物が提供される。
【0007】
研磨用組成物中に含まれる酸は、上記一般式(1)で表される化合物であることが好ましく、また、イセチオン酸、スルホプロピオン酸、スルホプロパンジオール、エチオン酸、又はベンゼンスルホン酸であることが好ましい。研磨用組成物は、水溶性高分子をさらに含有してもよい。
本発明の別の態様では、上記の研磨用組成物を用いて、ハードディスク用ガラス基板又はフォトマスク用合成石英基板を研磨する研磨方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、酸化ケイ素材料を研磨する用途においてより好適に使用可能な研磨用組成物及びそれを用いた研磨方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態を説明する。
本実施形態の研磨用組成物は、特定の酸及び砥粒を水に混合して製造される。従って、研磨用組成物は、特定の酸、砥粒及び水を含有する。本実施形態の研磨用組成物は、ハードディスク用ガラス基板やフォトマスク用合成石英基板、半導体デバイスの二酸化シリコン膜、BPSG膜、PSG膜、FSG膜及び有機シロキサン膜などの低誘電率膜を含む酸化ケイ素材料を研磨する用途で主に使用される。
【0010】
研磨用組成物中に含まれる前記特定の酸は、一般式(1):
−R−SO
で表わされる酸である。ただし、一般式(1)において、Rは、炭素数1〜4、好ましくは炭素数2又は3、特に好ましくは炭素数2の直鎖アルキレン又はヒドロキシアルキレン基であり、Rは、Rが直鎖アルキレン基の場合にはヒドロキシ基(−OH)、カルボキシ基(−COOH)又はスルホン酸基(−SOH)であって、Rが直鎖ヒドロキシアルキレン基の場合にはカルボキシ基又はヒドロキシメチル基(−CHOH)である。ここで、炭素数1〜4の直鎖アルキレン基とは具体的に、メチレン基(−CH−)、エチレン基(−CHCH−)、プロピレン基(−CHCHCH−)又はブチレン基(−CHCHCHCH−)であり、炭素数1〜4の直鎖ヒドロキシアルキレン基とは、炭素数1〜4の直鎖アルキレン基の中の水素原子の一つがヒドロキシ基で置換されたものである。一般式(1)で表わされる酸の具体例としては、イセチオン酸(HOCHCHSOH)、スルホプロピオン酸(HOOCCHCHSOH)、スルホプロパンジオール(HOCHCH(OH)CHSOH)、エチオン酸(HOSCHCHSOH)が挙げられる。
【0011】
あるいは、研磨用組成物中に含まれる前記特定の酸は、一般式(2):
−R
で表される酸である。ただし、一般式(2)において、Rは、スルホン酸基(−SOH)又はホスホン酸基(−PO)である。すなわち、一般式(2)で表される酸は、ベンゼンスルホン酸(CSOH)又はベンゼンホスホン酸(CPO)である。
【0012】
一般式(1)又は(2)で表される酸を研磨用組成物に添加することにより、研磨用組成物による研磨後の酸化ケイ素材料の表面粗さ及びスクラッチ数をそれほど増大させることなく、研磨用組成物による酸化ケイ素材料の研磨速度を大きく増大させることが可能となる。これは、酸の添加による研磨速度の増大が、酸によって酸化ケイ素材料が腐食されることを通じて起こるのではなく、この酸の働きによって砥粒と酸化ケイ素材料の間の反発力が適度に緩和されること、また砥粒同士の適度な凝集が起こることを通じて起こるためと推察される。
【0013】
一般式(1)で表される酸の中でも、Rが炭素数2の直鎖アルキレン基であってRがヒドロキシ基である一般式(1)で表わされる酸、すなわちイセチオン酸は、研磨用組成物による研磨後の酸化ケイ素材料の表面粗さを増大させる作用が弱いことから、研磨用組成物中に含まれる酸として特に好適に使用されうる。また、一般式(2)で表される酸の中でも、Rがスルホン酸基である一般式(2)で表わされる酸、すなわちベンゼンスルホン酸も、研磨用組成物による研磨後の酸化ケイ素材料の表面粗さを増大させる作用が弱いことから、研磨用組成物中に含まれる酸として特に好適に使用されうる。
【0014】
研磨用組成物中の一般式(1)又は(2)で表される酸の含有量は0.001mol/L以上であることが好ましく、より好ましくは0.01mol/L以上、特に好ましくは0.015mol/L以上である。この酸の含有量が多くなるにつれて、研磨用組成物による酸化ケイ素材料の研磨速度は向上する傾向にある。この点、研磨用組成物中の一般式(1)又は(2)で表される酸の含有量が0.001mol/L以上、さらに言えば0.01mol/L以上又は0.015mol/L以上である場合には、研磨用組成物による酸化ケイ素材料の研磨速度を実用上特に好適なレベルにまで向上させることが容易となる。
【0015】
また、研磨用組成物中の一般式(1)又は(2)で表される酸の含有量は3mol/L以下であることが好ましく、より好ましくは1mol/L以下、特に好ましくは0.5mol/L以下である。この酸の含有量が少なくなるにつれて、研磨用組成物による研磨後の酸化ケイ素材料の表面粗さは低減される。この点、研磨用組成物中の一般式(1)又は(2)で表される酸の含有量が3mol/L以下、さらに言えば1mol/L以下又は0.5mol/L以下である場合には、研磨用組成物による研磨後の酸化ケイ素材料の表面粗さを実用上特に好適なレベルにまで低減させることが容易となる。
【0016】
研磨用組成物中に含まれる前記砥粒は特に種類を限定されるものではなく、例えば、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化セリウムなどの酸化物粒子、あるいは樹脂粒子を使用することができる。ただし、酸化ケイ素材料を研磨する用途で研磨用組成物が用いられる場合に好適に使用されうるのはコロイダルシリカやフュームドシリカなどの二酸化ケイ素であり、その中でも特にコロイダルシリカである。二酸化ケイ素、中でもコロイダルシリカを砥粒として使用した場合には、研磨用組成物による研磨後の酸化ケイ素材料はスクラッチ数が特に低減される。
【0017】
研磨用組成物中に含まれる砥粒のBET比表面積から算出される平均粒子径(平均一次粒子径)は1nm以上であることが好ましく、より好ましくは5nm以上、さらに好ましくは10nm以上、特に好ましくは13nm以上である。平均一次粒子径が大きくなるにつれて、研磨用組成物による酸化ケイ素材料の研磨速度は向上する。この点、砥粒の平均一次粒子径が1nm以上、さらに言えば5nm以上、10nm以上又は13nm以上である場合には、研磨用組成物による酸化ケイ素材料の研磨速度を実用上特に好適なレベルにまで向上させることが容易となる。
【0018】
また、研磨用組成物中に含まれる砥粒の平均一次粒子径は80nm以下であることが好ましく、より好ましくは40nm以下、さらに好ましくは30m以下、特に好ましくは27nm以下である。平均一次粒子径が小さくなるにつれて、研磨用組成物による研磨後の酸化ケイ素材料は表面粗さが低減される。この点、砥粒の平均一次粒子径が80nm以下、さらに言えば40nm以下、30m以下又は27nm以下である場合には、研磨用組成物による研磨後の酸化ケイ素材料の表面粗さを実用上特に好適なレベルにまで向上させることが容易となる。
【0019】
研磨用組成物中に含まれる砥粒の動的散乱法により求められる平均粒子径(平均二次粒子径)は5nm以上であることが好ましく、より好ましくは10nm以上、さらに好ましくは15nm以上である。平均二次粒子径が大きくなるにつれて、研磨用組成物による酸化ケイ素材料の研磨速度は向上する。この点、砥粒の平均二次粒子径が5nm以上、さらに言えば10nm以上又は15nm以上である場合には、研磨用組成物による酸化ケイ素材料の研磨速度を実用上特に好適なレベルにまで向上させることが容易となる。
【0020】
また、研磨用組成物中に含まれる砥粒の平均二次粒子径は200nm以下であることが好ましく、より好ましくは150nm以下、さらに好ましくは100nm以下、特に好ましくは60nm以下である。平均二次粒子径が小さくなるにつれて、研磨用組成物による研磨後の酸化ケイ素材料は表面粗さが低減される。この点、砥粒の平均二次粒子径が200nm以下、さらに言えば150nm以下、100nm以下又は60nm以下である場合には、研磨用組成物による研磨後の酸化ケイ素材料の表面粗さを実用上特に好適なレベルにまで向上させることが容易となる。
【0021】
研磨用組成物中に含まれる砥粒の平均二次粒子径の値を平均一次粒子径の値で除して得られる値は、3以下であることが好ましく、より好ましくは2.5以下、特に好ましくは2以下である。この値が小さくなるにつれて、研磨用組成物による研磨後の酸化ケイ素材料は表面粗さ及びスクラッチ数が低減される。この点、砥粒の平均二次粒子径の値を平均一次粒子径の値で除して得られる値が3以下、さらに言えば2.5以下又は2以下である場合には、研磨用組成物による研磨後の酸化ケイ素材料の表面粗さ及びスクラッチ数を実用上特に好適なレベルにまで低減させることが容易となる。
【0022】
研磨用組成物中の砥粒の含有量は0.1質量%以上であることが好ましく、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは3質量%以上である。砥粒の含有量が多くなるにつれて、研磨用組成物による酸化ケイ素材料の研磨速度は向上する。この点、研磨用組成物中の砥粒の含有量が0.1質量%以上、さらに言えば1質量%以上又は3質量%以上である場合には、研磨用組成物による酸化ケイ素材料の研磨速度を実用上特に好適なレベルにまで向上させることが容易となる。
【0023】
また、研磨用組成物中の砥粒の含有量は20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。砥粒の含有量が少なくなるにつれて、研磨用組成物のスラリー安定性は向上する。この点、研磨用組成物中の砥粒の含有量が20質量%以下、さらに言えば15質量%以下又は10質量%以下である場合には、研磨用組成物のスラリー安定性を実用上特に好適なレベルにまで向上させることが容易となる。
【0024】
研磨用組成物のpHの値は特に上限を限定されるものではないが、ハードディスク用ガラス基板又はフォトマスク用合成石英基板を研磨する用途で使用される場合には3以下であることが好ましく、より好ましくは2.5以下、さらに好ましくは2以下、特に好ましくは1.5以下である。研磨用組成物のpHの値が小さくなるにつれて、研磨用組成物によるハードディスク用ガラス基板及びフォトマスク用合成石英基板の研磨速度は向上する。この点、研磨用組成物のpHが3以下、さらに言えば2.5以下、2以下又は1.5以下である場合には、研磨用組成物によるハードディスク用ガラス基板及びフォトマスク用合成石英基板の研磨速度を実用上特に好適なレベルにまで向上させることが容易となる。
【0025】
また、研磨用組成物のpHの値は特に下限を限定されるものではないが、ハードディスク用ガラス基板又はフォトマスク用合成石英基板を研磨する用途で使用される場合には、研磨パッドのダメージを少なくするためには0.5以上であることが好ましく、より好ましくは1以上である。
【0026】
研磨用組成物のpHを所望の値に調整する目的で酸又はアルカリを研磨用組成物に別途に添加してもよい。使用される酸又はアルカリは任意のものであってよい。
本実施形態によれば、以下の利点が得られる。
【0027】
本実施形態の研磨用組成物は、一般式(1)又は(2)で表される酸及び砥粒を含有しているために、酸化ケイ素材料を高い除去速度でかつ、研磨後の酸化ケイ素材料の表面粗さ及びスクラッチ数を良好に低減しながら研磨することができる。従って、本実施形態の研磨用組成物は、酸化ケイ素材料を研磨する用途で好適に使用することができる。
【0028】
前記実施形態は、次のようにして変更されてもよい。
前記実施形態の研磨用組成物は、水溶性高分子をさらに含有してもよい。水溶性高分子をさらに含有させた場合には、研磨用組成物による研磨後の酸化ケイ素材料の表面粗さがより一層低減される。使用可能な水溶性高分子としては、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリアクリル酸塩、ポリ酢酸ビニルなどが挙げられるが、特に好適に使用されうるのは、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムなどのポリスチレンスルホン酸塩である。ポリスチレンスルホン酸塩の重量平均分子量は1千から500万の範囲内であることが好ましく、より好ましくは1万〜250万の範囲内、特に好ましくは50万〜200万の範囲内である。
【0029】
前記実施形態の研磨用組成物は、酸化剤をさらに含有してもよい。使用可能な酸化剤としては、過酸化水素、過酸化物、硝酸塩、ヨウ素酸塩、過ヨウ素酸塩、次亜塩素酸塩、亜塩素酸塩、塩素酸塩、過塩素酸塩、過硫酸塩、重クロム酸塩、過マンガン酸塩、オゾン水、銀(II)塩、鉄(III)塩などが挙げられるが、特に好適に使用されうるのは過酸化水素である。
【0030】
前記実施形態の研磨用組成物には、必要に応じて、キレート剤や界面活性剤、pH調整剤、防腐剤、防黴剤、防錆剤などの添加剤を添加してもよい。
前記実施形態の研磨用組成物はそれぞれ研磨用組成物の原液を水で希釈することによって調製されてもよい。
【0031】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。
<実施例1〜15及び比較例1〜18>
実施例1〜実施例15では、酸及びコロイダルシリカを、必要に応じて水溶性高分子とともに水に混合して研磨用組成物を調製した。比較例1〜比較例18では、酸、コロイダルシリカ及び水溶性高分子を適宜に水と混合して研磨用組成物を調製した。各例の研磨用組成物中の酸、コロイダルシリカ及び水溶性高分子の詳細、並びに各例の研磨用組成物のpHを測定した結果を表1及び表2に示す。
【0032】
なお、表1及び表2の“酸の種類及び濃度”欄中、
A1は、イセチオン酸、
A2は、スルホプロピオン酸、
A3は、スルホプロパンジオール、
A4は、ベンゼンスルホン酸、
A5は、エチオン酸、
A6は、硫酸、
A7は、硝酸、
A8は、塩酸、
A9は、リン酸、
A10は、ホスホン酸、
A11は、クエン酸、
A12は、酢酸、
A13は、ギ酸、
A14は、グリコール酸、
A15は、タウリン、
A16は、メタンスルホン酸、
A17は、エタンスルホン酸、
A18は、エチレングリコール、
A19は、パラトルエンスルホン酸、
A20は、グルコン酸カリウムを表す。
【0033】
表1及び表2の“コロイダルシリカの種類及び濃度”欄中、
B1は、平均一次粒子径16nm、平均二次粒子径16nmのコロイダルシリカ、
B2は、平均一次粒子径23nm、平均二次粒子径35nmのコロイダルシリカ、
B3は、平均一次粒子径30nm、平均二次粒子径40nmのコロイダルシリカを表す。
【0034】
表1及び表2の“水溶性高分子の種類及び濃度”欄中、
C1は、重量平均分子量が1万のポリスチレンスルホン酸ナトリウム、
C2は、重量平均分子量が50万のポリスチレンスルホン酸ナトリウム、
C3は、重量平均分子量が100万のポリスチレンスルホン酸ナトリウムを表す。
【0035】
直径2.5インチ(約65mm)の磁気ディスク用アルミノシリケートガラス基板の表面を、各例の研磨用組成物を用いて表3に示す条件で研磨し、研磨前後の基板の重量の差に基づいて研磨速度を求めた。求められた研磨速度の値が0.059μm/分以上の場合には“5”、0.046μm/分以上0.059μm/分未満の場合には“4”、0.033μm/分以上0.046μm/分未満の場合には“3”、0.020μm/分以上0.033μm/分未満の場合には“2”、0.020μm/分未満の場合には“1”と評価した結果を表1及び表2の“研磨速度”欄に示す。評点4及び評点5、すなわち0.046μm/分以上が合格レベルである。
【0036】
各例の研磨用組成物を用いて研磨後のアルミノシリケートガラス基板の表面粗さRaを、デジタルインスツルメンツ社製の原子間力顕微鏡“ナノスコープIII ディメンジョン3000”を使用して測定した。測定された表面粗さRaの値が0.60Å未満の場合には“6”、0.60Å以上0.64Å未満の場合には“5”、0.64Å以上0.68Å未満の場合には“4”、0.68Å以上0.72Å未満の場合には“3”、0.72Å以上0.76Å未満の場合には“2”、0.76Å以上の場合には“1”と評価した結果を表1及び表2の“表面粗さ”欄に示す。評点3〜評点6、すなわち0.72Å未満が合格レベルである。
【0037】
各例の研磨用組成物を用いて研磨後のアルミノシリケートガラス基板の表面におけるスクラッチ数を、ビジョンサイテック社製の外観検査装置“マイクロマックスVMX2100”を使用して計測した。面当たりで計測されたスクラッチ数が10未満の場合には“3”、10以上20未満の場合には“2”、20以上の場合には“1”と評価した結果を表1及び表2の“スクラッチ数”欄に示す。評点2及び評点3、すなわち面当たり20未満が合格レベルである。
【0038】
各例の研磨用組成物のスラリー安定性に関して、常温での静置保存を開始してから14日経過してもなお砥粒の凝集や沈殿の生成が認められなかった場合には“3”、7日目以降14日目までにそれらが認められた場合には“2”、7日目までにそれらが認められた場合には“1”と評価した結果を表1及び表2の“スラリー安定性”欄に示す。評点2及び評点3、すなわち7日目までに砥粒の凝集や沈殿の生成が認められないことが合格レベルである。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
表1に示すように、実施例1〜15の研磨用組成物はいずれも、研磨速度、表面粗さ、スクラッチ数及びスラリー安定性のいずれに関しても合格レベルの評価が得られた。これに対し、表2に示すように、比較例1〜18の研磨用組成物はいずれも、少なくとも研磨速度と表面粗さのいずれか一方に関して合格レベルの評価が得られなかった。
【0042】
参考例21〜24及び比較例21〜24>
参考例21〜24では、酸及びコロイダルシリカを、必要に応じてpH調整剤とともに水に混合して研磨用組成物を調製した。比較例21〜比較例24では、コロイダルシリカを、必要に応じてpH調整剤とともに水に混合して研磨用組成物を調製した。各例の研磨用組成物中の酸、コロイダルシリカ及びpH調整剤の詳細、並びに各例の研磨用組成物のpHを測定した結果を表4に示す。
【0043】
なお、表4中、“酸の種類及び濃度”欄のA1はイセチオン酸を表し、“コロイダルシリカの種類及び濃度”欄のB4は、平均一次粒子径35nm、平均二次粒子径66nmのコロイダルシリカを表し、“pH調整剤”欄のC1は硝酸、C2はアンモニアを表す。
【0044】
二酸化シリコン膜が設けられた直径8インチ(約200mm)のシリコン基板から60mm×60mmの小片を切り出し、その小片の表面を、各例の研磨用組成物を用いて表5に示す条件で研磨し、研磨前後の基板小片上の膜厚の差に基づいて研磨速度を求めた。その結果を表4の“研磨速度”欄に示す。
【0045】
【表4】
【0046】
【表5】
に示すように、参考例21〜24の研磨用組成物は、比較例21〜24の研磨用組成物と比較して大幅に研磨速度が高いことが確認された。