(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5894785
(24)【登録日】2016年3月4日
(45)【発行日】2016年3月30日
(54)【発明の名称】誘導結合プラズマ用アンテナユニットおよび誘導結合プラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/3065 20060101AFI20160317BHJP
H05H 1/46 20060101ALI20160317BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20160317BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20160317BHJP
【FI】
H01L21/302 101C
H05H1/46 L
H01L21/205
H01L21/31 C
【請求項の数】28
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2011-277162(P2011-277162)
(22)【出願日】2011年12月19日
(65)【公開番号】特開2013-128054(P2013-128054A)
(43)【公開日】2013年6月27日
【審査請求日】2014年9月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099944
【弁理士】
【氏名又は名称】高山 宏志
(72)【発明者】
【氏名】東条 利洋
【審査官】
正山 旭
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−115799(JP,A)
【文献】
特開2009−277859(JP,A)
【文献】
特開2005−285564(JP,A)
【文献】
米国特許第5637961(US,A)
【文献】
特開2007−311182(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
H01L 21/205
H01L 21/31
H05H 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板をプラズマ処理する誘導結合プラズマをプラズマ処理装置の処理室内に生成するための高周波アンテナを有する誘導結合プラズマ用アンテナユニットであって、
前記高周波アンテナは、
第1の高周波電力が供給されて誘導電界を形成する渦巻き状をなす第1のアンテナと、
前記第1の渦巻き状アンテナと同心状に設けられ、第2の高周波電力が供給されて誘導電界を形成する渦巻き状をなす第2のアンテナと、
前記第1のアンテナと前記第2のアンテナとの間に配置され、電気的に接地された状態またはフローティング状態であり、かつ閉回路を構成し、前記第1のアンテナによって形成される磁場と前記第2のアンテナによって形成される磁場とを分離する、導電性材料で構成された分離部材と
を有することを特徴とする誘導結合プラズマ用アンテナユニット。
【請求項2】
前記第1および第2のアンテナの少なくとも一つは、複数のアンテナ線が渦巻き状に巻回されてなる多重アンテナを構成し、前記複数のアンテナ線が、周方向に所定角度ずつずらすようにして配置されていることを特徴とする請求項1に記載の誘導結合プラズマ用アンテナユニット。
【請求項3】
前記基板は矩形状をなし、前記第1および第2のアンテナは、矩形状の基板に対応する額縁状をなすことを特徴とする請求項2に記載の誘導結合プラズマ用アンテナユニット。
【請求項4】
前記第1および第2のアンテナの少なくとも一つは、基板の互いに異なる部分に対応する複数の領域を有し、これら複数の領域に独立して高周波電力が供給されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の誘導結合プラズマ用アンテナユニット。
【請求項5】
前記第1および第2のアンテナに給電するための高周波電源に接続された、整合器から前記第1および第2のアンテナに至る給電経路を有する給電部を有し、前記各アンテナと各給電部を含む第1および第2のアンテナ回路が形成され、前記第1および第2のアンテナ回路のうち少なくとも一つのインピーダンスを制御し、もって前記各アンテナの電流値を制御するインピーダンス制御手段とをさらに有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の誘導結合プラズマ用アンテナユニット。
【請求項6】
基板をプラズマ処理する誘導結合プラズマをプラズマ処理装置の処理室内に生成するための高周波アンテナを有する誘導結合プラズマ用アンテナユニットであって、
前記高周波アンテナは、
高周波電力が供給されて誘導電界を形成する渦巻き状をなす複数のアンテナと、
前記複数のアンテナのうち隣接するものの間に配置され、電気的に接地された状態またはフローティング状態であり、かつ閉回路を構成し、前記隣接するアンテナによってそれぞれ形成される磁場を分離する、導電性材料で構成された少なくとも一つの分離部材と
を有することを特徴とする誘導結合プラズマ用アンテナユニット。
【請求項7】
高周波電源から整合器を経て分岐され、各アンテナに電力を供給する給電路と、前記給電路を介して前記複数のアンテナへ流れる電流値を制御するインピーダンス制御手段とをさらに有することを特徴とする請求項6に記載の誘導結合プラズマ用アンテナユニット。
【請求項8】
前記複数のアンテナは同心状に配置され、前記分離部材はこれら複数のアンテナの間の少なくとも一つに配置されることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の誘導結合プラズマ用アンテナユニット。
【請求項9】
前記複数のアンテナは並列に配置され、前記分離部材は、前記複数のアンテナのうち隣接するものの間の少なくとも一つに配置されることを特徴とする請求項6または請求項7に記載の誘導結合プラズマ用アンテナユニット。
【請求項10】
前記分離部材は連続した環状に形成されていることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の誘導結合プラズマ用アンテナユニット。
【請求項11】
前記分離部材は、複数の部分に分割され、これら複数の部分のうち分離する効果を高めたい領域に対応する部分についてコンデンサを介して接地するようにしたことを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の誘導結合プラズマ用アンテナユニット。
【請求項12】
前記分離部材は矩形状をなし、前記複数の部分として辺ごとに分割され、前記分離する効果を高めたい領域に対応する辺についてコンデンサを介して接地するようにしたことを特徴とする請求項11に記載の誘導結合プラズマ用アンテナユニット。
【請求項13】
前記分離部材は、複数の部分を有し、これら複数の部分はそれぞれ接地され、これら複数の部分のうち一部を取り外して接地ラインを介して閉回路を形成することが可能に構成されていることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載の誘導結合プラズマ用アンテナユニット。
【請求項14】
前記分離部材は矩形状をなし、コーナー部分および辺中央部分に分割されており、これらが前記複数の部分となることを特徴とする請求項13に記載の誘導結合プラズマ用アンテナユニット。
【請求項15】
基板を収容してプラズマ処理を施す処理室と、
前記処理室内で基板が載置される載置台と、
前記処理室内に処理ガスを供給する処理ガス供給系と、
前記処理室内を排気する排気系と、
前記処理室内に誘導結合プラズマを生成するための高周波アンテナを有するアンテナユニットと、
前記高周波アンテナに高周波電力を供給する高周波電力供給手段と
を具備し、
前記高周波アンテナは、
第1の高周波電力が供給されて誘導電界を形成する渦巻き状をなす第1のアンテナと、
前記第1の渦巻き状アンテナと同心状に設けられ、第2の高周波電力が供給されて誘導電界を形成する渦巻き状をなす第2のアンテナと、
前記第1のアンテナと前記第2のアンテナとの間に配置され、電気的に接地された状態またはフローティング状態であり、かつ閉回路を構成し、前記第1のアンテナによって形成される磁場と前記第2のアンテナによって形成される磁場とを分離する、導電性材料で構成された分離部材と
を有することを特徴とする誘導結合プラズマ処理装置。
【請求項16】
前記第1および第2のアンテナの少なくとも一つは、複数のアンテナ線が渦巻き状に巻回されてなる多重アンテナを構成し、前記複数のアンテナ線が、周方向に所定角度ずつずらすようにして配置されていることを特徴とする請求項15に記載の誘導結合プラズマ処理装置。
【請求項17】
前記基板は矩形状をなし、前記第1および第2のアンテナは、矩形状の基板に対応する額縁状をなすことを特徴とする請求項16に記載の誘導結合プラズマ処理装置。
【請求項18】
前記第1および第2のアンテナの少なくとも一つは、基板の互いに異なる部分に対応する複数の領域を有し、これら複数の領域に独立して高周波電力が供給されることを特徴とする請求項15から請求項17のいずれか1項に記載の誘導結合プラズマ処理装置。
【請求項19】
前記高周波電力供給手段は一つの高周波電源および整合器を有し、前記アンテナユニットは、前記高周波電源に接続された、整合器から前記第1および第2のアンテナに至る給電経路を有する給電部を有し、前記各アンテナと各給電部を含む第1および第2のアンテナ回路が形成され、前記第1および第2のアンテナ回路のうち少なくとも一つのインピーダンスを調整し、もって前記各アンテナの電流値を制御するインピーダンス制御手段とをさらに有することを特徴とする請求項15から請求項18のいずれか1項に記載の誘導結合プラズマ処理装置。
【請求項20】
基板を収容してプラズマ処理を施す処理室と、
前記処理室内で基板が載置される載置台と、
前記処理室内に処理ガスを供給する処理ガス供給系と、
前記処理室内を排気する排気系と、
前記処理室内に誘導結合プラズマを生成するための高周波アンテナを有するアンテナユニットと、
前記高周波アンテナに高周波電力を供給する高周波電力供給手段と
を具備し、
前記高周波アンテナは、
高周波電力が供給されて誘導電界を形成する渦巻き状をなす複数のアンテナと、
前記複数のアンテナのうち隣接するものの間に配置され、電気的に接地された状態またはフローティング状態であり、かつ閉回路を構成し、前記隣接するアンテナによってそれぞれ形成される磁場を分離する、導電性材料で構成された少なくとも一つの分離部材と
を有することを特徴とする誘導結合プラズマ処理装置。
【請求項21】
前記高周波電力供給手段は一つの高周波電源および整合器を有し、前記アンテナユニットは、前記高周波電源から前記整合器を経て分岐され、各アンテナに電力を供給する給電路と、前記給電路を介して前記複数のアンテナへ流れる電流値を制御するインピーダンス制御手段とをさらに有することを特徴とする請求項20に記載の誘導結合プラズマ処理装置。
【請求項22】
前記複数のアンテナは同心状に配置され、前記分離部材はこれら複数のアンテナの間の少なくとも一つに配置されることを特徴とする請求項20または請求項21に記載の誘導結合プラズマ処理装置。
【請求項23】
前記複数のアンテナは並列に配置され、前記分離部材は、前記複数のアンテナのうち隣接するものの間の少なくとも一つに配置されることを特徴とする請求項20または請求項21に記載の誘導結合プラズマ処理装置。
【請求項24】
前記分離部材は連続した環状に形成されていることを特徴とする請求項15から請求項23のいずれか1項に記載の誘導結合プラズマ処理装置。
【請求項25】
前記分離部材は、複数の部分に分割され、これら複数の部分のうち分離する効果を高めたい領域に対応する部分についてコンデンサを介して接地するようにしたことを特徴とする請求項15から請求項23のいずれか1項に記載の誘導結合プラズマ処理装置。
【請求項26】
前記分離部材は矩形状をなし、前記複数の部分として辺ごとに分割され、前記分離する効果を高めたい領域に対応する辺についてコンデンサを介して接地するようにしたことを特徴とする請求項25に記載の誘導結合プラズマ処理装置。
【請求項27】
前記分離部材は、複数の部分を有し、これら複数の部分はそれぞれ接地され、これら複数の部分のうち一部を取り外して接地ラインを介して閉回路を形成することが可能に構成されていることを特徴とする請求項15から請求項23のいずれか1項に記載の誘導結合プラズマ処理装置。
【請求項28】
前記分離部材は矩形状をなし、コーナー部分および辺中央部分に分割されており、これらが前記複数の部分となることを特徴とする請求項27に記載の誘導結合プラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラットパネルディスプレイ(FPD)製造用のガラス基板等の被処理基板に誘導結合プラズマ処理を施す際に用いられる誘導結合プラズマ用アンテナユニットおよびそれを用いた誘導結合プラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置(LCD)等のフラットパネルディスプレイ(FPD)製造工程においては、ガラス製の基板にプラズマエッチングや成膜処理等のプラズマ処理を行う工程が存在し、このようなプラズマ処理を行うためにプラズマエッチング装置やプラズマCVD装置等の種々のプラズマ処理装置が用いられる。プラズマ処理装置としては従来、容量結合プラズマ処理装置が多用されていたが、近時、高真空度で高密度のプラズマを得ることができるという大きな利点を有する誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma:ICP)処理装置が注目されている。
【0003】
誘導結合プラズマ処理装置は、被処理基板を収容する処理容器の天壁を構成する誘電体窓の上側に高周波アンテナを配置し、処理容器内に処理ガスを供給するとともにこの高周波アンテナに高周波電力を供給することにより、処理容器内に誘導結合プラズマを生じさせ、この誘導結合プラズマによって被処理基板に所定のプラズマ処理を施すものである。高周波アンテナとしては、渦巻き状をなす環状アンテナが多用されている。
【0004】
平面環状アンテナを用いた誘導結合プラズマ処理装置では、処理容器内の平面アンテナ直下の空間にプラズマが生成されるが、その際に、アンテナ直下の各位置での電界強度に応じて高プラズマ密度領域と低プラズマ密度領域の分布を持つことから、平面環状アンテナのパターン形状がプラズマ密度分布を決める重要なファクターとなっており、平面環状アンテナの疎密を調整することにより、誘導電界を均一化し、均一なプラズマを生成している。
【0005】
そのため、径方向に間隔をおいて内側部分と外側部分の2つの環状アンテナを有するアンテナユニットを設け、これらのインピーダンスを調整してこれら2つの環状アンテナ部の電流値を独立して制御し、それぞれの環状アンテナ部により発生するプラズマが拡散により形成する密度分布の重ね合わさり方を制御することにより、誘導結合プラズマの全体としての密度分布を制御する技術が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−311182号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このような内側部分と外側部分の2つの環状アンテナを有するアンテナユニットを用いた場合に、これらの間のアンテナの存在しない部分においてプラズマ処理レートが高くなる傾向が現れることがあり、これらアンテナ部の電流を制御しても改善できないことがある。
【0008】
このようなことは、特許文献1のような2つの環状アンテナを有するアンテナユニットに限らず、渦巻き状アンテナを隣接して配置した場合には、その間において生ずる場合がある。
【0009】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであって、複数の渦巻き状をなすアンテナを隣接して設けた高周波アンテナを設けた場合に、良好なプラズマ制御性を確保することができる誘導結合プラズマ用アンテナユニットおよびそれを用いた誘導結合プラズマ処理装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の第1の観点では、基板をプラズマ処理する誘導結合プラズマをプラズマ処理装置の処理室内に生成するための高周波アンテナを有する誘導結合プラズマ用アンテナユニットであって、前記高周波アンテナは、第1の高周波電力が供給されて誘導電界を形成する渦巻き状をなす第1のアンテナと、前記第1の渦巻き状アンテナと同心状に設けられ、第2の高周波電力が供給されて誘導電界を形成する渦巻き状をなす第2のアンテナと、前記第1のアンテナと前記第2のアンテナとの間に配置され、電気的に接地された状態またはフローティング状態であり、かつ閉回路を構成し、前記第1のアンテナによって形成される磁場と前記第2のアンテナによって形成される磁場とを分離する
、導電性材料で構成された分離部材とを有することを特徴とする誘導結合プラズマ用アンテナユニットを提供する。
【0011】
本発明の第2の観点では、基板をプラズマ処理する誘導結合プラズマをプラズマ処理装置の処理室内に生成するための高周波アンテナを有する誘導結合プラズマ用アンテナユニットであって、前記高周波アンテナは、高周波電力が供給されて誘導電界を形成する渦巻き状をなす複数のアンテナと、前記複数のアンテナのうち隣接するものの間に配置され、電気的に接地された状態またはフローティング状態であり、かつ閉回路を構成し、前記隣接するアンテナによってそれぞれ形成される磁場を分離する
、導電性材料で構成された少なくとも一つの分離部材とを有することを特徴とする誘導結合プラズマ用アンテナユニットを提供する。
【0012】
本発明の第3の観点では、基板を収容してプラズマ処理を施す処理室と、前記処理室内で基板が載置される載置台と、前記処理室内に処理ガスを供給する処理ガス供給系と、前記処理室内を排気する排気系と、前記処理室内に誘導結合プラズマを生成するための高周波アンテナを有するアンテナユニットと、前記高周波アンテナに高周波電力を供給する高周波電力供給手段とを具備し、前記高周波アンテナは、第1の高周波電力が供給されて誘導電界を形成する渦巻き状をなす第1のアンテナと、前記第1の渦巻き状アンテナと同心状に設けられ、第2の高周波電力が供給されて誘導電界を形成する渦巻き状をなす第2のアンテナと、前記第1のアンテナと前記第2のアンテナとの間に配置され、電気的に接地された状態またはフローティング状態であり、かつ閉回路を構成し、前記第1のアンテナによって形成される磁場と前記第2のアンテナによって形成される磁場とを分離する
、導電材料で構成された分離部材とを有することを特徴とする誘導結合プラズマ処理装置を提供する。
【0013】
本発明の第4の観点では、基板を収容してプラズマ処理を施す処理室と、前記処理室内で基板が載置される載置台と、前記処理室内に処理ガスを供給する処理ガス供給系と、前記処理室内を排気する排気系と、前記処理室内に誘導結合プラズマを生成するための高周波アンテナを有するアンテナユニットと、前記高周波アンテナに高周波電力を供給する高周波電力供給手段とを具備し、前記高周波アンテナは、高周波電力が供給されて誘導電界を形成する渦巻き状をなす複数のアンテナと、前記複数のアンテナのうち隣接するものの間に配置され、電気的に接地された状態またはフローティング状態であり、かつ閉回路を構成し、前記隣接するアンテナによってそれぞれ形成される磁場を分離する
、導電性材料で構成された少なくとも一つの分離部材とを有することを特徴とする誘導結合プラズマ処理装置を提供する。
【0014】
上記第1の観点および第3の観点において、前記第1および第2のアンテナの少なくとも一つは、複数のアンテナ線が渦巻き状に巻回されてなる多重アンテナを構成し、前記複数のアンテナ線が、周方向に所定角度ずつずらすようにして配置されている構成とすることができる。この場合に、前記基板は矩形状をなし、前記第1および第2のアンテナは、矩形状の基板に対応する額縁状をなすようにすることが好ましい。
【0015】
前記第1および第2のアンテナの少なくとも一つは、基板の互いに異なる部分に対応する複数の領域を有し、これら複数の領域に独立して高周波電力が供給される構成とすることもできる。
【0016】
高周波電源に接続された、整合器から前記第1および第2のアンテナに至る給電経路を有する給電部を有し、前記各アンテナと各給電部を含む第1および第2のアンテナ回路が形成され、前記第1および第2のアンテナ回路のうち少なくとも一つのインピーダンスを制御し、もって前記各アンテナの電流値を制御するインピーダンス制御手段とをさらに有することが好ましい。
【0017】
上記第2の観点および第4の観点において、高周波電源から整合器を経て分岐され、各アンテナに電力を供給する給電路と、前記給電路を介して前記複数のアンテナへ流れる電流値を制御するインピーダンス制御手段とをさらに有する構成とすることができる。
【0018】
前記複数のアンテナは同心状に配置され、前記分離部材はこれら複数のアンテナの間の少なくとも一つに配置されてもよいし、前記複数のアンテナは並列に配置され、前記複数のアンテナのうち隣接するものの間の少なくとも一つに配置されてもよい。
【0019】
上記第1の観点から第4の観点において、前記分離部材は連続した環状に形成されたものとすることができる。
【0020】
また、前記分離部材は、複数の部分に分割され、これら複数の部分のうち分離する効果を高めたい領域に対応する部分についてコンデンサを介して接地するようにすることができる。具体例としては、前記分離部材は矩形状をなし、前記複数の部分として辺ごとに分割され、前記分離する効果を高めたい領域に対応する辺についてコンデンサを介して接地するようにすることを挙げることができる。
【0021】
さらに、前記分離部材は、複数の部分を有し、これら複数の部分はそれぞれ接地され、これら複数の部分のうち一部を取り外して接地ラインを介して閉回路を形成することが可能に構成することができる。具体例としては、前記分離部材は矩形状をなし、コーナー部分および辺中央部分に分割されており、これらが前記複数の部分となるものを挙げることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、高周波電力が供給されて誘導電界を形成する渦巻き状をなす第1および第2のアンテナ間に、分離部材を配置する。分離部材は、電気的に接地された状態またはフローティング状態であり、かつ閉回路を構成し、第1のアンテナによって形成される磁場と第2のアンテナによって形成される磁場とが重なり合って生じる両者で共有する磁場を打ち消し合う磁場を生じて、第1および第2のアンテナの磁場を分離するので、処理室内の分離部材の直下に誘導電界が形成されない部分ができる。このため、誘電体壁の直下部分に、第1のアンテナおよび第2のアンテナによりそれぞれ形成される誘導電界を分離して、これらの独立制御性を高めることができ、良好なプラズマの制御性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施形態に係る誘導結合プラズマ処理装置を示す断面図である。
【
図2】
図1の誘導結合プラズマ処理装置に用いられる誘導結合プラズマ用アンテナユニットの高周波アンテナの一例を示す平面図である。
【
図3】
図1の誘導結合プラズマ処理装置に用いられる高周波アンテナの給電回路を示す図である。
【
図4】従来の2つの環状アンテナを同心状に配置した高周波アンテナを用いてO
2アッシングを行った場合のアッシングレートの面内分布の例を示す図である。
【
図5】(a)従来の2つの環状アンテナを同心状に配置した高周波アンテナに電流を流したときの磁場と誘導電界とプラズマの状態と、(b)本実施形態の2つの環状アンテナの間に分離部材を設けた高周波アンテナに電流を流したときの磁場と誘導電界とプラズマの状態とを比較して説明するための模式図である。
【
図6】本実施形態の高周波アンテナを用いてO
2アッシングを行った場合のアッシングレートの面内分布の例を示す図である。
【
図7】高周波アンテナに用いる他のアンテナ例を示す平面図である。
【
図8】
図7の高周波アンテナのアンテナ部に用いられる第1部分を示す平面図である。
【
図9】
図7の高周波アンテナのアンテナ部に用いられる第2部分を示す平面図である。
【
図10】高周波アンテナに用いるアンテナのさらに他の例を示す平面図である。
【
図11】高周波アンテナの他の例である三環状アンテナを示す平面図である。
【
図12】
図11の高周波アンテナにおいて、局部的に電界が強くなった例を説明するための平面図である。
【
図13】
図12の局部的に電界が強くなった部分を解消するための分離部材の接地ラインへのコンデンサ挿入位置を説明するための斜視図である。
【
図14】分離部材を分割して接地可能にし、部分的に取り外し可能にした例を説明するための平面図である。
【
図15】アンテナを並列に配置した高周波アンテナへ分離部材を適用した例を示す平面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1は本発明の一実施形態に係る誘導結合プラズマ処理装置を示す断面図、
図2はこの誘導結合プラズマ処理装置に用いられるアンテナユニットを示す平面図である。この装置は、例えばFPD用ガラス基板上に薄膜トランジスターを形成する際のメタル膜、ITO膜、酸化膜等のエッチングや、レジスト膜のアッシング処理に用いられる。FPDとしては、液晶ディスプレイ(LCD)、エレクトロルミネセンス(Electro Luminescence;EL)ディスプレイ、プラズマディスプレイパネル(PDP)等が例示される。
【0025】
このプラズマ処理装置は、導電性材料、例えば、内壁面が陽極酸化処理されたアルミニウムからなる角筒形状の気密な本体容器1を有する。この本体容器1は分解可能に組み立てられており、接地線1aにより電気的に接地されている。本体容器1は、誘電体壁2により上下にアンテナ室3および処理室4に区画されている。したがって、誘電体壁2は処理室4の天井壁を構成している。誘電体壁2は、Al
2O
3等のセラミックス、石英等で構成されている。
【0026】
誘電体壁2の下側部分には、処理ガス供給用のシャワー筐体11が嵌め込まれている。シャワー筐体11は例えば十字状に設けられており、誘電体壁2を下から支持する梁としての機能を有する。なお、上記誘電体壁2を支持するシャワー筐体11は、複数本のサスペンダ(図示せず)により本体容器1の天井に吊された状態となっている。
【0027】
このシャワー筐体11は導電性材料、望ましくは金属、例えば汚染物が発生しないようにその内面または外面が陽極酸化処理されたアルミニウムで構成されている。このシャワー筐体11は電気的に接地されている。
【0028】
このシャワー筐体11には水平に伸びるガス流路12が形成されており、このガス流路12には、下方に向かって延びる複数のガス吐出孔12aが連通している。一方、誘電体壁2の上面中央には、このガス流路12に連通するようにガス供給管20aが設けられている。ガス供給管20aは、本体容器1の天井からその外側へ貫通し、処理ガス供給源およびバルブシステム等を含む処理ガス供給系20に接続されている。したがって、プラズマ処理においては、処理ガス供給系20から供給された処理ガスがガス供給管20aを介してシャワー筐体11内に供給され、その下面のガス吐出孔12aから処理室4内へ吐出される。
【0029】
本体容器1におけるアンテナ室3の側壁3aと処理室4の側壁4aとの間には内側に突出する支持棚5が設けられており、この支持棚5の上に誘電体壁2が載置される。
【0030】
アンテナ室3内には、高周波(RF)アンテナ13を含むアンテナユニット50が配設されている。高周波アンテナ13は整合器14を介して高周波電源15に接続されている。また、高周波アンテナ13は絶縁部材からなるスペーサ17により誘電体壁2から離間している。そして、高周波アンテナ13に、高周波電源15から例えば周波数が13.56MHzの高周波電力が供給されることにより、処理室4内に誘導電界が形成され、この誘導電界によりシャワー筐体11から供給された処理ガスがプラズマ化される。なお、アンテナユニット50については後述する。
【0031】
処理室4内の下方には、誘電体壁2を挟んで高周波アンテナ13と対向するように、矩形状のFPD用ガラス基板(以下単に基板と記す)Gを載置するための載置台23が設けられている。載置台23は、導電性材料、例えば表面が陽極酸化処理されたアルミニウムで構成されている。載置台23に載置された基板Gは、静電チャック(図示せず)により吸着保持される。
【0032】
載置台23は絶縁体枠24内に収納され、さらに、中空の支柱25に支持される。支柱25は本体容器1の底部を気密状態を維持しつつ貫通し、本体容器1外に配設された昇降機構(図示せず)に支持され、基板Gの搬入出時に昇降機構により載置台23が上下方向に駆動される。なお、載置台23を収納する絶縁体枠24と本体容器1の底部との間には、支柱25を気密に包囲するベローズ26が配設されており、これにより、載置台23の上下動によっても処理容器4内の気密性が保証される。また処理室4の側壁4aには、基板Gを搬入出するための搬入出口27aおよびそれを開閉するゲートバルブ27が設けられている。
【0033】
載置台23には、中空の支柱25内に設けられた給電線25aにより、整合器28を介して高周波電源29が接続されている。この高周波電源29は、プラズマ処理中に、バイアス用の高周波電力、例えば周波数が6MHzの高周波電力を載置台23に印加する。このバイアス用の高周波電力により、処理室4内に生成されたプラズマ中のイオンが効果的に基板Gに引き込まれ、セルフバイアスが形成される。
【0034】
さらに、載置台23内には、基板Gの温度を制御するため、セラミックヒータ等の加熱手段や冷媒流路等からなる温度制御機構と、温度センサーとが設けられている(いずれも図示せず)。これらの機構や部材に対する配管や配線は、いずれも中空の支柱25を通して本体容器1外に導出される。
【0035】
処理室4の底部には、排気管31を介して真空ポンプ等を含む排気装置30が接続される。この排気装置30により、処理室4が排気され、プラズマ処理中、処理室4内が所定の真空雰囲気(例えば1.33Pa)に設定、維持される。
【0036】
載置台23に載置された基板Gの裏面側には冷却空間(図示せず)が形成されており、一定の圧力の熱伝達用ガスとしてHeガスを供給するためのHeガス流路41が設けられている。このように基板Gの裏面側に熱伝達用ガスを供給することにより、真空下において基板Gの温度上昇や温度変化を回避することができるようになっている。
【0037】
このプラズマ処理装置の各構成部は、マイクロプロセッサ(コンピュータ)からなる制御部100に接続されて制御される構成となっている。また、制御部100には、オペレータによるプラズマ処理装置を管理するためのコマンド入力等の入力操作を行うキーボードや、プラズマ処理装置の稼働状況を可視化して表示するディスプレイ等からなるユーザーインターフェース101が接続されている。さらに、制御部100には、プラズマ処理装置で実行される各種処理を制御部100の制御にて実現するための制御プログラムや、処理条件に応じてプラズマ処理装置の各構成部に処理を実行させるためのプログラムすなわち処理レシピが格納された記憶部102が接続されている。処理レシピは記憶部102の中の記憶媒体に記憶されている。記憶媒体は、コンピュータに内蔵されたハードディスクや半導体メモリであってもよいし、CDROM、DVD、フラッシュメモリ等の可搬性のものであってもよい。また、他の装置から、例えば専用回線を介してレシピを適宜伝送させるようにしてもよい。そして、必要に応じて、ユーザーインターフェース101からの指示等にて任意の処理レシピを記憶部102から呼び出して制御部100に実行させることで、制御部100の制御下で、プラズマ処理装置での所望の処理が行われる。
【0038】
次に、上記アンテナユニット50について詳細に説明する。
アンテナユニット50は、上述したように高周波アンテナ13を有しており、さらに、整合器14を経た高周波電力を高周波アンテナ13に給電する給電部51を有する。
【0039】
図2に示すように、高周波アンテナ13は、平面形状をなし輪郭が矩形状(長方形状)をなしており、その配置領域が矩形基板Gに対応している。
【0040】
高周波アンテナ13は、外側部分を構成する第1のアンテナ13aと、内側部分を構成する第2のアンテナ13bと、これらの間に設けられた分離部材18とを有している。第1アンテナ13aおよび第2アンテナ13bは、いずれも輪郭が矩形状をなす平面型のものである。そして、これら第1のアンテナ13aおよび第2のアンテナ13bは同心状に配置されている。
【0041】
外側部分を構成する第1のアンテナ13aは、
図2に示すように導電性材料、例えば銅などからなる4本のアンテナ線61,62,63,64を巻回して全体が渦巻状となるようにした多重(四重)アンテナを構成している。具体的には、アンテナ線61,62,63,64は90°ずつ位置をずらして巻回され、アンテナ線の配置領域が略額縁状をなし、プラズマが弱くなる傾向にある角部の巻数を辺の中央部の巻数よりも多くなるようにしている。図示の例では角部の巻数が3、辺の中央部の巻数が2となっている。
【0042】
内側部分を構成する第2のアンテナ13bは、
図2に示すように導電性材料、例えば銅などからなる4本のアンテナ線71,72,73,74を巻回して全体が渦巻状となるようにした多重(四重)アンテナを構成している。具体的には、アンテナ線71,72,73,74は90°ずつ位置をずらして巻回され、アンテナ線の配置領域が略額縁状をなし、プラズマが弱くなる傾向にある角部の巻数を辺の中央部の巻数よりも多くなるようにしている。図示の例では角部の巻数が3、辺の中央部の巻数が2となっている。
【0043】
第1のアンテナ13aのアンテナ線61,62,63,64へは、中央の4つの端子22aおよび給電線69を介して給電されるようになっている。また、第2のアンテナ13bのアンテナ線71,72,73,74へは、中央に配置された4つの端子22bおよび給電線79を介して給電されるようになっている。
【0044】
分離部材18は、導電性材料、例えば銅などからなり、第1のアンテナ13aと第2のアンテナ13bとの間の空間に、閉回路を構成するように配置されている。分離部材18は電気的に接地されていてもフローティング状態であってもよい。接地する場合には、梁として機能するシャワー筐体11やアンテナ室3の天井から吊すためのサスペンダ等を介して、または分離部材18から本体容器1の天井へ接地ラインを設けて接地することができる。この分離部材18は、第1のアンテナ13aに電流が流れることにより生じる磁場と、第2のアンテナ13bに電流が流れることにより生じる磁場とを分離する機能を有する。
【0045】
アンテナ室3の中央部付近には、第1のアンテナ13aに給電する4本の第1の給電部材16aおよび第2のアンテナ13bに給電する4本の第の2給電部材16b(
図1ではいずれも1本のみ図示)が設けられており、各第1給電部材16aの下端は第1のアンテナ13aの端子22aに接続され、各第2給電部材16bの下端は第2のアンテナ13bの端子22bに接続されている。4本の第1の給電部材16aは、給電線19aに接続されており、また4本の第2の給電部材16bは、給電線19bに接続されていて、これら給電線19a,19bは整合器14から延びる給電線19から分岐している。給電線19,19a,19b、給電部材16a,16b、端子22a,22b、給電線69、79は、アンテナユニット50の給電部51を構成している。
【0046】
給電線19aには可変コンデンサ21が介装され、給電線19bには可変コンデンサが介装されていない。そして、可変コンデンサ21と第1のアンテナ13aによって外側アンテナ回路が構成され、第2のアンテナ13bによって内側アンテナ回路が構成される。
【0047】
後述するように、可変コンデンサ21の容量を調節することにより、外側アンテナ回路のインピーダンスが制御され、これにより外側アンテナ回路および内側アンテナ回路に流れる電流の大小関係を調整することができる。可変コンデンサ21は外側アンテナ回路の電流制御部として機能する。
【0048】
高周波アンテナ13のインピーダンス制御について
図3を参照して説明する。
図3は、高周波アンテナ13の給電回路を示す図である。この図に示すように、高周波電源15からの高周波電力は整合器14を経て外側アンテナ回路91aと内側アンテナ回路91bに供給される。ここで、外側アンテナ回路91aは、第1のアンテナ13aと可変コンデンサ21で構成されているから、外側アンテナ回路91aのインピーダンスZ
outは、可変コンデンサ21のポジションを調節してその容量を変化させることにより変化させることができる。一方、内側アンテナ回路91bは第2のアンテナ13bのみからなり、そのインピーダンスZ
inは固定である。このとき、外側アンテナ回路91aの電流I
outはインピーダンスZ
outの変化に対応して変化させることができる。そして、内側アンテナ回路91bの電流I
inはZ
outとZ
inの比率に応じて変化する。このように第1のアンテナ13aに流れる電流と第2のアンテナ13bに流れる電流を制御することによってプラズマ密度分布を制御することができる。なお、内側アンテナ回路91bにコンデンサを設けて電流の制御性をより高めるようにしてもよい。
【0049】
次に、以上のように構成される誘導結合プラズマ処理装置を用いて基板Gに対してプラズマ処理、例えばプラズマエッチング処理またはプラズマアッシング処理を施す際の処理動作について説明する。
【0050】
まず、ゲートバルブ27を開にした状態で搬入出口27aから搬送機構(図示せず)により基板Gを処理室4内に搬入し、載置台23の載置面に載置した後、静電チャック(図示せず)により基板Gを載置台23上に固定する。次に、処理室4内に処理ガス供給系20から供給される処理ガスをシャワー筐体11のガス吐出孔12aから処理室4内に吐出させるとともに、排気装置30により排気管31を介して処理室4内を真空排気することにより、処理室内を例えば0.66〜26.6Pa程度の圧力雰囲気に維持する。
【0051】
また、このとき基板Gの裏面側の冷却空間には、基板Gの温度上昇や温度変化を回避するために、Heガス流路41を介して、熱伝達用ガスとしてHeガスを供給する。
【0052】
次いで、高周波電源15から例えば13.56MHzの高周波を高周波アンテナ13に印加し、これにより誘電体壁2を介して処理室4内に均一な誘導電界を形成する。このようにして形成された誘導電界により、処理室4内で処理ガスがプラズマ化し、高密度の誘導結合プラズマが生成される。このプラズマにより、基板Gに対してプラズマ処理としてプラズマエッチング処理またはプラズマアッシング処理が行われる。
【0053】
この場合に、高周波アンテナ13は、上述のように、外側部分を構成する第1のアンテナ13aと、内側部分を構成する第2のアンテナ13bとが同心的に間隔をおいて配置されて構成されているので、プラズマ密度の不均一が生じ難くなる。
【0054】
また、高周波アンテナ13は、外側部分を構成する第1のアンテナ13aに可変コンデンサ21を接続して、外側アンテナ回路91aのインピーダンス調整を可能にしたので、外側アンテナ回路91aの電流I
outと内側アンテナ回路91bの電流I
inとを自在に変化させることができる。すなわち、可変コンデンサ21のポジションを調節することにより、第1のアンテナ13aに流れる電流と、第2のアンテナ13bに流れる電流とを制御することができる。誘導結合プラズマは、高周波アンテナ13直下の空間でプラズマを生成させるが、その際の各位置でのプラズマ密度は、各位置での電界強度に対応するため、このように第1のアンテナ13aに流れる電流と第2のアンテナ13bに流れる電流とを制御して電界強度分布を制御することによりプラズマ密度分布を制御することが可能となる。
【0055】
種々あるプロセスによっては、必ずしも均一な密度分布を有するプラズマがそのプロセスに最適であるとは限らないため、プロセスに応じて最適なプラズマ密度分布を把握し、予めそのプラズマ密度分布が得られる可変コンデンサ21のポジションを記憶部102に設定しておくことにより、制御部100によりプロセスごとに最適な可変コンデンサ21のポジションを選択してプラズマ処理を行えるようにすることができる。
【0056】
しかし、このような外側部分の第1のアンテナ13aと内側部分の第2のアンテナ13bのみを有する高周波アンテナの場合、条件によっては第1のアンテナ13aと第2のアンテナ13bの間のアンテナの存在しない部分でエッチング(アッシング)レートが速い傾向となってしまい、この傾向を是正すべく、これらアンテナの電流を制御しても、この傾向を解消できない場合がある。
図4は、O
2アッシングを行った際のアッシングレートの面内分布を示すものであり、アッシングレートの平均値を1.00としたものであるが、アンテナ間の部分のアッシングレートが平均値である1.00より高くなっておりアッシングレートの均一性が悪いことがわかる。
【0057】
これは以下のようなことが原因であると考えられる。
外側部分と内側部分に環状アンテナを配置した高周波アンテナにおいては、通常、同方向に電流を流しているが、その場合には、
図5(a)に示すように、アンテナ線に流れる電流によって生じる磁場が各アンテナ部で同方向であり、これらの磁場の重ね合わせにより、第1のアンテナ13aと第2のアンテナ13bの間、即ちアンテナの存在しない部分において、第1のアンテナ13aと第2のアンテナ13bで共有する磁場が生じる。この共有する磁場により、処理室4内における誘電体壁2の直下部分には、第1のアンテナ13aから第2のアンテナ13bにかけて分離されずに連続した誘導電界が生成されるため、アンテナの電流を制御しても電界の制御性が悪くなってしまう。そして、この連続した誘導電界により連続したプラズマが形成されるため、プラズマ密度分布の制御性が悪くなる。
【0058】
これに対して本実施形態では、
図5(b)に示すように、第1のアンテナ13aと第2のアンテナ13bとの間に分離部材18を設ける。分離部材18は導電性であり、閉回路を構成するため、第1のアンテナ13aおよび第2のアンテナ13bの磁場により分離部材18にはこれらアンテナとは逆向きに起電力が発生する。このため第1のアンテナ13aおよび第2のアンテナ13bが共有する磁場と分離部材18の磁場が打ち消し合い、第1のアンテナ13aの磁場と第2のアンテナ13bの磁場とが分離され、処理室4内の分離部材18の直下に誘導電界が形成されない部分ができる。このため、処理室4内における誘電体壁2の直下部分に、第1のアンテナ13aおよび第2のアンテナ13bによりそれぞれ形成される誘導電界を分離して、これらの独立制御性を高めることができる。このため、各種プロセスに応じてプラズマ密度分布を制御することができる。
【0059】
なお、
図5において、アンテナ線の×は電界が紙面に垂直に表から裏へ向かう方向であることを示し、●は電界が紙面に垂直に裏から表へ向かう方向であることを示している。
【0060】
このように分離部材18を設けた高周波アンテナ13を用いて、O
2アッシングを行った際のアッシングレートの面内分布を
図6に示す。この図に示すように、分離部材18を設けることにより、第1のアンテナ13aと第2のアンテナ13bの間のアッシングレートを低下させることができており、プラズマ密度分布を制御できていることがわかる。
【0061】
なお、第1のアンテナ13aおよび第2のアンテナ13bについて、4本のアンテナ線を90°ずつずらして巻回して全体が渦巻状になるようにした四重アンテナとしたが、アンテナ線の数は4本に限るものではなく、任意の数の多重アンテナであってよく、また、ずらす角度も90°に限るものではない。
【0062】
次に、アンテナの構造の他の例について説明する。
上記例では、各アンテナを環状に構成して一体的に高周波電力が供給されるようにしたが、各アンテナをそれぞれ基板の互いに異なる部分に対応する複数の領域を有するものとし、これら複数の領域に独立して高周波電力が供給されるようにしてもよい。これにより、よりきめの細かいプラズマ分布制御を行うことができる。例えば、矩形基板に対応する矩形状平面を構成し、複数のアンテナ線を渦巻状に巻回してなる第1部分および第2部分を有し、第1部分は複数のアンテナ線が、矩形状平面の4つの角部を形成するとともに、矩形状平面とは異なる位置において4つの角部を結合するように設けられ、第2部分は複数のアンテナ線が、矩形状平面の4つの辺の中央部を形成するとともに、矩形状平面とは異なる位置において4つの辺の中央部を結合するように設けられて、第1部分と第2部分にそれぞれ独立して高周波電力が供給されるようにすることができる。
【0063】
具体的な構成を
図7〜9を参照して説明する。
例えば、外側部分を構成する第1のアンテナ13aが、
図7に示すように、プラズマ生成に寄与する誘導電界を形成する誘電体壁2に面した部分が全体として矩形基板Gに対応する矩形状(額縁状)平面を構成し、かつ、複数のアンテナ線を渦巻状に巻回してなる第1部分113aと第2部分113bとを有している。第1部分113aのアンテナ線は、矩形状平面の4つの角部を形成し、矩形状平面とは異なる位置において、4つの角部を結合するように設けられている。また、第2部分113bのアンテナ線は、矩形状平面の4つの辺の中央部を形成するとともに、矩形状平面とは異なる位置において、これら4つの辺の中央部を結合するように設けられている。第1部分113aへの給電は、4つの端子122aおよび給電線169を介して行われ、第2部分113bへの給電は、4つの端子122bおよび給電線179を介して行われ、これら端子122a、122bにはそれぞれ独立して高周波電力が供給される。
【0064】
図8に示すように、第1部分113aは、4本のアンテナ線161,162,163,164を90°ずつ位置をずらして巻回した四重アンテナを構成し、誘電体壁2に面した矩形状平面の4つの角部を形成する部分は平面部161a、162a、163a、164aとなっており、これら平面部161a、162a、163a、164aの間の部分は、矩形状平面とは異なる位置になるように上方のプラズマの生成に寄与しない位置に退避した状態の立体部161b、162b、163b、164bとなっている。
図9に示すように、第2部分113bも、4本のアンテナ線171,172,173,174を90°ずつ位置をずらして巻回した四重アンテナを構成し、誘電体壁2に面した上記矩形状平面の4つの辺の中央部を形成する部分は平面部171a、172a、173a、174aとなっており、これら平面部171a、172a、173a、174aの間の部分は、矩形状平面とは異なる位置になるように上方のプラズマの生成に寄与しない位置に退避した状態の立体部171b、172b、173b、174bとなっている。
【0065】
このような構成により、上記実施形態と同様の4本のアンテナ線を一定の方向に巻回した比較的簡易な多重アンテナの構成をとりながら、角部と辺中央部との独立したプラズマ分布制御を実現することができる。
【0066】
また、以上の例では、各アンテナ部を複数のアンテナ線を巻回した多重アンテナで構成したが、
図10に示すように1本のアンテナ線181を渦巻き状に巻回したものであってもよい。
【0067】
次に、高周波アンテナの構造の他の例について説明する。
上記例では、第1のアンテナ13aと第2のアンテナ13bとの2つの環状アンテナを同心状に設けて高周波アンテナを構成した場合を示したが、3つ以上の環状アンテナを同心状に配置した構造であってもよい。
【0068】
図11は3つの環状アンテナを配置した三環状の高周波アンテナを示す。ここでは、高周波アンテナ213として、最も外側に配置された第1のアンテナ213a、中間に配置された第2のアンテナ213b、最も内側に配置された第3のアンテナ213cを同心状に設け、第1のアンテナ213aと第2のアンテナ213bとの間に第1の分離部材18aを設け、第2のアンテナ213bと第3のアンテナ213cとの間に第2の分離部材18bを配置している。なお、
図11では第1のアンテナ213a、第2のアンテナ213b、第3のアンテナ213cの詳細な構造の記載は省略しているが、
図2に示す第1および第2のアンテナ13a、13bの構造、
図7〜9に示す第1のアンテナ13aの構造、
図10に示すアンテナ181の構造を採ることが可能である。
【0069】
このように3つ以上の環状アンテナを同心状に設けた場合においても、各アンテナ間に分離部材を設けることにより、各アンテナの磁場を分離することができ、各アンテナの電界の独立性御性を高めることができる。
【0070】
この場合に、3つ以上の環状アンテナの間の複数の領域の全てに分離部材を設ける必要はなく、少なくとも一つに分離部材を設ければよい。
【0071】
3以上の環状アンテナを設けた場合に、上記2つの環状アンテナを設けた高周波アンテナの場合と同様、一つの高周波電源から分岐して各環状アンテナに高周波電力を供給するようにし、環状アンテナへの給電線に可変コンデンサを設けることにより各アンテナの電流を制御することができる。そして、少なくとも一つのアンテナへの給電線に可変コンデンサを設けることにより、電流制御を行うことができる。上記2つの環状アンテナを設けた高周波アンテナの場合と同等の電流制御を行う場合には、環状アンテナの数をnとするとn−1の環状アンテナの給電線にコンデンサを設ければよい。
【0072】
次に、分離部材の効果を制御する方法について説明する。
電界強度が局部的に高い場合、分離部材を複数の分割部に分割し、その電界強度が局部的に高い部分に対応する分割部についてコンデンサを介して接地することにより、その部分において磁場を打ち消す効果を高めるように制御することができる。
【0073】
具体例を示すと、
図12に示すように、
図11の三環状の高周波アンテナ213において、第1のアンテナ213aと第2のアンテナ213bとの間の長辺センター部分である領域Aで電界が強すぎる場合、例えば以下に説明する
図13に示すような箇所にコンデンサを配置することにより、その部分の電界を弱めることができる。
【0074】
図13は、最外側の第1のアンテナ213a、中間の第2のアンテナ213b、最内側の第3のアンテナ213cを同心状に設け、第1のアンテナ213aと第2のアンテナ213bとの間、および第2のアンテナ213bと第3のアンテナ213cとの間に分離部材18aおよび18bを配置した三環状アンテナにおいて、誘電体壁を支持する梁211を天井から吊すためのサスペンダ214を第1の分離部材18aの長辺の中央および短辺の中央に対応する部分に設け、これらサスペンダ214に第1の分離部材18aを接続するとともに、第1の分離部材18aの角部には、天井と長辺側端部を繋ぐ接地ライン215aおよび天井と短辺側端部を繋ぐ接地ライン215bを設けた構造である。すなわち、第1の分離部材18aはそれぞれ別個に接地可能な複数の分割部に分割されている。
【0075】
そして、
図13(a)では、第1のアンテナ213aと第2のアンテナ213bとの間の第1の分離部材18aの長辺中央部分が梁211のサスペンダ214に接続する接続部分Bにコンデンサを設け、コンデンサおよびサスペンダ214を介して接地することにより、第1の分離部材18aの長辺対応部分のみアンテナ間で共有する磁場を打ち消す効果を高めて、部分Aの電界のみを弱めることができる。また、
図13(b)では、接地ライン215aの途中の部分Cにコンデンサを設け、第1の分離部材18aの長辺がコンデンサを介して接地されるようにしており、これによっても第1の分離部材18aの長辺対応部分のみアンテナ間で共有する磁場を打ち消す効果を高めて、部分Aの電界のみを弱めることができる。
【0076】
また、分離部材を接地する場合には、接地ラインを介して閉回路が形成されていればよいため、誘電体壁を支持する梁等を利用して接地を工夫することにより、分離部材は必ずしも環状に設ける必要はなく、複数の分割部に分割して、機能させたくない部分に対応する分割部を部分的に取り外すことも可能である。その例を
図14に示す。
【0077】
図14は、誘電体壁を8分割するプラズマ処理装置に用いられる高周波アンテナを示す平面図である。
図14に示すように、誘電体壁を支持する支持部材310は、外側のフレーム(図示せず)と、8つに分割された誘電体壁の分割する部分を支持するための梁311とを有している。一方、高周波アンテナ313は、最も外側に配置された第1のアンテナ313a、中間に配置された第2のアンテナ313b、最も内側に配置された第3のアンテナ313cを同心状に設けられた三環状アンテナであり、第1のアンテナ313aと第2のアンテナ313bとの間に第1の分離部材18aを設け、第2のアンテナ313bと第3のアンテナ313cとの間に第2の分離部材18bを配置している。第1の分離部材18aと第2の分離部材18bは、梁311を介して接地可能となっている。第1の分離部材18aは梁311によって、4つのコーナー部分118aと、4つの辺中央部分118bに分割されており、それぞれが梁311に接続されており、梁311を介して接地されている。このため、4つのコーナー部分118aおよび4つの辺中央部分118bの一部、例えば第1の分離部材18aのコーナー部分118aを取り外しても、中央部分118bは梁311を介して接地されているので、接地ラインを介して閉回路を構成することができ、コーナー部分へ分離部材の効果が及ばないようにすることができる。
【0078】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、誘導電界を形成するための複数のアンテナを同心状に設けた例を示したが、これに限らず、
図15に示すように、たとえば複数の渦巻きアンテナ413を並列に配置し、これらの間に分離部材418を設けた構造であってもよい。この場合でも、分離部材418により2つのアンテナ413が共有する磁場を分離して電界分布の制御性を高める効果を発揮することができる。このとき、隣接する渦巻きアンテナ413の間の部分の全てに分離部材を配置してもよいが、これらのうち、分離部材の効果を発揮させたい部分のみに分離部材を配置してもよく、隣接する渦巻きアンテナ413の間の少なくとも一つに分離部材を配置すればよい。
【0079】
また、各アンテナの形態は必ずしも同一でなくてもよい。例えば、一部のアンテナが
図2に示す多重アンテナであり、他が
図7〜9に示す多重アンテナであってもよく、多重アンテナと一本のアンテナを渦巻きにしたものとを混在させてもよい。
【0080】
さらに、上記実施形態では、インピーダンスを調整するために可変コンデンサを用いたが、可変コイル等の他のインピーダンス調整手段であってもよい。
【0081】
さらに、上記実施形態では、一つの高周波電源から各アンテナに高周波電力を分配して供給したが、アンテナ毎に高周波電源を設けてもよい。
【0082】
さらにまた、上記実施形態では処理室の天井部を誘電体壁で構成し、アンテナが処理室の外である天井部の誘電体壁の上面に配置された構成について説明したが、アンテナとプラズマ生成領域との間を誘電体壁で隔絶することが可能であればアンテナが処理室内に配置される構造であってもよい。
【0083】
さらにまた、上記実施形態では本発明をエッチング処理またはアッシング処理に適用した場合について示したが、CVD成膜等の他のプラズマ処理装置に適用することができる。さらにまた、基板としてFPD用の矩形基板を用いた例を示したが、太陽電池等の他の矩形基板を処理する場合にも適用可能であるし、矩形に限らず例えば半導体ウエハ等の円形の基板にも適用可能である。
【符号の説明】
【0084】
1;本体容器
2;誘電体壁(誘電体部材)
3;アンテナ室
4;処理室
13;高周波アンテナ
13a;第1のアンテナ
13b;第2のアンテナ
14;整合器
15;高周波電源
16a,16b;給電部材
18,18a,18b;分離部材
19,19a,19b;給電線
20;処理ガス供給系
21;可変コンデンサ
22a,22b;端子
23;載置台
30;排気装置
50;アンテナユニット
51;給電部
61,62,63,64,71,72,73,74;アンテナ線
91a;外側アンテナ回路
91b;内側アンテナ回路
100;制御部
101;ユーザーインターフェース
102;記憶部
G;基板