特許第5894923号(P5894923)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5894923
(24)【登録日】2016年3月4日
(45)【発行日】2016年3月30日
(54)【発明の名称】高ジルコニア質電鋳耐火物
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/657 20060101AFI20160317BHJP
   C03B 5/43 20060101ALI20160317BHJP
【FI】
   C04B35/62 C
   C03B5/43
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-537747(P2012-537747)
(86)(22)【出願日】2011年10月5日
(86)【国際出願番号】JP2011073014
(87)【国際公開番号】WO2012046785
(87)【国際公開日】20120412
【審査請求日】2014年7月30日
(31)【優先権主張番号】特願2010-227015(P2010-227015)
(32)【優先日】2010年10月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】旭硝子株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391040711
【氏名又は名称】AGCセラミックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】特許業務法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】戸村 信雄
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−002870(JP,A)
【文献】 特開2004−099441(JP,A)
【文献】 特表2005−526683(JP,A)
【文献】 特開昭63−285173(JP,A)
【文献】 特開2011−093740(JP,A)
【文献】 特開2010−260782(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/657
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学組成として、電鋳耐火物(Na2 O、B23 およびP25 の外掛表示成分を除く)の全体を100質量%としたとき、ZrO2 が86〜96質量%、SiO2 が2.5〜8.5質量%、Al23 が0.4〜3質量%、K2 Oが0.4〜1.8質量%、B23 が0.04質量%以下、P25 が0.04質量%以下、Cs2 Oが0〜3.8質量%、Na2 Oが0.04質量%以下の範囲で含有されることを特徴とする高ジルコニア質電鋳耐火物。
【請求項2】
前記Cs2 Oを0.05〜3.5質量%含有する請求項1に記載の高ジルコニア質電鋳耐火物。
【請求項3】
前記Cs2 Oを0.05〜0.7質量%含有する請求項2に記載の高ジルコニア質電鋳耐火物。
【請求項4】
2 Oの含有量が0.5〜1.8質量%以下である請求項1〜3のいずれかに記載の高ジルコニア質電鋳耐火物。
【請求項5】
前記Na2 Oの含有量が0.02質量以下である請求項1〜のいずれかに記載の高ジルコニア質電鋳耐火物。
【請求項6】
Fe23 とTiO2 との合計含有量が0.3質量%以下である請求項1〜のいずれかに記載の高ジルコニア質電鋳耐火物。
【請求項7】
とCaOとの合計含有量が0.3質量%以下である請求項1〜のいずれかに記載の高ジルコニア質電鋳耐火物。
【請求項8】
CuOの含有量が0.02質量%以下である請求項1〜のいずれかに記載の高ジルコニア質電鋳耐火物。
【請求項9】
ガラス溶融炉用である請求項1〜のいずれかに記載の高ジルコニア質電鋳耐火物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高ジルコニア質電鋳耐火物に係り、特に、ガラス溶融炉に適用した際にも、優れた耐久性および再使用性を有し、かつ生産性にも優れた高ジルコニア質電鋳耐火物に関する。
【背景技術】
【0002】
化学成分としてZrO2 を80質量%以上含む高ジルコニア質電鋳耐火物は、従来からガラス溶融炉用耐火物として使用されている。高ジルコニア質電鋳耐火物は溶融ガラスに対する高い耐食性と低汚染性ゆえに、フラットパネルディスプレー用基板ガラスなどの高い品質が要求されるガラス溶融炉の溶融ガラス接触部分に多用されている。
【0003】
高ジルコニア質電鋳耐火物の微細組織は、わずかな気孔、多量のジルコニア(ZrO2 )結晶粒、およびその粒間を充填する少量のマトリックスガラスから構成されている。このマトリックスガラスはSiO2 を主成分として、その他の酸化物、例えば、Al23 、Na2 O、B23 、P25 などの酸化物から構成される。
【0004】
高ジルコニア質電鋳耐火物は、その製造時の冷却過程、ならびにガラス溶融炉での熱上げ時および稼働休止する際の熱下げ時、稼働中の運転操作や耐火物自身の侵食により、温度変化に曝される。これらの温度変化により、熱応力、および1000℃付近の温度域において大きな体積変化を伴うジルコニア結晶の可逆的な変態で生じる変態応力、が当該耐火物内部に発生する。適切な熱機械特性と量を兼ね備えたマトリックスガラスが当該耐火物に含まれていれば、前述の応力に対して当該耐火物は柔軟となり応力が緩和されて、耐火物に亀裂は発生しない。
【0005】
一方で、マトリックスガラスの熱機械特性が不適切である場合やマトリックスガラスの量が不足した場合、高ジルコニア質電鋳耐火物の製造時やガラス溶融炉に適用する際の熱上げ時に亀裂が生じる。当該耐火物を溶融ガラスとの接触部分へ適用する場合、亀裂があると、その部分は溶融ガラスにより激しい侵食を受けるため、当該耐火物の耐久性は大きく低下する。
【0006】
高ジルコニア質電鋳耐火物は、その内部にジルコン結晶(ZrO2 ・SiO2 )を生成する場合がある。当該耐火物内部でのジルコン結晶は、ZrO2 とマトリックスガラス中のSiO2 とが反応して生成するため、ジルコン結晶の生成は、耐火物中のマトリックスガラスの減少をもたらす。ジルコン結晶が生成し、熱応力、および変態応力を緩和するマトリックスガラスの量が減少した当該耐火物は脆化し、わずかな温度変動によっても亀裂が生じやすくなる。
【0007】
さらに、耐火物単体ではジルコン結晶を生成し難い高ジルコニア質電鋳耐火物においても、溶融ガラスとの反応によりジルコン結晶を生成する場合がある。これは、当該耐火物中のジルコン結晶の生成を抑制する化学成分が溶融ガラス中へ溶出、当該耐火物中へジルコン結晶の生成を促進する化学成分が溶融ガラスから侵入、の一方または双方が起こるためである。溶融ガラスとの反応によりジルコン結晶を生成する傾向は、液晶基板ガラスなどの低アルカリガラスまたは無アルカリガラスと当該耐火物が接触した場合に顕著に生じる。
【0008】
したがって、耐火物単体で熱履歴によりジルコン結晶を生成しやすい高ジルコニア質電鋳耐火物、および耐火物単体ではジルコン結晶を生成し難くとも、溶融ガラスとの反応によりジルコン結晶を生成しやすい高ジルコニア質電鋳耐火物を、ガラス溶融炉の耐火物として用いた場合、製造時に亀裂がなく、かつ熱上げ時に亀裂が発生しなくても、稼働中に当該耐火物内部にジルコン結晶が生成して、稼働中の温度変動により亀裂が生じやすくなり、当該耐火物の耐久性が大きく低下する場合がある。
【0009】
一般に、耐火物の耐久性はガラス溶融炉の寿命を決定する要因である。そのため、耐火物への亀裂発生は、ガラス溶融炉の寿命を短くし、これがガラス製造原価を上昇させる1つの原因となる。
【0010】
また、ガラス溶融炉が稼働中の状態において、ジルコン結晶を生成していない高ジルコニア質電鋳耐火物は、亀裂が生じないか、生じたとしてもジルコン結晶を生成する耐火物よりも亀裂が僅少で済み、生産調整などによりガラス溶融炉の稼働を休止させる際の熱下げ時に新たな亀裂の発生や既存亀裂の伝播が少ないため、比較的再使用しやすい。
【0011】
一方で、ジルコン結晶を生成した高ジルコニア質電鋳耐火物は、この熱下げ時における新たな亀裂の発生と既存亀裂の伝播が顕著であり、さらに再熱上げ時にも同様に亀裂の発生と伝播が生じるため再使用は困難である。仮に再使用しても、高い耐久性は得られずにガラス溶融炉は短命に終わる。すなわち、単体または溶融ガラスとの反応によりジルコン結晶を生成しやすい高ジルコニア質電鋳耐火物は、ガラス溶融炉が稼働中の状態において寿命を残していても、稼働休止後の再使用には不適である。
【0012】
高ジルコニア質電鋳耐火物の、製造時、熱上げ時および稼働中における亀裂発生の抑制手段は従来から検討されている。
【0013】
特許文献1では、耐火物の化学組成を、ZrO2 が85〜97質量%、SiO2 が2〜10質量%、Al23 が最大3質量%、P25 が0.1〜3質量%、希土類酸化物を実質的に含有しない、ものとして製造時に生ずる亀裂が抑制された高ジルコニア質電鋳耐火物が得られるとしている。しかし、該耐火物中にはジルコン結晶の生成を促進するP25 が含有されており、耐火物単体でもジルコン結晶を生成しやすいという欠点がある。
【0014】
特許文献2では、耐火物の化学組成を、ZrO2 が90〜98質量%、Al23 が1質量%以下、Li2 O、Na2 O、CuO、CaO、およびMgOを含有せず、B23 が0.5〜1.5質量%含有するか、または、B23 が0.5〜1.5質量%であるとともにK2 O、SrO、BaO、Rb2 O、およびCs2 Oから選ばれた1種が1.5質量%以下、若しくは2種以上の合計が1.5質量%以下、として製造時の亀裂を抑制し、かつ陽イオン半径が大きな元素の成分を用いて電気抵抗を高める、という特徴を耐火物に与えている。しかし、該耐火物はジルコン結晶の生成を促進するB23 の含有量が高く、耐火物単体でもジルコン結晶を生成しやすいという欠点がある。
【0015】
特許文献3では、耐火物の化学組成を、ZrO2 を90〜95質量%、SiO2 を3.5〜7質量%、Al23 を1.2〜3質量%、Na2 Oおよび/またはK2 Oを合量で0.1〜0.35質量%を含有し、P25 、B23 およびCuOのいずれも実質的に含まない、ものとして耐熱サイクル抵抗性の向上とジルコン結晶の生成の抑制を実現している。しかし、この発明に基づく耐火物といえども、溶融ガラスとの接触条件においては、ジルコン結晶生成の抑制効果は不十分であった。
【0016】
特許文献4では、耐火物の化学組成を、ZrO2 を89〜96質量%、SiO2 を3.5〜7質量%、Al23 を0.2〜1.5質量%、Na2 O+K2 Oを0.05〜1.0質量%、B23 を1.2質量%未満、P25 を0.5質量%未満、B23 +P25 を0.01質量%を超え1.7質量%未満、CuOを0.3質量%未満、Fe23 +TiO2 を0.3質量%以下、BaOを0.01〜0.5質量%、SnO2 を0.3質量%以下、とすることが提案されている。特許文献4によれば、耐火物の製造時の割れおよび熱サイクルによる割れが発生しないとされ、さらにNa2 O、K2 O、およびBaOを添加して、P25 やB23 が持っているジルコン結晶の生成を促進するという好ましくない特性を消失させる、と記載している。しかし、この発明でも、やはり溶融ガラスとの接触条件においては、ジルコン結晶生成の抑制効果が不十分であった。その理由としては、この発明の実施例においてはNa2 Oが耐火物に含まれており、その顕著なマトリックスガラスの粘度の低下効果により、耐火物と溶融ガラスの成分置換が促進されて、実質的なジルコン結晶生成の抑制能力が低下すること、およびジルコン結晶生成の促進作用のあるB23 およびP25 を比較的高い含有量で含んでいることが挙げられる。
【0017】
特許文献5では、耐火物の化学組成を、ZrO2 を87〜94質量%、SiO2 を3.0〜8.0質量%、Al23 を1.2〜3.0質量%、Na2 Oを0.35質量%を超え1.0質量%、B23 を0.02質量%を超えて0.05質量%未満、P25 、およびCuOは実質的に含まず、かつAl23 とNa2 Oの質量比を2.5〜5.0、として耐火物単体でのジルコン結晶の生成を抑制する、という効果を得ている。しかし、この発明に基づく耐火物は、Na2 OとAl23 の含有量比を最適化してジルコン結晶の生成を抑制しているために、Na2 Oを低含有量でしか含んでいない溶融ガラスとの接触条件においては、Na2 Oの優先的な溶出が生じてしまう。このような溶出により、Na2 OとAl23 の含有量比が、早々に未使用状態の初期値からずれ、耐火物の組成はジルコン結晶の生成の抑制に有利な組成から短期間のうちに外れ、耐火物単体で得られるジルコン結晶生成の抑制効果が早期に消失してしまうという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】日本特開昭56−129675号公報
【特許文献2】日本特開昭63−285173号公報
【特許文献3】日本特開平6−72766号公報
【特許文献4】日本特開平9−2870号公報
【特許文献5】日本特開2007−176736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は上記した問題を解決すべく、耐火物製造時、熱上げ時、使用中の温度変化や稼働休止時の熱下げのいずれにおいても亀裂を発生し難く、高い耐久性を有する高ジルコニア質電鋳耐火物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、耐火物単体でも、溶融ガラスとの接触条件下でもジルコン結晶を生成し難く、温度サイクル条件下でも残存体積膨張が小さい高ジルコニア質電鋳耐火物を見出した。
【0021】
すなわち、本発明の高ジルコニア質電鋳耐火物は、化学組成として、電鋳耐火物(Na2 O、B23 およびP25 の外掛表示成分を除く)の全体を100質量%としたとき、ZrO2 が86〜96質量%、SiO2 が2.5〜8.5質量%、Al23 が0.4〜3質量%、K2 Oが0.4〜1.8質量%、B23 が0.04質量%以下、P25 が0.04質量%以下、Cs2 Oが0〜3.8質量%、Na2 Oが0.04質量%以下の範囲で含有されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明の高ジルコニア質電鋳耐火物は、耐火物製造時の亀裂の問題がなく、生産性に優れ、かつ耐火物単体でも溶融ガラスとの接触下でもジルコン結晶を生成し難く、耐火物製造時、熱上げ時、使用時、および熱下げ時に亀裂が生じ難く、耐久性と再使用性に富んでいる。
【0023】
また、本発明の高ジルコニア質電鋳耐火物は、溶融ガラスとの接触条件下でも亀裂が生じ難く耐久性に富むため、ガラス溶融炉の溶融ガラスとの接触部分に適用しても長い炉寿命が得られ、耐火物の侵食量を少なくして溶融ガラスの汚染を少なくできる。さらには、生産調整などによるガラス溶融炉の稼働停止時による熱下げ時、再熱上げ時にも亀裂を生じ難いため、侵食が少なく寿命を迎えていない耐火物の再使用が可能である。また、本発明の高ジルコニア質耐火物は、製造時の歩留まりを左右する亀裂の問題がないため、耐火物の生産性に優れるものであり、結果として製品を比較的安価に製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の高ジルコニア質電鋳耐火物(以下、単に、電鋳耐火物または耐火物ということもある。)は、上記した化学成分から構成される。これらの各化学成分が当該耐火物中で果たす役割について以下に説明する。なお、以下の説明中、Na2 O、B23 およびP23 の3成分については、前記3成分以外の他の成分の合計を100質量%とした場合の外掛表示とする。一方、Na2 O、B23 およびP25 の3成分以外の成分は、内掛表示とする。
本明細書において、内掛とは、電鋳耐火物(外掛表示成分を除く)の全体を100質量%としたとき、100質量%の中でのそれぞれの成分割合をいう。例えば、ZrOを内掛で90質量%含むとは、電鋳耐火物(外掛表示成分を除く)の全体を100質量%とし、100質量%中、ZrOを90質量%含むことを示す。
一方、外掛とは、電鋳耐火物(外掛表示成分を除く)の全体を100質量%としたとき、該100質量%に含まれていない成分の電鋳耐火物(外掛表示成分を除く)全体の100質量%を基準にした割合をいう。例えば、Na2 Oを外掛で0.01質量%含むとは、耐火物(外掛表示成分を除く)全体を100質量%とし、それ以外にNa2 Oを付加的に0.01質量%含むことをいう。
【0025】
高ジルコニア質電鋳耐火物の製造に用いられるジルコニア原料およびジルコン原料は、不可避的に1〜3質量%のHfO2 を含んでおり、HfO2 は製造時に蒸発などの損失はほとんどなく耐火物中に残存するため、本発明も含めた通常の高ジルコニア質電鋳耐火物は、1〜3質量%のHfO2 を含んでいる。HfO2 は高ジルコニア質電鋳耐火物において、一般的にはZrO2 と同じ役割を果たすため、ZrO2 +HfO2 の値をもって、単にZrO2 と表記するのが通例であり、本発明においてもZrO2 +HfO2 の値をもってZrO2 と表記する。
【0026】
本発明の電鋳耐火物は、多量のジルコニア結晶と少量のマトリックスガラス、およびわずかの気孔により構成される高ジルコニア質電鋳耐火物である。ZrO2 は、溶融ガラスの侵食に対する抵抗力が強く、耐火物の主要成分として含有される。このZrO2 のほとんどは、溶融ガラスに対して優れた耐食性を有するジルコニア結晶として存在し、ごくわずかだけがマトリックスガラス中に存在する。
【0027】
すなわち、ZrO2 の含有量は本発明の耐火物中のジルコニア結晶の含有率を支配し、ひいては耐火物の溶融ガラスに対する耐食性を左右する。溶融ガラスに対して高い耐食性を得るためにZrO2 は86質量%以上である必要があり、好ましくは88質量%以上である。一方、ZrO2 が96質量%より多くなると、応力緩和の働きをするマトリックスガラスの量が相対的に少なくなり、製造時や熱上げ時、使用時、熱下げ時の温度変化で亀裂が生じやすくなる。従って、本発明の耐火物におけるZrO2の含有量は86〜96質量%である。
【0028】
SiO2 はマトリックスガラスを形成する主成分である。応力緩和の働きをするマトリックスガラスの量を確保するためには2.5質量%以上のSiO2 が必要である。一方で、多量のSiO2 を耐火物に含ませると、必然としてZrO2 を多く含ませることができなくなり耐食性を損なう。従って、本発明の耐火物におけるSiO2の含有量は、2.5〜8.5質量%であり、好ましくは3.0〜8.0質量%である。
【0029】
Al23 はマトリックスガラスの粘度を低下させる成分であると同時にジルコン結晶の生成をある程度抑制する成分である。ジルコン結晶の生成が顕著となる低アルカリガラス、あるいは無アルカリガラスとの接触条件下においても、これらのガラスの多くは、Al23 の含有量が比較的高く、耐火物と溶融ガラスの間に生じる濃度勾配差は小さくなり、耐火物からのAl23 の溶出は遅い。そのため長期間にわたりAl23 によるジルコン結晶生成の抑制効果を享受できる。
【0030】
Al23 が0.4質量%未満であると、マトリックスガラスの粘度が高くなりすぎてマトリックスガラスの応力緩和能力が低下するため、製造時や熱上げ時、使用時、熱下げ時の温度変化で亀裂が生じやすくなる。一方、高含有量でAl23 を含ませると、必要以上にマトリックスガラスの粘度が低下し、ジルコン結晶生成の抑制に有効であるK2 OおよびCs2 Oの溶融ガラスへの流出を速めてしまうという不都合が生じる。さらに、Al23 が3質量%を超えると、製造時や使用中の時点でムライトなどアルミノシリケート系の結晶を生成してしまい、マトリックスガラスの量の低下をもたらして、製造時や熱上げ時、使用時、熱下げ時の温度変化で亀裂が生じやすくなる。従って、本発明の耐火物におけるAl23 の含有量は、0.4〜3質量%であり、好ましくは0.5〜2.7質量%である。
【0031】
2 Oもまた、マトリックスガラスの粘度を低下させる成分であると同時にジルコン結晶の生成を抑制する成分である。Al23 と同様に、K2 Oはマトリックスガラスの粘度を低下させる役割があり、K2 Oを耐火物に含ませると、製造時や熱上げ時、使用時、熱下げ時の温度変化による耐火物の亀裂を抑制する作用が得られる。また、Kの陽イオン半径が大きいために、溶融ガラスと接触しても溶出が遅く、長期にわたりジルコン結晶生成の抑制効果を与える。
【0032】
2 Oが不足すると、製造時や使用による加熱でムライトなどアルミノシリケート系の結晶を生成してしまい、マトリックスガラスの量の低下をもたらして、製造時や熱上げ時、使用時、熱下げ時の温度変化で亀裂が生じやすくなる。一方で、K2 Oが1.8質量%以上存在すると、製造時あるいは使用による加熱でリューサイトなどカリウム含有のアルミノシリケート系の結晶を生成してしまい、マトリックスガラスの量の低下をもたらして、製造時や熱上げ時、使用時、熱下げ時の温度変化で亀裂を生じやすくなる。わずかな量のK2 Oだけでも耐火物単体におけるジルコン結晶の生成を抑制する効果が得られるが、溶融ガラスとの接触条件、特に低アルカリガラスや無アルカリガラスに接触する条件下でもジルコン結晶の生成を抑制するためには、0.4質量%以上のK2 Oが必要である。従って、本発明の耐火物におけるK2 Oの含有量は、0.4〜1.8質量%であり、好ましくは0.5〜1.5質量%であり、さらに好ましくは0.6〜1.2質量%である。
【0033】
23 はジルコン結晶の生成を促進する成分である。B23 が多量に含まれると耐火物は熱履歴のみでジルコン結晶を生成し、少量であっても溶融ガラスとの接触条件でのジルコン結晶の生成を促進する場合がある。そのため、ジルコン結晶生成の抑制という点でB23 は低含有量が好ましい。Al23 、K2 OおよびCs2 Oがジルコン結晶生成の抑制に大きく貢献している本発明において、B23の含有量は0.04質量%まで許容され、好ましくは0.03質量%以下である。B23が0.02質量%以下であるとより好ましい。
【0034】
一方で、B23 は低含有量でも耐火物製造時の亀裂発生を抑制する効果があるため、ジルコン結晶生成の抑制に不都合のない範囲内でB23 を耐火物に含ませ、精緻な組成制御を実施して、耐火物の生産性を高く保持できる。
【0035】
25 はB23 と同様に、ジルコン結晶の生成を促進する成分である。P25 が多量に含まれると、耐火物は熱履歴のみでジルコン結晶を生成し、少量であっても溶融ガラスとの接触条件でのジルコン結晶の生成を促進する場合がある。そのため、ジルコン結晶生成の抑制という点でP25 はできるだけ低含有量が好ましい。
【0036】
一方で、P25 は低含有量でも耐火物製造時の亀裂発生を抑制する効果があり、さらに、ジルコニア原料やジルコン原料の種類によっては不可避的に混入してくる成分でもある。P25 の含有が一切許容できない場合は、高価な精製原料や産地が限定された比較的高価なジルコン原料、ジルコニア原料を使用せねばならなくなる。しかし、Al23 やK2 O、およびCs2 Oがジルコン結晶生成の抑制に大きく貢献している本発明においては、P25の含有量は0.04質量%まで許容され、好ましくは0.03質量%以下である。P25が0.02質量%以下であるとより好ましい。そのため、ジルコン原料、ジルコニア原料の選択幅は狭まらず、比較的安価な原料コストを達成できる。さらに、B23 の場合と同様に、ジルコン結晶生成の抑制に不都合のない範囲内でP25 を耐火物に含ませ、精緻な組成制御を実施すれば耐火物の生産性を高く保てる。
【0037】
Na2 Oは耐火物単体での熱履歴においては、ジルコン結晶生成の抑制効果を有する成分であるが、溶融ガラスとの接触条件においては、その効果はK2 OやCs2 Oには及ばず、溶融ガラスとの接触条件における1400℃未満での比較的低温域では特に及ばない。また、Na2 OはAl23 やK2 Oと同様に、マトリックスガラスの粘度を低下させる成分でもあるが、その粘度の低下効果は特に著しく、溶融ガラスとの接触条件においてジルコン結晶生成の抑制に有効な成分であるAl23 やK2 O、およびCs2 Oの溶融ガラスへの溶出を速め、かつB23 などジルコン結晶の生成を促進する成分の溶融ガラスからの侵入を速める。
【0038】
さらに、Naの陽イオン半径が小であるため、低アルカリガラス、無アルカリガラスなどとの接触で容易に溶融ガラス中へ溶出するため、これらの溶融ガラスに接触する場合、ジルコン結晶生成の抑制効果は比較的短期間しか継続しない。なおかつ、Na2 Oによるマトリックスガラスの粘度の低下効果が特に著しいため、Al23 やK2 Oを比較的高い濃度で含有する本発明の耐火物中にNa2 Oを含ませると、マトリックスガラスの粘度を過剰に低下させ、耐火物製造時の保形性が低下し、鋳塊に変形や引き裂き状の亀裂を生じるために耐火物の生産性は著しく低下する。
【0039】
このため、Na2 Oは低含有量が好ましく、本発明においてはNa2 Oを実質的に含まない。ここで、Na2 Oを実質的に含まないとは、その含有量が0.04質量%以下であることを示す。Na2 Oの含有量は、0.03質量%以下であることが好ましく、0.02質量%以下であることがより好ましい。
【0040】
また、本発明においては、上記説明した成分に加えて、Cs2 Oを含有させてもよい。Cs2 Oもジルコン結晶の生成を抑制する成分であり、低含有量においてもその効果は発現する。また、Csの陽イオン半径は非常に大きいため、溶融ガラスと接触しても耐火物からの溶出が極めて遅く、特に長期にわたりジルコン結晶生成の抑制効果を与える。一方で、理由は定かでないが、過剰のCs2 Oは、製造時の時点で亀裂を生じさせる傾向があるため、Cs2 Oの含有量は3.8質量%以下の範囲であり、0.05〜3.5質量%が好ましく、より好ましくは0.05〜2.5質量%であり、特に好ましくは0.05〜0.7質量%である。
【0041】
主に、原料(ジルコン原料、ジルコニア原料など)中に不純物として含まれるFe23 とTiO2 は、溶融ガラスへの着色と発泡を生じさせる成分であり、高含有量となるのは好ましくない。これらFe23 とTiO2 とを合わせた含有量は、0.3質量%以下において着色の問題はなく、好ましくは0.2質量%を超えない量である。
同様に、原料中には不純物としてYとCaOが含まれるが、これらは熱サイクル試験での残存体積膨張率を増加させる傾向があり、これらYとCaOとを合わせた含有量は、0.3質量%以下において問題はなく、好ましくは0.2質量%を超えない量である。
【0042】
CuOは少量でも溶融ガラスを着色する成分であるため、着色が実質的に生じなくなる含有量の水準までしか許容できない。本発明の耐火物において、CuOの含有量は好ましくは0.02質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下にせしめるのが好適である。
【実施例】
【0043】
以下に、本発明の高ジルコニア質電鋳耐火物を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0044】
電融鋳造法で高ジルコニア質電鋳耐火物を得るために、ジルコニア原料である脱珪ジルコンにアルミナ、ジルコンサンド、シリカ、炭酸カリウム、炭酸セシウム、B23 、P25 などの原料を調合して混合原料とし、この混合原料を2本の黒鉛電極を備えた出力500kVAの単相アーク電気炉に装入して、通電加熱により完全に溶融した。
【0045】
この溶湯を徐冷材であるバイヤーアルミナの粉末中に予め埋めておいた内容積160mm×200mm×350mmの黒鉛鋳型中に流し込んで鋳造し、室温付近の温度になるまで放冷した。冷却後、鋳塊と黒鉛鋳型を徐冷材中から抜き出し、さらに黒鉛鋳型と鋳塊を分離して目的の高ジルコニア質電鋳耐火物を製造した。
【0046】
原料組成を調整し、表1および表2に示した化学組成を有する高ジルコニア質電鋳耐火物を得た。ここで、表1には実施例(例1〜例9)を、表2には比較例(例10〜例17)を示した。なお、耐火物中の化学組成について、ZrO2 、SiO2 、およびAl23 は波長分散型蛍光X線分析装置(リガク社製、装置名:ZSX PrimusII)により決定した定量分析値であり、その他の成分は高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置(セイコーインスツル社製、装置名:SPS 1100)により決定した定量分析値である。しかし、各成分の定量はこの分析方法に限定されるものではなく、他の定量分析方法によっても実施できる。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
〔製造時の亀裂〕
鋳塊の外観上の亀裂の有無について次のように評価した。
まず、目視にて亀裂の有無を調べ、亀裂が生じた耐火物については鋳塊表面の全面に各面深さ10mmの研削を行い、研削後の鋳塊における亀裂長さが10mm以下となった場合には製造時の亀裂を「小」、亀裂長さが10mmを超え50mm以下となった場合には製造時の亀裂を「中」、亀裂長さが50mmを超える場合には製造時の亀裂を「大」と分類した。製造時の亀裂がない場合、耐火物の製造に問題は生じない。また、製造時の亀裂が中以下であれば、必要な耐火物寸法よりわずかに大きい鋳塊を製造し、表面に軽度の研削を行うだけで良いので耐火物の製造は容易である。一方で、製造時の亀裂が大であると、必要な耐火物寸法に対して非常に大きな鋳塊を製作した上で、重度の研削や切断が必要となるため、その耐火物製造は非常に原価が高くなり現実的でない。
【0050】
〔熱サイクル試験での残存体積膨張率〕
製造した電鋳耐火物から40mm×40mm×40mmの試料を切り出し、800℃と1250℃の間を40回往復させる加熱・冷却の繰り返しを電気炉中で実施した。この際、室温から800℃の間の加熱は毎時160℃にて行い、ここから、800℃到達後直ちに1250℃の加熱を毎時450℃にて行い、1250℃到達後直ちに800℃までの冷却を毎時450℃にて行って1回の熱サイクルとした、800℃と1250℃の熱サイクルを40回繰り返した。最終の熱サイクル後は毎時160℃にて800℃から室温まで冷却した。この試験前および試験後で試料の寸法を測定し、その寸法変化から残存体積膨張率を求めた。
【0051】
この熱サイクル試験において高ジルコニア質電鋳耐火物は、一般に残存体積膨張を示し、場合によっては亀裂を生じる。この残存体積膨張は比較的低温域での熱サイクルに対する耐火物単体での試験により得られ、ガラス溶融炉へ耐火物を適用した際に溶融ガラスから離れて比較的低温である炉外面付近の割れ耐性を示している。この試験による残存体積膨張率が3体積%未満であると好ましく、2体積%未満であるとさらに好ましい。
【0052】
〔熱サイクル試験でのジルコン結晶の生成率〕
さらに、この熱サイクル試験でジルコン結晶が生成する耐火物もある。上記熱サイクル試験を経た電鋳耐火物について、ジルコン結晶の生成率を粉末エックス線回折装置(リガク社製、装置名:RINT−TTR III)により求めた。すなわち、熱サイクル試験後の試料を粉砕した粉末でエックス線回折測定をし、その回折パターンからジルコン結晶、ジルコニア結晶のピーク面積比を求めて、ジルコン結晶量/(ジルコン結晶量+ジルコニア結晶量)の比によりジルコン結晶の質量%を決定した。
【0053】
〔浸漬試験でのジルコン結晶の生成率〕
溶融ガラスとの接触条件下におけるジルコン結晶の生成率は次の浸漬試験により求めた。すなわち、得られた電鋳耐火物から15mm×25mm×30mmの試料を切り出して、これを200cc白金るつぼ中に250gの無アルカリガラスカレットとともに挿入し、所定の温度と所定の時間、電気炉(モトヤマ社製、装置名;NH−2025D−SP)中で加熱した。冷却後、試料を取り出し、試料を粉砕した。粉砕した試料粉末でエックス線回折測定をし、その回折パターンからジルコン結晶、ジルコニア結晶のピーク面積比を求めて、ジルコン結晶量/(ジルコン結晶量+ジルコニア結晶量)の比によりジルコン結晶の質量%を決定し、これをジルコン結晶の生成率とした。
【0054】
この試験に用いたガラスは、化学組成が酸化物換算表示で、SiO2 が60質量%、B23 が8質量%、Al23 が17質量%、MgOが3質量%、CaOが4質量%、SrOが8質量%、である無アルカリガラスである。
【0055】
なお浸漬試験における試験条件は下記の通りとした。
浸漬試験1としては1250℃にて20日間の試験を行った。このとき、室温から1250℃までの加熱は毎時300℃とし、1250℃到達後20日間の温度保持をした後、700℃まで毎時500℃で冷却、さらに700℃から室温まで毎時60℃の冷却をした。この試験においては、ジルコン結晶の生成率が4質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましい。
【0056】
浸漬試験2としては1450℃にて4日間の試験を行った。このとき、室温から1450℃までの加熱は毎時300℃とし、1450℃到達後4日間の温度保持をした後、700℃まで毎時500℃で冷却、さらに700℃から室温まで毎時60℃の冷却をした。この試験においては、ジルコン結晶生成率が4質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましい。
【0057】
〔1500℃における電気抵抗率〕
電気抵抗率は次のようにして測定した。まず、電鋳耐火物から直径20mm、厚さ3〜5mmの円板状の試料を切り出した。試料の片面に主電極とガード電極を、残りの面に主電極のみを白金ペーストを用いて焼き付けた。最高温度1700℃まで昇温可能な電気炉の内部にサンプルの電気抵抗を測定するための白金電極をセットした後、試料を電気炉内に入れた。5℃/分で昇温加熱しながら、絶縁抵抗測定装置(アルバック理工社製、装置名:EHR−2000SP)で周波数120Hzの交流電圧(一定)を印加しながらJIS C2141に準じた3端子法で連続的に体積抵抗を測定した。得られた体積抵抗から体積抵抗率を算出して本発明における電気抵抗率とした。
【0058】
上記した試験結果については、表1および表2に併せて示した。
【0059】
表1から明らかなように、本発明の電鋳耐火物は製造時の亀裂がないか、亀裂があっても中以下であった。従って、本発明の電鋳耐火物は高い生産性で容易に製造できる。
【0060】
実施例である例1〜9の電鋳耐火物は、どれも熱サイクル試験での残存体積膨張率が3体積%未満であった。さらに表1中には記載していないが、この試験ではどの実施例においても試料に亀裂は生じなかった。本発明の電鋳耐火物は耐火物単体での温度変化に対する割れ耐性が高いことがわかった。
【0061】
例1〜9の電鋳耐火物においては、熱サイクル試験後の試料からはジルコン結晶が検出されなかった。この測定法によれば、ジルコン結晶の生成率の値が0.5質量%以上であればジルコン結晶が検出できるので、例1〜9の電鋳耐火物は熱サイクル試験においてジルコン結晶を生成する反応が実質的に皆無だといえる。すなわち、本発明の電鋳耐火物は耐火物単体でのジルコン結晶の生成が抑制されている。
【0062】
例1〜9の電鋳耐火物の浸漬試験1でのジルコン結晶の生成率は4質量%以下であった。さらに、例1〜9の電鋳耐火物の浸漬試験2でのジルコン結晶生成率もまた4質量%以下であった。
【0063】
浸漬試験1および浸漬試験2の双方において、例1〜9の耐火物はジルコン結晶の生成率が4質量%以下であり、本発明の電鋳耐火物はガラス接触条件下においてもジルコン結晶を生成し難いといえる。
【0064】
すなわち、本発明の耐火物は、製造時の亀裂も問題なく、耐火物単体での熱サイクルによる残存体積膨張率も低く、ジルコン結晶も生成し難く、さらには溶融ガラスとの接触条件においてもジルコン結晶の生成が抑制されており、生産性、使用時の温度変化、さらには再使用性にも優れた耐久性の高い耐火物である。
【0065】
とりわけ、例1の耐火物は、製造時の亀裂がなく、熱サイクル試験による残存体積膨張率も特に小さく、またガラス浸漬試験においてもジルコン結晶の生成率が特に小さいことから、生産性、使用時の温度変化に対する割れ耐性さらには再使用性に特に優れた電鋳耐火物である。
【0066】
なお、例1、例5、および例9における電気抵抗率のように、本発明の耐火物は、特に高い電気抵抗率を有するものではなく、通常の高ジルコニア質電鋳耐火物の電気抵抗率を示している。
【0067】
表2には、本発明に該当しない高ジルコニア質電鋳耐火物を比較例として示した。
例10、例11、例12、例13、例15、および例17は、それぞれSiO2 の不足、Al23 の過剰、K2 Oの不足、K2 Oの過剰、Na2 Oの過剰、およびCs2 Oの過剰、により製造時の亀裂が大であり、例15においては引き裂き状の亀裂と鋳塊の変形がみられた。従って、これらの耐火物を製造するのは非常に困難である。
【0068】
例10、例11、例13、例16、および例17は、それぞれSiO2 の不足、Al23 の過剰、K2 Oの過剰、P25 とNa2 Oの過剰、およびCs2 Oの過剰、により熱サイクル試験での残存体積膨張率が3体積%以上となっており、耐火物単体での温度変化に対する割れ耐性が乏しいことがわかる。
【0069】
例16では、熱サイクル試験においてP25 の過剰によりジルコン結晶が大量に生成し、マトリックスガラスが減少して残存体積膨張率が特に高くなっている。例16のような耐火物は、耐火物単体でジルコン結晶を容易に生成してしまい、ガラス溶融炉で用いられる際には、耐火物中に亀裂を容易に生じてしまうため、高い耐久性は期待できず、再使用には到底適さない。
【0070】
例12、例15、および例16では、それぞれAl23 の不足とB23 の過剰、K2 Oの不足、Na2 Oの過剰、およびNa2 Oの過剰とP25 の過剰、により浸漬試験で高いジルコン結晶の生成率となった。これらの耐火物は、溶融ガラスとの接触条件においてはジルコン結晶生成の抑制が不十分である。
【0071】
以上の結果より、本発明の高ジルコニア質電鋳耐火物は、生産性に優れ、熱上げ時に亀裂が発生し難く、耐火物単体で熱履歴を受けてもジルコン結晶を生成し難く、かつ溶融ガラスと接触してもジルコン結晶を生成し難いことがわかる。そのため、使用中の温度変化や稼働休止時の熱下げにおいても亀裂を発生し難く、高い耐久性を有し、再使用性にも優れた高ジルコニア質電鋳耐火物であって、特に、低アルカリガラスおよび無アルカリガラスの溶融炉に好適である。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明の高ジルコニア質電鋳耐火物は、高い耐久性および良好な再使用性を有し、ガラス溶融炉の寿命を延長し、ガラス欠陥を低減させ、ガラス溶融炉の稼働停止と再稼働が容易となるため、特にガラス溶融炉の耐火物として好適である。
なお、2010年10月6日に出願された日本特許出願2010−227015号の明細書、特許請求の範囲、および要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。