(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1において、前記水質測定器として、透過率又は吸光度を測定するための光学的測定器、1種又は2種のイオン電極、及び電気伝導率計のうちの少なくとも2個を備えたことを特徴とする濃縮倍数測定装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電気伝導率ではなく、カルシウム硬度、酸消費量(pH4.8)、シリカなどから選定した1つの成分について、循環水中の溶存成分濃度及び補給水中の溶存成分濃度を測定し、これらの測定値から濃縮倍数を算出することができる。しかし、溶存濃度を測定した成分が、熱交換器等にスケールとして付着したり、循環水系に沈殿したりしていた場合には、誤った濃縮倍数が算出され得る。このように、単一の成分についての溶存濃度のみから濃縮倍数を算出する場合、誤った濃縮倍数で循環水系を管理し、障害(異常)発生を速やかに検出できず、対処が遅れるおそれがあった。
【0008】
本発明は、上記従来の実状に鑑みてなされたものであり、循環水の濃縮倍数を精度良く算出する濃縮倍数測定装置及び方法と、循環水の水質指標値を測定する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の濃縮倍数測定装置は、試料水が循環水であるか補給水であるかを選択するための操作部と、試料水の第1ないし第n(nは2以上の整数)の水質特性値を測定するための第1ないし第nの水質測定器と、各水質測定器が循環水及び補給水についてそれぞれ測定した測定値に基づいて濃縮倍数を演算する演算部とを備える。
【0010】
本発明の一態様では、前記水質測定器として、透過率又は吸光度を測定するための光学的測定器、1種又は2種以上のイオン電極、及び電気伝導率計のうちの少なくとも2個を備える。
【0011】
本発明の一態様では、前記操作部、第1ないし第nの水質測定器、及び演算部が一つの筐体に設置されている。
【0012】
本発明の一態様では、前記筐体に、光学的測定用のセルを差し込むための差込穴が設けられている。この場合、前記筐体に、操作部で選択された試料水が循環水であるか補給水であるかを表示する選択結果表示部が設けられていてもよい。
【0013】
本発明の一態様では、水質測定結果及び濃縮倍数の演算結果のうち少なくとも濃縮倍数を表示する測定結果表示部が設けられている。この場合、該濃縮倍数測定装置は、測定結果を記憶するメモリを備えており、前記測定結果表示部は、過去データを含めたトレンドを表示してもよい。
【0014】
本発明の一態様では、前記筐体は、その上面部に、起倒方向に回動可能なセンサ設置盤が設けられ、該センサ設置盤の下面から突出するようにイオン電極又は電気伝導率計よりなる水質測定器が設置されており、前記筐体には、倒伏状態の該センサ設置盤の下方に試料水用の容器が配置されており、該筐体が倒伏した状態において、水質測定器の下端側が該容器内の試料水に浸漬される。
【0015】
本発明の一態様では、前記第1ないし第nの水質測定器よりなる測定器セットを複数個備えてもよい。
【0016】
本発明の循環水の濃縮倍数測定方法では、本発明の濃縮倍数測定装置を用いて循環水の濃縮倍数を演算する。
【0017】
本発明の循環水の水質指標値測定方法では、本発明の濃縮倍数測定装置を用いて、pH、電気伝導率、カルシウム硬度及び酸消費量(pH4.8)を測定し、この測定結果よりランゲリア指数及びリズナー指数のうち少なくともいずれか一方を演算する。
【0018】
本発明の循環水の水質指標値測定方法では、本発明の濃縮倍数測定装置を用いて、硫酸イオン濃度、酸消費量(pH4.8)及び酸消費量(pH8.3)を測定し、この測定結果よりマットソン比を演算する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、循環水及び補給水に関して複数種類の水質項目について水質を測定し、各水質測定結果に基づいてそれぞれの濃縮倍数が算出される。算出された各水質値に基づく濃縮倍数を比較し、濃縮倍数の算出に適した水質項目を選出し、それが複数項目存在する場合は、それらから算出した濃縮倍数を平均することにより、循環水の濃縮倍数を精度良く求めることができる。このようにして求められた濃縮倍数を用いることで、循環水系の濃縮管理を適切に行うことができる。
【0020】
本発明の濃縮倍数測定装置において、操作部、水質測定器及び演算部を一つの筐体に設置することにより、濃縮倍数測定装置を容易に現場に携行することができる。また、筐体に通信機能を組み込んで管理センターへデータを送信することもできる。
【0021】
表示部に試料水が循環水であるか補給水であるかを表示することにより、試料水の取り違え等を防止することができる。また、測定結果を表示部に表示することにより、測定結果を直ちに知ることができる。測定結果を記憶するメモリを設け、表示部に測定結果のトレンドを表示することにより、水系の水質管理をより適切に行うことができる。
【0022】
筐体に起倒自在なセンサ設置盤を設け、このセンサ設置盤に水質測定器を設置し、水質測定器の下端側を試料水用容器内の試料水に浸漬して測定を行うよう構成することにより、測定を迅速に行うことができる。また、センサ設置盤を起立させることにより、測定器を洗浄したり、試料水容器を出し入れしたりすることが容易となる。
【0023】
本発明では、第1ないし第nの水質測定器よりなる測定器セットを複数個設けることにより、循環水と補給水とについて同時に水質を測定することができる。
【0024】
また、本発明によれば、濃縮倍数測定装置によってpH、電気伝導率、カルシウム硬度及び酸消費量(pH4.8)を測定し、この測定結果より、水系における配管や熱交換器等の金属材料の腐食性の指標となるランゲリア指数及び/又は水の腐食性とスケール生成の傾向の指標となるリズナー指数を算出することもできる。
【0025】
また、本発明によれば、濃縮倍数測定装置によって硫酸イオン濃度、酸消費量(pH4.8)及び酸消費量(pH8.3)を測定し、この測定結果より、銅の孔食発生の指標となるマットソン比を算出することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0028】
図1,2は本発明の実施形態に係る濃縮倍数測定装置の外観斜視図であり、
図3は濃縮倍数測定装置のブロック図である。
図3の通り、濃縮倍数測定装置は、吸光度測定部1、電極測定部2、電気伝導率測定部3、操作部4、表示部5、演算部6、及びメモリ7を備えており、これらが筐体Hに設置されている。
【0029】
図1,2の通り、筐体Hは、略々直方体形状の合成樹脂製のケースよりなり、その上面の一半側に操作部4と、液晶ディスプレイ等よりなる表示部5とが設けられている。操作部4は、ユーザーによって操作されるボタン、スイッチ、タッチパネル等によって構成されている。
【0030】
筐体Hの上面の他半側には、セル設置部10が凹段部状に設けられ、開閉回動可能なカバー11で覆われている。また、筐体Hの上面の他半側には、試料水容器20の配置部21が設けられており、この配置部21の上方に起立方向回動可能なセンサ設置盤15が設けられている。カバー11及びセンサ設置盤15はヒンジによって筐体Hに対し回動可能に取り付けられている。
【0031】
セル設置部10には、吸光度測定用セル12A,12B,12Cの差込穴13A,13B,13Cが設けられている。筐体H内には、各差込穴
13A〜13Cを挟んで対峙するようにそれぞれ発光素子、分光器及び受光素子が設けられている。分光器は省略される場合がある。セル12A〜12Cには予め規定量の発色試薬が封入されている。セル12A〜12C内の発色試薬は互いに別種のものである。
【0032】
発色試薬は、測定対象成分によって異なり、例えば測定対象成分がシリカの場合はモリブデンを含有するものを使用することができ、酸消費量(pH4.8)を求める場合はブロモフェノールブルーを含有するものを使用することができ、酸消費量(pH8.3)を求める場合はフェノールフタレインを含有するものを使用することができる。また、硫酸イオンを測定する場合は、クロム酸バリウムを含有するものを使用することができる。
【0033】
セル12A〜12Cのキャップを開け、セル12A〜12C内に規定量の試料水を注入した後、キャップを閉じ、試料水と発色試薬とを混合した後、セル12A〜12Cを差込穴13A〜13Cに差し込み、吸光度を測定することができる。このセル12A〜12Cと、各発光素子、分光器及び受光素子と、各素子の駆動回路と、受光信号処理回路とによって吸光度測定部1が構成されている。
【0034】
センサ設置盤15はヒンジによって、
図1の起立状態と、
図2の倒伏状態とをとりうるように上下方向に回動可能となっている。センサ設置盤15には、電極測定部2を構成するイオン電極16、17、pHガラス電極18及び比較電極23と、電気伝導率測定部3を構成する電気伝導率計19とが、各々の下端側が倒伏装置のセンサ設置盤15の下面から下方に突出する形態にて設置されている。
【0035】
この実施の形態では、イオン電極16は2価陽イオン選択性電極であり、イオン電極17はカルシウムイオン選択性電極である。
【0036】
倒伏状態のセンサ設置盤15の下方には、試料水容器20が配置されており、センサ設置盤15が倒伏すると、イオン電極16,17、pHガラス電極18、比較電極23、及び電気伝導率計19の下端側が容器20内の試料水W(
図1)に浸漬されるように構成されている。試料水容器20には把手20aが設けられており、この把手20aを摘んで試料水容器20を筐体Hの容器配置部21に出し入れすることが可能である。また、容器20に隣接するスペースSに各種電極の保護キャップが収納できるようになっている。
【0037】
前記吸光度測定部1の発光素子には、LED、キセノンフラッシュランプやハロゲンランプ等を用いることができる。分光器には、干渉フィルタや色ガラスフィルタ等のフィルタ、水晶や溶融石英等のプリズム、又は平面回折格子や凹面回折格子等の回折格子を用いることができる。受光素子は、例えばフォトダイオードであり、試料からの透過光を電気信号に変換する。この電気信号に基づく透過光の強度、及び試料への入射光強度から、吸光度が求まる。なお、本発明では、吸光度の代りに透過率を求めてもよい。
【0038】
予め測定対象成分の標準液の吸光度を測定して検量線が作成され、この検量線のデータがメモリ7に記憶されている。この検量線を参照することで、算出された吸光度から、試料水における測定対象成分の溶存成分濃度を求めることができる。吸光度や溶存成分濃度の算出は、吸光度測定部1の演算部(図示せず)が行ってもよいし、演算部6が行ってもよい。
【0039】
電極測定部2を構成するイオン選択性電極及び比較電極は、測定対象イオンに対して高度の選択性を持ち、イオン濃度(溶存成分濃度)に応じた電位を生じる。イオン選択性電極は、比較電極と組み合わせることによって電池を構成し、その起電力(両電極間に生じる電位差)Eが電位差計により測定される。イオン選択性電極の電極電位をE
ind、比較電極の電極電位をE
ref、試料水Wと比較電極との間の電位差をE
jとすると、起電力Eは以下の数式1のようになる。
【0040】
E=E
ind−E
ref+E
j …(1)
【0041】
ここでE
refは一定値であり、E
jは適当な塩橋を用いることで無視できる。従って、EはE
indの値のみによって定まることになり、測定対象イオン濃度は、この電池の起電力として表すことができる。予め、標準液を用いてイオン濃度と、電極間電位差との関係(検量線)を求めておくことで、電位差計の測定値から試料中の測定対象イオン濃度を求めることができる。例えば、2価陽イオン選択性電極16及び比較電極23を用いることで、全硬度(総硬度=カルシウム硬度+マグネシウム硬度)を求めることができる。また、カルシウムイオン選択性電極17及び比較電極23を用いることでカルシウム硬度を求めることができる。検量線のデータはメモリ7に記憶されている。測定対象イオン濃度の算出は、電極測定部2の演算部(図示せず)が行ってもよいし、演算部6が行ってもよい。
【0042】
電極測定部2を構成するpHガラス電極18及び比較電極23は、いわゆるガラス電極法により、試料水WのpHを測定する。具体的には、水素イオン活量に応答する特殊なガラス膜で作られたpHガラス電極18と、pHに無関係に一定の電位を示す比較電極23との間に発生した電位差を電位差計で測定し、pHを算出する。
【0043】
電気伝導率測定部3を構成する電気伝導率計19は、いわゆる交流二電極法により試料水Wの電気伝導率を求める。具体的には、交流電源を用いて1対の電極間に交流電圧を印加し、この時に流れる電流を交流電流計により測定して試料水Wの液抵抗を求め、電気伝導率を算出する。電極にはステンレス鋼や白金などが用いられる。また、電気伝導率計19には測温抵抗体等の温度センサが内蔵されている。
【0044】
セル12A〜12C及び試料水容器20に収容される試料水Wは、循環式冷却水系の循環水又は補給水である。
図4に、循環式冷却水系の水の流れの一例を示す。
図4に示すように、熱交換器61における熱交換により温度が上昇した水が冷却塔60に供給される。冷却塔60に供給された温水は充填材62を流下し、空気と向流接触して一部が蒸発する。蒸発潜熱によって冷却された水は冷却塔60の下部のピットに貯留され、ポンプ63により熱交換器61に供給される。ブロー水配管64のブロー弁(図示略)を開とすることによりブローが行われる。蒸発量とブロー水量との合計量に相当する補給水が補給水配管65からボールタップ(図示略)を介して冷却塔60に供給される。
【0045】
冷却塔60のピット内の水、ポンプ63により熱交換器61に供給される水、又は熱交換器61から冷却塔60に供給される水、好ましくはピット内の水の一部を採取して、循環水の試料水とする。また、配管65から冷却塔60に供給される補給水の一部を採取して、補給水の試料水とする。
【0046】
濃縮倍数測定装置の操作部4は、循環水モードと補給水モードとの切り替え設定を行う。循環水モードの設定時に吸光度測定部1、電極測定部2、電気伝導率測定部3により測定された値は、循環水の測定値としてメモリ7に記憶される。また、補給水モードの設定時に吸光度測定部1、電極測定部2、電気伝導率測定部3により測定された値は、補給水の測定値としてメモリ7に記憶される。
【0047】
演算部6は、循環水モード設定時の測定値及び補給水モード設定時の測定値に基づいて、循環水中の塩類濃度が補給水と比較して何倍になっているかを示す指標である濃縮倍数を算出する。例えば、同一の溶存成分について、循環水モード設定時に測定された溶存成分濃度を補給水モード設定時に測定された溶存成分濃度で除算することで、濃縮倍数が算出される。また、例えば、循環水モード設定時に測定された電気伝導率を補給水モード設定時に測定された電気伝導率で除算することでも、濃縮倍数が算出される。
【0048】
この実施の形態では、複数の濃縮倍数が取得される。即ち、セル12A〜12Cの各吸光度から求めた溶存成分濃度に基づく濃縮倍数、イオン電極測定値により求めたイオン濃度に基づく濃縮倍数、電気伝導率に基づく濃縮倍数が算出される。
【0049】
表示部5は、演算部6により算出された複数の濃縮倍数や、各測定部による測定値を表示する。メモリ7は、各測定部による測定値、検量線データ、演算部6により算出された複数の濃縮倍数などを記憶する。
【0050】
次に、本実施形態による濃縮倍数測定方法を
図5に示すフローチャートを用いて説明する。ここでは、補給水の測定を行った後に循環水の測定を行う場合について説明するが、循環水の測定を行った後に補給水の測定を行ってもよい。また、補給水については測定を行わず、過去に測定しメモリ7に記憶させている値を参照してもよい。
【0051】
(ステップS101)操作部4を用いて補給水モードを設定する。
【0052】
(ステップS102)採取した補給水を試料水容器20に収容し、筐体Hの容器配置部21に設置する。センサ設置盤15を倒伏させると、イオン電極16,17、pHガラス電極18、比較電極23、及び電気伝導率計19の下部が試料水容器20内の試料水に浸漬される。
【0053】
(ステップS103)採取した補給水をセル12A〜12Cに収容し、発色試薬と十分に混合した後、差込穴13A〜13Cに差し込んで設置する。
【0054】
(ステップS104)吸光度測定部1が吸光光度法により発色試薬が添加された試料水(この場合は補給水)の吸光度を測定する。メモリ7に記憶されている検量線を参照し、吸光度測定部1による測定値から、測定対象成分の溶存成分濃度を求める。
【0055】
また、電極測定部2が、イオン電極法により試料水(補給水)中の測定対象イオン濃度を求め、ガラス電極法により試料水(補給水)のpHを測定する。さらに、電気伝導率測定部3が交流二電極法により試料水(補給水)の電気伝導率を求める。
【0056】
(ステップS105)ステップS104における測定値や算出値がメモリ7に記憶されるとともに、表示部5に表示される。その後、センサ設置盤15を起立させ、各測定機器を純水で洗浄する。また、試料水容器20及び各セル12A〜12Cを取り出す。
【0057】
(ステップS106)操作部4を用いて補給水モードから循環水モードに設定を切り替える。
【0058】
(ステップS107)循環水系から採取した循環水を試料水容器20に収容し、容器配置部21に設置し、センサ設置盤15を倒伏させる。
【0059】
(ステップS108)循環水系から採取した循環水をセル12A〜12Cに収容し、発色試薬と十分に混合した後、差込穴13A〜13Cに差し込んで設置する。
【0060】
(ステップS109)吸光度測定部1が試料水(この場合は循環水)の吸光度を測定する。メモリ7に記憶されている検量線を参照し、吸光度測定部1による測定値から、測定対象成分の溶存成分濃度を求める。
【0061】
また、電極測定部2が試料水(循環水)中の測定対象イオン濃度を求め、ガラス電極法により試料水(循環水)のpHを測定する。さらに、電気伝導率測定部3が試料水(循環水)の電気伝導率を求める。
【0062】
(ステップS110)ステップS109における測定値や算出値がメモリ7に記憶されるとともに、表示部5に表示される。
【0063】
(ステップS111)演算部6が、循環水モード設定時に測定された溶存成分濃度や電気伝導率等、及び補給水モード設定時に測定された溶存成分濃度や電気伝導率等をメモリ7から取り出し、除算することで、複数の濃縮倍数を算出する。算出された複数の濃縮倍数は、メモリ7に記憶されるとともに、表示部5に表示される。
【0064】
このように、本実施形態では、異なる2種以上、より好ましくは3種以上の複数種類の水質特性値を測定し、複数の濃縮倍数を算出する。そのため、例えば、ある成分がスケールとして析出して、この成分の測定値に基づく濃縮倍数が誤差の大きい値となった場合でも、他の種類の水質の測定値から精度の高い濃縮倍数を得ることができる。2種の水質項目のみから濃縮倍数を算出する場合は、例えば、炭酸カルシウムスケールの生成が想定される酸消費量(pH4.8)とカルシウム硬度の組合せや、ケイ酸マグネシウムスケールの生成が想定されるシリカとマグネシウム硬度の組合せを避けるのが好ましい。この他にも、次亜塩素酸系のスライム防止剤を用いている系で塩化物イオンを用いた濃縮管理も不適である。このようにして得られた精度の高い濃縮倍数に基づいて、循環水系の濃縮管理を適切に行うことができる。
【0065】
上記実施形態では、
図1に示すように、濃縮倍数測定装置には、吸光度測定部1、電極測定部2、電気伝導率測定部3、センサ設置盤15、試料水容器20、試料水容器配置部21よりなる測定部セットが1セットのみ設けられていたが、この測定部セットを2又はそれ以上設けてもよい。この場合、試料水を入れ替えることなく、循環水の水質と補給水の水質を同時に測定することができる。また、操作部4に循環水モードと補給水モードとの設定切り替え機能は不要となる。循環水や補給水について2以上のサンプルを同時に並行して測定することもできる。このような濃縮倍数測定装置を用いた循環水及び補給水の同時測定方法を
図6に示すフローチャートを用いて説明する。
【0066】
(ステップS201)循環水系に供給される補給水を採取してセル12A〜12C、試料水容器20にそれぞれ収容し、一方の測定部セットに設置し、センサ設置盤15を倒伏させる。
【0067】
(ステップS202)循環水系から採取した循環水をセル12A〜12C、試料水容器20にそれぞれ収容し、他方の測定部セットに設置し、該他方のセットのセンサ設置盤15を倒伏させる。
【0068】
(ステップS203)各測定部セットの吸光度測定部1が各試料水の吸光度を測定する。メモリ7に記憶されている検量線を参照し、吸光度測定部1による測定値から、循環水、補給水の各々について、測定対象成分の溶存成分濃度を求める。また、電極測定部2が各試料水中の測定対象イオン濃度やpHを求める。さらに、電気伝導率測定部3が各試料水の電気伝導率を求める。
【0069】
(ステップS204)ステップS203における測定値や算出値がメモリ7に記憶されるとともに、表示部5に表示される。
【0070】
(ステップS205)演算部6が、循環水の溶存成分濃度や電気伝導率等、及び補給水の溶存成分濃度や電気伝導率等をメモリ7から取り出し、除算することで、複数の濃縮倍数を算出する。算出された複数の濃縮倍数は、メモリ7に記憶されるとともに、表示部5に表示される。
【0071】
このように、測定部セットを2以上設けることで、濃縮倍数を速やかに算出することができる。
【0072】
上記実施形態においては、吸光度測定部1、電極測定部2及び電気伝導率測定部3を設置しているが、本発明では2種以上の水質項目について測定が行われるのであれば、これらのうちのいずれか1又は2を省略した構成としてもよい。このような構成としても、複数種類の水質項目の測定データから複数の濃縮倍数を求めることができる。
【0073】
本発明では、演算部6は、吸光度測定部1により求められた酸消費量(pH4.8)、電極測定部2により求められたpH、カルシウム硬度、電気伝導率測定部3により求められた電気伝導率を用いて、循環水系のランゲリア指数(飽和指数)を算出してもよい。ランゲリア指数は、循環水のpHと炭酸カルシウムの飽和pH(pHs)との差であり、水系における配管や熱交換器等の金属材料の腐食性を測る指標となる。pHsは、簡便計算法(ノーデル法)により、以下の数式2で求められる。
【0074】
pHs=(9.3+A値+B値)−(C値+D値) …(2)
【0075】
ここで、A値は、蒸発残留物の濃度により定まる値であり、電気伝導率から求まる。B値は循環水の水温から定まる値である。C値は、カルシウム硬度により定まる値である。D値は、酸消費量(pH4.8)により定まる値である。
【0076】
また、演算部6は、循環水のpHと炭酸カルシウムの飽和pH(pHs)とを用いて、以下の数式3により、水の腐食性とスケール生成の傾向の指標となるリズナー指数RSI(Ryznar Stability Index)を求めることができる。
RSI=2pHs−pH …(3)
RSIが6未満のとき水はスケール生成傾向にあることを示し、RSIが6以上7未満のとき水は安定状態にあることを示し、RSIが7以上のとき水は腐食傾向にあることを示す。
【0077】
また、演算部6は、吸光度測定部1により求められた硫酸イオン濃度、酸消費量(pH4.8)、及び酸消費量(pH8.3)を用いて、銅の孔食発生の指標となるマットソン比を求めることができる。マットソン比は水中の炭酸水素イオン濃度と硫酸イオン濃度の比([HCO
3−]/[SO
42−])であり、炭酸水素イオン濃度HCO
3−(mgHCO
3−/L)は以下の数式4により求めることができる。
HCO
3−(mgHCO
3−/L)=1.22×(酸消費量(pH4.8)−2×酸消費量(pH8.3)) …(4)
マットソン比が1以下で、残留塩素が存在するとき、60℃程度の温水で、銅に孔食が生じやすいと判断される(出展:JRA−GL02(1994) (社)日本冷凍空調工業会)。
【0078】
このように、本実施形態に係る濃縮倍数測定装置によれば、濃縮倍数を算出する過程で測定される値を用いて、ランゲリア指数、リズナー指数、マットソン比などの水質指標値を容易に算出することができる。
【0079】
濃縮倍数測定装置により測定・算出された値はメモリ7に記憶されるため、これらの値を用いて表示部5にトレンド表示してもよい。
【0080】
本発明では、濃縮倍数測定装置に通信部を設け、濃縮倍数測定装置により測定・算出された値をメモリ7から取り出し、外部サーバへ出力できるようにしてもよい。この通信部が有線/無線ネットワークを介してサーバへデータを送信してもよいし、通信部から有線/無線ネットワークを介してデータを受信したスマートフォン等の携帯端末がサーバへデータを送信してもよい。
【0081】
上記実施の形態では、表示部5で循環水、補給水の表示と測定結果の表示とを行うようにしているが、各表示部を別々に設けてもよい。この場合、循環水、補給水の表示はランプで行ってもよい。また、音声で表示を行ってもよい。
【実施例】
【0082】
[実施例1]
図1,2に示す濃縮倍数測定装置を用いて、モデルプラントに設置された循環水系の循環水及び補給水について、電気伝導率、カルシウム硬度、酸消費量(pH4.8)及びシリカ濃度を測定し、さらにそれぞれの測定値から濃縮倍数を算出した。なお、各セル12A〜12Cの容積は4mL、酸消費量(pH4.8)測定用発色試薬としてブロモクレゾールグリーン、シリカ測定用発色試薬としてモリブデン酸アンモニウムを用いた。測定結果を以下の表1に示す。
【0083】
【表1】
【0084】
表1の通り、このモデルプラントでは、循環水および補給水のカルシウム硬度、酸消費量(pH4.8)、シリカ濃度のそれぞれから算出した濃縮倍数が、5.2〜5.3倍と概ね同じであり、これらの値を平均して濃縮倍数を5.3倍と判断した。
【0085】
一方、電気伝導率から算出した濃縮倍数は5.8倍と、溶存成分濃度から算出した濃縮倍数と比較すると、やや大きいものとなっていた。これは、薬品由来の電気伝導率の上昇があったためと考えられる。従って、このモデルプラントでは、溶存成分濃度に基づいて濃縮倍数を算出することが適切であることが認められた。
【0086】
また、このモデルプラントでは、熱交換器の循環水出口温度が40℃、水質分析時の循環水のpHが8.7であったことから、ランゲリア指数が1.0と算出された。このことから、このモデルプラントの循環水系では、炭酸カルシウムの析出が起こりやすく、水の腐食傾向は小さいことが現場にて確認できた。
【0087】
なお、この濃縮倍数測定装置を使用せずにランゲリア指数を算出する場合には、サンプル水の持ち帰り、分析(場合により水質分析会社への送付)、個別数値からのランゲリア指数の算出などの工程が必要となり、サンプルの採水からランゲリア指数の算出までに数日〜1週間程度の日数を有する。そのため、算出されたランゲリア指数と、算出時点での実際のランゲリア指数とが異なり、循環水系を適切に管理できない。