特許第5896087号(P5896087)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5896087ジアルキルポリスルフィドの製造方法、ジアルキルポリスルフィド、極圧添加剤及び潤滑流体組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5896087
(24)【登録日】2016年3月11日
(45)【発行日】2016年3月30日
(54)【発明の名称】ジアルキルポリスルフィドの製造方法、ジアルキルポリスルフィド、極圧添加剤及び潤滑流体組成物
(51)【国際特許分類】
   C07C 319/24 20060101AFI20160317BHJP
   C07C 321/14 20060101ALI20160317BHJP
   C07C 319/28 20060101ALI20160317BHJP
   C10M 135/22 20060101ALN20160317BHJP
【FI】
   C07C319/24
   C07C321/14
   C07C319/28
   !C10M135/22
【請求項の数】11
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-539148(P2015-539148)
(86)(22)【出願日】2014年9月18日
(86)【国際出願番号】JP2014074666
(87)【国際公開番号】WO2015046008
(87)【国際公開日】20150402
【審査請求日】2015年9月7日
(31)【優先権主張番号】特願2013-196903(P2013-196903)
(32)【優先日】2013年9月24日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124970
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 通洋
(72)【発明者】
【氏名】射場 孝文
(72)【発明者】
【氏名】坂田 浩
【審査官】 前田 憲彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−354644(JP,A)
【文献】 特開2006−063048(JP,A)
【文献】 特開平11−071343(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 319/00
C07C 321/00
C10M 135/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
C=CHR・・・・(1)
(式中、R、Rは、それぞれアルキル基で、Rは水素原子またはアルキル基で、R、R及びRの炭素原子数の合計は2〜20である。)で表されるオレフィン化合物(a)と硫黄とを硫化水素の存在下で反応させて粗ジアルキルポリスルフィド(A)を得る第一工程と、前記粗ジアルキルポリスルフィド(A)とアルカリ金属の硫化物とをアルコールを含む溶媒中で反応させて、該粗ジアルキルポリスルフィド(A)中の硫黄原子数を減少させる第二工程とを含み、下記一般式(2)
【化1】
(式中、R、Rは、それぞれアルキル基で、Rは水素原子またはアルキル基で、一つのRと一つのRと一つのRの炭素原子数の合計は2〜20である。nは1〜6の整数である。)で表され、該一般式(2)中のnが2である化合物の含有率と一般式(2)中のnが3である化合物の含有率の合計が、一般式(2)で表される化合物の全量に対して80〜100質量%であるジアルキルポリスルフィドを得ることを特徴とするジアルキルポリスルフィドの製造方法。
【請求項2】
前記一般式(1)中のRとRの炭素原子数の合計が2〜14で、Rが水素原子である請求項1記載のジアルキルポリスルフィドの製造方法。
【請求項3】
前記オレフィン化合物(a)が、ジイソブチレンである請求項1記載のジアルキルポリスルフィドの製造方法。
【請求項4】
前記アルコールがエチレングリコールである請求項1記載のジアルキルポリスルフィドの製造方法。
【請求項5】
前記アルコールの含有量が、溶媒100質量部中45〜75質量部である請求項1記載のジアルキルポリスルフィドの製造方法。
【請求項6】
前記第一工程を塩基性化合物の存在下で行う請求項1記載のジアルキルポリスルフィドの製造方法。
【請求項7】
前記塩基性化合物が水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムである請求項6記載のジアルキルポリスルフィドの製造方法。
【請求項8】
前記第一工程において、前記一般式(1)で表されるオレフィン化合物(a)と硫黄との反応を60〜130℃で5〜48時間行う請求項1記載のジアルキルポリスルフィドの製造方法。
【請求項9】
前記アルカリ金属の硫化物が硫化ナトリウムである請求項1記載のジアルキルポリスルフィドの製造方法。
【請求項10】
前記第二工程をアルカリ金属の水酸化物の存在下で行う請求項1記載のジアルキルポリスルフィドの製造方法。
【請求項11】
前記アルカリ金属の水酸化物が水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムである請求項10記載のジアルキルポリスルフィドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属表面に効果的に金属硫化物の被膜を形成し、且つ、金属表面の腐食を起こしにくい極圧添加剤として好適に使用できるジアルキルポリスルフィドを効率良く製造できる製造方法に関する、また、該ジアルキルポリスルフィドを含む極圧添加剤とこれを含む潤滑流体組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から切削油、塑性加工油、ギア油、摺動面油、グリースなどの潤滑流体組成物には、金属同士の摩擦、磨耗減少や焼き付きを防止するために極圧添加剤が使用されている。極圧添加剤としては、例えば、塩素化パラフィン、塩素化脂肪酸エステルなどの含塩素有機化合物類;硫化油脂類、硫化オレフィン類を含むジアルキルポリスルフィドなどの含硫黄有機化合物類等が挙げられ、中でも極圧添加剤の硫黄含有量を高くすることが出来る上、基油への溶解性が高く、より多くの硫黄分を基油に添加できるとの理由からジアルキルポリスルフィドが広く用いられている。
【0003】
極圧添加剤として用いるジアルキルポリスルフィドには、硫黄原子による金属表面の腐食を起こすことなく、金属硫化物の被膜を金属表面に形成する性能が求められる。前記ジアルキルポリスルフィドとしては、例えば、ジアルキルモノスルフィド、ジアルキルジスルフィド、ジアルキルトリスルフィド、ジアルキルテトラスルフィド等が挙げられる。一般に、ジアルキルスルフィドの中でも、ジアルキルモノスルフィドやジアルキルジスルフィドは、1分子中の硫黄原子数が少なく金属との反応性が悪い為、効率良く金属硫化物の被膜を金属表面に形成することが出来ない。
【0004】
硫黄原子による金属表面の腐食を起こしにくく、金属硫化物の被膜を金属表面に良好に形成する最も理想的なジアルキルポリスルフィドは、ジアルキルトリスルフィドであることが知られている。ジアルキルトリスルフィドを得るには、原料として1−オレフィンの2位の位置にある炭素原子にアルキル基が二つ結合したオレフィンを用いることが知られている。具体的には、ジイソブチレンと液状硫黄とを硫化水素の存在下で反応させる方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)
【0005】
しかしながら、前記特許文献1に記載された方法では、ジアルキルトリスルフィドと同量程度のジアルキルテトラスルフィドとが混合した混合物の状態でジアルキルポリスルフィドが得られる。このジアルキルテトラスルフィドは金属との反応性が良好過ぎて金属表面の腐食を引き起こしてしまう。その為、金属表面の腐食を起こすことなく、金属硫化物の被膜を金属表面に良好に形成する最も理想的なジアルキルトリスルフィドを高含有率で含むジアルキルポリスルフィドの製造方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−239250号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、金属表面に効果的に金属硫化物の被膜を形成し、且つ、金属表面の腐食を起こしにくく、極圧添加剤として好適に使用できるジアルキルポリスルフィドの製造方法を提供することにある。また、金属表面に効果的に金属硫化物の被膜を形成し、且つ、金属表面の腐食を起こしにくく、極圧添加剤として好適に使用できるジアルキルポリスルフィドと、該ジアルキルポリスルフィドを含む極圧添加剤と、これを含む潤滑流体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、1−オレフィンの2位の位置にある炭素原子にアルキル基が二つ結合したオレフィンと硫黄とを、硫化水素の存在下で反応させて粗ジアルキルポリスルフィドを得た後、得られる粗ジアルキルポリスルフィドとアルカリ金属の硫化物とをアルコールを含む溶媒中で反応させることにより、極圧添加剤として理想的なジアルキルトリスルフィドを高効率で含むジアルキルポリスルフィドの混合物が得られること、特定構造のアルキル基を有するジアルキルポリスルフィドの混合物において、ジアルキルジスルフィドとジアルキルトリスルフィドの含有率が特定範囲のジアルキルポリスルフィドが、金属表面に効果的に金属硫化物の被膜を形成し、金属表面の腐食を起こしにくく、極圧添加剤として好適に使用できること等を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記一般式(1)
C=CHR・・・・(1)
(式中、R、Rは、それぞれアルキル基で、Rは水素原子またはアルキル基で、R、R及びRの炭素原子数の合計は2〜20である。)で表されるオレフィン化合物(a)と硫黄とを硫化水素の存在下で反応させて粗ジアルキルポリスルフィド(A)を得る第一工程と、前記粗ジアルキルポリスルフィド(A)とアルカリ金属の硫化物とをアルコールを含む溶媒中で反応させて、該粗ジアルキルポリスルフィド(A)中の硫黄原子数を減少させる第二工程とを含み、下記一般式(2)
【化2】
(式中、R、Rは、それぞれアルキル基で、Rは水素原子またはアルキル基で、一つのRと一つのRと一つのRの炭素原子数の合計は2〜20である。nは1〜6の整数である。)で表され、該一般式(2)中のnが2である化合物の含有率と一般式(2)中のnが3である化合物の含有率の合計が、一般式(2)で表される化合物の全量に対して80〜100質量%であるジアルキルポリスルフィドを得ることを特徴とするジアルキルポリスルフィドの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法により金属表面に効果的に金属硫化物の被膜を形成し、且つ、金属表面の腐食を起こしにくく、極圧添加剤として好適に使用できるジアルキルポリスルフィドを効率的に得ることができる。また、本発明のジアルキルポリスルフィドは、金属表面に効果的に金属硫化物の被膜を形成し、金属表面の腐食を起こしにくく、極圧添加剤として好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の製造方法は、下記の工程を含むことを特徴とする。
第一工程:下記一般式(1)
C=CHR・・・・(1)
(式中、R、Rは、それぞれアルキル基で、Rは水素原子またはアルキル基で、R、R及びRの炭素原子数の合計は2〜20である。)で表されるオレフィン化合物(a)と硫黄とを硫化水素の存在下で反応させて粗ジアルキルポリスルフィド(A)を得る工程。
第二工程:前記粗ジアルキルポリスルフィド(A)とアルカリ金属の硫化物とをアルコールを含む溶媒中で反応させて、該粗ジアルキルポリスルフィド(A)中の硫黄原子数を減少させる工程。
以下、各工程について、詳細に説明する。
【0016】
前記第一工程で用いるオレフィン化合物(a)は、前記の通り、一般式(1)で表される構造を有する。オレフィン化合物(a)の中でも、RとRの炭素原子数の合計が2〜18であるオレフィン化合物が、入手しやすいこと、最終生成物であるジアルキルポリスルフィドの基油への溶解性が良好で極圧添加剤として好ましく使用できることから好ましく、RとRの炭素原子数の合計が2〜14であるオレフィン化合物がより好ましい。
【0017】
また、オレフィン化合物(a)の中でも、Rとして水素原子を有するオレフィン化合物が、入手しやすいこと、最終生成物であるジアルキルポリスルフィドの基油への溶解性が良好で極圧添加剤として好ましく使用できることから好ましい。
【0018】
従って、一般式(1)で表される構造を有するオレフィン化合物(a)の中でも、RとRの炭素原子数の合計が2〜18で、且つ、Rが水素原子であるオレフィン化合物が好ましく、RとRの炭素原子数の合計が2〜14で、且つ、Rが水素原子であるオレフィン化合物がより好ましい。
【0019】
前記本発明で用いるオレフィン化合物(a)としては、例えば、ジイソブチレン、イソブチレン、3−メチルペンテン、4−メチルヘプテン、5−メチルウンデセン、3,6−ジメチルヘキサンデセン等が挙げられる。中でも、硫黄含有率が高く、且つ、臭気も少ないジアルキルポリスルフィドが得られることからジイソブチレンが好ましい。
【0020】
ここで、本発明の製造方法において、本発明の効果を損なわない範囲でオレフィン化合物(a)以外のオレフィン化合物もオレフィン化合物(a)と併用することができる。このようなオレフィン化合物としては、例えば、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン或いはこれらの混合物等が挙げられる。
【0021】
本発明で用いる硫黄としては、特に限定されるものではなく、例えば、小塊状、フレーク状、粉末状の固形状態であっても、溶融状態(液体)であっても良い。中でも、大スケールでの製造での仕込み作業が容易であるとの理由から溶融状態の硫黄が好ましい。
【0022】
前記硫化水素(a3)としても、特に限定されるものではないが、純度が高い本発明のジアルキルポリスルフィドが得られる点から、純度99モル%以上のものを用いることが好ましい。
【0023】
前記第一工程においては、効率よく容易に粗ジアルキルポリスルフィド(A)が得られることから、オレフィン化合物(a)と硫黄を硫化水素の存在下で反応させる際は、塩基性化合物(触媒)の存在下で反応させることが好ましい。前記塩基性化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;脂肪族アミン、芳香族アミン等のアミン系化合物のいずれでも良い。例えば、アミン系化合物の例としてはブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、およびそれらの各種異性体、オクチルアミン、ジオクチルアミン、およびそれらの各種異性体、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、およびそれらの各種異性体、メチレンジアミン、エチレンジアミン、1,2−ジアミノプロパン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン等、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、トリエチレンテトラミン、トリプロピレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、テトラプロピレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ノナエチレンデカミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン等、テトラ(アミノメチル)メタン、テトラキス(2−アミノエチルアミノメチル)メタン、1,3−ビス(2’−アミノエチルアミノ)プロパン、トリエチレン−ビス(トリメチレン)ヘキサミン、ビス(3−アミノエチル)アミン、ビスヘキサメチレントリアミン等、1,4−シクロヘキサンジアミン、4,4’−メチレンビスシクロヘキシルアミン、4,4’−イソプロピリデンビスシクロヘキシルアミン、ノルボルナジアミン、ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、イソホロンジアミン、メンセンジアミン等、ビス(アミノアルキル)ベンゼン、ビス(アミノアルキル)ナフタレン、ビス(シアノエチル)ジエチレントリアミン、o−キシリレンジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、フェニレンジアミン、ナフチレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジエチルフェニルメタン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、2,2’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,4’−ジアミノビフェニル、2,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジメトキシ−4,4’−ジアミノビフェニル、ビス(アミノメチル)ナフタレン、ビス(アミノエチル)ナフタレン等、N−メチルピペラジン、モルホリン、1,4−ビス−(8−アミノプロピル)−ピペラジン、ピペラジン−1,4−ジアザシクロヘプタン、1−(2’−アミノエチルピペラジン)、1−[2’−(2”−アミノエチルアミノ)エチル]ピペラジン、1,11−ジアザシクロエイコサン、1,15−ジアザシクロオクタコサン等が挙げられ、これらは単独でも2種以上の混合物としても使用することができる。
【0024】
前記塩基性化合物の中でも、粗ジアルキルポリスルフィド(A)の収率が高く、反応後に蒸留や通気などの簡便な手法で反応系から分離除去が可能なことから、アルカリ金属水酸化物が好ましく、中でも水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムがより好ましく、水酸化カリウムが更に好ましい。
【0025】
前記塩基性化合物の使用量としては、所望とする反応速度によって適宜選択するものであるが、反応性を悪化させない範囲においてより少量であることが好ましく、オレフィン化合物(a)と硫黄との合計質量に対して0.05〜1.0質量%が好ましく、0.1〜0.5質量%がより好ましい。
【0026】
第一工程において、オレフィン化合物(a)と硫黄との反応は、塩基性溶媒の存在下で行うこともできる。塩基性溶媒の存在下で行うことにより、オレフィン化合物(a)と硫黄との反応効率の向上が期待できる。前記塩基性溶媒としては、例えば、環状アミド類、直鎖状アミド類、アミン類等が挙げられる。
【0027】
前記環状アミド類としては、例えば、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、N,N−ジメチルプロピレン尿素、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。前記直鎖状アミド類としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジエチルホルムアミド、テトラメチル尿素等が挙げられる。前記アミン類としては、例えば、トリエチルアミン、ピリジン、トリブチルアミン等が挙げられる。
【0028】
ここで、第一工程において、塩基性溶媒を使用した場合、前記塩基性化合物(触媒)を反応系に添加せずとも、反応効率の向上はある程度期待できるが、より反応効率を向上させるためには、塩基性溶媒を使用した場合でも、塩基性化合物(触媒)を反応系に添加することが好ましい。
【0029】
前記第一工程において、オレフィン化合物(a)と硫黄の使用割合としては、オレフィン(a)1モルあたり硫黄0.5〜2モルが、粗ジアルキルポリスルフィド(A)中のテトラスルフィド以上のポリスルフィドの含有率を下げられることから好ましく、0.7〜1.8モルがより好ましい。
【0030】
また、前記第一工程において、オレフィン化合物(a)と硫化水素の使用割合としては、オレフィン(a)1モルあたり硫化水素0.3〜0.8モルが、第一工程における反応系中の未反応オレフィン量を少なくできるとの理由から好ましく、0.4〜0.7モルがより好ましい。
【0031】
第一工程において、オレフィン化合物(a)と硫黄とを硫化水素の存在下で反応させる際の反応温度としては、例えば、50〜150℃であり、好ましくは、60〜130℃である。また、反応させる時間は1〜72時間が好ましく、5〜48時間がより好ましい。
【0032】
前記第二工程では、前記第一工程で得られた粗ジアルキルポリスルフィド(A)とアルカリ金属の硫化物とをアルコールを含む溶媒中で反応させて、該粗ジアルキルポリスルフィド(A)中の硫黄原子数を減少させる工程である。アルコールを含む溶媒中で反応させることにより、粗ジアルキルポリスルフィド(A)とアルカリ金属の硫化物との反応性を向上させ、ジアルキルトリスルフィドを高い含有率で含むジアルキルポリスルフィドをより効率的に得ることができる。
【0033】
前記アルカリ金属の硫化物としては、例えば、硫化ナトリウム、硫化カリウム、多硫化ナトリウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム等が挙げられる。中でも、粗ジアルキルポリスルフィド(A)中の硫黄鎖から硫黄減原子数を減少さる効果が高く、効率よく本発明の最終目的物であるジアルキルトリスルフィドを多く含むジアルキルポリスルフィド(混合物)を得られることから硫化ナトリウムが好ましい。
【0034】
第二工程において、アルカリ金属の硫化物の使用量としては、粗ジアルキルポリスルフィド(A)中の硫黄鎖から硫黄減原子数を減少させる効果が高いことから粗ジアルキルポリスルフィド(A)100質量部に対して5〜50質量部が好ましく、10〜45質量部がより好ましい。
【0035】
前記アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、iso−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−ペンタノール、iso−ペンタノール、2−メチルブタノール、sec−ペンタノール、tert−ペンタノール、3−メトキシブタノール、n−ヘキサノール、2−メチルペンタノール、sec−ヘキサノール、2−エチルブタノール、sec−ヘプタノール、3−ヘプタノール、n−オクタノール、2−エチルヘキサノール、sec−オクタノール、n−ノニルアルコール、2,6−ジメチル−4−ヘプタノール、n−デカノール、sec−ウンデシルアルコール、トリメチルノニルアルコール、sec−テトラデシルアルコール、sec−ヘプタデシルアルコール、フルフリルアルコール、フェノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、3,3,5−トリメチルシクロヘキサノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコール等のモノアルコール;
【0036】
エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、2,4−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2,5−ヘキサンジオール、2,4−ヘプタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール等の多価アルコール;
【0037】
エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル等の多価アルコール部分エーテル等が挙げられる。これらのアルコールは単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0038】
アルコールを含む溶媒中のアルコールの含有量は、アルカリ金属の硫化物が溶解しやすく、且つ、粗ジアルキルポリスルフィド(A)と硫化物の反応性も良好なことから溶媒100質量部中45〜75質量部が好ましく、50〜60質量部がより好ましい。
【0039】
アルコールの中でも粗ジアルキルポリスルフィド(A)とアルカリ金属の硫化物との反応が迅速に進み、本発明の最終目的物であるジアルキルトリスルフィドを多く含むジアルキルポリスルフィド(混合物)を効率よく得ることができることから多価アルコール類が好ましく、中でも、エチレングリコールがより好ましい。
【0040】
アルコールを含む溶媒中には、本発明の効果を損なわない範囲でアルコール以外の溶媒を含有させることができる。アルコール以外の溶媒としては、例えば、例えば水、ケトン系溶剤、環状アミド類、直鎖状アミド類等が挙げられる。
【0041】
前記ケトン系溶媒としては、例えば、アセトン等が挙げられる。前記環状アミド類としては、例えば、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、N,N−ジメチルプロピレン尿素、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。前記直鎖状アミド類としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジエチルホルムアミド、テトラメチル尿素等が挙げられる。
【0042】
また、ジメチルスルホキサイド等の極性溶媒も本発明の効果を損なわない範囲で使用する事ができる。
【0043】
前記溶媒の使用量は、アルカリ金属の硫化物の質量に対して50〜300質量%が好ましく、80〜250質量%がより好ましい。
【0044】
尚、前記第一工程において、溶媒存在下でオレフィン化合物(a)と硫黄とを硫化水素の存在下で反応させて粗ジアルキルポリスルフィド(A)を得た場合、種々の方法、例えば蒸留や水洗等の方法にて粗ジアルキルポリスルフィド(A)を回収し、改めて、第二工程で、アルコールを含む溶媒中で反応を進ませることもできる。
【0045】
第二工程における反応系の温度は、最終生成物(ジアルキルポリスルフィド)中のジアルキルトリスルフィドの含有量を効率的に上げることができると共に分解等の副反応を抑制するとの理由から40〜120℃が好ましく、50〜100℃がより好ましい。また、反応時間は通常1〜36時間であり、より好ましくは5〜24時間である。
【0046】
第二工程において、反応系にアルカリ金属の水酸化物を含有させることにより、前記第一工程で副生成物として生成されるメルカプタン類をアルコール層に抽出させて、その結果、最終生成物として臭気の少ないジアルキルポリスルフィドを得る事ができる。アルカリ金属の水酸化物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウムおよび水酸化セシウム等が挙げられる。中でも、アルコール系溶媒への溶解性が高いことから水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。
【0047】
前記アルカリ金属の水酸化物の使用量は、アルコールを含む溶媒への溶解性を維持できることから粗ジアルキルポリスルフィド(A)100質量部に対して0.5〜20質量部が好ましく、1〜10質量部がより好ましい。
【0048】
第二工程終了後、そのまま反応液を極圧添加剤として使用する事もできるが、常法により分液し固形分をろ別、または揮発分を留出分離し、最終生成物であるジアルキルポリスルフィドを得ても良い。
【0049】
本発明の製造方法により得られるジアルキルポリスルフィドは、硫黄原子数が異なるジアルキルポリスルフィドの混合物となる。硫黄原子数が異なるジアルキルポリスルフィドのそれぞれの含有率は高速液体クロマトグラフ(以下、「HPLC」と略記する。)測定により得られるチャートのピーク面積により求めることができる。なお、HPLCの測定条件は以下の通りである。
【0050】
[HPLC測定条件]
測定装置:株式会社島津製作所製LC−10A
カラム:INTERSIL−C8 4.5μm 250mm×4.6mm
検出器:UV210nm
溶出液:アセトニトリル/水(体積比)=85/15、流量 1ml/min
【0051】
本発明の製造方法で得られるジアルキルポリスルフィド中の活性硫黄の量は、総硫黄量を基準として0.1〜30質量%が、金属表面に効果的に金属硫化物の被膜を形成し、且つ、金属表面の腐食を起こしにくいジアルキルポリスルフィドとなることから好ましく、総硫黄量を基準として0.5〜20質量%がより好ましい。ここで、本発明において活性硫黄の量は、ASTM−D1662に定められる方法にて求めた値である。
【0052】
また、本発明の製造方法で得られるジアルキルポリスルフィドの50%熱分解温度は、例えば、200〜300℃である。この熱分解温度は、本発明の製造方法で得られるジアルキルポリスルフィドが有するアルキル基の鎖長が長くなるほど上昇する。従って、異なるアルキル基の鎖長を有するジアルキルポリスルフィドを混合することにより、所望に応じた熱分解温度を有するジアルキルポリスルフィド(混合物)を得ることができる。
【0053】
本発明のジアルキルポリスルフィドは、下記一般式(2)
【0054】
【化2】
(式中、R、Rは、それぞれアルキル基で、Rは水素原子またはアルキル基で、一つのRと一つのRと一つのRの炭素原子数の合計は2〜20である。nは1〜6の整数である。)で表され、該一般式(2)中のnが2である化合物の含有率と一般式(2)中のnが3である化合物の含有率の合計が、一般式(2)で表される化合物の全量に対して80〜100質量%であることを特徴とする。nが2である化合物の含有率とnが3である化合物の合計の含有率をこの範囲に設定することにより、金属表面に効果的に金属硫化物の被膜を形成し、金属表面の腐食を起こしにくく、極圧添加剤として好適に使用できるジアルキルポリスルフィドとなる。前記含有率は、金属表面の腐食を起こしにくく、また、効果的に金属硫化物の被膜を金属表面に形成できることから85〜100質量%が好ましく、85〜95質量%がより好ましく、90〜95質量%が更に好ましい。
【0055】
前記一般式(2)の中でも、RとRの炭素原子数の合計が2〜18であるジアルキルポリスルフィドが基油への溶解性が良好で極圧添加剤として好ましく使用できることから好ましく、RとRの炭素原子数の合計が2〜14であるジアルキルポリスルフィドがより好ましい。
【0056】
また、一般式(2)の中でも、Rが水素原子であるジアルキルポリスルフィドが基油への溶解性が良好で極圧添加剤として好ましく使用できることから好ましくい。
【0057】
従って、一般式(2)で表される構造を有するジアルキルポリスルフィドの中でも、RとRの炭素原子数の合計が2〜18で、且つ、Rが水素原子であるジアルキルポリスルフィドが好ましく、RとRの炭素原子数の合計が2〜14で、且つ、Rが水素原子であるジアルキルポリスルフィドがより好ましい。
【0058】
本発明のジアルキルポリスルフィドは、例えば、本発明のジアルキルポリスルフィドの製造方法により容易に得ることができる。
【0059】
本発明の極圧添加剤は、前述した本発明のジアルキルポリスルフィド〔本発明において、これを「ジアルキルポリスルフィド(I)と略記することがある」〕を含有することを特徴とする。本発明の極圧添加剤は、前記ジアルキルポリスルフィド(I)のみからなっていても良いし、ジアルキルポリスルフィド(I)以外のジアルキルポリスルフィドが含まれていても良い。前記ジアルキルポリスルフィドとしては、例えば、下記一般式(3)
【0060】
【化3】
(式中R、Rはそれぞれ水素原子またはアルキル基で、一つのRと一つのRの炭素原子数の合計は4〜20である。nは1〜6の整数である。)で表され、該一般式(3)中のnが2である化合物の含有率と一般式(3)中のnが3である化合物の含有率の合計が、一般式(3)で表される化合物の全量に対して80〜100質量%であるジアルキルポリスルフィド〔本発明において、これを「ジアルキルポリスルフィド(II)」と略記することがある。〕を好ましく挙げることができる。以下に、ジアルキルポリスルフィド(II)について、詳細に説明する。
【0061】
ジアルキルポリスルフィド(II)の中でも、前記一般式(3)においてnが2である化合物の含有率と一般式(3)中のnが3である化合物の含有率の合計が、一般式(3)で表される化合物の全量に対して80〜100質量%のものが、金属表面の腐食を起こしにくく、また、少量の添加でも効果的に金属硫化物の被膜を金属表面に形成でき、しかも、容易に得られることから好ましく、85〜95質量%がより好ましく、90〜95質量%が更に好ましい。
【0062】
前記一般式(3)において、R、Rとしては、例えば、直鎖状アルキル基、分岐状アルキル基等が挙げられる。前記直鎖状アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−オクチル基、n−デシル基、n−ドデシル基、n−ヘキサデシル基、n−オクタデシル基等が挙げられる。また、前記分岐状アルキル基としては、例えば、3−メチルペンチル基、4−メチルヘプチル基、5−メチルウンデシル基、3,6−ジメチルヘキサンデシル基等が挙げられる。
【0063】
ジアルキルポリスルフィド(II)の中でも高硫黄含有量を維持でき良好に金属硫化膜を金属表面上に形成できること、臭気原因となる低分子量メルカプタン類が少なくなることから一つのRと一つのRの炭素原子数の合計は4〜16のものが好ましく、4〜10のものがより好ましい。
【0064】
前記ジアルキルポリスルフィド(II)中の活性硫黄の量は、総硫黄量を基準として0.1〜30質量%が、金属表面に効果的に金属硫化物の被膜を形成し、且つ、金属表面の腐食を起こしにくいジアルキルポリスルフィドとなることから好ましく、総硫黄量を基準として0.5〜20質量%がより好ましい。ここで、本発明において活性硫黄の量は、ASTM−D1662に定められる方法にて求めた値である。
【0065】
また、前記ジアルキルポリスルフィド(II)の50%熱分解温度は、例えば、200〜300℃である。この熱分解温度は、前記一般式(2)におけるR、Rのアルキル基の鎖長が長くなるほど上昇する。従って、異なるアルキル基の鎖長を有するジアルキルポリスルフィドを混合することにより、所望に応じた熱分解温度を有するジアルキルポリスルフィド(混合物)を得ることができる。
【0066】
前記ジアルキルポリスルフィド(II)は、例えば、下記の工程を含む本発明の製造方法により好適に得ることができる。
【0067】
工程1:下記一般式(4)
HC=CHR・・・・(4)
(式中R、Rは、それぞれ水素原子またはアルキル基であり、R及びRの炭素原子数の合計は4〜20である。)で表されるオレフィン化合物(b)と硫黄とを硫化水素の存在下で反応させて粗ジアルキルポリスルフィド(B)を得る工程
工程2:前記粗ジアルキルポリスルフィド(B)と、アルカリ金属の硫化物とを反応させて、該粗ジアルキルポリスルフィド(B)中の硫黄原子数を減少させる工程
以下、各工程について、詳細に説明する。
【0068】
前記工程1で用いるオレフィン化合物(b)は、前記の通り、一般式(4)で表される構造を有する。前記ジアルキルポリスルフィド(II)の中でも、オレフィン化合物(b)としてRとRの炭素原子数の合計が4〜16のオレフィン化合物を用いることにより得られるものが、高硫黄含有量を維持でき良好に金属硫化膜を金属表面上に形成でき、臭気原因となる低分子量メルカプタン類の含有量が少ないジアルキルポリスルフィドとなることから好ましく、RとRの炭素原子数の合計が4〜10のオレフィン化合物を用いることにより得られるものがより好ましい。更に、オレフィン化合物(b)としてRが炭素原子数4〜16のアルキル基であり、Rが水素原子であるオレフィン化合物を用いて得られるものが、反応性に優れ、効率よく前記ジアルキルポリスルフィド(II)を得ることができることから好ましく、Rが炭素原子数4〜10のアルキル基であり、Rが水素原子であるオレフィン化合物を用いて得られるものがより好ましい。
【0069】
オレフィン化合物(b)としては、例えば、直鎖状の1−オレフィンや末端以外に分岐構造を有する分岐状の1−オレフィン等が挙げられる。前記直鎖状の1−オレフィンとしては、例えば、例えば、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン或いはその混合物等が挙げられる。
【0070】
前記オレフィン化合物(b)の中でも、工業的に入手が容易で、硫黄との反応が容易に進行するとの理由から直鎖状の1−オレフィンが好ましい。直鎖状の1−オレフィンの中でも、流動点が低く、常温で液体状態を維持できるとの理由から炭素原子数6〜18のオレフィン化合物が好ましく、中でも炭素原子数6〜12のオレフィン化合物がより好ましい。
【0071】
前記硫黄としては、例えば、前記本発明の製造方法で用いることができる硫黄が使用できる。中でも、大スケールでの製造での仕込み作業が容易であるとの理由から溶融状態の硫黄が好ましい。
【0072】
前記硫化水素としても、特に限定されるものではないが、ジアルキルポリスルフィド(II)の中でも純度が高いジアルキルポリスルフィドが得られる点から、純度99モル%以上のものを用いることが好ましい。
【0073】
前記工程1においては、効率良くジアルキルポリスルフィド(II)が得られることから、粗ジアルキルポリスルフィド(B)を得る際に、オレフィン化合物(b)と硫黄を硫化水素の存在下で反応させる際は、塩基性化合物(触媒)の存在下で反応させることが好ましい。前記塩基性触媒としては、例えば、本発明の製造方法の第一工程で用いることができる塩基性化合物を用いることができる。前記塩基性化合物の中でも、粗ジアルキルポリスルフィド(B)の収率が高く、反応後に蒸留や通気などの簡便な手法で反応系から分離除去が可能で、結果的に効率良くジアルキルポリスルフィド(II)が得られることから、アルカリ金属水酸化物が好ましく、中でも水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムがより好ましく、水酸化カリウムがより好ましい。
【0074】
前記塩基性化合物の使用量としては、所望とする反応速度によって適宜選択するものであるが、反応性を悪化させない範囲においてより少量であることが好ましく、オレフィン化合物(b)と硫黄との合計質量に対して0.05〜1.0質量%が好ましく、0.1〜0.5質量%がより好ましい。
【0075】
前記工程1は、得られる粗ジアルキルポリスルフィド(B)中の硫黄鎖を短くでき、前記ジアルキルポリスルフィド(II)を効率よく製造することができることから塩基性溶媒の存在下で行うこともできる。前記塩基性溶媒としては、例えば、環状アミド類、直鎖状アミド類、アミン類等が挙げられる。
【0076】
前記環状アミド類としては、例えば、N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン、N,N−ジメチルプロピレン尿素、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等が挙げられる。前記直鎖状アミド類としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジエチルホルムアミド、テトラメチル尿素等が挙げられる。前記アミン類としては、例えば、トリエチルアミン、ピリジン、トリブチルアミン等が挙げられる。
【0077】
塩基性溶媒の中でも、環状アミド類が好ましく、中でもN-メチルピロリドンがより好ましい。
【0078】
ここで、工程1において、塩基性溶媒を使用した場合、前記塩基性化合物(触媒)を反応系に添加せずとも、反応効率の向上はある程度期待できるが、より反応効率を向上させるためには、塩基性溶媒を使用した場合でも、塩基性化合物(触媒)を反応系に添加することが好ましい。
【0079】
前記工程1で塩基性溶媒を使用する際の使用量は、オレフィン化合物(b)に対して0.5〜10質量%が好ましく、1〜5質量%がより好ましい。
【0080】
前記工程1において、オレフィン化合物(b)と硫黄の使用割合としては、オレフィン(b)1モルあたり硫黄0.5〜2モルが、粗ジアルキルポリスルフィド(B)中のテトラスルフィド以上のポリスルフィドの含有率を下げられることから好ましく、0.7〜1.8モルがより好ましい。
【0081】
また、前記工程1において、オレフィン化合物(b)と硫化水素の使用割合としては、オレフィン(b)1モルあたり硫化水素0.3〜0.8モルが、工程1における反応系中の未反応オレフィン量を少なくできるとの理由から好ましく、0.4〜0.7モルがより好ましい。
【0082】
工程1において、オレフィン化合物(b)と硫黄とを硫化水素の存在下で反応させる際の反応温度としては、例えば、50〜150℃であり、好ましくは、60〜130℃である。
【0083】
工程1において、オレフィン化合物(b)と硫黄とを硫化水素の存在下で反応させることにより、粗ジアルキルポリスルフィド(B)が得られる。この粗ジアルキルポリスルフィド(B)は硫黄鎖長が種々のものの混合物の状態であり、反応性が悪く、金属表面に硫化金属の膜を良好に形成することが困難なジアルキルモノスルフィドを含む。オレフィン化合物(b)と硫黄とを硫化水素の存在下で反応させた後、更に高温で反応系を保持する事により、該ジアルキルモノスルフィドを反応性が良好で金属表面に硫化金属の膜を良好に形成しやすいジアルキルポリスルフィドに効率よく変換することができる。ここで、保持する際の反応系の温度は、150〜250℃が好ましく、160〜200℃がより好ましい。保持する時間は1〜72時間が好ましく、5〜48時間がより好ましい。
【0084】
前記工程2では、前記工程1で得られた粗ジアルキルポリスルフィド(B)と、アルカリ金属の硫化物とを反応させて、該粗ジアルキルポリスルフィド(B)中の硫黄原子数を減少させる工程である。この工程により粗ジアルキルポリスルフィド(B)中の硫黄鎖の硫黄原子を減少させて、前記ジアルキルポリスルフィド(II)を効率良く得ることが出来る。
【0085】
前記アルカリ金属の硫化物としては、例えば、硫化ナトリウム、硫化カリウム、多硫化ナトリウム、水硫化ナトリウム、水硫化カリウム等が挙げられる。中でも、粗ジアルキルポリスルフィド(B)中の硫黄鎖から硫黄原子を減少させさる効果が高く、効率よく前記ジアルキルポリスルフィド(II)を得られることから硫化ナトリウムが好ましい。
【0086】
前記工程2において、アルカリ金属の硫化物の使用量としては、粗ジアルキルポリスルフィド(B)中の硫黄鎖から硫黄原子数を減少させる効果が高いことから粗ジアルキルポリスルフィド(B)100質量部に対して5〜50質量部が好ましく、10〜45質量部がより好ましい。
【0087】
前記工程2では、粗ジアルキルポリスルフィド(B)と、アルカリ金属の硫化物とを、通常、反応溶媒中で反応させる。反応溶媒としては、例えば、水、アルコール、環状アミド、直鎖状アミド等が挙げられ、これらは、前記した本発明の製造方法の第二工程で使用できる溶媒等を使用する事ができる。中でも、アルコールを含む溶媒が、粗ジアルキルポリスルフィド(B)とアルカリ金属硫化物との反応が迅速に進むため、ジアルキルポリスルフィド(II)を効率よく得ることができることから好ましい。アルコールの中でも多価アルコールが好ましく、エチレングリコールがより好ましい。
【0088】
前記溶媒の使用量は、アルカリ金属の硫化物の質量に対して50〜300質量%が好ましく、80〜250質量%がより好ましい。
【0089】
尚、前記工程1において、溶媒存在下でオレフィン化合物(b)と硫黄とを硫化水素の存在下で反応させて粗ジアルキルポリスルフィド(B)を得た場合、種々の方法、例えば蒸留や水洗等の方法にて粗ジアルキルポリスルフィド(B)を回収し、改めて、工程2で、適当な溶媒系にて反応を進ませることもできる。
【0090】
工程2における反応系の温度は、効果的にジアルキルジスルフィド及びジアルキルトリスルフィド含有量を上げることができると共に分解等の副反応を抑制するとの理由から40〜120℃が好ましく、50〜100℃がより好ましい。また、反応時間は通常1〜36時間であり、より好ましくは5〜24時間である。
【0091】
工程2において、溶媒としてアルコールを用い、且つ、反応系にアルカリ金属の水酸化物を含有させることにより、前記工程1で副生成物として生成されるメルカプタン類をアルコール層に抽出させて、その結果、ジアルキルポリスルフィド(II)の中でも臭気の少ないジアルキルポリスルフィドを得る事ができる。アルカリ金属の水酸化物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウムおよび水酸化セシウム等が挙げられる。中でも、アルコール系溶媒への溶解性が高いことから水酸化ナトリウム、水酸化カリウムが好ましい。
【0092】
前記アルカリ金属の水酸化物の使用量は、アルコールへの溶解性を維持するとの理由から粗ジアルキルポリスルフィド(B)100質量部に対して0.5〜20質量部が好ましく、1〜10質量部がより好ましい。
【0093】
工程2の終了後、常法により分液し固形分をろ別、または揮発分を留出分離することにより、前記ジアルキルポリスルフィド(II)を得ることができる。ここで、一般式(2)において、nが種々の異なる化合物の含有率は高速液体クロマトグラフ(以下、「HPLC」と略記する。)測定により得られるチャートのピーク面積により求めることができる。なお、HPLCの測定条件は前記の通りである。
【0094】
本発明の潤滑流体組成物は、本発明の極圧添加剤と基油とを含有することを特徴とする。前記基油としては、なんら限定されるものではなく、使用目的や使用条件等に応じて、鉱油や合成油等から適宜選択して用いることができる。前記鉱油としては、例えば、パラフィン基系原油、中間基系原油、ナフテン基系原油を常圧蒸留や常圧蒸留後の残渣を減圧蒸留して得られる留出油、又はこれを溶剤精製、水添精製、脱ロウ処理、白土処理等の精製を行って得られる精製油等が挙げられる。前記合成油としては、例えば、低分子量ポリブテン、低分子量ポリプロピレン、炭素原子数8〜14のα−オレフィンオリゴマーおよびこれらの水素化物、トリメチロールプロパンの脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールの脂肪酸エステル等のポリオールエステル、二塩基酸エステル、芳香族ポリカルボン酸エステル、リン酸エステル等のエステル系化合物、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン等のアルキルアロマ系化合物、ポリアルキレングリコール等のポリグリコール油、シリコーン油などが挙げられ、これらは単独又は2種以上を適宜併用して用いることができる。
【0095】
本発明の潤滑流体組成物中の極圧添加剤と基油との配合割合としては、特に限定されるものではないが、通常基油100質量部に対して、極圧添加剤中のジアルキルポリスルフィド換算で0.01〜50質量部であり、好ましくは0.05〜20質量部である。
【0096】
本発明の潤滑流体組成物には、更に増ちょう剤を含有させることによって、本発明の潤滑流体組成物をグリースとして用いることも可能である。ここで用いることができる増ちょう剤としては、例えば、金属石鹸系、複合石鹸系などの石鹸系、又はウレア系などが挙げられる。これらの増ちょう剤を用いる場合には、予め基油に混合して均一化しておくことが好ましい。
【0097】
前記潤滑流体組成物には、前記極圧添加剤と、前記基油とを用いる以外、なんら制限はなく、例えば、添加剤として、油性剤、耐磨耗剤、極圧剤、その他の防錆剤、腐食防止剤、消泡剤、洗浄分散剤、流動点降下剤、粘度指数向上剤、酸化防止剤、乳化剤、抗乳化剤、カビ防止剤、摩擦調整剤、界面活性剤等の添加剤などを目的とする用途や性能に応じて適宜併用することができる。
【0098】
各種添加剤の具体例として次のものを挙げることができる。油性剤としては長鎖脂肪酸(オレイン酸)など;耐磨耗剤としてはリン酸エステル、金属ジチオホスフェート塩など;極圧剤としては有機硫黄化合物、有機ハロゲン化合物など;その他の防錆剤としてはカルボン酸、アミン、アルコール、エステルなど;腐食防止剤としては窒素化合物(ベンゾトリアゾールなど)、硫黄および窒素を含む化合物(1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカルバメート)など;消泡剤としてはシリコーン油、金属石鹸、脂肪酸エステル、リン酸エステルなど、洗浄分散剤としては中性、塩基性スルフォネートおよびフェネート(金属塩型)、こはく酸イミド、エステルおよびベンジルアミン共重合系ポリマーなど;流動点降下剤としては塩素化パラフィンとナフタレン又はフェノールの縮合物、ポリアルキルアクリレート、およびメタクリレート、ポリブテン、ポリアルキルスチレン、ポリ酢酸ビニルなど;粘度指数向上剤としてはポリメタクリレート、ポリイソブチレン、オレフィン共重合体、ポリアルキルスチレンなど;酸化防止剤としてはアミン、ヒンダードフェノール、チオりん酸亜鉛、トリアルキルフェノール類など;乳化剤としては硫酸、スルホン酸およびリン酸エステル、脂肪酸誘導体、アミン誘導体、第四アンモニウム塩、ポリオキシエチレン系の活性剤など;抗乳化剤としては第四アンモニウム塩、硫酸化油、リン酸エステルなど;カビ防止剤としてはフェノール系化合物、ホルムアルデヒド供与体化合物、サリチルアニリド系化合物などが挙げられる。
【0099】
前記潤滑流体組成物は、前記極圧添加剤と前記基油と、必要に応じて配合される粘ちょう剤やその他の添加剤を均一に配合したものであり、その配合方法としては特に限定されるものではなく、この時、均一化のために30〜60℃に加温することも可能である。
【0100】
本発明の潤滑流体組成物の用途としては、特に限定されるものではないが、例えば、潤滑剤組成物として用いることができ、内燃機関や自動変速機、緩衝器、パワーステアリングなどの駆動系機器、ギアなどに用いられる自動車用潤滑油、切削加工、研削加工、塑性加工などの金属加工に用いられる金属加工油、油圧機器や装置などの油圧システムにおける動力伝達、力の制御、緩衝などの作動に用いる動力伝達流体である作動油などとして用いることができる。特に本発明の潤滑流体組成物は、ギア油として用いた際に使用されるギアボックスのシール剤(クロロプレンゴム、ニトリルゴムなど)への膨潤度合いを従来品よりも低減させることができるため、シール剤と接するような用途にも好適に用いることができる。
【実施例】
【0101】
以下に本発明を具体的な実施例を挙げてより詳細に説明する。例中、断りのない限り、「部」、「%」は質量基準である。
【0102】
実施例1〔ジアルキルポリスルフィド(硫化ジイソブチレン)の調製〕
加温装置、硫化水素吹き込み管および硫化水素吸収装置を搭載した1リットルのオートクレーブに、ジイソブチレン365g(3.26モル)と、粉末硫黄104g(3.26モル)と、水酸化カリウム0.1gと、ブチルカルビトール4gとを仕込んだ。オートクレーブを密閉した後、反応容器内を真空ポンプを用いて−0.1MPa以下まで減圧にし、真空脱気した。その後、オートクレーブを密閉した後、内部温度が120℃になるまで加温した。ここに硫化水素ガス(純度99.9モル%)65g(1.9モル)を圧力6kg/cmで20時間を要して吹き込んだ。更に、同温度で10時間保持した。その後、40℃まで冷却してから、硫化水素吸収装置に接続した弁を開けて圧力を常圧に戻し、吹き込み管から空気を吹き込んで、残留する硫化水素および未反応のジイソブチレンを留去し、粗硫化オレフィン(A−1)469g(収率87%)を得た。
【0103】
得られた粗硫化オレフィン(A−1)430gにエチレングリコール72g、硫化ナトリウム73g、水酸化ナトリウム4gを加え、80℃で10時間反応後、下層のエチレングリコール層を分液除去し、上層に淡黄色のジアルキルポリスルフィド(1)を得た。淡黄色のジアルキルポリスルフィド(1)は、総硫黄含有率が29%で、処理温度を120℃とした以外はASTM−D1622に従って測定した活性硫黄の含有率は2.7%であった。ジアルキルポリスルフィド中のトリスルフィド体の含有率は99%で、テトラスルフィド体の含有率は1%で、モノスルフィド体の含有率は0%であった。ジアルキルポリスルフィド(1)の熱分解温度(50%)は、232℃であった。尚、熱分解温度は、下記の方法により測定した。
【0104】
<熱分解温度の測定方法>
測定器:株式会社リガク製熱重量分析器
昇温速度:20℃/min
【0105】
実施例2〔ジアルキルポリスルフィド(硫化ジイソブチレン)の調製〕
加温装置、硫化水素吹き込み管および硫化水素吸収装置を搭載した1リットルのオートクレーブに、ジイソブチレン365g(40.8モル)と、粉末硫黄130g(4.08モル)と、水酸化カリウム0.1gと、ブチルカルビトール4gとを仕込んだ。オートクレーブを密閉した後、反応容器内を真空ポンプを用いて−0.1MPa以下まで減圧にし、真空脱気した。その後、オートクレーブを密閉した後、内部温度が120℃になるまで加温した。ここに硫化水素ガス(純度99.9モル%)65g(1.9モル)を圧力6kg/cmで20時間を要して吹き込んだ。更に、同温度で10時間保持した。その後、40℃まで冷却してから、硫化水素吸収装置に接続した弁を開けて圧力を常圧に戻し、吹き込み管から空気を吹き込んで、残留する硫化水素および未反応のジイソブチレンを留去し、粗硫化オレフィン(A−2)527g(収率93%)を得た。
【0106】
得られた粗硫化オレフィン(A−2)430gにエチレングリコール72g、硫化ナトリウム95g、水酸化ナトリウム4gを加え、80℃で10時間反応後、下層のエチレングリコール層を分液除去し、上層に淡黄色のジアルキルポリスルフィド(2)を得た。淡黄色のジアルキルポリスルフィド(2)は、総硫黄含有率が29%で、処理温度を120℃とした以外はASTM−D1622に従って測定した活性硫黄の含有率は3.0%であった。ジアルキルポリスルフィド(2)中のトリスルフィド体の含有率は99%で、テトラスルフィド体の含有率は1%で、モノスルフィド体の含有率は0%であった。ジアルキルポリスルフィド(2)の熱分解温度(50%)は、233℃であった。
【0107】
比較例1〔比較対照用ジアルキルポリスルフィド(比較対照用硫化ジイソブチレン)の調製〕
加温装置、硫化水素吹き込み管および硫化水素吸収装置を搭載した1リットルのオートクレーブに、ジイソブチレン365g(3.26モル)と、粉末硫黄104g(3.26モル)と、水酸化カリウム0.1gと、ブチルカルビトール4gとを仕込んだ。オートクレーブを密閉した後、反応容器内を真空ポンプを用いて−0.1MPa以下まで減圧にし、真空脱気した。その後、オートクレーブを密閉した後、内部温度が120℃になるまで加温した。ここに硫化水素ガス(純度99.9モル%)65g(1.9モル)を圧力6kg/cmで20時間を要して吹き込んだ。更に、同温度で10時間保持した。その後、40℃まで冷却してから、硫化水素吸収装置に接続した弁を開けて圧力を常圧に戻し、吹き込み管から空気を吹き込んで、残留する硫化水素および未反応のジイソブチレンを留去し、比較対照用ジアルキルポリスルフィド(1´)469gを得た(収率87%)。比較対照用ジアルキルポリスルフィド(1´)は、総硫黄含有率が35%で、処理温度を120℃とした以外はASTM−D1622に従って測定した活性硫黄の含有率は10%であった。比較対照用ジアルキルポリスルフィド(1´)中のトリスルフィド体の含有率は45%で、テトラスルフィド体の含有率は45%で、ペンタスルフィド体の含有率は10%で、モノスルフィド体の含有率は0%であった。比較対照用ジアルキルポリスルフィド(1´)の熱分解温度(50%)は、226℃であった。
【0108】
比較例2(同上)
加温装置、硫化水素吹き込み管および硫化水素吸収装置を搭載した1リットルのオートクレーブに、ジイソブチレン365g(3.26モル)と、粉末硫黄104g(3.26モル)と、水酸化カリウム0.1gと、ブチルカルビトール4gとを仕込んだ。オートクレーブを密閉した後、反応容器内を真空ポンプを用いて−0.1MPa以下まで減圧にし、真空脱気した。その後、オートクレーブを密閉した後、内部温度が120℃になるまで加温した。ここに硫化水素ガス(純度99.9モル%)65g(1.9モル)を圧力6kg/cmで20時間を要して吹き込んだ。更に、同温度で10時間保持した。その後、40℃まで冷却してから、硫化水素吸収装置に接続した弁を開けて圧力を常圧に戻し、吹き込み管から空気を吹き込んで、残留する硫化水素および未反応のジイソブチレンを留去し、粗硫化オレフィン(A−3)469gを得た(収率87%)。
【0109】
得られた粗硫化オレフィン(A−3)430gに水72g、硫化ナトリウム73g、水酸化ナトリウム4gを加え、80℃で10時間反応後、下層の水層を分液除去し、上層に淡黄色の比較対照用ジアルキルポリスルフィド(2´)を得た。淡黄色の比較対照用ジアルキルポリスルフィド(2´)は、総硫黄含有率が34%で、処理温度を120℃とした以外はASTM−D1622に従って測定した活性硫黄の含有率は9.5%であった。比較対照用ジアルキルポリスルフィド(2´)中のトリスルフィド体の含有率は55%で、テトラスルフィド体の含有率は40%で、ペンタスルフィド体の含有率は5%で、モノスルフィド体の含有率は0%であった。比較対照用ジアルキルポリスルフィド(2´)の熱分解温度(50%)は、246℃であった。
【0110】
第1表にジアルキルポリスルフィド(1)〜(2)及び比較対照用ジアルキルポリスルフィド(1´)〜(2´)の総硫黄含有率、活性硫黄含有率、モノスルフィド体、トリスルフィド体、テトラスルフィド体、ペンタスルフィド体の含有率をそれぞれ示す。
【0111】
【表1】
【0112】
実施例3(潤滑流体組成物)
40℃における粘度が11mm/sの鉱物油に、ジアルキルポリスルフィド(1)を、ジアルキルポリスルフィド(1)中の全てのジアルキルポリスルフィドの合計質量を基準として、含有率が5質量%となるように混合し、本発明の潤滑流体組成物(1)を得た。この潤滑流体(1)を用いて、金属表面の腐食性と、金属表面への金属硫化物の被膜の形成性を下記方法に従って評価した。評価結果を第2表に示す。
【0113】
<金属表面の腐食性の評価方法>
JIS K2513に定める方法で銅板腐食試験を行い、銅板表面の腐食状態を確認した。試験条件は100℃、3時間とした。
【0114】
<金属表面への金属硫化物の被膜の形成性の評価方法>
ASTM D−2783に定める方法に従い、シェル式四球試験機を用いて融着荷重を測定した。
【0115】
実施例4(同上)
ジアルキルポリスルフィド(1)のかわりにジアルキルポリスルフィド(2)を用いる以外は実施例3と同様にして、潤滑流体組成物(2)を得た。実施例3と同様の評価を行い、その結果を第2表に示す。
【0116】
実施例5(同上)
<ジアルキルポリスルフィド(II)の調製>
加温装置、硫化水素吹き込み管および硫化水素吸収装置を搭載した1リットルのオートクレーブに、1−デセン320gと、粉末硫黄73gと、水酸化カリウム0.1gとブチルカルビトール4gとを仕込んだ。オートクレーブを密閉した後、反応容器内を真空ポンプにて−0.1MPa以下まで減圧し真空脱気した。その後、内部温度が120℃になるまで加温した。ここに硫化水素ガス(純度99.9モル%)43gを圧力6kg/cmで20時間を要して吹き込み、更に、180℃に昇温後24時間保持した。その後、40℃まで冷却してから、硫化水素吸収装置に接続した弁を開けて圧力を常圧に戻し、吹き込み管から空気を吹き込んで、残留する硫化水素を留去し、粗硫化オレフィンを得た。粗硫化オレフィン430gにエチレングリコール72g、硫化ナトリウム73g及び水酸化ナトリウム4gを加え、60℃で10時間反応させた。反応後、下層のエチレングリコール層を分液除去し上層部にある淡黄色のジアルキルポリスルフィド(II−1)を得た。ジアルキルポリスルフィド(II−1)中の総硫黄含有率は23%で、活性硫黄含有率は5%で、前記一般式(2)においてnが2であるジアルキルポリスルフィドとnが3であるジアルキルポリスルフィドの合計の含有率は87%で、ジアルキルポリスルフィド(II−1)の熱分解温度は272℃であった。
【0117】
<潤滑流体組成物(3)の調製>
前記ジアルキルポリスルフィド(1)とジアルキルポリスルフィド(II−1)とを、質量比で3:1となる割合で併用した以外は実施例3と同様にして潤滑流体組成物(3)を得た。実施例3と同様の評価を行い、その結果を第2表に示す。
【0118】
比較例3(比較対照用潤滑流体組成物)
ジアルキルポリスルフィド(1)のかわりに比較対照用ジアルキルポリスルフィド(1´)を用いる以外は実施例3と同様にして、比較対照用潤滑流体組成物(1´)を得た。実施例3と同様の評価を行い、その結果を第2表に示す。
【0119】
比較例4(同上)
ジアルキルポリスルフィド(1)のかわりに比較対照用ジアルキルポリスルフィド(2´)を用いる以外は実施例3と同様にして、比較対照用潤滑流体組成物(2´)を得た。実施例3と同様の評価を行い、その結果を第2表に示す。
【0120】
【表2】