特許第5896246号(P5896246)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5896246グラフト共重合体及びその製造方法、難燃剤、熱可塑性樹脂組成物、並びに成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5896246
(24)【登録日】2016年3月11日
(45)【発行日】2016年3月30日
(54)【発明の名称】グラフト共重合体及びその製造方法、難燃剤、熱可塑性樹脂組成物、並びに成形体
(51)【国際特許分類】
   C08F 291/02 20060101AFI20160317BHJP
   C08F 285/00 20060101ALI20160317BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20160317BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20160317BHJP
   C09K 21/14 20060101ALI20160317BHJP
【FI】
   C08F291/02
   C08F285/00
   C08L101/00
   C08L69/00
   C09K21/14
【請求項の数】9
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-17253(P2014-17253)
(22)【出願日】2014年1月31日
(62)【分割の表示】特願2009-215223(P2009-215223)の分割
【原出願日】2009年9月17日
(65)【公開番号】特開2014-74187(P2014-74187A)
(43)【公開日】2014年4月24日
【審査請求日】2014年1月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱レイヨン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】三浦 崇
(72)【発明者】
【氏名】宍戸 耕一
(72)【発明者】
【氏名】笠井 俊宏
【審査官】 内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5522436(JP,B2)
【文献】 特開平01−229070(JP,A)
【文献】 特開2000−226420(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/070664(WO,A1)
【文献】 特開平02−175246(JP,A)
【文献】 特開平02−225509(JP,A)
【文献】 特開2008−038117(JP,A)
【文献】 特開2001−002909(JP,A)
【文献】 特開2009−206197(JP,A)
【文献】 特開2000−194190(JP,A)
【文献】 特表平11−506138(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 291/02
C08F 285/00
C08F 283/12
C08L 1/00−101/16
C08F 290/14
C08F 2/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオルガノシロキサン系ゴム(A)40〜90質量%の存在下で、下記一般式(1)で表されるビニル単量体(b1)を含むビニル単量体(b)10〜60質量%を重合して得られるグラフト共重合体であって、
ポリオルガノシロキサン系ゴム(A)がポリオルガノシロキサンゴム(A1)とアクリルゴム(A2)とを含む複合ゴムである、グラフト共重合体。
【化1】
(式中、Rは水素原子又はメチル基、Rは置換基を有していてもよいアリール基又はベンジル基である。)
【請求項2】
ビニル系単量体(b)が多官能性ビニル単量体(b2)を含む請求項1に記載のグラフト共重合体。
【請求項3】
ポリオルガノシロキサン系ゴム(A)40〜90質量%の存在下で、下記一般式(1)で表されるビニル単量体(b1)を含むビニル単量体(b)10〜60質量%を重合する請求項1に記載のグラフト共重合体の製造方法であって、
前記複合ゴムを、ポリオルガノシロキサンゴム(A1)のラテックス中にアルキル(メタ)アクリレート(a2−1)及び必要に応じて多官能性ビニル単量体(a2−2)を含むビニル単量体(a2)を添加し重合することにより得る、グラフト共重合体の製造方法。
【化1】
(式中、Rは水素原子又はメチル基、Rは置換基を有していてもよいアリール基又はベンジル基である。)
【請求項4】
前記複合ゴムを、ポリオルガノシロキサンゴム(A1)のラテックス中に前記ビニル単量体(a2)を添加した後に重合開始剤により重合を開始し、重合することにより得る、請求項3に記載のグラフト共重合体の製造方法。
【請求項5】
ポリオルガノシロキサン系ゴム(A)の存在下で、多官能性ビニル単量体(b2)を含むビニル単量体(b)を重合した後に、下記一般式(1)で表されるビニル単量体(b1)を含む残りのビニル単量体(b)を重合する請求項2に記載のグラフト共重合体の製造方法。
【化1】
(式中、Rは水素原子又はメチル基、Rは置換基を有していてもよいアリール基又はベンジル基である。)
【請求項6】
請求項1又は2に記載のグラフト共重合体を含む難燃剤。
【請求項7】
熱可塑性樹脂100質量部に対して、請求項1又は2に記載のグラフト共重合体0.1〜30質量部が配合された熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
熱可塑性樹脂がポリカーボネート系樹脂である請求項7に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフト共重合体及びその製造方法、該グラフト共重合体を含む難燃剤、熱可塑性樹脂に該グラフト共重合体を配合する熱可塑性樹脂組成物、並びに該熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
家電分野、電気・電子機器分野、プリンタ等のOA機器をはじめとする種々の分野で、熱可塑性樹脂を用いた成形体が広く用いられている。該成形体には優れた耐衝撃性、難燃性、耐候性等の種々の物性が要求される。特に、近年では、コスト低減を目的とした成形体の薄肉化及び軽量化が進められている。そのため、薄肉化及び軽量化された成形体においても、充分な耐衝撃性、難燃性を得る必要がある。
【0003】
熱可塑性樹脂を用いた成形体の耐衝撃性、難燃性を向上させる方法として、特許文献1及び2では、ポリオルガノシロキサン系ゴムにビニル単量体を重合して得られるグラフト共重合体を熱可塑性樹脂に配合する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−17029号公報
【特許文献2】特開2003−238639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2で提案されている方法では、得られる成形体の耐衝撃性及び難燃性が満足できるものではなかった。
【化1】

(式中、R1は水素原子又はメチル基、R2は置換基を有していてもよいアリール基又はベンジル基である。)
本発明は、熱可塑性樹脂に配合することで、耐衝撃性及び難燃性に優れる成形体を与えるグラフト共重合体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ポリオルガノシロキサン系ゴム(A)40〜90質量%の存在下で、下記一般式(1)で表されるビニル単量体(b1)を含むビニル単量体(b)10〜60質量%を重合して得られるグラフト共重合体であって、ポリオルガノシロキサン系ゴム(A)がポリオルガノシロキサンゴム(A1)とアクリルゴム(A2)とを含む複合ゴムである、グラフト共重合体である。
【化1】
(式中、Rは水素原子又はメチル基、Rは置換基を有していてもよいアリール基又はベンジル基である。)
【0007】
また、本発明は、ポリオルガノシロキサン系ゴム(A)40〜90質量%の存在下で、下記一般式(1)で表されるビニル単量体(b1)を含むビニル単量体(B)10〜60質量%を重合する前記グラフト共重合体の製造方法であって、前記複合ゴムを、ポリオルガノシロキサンゴム(A1)のラテックス中にアルキル(メタ)アクリレート(a2−1)及び必要に応じて多官能性ビニル単量体(a2−2)を含むビニル単量体(a2)を添加し重合することにより得る、グラフト共重合体の製造方法である。
【化1】
(式中、Rは水素原子又はメチル基、Rは置換基を有していてもよいアリール基又はベンジル基である。)
また、本発明は、前記グラフト共重合体を含む難燃剤である。
また、本発明は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、前記グラフト共重合体0.1〜30質量部が配合された熱可塑性樹脂組成物である。
更に、本発明は、前記熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形体である。
【発明の効果】
【0008】
本発明のグラフト共重合体は、熱可塑性樹脂に配合することで、耐衝撃性及び難燃性に優れた成形体を与える。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のグラフト共重合体は、ポリオルガノシロキサン系ゴム(A)の存在下で、ビニル単量体(b)を重合して得られる。
【0010】
本発明のポリオルガノシロキサン系ゴム(A)は、ポリオルガノシロキサンゴム(A1)を含む。
【0011】
ポリオルガノシロキサンゴム(A1)は、オルガノシラン(a1)を重合して得られる。これらのポリオルガノシロキサンゴム(A1)の中でも、グラフト活性点を付与する観点から、ビニル重合性官能基を有するポリオルガノシロキサンゴムであることが好ましい。ビニル重合性官能基を有するポリオルガノシロキサンゴムは、環状オルガノシロキサン(a1−1)、ビニル重合性官能基を有するオルガノシラン(a1−2)及び3官能以上のオルガノシラン(a1−3)を含むオルガノシラン(a1)を重合することにより得ら
れる。
【0012】
環状オルガノシロキサン(a1−1)としては、例えば、3員環以上のジメチルシロキサン系環状体が挙げられる。これらの環状オルガノシロキサン(a1−1)の中でも、3〜7員環のジメチルシロキサン系環状体が好ましく、例えば、ヘキサメチルシクロトリシロキサン(D3)、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)、デカメチルシクロペンタシロキサン(D5)、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン(D6)が挙げられ、粒子径分布の制御の観点から、オクタメチルシクロテトラシロキサン(D4)がより好ましい。
尚、ここでいう「3員環のジメチルシロキサン系環状体」とは、「シロキサン単位(SiO)を3つ有するジメチルシロキサン系環状体」即ち「ヘキサメチルシクロトリシロキサン(D3)」を示す。
これらの環状オルガノシロキサン(a1−1)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
環状オルガノシロキサン(a1−1)の含有率としては、オルガノシラン(a1)100質量%中、得られる成形体の低温での耐衝撃性及び難燃性の向上の観点から、30〜99.8質量%であることが好ましく、50〜99質量%であることがより好ましい。
【0013】
ビニル重合性官能基を有するオルガノシラン(a1−2)は、ビニル重合性官能基を有し、シロキサン結合を介して環状オルガノシロキサンと結合し得るシロキサン化合物である。ビニル重合性官能基を有するオルガノシラン(a1−2)としては、例えば、β−(メタ)アクリロイルオキシエチルジメトキシメチルシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメトキシジメチルシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルエトキシジエチルシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルジエトキシメチルシラン、δ−(メタ)アクリロイルオキシブチルジエトキシメチルシラン等の(メタ)アクリロイルオキシシラン;テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン等のビニルシロキサン;p−ビニルフェニルジメトキシメチルシラン等のビニルフェニルシラン;γ−メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプトシロキサンが挙げられる。これらのビニル重合性官能基を有するオルガノシラン(a1−2)の中でも、環状オルガノシロキサンとの反応性の観点から、(メタ)アクリロイルオキシシランが好ましい。
これらのビニル重合性官能基を有するオルガノシラン(a1−2)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ビニル重合性官能基を有するオルガノシラン(a1−2)の含有率としては、オルガノシラン(a1)100質量%中、得られる成形体の耐衝撃性の向上の観点から、0.1〜20質量%であることが好ましく、0.2〜10質量%であることがより好ましい。
尚、本明細書において、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」又は「メタクリル」を示す。
【0014】
3官能以上のオルガノシラン(a1−3)としては、3官能性又は4官能性のシラン系架橋剤が挙げられ、例えば、トリメトキシメチルシラン、トリエトキシフェニルシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシランが挙げられる。
これらの3官能以上のオルガノシラン(a1−3)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
3官能以上のオルガノシラン(a1−3)の含有率としては、オルガノシラン(a1)100質量%中、得られる成形体の耐衝撃性及び難燃性の向上の観点から、0.1〜10質量%であることが好ましく、1〜5質量%であることがより好ましい。
【0015】
オルガノシラン(a1)は、環状オルガノシロキサン(a1−1)、ビニル重合性官能
基を有するオルガノシラン(a1−2)、3官能以上のオルガノシラン(a1−3)以外にもその他のシラン(a1−4)を含んでもよい。
その他のシラン(a1−4)としては、例えば、ジメトキシジメチルシラン、ジエトキシジメチルシラン、ジメトキシジフェニルシラン、ジエトキシジフェニルシラン等の2官能のオルガノシランが挙げられる。
これらのその他のシラン(a1−4)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
その他のシラン(a1−4)の含有率としては、オルガノシラン(a1)100質量%中、得られる成形体の耐衝撃性及び難燃性の向上の観点から、50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましい。
【0016】
ポリオルガノシロキサンゴム(A1)の製造方法としては、例えば、オルガノシラン(a1)に乳化剤と水を添加し乳化させてオルガノシロキサンラテックスを調製し、高速回転による剪断力で微粒子化するホモミキサー又は高圧発生機による噴出力で微粒子化するホモジナイザーを用いて微粒子化した後、酸触媒の存在下で高温下で重合を行い、アルカリ性物質により酸を中和してポリオルガノシロキサンゴム(A1)のラテックスを得る方法が挙げられる。
これらのポリオルガノシロキサンゴム(A1)の製造方法の中でも、得られるポリオルガノシロキサンゴム(A1)の粒子径分布の制御の観点から、ホモジナイザーを用いてオルガノシラン(a1)のラテックスを微粒子化する方法が好ましい。
【0017】
酸触媒としては、例えば、脂肪族スルホン酸、脂肪族置換ベンゼンスルホン酸、脂肪族置換ナフタレンスルホン酸等のスルホン酸類;硫酸、塩酸、硝酸等の鉱酸類が挙げられる。これらの酸触媒の中でも、ポリオルガノシロキサンゴム(A1)の粒子径分布の制御、ポリオルガノシロキサンゴム(A1)の乳化剤に起因する成形体の外観不良の低減及び得られる成形体の低温での耐衝撃性の向上の観点から、ミセル形成能のない硫酸、塩酸、硝酸等の鉱酸類が好ましい。
これらの酸触媒は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
酸触媒を添加する方法としては、例えば、オルガノシラン(a1)、乳化剤及び水と共に混合し微粒子化する方法、微粒子化されたオルガノシラン(a1)ラテックスを酸触媒の水溶液中に一定速度で滴下する方法が挙げられる。
これらの酸触媒を添加する方法の中でも、ポリオルガノシロキサンゴム(A1)の粒子径の制御の観点から、オルガノシラン(a1)、乳化剤及び水と共に混合する方法が好ましい。
【0019】
オルガノシラン(a1)の重合に用いる乳化剤としては、アニオン系乳化剤が好ましい。アニオン系乳化剤としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸エステルナトリウムが挙げられる。これらの乳化剤の中でも、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムが好ましい。
これらの乳化剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0020】
オルガノシラン(a1)の重合温度としては、50〜95℃であることが好ましく、70〜90℃であることがより好ましい。
オルガノシラン(a1)の重合時間としては、酸触媒の添加方法としてオルガノシラン(a1)、乳化剤及び水と共に混合し微粒子化する方法を用いた場合、2〜15時間であることが好ましく、5〜10時間であることがより好ましい。
オルガノシラン(a1)の重合の停止方法としては、例えば、反応液を冷却した後、ポリオルガノシロキサンゴム(A1)ラテックスを水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭
酸ナトリウム等のアルカリ性物質により酸を中和する方法が挙げられる。
【0021】
ポリオルガノシロキサンゴム(A1)の体積平均粒子径としては、10〜800nmであることが好ましく、20〜600nmであることがより好ましい。
ポリオルガノシロキサンゴム(A1)の体積平均粒子径が10nm以上であると、得られる成形体の低温での耐衝撃性に優れる。また、ポリオルガノシロキサンゴム(A1)の体積平均粒子径が800nm以下であると、得られる成形体の難燃性に優れる。
尚、本発明における体積平均粒子径は、キャピラリー式粒度分布測定器で測定される。
【0022】
ポリオルガノシロキサンゴム(A1)のトルエン不溶分としては、ポリオルガノシロキサンゴム(A1)100質量%中、10質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが更に好ましい。
ポリオルガノシロキサンゴム(A1)のトルエン不溶分が10質量%以上であると、得られる成形体の耐衝撃性に優れる。
尚、ポリオルガノシロキサンゴム(A1)のトルエン不溶分は、以下の方法により測定される。
ポリオルガノシロキサンゴム(A1)ラテックスから、2−プロパノールを用いてポリオルガノシロキサンゴム(A1)を抽出し、それを25℃で乾燥させた後、真空乾燥機で2−プロパノール成分を完全に除去する。得られたポリオルガノシロキサンゴム(A1)を0.5g精秤した後、25℃でトルエン80mLに24時間浸漬し、12,000rpmで60分間遠心分離した後、50℃で24時間真空乾燥し、得られた固形分を精秤することにより、ポリオルガノシロキサンゴム(A1)トルエン不溶分の質量分率(質量%)を算出する。
ポリオルガノシロキサンゴム(A1)のトルエン不溶分は、オルガノシラン(a1)中の3官能以上のオルガノシラン(a1−3)の含有率を調節することにより制御できる。オルガノシラン(a1)中の3官能以上のオルガノシラン(a1−3)の含有率が高いほど、ポリオルガノシロキサンゴム(A1)のトルエン不溶分が高くなる。
【0023】
ポリオルガノシロキサン系ゴム(A)は、ポリオルガノシロキサンゴム(A1)以外のその他のゴムを含む複合ゴムであってもよい。
その他のゴムとしては、例えば、アクリルゴム(A2)、ジエン系ゴム、オレフィン系ゴムが挙げられる。これらのその他のゴムの中でも、複合化が容易であることから、アクリルゴム(A2)が好ましい。
これらのその他のゴムは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
アクリルゴム(A2)は、アルキル(メタ)アクリレート(a2−1)及び必要に応じて多官能性ビニル単量体(a2−2)を含むビニル単量体(a2)を重合して得られる。
【0025】
アルキル(メタ)アクリレート(a2−1)としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレート;ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート等のアルキルメタクリレートが挙げられる。これらのアルキル(メタ)アクリレート(a2−1)の中でも、得られる成形体の耐衝撃性の向上の観点から、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートが好ましい。
これらのアルキル(メタ)アクリレート(a2−1)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
アルキル(メタ)アクリレート(a2−1)の含有率としては、ビニル単量体(a2)100質量%中、得られる成形体の難燃性及び耐衝撃性の向上の観点から、80〜99.9質量%であることが好ましく、85〜99質量%であることがより好ましい。
【0026】
多官能性ビニル単量体(a2−2)としては、例えば、アリル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレート、ジビニルベンゼンが挙げられる。これらの多官能性ビニル単量体(a2−2)の中でも、製造コストの観点から、アリル(メタ)アクリレートが好ましい。
これらの多官能性ビニル単量体(a2−2)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
多官能性ビニル単量体(a2−2)の含有率としては、ビニル単量体(a2)100質量%中、得られる成形体の耐衝撃性の向上の観点から、0.1〜20質量%であることが好ましく、1〜15質量%であることがより好ましい。
【0027】
ポリオルガノシロキサンゴム(A1)とアクリルゴム(A2)の複合ゴムを製造する方法としては、例えば、ポリオルガノシロキサンゴム(A1)のラテックス中に単量体(a2)を添加し重合する方法が挙げられる。
単量体(a2)を添加する方法としては、例えば、ポリオルガノシロキサンゴム(A1)のラテックスと一括で混合する方法、ポリオルガノシロキサンゴム(A1)ラテックス中に一定速度で滴下する方法が挙げられる。これらのビニル単量体(a2)を添加する方法の中でも、得られる成形体の耐衝撃性の向上の観点から、ポリオルガノシロキサンゴム(A1)のラテックスと一括で混合する方法が好ましい。
【0028】
ビニル単量体(a2)の重合に用いる重合開始剤としては、例えば、過硫酸塩、有機過酸化物、アゾ系開始剤、過硫酸塩と還元剤を組合せたレドックス系開始剤、有機過酸化物と還元剤を組合せたレドックス系開始剤が挙げられる。これらの重合開始剤の中でも、有機過酸化物と還元剤を組合せたレドックス系開始剤が好ましい。
これらの重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
本発明のポリオルガノシロキサン系ゴム(A)の組成比としては、ポリオルガノシロキサン系ゴム(A)100質量%中、ポリオルガノシロキサンゴム(A1)60〜100質量%、その他のゴム(A2)0〜40質量%であることが好ましく、ポリオルガノシロキサンゴム(A1)80〜100質量%、その他のゴム(A2)0〜20質量%であることがより好ましく、ポリオルガノシロキサンゴム(A1)90〜100質量%、その他のゴム(A2)0〜10質量%であることが更に好ましい。
ポリオルガノシロキサンゴム(A1)の含有率が60質量%以上であると、得られる成形体の難燃性に優れる。
その他のゴム(A2)の含有率が40質量%以下であると、得られる成形体の難燃性に優れる。
【0030】
本発明のビニル単量体(b)は、下記一般式(1)で表されるビニル単量体(b1)を含む。
【化1】

(式中、R1は水素原子又はメチル基、R2は置換基を有していてもよいアリール基又はベンジル基である。)
【0031】
本発明の一般式(1)で表されるビニル単量体(b1)としては、例えば、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、4−t−ブチルフェニル(メタ)アクリレート、モノブロモフェニル(メタ)アクリレート、ジブロモフェニル(メタ)アクリレート、2,4,6−トリブロモフェニル(メタ)アクリレート、モノクロロフェニル(メタ)アクリレート、ジクロロフェニル(メタ)アクリレート、トリクロロフェニル(メタ)アクリレートが挙げられる。これらの一般式(1)で表されるビニル単量体(b1)の中でも、得られる成形体の耐衝撃性及び難燃性の向上の観点から、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートが好ましく、フェニル(メタ)アクリレートがより好ましい。
一般式(1)で表されるビニル単量体(b1)の含有率としては、ビニル単量体(b)100質量%中、得られる成形体の耐衝撃性及び難燃性の向上の観点から、10〜100質量%であることが好ましく、15〜90質量%であることがより好ましい。
【0032】
本発明のビニル単量体(b)は、多官能性ビニル単量体(b2)を含んでもよい。
多官能性単量体(b2)としては、前記多官能性ビニル単量体(a2−2)の例示のものが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を併用することができる。
これらの多官能性単量体(b2)中でも、得られる成形体の耐衝撃性及び難燃性の向上の観点から、アリル(メタ)アクリレートが好ましい。
多官能性単量体(b2)の含有率としては、ビニル単量体(b)100質量%中、得られる成形体の難燃性の向上の観点から、0〜80質量%であることが好ましく、10〜50質量%であることがより好ましい。
【0033】
本発明のビニル単量体(b)は、ビニル単量体(b1)、多官能性単量体(b2)以外にもその他の単量体(b3)を含んでもよい。
その他の単量体(b3)としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル単量体;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート等のメタクリレート;メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート等のアクリレート;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体、イタコン酸、(メタ)アクリル酸、フマル酸、マレイン酸等のカルボキシル基含有ビニル単量体が挙げられる。これらのその他の単量体(b3)の中でも、得られる成形体の耐衝撃性の向上の観点から、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレートが好ましく、得られる成形体の難燃性の観点から、メチルメタクリレートが好ましい。
これらのその他の単量体(b3)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
その他の単量体(b3)の含有率としては、ビニル単量体(b)100質量%中、得られる成形体の耐衝撃性及び難燃性の向上の観点から、0〜80質量%であることが好まし
く、0〜60質量%であることがより好ましい。
【0034】
本発明のビニル単量体(b)は、ポリオルガノシロキサン系ゴム(A)の存在下で重合すればよく、一括重合でも多段重合でもよい。
多段重合の場合、ポリオルガノシロキサン系ゴム(A)の存在下で、多官能性ビニル単量体(b2)を含むビニル単量体(b)を重合した後に、下記一般式(1)で表されるビニル単量体(b1)を含む残りのビニル単量体(b)を重合することが好ましい。グラフト共重合体の最外層となる該残りのビニル単量体(b)としては、配合する熱可塑性樹脂にもよるが、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、メチルメタクリレート、アクリロニトリル、スチレンが好ましい。
【0035】
本発明のビニル単量体(b)の重合に用いるポリオルガノシロキサン系ゴム(A)とビニル単量体(b)の含有率としては、ポリオルガノシロキサン系ゴム(A)とビニル単量体(b)の合計100質量%中、ポリオルガノシロキサン系ゴム(A)40〜90質量%、ビニル単量体(b)10〜60質量%であり、ポリオルガノシロキサン系ゴム(A)50〜90質量%、ビニル単量体(b)10〜50質量%であることが好ましく、ポリオルガノシロキサン系ゴム(A)70〜90質量%、ビニル単量体(b)10〜30質量%であることがより好ましい。
ポリオルガノシロキサン系ゴム(A)の含有率が40質量%以上であると、得られる成形体の難燃性に優れる。また、ポリオルガノシロキサン系ゴム(A)の含有率が90質量%以下であると、得られる成形体の耐衝撃性に優れる。
ビニル単量体(b)の含有率が10質量%以上であると、得られる成形体の耐衝撃性に優れる。また、ビニル単量体(b)の含有率が60質量%以下であると、得られる成形体の難燃性に優れる。
【0036】
本発明のビニル単量体(b)の重合に用いる重合開始剤としては、前記ビニル単量体(a2)の重合に用いる重合開始剤の例示のものが挙げられる。
これらの重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
本発明のビニル単量体(b)の重合において、得られるグラフト共重合体のビニル単量体(b)単位の分子量又はグラフト率を調整するため、連鎖移動剤を用いてもよい。
本発明のビニル単量体(b)の重合に用いる連鎖移動剤としては、例えば、t−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、n−ヘキシルメルカプタンが挙げられる。
【0038】
本発明のビニル単量体(b)の重合において、重合ラテックスを安定化させ、得られるグラフト共重合体の粒子径を制御するため、乳化剤を用いてもよい。
本発明のビニル単量体(b)の重合に用いる乳化剤としては、例えば、カチオン系乳化剤、アニオン系乳化剤、ノニオン系乳化剤が挙げられる。これらの乳化剤の中でも、スルホン酸塩乳化剤、硫酸塩乳化剤、カルボン酸塩乳化剤が好ましく、エステル結合を有する熱可塑性樹脂にグラフト共重合体を配合する場合には、加水分解を抑制する観点から、スルホン酸塩乳化剤が更に好ましい。
【0039】
本発明のグラフト共重合体は、前記方法で製造したグラフト共重合体のラテックスを、塩化カルシウム、酢酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム等の金属塩を溶解した熱水中に投入し、塩析、固化した後、グラフト共重合体を分離し、粉体として回収することができる。また、本発明のグラフト共重合体の回収方法は、噴霧乾燥法を用いてもよい。
金属塩としては、エステル結合を有する熱可塑性樹脂にグラフト共重合体を配合する場合には、加水分解を抑制する観点から、塩化カルシウム、酢酸カルシウム等のカルシウム
塩が好ましい。
【0040】
尚、前記方法でグラフト共重合体を製造する場合、ポリオルガノシロキサン系ゴム(A)にグラフトしていないビニル単量体(b)の重合体(フリーポリマー)も生じ得る。本発明では、このようなフリーポリマーも含めて、グラフト共重合体とする。即ち、本発明のグラフト共重合体は、ポリオルガノシロキサン系ゴム(A)にビニル単量体(b)単位がグラフトしたグラフト共重合体及びビニル単量体(b)の重合体(フリーポリマー)を含む。
【0041】
本発明のグラフト共重合体の組成比としては、ポリオルガノシロキサン系ゴム(A)とビニル単量体(b)単位の合計100質量%中、ポリオルガノシロキサン系ゴム(A)40〜90質量%、ビニル単量体(b)単位10〜60質量%であることが好ましく、ポリオルガノシロキサン系ゴム(A)50〜90質量%、ビニル単量体(b)単位10〜50質量%であることがより好ましく、ポリオルガノシロキサン系ゴム(A)70〜90質量%、ビニル単量体(b)単位10〜30質量%であることが更に好ましい。
ポリオルガノシロキサン系ゴム(A)の含有率が40質量%以上であると、得られる成形体の難燃性に優れる。また、ポリオルガノシロキサン系ゴム(A)の含有率が90質量%以下であると、得られる成形体の耐衝撃性に優れる。
ビニル単量体(b)単位の含有率が10質量%以上であると、得られる成形体の耐衝撃性に優れる。また、ビニル単量体(b)単位の含有率が60質量%以下であると、得られる成形体の難燃性に優れる。
【0042】
本発明のグラフト共重合体の体積平均粒子径としては、20〜1000nmであることが好ましく、50〜800nmであることがより好ましい。
グラフト共重合体の体積平均粒子径が20nm以上であると、得られる成形体の低温での耐衝撃性に優れる。また、グラフト共重合体の体積平均粒子径が1000nm以下であると、得られる成形体の難燃性に優れる。
【0043】
本発明の難燃剤は、本発明のグラフト共重合体を含む。
本発明の難燃剤は、本発明のグラフト共重合体単独でもよく、赤燐、リン酸エステル、リン酸塩等リン系難燃剤、アルカリ金属塩系難燃剤、金属水酸化物系難燃剤、ハロゲン系難燃剤等の難燃剤;ポリテトラフルオロエチレン、変性ポリテトラフルオロエチレン等のアンチドリッピング剤;ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤等の酸化防止剤;後述する熱可塑性樹脂等を含んでもよい。
【0044】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂に本発明のグラフト共重合体を配合したものである。
本発明の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)等のオレフィン系樹脂;ポリスチレン(PS)、ハイインパクトポリスチレン(HIPS)、(メタ)アクリル酸エステル・スチレン共重合体(MS)、スチレン・アクリロニトリル共重合体(SAN)、スチレン・無水マレイン酸共重合体(SMA)、ABS、ASA、AES等のスチレン系樹脂(St系樹脂);ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等のアクリル系樹脂(Ac系樹脂);ポリカーボネート系樹脂(PC系樹脂);ポリアミド系樹脂(PA系樹脂);ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル系樹脂(PEs系樹脂);(変性)ポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE系樹脂)、ポリオキシメチレン系樹脂(POM系樹脂)、ポリスルフォン系樹脂(PSO系樹脂)、ポリアリレート系樹脂(PAr系樹脂)、ポリフェニレン系樹脂(PPS系樹脂)、熱可塑性ポリウレタン系樹脂(PU系樹脂)等のエンジニアリングプラスチックス;スチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、塩化ビニル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリア
ミド系エラストマー、フッ素系エラストマー、1,2−ポリブタジエン、トランス1,4−ポリイソプレン等の熱可塑性エラストマー(TPE);PC/ABS等のPC系樹脂/St系樹脂アロイ、ポリ塩化ビニル(PVC)/ABS等のPVC系樹脂/St系樹脂アロイ、PA/ABS等のPA系樹脂/St系樹脂アロイ、PA系樹脂/TPEアロイ、PA/PP等のPA系樹脂/ポリオレフィン系樹脂アロイ、PBT系樹脂/TPE、PC/PBT等のPC系樹脂/PEs系樹脂アロイ、ポリオレフィン系樹脂/TPE、PP/PE等のオレフィン系樹脂同士のアロイ、PPE/HIPS、PPE/PBT、PPE/PA等のPPE系樹脂アロイ、PVC/PMMA等のPVC系樹脂/Ac系樹脂アロイ等のポリマーアロイ;硬質、半硬質、軟質塩化ビニル樹脂が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂の中でも、得られる成形体の耐衝撃性及び難燃性の向上の観点から、ポリカーボネート系樹脂が好ましい。
これらの熱可塑性樹脂は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
本発明のグラフト共重合体の配合量は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、0.1〜30質量部であり、1〜15質量部であることが好ましい。
グラフト共重合体の配合量が0.1質量部以上であると、得られる成形体の耐衝撃性及び難燃性に優れる。また、グラフト共重合体の配合量が30質量部以下であると、熱可塑性樹脂の本来の性質が損なわれない。
【0046】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、目的を損なわない範囲において、添加剤を配合してもよい。
添加剤としては、例えば、顔料;染料;ガラス繊維、金属繊維、金属フレーク、炭素繊維等の補強剤;充填剤;2,6−ジ−ブチル−4−メチルフェノール、4,4’−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)等のフェノール系酸化防止剤;トリス(ミックスド、モノ及びジニルフェニル)ホスファイト、ジフェニル・イソデシルホスファイト等のホスファイト系酸化防止剤;ジラウリルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネートジアステリアルチオジプロピオネート等の硫黄系酸化防止剤;2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン、2−(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤;ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)等の光安定剤;ヒドロキシルアルキルアミン、スルホン酸塩等の帯電防止剤;エチレンビスステアリルアミド、金属石鹸等の滑剤;テトラブロムフェノールA、デカブロモフェノールオキサイド、テトラブロモビスフェノールA(TBA)エポキシオリゴマー、TBAポリカーボネートオリゴマー、三酸化アンチモン、トリフェニルホスファイト(TPP)、リン酸エステル等の難燃剤;PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PTFEを含む有機重合体等のアンチドリッピング剤が挙げられる。
【0047】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂、本発明のグラフト共重合体及び必要に応じて添加剤を配合し、ロール、バンバリーミキサー、単軸押出機、2軸押出機等の公知の混練機で混練することにより調製することができる。これらは回分的又は連続的に運転することができ、各成分の混合順序は特に限定されない。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ペレット状にすることが好ましい。
【0048】
本発明の成形体は、本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる。
成形方法としては、例えば、カレンダー成形、押出成形、押出ブロー成形、射出成形、等の公知の成形方法が挙げられる。
【0049】
本発明の成形体は、優れた耐衝撃性、難燃性を有するため、建材、自動車、玩具、文房具等の雑貨、家電、電気・電子機器、OA機器等の種々の分野に幅広く利用することができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。但し、本発明は以下の記載によって限定されるものではない。尚、実施例における「部」及び「%」は、「質量部」及び「質量%」を示す。
実施例における各測定は、以下のように行った。
【0051】
(1)体積平均粒子径の測定
得られた重合体のラテックスを蒸留水で希釈して、濃度約3%のラテックス0.1mLの試料を作製し、キャピラリー式粒度分布測定器(機種名「CHDF2000」、MATEC社製)、粒子分離用キャピラリー式カートリッジ及びキャリア液(液性はほぼ中性)を用いて、流速1.4mL/分、圧力約2.76MPa(約4000psi)、温度35℃の条件で、体積平均粒子径を測定した。
尚、測定前には、粒子径既知の単分散ポリスチレン(DUKE社製)を標準粒子径物質とし、20〜800nmの合計12点の粒子径を測定して、検量線を作成した。
【0052】
(2)耐衝撃性(アイゾット衝撃試験)
得られた熱可塑性樹脂組成物を、ノッチ付き1/8インチバー、1/4インチバーに成形し、ASTM D−256に準拠して、23℃及び−30℃でのアイゾット衝撃試験を行った。
【0053】
(3)難燃性(UL−94V試験)
得られた熱可塑性樹脂組成物を、1/16インチの燃焼棒に成形し、UL−94V試験を行った。
【0054】
[製造例1]ポリオルガノシロキサンゴム(A1−1)ラテックスの製造
オクタメチルシクロテトラシロキサン96部、γ−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン2部、テトラエトキシシラン2部を混合して、シロキサン混合物100部を得た。
得られたシロキサン混合物に、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1部を溶解した脱イオン水150部を添加し、ホモミキサーにて10,000rpmで5分間攪拌した後、ホモジナイザーに20MPaの圧力で2回通し、シロキサンラテックスを得た。
次いで、冷却管、温度計及び攪拌装置を備えたセパラブルフラスコに、得られたシロキサンラテックスを投入し、硫酸0.2部と脱イオン水49.8部との混合物を3分間かけて滴下した。その後、80℃に加熱し7時間保持して重合を進行させた後、25℃に冷却し6時間保持し、水酸化ナトリウム水溶液で中和して、ポリオルガノシロキサンゴム(A1−1)ラテックスを得た。得られたポリオルガノシロキサンゴム(A1−1)ラテックスの固形分は29.8%、得られたポリオルガノシロキサンゴム(A1−1)の体積平均粒子径は435nmであった。
【0055】
[製造例2]ポリオルガノシロキサンゴム(A1−2)ラテックスの製造
オクタメチルシクロテトラシロキサン96部、γ−メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン2部、テトラエトキシシラン2部を混合して、シロキサン混合物100部を得た。
得られたシロキサン混合物に、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1部を溶解した脱イオン水200部を添加し、ホモミキサーにて10,000rpmで5分間攪拌した後、ホモジナイザーに20MPaの圧力で2回通し、シロキサンラテックスを得た。
次いで、冷却管、温度計及び攪拌装置を備えたセパラブルフラスコに、ドデシルベンゼンスルホン酸10部と脱イオン水90部を投入し、85℃に加熱し得られたシロキサンラテックスを2時間かけて滴下した。その後、85℃で3時間保持して重合を進行させた後
、25℃に冷却し6時間保持し、水酸化ナトリウム水溶液で中和して、ポリオルガノシロキサンゴム(A1−2)ラテックスを得た。得られたポリオルガノシロキサンゴム(A1−2)ラテックスの固形分は17.7%、得られたポリオルガノシロキサンゴム(A1−2)の体積平均粒子径は70nmであった。
【0056】
【表1】
【0057】
参考例1]
冷却管、窒素導入管、温度計及び攪拌装置を備えたセパラブルフラスコに、製造例1で得られたポリオルガノシロキサンゴム(A1−1)ラテックス234.9部(固形分換算で70部)、脱イオン水200部を投入した後、アリルメタクリレート5部、クメンヒドロパーオキシド0.3部の混合液を添加した。
フラスコ内に窒素気流を通じて窒素置換を行い、攪拌しながら昇温させ、液温が50℃に達した時点で、下記還元剤水溶液を添加して1段目の重合を開始し、液温を70℃にし1時間保持した。
還元剤水溶液:
硫酸第一鉄 0.001部
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩 0.003部
ロンガリット 0.24部
脱イオン水 10部
次いで、フェニルメタクリレート25部、クメンヒドロパーオキシド0.2部の混合液を、10分間かけて滴下した。滴下終了後、液温を70℃で1時間保持して2段目の重合を行い、グラフト共重合体のラテックスを得た。
酢酸カルシウムを5%溶解した水溶液500部を攪拌しながら60℃に加熱し、水溶液中にグラフト共重合体のラテックス340部を徐々に滴下し凝固させ、分離、水洗した後、乾燥してグラフト共重合体の粉体を得た。
熱可塑性樹脂としてポリカーボネート系樹脂(商品名:「ユーピロン2000F」、三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製、ビスフェノールAタイプポリカーボネート、粘度平均分子量約22,000)100質量部、酸化防止剤としてフェノール系酸化防止剤(商品名:「イルガノックス245」、チバ・ジャパン(株)製)0.3部、リン系酸化防止剤(商品名:「アデカスタブPEP36」、(株)ADEKA製)0.3部、滴下防止剤としてアクリル変性ポリテトラフルオロエチレン(商品名:「メタブレンA3800」、三菱レイヨン(株)製)1部、及び得られたグラフト共重合体5部を、30mmφ二軸押出機(機種名「PCM−30」、池貝製作所製)を用いて、280℃で溶融混練し、ペレット状に賦型し、熱可塑性樹脂組成物を得た。次いで、得られた熱可塑性樹脂組成物を、100t射出成形機(機種名「SE−100DU」、住友重機製作所製)を用いて、280℃で射出成形し、成形体(アイゾット衝撃試験及びUL−94V試験の試験片)を得た。
【0058】
参考例2〜5]
表2に示す組成比で重合を行った以外は、参考例1と同様の方法で、グラフト共重合体の粉体、熱可塑性樹脂組成物、成形体を得た。
【0059】
[実施例6]
冷却管、窒素導入管、温度計及び攪拌装置を備えたセパラブルフラスコに、製造例1で得られたポリオルガノシロキサンゴム(A1−1)ラテックス234.9部(固形分換算で70部)、脱イオン水200部を投入した後、n−ブチルアクリレート9部、アリルメタクリレート1部、クメンヒドロパーオキシド0.3部の混合液を添加した。
フラスコ内に窒素気流を通じて窒素置換を行い、攪拌しながら昇温させ、液温が50℃に達した時点で、下記還元剤水溶液を添加して重合を開始し、液温を70℃にして1時間保持し、ポリオルガノシロキサンゴム(A1)とポリアルキル(メタ)アクリレートゴム(A2)から構成される複合ゴムのラテックスを得た。
還元剤水溶液:
硫酸第一鉄 0.001部
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩 0.003部
ロンガリット 0.24部
脱イオン水 10部
次いで、アリルメタクリレート5部、クメンヒドロパーオキシド0.3部の混合液を添加して1段目の重合を行い、液温を70℃で1時間保持した。
更に、フェニルメタクリレート15部、クメンヒドロパーオキシド0.2部の混合液を、20分間かけて滴下した。滴下終了後、液温を70℃で1時間保持して2段目の重合を行い、グラフト共重合体のラテックスを得た。
これ以降の操作は参考例1と同様にして、グラフト共重合体の粉体、熱可塑性樹脂組成物、成形体を得た。
【0060】
参考例7]
冷却管、窒素導入管、温度計及び攪拌装置を備えたセパラブルフラスコに、製造例1で得られたポリオルガノシロキサンゴム(A1−1)ラテックス234.9部(固形分換算で70部)、脱イオン水200部を投入した後、フラスコ内に窒素気流を通じて窒素置換を行い、攪拌しながら昇温させ、液温が70℃に達した時点で、下記還元剤水溶液を添加した。
還元剤水溶液:
硫酸第一鉄 0.001部
エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩 0.003部
ロンガリット 0.24部
脱イオン水 10部
次いで、フェニルメタクリレート25部、クメンヒドロパーオキシド0.2部の混合液を、10分間かけて滴下した。滴下終了後、液温を70℃で1時間保持して重合を行い、グラフト共重合体のラテックスを得た。
これ以降の操作は参考例1と同様にして、グラフト共重合体の粉体、熱可塑性樹脂組成物、成形体を得た。
【0061】
[比較例1]
グラフト共重合体を配合しないこと以外は、参考例1と同様の方法で、熱可塑性樹脂組成物、成形体を得た。
【0062】
[比較例2〜5]
表2に示す組成比で重合を行った以外は、参考例1と同様の方法で、グラフト共重合体の粉体、熱可塑性樹脂組成物、成形体を得た。
【0063】
[比較例6]
表2に示す組成比で重合を行った以外は、実施例6と同様の方法で、グラフト共重合体の粉体、熱可塑性樹脂組成物、成形体を得た。
【0064】
得られた成形体の耐衝撃性、難燃性の評価結果を、表2に示す。
【0065】
【表2】


表中の略号は、以下の化合物を示す。
BA :n−ブチルアクリレート
AMA :アリルメタクリレート
PhMA:フェニルメタクリレート
MMA :メチルメタクリレート
AN :アクリロニトリル
St :スチレン
【0066】
表2から明らかなように、本発明のグラフト共重合体を配合した実施例で得られた成形体は、耐衝撃性、難燃性に優れた。
一方、グラフト共重合体を含まない比較例1で得られた成形体は、低温での耐衝撃性、難燃性に劣った。また、ビニル単量体(b1)を用いずに製造したグラフト共重合体を配合した比較例2〜6で得られた成形体は、低温での耐衝撃性、難燃性に劣った。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明のグラフト共重合体は、熱可塑性樹脂に配合することで、耐衝撃性、難燃性に優れた成形体を与えるため、得られる成形体は、建材、自動車、玩具、文房具等の雑貨、家電、電気・電子機器、OA機器等の種々の分野に幅広く利用することができる。