【文献】
岡田至崇,「量子ドット超格子による高効率太陽電池の開発」,応用物理,第79巻、第3号 (2010),第206頁−第212頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
バンドギャップが広い半導体中にバンドギャップが狭い半導体の微細構造が形成された量子構造では、微細構造に閉じ込められたキャリアによる量子効果が発現する。特にキャリアを三次元的に閉じ込める量子ドット構造は、顕著な量子効果に伴う種々の特性改善が想定されており、従来では見られない高機能・高性能の光デバイスや電子デバイス等の実現が期待されている。
【0003】
例えば、単接合型の半導体デバイスからなる太陽電池では、バンドギャップが単一であるために、広い太陽光スペクトルの全波長帯域について効率的に光電変換することができない。これを解決するためタンデム型(多接合型)の化合物半導体を用いた太陽電池が考案され、航空宇宙分野において実用化されている。しかしながら、タンデム型の太陽電池は製造プロセスが複雑で高コストであるとともに、エネルギー変換効率は集光下でも40%程度にとどまる。これに対し、エネルギーバンド間に量子ドットによる中間バンドを形成した太陽電池では、伝導体−価電子帯のバンドギャップよりも小さいエネルギーギャップの量子井戸が形成され、伝導体・価電子帯と切り離された中間バンドが形成されてバンド間の熱的緩和が抑制される。そのため、量子ドット構造体を有する太陽電池では60%程度の高いエネルギー変換効率が達成可能であると考えられている。
【0004】
基板上に量子ドット構造を形成する代表的な手法として、リソグラフィ技術を利用した方法と、自己組織化成長を利用した方法とがある。
【0005】
リソグラフィ技術を利用した量子ドット構造体の製造方法の概要を
図8に例示する。まず、(a)基板91の上面にn型(またはp型)半導体材料からなる第1のバリア層92を形成する。次に、(b)第1のバリア層92上にレジストを塗布し、電子ビームまたはイオンビーム等により量子ドットを形成すべき位置にドット像を描画し、現像して量子ドットの配列パターンに対応した多数のドット開口を有するレジストマスク93を形成する。そして、(c)分子線エピタキシャル(MBE)装置等によりドット開口部に量子ドット材料を結晶成長させてレジストマスクを除去する。これにより、多数の量子ドット95dが基板の第1のバリア層92上に所定の配列パターンで形成された量子ドット構造体が形成される。その後、(e)量子ドットが所定の配列パターンで形成された量子ドット層95を覆うようにp型(またはn型)半導体材料からなる第2のバリア層96を形成し、上下に電極を設けることでpn型(またはnp型)の半導体デバイス90Aが構成される(例えば、特許文献1を参照)。
【0006】
また、i型半導体材料により量子ドットを埋め込むようにして中間層を形成することで、
図9に示すように、pin型またはnip型の半導体デバイスが構成される。この場合、
図8と同様な(a)第1のバリア層92形成、(b)レジストマスク93形成,(c)量子ドット905d形成の工程後に、(d)i型半導体材料からなるキャップ層94を形成して量子ドット95dを埋め込み、(e)の第2のバリア層96を形成する工程を行うことによりpin型(またはnip型)の半導体デバイス90Bが構成される。また、キャップ層94の上にレジストを塗布して(b)〜(e)の工程を繰り返して行うことにより、複数の量子ドット層が積層された半導体デバイスを構成することができる(例えば、特許文献2を参照)。
【0007】
自己組織化成長法は、ストランスキー・クラスタノフ(Stranski-Krastanov:S−K)モード成長法と呼ばれる結晶成長法である。この手法は、基板上に基板表面とは異なる格子定数の格子不整合材料を、分子線エピタキシー(Molecular Beam Epitaxy:MBE)法あるいは有機金属気相成長(Metalorganic Vapor Phase Epitaxy:MOVPE)法等によりエピタキシャル成長させる結晶成長法である。S−Kモード成長法では、格子不整合材料を所定の臨界膜厚を越えてエピタキシャル成長させると、初期段階において基板表面に薄く堆積していた格子不整合材料が、あたかも凝集するかのように集まり、多数の微細なドットからなるドット構造体が形成される(例えば、特許文献2、特許文献3、非特許文献1を参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来のリソグラフィ技術を利用した量子ドット構造体の製造方法では、直径が5〜100nm程度とされる量子ドットのドッドサイズに合わせたドット像を、量子ドットの配列パターンに合わせて、電子ビーム等により多数描画する必要がある。このため量子ドット構造を形成するのに多大な時間がかかるという課題がある。特に、量子ドット層を複数積層して半導体デバイスを製造しようとすると莫大な時間と費用がかかり、実用的ではないという課題があった。
【0011】
一方、自己組織化成長法(S−Kモード成長法)を利用した量子ドット構造体の製造方法では、一度の結晶成長工程で多数の量子ドットが形成されるため、上記の問題を解決できる。しかしながら、この製造方法では、量子ドットが自己組織化成長の過程で自然発生的に生成されるため、生成される量子ドットの位置がランダムであり、ドットサイズも大きなばらつきを持つ。すなわち、自己組織化成長だけでは、量子ドットの位置、大きさ、密度等を制御することが困難であるという課題があった。
【0012】
そこで、量子ドットが形成される半導体層に、予め量子ドットの配列パターンに対応した局所的な歪みを生じさせておき、結晶界面に生じる歪みエネルギーを利用して、自己組織化成長法で生成される量子ドットの位置を制御する手法が提案されている(例えば、特開平10−289997号公報、Positional control of self-assembled quantum dots by patterning nanoscale SiN islands,Gotoh H.,Kamada H.,Sigemori S.,et al.,Appl.Phys.Lett.,2004.10)。この手法は、上層に局所的な歪みを誘起する歪み誘起ドットを量子ドットの配列パターンで基板上に形成し、その上に誘起ドットを覆う半導体層を形成して上面に歪みを誘起し、その上に自己組織化成長法で量子ドットを形成する製造方法である。
【0013】
このような製造方法によれば、量子ドットが所望の配列パターンで形成された量子ドット構造体を、自己組織化成長を利用して形成することができる。しかしながら、この製造方法においても、量子ドットを配列させるために形成する歪み誘起ドットはリソグラフィ技術を用いて形成されており、この歪み誘起ドットの形成工程に多大な時間を要する、という課題があった。
【0014】
本発明は、以上のような課題に鑑みてなされたものであり、量子ドットの位置、大きさ、密度等を制御可能であり、かつ多大な工数を要することなく量子ドットを形成することができる新たな手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記目的を達成するため、本発明を
例示する態様は量子ドット構造体の製造方法である。
この製造方法は、基板上に、上方に局所的な歪みを誘起する複数の歪み誘起ドットを量子ドットの配列パターンで形成する第1の工程と、歪み誘起ドットを覆う半導体層(例えば、実施形態におけるバリア層404、第1のバリア層604)を形成する第2の工程と、この半導体層の上にストランスキー・クラスタノフ(Stranski-Krastanov)モード成長法により量子ドットを形成する第3の工程とを含んで構成される。第1の工程は、量子ドットの配列パターンに対応するパターンのレーザ光を、歪み誘起ドット材料の薄膜により形成されたソースフィルムに照射し、該レーザ光が照射された部位から歪み誘起ドット材料の微小液滴を放出させ、ソースフィルムに対向配置した基板に歪み誘起ドット材料の微小液滴を固着させて、基板上に量子ドットの配列パターンに対応した所定配列パターンで歪み誘起ドットを形成するように構成される。
【0016】
なお、前記第1の工程は、基板上に前記所定配列パターンで歪み誘起ドットを形成するドット形成ステップと、ドット形成ステップで歪み誘起ドットが形成された基板およびソースフィルムを基板が延びる方向の面内で前記所定配列パターンのドット間隔よりも小さい微小距離移動させる移動ステップとを含み、移動ステップを挟んでドット形成ステップを複数回実行するように構成することができる。
【0017】
なお、前記量子ドットの配列パターンに対応するパターンのレーザ光は、量子ドットの配列パターンに対応する複数のドット開口が形成されたマスクにレーザ光を照射し、マスクを透過することにより量子ドットの配列パターンに対応するパターンになったレーザ光とすることができる。この場合に、ソースフィルムに、マスクに形成された複数のドット開口の像が結像されるように構成することができる。
【0018】
なお、本出願において「基板」とは、半導体デバイスのベースとなる基板そのもののほか、基板上にバリア層やバッファ層、ベース層、キャップ層などの半導体層が形成された状態のものを含む概念である。また、「覆う」とは該当する層を直接覆う場合に限らず、他の半導体層を介して覆う場合を含む概念である。
【発明の効果】
【0029】
本発明の態様の量子ドット構造体の製造方法では、複数の歪み誘起ドットを量子ドットの配列パターンで形成する第1の工程において、ソースフィルムから歪み誘起ドット材料の微小液滴が放出され、基板上に所定配列パターンで歪み誘起ドットが形成される。そして第2の工程で歪み誘起ドットを覆う半導体層が形成され、第3に工程で半導体層の上にS−Kモード成長法により量子ドットが形成されて、量子ドット構造体が構成される。従って、本態様の量子ドット構造体の製造方法によれば、量子ドットの位置、大きさ、密度等を歪み誘起ドットを介して間接的に制御可能であり、かつリソグラフィ技術を利用した手法のように多大な工数を要することなく、量子ドット構造体を製造することができる。
【0031】
本発明の態様の製造方法により製造される量子ドット構造体は、量子ドットの位置、大きさ、密度等を間接的に設定して構成することができ、かつリソグラフィ技術を利用した手法のように多大な工数を要することがない。従って、低コストで高品質の量子ドット構造を構成することができる。
【0033】
本発明の態様の製造方法により製造される半導体デバイスは、量子ドットの位置、大きさ、密度等を直接的に設定して構成することができ、かつリソグラフィ技術を利用した手法のように多大な工数を要することがない。従って、低コストで高機能・高性能の半導体デバイスを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
第1の態様の製造方法は、LIFT(Laser Induced Forward Transfer)技術を用い、半導体露光装置等におけるフォトマスク(レチクル)に量子ドットの配列パターンを形成して、この配列パターンをLIFT技術におけるソースフィルムに縮小投影することにより構成される。LIFT技術の概略の装置構成を
図10に示し、ソースフィルムで生じる微小液滴の生成過程を模式的に示す説明図を
図11に示す。
【0037】
図10に示すように、光源部81から出力されたパルスレーザ光Lpを、レンズ82により集光してソース85に入射させる。ソース85は、パルスレーザ光の波長帯の光を透過する透明材料のサポート部材85aと、サポート部材85aの裏面側に形成されたドット材料の薄膜であるソースフィルム85bとにより構成される。
図11(a)に示すように、サポート部材85aを透過させてソースフィルム85bにパルスレーザ光Lpを照射すると、ソースフィルム85b内において
図11(a)→(b)に示すように、溶融端面(Melting front)mfが球面状に拡がり、
図11(c)に示すように、溶融端面mfの中心部がソースフィルム85bの端面に達したところで、溶融層の体積変化や相変化に伴う圧力によってドット材料の微小液滴(ドロップレット)86が放出される。
【0038】
ソースフィルム85bから放出された微小液滴86は、ソースフィルム85bと対向して配置された基板88に着弾して固着し、
図11(d)に示すように、基板88上に微小なドット87が形成される。基板上に形成されるドット87のサイズは、ソースフィルム85bの膜厚や材質、パルスレーザ光Lpのパワー密度、光学系の開口数等によって変化する。逆説すれば、上記のようなパラメータを適切に制御することで、基板上に固着されるドットのサイズを制御することができる。代表的な例として、直径が集光スポット径の1/10程度のドットが形成された実験例が報告されている。この技術を適用することにより、基板上に光学系の分解能を超えた微細なドットを形成することができる。
【0039】
そして、例えば半導体露光装置において使用されるマスク(回路パターンが形成されたマスク)に代えて、量子ドットの配列パターンに対応したドット開口を形成したマスクを用い、所定の縮小倍率で投影したドットパターンの像を基板の直上に対向配置したソースフィルム85bに照射して結像することにより、基板上に所定の配列パターンでドットを形成することができる。また、例えば本出願人の出願に係る再公表特許WO2007/058188に開示したように、いわゆるマスクレスの露光装置の技術を適用しても良い。マスクレスの露光装置の技術を適用する場合には、可変成形マスクを有するパターン像生成装置により量子ドットの配列パターンに対応してパターン化されたレーザ光を生成し、所定の縮小倍率で投影したドットパターンの像を、半導体基板の直上に対向配置したソースフィルム85bに照射することにより、半導体基板上に所定の配列パターンでドットを形成することができる。ドットの位置や密度は、マスクに形成するドット開口の配列パターンや縮小倍率、パターン像生成装置の設定倍率等により制御することができる。
【0040】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
図1に本発明の
製造方法を実現するのに好適な量子ドット構造体の製造装置の模式的な概要構成図を例示しており、この図を参照して、量子ドット構造体の製造装置10の概要構成から説明する。
【0041】
(量子ドット構造体の製造装置)
量子ドット構造体の製造装置(以下、製造装置という)10は、パルスレーザ光を出力する光源部11、光源部11から出力されたパルスレーザ光をマスク20に照射する照明光学系12、マスク20を保持するマスク支持部13、マスク20を透過したパルスレーザ光Liをソースフィルム25bに投影する投影光学系14、ソースフィルム25bが形成されたソース25を保持するソース支持部15、ソース支持部15に支持されたソース25を水平方向(XY方向)及び鉛直方向(Z方向)に移動及び位置決めするソースステージ16、基板30を保持する基板支持部17、基板支持部17に支持された基板30を水平方向(XY方向)及び鉛直方向(Z方向)に移動及び位置決めする基板ステージ18、及び各部の作動を制御する制御部19などから構成される。
【0042】
光源部11は、波長が紫外〜真空紫外領域で、パルス幅が数十fsec〜数nsec程度と短く、ピーク強度がMWクラスのパルスレーザ光を出力可能なレーザ光源が用いられる。このような光源部として、例えば、波長が248nmのKrFエキシマレーザ、波長が193nmのArFエキシマレーザ、波長が157nmのF
2レーザなどが例示される。なお、半導体レーザから出力された赤外領域のレーザ光をファイバ光増幅器で増幅し、これを波長変換光学系で波長変換して紫外〜真空紫外領域の光を出力する全固体型レーザを用いてもよい。
【0043】
照明光学系12は、光源部11から出力されたパルスレーザ光を、マスク20の照射領域を均一な照度の照明光で照射する光学系である。このような照明光学系12は、既に半導体露光装置や液晶露光装置等で用いられている照明光学系を利用し、公知の技術を適用して構成することができる。マスク支持部13や投影光学系14、基板支持部17、基板ステージ18等についても同様である。なお、実施形態では、照明光学系12としてマスク20を均一な照度で照明する構成を例示するが、照度分布は均一なものに限らず、公知の露光装置等で用いられる種々の形態の照明光学系を用いることができる。
【0044】
マスク20には、基板30に形成すべき量子ドットの位置、大きさ、配列パターンに対応し、投影光学系14の縮小倍率に応じた倍率で複数のドット開口が形成されて構成される。例えば、投影光学系14により縮小投影されソースフィルム25に結像されたときのドット径及びドット間隔が50nm〜1μm程度の正方格子状や最密充填格子状の配列パターンになるように構成される。ドットの位置、大きさ、配列パターンが規定されたものをドットパターンという。なおドットの直径は単一であっても複数種類であっても良い。マスク自体の基本的な構成は、半導体露光装置等で用いられるフォトマスク(レチクル)と同様である。マスク20の基材は、光源部11の出力波長に応じた材料が用いられ、例えば化学合成された高純度の合成石英ガラスやフッ化カルシウム(合成蛍石)などが用いられる。
【0045】
投影光学系14は、マスク20を透過してドットパターンの情報をもったパルスレーザ光Liを、所定の縮小倍率でソース支持部15に保持されたソース25に照射し、ソース25に形成されたソースフィルム25bにドットパターンの像を結像する。投影光学系14の縮小倍率は任意に設定することができるが、例えば1/4〜1/10程度に設定される。
【0046】
本構成例において、ソース25は、パルスレーザ光の波長帯の光を透過する透明材料のサポート部材25aと、サポート部材25aの裏面側に形成されたドット材料のソースフィルム25bとにより構成される。サポート部材25aは、例えば合成石英ガラスやフッ化カルシウムを薄板状に加工成形したものを用いることができる。ソースフィルム25bは、基板30上に形成するドットの材料を、MBE法やMOVPE法、CVD法、あるいはスパッタリング等によりサポート部材25aの裏面に堆積させて形成することができる。
【0047】
ドット材料は、ベースとなる基板や生成するドットの種別等に応じて適宜なものを用いることができる。生成するドットが量子ドットである場合の例として、後述するInAsやInGaAs、InPなどが例示される。また、生成するドットが歪み誘起ドットである場合の例として、SiNやInGaAsなどが例示される。ソースフィルム25bの厚さは、LIFT技術を適用可能な範囲で基本的には任意であるが、LIFT技術においては膜厚が薄いほど放出される微小液滴の体積が小さく、小径のドットが基板に固着される傾向が見られる。そのため、量子ドット構造の作製を目的とする場合には、ソースフィルム25bの膜厚は10nm〜1μm程度が好適と考えられる。
【0048】
ソースステージ16は、ソース支持部15に支持されたソース25を水平方向(XY方向)及び鉛直方向(Z方向)に移動させ、位置決めするステージである。製造装置10においては、投影光学系14により結像されるマスク20のドット像が、ソース25におけるソースフィルム25bの上面(サポート部材25aとの界面)に焦点を結ぶことが求められる。また、パルスレーザ光の1パルスでソースフィルム25bから微小液滴26が放出され、集光スポット位置の膜厚が減少するため、ソース25を水平面内で移動させる必要が生じる。ソースステージ16はこの要件を満たすように構成されており、ソースフィルム25bが所定の高さ位置(焦点位置)になるよう調整設定可能であるとともに、微小液滴26の放出後にソース25を水平面内で移動可能に構成される。
【0049】
基板30は、表面に量子ドット構造を形成する対象物であり、適宜な組成及び半導体層(バッファ層、バリア層、ベース層、キャップ層等)が形成された基板を用いることができる。このような基板の代表例として、GaAs基板やInP基板などが例示される。基板30は、ソース25の下面(ソースフィルム25bの下面)と基板30の上面とが平行で、その間隔が1〜100μm程度の範囲で所定間隔(例えば数十μm)となるように配置される。基板ステージ18は、ソースフィルム25bと基板30との間隔が所定間隔となるようにZ方向に調整設定可能に構成されるとともに、微小液滴26が基板に固着した後に基板30を水平面内で移動可能に構成される。
【0050】
以上では、板状のソース25を用い、ソース25を支持するソース支持部15をソースステージ16によって移動させる形態を例示したが、本技術の製造装置は、パルスレーザ光Liの照射後にソースフィルム25bを移動可能であればよい。
図2にソースフィルムを移動させるための他の構成例を示す。なお、上述した製造装置10と同様構成の部分に同一番号を付して重複説明を省略する。本構成例において、ソース25′は可撓性を有し、投影光学系14を挟んで対向配置された供給ロール28aと巻き取りロール28bとの間に張り渡される。パルスレーザ光Liが照射されると、巻き取りロール28bが回動してソース25′を所定量巻き取り、パルスレーザ光Liの照射領域に供給ロール28a側から未使用領域のソースフィルムが供給される。なお、ソース25′は、パルスレーザ光Liの波長及び強度に応じてフッ素樹脂フィルム等の樹脂材料のサポート部材25aを備えた構成とすることができる。また、サポート部材25aを設けず、ドット材料からなるソースフィルム(25b)のみによってソース25′を構成しても良い。
【0051】
また、以上では、板状の基板30にドットを形成する場合を例示したが、基板が可撓性を有するような場合には、上記ソース25′と同様にロールtoロールの構成とすることができる。
図3にこのような場合の構成例を示す。なお、上述した製造装置10と同様構成の部分に同一番号を付して重複説明を省略する。可撓性を有する基板フィルム30′は、基板フィルムを支持する基板支持部(不図示)を挟んで対向配置された供給ロール38aと巻き取りロール38bとの間に張り渡される。パルスレーザ光Liの照射により基板フィルム30′にドットが形成されると、巻き取りロール38bが回動して基板フィルム30′を所定量巻き取り、微小液滴26の放出領域に供給ロール38a側から新たな基板フィルムが供給される。
【0052】
このような量子ドット構造体の製造装置10によれば、以下に説明する製造方法による量子ドット構造体の製造を高い生産性で効率的に行うことができる。
【0053】
次に、以上説明した製造装置10を用いた量子ドット構造体の製造方法(以下、製造方法という)、及びこの製造方法で作成される量子ドット構造体について説明する。まず、第1構成形態の製造方法PM1及び量子ドット構造体QDS1について、その概要を示す
図4を併せて参照しながら説明する。
【0054】
(第1構成形態の製造方法及び量子ドット構造体)
第1構成形態の製造方法PM1は、基板30に直接量子ドットを形成する手法である。本実施形態においては、GaAsの基板上にInAsの量子ドットを形成する構成例について説明する。
【0055】
マスク支持部13に、基板30に形成する量子ドットのドットパターン、及び投影光学系14の縮小倍率に応じた倍率でドット開口が形成されたマスク20を取り付ける。ソース支持部15には、量子ドット材料のソースフィルム25bが形成されたソース25を保持させる。本構成例においては、合成石英のサポート部材25aの下面側にInAsのソースフィルム25bが形成されたソースを使用する。そして、ソースステージ16によってソース25を昇降し、マスク20のドットパターンがサポート部材25aとソースフィルム25bとの界面(ソースフィルムの上面)に結像するようにソースフィルム25の高さ位置を調整設定する。
【0056】
基板支持部17には、量子ドットを形成する基板30を保持させる。本構成例においては、
図4(a)に示すように、GaAs基板301上にGaAsのバリア層304が形成された基板を使用する。そして、基板ステージ18により水平面内での位置決め、及びソースフィルム25b下面と基板30上面との間隔を調整設定する。
【0057】
そして、光源部11からパルスレーザ光を出力してマスク20に照射し、マスク20を透過したパルスレーザ光Liを投影光学系14を介してソースフィルム25bに照射して、マスク20に形成されたドットパターンの像を所定縮小倍率で結像させる。
【0058】
ドットパターンの各ドット領域では、
図11を参照して説明したように局所的にソースフィルム25bが溶融し、
図4(b)に示すように、ソースフィルム25bから量子ドット材料であるInAsの微小液滴26が放出される。ソースフィルム25bから放出された微小液滴26は、
図4(c)に示すように、ソースフィルム25bに対向配置された基板30のバリア層304に着弾して固着し、量子ドットQD1となる。このような製造方法により、
図4(d)に示すように、量子ドットQD1が所定の配列パターンで基板30上に形成された第1構成形態の量子ドット構造体QDS1が構成される。
【0059】
なお、上記のようにして作成された量子ドット構造体QDS1は、その後の成膜工程に先立って適切な条件でアニールすることにより、所望の結晶構造を有する量子ドット構造体とすることができる。
【0060】
このような構成形態の製造方法PM1によれば、わずか1ショットのパルスレーザ光を照射する工程で、ソースフィルム25bに縮小投影されたドットの配列パターンと1:1で対応する多数の量子ドットQD1を備えた量子ドット構造体QDS1が製造される。従って、本構成形態の製造方法PM1によれば、量子ドットの位置、大きさ、密度等を直接的に制御可能であり、かつ極めて短時間で所望の量子ドット構造体を製造することができる。
【0061】
なお、ソース25及び基板30を水平面内で微小距離ステップ移動させながら順次1:1のドット群を形成し、複数ステップで基板上に所定のドットパターンを形成するように構成しても良い。例えば、ソースフィルム25bに縮小投影されたドットパターンが間隔Lの正方格子である場合に、基板30をL/100ずつX方向及びY方向にステップ移動させながら順次1:1のドット群を形成することにより、ドット間隔がL/100、密度が100倍の正方格子状の量子ドット構造体を製造することができる。従って、このような製造方法によれば、ソースフィルム25bに縮小投影されるドットの配列パターンよりも更に高密度の量子ドット構造体を製造することができる。
【0062】
(第2構成形態の製造方法及び量子ドット構造体)
次に、第2構成形態の製造方法及び量子ドット構造体について、
図5を参照して説明する。第2構成形態の製造方法PM2は、基板30に量子ドットの配列パターンで歪み誘起ドット402を形成し、この歪み誘起ドットを利用してS−Kモード成長法により量子ドット構造体QDS2を形成する手法である。本実施形態においては、InPの基板上にInGaAsの歪み誘起ドットを形成し、その上にInAsの量子ドットを形成する構成例について説明する。
【0063】
マスク支持部13に、基板30に形成する量子ドットのドットパターン、及び投影光学系14の縮小倍率に応じた倍率でドット開口が形成されたマスク20を取り付ける。ソース支持部15には、歪み誘起ドット材料のソースフィルムが形成されたソース25を保持させる。本構成例においては、合成石英のサポート部材25aの下面側にInGaAsのソースフィルム25bが形成されたソース25を使用する。そして、ソースステージ16によってソース25を昇降し、マスク20のドットパターンがサポート部材25aとソースフィルム25bとの界面(ソースフィルムの上面)に結像するようにソース25の高さ位置を調整設定する。
【0064】
基板支持部17には、歪み誘起ドットを形成する基板30を保持させる。本構成例においては、
図5(a)に示すように、InP基板401を保持させる。そして、基板ステージ18により水平面内での位置決め、及びソースフィルム25b下面と基板30上面との間隔を調整設定する。
【0065】
そして、光源部11からパルスレーザ光を出力してマスク20に照射し、マスク20を透過したパルスレーザ光Liを投影光学系14を介してソースフィルム25bに照射して、マスク20に形成されたドットパターンの像を所定縮小倍率で結像させる。
【0066】
ドットパターンの各ドット領域では局所的にソースフィルム25bが溶融し、
図5(b)に示すように、ソースフィルム25bから歪み誘起ドット材料であるInGaAsの微小液滴26が放出される。ソース薄膜25bから放出された微小液滴26は、
図5(c)に示すように、ソースフィルム25bに対向配置されたInP基板401に着弾して固着する。これにより、InGaAsの歪み誘起ドット402dが所定の配列パターンで配設された歪み誘起ドット層402が形成される(
図5(d)を参照)。
【0067】
次に、歪み誘起ドット層402が形成された基板をMBE装置あるいはMOVPE装置に導入し、
図5(d)に示すように、歪み誘起ドット402dを埋め込むように歪み誘起ドット層402を覆うInAlAsのバリア層404を形成する。続いて、バリア層404上にS−Kモード成長法で所定膜厚のInAs膜を成長させる。その結果、InAs膜は、ごく薄い濡れ層を伴って多数の量子ドットQD2になる。量子ドットQD2の形成位置は、歪み誘起ドット402dの配設位置と一致し、歪み誘起ドット402dの配列パターンと同じ配列パターンになる。そのため、このような製造方法により、
図5(e)に示すように、量子ドットQD2が所定の配列パターンで基板30上に形成された第2構成形態の量子ドット構造体QDS2が構成される。
【0068】
このような構成形態の製造方法PM2によれば、わずか1ショットのパルスレーザ光を照射する工程で、ソースフィルム25bに縮小投影されたドットの配列パターンと1:1で対応する多数の歪み誘起ドット402dからなる誘起ドット層402が形成される。そして、この誘起ドット層402を覆ってS−Kモード成長法で量子ドット材料を結晶成長させることによって、歪み誘起ドット402dの配列パターンと1:1で対応する多数の量子ドットQD2を備えた量子ドット構造体QDS2が製造される。従って、本構成形態の製造方法PM2によれば、量子ドットの位置、大きさ、密度等を歪み誘起ドットを介して間接的に制御可能であり、かつリソグラフィ技術を利用した手法のように多大な工数を要することなく、短時間で所望の量子ドット構造体を製造することができる。
【0069】
なお、前述した構成形態の製造方法PM1と同様に、ソース25及び基板30を水平面内で微小距離ステップ移動させながら順次1:1のドット群を形成し、複数ステップで基板上に所定のドットパターンを形成するように構成することができる。そして、この複数ステップで歪み誘起ドットが高密度に形成された基板をMBE装置等に導入し、S−Kモード成長法により量子ドットを結晶成長させることにより、ソースフィルム25bに縮小投影されるドットの配列パターンよりも更に高密度の量子ドット構造体を製造することができる。
【0070】
(半導体デバイス)
以上説明した量子ドット構造体及びその製造技術は、発光ダイオードや半導体レーザ、単一光子暗号デバイス等の発光デバイス、太陽電池やフォトダイオード等の受光デバイス、光スイッチや光論理回路、量子コンピュータ等の論理デバイスなど、種々の半導体デバイスに適用可能である。本実施形態においては、このような半導体デバイスの代表例として、量子ドット構造を備えた太陽電池を採り上げ、その構成例について簡潔に説明する。
【0071】
(第1構成形態の太陽電池)
前述した製造方法PM1を適用した第1構成形態の太陽電池PV1について、その断面を示す
図6を参照して説明する。例示する太陽電池PV1は、n−GaAsの基板501上に、n−GaAsのバッファ層503、及びGaAsの第1のバリア層504が形成され、その上に、前述した製造方法PM1によりInAsの量子ドット505d(QD1)が所定のドットパターンで配列された量子ドット層505が形成される。量子ドット層505の上には、量子ドット505dを埋め込むように覆うGaAsのキャップ層506、GaAsの第2のバリア層507が形成されてpin構造が形成される。さらにp−GaAsのバッファ層508、p−AlGaAsの窓層509が形成され、その後、n−GaAs基板501の下面側にn型電極521、p−AlGaAsの窓層509の上面側にp型電極522が形成されて太陽電池PV1が構成される。
【0072】
なお、第1のバリア層504と第2のバリア層507との間に、量子ドット層505を複数設けて太陽電池PV1を構成してもよい。この場合、InAsの量子ドット505dが配列された量子ドット層505、及び量子ドット505dを埋め込むように量子ドット層505を覆うGaAsのキャップ層506からなる中間層を、複数層重ねて構成すればよい。また、量子ドット層505をGaAsのベース層及びキャップ層により上下から挟み込むようにして中間層を形成し、この中間層を複数層設けるように構成してもよい。
【0073】
量子ドット層505が単層の場合、量子ドット505dの径、すなわちマスク20に形成されるドット開口の径を複数種類とすることにより、量子ドットの径が単一の場合よりも光電変換可能な波長帯域を拡大することができる。量子ドット層505が複数層の場合、量子ドットの径を、上記のように各層について複数種類としても、各層を単一径として層ごとに径が変わるように(例えば入射側の上層の量子ドット径を小径とし、下層に向かうに従って量子ドット径が大きくなるように)構成しても良い。このような構成によれば、光電変換可能な波長帯域を更に拡大することができる。
【0074】
このように構成される太陽電池PV1は、量子ドット層505が既述した製造方法PM1を適用して形成される。そのため、太陽電池PV1においては、太陽光のスペクトル分布に適応したドットパターンの量子ドット層を備えることにより、変換効率が高く、かつ量子ドット層の形成時間が短いため製造コストを低減することができる。従って、低コストで高機能・高性能の太陽電池を提供することができる。
【0075】
(第2構成形態の太陽電池)
次に、前述した製造方法PM2を応用した第2構成形態の太陽電池PV2について、その断面を示す
図7を参照して説明する。例示する太陽電池PV2は、n−GaAsの基板601上に、前述した製造方法PM2を適用して、歪み誘起材料であるSiNからなる歪み誘起ドット602d(QD2)が所定のドットパターンで配列された歪み誘起ドット層602が形成される。歪み誘起ドット層602の上には、歪み誘起ドット602dを埋め込むように覆うn−GaAsのキャップ層603、AlGaAsの第1のバリア層604が形成される。第1のバリア層604の上には、量子ドット材料であるInGaAsをS−Kモード成長法で成長させることにより、誘起ドット602dの配列パターンに対応した多数の量子ドット605dが配列された量子ドット層605が形成される。そして、量子ドット層605の上に、量子ドット605dを埋め込むように覆うGaAsのキャップ層606、AlGaAsの第2のバリア層607が形成されてpin構造が形成される。さらにp−GaAsのバッファ層608、p−AlGaAsの窓層609が形成され、n−GaAs基板601の下面側にn型電極621、p−AlGaAsの窓層609の上面側にp型電極622が形成されて太陽電池PV2が構成される。
【0076】
なお、第1構成形態の太陽電池PV1と同様に、第1のバリア層604と第2のバリア層607との間に、量子ドット層605を複数設けて太陽電池PV2を構成してもよい。この場合、InGaAsの量子ドット605dが配列された量子ドット層605、及び量子ドット605dを埋め込むように量子ドット層605を覆うGaAsのキャップ層606からなる中間層を、複数層重ねて構成すればよい。このとき、S−Kモード成長法で形成される上層の量子ドットは、歪み場の影響を受けて下層の量子ドットの直上に形成されるため、ドットパターンを保持して複数の中間層を形成することができる。GaAsのベース層及びキャップ層により量子ドット層605を上下から挟み込むようにして中間層を形成する場合についても同様である。また、量子ドット層605が単層の場合及び複層の場合の量子ドット605dの径についても、第1構成形態の太陽電池PV1について説明したのと同様である。
【0077】
このように構成される太陽電池PV2は、量子ドット層605が既述した製造方法PM2を適用して形成される。そのため、太陽電池PV2においては、太陽光のスペクトル分布に適応したドットパターンの量子ドット層を備えて変換効率が高く、かつ量子ドット層の形成時間が短いため製造コストを低減することができる。従って、低コストで高機能・高性能の太陽電池を提供することができる。
【0078】
以上では、量子ドット層505,605が、pin構造を有する太陽電池PV1,PV2のi型半導体層に形成される構成例を説明したが、量子ドット層は、pn構造を有する太陽電池のpn接合領域に形成されるものであってもよい。また、半導体デバイスの代表例として太陽電池に適用した場合を説明したが、本説明からも明らかなように、同様の構成を有する他の半導体デバイス、例えば発光ダイオードや半導体レーザなど、前述したような種々のデバイスに適用可能であり、同様の効果を得ることができる。