特許第5896394号(P5896394)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5896394
(24)【登録日】2016年3月11日
(45)【発行日】2016年3月30日
(54)【発明の名称】複合構造の硬質材料およびその作製方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 29/08 20060101AFI20160317BHJP
   B22F 7/00 20060101ALI20160317BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20160317BHJP
   C22C 29/10 20060101ALI20160317BHJP
【FI】
   C22C29/08
   B22F7/00 H
   B23B27/14 B
   C22C29/10
【請求項の数】5
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2009-243473(P2009-243473)
(22)【出願日】2009年10月22日
(65)【公開番号】特開2011-89171(P2011-89171A)
(43)【公開日】2011年5月6日
【審査請求日】2012年4月27日
【審判番号】不服2014-18677(P2014-18677/J1)
【審判請求日】2014年9月18日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「希少金属代替材料開発プロジェクト/超硬工具向けタングステン使用量低減技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100102004
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 政彦
(72)【発明者】
【氏名】小林 慶三
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 公洋
(72)【発明者】
【氏名】西尾 敏幸
(72)【発明者】
【氏名】森口 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】石田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】池ヶ谷 明彦
【合議体】
【審判長】 木村 孔一
【審判官】 鈴木 正紀
【審判官】 河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−144300(JP,A)
【文献】 特開2003−89005(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 29/00-29/18
C22C 1/04- 1/05
B22F 1/00- 8/00
B23B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化チタンを含まない硬質材料層と、炭化チタンを含む硬質材料層を含む複合構造の硬質材料であって、
炭化チタンを含まない硬質層として2mass%ないし5mass%の炭化タンタルまたは炭化ニオブと炭化タングステン、コバルトないしニッケルを構成成分とする硬質材料層と、炭化チタンを含む硬質層として10mass%以上の炭化チタンと、0mass%超えの炭化タングステン、炭化モリブデンの2種ないし3種の炭化物とコバルトないしニッケルを構成成分とする硬質材料層とから構成される複合構造を有し、両層の界面部にコバルトないしニッケルの結合金属相、およびタングステン、チタン、タンタルまたはニオブの3種類の炭化物からなる複合炭化物(WC−TiC−TaCまたはNbC)の相を有すること、を特徴とする上記複合構造を有する硬質材料。
【請求項2】
炭化チタンを含まない硬質材料層が、少なくとも50mass%のタングステンを含む、請求項1記載の硬質材料。
【請求項3】
炭化チタンを含まない硬質材料層と、炭化チタンを含む硬質材料層とから構成される複合構造を有する硬質材料であって、両層の界面部の硬度が、両層の高い方の硬度より高くなっている、請求項1記載の硬質材料。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の複合構造を有する硬質材料を作製する方法であって、
炭化タンタルまたは炭化ニオブを2mass%ないし5mass%含有する炭化チタンを含まない炭化タングステンを主成分としてコバルトないしニッケルを結合金属相とする硬質材料層と、10mass%以上の炭化チタンを含む炭化タングステン、炭化モリブデンの2種以上の炭化物とコバルトないしニッケルを構成成分とする硬質材料層のそれぞれの層を構成するセラミックス粉末と金属粉末を混合した後、これらをプレス成形して作製した成形体を、真空中で、両層に含まれる金属が液相を生成する温度以上の1380℃ないしそれ以上に加熱して同時焼結し、両層の界面部に複合炭化物(WC−TiC−TaCまたはNbC)の相からなる反応層を形成し、界面部の金属量を低下させて、両層の剥離を防止するようにすること、を特徴とする複合構造を有する硬質材料の作製方法。
【請求項5】
請求項1から3のいずれかに記載の複合構造を有する硬質材料を作製する方法であって、
炭化タンタルまたは炭化ニオブを2mass%ないし5mass%含有する炭化チタンを含まない炭化タングステンを主成分としてコバルトないしニッケルを結合金属相とする硬質材料層と、10mass%以上の炭化チタンを含む炭化タングステン、炭化モリブデンの2種以上の炭化物とコバルトないしニッケルを構成成分とする硬質材料層のそれぞれの層を構成するセラミックス粉末と金属粉末を混合した後、これらをプレス成形して作製した成形体を、真空中で、両層に含まれる金属が液相を生成する温度以上の1380℃ないしそれ以上に加熱して同時焼結し、両層の界面部で、炭化チタンと炭化タングステンを含む複合炭化物(WC−TiC−TaCまたはNbC)の相を生成させて、両層の剥離を防止するようにすること、を特徴とする複合構造を有する硬質材料の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特性の異なる硬質材料を複合化する技術に関するものであり、さらに詳しくは、液相焼結で作製される超硬合金や、サーメット合金などの硬質材料に対して、特性の異なる硬質材料を同時に焼結して接合した複合構造を有する硬質材料、及びその作製方法に関するものである。本発明は、例えば、チップ、ドリル、エンドミルなどの切削工具、金型、耐摩耗部品、土木鉱山工具などに有用な新しい複合構造を有する硬質材料に関する新技術・新製品を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
超硬合金は、炭化タングステンを、鉄系金属で固めた複合材料であり、切削工具や金型、土木鉱山工具などの超硬工具として広く使われている。さらに、該複合材料の表面に、セラミックスをコーティングすることで、耐摩耗性を改善して、その利用分野が拡大されている。しかし、タングステンは、希少金属であるため、近年の価格上昇が大きく、超硬工具におけるタングステンの使用量を抑える技術が求められている。
【0003】
これまでに、超硬工具の表面の硬度を高める技術、あるいは超硬工具の内部の靭性を高める技術として、超硬工具を傾斜化する技術が開発されている。しかし、この技術では、硬質粒子と金属の割合を順次変えた多数の層を積層しなければならないため、特性の大きく異なる硬質材料を、同時に焼結することはできなかった。
【0004】
特に、炭化チタンを含む硬質材料は、超硬合金の耐熱性を改善する材料であり、高い耐熱性を有するために、高温での変形挙動が、超硬合金とは、大きく異なっている。その結果、同時焼結を行うと、両材料は、剥離あるいは亀裂が生じてしまい、超硬工具として利用できるものにはならなかった。
【0005】
特性の異なる硬質材料を接合する技術としては、両硬質材料の間に、金属層を挿入して、これらを接合する技術が開発されている。工業的にも、古くから、ロウ付けなどの、硬質材料の間に軟らかい層を挟み込む技術が実用化されているが、硬質材料に比べて、金属層は、耐熱性が低く、軟らかいため、これらの技術は、高温にさらされる部位への適用は難しい。
【0006】
また、これらは、切削工具などの刃先部で、高温が発生し、工具にも高い剛性が要求されるような用途では、硬度の低い金属層の挿入は、好ましくない場合もある。さらに、このような接合は、焼結された硬質材料に対して実施されるため、粉末冶金技術の特徴である複雑形状の成形を行うには、不向きであり、コスト上昇になってしまう。
【0007】
液相焼結が利用される超硬合金や、サーメット合金などの硬質材料では、硬質粒子の結合金属相成分として、鉄族金属(Fe、Co、Ni)のうちの1種あるいは2種以上が用いられている。硬質材料の特性を、その表面から内部にかけて連続的に変化させるため、結合相量を変化させる技術が開発されている。
【0008】
例えば、先行技術文献には、表面部のCo量を低くし、内部に向かってCo量が増加して、表面には、耐摩耗性を付与し、中心部を強靭性化した、超硬合金部材が記載されている(特許文献1)。また、表面層を、より硬質のセラミックスとし、中間層を介して、焼結合金へ傾斜化した、積層焼結体に関する技術も開発されている。
【0009】
例えば、他の先行技術文献には、セラミックスと金属あるいは他のセラミックスとの間に、傾斜組織の中間層を設け、この中間層に、ヤング率の低い第3成分を分布させる技術が開示されている(特許文献2)。また、他の先行技術文献には、焼結時に液相が緻密化を促進し、表面層とコア領域の間に、傾斜組織を有するようにした、焼結セラミックス材料、が開示されている(特許文献3)。
【0010】
さらに、他の先行技術文献には、耐熱性に優れる最外層と、機械的強度ならびに熱衝撃に強い基材との間に、傾斜的な中間層を設け、熱応力を緩和した積層焼結体、が開示されている(特許文献4)。しかし、これらの技術では、中間層を傾斜的な組成あるいは構造により作り込んでいるため、これらの技術を、限られた形状や寸法の中で実現する場合には、制約を受ける場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開昭63−24032号公報
【特許文献2】特開昭62−156938号公報
【特許文献3】特開昭64−45757号公報
【特許文献4】特開平4−319435号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、液相焼結で作製される硬質材料に対して、炭化チタンを含まない硬質材料層と、炭化チタンを含む硬質材料層を、同時に焼結することで、液相を介した硬質粒子を構成する元素の移動により、界面部で、複合炭化物が形成され、両層の剥離が生じないことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は、液相焼結により作製される硬質材料に対して、硬質粒子を形成するタングステン、チタン、タンタルおよび/またはニオブの特性を利用して、異なる特性の硬質材料を同時焼結して、界面の密着性を向上させた複合構造の硬質材料、およびその作製方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)炭化チタンを含まない硬質材料層と、炭化チタンを含む硬質材料層を含む複合構造の硬質材料であって、
炭化チタンを含まない硬質層として2mass%ないし5mass%の炭化タンタルまたは炭化ニオブと炭化タングステン、コバルトないしニッケルを構成成分とする硬質材料層と、炭化チタンを含む硬質層として10mass%以上の炭化チタンと、0mass%超えの炭化タングステン、炭化モリブデンの2種ないし3種の炭化物とコバルトないしニッケルを構成成分とする硬質材料層とから構成される複合構造を有し、両層の界面部にコバルトないしニッケルの結合金属相、およびタングステン、チタン、タンタルまたはニオブの3種類の炭化物からなる複合炭化物(WC−TiC−TaCまたはNbC)の相を有すること、を特徴とする上記複合構造を有する硬質材料。
(2)炭化チタンを含まない硬質材料層が、少なくとも50mass%のタングステンを含む、前記(1)記載の硬質材料。
(3)炭化チタンを含まない硬質材料層と、炭化チタンを含む硬質材料層とから構成される複合構造を有する硬質材料であって、両層の界面部の硬度が、両層の高い方の硬度より高くなっている、前記(1)記載の硬質材料。
(4)前記(1)から(3)のいずれかに記載の複合構造を有する硬質材料を作製する方法であって、
炭化タンタルまたは炭化ニオブを2mass%ないし5mass%含有する炭化チタンを含まない炭化タングステンを主成分としてコバルトないしニッケルを結合金属相とする硬質材料層と、10mass%以上の炭化チタンを含む炭化タングステン、炭化モリブデンの2種以上の炭化物とコバルトないしニッケルを構成成分とする硬質材料層のそれぞれの層を構成するセラミックス粉末と金属粉末を混合した後、これらをプレス成形して作製した成形体を、真空中で、両層に含まれる金属が液相を生成する温度以上の1380℃ないしそれ以上に加熱して同時焼結し、両層の界面部に複合炭化物(WC−TiC−TaCまたはNbC)の相からなる反応層を形成し、界面部の金属量を低下させて、両層の剥離を防止するようにすること、を特徴とする複合構造を有する硬質材料の作製方法。
(5)前記(1)から(3)のいずれかに記載の複合構造を有する硬質材料を作製する方法であって、
炭化タンタルまたは炭化ニオブを2mass%ないし5mass%含有する炭化チタンを含まない炭化タングステンを主成分としてコバルトないしニッケルを結合金属相とする硬質材料層と、10mass%以上の炭化チタンを含む炭化タングステン、炭化モリブデンの2種以上の炭化物とコバルトないしニッケルを構成成分とする硬質材料層のそれぞれの層を構成するセラミックス粉末と金属粉末を混合した後、これらをプレス成形して作製した成形体を、真空中で、両層に含まれる金属が液相を生成する温度以上の1380℃ないしそれ以上に加熱して同時焼結し、両層の界面部で、炭化チタンと炭化タングステンを含む複合炭化物(WC−TiC−TaCまたはNbC)の相を生成させて、両層の剥離を防止するようにすること、を特徴とする複合構造を有する硬質材料の作製方法。
【0015】
次に、本発明についてさらに詳細に説明する。
本発明は、特性の異なる硬質材料を積層成形した後に、同時に焼結できるようにしたことに特徴を有するものである。本発明では、これまで、液相を利用して焼結されてきた異種の硬質材料において、液相を介して硬質相を固溶・再析出させることで、両層の界面部に、反応相を形成し、それにより、物性の異なる異種硬質材料の同時焼結を実現している。
【0016】
本発明は、液相焼結によって作製される硬質材料において、炭化チタンを含む硬質材料層と、炭化チタンを含まない硬質材料層を、同時に焼結するために、液相を介した硬質粒子を構成する元素の移動によって、両層の界面部において、複合炭化物を焼結時に生成させることより、両層の剥離を防止していることに特徴を有するものである。
【0017】
本発明で用いられる液相焼結によって作製される硬質材料としては、炭化タングステンを主成分としてコバルトを結合相とした超硬合金や、炭化チタンあるいは炭窒化チタン(参考例)を主成分としてニッケルを結合相としたサーメット合金などが例示される。また、超硬合金の中には、耐熱性を向上するために、炭化チタンや炭化タンタルなどを添加したP種超硬合金やM種超硬合金が存在する。
【0018】
一般には、炭化チタンを含有する硬質材料は、耐熱性に優れるため、炭化チタンを含有しない硬質材料に比べて、高い温度での焼結が必要となる。炭化チタンを含まない硬質材料の一つであるK種超硬合金とサーメット合金の焼結温度には、一般に、100℃以上の温度差があり、同時に焼結することはできない。これは、液相の生成する温度の違いや、液相を形成する結合相と硬質粒子とのぬれ性の違い、硬質粒子の熱膨張の違い、などが原因とされている。そのため、あえて、これらの硬質材料を積み重ねて、同時に焼結すると、両者は、剥離することになる。
【0019】
液相を利用した焼結においては、溶解した金属相に、硬質粒子の一部が溶解する場合がある。この溶解した硬質粒子の一部は、冷却過程において、再度、硬質粒子を形成する場合もあるし、他の硬質粒子と複合化する場合もある。液相焼結が利用できる異種の硬質材料を、同時に焼結する際に、両層の界面部分で複合炭化物を形成させると、界面部は、相対的に結合金属相を減じることになり、両層の剥離を防止した、同時焼結を実現することができる。
【0020】
複合炭化物を効率的に生成するには、両硬質材料層内で液相を生成する金属として、コバルトが含まれていることが好ましい。複合炭化物は、炭化チタンへ炭化タングステンや炭化タンタル、炭化ニオブを固溶することによって、比較的低温で形成される。一般に、これらの固溶体を、それぞれの炭化物から作製する場合には、2000℃を超える高温が必要であるが、結合金属相の液体を介することで、低温にて合成することができる。
【0021】
さらに、両硬質材料層に含まれる硬質粒子を構成する元素の組み合わせを考慮することで、複合炭化物の生成場所を、両硬質材料層の界面部に制御することができる。なお、液相を介して複合炭化物を形成する際には、炭素が消費されるため、両硬質材料層の炭素含有量は、化学量論組成より多くしてから焼結した方が、脆化相を形成せずに、好ましい状態となる。
【0022】
本発明は、液相焼結を利用して作製された異なる硬質材料からなる焼結体に対して、それらの硬質材料を同時に焼結させる技術に関するものである。近年、液相焼結を利用して作製される硬質材料として、最も一般的である超硬合金の主たる硬質成分である炭化タングステンを構成するタングステンが、資源の希少性あるいは偏在性から、その価格が高騰し、安定した資源確保が難しくなっている。
【0023】
超硬合金は、例えば、金属材料を精密に加工する切削工具として、幅広い産業分野で利用されており、タングステンの安定確保が不可欠となっている。一方で、炭化チタンを主成分とするサーメット切削工具は、硬度や被削材に対する化学的安定性には優れるものの、強度が、超硬合金に比して劣るため、仕上げ切削などの低負荷の加工にしか利用されていない。
【0024】
異なる硬質材料を複合構造化する技術としては、古くから、ロウ付けなどの、硬質材料の間に軟らかい層を挟みこむ技術が知られている。また、異なる硬質材料の間に、傾斜組織などの中間層を形成し、物性を緩和する技術が利用されている。
【0025】
しかし、従来技術におけるロウ付けなどのように、硬質材料の間に軟らかい層を挟みこむ技術では、剛性が要求されるような用途には利用できない場合があり、また、中間層として、傾斜組織などを作りこむ技術では、限られたスペースで、物性を緩和する構造を実現することが難しい。そのため、これらの技術は、特殊な用途には有効であるものの、これまで、一般的なプロセスで作製されている廉価な小型部材、例えば、切削チップなどへの応用は難しい。
【0026】
本発明は、特性の異なる硬質材料の粉末を積層成形した後、同時に焼結できることに特徴がある。本発明では、これまで、液相を利用して焼結されてきた異種の硬質材料において、液相を介して硬質相を固溶・再析出させることで、両層の界面部に反応層を形成し、それにより、物性の異なる異種硬質材料の同時焼結を実現している。
【0027】
本発明において、特に、重要な構成の点は、以下の通りである。
(1)液相焼結により作製される硬質材料において、炭化チタンを含まない硬質材料層と、炭化チタンを含む硬質材料層を、同時に焼結した硬質材料であって、炭化チタンを含まない硬質材料層が、タンタルまたはニオブのうちの1種類以上を含有する複合構造の硬質材料の点。
【0028】
(2)液相焼結により作製される硬質材料において、炭化チタンを含まない硬質材料層と、炭化チタンを含む硬質材料層を含む複合構造の硬質材料であって、両層の界面部において、タングステン、チタン、タンタルまたはニオブの3種類炭化物が合成されている複合構造の硬質材料の点。
【0029】
(3)液相焼結により作製される硬質材料において、炭化チタンを含まない硬質材料層と、炭化チタンを含む硬質材料層を含む複合構造の硬質材料であって、両層の界面部において、コバルトやニッケルなどの硬質粒子の結合金属量が減少している構造を有する複合構造の硬質材料の点。
【0030】
本発明の複合構造の硬質材料の応用分野としては、例えば、チップ、ドリル、エンドミルなどの切削工具、金型、耐摩耗部品、土木鉱山工具などが例示される。
【発明の効果】
【0031】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)炭化チタンを含む硬質材料と、炭化チタンを含まない硬質材料を、異なる硬質材料とすることで、界面での反応を制御して、両硬質材料を同時に焼結することができる。
(2)本発明によって、炭化チタンを主成分とするサーメットと、炭化チタンを含まない超硬合金は、同時に焼結することが可能となり、両硬質材料の特性を生かした工具設計が可能となる。
(3)さらに、粉末成形時に任意の形状を作りこむことで、成形体の表面と内部を異なる硬質材料で作製することが可能となり、サーメットの軽量性を生かした、部材の軽量化が可能となる。
(4)また、硬質材料として、タングステンに比べて、比較的価格の安定しているチタンを利用することで、工具の価格変動を抑えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】炭化チタンを含まない硬質層としてWC−10mass%Coを、炭化チタンを含む硬質層のTiC−30mass%WC−18mass%Ni−7mass%Coの上に、プレス成形して、同時に焼結した焼結体の外観写真(左)と、上記炭化チタンを含まない硬質層に、さらに、2mass%TaCを添加して焼結した場合の焼結体の外観(右)を示す。
図2】炭化チタンを含まない硬質層WC−2mass%TaC−5mass%Ni−5mass%Coと、炭化チタンを含む硬質層TiC−30mass%WC−18mass%Ni−7mass%Coを、同時に焼結した焼結体の断面組織とエネルギー分散X線分光法(EDX)による元素分布を示す。
図3】炭化チタンを含まない硬質層WC−2mass%TaC−10mass%Coと、炭化チタンを含む硬質層TiC−30mass%WC−18mass%Ni−5mass%Coを、同時に焼結した焼結体の界面付近の断面組織とエネルギー分散X線分光法(EDX)による結合金属相であるニッケルとコバルトの分布を示す。
図4】炭化チタンを含まない硬質層WC−2mass%TaC−5mass%Ni−5mass%Coと、炭化チタンを含む硬質層TiC−30mass%WC−18mass%Ni−5mass%Coを、同時に焼結した焼結体の界面付近の断面組織とエネルギー分散X線分光法(EDX)による結合金属相である、ニッケルとコバルトの分布を示す。
図5】炭化チタンを含まない硬質層WC−2mass%TaC−10mass%Coと、炭化チタンを含む硬質層TiC−30mass%WC−5mass%Mo2C−10mass%Ni−10mass%Coを、同時に焼結した焼結体の界面付近の断面組織とエネルギー分散X線分光法(EDX)による組成の点分析を示す。
図6】炭化チタンを含まない硬質層WC−5mass%TaC−10mass%Coと、炭化チタンを含む硬質層WC−10mass%TiC−10mass%Coを、同時に焼結した焼結体の界面付近の断面組織(光学顕微鏡)を示す。
図7】炭化チタンを含まない硬質層WC−2mass%NbC−5mass%Ni−5mass%Coと、炭化チタンを含む硬質層TiC−30mass%WC−18mass%Ni−5mass%Coを、同時に焼結した焼結体の界面付近の断面組織とエネルギー分散X線分光法(EDX)による元素分析を示す。
図8】炭化チタンを含まない硬質層WC−2mass%TaC−6mass%Coと、炭化チタンを含む硬質層TiC−30mass%WC−5mass%Ni−20mass%Coを、同時に焼結した焼結体における界面付近のマイクロビッカース硬度の変化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0033】
次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの例によって何ら限定されるものではない。すなわち、本発明は、その技術思想の範囲で、本実施例以外の態様あるいは変形を全て包含するものである。
【実施例1】
【0034】
炭化チタンを含まない硬質層としてWC−10mass%Co組成を、炭化チタンを含む硬質層としてTiC−30mass%WC−18mass%Ni−7mass%Co組成を選択し、それぞれの層を構成するセラミックス粉末と金属粉末を、乳鉢にて均質に混合した後、TiC−30mass%WC−18mass%Ni−7mass%Co粉末を1.5gとり、プレス成形し、その上に、WC−10mass%Co粉末0.3gを均質に広げて、再度、プレス成形して、約10mm×10mm×5mmの成形体を作製した。この成形体を、真空中で、液相が生成する温度以上の1440℃に加熱して、焼結し、異なる硬質材料を同時に焼結した。
【0035】
得られた焼結体の外観は、図1(左)に示すように、WC−10mass%Co層が剥離した焼結体となった。上記方法において、WC−10mass%Coに、さらに、2mass%TaCを添加して、同じ条件にて焼結すると、図1(右)に示すように、異なる硬質材料の剥離を生じない焼結体を作製することができた。
【実施例2】
【0036】
炭化チタンを含まない硬質層としてWC−2mass%TaC−5mass%Ni−5mass%Co組成を、炭化チタンを含む硬質層としてTiC−30mass%WC−18mass%Ni−7mass%Co組成を選択し、それぞれの層を構成するセラミックス粉末と金属粉末を、ボールミルにて均質に混合した後、TiC−30mass%WC−18mass%Ni−7mass%Co粉末3.0gをプレス成形し、その上に、WC−2mass%TaC−5mass%Ni−5mass%Co粉末1.0gを均質に広げて、再度、プレス成形して、約15mm×15mm×4mmの成形体を作製した。この成形体を、真空中で、液相が生成する温度以上の1400℃に加熱して、10分間保持し、異なる硬質材料を同時に焼結した。
【0037】
得られた焼結体の異なる硬質材料が接触する界面近傍の電子顕微鏡写真は、図2に示すように、剥離や亀裂が生じることなく焼結できた。両硬質層の界面部には、両層とは組織的に異なる反応層が観察された。各硬質層を構成する元素の分布状態を、エネルギー分散X線分光法(EDX)により観察すると、界面部分で、ニッケルやコバルトなどの結合金属相が低減している層が観察された。また、この金属相が低減している領域では、タングステン、タンタルおよびチタンの分布が観察され、複合炭化物が生成したものと考えられる。
【実施例3】
【0038】
炭化チタンを含まない硬質層としてWC−2mass%TaC−10mass%Co組成を、炭化チタンを含む硬質層としてTiC−30mass%WC−18mass%Ni−5mass%Co組成を選択し、それぞれの層を構成するセラミックス粉末と金属粉末を、ボールミルにて均質に混合した後、TiC−30mass%WC−18mass%Ni−5mass%Co粉末を3.0gとり、プレス成形し、その上に、WC−2mass%TaC−10mass%Co粉末1.0gを均質に広げて、再度、プレス成形して、約15mm×15mm×4mmの成形体を作製した。この成形体を、真空中で、液相が生成する温度以上の1380℃に加熱して、10分間保持し、異なる硬質材料を同時に焼結した。
【0039】
得られた焼結体の接合部の断面組織は、図3に示すように、剥離や亀裂が生じておらず、同時焼結が行えた。接合部近傍のニッケルとコバルトの分散状態を、エネルギー分散X線分光法(EDX)により観察すると、界面部では、ニッケル、コバルトとも減少している層の存在が確認された。
【実施例4】
【0040】
炭化チタンを含まない硬質層としてWC−2mass%TaC−5mass%Co−5mass%Ni組成を、炭化チタンを含む硬質層としてTiC−30mass%WC−18mass%Ni−5mass%Co組成を選択し、それぞれの層を構成するセラミックス粉末と金属粉末を、ボールミルにて均質に混合した後、TiC−30mass%WC−18mass%Ni−5mass%Co粉末を3.0gとり、プレス成形し、その上に、WC−2mass%TaC−5mass%Co−5mass%Ni粉末1.0gを均質に広げて、再度、プレス成形して、約15mm×15mm×4mmの成形体を作製した。この成形体を、真空中で、液相が生成する温度以上の1380℃に加熱して、10分間保持し、異なる硬質材料を同時に焼結した。
【0041】
得られた焼結体の接合部の断面組織は、図4に示すように、剥離や亀裂が生じておらず、同時焼結が行えた。接合部近傍のニッケルとコバルトの分散状態を、エネルギー分散X線分光法(EDX)により観察すると、界面部では、ニッケル、コバルトとも減少している層の存在が確認された。チタンを含まない層の結合相に、ニッケルとコバルトを含有させても、界面部では、金属相の量が減少した。
【実施例5】
【0042】
炭化チタンを含まない硬質層としてWC−2mass%TaC−10mass%Co組成を、炭化チタンを含む硬質層としてTiC−30mass%WC−5mass%Mo2C−10mass%Ni−10mass%Co組成を選択し、それぞれの層を構成するセラミックス粉末と金属粉末を、ボールミルにて均質に混合した後、TiC−30mass%WC−5mass%Mo2C−10mass%Ni−10mass%Co粉末3.0gをとり、プレス成形し、その上に、WC−2mass%TaC−10mass%Co粉末0.5gを均質に広げて、再度、プレス成形して、約15mm×15mm×4mmの成形体を作製した。この成形体を、真空中で、液相が生成する温度以上の1480℃に加熱して、15分間保持し、異なる硬質材料を同時に焼結した。
【0043】
得られた焼結体の接合部の断面組織は、図5に示すように、剥離や亀裂が生じておらず、同時焼結が行えた。接合部近傍の組成を、エネルギー分散X線分光法(EDX)により測定すると、界面部では、ニッケル、コバルトとも減少していることが確認された。この部分では、チタン、タンタル、タングステンが測定され、炭素量も高いことから、複合炭化物を形成していることが確認できた。
【実施例6】
【0044】
炭化チタンを含まない硬質層としてWC−5mass%TaC−10mass%Co組成を、炭化チタンを含む硬質層としてWC−10mass%TiC−10mass%Co組成を選択し、それぞれの層を構成するセラミックス粉末と金属粉末をボールミルにて均質に混合した後、WC−10mass%TiC−10mass%Co粉末4.0gをとり、プレス成形し、その上に、WC−5mass%TaC−10mass%Co粉末4.0gを均質に広げて、再度、プレス成形して、約5mm×30mm×4mmの成形体を作製した。この成形体を、真空中で、液相が生成する温度以上の1380℃に加熱して、60分間保持し、異なる硬質材料を同時に焼結した。
【0045】
作製した焼結体の2層の界面付近の光学顕微鏡組織を、図6に示す。上側のWC−5mass%TaC−10mass%Co層では界面部分では、炭化タンタルがなくなった部分が認められ、界面部分で、炭化チタンや炭化タングステンとの複合炭化物を生成している。そのため、炭化タンタルがなくなった部分では、硬度が低下し、界面部分で上昇した後、WC−10mass%TiC−10mass%Co層で、少し硬度の低下が認められた。炭化タンタルの移動は、液相焼結による金属液相中への炭化タンタルや炭化タングステンの溶融による効果と考えられる。
【実施例7】
【0046】
炭化チタンを含まない硬質層としてWC−2mass%NbC−5mass%Ni−5mass%Co組成を、炭化チタンを含む硬質層としてTiC−30mass%WC−18mass%Ni−5mass%Co組成を選択し、それぞれの層を構成するセラミックス粉末と金属粉末を、ボールミルにて均質に混合した後、TiC−30mass%WC−18mass%Ni−5mass%Co粉末3.0gをとり、プレス成形し、その上に、WC−2mass%NbC−5mass%Ni−5mass%Co粉末1.0gを均質に広げて、再度、プレス成形して、約15mm×15mm×4mmの成形体を作製した。この成形体を、真空中で、液相が生成する温度以上の1480℃に加熱して、10分間保持し、異なる硬質材料を同時に焼結した。
【0047】
作製した焼結体の界面付近の走査型電子顕微鏡(SEM)による組織を、図7に示す。2層の接合部には、亀裂や割れは観察されず、良好な界面となっている。また、エネルギー分散X線分光法(EDX)により測定すると、界面近傍部で、コバルトやニッケルが増加した部分の直下に、コバルトやニッケルの減少した層が形成されていることがわかる。ニオブは、タンタルに比べて複合炭化の形成量は少ないようであるが、界面部分での金属相の減少や界面付近での複合炭化物の形成で、液相焼結を伴う異なる硬質材料の同時焼結を実現できた。
【実施例8】
【0048】
炭化チタンを含まない硬質層としてWC−2mass%TaC−6mass%Co組成、炭化チタンを含む硬質層としてTiC−30mass%WC−5mass%Ni−20mass%Co組成を選択し、それぞれの層を構成するセラミックス粉末と金属粉末を、ボールミルにて均質に混合した後、TiC−30mass%WC−5mass%Ni−20mass%Co粉末3.0gをとり、プレス成形し、その上に、WC−2mass%TaC−6mass%Co粉末0.5gを均質に広げて、再度、プレス成形して、約15mm×15mm×4mmの成形体を作製した。この成形体を、真空中で、液相が生成する温度以上の1440℃に加熱して、10分間保持し、異なる硬質材料を同時に焼結した。
【0049】
作製した2層の硬質材料からなる焼結体は、剥離や分離、亀裂などは認められなかった。作製した焼結体の界面付近の硬度変化を、荷重50gのマイクロビッカース硬度計により測定した。炭化チタンを含まない層では、界面に向かってやや硬度が低下し、界面部で、最も硬度が高くなった。さらに、炭化チタンを含む層になると、やや硬度は低下するが、炭化チタンを含まない層より高い硬度でほぼ一定となった。界面部での硬度上昇は、液相焼結時に生成した複合炭化物と結合金属相量の低下に起因するものと考えられる。また、このような硬度の変化を伴うことで、異なる硬質材料が剥離せずに、同時焼結できたものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
以上詳述したように、本発明は、複合構造の硬質材料およびその作製方法に係るものであり、本発明により、炭化チタンを含む硬質材料と、炭化チタンを含まない硬質材料を、異なる硬質材料とすることで、界面での反応を制御して、両硬質材料を同時に焼結することが可能となる。本発明において、炭化チタンを主成分とするサーメットと、炭化チタンを含まない超硬合金は、同時に焼結することが可能となり、それにより、両硬質材料の特性を生かした工具設計が可能となる。さらに、粉末成形時に任意の形状を作りこむことで、成形体の表面と内部を異なる硬質材料で作製することが可能となり、サーメットの軽量性を生かした部材の軽量化が可能となる。本発明は、タングステンに比べて、比較的価格の安定しているチタンを硬質材料として利用することで、工具の価格変動を抑えることが可能となる、複合構造の硬質材料を提供するものとして有用である。
図1
図2
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図4
図5
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図7
図8