【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度経済産業省委託研究「低炭素社会を実現する超軽量・高強度融合材料プロジェクト」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
YANG Y.l. 他7名,Single-walled carbon nanotube-reinforced copper composite coatings prepared by electrodeposition under ultrasonic field ,Materials Letters,NL,2008年 1月15日,Vol.62 No.1,Page.47-50
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、図面を参照して本発明に係るCNT金属複合材及びその製造方法について説明する。本発明のCNT金属複合材及びその製造方法は、以下に示す実施の形態及び実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、本実施の形態及び後述する実施例で参照する図面において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0047】
図1は、本発明の本実施形態に係るCNT金属複合材100の模式図である。
図1において、CNT金属複合材100の外部100aと、CNT金属複合材100を劈開、切断等した内部断面100bとを示す。また、
図2は、CNT金属複合材100の走査型電子顕微鏡(SEM)像である。CNT金属複合材100は、複数のCNT11により構成されたCNT集合体10に金属20を被着した複合材である。すなわち、複数のCNT11に金属20を被着してなるCNT集合体10を備えた構造を有する。CNT金属複合材100は、CNT集合体10の外部表面のみに金属20が被着したものではなく、CNT集合体10の内部のCNT11にも金属20が被着した構造を有する。このような構造を有することで、CNT金属複合材100は、高い電気導電性を有する。
【0048】
また、CNT金属複合材100は、例えば、金属として銅(Cu)をCNT集合体10に被着させた場合、線源としてCu−Kα線(λ=0.15418nm)を用いてCNT金属複合材100の内部断面100bのX線回折分析(X‐ray diffraction:XRD)をしたとき(θ―2θ法)に、金属(銅)に帰属される最も強度の大きいピークと、金属の酸化物(銅の場合、酸化銅(I)(Cu
2O)及び酸化銅(II)(CuO))に帰属される最も強度の大きいピークとの強度比が10以上であることが好ましく、より好ましくは20以上、さらに好ましくは50以上である。金属の酸化物に起因するピークがノイズレベルと同等で、観測できず、強度比が非常に大きく、実質的に測定できない状態を含んでも良い。上限には特に制限はないが、10万以上であると、金属の酸化物に起因するピークが非常に小さく、実質的に評価が困難である。この強度比は金属の酸化度を示し、強度比が大きければ、酸化された金属の割合が低いこと意味する。酸化銅は銅に比して導電性が著しく低いため、CNT金属複合材100は酸化銅が可能なかぎり少ないことが望ましい。本実施形態に係るCNT金属複合材100は、この強度比が10以上であることから、金属として用いた銅の酸化度が極めて低く、良好な導電性を示す。CNT集合体10の周表面を金属20が被覆し、
図1に示すような、金属層を形成している場合もあるため、X線回折分析は、CNT金属複合材100の内部を分析するものし、CNT金属複合材100を劈開、切断等して、内部断面100bを分析するものとする。その際、切断、劈開してから、分析するまで、CNT金属複合材100をできるだけ、酸素に晒さないようにすることが好ましい。
【0049】
CNT金属複合材100は、金属として銅(Cu)をCNT集合体10に被着させた場合、線源としてCu−Kα線を用いたXRDで測定された(111)、(200)、(220)の強度の大きさは、回折角2θが40°以上80°以下の範囲で(111)>(200)>(220)となることが好ましい。銅はこのような回折パターンを有することから、XRDで測定されたCNT金属複合材の(111)、(200)、(220)の強度の大きさがこのような回折パターンになれば、CNT金属複合材に酸化銅が含まれる割合が低いことを示す。したがって、上述のような回折パターンを示すCNT金属複合材100は、酸化銅がほとんど含まれず、優れた導電性を有する。
【0050】
このため、CNT金属複合材100は極めて低抵抗であって、体積抵抗率の上限として5×10
−3Ω・cm以下であることが好ましく、より好ましくは、1×10
−4Ω・cm以下、さらに好ましくは、5×10
−4Ω・cm以下である。体積抵抗率は低い方が好ましいが、下限として体積抵抗率を2×10
−6Ω・cmより小さくすることはできない。したがって、本実施形態に係るCNT金属複合材100は、高い導電性を有する優れたCNT金属複合材である。
【0051】
また、本実施形態に係るCNT金属複合材100は、CNTを3重量%以上、好ましくは5以上、さらに好ましくは10重量%以上、70重量%以下含む。CNT金属複合材100は、CNTの含有率が多くなるほど、軽量且つ高強度で、電気導電性や熱伝導性に優れたCNTの特性を有することとなり、好適なCNT金属複合材を製造することができる。CNTの含有率が3重量%未満であると、CNT金属複合材はCNTの優れた導電性を示さない。また、CNTの含有率が70重量%を超えても、CNT集合体の表面に被着する金属量が増加するのみで、CNT金属複合材の導電性は向上しない。
【0052】
また、本実施形態に係るCNT金属複合材100は、銅を20%体積含有率以上、さらに好ましくは25
体積含有率以上、70
体積含有率以下含むことが好ましい
。CNT金属複合材100は、CNTの含有率が多くなるほど、軽量且つ高強度で、電気導電性や熱伝導性に優れたCNTの特性を有することとなり、好適なCNT金属複合材を製造することができる。銅の含有率が20
体積含有率未満であると、CNT金属複合材は銅の優れた導電性を示さない。また、銅の含有率が70
体積含有率を超えても、CNT集合体の表面に被着する金属量が増加するのみで、CNT金属複合材の導電性は向上しない。
【0053】
液体窒素の77Kでの吸脱着等温線の計測し、この吸脱着等温線からBrunauer, Emmett, Tellerの方法で求めたCNT金属複合材100のBET比表面積は、0.1m
2/g以上100m
2/g以下、好ましくは80m
2/g以下、さらに好ましくは50m
2/g以下である。このBET比表面積が低ければ、金属とCNTが一体化していて、金属とCNTとの間に良好な界面が形成されていることを示す。このようなCNT金属複合材は、優れた導電性を有する。本実施形態に係るCNT金属複合材100は、上述の範囲のBET比表面積を有することで、優れた導電性を示す。
【0054】
本実施形態に係るCNT金属複合材100は、このような優れた導電性を有するのみならず、パターニングすることもできる。例えば、CNT金属複合材100を板状に形成することで、好適にパターニングすることができる。CNT金属複合材100の外形寸法を奥行き(D)、幅(W)及び厚み(T)としたときに、これらの何れかが1μm以上であることが好ましく、これらの2つ以上が1μm以上であれば、さらに好ましい。CNT集合体の内部のCNTにも金属が被着した構造を有するCNT金属複合材の製造は、従来技術では困難であったが、本実施形態に係るCNT金属複合材100は、このような大きなサイズのCNT金属複合材とすることが可能であり、パターニングに好適であるため、CNT金属複合材を用いた回路設計に大きな自由度を与えるものである。
【0055】
また、CNT金属複合材100は、線状に形成することもできる。CNT金属複合材100を線状に形成することで、配線や回路形成に用いることができる。線状に形成したCNT金属複合材100の外形寸法を奥行き(D)、幅(W)及び厚み(T)としたときに、これらの何れかが1μm以上であることが好ましく、これらの2つ以上が1μm以上であれば、さらに好ましい。本実施形態に係るCNT金属複合材100は、このような大きなサイズの線状のCNT金属複合材とすることが可能であり、CNT金属複合材を用いた配線の形成が可能であり、回路の製造に利用出来る。このようにCNT金属複合材100をパターニングすることで、配線や回路の製造に用いることができる。
【0056】
(CNT集合体)
ここで、本実施形態に係るCNTについて説明する。本実施形態に係るCNT11は、単層CNT(SWNT)が好ましい。本実施形態に係る単層CNTとしては、比表面積が、未開口のCNTが主であれば、800m
2/g以上が好ましく、1000m
2/g以上がより好ましい。また、開口のCNTが主であれば1300m
2/g以上が好ましく、1500m
2/g以上がより好ましい。CNTの比表面積は、大きければ大きいほど好ましいが、理論的計算によれば、未開口のものは1300m
2/g程度であり、開口したものは2600m
2/g程度であると説明されている。上述のような高比表面積を有する単層CNTを出するCNT集合体は、CNT金属複合材において金属とCNTの界面密度が高く、金属とCNTの特性を併せ持つ優れたCNT金属複合材を製造することができる。
【0057】
また、本実施形態に係るCNT11においては、炭素純度98mass%以上、および/または、金属不純物が1mass%以下であることが好ましい。不純物は、CNT金属複合材の導電性を低下させる。炭素純度98mass%以上、および/または、金属不純物が1mass%以下のCNTは、高い導電性を有するCNT金属複合材を製造する上で好適である。本実施形態に係るCNT11の純度は、蛍光X線を用いた元素分析結果から得られる。炭素純度に上限はないが、製造上の都合から、99.9999%以上の炭素純度を得ることは困難である。金属不純物の下限はないが、製造上の都合から金属不純物を0.0001%以下にすることは困難である。
【0058】
本実施形態に係るCNT集合体10は、細孔径の分布極大が50nm以下であることが好ましく、より好ましくは40nm以下、さらに好ましくは30nm以下が好ましい。単層CNT間のナノサイズの細孔径は、液体窒素の77Kでの吸着等温線から求めることができる。細孔径分布を求める理論式としては、細孔がシリンダ状であると仮定したBJH法(J. Amer. Chem. Soc.誌、第73巻(1951年)、第373頁参照)を用いるのがよい。本明細書で定義する細孔径は、液体窒素の77Kでの吸着等温線からBJH法で求めたものである。CNT間の細孔径の分布極大が上述の範囲にある場合、CNT金属複合材にCNTが高密度で存在し、CNTを高充填させたCNT金属複合材を製造することできる。このように、CNTを高充填させたCNT金属複合材100は、高い導電性を有する優れたCNT金属複合材である。
【0059】
また、本実施形態に係るCNT集合体10は、CNT11が集散したマトリックス構造を備える。
図3は、CNT集合体10の集散したマトリックス構造を示す模式図である。ここで、複数のCNTが「集合」したCNT集合体において、CNTが「集散」するとは、一部のCNTが局所的に集合したり、離れたりする、すなわち「離散」した状態を有することを意味する。便宜的に
図3においては、複数のCNT11が集合したCNT集合体10において、集合部15と、離散部17とを有するものとして示した。また、
図3において、集合部15aと集合部15bとは、互いに離散している。
【0060】
本実施形態に係るCNT集合体10は、CNT11が集散したマトリックス構造を備えるため、CNT間に電気が流れる経路が形成される。このため、集散したマトリックス構造を備えるCNT集合体10は、優れた導電性を有するCNT金属複合材100の製造に好適である。また、CNT集合体10は、離散部17において、金属20が被着可能な空間を形成することができる。これにより、
図1及び
図2に示したように、CNT金属複合材100は、細孔径の分布極大が50nm以下の高密度にCNTが存在するCNT集合体10において、CNT集合体10の外部表面のみではなく、CNT集合体10の内部のCNT11にも金属20が被着した構造を有することが可能となり、CNTを高充填させたCNT金属複合材100を製造することを可能にする。さらに集合部15においては、CNT同士が近接しているために、CNT間を電気が流れることができ、CNT金属複合材100のような優れた導電性を有するCNT金属複合材を製造することができる。
【0061】
本実施形態に係るCNT金属複合材100は、CNT11が集散したマトリックス構造を備えることが、優れた導電性を有するために好ましい。従来技術においては、CNTが集散したマトリックス構造を備えていないため、細孔径の分布極大が50nm以下の高密度にCNTが存在する条件下では、CNT集合体の内部まで、金属をCNTに被着することはできず、CNT間に電気が流れる経路は形成されない。そのため、従来技術においては、CNT金属複合材100のような優れた導電性を有するCNT金属複合材を製造することは困難であった。CNT金属複合材100は複数のCNT11が束になった繊維状の形態のCNT12を備えることが好ましい。複数のCNT11が束になった繊維状CNT12を備えると、CNT11同士が、連続的な構造体を形成しやすく、優れた導電性を有するCNT金属複合材の製造に好ましい。繊維状の形態のCNT12を
図4〜
図11に示す、実施例1で製造したCNT金属複合材100の内部断面100のSEM像などから観察することができる。
【0062】
ここで、繊維状CNT12は長さが2μm以上、より好ましくは3μm以上であることが好ましい。このような長い繊維状CNT12を備えるCNT金属複合材100は、CNT11が連続的な構造体を形成しやすく、優れた導電性を有する。
【0063】
CNT金属複合材100は、CNT11と金属20が複合されたものであるが、CNT11の太さ、集合密度、金属20の量などによって様々な被着状態がある。すなわち、比較的金属20の量が少ない場合にはCNT11の周囲や、CNT11の内側に付着したような被着構造となるが、比較的金属20の量が多くなると、金属粒子が融合して大きな粒を形成しCNT11や、集合状態のCNT(CNT集合体)の周囲を覆う形となる。この場合は、あたかも、金属20の大きな粒子内にCNT11(CNT集合体)が埋設されたような被着構造となる。本発明では、このような構造も含め、被着構造と呼ぶ。
【0064】
また、CNT集合体10は、CNTマトリックス構造を構成するCNTの表面に金属20を被着しているCNTを備える。被着しているとは、CNTの少なくとも1部が金属20に接触し、CNTの少なくとも1部が金属20を被覆し、CNTの少なくとも1部が金属20を被せ包むように着けられ、CNTの少なくとも1部が金属20の表面に膜を張るように着けられ、CNTの少なくとも1部が金属20の表面に接して間挿されていること等の広い意味で解釈する。本明細書において、被着しているとは、CNTマトリックス構造を完全に覆うようにコーティングするものではなく、
図1及び
図2に示したような、CNT集合体10の外部及び内部に金属20がすくなくとも一部に連続的にCNT11に被着したものである。
図2及び
図4〜
図11は実施例1で製造したCNT金属複合材100の内部断面100bのSEM像である。金属20は一見、離散した粒状体に見えるが、奥行きまで金属20が延びており、金属20同士で、連続的な構造体を形成している。本実施形態に係るCNT金属複合材100は、CNTマトリックス構造を構成するCNTの表面に金属20を被着することで、CNT11と金属20との間に良好な界面ができるため、優れた導電性を有するCNT金属複合材の製造に好ましい。
【0065】
CNT金属複合材100の内部の金属20はサイズが0.5μm以上、より好ましくは1μm以上の粒状体を備えることが好ましい。このような大きな粒状体を備えるCNT金属複合材100は、金属20同士が、連続的な構造体を形成しやすいため、優れた導電性を示す。ここで、金属20の粒状体のサイズはCNT金属複合材100の内部を倍率15,000倍で観察したSEM像から粒状の金属20のサイズを求めることで見積もることができる。例えば、粒状体の面積をパブリックドメインの画像処理ソフト(image J)により解析し、二次元面積を求めることで、粒状体のサイズを求めてもよい。
【0066】
本実施形態に係るCNT金属複合材100は、複数のCNTの少なくとも一部が配向した構造を有することが好ましい。CNT集合体10は、配向したCNT集合体(以下、「CNT配向集合体」という。)を材料としているため、高い配向性を有する。複数のCNT11の少なくとも一部が配向した構造を有するCNT金属複合材100は、CNT11の配向方向に良好な導電性を有する。一方、CNTをめっき電解液に分散してめっきする特許文献1や特許文献2の複合材は、CNT金属複合材100のようなCNTの一部が配向した構造を有しないため、CNTの配向方向に対する良好な導電性を示すものではない。
【0067】
(金属)
ここで、本実施形態に係るCNT金属複合材100のめっきに用いる金属について説明する。本明細書で、めっき金属とは、めっき処理を施すことができる金属のことを意味する。CNT金属複合材100のめっきに用いる金属としては、金、銅、銀、ニッケル、亜鉛、クロム、白金、スズ又はそれらの合金、或いは半田から選択することができる。本実施形態に係る金属は、これらに限定されるものではないが、これらの金属は高い導電性を有するため、CNT金属複合材100のめっきに好適に用いることができる。特に銅は導電性が高く、貴金属に比して安価であるため、工業材料として好適である。
【0068】
(基板)
本実施形態に係るCNT金属複合材100は、基板に載置して形成することができる。本実施形態に係る基板は、CNT集合体10が載置可能なものであれば、特に限定されない。一般に配線や回路等形成される基板であればよく、シリコン、シリコンカーバイド(SiC)、サファイア、リン化ガリウム(GaP)、ヒ化ガリウム(GaAs)ウェハー、リン化インジウム(InP)、窒化ガリウム(GaN)等の半導体基板、ガラス、導電性を有するSUS304などのステンレス鋼やYEF42−6合金等の金属基板、ポリアリレート(PAR)やポリエーテルスルホン(PES)、ポリカーボネート(PC)、ポリイミド、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のプラスチック基板等何れであってもよい。一方、CNT金属複合材100が導電性を有することから、本実施形態に係る基板は、少なくともCNT金属複合材100を載置する面は絶縁性の表面を備えることが好ましい。絶縁性の表面を備える基板にCNT金属複合材100載置することで、CNT金属複合材100をパターニングして、配線や回路を形成することができる。
【0069】
また、CNT金属複合材100は、CNT集合体10の位置及び/または配向を制御して基板に載置することが好ましい。先に説明したように、少なくとも一部が配向した構造を有するCNT金属複合材100は、CNT11の配向方向に良好な導電性を有する。このため、CNT集合体10の位置及び/または配向を制御して基板に載置することは、配線や回路に高い導電性を付与するために重要である。一方、CNTをめっき電解液に分散してめっきする従来の複合材は、CNT金属複合材100のようなCNTの一部が配向した構造を有しないため、CNTの位置及び/または配向を制御することにより、配線や回路に高い導電性を付与することはできない。
【0070】
(構造体)
本実施形態に係るCNT金属複合材100は、基板に当接する第1の部分、基板から離間する第2の部分、及び、第1の部分と第2の部分とを連結する第3の部分を備える構造を有することができる。
図4(a)及び
図4(b)は、その構造の概念図である。
図4(a)において、CNT金属複合材100は、基坂150に当接する第1の部分101と、基坂150から空間191をおいて離間する(この例では基坂150の上面から離間している)第2の部分103と、第1の部分101と第2の部分103とを連結する屈曲した第3の部分105とから構成される。また、
図4(b)に示したように、CNT金属複合材100は、基部150に当接する第1の部分101より下方に第2の部分103が位置し、基部150の適所に段部193を形成することもできる。
【0071】
先に説明したように、本実施形態に係るCNT集合体10を構成する複数のCNT11は、高い配向性(異方性)を有する。したがって、CNT集合体10は、その軸線を一定方向に向けており、第1の部分101、第2の部分103、及び第3の部分103における各配向軸が連続している。なお、CNT集合体10は、CNT11が集散したマトリックス構造を備えるため、CNT11に要求される配向性は、電解めっきの実施が可能となり、配線や回路等を実用化する上でのCNT構造体10の一体性、形状保持性、並びに形状加工性が許容される程度であればよく、必ずしも完全である必要はない。
【0072】
本実施形態に係るCNT構造体10は、任意の立体形状を自己保持できるので、凸部や凹部などの支持部を基部150に形成せずに、その第2の部分103である遊端部あるいは第3の部分105である中間部を基部150から離間させた状態を維持することができる。またその遊端部103あるいは中間部105に外力が作用した際には、その遊端部103あるいは中間部105を、外力の作用方向に応じて変位させることができ、且つ外力が消失した際には、元の状態に復元可能である。従って、CNT金属複合材100は、基板150の表面上に配線や回路を三次元的に配置することが可能で、その機械的特性や電気的特性と相俟って、配線、スイッチ、リレー、プローブ等のMEMS用デバイスや電子デバイスの構成部材として、集積回路などを形成する表面がフラットな基板に好適に使用することができる。一方、CNTをめっき電解液に分散してめっきする従来の複合材は、CNT金属複合材100のようなCNTの一部が配向した構造を有しないため、基板の表面上に配線や回路を三次元的に配置することは困難である。
【0073】
ところで、銅は大気に晒されると酸化され導電性が低下するため、本実施形態に係るCNT金属複合材100は、少なくとも一部が酸化防止のための膜により被覆することが好ましい。CNT金属複合材100は、酸化防止のための膜により被覆されることにより、製品として製造した後も酸化を防いで高い導電性を維持することができる。ここで、酸化防止のための膜とは、CNT金属複合材100の酸化を防げるものであれば、公知のものを適宜用いることができる。酸化防止のための膜の材質としては、樹脂や、酸化されにくい金属、不動体を例示できる。
【0074】
これまでにも述べたように、本実施形態に係るCNT金属複合材100は、高い導電性を有し、パターニングが可能であるため、導電材や配線として用いることができる。また、CNT金属複合材100で形成した配線を所定の間隔で配置することにより、回路を製造することができる。CNT金属複合材100は、高い導電性を有するため、各種回路の製造に好適である。
【0075】
(製造方法)
本実施形態に係るCNT金属複合材100の製造方法を以下に説明する。
図13は、CNT金属複合材100の製造方法を示す模式図である。CNT金属複合材100の製造は、(a)液体窒素の吸着等温線からBJH法で求めた細孔径の分布極大が50nm以下であるCNT集合体10を準備する工程と、(b)CNT集合体10を電解めっき液に浸漬し、電解めっきする第1の電解めっき工程と、(c)電解めっきされたCNT集合体110をアニールする工程と、を備える。
【0076】
(a)CNT集合体10を準備する工程は、CNT11からなるCNT配向集合体13を製造し、剪断する工程である。(b)CNT集合体10を電解めっき液に浸漬し、電解めっきする第1の電解めっき工程は、金属塩を溶解した溶液に準備したCNT集合体10を浸漬してCNT集合体10の内部まで浸透させ、電解めっきを施して、CNT集合体10の内部まで金属を被着させる工程である。(c)電解めっきされたCNT集合体110をアニールする工程は、電解めっきされたCNT集合体110を還元ガス雰囲気中でアニールして、CNT集合体10に被着した酸化された金属を還元する工程である。
【0077】
CNT集合体10を準備する工程は、本明細書で規定した条件を満たすCNT集合体が得られる限り限定はないが、例えば特願2010−544871、特願2009−144716の製造方法が例示される。CNT金属複合材100に用いるCNT配向集合体13の合成装置の一例を
図14に示す。この合成装置5000は触媒層5020を備える基板5010を受容する例えば石英ガラス等からなる合成炉5030と、合成炉5030の上壁に設けられ、合成炉5030と連通するガス供給管5040と、下流側の下壁もしくは側壁に設けられ、合成炉5030と連通するガス排気管5050と、合成炉5030を外囲して設けられた例えば抵抗発熱コイルなどからなる加熱手段5060と、炉内温度を所定の温度に調整するための加熱温度調整手段と、加熱手段5060と加熱温度調整手段により、所定温度に加熱された合成炉5030内の加熱領域5070と、を備える。また、加熱体積が排気体積より大きくなるように、合成炉5030内の加熱領域5070に、触媒層5020を備える基板5010を保持するための基板ホルダ5080が設けられている。
【0078】
基板ホルダ5080および/または、触媒層5020の上方の加熱領域5070内には、ガス供給管5040から供給される原料ガスを分配・分散させ、複数の方向へ流れる原料ガス流を形成させるガス流形成手段5210が配置されている。ガス流形成手段5210は、基板5010の表面に対して略平行の複数の方向に原料ガスの流れを形成する。またガス流形成手段5210には、基板5010の平面に対して略垂直方向の原料ガス流を形成する複数のガス噴出手段5200が設けられている。
【0079】
このようなガス流形成手段5210を用いることにより、ガス供給管5040から供給された原料ガスを、基板5010の平面と略平行な平面に展開・分散してから、基板5010の平面と略垂直方向から触媒と接触させることができる。
【0080】
ガス噴出手段5200と触媒層5020の間には、滞留時間を増加およびまたは調整するために、意図的に増加およびまたは調整された加熱体積と、ガス流形成手段5210と接続かつ連通された、複数枚の複数の孔を備える板状の整流板からなる乱流抑制手段5220から構成される滞留時間調整手段5140が設けられている。
【0081】
原料ガスが加熱領域5070内で加熱される加熱体積を増加させ、滞留時間が長くなる方向に調整すると、CNTへの炭素不純物の付着を抑制することができるため、CNT金属複合材100を得る上で好適である。
【0082】
乱流抑制手段5220は滞留時間調整手段5140内の原料ガスの乱流を抑制し、炭素不純物の発生を抑制することに好適であるため、CNT金属複合材100を得る上で好適である。
【0083】
合成装置は、CNTの原料となる炭素化合物を収容する原料ガスボンベ5090、触媒賦活物質を収容する触媒賦活物質ボンベ5100、原料ガスや触媒賦活物質のキャリアガスを収容する雰囲気ガスボンベ5110、および触媒を還元するための還元ガスボンベ5120を備えており、これらのボンベからのそれぞれのガスの供給量をガスフロー装置で制御可能な炭素重量フラックス調整手段5130を備えている。
【0084】
係る製造方法でのCNT配向集合体13の製造は、基板5010上に触媒層を製造し、その触媒から複数のCNTを化学気相成長(合成)させるものである。
【0085】
図14および
図15を参照しながら説明すると、先ず、ガス供給管5040から供給された雰囲気ガス(例えばヘリウム)が満たされた合成炉5030内に、触媒層5020(例えばアルミナ−鉄薄膜)を別工程で予め成膜した基板5010(例えばシリコンウエハ)を搬入し、基板ホルダ5080に載置する。このとき、触媒層5020表面と原料ガスの流路とが概して垂直に交わるように基板5010を配設し、原料ガスが効率良く触媒に供給されるようにする。
【0086】
次いでガス供給管5040から合成炉5030内に還元ガス(例えば水素)を供給しながら、合成炉5030内を所定の温度(例えば750℃)に加熱し、その状態を所望の時間保持するフォーメーション工程を行う。
【0087】
次いで炭素重量フラックス調整手段5130を用いてガス供給管5040からの還元ガスおよび雰囲気ガスの供給を所望(反応条件)に応じて停止あるいは低減すると共に、原料ガス(例えばエチレン)と、雰囲気ガスと、触媒賦活物質(例えば水)とを、ガス供給管5040から供給する。ガス供給管5040から供給されたこれらのガスは、基板5010の平面に対して略平行方向の複数の方向に向いたガス流を形成した後に、噴出孔から基板5010の平面に対して略垂直方向から略均一の量で、基板5010上の触媒層5020の表面に吹きかけられる。
【0088】
また、これらのガスは滞留時間調整手段5140によって、増加・調整された加熱体積5150を流れ、最適化された滞留時間を経た後に、炭素重量フラックス調整手段5130を用いて最適化された量で触媒層5020の表面に接触し、基板5010に被着した触媒微粒子から高速にかつ高収量で効率良くCNTが成長する(成長工程)。さらには、乱流抑制手段5220を用いることで、これらのガスは、略等しい滞留時間で、基板5010上の触媒微粒子に接触する。また、触媒層5020に接触した後には、これらのガスは速やかにガス排気管5050より排気され、炭素不純物の発生は最小限に抑えられる。
【0089】
CNTの生産終了後、合成炉5030内に残余する、原料ガス、触媒賦活物質、それらの分解物、または合成炉5030内に存在する炭素不純物等がCNT配向集合体13へ付着することを抑制するために、雰囲気ガスのみを流し、CNT配向集合体13への不純物の接触を抑制する(炭素不純物付着抑制工程)。
【0090】
このようにして、基板5010上の触媒層5020から同時に成長した複数のCNTは、触媒層5020に直交する向きに成長して、配向し、高さが概ねそろった高比表面積、高純度のCNT集合体10を構成する。したがって、CNT配向集合体13を高密度化したCNT集合体10は高い導電性を有するCNT金属複合材100を好適に製造することができる。
【0091】
このようにして得たCNT配向集合体13を基板5010に形成した触媒粒子から剥離する。次に、剥離したCNT配向集合体13は、垂直方向に配向したCNT配向集合体13を水平方向に配向したCNT集合体10に変形するように、2枚のシリコン基板6010の間で剪断することで高密度化する。このように製造されたCNT集合体10は、液体窒素の吸着等温線からBJH法で求めた細孔径の分布極大が50nm以下のCNT集合体となる。このようにして準備されたCNT集合体10を電解めっき工程に用いる。また、本実施形態に係るCNT金属複合材100の製造方法においては、剪断する工程に代わって、垂直方向に配向したCNT配向集合体13を基板5010から剥離して、シリコン基板6010の上に、水平方向に配向するように貼りつけてもよい。
【0092】
電解めっき工程においては、まず、CNT集合体10を2枚のシリコン基板6010で挟んだ状態で、有機溶媒を溶媒として金属塩を溶解した溶液6050にその先端を浸す。金属イオンは表面張力と毛細管現象により、CNT集合体10の内部まで浸透する。本実施形態に係るCNT金属複合材100においては、CNT集合体10に浸透させる金属イオン溶液6050は、水系溶媒よりも有機溶媒を用いることが望ましい。単にCNT集合体を高密度化するには水系溶媒を一般的に用いるが、本発明においては疎水性の高いCNT集合体10の内部まで金属イオンを浸透させること必要であるため、有機溶媒を用いる。本実施形態においては、特に、アセトニトリルが好ましい。アセトニトリルは、無機塩の非水溶媒として用いることができるため、CNT集合体10の内部まで金属イオンを浸透させるのに好適である。また、先に説明したように、本実施形態に係る金属塩としては銅を含む塩が好適である。
【0093】
次に、CNT集合体10を陰極6130にセットして電解めっき液6150に浸漬し、電解めっきを施す。本発明に係る電解めっき液6150には、上述したとおり、疎水性の高いCNT集合体10の内部まで金属を被着させること必要であるため、有機溶媒を溶媒として金属塩を溶解した金属イオン溶液を用いる。本実施形態においては、有機溶媒としてアセトニトリルを、金属塩として銅を含む塩を好適に用いることができる。したがって、本実施例においては、陽極6110に高純度の銅シートを用いる。また、電解めっき槽6100には、陽極6110と陰極6130とを電気的に分離するために絶縁スペーサ6170配置されるが、絶縁スペーサ6170は一般にガラス繊維から形成されている。本実施形態においては、絶縁スペーサ6170に、ろ紙を用いるのが好ましい。ガラス繊維の絶縁スペーサを用いて電解めっきを施すと、ガラス繊維がCNT金属複合材100に貼り付いてしまし好ましくない。
【0094】
また、CNT集合体10を電解めっきする工程においては、CNT集合体10を電解めっきする平均電流密度が10mA/cm
2以下であることが好ましい。平均電流密度が高いと、CNT集合体の外側がまずめっきされ、CNT集合体の内側まで十分にめっきされない。本実施形態に係るCNT金属複合材100のように、CNT集合体10の内部のCNT11にも金属20が被着した構造を形成するためには、平均電流密度を低くしてめっきすることが好ましい。
【0095】
CNT金属複合材100の製造においては、電解めっきされたCNT集合体10をアニールする。電解めっきされたCNT集合体10をアニールする工程は水素雰囲気中で行う。電解めっきされたCNT集合体10において、被着した金属は酸化しており、このままでは導電性が十分に高いものではない。電解めっきされたCNT集合体10は、水素のような還元ガス雰囲気中でアニールすることで、CNT集合体10に被着した酸化された金属を還元することができる。アニール工程の温度は、CNT集合体10に銅をめっきした場合には、100℃以上700℃以下が好ましく、150℃以上500℃以下がさらに好ましい。電解めっきされたCNT集合体10をこの範囲の温度でアニールすると、金属を析出させずに、かつ、金属同士を融合でき、CNT金属複合材100の一体性を向上させることができる。
【0096】
本実施形態に係るCNT金属複合材100は、アニールする工程の後に、さらにCNT金属複合材100を電解めっき液に浸漬し、電解めっきする工程を備えることが好ましい。アニールする工程の後にCNT金属複合材100をさらに電解めっきすることで、CNT集合体10に被着した金属の隙間をさらなるめっきで埋めることができ、導電性が向上する。なお、この2回目の電解めっき工程においては、水系溶媒に金属塩を溶解した電解めっき液を用いることが好ましい。水系溶媒としては、水が好ましい。水系溶媒に金属塩を溶解した電解めっき液は、金属の上に金属をめっきするのに好ましい。
【0097】
2回目の電解めっき工程を行った場合は、再度、CNT金属複合材100をアニールする。2回目のアニール工程も上述した1回目のアニール工程と同様に行うことができるため、詳細な説明は省略する。以上のような製造工程により、優れた導電性を有する本実施形態に係るCNT金属複合材100を製造することができる。
【0098】
(板状のCNT金属複合材の製造方法)
上述したように、本発明に係るCNT金属複合材100は、パターニングすることもできる。本発明に係るパターニングされたCNT金属複合材は、
図12(b)に示したように、CNT集合体をパターニングして電解めっきを施すことで製造できる。まず、板状のCNT金属複合材200の製造方法について説明する。板状のCNT金属複合材200は、板状のCNT集合体210を電解めっきすることにより製造する。
図16は、板状のCNT集合体210の製造工程を示す模式図である。板状のCNT集合体210は、上述したCNT集合体10を準備する工程において、特願2008−038029などに記載の方法を用いればよく、パターニングされた触媒層を用いて、パターニングされた板状のCNT集合体213を合成し、CNT倒伏工程を施すことにより基板上に板状のCNT集合体210を製造することができる。本実施形態の板状のCNT集合体210の製造工程においては、
図16(a)に示した触媒層5021の膜厚は、触媒として用いる金属に応じた最適値に設定すればよく、例えば、鉄金属を用いた場合には、0.1nm以上100nm以下が好ましい。触媒層5021の幅は、最終的に用いるパターニングされた配線等の所要厚さに応じて設定することができ、高密度化後における板状のCNT集合体210の厚さの5〜20倍程度の値に設定される。
【0099】
ここで直線状パターンの触媒層5021同士の間隔は、CNT配向集合体213の目標高さ寸法(CNTの配向方向寸法)に応じて設定されるが、少なくとも触媒層5021から成長したCNT配向集合体213が起端から折れ曲がり、基板5010の表面に倒伏し得るだけの寸法が必要である。またCNT配向集合体213の配向方向寸法と膜厚寸法との間には相関があり、極度な薄膜で過度に成長させると、フィルム状をなすCNT配向集合体213の遊端が部分的にカールしたり、直線状パターンの触媒層5021の延在方向についての連続性が損なわれたりするため、厚さが均一で連続した平坦面の板状のCNT集合体210を得難くなる場合がある。他方、高密度化後の板状のCNT集合体210の膜厚の上限値に格別な制限はないが、高密度化前のCNT配向集合体213の厚さが過大であると、CNT倒伏工程(後述する)でCNT配向集合体213が基板5010上に倒伏し難くなることが考えられる。いずれにしても、直線状パターンの触媒層5021の幅並びに触媒層5021同士の間隔は、板状のCNT集合体210の用途に応じたCNT配向集合体213の厚さや面積を勘案して適切に定めればよい。
【0100】
なお、触媒層5021同士の間隔よりもCNT配向集合体213の配向方向の寸法が小さいとCNT配向集合体213が不連続となり、同寸法が大きいと互いに隣り合うCNT配向集合体213の基端と遊端との重なり合い量が大きくなり、いずれにしても表面の平坦度が損なわれる。
【0101】
上述の条件で製造されたCNT配向集合体213は、CNT倒伏工程においては、
図16(b)及び
図16(c)に示すように、同一方向へ同時に成長した複数のCNTにてCNT配向集合体213が形成された基板5010の全体を溶液6050に浸した後、溶液6051から一定速度で引き上げる。そうすると
図16(b)の右側の図と(c)の右側の図に模式的に示すように、CNT配向集合体213が基板5010上に倒伏する。これにより、複数のCNT配向集合体213にて基板5010の表面が覆われ、板状のCNT集合体210を得る。
【0102】
ここで浸す溶液6051としては、CNTを湿潤状態とした後、乾燥させたときに残留する成分がないものを使用することが好ましい。このような液体6051としては、たとえば水、アルコール類(IPA、エタノール、メタノール)、アセトン類(アセトン)、ヘキサン、トルエン、シクロヘキサン、ジメチルホルムアミド(DMF)等を用いることができる。また溶液6051にCNT配向集合体213を浸す時間としては、CNT配向集合体213の内部に気泡が残らずに全体が満遍なく濡れるに十分な時間であればよい。
【0103】
なお、CNT配向集合体213を倒伏し且つ高密度化する手法としては、ローラやプレス板などを圧接してCNT配向集合体213を基板5010の表面に押し倒した後に霧吹き等を用いて溶液6051を含浸させる方法も考えられるが、固体を押し当ててCNT配向集合体213を倒伏させると、局部的に応力が集中してCNTがダメージを受けたり、CNT配向集合体213の全体、もしくは一部が押し当てた固体に付着したりする不都合が生ずるので、上述の溶液6051に浸す手法が好ましい。
【0104】
CNT配向集合体213は、溶液6051に浸されると、各CNT同士が密着して全体の体積が少し収縮し、結果として高密度化したCNT集合体210が形成される。このとき、基板5010との接触抵抗により基板5010と平行な面の面積収縮はほとんど無く、専らCNT集合体210の厚さ方向に収縮する。そのため、高密度化の前後で配向状態が変化せず、成長時の配向状態がそのまま継承される。CNT集合体210は、パターニングするために乾燥させる。CNT集合体210を乾燥させる手法としては、たとえば室温窒素雰囲気下での自然乾燥、真空引き乾燥、アルゴン等の不活性ガス存在下での加熱などを用いることができる。
【0105】
以上の各工程により、基板5010の表面と平行な一方向に配向する複数のCNT配向集合体213からなるCNT集合体210が載置された基板5010が完成する。
【0106】
このようにして得られたCNT集合体210は液体窒素の吸着等温線からBJH法で求めた細孔径の分布極大が50nm以下のCNT集合体となる。
【0107】
CNT集合体210の厚さは、梁状体の用途に応じてその望ましい値を任意に設定することができるが、これが10nm以上であると、膜としての一体性を保持できるようになると共に、電子デバイスやMEMS用デバイスとしての機能を発揮する上に要する導電性が得られるようになる。この膜厚の上限値に格別な制限はないが、本発明が対象とする配線梁状体に利用する場合は、100nm以上50μm以下程度の範囲が好ましい。
【0108】
このように製造した板状のCNT集合体210に、上述した電解めっき工程により電解めっきを施すことにより、板状のCNT金属複合材200を製造することができる。なお、電解めっき工程の詳細は、すでに説明した工程を適用することができるため、説明は省略する。
【0109】
(パターン形成方法)
次に、CNT集合体をパターンニングすることにより、パターン形成したCNT金属複合材300を製造する方法について説明する。例えば、
図17(a)に示すような予め凹部5013を形成した基板5011の上部表面にCNT配向集合体313を合成して、CNT倒伏工程を施すことにより、
図17(b)に示す凹部5013の上方に架橋された板状のCNT集合体310を製造することができる。板状のCNT集合体310をパターニングすることで、配線や回路を制することができる。以下ではパターニングする方法について説明する。パターニング工程においては、CNT集合体310の表面に所定パターンのレジスト層を形成し、次いでCNT集合体310におけるレジスト層から露出した部分をエッチングにより除去し、その後にレジスト層を除去する。これにより、
図17(
c)に示した基板5011に予め形成された凹部5013の上方に架橋された両持ちの梁状のCNT金属複合材301、あるいは
図17(
d)に示した基板5011に予め形成された段差5013の上方に張り出した遊端を備えた片持ち梁状のCNT金属複合材303が作製される。
【0110】
本実施形態においては、CNT集合体310のエッチングには反応性イオンエッチング(RIE)を用いることができる。パターン形成したCNT集合体は、上述した電解めっき工程により電解めっきを施すことにより、本実施形態に係るパターン形成したCNT金属複合材300を製造することができる。電解めっき工程の詳細については、上述した方法を用いることができるため、説明は省略する。
【0111】
また、上述の製造方法においては、CNT配向集合体313を成長させた基板5011をそのまま梁状のCNT金属複合材301や303を設ける基板5011して用いるものとしたが、本発明においては、梁状のCNT金属複合材301や303を設ける基板5011を、CNT配向集合体313を成長させた基板5010とは別の第2の基板(図示せず)とすることもできる。第2の基板に梁状体を設ける場合は、垂直配向して板状に成長したCNT配向集合体313を成長基板5010の表面から取り外す。溶液6051に晒した上でその配向軸を第2の基板の表面と平行にして第2の基板の表面に載置するか、あるいは成長基板5010から取り外した板状CNT配向集合体313を、その配向軸を第2の基板の表面と平行にして該第2の基板の表面に載置した状態で溶液6051に晒せばよい。ここで用いる溶液としては、CNTを湿潤状態とした後、乾燥させたときに残留する成分がないものを使用することが好ましく、上述した液体を好適に用いることができる。この場合、上述の倒伏工程に替えて、成長基板5010から取り外したCNT配向集合体313を第2の基板の表面に載置する工程とすればよい。ここで第2の基板には、必要に応じて凹部5013あるいは段差5015を予め形成しておけばよいことは言うまでもない。
【0112】
溶液6051に晒したCNT配向集合体313を第2の基板の表面に載置した状態で行う高密度化工程や、第2の基板の表面にて高密度化したCNT層の表面に所定パターンのレジスト層を形成し、次いでCNT層におけるレジスト層から露出した部分をエッチングにより除去した後にレジスト層を除去することで行う除去工程については、上述の製造工程と基本的に同様である。
【0113】
また、
図12に示した基板に当接する第1の部分、基板から離間する第2の部分、及び、第1の部分と第2の部分とを連結する第3の部分を備える構造を有するCNT金属複合材の製造する方法について説明する。
図18は、基板に当接する第1の部分、基板から離間する第2の部分、及び、第1の部分と第2の部分とを連結する第3の部分を備える構造を有するCNT金属複合材400の製造方法を示す模式図である。
【0114】
CNT金属複合材400は、立体形状部としての犠牲層5171を備えた第2の基板5170に上述しためっきされたCNT集合体110や210(以下ではCNT集合体410)を載置して製造する(
図18(a))。犠牲層5171は公知の工程を用いて形成することができ、第2の基板5170を用意し、この上部表面に、例えばhydrogensilsesquioxane(HSQ)を用いて形成することができる。
【0115】
次に、溶液6051で高密度化したCNT集合体410を、犠牲層5171が設けられた第2の基板5170上に載置する(
図18(b))。なお、CNT集合体410を溶液6051で高密度化する工程とCNT集合体410を載置する工程とは、どちらを先に行っても結果は同じとなり、第2の基板5170上にCNT集合体410を載置した後にスプレー等でCNT集合体410に溶液6051を染み込ませたり、溶液6051に浸漬したCNT集合体410を液中から取り上げて第2の基板5170上に載置したりすることも可能である。好ましくは、第2の基板5170上でのCNT集合体410の位置合わせ作業が容易な点に鑑み、CNT集合体410を、表面張力下で水滴状の形態を保って第2の基板5170上に存在している溶液6051中に浸すようにして載置、位置決めするとよい。このように、第2の基板5170における犠牲層5171が設けられた部位に適量の溶液6051を滴下した状態でCNT集合体410を載置すると、CNT集合体410に溶液6051が浸み込むので、CNT集合体410を溶液6051で高密度化する工程とCNT集合体410を載置する工程とを同時に行うことができる。なお、溶液6051は上述したため、説明は省略する。
【0116】
図18(b)に示すように、第2の基板5170および犠牲層5171の輪郭形状に倣ってこれらの表面をCNT集合体410が隙間なく覆う。ここで、第2の基板5170の表面と犠牲層5171の表面に直接接している部分のCNT集合体410におけるCNTの配向方向は、第2の基板5170の表面と平行な方向となっている。
【0117】
次に、溶液6051を含浸したCNT集合体410を乾燥させる、つまりCNT集合体410に付着した液体を蒸発させることで行う。CNT集合体410を乾燥させる手法としては、たとえば室温窒素雰囲気下での自然乾燥、真空引き乾燥、アルゴン等の不活性ガス存在下での加熱などを用いることができる。
【0118】
CNT集合体410は、溶液6051に晒されると、各CNT同士が密着して全体の体積が少し収縮し、液体の蒸発と共に密着度がより一層高まって体積がかなり収縮し、結果として高密度化する。このとき、犠牲層5171を含むシリコン第2の基板5170との接触抵抗により、シリコン第2の基板5170および犠牲層5171の表面と平行な方向についての収縮は殆ど無く、厚さ方向のみの収縮となり、成長時の配向状態および立体形状を維持したまま高密度化する。これと同時に、高密度化したCNT集合体410とシリコン第2の基板5170および犠牲層5171の間にも強い相互作用が働き、シリコン第2の基板5170および犠牲層5171にCNT集合体410が強く貼り付いた状態となる。
【0119】
上記形状固定化工程においてCNT集合体410が厚さ方向のみに収縮する理由は、CNT間に液体が入り込むことによって表面張力が生じ、それによって収縮が起きると推定される。したがって、形状固定化工程における高密度化する手法は、CNT間に表面張力を生じさせる手法であれば上述の手法に限定されず、たとえば高温蒸気などを用いる手法を適用することも可能である。
【0120】
次の不用部分除去工程では、形状固定化工程で高密度化されて所定の立体形状に固定されたCNT集合体410の表面にマスク5173を形成する(
図18(c))。本実施形態に係るマスクとしては、上述したように、クロムが好適である。続いて、CNT集合体410のマスクから露出した部分、すなわち不用部分をエッチングして除去する(
図18(d))。ここでArを導入することにより、CNTのケバがきれいに除去される。
【0121】
最後に、マスク5173の表層並びに犠牲層5171を除去し、洗浄することにより、第2の基板5170に当接した基端部(第1の部分)と、第2の基板5170から離間した片持ち梁部(第2の部分)とが、屈曲形状部(第3の部分)を介して一体をなすCNT構造体を得ることができる(
図18(e))。
【0122】
ここで洗浄液の乾燥には、超臨界乾燥を行うとよい。これにより、洗浄液が蒸発する際にCNTとの界面に表面張力が作用しないので、片持ち梁部が微細であっても変形せずに済み、通常は第2の基板5170から離間した形状を保持することができる。
【0123】
このように製造したパターン形成したCNT集合体410は、上述した電解めっき工程により電解めっきを施すことにより、本実施形態に係るパターン形成したCNT金属複合材400を製造することができる。電解めっき工程の詳細については、上述した方法を用いることができるため、説明は省略する。
【実施例】
【0124】
上述の実施形態で説明した本発明に係るCNT金属複合材について、具体的な例を挙げて以下に詳細に説明する。なお、以下の実施例は、一例であって本発明のCNT金属複合材及びその製造方法はこれらに限定されるものではない。
【0125】
(実施例1:CNT金属複合材)
本実施例においては、上述したCNT金属複合材100の製造例について説明する。まず、CNT集合体を準備する工程において、特願2010−544871、特願2009−144716の製造方法でシリコン基板上にCNT配向集合体13を合成し、触媒粒子や炭素不純物が混入しないように、CNT配向集合体13をシリコン基板から剥離した。剥離したCNT配向集合体13は0.5mmの厚さの新しいシリコン基板2枚で挾み、下側のシリコン基板を静止させた状態で、上側のシリコン基板を剪断して、クリップで固定した。このようにして、剪断方向に配向し準高密度化したCNT集合体10を得た。CNT集合体10のBJH法で求めた細孔径の分布極大は8nmであった。
【0126】
次に、アセトニトリルを溶媒とする銅イオン溶液として、27.5mM 酢酸銅 アセトニトリル溶液を200ml調製し、2枚のシリコン基板に挟まれたCNT集合体10の端を浸漬し、銅イオン溶液をCNT集合体の内部まで浸透させ、高密度化した。この銅イオン溶液の浸透工程は、デシケータ中で20分間静置して行った。
【0127】
続いて、銅イオン溶液を浸透させたCNT集合体10に電解めっきを施した。電解めっき工程は、ポリエーテル・エーテル・ケトン(PEEK)樹脂の容器に電極が配設された溶液6050(VP3 galvanostat/potentiostat/frequency response analyzer、Princeton Applied Research製)を用いて行なった。陽極6110には高純度の銅シート(11mm × 50mm)を用い、陰極6130にはステンレス鋼のメッシュで支持された高密度化したCNT集合体10を配置した。陽極6110と陰極6130に間には、絶縁スペーサとして、ろ紙(Advantech Inc.製、14mm × 60mm × 0.2mm)を配置した。溶液6050には、上述の銅イオン溶液を入れ、CNT集合体10に均一に銅イオン溶液が浸透するように、真空デシケータ中で10分間静置した。
【0128】
電解めっきは、1mAの定電流で72時間行い、めっきされたCNT集合体110を得た。電解めっき工程後に、めっきされたCNT集合体110をステンレス鋼のメッシュから外し、高純度のアセトニトリルで洗浄して、未反応の銅イオンを除去した。その後、めっきされたCNT集合体110を真空デシケータ中で、70℃、1時間乾燥させた。
【0129】
このように電解めっきを施したCNT金属複合材110のSEM像を
図19に示す。
図19は、めっきされたCNT集合体をCNT集合体10の配向方向と平行に割ったときの断面図である。
図19(a)及び
図19(b)は高倍率のSEM像であり、
図19(c)及び
図19(d)は低倍率のSEM像である。
図19において、CNT集合体10の内部まで銅のナノ粒子が均一に被着し、全体に銅の層が形成されていることが観察された。したがって、電解めっき工程前にCNT集合体に銅イオン溶液を浸透させることが、均一なCNT金属複合材の製造に重要であることが検証された。
【0130】
乾燥後、めっきされたCNT集合体110を150sscmの定流量の水素(H
2)雰囲気下の250℃の加熱炉で、3時間アニールし、本実施例に係るCNT金属複合材100を得た。また、同様に、200℃及び500℃で30分間アニールした場合、CNT金属複合材100の体積抵抗率は、1.8×10
−5Ω・cmであった。アニール工程によりCNT金属複合材100の体積抵抗率は低下した。
図20に実施例1としてアニール後のCNT金属複合材100と、比較例1としてアニール前のめっきされたCNT集合体110のXRDの測定結果を示す。本実施例において、XRD測定には1.2kWのCu−Kα X線源のX線回折装置(リガク製)を用い、θ―2θ法で測定した。X線回折分析は、CNT金属複合材100を切断した内部断面100bで行った。アニール前の比較例1のめっきされたCNT集合体110においては、酸化銅(I)(Cu
2O)に由来するピークが検出され、酸化銅に由来するピークと、銅のもっとも強度が強い(111)ピークとの強度比が0.3であった。アニール後の実施例1のCNT金属複合材100においては、酸化銅(I)(Cu
2O)に由来するピークが回折角39.1度において計測され((200)Cu
2O))、銅のもっとも強度が強い(111)ピークとの強度比が100であった。また、実施例1のCNT金属複合材100においては、回折角2θが40°以上80°以下の範囲で(111)>(200)>(220)となる高純度の銅に典型的なピークが検出された。したがって、還元条件下でのアニール工程によりCNT金属複合材中の酸化銅は銅に還元され、且つ、CNT集合体10はダメージを受けずに、CNT金属複合材100の体積抵抗率が改善されることが明らかとなった。なお、本実施例に用いたX線回折装置の出力が低いため、CNT由来の炭素は検出されなかった。
【0131】
また、
図21に水素雰囲気下、500℃で、3時間アニールした後のCNT金属複合材100のSEM像を示す。
図21(a)及び
図21(b)はCNT金属複合材100の外部表面100aのSEM像であり、
図21(c)はCNT金属複合材100をCNT集合体10の配向方向と平行に割ったときの内部断面100bの低倍率のSEM像であり、
図21(d)はその高倍率のSEM像である。
図21において、CNT集合体10は燃焼しておらず、体積抵抗率は、1.8×10
−5Ω・cmまで低下することが明らかとなった。還元雰囲気下でのアニールは、CNT金属複合材100の体積抵抗率を低減するが、不活性ガス(本例においては、ヘリウム(He))雰囲気下では、CNT金属複合材の体積抵抗率は変化しないことが明らかとなった。
【0132】
図22にCNT金属複合材のラマンスペクトルを示す。本実施例において、マイクロラマンスペクトルは、Nicolet Almega XR Micro Raman Analysis System(Thermo Scientific製)を用い、514nmの励起波長のレーザにより測定した。CNT集合体10は、鋭いGバンドピークが1590カイザー近傍で観察され、CNT集合体10を構成するCNT11にグラファイト結晶構造が存在することを示し、また欠陥構造などに由来するDバンドピークが1340カイザー近傍で観察される。
図22に示したように、CNT金属複合材100ではCNT集合体10に銅が被着することにより、電解めっきを施していないCNT集合体10に対して、ラマンスペクトルのG/D比がわずかに低下する。
【0133】
また、CNT金属複合材100の熱重量分析(TG)を行った。本実施例において、TGの測定には、TGA-Q-5000(TA Instruments製)を用い、0℃以上900℃以下(10℃/min)の範囲で15mg以下の試料を加熱して測定した。TG測定の結果、CNT金属複合材100に含まれる銅とCNTの質量比は、銅が92.6%、CNTが7.4%であった。また、銅とCNTの体積比は、銅が43.6%、CNTが56.4%であった。
【0134】
CNT金属複合材100をScanning Electron Microscopy and Energy Dispersive X-ray spectroscopy(SEM−EDAX)で測定した。本実施例において、SEM像は環境制御型走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製)を用いて20kVの操作電圧で撮影し、エネルギー分散型X線分析(EDAX)はEDAXアナライザ(HORIBA製)を用いてSi検出器を液体窒素で冷却しながら行った。
図23にEDAXの測定結果を示す。
図23(a)は、
図23(b)の低エネルギー領域を拡大した図である。CNT金属複合材100においては、銅及び炭素由来にピークが観察され、不純物はほとんど検出されなかった。
図23(a)に示したように、酸素由来のピークが僅かに検出されたが、これは表面が僅かに酸化された銅粒子に由来するものと推察される。CNT金属複合材はサイズが1μm以上の粒状体を複数備える。
【0135】
図24にNT金属複合材100のSEM−EDAXの測定結果を示す。
図24(a)はSEM像、
図24(b)はCu−Kαのマッピング、
図24(c)はC−Kαのマッピングをそれぞれ示す。
図24(d)はCu−KαとC−Kαとのエネルギーマッピングを示す図であり、
図24(e)はSEM像の一部にCu−KαとC−Kαとのエネルギーマッピングを重ねた図である。
図24に示したように、CNT金属複合材100においては、CNT集合体10の内部まで銅が均一に被着していることが明らかとなった。
【0136】
次に、電解めっき工程における平均電流密度が、CNT集合体10の内部に被着する銅に与える影響について検討した。
図25は、電解めっき工程における平均電流密度(mA/cm
2)と、CNT金属複合材100の体積抵抗率(Ω・cm)、CNT金属複合材100の銅の体積含有率(Vol%)、CNT金属複合材100のBET比表面積(m
2/g)及び厚さ(μm)との関係を示す図である。1mA/cm
2で電解めっきを施した実施例1のCNT金属複合材100は、1.8×10
−5Ω・cmの非常に小さな体積抵抗率を示した。また比表面積は、55m
2/g、銅の体積含有率は43.6%であった。
【0137】
それに対して、15mA/cm
2の平均電流密度でCNT金属複合材100を作成した比較例2では、体積抵抗率が大きく、5.5×10
−3Ω・cmであった。また、表面積は、150m
2/g、銅の体積含有率は17%であった。この結果より、10mA/cm
2より小さな、平均電流密度で前記CNT集合体に電解めっきすることが、体積抵抗率が小さなCNT金属複合材を得るために好ましいことが分かる。すなわち、電解めっきの速度を上昇させると、銅はCNT集合体10の外側の表面に被着し、CNT集合体10の内部への被着を阻害するものと推察される。
【0138】
次に、電解めっき工程における金属イオン溶液に用いる有機溶媒の効果について検討した。アセトニトリルを溶媒とした銅イオン溶液を用いて電解めっきを施した実施例1のCNT金属複合材100は、
図19に示したように、CNT集合体10の内部まで銅のナノ粒子が均一に被着し、全体に銅の層を形成していた。一方、
図26に示すように、水を溶媒とした銅イオン溶液を用いて電解めっきを施した比較例3のCNT金属複合材は、CNT集合体10の外側の表面のみに銅粒子20の被着が認められ、CNT集合体10の内部までは銅粒子20が浸透していないことが明らかとなった。
図26(a)はCNT金属複合材100をCNT集合体10の配向方向と平行に割ったときの内部断面100bの低倍率のSEM像であり、
図26(d)はその高倍率のSEM像であり、他の図はCNT金属複合材100の外部表面100aのSEM像である。したがって、疎水性の高いCNT集合体10の内部まで金属イオンを浸透させるためには、無機塩の非水溶媒として機能する有機溶媒を用いることが有効であることが検証された。
【0139】
また、有機溶媒の疎水性と、CNT集合体10の内部への銅粒子の被着との関係を検討したところ、疎水性の低いエタノールやエタノール−水混合液を溶媒として用いた場合には、エタノールに対する銅イオンの溶解度が低く、イオン伝導率が低いため、CNT集合体10への銅粒子の被着が認められなかった。したがって、実施例1において、アセトニトリルは、金属塩を溶解する有機溶媒として好適であることが検証された。
【0140】
CNT集合体10を大気中、300度でアニールしたところ、体積抵抗値は増加した。銅がより酸化されたためと考えられる。これにより、水素雰囲気中でアニールを行うことが、低い体積抵抗値を有するCNT金属複合材を製造するために、好適であることが検証された。
【0141】
(実施例2:CNT金属複合材のパターン形成方法)
実施例2として、CNT金属複合材600のパターン形成方法について具体例を示す。本実施例においては、線状CNT金属複合材及び基板上に載置されたCNT金属複合材、電導体、配線及び回路について説明する。
【0142】
図27は、パターン形成した実施例2のCNT金属複合材600の製造過程を示す模式図である。本実施例においては、特願2008−038029などに記載の方法を用いて、8μmの厚さのCNT配向集合体を剪断して準高密度化したCNT集合体を用いた。CNT集合体を載置する基板としては、100nmの厚さのSi
3N
4基板やSi−SiO
2基板等を用いることができ、本実施例においては、Si
3N
4基板を用いた例を説明する。CNT集合体のBJH法で求めた細孔径の分布極大は8nmであった。
【0143】
CNT金属複合材600の製造には、(a)電極の形成、(b)板状のCNTの載置、(c)マスク形成、(d)板状のCNTのパターニング、(e)1回目の電解めっき、(f)1回目のアニーリング、(g)電解めっき、及び(h)2回目のアニーリングの工程を用いる。
【0144】
必要に応じて、基板にピラーや溝、Ti−Au電極及びTi−Au配線を公知の微細加工の技術を用いて形成した。
【0145】
Ti−Au電極及びTi−Au配線が配置された基板上に、所望の配置となるように、IPAを基板上に滴下して、CNT集合体をIPAに浸すようにして所望の配置を形成した。CNT集合体が載置された基板は、真空デシケータで180℃、20分間加熱し、CNT集合体が吸収したIPAを除去した。
【0146】
基板に載置されたCNT集合体10を所望の形状にパターニングした。パターニングは、まず、基板を洗浄して、O
2プラズマ処理をした。洗浄した基板の上部表面に4000rpmでPMMA 495レジストをスピンコートし、180℃で60秒間ベークした。続いて、PMMA 495レジストの上部表面にhydrogensilsesquioxane(HSQ:製品名Fox 16、Dowchoning製)を4000rpmでスピンコートし、120℃で480秒間ベークした。CABL 8000(Crestech製)を用いてEBLを行ない、0.15μsのドーズ、−6.0nAの電流で、パターン露光を行った。TMAH現像液を用いてパターンを現像し、水で洗浄し、窒素ガスを吹きつけてすぐに乾燥させた。続いて、80W、O
2を76sccm、CHF
3を4sccm、Arを10sccmの条件でのRIEによりCNT集合体のエッチングを行った。エッチングした基板をBuffered Hydrogen fluoride(BHF)に浸漬してリフトオフを行ない、MIBK/IPA(1:1)で90秒間、IPAで180秒間処理し、窒素ガスを吹きつけて乾燥させた。
【0147】
電解めっき工程においてパターニングされたCNT集合体650のみをめっきし、電圧が印加されるTi−Au配線に銅が被着するのを防ぐために、Ti−Au配線にSU−8でマスクをパターニングした。本実施例において、SU−8のスピンコートは、
図28に示すプロファイルを用いて行ない、90℃、150秒間ベークした。SU−8のパターニングは405nmの光源(5V、70μm/s)を用いたレーザーリソグラフィにより行った。続いて、SU−8現像液を用いてパターンを現像し、水で洗浄して、窒素ガスを吹きつけて乾燥させた。
【0148】
つぎに、電解めっきを施すために、PEEK樹脂の容器に電極が配設された溶液6050(VP3 galvanostat/potentiostat/frequency response analyzer、Princeton Applied Research製)の陽極6110に銅シート(11mm × 50mm)を接続し、陰極6130に上述のパターニングされたCNT集合体650が載置された基板を接続した。陽極6110と陰極6130の間には、ろ紙を配置して絶縁した。溶液6050には、銅イオン溶液として、27.5mM 酢酸銅 アセトニトリル溶液を200ml添加し、CNT集合体の内部まで銅イオン溶液が浸透するように、真空デシケータ中に10分間静置した。Ti−Au電極は、電解めっきを施すときに電圧を印加できるように、アルミホイルで覆った。電解めっきは、
図29に示すプロファイルを用いて、パルス電圧を印加して10時間行った。
【0149】
電解めっきを施したCNT金属複合材はアセトニトリルで洗浄し、真空デシケータ中で70℃、1時間乾燥させ、150sccmの定流量のH
2雰囲気下の250℃の加熱炉で3時間アニールした。
【0150】
図30は、上述の製造方法で製造した実施例2のパターニングされたCNT集合体610のSEM像である。
図30(b)は
図30(a)のCNT集合体を拡大した図である。
【0151】
図31は、500nmの高さのピラー上に載置してパターン形成したCNT集合体610を示す図であり、
図31(a)と
図31(b)はSEM像であり、
図31(c)と
図31(d)はレーザ顕微鏡像である。また、
図31(a)は
図31(b)のCNT集合体610を拡大した図であり、
図31(c)は上面からの観察像であり、
図31(d)は斜め上方からの観察像である。
図31から、本実施例において、500nmの高さのピラー上に載置したCNT集合体610に3次元のパターンが形成されたことが明らかである。
【0152】
図32は、パターン形成したCNT集合体610に電解めっきを施したCNT金属複合材630のSEM像である。このCNT金属複合材630の体積抵抗率が1.6×10
−2Ω・cmであった。また、
図33は、
図32の拡大図であり、
図33(a)はTi−Au配線とCNT金属複合材が接触する部分を斜め上方から観察した図であり、
図33(b)はCNT金属複合材630を斜め上方から観察した図であり、
図33(
d)はTi−Au配線とCNT金属複合材630が接触する部分を上方から観察した図であり、
図33(
c)は
図33(
d)の拡大図である。
図33から、本実施例において、パターン形成が可能で、均一に銅がめっきされたCNT金属複合材630が製造されることが明らかとなった。
【0153】
つぎに、CNT金属複合材をアニールする工程の効果について検討した。上述したとおり、電解めっきを施しただけのCNT金属複合材630の体積抵抗率は、1.6×10
−2Ω・cmであった。このCNT金属複合材630をH
2雰囲気下の250℃の加熱炉で3時間アニールした結果、CNT金属複合材650の体積抵抗率は、2.8×10
−3Ω・cmまで低下した。したがって、本実施例において、アニール工程によりCNT金属複合材650の体積抵抗率が改善されることが実証された。
【0154】
さらにCNT金属複合材650の導電性を向上させるため検討を行った。
図33に示したように、電解めっきを1回施したCNT金属複合材650には、クラックが生じていた。このため、再度、めっきを施すことを検討した。本実施例においては、2回目の電解めっきとして、銅イオン水溶液を用いて50μA/cm
2で3時間電解めっきを施した。電解めっきを施したCNT金属複合材600は、上述の条件と同条件でアニールをした。この結果、CNT金属複合材600の体積抵抗率は、9.8×10
−5Ω・cmまで低下し、優れ導電性を示した。CNT金属複合材600においては、酸化銅(I)(Cu
2O)に由来するピークが回折角39.1度において計測され((200)Cu
2O))、銅のもっとも強度が強い(111)ピークとの強度比が90であった。
図34は、このように製造したCNT金属複合材600のSEM像である。本実施例においては、1μmのピラー上にまでCNT金属複合材をパターニングすることができた。
【0155】
図35は上述のパターニング方法を用いて回路を形成した例を示すSEM像である。このように、本実施例においては、パターニングしたCNT金属複合材600を用いることで、所定の間隔で精度よく配線された回路を製造することが可能であることが実証された。
【0156】
最後に、本実施例に係るCNT金属複合材において、優れ導電性はCNT集合体に被着した銅の量に依存するものであるかを検討した。
図36は、製造されたCNT金属複合材の厚さと体積抵抗率の関係を示す図である。本実施例においては、電解めっきの時間を変えることでCNT金属複合材の厚さを変更し、体積抵抗率を測定した。
図36に示したように、1000nmまでの厚さのCNT金属複合材においては、CNT金属複合材の厚みが増加するに連れて体積抵抗率が減少したが、1000nmを超えると、体積抵抗率は減少せずに略一定となる。これは、1000nmまでの厚さのCNT金属複合材においては、CNT集合体の内部に銅が被着するが、1000nmを超えるとCNT集合体の内部は銅で満たされ、CNT集合体の外側の銅の被着が増加するのみであるため、銅の被着量が体積抵抗率は減少に寄与しないものと推察される。したがって、本発明に係るCNT金属複合材においては、高い導電性の主たる要因はCNT金属複合材によるものであって、CNT金属複合材の外側に被着した金属に起因するものではないと推察される。
【0157】
(実施例3:CNT―スズ金属複合材)
実施例1と同様にCNT配向集合体10を得た後、実施例1の方法で、4.2mMの酢酸スズ アセトニトリル溶液を用いて、5mA/cm
2で24時間電解メッキを行った。得られた複合材料の体積抵抗率は2×10
−3Ω・cmであった。金属に帰属される最も強度の大きいピークと前記金属の酸化物に帰属される最も強度の大きいピークとの強度比が100であった。
【0158】
(実施例4:CNT―ニッケル金属複合材)
実施例1と同様にCNT配向集合体10を得た後、実施例1の方法で、1.1mMの酢酸
ニッケル アセトニトリル溶液を用いて、5mA/cm
2で24時間電解メッキを行った。得られた複合材料の体積抵抗率は1×10
−3Ω・cmであった。金属に帰属される最も強度の大きいピークと前記金属の酸化物に帰属される最も強度の大きいピークとの強度比が50であった。