(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
不純物として少なくとも水素、一酸化炭素、窒素、および酸素を含有し、当初含有される酸素の量は、当初含有される水素および一酸化炭素の全てと反応するのに必要な化学量論量よりも多いアルゴンガスを精製するに際し、
前記アルゴンガスに当初から含有される水素および一酸化炭素を、触媒を用いて当初から含有される酸素と反応させる第1反応工程と、
前記第1反応工程の実行により前記アルゴンガスに残留する酸素の全てと反応するのに必要な化学量論量未満の水素を、前記アルゴンガスに添加する水素添加工程と、
前記第1反応工程の実行により前記アルゴンガスに残留する酸素を、触媒を用いて前記水素添加工程において添加された水素と反応させる第2反応工程と、
前記第2反応工程の実行後における前記アルゴンガスを、その含有水分量が低減するように冷却する冷却工程と、
前記冷却工程の実行後における前記アルゴンガスの水分含有率を、脱水操作により低減する脱水工程と、
前記脱水操作後に前記アルゴンガスに残留する少なくとも二酸化炭素、窒素および酸素を、圧力スイング吸着法により吸着剤に吸着させる圧力スイング吸着工程とを備え、
前記吸着剤は活性アルミナ、ゼオライト系吸着剤、およびカーボンモレキュラシーブを含むことを特徴とするアルゴンガスの精製方法。
前記水素添加工程において添加する水素量を、前記第1反応工程の実行により前記アルゴンガスに残留する酸素の全てと反応するのに必要な化学量論量の95%以上100%未満とする請求項1に記載のアルゴンガスの精製方法。
前記アルゴンガスは、不純物として前記第1反応工程前に付加される炭化水素および油分を含有し、当初から含有される酸素の量は、当初から含有される水素、一酸化炭素、及び付加された炭化水素の全てと反応するのに必要な化学量論量よりも多いものとされ、
前記アルゴンガスにおける炭化水素の一部と油分とを活性炭に吸着させた後に、前記第1反応工程において、前記アルゴンガスに当初から含有される水素、一酸化炭素、および付加された炭化水素を、触媒を用いて当初から含有される酸素と反応させる請求項1または2に記載のアルゴンガスの精製方法。
前記圧力スイング吸着工程において、活性アルミナに二酸化炭素を吸着させた後にゼオライト系吸着剤に窒素を吸着させる請求項1〜3の中の何れか1項に記載のアルゴンガスの精製方法。
不純物として少なくとも水素、一酸化炭素、窒素、および酸素を含有し、当初含有される酸素の量は、当初含有される水素および一酸化炭素の全てと反応するのに必要な化学量論量よりも多いアルゴンガスを精製する装置であって、
前記アルゴンガスを加熱する加熱器と、
水素と一酸化炭素を酸素と反応させるための触媒が充填される第1反応領域と、水素を酸素と反応させるための触媒が充填される第2反応領域と、前記第1反応領域と前記第2反応領域との接続領域とを有する反応装置と、
水素供給源と、アルゴンガスの酸素濃度を求める分析器と、求めた酸素濃度に応じて前記水素供給源から供給される水素量を調整する水素量調整器を有する水素添加装置と、
冷却器と、
前記冷却器に接続される脱水装置と、
前記脱水装置に接続される吸着装置とを備え、
前記反応装置に、前記加熱器に接続されるガス導入口と、前記冷却器に接続されるガス流出口と、前記分析器に接続されるガス抽出口と、前記水素供給源に前記水素量調整器を介して接続される水素添加口とが設けられ、
前記反応装置に前記ガス導入口から導入された前記アルゴンガスが、前記第1反応領域、前記接続領域、前記第2反応領域を順に通過した後に前記ガス流出口から流出するように、前記ガス導入口、前記第1反応領域、前記接続領域、前記第2反応領域、および前記ガス流出口が配置され、
前記ガス抽出口は、前記接続領域におけるアルゴンガスを抽出できる位置に配置され、前記水素添加口は、前記第1反応領域の通過後に前記第2反応領域に導入されるアルゴンガスに水素を添加できる位置に配置され、
前記水素添加口から前記アルゴンガスに添加される水素量が、前記第1反応領域での反応により前記アルゴンガスに残留する酸素の全てと反応するのに必要な化学量論量未満となるように、前記分析器により求められた前記接続領域における前記アルゴンガスの酸素濃度に応じて、前記水素供給源から供給される水素量が前記水素量調整器により調整され、
前記ガス流出口から流出する前記アルゴンガスを冷却するように、前記冷却器が前記ガス流出口に接続され、
前記冷却器により冷却された前記アルゴンガスの水分含有率が脱水操作により低減されるように、前記脱水装置が前記冷却器に接続され、
前記吸着装置は、前記アルゴンガスにおける少なくとも二酸化炭素、窒素および酸素を、圧力スイング吸着法により吸着剤に吸着させる圧力スイング吸着ユニットを有し、
前記吸着剤は活性アルミナ、ゼオライト系吸着剤、およびカーボンモレキュラシーブを含むことを特徴とするアルゴンガスの精製装置。
前記反応装置は単一の反応容器を有し、前記反応容器内に前記第1反応領域、接続領域、および第2反応領域が設けられている請求項6に記載のアルゴンガスの精製装置。
【背景技術】
【0002】
例えば、シリコン単結晶引上げ炉、セラミック焼結炉、製鋼用真空脱ガス設備、太陽電池用シリコンプラズマ溶解装置、多結晶シリコン鋳造炉のような設備においては、アルゴンガスが炉内雰囲気ガス等として使用されている。そのような設備から再利用のため回収されたアルゴンガスは、水素、一酸化炭素、空気などの混入により純度が低下している。そこで、回収されたアルゴンガスの純度を高めるため、不純物を吸着剤に吸着させることが行われている。さらに、そのような不純物の吸着を効率良く行うため、吸着処理の前処理として不純物中の酸素と可燃成分とを反応させることが提案されている(特許文献1〜3参照)。
【0003】
特許文献1に開示された方法においては、アルゴンガスにおける酸素の量を、水素、一酸化炭素等の可燃成分を完全燃焼させるのに必要な化学量論量よりも僅かに少なくなるよう調節し、次に、一酸化炭素と酸素との反応よりも水素と酸素との反応を優先させるパラジウムまたは金を触媒として、アルゴンガスにおける酸素を一酸化炭素、水素等と反応させることで、一酸化炭素を残留させた状態で二酸化炭素と水を生成し、次に、アルゴンガスに含有される二酸化炭素と水を圧力スイング吸着法により常温で吸着剤に吸着させ、しかる後に、アルゴンガスに含有される一酸化炭素と窒素をサーマルスイング吸着法により−10℃〜−50℃の温度で吸着剤に吸着させている。
【0004】
特許文献2に開示された方法においては、アルゴンガスにおける酸素の量を、水素、一酸化炭素等の可燃成分を完全燃焼させるのに十分な量とし、次に、パラジウム系の触媒を用いてアルゴンガスにおける酸素を一酸化炭素、水素等と反応させることで、酸素を残留させた状態で二酸化炭素と水を生成し、次に、アルゴンガスに含有される二酸化炭素と水を圧力スイング吸着法により常温で吸着剤に吸着させ、しかる後に、アルゴンガスに含有される酸素と窒素をサーマルスイング吸着法により−170℃程度の温度で吸着剤に吸着させている。
【0005】
特許文献3に記載された方法においては、アルゴンガスにおける酸素の量を、水素、一酸化炭素等の可燃成分を完全燃焼させるのに十分な量とし、酸素を一酸化炭素、水素等と反応させることで、酸素を残留させた状態で二酸化炭素と水を生成し、次に、アルゴンガスに含有される酸素、窒素、二酸化炭素と水を、圧力スイング吸着法により常温でLiX型ゼオライトと3A型のカーボンモレキュラシーブからなる吸着剤に吸着させている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の方法では、前処理の段階でアルゴンガスにおける一酸化炭素を残留させた状態で二酸化炭素と水を生成し、その後の吸着処理の段階で、二酸化炭素と水を常温で吸着剤に吸着させ、しかる後に、一酸化炭素と窒素を−10℃〜−50℃で吸着剤に吸着させている。しかし、一酸化炭素は有毒であることから、吸着剤に吸着させるまでアルゴンガスの取り扱いが難しくなり、また、吸着した一酸化炭素ガスを廃棄するために無害化する排ガス処理設備が必要である。
【0008】
特許文献2に記載の方法では、前処理の段階で酸素を残留させた状態で二酸化炭素と水を生成し、その後の吸着処理の段階で、二酸化炭素と水を常温で吸着剤に吸着させ、しかる後に、酸素と窒素を−170℃程度の温度で吸着剤に吸着させている。しかし、−170℃程度という超低温での吸着処理を行うと冷却エネルギーが増大し、精製負荷が大きくなるという問題がある。
【0009】
特許文献3に記載の方法では、回収したアルゴンに含まれる一酸化炭素、水素を酸素と反応させ、アルゴンに含まれる不純物を少なくとも酸素、二酸化炭素、窒素、水とし、LiX型ゼオライトと3A型のカーボンモレキュラシーブを用いて圧力スイング吸着法でこれらの不純物を吸着除去している。しかし、不純物が微量の場合は良いが、空気が数%オーダーで混入したような場合には、大量の吸着剤を使用する必要があり、高純度品の回収率が低く実用的でない。
【0010】
本発明は、上記のような従来技術の問題を解決できるアルゴンガスの精製方法および精製装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明方法は、不純物として少なくとも水素、一酸化炭素、窒素、および酸素を含有し、当初含有される酸素の量は、当初含有される水素および一酸化炭素の全てと反応するのに必要な化学量論量よりも多いアルゴンガスを精製するに際し、前記アルゴンガスに当初から含有される水素および一酸化炭素を、触媒を用いて当初から含有される酸素と反応させる第1反応工程と、前記第1反応工程の実行により前記アルゴンガスに残留する酸素の全てと反応するのに必要な化学量論量未満の水素を、前記アルゴンガスに添加する水素添加工程と、前記第1反応工程の実行により前記アルゴンガスに残留する酸素を、触媒を用いて前記水素添加工程において添加された水素と反応させる第2反応工程と、前記第2反応工程の実行後における前記アルゴンガスを、その含有水分量が低減するように冷却する冷却工程と、前記冷却工程の実行後における前記アルゴンガスの水分含有率を、脱水操作により低減する脱水工程と、前記脱水操作後に前記アルゴンガスに残留する少なくとも二酸化炭素、窒素および酸素を、圧力スイング吸着法により吸着剤に吸着させる圧力スイング吸着工程とを備え、前記吸着剤は活性アルミナ、ゼオライト系吸着剤、およびカーボンモレキュラシーブを含むことを特徴とする。
本発明により精製されるアルゴンガスにおいては、当初含有される酸素量が当初含有される水素および一酸化炭素の全てと反応するのに必要な化学量論量よりも多い。よって、アルゴンガスに当初含有される水素および一酸化炭素と、当初含有される酸素の一部とを、第1反応工程により水と二酸化炭素に変成できる。第1反応工程の実行によりアルゴンガスに残留する酸素と、水素添加工程において添加される水素とを、第2反応工程により水に変成できる。その添加される水素量は、第1反応工程の実行によりアルゴンガスに残留する酸素の全てと反応するのに必要な化学量論量未満であるので、第2反応工程の実行後にアルゴンガスに水素が残留するのを防止できる。これにより、アルゴンガスの不純物濃度の分析やガス添加を、第1反応工程前に行うことなく第2反応工程前にのみ行うだけで、第1反応工程後に多くの一酸化炭素が残留するのが防止され、且つ、吸着工程前に多くの酸素が残留するのが防止されるので、精製操作を簡単化できると共に吸着工程での酸素吸着負荷を低減できる。また、吸着法によってはアルゴンガスから分離するのが困難な水素を、吸着工程の前にアルゴンガスから除去できる。第2反応工程により生成された水を冷却工程と脱水工程によりアルゴンガスから除去することで、アルゴンガスの水分含有率が低減されるので、後の吸着工程における水分の吸着負荷を低減できる。これにより、アルゴンガスに残留する少なくとも二酸化炭素、窒素および酸素を、圧力スイング吸着法により吸着剤に吸着させることで、高純度のアルゴンを得ることができる。また、アルゴンガスに当初含有される一酸化炭素は二酸化炭素に変成されるので、その後の工程におけるアルゴンガスは一酸化炭素を含まず取り扱いが容易になり、一酸化炭素を無害化する排ガス処理設備が不要になる。また、第2反応工程の後にアルゴンガスの冷却、脱水を行うので、一旦冷却したアルゴンガスを再度加熱する必要がなく、エネルギー消費量を低減できる。
【0012】
前記水素添加工程において添加する水素量を、前記第1反応工程の実行により前記アルゴンガスに残留する酸素の全てと反応するのに必要な化学量論量の95%以上100%未満とするのが好ましい。これにより、アルゴンガスにおける酸素の大部分を第2反応工程により水素と反応させることができるので、吸着工程においてはアルゴンガス中に僅かに残留する酸素を吸着すれば足りる。
【0013】
前記圧力スイング吸着工程において、活性アルミナに二酸化炭素を吸着させた後にゼオライト系吸着剤に窒素を吸着させるのが好ましい。活性アルミナが二酸化炭素を吸着することで、ゼオライト系吸着剤による窒素吸着効果の低下を防止でき、アルゴンガスから窒素を効果的に除去でき、カーボンモレキュラシーブにより酸素を効果的に除去できる。特に前記ゼオライト系吸着剤がX型ゼオライトモレキュラシーブであるのが好ましい。
【0014】
本発明装置は、不純物として少なくとも水素、一酸化炭素、窒素、および酸素を含有し、当初含有される酸素の量は、当初含有される水素および一酸化炭素の全てと反応するのに必要な化学量論量よりも多いアルゴンガスを精製する装置であって、前記アルゴンガスを加熱する加熱器と、水素と一酸化炭素を酸素と反応させるための触媒が充填される第1反応領域と、水素を酸素と反応させるための触媒が充填される第2反応領域と、前記第1反応領域と前記第2反応領域との接続領域とを有する反応装置と、水素供給源と、アルゴンガスの酸素濃度を求める分析器と、求めた酸素濃度に応じて前記水素供給源から供給される水素量を調整する水素量調整器を有する水素添加装置と、冷却器と、前記冷却器に接続される脱水装置と、前記脱水装置に接続される吸着装置とを備える。前記反応装置に、前記加熱器に接続されるガス導入口と、前記冷却器に接続されるガス流出口と、前記分析器に接続されるガス抽出口と、前記水素供給源に前記水素量調整器を介して接続される水素添加口とが設けられる。前記反応装置に前記ガス導入口から導入された前記アルゴンガスが、前記第1反応領域、前記接続領域、前記第2反応領域を順に通過した後に前記ガス流出口から流出するように、前記ガス導入口、前記第1反応領域、前記接続領域、前記第2反応領域、および前記ガス流出口が配置される。前記ガス抽出口は、前記接続領域におけるアルゴンガスを抽出できる位置に配置され、前記水素添加口は、前記第1反応領域の通過後に前記第2反応領域に導入されるアルゴンガスに水素を添加できる位置に配置される。前記水素添加口から前記アルゴンガスに添加される水素量が、前記第1反応領域での反応により前記アルゴンガスに残留する酸素の全てと反応するのに必要な化学量論量未満となるように、前記分析器により求められた前記接続領域における前記アルゴンガスの酸素濃度に応じて、前記水素供給源から供給される水素量が前記水素量調整器により調整される。前記ガス流出口から流出する前記アルゴンガスを冷却するように、前記冷却器が前記ガス流出口に接続され、前記冷却器により冷却された前記アルゴンガスの水分含有率が脱水操作により低減されるように、前記脱水装置が前記冷却器に接続され、前記吸着装置は、前記アルゴンガスにおける少なくとも二酸化炭素、窒素および酸素を、圧力スイング吸着法により吸着剤に吸着させる圧力スイング吸着ユニットを有する。前記吸着剤として活性アルミナ、ゼオライト系吸着剤、およびカーボンモレキュラシーブを含む。
本発明装置によれば本発明方法を実施できる。
【0015】
本発明装置において、前記反応装置は単一の反応容器を有し、前記反応容器内に前記第1反応領域、接続領域、および第2反応領域が設けられているのが好ましい。これにより、第1反応工程と第2反応工程とを単一の反応容器内で、同一の触媒、温度、ガス流量で実行でき、設備をコンパクトでシンプルにしてコストを低減できる。
【0016】
本発明方法において、前記アルゴンガスは、不純物として前記第1反応工程前に付加される炭化水素および油分を含有し、当初から含有される酸素の量は、当初から含有される水素、一酸化炭素、及び付加された炭化水素の全てと反応するのに必要な化学量論量よりも多いものとされ、前記アルゴンガスにおける炭化水素の一部と油分とを活性炭に吸着させた後に、前記第1反応工程において、前記アルゴンガスに当初から含有される水素、一酸化炭素、および付加された炭化水素を、触媒を用いて当初から含有される酸素と反応させてもよい。この場合、本発明装置は活性炭吸着塔を備え、前記活性炭吸着塔に前記アルゴンガスにおける炭化水素の一部と油分を吸着する活性炭が収容され、前記アルゴンガスが前記活性炭吸着塔を介して前記加熱器に導入されるように、前記加熱器が前記活性炭吸着塔に接続されるのが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、アルゴンガスにおける不純物含有率を、コンパクトでシンプルな低コストの設備により、大きな精製エネルギーを要することなく効果的、効率的に低減し、高純度のアルゴンガスを得ることができる実用的な方法と装置を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1に示すアルゴンガスの精製装置αは、ガス供給源1から供給される不純物含有アルゴンガスを再利用できるように回収して精製するもので、加熱器2、反応装置3、水素添加装置4、冷却器5、脱水装置6、および吸着装置9を備える。
【0020】
ガス供給源1は、不純物含有アルゴンガスを供給するものであれば特に限定されず、例えば、使用済の炉内雰囲気用アルゴンガスを精製対象として排出する多結晶シリコン鋳造炉により構成される。
【0021】
精製対象のアルゴンガスは、アルゴンの他に不純物として少なくとも水素、一酸化炭素、酸素、および窒素を含有するが、これ以外に例えば二酸化炭素、水分、炭化水素等の他の不純物を含有していてもよい。精製対象のアルゴンガスは、例えば炉内雰囲気に使用されたものを回収したようなものである場合、空気由来の不純物である酸素および窒素を他の不純物よりも多量に含有する。このような場合、精製対象のアルゴンガスに当初含有される酸素の量は、当初含有される水素および一酸化炭素の全てと反応するのに必要な化学量論量よりも多くなる。例えば、精製されるアルゴンガスに当初含有される酸素濃度は1000ppm〜50000ppm、当初含有される水素濃度は10ppm〜300ppm、当初含有される一酸化炭素濃度は10ppm〜3000ppmとされる。精製されるアルゴンガスに当初含有される不純物の合計濃度は特に限定されず、例えば10000モルppm〜200000モルppm程度とされる。
【0022】
供給源1から供給される精製対象のアルゴンガスは、例えばオイルレスの真空ポンプ等の空圧機器により構成されるガス送り手段7により回収されて図外のフィルターを介して加熱器2に導入され、加熱器2により加熱された後に反応装置3に導入される。加熱器2によるアルゴンガスの加熱温度は、反応装置3における反応を完結するためには150℃以上にするのが好ましく、触媒の寿命短縮を防止する観点から350℃以下とするのが好ましい。反応装置3においてルテニウム(Ru)を触媒として用いる場合、反応装置3における反応温度が150℃以上になるように設定するのが反応を完結させるために好ましく、一方、触媒の寿命短縮を防止する観点からは反応温度が250℃以下となるように設定するのが好ましく、エネルギー消費を低減する観点から反応温度が200℃以下となるように設定するのがより好ましい。反応装置3においてパラジウム(Pd)を含む触媒を用いる場合、反応装置3における反応温度が200℃〜300℃になるようにアルゴンガスの加熱温度を設定するのが好ましい。
【0023】
本実施形態の反応装置3は、単一の塔状の反応容器3aを有し、反応容器3aの内部に第1反応領域3Aと第2反応領域3Bと接続領域3Cが設けられている。第1反応領域3Aに、水素と一酸化炭素を酸素と反応させるための触媒が充填される。第2反応領域3Bに、水素を酸素と反応させるための触媒が充填される。両反応領域3A、3Bに充填される触媒は、相異なるものとしてもよいが、本実施形態では同一のものが充填される。例えば、両反応領域3A、3Bにルテニウム、パラジウム、白金、ロジウム等の触媒が充填され、特に低温度で反応可能なルテニウム触媒が充填されるのが好ましい。触媒はアルミナ等に担持したものが用いられる。第1反応領域3Aと第2反応領域3Bとの間が接続領域3Cとされる。接続領域3Cには触媒を充填しなくてもよいが、本実施形態では、両反応領域3A、3Bに充填されるのと同一の触媒が接続領域3Cに充填される。
【0024】
反応容器3aに、ガス導入口3b、ガス流出口3c、ガス抽出口3d及び水素添加口3eが設けられている。ガス導入口3bに加熱器2が接続され、加熱された精製対象のアルゴンガスが反応装置3にガス導入口3bから導入される。反応容器3aの一端から順にガス導入口3b、第1反応領域3A、接続領域3C、第2反応領域3B、及びガス流出口3cが配置され、ガス流出口3cは反応容器3aの他端に位置する。例えば、ガス導入口3bとガス流出口3cとの中央付近に接続領域3Cが配置される。これにより、ガス導入口3bから反応装置3に導入されたアルゴンガスは、第1反応領域3A、接続領域3C、第2反応領域3Bをこの順序で通過した後に、ガス流出口3cから流出する。ガス抽出口3dは、接続領域3Cにおけるアルゴンガスを抽出できる位置に配置され、本実施形態では接続領域3Cに通じるように配置される。水素添加口3eは、第1反応領域3Aの通過後に第2反応領域3Bに導入されるアルゴンガスに水素を添加できる位置に配置され、本実施形態では第2反応領域3Bと接続領域3Cとの境界近傍に通じるよう配置される。
【0025】
加熱器2により加熱されたアルゴンガスは、ガス導入口3bから第1反応領域3Aに到る。これにより、アルゴンガスに当初から含有される水素および一酸化炭素を、触媒を用いて当初から含有される酸素と反応させる第1反応工程が実行される。この際、第1反応領域3Aに至ったアルゴンガスに、当初から含有されていた不純物以外の不純物を添加する必要はない。第1反応工程により、アルゴンガスに当初から含有される水素および一酸化炭素と、当初から含有される酸素の一部とが、水と二酸化炭素に変成される。第1反応工程の実行によってもアルゴンガスには酸素が残留するので、第1反応工程の実行によりアルゴンガスに含有される主な不純物は、窒素、酸素、二酸化炭素、水となる。なお、多結晶シリコン鋳造炉等から回収される精製対象のアルゴンガスは可燃成分として炭化水素を含むが、そのモル濃度は水素と一酸化炭素の合計モル濃度の通常は1/100以下である。よって、通常は第1反応工程において炭化水素も酸素と反応し、酸素が残留した状態で二酸化炭素と水が生成される。また、微量の炭化水素が残留しても圧力スイング吸着法により容易に吸着して除去できる。
【0026】
水素添加装置4は、ガス抽出口3dと水素添加口3eを介して反応装置3に接続される。すなわち水素添加装置4は、例えば高圧水素ボンベにより構成される水素供給源4aと、アルゴンガスの酸素濃度を求める分析器4bと、分析器4bにより求めた酸素濃度に応じて水素供給源4aから供給される水素量を調整する水素量調整器4cを有する。分析器4bはガス抽出口3dに接続され、ガス抽出口3dから抽出された接続領域3Cにおけるアルゴンガスの酸素濃度を求める。水素供給源4aは水素量調整器4cを介して水素添加口3eに接続される。水素量調整器4cは、例えば水素供給源4aと水素添加口3eとを接続する配管の開度を流量制御バルブ等により調整することで、水素供給源4aから供給される水素量を分析器4bにより求められた酸素濃度に応じて調整する。この調
整により、アルゴンガスに水素添加口3eから添加される水素量が、第1反応領域3Aでの反応によりアルゴンガスに残留する酸素の全てと反応するのに必要な化学量論量未満とされる。これにより、第1反応工程の実行によりアルゴンガスに残留する酸素の全てと反応するのに必要な化学量論量未満の水素を、水素添加装置4によりアルゴンガスに添加する水素添加工程が実行される。本実施形態では、水素添加工程においてアルゴンガスに添加する水素量は、第1反応工程の実行によりアルゴンガスに残留する酸素の全てと反応するのに必要な化学量論量の95%以上100%未満とされる。すなわち、この水素添加によりアルゴンガスにおける水素モル濃度は酸素モル濃度の1.9倍以上、2倍未満とされる。
【0027】
第2反応領域3Bにおいて、第1反応工程の実行によりアルゴンガスに残留する酸素を、触媒を用いて水素添加工程において添加された水素と反応させる第2反応工程が実行され、その反応した酸素と水素が水に変成される。第2反応工程の実行によりアルゴンガスに含有される主な不純物は、第1反応工程の実行後と同様に窒素、酸素、二酸化炭素、水であるが、酸素含有量は減少する。なお、第1反応領域3Aの大きさは、第1反応工程により水素と一酸化炭素を酸素と十分に反応させることができるように定めればよい。第2反応領域3Bの大きさは、水素添加口3eから添加された水素を第2反応工程により酸素と十分に反応させることができるように定めればよい。接続領域3Cの大きさは、第1反応工程の実行後におけるアルゴンガスを分析のために抽出でき、また、水素添加口3eから添加された水素が第1反応領域3Aに到ることがないように定めればよい。これら領域3A、3B、3Cの大きさは適切な寸法になるように実験により定めればよい。
【0028】
冷却器5は、反応装置3のガス流出口3cに接続される。冷却器5により、ガス流出口3cから流出する第2反応工程の実行後におけるアルゴンガスを冷却する冷却工程が実行され、これによりアルゴンガスの含有水分量が低減される。すなわち、ガス流出口3cから流出するアルゴンガスの温度は通常200℃〜350℃であるので、これを室温程度、例えば0℃〜40℃まで冷却し、凝縮された水を気水分離器等により系外に排出する。なお、アルゴンガスに含有される二酸化炭素の一部は、凝縮された水に溶解するので、冷却工程によりアルゴンガスから除去できる。冷却器5により、アルゴンガスにおける水分量を冷却後の温度における飽和水蒸気量まで低減できる。
【0029】
冷却器5により冷却されたアルゴンガスの水分含有率が脱水操作により低減されるように、脱水装置6が冷却器5に接続される。すなわち脱水装置6により、冷却工程の実行後におけるアルゴンガスの水分含有率を脱水操作により低減する脱水工程が実行される。これにより脱水装置6は、アルゴンガスにおける水分量を、その温度における飽和水蒸気量未満まで低減する。脱水装置6としては、例えば加熱再生式脱水器、加圧式脱水器、冷凍式脱水器により構成でき、特に、アルゴンガスをそのままの温度、圧力で操作できる加熱再生式脱水器が好ましい。脱水装置6により、アルゴンガスの水分含有率を数百ppm未満まで低減することが可能になる。脱水装置6によりアルゴンガスの水分含有率を可及的に低減するのが好ましく、これによって、圧力スイング吸着工程で用いられる吸着剤の二酸化炭素吸着性能が低下するのを防止できる。
【0030】
吸着装置9は、脱水装置6に接続されるPSAユニット(圧力スイング吸着ユニット)10を有する。脱水装置6による脱水操作後に、アルゴンガスに残留する少なくとも二酸化炭素、窒素および酸素を、常温での圧力スイング吸着法により吸着剤に吸着させる圧力スイング吸着工程がPSAユニット10により実行される。さらにPSAユニット10は、脱水装置6による脱水操作後にアルゴンガスに残留する水分も吸着する。
【0031】
PSAユニット10は公知のものを用いることができる。例えば
図2に示すPSAユニット10は4塔式であり、脱水装置6から流出するアルゴンガスを圧縮する圧縮機12と、4つの第1〜第4吸着塔13を有し、各吸着塔13に吸着剤が充填されている。その吸着剤としては二酸化炭素、窒素、および酸素の吸着に適したものが用いられ、活性アルミナ、ゼオライト系吸着剤、およびカーボンモレキュラシーブを含み、吸着塔に予め定めた順序で積層して充填するのが好ましい。ゼオライト系吸着剤としてはX型ゼオライトモレキュラシーブが好ましい。これら吸着剤の積層順は、アルゴンガスの導入側から順に活性アルミナ、ゼオライト系吸着剤、カーボンモレキュラシーブとするか、あるいは、活性アルミナ、カーボンモレキュラシーブ、ゼオライト系吸着剤とし、圧力スイング吸着工程において活性アルミナに二酸化炭素を吸着させた後にゼオライト系吸着剤に窒素を吸着させるのが好ましい。アルゴンガスに含まれる窒素が多い場合はゼオライト系吸着剤の比率を高くし、酸素が多い場合はカーボンモレキュラシーブの比率を高くするのが好ましい。活性アルミナがアルゴンガスの導入側において、主に二酸化炭素を吸着することで、その後のゼオライト系吸着剤による窒素吸着効果の低下を防止できる。これら吸着剤の充填量の容量比は、例えば活性アルミナ:X型ゼオライトモレキュラシーブ:カーボンモレキュラシーブを2〜3:7〜4:1〜3とする。第2反応工程でアルゴンガスに残留する酸素の多くを水素と反応させて水に変性し、その後にアルゴンガスの水分含有率を脱水操作により低減することで、PSAユニット10による酸素吸着負荷を低減し、吸着塔13を小型化できる。
【0032】
圧縮機12は、各吸着塔13の入口13aに切替バルブ13bを介して接続される。
吸着塔13の入口13aそれぞれは、切替バルブ13eおよびサイレンサー13fを介して大気中に接続される。
吸着塔13の出口13kそれぞれは、切替バルブ13lを介して流出配管13mに接続され、切替バルブ13nを介して昇圧配管13oに接続され、切替バルブ13pを介して均圧・洗浄出側配管13qに接続され、切替バルブ13rを介して均圧・洗浄入側配管13sに接続される。
流出配管13mは、圧力調節バルブ13tを介して製品タンク11に接続され、製品タンク11に導入されるアルゴンガスの圧力が一定とされる。
昇圧配管13oは、流量制御バルブ13u、流量指示調節計13vを介して流出配管13mに接続され、昇圧配管13oでの流量が一定に調節されることにより、製品タンク11に導入されるアルゴンガスの流量変動が防止される。
均圧・洗浄出側配管13qと均圧・洗浄入側配管13sは、一対の連結配管13wを介して互いに接続され、各連結配管13wに切替バルブ13xが設けられている。
【0033】
PSAユニット10の第1〜第4吸着塔13それぞれにおいて、吸着工程、減圧I工程(洗浄ガス出工程)、減圧II工程(均圧ガス出工程)、脱着工程、洗浄工程(洗浄ガス入工程)、昇圧I工程(均圧ガス入工程)、昇圧II工程が順次行われる。第1吸着塔13を基準に各工程を説明する。
すなわち、第1吸着塔13において切替バルブ13bと切替バルブ13lのみが開かれ、脱水装置6から供給されるアルゴンガスは圧縮機12から切替バルブ13bを介して第1吸着塔13に導入される。これにより、第1吸着塔13において導入されたアルゴンガス中の少なくとも二酸化炭素、窒素および酸素が吸着剤に吸着されることで吸着工程が行われ、不純物の含有率が低減されたアルゴンガスが第1吸着塔13から流出配管13mを介して製品タンク11に送られる。この際、流出配管13mに送られたアルゴンガスの一部は、昇圧配管13o、流量制御バルブ13uを介して別の吸着塔(本実施形態では第2吸着塔13)に送られ、第2吸着塔13において昇圧II工程が行われる。
次に、第1吸着塔13の切替バルブ13b、13lを閉じ、切替バルブ13pを開き、別の吸着塔(本実施形態では第4吸着塔13)の切替バルブ13rを開き、切替バルブ13xの中の1つを開く。これにより、第1吸着塔13の上部の比較的不純物含有率の少ないアルゴンガスが、均圧・洗浄入側配管13sを介して第4吸着塔13に送られ、第1吸着塔13において減圧I工程が行われる。この際、第4吸着塔13においては切替バルブ13eが開かれ、洗浄工程が行われる。
次に、第1吸着塔13の切替バルブ13pと第4吸着塔13の切替バルブ13rを開いたまま、第4吸着塔13の切替バルブ13eを閉じる。これにより、第1吸着塔13と第4吸着塔13の内部圧力が均一、またはほぼ均一になるまで第4吸着塔13にガスの回収を実施する減圧II工程が行われる。この際、切替バルブ13xは場合に応じ2つとも開いてもよい。
次に、第1吸着塔13の切替バルブ13eを開き、切替バルブ13pを閉じることにより、吸着剤から不純物を脱着する脱着工程が行われ、不純物はガスと共にサイレンサー13fを介して大気中に放出される。
次に、第1吸着塔13の切替バルブ13rを開き、吸着工程を終わった状態の第2吸着塔13の切替バルブ13b、13lを閉じ、切替バルブ13pを開く。これによって、第2吸着塔13の上部の比較的不純物含有率の少ないアルゴンガスが、均圧・洗浄入側配管13sを介して第1吸着塔13に送られ、第1吸着塔13において洗浄工程が行われる。第1吸着塔13において洗浄工程で用いられたガスは、切替バルブ13e、サイレンサー13fを介して大気中に放出される。この際、第2吸着塔13では減圧I工程が行われる。
次に第2吸着塔13の切替バルブ13pと第1吸着塔13の切替バルブ13rを開いたまま第1吸着塔13の切替バルブ13eを閉じることで昇圧I工程が行われる。この際、切替バルブ13xは場合に応じ2つとも開いてもよい。
しかる後に、第1吸着塔13の切替バルブ13rを閉じる。これにより、一旦は工程の無い待機状態になる。この状態は、第4吸着塔13の昇圧II工程が完了するまで持続する。第4吸着塔13の昇圧が完了し、吸着工程が第3吸着塔13から第4吸着塔13に切り替わると、第1吸着塔の切替バルブ13nを開く。これにより、吸着工程にある別の吸着塔(本実施形態では第4吸着塔13)から流出配管13mに送られたアルゴンガスの一部が、昇圧配管13o、流量制御バルブ13uを介して第1吸着塔13に送られることで、第1吸着塔13において昇圧II工程が行われる。
上記の各工程が第1〜第4吸着塔13それぞれにおいて順次繰り返されることで、不純物含有率を低減されたアルゴンガスが製品タンク11に連続して送られる。
なお、PSAユニット10は
図2に示すものに限定されず、例えば塔数は4以外、例えば2でも3でもよい。
【0034】
上記精製装置αにより精製されるアルゴンガスにおいては、当初含有される酸素量が当初含有される水素および一酸化炭素の全てと反応するのに必要な化学量論量よりも多い。よって、加熱器2により加熱された精製対象のアルゴンガスを、反応装置3の第1反応領域3Aに導入することで、当初含有される水素および一酸化炭素と、当初含有される酸素の一部とを、第1反応工程により水と二酸化炭素に変成できる。第1反応工程の実行によりアルゴンガスに残留する酸素と、水素添加装置4によりアルゴンガスに添加される水素とを、第2反応領域3Bにおける第2反応工程により水に変成できる。水素添加装置4により添加される水素量は、第1反応工程の実行によりアルゴンガスに残留する酸素の全てと反応するのに必要な化学量論量未満であるので、第2反応工程の実行後にアルゴンガスに水素が残留するのを防止できる。これにより、アルゴンガスの不純物濃度の分析やガス添加を、第1反応工程前に行うことなく第2反応工程前にのみ行うだけで、第1反応工程後に多くの一酸化炭素が残留するのが防止され、且つ、吸着工程前に多くの酸素が残留するのが防止されるので、精製操作を簡単化できると共にPSAユニット10の酸素吸着負荷を低減できる。また、アルゴンガスに当初含有される一酸化炭素は二酸化炭素に変成されるので、その後の工程におけるアルゴンガスは一酸化炭素を含まず取り扱いが容易になり、一酸化炭素を無害化する排ガス処理設備が不要になる。上記実施形態では、水素添加装置4により添加する水素量は、アルゴンガスに残留する酸素の全てと反応するのに必要な化学量論量の95%以上100%未満であるので、アルゴンガスにおける酸素の大部分を第2反応工程により水素と反応させることができ、吸着工程においてはアルゴンガス中に僅かに残留する酸素を吸着すれば足りる。また、吸着法によってはアルゴンガスから分離するのが困難な水素を、吸着工程の前にアルゴンガスから除去できる。また、第1反応工程と第2反応工程とを単一の反応容器3a内で、同一の触媒、温度、ガス流量で実行でき、設備をコンパクトでシンプルにしてコストを低減できる。第2反応工程により生成された水は、冷却器5による冷却と脱水装置6による脱水操作によりアルゴンガスから除去される。これによりアルゴンガスの水分含有率が低減されるので、後の吸着工程における吸着装置9による水分の吸着負荷を低減できる。また、第2反応工程の実行後にアルゴンガスの冷却、脱水を実行するので、一旦冷却したアルゴンガスを再度加熱する必要がなく、エネルギー消費量を低減できる。さらに、PSAユニット10による酸素と水分の吸着負荷が低減されるので、圧力スイング吸着法により不純物を効果的に吸着し、精製対象のアルゴンガスが多くの不純物を含有していても高純度のアルゴンガスを得ることができる。
【0035】
図3は、反応装置3の変形例を示す。上記実施形態との相違は、反応装置3は第1反応容器3
b′、第2反応容器3
a′、及び第1反応容器3
b′と第2反応容器3
a′を接続する配管3c′を有する。第1反応容器3
b′内が第1反応領域3Aとされ、第2反応容器3
a′内が第2反応領域3Bとされ、配管3c′内が接続領域3Cとされ、接続領域3Cには触媒が充填されない。水素添加口3eは接続領域3Cに通じるように配置される。他は上記実施形態と同様とされる。
【0036】
図4は本発明の変形例に係る精製装置α′を示す。本変形例においては、加熱器2に接続される活性炭吸着塔22が設けられ、活性炭吸着塔
22に、アルゴンガスに含まれる炭化水素の一部と油分を吸着する活性炭が収容されている。ガス送り手段7により、供給源1から供給されるアルゴンガスが回収され、除塵用フィルター21、活性炭吸着塔22を介して加熱器2に導入される。この変形例は、アルゴンガスが不純物として当初から含有する酸素、水素、一酸化炭素、窒素に加え、第1反応工程前に付加される炭化水素および油分を含有し、当初から含有する酸素の量が、当初から含有する水素、一酸化炭素、および付加された炭化水素の全てと反応するのに必要な化学量論量よりも多い場合に対応できる。
【0037】
すなわち、ガス送り手段7として例えば気密性保持等のためにオイルを用いる油回転真空ポンプのような機器を用いて、ガス供給源1からアルゴンガスを回収する場合、オイルの熱分解により炭化水素が発生し、そのようなオイル由来の炭化水素が油分と共に不純物としてアルゴンガスに付加される。オイル由来の炭化水素の中で、炭素数の多いものは油分と共に活性炭に吸着されるが、メタンや炭素数2〜6の炭化水素(C2〜C6)は殆ど活性炭に吸着されない。この場合、アルゴンガスにおける炭化水素の一部と油分とが活性炭吸着塔22における活性炭に吸着される。しかる後に、第1反応工程において、アルゴンガスに当初から含有される水素、一酸化炭素、および付加された炭化水素が、当初から含有される酸素と反応し、水素、一酸化炭素、炭化水素と酸素の一部とが、水と二酸化炭素に変成される。他は上記実施形態と同様である。
【実施例1】
【0038】
上記精製装置αを用いてアルゴンガスの精製を行った。なお、本実施例では反応装置3は
図3の変形例に記載のものを用いた。
精製対象のアルゴンガスは不純物として酸素を5000モルppm、水素を200モルppm、一酸化炭素を1800モルppm、窒素を1000モルppm、二酸化炭素を20モルppm、水分を20モルppmそれぞれ含有するものを用いた。
そのアルゴンガスを加熱して標準状態で8.0L/minの流量で反応装置3に導入した。反応装置3の第1反応領域3Aに、アルミナ担持のルテニウム触媒(エヌ・イー・ケムキャット株式会社製、0.5%RUアルミナペレットEA)を80mL充填し、反応条件は温度200℃、大気圧、空間速度5000/hとした。第1反応領域3Aから流出するアルゴンガスの酸素濃度を測定し、酸素を水にするのに必要な量の99モル%の水素を接続領域3Cから添加した。第2反応領域3Bには第1反応領域3Aの3倍量の同一触媒を充填し反応条件も同一とした。
第2反応領域3Bから流出するアルゴンガスを冷却器5により20℃まで冷却し、液化した水を除去し、次に、脱水装置6として用いた活性アルミナ(住友化学製KHD−24)1200mLが充填された脱水塔に導入し、脱水工程により水分含有率を低減した。
脱水装置6から流出するアルゴンガスをPSAユニット10に導き、アルゴンガスにおける不純物含有率を低減した。PSAユニット10は4塔式で、各塔は呼び径32A、容量1200mLの円筒状とした。各塔に吸着剤として、活性アルミナ(住友化学製KHD−24)とX型ゼオライトモレキュラシーブ(東ソー製NSA−700)と5A型のカーボンモレキュラーシーブ(日本エンバイロケミカルズ製モルシーボン5A)を、30:60:10の容量比で積層充填し、アルゴンガスの導入側から活性アルミナ、X型ゼオライトモレキュラシーブ、カーボンモレキュラーシーブの順に配置した。圧力スイング吸着法を実施する際の操作条件は、吸着圧力0.9MPaG、脱着圧力0.03MPaG、サイクルタイム250秒とした。
PSAユニット10から流出する精製されたアルゴンガスの回収率(純分)は85%であり、不純物の組成は以下の通りであった。
酸素0.4モルppm、窒素0.5モルppm、水素1.0モルppm未満、一酸化炭素1.0モルppm未満、二酸化炭素1.0モルppm未満、水分1.0モルppm未満。
なお、精製されたアルゴンガスにおける酸素濃度はDELTA F社製微量酸素濃度計型式DF−150Eにより、一酸化炭素、二酸化炭素の濃度は島津製作所製GC−FIDを用いてメタナイザーを介して測定した。窒素濃度は島津製作所製のGC−PDD、水素濃度についてはGL Science社製GC−PID、水分はGEセンシング&インスペクション・テクノロジィー社製の露点計DEWMET−2を用いて測定した。
【実施例2】
【0039】
精製対象のアルゴンガスとして、不純物として窒素10.0容量%、酸素2.68容量%、水素20モルppm、一酸化炭素1500モルppm、二酸化炭素200モルppm、水分300モルppmを含有するものを用いた。これ以外は実施例1と同様にしてアルゴンガスを精製した。精製されたアルゴンガスの回収率(純分)は83%であり、不純物の組成は以下の通りであった。
酸素0.6モルppm、窒素0.7モルppm、水素、一酸化炭素、二酸化炭素、水分は各々1.0モルppm未満。
【実施例3】
【0040】
精製対象のアルゴンガスは、不純物として窒素5.0容量%、酸素1.34容量%、水素22モルppm、一酸化炭素1500ppm、二酸化炭素210ppm、水分250ppmを含有するものを用いた。これ以外は実施例1と同様にしてアルゴンガスを精製した。精製されたアルゴンガスの回収率(純分)は84%であり、不純物の組成は以下の通りであった。
酸素0.5モルppm、窒素0.6モルppm、水素、一酸化炭素、二酸化炭素、水分は各々1.0モルppm未満。
【0041】
脱水装置6による脱水工程を行わず、第2反応領域3Bから流出するアルゴンガスを20℃まで冷却し、そのままPSAユニットに送った。これ以外は実施例2と同様にしてアルゴンガスを精製した。精製されたアルゴンガスの回収率(純分)は81.5%であり、不純物の組成は以下の通りであった。
酸素1.5モルppm、窒素108モルppm、水素1ppm未満、一酸化炭素1.0ppm未満、二酸化炭素1.3モルppm、水分3モルppm。
【0042】
PSAユニット10の各塔に充填剤として活性アルミナを充填せず、X型ゼオライトモレキュラシーブとカーボンモレキュラシーブを6:1の容量比で充填した。これ以外は実施例2と同様にしてアルゴンガスを精製した。精製されたアルゴンガスの回収率(純分)は82%であり、不純物の組成は以下の通りであった。
酸素0.8モルppm、窒素15モルppm、水素、一酸化炭素、二酸化炭素は各々1.0モルppm未満。
【0043】
上記実施例により、脱水工程を行うことで常温での圧力スイング吸着法によりアルゴンガスにおける酸素、二酸化炭素、窒素の濃度を低減できることが確認される。また、PSAユニット10における吸着剤として、活性アルミナとX型ゼオライトモレキュラシーブとカーボンモレキュラーシーブを用いることで、より不純物濃度を低減できることが確認される。
【0044】
本発明は上記実施形態、変形例、実施例に限定されない。例えば、より高純度のアルゴンガスを得るために、圧力スイング吸着工程の後に、アルゴンガスに残留する窒素と酸素を、−10℃〜−50℃でのサーマルスイング吸着法により吸着剤に吸着させるサーマルスイング吸着工程を実行するTSAユニットを設けてもよい。精製対象のアルゴンガスに当初含有される酸素が空気由来である場合、酸素濃度が高くなると窒素濃度も高くなるため、酸素濃度が50000ppmを超える場合は圧力スイング吸着工程の後にサーマルスイング吸着工程を実行するのが好ましい。