特許第5897323号(P5897323)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5897323
(24)【登録日】2016年3月11日
(45)【発行日】2016年3月30日
(54)【発明の名称】自動分析装置および測定値異常検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/00 20060101AFI20160317BHJP
【FI】
   G01N35/00 F
   G01N35/00 A
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2011-284467(P2011-284467)
(22)【出願日】2011年12月26日
(65)【公開番号】特開2013-134139(P2013-134139A)
(43)【公開日】2013年7月8日
【審査請求日】2014年10月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクノロジーズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001829
【氏名又は名称】特許業務法人開知国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077816
【弁理士】
【氏名又は名称】春日 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100156524
【弁理士】
【氏名又は名称】猪野木 雄一
(72)【発明者】
【氏名】牧野 彰久
(72)【発明者】
【氏名】飯島 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 亜希子
【審査官】 長谷 潮
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−249134(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/093402(WO,A1)
【文献】 実開平06−007054(JP,U)
【文献】 特開2011−013142(JP,A)
【文献】 特開2006−337125(JP,A)
【文献】 特開2011−153944(JP,A)
【文献】 特開2004−347385(JP,A)
【文献】 特開2007−322324(JP,A)
【文献】 H. Keller,Performance Profiles: New Tools for Characterization and Comparison of Clinical Chemical Results,J. Clin. Chem. Clin. Biochem.,1989年,Vol. 27,pp. 613-629,http://edoc.hu-berlin.de/oa/degruyter/cclm.1989.27.9.613.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/00
G01N 21/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を分析する自動分析装置において、
試薬容器を保持する試薬容器保持機構と、
反応容器を保持する反応容器保持機構と、
上記試薬容器に収容された試薬を上記反応容器に分注する試薬分注機構と、
試料を上記反応容器に分注する試料分注機構と、
上記試薬と上記試料との混合液が収容された上記反応容器に光を照射する光源と、
上記光源から照射された光を検出し、上記反応容器内の試料を分析する複数の光度検知器と、
上記複数の光度検知器のそれぞれに対して、対象物質の定量のための検量線を記憶するメモリと、
上記試料の分析結果を表示する表示部と、
上記試薬容器保持機構、上記反応容器保持機構、上記試薬分注機構、上記試料分注機構、上記複数の光度検知器、及び上記表示部を制御する制御部と、を備え、
上記制御部は、
上記複数の光度検知器のうちの2つの光度検知器によって同一試料に対してそれぞれ検出される第1及び第2の検出値を取得し、
上記第1及び第2の検出値から、上記メモリに記憶された上記2つの光度検知器のそれぞれに対する検量線に基づいて、上記同一試料の第1及び第2の濃度を演算し、
当該演算された第1及び第2の濃度の差分を変動幅として求め、
当該求められた変動幅が、予め定めた変動幅許容範囲以内か否かを判断し、上記変動幅許容範囲以内でなければ、反応過程異常であることを上記表示部に表示させ、
上記変動幅許容範囲は、上記試料の濃度範囲別に設定されることを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の自動分析装置において、
上記複数の光度検知器は、測定対象物質からの透過光を検知する光度検知器と、測定対象物質からの散乱光を検知する光度検知器とを有することを特徴とする自動分析装置。
【請求項3】
請求項2に記載の自動分析装置において
記制御部は、上記各光度検出器の出力値から算出した試料濃度の平均値を算出し、算出した上記平均値に従って、当該試料の濃度別に設定される変動幅許容範囲を決定することを特徴とする自動分析装置。
【請求項4】
請求項2に記載の自動分析装置において、
上記変動幅許容範囲は、上記試料の濃度範囲別に設定され、上記制御部は、上記各光度検出器の出力値から算出した試料濃度の最小値に従って、上記設定された変動幅許容範囲を決定することを特徴とする自動分析装置。
【請求項5】
請求項2に記載の自動分析装置において、
上記制御部は、上記各光度検出器の出力値から算出した試料濃度の最大値に従って、当該試料の濃度別に設定される変動幅許容範囲を決定することを特徴とする自動分析装置。
【請求項6】
試薬容器を保持する試薬容器保持機構と、
反応容器を保持する反応容器保持機構と、
上記試薬容器に収容された試薬を上記反応容器に分注する試薬分注機構と、
試料を上記反応容器に分注する試料分注機構と、
上記試薬と上記試料との混合液が収容された上記反応容器に光を照射する光源と、
上記光源から照射された光を検出し、上記反応容器内の試料を分析する複数の光度検知器と、
上記複数の光度検知器のそれぞれに対して、対象物質の定量のための検量線を記憶するメモリと、
上記試料の分析結果を表示する表示部と、
上記試薬容器保持機構、上記反応容器保持機構、上記試薬分注機構、上記試料分注機構、上記複数の光度検知器、及び上記表示部を制御する制御部と、を備える自動分析装置の測定値異常検出方法であって、
上記制御部は、
上記複数の光度検知器のうちの2つの光度検知器によって同一試料に対してそれぞれ検出される第1及び第2の検出値を取得し、
上記第1及び第2の検出値から、上記メモリに記憶された上記2つの光度検知器のそれぞれに対する検量線に基づいて、上記同一試料の第1及び第2の濃度を演算し、
当該演算された第1及び第2の濃度の差分を変動幅として求め、
当該求められた変動幅が、予め定めた変動幅許容範囲以内か否かを判断し、上記変動幅許容範囲以内でなければ、反応過程異常であることを上記表示部に表示させ、
上記変動幅許容範囲は、上記試料の濃度範囲別に設定されることを特徴とする測定値異常検出方法。
【請求項7】
請求項6に記載の測定値異常検出方法において、
上記複数の光度検知器は、測定対象物質からの透過光を検知する光度検知器と、測定対象物質からの散乱光を検知する光度検知器とを有することを特徴とする測定値異常検出方法。
【請求項8】
請求項7に記載の測定値異常検出方法において、
上記各光度検知器の出力値から算出した試料濃度の平均値を算出し、算出た上記平均値に従って、当該試料の濃度別に設定される変動幅許容範囲を決定することを特徴とする測定値異常検出方法。
【請求項9】
請求項7に記載の測定値異常検出方法において、
上記各光度検知器の出力値から算出した試料濃度の最小値に従って、当該試料の濃度別に設定される変動幅許容範囲を決定することを特徴とする測定値異常検出方法。
【請求項10】
請求項7に記載の測定値異常検出方法において、
上記各光度検知器の出力値から算出した試料濃度の最大値に従って、当該試料の濃度別に設定される変動幅許容範囲を決定することを特徴とする測定値異常検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液や尿などの試料に含まれる成分量を分析する自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
試料に含まれる成分量を分析する分析装置として、光源からの光を、試料または試料と試薬とが混合した反応液に照射し、その結果得られる単一または複数の波長の透過光量を測定し吸光度を算出して、成分量を割り出す自動分析装置が広く用いられている。成分量はLambert−Beerの法則に従い算出される。
【0003】
上記自動分析装置においては、回転と停止を繰り返す反応ディスクに、反応液を保持する多数の反応容器が円周状に並べられ、反応ディスクの回転中に、予め配置された透過光測定部により、約10分間、一定の時間間隔で吸光度の経時変化が測定される。測定終了後、反応容器は洗浄機構により洗浄されて、再び分析に使用される。
【0004】
反応液の反応には、基質と酵素との呈色反応と、抗原と抗体との凝集反応の大きく2種類の反応が用いられる。前者は生化学分析であり、検査項目としてLDH(乳酸脱水素酵素)、ALP(アルカリホスファターゼ)、AST(アスパラギン酸アミノトランスフェナーゼ)などがある。また、後者は免疫分析であり、検査項目としてCRP(C反応性蛋白)、IgG(免疫グロブリン)、RF(リウマトイド因子)などがある。
【0005】
後者の免疫分析で測定される測定物質は血中濃度が低いため高感度な検出系が要求される。例えば、ラテックス粒子の表面に抗体を感作(結合)させた試薬を用い、試料中に含まれる抗原との抗原抗体反応によりラテックス粒子を凝集させる際に、反応液に光を照射する。そして、ラテックス凝集塊に散乱されずに透過した光量を測定することでサンプル中に含まれる成分量を定量するラテックス凝集法での高感度化が図られてきた。
【0006】
さらに、自動分析装置としては、試料からの透過光量を測定するのではなく、散乱光量を測定することによる高感度化も試みられている。
【0007】
ところで、上記自動分析装置において、反応容器内または反応容器外の恒温槽流体内における異物や気泡により光源からの光の一部が遮断または散乱されて、対象物質を定量するための反応過程に異常をきたす場合があった。
【0008】
異物や気泡による反応過程異常には、(1)単一測定ポイントでの突発的変動、(2)複数測定ポイントでの突発的変動、(3)反応過程全体での漸変動があげられる。上記反応過程異常(1)は、反応容器外の恒温槽流体内における異物や気泡が、測光のための光軸を横切るために、一時的な透過光量低下(吸光度の上昇)や散乱光量の上昇が見られるために発生する。
【0009】
また、反応過程異常(2)は、反応容器内の反応液中に浮遊する異物や気泡が、時間をかけて測定のための光軸を横切ることにより、複数の測定ポイントにおいて透過光量低下や散乱光量の上昇が見られるために発生する。
【0010】
また、反応過程異常(3)は、反応容器内の壁面に付着した微小な気泡が反応時間内で徐々に大きく成長し、または徐々に移動し、測定光束の一部が遮断または散乱されることにより、あたかも反応しているような光量の漸減(吸光度の漸増)や散乱光量の漸増を示す。
【0011】
これらの反応過程異常は、測定結果の正確性、または精度に影響を与えることが知られており、高感度化の大きな障害となっている。
【0012】
上記反応過程異常(1)及び(2)については、特許文献1に記載されているような反応過程内での変化率を比較する技術や、特許文献2に記載されているような正常反応に対するマハラノビス距離を算出し異常反応を判別する技術により、チェックすることができる。
【0013】
また、上記反応過程異常(3)については、あたかも正常に反応しているような反応過程になるため、対象物質の濃度が未知である通常の検査業務において、チェックすることは容易ではない。
【0014】
このため、特許文献3には、反応液の吸光度を測定する測定部以外に反応容器を直接撮像する画像取得部を備え、反応過程と画像情報とにより、気泡等が原因となる反応過程の異常をチェックする技術が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2000−275254号公報
【特許文献2】特開2007−248089号公報
【特許文献3】特開2011−013142号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、特許文献3に記載された技術では、反応容器内壁のどの部分に気泡が付着するかは判断できないため、内壁の複数個所の撮影が必要であり、撮影装置の機構が複雑化してしまう。
【0017】
また、高感度な散乱光測定をしている場合は、直径数μmの気泡による影響も考えられるため、そのような微小な気泡をチェックするには高解像度な撮影が必要であり、処理速度や記録容量等が問題となる。
【0018】
さらに、反応過程と撮影した画像とを同時にチェックしても、実際に測定結果にどの程度の影響があったか判断することは困難である。このため、測定結果への影響が無視できるほど小さかったとしても、再検査が必要と判断してしまう恐れもあり、試薬を浪費してしまう可能性がある。特に、反応過程異常(3)のような反応過程全体での漸変動については、測定結果への影響の判断は困難である。
【0019】
本発明の目的は、装置の処理や機能を複雑化することなく、気泡や異物による反応過程異常由来の測定値異常を検出可能な自動分析装置および測定値異常検出方法を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記目的を達成するため、本発明は次のように構成される。
【0021】
試料を反応容器に分注する試料分注機構と、上記反応容器内の試料を分析する複数の光度検知器と、上記試料の分析結果を表示する表示部とを有し試料を分析する自動分析装置及び測定値異常検出方法において、上記複数の光度検知器のそれぞれに対して、対象物質の定量のための検量線をメモリに記憶し、上記複数の光度検知器の各光度検知器について、各光度検知器の同一試料に対する複数の検出値から上記メモリに記憶した検量線に基づいて、上記試料の複数の濃度を演算し、演算した複数の濃度の変動幅を算出し、算出した変動幅が予め定めた変動幅許容範囲以内か否かを判断し、上記変動幅許容範囲以内でなければ、反応過程異常であることを上記表示部に表示させる。
【発明の効果】
【0022】
装置の処理や機能を複雑化することなく、気泡や異物による反応過程異常由来の測定値異常を検出可能な自動分析装置および測定値異常検出方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施例が適用される自動分析装置の全体構成図である。
図2】本発明の一実施例における光学系の概略図である。
図3】単一測定ポイントでの突発的変動を説明する図である。
図4】複数測定ポイントでの突発的変動を説明する図である。
図5】反応過程全体の漸変動を説明する図である。
図6】本発明の一実施例における、各検出器の対象物質に対する検量線の一例を示すグラフである。
図7】本発明の一実施例における、正常な測定結果のばらつきの例を示すグラフである。
図8】本発明の一実施例における、異常な測定結果のばらつきの例を示すグラフである。
図9】本発明の一実施例の自動分析装置による測定値異常チェックの動作フローチャートである。
図10】測定値異常チェックを行うための機能ブロック図である。
図11】本発明の一実施例における、測定値異常チェックの変動幅既定範囲を入力するための画面の例を示す図である。
図12】本発明の一実施例における、測定値異常アラーム表示画面の例である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0025】
なお、本発明の実施形態を説明するための全図において同一機能を有するものは原則として同一の符号を付すようにし、その繰り返しの説明は可能な限り省略する。
【実施例】
【0026】
図1は、本発明の一実施例が適用される自動分析装置の全体構成図である。図1において、自動分析装置1は、主に、反応ディスク(反応容器保持機構)10と、サンプルディスク20と、試薬ディスク(試薬容器保持機構)30a及び30bと、光源40と、光度計41と、コンピュータ50とを備える。
【0027】
反応ディスク10は、間欠回転可能であり、この反応ディスク10上に透光性材料からなる多数の反応容器11が周方向に沿って配置されている。反応容器11は、恒温槽12により所定温度(例えば37°C)に維持されている。恒温槽12内の流体は、恒温維持装置13により温度調整されている。
【0028】
サンプルディスク20上には、血液、尿等の生体サンプルを収容する多数の検体容器21が、図示の例では二重に周方向に沿って載置されている。また、サンプルディスク20の近傍には、サンプル分注機構(試料分注機構)22が配置されている。このサンプル分注機構22は、可動アーム23と、これに取り付けられたピペットノズル24とを備えている。
【0029】
上記構成により、サンプル分注機構22は、サンプル分注時にはピペットノズル24が可動アーム23により分注位置に移動して、サンプルディスク20の吸入位置に位置する検体容器21から所定量のサンプルを吸入し、そのサンプルを反応ディスク10上の吐出位置にある反応容器11内に吐出する。
【0030】
試薬ディスク30a、30bは、互いに概ね同径かつ同形状のディスクであり、試薬保冷庫31a、31bがそれぞれ周方向に沿って配置されている。この試薬保冷庫31a、31bには、バーコードのように試薬識別情報を表示したラベルが貼られた複数の試薬ボトル32a、32bが、試薬ディスク30a、30bの周方向に沿ってそれぞれ載置されている。
【0031】
これらの試薬ボトル32a、32bには、自動分析装置1により分析され得る分析項目に対応する試薬液が収容されている。また、各試薬保冷庫31a、31bは、バーコード読み取り装置33a、33bが付属されており、これらの装置33a、33bが試薬登録時に各試薬ボトル32a、32bの外壁に表示されているバーコードを読み取る。読み取られた試薬情報は、試薬ディスク30a、30b上のポジションとともにメモリ56に登録される。
【0032】
また、試薬ディスク30a、30bの近傍には、サンプル分注機構22と概ね同様の機構をなす試薬分注機構34a、34bがそれぞれ配置されている。試薬分注時には、これらが備えるピペットノズルにより、反応ディスク10上の試薬受け入れ位置に位置付けられる検査項目に応じた試薬ボトル32a、32bから試薬液を吸入し、該当する反応容器11内へ吐出する。
【0033】
反応ディスク10、試薬ディスク30a、30bおよび試薬分注機構34a、34bに囲まれる位置には、攪拌機構35a、35bが配置されている。反応容器11内に収容されたサンプルと試薬との混合液は、この攪拌機構35a、35bにより攪拌されて反応が促進される。
【0034】
ここで、光源40は反応ディスク10の中心部付近に配置され、光度計41は反応ディスク10の外周側に配置されており、攪拌を終えた反応容器11の列は光源40と光度計41とによって挟まれた測光位置を通るように回転移動する。なお、光源40と散乱光度計41は光検出系を構成する。
【0035】
各反応容器11内におけるサンプルと試薬との反応液は、反応ディスク10の回転動作中に光度計41の前を横切る度に測光される。サンプル毎に測定された散乱光のアナログ信号は、A/D(アナログ/デジタル)変換器54に入力される。
【0036】
使用済みの反応容器11は、反応ディスク10の近傍に配置された反応容器洗浄機構36により、内部が洗浄されて繰り返しの使用を可能にする。
【0037】
次に、図1の自動分析装置1における制御系及び信号処理系について簡単に説明する。コンピュータ50は、インターフェース51を介して、サンプル分注制御部52、試薬分注制御部53、A/D変換器54に接続されている。コンピュータ50は、サンプル分注制御部52に対して指令を送り、サンプルの分注動作を制御する。また、コンピュータ50は、試薬分注制御部53に対して指令を送り、試薬の分注動作を制御する。
【0038】
A/D変換器54によってデジタル信号に変換された光度計41の測光値は、コンピュータ50に取り込まれる。
【0039】
インターフェース51には、印字するためのプリンタ55、記憶装置であるメモリ56や外部出力メディア57、操作指令等を入力するためのキーボード58、画面表示するためのCRTディスプレイ(表示装置)59が接続されている。表示装置59としては、CRTディスプレイの他に液晶ディスプレイなどを採用できる。
【0040】
メモリ56は、例えばハードディスクメモリまたは外部メモリにより構成される。メモリ56には、各操作者のパスワード、各画面の表示レベル、分析パラメータ、分析項目依頼内容、キャリブレーション結果、分析結果等の情報が記憶される。
【0041】
次に、図1の自動分析装置1におけるサンプルの分析動作を説明する。自動分析装置1によって分析可能な項目に関する分析パラメータは、予めキーボード58等の情報入力装置を介して入力されておリ、メモリ56に記憶されている。操作者は、ディスプレイ59の操作機能画面を用いて各サンプルに依頼されている検査項目を選択する。
【0042】
この際に、患者IDなどの情報もキーボード58から入力される。各サンプルに対して指示された検査項目を分析するために、サンプル分注機構22のピペットノズル24は、分析パラメータに従って、検体容器21から反応容器11へ所定量のサンプルを分注する。
【0043】
サンプル(試料)が分注された反応容器11は、反応ディスク10の回転によって移送され、試薬受け入れ位置に停止する。試薬分注機構34a、34bのピペットノズルは、該当する検査項目の分析パラメータに従って、反応容器11に所定量の試薬液を分注する。サンプルと試薬の分注順序は、この例とは逆に、サンプルより試薬が先であってもよい。
【0044】
その後、攪拌機構35a、35bにより、サンプルと試薬との攪拌が行われ、混合される。この反応容器11が、測光位置を横切る時、光度計41により反応液の透過光または散乱光が測光される。測光された透過光または散乱光は、A/D変換器54により光量に比例した数値に変換され、インターフェース51を経由して、コンピュータ50に取り込まれる。
【0045】
この変換された数値を用い、検査項目毎に指定された分析法により予め測定しておいた検量線に基づき、濃度データが算出される。各検査項目の分析結果としての成分濃度データは、プリンタ55やCRTディスプレイ59の画面に出力される。
【0046】
以上の測定動作が実行される前に、操作者は、分析測定に必要な種々のパラメータの設定や試料の登録を、CRTディスプレイ59の操作画面を介して行う。また、操作者は、測定後の分析結果をCRTディスプレイ59上の操作画面により確認する。
【0047】
図2は、本発明の一実施例における光学系の概略図である。図2において、光源40からの照射光は、恒温槽12に形成された投光窓42を通過して、反応容器11内の測定対象物質に照射される。測定対象物質からの透過光は、恒温槽12に形成された受光窓43を通過して光度計41の透過光用検知器44にて受光される。測定対象物質からの散乱光は、受光窓43を通過して、光軸に対しα°の角度を持つ、光度計41の散乱光用検知器45Aおよびβ°の角度を持つ散乱光用検知器45Bにて受光される。
【0048】
複数の散乱光検出器は、光軸に対し同角度で上下対称に配置しても良い。光源40は、光源ホルダ(光源が配置されるベース部材)46により固定され、光度計41の検知器44、45a、45bは検知器ホルダ(各検知器が配置されるベース部材)47に配置されて固定される。
【0049】
また、光源ホルダ46と検知器ホルダ47は、光度計ベース48に固定され、光度計ベース48は機構ベース49に固定される。
【0050】
図3図4図5は、気泡や異物による反応過程異常を説明する図である。
【0051】
図3は単一測定ポイントでの突発的変動(1)を説明する図である。図3において、反応容器外の恒温槽流体内における異物や気泡が、測光のための光軸を横切るために、一時的な透過光量低下(吸光度の上昇)や散乱光量の上昇が見られるために発生する。
【0052】
図4は複数測定ポイントでの突発的変動(2)を説明する図である。図4において、反応容器内の反応液内に浮遊する異物や気泡が、時間をかけて光軸を横切ることにより、複数の測定ポイントにおいて透過光量低下(吸光度の上昇)や散乱光量の上昇が見られるために発生する。
【0053】
図5は反応過程全体の漸変動を説明する図である。図5において、反応過程全体での漸変動は、反応容器内の壁面に付着した微小な気泡が反応時間内で徐々に大きく成長、または徐々に移動し、光束の一部が遮断または散乱されることにより、あたかも反応しているような光量の漸減(吸光度の漸増)や散乱光量の漸増を示す。
【0054】
自動分析装置の分析法として一般的に用いられているエンドポイント法やレート法などにおいて、濃度演算に使用する測定ポイントでこれらの反応過程異常が発生すると、濃度演算結果が異常値となってしまい誤報告につながる可能性がある。
【0055】
図6は、本発明の一実施例における、各々の検出器44、45A、45Bの対象物質に対する検量線の一例を示すグラフである。図6に示したグラフは、段階的に濃度調整された標準液を複数回測定し、その光量平均値を各々の濃度における光量データとして検量線を作成している。検量線作成は、既知の濃度の試料を複数回測定するので、反応過程異状による測定値異状が発生しても発見が容易なため、本発明による手段を用いなくても問題となることはない。それぞれの検出器の検量線は、各々の受光角度応じた固有の検量線となる。
【0056】
図6において、縦軸は光量を示し、横軸は対象物質濃度を示す。黒丸は検出器44で検出された透過光、三角形は検出器45Aで検出されたα°散乱光、四角形は検出器45Bで検出されたβ°散乱光である。
【0057】
これらの検量線を用いて、未知の濃度の定量測定を実施するが、実際の測定では、試薬の組成による感度や再現性の観点から、最適な受光角度が予め設定されており、その受光角度の検出器からの光量データにより、定量測定を実施する。
【0058】
しかしながら、その他の受光角度においても定量測定に関しては最適ではないものの、あるばらつき範囲において定量測定が可能であり、本発明の実施例における測定値異状チェックに用いることができる。
【0059】
また、それぞれの検量線は、例えばCV<20%以下のばらつき範囲により規定される低濃度側の定量限界、およびプロゾーン現象などで制限を受ける高濃度側の定量限界内において定量可能範囲を決定して使用する。
【0060】
したがって、各検出器44、45A、45Bの定量可能範囲が交わる範囲において、本発明の測定値異常チェックが可能となる。
【0061】
図7は、本発明の一実施例における、正常な測定結果のばらつきの例を示すグラフである。破線で示す範囲が変動幅許容範囲であり、各々の検量線における定量可能範囲内の測定であれば、それぞれの測定結果は、変動幅許容範囲内に収まる。図7に示した例では、0°透過光、α°散乱光、β°散乱光を用いてチェックしているが、透過光測定と散乱光測定では感度や定量可能範囲が大きく異なる場合があるため、散乱光測定の結果のみをチェックに使用しても良い。また、反応容器への光の照射位置が異なる複数の吸光光度計により、同様のチェックが可能である。
【0062】
図8は、本発明の一実施例における、異常な測定結果のばらつきの例を示すグラフである。上述した単一測定ポイントの突発的変動(1)、複数測定ポイントの突発的変動(2)、反応過程全体の漸変動(3)が生じ、異常反応過程となった場合、すべての受光角度に影響が出るとき、いずれかのみに影響が出るときがあるが、いずれのときにおいても気泡や異物に対する各々の受光角度での感度や、光学系の違いにより、測定結果は正常状態に比べて変動幅が大きくなる。
【0063】
したがって、測定結果の変動幅が予め設定した変動幅許容範囲より大きくなった場合に異常反応と識別することができる。このとき、気泡や異物により各々の受光角度の測定結果が同様に変動してしまうと、異常が発生しているのもかかわらず、変動幅は小さい。このため、異常反応を検出できないと予想される。
【0064】
しかし、気泡や異物により各々の受光角度の測定結果が同様に変動する可能性は非常に低く、変動幅許容範囲を適切に設定すれば確実に異常反応を判別できる。
【0065】
図9は、本発明の一実施例の自動分析装置による測定値異常チェックの動作フローチャートであり、図10は、コンピュータ50の測定値異常チェックを行うための機能ブロック図である。図10において、コンピュータ50は、検知器44、45A、45Bからの検知信号に基づき、濃度を演算する濃度演算部501と、定量範囲判断部502と、平均値演算部503と、許容変動幅テーブル504と、変動幅演算判断部505とを備えている。
【0066】
図9に示した動作は、図1で示した自動分析装置による分析動作により測定結果が得られた後に、自動的に実行される。
【0067】
図9及び図10において、まず、測定値異常チェックが開始されると(ステップ(a))、濃度演算部501により実行された、対象となる複数の検知器からの光量データによる濃度演算結果が、それぞれ定量範囲内か否かを定量範囲判断部502によりチェックされる(ステップ(b))。
【0068】
ステップ(b)において、濃度演算結果が定量範囲内であれば、平均値演算部503は、そのまま、対象の検出器での濃度演算結果の平均値を算出する(ステップ(d))。
【0069】
ステップ(b)において、濃度演算結果が定量範囲外であった場合、定量範囲判断部502は定量範囲外のフラグを付与(ステップ(c))する。その後、平均均値演算部503は、対象の検出器での濃度演算結果の平均値を算出する(ステップ(d))。これは、測定値が定量範囲外であっても、臨床的な判断材料になる場合があるので、フラグを付与した上で測定値異常チェックを継続する。
【0070】
変動幅演算判断部505は、平均値演算部503が算出した濃度演算結果の平均値における変動幅許容範囲を許容変動幅テーブル504から呼び出しステップ(e))、次に対象の複数検出器における濃度演算結果の変動幅を算出する(ステップ(f))。変動幅演算判断部505は、算出した変動幅が変動幅許容範囲内に収まっているかを判断する(ステップ(g))。
【0071】
ステップ(g)において、変動幅が変動幅許容範囲内であれば、変動幅演算判断部505は、濃度演算結果をディスプレイ59に出力し(ステップ(h))、測定値異常チェック終了となる(ステップ(k))。
【0072】
ステップ(g)において、変動幅が、変動幅許容範囲外であれば、変動幅演算判断部505は、再検査の依頼をディスプレイ59に表示させ(ステップ(i))、測定値異状アラームを付加する(ステップ(j))。そして、測定値異常チェックが終了する(ステップ(k))。
【0073】
図11は、本発明の一実施例における、測定値異常チェックの変動幅許容範囲を入力するための画面の例である。
【0074】
変動幅許容範囲は、キーボード58が操作されて、変動幅許容テーブル504に格納される。また、図11に示した入力画面はディスプレイ59に表示される。
【0075】
図11において、項目名毎に、変動幅許容範囲が設定される。また、濃度範囲毎に変動幅許容範囲を設定することができる。つまり、測定濃度の平均値が0.01〜0.1mg/dLの範囲内であれば変動幅許容範囲は0.01mg/dLとなり、測定濃度の平均値が0.1〜1.0mg/dLの範囲内であれば変動幅許容範囲は0.1mg/dLとなる。
【0076】
なお、変動幅許容範囲については、いずれの濃度領域においても一定値で設定しても良いし、高濃度領域では変動幅が大きくなることが一般に知られているので、濃度に応じて変動幅許容範囲を設定しても良い。また、このときいずれの濃度域の変動幅許容範囲を用いるかを、測定値の平均値から決定しても良いし、測定結果の最小値や最大値で決定する方法も考えられる。測定値の最小値を用いた場合は、平均値を用いるよりもチェックの感度は高くなり、測定値の最大値を用いた場合は、平均値を用いるよりもチェックの感度は低くなる。さらに、変動幅許容範囲を分析項目の固有値として設定することも考えられるが、検知器それぞれの検量線作成時に、各々の濃度における複数データの変動幅から決定してもよい。これらの既定値は、手入力のほか、装置側で自動入力とすることも可能である。また、測定項目ごとのバーコードなどに既定値情報を組み込んでおくことで、装置がバーコードを読み取る構成も考えられる。
【0077】
変動幅許容範囲は、測定する項目別に設定するほうが、チェックの精度は向上するが、測定項目よらず一律に決定することも可能である。
【0078】
図12は、本発明の一実施例における、測定値異常アラーム表示画面の例であり、ディスプレイ59に表示される。測定値異常アラーム表示画面には、異常のレベル、異常内容を示すアラーム、発生時刻、詳細(説明と対処法)が表示されている。
【0079】
測定値異常チェックにて異常と判断された場合に、反応過程を見比べることで異常となった原因を推定することも可能である。また、装置側で自動判定する構成も考えられる。
【0080】
以上のように、本発明の一実施例によれば、装置の処理や機能を複雑化することなく、気泡や異物による反応過程異常由来の測定値異常を検出可能な自動分析装置および測定値異常検出方法を実現することができる。
【0081】
なお、上述した例は、測定値異常の発生を自動的に判断して、その旨を表示する例であるが、例えば、図7図8に示すように、変動幅許容範囲と、実際の測定値の変動幅を画面表示し、オペレータ等が目視で、測定値異常の発生を判断する構成とすることもできる。
【符号の説明】
【0082】
1・・・自動分析装置、10・・・反応ディスク、11・・・反応容器、12・・・恒温槽、13・・・恒温維持装置、20・・・サンプルディスク、21・・・検体容器、22・・・サンプル分注機構、23・・・可動アーム、24・・・ピペットノズル、30a・・・試薬ディスク、30b・・・試薬ディスク、31a・・・試薬保冷庫、31b・・・試薬保冷庫、32a・・・試薬ボトル、32b・・・試薬ボトル、33a・・・バーコード読み取り装置、33b・・・バーコード読み取り装置、34a・・・試薬分注機構、34b・・・試薬分注機構、35a・・・攪拌機構、35b・・・攪拌機構、36・・・反応容器洗浄機構、40・・・光源、41・・・散乱光度計、42・・・投光窓、43・・・受光窓、44・・・透過光用検知器、45a・・・α°散乱光用検知器、45b・・・β°散乱光用検知器、46・・・光源ホルダ(光源が配置されるベース部材)、47・・・検知器ホルダ(各検知器が配置されるベース部材)、48・・・光度計ベース、49・・・機構ベース、50・・・コンピュータ、51・・・インターフェース、52・・・サンプル分注制御部、53・・・試薬分注制御部、54・・・A/D変換器、55・・・プリンタ、56・・・メモリ、57・・・外部出力メディア、58・・・キーボード、59・・・CRTディスプレイ(表示装置)、501・・・濃度演算部、502・・・定量範囲判断部、503・・・平均値演算部、504・・・許容変動幅テーブル、505・・・変動幅演算判断部
図1
図2
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図4
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図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12