【実施例】
【0026】
図1は、本発明の一実施例が適用される自動分析装置の全体構成図である。
図1において、自動分析装置1は、主に、反応ディスク(反応容器保持機構)10と、サンプルディスク20と、試薬ディスク(試薬容器保持機構)30a及び30bと、光源40と、光度計41と、コンピュータ50とを備える。
【0027】
反応ディスク10は、間欠回転可能であり、この反応ディスク10上に透光性材料からなる多数の反応容器11が周方向に沿って配置されている。反応容器11は、恒温槽12により所定温度(例えば37°C)に維持されている。恒温槽12内の流体は、恒温維持装置13により温度調整されている。
【0028】
サンプルディスク20上には、血液、尿等の生体サンプルを収容する多数の検体容器21が、図示の例では二重に周方向に沿って載置されている。また、サンプルディスク20の近傍には、サンプル分注機構(試料分注機構)22が配置されている。このサンプル分注機構22は、可動アーム23と、これに取り付けられたピペットノズル24とを備えている。
【0029】
上記構成により、サンプル分注機構22は、サンプル分注時にはピペットノズル24が可動アーム23により分注位置に移動して、サンプルディスク20の吸入位置に位置する検体容器21から所定量のサンプルを吸入し、そのサンプルを反応ディスク10上の吐出位置にある反応容器11内に吐出する。
【0030】
試薬ディスク30a、30bは、互いに概ね同径かつ同形状のディスクであり、試薬保冷庫31a、31bがそれぞれ周方向に沿って配置されている。この試薬保冷庫31a、31bには、バーコードのように試薬識別情報を表示したラベルが貼られた複数の試薬ボトル32a、32bが、試薬ディスク30a、30bの周方向に沿ってそれぞれ載置されている。
【0031】
これらの試薬ボトル32a、32bには、自動分析装置1により分析され得る分析項目に対応する試薬液が収容されている。また、各試薬保冷庫31a、31bは、バーコード読み取り装置33a、33bが付属されており、これらの装置33a、33bが試薬登録時に各試薬ボトル32a、32bの外壁に表示されているバーコードを読み取る。読み取られた試薬情報は、試薬ディスク30a、30b上のポジションとともにメモリ56に登録される。
【0032】
また、試薬ディスク30a、30bの近傍には、サンプル分注機構22と概ね同様の機構をなす試薬分注機構34a、34bがそれぞれ配置されている。試薬分注時には、これらが備えるピペットノズルにより、反応ディスク10上の試薬受け入れ位置に位置付けられる検査項目に応じた試薬ボトル32a、32bから試薬液を吸入し、該当する反応容器11内へ吐出する。
【0033】
反応ディスク10、試薬ディスク30a、30bおよび試薬分注機構34a、34bに囲まれる位置には、攪拌機構35a、35bが配置されている。反応容器11内に収容されたサンプルと試薬との混合液は、この攪拌機構35a、35bにより攪拌されて反応が促進される。
【0034】
ここで、光源40は反応ディスク10の中心部付近に配置され、光度計41は反応ディスク10の外周側に配置されており、攪拌を終えた反応容器11の列は光源40と光度計41とによって挟まれた測光位置を通るように回転移動する。なお、光源40と散乱光度計41は光検出系を構成する。
【0035】
各反応容器11内におけるサンプルと試薬との反応液は、反応ディスク10の回転動作中に光度計41の前を横切る度に測光される。サンプル毎に測定された散乱光のアナログ信号は、A/D(アナログ/デジタル)変換器54に入力される。
【0036】
使用済みの反応容器11は、反応ディスク10の近傍に配置された反応容器洗浄機構36により、内部が洗浄されて繰り返しの使用を可能にする。
【0037】
次に、
図1の自動分析装置1における制御系及び信号処理系について簡単に説明する。コンピュータ50は、インターフェース51を介して、サンプル分注制御部52、試薬分注制御部53、A/D変換器54に接続されている。コンピュータ50は、サンプル分注制御部52に対して指令を送り、サンプルの分注動作を制御する。また、コンピュータ50は、試薬分注制御部53に対して指令を送り、試薬の分注動作を制御する。
【0038】
A/D変換器54によってデジタル信号に変換された光度計41の測光値は、コンピュータ50に取り込まれる。
【0039】
インターフェース51には、印字するためのプリンタ55、記憶装置であるメモリ56や外部出力メディア57、操作指令等を入力するためのキーボード58、画面表示するためのCRTディスプレイ(表示装置)59が接続されている。表示装置59としては、CRTディスプレイの他に液晶ディスプレイなどを採用できる。
【0040】
メモリ56は、例えばハードディスクメモリまたは外部メモリにより構成される。メモリ56には、各操作者のパスワード、各画面の表示レベル、分析パラメータ、分析項目依頼内容、キャリブレーション結果、分析結果等の情報が記憶される。
【0041】
次に、
図1の自動分析装置1におけるサンプルの分析動作を説明する。自動分析装置1によって分析可能な項目に関する分析パラメータは、予めキーボード58等の情報入力装置を介して入力されておリ、メモリ56に記憶されている。操作者は、ディスプレイ59の操作機能画面を用いて各サンプルに依頼されている検査項目を選択する。
【0042】
この際に、患者IDなどの情報もキーボード58から入力される。各サンプルに対して指示された検査項目を分析するために、サンプル分注機構22のピペットノズル24は、分析パラメータに従って、検体容器21から反応容器11へ所定量のサンプルを分注する。
【0043】
サンプル(試料)が分注された反応容器11は、反応ディスク10の回転によって移送され、試薬受け入れ位置に停止する。試薬分注機構34a、34bのピペットノズルは、該当する検査項目の分析パラメータに従って、反応容器11に所定量の試薬液を分注する。サンプルと試薬の分注順序は、この例とは逆に、サンプルより試薬が先であってもよい。
【0044】
その後、攪拌機構35a、35bにより、サンプルと試薬との攪拌が行われ、混合される。この反応容器11が、測光位置を横切る時、光度計41により反応液の透過光または散乱光が測光される。測光された透過光または散乱光は、A/D変換器54により光量に比例した数値に変換され、インターフェース51を経由して、コンピュータ50に取り込まれる。
【0045】
この変換された数値を用い、検査項目毎に指定された分析法により予め測定しておいた検量線に基づき、濃度データが算出される。各検査項目の分析結果としての成分濃度データは、プリンタ55やCRTディスプレイ59の画面に出力される。
【0046】
以上の測定動作が実行される前に、操作者は、分析測定に必要な種々のパラメータの設定や試料の登録を、CRTディスプレイ59の操作画面を介して行う。また、操作者は、測定後の分析結果をCRTディスプレイ59上の操作画面により確認する。
【0047】
図2は、本発明の一実施例における光学系の概略図である。
図2において、光源40からの照射光は、恒温槽12に形成された投光窓42を通過して、反応容器11内の測定対象物質に照射される。測定対象物質からの透過光は、恒温槽12に形成された受光窓43を通過して光度計41の透過光用検知器44にて受光される。測定対象物質からの散乱光は、受光窓43を通過して、光軸に対しα°の角度を持つ、光度計41の散乱光用検知器
45Aおよびβ°の角度を持つ散乱光用検知器
45Bにて受光される。
【0048】
複数の散乱光検出器は、光軸に対し同角度で上下対称に配置しても良い。光源40は、光源ホルダ(光源が配置されるベース部材)46により固定され、光度計41の検知器44、45a、45bは検知器ホルダ(各検知器が配置されるベース部材)47に配置されて固定される。
【0049】
また、光源ホルダ46と検知器ホルダ47は、光度計ベース48に固定され、光度計ベース48は機構ベース49に固定される。
【0050】
図3、
図4、
図5は、気泡や異物による反応過程異常を説明する図である。
【0051】
図3は単一測定ポイントでの突発的変動(1)を説明する図である。
図3において、反応容器外の恒温槽流体内における異物や気泡が、測光のための光軸を横切るために、一時的な透過光量低下(吸光度の上昇)や散乱光量の上昇が見られるために発生する。
【0052】
図4は複数測定ポイントでの突発的変動(2)を説明する図である。
図4において、反応容器内の反応液内に浮遊する異物や気泡が、時間をかけて光軸を横切ることにより、複数の測定ポイントにおいて透過光量低下(吸光度の上昇)や散乱光量の上昇が見られるために発生する。
【0053】
図5は反応過程全体の漸変動を説明する図である。
図5において、反応過程全体での漸変動は、反応容器内の壁面に付着した微小な気泡が反応時間内で徐々に大きく成長、または徐々に移動し、光束の一部が遮断または散乱されることにより、あたかも反応しているような光量の漸減(吸光度の漸増)や散乱光量の漸増を示す。
【0054】
自動分析装置の分析法として一般的に用いられているエンドポイント法やレート法などにおいて、濃度演算に使用する測定ポイントでこれらの反応過程異常が発生すると、濃度演算結果が異常値となってしまい誤報告につながる可能性がある。
【0055】
図6は、本発明の一実施例における、各々の検出器44、45A、45Bの対象物質に対する検量線の一例を示すグラフである。
図6に示したグラフは、段階的に濃度調整された標準液を複数回測定し、その光量平均値を各々の濃度における光量データとして検量線を作成している。検量線作成は、既知の濃度の試料を複数回測定するので、反応過程異状による測定値異状が発生しても発見が容易なため、本発明による手段を用いなくても問題となることはない。それぞれの検出器の検量線は、各々の受光角度応じた固有の検量線となる。
【0056】
図6において、縦軸は光量を示し、横軸は対象物質濃度を示す。黒丸は検出器44で検出された透過光、三角形は検出器45Aで検出されたα°散乱光、四角形は検出器45Bで検出されたβ°散乱光である。
【0057】
これらの検量線を用いて、未知の濃度の定量測定を実施するが、実際の測定では、試薬の組成による感度や再現性の観点から、最適な受光角度が予め設定されており、その受光角度の検出器からの光量データにより、定量測定を実施する。
【0058】
しかしながら、その他の受光角度においても定量測定に関しては最適ではないものの、あるばらつき範囲において定量測定が可能であり、本発明の実施例における測定値異状チェックに用いることができる。
【0059】
また、それぞれの検量線は、例えばCV<20%以下のばらつき範囲により規定される低濃度側の定量限界、およびプロゾーン現象などで制限を受ける高濃度側の定量限界内において定量可能範囲を決定して使用する。
【0060】
したがって、各検出器44、45A、45Bの定量可能範囲が交わる範囲において、本発明の測定値異常チェックが可能となる。
【0061】
図7は、本発明の一実施例における、正常な測定結果のばらつきの例を示すグラフである。破線で示す範囲が変動幅許容範囲であり、各々の検量線における定量可能範囲内の測定であれば、それぞれの測定結果は、変動幅許容範囲内に収まる。
図7に示した例では、0°透過光、α°散乱光、β°散乱光を用いてチェックしているが、透過光測定と散乱光測定では感度や定量可能範囲が大きく異なる場合があるため、散乱光測定の結果のみをチェックに使用しても良い。また、反応容器への光の照射位置が異なる複数の吸光光度計により、同様のチェックが可能である。
【0062】
図8は、本発明の一実施例における、異常な測定結果のばらつきの例を示すグラフである。上述した単一測定ポイントの突発的変動(1)、複数測定ポイントの突発的変動(2)、反応過程全体の漸変動(3)が生じ、異常反応過程となった場合、すべての受光角度に影響が出るとき、いずれかのみに影響が出るときがあるが、いずれのときにおいても気泡や異物に対する各々の受光角度での感度や、光学系の違いにより、測定結果は正常状態に比べて変動幅が大きくなる。
【0063】
したがって、測定結果の変動幅が予め設定した
変動幅許容範囲より大きくなった場合に異常反応と識別することができる。このとき、気泡や異物により各々の受光角度の測定結果が同様に変動してしまうと、異常が発生しているのもかかわらず、変動幅は小さい。このため、異常反応を検出できないと予想される。
【0064】
しかし、気泡や異物により各々の受光角度の測定結果が同様に変動する可能性は非常に低く、
変動幅許容範囲を適切に設定すれば確実に異常反応を判別できる。
【0065】
図9は、本発明の一実施例の自動分析装置による測定値異常チェックの動作フローチャートであり、
図10は、コンピュータ50の測定値異常チェックを行うための機能ブロック図である。
図10において、コンピュータ50は、検知器44、45A、45Bからの検知信号に基づき、濃度を演算する濃度演算部501と、定量範囲判断部502と、平均値演算部503と、許容変動幅テーブル504と、変動幅演算判断部505とを備えている。
【0066】
図9に示した動作は、
図1で示した自動分析装置による分析動作により測定結果が得られた後に、自動的に実行される。
【0067】
図9及び
図10において、まず、測定値異常チェックが開始されると(ステップ(a))、濃度演算部501により実行された、対象となる複数の検知器からの光量データによる濃度演算結果が、それぞれ定量範囲内か否かを定量範囲判断部502によりチェックされる(ステップ(b))。
【0068】
ステップ(b)において、濃度演算結果が定量範囲内であれば、平均値演算部503は、そのまま、対象の検出器での濃度演算結果の平均値を算出する(ステップ(d))。
【0069】
ステップ(b)において、濃度演算結果が定量範囲外であった場合、定量範囲判断部502は定量範囲外のフラグを付与(ステップ(c))する。その後、平均均値演算部503は、対象の検出器での濃度演算結果の平均値を算出する(ステップ(d))。これは、測定値が定量範囲外であっても、臨床的な判断材料になる場合があるので、フラグを付与した上で測定値異常チェックを継続する。
【0070】
変動幅演算判断部505は、平均値演算部503が算出した濃度演算結果の平均値における
変動幅許容範囲を許容変動幅テーブル504から呼び出しステップ(e))、次に対象の複数検出器における濃度演算結果の変動幅を算出する(ステップ(f))。変動幅演算判断部505は、算出した変動幅が
変動幅許容範囲内に収まっているかを判断する(ステップ(g))。
【0071】
ステップ(g)において、変動幅が
変動幅許容範囲内であれば、変動幅演算判断部505は、濃度演算結果をディスプレイ59に出力し(ステップ(h))、測定値異常チェック終了となる(ステップ(k))。
【0072】
ステップ(g)において、変動幅が、
変動幅許容範囲外であれば、変動幅演算判断部505は、再検査の依頼をディスプレイ59に表示させ(ステップ(i))、測定値異状アラームを付加する(ステップ(j))。そして、測定値異常チェックが終了する(ステップ(k))。
【0073】
図11は、本発明の一実施例における、測定値異常チェックの
変動幅許容範囲を入力するための画面の例である。
【0074】
変動幅許容範囲は、キーボード58が操作されて、変動幅許容テーブル504に格納される。また、
図11に示した入力画面はディスプレイ59に表示される。
【0075】
図11において、項目名毎に、
変動幅許容範囲が設定される。また、濃度範囲毎に
変動幅許容範囲を設定することができる。つまり、測定濃度の平均値が0.01〜0.1mg/dLの範囲内であれば
変動幅許容範囲は0.01mg/dLとなり、測定濃度の平均値が0.1〜1.0mg/dLの範囲内であれば
変動幅許容範囲は0.1mg/dLとなる。
【0076】
なお、
変動幅許容範囲については、いずれの濃度領域においても一定値で設定しても良いし、高濃度領域では変動幅が大きくなることが一般に知られているので、濃度に応じて
変動幅許容範囲を設定しても良い。また、このときいずれの濃度域の
変動幅許容範囲を用いるかを、測定値の平均値から決定しても良いし、測定結果の最小値や最大値で決定する方法も考えられる。測定値の最小値を用いた場合は、平均値を用いるよりもチェックの感度は高くなり、測定値の最大値を用いた場合は、平均値を用いるよりもチェックの感度は低くなる。さらに、
変動幅許容範囲を分析項目の固有値として設定することも考えられるが、検知器それぞれの検量線作成時に、各々の濃度における複数データの変動幅から決定してもよい。これらの既定値は、手入力のほか、装置側で自動入力とすることも可能である。また、測定項目ごとのバーコードなどに既定値情報を組み込んでおくことで、装置がバーコードを読み取る構成も考えられる。
【0077】
変動幅許容範囲は、測定する項目別に設定するほうが、チェックの精度は向上するが、測定項目
によらず一律に決定することも可能である。
【0078】
図12は、本発明の一実施例における、測定値異常アラーム表示画面の例であり、ディスプレイ59に表示される。測定値異常アラーム表示画面には、異常のレベル、異常内容を示すアラーム、発生時刻、詳細(説明と対処法)が表示されている。
【0079】
測定値異常チェックにて異常と判断された場合に、反応過程を見比べることで異常となった原因を推定することも可能である。また、装置側で自動判定する構成も考えられる。
【0080】
以上のように、本発明の一実施例によれば、装置の処理や機能を複雑化することなく、気泡や異物による反応過程異常由来の測定値異常を検出可能な自動分析装置および測定値異常検出方法を実現することができる。
【0081】
なお、上述した例は、測定値異常の発生を自動的に判断して、その旨を表示する例であるが、例えば、
図7、
図8に示すように、変動幅許容範囲と、実際の測定値の変動幅を画面表示し、オペレータ等が目視で、測定値異常の発生を判断する構成とすることもできる。