(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
圧電体は種々の目的に応じて様々な圧電体素子に加工され、特に電圧を加えて変形を生じさせるアクチュエータや、素子の変形から電圧を発生するセンサなどの機能性電子部品として広く利用されている。アクチュエータやセンサの用途に利用されている圧電体としては、大きな圧電特性を有する鉛系の誘電体、特にPZTと呼ばれるPb(Zr
1−xTi
x)O
3系のペロブスカイト型強誘電体がこれまで広く用いられている。
【0003】
また、近年、各種電子部品の小型かつ高性能化に伴い、薄膜技術等を応用した圧電体の形成法が研究されるようになってきた。最近、RFスパッタリング法で形成したPZT薄膜が、高精細高速インクジェットプリンタのヘッド用アクチュエータや、小型低価格のジャイロセンサとして実用化されている(例えば、特許文献1参照)。また、鉛を用いないニオブ酸カリウムナトリウム(KNN)の圧電体薄膜を用いた圧電体薄膜素子も提案されている。(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
これら圧電体薄膜は反応性ドライエッチングやウェットエッチングなどの微細加工プロセスにより梁や音叉の形状に加工され、圧電体薄膜素子として用いられる。従来、圧電体薄膜を用いてアクチュエータやセンサを作製するために必要な微細加工プロセスに関しては、反応性ドライエッチングによる報告があるのみである(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
しかし、ドライエッチングには高価なエッチング装置が必要となるため、より簡便かつ低コストなウェットエッチングによるKNN膜の加工技術が求められていた。しかし、KNN膜のウェットエッチングによる微細加工の報告例はあまりない。Nbを含む難溶解性酸化物の分析においては、フッ化水素酸(以下、フッ酸と記載する)と硝酸と過塩素酸の混酸を用い試料を溶液化する手法が知られている(例えば、非特許文献1)。しかし、実際には反応性が低く、溶解に時間を要する。このため、ウェットエッチングにおいて、KNN膜の加工に用いる場合には時間を要することになり、プロセスコストを低減できないという問題があった。
【0006】
KNNに関するウェットエッチングに関する報告があまりないため、ここではアルカリニオブ酸化物およびニオブ酸化物のウェットエッチング技術を参照する。アルカリニオブ酸化物系材料のウェットエッチングの例として、ニオブ酸リチウム(LiNbO
3)結晶の光導波路用リッジ加工が知られている(例えば、非特許文献2)。LiNbO
3のウェットエッチングにおいては、TaもしくはCrなどの金属マスクを用い、フッ酸や、フッ酸と硝酸との混酸を用いる。一方、ニオブ鉱石(ニオブ酸化物(Nb
2O
5)とタンタル酸化物(Ta
2O
5)の混合物)からの金属Nb精錬の技術を参照すると、Nb
2O
5は高濃度のフッ酸にしか溶解しないことが知られている(例えば、特許文献4)。以上から、KNNについてもフッ酸系エッチング液が有望と推察される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、フッ酸単体をエッチング液として使用した場合、エッチング中にKNNとフッ酸の反応生成物であるフッ化ナトリウムが生成してしまう。このフッ化ナトリウム(NaF)は水に対する溶解度が特に低く、大きなエッチング速度が得られない。
【0010】
本発明の目的の一つは、上記課題を解決するために、非鉛の圧電体薄膜をウェットエッチングにより短時間で微細加工することが可能な圧電体薄膜付き基板の製造方法、及び圧電体薄膜素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明の一態様によれば、上記目的を達成するため、基板上に下部電極を形成する工程と、前記下部電極上に、組成式(K
1−xNa
x)NbO
3で表されるアルカリニオブ酸化物系ペロブスカイト構造の圧電体薄膜を形成する工程と、Cr膜を含むエッチングマスクを用いて、フッ酸と塩酸又は硫酸との混合液からなるエッチング液を用いるウェットエッチングを前記圧電体薄膜に施
し、前記エッチングマスクのパターンを前記圧電体薄膜に転写する工程と、を含む圧電体薄膜付き基板の製造方法が提供される。
【0012】
(2)上記圧電体薄膜付き基板の製造方法において、前記ウェットエッチングにおいて、前記エッチング液は加熱して用いられることが好ましい。
【0013】
(3)上記圧電体薄膜付き基板の製造方法において、前記下部電極はPtからなるものであってもよい。
【0014】
(4)上記圧電体薄膜付き基板の製造方法において、前記圧電体薄膜の結晶系は擬立方晶であり、前記圧電体薄膜は、結晶軸が(001)面方向に優先配向するように形成されてもよい。
【0015】
(5)上記圧電体薄膜付き基板の製造方法において、前記圧電体薄膜は、組成式のxが0.4以上、0.730以下となるように、スパッタ法により形成されてもよい。
【0016】
(6)上記圧電体薄膜付き基板の製造方法において、前記基板は、表面に酸化膜を有するSi基板であってもよい。
【0017】
(7)また、本発明の他の態様によれば、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の圧電体薄膜付き基板の製造方法によって、前記圧電体薄膜に前記ウェットエッチングを施した後、前記圧電体薄膜上に上部電極を形成する、圧電体薄膜素子の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一態様によれば、非鉛の圧電体薄膜をウェットエッチングにより短時間で微細加工することが可能な圧電体薄膜付き基板の製造方法、及び圧電体薄膜素子の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
〔実施の形態〕
本発明の一実施の形態によれば、基板上に下部電極を形成する工程と、前記下部電極上に、組成式(K
1−xNa
x)NbO
3(以下、KNNと記載する)で表されるアルカリニオブ酸化物系ペロブスカイト構造の圧電体薄膜を形成する工程と、Cr膜を含むエッチングマスクを用いて、フッ酸と塩酸又は硫酸との混合液からなるエッチング液を用いるウェットエッチングを前記圧電体薄膜に施す工程と、を含む圧電体薄膜付き基板の製造方法が提供される。ここで、フッ酸、塩酸、硫酸とは、例えば、それぞれ電子工業用の濃度49質量%のフッ酸水溶液、濃度36質量%の塩酸水溶液、濃度96質量%の硫酸水溶液のことである。
【0021】
フッ酸と塩酸又は硫酸との混合液をエッチング液として用いる場合、フッ酸を単体でエッチング液として用いる場合と比較して、KNN圧電体薄膜のエッチング速度が著しく大きい。これは、KNN圧電体薄膜と酸の反応生成物の水に対する溶解度の違いに依るものと考えられる。つまり、生成されるフッ化物の中で特にフッ酸を単体で用いた場合に生成されるフッ化ナトリウム(NaF)の水に対する溶解度よりも、塩酸を含む水溶液と混合した場合に生成される塩化ナトリウム(NaCl)や、硫酸を含む水溶液と混合した場合に生成される硫酸ナトリウム(Na
2SO
4)等の溶解度の方が高い。
【0022】
図1(a)、(b)は、それぞれ本実施の形態に係る圧電体薄膜付き基板及び圧電体薄膜素子の垂直断面図である。本実施の形態では、エッチング加工された圧電体薄膜を有する基板を圧電体薄膜付き基板と呼ぶ。
【0023】
圧電体薄膜付き基板1は、基板10と、基板10上の下部電極11と、下部電極11上の圧電体薄膜12を有する。圧電体薄膜素子2は、圧電体薄膜付き基板1の圧電体薄膜12上に上部電極15を加えた構成を有する。なお、圧電体薄膜12の形状は、
図1(a)、(b)に示されるものに限られない。
【0024】
基板10は、例えば、Si基板である。また、Si基板は、表面に酸化膜(図示せず)を有することが好ましい。表面に酸化膜を有することにより、基板10と下部電極11との密着性を向上させることができる。表面の酸化膜は、例えば、Si基板の表面に熱酸化処理を施すことにより形成される熱酸化膜や、CVD(Chemical Vapor Deposition)法により形成されるSi酸化膜等がある。Si基板の主面の面方位は、例えば、(001)である。
【0025】
また、基板10は、SOI基板、石英ガラス基板、GaAs基板、サファイア基板、ステンレス等の金属基板、MgO基板、又はSrTiO
3基板であってもよい。
【0026】
下部電極11は、PtやPtを主成分とする合金等の導電材料からなる。Ptはフッ酸系のエッチング液に対して不活性であるため、本実施の形態のフッ酸系のエッチング液を用いる圧電体薄膜12のエッチングにおいて、Ptからなる下部電極11はエッチングストッパーとして機能する。また、圧電体薄膜12に十分な圧電特性を発揮させるため、下部電極11の算術平均表面粗さRaは、0.86nm以下であることが好ましい。
【0027】
基板10と下部電極11との密着性を向上させるために、基板10と下部電極11との間に、チタン(Ti)やタンタル(Ta)等からなる密着層(図示せず)を形成してもよい。密着層は、例えば、蒸着法により形成される。また、基板10と下部電極11との間に密着層を有しない構成であっても、下部電極11の面方位を制御することで、基板10と下部電極11の密着性を高めることができる。
【0028】
圧電体薄膜12は、アルカリニオブ酸化物系ペロブスカイト構造の(K
1−xNa
x)NbO
3からなり、鉛を含まない。組成式(K
1−xNa
x)NbO
3のxは、例えば、0.4以上、0.730以下である。
【0029】
圧電体薄膜12を構成するKNN圧電体の結晶系は擬立方晶、正方晶、斜方晶、単斜晶、又は菱面体晶であり、圧電体薄膜12において、KNNの結晶軸が(001)面方向に優先配向していることが好ましい。(001)面方向に制御されることで、電圧印加方向に結晶ドメインを揃えることが可能となり、高い圧電定数を得ることができる。結晶軸の配向を制御するために、圧電体薄膜12は、例えば、スパッタ法により形成される。圧電体薄膜12は、5原子数%以下のLi(リチウム)、Ta、Sb(アンチモン)、Ca(カルシウム)、Cu(銅)、Ba(バリウム)、Ti等の不純物を含んでもよい。
【0030】
上部電極15は、例えば、Al、Au、Niの他、下部電極11と同様に、PtやPtを主成分とする合金等を用いることができる。
【0031】
図2(a)〜(d)、
図3(e)〜(g)は、実施の形態に係る圧電体薄膜付き基板の製造工程を表す垂直断面図である。
図4(h)、(i)は、実施の形態に係る圧電体薄膜素子の製造工程を表す垂直断面図である。
【0032】
まず、
図2(a)に示されるように、RFマグネトロンスパッタリング法等により、基板10上に下部電極11を形成する。なお、蒸着法等により基板10上にTi等からなる密着層を形成し、その上に下部電極11を形成してもよい。
【0033】
次に、
図2(b)に示されるように、RFマグネトロンスパッタリング法等により、下部電極11上に圧電体薄膜12を形成する。圧電体薄膜12は、イオンビーム蒸着法、エアロゾルデポジション法、ゾルゲル法、水熱合成法等により形成されてもよい。
【0034】
次に、
図2(c)に示されるように、フォトリソグラフィにより、圧電体薄膜12上にフォトレジストパターン13を形成する。フォトレジストパターン13は、OFPR−800などのフォトレジストを圧電体薄膜12上に塗布し、露光及び現像を行うことにより形成される。
【0035】
次に、
図2(d)に示されるように、RFマグネトロンスパッタリング法等により、フォトレジストパターン13、及び圧電体薄膜12のフォトレジストパターン13に覆われていない領域上にCr膜14を形成する。
【0036】
次に、
図3(e)に示されるように、アセトン洗浄等によりフォトレジストパターン13を溶かし、フォトレジストパターン13及びその上のCr膜14を除去し(リフトオフ)、Cr膜14をパターニングする。なお、エッチング等のリフトオフ以外の手段によりCr膜14をパターニングしてもよい。
【0037】
次に、
図3(f)に示されるように、パターニングされたCr膜14をエッチングマスクとして用いて、圧電体薄膜12にウェットエッチングを施し、Cr膜14のパターンを圧電体薄膜12に転写する。ここで、上述したフッ酸と塩酸又は硫酸との混合液からなるエッチング液を用いる。CrからなるCr膜14は、このようなエッチング液に対する十分な耐性を有する。
【0038】
フッ酸と塩酸又は硫酸との混合液からなるエッチング液を用いることにより、(K
1−xNa
x)NbO
3からなる圧電体薄膜であっても、エッチング速度の向上(例えば250nm/min以上)が図れ、圧電体薄膜12を短時間で微細加工することができる。また、エッチング液を加熱して用いることにより、エッチング速度をさらに向上させることができる。
【0039】
また、Cr膜14の代わりにCr膜と他の膜から構成される多層膜をエッチングマスクとして用いてもよい。例えば、Cr膜上に有機レジスト膜を積層したもの、Ni膜上にCr膜を積層したもの、Cr膜上にNi膜を積層したものをエッチングマスクとして用いることができる。
【0040】
次に、
図3(g)に示されるように、ウェットエッチング等により、残留したCr膜14を除去する。なお、Cr膜14のウェットエッチングには、第二硝酸セリウムアンモニウム、フェリシアン化カリウム等のCr膜用のエッチング液を用いることができる。その後、パターニングされた圧電体薄膜12を水洗し、乾燥させる。
【0041】
次に、
図4(h)に示されるように、フォトレジストパターン16を形成した後、フォトレジストパターン16、及び圧電体薄膜12のフォトレジストパターン16に覆われていない領域上に上部電極層17を形成する。
【0042】
次に、
図4(i)に示されるように、フォトレジストパターン16及びその上の上部電極層17を除去(リフトオフ)することにより、圧電体薄膜12上に上部電極15を形成する。その後、水洗、乾燥した後、ダイシング等により分離してチップ化することで、所望の素子形状を有する圧電体薄膜素子2が得られる。
【0043】
以上の製法により得られた圧電体薄膜素子2の下部電極11及び上部電極15に、電圧検知手段を接続することでセンサが得られ、電圧印加手段を接続することでアクチュエータが得られる。アクチュエータとしては、インクジェットプリンタ用ヘッド、スキャナーや超音波発生装置などに用いることができる。センサとしては、ジャイロ、超音波センサ、圧カセンサや速度・加速度センサなどに用いることができる。さらに、圧電体薄膜素子2は、フィルタデバイス、又はMEMSデバイスにも適用することができる。このように、圧電体薄膜素子2を用いることにより、電圧検知手段又は印加手段を設けた圧電膜デバイスを従来品と同等の信頼性と、安価な製造コストとで製造することができる。
【0044】
(実施の形態の効果)
上記実施の形態によれば、フッ酸と塩酸又は硫酸との混合液からなるエッチング液を用いるウェットエッチングにより、KNN圧電体からなる圧電体薄膜を短時間で微細加工することができる。それにより、圧電体薄膜付き基板及び圧電体薄膜素子を効率的に製造することができる。
【実施例】
【0045】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、
図2、及び表1を参照しながら、圧電体薄膜付き基板の製造方法、及び圧電体薄膜素子の製造方法について詳細に説明する。
【0046】
まず、
図2(a)〜
図3(e)に示される、Cr膜14をパターニングするまでの工程を行い、基板10、下部電極11、圧電体薄膜12、及びパターニングされたCr膜14からなる、6つの同様の構成を有する試料を形成する。次に、これら6つの試料に、実施例1〜5及び比較例として、それぞれ異なる条件でエッチングを施した。以下に各工程の詳細を述べる。
【0047】
まず、
図2(a)に示されるような、基板10上に下部電極11を形成する工程を行った。基板10として、主面の面方位が(100)、厚さが0.525mm、サイズが4インチであり、表面に厚さ200nmの熱酸化膜を有するSi基板を用いた。基板10上にTiからなる厚さ2.2nmの密着層を蒸着法により形成し、その上に下部電極11として、厚さ205nmのPt電極をRFマグネトロンスパッタリング法により形成した。密着層と下部電極11は、Ar雰囲気下、基板温度が250℃、放電パワーが200W、圧力が2.5Pa、成膜時間がそれぞれ2分(密着層)、10分(下部電極11)の条件下で形成した。形成された下部電極11の面内表面粗さを測定したところ、算術平均表面粗さRaが0.86nm以下であった。
【0048】
次に、
図2(b)に示されるような、下部電極11上に圧電体薄膜12を形成する工程を行った。RFマグネトロンスパッタリング法により、下部電極11上に厚さ2μmのKNNからなる圧電体薄膜12を形成した。圧電体薄膜12は、Na/(K+Na)=0.65の(K
1−xNa
x)NbO
3焼結体をターゲットに用い、基板温度が520℃、放電パワーが700W、O
2/Ar混合比が0.005、チャンバー内圧力が1.3Paの条件下で形成した。スパッタ成膜時間は、膜厚が2μmになるように調整した。
【0049】
次に、
図2(c)に示されるような、圧電体薄膜12上にフォトレジストパターン13を形成する工程を行った。フォトレジストパターン13は、フォトレジストOFPR−800を圧電体薄膜12上に塗布し、露光及び現像を行うことにより形成した。
【0050】
次に、
図2(d)に示されるような、フォトレジストパターン13、及び圧電体薄膜12のフォトレジストパターン13に覆われていない領域上にCr膜14を形成する工程を行った。RFマグネトロンスパッタリング法により、Crを圧電体薄膜12上に堆積させ、厚さ約200nmのCr膜14を形成した。
【0051】
次に、
図3(e)に示されるような、リフトオフによりCr膜14をパターニングする工程を行った。アセトン洗浄によりフォトレジストパターン13を溶かし、フォトレジストパターン13及びその上のCr膜14を除去し、Cr膜14をパターニングした。ここまでの工程を同様に繰り返すことにより、6つの同様の構成を有する試料を得た。
【0052】
次に、
図3(f)に示されるような、Cr膜14のパターンを圧電体薄膜12に転写する工程を、6つの試料に対してそれぞれ異なるエッチング条件で行い、それぞれエッチング速度を求めた。エッチング速度は、試料の5×10mmの小片をエッチング液に浸漬させ、下部電極11が露出するまでの時間を測定し、圧電体薄膜12の厚さ(2μm)と下部電極11が露出するまでの時間から算出した。
【0053】
各々の試料に対する工程を、実施例1〜5及び比較例として以下に述べる。
【0054】
(実施例1)
エッチング液として、濃度49質量%の100mlのフッ酸と、濃度36質量%の6.5mlの塩酸との混合液を室温(25℃)で用いた。エッチング速度は370nm/minであった。
【0055】
(実施例2)
エッチング液として、濃度49質量%の100mlのフッ酸と、濃度36質量%の34.5mlの塩酸との混合液を室温(25℃)で用いた。エッチング速度は260nm/minであった。
【0056】
(実施例3)
エッチング液として、濃度49質量%の100mlのフッ酸と、濃度96質量%の60mlの硫酸との混合液を室温(25℃)で用いた。エッチング速度は1000nm/minであった。
【0057】
(実施例4)
エッチング液として、濃度49質量%の34mlのフッ酸と、濃度96質量%の47.2mlの硫酸との混合液を室温(25℃)で用いた。エッチング速度は320nm/minであった。
【0058】
(実施例5)
エッチング液として、実施例3と同じ混合液を60℃に加熱して用いた。エッチング速度は2000nm/minであった。
【0059】
(比較例)
エッチング液として、フッ酸(単体)を室温(25℃)で用いた。エッチング速度は240nm/minであった。
【0060】
表1に、実施例1〜5及び比較例のエッチング条件及び求めたエッチング速度を示す。
【0061】
【表1】
【0062】
実施例1〜5と比較例を比較すると、実施例1〜5のエッチング速度が比較例のエッチング速度よりも大きい。すなわち、エッチング液が塩酸又は硫酸を含むことによりエッチング速度が大きくなり、単体のフッ酸をエッチング液として用いる場合のエッチング速度240nm/minよりも大きなエッチング速度が得られる。
【0063】
単体のフッ酸をエッチング液として用いる場合と比較して、エッチング液が塩酸又は硫酸を含む場合は、エッチング速度が向上していることがわかる。
【0064】
実施例1と実施例2を比較すると、実施例1のエッチング速度が実施例2のエッチング速度よりも大きい。すなわち、エッチング液に含まれる塩酸の濃度が高すぎると、エッチング速度が小さくなる。同様に、実施例3と実施例4を比較すると、実施例3のエッチング速度が実施例4のエッチング速度よりも大きい。すなわち、エッチング液に含まれる硫酸の濃度が高すぎると、エッチング速度が小さくなる。これらは、フッ酸の相対的な濃度が低くなり、エッチング液中のNaの反応生成物(NaF)量が抑えられたことによると考えられる。
【0065】
また、実施例3と実施例5を比較すると、実施例5のエッチング速度が実施例3のエッチング速度よりも大きい。すなわち、エッチング液を加熱して用いることにより、エッチング速度が大きくなる。これは、アルカリの硫酸塩の溶解度の温度依存性が大きいことによると考えられる。
【0066】
なお、実施例1〜5、比較例のいずれの場合においても、下部電極11を構成するPtがフッ酸系のエッチング液に対して不活性であるため、エッチングを下部電極11で停止させることができた。
【0067】
圧電体薄膜12にエッチングを施した後は、
図3(g)に示されるような、残留したCr膜14を除去する工程を行った。残留したCr膜14の除去には、第二硝酸セリウムアンモニウムをCrエッチング液として用いた。
【0068】
なお、圧電体薄膜12のウェットエッチングの前後の圧電体薄膜12とCr膜14の段差を測定することにより、圧電体薄膜12とCr膜14のおおよそのエッチング選択比を求めたが、Cr膜14はフッ酸系エッチング液にほとんど反応していなかった。このため、エッチング選択比を考慮して圧電体薄膜12とCr膜14の厚さの比を規定する必要は特にないことがわかった。ただし、Cr膜14にピンホールが存在する場合にはウェットエッチングの際にCr膜14に覆われた圧電体薄膜12にダメージを与えてしまうため、ピンホールのないCr膜14を形成することができる程度にCr膜14の成膜条件を適宜設定することが求められる。例えば、Cr膜14の成膜速度は4nm/min以下であることが望ましい。
【0069】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、本発明は、上記実施の形態及び実施例に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。
【0070】
例えば、エッチング液としてフッ酸と硝酸の混合液を用いてもよい。ただし、このエッチング液はSiを溶かすため、Si基板以外の基板を基板10として用いるか、ウェットエッチングの際に基板10の露出している裏面(下部電極11と反対側の面)を保護することが求められる。
【0071】
また、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。