特許第5897811号(P5897811)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5897811
(24)【登録日】2016年3月11日
(45)【発行日】2016年3月30日
(54)【発明の名称】ハイブリッド型水素製造・発電システム
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/26 20060101AFI20160317BHJP
   H01M 8/0606 20160101ALI20160317BHJP
   H01M 8/06 20160101ALI20160317BHJP
【FI】
   C01B3/26
   H01M8/06 R
   H01M8/06 B
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2011-74882(P2011-74882)
(22)【出願日】2011年3月30日
(65)【公開番号】特開2012-206909(P2012-206909A)
(43)【公開日】2012年10月25日
【審査請求日】2013年12月4日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003285
【氏名又は名称】千代田化工建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 佳巳
(72)【発明者】
【氏名】河合 裕教
(72)【発明者】
【氏名】安井 誠
(72)【発明者】
【氏名】新田 健治
(72)【発明者】
【氏名】志村 光則
(72)【発明者】
【氏名】蛙石 健一
【審査官】 宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−299924(JP,A)
【文献】 特開2005−105906(JP,A)
【文献】 特開2002−004812(JP,A)
【文献】 特開2007−246369(JP,A)
【文献】 特開2007−187047(JP,A)
【文献】 特開2009−221057(JP,A)
【文献】 特開2005−203266(JP,A)
【文献】 特開昭63−085002(JP,A)
【文献】 特許第4142733(JP,B2)
【文献】 再公表特許第2010/001732(JP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/26
H01M 8/06
H01M 8/0606
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱水素反応器で脱水素触媒の存在下に水素化芳香族化合物の脱水素反応を行って水素を製造し、得られた水素を高温型発電装置に導入して発電すると共に、この高温型発電装置の高温排ガスから回収される回収熱を前記脱水素反応器に導入して脱水素反応に必要な熱の一部又は全部を賄うハイブリッド型水素製造・発電システムであって、
前記脱水素反応器に導入される前記水素化芳香族化合物を、前記脱水素反応器で生成した反応生成物ガスとの熱交換により昇温する第1熱交換器と、
前記第1熱交換器によって昇温された前記水素化芳香族化合物を、前記高温型発電装置の前記高温排ガスとの熱交換により前記脱水素反応の反応温度まで昇温する第2熱交換器とを
備え、
前記脱水素反応器が、均一高分散型白金アルミナ触媒からなる脱水素触媒の固定床を用いる多管式熱交換型反応器であり、
前記多管式熱交換型反応器の触媒固定床での圧力損失が3kg/cm2以下であり、
前記第2熱交換器において前記熱交換後の前記高温排ガスが前記脱水素反応器に導入され、前記脱水素反応に必要な熱が回収されることを特徴とするハイブリッド型水素製造・発電システム。
【請求項2】
前記水素化芳香族化合物が、メチルシクロヘキサンであり、前記脱水素反応器に対する前記高温排ガスの導入温度が550℃以下であることを特徴とする請求項に記載のハイブリッド型水素製造・発電システム。
【請求項3】
前記水素化芳香族化合物が、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、メチルナフタレン、及びアントラセンから選ばれた1種又は2種以上の混合物からなる芳香族化合物の水素化物である請求項1または請求項2に記載のハイブリッド型水素製造・発電システム。
【請求項4】
前記多管式熱交換型反応器の触媒固定床を形成する均一高分散型白金アルミナ触媒は、担体断面全体に亘って均一に分散して存在する硫黄又は硫黄化合物を含有する硫黄含有多孔質アルミナ担体に、この担体断面全体に亘って前記硫黄又は硫黄化合物の分布に略々一致して触媒金属の白金が担持されている請求項1〜のいずれかに記載のハイブリッド型水素製造・発電システム。
【請求項5】
前記水素化芳香族化合物がトルエン水素化物のメチルシクロヘキサンであって、前記多管式熱交換型反応器の触媒固定床におけるメチルシクロヘキサンの液空間速度(LHSV)が2.0h-1以上であり、また、この多管式熱交換型反応器における1パス反応収率が90重量%以上である請求項1〜のいずれかに記載のハイブリッド型水素製造・発電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、有機ケミカルハイドライド法により大量貯蔵及び/又は長距離輸送された水素キャリアの水素化芳香族化合物(有機ケミカルハイドライド)から、水素の需要地で効率的に水素を製造し、また、この水素を利用して発電するための水素製造・発電システムに係り、特に、水素の製造と水素を用いた発電とを組み合わせて総合的な熱利用の効率化を図るハイブリッド型水素製造・発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、温暖化ガスである炭酸ガスの排出抑制に関する気運が高まり、定置型燃料電池、水素自動車、燃料電池自動車等の水素エネルギー利用技術の開発や実用化が進み、これらの定置型燃料電池、水素自動車、燃料電池自動車等において、燃料としての水素を搭載/供給するための水素貯蔵・輸送技術の開発が精力的に進められていると共に、水素を大量に輸送する方法としては、有機ケミカルハイドライド法による貯蔵輸送技術が確立されつつある(例えば、非特許文献1〜2参照)。
【0003】
ここで、有機ケミカルハイドライド法は、トルエン等の芳香族化合物を水素と反応させる水素化反応によって、メチルシクロヘキサン等の水素化芳香族化合物に変換することにより、軽質な水素を常温常圧で液体状態の水素化芳香族化合物として固定し、水素を常温・常圧の液体状態で貯蔵・輸送する方法であり、水素を消費する需要地では、この常温・常圧で液体の水素化芳香族化合物から脱水素反応により水素の製造を行う必要がある。
【0004】
そして、この脱水素反応により水素化芳香族化合物から水素を製造する技術については、本発明者らによる安定に作動する脱水素触媒の開発等によって技術的に確立されつつあり(例えば、非特許文献3、特許文献1〜2参照)、これによって、例えば、化石燃料を大量に消費して炭酸ガスの大型固定発生源となる高温型発電装置等を備えた水素の需要地では、化石燃料に代えて、あるいは、その補助燃料として水素の大量利用が可能になるほか、高温型発電装置等において個別に炭酸ガスを回収して処分する必要がなくなり、結果として炭酸ガスの排出を効果的に削減することができる。
【0005】
ところで、人類が1日に消費するエネルギーは原油だけでも8,000万バーレル以上に達する。太陽光、風力等の再生可能エネルギーの導入は積極的に進められているが、人類が消費する一次エネルギーの全てを再生可能エネルギーで賄うことは不可能であり、当面の間、人類は、従来どおりに、一次エネルギーを化石燃料に頼らなければならない状況である。一方、CO2の排出による地球温暖化の問題は年々深刻になっており、CO2排出削減は各国の急務となっている。
【0006】
水素エネルギーは燃焼時に水のみを排出するクリーンなエネルギーであり、燃料電池等の水素エネルギー利用機器は実用化の時代を迎えている。しかしながら、水素を大量に輸送する技術は確立されておらず、燃料電池は多くの場合、化石燃料由来の水素を利用しているため、CO2の削減効果は限定的に留まっている。有機ケミカルハイドライド法は水素の大量長距離輸送に適した方法であり、実用化に不可欠であった脱水素技術も確立されつつある。
【0007】
しかるに、脱水素反応により水素化芳香族化合物から水素を製造する水素製造装置においては、例えば水素化芳香族化合物がメチルシクロヘキサンである場合、1モルのメチルシクロヘキサンから3モルの水素を製造することができるが、この際には205kJ/molという大きな反応熱が必要になり、水素の製造においてはこのような反応熱を水素製造装置の脱水素反応器に供給することが必要になる。しかるに、この反応熱の供給のために化石燃料をふんだんに燃焼させたのでは、水素の製造時に炭酸ガス排出削減の努力をしてもその効果を大幅に減殺することになりかねず、脱水素反応器への反応熱の供給をどのように行うかが重要な技術課題となる。
【0008】
脱水素反応後の水素は所定の純度まで精製されて製品水素となる。精製方法としては、PSA(圧力スイング吸着)法やTSA(温度スイング吸着)法等の吸着法が好適である。このときに、吸着剤に吸着した不純物を除去して吸着剤を再生するが、このときに精製された製品水素がパージガスとして利用される。通常のPSA方式では、精製された製品水素の約20〜30%がパージに使用され、水素回収率は通常70〜80%である。脱水素反応の熱源が得られない立地条件では、このパージガスとして利用した後の水素を燃料として、熱源に用いることができる(非特許文献4参照)。
【0009】
しかしながら、輸送した水素の約30%に相当する水素を燃料として利用するよりも、高温機器の廃熱等が熱源として得られる場合には、それらを用いた方が経済的である。この場合、パージ水素は、再び精製工程に戻されて有効に利用されることになる。従い、パージ水素を利用しないで、他の機器の廃熱等の熱源をどのように利用するかが技術課題となる。
【0010】
そこで、本発明者らは、先に、このような問題を解決する方法の1つとして、水素を製造し、この製造された水素を圧縮して水素消費機関に高圧水素を供給する高圧水素の供給システムにおいて、水素製造装置に熱交換器を組み込み、この熱交換器で燃焼タービン発電装置の高温排ガスと脱水素反応に供される水素化芳香族化合物とを熱交換させ、これによって水素化芳香族化合物の脱水素反応に要する熱量の一部又は全部を賄うようにした高圧水素の供給システムを提案し(特許文献3参照)、一定の成果を収めている。
【0011】
しかしながら、この特許文献3における高圧水素の供給システムは、高圧水素の製造の際に必要とする電力を賄うために、この高圧水素の製造設備に付設された燃焼タービン発電装置の高温排ガスから熱回収を行うものであり、火力発電所や工場等の種々の事業所の設備に付設されてこれらの設備で個別に消費される電力を賄うために、水素を消費して発電するガスタービン、蒸気タービン、又はこれらのコンバインドサイクル型発電装置や、固体酸化物形燃料電池(SOFC)、又は溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)等の高温型発電装置の排熱を回収して利用するものではない。
【0012】
そして、水素の大量供給と大量利用が可能になるにつれて、種々の事業所の設備に付設され、このように水素を消費して発電する個別の高温型発電装置からの排熱を如何にして回収し、脱水素反応の熱源としてどのように有効利用するかが重要な技術課題となっている。しかしながら、上記の特許文献1〜3及び非特許文献1〜4においても、水素タービン、SOFC、MCFC等の高温の発電機器の廃熱の利用については、その利用の可否について検討は行われていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2005-211,845号公報
【特許文献2】特許第4,142,733号公報
【特許文献3】特許第4,279,546号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】化学工学、第74巻、9号、pp20〜23(2010)
【非特許文献2】PETROTECH、第34巻、2号、pp36〜39(2011)
【非特許文献3】エネルギー触媒技術、室井高城編、サイエンス&テクノロジー、pp218〜229(2010)
【非特許文献4】NEDO平成20年度 水素製造・輸送・貯蔵システム等技術開発、「水素キャリアに応じたフィージビリティスタディ」成果報告書、ppIV-1〜50(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
そこで、本発明者らは、上述したような水素を消費して発電する個別の高温型発電装置から排出される排熱を如何に効率良く回収して利用するかについて鋭意検討した結果、水素製造装置の脱水素反応器として特定の脱水素触媒からなる固定床を用いた多管式熱交換型反応器を用いることにより、この個別の高温型発電装置と大量の反応熱を必要とする水素製造装置とを有機的に結合させた、いわゆるハイブリッド型水素製造・発電システムを構築することができ、これによってこの問題を解決できることを見い出し、本発明を完成した。
【0016】
従って、本発明の目的は、水素を消費して発電する高温型発電装置を備えた水素の需要地で、有機ケミカルハイドライド法により貯蔵・輸送された水素化芳香族化合物から水素を製造しつつ高温型発電装置で発電することにより、この高温型発電装置からの排熱を効率良く回収して有効利用することができるハイブリッド型水素製造・発電システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
すなわち、本発明は、脱水素反応器で脱水素触媒の存在下に水素化芳香族化合物の脱水素反応を行って水素を製造し、得られた水素を高温型発電装置に導入して発電すると共に、この高温型発電装置の高温排ガスから回収される回収熱を前記脱水素反応器に導入して脱水素反応に必要な熱の一部又は全部を賄うハイブリッド型水素製造・発電システムであって、前記脱水素反応器が、均一高分散型白金アルミナ触媒からなる脱水素触媒の固定床を用いる多管式熱交換型反応器であることを特徴とするハイブリッド型水素製造・発電システムである。
【0018】
本発明において、有機ケミカルハイドライドとして用いる水素化芳香族化合物としては、再生して再利用可能なことから、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ナフタレン、メチルナフタレン、アントラセン、ビフェニル、フェナンスレン等の芳香族化合物のいずれか1種又は2種以上の混合物を水素化して得られ、脱水素反応により水素を放出する芳香族化合物の水素化誘導体が好適であり、特にベンゼン、トルエン、又はナフタレンの水素化により得られるシクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、又はデカリンが好ましい。
【0019】
本発明において、多管式熱交換型反応器の固定床を形成し、脱水素触媒として用いられる均一高分散型白金アルミナ触媒としては、触媒活性や選択率、触媒寿命等の観点から、好ましくは、担体断面全体に亘って均一に分散して存在する硫黄又は硫黄化合物を含有する硫黄含有多孔質アルミナ担体に、この担体断面全体に亘って前記硫黄又は硫黄化合物の分布に略々一致して触媒金属の白金が担持されているものである。
【0020】
このような均一高分散型白金アルミナ触媒として特に好ましいものは、多孔質アルミナ担体が表面積150m2/g以上、細孔容積0.4cm3/g以上、平均細孔径40〜300Å、及び全細孔容積に対して平均細孔径±30Åの細孔が占める割合が60%以上のアルミナであって、この多孔質アルミナ担体に硫黄又は硫黄化合物が硫黄元素(S)として0.15重量%以上3.0重量%以下の範囲で含有されており、また、触媒金属の白金が0.05重量%以上5.0重量%以下、好ましくは0.1重量%以上3.0重量%以下の範囲で担持されていると共に、COパルス吸着法で測定された分散度40%以上で分散しているものである。このような均一高分散型白金アルミナ触媒は、特許第4,142,733号公報に記載の方法で製造され、優れた触媒活性と触媒寿命とを有するだけでなく、水素化芳香族化合物の転化率や対応する芳香族化合物の選択率及び収率にも優れていて水素発生量が高い。
【0021】
本発明においては、このような均一高分散型白金アルミナ触媒を脱水素反応器である多管式熱交換型反応器の固定床として用いるが、この触媒固定床での圧力損失は、好ましくは3kg/cm2以下であり、より好ましくは2kg/cm2以下であるのがよい。触媒固定床での圧力損失が3kg/cm2を超えると、反応器出口の圧力が低くなることから、精製工程を経て製品水素として得られる水素の圧力に昇圧する際のエネルギーが多く必要になるという問題も生じる。
【0022】
本発明において、脱水素反応器である多管式熱交換型反応器の操業条件については、有機ケミカルハイドライドとして用いる水素化芳香族化合物から脱水素反応により水素を製造することができれば特に制限されるものではなく、また、水素化芳香族化合物の種類等によって異なるが、水素化芳香族化合物がトルエン水素化物のメチルシクロヘキサンである場合、好ましくは、多管式熱交換型反応器の触媒固定床におけるメチルシクロヘキサンの液空間速度(LHSV)が2.0h-1以上、より好ましくは3.0h-1以上であり、また、この触媒固定床における1パス反応収率が90重量%以上、より好ましくは95重量%以上であるのがよい。触媒固定床におけるメチルシクロヘキサンの液空間速度(LHSV)が2.0h-1より低いと必要な触媒量が増加するため触媒管の本数が増加し、反応器の直径が大きくなるという問題が生じる虞があり、また、触媒固定床における1パス反応収率が90重量%より低いと輸送効率が低下するという問題が生じる虞がある。
【0023】
メチルシクロヘキサン、シクロヘキサン、デカリン等の水素化芳香族の脱水素反応は化学平衡に規制される。上記の3つの水素化芳香族の場合、常圧の条件下では約320℃で平衡転化率が約100%に達する。この化学平衡は反応圧力が高くなると高温側にシフトして、同じ平衡転化率が得られる温度が高くなる。これらの脱水素反応では、従来より、金属を担持した固体触媒が利用されるが、この固体触媒の触媒劣化の主要因として、活性種として働く金属粒子上に炭素が析出するコーキングが広く知られている。そして、このコーキングは高温なほど顕著になることから、この脱水素反応に用いる脱水素触媒については、通常500℃以下、好ましくは450℃以下、更に好ましくは400℃以下の反応温度で十分な転化率が得られる活性を有することが好ましい。
【0024】
また、脱水素反応における反応圧力については、反応後に得られる水素圧力が高くなり、また、その後の製品圧力への昇圧エネルギーが少なくて済むことから、できるだけ高い方が好ましい。従って、脱水素反応の反応圧力は、好ましくは、1kg/cm2以上、より好ましくは3kg/cm2以上、更に好ましくは4kg/cm2以上で行なうのがよいが、10kg/cm2より高くすると十分な転化率が得られる反応温度が500℃を超えてコーキングが激しくなり、触媒寿命が著しく短くなる。
【0025】
また、本発明において、前記脱水素反応器と結合させて使用可能な高温型発電装置としては、基本的には、水素をエネルギー源として発電し、電力を出力すると共に発電の際に熱を発生する発電装置であればよいが、作動温度の観点から、好ましくは、水素タービンを含むガスタービン、蒸気タービン、又はこれらのコンバインドサイクル型発電装置や、固体酸化物形燃料電池(SOFC)、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)等の燃料電池を挙げることができる。
【0026】
そして、これら高温型発電装置の高温排ガスからの熱回収については、高温型発電装置から排出される高温排ガスを多管式熱交換型反応器からなる脱水素反応器に導入し、各反応管においてその内部に充填された触媒固定床やその内部を流れる水素化芳香族化合物の流れ(プロセス流体)と熱交換し、水素化芳香族化合物にその脱水素反応のための反応熱を供給するように直接的に熱交換をさせてもよく、また、高温型発電装置に熱交換器を配設し、この熱交換器に溶融塩等の熱媒体を導入して高温排ガスから熱媒体に熱回収を行い、高温排ガスから熱回収して高温になった高温熱媒体を多管式熱交換型反応器からなる脱水素反応器に導入し、各反応管においてその内部に充填された触媒固定床やその内部を流れる水素化芳香族化合物の流れ(プロセス流体)と熱交換し、水素化芳香族化合物にその脱水素反応のための反応熱を供給するように間接的に熱交換をさせてもよい。
【0027】
本発明においては、好ましくは、水素化芳香族化合物を脱水素反応器に導入するための原料導入ラインと、脱水素反応器から反応生成物ガスを抜き出す反応生成物抜出ライン、及び/又は、高温型発電装置からの高温排ガス又は高温熱媒体を脱水素反応器に導入してこの脱水素反応器に脱水素反応の反応熱を供給する反応熱供給ラインとの間に熱交換器を配設し、脱水素反応器に導入される水素化芳香族化合物を予熱しておくのがよく、これによって、システム全体の熱効率を向上させ、有効に熱を利用することができるという利点が生じる。
【0028】
更に、本発明においては、脱水素反応器に導入されて触媒固定床に反応熱の供給を行った後に、この脱水素反応器から抜き出される熱交換後の排ガス又は熱媒体の抜出ラインにスチーム発生器や空気予熱器を配設し、脱水素反応器から抜き出される熱交換後の排ガス又は熱媒体に残存する熱の回収を行ってもよく、これによって、高温型発電装置の高温排ガスからより効率的に熱回収をしてより効果的に排熱の利用を図ることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明のハイブリッド型水素製造・発電システムによれば、水素を消費して発電する高温型発電装置を備えた水素の需要地で、有機ケミカルハイドライド法により貯蔵・輸送された水素化芳香族化合物から水素を製造しつつ高温型発電装置で発電することができ、この高温型発電装置からの排熱を効率良く回収して有効利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、本発明の実施形態に係るハイブリッド型水素製造・発電システムのプロセスフローの一例を示す説明図である。
【0031】
図2図2は、本発明の検証例におけるシミュレーションによって求められた圧力損失を1.5kg/cm2、好ましくは1.0kg/cm2以下にするのに必要な脱水素反応器の条件(圧力損失、反応管本数、及び反応器径)を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいて、本発明のハイブリッド型水素製造・発電システムを詳細に説明する。
図1に、本発明の実施形態の一例に係るハイブリッド型水素製造・発電システムのフローチャートが示されている。この図1において、高温型発電装置1から排出された高温排ガスは、脱水素反応のための反応熱を供給する反応熱供給ライン3を介して多管式熱交換型の脱水素反応器2に導入され、この脱水素反応器2内において図示外の各反応管内を流れるプロセス流体(水素化芳香族化合物の流れ)と熱交換し、プロセス流体に反応熱を供給した後に抜出ライン4から抜き出され、煙突5等から外部に放出される。
【0033】
また、原料タンク6から抜き出されたプロセス流体は、原料導入ライン7を介して脱水素反応器2に導入され、また、この脱水素反応器2で生成した反応生成物ガスは、反応生成物抜出ライン8を介して2段の冷却器9a,9bに導入され、次いでライン10を介して気液分離器11に導入されて気体(水素ガス)と液体(芳香族化合物)とに分離され、水素ガスについてはライン12を介して高温型発電装置1に導入されて発電のための燃料となり、また、芳香族化合物についてはライン13を介して反応生成物タンク14に回収される。
【0034】
そして、この実施形態においては、原料タンク6から原料導入ライン7を介して脱水素反応器2に導入されるプロセス流体は、原料導入ライン7と脱水素反応器2からの反応生成物抜出ライン8との間に設けられた熱交換器15によって高温の反応生成物ガスと熱交換して昇温し、更に、この原料導入ライン7と高温型発電装置1からの反応熱供給ライン3との間に設けられた熱交換器16によって高温排ガスと熱交換して更に昇温し、反応温度にまで昇温された原料ガスとなって多管式熱交換型の脱水素反応器2に導入されるようになっており、また、脱水素反応器2からの抜出ライン4にはスチーム発生器17と熱交換器18とが設けられており、脱水素反応器2内でプロセス流体と熱交換した後にこの脱水素反応器2から抜き出された排ガスが、スチーム発生器17では水と熱交換して水蒸気を生成し、また、熱交換器18では空気導入ライン19を介して高温型発電装置1に導入される空気と熱交換してこの空気を予熱するようになっている。
【0035】
この実施形態に係るハイブリッド型水素製造・発電システムによれば、水素をエネルギー源として発電する高温型発電装置1からの高温排ガスが有する排熱を、この高温型発電装置1に水素を供給するための脱水素反応器2で必要とする脱水素反応の反応熱を賄う熱源として利用することができ、水素製造装置と発電装置との間で総合的に熱量のやり取りが行われ、熱利用の上で最適な発電システムを構築することができる。
【0036】
[検証例]
図1に示すハイブリッド型水素製造・発電システムにおいて、脱水素反応器として表1に示すサイズの多管式熱交換型反応器を想定し、また、有機ケミカルハイドライドの水素化芳香族化合物としてメチルシクロヘキサン(MCH)を想定し、更に、このメチルシクロヘキサン(MCH)の脱水素反応に使用する均一高分散型白金アルミナ触媒として多孔質アルミナ担体が表面積150m2/g以上、細孔容積0.4cm3/g以上、平均細孔径40〜300Å、及び全細孔容積に対して平均細孔径±30Åの細孔が占める割合が60%以上のアルミナであって、この多孔質アルミナ担体に硫黄又は硫黄化合物が硫黄元素(S)として0.15重量%以上3.0重量%以下の範囲で含有されており、また、触媒金属の白金が0.05重量%以上5.0重量%以下、好ましくは0.1重量%以上3.0重量%以下の範囲で担持されていると共に、COパルス吸着法で測定された分散度40%以上で分散している触媒を想定し、前記の脱水素反応器(多管式熱交換型反応器)におけるメチルシクロヘキサンの脱水素反応について、水素発生量が30,000Nm3/hの反応器について、脱水素反応に必要な熱を550℃の高温空気を利用して入熱する多管式熱交換型反応器に関して、総括伝熱係数Uを50(kcal/m2/h/℃)とし、触媒の物性及び形状から各反応管における圧力損失(dP)、触媒層入口圧(P)、F値(触媒のサイズと形状から決まる係数)、質量流量(G, wet base)、触媒層長さ(L)、触媒層平均温度(T)、ガスの平均分子量(M)、反応管ID、反応管本数、及び全流量を算出し、500℃の上限反応温度以下で反応できる圧力として約5.1kg/cm2を想定し、4つのケースについて検証して圧力損失、反応管長さ、及び反応器径の関係を調べ、圧力損失を3.0kg/cm2以下、好ましくは2.0kg/cm2以下にするのに必要な脱水素反応器の条件(圧力損失、反応管本数、及び反応器径)を求めた。
結果を表1及び2と図2に示す。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
上記の検証例によって、脱水素反応器として多管式熱交換型反応器を用い、脱水素触媒として均一高分散型白金アルミナ触媒を用いることにより、本脱水素反応プロセスにおいて好ましい圧力損失、反応管本数、及び反応器径による脱水素反応器が実現可能であり、この脱水素反応器での水素化芳香族化合物の脱水素反応に必要な反応熱の熱源として、高温型発電装置の高温排ガスを利用できることが判明し、メチルシクロヘキサン(MCH)の脱水素反応の場合にはその導入温度が550℃程度で十分であることが分かった。
【符号の説明】
【0040】
1…高温型発電装置、2…脱水素反応器、3…反応熱供給ライン、4…抜出ライン、5…煙突、6…原料タンク、7…原料導入ライン、8…反応生成物抜出ライン、9a,9b…冷却器、10,12,13…ライン、11…気液分離器、14…反応生成物タンク、15,16,18…熱交換器、17…スチーム発生器、19…空気導入ライン。
図1
図2