特許第5898054号(P5898054)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5898054-害虫用ゲル組成物を導入した徐放性製剤 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5898054
(24)【登録日】2016年3月11日
(45)【発行日】2016年4月6日
(54)【発明の名称】害虫用ゲル組成物を導入した徐放性製剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 25/04 20060101AFI20160324BHJP
   A01N 31/04 20060101ALI20160324BHJP
   A01N 37/44 20060101ALI20160324BHJP
   A01P 19/00 20060101ALI20160324BHJP
   A01P 17/00 20060101ALI20160324BHJP
【FI】
   A01N25/04
   A01N31/04
   A01N37/44
   A01P19/00
   A01P17/00
【請求項の数】1
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-265267(P2012-265267)
(22)【出願日】2012年12月4日
(65)【公開番号】特開2013-139431(P2013-139431A)
(43)【公開日】2013年7月18日
【審査請求日】2014年12月22日
(31)【優先権主張番号】特願2011-270132(P2011-270132)
(32)【優先日】2011年12月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【弁理士】
【氏名又は名称】有原 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【弁理士】
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100154298
【弁理士】
【氏名又は名称】角田 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【弁理士】
【氏名又は名称】徳本 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100161001
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 篤司
(72)【発明者】
【氏名】左口 龍一
(72)【発明者】
【氏名】福本 毅彦
【審査官】 水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−139430(JP,A)
【文献】 特開2006−124330(JP,A)
【文献】 特開2004−275010(JP,A)
【文献】 特開平11−069936(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 25/04
A01P 17/00
A01P 19/00
A01M 1/02
B65D 85/00
A61L 9/01
DWPI(Thomson Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
片末端が圃場の地表に挿入するための尖形形状を有する高分子細管と、前記高分子細管内部に揮発性物質及び油性ゲル化剤を少なくとも含む害虫用ゲル組成物とを少なくとも含んでなる徐放性製剤であって、
前記揮発性物質が、フェロモン物質、誘引剤及び忌避剤からなる群から選ばれ、前記害虫用ゲル組成物中に70.0〜99.0質量%含まれ、前記高分子細管を通して前記高分子細管の外部に放出され、前記油性ゲル化剤が、アミノ酸誘導体、長鎖脂肪酸及び糖誘導体からなる群から選ばれる徐放性製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、害虫用ゲル組成物を導入した徐放性製剤、特に片末端が尖形形状を有する高分子細管を含む徐放性製剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フェロモン物質及び誘引剤等を徐放することにより、交信撹乱、発生予察、大量誘殺等を行うことが可能である。これらの害虫防除に有効な揮発性物質を長期間に亘って徐放する方法として、液状の揮発性物質を徐放化させる方法、揮発性物質をゲル化させ徐放化させる方法等が知られている。例えば、特許文献1には揮発性物質をポリマー容器に封入し、ポリマー壁を浸透させてポリマー表面から徐放させる方法が、特許文献2には揮発性物質を流動性ゲルとし、ポリマーフィルムを介して徐放させる方法が、特許文献3には揮発性物質をポリマー格子に閉じ込めて固形又はゲル状にして徐放させる方法が開示されている。また、揮発性物質が封入された徐放性製剤を圃場に設置するためには、徐放性製剤を懸吊用の治具に取付けたり、樹木や栽培用の棚等に取り付ける方法が採られている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平07−313035号公報
【特許文献2】特開2002−306584号公報
【特許文献3】特開昭64−055136号公報
【特許文献4】特開平05‐095751号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に挙げられているような液状の揮発性物質をポリマー容器に封入する製剤の場合、製剤を使用する際、使用者が粗雑に扱うことで、容器に穴、切れ目等が生じ、容器内に封入された揮発性物質が漏れ出て徐放期間が極端に短くなってしまうという問題がある。また、特許文献2に挙げられているような流動性ゲルの場合にも、漏れの恐れがあるほか、流動性を持たせるために大量の希釈剤を添加する必要があるため、揮発性物質の徐放速度が時間と共に低下してしまうという問題がある。そのため、揮発性物質が漏れ出る恐れがなく、徐放速度が一定に保たれる徐放性製剤が望まれていた。
更に、特許文献3に見られるようなポリマーゲルの場合、揮発性物質が漏れ出る恐れはないが、揮発性物質共存下で重合して製造するため、重合条件下で反応してしまうような不安定な官能基を有する揮発性物質への適用は困難であった。そのため、揮発性物質を重合のような過酷な条件に曝させることなく製造可能なゲル状の徐放性製剤が強く望まれていた。
また、野菜等の圃場には、徐放性製剤を取り付けるための枝又は樹木並びに棚又は支柱等のない場合が多く、別途支柱を用意して設置する必要がある。しかし、支柱等は農作業の邪魔になるばかりでなく、コスト的に不利である。この場合、支柱等を用いないで地上に直接散布又は配置することも考えられるが、徐放性製剤が土壌と接触することで揮発性物質が土壌に吸着されるため、有効に利用出来ない。従って、野菜等の作物については、支柱等を設置せず、かつ土壌に接触しない徐放性製剤が望まれていた。
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、揮発性物質が漏れ出たり、反応したりする恐れがなく、支柱等を設置しなくても土壌に接触せずに、揮発性物質の徐放速度が一定に保たれる害虫用ゲル組成物を導入した徐放性製剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題の解決のため、害虫防除に有効な揮発性物質を長期間に亘って一定の速度以上で安定して徐放する害虫用ゲル組成物を導入した徐放性製剤を検討した結果、意外にも、片末端が尖形形状を有する高分子細管と、前記高分子細管内部に揮発性物質及び油性ゲル化剤を少なくとも含む害虫用ゲル組成物とを少なくとも含んでなる徐放性製剤であって、前記揮発性物質が、前記害虫用ゲル組成物中に70.0〜99.0質量%含まれ、前記高分子細管の壁を通して前記高分子細管の外部に放出される徐放性製剤を作ることによって、上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0006】
本発明の害虫用ゲル組成物を導入した徐放性製剤によれば、揮発性物質が漏れ出る恐れを低減し、温和な条件でゲル化させるため、ゲル化時に揮発性物質の反応による損失を抑えることが可能である。また、溶媒等の希釈成分を添加しないため、一定以上の徐放速度を長期間、安定して維持することが可能である。更に、高分子細管の材質や厚さ等によって、徐放速度を調整することも可能である。また、揮発性が高く、従来では徐放製剤化が困難な揮発性物質も、本発明の徐放性製剤にすることで安定した徐放が可能となる。更に、片末端が尖形形状を有する徐放性製剤の尖形形状部分を圃場の地表に挿入するだけで、簡単に設置が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】片末端が尖形形状を有し、他方の末端が開放された徐放性製剤の一例を示す。
図2】片末端が尖形形状を有し、他方の末端が封止された徐放性製剤の一例を示す。
図3】片末端が尖形形状を有し、他方の末端が封止された徐放性製剤の一例を示す。
図4】実施例1のフェロモン残存率と放出速度との関係のグラフを示す。
図5】実施例2のフェロモン残存率と放出速度との関係のグラフを示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の徐放性製剤は、片末端が尖形形状を有する高分子細管と、前記高分子細管内部に揮発性物質及び油性ゲル化剤を少なくとも含む害虫用ゲル組成物とを少なくとも含んでなる。高分子細管として、内部の揮発性物質を高分子細管の壁を通して外部に放出できる材料を用いる。本発明で用いられる揮発性物質としては、フェロモン物質、誘引剤、忌避剤等が挙げられ、これらの混合物も含む。
【0009】
本発明のフェロモン物質としては、炭素数12〜20の脂肪族直鎖状アルデヒド、飽和又は二重結合を一つ又は二つ以上有する炭素数12〜20の脂肪族直鎖状アセテート、炭素数7〜20の脂肪族直鎖状アルコール、炭素数7〜15のスピロアセタール、炭素数10〜25の脂肪族直鎖状ケトン、炭素数10〜30の脂肪族炭化水素、炭素数10〜20のカルボン酸等が挙げられ、特に、炭素数12〜20の脂肪族直鎖状アルデヒド、飽和又は二重結合を一つ又は二つ以上有する炭素数12〜20の脂肪族直鎖状アセテート、炭素数7〜20の脂肪族直鎖状アルコール及び炭素数7〜15のスピロアセタールが好ましい。具体的には、ピンクボールワーム(ワタアカミムシ)の性フェロモン物質であるZ7Z11−ヘキサデカジエニルアセテート及びZ7E11−ヘキサデカジエニルアセテート、オリエンタルフルーツモス(ナシヒメシンクイ)の性フェロモン物質であるZ−8−ドデセニルアセテート、ピーチツイッグボーラー(モモキバガ)の性フェロモン物質であるE−5−デセニルアセテート、グレープベリーモス(ホソヒメハマキ)の性フェロモン物質であるZ−9−ドデセニルアセテート、ヨーロピアングレープヴァインモス(ブドウホソハマキ)の性フェロモン物質であるE7Z9−ドデカジエニルアセテート、ライトブラウンアップルモス(リンゴウスチャイロハマキ)の性フェロモン物質であるE−11−テトラデセニルアセテート、コドリングモス(コドリンガ)の性フェロモン物質であるE8E10−ドデカジエノール、リーフローラー(ハマキガ)の性フェロモン物質であるZ−11−テトラデセニルアセテート、ピーチツリーボーラー(コスカシバ)の性フェロモン物質であるZ3Z13−オクタデカジエニルアセテート及びE3Z13−オクタデカジエニルアセテート、アメリカンボールワーム(オオタバコガ)の性フェロモン物質であるZ−11−ヘキサデセナール、オリエンタルタバコバッドワーム(タバコガ)の性フェロモン物質であるZ−9−ヘキサデセナール、ソイビーンポッドボーラー(マメシンクイガ)の性フェロモン物質であるE8E10−ドデカジエニルアセテート、ダイアモンドバックモス(コナガ)の性フェロモン物質であるZ−11−ヘキサデセニルアセテート及びZ−11−ヘキサデセナール、キャベッジアーミーワーム(ヨトウガ)の性フェロモン物質であるZ−11−ヘキサデセニルアセテート、Z−11−ヘキサデセノール及びn−ヘキサデシルアセテート、ビートアーミーワーム(シロイチモジヨトウ)の性フェロモン物質であるZ9E12−テトラデカジエニルアセテート及びZ−9−テトラデセノール、コモンカットワーム(ハスモンヨトウ)の性フェロモン物質であるZ9E11−テトラデカジエニルアセテート及びZ9E12−テトラデカジエニルアセテート、フォールアーミーワームの性フェロモン物質であるZ−9−テトラデセニルアセテート、トマトピンワームの性フェロモン物質であるE−4−トリデセニルアセテート、ライスステムボーラー(ニカメイガ)の性フェロモン物質であるZ−11−ヘキサデセナール及びZ−13−オクタデセナール、コーヒーリーフマイナーの性フェロモン物質である5,9−ジメチルペンタデカン及び5,9−ジメチルヘキサデカン、ピーチリーフマイナー(モモハモグリガ)の性フェロモン物質である14−メチル−1−オクタデセン、ピーチフルーツモス(モモシンクイガ)の性フェロモン物質であるZ−13−イコセン−10−オン、ジプシーモス(マイマイガ)の性フェロモン物質である7,8−エポキシ−2−メチルオクタデカン、パインプロセッショナリーモスの性フェロモン物質であるZ−13−ヘキサデセン−11−イニルアセテート、ケブカアカチャコガネの性フェロモン物質である2−ブタノール、イエローウィッシュエロンゲイトチェイファー(ナガチャコガネ)の性フェロモン物質であるZ−7,15−ヘキサデカジエン−4−オリド、シュガーケインワイヤーワーム(オキナワカンシャクシコメツキ)の性フェロモン物質であるn−ドデシルアセテート、シュガーケインワイヤーワーム(サキシマカンシャクシコメツキ)の性フェロモン物質であるE−9,11−ドデカジエニルブチレート及びE−9,11−ドデカジエニルヘキサネート、カプレアスチェイファー(ドウガネブイブイ)の性フェロモン物質である(R)−Z−5−(オクト−1−エニル)−オキサシクロペンタン−2−オン、ライスリーフバグ(アカヒゲヒソミドリカスミカメ)の性フェロモン物質であるヘキシルヘキサノエート、E−2−ヘキセニルヘキサノエート及びオクチルブチレート、ソルガムプラントバグ(アカスジカスミカメ)の性フェロモン物質であるヘキシルブチレート、E−2−ヘキセニルブチレート及びE−4−オキソ−2−ヘキセナール、ホワイトピーチスケール(クワシロカイガラムシ)の性フェロモン物質である(6R)−Z−3,9−ジメチル−6−イソプロペニル−3,9−デカジエニルプロピオネート及び(6R)−Z−3,9−ジメチル−6−イソプロペニル−3,9−デカジエノール、バインミリーバグ(ブドウコナカイガラムシ)の性フェロモン物質である(S)−5−メチル−2−(1−プロペン−2−イル)−4−ヘキセニル3−メチル−2−ブテノエート、ハウスフライ(イエバエ)の性フェロモン物質であるZ−9−トリコセン、ジャーマンコックローチ(チャバネゴキブリ)の性フェロモン物質であるジェンティシルキノンイソバレレート、オリーブフルーツフライ(オリーブミバエ)の性フェロモン物質である1,7−ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン等が挙げられる。
【0010】
その他、本発明で用いられるフェロモン物質は、上記に例示した以外の炭素数12〜20の脂肪族直鎖状アルデヒド、飽和又は二重結合を一つ又は二つ以上有する炭素数12〜20の脂肪族直鎖状アセテート、炭素数7〜20の脂肪族直鎖状アルコール、炭素数7〜15のスピロアセタール、炭素数10〜25の脂肪族直鎖状ケトン、炭素数10〜30の脂肪族炭化水素、炭素数10〜20のカルボン酸等が挙げられる。
【0011】
炭素数10〜20の脂肪族直鎖状アルデヒドで具体例としては、Z−5−デセナール、10−ウンデセナール、n−ドデカナール、Z−9−ドデセナール、E5Z10−ドデカジエナール、E8E10−ドデカジエナール、n−テトラデカナール、Z7−テトラデセナ−ル、Z9−テトラデセナール、Z11−テトラデセナール、Z9E11−テトラデカジエナール、Z9Z11−テトラデカジエナール、Z9E12−テトラデカジエナール、Z9E11,13−テトラデカトリエナール、Z10−ぺンタデセナール、E9Z11−ぺンタデカジエナール、n−ヘキサデカナール、Z7−ヘキサデセナール、E6Z11−ヘキサデカジエナール、E4Z6−ヘキサデカジエナール、E4E6Z11−ヘキサデカトリエナール、E10E12E14−ヘキサデカトリエナール、n−オクタデカナール、Z9−オクタデセナール、E14−オクタデセナール、E2Z13−オクタデカジエナ−ル、Z3Z13−オクタデカジエナール、Z9Z12−オクタデカジエナ−ル、Z9Z12Z15−オクタデカトリエナール等が挙げられる。
【0012】
飽和又は二重結合を一つ有する炭素数12〜20の脂肪族直鎖状アセテートの具体例としては、デシルアセテート、Z3−デセニルアセテート、Z4−デセニルアセテート、ウンデシルアセテート、Z7−ウンデセニルアセテート、Z8−ウンデセニルアセテート、E9−ウンデセニルアセテート、ドデシルアセテート、E7−ドデセニルアセテート、Z7−ドデセニルアセテート、E8−ドデセニルアセテート、E9−ドデセニルアセテート、11−ドデセニルアセテート、10−メチルドデセニルアセテート、トリデシルアセテート、Z4−トリデセニルアセテート、E6−トリデセニルアセテート、E8−トリデセニルアセテート、Z8−トリデセニルアセテート、テトラデシルアセテート、Z7−テトラデセニルアセテート、E8−テトラデセニルアセテート、Z8−テトラデセニルアセテート、E9−テトラデセニルアセテート、Z9−テトラデセニルアセテート、E10−テトラデセニルアセテート、Z10−テトラデセニルアセテート、E12−テトラデセニルアセテート、Z12−テトラデセニルアセテート、12−メチルテトラデセニルアセテート、ペンタデシルアセテート、Z8−ペンタデセニルアセテート、E9−ペンタデセニルアセテート、ヘキサデシルアセテート、Z3−ヘキサデセニルアセテート、Z5−ヘキサデセニルアセテート、E6−ヘキサデセニルアセテート、Z7−ヘキサデセニルアセテート、Z9−ヘキサデセニルアセテート、Z10−ヘキサデセニルアセテート、Z12−ヘキサデセニルアセテート、ヘプタデシルアセテート、Z11−ヘプタデセニルアセテート、オクタデシルアセテート、E2−オクタデセニルアセテート、Z11−オクタデセニルアセテート、E13−オクタデセニルアセテート等が挙げられる。
【0013】
二重結合を二つ以上有する炭素数12〜20の脂肪族直鎖状アセテートの具体例としては、Z3E5−デカジエニルアセテート、Z3E5−ドデカジエニルアセテート、E3Z5−ドデカジエニルアセテート、E4Z10−ドデカジエニルアセテート、Z5E7−ドデカジエニルアセテート、E5Z7−ドデカジエニルアセテート、Z8Z10−ドデカジエニルアセテート、9,11−ドデカジエニルアセテート、E4Z7−トリデカジエニルアセテート、11−メチル−Z9,12−トリデカジニルアセテート、E3E5−テトラデカジエニルアセテート、E8E10−テトラデカジエニルアセテート、Z10Z12−テトラデカジエニルアセテート、Z10E12−テトラデカジエニルアセテート、E10Z12−テトラデカジエニルアセテート、E10E12−テトラデカジエニルアセテート、E11,13−テトラデカジエニルアセテート、Z8Z10−ぺンタデカジエニルアセテート、Z8E10−ぺンタデカジエニルアセテート、Z8Z10−ヘキサデカジエニルアセテート、Z10E12−ヘキサデカジエニルアセテート、Z11Z13−ヘキサデカジエニルアセテート、Z11E13−ヘキサデカジエニルアセテート、E11Z13−ヘキサデカジエニルアセテート及びZ11E14−ヘキサデカジエニルアセテート等の共役ジエン及び/又は1,4−ペンタジエン系のアセテート化合物が挙げられる。
【0014】
炭素数7〜20の脂肪族直鎖状アルコールの具体例としては、n−ヘプタノール、Z4−ヘプテノール、Z6−ノネノール、Z6,8−ノナジエノール、E6,8−ノナジエノール、n−デカノール、Z5−デセノール、E5−デセノール、n−ウンデカノール、ウンデセノール、11−クロロ−E8E10−ウンデカジエノール、n−ドデカノール、Z5−ドデセノール、Z7−ドデセノール、E7−ドデセノール、Z8−ドデセノール、E8−ドデセノール、Z9−ドデセノール、E9−ドデセノール、E10−ドデセノール、11−ドデセノール、Z5E7−ドデカジエノール、E5Z7−ドデカジエノール、E5E7−ドデカジエノール、Z7Z9−ドデカジエノール、Z7E9−ドデカジエノール、E7Z9−ドデカジエノール、8,9−ジフロロ−E8E10−ドデカジエノール、10,11−ジフロロ−E8E10一ドデカジエノール、8,9,10,11−テトラフルオロ−E8E10−ドデカジエノール、Z9,11−ドデカジエノール、E9,11−ドデカジエノール、n−トリデカノール、n−テトラデカノール、Z5−テトラデセノール、E5−テトラデセノール、Z7−テトラデセノール、Z8−テトラデセノール、Z11−テトラデセノール、E11−テトラデセノール、Z9Z11−テトラデカジエノール、Z9E11−テトラデカジエノール、Z9Z12−テトラデカジエノール、Z9E12−テトラデカジエノール、Z10Z12−テトラデカジエノール、E10E12−テトラデカジエノール、n−ぺンタデカノール、6,10,14−トリメチル−2−ぺンタデカノール、n−ヘキサデカノール、Z9−ヘキサデセノール、Z11−ヘキサデセノール、E11−ヘキサデセノール、Z7Z11−ヘキサデカジエノール、Z7E11−ヘキサデカジエノール、E10Z12−ヘキサデカジエノール、E10E12−ヘキサデカジエノール、Z11Z13−ヘキサデカジエノール、Z11E13−ヘキサデカジエノール、E11Z13−ヘキサデカジエノール、E11Z13−ヘキサデカジエノール、E4Z6Z10−ヘキサデカトリエノール、E4E6Z10−ヘキサデカトリエノール、n−オクタデカノール、Z13−オクタデセノール、E2Z13−オクタデカジエノール、Z3Z13−オクタデカジエノール、E3Z13−オクタデカジエノール及びn−エイコサノール等の飽和脂肪族直鎖状アルコール又は二重結合を一つ又は二つ以上有する脂肪族直鎖状アルコールが挙げられる。
【0015】
炭素数7〜15のスピロアセタールの具体例としては、1,6−ジオキサスピロ[4.5]デカン、2−エチル−1,6−ジオキサスピロ[4.4]ノナン、3−ヒドロキシ−1,7−ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン、4−ヒドロキシ−1,7−ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン、7−メチル−1,6−ジオキサスピロ[4.5]デカン、2−メチル−1,6−ジオキサスピロ[4.5]デカン、2,7−ジメチル−1,6−ジオキサスピロ[4.4]ノナン、2,4,8−トリメチル−1,7−ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン、2−メチル−1,7−ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン、1,7−ジオキサスピロ[5.6]ドデカン、2,8−ジメチル−1,7−ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン、2,2,8−トリメチル−1,7−ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン、2−エチル−1,7−ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン、2−メチル−1,7−ジオキサスピロ[5.6]ドデカン、2−エチル−7−メチル−1,6−ジオキサスピロ[5.6]デカン、7−エチル−2−メチル−1,6−ジオキサスピロ[5.6]デカン、2,7−ジエチル−1,6−ジオキサスピロ[4.4]ノナン、2,7−ジメチル−1,6−ジオキサスピロ[4.6]ウンデカン、2−メチル−7−プロピル−1,6−ジオキサスピロ[4.4]ノナン、3−ヒドロキシ−2,8−ジメチル−1,7−ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン、2−プロピル−1,7−ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン、2−エチル−8−メチル−1,7−ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン、8−エチル−2−メチル−1,7−ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン、2,7−ジエチル−1,6−ジオキサスピロ[4.5]デカン、2,7−ジプロピル−1,6−ジオキサスピロ[4.4]ノナン、7−ブチル−2−メチル−1,6−ジオキサスピロ[4.5]デカン、8−メチル−2−プロピル−1,7−ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン、2−プロピル−8−メチル−1,7−ジオキサスピロ[5.5]ウンデカン等が挙げられる。
【0016】
炭素数10〜25の脂肪族直鎖状ケトンの具体例としては、ヘプタデカン−2−オン、Z12−ノナデセン−9−オン、Z6Z9−ノナデカジエン−3−オン、Z13−イコセン−10−オン、Z6−ヘネイコセン−11−オン、Z6−ヘネイコセン−9−オン、Z6E8−ヘネイコサジエン−11−オン、Z6E9−ヘネイコサジエン−11−オン、Z6Z9−ヘネイコサジエン−11−オン、Z7−トリコセン−11−オン等が挙げられる。
【0017】
炭素数10〜30の脂肪族炭化水素の具体例としては、1E11−ペンタデカジエン、1Z11−ペンタデカジエン、5,9−ジメチルペンタデカン、2−メチルヘキサデカン、3,13−ジメチルヘキサデカン、5,9−ジメチルヘキサデカン、n−ヘプタデカン、2−メチルヘプタデカン、2,5−ジメチルヘプタデカン、5−メチルヘプタデカン、5,11−ジメチルヘプタデカン、7−メチルヘプタデカン、7,11−ジメチルヘプタデカン、Z3Z6Z9−ヘプタデカトリエン、Z6Z9−ヘプタデカジエン、Z7−オクタデセン、10,14−ジメチル−1−オクタデセン、5,9−ジチルオクタデカン、2−メチルオクタデカン、14−メチルオクタデカン、Z3Z6Z9−オクタデカトリエン、n−ノナデカン、2−メチルノナデカン、9−メチルノナデカン、Z3Z6Z9Z11−ノナデカテトラエン、1E3Z6Z9−ノナデカテトラエン、Z3Z6Z9−ノナデカトリエン、Z6Z9−ノナデカジエン、Z9−ノナデセン、n−エイコサン、Z9−エイコセン、Z3Z6−エイコサジエン、Z3Z6Z9−エイコサトリエン、1Z3Z6Z9−エイコサテトラエン、1Z3Z6Z9−ヘネイコサテトラエン、n−ヘネイコサン、Z3Z6−ヘネイコサジエン、Z6Z9−ヘネイコサジエン、Z6Z9,20−ヘネイコサトリエン、Z3Z6Z9−ヘネイコサトリエン、Z6−13−メチルヘネイコセン、Z9−ヘネイコセン、n−ドコサエン、Z3Z6Z9−ドコサトリエン、Z6Z9−ドコサジエン、n−トリコサン、Z7−トリコセン、Z3Z6Z9−トリコサトリエン、Z6Z9−トリコサジエン、n−テトラコサン、n−ペンタコサン、Z3Z6Z9−ペンタコサトリエン、n−ヘキサコサン、n−ヘプタコサン、n−オクタコサン、n−ノナコサン等が挙げられる。
【0018】
炭素数10〜20のカルボン酸の具体例としては、カルボキシル基を有する化合物であれば特に限定されないが、3,5−ジメチルドデカン酸、Z−5−ウンデセン酸、E−5−ウンデセン酸、(E,Z)−3,5−テトラデカジエン酸等の炭素骨格中に複数のメチル基を有するものや、二重結合を有するもの等が挙げられる。
【0019】
誘引剤の具体例としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、n−酪酸、イソ−酪酸、n−吉草酸、イソ−吉草酸、カプロン酸、イソカプロン酸、E2−ブテン酸、2−ヒドロキシプロピオン酸、マロン酸等の脂肪族カルボン酸、アセトアルデヒド、プロパナール、ペンタナール、E2−ヘキセナール等の脂肪族アルデヒド、2−ブタノン、ペンタン−2,4−ジオン、シクロヘキサノン等の脂肪族ケトン、乳酸エチル、酢酸エチル、酢酸イソアミル、酢酸Z3−ヘキセニル、酢酸デシル、2−メチル酪酸ヘキシル、ヘキサン酸ブチル、オクタン酸エチル、ノナン酸エチル、デカン酸エチル、ウンデカン酸エチル、ドデカン酸エチル、ミリスチン酸エチル、パルミチン酸エチル、E2Z4−デカジエン酸エチル、2−メチル−4−シクロヘキセンカルボン酸tert−ブチル、4(又は5)−クロル−2−メチル−シクロヘキサンカルボン酸tert−ブチル等の脂肪族カルボン酸エステル、エタノール、イソブチルアルコール、イソペンチルアルコール、2−エチルヘキサノール、Z3−ヘキセノール、1−オクテン−3−オール、ノナノール、デカノール、シクロヘキサノール、アセトイン、プロパン1,2−ジオール等の脂肪族アルコール、ジエチルエーテル、アセタール等の脂肪族エーテル、α,β−ヨノン、ウンデカン、トリデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、Z9−トリコセン等の脂肪族炭化水素、フェニル酢酸メチル、フェニル酢酸エチル、フェニル酢酸プロピル、フェニル酢酸フェネチル、安息香酸Z3−ヘキセニル、オイゲノール、メチルイソオイゲノール、メチルオイゲノール、ベトロール酸、2−アリルオキシ−3−エトキシベンズアルデヒド、4−(p−アセトキシフェニル)−2−ブタノン、4−(p−ヒドロキシフェニル)−2−ブタノン(ラズベリーケトン)、アニシルアセトン、アントラニル酸メチル、アントラニル酸エチル、サリチル酸ベンジル、サリチル酸メチル、フェネチルアルコール、プロピオン酸フェネチル、酪酸フェネチル、アネトール、バニリン、エチルバニリン、イソバニリン、ヘリオトロピン、ピペロナールアセトン、フチオコール等の芳香族化合物、マルトール、エチルマルトール、2,5−ジメチルピラジン、γ−(4−ペンテニル)−γ−ブチロラクトン、δ−ノニルラクトン、フロンタリン等の複素環化合物、ジメチルジスルフィド、ジメチルトリスルフィド、ジプロピルジスルフィド、メチルイソチオシアネート、3−ブテニルイソチオシアネート等の含硫黄化合物、トリメチルアミン、ヘキシルアミン、1,4−ジアミノブタン、アリル二トリル、2−アミノ−3−メチル吉草酸メチル等の含窒素化合物、ゲラニオール、ファルネソール、リナロール、リナロールオキシド、シトロネロール、シネオール、酢酸ゲラニル、酢酸シトロネリル、シトラール、カルボン、d−リモネン、β−ピネン、ファルネセン、4,8−ジメチル−1,E3,7−ノナトリエン等のテルペン化合物等が挙げられる。
【0020】
その他の誘引剤の具体例として、アンゲリカ油、シトロネラ油、カラシ油等の精油やアロエやユーカリ等の植物からの抽出物等も挙げられる。
【0021】
忌避剤の具体例としては、Z9Z12−オクタジエン酸、3,7,11−トリメチル−6,10−ドデカジエン酸等の脂肪族カルボン酸、E2−ヘキセナール、Z2E6−3,7−ジメチルオクタジエナール、3,7−ジメチル−6−オクテナール、E2Z6−ノナジエナール等の脂肪族アルデヒド、2−ヘプタノン、2−ドデカノン、2−トリデカノン、3−メチル−2−シクロへキセノン、E3E5−オクタジエン−2−オンE3Z7−デカジエン−2−オン等の脂肪族ケトン、酢酸ブチル、酢酸オクチル、ミリスチン酸メチル、パルミチン酸メチル、メチル6−n−ペンチルシクロヘキセン−1−カルボキシレート等の脂肪族カルボン酸エステル、オクタノール、1−オクテン−3−オール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、メントール、n−ヘキシルトリエチレングリコールモノエーテル等の脂肪族アルコール、トリデカン等の脂肪族炭化水素、シンナミックアルコール、シンナミックアルデヒド、メチルオイゲノール、フェニルアセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、アネトール、ジエチルトルアミド、N,N−ジエチル−3−メチルベンズアミド(DEET)、フタル酸ジメチル、フタル酸ジオクチル、ナフタレン等の芳香族化合物、γ−ノニルラクトン、ブチル3,4−ジヒドロ−2,2−ジメチル−4−オキソ−2H−ピラン−6−カルボキシレート、フルフラール、4−オクタノイルモルホリン等の複素環化合物、プロピルイソチオシアナート等の含硫黄化合物、メチルピペリジン、2,6−ジメチルピペリジン、2−エチルピペリジン等の含窒素化合物、ゲラニオール、シネオール、リナロール、テルピネオール、シトラール、シトロネラール、ギ酸ネリル、α−ピネン、カルボン、d−リモネン、カンファー等のテルペン化合物等が挙げられる。
更に、ローズゼラニウム油、サンダルウッド油、ペッパー油(はっか油)、レモングラス油等の精油や、桂皮、樟脳、クローバ、タチジャコウソウ、ゼラニウム、ベルガモント、月桂樹、松、アカモモ、ベニーロイヤル、ユーカリ、インドセンダン等の植物からの抽出物等でも良い。
【0022】
本発明で用いられる油性ゲル化剤は、分子中にカルボキシル基、水酸基、エステル、アミド等の分子間水素結合を形成できる極性官能基の少なくとも1つを有しており、これらの極性官能基を介して分子間水素結合が働いている。加熱(好ましくは60〜150℃)により油性ゲル化剤を揮発性物質中に均一に溶解させると、油性ゲル化剤の分子間水素結合は一旦切断されるが、冷却(放冷放置による冷却を含む)に伴い再形成されていく。その際、油性ゲル化剤分子の周囲には揮発性物質が大量に存在するため、油性ゲル化剤は揮発性物質を取り込みながら分子間水素結合を再生する。揮発性物質と油性ゲル化剤の分子間にはファンデルワールス力等の弱い相互作用が働いているのみなので、ゲル化後も揮発性物質の揮発性はゲル化前とほとんど変化しない。
油性ゲル化剤の具体例として、アミノ酸誘導体、長鎖脂肪酸、長鎖脂肪酸の多価金属塩、糖誘導体、ワックス等が挙げられ、特にアミノ酸誘導体又は長鎖脂肪酸が好ましい。
【0023】
アミノ酸誘導体の具体例としては、N−ラウロイル−L−グルタミン酸ジ(コレステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)、N−ラウロイル−L−グルタミン酸ジ(コレステリル/オクチルドデシル)、N−ラウロイル−L−グルタミン酸ジ(フィトステリル/ベヘニル/オクチルドデシル)、N−ラウロイル−L−グルタミン酸ジ(フィトステリル/オクチルドデシル)、N−ラウロイル−L−グルタミン酸ジブチルアミド、N−エチルヘキサノイル−L−グルタミン酸ジブチルアミド等の好ましくは炭素数2〜15のアミノ酸のアミノ基のアシル化体並びにカルボキシル基のエステル化体又はアミド化体等が挙げられ、特に、N−ラウロイル−L−グルタミン酸ジブチルアミド、N−エチルヘキサノイル−L−グルタミン酸ジブチルアミドが特に好適であるに例示できる。
【0024】
長鎖脂肪酸の具体例としては、炭素数8〜24の飽和又は不飽和脂肪酸の他、長鎖脂肪酸の類縁体である12−ヒドロキシステアリン酸等が挙げられる。ここで、飽和脂肪酸の具体例としては、例えば、オクタン酸、2−エチルヘキサン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、アラキジン酸、ベヘン酸等が挙げられる。また、不飽和脂肪酸の具体例としては、例えばパルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキドン酸、イコサジエン酸、エルシン酸等が挙げられる。
【0025】
長鎖脂肪酸の金属塩の具体例としては、上記長鎖脂肪酸と同様の長鎖脂肪酸の金属塩の他、例えば炭素鎖長18の飽和脂肪酸の場合、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸マンガン、ステアリン酸鉄、ステアリン酸コバルト、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸鉛等が挙げられる。
【0026】
また、糖類誘導体の具体例としては、ラウリン酸デキストリン、ミリスチン酸デキストリン、パルミチン酸デキストリン、マルガリン酸デキストリン、ステアリン酸デキストリン、アラキン酸デキストリン、リグノセリン酸デキストリン、及びセロチン酸デキストリン、2−エチルヘキサン酸パルミチン酸デキストリン、パルミチン酸ステアリン酸デキストリン等のデキストリン脂肪酸エステル、パルミチン酸スクロース、ステアリン酸スクロース、酢酸/ステアリン酸スクロース等のショ糖脂肪酸エステル、フラクトオリゴ糖ステアリン酸エステル、フラクトオリゴ糖2−エチルヘキサン酸エステル等のフラクトオリゴ糖脂肪酸エステル、モノベンジリデンソルビトール、ジベンジリデンソルビトール等のソルビトールのベンジリデン誘導体等が挙げられる。
【0027】
ワックスの具体例としては、ハゼ蝋(主成分はパルミチン酸のトリグリセリド)、ウルシ蝋(主成分はパルミチン酸グリセリド、カルナウバ蝋(セロチン酸ミリシル、ミリシルアルコール)、サトウキビロウ(パルミチン酸ミリシル、パーム蝋(パルミチン酸ミリシル)、蜜蝋(セロチン酸、パルミチン酸ミリシル)、鯨蝋(パルミチン酸セチル、羊毛蝋(セリルアルコール及び/又はミリスチン酸)、パラフィンワックス(直鎖状炭化水素)等が挙げられる。
【0028】
油性ゲル化剤の極性官能基の構造、水素結合力及び非対称性構造によって、揮発性物質がゲル化する臨界ゲル化濃度は異なる。揮発性物質の官能基(極性基)と非極性基の配位により油性ゲル化剤の水素結合力が弱められる場合もあり、揮発性物質の化学構造とゲル化剤の種類により、その臨界ゲル化濃度は異なる。放出性能、経済面を考慮すると高分子細管内に充填されるゲル組成物は、臨界ゲル化濃度に近い濃度で充填されることが望ましい。具体的には、害虫用ゲル組成物は、害虫用ゲル組成物中に揮発性物質を70.0〜99.0質量%、好ましくは85.0〜99.0質量%、更に好ましくは90.0〜99.0質量%含有する。害虫用ゲル組成物中の揮発性物質が70.0質量%未満の場合、揮発性物質の活性成分がゲル中に閉じこめられてしまうため揮発性物質の徐放が安定せず、長期間一定の徐放が得られない。また、経済面でコストが高い場合がある。一方、害虫用ゲル組成物中の揮発性物質が99.0質量%を超えると、流動性を有する害虫用ゲル組成物しか得られない。
例えば、揮発性物質としてハマキムシ類のフェロモン物質であるZ11−テトラデセニルアセテートを、油性ゲル化剤としてステアリン酸を用いる場合、害虫用ゲル組成物中にZ11−テトラデセニルアセテートを好ましくは90〜99質量%含有する。また、揮発性物質としてコドリンガのフェロモン物質であるE8E10−ドデカジエノールを、油性ゲル化剤としてステアリン酸を用いる場合、害虫用ゲル組成物中にE8E10−ドデカジエノールを好ましくは70〜80質量%、油性ゲル化剤としてN−ラウロイル−L−グルタミン酸ジブチルアミドを用いる場合、害虫用ゲル組成物中にE8E10−ドデカジエノールを好ましくは90〜97質量%含有する。
【0029】
従来のゲル組成物は、害虫用ゲル組成物表面が乾燥し、揮発性物質の活性成分がゲル中に閉じこめられてしまう等の問題点から、溶媒等で希釈して流動性ゲルにするのが一般的である。しかし、溶媒等が含まれると、溶媒の揮発性によって徐放と共にゲル組成物中の揮発性物質の濃度が大きく変化するため、安定した徐放速度を得ることは困難である。更には、液漏れの対策及び体積の増加による無駄等の不具合が生じる。このため、本発明では、上記のように、高分子細管内に揮発性物質と油性ゲル化剤とを少なくとも含む害虫用ゲル組成物を導入した徐放性製剤であって、前記揮発性物質が、前記害虫用ゲル組成物中に70.0〜99.0質量%含まれるようにした。
本発明の害虫用ゲル組成物は、揮発性物質以外には油性ゲル化剤や、必要に応じて使用する後述の添加剤しか実質的に含まない非流動性のゲルであるため、液漏れ対策が不要で、溶媒等を含まないので不要な体積の増加もない。また、害虫用ゲル組成物中の揮発性物質が外部空間に放出され、徐放された揮発性物質のゲル化に寄与していた分のゲル化剤はゲル表面に粉状に残存するため、害虫用ゲル組成物中の揮発性物質の濃度は徐放期間を通じてほぼ一定となり、安定した徐放速度を得ることができる。
このように、本発明の害虫用ゲル組成物は非流動性であり、長期間保存も可能であり、害虫用ゲル組成物の流動化は常温にて保存する限り起こらない。
【0030】
害虫用ゲル組成物は、BHT(ブチルヒドロキシトルエン)、BHA(ブチルヒドロキシアニソール)、プロトカテキュア酸エチル、没食子酸イソアミル、没食子酸プロピル等の合成酸化防止剤、NDGA(ノルジヒドログアヤレチン酸)、グアヤク脂等の天然酸化防止剤等の抗酸化剤や、パラジメチルアミノ安息香酸オクチル等のパラアミノ安息香酸系、オキシベンゾン(2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン)、2−ヒドロキシ−4−オクトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体、メトキシ桂皮酸誘導体、サリチル酸誘導体等の紫外線吸収剤等の添加剤を含有しても良い。害虫用ゲル組成物中の各添加剤の含有量は、好ましくは0.01〜5質量%であり、その合計の含有量は、好ましくは0.02〜10質量%である。
【0031】
害虫用ゲル組成物は、揮発性物質、油性ゲル化剤及び必要に応じて添加剤を、好ましくは60〜150℃程度で加熱溶解後、冷却することにより得られる。冷却は、好ましくは放冷(放置して冷却)である。
【0032】
本発明によれば、害虫用ゲル組成物が導入される容器として高分子細管(チューブ)を用いる。高分子細管(チューブ)は、透過、浸透及び/又は拡散等してその外表面から害虫用ゲル組成物を放出(例えば蒸発)できる材料を用いればよく、特に限定されない。具体的には、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル系共重合体、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン、ポリブチレン、メチルメタクリレート−スチレン共重合体、メチルペンテン樹脂、アイオノマー、ポリアセタール、酢酸セルロース、セルロースアセテートブチレート、ポリフッ化ビニリデン及びケイ素樹脂の熱可塑性プラスチックが挙げられる。また、生分解性樹脂として、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸及びマレイン酸の中から選ばれる少なくとも一種類のジカルボン酸と、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオールの中から選ばれる少なくとも一種類のポリオールとの縮合重合体のほか、乳酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸及びヒドロキシカプリン酸の中から選ばれる少なくとも一種類の縮合重合体又はε−カプロラクトンを開環重合させたポリカプロラクトン等の脂肪族ポリエステル系の熱可塑性プラスチックも挙げられる。これらの高分子材料に、加工性を改良するため滑剤、可塑剤、安定剤、顔料、充填剤を添加してもよい。
【0033】
高分子細管は、その両端のいずれか一方又は両方を封止してもよく、その両端のいずれか一方又は両方を開口部として開放してもよいが、揮発性物質が直接外部環境と触れることによる酸化又は加水分解等の反応を防ぐ点からその両端の両方を封止することが好ましい。
揮発性物質の放出速度は、高分子細管の材質や厚さによって調整することができる。開口部の有無によっても調整できるが、細管であるため放出可能な細管の側面を含む全面積に対する開口部の割合は小さいため、限定的である。
【0034】
片末端が尖形形状を有する高分子細管の形状として、好ましくは、内径0.5〜15mmであり、厚さ0.2〜1.5mm、長さ10〜5,000mmであり、細管にはアンプル状のものも含まれる。また、片末端が尖形形状を有する高分子細管は、高分子細管の片末端に尖形形状の冶具を付着させる場合又は高分子自体の片末端が尖形形状を有する場合のいずれの場合も含まれる。
高分子細管の片末端に尖形形状の冶具を付着する方法としては、高分子細管の内側に尖形形状の冶具を挿入するほか、高分子細管の外側に尖形形状の冶具を挿入してもよい。
尖形形状の冶具の材料は、前記高分子細管の材料と同じものや竹や木材等が好ましく、圃場の土壌に挿入される際に折れない程度の強度が必要である。更に、使用後、圃場に鋤き込むことができるように、高分子製の細管及び尖形形状の冶具が、共に生分解性の素材であることが好ましい。
尖形形状の冶具の長さは、土壌に挿入された後に徐放性製剤が倒伏又は転倒しない程度の長さが必要であるため、好ましくは20〜300mmである。20mm未満だと土壌に挿入する際に製剤部分が土壌に触れてしまい、揮発性物質が土壌に吸着される場合がある。一方、300mmを超えると倒伏又は転倒したり、農薬散布等の農作業の邪魔になる場合がある。
各高分子細管に導入される害虫用ゲル状組成物の量は、揮発性物質の種類や使用期間等によって変動するが、好ましくは10mg〜6g/本である。
害虫用ゲル状組成物を導入された細管は、対象とする害虫等によっても変動するが、好ましくは20〜100,000本/haとなるように圃場に設置される。
【0035】
本発明の徐放性製剤の製造方法は、片末端が尖形形状を有するように先に高分子細管材の成形を行った後にゲル組成物溶液を導入する方法の他、高分子細管と高分子細管材の成形と同時に揮発性物質と油性ゲル化剤とを少なくとも含むゲル組成物溶液を導入して尖形形状の冶具を取り付ける方法又は先に高分子細管材の成形を行った後にゲル組成物溶液を導入して尖形形状の冶具を取り付ける方法が挙げられる。
高分子細管材の成形と同時にゲル組成物溶液を導入する方法としては、例えば押し出し成形等により、調製済みのゲル組成物を導入した無限長の高分子細管材を連続成形する方法が挙げられる。具体的には、溶融させた高分子をダイに通して管状に連続的に押し出して高分子細管材を成形すると同時に、該ダイのマンドレルに設けられた孔を通して高分子細管材内に調製済みの揮発性物質と油性ゲル化剤からなるゲル組成物溶液を連続的に導入し、長尺状の高分子細管材を成形した後にリールに巻き取る。この長尺状の高分子細管材を適当な長さに切断するか、適当な長さ間隔で加熱プレス機により溶着され切断する等して、両方が開口された又は少なくとも一方の末端が密閉された高分子細管が得られる。その後、得られた高分子細管の片末端に熱溶着等により尖形形状の冶具を取り付けることによって徐放性製剤が得られる。
一方、先に高分子細管材の成形を行った後にゲル組成物溶液を導入する方法としては、例えば押し出し成形等により長尺状の高分子細管材を連続成形し、必要量の長さ分に分取して加圧又は吸引により調整済みのゲル組成物溶液を導入する方法が挙げられる。その後、ゲル組成物溶液が固化した後に、高分子細管材を所望の長さに切断もしくは溶着・切断して両方が開口された又は少なくとも一方の末端が密閉された高分子細管が得られる。その後、同様にして尖形形状の冶具を取り付けることによって徐放性製剤が得られる。
【0036】
片末端が尖形形状を有し、他方の末端が開放された高分子細管を備える徐放性製剤の例を図1に示す。図1に示す徐放性製剤10は、両端11a、11bが開口部となっている細管11中に害虫用ゲル組成物12を含有し、揮発性物質は細管の壁を浸透・拡散し、徐放性製剤10の外表面から外部空間へ放出される。細管11の一端11aには、尖形形状の冶具13が嵌め込まれている。
また、片末端が尖形形状を有し、他方の末端が封止された高分子細管を備える徐放性製剤の別の例を図2に示す。図2に示す徐放性製剤20は、両端が封止されている細管21中に害虫用ゲル組成物22を含有し、揮発性物質は同様に細管の壁を浸透・拡散し、徐放性製剤20の外表面から外部空間へ放出される。細管21の一端21aは、尖形形状の冶具23の一端に嵌め込まれている。
また、片末端が尖形形状を有し、他方の末端が封止された高分子細管を備える徐放性製剤の他の例を図3に示す。図3に示す徐放性製剤30は、押し出し成型により一体的に形成されたものであり、一端31aが細管31の長手方向に延びて尖形部33を有し、他端31bが開口部となっている細管31中に害虫用ゲル組成物32を含有し、揮発性物質は同様に容器の壁を浸透・拡散し、徐放性製剤30の外表面から外部空間へ放出される。細管31の別の一端31bは、開口部となっている。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例に基づき説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
実施例1
内径1.2mm、膜厚0.50mmのエチレン酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル含有量4質量%)製の高分子細管材を押し出しと同時に、E8E10−ドデカジエノールに10質量%のミリスチン酸デキストリンを加え、80℃まで加温した後、均一となった溶液を充填しながら、押し出し成形を行った(成形同時充填)。高分子細管材内部を観察すると、室温で非流動性ゲル化していることが確認された。この高分子細管材を200mmに切断し、片末端の内側に外径1.2mm、長さ12cmの竹製の尖形形状の冶具を差し込んで徐放性製剤を作成した。
得られた徐放性製剤を25℃、風速0.7m/秒の条件下に放置することにより徐放性製剤内部の揮発性物質を放散させた。時間の経過とともに質量減少を測定することにより、E8E10−ドデカジエノールの放出速度を算出し、その結果を図4に示す。
図4に示すように、得られた徐放性製剤はE8E10−ドデカジエノールを長期に亘り放散し、放出期間中、E8E10−ドデカジエノールが軟化して流逸することも無かった。
【0038】
実施例2
内径1.4mm、膜厚0.60mmのポリブチレンアジペート/ポリブチレンサクシネート共重合体製の高分子細管材を押し出し成形により製造した。ケブカアカチャコガネの性フェロモン物質である2−ブタノールに10.0質量%のN−エチルヘキサノイル−L−グルタミン酸ジブチルアミドを加え、撹拌しながら加温したところ、60℃で均一な溶液となった。更に80℃まで加温した後、この溶液を上記高分子細管材に吸引することにより導入し、室温において2時間放置した。高分子細管材内部を観察すると、室温で非流動性ゲル化していることが確認された。この高分子細管材を30mmに切断し、両端を封印した高分子細管を作成した。そして、この高分子細管の片末端の内側にポリ乳酸製の外径1.4mm、長さ50mmの尖形形状の冶具を差し込んで熱溶着により取り付けることによって徐放性製剤を作成した。
得られた徐放性製剤を25℃、風速0.7m/秒の条件下に放置することにより徐放性製剤内部の揮発性物質を放散させた。時間の経過とともに質量減少を測定することにより、2−ブタノールの放出速度を算出し、その結果を図5に示す。
図5に示すように、得られた徐放性製剤は、2−ブタノールを長期に亘り放散し、放出期間中、2−ブタノールが軟化して流逸することも無かった。
【符号の説明】
【0039】
10、20、30 徐放性製剤
11、21、31 細管
11a、11b、21a、31a、31b 細管の端部
12、22、32 害虫用ゲル組成物
13、23 尖形形状の冶具
33 細管の尖形部
図1
図2
図3
図4
図5