【発明が解決しようとする課題】
【0004】
密閉容器に処理水を導入して溶解を行う方法では、容器内の薬剤の全量が処理水に浸漬するため、薬剤の溶解が進むにつれて薬剤が小型化し、処理水と薬剤の接触面積が減少することによって溶解液の濃度が低下する。そのため、滅菌に供する塩素濃度を一定に制御することが困難であるという欠点があった。
【0005】
また、密閉容器を有する溶解装置では、導入する処理水の水圧が容器全体に掛かることから、容器全体を耐圧構造で設計する必要があり、コストが高く、また該装置の容積をそれ程大きくすることができないため、1日に数回の薬剤の充填を要するなど作業が煩雑であった。
【0006】
特許文献2で提案されている開放常圧型の溶解装置において、スプレーノズルによる固形薬剤の溶解方法では、スプレーノズルを塩素剤が充填された薬筒の下部に上向きに配置し、間欠的に水を噴霧することにより薬室内の塩素剤を溶解させるが、間欠的な散水では散水時以外でのスプレーノズル表面、溶解液槽の壁面や目皿の裏面に付着した溶解液の乾燥が避けられず、結果として消石灰や炭酸カルシウム等のスケールの析出、析出したスケールによる配管の閉塞や注入ポンプの故障といった欠点があった。
【0007】
また、開放常圧型の溶解装置における薬剤溶解液の注入方式として、特許文献3ではポンプによる注入と、ポンプを制御するための電気回路および液面計の設置とが提案されているが、該ポンプおよび該電気回路および該液面計の設置はコストが嵩み、また装置運転用の動力を必要とする。
【0008】
さらに、薬剤溶解液のポンプによる注入では、特に無機の固形塩素剤を溶解する場合、溶解液の乾燥によって生じる消石灰や炭酸カルシウム等のスケールや、塩素剤に含まれる不溶固形分の吸引により該ポンプが故障するという欠点があった。
【0009】
また、開放常圧型の溶解装置における薬剤溶解液の注入方法として、特許文献1には、固形薬剤の溶解液槽をプール水の循環水系の主配管よりも高い位置に設置してヘッド圧で注入する方法や、固形薬剤の溶解液を注入するエゼクターを循環水系の濾過機の下流側の主配管上に設置する方法等が記載されているが、実際のプール水の循環設備においては、固形薬剤の溶解装置の設置場所は限られており、プール水循環の主配管上に該エゼクターを設置する場所を設けることは難しく、また設置工事の費用が嵩むといった問題があり、いずれの方法も現在はほとんど実用に供されていない。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、溶解液の注入量の制御装置として、薬剤の溶解液槽の液面制御装置であるフロート式定水位弁と、フロート式定水位弁を設置する液面調整室と、溶解液の注入装置であるエゼクターと、エゼクターを設置するための処理水の分岐配管とを構成要件とし、課題を解決したものである。
【0011】
以下、本発明の固形薬剤溶解滅菌装置を詳細に説明する。
【0012】
本発明は、固形薬剤を充填する薬室Aと、薬室底部にあって固形薬剤を保持する機能を有する目皿Bと、溶解液を保持する溶解液槽Cと、溶解液槽の液面を制御するフロート式定水位弁Dと、該フロート式定水位弁を設置する液面調整室Eと、処理水を取得する取水弁Vと、その下流側に設けられた分岐点5から溶解液槽へ接続する処理水導入配管L1と、該分岐点5から薬剤溶解液を注入するエゼクター2を設置するための処理水分岐配管L2と、固形薬剤の溶解液をエゼクター2へ供給する溶解液注入配管L3とで構成されるものであって、
図2により示されるものである。
【0013】
本発明の固形薬剤溶解滅菌装置は、その機能が同じであれば形状、大きさ、材質に特に制限はなく、円筒であっても、方形であってもよい。また、固形薬剤を充填する薬室内部が隔壁によって複数に仕切られていてもよい。溶解液槽の容積に制限はないが、溶解液の注入装置であるエゼクターの吸引の安定性の観点から、溶解液槽Cの液深は5センチメートル以上であることが好ましい。
【0014】
フロート式定水位弁においては、その機能が同じであれば形状、大きさ、材質に特に制限はない。
【0015】
また、エゼクターは種々選択できるが、最大使用圧力が1.0MPa以上であって、主流量が10L/分以上、吸入流量が3L/分以上の能力を有するものが好ましい。
【0016】
本発明の固形薬剤溶解滅菌装置は、例えば、
図1に示すようなプール水の循環水系内において使用される。
図1においては、プール水を所定の水質に保つ処理を行うために循環ポンプ7によりプール水を濾過機8に送って異物を除去するが、その一部を処理水取込口3より分岐して固形塩素剤の溶解液を調製する固形薬剤溶解滅菌装置1へ導入して、該溶解液を処理水合流点4で濾過機を経たプール水と混合し、殺菌消毒を行う。すなわち、処理水の一部は
図2の薬剤溶解用の処理水導入配管L1を経て固形薬剤溶解滅菌装置1の内部へ導入され、この処理水導入配管L1より供給された処理水によって薬室A内の目皿Bの上に充填された固形塩素剤を溶解し、溶解液は溶解液槽Cに保持された後、溶解液注入配管L3を経て処理水分岐配管L2上に設置された溶解液注入装置のエゼクター2によって処理水に注入される。
【0017】
溶解液槽C内の溶解液量を一定に保つフロート式定水位弁Dの効果により、固形薬剤と溶解液の接触面積を制御することができ、溶解液の濃度を安定的に制御することが可能となる。
【0018】
また、溶解液槽C内の溶解液量を一定に保つフロート式定水位弁Dの効果により、処理水導入配管L1を経て溶解液槽Cへ供給される処理水流量と、溶解液注入配管L3を経てエゼクター2へ供給される溶解液の流量は最終的に平衡に達して等しくなることから、安定した濃度の溶解液をほぼ一定の流量で処理水分岐配管L2へ注入することが可能となる。
【0019】
さらに、フロート式定水位弁Dがフロートの高さを調整する機能を有する効果により、フロートの高さを調整して溶解液槽Cの液面高さを変えると、固形薬剤と溶解液の接触面積が変わるため、溶解液の濃度を調整することができる。例えば、大型のプールや汚れが酷く滅菌のための塩素剤消費量の大きいプールではフロートを高く保持して溶解液と固形塩素剤の接触面積を増加させ、単位時間当たりの固形塩素剤の溶解量を増加させるといった調整を行うことができる。
【0020】
溶解液の液面高さは、少なくとも目皿Bより高い位置に設定すれば制限はない。溶解液の液面を目皿Bよりも高い位置で保持することにより、固形薬剤が常時一定量だけ溶解液へ浸漬する効果により、薬剤の浸漬部分の乾燥を防止できるため、溶解液の乾燥により生じる消石灰や炭酸カルシウム等のスケールの発生が抑制される。
【0021】
また、目皿Bは溶解液面に対し水平に設置することもできるが、固形薬剤に含まれる不溶固形分等の薬室Aからの排出を促すため、傾斜をつけて設置することもできる。目皿Bの設置角度は、溶解液面に対し水平(0度)〜40度の範囲が好ましい。40度を超える傾斜になると薬室Aの容積が減るため好ましくなく、溶解性と不溶固形分の排出効果の点から10度〜20度の範囲が特に好ましい。
【0022】
本発明における固形薬剤の溶解液の注入装置であるエゼクターの設置位置は、公知技術であるプール水の循環水系の主配管上に設置する形態とは大きく異なる。固形薬剤溶解滅菌装置に導入する処理水を2方に分岐し、一方を薬剤の溶解液槽へ導入し、固形薬剤の溶解液を得ることは公知技術と同様であるが、他方を薬剤溶解液を注入するエゼクターを設置するための処理水分岐配管L2に接続する。エゼクターの設置位置をプール水の循環水系の濾過機の下流側のプール水の主配管上ではなく、
図2の処理水分岐配管L2上に設けることにより、プール水の循環水系の主配管上の設置工事が不要になり、またエゼクター2も小型のものを選択することが可能となる。また、エゼクターによる混合の効果により、薬剤溶解液と処理水の混合をより均一に行うことができる。
【0023】
エゼクターによる注入の原理から、溶解液注入配管L3を経由する溶解液の流量は処理水分岐配管L2の流量を常に下回るため、
図2の処理水分岐点5よりも上流側に設置された取水弁Vの開度調整によって取水弁Vを通過する処理水の流量を変化させる場合には、溶解液注入配管L3を経由する溶解液の注入量を安定に保ちながら調整することが可能となる。溶解液の注入量の確認は、例えば、
図2の処理水導入配管L1上に設置された流量計Fによって確認することができる。
【0024】
本発明の固形薬剤溶解滅菌装置において、固形薬剤の溶解速度は溶解に供する処理水の温度によって大きく変化するが、固形薬剤と処理水の接触面積の調整による溶解速度の調整機構と、取水弁Vを通過する水量の調整による溶解速度の調整機能によっても、幅広い範囲で調整することができる。