(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5900524
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月6日
(54)【発明の名称】冷却水ラインの汚れ評価方法
(51)【国際特許分類】
F28F 27/00 20060101AFI20160324BHJP
F28G 13/00 20060101ALI20160324BHJP
F25B 1/00 20060101ALI20160324BHJP
【FI】
F28F27/00 511K
F28G13/00 Z
F25B1/00 399Y
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-44131(P2014-44131)
(22)【出願日】2014年3月6日
(65)【公開番号】特開2015-169370(P2015-169370A)
(43)【公開日】2015年9月28日
【審査請求日】2015年7月8日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】514057617
【氏名又は名称】クリタ・ビルテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】岸根 義尚
(72)【発明者】
【氏名】谷垣 元揮
【審査官】
藤崎 詔夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−218188(JP,A)
【文献】
特開2012−207832(JP,A)
【文献】
特開2012−052733(JP,A)
【文献】
特開平09−026804(JP,A)
【文献】
実用新案登録第2501656(JP,Y2)
【文献】
特開2009−030936(JP,A)
【文献】
実公平04−047569(JP,Y2)
【文献】
特開2013−204982(JP,A)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凝縮器及び蒸発器を備えた冷凍システムにおける汚れ評価方法であって、
該凝縮器に冷却水を循環流通させる冷却水ラインの汚れを評価する方法において、
該凝縮器のLTDを計測し、
蒸発器のブライン入口温度T1及びブライン出口温度T2を計測し、
ブライン出口温度T2が所定温度以下であり、かつブライン入口温度T1とブライン出口温度T2との差(T1−T2)と定格ブライン温度差との比(T1−T2)/(定格ブライン温度差)が所定値以上である場合のLTDを抽出し、
抽出したLTDがLTD−時間グラフにおいて連続するように非抽出時のデータをカットしてプロットを連続させてLTD−時間グラフを作成し、このグラフから前記冷却水ラインの汚れを評価することを特徴とする冷却水ラインの汚れ評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧縮式冷凍機又は吸収式冷凍機を備えた冷凍システムの汚れを評価する方法に関するものであり、詳しくは、該冷凍機の凝縮器に冷却水を循環流通させるときの冷却水ラインの汚れを評価する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種工場、ビル等では、冷凍機等の各種の熱交換器を含む水系が設けられ、冷却水と被冷却体とを熱交換器を介して接触させて、被冷却体を冷却(場合により潜熱を奪うのみのものも含む)している。例えば、ビル等に設けられた冷凍機では被冷却体としてフロンや水等の冷媒が用いられ、また、冷凍機以外でも、例えばコンビナート等では各種熱交換器が使用され、被冷却体として、空気、油性物質、各種有機物が用いられている。
【0003】
冷凍機等の熱交換器を含む系のうち、これら被冷却体の凝縮を伴うものは凝縮器と称され、被冷却体の凝縮を伴わないものは冷却器と称される。
【0004】
以下においては、主に凝縮を伴う圧縮式冷凍機を例示して説明を行うが、本発明は圧縮式冷凍機に限らず、熱交換器全般に適用可能である。
【0005】
近年、冷却水系においては、節水を図るために、冷却水がより高濃縮、低流速で運転されるようになってきているが、このような運転条件下では、冷却水の蒸発に伴うイオン成分が濃縮し、スケールが析出して冷凍機内に付着することがある。また、微生物が冷却水中で繁殖し、スライムが冷凍機内に付着することもある。
【0006】
このようなスケールやスライム等の汚れの付着により、被冷却体から冷却水への伝熱が阻害される。これにより、凝縮器においては、被冷却体凝縮量が減少する、圧力が上昇する、被冷却体温度が上昇し、圧縮機の負荷が上昇し、高圧カット(一定以上で圧縮機が停止する。)に到る、等の事態が生じることがある。また、冷凍能力が低下し、消費電力量が増加するため、エネルギー効率が低下する。
【0007】
このため、冷凍機においては、汚れの付着状況を正確に推定し、その状況に応じて、冷却水にスケール洗浄剤やスライム洗浄剤を適切に添加して、洗浄を行なう必要がある。
【0008】
特許文献1の通り、冷凍機の熱交換効率を知る指標として、U値(総括伝熱係数)や汚れ係数があるが、計算が煩雑である。また、単位が[℃]ではなく、これらの値のみから、直ちに高圧カットに到るか否かを判断することは難しい。更に、この判断を行うためには、汚れが付着していない正常な状態での計測値が必要となる。
【0009】
このため、特許文献2に記載の通り、実際には、下記式で求められるLTD(Leaving Temperature Difference)やATD(Approach Temperature Difference)が用いられている。
【0010】
LTD=被冷却体の冷却後の温度−冷却水出口温度
ATD=被冷却体の冷却後の温度−冷却水入口温度
この被冷却体の冷却後の温度は、被冷却体の熱交換器出口温度として測定することができる。
【0011】
一般に、圧縮式冷凍機では、熱交換が不十分になると被冷却体の冷却後の温度(この場合凝縮温度)が上昇し、一定レベルを超えると高圧カットを引き起こし、稼働不能となるため、LTD,ATDで状況を判断することが可能である。即ち、上記2式から、ATD=LTD+(冷却水出口温度−冷却水入口温度)の関係式が得られ、これから求められるATD(又はLTD)は温度を単位とするため、この温度と既知の被冷却体凝縮温度とを比較することにより、高圧カットが生じるか否かを直ちに判断することができる。
【0012】
なお、このATD,LTDは、汚れの他に負荷変動の影響を強く受けるところから、特許文献2には、このLTD,ATDを補正し、補正LTD値又は補正ATD値と基準値とを比較して熱交換器の汚れを評価することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2003−322494
【特許文献2】特開平7−218188
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
熱交換器の汚れ状態を推定する指標値としてLTD,ATDおよび補正LTD、補正ATDを用いる方法では、温度計の取り付け位置や冷却機械の仕様・型式等で絶対数値が影響を受けるため、汚れを評価するには、長期的にLTD,ATDおよび補正LTD、補正ATDを収集・蓄積し、その増加傾向による、汚れ指標を把握する必要がある。そのため、汚れの増加傾向を把握するためには少なくとも2週間程度の期間が必要で、その期間短縮が求められていた。
【0015】
また、従来は、冷凍機の発停や負荷変動を考慮することなく汚れ状態を推定していたため、冷凍機の発停や負荷変動に起因したLTD、ATD等の変動と汚れによるLTD、ATD等の変動とがデータに混在することになり、汚れ判断の誤差が大きくなっていた。
【0016】
本発明は、冷凍システムの冷却水ラインの汚れを高精度に求めることができる汚れ評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明(請求項1)の冷却水ラインの汚れ評価方法は、凝縮器及び蒸発器を備えた冷凍システムにおける汚れ評価方法であって、該凝縮器に冷却水を循環流通させる冷却水ラインの汚れを評価する方法において、該凝縮器のLTDを計測し、
蒸発器のブライン入口温度T1及びブライン出口温度T2を計測し、ブライン出口温度T2が所定温度以下であり、かつブライン入口温度T1とブライン出口温度T2との差(T1−T2)と定格ブライン温度差との比(T1−T2)/(定格ブライン温度差)が所定値以上である場合のLTDを抽出し、抽出したLTDがLTD−時間グラフにおいて連続するように非抽出時のデータをカットしてプロットを連続させてLTD−時間グラフを作成し、このグラフから前記冷却水ラインの汚れを評価することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
凝縮器の冷却水ラインには冷却水が通水されており、この冷却水は該ラインに設けられた冷却塔などによって冷却される。この冷却水ラインの汚れが増加してくると、凝縮器のLTD(後述のT
5−T
4)が増大するのでLTDは汚れの指標値となる。
【0020】
ところが、冷凍機は発停(スタート・ストップ)するので、スタート直後の非定常状態にあるときには、LTDと冷却水ラインの汚れとの関連が小さくなっている。また、負荷が小さいときには、熱交換が安定しないので、LTDと冷却水ラインの汚れとの相関性が低くなっている。そこで、本発明では、該蒸発器又は凝縮器の負荷が所定値以上の場合であるか、又は該冷凍機が定常稼動している場合のデータに基づいて冷却水ラインの汚れ状態を評価する。
【0021】
本発明によれば、次の作用効果が奏される。
(1) 冷凍機が運転され、かつ、熱交換が安定して行われている時点でのLTDに基づくことにより、冷凍機熱交換器の熱交換効率の正確な評価が行える。
(2) 季節によって異なる運転負荷に対応できる。
(3) LTDのトレンドが理解しやすくできる。
(4) LTDの変化が負荷の変化によるものか、効率の変化によるものか判断できる。
(5) 冷媒温度が上昇するとLTDが上昇するが、LTDの上昇はファウリングに起因するので上昇速度は極めて低速である。LTDの上昇が急速な場合は機械のトラブルにより冷媒温度のみが急速に上昇していると判断できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0024】
図1はターボ圧縮式冷凍システムの一例を示すフロー図である。冷凍機1は、ターボ式圧縮機2によって媒体(例えばHFC(ハイドロフルオロカーボン)系、HCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)系、CFC(クロロフルオロカーボン)系)を圧縮し、凝縮器3に導き、凝縮させる。凝縮器3の伝熱管(冷却コイル)3aには、冷却塔6で冷却された冷却水がポンプ7を介して循環通水される。凝縮器3の媒体出口温度T
5と冷却水出口温度T
4との差T
5−T
4がLTDである。
【0025】
凝縮した液は、膨張弁4を介して蒸発器5に導入され、蒸発して断熱膨張し、伝熱コイル5a内を流れる冷媒(この実施の形態では水)を冷却する。蒸気は圧縮機2に送られ、再び圧縮される。伝熱コイル5aには、負荷体9で熱交換器して昇温したブライン(例えば水)がポンプ8を介して通液され、冷却された冷ブラインが負荷体9に循環通液される。伝熱管3a、冷却塔6、ポンプ7、及び配管類によって冷却水ライン(ブラインライン)が構成されている。
【0026】
蒸発器5のブライン入口温度T
1とブライン出口温度T
2との差と蒸発器5の定格ブライン温度差との比すなわち(T
1−T
2)/(定格ブライン温度差)がブライン負荷である。
【0027】
図3に、このシステムのLTDの一例を示す。
図3の通り、システムの負荷変動によってLTDが大きくばらつく。そこで、この実施の形態では、ブライン出口温度T
2が所定値以下であり、かつブライン負荷が所定値以上である場合のLTDを抽出する。このようにデータを抽出することにより、システムの発停や負荷変動によるLTDが乱れたときのデータを取り除き、LTDによる冷却水ラインの汚れ評価精度を高めることができる。
【0028】
なお、本発明では、LTDデータの抽出(フィルタリング)を次の(1)〜(4)のいずれかの方式によって行ってもよい。
(1) 上記凝縮器3の冷却水入口温度T
3と出口温度T
4との差T
4−T
3が一定値以上、望ましくは定格の冷却水入口温度と出口温度との差がN%以上(N%は好ましくは60%以上より好ましくは80%以上)であるときのLTDを抽出する。なお、T
4−T
3は熱交換の安定性の判断の指標値となる。一般に、負荷が高いほど熱交換は安定する。
(2) ブライン出口温度T
2が所定値以下のときのLTDを抽出する。ブライン出口温度は、冷凍機の運転/停止の指標値となる。冷凍機が定常運転されているときには、ブライン出口温度は一般に低くなる。
(3) 上記圧縮機2の電流値又は電力値が定格電流値又は定格電力値のC%以上(C%は好ましくは60%以上より好ましくは80%以上)であるときのLTDを抽出する。この電流値又は電力値は、冷凍機の運転/停止の指標値であり、定常運転中には、所定値以上となる。
(4) 凝縮器3に流入する媒体の温度T
6(又は媒体の圧力)が所定値以上であるときのLTDを抽出する。この温度又は圧力は運転/停止の指標値であり、定常運転中には所定値以上となる。
【0029】
上記説明は圧縮式冷凍機に関するものであるが、ガス、燃料油や蒸気などを熱源とした再生器を有する吸収式冷凍システムの場合にも本発明を適用できる。
【0030】
上記のうちのいずれの抽出方式を採用するか、また上記の所定値をどのような値とするかは、オペレータの経験及び試行によって定めるのが好ましい。
【0031】
なお、これまでに述べた手順を行う具体的方法として、
図2に示すシステムで行うことが好ましい。
【0032】
図2の通り、温度計測手段で計測した温度データを温度データ蓄積手段に蓄積すると共に、上記のいずれの抽出方式とするか、また所定値をどのような値にするかについてフィルタリング(抽出)規則入力手段からフィルタリング規則記憶手段に入力する。蓄積した温度データから、抽出条件に適うものをフィルタリング手段で抽出し、LTDを算出手段で算出し、提示手段で提示する。
【0033】
データ蓄積方法としては、市販のデータロガー装置を適用してもよいが、収集したデータをインターネット経由でサーバーに蓄積し、インターネット経由でデータ確認できる方式を採用してもよい。この方式を用いることにより、現場から離れている場所にいても現場の状況を確認することが可能である。
【実施例】
【0034】
図1に示す圧縮式冷凍機の実機を夏期(7月13日〜9月11日)の間運転し、LTDを測定した。結果を
図3に示す。
図3の通り冷凍機の発停によりLTDが−7〜+3℃の範囲にばらついている。そこで、ブライン温度11.5℃以下、ブライン負荷0.6以上のときのLTDのみを抽出して
図4に示した。また、抽出したLTD値が、連続するように非抽出時のデータをカットしてプロットを連続させた場合を
図5に示す。
図5によれば、発停によるデータ乱れを除去したLTD値の変動を明確に知ることができる。
【0035】
図3,
図5を対比すると、停止時や制御過渡期(例えば起動直後)にあるデータを含む
図3の場合、LTDの平均値は0.6℃となる。一方、稼働時かつ熱交換効率が安定しているときのデータを抽出した
図5ではLTDの平均値が2.9℃となっており、
図5の方が実態に合っていることが分かる。
【0036】
なお、この実機における別の時期に採ったデータを同様に抽出処理し、ブライン負荷データを加えて表示したグラフを
図6に示す。
図6の通り、LTDが負荷に応じて変化することが明らかである。
【符号の説明】
【0037】
1 冷凍機
2 圧縮機
3 凝縮器
4 膨張弁
5 蒸発器