【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、インナーロータは、モータの回転軸または各機器の駆動軸となる回転シャフトに焼嵌めされて固定されることが多い。この焼嵌めは、インナーロータを高温(通常は300〜500℃)に加熱してなされる。この加熱の影響を受けて、インナーロータに内包されている永久磁石は磁力を低下させる(つまり熱減磁を生じる)。このため、これまでの永久磁石はその熱減磁を見込んで設計されており、その分、永久磁石ひいてはIPMモータの大型化、稀少な希土類元素の使用量増加を招来していた。
【0007】
このような観点から、インナーロータの回転シャフトへの焼嵌め時に生じる永久磁石の熱減磁を抑制する提案が多くなされている。例えばこれに関連した記載が上記の特許文献2〜3にある。しかし、いずれの場合でも、永久磁石(焼結磁石またはボンド磁石)を内包したインナーロータを加熱して回転シャフトへ焼嵌めをしていることに変わりなく、多かれ少なかれ、焼嵌め時に永久磁石の熱減磁が生じる。
【0008】
ここで、回転シャフトへロータコアを焼嵌めした後に、焼結磁石をロータコアのスロットへ装填等することも考えられる。しかし、このような製造工程では、装填等後にリベット固定が必要になるなど、種々の製造上の問題を生じることが考えられる。
【0009】
また、焼結磁石は、作業性や取扱性等の観点から、通常、未着磁状態でインナーロータのスロットへ装填され、そのインナーロータを回転シャフトへ焼嵌めした後に着磁がなされる。この着磁は、インナーロータをステータ内に配設した後に、ステータコイルに瞬間的な大電流(パルス電流)を流すことによってなされることが多い(このような着磁を「組込み着磁」という。)。しかし、組込み着磁を行うと、着磁の際に発生する強力な磁力により、ステータコイルがインナーロータの外周面側へ吸引されて変形等を生じ得る。これを回避するには、別途、そのためだけの対策が必要となる(特許文献4参照)。
【0010】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、ロータコアを回転シャフトへ焼嵌めして固定する場合でも、内包する永久磁石に熱減磁を生じさせない内包磁石型インナーロータ(単に「インナーロータ」という。)の製造方法と、ロータコアの他に付属回転体が回転シャフトに焼嵌め等により固定された内包磁石型インナーロータの製造に適した製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、ロータコアを回転シャフトへ焼嵌めした後に、そのスロット中に磁極となる異方性ボンド磁石を充填成形することを思いついた。この着想を具現化し発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0012】
《内包磁石型インナーロータの製造方法》
(1)本発明の製造方法は、中央に設けられたシャフト穴の周囲に複数均等に配設されたスロットを有するロータコアを加熱し、該シャフト穴へ回転シャフトを嵌挿して該回転シャフトに該ロータコアを焼嵌めする焼嵌工程と、該焼嵌工程後の余熱状態にある該ロータコアのスロットへ加熱されて流動状態にあるバインダ樹脂と異方性磁石粒子との混合物である流動混合物を配向磁場中で充填する充填工程とを備え、該スロット内の流動混合物を固化させた異方性ボンド磁石を磁極とする内包磁石型インナーロータが得られることを特徴とする。
【0013】
(2)本発明の内包磁石型インナーロータ(適宜、「インナーロータ」または単に「ロータ」という。)の製造方法では、磁極となる異方性ボンド磁石の充填成形前にロータコアを回転シャフトへ焼嵌めした後に、その余熱を利用しつつロータコアのスロットへ流動混合物を配向磁場中で充填して、磁極となる異方性ボンド磁石を成形している。従って、本発明に係る異方性ボンド磁石は焼嵌め時に高温に曝されることがなく、熱減磁することがない。また、本発明の製造方法では、焼嵌め時の余熱により加熱状態にあるロータコアのスロットへ流動混合物が充填される。このため、充填時にロータコアをわざわざ加熱するまでもなく、スロット内における流動混合物の流動性を十分に確保でき、スロット内に緻密な異方性ボンド磁石を成形することができる。
【0014】
このように本発明の製造方法によれば、異方性磁石粒子の含有量に応じた磁力を発揮する異方性ボンド磁石がスロット内に形成され、インナーロータひいてはIPMモータの小型化や低コスト化を図れる。
【0015】
ちなみに、焼結磁石をスロットへ装填する従来のインナーロータの製造方法でも焼嵌めはなされる。この従来の製造方法と本発明の製造方法を比較すると、スロット内に永久磁石が配設されるときが、その焼嵌め前か焼嵌め後かで異なるものの、両製造方法は類似している工程も多い。従って本発明の製造方法を用いれば、従来の製造方法との置換や混在も行い易い。
【0016】
この点を具体例を挙げて詳細に説明すると、次の通りである。焼結磁石を用いたモータの製造工程を異方性希土類ボンド磁石を用いたモータの製造工程へ変更した場合を考えると、基本的に相違する点は、磁石の材質および形状およびロータにおけるスロットの形状、スロットへの磁石の挿入方法およびそのタイミングに留まる。その他の点、例えば、ステータや制御回路等も両モータ間で相違がなく、両モータの組付けや加工等も既設の設備で同様に行うことができる。そして焼結磁石を用いたモータを異方性ボンド磁石を用いたモータに変更することにより、上述したように工程省略と省エネルギー化等を図れる。
【0017】
そこで、例えば、現行の焼結磁石を用いたモータの製造ラインの近接スペースに、異方性希土類ボンド磁石を用いたモータの製造スペースを設けて、焼結磁石を用いたモータを製造する場合と同様に、部品等を前工程から受け入れて、加工し、後工程へ供給するゾーンを設ける。これにより、既設の焼結磁石を用いたモータラインと異方性希土類ボンド磁石を用いたモータラインを混在させることが可能となる。
【0018】
このような混流ラインの形成に必要な設備投資は、汎用の樹脂充填成形機と、製品形状に合せた磁場成形金型の準備程度である。つまり、立地場所の確保、建屋の建設、全工程を行う製造設備の新設等に大きな投資をしなければならないという、一般的に想定される状況は回避され得る。このように本発明の製造方法によれば、希土類焼結磁石を用いたモータを異方性希土類ボンド磁石を用いたモータへ切り替えても、設備投資は大幅に削減され得る。
【0019】
なお、本発明に係るインナーロータは、磁極が充填成形された異方性ボンド磁石からなるため、磁極が焼結磁石からなる従来のインナーロータよりも、スロットの形状自由度が大きく、スロット内にエアギャップ等が形成されることなく、正確な位置に磁極が配設される。この観点からも、本発明に係るインナーロータを用いれば、IPMモータの高性能化、小型化、低コスト化等の促進が図り易い。
【0020】
(3)本発明の製造方法では、焼嵌工程または充填工程におけるロータコアの温度は問わない。通常、ロータコアは焼嵌工程時に200〜500℃程度まで高温加熱されるが、充填工程時のロータコアの温度は50〜200℃さらには100〜150℃程度でよい。焼嵌め時の温度は、ロータコアと回転シャフトの締め代(インナーロータと回転シャフトの間に生じるトルク)等に応じて適宜決定され、充填時の温度はバインダ樹脂の種類、流動混合物の組成等に応じて適宜決定される。そこで本発明に係る充填工程は、緻密な異方性ボンド磁石がスロット内に効率的に形成されるように、ロータコアの温度(適宜、「コア温度」という。)を流動混合物のスロットへの充填に適した温度に調節する温度調節工程を備えると好適である。通常は、焼嵌め時の温度が充填時の温度よりもかなり高いため、温度調節工程は焼嵌め時のロータコアを充填に適切な温度まで冷却する冷却工程であると好ましい。
【0021】
本発明に係る充填工程では、配向磁場が印加されたスロットへ、異方性磁石粒子とバインダ樹脂の流動混合物が充填される。この際、各異方性磁石粒子は、その磁化容易軸が配向磁場方向に配列した状態になると共に、配向磁場の強さに応じた着磁が実質的になされた状態となる。つまり、充填工程後にスロット内に形成された異方性ボンド磁石は、樹脂が固化した後は、既に強力な磁力を発現した永久磁石となっている。このため本発明の製造方法によれば、焼結磁石を磁極とする従来の製造方法のように、スロットに磁石を挿入し、その後別途着磁工程を行う場合とは異なり、充填工程後に異方性ボンド磁石に対して着磁工程を別途行う必要がなく、製造工程の簡素化が図られる。
【0022】
但し、本発明の製造方法は着磁工程を排除するものではない。特に、異方性ボンド磁石を磁極とするインナーロータと焼結磁石を磁極とするインナーロータが、同一工場内さらには同一ライン上で混在しているような場合、本発明の製造方法の場合でも着磁工程を行うことにより両者間の工程差やインナーロータの性能差を少なくすることができて好ましいこともある。
【0023】
(4)本発明に係る焼嵌工程を行う際に必要となる具体的な加熱方法(炉内加熱、高周波加熱等)、加熱条件(加熱温度、加熱時間等)は、インナーロータの仕様に応じて適宜選択される。また充填工程についても同様であり、用いる充填成形機の種類(射出成形機、トランスファ成形機、縦型、横型、専用機、汎用機等)、射出条件(射出温度、射出圧力、射出時間)、配向磁場条件(配向強度、印加時間、印加方法等)も、流動混合物の性状やインナーロータの仕様に応じて適宜選択される。
【0024】
但し、充填工程中にスロット内の流動混合物へ印加する配向磁場の起磁源として、電磁石(電磁コイル)を用いるよりも永久磁石を用いる方が、省エネルギー化を図れるのみならず、成形金型または成形装置のコンパクト化や簡素化を図れ、例えば汎用射出成形機等の利用も容易となり、本発明の製造方法の実施が容易となる。
【0025】
そこで本発明に係る充填工程は、ロータコアを収容し得る収容部と収容部の周囲に複数均等に配設されてスロットへ印加する配向磁場を誘導する配向ヨークと配向ヨークの周囲に配設された配向磁場源である永久磁石とを備えた配向金型内に前記ロータコアを配置してなされる工程であると好ましい。
【0026】
なお、ロータコアが焼嵌めされる回転シャフトには、IPMモータの仕様や用途等により、インナーロータ以外の付属物が固定(焼嵌めには限らない)されていることも多い。そこで本発明に係る充填工程は、ロータコア以外の付属回転体が回転シャフトに固定された状態でなされる工程でもよい。但し、付属回転体の配置や大きさ等により、充填工程を行い難い場合も生じ得る。このような場合でも、次に述べる本発明の製造装置を用いれば、例えば汎用射出成形機等を利用しつつインナーロータを製造することが可能である。
【0027】
《内包磁石型インナーロータの製造装置》
(1)本発明は、上述した製造方法としてのみならず、その製造方法の実施に好適な製造装置としても把握できる。すなわち本発明は、回転シャフトと該回転シャフトに嵌着されたシャフト穴の周囲に複数均等に配設されたスロットを有するロータコアと該回転シャフトに固定され該ロータコアの外径よりも突出した部分を有する付属回転体とからなるコア組立体を(例えば該付属回転体がある)一方から保持し得ると共に該ロータコアの該一方にある端面側を支持し得る保持金型と、該コア組立体の(例えばロータコアがある)他方から該ロータコアを収容し得る収容部と該収容部の周囲に複数均等に配設されて該スロットへ印加する配向磁場を誘導する配向ヨークと該配向ヨークの周囲に配設された配向磁場源である永久磁石とを有する配向金型と、該収容部に収容され該配向磁場が印加された該ロータコアの該他方にある端面側から該スロットへ、加熱されて流動状態にあるバインダ樹脂と異方性磁石粒子との混合物である流動混合物を充填する充填金型とを備え、該流動混合物が固化した異方性ボンド磁石を磁極とする内包磁石型インナーロータが該付属回転体を有する該回転シャフトに嵌着した状態で得られることを特徴とする内包磁石型インナーロータの製造装置としても把握できる。
【0028】
この本発明の製造装置は、さらに、前記配向金型と前記該充填金型または該配向金型と該保持金型を型締めする型締手段を備えると好ましい。
【0029】
(2)先ず、付属回転体が回転シャフトにない場合さらにいえばインナーロータ単体の場合であれば、保持金型を兼ねる配向金型の収容部に対象物を収容(配置)して、配向磁場が印加された状態のスロットへ、その一方から流動混合物を射出することは容易である。しかし、本発明に係るコア組立体の場合、付属回転体が干渉するため、従来の配向金型へロータコアを収容して配置することはできない。ここで、通常の熱可塑性樹脂による射出成形装置で行われるように、金型を径方向または放射方向に進退する部分に分割した割型を用いることも考えられる。しかし、そのような割型の使用は、強力な永久磁石を配向磁場源とする場合、割型を用いると、一回射出する毎に配向ヨークの周囲に微細な鉄粉、磁石粉等が付着し易くなり、また配向磁場等のバラツキに伴う異方性ボンド磁石の品質のバラツキ、清掃工数の増加、作業性の悪化等を招来することになる。また、開閉スペースや進退(開閉)機構等が必要となり、装置の大型化、複雑化、高コスト化等を招き好ましくない。
【0030】
これに対して本発明の製造装置では、外径の大きな付属回転体を保持金型に固定した後、その反対側(例えば上方)から配向金型を保持金型へ移動させ、配向金型内の収容部内にロータコアを収容している。そしてその状態で、ロータコアのスロットへ付属回転体の反対側(例えば上方)から流動混合物を注入して、ロータコア内に配向磁場中で充填成形された異方性ボンド磁石を形成している。このようにして本発明の製造装置によれば、インナーロータが嵌装される回転シャフトに、そのインナーロータよりも少なくとも部分的に外径方向に大きな付属回転体が固定されているコア組立体に対しても、ロータコアのスロット内に磁極となる異方性ボンド磁石を容易に充填成形できる。
【0031】
なお、本発明の製造装置を用いる場合、スロットの付属回転体側(例えば下側)にある開口端面側は、保持金型により直接的または間接的に支持されて閉塞状態となる。このため、充填された流動混合物がその開口端面側から漏出することが防止される。ちなみに、保持金型により開口端面側が間接的に支持される場合とは、スロットの軸方向端面に配設された端板等を介在させてロータコアの端面側を保持金型が支持している場合である。
【0032】
保持金型によるコア組立体の保持方法(手段)、ロータコアの端面側の支持方法(手段)、それらの駆動方法(手段)は種々考えられる。例えば、金型の駆動手段(型締手段)とは別に設けたアクチュエータ(油圧動、空圧動、電動等)により、保持治具を作動させてコア組立体を保持してもよい。また、金型の駆動または型締手段を利用してもよい。例えば、配向金型に配設したアンギュラーカムに連動するスライダを保持金型に配設し、型締時にそのスライダによってコア組立体の保持やロータコアの端面の支持等を行ってもよい。
【0033】
なお、本発明の製造装置と製造方法は密接に関連しているが、一方が他方を必須とするものではない。例えば、本発明の製造方法は、上述した配向金型を用いることが必須要件ではない。また本発明の製造装置は、ロータコアが回転シャフトに焼嵌めされたもののみを対象とするものではない。なお、本明細書でいう「嵌着」とは、焼嵌めされる場合のみならず、焼嵌めされずに圧入される場合も含む意味である。
【0034】
《その他》
(1)本明細書でいうモータには、特に断らない限り、電動機の他に発電機(ジェネレータ)も含まれる。また、本明細書でいう内包磁石型モータには、固定子に設けたコイル(電機子巻線)へ供給する交流電流の周波数に同期して回転数が変化する本来的な同期機の他、ホール素子、ロータリエンコーダ、レゾルバ等の検出手段により検出されたロータの位置に基づいて固定子側に回転磁界を生じさせるブラシレス直流(DC)モータ等も含まれる。ちなみに、ブラシレスDCモータは、インバータに供給する直流電圧を変化させて回転数を変化させ得るので、通常の直流モータと同様に制御性に優れる。
【0035】
(2)本明細書でいう「均等に配設」とは、周方向に配設されるスロット等のピッチが均等という意味である。また、本明細書では、適宜、ロータの回転中心に近い側を「内周側」といい、逆にその回転中心から遠い側を「外周側」という。
【0036】
(3)特に断らない限り本明細書でいう「x〜y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を、新たな下限値または上限値として「a〜b」のような範囲を新設し得る。