特許第5900663号(P5900663)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5900663
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月6日
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/28 20060101AFI20160324BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20160324BHJP
   C08J 5/24 20060101ALI20160324BHJP
【FI】
   B32B5/28 Z
   C08J5/04CER
   C08J5/24CEZ
【請求項の数】15
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2014-560155(P2014-560155)
(86)(22)【出願日】2014年12月2日
(86)【国際出願番号】JP2014081885
(87)【国際公開番号】WO2015083707
(87)【国際公開日】20150611
【審査請求日】2014年12月12日
(31)【優先権主張番号】特願2013-250253(P2013-250253)
(32)【優先日】2013年12月3日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱レイヨン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100108578
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 詔男
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(72)【発明者】
【氏名】長坂 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 隼人
(72)【発明者】
【氏名】石川 健
【審査官】 岩本 昌大
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−207545(JP,A)
【文献】 特開2010−018724(JP,A)
【文献】 特開2000−108236(JP,A)
【文献】 特開平03−138146(JP,A)
【文献】 特開平07−156341(JP,A)
【文献】 特開平07−196822(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
B29B 11/16,15/08−15/14
C08J 5/04− 5/10, 5/24
B29C 39/00−39/24,
39/38−39/44,
43/00−43/34,
43/44−43/48,
43/52−43/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)層と下記(B)層が積層されており、前記(A)層の厚みの総和を前記(B)層の厚みの総和で除した値が0.5以上3.0以下であることを特徴とする繊維強化樹脂積層体。
(A)層:強化繊維に樹脂a又は樹脂組成物aを含浸したプリプレグからなる積層体であって、前記の強化繊維の体積含有率Vfの2乗と平均繊維長Laの積が2.0より大きく15以下である。
(B)層:樹脂組成物b、並びに樹脂c及び充填物を含む充填物含有樹脂組成物からなる群から選択される少なくとも一種の組成物からなるシートであって、前記充填物の体積含有率Vfの2乗と充填物の最大長さの平均値Lbの積が2.0以下である。
【請求項2】
下記式(1)を満たすことを特徴とする請求項1に記載の繊維強化樹脂積層体。
0.85≦A1/B1≦4.0・・・式(1)
A1:前記(A)層を形成する樹脂aの軟化点もしくは融点+40℃、100rad/secにおける前記(A)層の複素粘性率の絶対値
B1:前記(A)層を形成する樹脂aの軟化点もしくは融点+40℃、100rad/secにおける前記(B)層の複素粘性率の絶対値
【請求項3】
前記(A)層の厚みの総和を前記(B)層の厚みの総和で除した値が1.0以上2.0以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の繊維強化樹脂積層体。
【請求項4】
強化繊維に樹脂a’又は樹脂a’を含む樹脂組成物a’を含浸したプリプレグからなる積層体である(A)層と;樹脂b’を含む樹脂組成物b’、並びに樹脂c’及び充填物を含む充填物樹脂組成物からなる群から選択される少なくとも一種の組成物からなるシートである(B)層と;が積層されており、下記式(1)を満たし、
前記(A)層の厚みの総和を前記(B)層の厚みの総和で除した値が0.5以上3.0以下であることを特徴とする繊維強化樹脂積層体。
0.85≦A1/B1≦4.0 ・・・式(1)
A1:前記(A)層を形成する樹脂a’の軟化点もしくは融点+40℃、100rad/secにおける前記(A)層の複素粘性率の絶対値
B1:前記(A)層を形成する樹脂a’の軟化点もしくは融点+40℃、100rad/secにおける前記(B)層の複素粘性率の絶対値
【請求項5】
前記(A)層および/または前記(B)層の構成樹脂が、熱可塑性樹脂であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の繊維強化樹脂積層体。
【請求項6】
前記(A)層を形成する前記プリプレグが、前記強化繊維の長さ方向を横切る方向に前記強化繊維を切断する深さの切込を有することを特徴とする請求項1から5のいずれか一項に記載の繊維強化樹脂積層体。
【請求項7】
前記(A)層を形成する前記プリプレグの前記切込が直線状であって、前記切込と前記強化繊維の長さ方向のなす角度が30°以上60°以下であり、前記プリプレグ1mあたりの前記切込の長さの総和が20m以上、150m以下であることを特徴とする請求項6に記載の繊維強化樹脂積層体。
【請求項8】
前記(A)層の前記強化繊維の平均繊維長が10mm以上50mm以下であることを特徴とする請求項1から7のいずれか一項に記載繊維強化樹脂積層体。
【請求項9】
前記(A)層ともう一つの(A)層の間に前記(B)層が積層されている請求項1から8のいずれか一項に記載の繊維強化樹脂積層体。
【請求項10】
前記(A)層及び前記(B)層を、前記(A)層を形成する樹脂及び前記(B)層を形成する前記樹脂組成物の軟化点もしくは融点以上に加熱することにより融着して得られる請求項1から9のいずれか一項に記載の繊維強化樹脂積層体。
【請求項11】
前記(A)層の前記強化繊維の体積含有率が20%以上60%以下であることを特徴とする請求項1から10のいずれか一項に記載の繊維強化樹脂積層体。
【請求項12】
前記(A)層の前記強化繊維が炭素繊維であることを特徴とする請求項1から11のいずれか一項に記載の繊維強化樹脂積層体。
【請求項13】
前記(B)層の前記充填物がリサイクル材であることを特徴とする請求項1から12のいずれか一項に記載の繊維強化樹脂積層体。
【請求項14】
前記(A)層の前記強化繊維の平均単繊維繊度が0.5dtex以上、2.4dtex以下の炭素繊維である請求項1〜13のいずれか一項に記載の繊維強化樹脂積層体。
【請求項15】
前記(A)層の前記強化繊維に用いられる繊維束のフィラメント数が3,000本以上100,000本以下である請求項1〜14のいずれか一項に記載の繊維強化樹脂積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維強化樹脂に関し、成形性と力学特性のバランスに優れ、しかも安価な繊維強化樹脂積層体に関する。さらに詳しくは、スタンピング成形時の複雑な形状への賦形性に優れ、短時間で成形可能であり、構造部材として機械強度を維持し、例えば航空機部材、自動車部材、スポーツ用具等に好適に用いられる繊維強化樹脂積層体に関する。
本願は、2013年12月3日に、日本に出願された特願2013−250253号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維と熱可塑性樹脂からなる炭素繊維強化熱可塑性樹脂は、比強度、比剛性に優れているため、電気・電子用途、土木・建築用途、自動車用途、航空機用途等に広く用いられている。繊維強化熱可塑性樹脂の成形方法としては、プリプレグと称される連続した強化繊維に熱可塑性樹脂を含浸せしめた中間基材を積層し、プレス等で加熱加圧することにより目的の形状に賦形するスタンピング成形が最も一般的に行われている。これにより得られた繊維強化樹脂の成形体は、連続した強化繊維を用いているので優れた力学物性を有する。また連続した強化繊維は規則的に配列することで、必要とする力学物性に設計することが可能であり、力学物性のばらつきも小さい。しかしながら、連続した強化繊維であるゆえに流動性が低いため、3次元形状等の複雑な形状を形成することは難しく、主として平面形状に近い部材に限られ、更なる改良が求められている。
【0003】
また、近年では生産効率の向上を目的に強化繊維を直接成形機のスクリュー部に送り込み、繊維の切断と分散を同時に行い、その後連続して射出成形や押出成形を行うLFT−D成形も行われている。この方法によると強化繊維は適当な長さに切断されているため流動が容易であり3次元形状等の複雑な形状にも追従可能となる。しかしながら、LFT−Dはその切断及び分散工程において繊維長のムラや繊維分布のムラを生じてしまうために、力学物性が低下し、あるいはその値のばらつきが大きくなってしまうという問題がある。
【0004】
上述のような材料の欠点を埋めるべく、連続繊維と樹脂からなるプリプレグに切込を入れることにより、成形時には優れた賦形性を示し、繊維強化樹脂の成形体としたときに優れた力学物性を発現するとされる基材が開示されている(例えば、特許文献1,2,3)。しかしながらLFT−Dと比較すると力学特性は高く、かつそのばらつきが小さくなるものの、構造材として適用するには十分な強度ではない。
又、特許文献3に関しては、構造材に適する十分な強度を有するが、成形サイクルが長く、量産性に問題があった。
【0005】
また切込形状を最適化することにより上述の強度やそのばらつきを改良する方法が示されている(例えば,特許文献4,5,6)。しかしながらこの方法によると力学特性とばらつきの改良はみられるが、スタンピング成形性が不十分であるため、リブ、ボス等の3次元形状への賦形性に問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63−247012号公報
【特許文献2】特開昭63−267523号公報
【特許文献3】特開2010−18724号公報
【特許文献4】特開2008−207544号公報
【特許文献5】特開2008−207545号公報
【特許文献6】特開2009−286817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような従来技術に伴う問題点を解決しようとするものであって、構造材に適用可能な優れた力学特性を有しながら、力学特性のばらつきが小さく、さらに複雑な形状への賦形性に優れ、短時間で成形可能でしかも安価な繊維強化樹脂積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、優れた力学特性を持つ(A)層と優れたスタンピング成形性を持つ(B)層を交互に重ねた少なくとも2層構造を有する積層体を用いることにより、成形性と力学特性のバランスに優れてしかも安価な繊維強化樹脂積層体が得られることを見出した。
【0009】
本発明の要旨は、以下の[1]〜[14]に存する。
[1] 下記(A)層と下記(B)層が積層されており、前記(A)層の厚みの総和を前記(B)層の厚みの総和で除した値が0.5以上3.0以下であることを特徴とする繊維強化樹脂積層体。
(A)層:強化繊維に樹脂a又は樹脂組成物aを含浸したプリプレグからなる積層体であって、前記の強化繊維の体積含有率Vfの2乗と平均繊維長Laの積が2.0より大きく15以下である。
(B)層:樹脂組成物b、並びに樹脂c及び充填物を含む充填物含有樹脂組成物からなる群から選択される少なくとも一種の組成物からなるシートであって、前記充填物の体積含有率Vfの2乗と充填物の最大長さの平均値Lbの積が2.0以下である。
【0010】
[2] 下記式(1)を満たすことを特徴とする[1]に記載の繊維強化樹脂積層体。
0.85≦A1/B1≦4.0・・・式(1)
A1:前記(A)層を形成する樹脂aの軟化点もしくは融点+40℃、100rad/secにおける前記(A)層の複素粘性率の絶対値
B1:前記(A)層を形成する樹脂aの軟化点もしくは融点+40℃、100rad/secにおける前記(B)層の複素粘性率の絶対値
【0011】
[3] 前記(A)層の厚みの総和を前記(B)層の厚みの総和で除した値が1.0以上2.0以下であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の繊維強化樹脂積層体。
【0012】
[4] 強化繊維に樹脂a’又は樹脂a’を含む樹脂組成物a’を含浸したプリプレグからなる積層体である(A)層と;樹脂b’を含む樹脂組成物b’、並びに樹脂c’及び充填物を含む充填物樹脂組成物からなる群から選択される少なくとも一種の組成物からなるシートである(B)層と;が積層されており、下記式(1)を満たすことを特徴とする繊維強化樹脂積層体。
0.85≦A1/B1≦4.0 ・・・式(1)
A1:前記(A)層を形成する樹脂a’の軟化点もしくは融点+40℃、100rad/secにおける前記(A)層の複素粘性率の絶対値
B1:前記(A)層を形成する樹脂a’の軟化点もしくは融点+40℃、100rad/secにおける前記(B)層の複素粘性率の絶対値
【0013】
[5] 前記(A)層および/または前記(B)層の構成樹脂が、熱可塑性樹脂であることを特徴とする[1]から[4]のいずれか一項に記載の繊維強化樹脂積層体。
【0014】
[6] 前記(A)層を形成する前記プリプレグが、前記強化繊維の長さ方向を横切る方向に前記強化繊維を切断する深さの切込を有することを特徴とする[1]から[5]のいずれか一項に記載の繊維強化樹脂積層体。
【0015】
[7] 前記(A)層を形成する前記プリプレグの前記切込が直線状であって、前記切込と前記強化繊維の長さ方向のなす角度が30°以上60°以下であり、前記プリプレグ1mあたりの前記切込の長さの総和が20m以上、150m以下であることを特徴とする[6]に記載の繊維強化樹脂積層体。
【0016】
[8] 前記(A)層の前記強化繊維の平均繊維長が10mm以上50mm以下であることを特徴とする[1]から[7]のいずれか一項に記載に繊維強化樹脂積層体。
【0017】
[9] 前記(A)層ともう一つの(A)層の間に前記(B)層が積層されている[1]から[8]のいずれか一項に記載の繊維強化樹脂積層体。
【0018】
[10] 前記(A)層及び前記(B)層を、前記(A)層を形成する樹脂及び前記(B)層を形成する前記樹脂組成物の軟化点もしくは融点以上に加熱することにより融着して得られる[1]から[9]のいずれか一項に記載の繊維強化樹脂積層体。
【0019】
[11]前記(A)層の前記強化繊維の体積含有率が20%以上60%以下であることを特徴とする[1]から[10]のいずれか一項に記載の繊維強化樹脂積層体。
【0020】
[12]前記(A)層の前記強化繊維が炭素繊維であることを特徴とする[1]から[11]のいずれか一項に記載の繊維強化樹脂積層体。
【0021】
[13] 前記(B)層の前記充填物がリサイクル材であることを特徴とする[1]から[12]のいずれか一項に記載の繊維強化樹脂積層体。
【0022】
[14] 前記(A)層の前記強化繊維の平均単繊維繊度が0.5dtex以上、2.4dtex以下の炭素繊維である[1]〜[13]のいずれか一項に記載の繊維強化樹脂積層体。
【0023】
[15] 前記(A)層の前記強化繊維に用いられる繊維束のフィラメント数が3,000本以上100,000本以下である上記[1]〜[14]のいずれか一項に記載の繊維強化樹脂積層体。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、構造材に適用可能な優れた力学特性を有しながら、力学特性のばらつきが小さく、さらに複雑な形状への賦形性に優れ、短時間で成形可能でしかも安価な繊維強化樹脂積層体を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施例で用いた金型の斜視図である。
図2】(A)層の厚みの総和を(B)層の厚みの総和で除した値が3.0超である繊維強化樹脂積層体の成形品の斜視図である。
図3】(A)層の厚みの総和を(B)層の厚みの総和で除した値が0.5以上3.0以下である繊維強化樹脂積層体の成形品の斜視図である。
図4】(A)層の複素粘性率を(B)層の複素粘性率で除した値が、4.0超である繊維強化樹脂積層体の成形品の斜視図である。
図5】(A)層の複素粘性率を(B)層の複素粘性率で除した値が、0.85未満である繊維強化樹脂積層体の成形品の斜視図である。
図6】(A)層の複素粘性率を(B)層の複素粘性率で除した値が、0.85以上4.0以下である繊維強化樹脂積層体の成形品の斜視図である。
図7】本発明で用いるプリプレグの一例を示す図である。
図8】実施例1で実施した成形品の写真である。
図9】実施例2で実施した成形品の写真である。
図10】実施例3で実施した成形品の写真である。
図11】実施例4で実施した成形品の写真である。
図12】実施例5で実施した成形品の写真である。
図13】実施例6で実施した成形品の写真である。
図14】比較例1で実施した成形品の写真である。
図15】比較例2で実施した成形品の写真である。
図16】比較例3で実施した成形品の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の繊維強化樹脂積層体及びその製造方法について詳細に説明する。
【0027】
本発明の第一の態様は、下記(A)層と下記(B)層が積層されており、前記(A)層の厚みの総和を前記(B)層の厚みの総和で除した値が0.5以上3.0以下であることを特徴とする繊維強化樹脂積層体である。
(A)層:強化繊維に樹脂a又は樹脂組成物aを含浸したプリプレグからなる積層体であって、前記の強化繊維の体積含有率Vfの2乗と平均繊維長Laの積が2.0より大きく15以下である。
(B)層:樹脂組成物b、並びに樹脂c及び充填物含有樹脂組成物からなる群から選択される少なくとも一種の組成物からなるシートであって、前記充填物の体積含有率Vfの2乗と充填物の最大長さの平均値Lbの積が2.0以下である。
なお、ここで体積含有率Vfの2乗とは、体積百分率で表される体積含有率Vfについて、Vf(%)×1/100を2乗した値を意味する。かかる体積含有率の値は、例えば水中置換法により得られたプリプレグの密度ρcと、同様の方法で得られた繊維の密度ρf、またプリプレグの質量をW、プリプレグを燃焼し樹脂を焼失させた後の重量W1より、以下の式を用いて求めるものを用いる。
Wf=(W−W1)×100/W 式(1)
Vf=Wf×ρc/ρf 式(2)
【0028】
((A)層)
本発明の積層体に用いられる(A)層は、強化繊維に樹脂a又は性樹脂組成物aを含浸したプリプレグからなる積層体であって、前記強化繊維の体積含有率Vfの2乗と平均繊維長Lammの積が2.0超であり15以下である。より好ましくは3〜7である。
本発明の積層体に用いることができる(A)層には、強化繊維に樹脂a又は樹脂組成物aを含浸したプリプレグからなる積層体を用いることが必要である。前記プリプレグに含まれる強化繊維(強化繊維の体積含有率Vf)は、プリプレグの体積に対し、20〜60体積%が好ましく、さらに好ましくは30〜50体積%である。繊維体積含有率は式(1)及び(2)の手順で測定することができる。前記プリプレグの厚さは、特に制限は無いが、賦形性と強度向上効果を兼ね備える観点から、50〜300μmが好ましく、さらに好ましくは100〜200μmである。プリプレグの厚さはプリプレグの任意の複数の部位をマイクロメーターで測定した際の平均値を用いてで測定することができる。プリプレグからなる積層体の厚さは、1〜4mmであることが好ましく、1.5〜3.0mmであることがより好ましい。
(A)層の曲げ弾性率は、通常5〜100GPaであり、好ましくは10〜50GPaである。曲げ弾性率が高すぎるとスタンピング成形性が低下し、低すぎると力学特性が低下する。かかる曲げ弾性率は、JIS K7074に基づいて測定することができる。すなわち3点曲げ試験は、25mm幅、100mm長さの試験片を、標点間距離80mm、R2mmの支持の上に置き、R5mmの圧子を用いて、クロスヘッド速度5mm/minで行うことができる。
【0029】
(樹脂)
本発明に用いられる(A)層を構成する樹脂aとしては、例えば、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂が挙げられる。成形サイクルやハンドリングの観点から、熱可塑性樹脂が好ましい。熱硬化性樹脂としては、例えば、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、フェノキシ樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、マレイミド樹脂、シアネート樹脂などの熱硬化性樹脂等が挙げれらる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリスチレン、(メタ)アクリル酸エステル/スチレン共重合体、アクリロニトリル/スチレン共重合体、スチレン/無水マレイン酸共重合体、ABS、ASA、AES等のスチレン系樹脂;ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリフェニレンエーテル系樹脂;ポリオキシメチレン系樹脂;ポリスルフォン系樹脂;ポリアリレート系樹脂;ポリフェニレンスルフィド系樹脂;熱可塑性ポリウレタン系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ−4−メチルペンテン、エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/ブテン共重合体等のポリオレフィン系樹脂;エチレン/酢酸ビニル共重合体、エチレン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン/無水マレイン酸共重合体、エチレン/アクリル酸共重合体等のα−オレフィンと各種単量体との共重合体類;ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、脂肪族グリコール/脂肪族ジカルボン酸共重合体等の脂肪族ポリエステル系樹脂;生分解性セルロース、ポリペプチド、ポリビニルアルコール、澱粉、カラギーナン、キチン・キトサン質等の生分解性樹脂が挙げられる。強度と加工性の観点から、結晶化度が比較的高い結晶性樹脂が好ましく、さらに好ましくはポリアミド系樹脂、及びポリオレフィン系樹脂である。ポリアミド系樹脂の具体例としては、ナイロン6、ナイロン66等が挙げられ、なかでもナイロン6が好ましい。ポリオレフィン系樹脂としては、なかでもポリプロピレン(酸変性ポリプロピレン)が好ましい。
【0030】
(樹脂添加剤)
樹脂aに加えて、さらに必要に応じて、種々の樹脂添加剤を配合して、樹脂組成物aとする事ができる。樹脂添加剤としては、例えば着色剤、酸化防止剤、金属不活性剤、カーボンブラック、造核剤、離型剤、滑剤、帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、耐衝撃性改質剤、溶融張力向上剤、難燃剤等が挙げられる。
【0031】
(A)層を構成するマトリクス樹脂(樹脂a)の粘度は、通常0.01〜1000Pa・sであり、好ましくは0.1〜500Pa・sである。粘度が高すぎるとスタンピング成形後の成形品の炭素繊維の密度分布が不均一となり、構造体に必要な十分な力学特性が得られない。また低すぎると機械物性が低下する。かかる粘度は、回転式レオメーター(ARES:ティー・エー・インスツルメント社製)を用いて、パラレルプレート法により測定した値である。より詳細には、回転プレート直径25mm、角周波数100rad/sec、軟化点もしくは融点+40℃の条件にて動的粘弾性を測定する。
【0032】
(強化繊維)
本発明の繊維強化樹脂積層体に含まれるプリプレグに用いることができる強化繊維としては、強化繊維の種類は特に限定されず、無機繊維、有機繊維、金属繊維、又はこれらを組み合わせたハイブリッド構成の強化繊維が使用できる。無機繊維としては、炭素繊維、黒鉛繊維、炭化珪素繊維、アルミナ繊維、タングステンカーバイド繊維、ボロン繊維、ガラス繊維などが挙げられる。有機繊維としては、アラミド繊維、高密度ポリエチレン繊維、その他一般のナイロン繊維、ポリエステルなどが挙げられる。金属繊維としては、ステンレス、鉄等の繊維を挙げられ、また金属を被覆した炭素繊維でもよい。これらの中では、最終成形物の強度等の機械特性を考慮すると、炭素繊維が好ましい。また、強化繊維の単繊維の平均繊維直径は、1〜50μmであることが好ましく、5〜20μmであることがさらに好ましい。ここで直径とは、強化繊維の単繊維を長さ方向に対して垂直な方向に切断した時の、断面の直径を意味する。平均繊維直径は、以下の方法で測定することができる。
<平均繊維直径の測定>
サンプルについて5枚のSEM写真から任意に20個、ただし、1枚の写真から3個以上の単繊維断面を選んで、画像解析ソフトウェア(日本ロ―パー(株)製、製品名:Image― Pro PLUS)を用いて繊維断面の外形をトレースし、断面の長径(最大フェレ径)dを計測する。選んだ単繊維断面全ての長径dの平均を、炭素繊維束の単繊維の直径Diとする。
強化繊維に用いられる繊維束のフィラメント数は、3,000〜100,000本が好ましく、3,000〜60,000本であることがより好ましい。
【0033】
(炭素繊維)
炭素繊維には特に制限は無く、ポリアクリロニトリル(PAN)系、石油・石炭ピッチ系、レーヨン系、リグニン系など、何れの炭素繊維も使用することができる。特にPANを原料としたPAN系炭素繊維が、工業規模における生産性及び機械的特性に優れており好ましい。これらは市販品として入手できる。
炭素繊維束としては、総繊度は好ましくは200〜7000テックスである。フィラメント数は、1,000〜100,000本が好ましく、3,000〜60,000本であることがさらに好ましい。そして、炭素繊維束としての強度は、1〜10GPaが好ましく、5〜8GPaであることがさらに好ましい。また、弾性率は100〜1,000GPaが好ましく、200〜600GPaであることがさらに好ましい。
なお、炭素繊維束の強度及び弾性率とは、JIS−R7608の方法で測定される強度と、弾性率とを言う。具体的には、以下の手順で測定することができる。
樹脂処方としては、 3,4-エポキシシクロヘキシルメチル 3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシレート/3フッ化ホウ素モノエチルアミン/エタノール=100/3/4(質量部)を用い、硬化条件としては、常圧、130℃、30分を用いる。炭素繊維束のストランド10本を測定し、その平均値をストランド引張強度およびストランド弾性率とする。
また、本発明における(A)層の強化繊維の繊維束の平均単繊維繊度は、特に制限はないが、0.5〜2.4dtexであることが好ましい。より好ましくは 0.5〜1.5dtexである。なお、平均単繊維繊度は10,000mあたりの繊維の質量として定義される値であり、一定長さの繊維束の質量を繊維数で除し、長さ10,000mに換算することにより計測される。
【0034】
本発明の積層体に用いることができプリプレグに用いことができる炭素繊維は、表面処理、特に電解処理されたものが好ましい。表面処理剤としては、例えば、エポキシ系サイジング剤、ウレタン系サイジング剤、ナイロン系サイジング剤、オレフィン系サイジング剤等が挙げられる。表面処理することによって、引張り強度、曲げ強度が向上するという利点が得られる。プリプレグの製造方法としては、一方向に引き揃えられた強化繊維に、不織布状、フィルム状、シート状などの熱可塑性樹脂を重ね、加熱加圧する事で含浸する方法が挙げられる。
【0035】
本発明の(A)層に用いることができるプリプレグは、例えばフィルム状とした熱可塑性樹脂を二枚準備し、その二枚の間に強化繊維をシート状に並べた強化繊維シートを挟み込み、加熱及び加圧を行うことにより得ることができる。より具体的には、2枚の熱可塑性樹脂からなるフィルムを送り出す、2つのロールから二枚のフィルムを送り出すとともに、強化繊維シートのロールから供給される強化繊維シートを二枚のフィルムの間に挟み込ませた後に、加熱及び加圧する。加熱及び加圧する手段としては、公知のものを用いることができ、二個以上の熱ロールを利用したり、予熱装置と熱ロールの対を複数使用したりするなどの多段階の工程を要するものであってもよい。ここで、フィルムを構成する熱可塑性樹脂は一種類ある必要はなく、別の種類の熱可塑性樹脂からなるフィルムを、上記のような装置を用いてさらに積層させてもよい。
【0036】
上記加熱温度は、熱可塑性樹脂の種類にもよるが、通常、100〜400℃であることが好ましい。一方、加圧時の圧力は、通常0.1〜10MPaであることが好ましい。この範囲であれば、プリプレグに含まれる強化繊維の間に、熱可塑性樹脂を含浸させることができるので好ましい。また、本発明の繊維強化樹脂積層体に用いることができるプリプレグは、市販されているプリプレグを用いることもできる。
【0037】
本発明に用いられる(A)層を構成する強化繊維と樹脂aを含むプリプレグは、強化繊維を横切る方向に強化繊維を切断する深さの切込を有し、切込と強化繊維の角度θは、好ましくは60度以下、更に好ましくは30度以上、60度以下であり、かつ、プリプレグ1mあたりの切込の長さの総和1aが150m以下、更に好ましくは20m以上、100m以下であることが、繊維強化樹脂積層体の成形性と、力学特性のバランスが良いという点で好ましい。より具体的には、切込と強化繊維の角度θは、30〜60度が好ましい。なお、平面視における切込の形状が曲線である場合の角度θは、強化繊維と切込のなす角度とし、直線の切込と同様にして計測することができる。プリプレグ基材が切込を有する場合、切込はプリプレグ基材の上面から下面まで、強化繊維が切断されていることが好ましい。プリプレグ1mあたりの切込の長さの総和1aは20〜150mが好ましく、20〜100mがより好ましい。
前記切込の形状は直線状あっても曲線状であってもよい。図7において、直線状の切込が強化繊維の配向方向に対して斜めに設けられているが、垂直に設けられていてもよい。曲線状とすることで、同一切込角度と同一繊維長でありながら、1mあたりの切込の長さ(以下切込長ともいう)の総和1aを大きくすることが出来る。この場合、高い力学特性を維持しつつ成形性の向上が期待出来る。直線状とすることでより高度な力学特性が得られる。
本発明の繊維強化樹脂積層体に含まれるプリプレグは、切断された強化繊維の長さ(平均繊維長)Laは特に制限されるものではないが、力学特性と流動性の観点から、5mm以上、100mm以下が好ましい。特に十分な力学物性とスタンピング成形時のリブ等の薄肉部への流動を両立させるためには10mm以上50mm以下がさらに好ましい。より具体的には、切断された強化繊維の長さ(平均繊維長)Laは5〜100mmが好ましく、10〜50mmがより好ましい。なお、平均繊維長は、以下の手順で測定することができる。
<平均繊維長の測定>
維強化熱可塑性樹脂成形物の樹脂部分をフェノール/テトラクロロエタン等量混合溶媒中に加熱して溶解する。ついでこれを濾別し、得られた炭素繊維について光学顕微鏡にて観察して、平均繊維長を測定する。
本発明で用いることができるプリプレグは、レーザーマーカー、カッティングプロッタや抜型等を利用して切込を入れることにより得ることができるが、前記切込がレーザーマーカーを用いて施されたものであると、曲線やジグザグ線など複雑な切込を高速に加工できるという効果があるので好ましく、また、前記切込がカッティングプロッタを用いて施されたものであると、一辺2m以上の大判のプリプレグ層を加工できるという効果があるので好ましい。さらに、前記切込が抜型を用いて施されたものであると、高速に加工が可能であるという効果があるので好ましい。
【0038】
本発明の(A)層に用いられる強化繊維と樹脂aを含むプリプレグからなる積層体は、複数のプリプレグを強化繊維の方向が疑似等方となるように積層されていることが、積層体の異方性を小さくする点で好ましい。
本発明の(A)層に用いられる炭素繊維と樹脂aを含むプリプレグからなる積層体は、プリプレグに含まれる強化繊維の方向が0度であるプリプレグと90度であるプリプレグが交互に積層されていることが積層体の異方性を小さくする点で好ましい。プリプレグに含まれる強化繊維の方向が0度であるプリプレグ、45度であるプリプレグ、90度であるプリプレグ、135度(−45度)であるプリプレグを順に積層することがより好ましい。
【0039】
((B)層)
本発明に用いられる(B)層は、樹脂bを含む樹脂組成物b、並びに樹脂c及び充填物を含む充填物含有樹脂組成物からなる群から選択される少なくとも一種の組成物からなるシートであって、前記充填物の体積含有率Vfの2乗と充填物の最大長さの平均値Lbmmの積が2.0mm以下である。より好ましくは0.02〜1mmである。
【0040】
(樹脂組成物b及び充填物含有樹脂組成物)
本発明に用いられる(B)層を構成する樹脂組成物b及び充填物含有性樹脂組成物は、それぞれ樹脂b、樹脂cを含む。
【0041】
(樹脂)
本発明に用いられる(B)層を構成する樹脂b及び樹脂cとしては、例えば、熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂が挙げられる。成形サイクルやハンドリングの観点から、熱可塑性樹脂が好ましい。熱硬化性樹脂としては、例えば、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、エポキシアクリレート樹脂、ウレタンアクリレート樹脂、フェノキシ樹脂、アルキド樹脂、ウレタン樹脂、マレイミド樹脂、シアネート樹脂などの熱硬化性樹脂等が挙げれらる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリスチレン、(メタ)アクリル酸エステル/スチレン共重合体、アクリロニトリル/スチレン共重合体、スチレン/無水マレイン酸共重合体、ABS、ASA、AES等のスチレン系樹脂;ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリアミド系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリフェニレンエーテル系樹脂;ポリオキシメチレン系樹脂;ポリスルフォン系樹脂;ポリアリレート系樹脂;ポリフェニレンスルフィド系樹脂;熱可塑性ポリウレタン系樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ−4−メチルペンテン、エチレン/プロピレン共重合体、エチレン/ブテン共重合体等のポリオレフィン系樹脂;エチレン/酢酸ビニル共重合体、エチレン/(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン/無水マレイン酸共重合体、エチレン/アクリル酸共重合体等のα−オレフィンと各種単量体との共重合体類;ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、脂肪族グリコール/脂肪族ジカルボン酸共重合体等の脂肪族ポリエステル系樹脂;生分解性セルロース、ポリペプチド、ポリビニルアルコール、澱粉、カラギーナン、キチン・キトサン質等の生分解性樹脂が挙げられる。好ましくはポリアミド系樹脂、及びポリオレフィン系樹脂である。ポリアミド系樹脂の具体例としては、ナイロン6、 ナイロン66等が挙げられ、なかでもナイロン6が好ましい。ポリオレフィン系樹脂としてはなかでもポリプロピレン、酸変性ポリプロピレンが好ましい。
【0042】
(樹脂添加剤)
さらに必要に応じて、種々の樹脂添加剤を配合する事ができる、樹脂添加剤としては、例えば着色剤、酸化防止剤、金属不活性剤、カーボンブラック、造核剤、離型剤、滑剤、帯電防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、耐衝撃性改質剤、溶融張力向上剤、難燃剤等が挙げられる。
【0043】
(B)層を構成するマトリクス樹脂(樹脂)の粘度は、通常0.1〜10000Pa・sであり、好ましくは1.0〜5000Pa・sである。粘度が高すぎるとスタンピング成形性が低下し、低すぎるとスタンピング成形後の成形品の炭素繊維の密度分布が不均一となり、構造体に必要な十分な力学特性が得られない。かかる粘度は、回転式レオメーター(ARES:ティー・エー・インスツルメント社製)を用いて、パラレルプレート法により測定した値である。より詳細には、回転プレート直径25mm、角周波数100rad/sec、軟化点もしくは融点+40℃の条件にて動的粘弾性を測定する。
【0044】
(充填物)
本発明に用いられる(B)層を構成する充填物含有樹脂組成物は、充填物及び前記樹脂cを含む。
充填物としては、種々の無機充填剤を配合することができる。無機充填剤としては、特に限定はないが、例えばガラス繊維、炭素繊維などの繊維状フィラ―、タルク、マイカ、黒鉛などの板状フィラー、炭酸カルシウム、シリカなどの粒状フィラーなどが挙げられる。好ましくは繊維状フィラ―又は板状フィラーであり、さらに好ましくは繊維状フィラ―(強化繊維)である。異方性のあるフィラーの方が、特定方向の強度を上げやすい。これらのフィラーは、複数を同時に用いてもよい。
充填物としてはリサイクル材が好ましい。リサイクル材とは、炭素繊維プリプレグ製造時に発生する繊維屑、熱可塑性樹脂シートとプリプレグを積層し、加熱・加圧により作製するスタンパブルシートの製造工程で発生する屑、スタンピング成形後のトリミング工程で発生する屑、および製造したスタンパブルシートやスタンピング成形時に発生する屑の熱可塑性樹脂成形品の樹脂分を除去した炭素繊維などが挙げられる。なかでもスタンピング成形後のトリミング工程で発生する屑を粉砕して使用することが好ましい。
【0045】
本発明に用いられる(B)層を構成する樹脂cに充填物として配合される強化繊維の長さの平均値(平均繊維長)Lbは特に制限されるものではないが、十分な力学物性とスタンピング成形時のリブ等の薄肉部への流動を両立させるためには、10mm以下が好ましい。より具体的には、充填物の最大長さの平均値Lbは、1〜5mmであることが好ましく、0.5〜2mmであることがより好ましい。ここで充填物の最大長さの平均値は、以下の手順で測定することができる。
<平均繊維長の測定>
維強化熱可塑性樹脂成形物の樹脂部分をフェノール/テトラクロロエタン等量混合溶媒中に加熱して溶解する。ついでこれを濾別し、得られた炭素繊維について光学顕微鏡にて観察して、平均繊維長を測定する。
【0046】
本発明に用いられる(B)層を構成する樹脂cに配合される繊維体積含有率(強化繊維の体積含有率Vf)は、プリプレグの体積に対し、好ましくは30%以下である。繊維体積含有率が30%以上では、スタンピング成形時の十分な流動特性が得られない。より具体的には、繊維体積含有率が5〜25%であることが好ましく、10〜20%であることがより好ましい。かかる繊維体積含有率は、例えば水中置換法により得られたプリプレグの密度ρcと、同様の方法で得られた繊維の密度ρf、またプリプレグの質量をW、プリプレグを燃焼し樹脂を焼失させた後の重量W1より、以下の式を用いて求めるものを用いる。
Wf=(W−W1)×100/W 式(1)
Vf=Wf×ρc/ρf 式(2)
(B)層の曲げ弾性率は、通常0.1〜30GPaであり、好ましくは0.5GPa〜10GPaである。曲げ弾性率が高すぎるとスタンピング成形性が低下し、低すぎると耐熱性が低下し、高温環境下で十分な力学特性が得られない。
かかる曲げ弾性率は、JIS K7074に基づいて測定することができる。すなわち3点曲げ試験は、25mm幅、100mm長さの試験片を、標点間距離80mm、R2mmの支持の上に置き、R5mmの圧子を用いて、クロスヘッド速度5mm/minで行う。
本発明の成形品に用いることができる樹脂としては、市販品を用いても良い。例えばポリアミド樹脂としては、宇部興産製1013B,三菱ガス化学社製S6007、ガラス繊維強化樹脂としては、宇部興産製1015GC3,1015GC6,1015GC9,日本ポリプロ製ファンクスターTMPA66(いずれも製品名)などが挙げられる。
【0047】
本発明で用いられる(A)層と(B)層の厚みは、(A)層の厚みの総和を(B)層の厚みの総和で除した値が0.5以上3.0以下である。上記の値が3.0超だと図2に示すように、スタンピング成形時のリブ等の薄肉部に必要な流動性が得られず、0.5未満だと、積層体の成形品の炭素繊維の密度が小さくなり、構造体に必要な十分な力学特性が得られない。(A)層の厚みの総和を(B)層の厚みの総和で除した値が0.5以上3.0以下とすることにより、図3に示すように(リブ等の薄肉部にも充填可能でかつ、炭素繊維の密度が均一な成形品が得られる。(A)層の厚みの総和を(B)層の厚みの総和で除した値が1.0以上2.0以下であることが好ましい。なお、(A)層と(B)層の厚みは、例えば、実体顕微鏡にて観察して測定することができる。
【0048】
複素粘性率ηは、貯蔵弾性率G‘、損失弾性率G“から算出される複素弾性率Gから算出されるものであるので、粘弾性流体の特性を明確に表すことが出来る。尚、複素粘性率ηは、下記の式から算出され、例えば、回転式レオメータ(ARES:ティー・エー・インスツルメント社製)を用いることにより、パラレルプレート法により測定した値である。より詳細には、回転プレート直径25mm、角周波数100rad/sec、軟化点もしくは融点+40℃の条件にて複素粘性率を測定する。
測定することができる。
η=G/ω (ω:角速度)
=√(G‘+G“
本発明の第一の態様で用いられる(A)層を形成する樹脂の軟化点もしくは融点にプラス40℃の温度、100rad/secにおける(A)層の複素粘性率と(B)層の複素粘性率は、(A)層の複素粘性率を(B)層の複素粘性率で除した値が、0.85以上4.0以下である。上記の値が、4.0超だと、図4に示すようにスタンピング成形時にB層の成形品端面の流れ出しを抑制出来ず、特に成形品の炭素繊維の密度分布が不均一となり、構造体に必要な十分な力学特性が得られない。上記の値が0.85未満だと、図5に示すように流動性が低下し、リブ等の薄肉部において必要な流動性が得られない。0.85以上4.0以下であることにより、図6に示すようにリブ等の薄肉部にも充填可能でかつ、炭素繊維の密度が均一な成形品を得ることができる。(A)層の複素粘性率を(B)層の複素粘性率で除した値が、1.5〜3であることがより好ましい。
【0049】
本発明の第一の態様における繊維強化樹脂積層体は、一方の(A)層ともう一つの(A)層との間に(B)層が積層されていることが好ましい。このとき2つの(A)層は同一のプリプレグからなる積層体であってもよいし、異なるプリプレグからなる積層体であってもよい。ただし、2つの(A)層はいずれも強化繊維の体積含有率Vfの2乗と平均繊維長Lammの積が2.0mmより大きく15mm以下であることを満たす。
具体的には、(A)層の強化繊維が炭素繊維であり、樹脂がナイロン6又は酸変性ポリプロピレンであり、もう一つの(A)層の強化繊維が炭素繊維であり、樹脂がナイロン6又は酸変性ポリプロピレンであり、(B)層の樹脂がナイロン6、ポリプロピレン又は酸変性ポリプロピレンであることが好ましい。
(A)層及びもう一つの(A)層の強化繊維が炭素繊維であり、樹脂がナイロン6又は酸変性ポリプロピレンであり、(B)層の樹脂がナイロン6、ポリプロピレン又は酸変性ポリプロピレンであることが好ましい。
また、繊維強化樹脂積層体が1つの(A)層と1つの(B)層とからなる場合、強化繊維が炭素繊維であり、樹脂がナイロン6又は酸変性ポリプロピレンであり、(B)層の樹脂がナイロン6、ポリプロピレン又は酸変性ポリプロピレンであることが好ましい。
【0050】
本発明の第二の態様の繊維強化樹脂積層体は、強化繊維に樹脂a’又は樹脂a’を含む樹脂組成物a’を含浸したプリプレグである(A)層と;樹脂b’を含む樹脂組成物b’、並びに樹脂c’及び充填物を含む充填物樹脂組成物からなる群から選択される少なくとも一種の組成物からなるシートである(B)層と;が積層されており、下記式(1)を満たすことを特徴とする。
0.85≦A1/B1≦4.0 ・・・式(1)
A1:前記(A)層を形成する樹脂a’の軟化点もしくは融点+40℃、100rad/secにおける前記(A)層の複素粘性率の絶対値
B1:前記(A)層を形成する樹脂a’の軟化点もしくは融点+40℃、100rad/secにおける前記(B)層の複素粘性率の絶対値
【0051】
樹脂a’としては、熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂が挙げられ、なかでも熱可塑性樹脂が好ましく、具体的には本発明の第一の態様で挙げた(A)層を構成する熱可塑性樹脂と同様のものを用いることができる。樹脂組成物aは、樹脂aを含み、具体的には本発明の第一の態様で挙げた(A)層を構成する熱可塑性樹脂組成物aと同様のものを用いることができる。
強化繊維、樹脂添加剤等は、第一の態様と同様のものを用いることができる。
【0052】
樹脂b’及び樹脂c’としては、熱可塑性樹脂が好ましく、具体的には本発明の第一の態様で挙げた(B)層を構成する熱可塑性樹脂と同様のものを用いることができる。
充填剤、樹脂添加剤等は、第一の態様と同様のものを用いることができる。
【0053】
(繊維強化樹脂積層体の製造方法)
本発明の第三の態様における繊維強化樹脂積層体の製造方法は、一方向に配向した強化繊維と熱可塑性樹脂組成物を含むプリプレグ積層体の(A)層と、熱可塑性樹脂組成物の(B)層を軟化点もしくは融点以上で加熱及び加圧して一体化(融着)する工程を含む方法が挙げられる。
より具体的には、本発明の第三の態様における繊維強化樹脂積層体の製造方法は、(A)層と(B)層を積層した後、(A)層及び(B)層を構成する熱可塑性樹脂のうち、いずれか一方の熱可塑性樹脂の軟化点もしくは融点以上に加熱することにより融着する工程、を含む方法が挙げられる。
加熱する温度としては、30〜400℃が好ましく、50〜350℃がより好ましい。
ここで「融着」とは、A層とB層を溶着することを意味する。
(繊維強化樹脂積層体の成形品の製造方法)
繊維強化樹脂積層体の成形品の製造方法としては、本発明の第三の態様における繊維強化樹脂積層体を所定の温度に設定した金型に仕込み、次いでスタンピング成形すること、を含む。
具体的には、通常の装置、例えば加熱プレス機を用いて行うことができ、その際に用いる金型については、所望の形状を有するものを用いることができる。金型の材質についても、ホットスタンピング成形で通常用いられるものを採用することができ、金属製のいわゆる金型を用いることができる。具体的に本工程は、例えば前記積層体を金型内に配置して、加熱及び加圧することにより行うことができる。
前記加熱においては、積層体に含まれる樹脂の種類にもよるが、30〜400℃で加熱することが好ましく、さらに好ましくは50〜350℃で加熱することが好ましい。また、前記加熱に先立って、予備加熱を行ってもよい。予備加熱については、通常30〜400℃、好ましくは50〜350℃で加熱することが好ましい。
前記加圧において積層体にかける圧力としては、好ましくは0.1〜10MPaであり、より好ましくは0.2〜2MPaである。この圧力については、プレス力を繊維強化樹脂積層体の面積で除した値とする。
上記加熱及び加圧する時間は、0.1〜30分間であることが好ましく、さらに好ましくは0.5〜10分間である。また、加熱及び加圧の後に設ける冷却時間は、0.5〜30分間であることが好ましい。
【0054】
上記ホットスタンピング成形を経た本発明にかかる一体化した繊維強化熱可塑性樹脂積層体の厚さは、0.5〜10mmであることが好ましい。繊維強化熱可塑性樹脂積層体の厚さは、実体顕微鏡にて観察して測定することができる。
なお、前記加熱及び加圧は、型と上記積層基材との間に潤滑剤が存在する条件下で行ってもよい。潤滑剤の作用により、型と上記積層基材の摩擦が小さくなり、前記加熱および加圧時に流動性が向上するために、強化繊維の間への熱可塑性樹脂の含浸を高まるとともに、得られる積層基材において強化繊維の間及び強化繊維と熱可塑性樹脂の間におけるボイドを低減させることができるからである。
前記潤滑剤としては、例えばシリコーン系潤滑剤やフッ素系潤滑剤を用いることができる。また、これらの混合物を用いてもよい。シリコーン系潤滑剤としては、高温環境で用いることができる耐熱性のものが好ましく用いられる。より具体的には、メチルフェニルシリコーンオイルやジメチルシリコーンオイルのようなシリコーンオイルを挙げることができ、市販されているものを好ましく用いることができる。フッ素系潤滑剤としては、高温環境で用いることができる耐熱性のものが好ましく用いられる。そのようなものの具体例としては、パーフルオロポリエーテルオイルや三フッ化塩化エチレンの低重合物(重量平均分子量500〜1300)のようなフッ素オイルを用いることができる。
上記潤滑剤は、上記積層体の片側若しくは両側の表面上、前記金型の片側もしくは両側の表面上又は上記積層体及び金型の双方の片側若しくは両側の表面上に、潤滑剤塗布装置などの適当な手段によって供給されてもよいし、予め金型の表面上に塗布しておいてもよい。中でも積層体の両側の表面に潤滑剤が供給される態様が好ましい。
【実施例】
【0055】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、実施例に記載の発明に限定されるものではない。
【0056】
(スタンピング成形性評価)
ヒーター温度を、(A)層を形成する熱可塑性樹脂がナイロン系樹脂の場合360℃、(A)層を形成する熱可塑性樹脂がポリプロピレン系樹脂の場合270℃に設定した遠赤外線ヒーター式加熱装置(NGKキルンテック株式会社製、製品名:H7GS−71289)を用いて、幅100mm、奥行き200mmに裁断した繊維強化樹脂積層体を、厚みの合計が約6mmになるように複数枚互いが重ならないようにして、6間加熱し軟化させた。裏面に、幅70mm〜60mm、高さ60mm、厚み3mm〜2mm、幅方向の中央部に直径6mmのエジェクタピン用の円柱部が埋め込まれたリブを有する金型を備えた金型投影面積が140×240mmの成形金型(図1)を使用した300tプレス機(川崎油工株式会社製)を用いて、成形金型の下型に上記の予熱軟化させた繊維強化樹脂積層体を予め重ねた状態で配置し、チャージ時間25s、金型温度145℃もしくは90℃、成形圧力18MPa、成形時間1分でプレス成形を行い成形体を得た。得られた成形品については、以下の基準で判定を行った。
【0057】
・金型温度90℃でフル充填し、かつリブ部の先端に樹脂リッチ部が認められない「◎」
・金型温度90℃でフル充填し、リブ部の先端に樹脂リッチ部が認められる「○」
・金型温度145℃でフル充填するが、金型温度90℃ではショートする場合「△」
・金型温度145℃でショートする場合「×」
【0058】
(力学特性の評価)
作製した繊維強化樹脂積層体から、長さ100mm、幅25mmの大きさで、プリプレグ最表面の繊維配向方向に対し、0°、45°、90°、−45°に切出して試験片を作製した。JIS K−7074に規定する試験方法に従い、万能試験機(インストロン社製、製品名:4465型)を用いて、標点間距離を80mmとし、クロスヘッド速度5.0mm/分で3点曲げ試験を行い、曲げ強度及び曲げ弾性率を算出した。各角度に切出し、測定した試験片の数はn=5とし、その平均値を各角度の強度及び弾性率とした。尚、0°の曲げ弾性率の値が20GPa以上で、(弾性率が低い角度の曲げ弾性率)/(0°の曲げ弾性率)の値が0.7以上のものを異方性が小さく剛性に優れるものとして◎、0°の曲げ弾性率が20GPa以上で上記値が0.7〜0.5のものを○、0°の曲げ弾性率が20GPa以上で上記値が0.5以下のものを△、0°の曲げ弾性率が18GPa以下のものを×とした。
【0059】
(複素粘性率の測定)
複素粘性率ηは、回転式レオメータ(ARES:ティー・エー・インスツルメント社製)を用い、パラレルプレート法により測定した値である。より詳細には、回転プレート直径25mm、角周波数100rad/sec、軟化点もしくは融点+40℃の条件にて複素粘性率を測定した。
【0060】
(実施例1)
(プリプレグの製造)
炭素繊維(三菱レイヨン製、製品名:パイロフィルTR−50S15L)を、強化繊維の方向が一方向となるように平面状に引き揃えて目付が72.0g/mである強化繊維シートとした。この強化繊維シートの両面を、ナイロン6のフィルム(ナイロン6:宇部興産社製、製品名:1013B、融点:218℃、厚み:40μ)で挟み、カレンダロールを複数回通して、熱可塑性樹脂を強化繊維シートに含浸し、炭素繊維体積含有率(Vf)が34%、厚さが0.125mmのプリプレグを得た。
(繊維強化樹脂積層体の製造)
得られたプリプレグを、300mm角に切り出し、サンプルカット機(レザック製、製品名:L−2500)を用いて表1に示すように一定間隔で切込を入れた。その際、シートの端部より5mm内側部分を除き、強化繊維の長さL=25.0mm一定、平均切込長l=14.1mmになるよう、繊維を切断する切込と強化繊維のなす角度θ=45°の切込加工を施し、プリプレグ(以後、PPGと略)を得た。この際1mあたりの切込長の総和la=56.6mであった。
300mm角で深さ1.5mmの印籠金型内に、表1記載のように強化繊維の向きが0°、45°、90°及び−45°となるような4枚のPPGからなるPPG積層体と、強化繊維の向きが0°、45°、90°及び−45°となるような4枚のPPGからなるPPG積層体とで、厚み0.5mmのナイロン6シート(ナイロン6:宇部興産製、製品名:1013B)を挟んだ。その後加熱し、圧縮成形機(神藤金属工業所製、製品名:SFA−50HH0)を用いて、高温側プレスにて250℃、油圧指示0MPaの条件で7分間保持した。次いで同一温度にて油圧指示2MPa(プレス圧0.55MPa)の条件で7分間保持後、金型を冷却プレスに移動させ、30℃,油圧指示5MPa(プレス圧1.38MPa)にて3分間保持することで繊維強化樹脂積層体を得た。
シートから切り出した試験片を用い、各種評価を実施した
【0061】
(実施例2)
炭素繊維の長さ(平均繊維長)L=25.0mm一定、平均切込長l=20mmになるよう、繊維を切断する切込と強化繊維のなす角度θ=30°の切込加工を施した以外は、実施例1と同様の方法で繊維強化樹脂積層体を作製し、評価を行った。尚、この際の表面層に使用したPPGの1mあたりの切込長の総和1a=80mであった。
【0062】
(実施例3)
表1記載のようにPPGと厚み1mmのナイロン6シート(ナイロン6:宇部興産製、製品名:1013B)を重ねた以外は、実施例1と同様の方法で繊維強化樹脂積層体を作製し、評価を行った。尚、この際の表面層に使用したPPGの1mあたりの切込長の総和1a=56.6mであった。
【0063】
(実施例4)
(プリプレグの製造)
炭素繊維(三菱レイヨン製、製品名:パイロフィルTR−50S15L)を、強化繊維の方向が一方向となるように平面状に引き揃えて目付が72.0g/mである強化繊維シートとした。この強化繊維シートの両面を、酸変性ポリプロピレンのフィルム(酸変性ポリプロピレン:三菱化学社製、製品名:958V、融点:168℃、厚み:40μ)で挟み、カレンダロールを複数回通して、熱可塑性樹脂を強化繊維シートに含浸し、炭素繊維体積含有率(Vf)が34%、厚さが0.125mmのPPGを得た。
(繊維強化樹脂積層体の製造)
得られたPPGを、300mm角に切り出し、サンプルカット機(レザック製、製品名:L−2500)を用いて表1に示すように一定間隔で切込を入れた。その際、シートの端部より5mm内側部分を除き、強化繊維の長さ(平均繊維長)L=25.0mm一定、平均切込長l=14.1mmになるよう、繊維を切断する切込と強化繊維のなす角度θ=45°の切込加工を施したPPGを得た。この際1mあたりの切込長の総和la=56.6mであった。
300mm角で深さ1.5mmの印籠金型内に、表1記載のように強化繊維の向きが0°、45°、90°及び−45°となるような4枚のPPGからなるPPG積層体と、強化繊維の向きが0°、45°、90°及び−45°となるような4枚のPPGからなるPPG積層体とで、厚み0.5mmのポリプロピレンシート(ポリプロピレン:日本ポリプロ社製、製品名:EA6)を挟んだ。その後加熱し、圧縮成形機(神藤金属工業所製、製品名:SFA−50HH0)を用いて、高温側プレスにて200℃、油圧指示0MPaの条件で7分間保持した。次いで同一温度にて油圧指示2MPa(プレス圧0.55MPa)の条件で7分間保持後、金型を冷却プレスに移動させ、30℃,油圧指示5MPa(プレス圧1.38MPa)にて3分間保持することで繊維強化樹脂積層体を得た。
【0064】
(実施例5)
表1記載のようにPPGと厚み0.5mmのガラス繊維強化ナイロン6シート(ナイロン6:宇部興産製、製品名:1015GC6)を重ねた以外は、実施例1と同様の方法で繊維強化樹脂積層体を作製し、評価を行った。尚、この際の表面層に使用したPPGの1mあたりの切込長の総和1a=56.6mであった。
【0065】
(実施例6)
表1記載のようにPPGと厚み0.5mmの酸変性ポリプロピレンのシート(酸変性ポリプロピレン:三菱化学社製、製品名:P958V)を重ねた以外は、実施例4と同様の方法で繊維強化樹脂積層体を作製し、評価を行った。尚、この際の表面層に使用したPPGの1mあたりの切込長の総和1a=56.6mであった。
【0066】
(比較例1)
表1記載のようにPPGと厚み0.16mmのガラス繊維強化ナイロン6シート(ナイロン6:宇部興産製、製品名:1015GC6)を重ねた以外は、実施例1と同様の方法で繊維強化樹脂積層体を作製し、評価を行った。尚、この際の表面層に使用したPPGの1mあたりの切込長の総和1a=56.6mであった。
【0067】
(比較例2)
300mm角で深さ1.5mmの印籠金型内に、炭素繊維強化ナイロン66短繊維ペレット(ナイロン66:三菱レイヨン社製、製品名:N66−C−20)120gを金型内に均一にばらまき、加熱し、圧縮成形機(神藤金属工業所製、製品名:SFA−50HH0)を用いて、高温側プレスにて300℃、油圧指示0MPaの条件で7分間保持し、次いで同一温度にて油圧指示2MPa(プレス圧0.55MPa)の条件で7分間保持後、金型を冷却プレスに移動させ、30℃,油圧指示5MPa(プレス圧1.38MPa)にて3分間保持することで繊維強化樹脂積層体を得た。
【0068】
(比較例3)
表1記載のようにPPGと厚み2.5mmのナイロン6シート(ナイロン6:宇部興産製、製品名:1013B)を重ねた以外は、実施例1と同様の方法で繊維強化樹脂積層体を作製し、評価を行った。尚、この際の表面層に使用したPPGの1mあたりの切込長の総和1a=56.6mであった。
【0069】
【表1】
【0070】
【表2】
【0071】
表1及び2より明らかなように、実施例1〜6は、成形性、力学特性共に良好であった。これに対し、比較例1は成形性に劣り、比較例2と3は力学特性に劣るので、構造材としては不適である。又、これらの中でも実施例3は、成形性と力学特性のバランスが優れたものであった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明によれば、構造材に適用可能な優れた力学特性を有しながら、力学特性のばらつきが小さく、さらに複雑な形状への賦形性に優れ、短時間で成形可能でしかも安価な繊維強化樹脂積層体を得ることが出来る。
【符号の説明】
【0073】
6:切込
7:強化繊維
8:切込と強化繊維のなす角度
9:切込長
10:切断された強化繊維の長さ
図1
図2
図3
図4
図5
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