【文献】
BATOG, A. E. et al.,Cycloaliphatic epoxycyanurates for the prepatation of polymers of increased thermal stability,PLASTICHESKIE MASSY,1981年,Vol.3,No.46-47,Columbus, OH, USA: Chemical abstracts, Vol.95, the abstract No.1549a-1552a
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、エポキシ樹脂は、硬化剤と組み合わせたエポキシ樹脂組成物として、電子材料分野において幅広く用いられている。このような電子材料分野のうち、例えば、反射防止膜(液晶ディスプレイ用の反射防止膜など)の高屈折率層、光学薄膜(反射板など)、電子部品用封止材、プリント配線基板、層間絶縁膜材料(ビルドアッププリント基板用層間絶縁膜材料など)などの用途では、基材に対する高い密着性、ハードコート性、耐熱性、可視光に対する高透明性などの性能が成形材料に要求される。
一般的に結晶性のエポキシ樹脂は主鎖骨格が剛直であったり、多官能であるため耐熱性が高く、電気電子分野など耐熱的な信頼性が要求される分野で使用されている。
【0003】
しかしながら使用する用途によってはキャスティング成型など液状組成物でないと成型できない分野もあり、結晶性であるエポキシ樹脂はトランスファー成型など固形材料を使用する用途に限られ、そのため使用範囲が限定されている。
【0004】
また、従来、キャスティング成型など液状成型に使用されるエポキシ樹脂は液状のエポキシ樹脂であり、昨今の接着、注型、封止、成型、積層等の分野で要求が厳しくなっている耐熱性等の硬化物性向上の要求には十分に満足できない。そこで高い耐熱性を有する硬化物性を与える結晶性の多官能エポキシ樹脂を液状化させる要求が高まっている。そして液状エポキシ樹脂を熱硬化させる要求がある。
【0005】
結晶性の高いエポキシ化合物、例えばトリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレートのエポキシ基の一部をエステル化して結晶性を低下させ液状化させたエポキシ樹脂が開示されている(特許文献1参照)。
トリアジントリオン環に長鎖アルキレン基を介してエポキシ環が結合した化合物が開示されている(特許文献2参照)。
長鎖アルキレン基を介してエポキシ環がトリアジントリオン環に結合したエポキシ化合物及びそのエポキシ化合物を用いたエポキシ樹脂組成物が開示されている(特許文献3、4、及び5参照)。
また、オキシアルキレン基を介してエポキシシクロヘキシル基がトリアジントリオン環に結合したエポキシ化合物及びそのエポキシ化合物を用いたエポキシ樹脂組成物が開示されている(特許文献6参照)。
塩化シアヌルとエポキシアルコールを反応させてシアヌル酸骨格を有するエポキシ化合物と、そのエポキシ化合物を用いた硬化性化合物が開示されている(特許文献7参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
昨今、特に電気電子分野において回路の高集積化や鉛フリーはんだの使用等により使用されるエポキシ樹脂硬化物に要求される特性も厳しくなってきている。そのため、従来の液状エポキシ樹脂では上記特性を満足させることは厳しくなってきている。
【0008】
液状エポキシ樹脂はそのハンドリングの良さ、結晶化による粘度上昇等製造上のトラブルが少ないなどの特徴からポッティング、コーティング、キャスティングなどに用いられている。
多官能エポキシ樹脂など高い耐熱性等、優れた物性を有する硬化物を与える結晶性のエポキシ樹脂を液状化させ、使用する用途範囲を広げる要求は高まっている。
そしてそれらのエポキシ樹脂の硬化は熱硬化によって行う要求がある。
【0009】
本発明は、光半導体向け透明封止材、例えばLED(発光素子)等の透明封止材に用いるために液状でのハンドリングの良さを維持したまま、熱硬化により高い透明性や高い曲げ強度を兼ね備えた硬化物性を有するエポキシ化合物の製造方法及び該エポキシ化合物を含む硬化性組成物の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、シアヌル酸骨格を有するエポキシ樹脂を、酸無水物やアミン等の硬化剤で熱硬化させると、優れた機械的特性と優れた光学特性とを両立できる硬化物又は硬化塗膜を形成できることを見いだし本発明を完成した。
【0011】
本発明は第1観点として、塩化シアヌルを炭素数4乃至8のアルケノールと反応させ、次いで得られた不飽和結合を有する化合物を過酸化物と反応させることを特徴とする下記式(1):
【0012】
【化1】
【0013】
(式(1)中、n1、n2、及びn3はそれぞれ2乃至6の整数のいずれかを表す。n4、n5、及びn6はそれぞれ2の整数を表し、n7、n8、及びn9はそれぞれ1の整数を表す。R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、及びR
6はそれぞれ独立して水素原子、又は炭素数1乃至10のアルキル基を表す。)で表されるエポキシ化合物の製造方法、
第2観点として、アルケノールが、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、5−ヘキセン−1−オール、3−ヘキセン−1−オール、又は3−メチル−3−ブテン−1−オールである第1観点に記載の製造方法、
第3観点として、過酸化物がペルオキシド構造、又は過カルボン酸構造を含むものである第1観点又は第2観点に記載の製造方法、
第4観点として、第1観点乃至第3観点のいずれか一つに記載の方法に従い式(1)で表されるエポキシ化合物を製造し、次いでそのエポキシ化合物と硬化剤とを混合することを特徴とする硬化性組成物の製造方法、
第5観点として、硬化剤が酸無水物、アミン、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、イミダゾール、又はポリメルカプタンである第4観点に記載の製造方法、及び
第6観点として、硬化性組成物は硬化剤をエポキシ化合物のエポキシ基に対して0.5乃至1.5当量の割合で含有する第4観点又は第5観点に記載の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のエポキシ化合物の製造方法によると、シアヌル酸部分とエポキシ基との間の側鎖が長いため、得られるエポキシ化合物の液状化が達成される。また、該エポキシ化合物を含む本発明の硬化性組成物は、エポキシ基の硬化反応の完結性が向上するため、その硬化物はガラス転移温度の安定化が図られ、それによって、加熱環境においても架橋密度が安定となり強靱性を維持できる。また本発明の硬化性組成物は、エポキシ基の硬化反応が硬化初期に完結するため、その硬化物は安定した曲げ強度、弾性率を有する。
【0015】
斯かる効果が得られるのは、次の理由、即ち、長鎖アルキレン基を介したエポキシ環がシアヌル酸に結合した化合物を含む硬化性組成物を熱硬化させたエポキシ樹脂硬化物は、上記の長鎖アルキレン基を介したエポキシ環の自由度が大きく、反応性が高いためエポキシ化合物中のエポキシ基がすべて反応に関与したため、靱性の高い硬化物に変化したことによるものと考えられる。
【0016】
本発明では長鎖アルキレン基を有する液状エポキシ化合物を酸無水物或いはアミン等の硬化剤を用い熱硬化させようとするものである。本発明により得られるシアヌル酸骨格を有するエポキシ化合物は低粘度であり、硬化剤を溶解する能力が高く、そして本発明の硬化性組成物の硬化物は高い靱性を有する。
【0017】
また、本発明に用いられるエポキシ化合物は粘度が低いため、本発明の硬化性組成物は充填性が良好である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は塩化シアヌルと炭素数4乃至8のアルケノールを反応させ、得られた不飽和結合を有する化合物と過酸化物を反応させることを特徴とする下記式(1)で示されるエポキシ化合物の製造方法である。
【0019】
式(1)において、n1、n2、及びn3はそれぞれ2乃至6の整数のいずれか、好ましくは2乃至4の整数のいずれかを表す。n4、n5、及びn6はそれぞれ2の整数を表し、n7、n8、及びn9はそれぞれ1の整数を表す。R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、及びR
6はそれぞれ独立して水素原子、又は炭素数1乃至10のアルキル基を表す。R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、及びR
6はそれぞれ独立して水素原子、又は炭素原子に結合した水素原子をアルキル基で置換した有機基を表す。
【0020】
アルキル基としてはメチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、シクロプロピル、n−ブチル、i−ブチル、s−ブチル、t−ブチル、シクロブチル、1−メチル−シクロプロピル、2−メチル−シクロプロピル、n−ペンチル、1−メチル−n−ブチル、2−メチル−n−ブチル、3−メチル−n−ブチル、1,1−ジメチル−n−プロピル、1,2−ジメチル−n−プロピル、2,2−ジメチル−n−プロピル、1−エチル−n−プロピル、シクロペンチル、1−メチル−シクロブチル、2−メチル−シクロブチル、3−メチル−シクロブチル、1,2−ジメチル−シクロプロピル、2,3−ジメチル−シクロプロピル、1−エチル−シクロプロピル、2−エチル−シクロプロピル、n−ヘキシル、1−メチル−n−ペンチル、2−メチル−n−ペンチル、3−メチル−n−ペンチル、4−メチル−n−ペンチル、1,1−ジメチル−n−ブチル、1,2−ジメチル−n−ブチル、1,3−ジメチル−n−ブチル、2,2−ジメチル−n−ブチル、2,3−ジメチル−n−ブチル、3,3−ジメチル−n−ブチル、1−エチル−n−ブチル、2−エチル−n−ブチル、1,1,2−トリメチル−n−プロピル、1,2,2−トリメチル−n−プロピル、1−エチル−1−メチル−n−プロピル、1−エチル−2−メチル−n−プロピル、シクロヘキシル、1−メチル−シクロペンチル、2−メチル−シクロペンチル、3−メチル−シクロペンチル、1−エチル−シクロブチル、2−エチル−シクロブチル、3−エチル−シクロブチル、1,2−ジメチル−シクロブチル、1,3−ジメチル−シクロブチル、2,2−ジメチル−シクロブチル、2,3−ジメチル−シクロブチル、2,4−ジメチル−シクロブチル、3,3−ジメチル−シクロブチル、1−n−プロピル−シクロプロピル、2−n−プロピル−シクロプロピル、1−i−プロピル−シクロプロピル、2−i−プロピル−シクロプロピル、1,2,2−トリメチル−シクロプロピル、1,2,3−トリメチル−シクロプロピル、2,2,3−トリメチル−シクロプロピル、1−エチル−2−メチル−シクロプロピル、2−エチル−1−メチル−シクロプロピル、2−エチル−2−メチル−シクロプロピル及び2−エチル−3−メチル−シクロプロピル等が挙げられる。
【0021】
アルケノールとしては、3−ブテン−1−オール、4−ペンテン−1−オール、又は5−ヘキセン−1−オール、3−ヘキセン−1−オール、3−メチル−3−ブテン−1−オール等を用いることができる。これらのアルケノールは例えば以下に示される。
【化2】
【0022】
塩化シアヌルと炭素数4乃至8のアルケノールを反応させ、得られた不飽和結合を有する化合物(中間体)は、式(1−1):
【0024】
(式(1−1)中、n1、n2、及びn3はそれぞれ2乃至6の整数のいずれか、好ましくは2乃至4の整数のいずれかを表す。n4、n5、及びn6はそれぞれ2の整数を表し、n7、n8、及びn9はそれぞれ1の整数を表す。R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、及びR
6はそれぞれ独立して水素原子、又は炭素数1乃至10のアルキル基を表す。)で表される。
【0025】
本発明のエポキシ化合物の製造方法において、塩化シアヌルとn−ペンタン−1−エン−5−オールを反応させ、得られた不飽和結合を有する化合物を過酸化物で酸化してエポキシ化合物を製造する方法を以下に示す。
【化4】
【0026】
この塩化シアヌルとアルケノールとの反応は、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルホルムアミド、トルエン等の溶媒を用い、水素化ナトリウム、水酸化ナトリウム、炭酸カリウム等の塩基を用いて、−20乃至100℃の温度で1乃至12時間で行われる。そして、この不飽和結合を有する化合物を過酸化物で酸化してエポキシ化合物を得ることができる。ここで過酸化物はペルオキシ構造、又は過カルボン酸構造を含むものであり、例えば、メタクロロ過安息香酸、過酢酸、過酸化水素−タングステン酸等を用いることができる。この反応は塩化メチレン、クロロホルム、トルエン等の溶媒中で、0乃至110℃、1乃至10時間で行うことができる。
【0027】
本発明で得られる式(1)の化合物は例えば以下に例示される。
【化5】
【0028】
本発明は上記方法で式(1)のエポキシ化合物を製造し、そのエポキシ化合物と硬化剤を混合することを特徴とする硬化性組成物の製造方法である。
必要により更に溶剤、他のエポキシ化合物、硬化剤、界面活性剤、及び密着促進剤等を含有することができる。
【0029】
本発明での硬化性組成物の固形分は1乃至100質量%、又は5乃至100質量%、又は50乃至100質量%、又は80乃至100質量%とすることができる。
固形分とは硬化性組成物より溶剤を除去した残りの成分の割合である。本発明では液状エポキシ化合物を用い、それに硬化剤を混合するために基本的に溶剤を用いる必要はないが、必要により溶剤を添加することは可能である。
【0030】
硬化剤が酸無水物、アミン、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、イミダゾール、又はポリメルカプタンである場合には、エポキシ基に対して硬化剤を0.5乃至1.5当量、好ましくは0.8乃至1.2当量の割合で使用することができる。その時にエポキシ基に対して硬化助剤を0.001乃至0.1当量の割合で使用することができる。
【0031】
本発明では式(1)で示されるエポキシ化合物と、それ以外のエポキシ化合物を併用することができる。式(1)のエポキシ化合物と、それ以外のエポキシ化合物は、エポキシ基のモル比で1:0.1乃至1:0.5の範囲で用いることが可能である。
【0032】
そのエポキシ化合物としては以下に例示することができる。
固形エポキシ化合物、トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート(式(2−1)、商品名テピック、日産化学工業(株)製)。
【化6】
【0033】
液状エポキシ化合物、商品名エピコート828(式(2−2)、ジャパンエポキシレジン(株)製)。
【化7】
【0034】
液状エポキシ化合物、商品名YX8000(式(2−3)、ジャパンエポキシレジン(株)製)。
【化8】
【0035】
液状エポキシ化合物、商品名DME100(式(2−4)、 新日本理化(株)製)。
【化9】
【0036】
液状エポキシ化合物、商品名CE−2021P(式(2−5)、ダイセル株式会社製)。
【化10】
【0037】
液状エポキシ化合物としてトリス−(3,4−エポキシブチル)−イソシアヌレート、トリス−(4,5−エポキシペンチル)−イソシアヌレート、トリス−(5,6−エポキシヘキシル)−イソシアヌレート。
【化11】
【0038】
トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート1モルに無水プロピオン酸0.8モルを加えて変性させた液状エポキシ化合物(式(2−9)、日産化学工業(株)製、商品名:テピックパスB22)。式(2−9)は、(2−9−1):(2−9−2):(2−9−3):(2−9−4)をモル比で約35%:45%:17%:3%の割合で含有する。
【化12】
【0039】
トリス−(2,3−エポキシプロピル)−イソシアヌレート1モルに無水プロピオン酸0.4モル加えて変性させた液状エポキシ化合物(式(2−10)、日産化学工業(株)製、商品名テピックパスB26)。式(2−10)は、(2−10−1):(2−10−2):(2−10−3)をモル比で約60%:32%:8%の割合で含有する。
【化13】
【0040】
エポキシ化合物に対する硬化剤の当量は、エポキシ基に対する硬化剤の硬化性基の当量比で示される。
【0041】
硬化剤はフェノール樹脂、アミン類、ポリアミド樹脂、イミダゾール類、ポリメルカプタン、酸無水物等が挙げられる。特に酸無水物、アミンが好ましい。
これら硬化剤は固体であっても溶剤に溶解することによって使用することはできるが、溶剤の蒸発により硬化物の密度低下や細孔の生成により強度低下、耐水性の低下を生ずるために、硬化剤自体が常温、常圧下で液状のものが好ましい。
【0042】
フェノール樹脂としては、例えばフェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂等が挙げられる。
【0043】
アミン類としては、例えばピペリジン、N,N−ジメチルピペラジン、トリエチレンジアミン、2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ベンジルジメチルアミン、2−(ジメチルアミノメチル)フェノール、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジエチルアミノプロピルアミン、N−アミノエチルピペラジン、ジ(1−メチル−2−アミノシクロヘキシル)メタン、メンセンジアミン、イソフオロンジアミン、ジアミノジシクロヘキシルメタン、1,3−ジアミノメチルシクロヘキサン、キシレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン等が挙げられる。これらの中で液状であるジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジエチルアミノプロピルアミン、N−アミノエチルピペラジン、ジ(1−メチル−2−アミノシクロヘキシル)メタン、メンセンジアミン、イソフオロンジアミン、ジアミノジシクロヘキシルメタン等は好ましく用いることができる。
【0044】
ポリアミド樹脂としては、ダイマー酸とポリアミンの縮合により生成するもので、分子中に一級アミンと二級アミンを有するポリアミドアミンである。
【0045】
イミダゾール類としては、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾリウムトリメリテート、エポキシイミダゾールアダクト等が挙げられる。
【0046】
ポリメルカプタンは、例えばポリプロピレングリコール鎖の末端にメルカプタン基が存在するものや、ポリエチレングリコール鎖の末端にメルカプタン基が存在するものであり、液状のものが好ましい。
【0047】
酸無水物としては一分子中に複数のカルボキシル基を有する化合物の無水物が好ましい。これらの酸無水物としては、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水ベンゾフェノンテトラカルボン酸、エチレングリコールビストリメリテート、グリセロールトリストリメリテート、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチルエンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、メチルブテニルテトラヒドロ無水フタル酸、ドデセニル無水コハク酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、無水コハク酸、メチルシクロヘキセンジカルボン酸無水物、クロレンド酸無水物等が挙げられる。
これらの中でも常温、常圧で液状であるメチルテトラヒドロ無水フタル酸、メチル−5−ノルボルネン−2,3−ジカルボン酸無水物(メチルナジック酸無水物、無水メチルハイミック酸)、水素化メチルナジック酸無水物、メチルブテニルテトラヒドロ無水フタル酸、ドデセニル無水コハク酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸とヘキサヒドロ無水フタル酸の混合物が好ましい。これら液状の酸無水物は粘度が25℃での測定で10mPas乃至1000mPas程度である。
【0048】
また、上記硬化物を得る際、適宜、硬化助剤が併用されても良い。硬化助剤としてはトリフェニルホスフィンやトリブチルホスフィンなどの有機リン化合物、エチルトリフェニルホスフォニウムブロマイド、テトラブチルホスホニウムジチオリン酸ジエチル等の第4級ホスフォニウム塩、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデカン−7−エン、1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデカン−7−エンとオクチル酸の塩、オクチル酸亜鉛、テトラブチルアンモニウムブロミド等の第4級アンモニウム塩が挙げられる。これらの硬化助剤は、硬化剤1質量部に対して、0.001乃至0.1質量部の割合で含有することができる。
【0049】
本発明では式(1)で示されるエポキシ化合物と上記硬化剤と所望により硬化助剤を混合し硬化性組成物が得られる。これら混合は反応フラスコや撹拌羽根を用いて行うことができる。
混合は必要に応じて加熱混合方法により行われ、10℃乃至100℃の温度で0.5乃至1時間行われる。
【0050】
得られた液状エポキシ樹脂組成物つまり本発明の硬化性組成物は、液状封止材として用いるための適切な粘度を有する。液状の硬化性組成物は、任意の粘度に調製が可能であり、キャスティング法、ポッティング法、ディスペンサー法、印刷法等によりLED等の透明封止材として用いるために、その任意箇所に部分的封止ができる。液状の硬化性組成物を上述の方法で液状のまま直接にLED等に実装した後、乾燥し、硬化することによりエポキシ樹脂硬化体が得られる。
【0051】
硬化性組成物は基材に塗布、もしくは離型剤を塗布した注型板に注ぎ込んで、100乃至120℃の温度で予備硬化、120乃至200℃の温度で後硬化することにより硬化物が得られる。
【0052】
本発明の硬化性組成物は溶剤を含むことができる。例えばメタノール、エタノールなどのアルコール類、テトラヒドロフランなどのエーテル類、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルなどのグリコールエーテル類、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテートなどのエチレングリコールアルキルエーテルアセテート類、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテルなどのジエチレングリコール類、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテルなどのプロピレングリコールモノアルキルエーテル類、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールブチルエーテルアセテートなどのプロピレングリコールアルキルエーテルアセテート類、プロピレングリコールメチルエーテルプロピオネート、プロピレングリコールエチルエーテルプロピオネート、プロピレングリコールプロピルエーテルプロピオネート、プロピレングリコールブチルエーテルプロピオネートなどのプロピレングリコールアルキルエーテルアセテート類、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノンなどのケトン類、および酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、2−ヒドロキシプロピオン酸エチル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸メチル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸エチル、ヒドロキシ酢酸メチル、ヒドロキシ酢酸エチル、ヒドロキシ酢酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸プロピル、乳酸ブチル、3−ヒドロキシプロピオン酸メチル、3−ヒドロキシプロピオン酸エチル、3−ヒドロキシプロピオン酸プロピル、3−ヒドロキシプロピオン酸ブチル、2−ヒドロキシ−3−メチルブタン酸メチル、メトキシ酢酸メチル、メトキシ酢酸エチル、メトキシ酢酸プロピル、メトキシ酢酸ブチル、エトキシ酢酸メチル、エトキシ酢酸エチル、エトキシ酢酸プロピル、エトキシ酢酸ブチル、プロポキシ酢酸メチル、プロポキシ酢酸エチル、プロポキシ酢酸プロピル、プロポキシ酢酸ブチル、ブトキシ酢酸メチル、ブトキシ酢酸エチル、ブトキシ酢酸プロピル、ブトキシ酢酸ブチル、2−メトキシプロピオン酸メチル、2−メトキシプロピオン酸エチル、2−メトキシプロピオン酸プロピル、2−メトキシプロピオン酸ブチル、2−エトキシプロピオン酸メチル、2−エトキシプロピオン酸エチル、2−エトキシプロピオン酸プロピル、2−エトキシプロピオン酸ブチル、2−ブトキシプロピオン酸メチル、2−ブトキシプロピオン酸エチル、2−ブトキシプロピオン酸プロピル、2−ブトキシプロピオン酸ブチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、3−メトキシプロピオン酸プロピル、3−メトキシプロピオン酸ブチル、3−エトキシプロピオン酸メチル、3−エトキシプロピオン酸エチル、3−エトキシプロピオン酸プロピル、3−エトキシプロピオン酸ブチル、3−プロポキシプロピオン酸メチル、3−プロポキシプロピオン酸エチル、3−プロポキシプロピオン酸プロピル、3−プロポキシプロピオン酸ブチル、3−ブトキシプロピオン酸メチル、3−ブトキシプロピオン酸エチル、3−ブトキシプロピオン酸プロピル、3−ブトキシプロピオン酸ブチルなどのエステル類が挙げられる。
【0053】
塗膜の厚みは、硬化物の用途によって応じて、0.01μm乃至10mm程度の範囲から選択できる。
加熱時間は、1乃至12時間、好ましくは2乃至5時間程度で行うことができる。
【実施例】
【0054】
実施例1
水素化ナトリウム(純度は60%以上)10.5gにテトラヒドロフラン200mlを加え、0℃に冷却後、4℃以下で4−ペンテン−1−オール22.58gを滴下して加えた。滴下終了後、室温で2時間攪拌した。その後再び0℃に冷却し、2,4,6−トリクロロ−1,3,5−トリアジン11.9gをテトラヒドロフラン85mlに溶かして15℃以下でゆっくり滴下して加えた。室温で一晩反応後、水を加えて酢酸エチルで抽出、水洗後無水硫酸ナトリウムで乾燥、溶媒を留去して粗物21.9gを得た。カラム(酢酸エチル:ヘキサン=1:10)で精製して目的物である13.15gの2,4,6−トリ(4−ペンテン−1−オキシ)−1,3,5−トリアジンを透明オイルとして得た。収率60%、純度99.2%(GC)。
5.4gの2,4,6−トリ(4−ペンテン−1−オキシ)−1,3,5−トリアジンにクロロホルム85mlを加え0℃に冷却し、メタクロロ過安息香酸(純度約77%)9.0gを加え0℃から室温に徐々に温度を上げて一晩反応させた。10%チオ硫酸ナトリウム水溶液を加え抽出、炭酸水素ナトリウム水溶液で2回洗浄、水洗後無水硫酸ナトリウムで乾燥、溶媒を留去して粗物9.7gを得た。カラム(酢酸エチル:ヘキサン=1:1乃至4:1)で精製して目的物である4.8gの2,4,6−トリ(4、5−エポキシペンチル−1−オキシ)−1,3,5−トリアジン(式(1−3)に相当)を透明オイルとして得た。収率77%、純度98.9%(GC)。
【0055】
実施例2
水素化ナトリウム(純度は60%以上)16.6gにテトラヒドロフラン600mlを加え、0℃に冷却後、4℃以下で3−へキセン−1−オール40.1gを滴下して加えた。滴下終了後、室温で3時間攪拌した。その後再び0℃に冷却し、2,4,6−トリクロロ−1,3,5−トリアジン18.4gをテトラヒドロフラン120mlに溶かして15℃以下でゆっくり滴下して加えた。室温で一晩反応後、水を加えて酢酸エチルで抽出、水洗後無水硫酸ナトリウムで乾燥、溶媒を留去して粗物33.1gを得た。カラム(酢酸エチル:ヘキサン=1:10)で精製して目的物である23.22gの2,4,6−トリ(3−へキセン−1−オキシ)−1,3,5−トリアジンを透明オイルとして得た。収率61%、純度98.6%(GC)。
【0056】
22.5gの2,4,6−トリ(3−へキセン−1−オキシ)−1,3,5−トリアジンにクロロホルム300mlを加え0℃に冷却し、メタクロロ過安息香酸(純度約77%)49.7gを加え0℃から室温に徐々に温度を上げて一晩反応させた。10%チオ硫酸ナトリウム水溶液を加え抽出、炭酸水素ナトリウム水溶液で2回洗浄、水洗後無水硫酸ナトリウムで乾燥、溶媒を留去して粗物27.9gを得た。カラム(酢酸エチル:ヘキサン=1:4)で精製して目的物である18.6gの2,4,6−トリ(3,4−エポキシへキシル−1−オキシ)−1,3,5−トリアジン(式(1−5)に相当)を透明オイルとして得た。収率71%、純度96.8%(GC)。
【0057】
実施例3
水素化ナトリウム(純度は60%以上)16.6gにテトラヒドロフラン600mlを加え、0℃に冷却後、4℃以下で3−メチル−3−ブテン−1−オール34.5gを滴下して加えた。滴下終了後、室温で3時間攪拌した。その後再び0℃に冷却し、2,4,6−トリクロロ−1,3,5−トリアジン18.5gをテトラヒドロフラン110mlに溶かして15℃以下でゆっくり滴下して加えた。室温で一晩反応後、水を加えて酢酸エチルで抽出、水洗後無水硫酸ナトリウムで乾燥、溶媒を留去して粗物31.1gを得た。再結晶(酢酸エチル:ヘキサン=1:10)と濾液をカラム(酢酸エチル:ヘキサン=1:4)で精製して目的物である26.1gの2,4,6−トリ(3−メチル−3−ブテン−1−オキシ)−1,3,5−トリアジンを白色固体として得た。収率76%、純度97.0%(GC)。
【0058】
25.4gの2,4,6−トリ(3−メチル−3−ブテン−1−オキシ)−1,3,5−トリアジンにクロロホルム340mlを加え0℃に冷却し、メタクロロ過安息香酸(純度約77%)61.6gを加え0℃から室温に徐々に温度を上げて一晩反応させた。10%チオ硫酸ナトリウム水溶液を加え抽出、炭酸水素ナトリウム水溶液で2回洗浄、水洗後無水硫酸ナトリウムで乾燥、溶媒を留去して粗物22.4gを得た。再結晶(酢酸エチル:ヘキサン=3:1)で精製して目的物である18.3gの2,4,6−トリ(3−メチル−3,4−エポキシブチル−1−オキシ))−1,3,5−トリアジン(式(1−6)に相当)を白色固体として得た。収率63%、純度100%(GC)。
【0059】
実施例4
実施例1で得られた2,4,6−トリ(4,5−エポキシペンチル−1−オキシ)−1,3,5−トリアジン(エポキシ価7.79)10.33gに硬化剤としてMH700(新日本理化社製、成分は4−メチルヘキサヒドロ無水フタル酸とヘキサヒドロ無水フタル酸を70:30のモル比で混合したもの。)13.17gを加え室温で攪拌し、減圧下30分脱泡した。硬化助剤としてヒシコーリンPX−4ET(日本化学工業社製、成分はテトラブチルフォスフォニウムジエチルフォスフォロジチオエート)110mgを加え、再び攪拌脱泡後、3mmのシリコンラバーを挟み込んだガラス板(離型剤SR−2410処理)の間に流し込んで予備硬化100℃2時間、後硬化150℃5時間の条件で硬化した。
【0060】
曲げ強度:156.0MPa、曲げ弾性率:3009MPa、折れるまでの撓み:9.35MM、Tg(TMA):165℃、線膨張率(30乃至80℃):87.0ppm/℃、透過率(400nm):44.6%、煮沸吸水率(100時間):2.8%であった。
【0061】
実施例5
実施例2で得られた2,4,6−トリ(3,4−エポキシへキシル−1−オキシ)−1,3,5−トリアジン(エポキシ価7.01)12.61gに硬化剤としてMH700(新日本理化社製)14.46gを加え室温で攪拌し、減圧下30分脱泡した。硬化助剤としてヒシコーリンPX−4ET(日本化学工業社製)120mgを加え、再び攪拌脱泡後、3mmのシリコンラバーを挟み込んだガラス板(離型剤SR−2410処理)の間に流し込んで予備硬化100℃2時間、後硬化150℃5時間の条件で硬化した。
【0062】
曲げ強度:104.8MPa、曲げ弾性率:3238MPa、折れるまでの撓み:4.38mm、Tg(TMA):188℃、線膨張率(30乃至80℃):90.1ppm/℃、透過率(400nm):41.3%、煮沸吸水率(100時間):2.8%であった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の式(1)で得られるエポキシ化合物を用いる硬化性組成物は高い強度と優れた透過率を有するものであった。
本発明によると、液状でのハンドリングの良さを維持したまま、熱硬化により高い透明性や高い曲げ強度を兼ね備えた硬化物性を有するエポキシ化合物を用いた硬化性組成物を提供することができる。
【0064】
本発明の液状エポキシ化合物を用いた硬化材料は低粘度、速硬性、透明性、硬化収縮が小さい等の特徴を持ち電子部品、光学部品、精密機構部品の被覆や接着に用いることができる。例えば携帯電話機やカメラのレンズ、発光ダイオード(LED)、半導体レーザー(LD)などの光学素子、液晶パネル、バイオチップ、カメラのレンズやプリズムなどの部品、パソコンなどのハードディスクの磁気部品、CD、DVDプレヤーのピックアップ(ディスクから反射してくる光情報を取り込む部分)、スピーカーのコーンとコイル、モーターの磁石、回路基板、電子部品、自動車などのエンジン内部の部品等の接着に用いることができる。
【0065】
自動車ボディー、ランプや電化製品、建材、プラスチックなどの表面保護のためのハードコート材向けとしては、例えば自動車、バイクのボディー、ヘッドライトのレンズやミラー、メガネのプラスチックレンズ、携帯電話機、ゲーム機、光学フィルム、IDカード等への適用ができる。
【0066】
アルミニウム等の金属、プラスチックなどに印刷するインキ材料向けとしては、クレジットカード、会員証などのカード類、電化製品やOA機器のスイッチ、キーボードへの印刷用インキ、CD、DVD等へのインクジェットプリンター用インキへの適用が挙げられる。
【0067】
3次元CADと組み合わせて樹脂を硬化し複雑な立体物をつくる技術や、工業製品のモデル製作等の光造形への適用、光ファイバーのコーティング、接着、光導波路、厚膜レジスト(MEMS用)などへの適用が挙げられる。