(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基材上の少なくとも一部に印刷画像を有し、前記印刷画像は、情報部、背景部及び反射層から成り、前記背景部は、第一の色材から成る潜像要素が規則的に複数配置されて第二の有意情報を表して成る潜像要素群と、第二の色材から成るカモフラージュ要素が規則的に複数配置されて、前記潜像要素群をカモフラージュするカモフラージュ要素群とを有し、前記情報部は、前記第二の色材から成る複数の情報要素が配置されて第一の有意情報を表し、前記反射層は、明暗フリップフロップ性及び/又はカラーフリップフロップ性を備えた透明あるいは半透明な第三の色材によって形成され、前記基材の上に、前記第二の色材による前記情報部と前記カモフラージュ要素群を合わせた画像が形成され、その上に前記反射層が積層され、更にその上に前記第一の色材による潜像要素群が積層され、前記潜像要素、前記カモフラージュ要素及び前記情報要素は互いに重ならない配置であり、前記第一の色材と前記第二の色材は、ペアインキの特性を有し、可視光の拡散反射光下での観察条件では、前記反射層が透明又は半透明であるため、前記各要素の面積率の差によって、前記第一の有意情報が視認でき、特定の条件では、前記ペアインキの特性によって、前記第二の有意情報が視認でき、可視光の正反射光下での観察条件では、前記反射層が光を反射して前記反射層の下の各要素へ入射する光が遮蔽されることで前記第一の有意情報が消失し、前記反射層の上に積層された前記潜像要素群によって前記第二の有意情報が視認できることを特徴とする潜像印刷物。
前記各要素が画素である場合、前記情報要素は、前記潜像要素及び前記カモフラージュ要素のそれぞれの要素を囲んで配置されることを特徴とする請求項2記載の潜像印刷物。
前記情報部は、10%以上50%以下の面積率であり、前記背景部は、10%以上90%以下の面積率であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の潜像印刷物。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。しかしながら、本発明は、以下に述べる実施するための形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が含まれる。
【0019】
図1は、本発明の潜像印刷物(1)を示す図であり、潜像印刷物(1)は、基材(2)上の少なくとも一部に印刷画像(3)を備えて成る。基材は、上質紙、コート紙、フィルム、金属等、表面に画像を形成できる材質であれば、いかなる材料を用いても良い。また、基材(2)の色彩についても制限はなく、透明や不透明であっても問題なく、加えて、大きさについても特に制限はない。また、印刷画像(3)は基材(2)と異なる透明以外の色彩を有していれば、いかなる色彩であってもよい。
【0020】
まず、本発明の印刷画像(3)の構成を
図2に示す。印刷画像(3)は、フラットな階調で構成された背景部(4)と、第一の有意情報を表した情報部(5)及び反射層(6)の少なくとも3つを有する。この中でも、背景部(4)は第二の有意情報を表した潜像要素群(7)と、潜像要素群(7)をカモフラージュするカモフラージュ要素群(8)の少なくとも2つの構造を有する。なお、本実施の形態における第一の有意情報とはアルファベットの「A」の文字を指し、第二の有意情報とはアルファベットの「B」の文字を指す。
【0021】
まず、背景部(4)と情報部(5)の構成について説明する。背景部(4)は、
図3(a)の拡大図に示すように、画線幅(W1)の画線である背景要素(9)が第一の方向(図中S1方向)にピッチ(P1)で規則的に複数配置されてフラットな階調を表して成る。このとき、背景部(4)をフラットな階調とするため、背景要素(9)は、一定の画線幅(W1)で形成される。
【0022】
本発明において、背景要素(9)が画線で形成される場合の「規則的に配置」とは、複数の背景要素(9)が画線の方向と異なる第一の方向にピッチ(P1)で配置された状態のことである。
図3(a)では、図面中における横方向の画線で形成された背景要素(9)に対して、第一の方向(S1)を縦方向としてピッチ(P1)で配置された状態を示しているが、背景要素(9)が配置される方向は、画線の方向と異なる方向であれば良く、
図3に示す方向に限定されるものではない。例えば、縦方向の画線で形成された背景要素(9)に対して、横方向にピッチ(P1)で配置されても良いし(図示せず)、左斜めに傾斜した画線で形成された背景要素(9)に対して、右斜め方向にピッチ(P1)で配置されても良い。
【0023】
また、本実施の形態において情報部(5)は、
図3(b)の拡大図に示すように、画線幅(W2)の画線である情報要素(10)が第一の方向(図中S1方向)にピッチ(P1)で規則的に複数配置されて第一の有意情報であるアルファベットの「A」の文字を表して成る。
【0024】
本発明において、情報要素(10)が画線で形成される場合の「規則的に配置」とは、複数の情報要素(10)が画線の方向と異なる第一の方向にピッチ(P1)で配置された状態のことである。情報要素(10)においても、情報要素(10)を配置する方向は、
図3(b)に示す方向に限定されるものではないが、情報要素(10)を配置する方向は、背景要素(9)を配置する方向と同じ方向である。
【0025】
背景要素(9)と情報要素(10)は印刷画像(3)の中に、お互い重なり合うことなく配置されることによって、印刷画像(3)の中に面積率の差異による濃淡が生まれ、本発明の潜像印刷物(1)を可視光の拡散反射光下の観察条件で観察した場合には、背景部(4)が作り出したフラットな階調の中に、背景部(4)と異なる濃淡を有した情報部(5)が第一の有意情報を表して視認できる。なお、本発明における面積率とは、基材(2)の一定の面積の中に印刷される各要素の面積の割合のことである。
図3(b)に示す複数の情報要素(10)は、全て画線幅(W2)が同じであるので、可視光の拡散反射光下の観察条件でも一定の濃度の第一の有意情報が視認できるが、画線幅(W2)を部分的に異ならせることで、階調のある第一の有意情報を表すことも可能である。
【0026】
本実施の形態では、
図3(b)に示すように、情報要素(10)が規則的に配置される構成について説明するが、情報要素(10)と背景要素(9)が重ならない配置であれば、印刷画像(3)の中に面積率の差異による濃淡が生まれて有意情報を表すことができるので、情報要素(10)は、規則的な配置としなくても良い。所望とする第一の有意情報の濃淡に応じて、背景要素(9)と重ならないように、適宜、情報要素(10)を配置すれば良い。
【0027】
図3に示す背景要素(9)と情報要素(10)は、画線で構成される例を示しているが、本発明において、背景要素(9)と情報要素(10)は、画素又は画線と画素の組み合わせで構成されても良い。なお、本明細書でいう「画線」とは、網点を一定方向に一定の距離の間、連続して配置して構成した画像要素であって、点線や破線の分断線、直線、曲線及び波線のことであり、如何なる画線形状で構成しても本発明の技術的思想の範囲に含まれる。また、本明細書でいう「画素」とは、印刷画像(3)を構成する最小単位である印刷網点自体か、印刷網点を複数集合させて形成した一塊の画像要素であって、例えば円、三角形や四角形等を含む多角形、星形等の各種図形、文字や記号等が含まれ、画素の形状は如何なるものであっても本発明における画素に含まれるものとする。本実施の形態では、はじめに、背景要素(9)及び情報要素(10)が画線で構成される例について説明する。
【0028】
背景部(4)は、
図4(a)に示す潜像要素群(7)と
図4(b)に示すカモフラージュ要素群(8)から成る。前述したように、背景部(4)を構成するのは背景要素(9)であるが、本発明において背景要素(9)は、形成する色材の違いによって、
図4(a)に示す潜像要素群(7)とカモフラージュ要素群(8)に区分けされる。潜像要素群(7)とカモフラージュ要素群(8)を形成する色材については後述するが、以降の説明では、潜像要素群(7)を構成する要素のことを「潜像要素(11)」、カモフラージュ要素群(8)を構成する要素のことを「カモフラージュ要素(12)」として説明する。
【0029】
潜像要素群(7)は、画線幅(W1)の潜像要素(11)が第一の方向(図中S1方向)にピッチ(P1)で規則的に複数配置されて第二の有意情報であるアルファベットの「B」の文字を表して成り、カモフラージュ要素群(8)は、画線幅(W1)のカモフラージュ要素(12)が、第一の方向(図中S1方向)にピッチ(P1)で規則的に複数配置されて第二の有意情報を表して成る。
【0030】
カモフラージュ要素群(8)は潜像要素群(7)と対を成しており、潜像要素群(7)を背景部(4)のフラットな階調の中に隠蔽する働きを成す。本実施の形態の画線構成においては、潜像要素群(7)が第二の有意情報をポジで形成された場合には、カモフラージュ要素群(8)は第二の有意情報をネガで形成され、逆に潜像要素群(7)が第二の有意情報をネガで形成された場合には、カモフラージュ要素群(8)は第二の有意情報をポジで形成される必要があって、潜像要素群(7)とカモフラージュ要素群(8)は常にネガポジ反転した関係にある。また、潜像要素群(7)とカモフラージュ要素群(8)は目視上等色に視認できる色彩で形成される。
【0031】
なお、本発明でいうポジとは、
図4(a)に示すように、有意情報自体が濃く、一方の有意情報の周囲は淡い状態とし、本発明でいうネガとは、
図4(b)に示すように、有意情報自体が淡く、一方の有意情報の周囲は濃い状態を指す。前述したように、背景部(4)は、フラットな階調を表す必要があることから、潜像要素(11)とカモフラージュ要素(12)は、同一線上に配置されるのが好ましいが、潜像要素(11)とカモフラージュ要素(12)がずれていても、目視上、背景部(4)がフラットな階調として視認できる範囲であれば、本発明でいう背景部(4)の技術的思想の範囲に含まれ問題はない。以上が、本発明の潜像印刷物(1)の印刷画像(3)における基本的な画線構成である。
【0032】
次に、反射層(6)について説明する。反射層(6)は透明、あるいは半透明で透過性を有し、かつ、光が入射した場合に強く反射する特性を有する必要がある。なお、ここでいう半透明とはベタで印刷した場合でも下地が透けて見える程度の透過性を指す。また、反射光に強弱のムラが生じることは望ましくないことから、反射層(6)の面積率は全面にわたって一定であることが望ましい。なお、反射層(6)を形成する具体的な形成方法や材料ついては後述する。
【0033】
続いて、それぞれの要素を形成する色材について説明する。潜像印刷物(1)を形成するためには少なくとも3種類の色材を必要とする。3種類の色材としては、まず、可視光の拡散反射光下の観察条件(以下「第一の観察条件」という。)で等色であって、特定の観察条件(以下「第三の観察条件」という。)では視認性が異なる関係の第一の色材と第二の色材がある。なお、第一の色材と第二の色材は、基材(2)と異なる色を有している。
【0034】
本発明において、「等色」とは、可視光の下で観察者が二つの観察対象の拡散反射光を特に注意せずに一瞥した場合に、同じ色であると感じる状態のことであり、本発明では、二つの観察対象の色差ΔEが6.0以下の値にある状態のことである。ここでいう色差ΔEとは、CIE1976L
*a
*b
*表色系で定義されるΔEのことである。CIE1976L
*a
*b
*表色系とは、CIE(国際照明委員会)が1976年に推奨した色空間のことであり、日本工業規格では、JIS Z 8729に規定されている。CIE1976L
*a
*b
*表色系では、二色のL
*の差、a
*の差およびb
*の差をそれぞれ二乗して加え、その平方根をとったものが色差ΔEとなる。また、「第三の観察条件」とは、本発明の潜像印刷物(1)を真偽判別する時の一つの条件であり、詳細については後述する。
【0035】
本発明に用いる第一の色材と第二の色材は、従来の偽造防止を目的とする印刷物において「ペアインキ」として用いられている。本発明において「ペアインキ」とは、拡散反射光下の観察条件で等色であって、第三の観察条件では色彩が異なる特性のインキを1組のペアとしたインキのことである。ペアインキで形成された二つの画像は、第一の観察条件では等色であって区別されないが、真偽判別する第三の観察条件の時に視認性が異なって、一方の画像が可視化される。詳細には、第一の色材は、第三の観察条件で第二の色材よりも濃く観察される特性を有し、第二の色材は第三の観察条件で不可視となるか、あるいは不可視に近い程度に視認性が低下する特性を有し、第三の条件で第一の色材と第二の色材は視認性が異なる。本発明においても、このペアインキの特性を有する第一の色材と第二の色材を用いる。なお、このような特性を有する第一の色材及び第二の色材の具体例については後述する。
【0036】
潜像印刷物(1)を形成するための3種類の色材は、第一の色材と第二の色材に加え、第一の色材で形成した画像と、第二の色材で形成した画像の中間に配置される反射層(6)を形成する、透明あるいは半透明な第三の色材がある。第三の色材は、可視光の正反射光下の観察条件(以降、第二の観察条件という)で視認可能であり、第三の色材に要求される光学特性と具体例については後述する。
【0037】
図5にそれぞれの色材で形成する画像を示す。第一の色材で潜像要素群(7)を形成し、第三の色材で反射層(6)を形成し、第二の色材で情報部(5)とカモフラージュ要素群(8)を合わせた画像(13)を形成する。それぞれの画像の印刷方式は、オフセット印刷、凸版印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、凹版印刷等、如何なる方式を用いても良く、機能性が発揮されるのであればインキジェットプリンターやレーザプリンター等のデジタル印刷機器を用いて形成しても良い。
【0038】
図6に、本発明の潜像印刷物(1)の層構造を示し、それぞれの画像の積層順序について説明する。まず、基材(2)上に第二の色材で情報部(5)とカモフラージュ要素群(8)を合わせた画像(13)を形成し、続いて第三の色材で反射層(6)を形成する。最後に反射層(6)の上に、第一の色材で潜像要素群(7)を形成することで、本発明の潜像印刷物(1)を作製することができる。本発明の潜像印刷物(1)の作製において、情報部(5)とカモフラージュ要素群(8)を合わせた画像と反射層(6)の位置関係は特に精密な刷り合わせを要求するものではなく、刷り合わせが数ミリ程度ずれたとしても潜像印刷物(1)の画像のチェンジ効果自体が減じることはなく、真偽判別機能を損なうものではない。また、反射層(6)と潜像要素群(7)の位置関係も同様に、精密な刷り合わせを要求するものではない。ただし、情報部(5)とカモフラージュ要素群(8)を合わせた画像(13)と潜像要素群(7)の刷り合わせは精度よく嵌めあわす必要がある。わずかでも刷り合わせがずれた場合には、2つの画像の間に生じた白ヌキ部や重畳部によって必要のない濃淡が生じ、第一の観察条件で観察する画像が不明瞭となったり、本来隠蔽されていなければならない第二の有意情報が読み取られたりする場合があることから注意が必要である。
【0039】
続いて、本発明の潜像印刷物(1)を用いて選択し得る、真偽判別可能な第三の観察条件の具体例について説明する。なお、本発明の潜像印刷物(1)の真偽判別を行うための第一の観察条件とは、詳細には、可視光である400nmから700nmまでの波長の光が印刷物に入射し、印刷物から生じる正反射光がほとんどない位置から印刷物を裸眼で観察する、いわゆる拡散反射光が支配的な観察角度から観察する条件を指す。また、第二の観察条件とは、詳細には、可視光である400nmから700nmまでの波長の光が印刷物に入射し、印刷物から生じる正反射光が支配的な観察角度から印刷物を裸眼で観察する条件を指す。また、第三の観察条件は、第一の観察条件と第二の観察条件以外の条件で考えうるあらゆる条件を含む。
【0040】
本発明において選択可能な第三の観察条件について、いくつかの例を
図7から
図11までに示し、そのために第一の色材と第二の色材に要求される性能を説明する。
【0041】
図7に示すのは、第一の色材に赤外線吸収能を有する黒インキ(例えばカーボンブラック)を用い、第二の色材に赤外線吸収能を有さない黒インキ(例えばクロモファインブラックあるいはYMCの合成色の黒)を用いて潜像印刷物(1)を形成した例である。なお、
図7(a)は、前述した第一の観察条件を模式的に示す図であり、可視光である400nmから700nmまでの波長の光が光源(14)から印刷物(1)に照射され、視点(15a)から拡散反射光を観察する状態を示している。また、
図7(b)は、前述した第三の観察条件を模式的に示す図である。この例においては赤外線で潜像印刷物(1)を観察する条件が第三の観察条件であり、
図7(b)は、視点(15b)から赤外線ビューアー(16)を用いて観察する状態を示している。また、
図7(c)は、前述した第二の観察条件を模式的に示す図であり、可視光である400nmから700nmまでの波長の光が光源(14)から印刷物(1)に照射され、視点(15c)から正反射光を観察する状態を示している。
【0042】
そして、
図7(a)に示すように第一の観察条件で観察した場合には、第一の有意情報が視認でき、
図7(c)に示すように第二の観察条件で観察した場合と、
図7(b)に示すように赤外線ビューアー(16)を用いて観察した場合には、第二の有意情報が視認できる。
【0043】
以下に、このような効果が生じる原理について説明する。第一の色材と第二の色材は第一の観察条件下で等色関係にあり、反射層(6)は透過性を有することから、第一の観察条件で観察した場合には、背景部(4)のフラットな階調の中に隠蔽されて不可視である。よって、第一の観察条件下では第一の有意情報が濃淡の差によって視認できる。
【0044】
一方の第二の観察条件においては、反射層(6)が光を強く反射することで反射層(6)の下に存在する情報部(5)とカモフラージュ要素群(8)を合わせた画像(13)は隠蔽されて不可視となるか、あるいは不可視に近い淡い色彩へと変化する。一方、潜像要素群(7)は反射層(6)の上に重ねられていることから、反射層(6)による明度上昇の影響を受けない。よって、第二の観察条件では反射層(6)の下の画像は明るく、上の画像は変化しないことで、強い光のコントラストが生じ、第二の有意情報が可視化され視認できる。なお、第二の観察条件で第二の有意情報が視認できる原理については、後述する例についても同様である。第三の観察条件では赤外線を吸収する領域は暗く、吸収しない領域は明るく観察される。よって、赤外線吸収能を有する第一の色材で形成された第二の有意情報のみが可視化される。以上の原理によって、第一の観察条件、第二の観察条件及び第三の観察条件で画像のチェンジ効果が発揮され、そのチェンジ効果を確認することで潜像印刷物(1)の真偽判別を行うことができる。なお、この赤外線で真偽判別する形態については実施例2で具体的に説明する。
【0045】
図8に示すのは、第一の色材に640nmから700nmの波長の光を吸収する茶色インキを用い、第二の色材に640nmから700nmの波長の光を吸収しない茶色インキ(例えば特許第4461234号公報に記載のメタメリックペアインキ)を用いて潜像印刷物(1)を形成した例である。この例においては640nmから700nmまでの限定された波長域の可視光で潜像印刷物(1)を観察する条件が第三の観察条件となる。よって、
図8(a)に示すように第一の観察条件で観察した場合には、第一の有意情報が視認でき、
図8(c)に示すように第二の観察条件で観察した場合と、
図8(b)に示すように640nm以下の可視光をカットするシャープカットフィルタ(富士フィルム製 SC64)(17)を用いて観察した場合には、第二の有意情報が視認できる。
【0046】
図9に示すのは、第一の色材に紫外線で励起して発光する着色インキを用い、第二の色材に紫外線で発光しない着色インキを用いて潜像印刷物(1)を形成した例である。この例においては紫外線を照射して潜像印刷物(1)を観察する条件が第三の観察条件となる。よって、
図9(a)に示すように第一の観察条件で観察した場合には、第一の有意情報が視認でき、
図9(c)に示すように第二の観察条件で観察した場合と、
図9(b)に示すように紫外線を照射する光源(18)の下で観察した場合には、第二の有意情報が視認できる。
【0047】
図10に示すのは、第一の色材に通常の青色インキを用い、第二の色材に温度が上昇することで透明に変化する青色のサーモクロミックインキを用いて潜像印刷物(1)を形成した例である。この例においては熱風を吹きつけながら潜像印刷物(1)を観察する条件が第三の観察条件となる。よって、
図10(a)に示すように第一の観察条件で観察した場合には、第一の有意情報が視認でき、
図10(c)に示すように第二の観察条件で観察した場合と、
図10(b)に示すようにドライヤー(19)でサーモクロミックインキの温度変化に応じた温度の熱風を吹き付けながら観察した場合には、第二の有意情報が視認できる。
【0048】
図11に示すのは、第一の色材に光透過性の低い青色の通常のプロセスシアンインキを用い、第二の色材に相対的に光透過性の高い青色の有色浸透インキを用いて潜像印刷物(1)を形成した例である。この例においては透過光で潜像印刷物(1)を観察する条件が第三の観察条件となる。よって、
図11(a)に示すように第一の観察条件で観察した場合には、第一の有意情報が視認でき、
図11(c)に示すように第二の観察条件で観察した場合と、
図11(b)に示すように光に透かして観察した場合には、第二の有意情報が視認できる。この例では第三の観察条件もいかなる道具も必要としない観察条件であり、第二の観察条件及び第三の観察条件の2つの条件で、万人が容易に真偽判別を行うことができる。この形態については実施例1で具体的に説明する。
【0049】
以上の例はあくまで一例であるが、本発明の潜像印刷物(1)は印刷画像(3)を形成する第一の色材と第二の色材の特性を変えることによって、自由に第三の観察条件を選択することができ、第一の色材と第二の色材の機能に応じて様々な真偽判別方法を選択付加できる。前述した第一の色材と第二の色材の他の例としては、フォトクロミック材料や応力発光材料、液晶材料、撥水材料等の様々な機能性材料でペアの色材を構成することで、強い光を照射したり、せん断力を与えたり、偏光フィルタを用いたり、水をかけたり等、あらゆる条件で真偽判別を行うことが可能となる。
【0050】
なお、第二の観察条件は正反射光下での観察であるため、正反射光下で光を強く反射して視認される効果のあるメタリック顔料やパール顔料を第二の色材に配合し、第一の色材はこれらを配合せず第二の色材と等色の色材とし、拡散反射光下で等色であって、正反射光下で異色に変化することを特徴としたペアの色材を用いてはならない。その理由は、第二の観察条件が第三の観察条件と同じ正反射光下の観察条件となり、潜像印刷物(1)が目的とする2つ以上の異なる観察条件でチェンジ効果を確認して真偽判別を行うことができなくなるためである。
【0051】
反射層(6)を形成する方法と第三の色材の具体的な材料について説明する。反射層(6)は、前述したように光を強く反射する特性を有する材料で形成される必要がある。反射層が光を反射する特性は、光を反射した場合に明度が上昇する特性、いわゆる明暗フリップフロップ性であっても良いし、光を反射した場合に色相が変化する特性、いわゆるカラーフリップフロップ性であっても良い。いずれかの特性を備えない場合には、第二の観察条件下で出現する第二の有意情報が視認しづらいか、あるいは視認不可能になることから避けなければならない。
【0052】
明暗フリップフロップ性を付与するには、第三の色材として光沢度の高い樹脂を含むインキを用いることができる。また、カラーフリップフロップ性を付与するには、第三の色材として物体色を有さず、かつ、カラーフリップフロップ性を有する機能性顔料を配合したインキを用いることができる。第三の色材の付与方法は、印刷、スプレー、コーティング等のインキや塗工液で被覆する方法の他に、フィルムの貼付等の方法でも形成することができる。
【0053】
このようなカラーフリップフロップ性を備えた材料としては、近年、多種多様な顔料が販売されているが、現在市販されている代表的な顔料としては、虹彩色パール顔料、鱗片状マイカ顔料、鱗片状金属顔料、ガラスフレーク顔料、コレステリック液晶顔料等が存在する。また、フィルムを貼付する場合、単なる透明フィルムを貼付した場合には明暗フリップフロップ性が付与でき、透明ホログラムシートや薄膜干渉フィルム等を貼付した場合にはカラーフリップフロップ性が付与できる。
【0054】
なお、第三の色材がカラーフリップフロップ性を備える場合には、第二の観察条件で可視化される第二の有意情報に鮮やかな色を付与でき、豊かな色彩表現が可能となるとともに、通常の明暗フリップフロップ性しか備えない構成とした潜像印刷物(1)よりも偽造が困難となるため、本発明の潜像印刷物(1)を構成する上で、最も望ましい形態であるといえる。
【0055】
なお、反射層(6)が透明な場合は言うまでもないが、反射層(6)が半透明である場合でも、第一の色材と第二の色材自体が等色であるならば、半透明な反射層(6)の上に第一の色材が形成された構造と、反射層の下に第二の色材が形成された構造とは、色材と反射層の層構造が上下逆転しているにも関わらず、等色性が維持される。これは新たに見出した本発明を形成するための不可欠な現象である。この現象を見出したことによって、反射層(6)を形成する第三の色材に虹彩色パール顔料、鱗片状マイカ顔料、鱗片状金属顔料、ガラスフレーク顔料、コレステリック液晶顔料等のカタログ上は透明と記載されていても、実際には完全に透明というわけではない機能性材料を混合することが可能となり、潜像印刷物(1)にカラーフリップフロップ性を容易に付与することが可能となった。
【0056】
なお、反射層(6)が不透明であって、下地の色を完全に隠蔽してしまう場合には、反射層(6)の上に重ねられた第一の色材と、反射層の下に形成された第二の色材の等色関係は当然のことながら成り立たたず、潜像印刷物(1)の効果が失われることから、不透明な反射層(6)を形成することは避けなければならない。
【0057】
反射層(6)は第三の観察条件において発揮される第一の色材と第二の色材の機能性を大きく阻害するものであってはならない。また、第三の観察条件において第一の色材が可視化される濃度や色彩と同一の濃度や色彩に変化してはならない。仮に、
図11(b)に示すように第三の観察条件が透過光での観察だとすると、反射層(6)は少なくとも光を透過する性質を有していなければならない。仮に、
図7(b)に示したように、第三の観察条件が赤外線での観察だとすると、反射層は赤外線吸収能を有さないことが望ましく、仮に有していたとしても、第一の色材の赤外線領域での吸収能と同じ程度の吸収能を有していてはならない。同じ吸収能を有する場合には、第三の観察条件で観察した場合に第二の有意情報を表す潜像要素群(7)と反射層(6)を同じ程度の濃度として視認してしまい、第二の有意情報が視認不可能になるためである。
【0058】
さらに、情報部(5)および背景部(4)の面積率に関する制約について説明する。第二の観察条件において第一の有意情報を第二の有意情報へと劇的にチェンジさせるためには、第一の有意情報を目視上不可視か、あるいは不可視に近い状態へと変化させる必要がある。しかし、情報部(5)と背景部(4)の濃淡の差が大きすぎる場合、第二の観察条件において目視上不可視か、あるいは不可視に近い状態へと変化させることは困難となる。よって、情報部(5)の濃淡(面積率)には制約を設ける必要がある。具体的には網点面積率で10%以上50%以下の範囲で形成することが望ましい。10%未満の面積率で情報部(5)を形成した場合には第一の観察条件下で観察される第一の有意情報の視認性が低くなりすぎる場合があり、50%を超える面積率で情報部(5)を形成した場合には第二の観察条件下で不可視とならない場合があるためである。
【0059】
また、背景部(4)の面積率は10%以上90%以下とする必要がある。この理由は、10%未満の面積率で背景部(4)を構成した場合、潜像要素群(7)も10%未満の面積率で構成されることとなり、機能性に優れた如何なる材料を用いたとしても、第三の観察条件において充分に視認性の高い第二の有意情報を出現させることは困難であり、一方90%を超える面積率で形成した場合には、情報部(5)に割り当てることができる面積率が10%未満と成り、第一の有意情報の視認性が低下するため望ましくない。
【0060】
また、反射層(6)は、第二の観察条件で光を強く反射して反射層(6)の下に存在する情報部(5)とカモフラージュ要素群(8)を隠蔽する必要があり、強い反射光を得るために好ましくはベタ印刷で形成するのが良いが、反射層(6)の下の情報部(5)を隠蔽できる範囲であれば、シャドー濃度の一定の面積率で形成しても良い。
【0061】
以上の説明は、背景要素(9)と情報要素(10)が画線で形成される構成について説明したが、続いて、画素で形成される構成について説明する。
【0062】
図12は、背景要素(9)と情報要素(10)が画素で形成される場合の印刷画像(3’)を示す図である。
図12(a)の拡大図に示すように、背景部(4’)は、高さ(H1)、幅(R1)の円形の画素である背景要素(9’)がピッチ(P1)で規則的に複数配置されてフラットな階調を表して成る。
【0063】
本発明において、背景要素(9’)が画素で形成される場合の「規則的に配置」とは、複数の背景要素(9’)がピッチ(P1)で二つの異なる方向にマトリクス状に配置された状態のことである。
図12(a)では、背景要素(9’)が上下左右方向の二つの方向に特定のピッチで配置された状態を示しているが、二つの異なる方向は、上下左右方向に限定されず、斜め方向であっても良い。
【0064】
また、情報部(5’)は、
図12(b)の拡大図に示すように、高さ(H2)、幅(R2)の円形の画素である情報要素(10’)が、ピッチ(P2)で規則的に複数配置されて、第一の有意情報であるアルファベットの「A」の文字を表して成る。情報要素(10’)が規則的に配置される構成については、背景要素(9’)が画素で構成される場合と同様であるので説明を省略する。
【0065】
図12(b)に示す情報要素(10’)の大きさは、情報要素が画線で構成される場合と同様に、複数の情報要素(10’)が全て同じ大きさの画素で形成しても良いし、部分的に異なる大きさの画素で形成しても良い。部分的に異なる大きさの画素で形成した場合には、階調のある第一の有意情報を表すことが可能となる。
【0066】
前述したように、情報要素(10’)と背景要素(9’)は、重なり合わないように配置される。情報要素(10’)と背景要素(9’)が画素で構成される潜像印刷物(1)は、実施例2で説明する。
【0067】
以上に説明した本発明の潜像印刷物(1)は、情報要素(10)と背景要素(9)が画線及び画素のいずれか又は画線と画素の組み合わせで構成され、互いに重ならない構成について説明したが、本発明の潜像印刷物(1)において印刷画像(3)は、第一の有意情報を表した情報部(5)、一定の階調の背景部(4)及び反射層(6)から成る構成であり、背景部(4)の中に潜像要素群(7)がカモフラージュされて不可視化されて隠蔽されている構成であれば良く、以上に説明した実施の形態の変形例の画線構成について以下に説明する。
【0068】
例えば、特許第4461234号公報に記載の技術のように、本発明のカモフラージュ要素(12’’)と潜像要素(11’’)が情報要素(10’’)によって囲まれる配置の画線構成がある。この構成の具体例について
図13を用いて説明する。
【0069】
図13(a)は、複数の潜像要素(11’’)によって形成される潜像要素群(7’’)を示しており、
図13(b)は、複数のカモフラージュ要素(12’’)によって形成されるカモフラージュ要素群(8’’)と複数の情報要素(10’’)によって形成される第一の有意情報を示している。
【0070】
このとき、潜像要素群(7’’)とカモフラージュ要素群(8’’)は、前述したネガポジの関係となっており、印刷画像(3’’)が形成されたとき、第二の有意情報であるアルファベットの「B」の文字は隠蔽される。このような潜像要素(11’’)とカモフラージュ要素(12’’)に対して、情報要素(10’’)は、
図13(b)に示すように、カモフラージュ要素(12’’)に隣接して囲むリング状の画素(縦線で図示)となっている。また、
図13(b)において、カモフラージュ要素(12’’)を囲んでいない情報要素(10’’)に対しては、反射層(6’’)の上に形成する潜像要素(11’’)が嵌り合う位置関係で形成されて、結果的に印刷画像(3’’)の中では、潜像要素(11’’)とカモフラージュ要素(12’’)の区別ができなくなる。そして、第一の観察条件では、潜像要素(11’’)とカモフラージュ要素(12’’)が作り出したフラットな階調の中に、情報要素(10’’)が配置されることで面積率の差が生じて第一の有意情報が観察できる。このような構成とした場合においても、本発明の実施の形態で説明した潜像印刷物(1)と同様な効果が得られる。
【0071】
また、
図13に示す印刷画像(3’’)の構成に対して、情報要素(10’’)同士が隣接し、第一の有意情報が連続的な階調画像を表す構成としても良い。
図3や
図12で示す構成の場合、基材(2)を色材で完全に覆っていないため、基材(2)の一部も視認できてしまうが、この構成とすることで、第一の観察条件で視認性の良い第一の有意情報を視認することができる。なお、この構成については、実施例2で説明する。
【0072】
以下、前述の発明を実施するための形態にしたがって、具体的に作成した潜像印刷物の実施例について詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
【0073】
(実施例1)
実施例1について、
図14から
図19を用いて説明する。実施例1は、第三の観察条件を透過光での観察とした潜像印刷物を作製した例である。
【0074】
図14に潜像印刷物(1−1)を示す。潜像印刷物(1−1)は、白色の一般的な上質紙(フォーム用紙 日本製紙製)に淡い青色の印刷画像(3−1)が形成されて成る。
【0075】
図15に実施例1の印刷画像(3−1)の構造の概要を示す。印刷画像(3−1)は、フラットな階調で構成された背景部(4−1)と、第一の有意情報を表した情報部(5−1)及び反射層(6−1)の少なくとも3つの構造を有する。この中でも、背景部(4−1)は第二の有意情報を表した潜像要素群(7−1)と、潜像要素群(7−1)をカモフラージュしたカモフラージュ要素群(8−1)の少なくとも2つの構造を有する。なお、実施例1における第一の有意情報とはアルファベットの「A」の文字を指し、第二の有意情報とはアルファベットの「B」の文字を指す。
【0076】
図16を用いて背景部(4−1)と情報部(5−1)の構成について説明する。背景部(4−1)は、画線幅0.2mmの背景要素(9−1)を第一の方向(図中S1方向)にピッチ0.4mmで規則的に複数配置してフラットな階調を表し、情報部(5−1)は、画線幅0.1mmの情報要素(10−1)を第一の方向(図中S1方向)にピッチ0.4mmで規則的に複数配置して第一の有意情報を表して成る。背景要素(9−1)と情報要素(10−1)は印刷画像(3−1)の中に、お互い重なり合うことなく配置されて成るために、第一の観察条件では背景部(4−1)が作り出したフラットな階調の中に、背景部(4−1)と異なる濃淡を有した情報部(5−1)が第一の有意情報を表して視認できる。
【0077】
図17に背景部(4−1)の詳細な構成を示す。背景部(4−1)は、画線幅0.2mmの潜像要素(11−1)を第一の方向(図中S1方向)にピッチ0.4mmで連続して複数配置して第二の有意情報を表した潜像要素群(7−1)と、画線幅0.2mmのカモフラージュ要素(12−1)を第一の方向(図中S1方向)にピッチ0.4mmで連続して複数配置して潜像要素群(7−1)と対を成して第二の有意情報を表したカモフラージュ要素群(8−1)とを有する。
【0078】
図18にそれぞれの色材で形成する画像を示す。第一の色材で潜像要素群(7−1)を形成し、第三の色材で反射層(6−1)を形成し、第二の色材で情報部(5−1)とカモフラージュ要素群(8−1)を合わせた画像(13−1)を形成する。実施例1において、第一の色材は通常の淡い青色のインキを用い、第二の色材は表1に示す配合のインキを用い、第三の色材は表2に示すインキを用いた。第一の色材については、通常のUVオフセット印刷用藍インキ(T&K TOKA製)をUVインキ用ワニスで約20倍に薄めて作製した。第一の色材及び第二の色材は、いずれも淡い青色であり、同じ面積率で基材に印刷した場合には、拡散反射光下の観察において等色に見えるよう微量の他の色材を加えて調色した。
【0081】
続いて、第二の色材について説明する。表1に示す第二の色材は有色浸透インキと呼ばれる機能性インキである。以下に有色浸透インキについて説明する。この有色浸透インキとは、透かしインキに色材として着色顔料を混合したインキであって、この有色浸透インキで形成した画像は、透かした場合に画像が消失するという特別な効果を有する。もともと、通常の透かしインキで形成した画像は、拡散反射光下ではほぼ透明であって、透かすと画像が明るく見える効果を有する。これは透かしインキがセルロースの屈折率(1.49)に近い樹脂やワックス、動植物油等で構成されており、これらの成分が用紙の中に存在するセルロース繊維間の空隙を埋め、主として用紙内部における光の散乱を抑制することで光の透過率を上げる働きを成すためである。
【0082】
この透かしインキに着色顔料を混合した場合、透明だったインキは着色顔料によって着色されるため、物体色を有する透かしインキとなる。当然のことながら、着色顔料の混合割合を増やすことで、顔料が光を吸収する現象によって、透かしインキが有していた、透かした場合に画像が明るく見える効果が徐々に損なわれるが、着色顔料の配合割合を適正な量とした場合には、透かしインキによる用紙内部の光の散乱の減少と、着色顔料による光の吸収がバランスして、拡散反射光下の観察条件では物体色を有した画像が、透かした場合に消失する効果を実現するインキとなる。実施例1において、第二の色材に用いた有色浸透インキとは以上のような効果を奏する。
【0083】
続いて第三の色材について説明する。第三の色材は、虹彩色パール顔料を配合したUVスクリーンインキである。このインキで形成した画像は、拡散反射光下の観察条件ではやや白みがかった半透明な色彩を有し、正反射光下の観察条件ではパール顔料に由来する金色の干渉色を発する画像となり、いわゆるカラーフリップフロップ性を備えた反射層(6−1)を形成することができる。また、透過光で観察すると、金色(黄色)の補色である紫色を呈する。
【0084】
以上の第一の色材、第二の色材、第三の色材を用い、以下に説明する順で印刷画像(3−1)を形成した。まず、第一の色材によって情報部(5−1)とカモフラージュ要素群(8−1)を合わせた画像(13−1)をウェットオフセット印刷方式で形成し、続いて第三の色材を用いて反射層(6−1)をスクリーン印刷方式で形成し、最後に潜像要素群(7−1)を反射層(6−1)の上にウェットオフセット印刷方式で印刷し、実施例1における潜像印刷物(1−1)を形成した。
【0085】
図19に潜像印刷物(1−1)の効果を示す。
図19(a)に示すように第一の観察条件で観察した場合には、アルファベットの「A」の文字を表した第一の有意情報が淡い青色の色彩で視認でき、
図19(c)に示すように第二の観察条件で観察した場合には、第一の有意情報が消失して、第二の有意情報が視認できた。この場合、反射層(6−1)は金色で、アルファベットの「B」の文字は淡い青色の色彩となり、色彩の違いによって第二の有意情報の視認性が一層高まることを確認できた。また、
図19(b)に示すように光に透かして観察した場合には、第一の有意情報が消失して、第二の有意情報が視認できた。この場合、反射層(6−1)は金色(黄色)の補色である紫色へと変化し、アルファベットの「B」の文字は暗い青色に変化し、第二の観察条件と同様に、色彩の違いによって視認性が一層高まることを確認できた。以上のように、第一の観察条件では第一の有意情報が、第二、第三の観察条件では第二の有意情報が視認でき、また、観察条件を変えることで単に画像が変化するだけでなく、色彩も大きく変化するために、極めて視認性が高く判別性に優れるチェンジ効果を有することも確認できた。
【0086】
(実施例2)
実施例2について、
図20から
図25を用いて説明する。実施例2は、第三の観察条件を赤外線での観察とした潜像印刷物を作製した例であって、第一の有意情報を豊かな階調を有する人の顔とした例である。
【0087】
図20に潜像印刷物(1−2)を示す。潜像印刷物(1−2)は、白色の一般的な上質紙(フォーム用紙 日本製紙製)に黒色の印刷画像(3−2)が形成されて成る。
【0088】
図21に実施例2の印刷画像(3−2)の構造の概要を示す。印刷画像(3−2)は、フラットな階調で構成された背景部(4−2)と、第一の有意情報を表した情報部(5−2)及び反射層(6−2)の3つの構造を有する。この中でも、背景部(4−2)は第二の有意情報を表した潜像要素群(7−2)と、潜像要素群(7−2)をカモフラージュするカモフラージュ要素群(8−2)の2つの構造を有する。なお、実施例2における第一の有意情報とは豊かな階調を有する人の顔であり、第二の有意情報とはアルファベットの「OK」の文字を指す。また、実施例2における画線構成は、実施例1とは異なり、背景部(4−2)を構成する要素は画素で形成した。
【0089】
図22を用いて背景部(4−2)と情報部(5−2)の構成について説明する。背景部(4−2)は、
図22(b)に示すように、直径0.1mmの円形の背景要素(9−2)を第一の方向(図中S1方向)及び第二の方向(図中S2方向)にピッチ0.2mmで規則的に複数配置してフラットな階調を表し、情報部(5−2)は、
図22(c)に示すように、情報要素(10−2)を網点の大小で形成し、第一の有意情報として、豊かな階調を有する人の顔で形成した。実施例2において、情報要素(10−2)と背景要素(9−2)は、
図22(a)の拡大図に示すように、お互い重なり合うことなく配置され、かつ、情報要素(10−2)が背景要素(9−2)を囲む配置となっている。このため、各要素を積層したときに、情報要素(10−2)が背景要素(9−2)を囲む配置とするため、
図22(c)に示すように、情報部(5−2)は、部分的に網点を施さない領域(20)を複数備える構成とした。なお、情報部(5−2)において、網点を施さない領域(20)の大きさと配置は、
図22(b)及び
図22(c)に示すように、背景要素(9−2)と同じ大きさであり、背景要素(9−2)と同じ間隔とした。
【0090】
図23に背景部(4−2)の詳細な構成を示す。背景部(4−2)は、直径0.1mmの円形の潜像要素(11−2)を第一の方向(図中S1方向)及び第二の方向(図中S2方向)にピッチ0.2mmで規則的に複数配置して第二の有意情報を表した潜像要素群(7−2)と、直径0.1mmの円形のカモフラージュ要素(12−2)を第一の方向(図中S1方向)及び第二の方向(図中S2方向)にピッチ0.2mmで規則的に複数配置して潜像要素群(7−2)と対を成して第二の有意情報を表したカモフラージュ要素群(8−2)とを有する。
【0091】
図24にそれぞれの色材で形成する画像を示す。第一の色材で潜像要素群(7−2)を形成し、第三の色材で反射層(6−2)を形成し、第二の色材で情報部(5−2)とカモフラージュ要素群(8−2)を合わせた画像(13−2)を形成する。実施例2において、第一の色材はカーボンブラックを主成分とするとする赤外線吸収能を有するインキを用い、第二の色材はクロモファインブラックを主成分とする赤外線吸収能を有さないインキを用い、第三の色材は表3に示すインキを用いた。第一の色材及び第二の色材は、いずれも黒色であり、同じ面積率で基材に印刷した場合には、拡散反射光下の観察条件において等色に見えるよう微量の他の色材を加えて調色した。
【0093】
第一の色材の物体色は黒色であって、赤外線領域の光を吸収する特性を有し、第二の色材の物体色は黒色であって、赤外線領域の光を吸収しない特性を有する。第三の色材は、虹彩色パール顔料を配合したUVスクリーンインキであり、このインキで形成した画像は、拡散反射光下の観察条件ではやや白みがかった半透明な色彩を有し、正反射光下の観察条件ではパール顔料に由来する赤色の干渉色を発する画像となり、いわゆるカラーフリップフロップ性を備えた反射層を形成することができる。
【0094】
以上の第一の色材、第二の色材、第三の色材を用い、以下に説明する順で印刷画像(3−2)を形成した。まず、第二の色材によって情報部(5−2)とカモフラージュ要素群(8−2)を合わせた画像(13−2)をウェットオフセット印刷方式で形成し、続いて第三の色材を用いて反射層(6−2)をスクリーン印刷方式で形成し、最後に第一の色材を用いて潜像要素群(7−2)を反射層(6−2)の上にウェットオフセット印刷方式で印刷し、実施例2における潜像印刷物(1−2)を形成した。
【0095】
図25に潜像印刷物(1−2)の効果を示す。
図25(a)に示すように第一の観察条件で観察した場合には、人の顔を表した第一の有意情報が黒色の色彩で視認でき、
図25(c)に示すように第二の観察条件で観察した場合には、第一の有意情報が消失して、第二の有意情報が視認できた。この場合、反射層(6−2)は赤色で、アルファベットの「OK」の文字は黒色の色彩となり、色彩の違いによって視認性が一層高まることを確認できた。また、
図25(b)に示すように赤外線ビューアー(16−2)を用いて観察した場合には、第一の有意情報が消失して、第二の有意情報が視認できた。以上のように、第一の観察条件では第一の有意情報が、第二、第三の観察条件では第二の有意情報が視認でき、観察条件を変えることで画像が鮮明に変化する効果を確認することができた。