特許第5900869号(P5900869)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5900869酸性ガス分離用吸収液ならびにガス分離精製方法およびその装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5900869
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月6日
(54)【発明の名称】酸性ガス分離用吸収液ならびにガス分離精製方法およびその装置
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/14 20060101AFI20160324BHJP
【FI】
   B01D53/14 210
   B01D53/14ZAB
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2010-102746(P2010-102746)
(22)【出願日】2010年4月27日
(65)【公開番号】特開2011-230056(P2011-230056A)
(43)【公開日】2011年11月17日
【審査請求日】2013年2月25日
【審判番号】不服2014-19895(P2014-19895/J1)
【審判請求日】2014年10月2日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度産業技術研究助成事業、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「イオン液体を用いた新しいガス分離・精製方法の開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】310010575
【氏名又は名称】地方独立行政法人北海道立総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100102004
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 政彦
(72)【発明者】
【氏名】金久保 光央
(72)【発明者】
【氏名】浦 晴雄
【合議体】
【審判長】 大橋 賢一
【審判官】 新居田 知生
【審判官】 萩原 周治
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/143376(WO,A1)
【文献】 特開平6−263420(JP,A)
【文献】 特開2009−106909(JP,A)
【文献】 特開平10−314537(JP,A)
【文献】 D.J.Heldebrant, C.R.Yonker, P.G.Jessop, L.Phan,”CO2−binding organic liquids (CO2BOLs) for post−combustion CO2 capture”,Energy Procedia,2009年,vol.1,pp.1187−1195
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D53
C01B31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化炭素の酸性ガスを含む混合ガスから二酸化炭素の酸性ガスを選択的に除去する二酸化炭素の酸性ガス分離用吸収液であって、
上記吸収液が、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド([BMIM][TfN])またはCHCN、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム アセテート([BMIM][CHCOO])とからな
気圧〜1.0MPaの常圧近傍の混合ガスを対象として吸収液/ガスの流量比が1以下の低い条件でも二酸化炭素の酸性ガスを選択的に除く作用を有する、ことを特徴とする二酸化炭素の酸性ガス分離用吸収液。
【請求項2】
請求項1に記載のガス分離用吸収液を用いて、二酸化炭素の酸性ガスを含む混合ガスから二酸化炭素の酸性ガスを分離する方法であって、
大気圧〜1.0MPaの常圧近傍の混合ガスを対象として吸収液/ガスの流量比が1以下の低い条件で、かつ、前記酸性ガス分離用吸収液の[BMIM][TfN])またはCHCNを揮発させない温度範囲で、ガス分離操作を行うこと、
それにより、1)二酸化炭素の酸性ガス分離用吸収液の蒸発潜熱によるエネルギーロスを抑え、2)前記混合ガスの処理量の低下を招くことなく、添加する[BMIM][CHCOO]の吸収液の量を減らし、3)該吸収液の酸性ガス成分の吸収分による二酸化炭素の酸性ガスの処理量を減らし、酸性ガスを熱回収するために必要な熱エネルギーを低減するこを特徴とするガス分離方法。
【請求項3】
請求項1に記載の酸性ガス分離用吸収液を用いて、二酸化炭素の酸性ガスを含む混合ガスから、該酸性ガス成分を大気圧〜1.0MPaの常圧近傍の所定の圧力下で分離する装置であって、
吸収液の[BMIM][TfN])またはCHCNと、[BMIM][CHCOO]を収容する吸収液タンク、酸性ガス分離用吸収液を充填する循環ポンプ、二酸化炭素の酸性ガスおよび非酸性ガスを含む混合ガスを充填する循環ポンプ、前記酸性ガス分離用吸収液と、前記混合ガスとを接触させて前記酸性ガス分離用吸収液に二酸化炭素の酸性ガスを吸収させるための気液混合器、該気液混合器から排出された酸性ガス分離用吸収液と前記二酸化炭素の酸性ガスが取り除かれた非酸性ガスを分離するための気液分離器、を具備することを特徴とする二酸化炭素の酸性ガス分離精製装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物理吸収および化学吸収の双方の機構を有した酸性ガス分離用吸収液(以下、これをハイブリッド吸収液と記載することがある。)ならびに該ハイブリッド吸収液を用いたガス分離精製方法およびその装置に関するものであり、更に詳しくは、物理吸収液と化学吸収液とを含む酸性ガス分離用吸収液(ハイブリッド吸収液ならびに該ハイブリッド吸収液を用いて各種の混合ガス中に含まれるCO酸性ガスと、N,H,O,CO,低級炭化水素ガスなどの非酸性ガスとを分離して、それぞれを回収するガスの分離精製方法と回収方法およびその装置に関するものである。
【0002】
本発明は、火力発電所、鉄鋼プラント、化学プラントなどの排ガス中に含まれる二酸化炭素の酸性ガスを分離回収する方法や、化石燃料や天然ガスなどに含まれる炭化水素系化合物を水蒸気あるいは部分酸化により改質した合成ガス、天然ガスなどに含まれる二酸化炭素の酸性ガスを除去して分離精製する方法や、二酸化炭素の回収や水素の精製システムに関する新技術・新製品を提供するものである。
【背景技術】
【0003】
地球温暖化ガスの中心である二酸化炭素を分離・回収し、貯留する(CCS)技術は、京都議定書の発効に見られるように、産業界のみならず社会的にも重要であり、国際的な課題である。CCSプロセスでは、二酸化炭素の分離・回収に掛かるエネルギーは、特に大きく、全体の70%近くにのぼると予想され、一層の低エネルギー化、低コスト化が望まれている。
【0004】
現在、アミン類化合物を用いた化学吸収法が実用化に向けて試験段階にあるが、二酸化炭素再生プロセスでのエネルギー消費が著しく、新規な吸収液開発の必要性が高いとされている。一方、物理吸収については、これまで、RECTISOLやSELEXSOL法などの方法が提案されている。
【0005】
一方、水素燃料は、次世代のクリーンエネルギー源として注目され、燃料電池や水素燃料自動車などへの応用研究が行なわれている。それに伴い、水電解や光触媒など種々の方法を用いた水素製造技術の開発研究が盛んに進められている。
【0006】
その中でも、炭化水素系化合物を水蒸気あるいは部分酸化により改質し、引き続き水性ガスシフト反応(CO+HO→CO+H)により水素を製造する方法は広く用いられている。この場合、エネルギー源となる水素の製造に伴い副生される二酸化炭素の分離は必須であり、分離効率の改善は、水素製造コストを大幅に向上するものと期待される。これまで、水素精製技術として、圧力スイング吸着、膜分離、深冷分離などの方法が検討されている。
【0007】
本発明者らは、これまで、イオン液体や揮発性が低いグライム類などの非水系の物理吸収液を用いて、二酸化炭素などの酸性ガスを除去するガス分離精製法の開発を進めてきた(特許文献1〜3、非特許文献1)。特許文献1ないし特許文献3に記載のある物理吸収液およびその方法は、酸性ガスを含んだ混合ガスを吸収液に高圧条件で作用させることで容易に酸性ガス成分を除去する方法を与えるものである。
【0008】
しかしながら、それらの物理吸収液を用いた方法は、処理すべき混合ガスを高圧条件に圧縮する必要があり、たとえ圧力解放によりエネルギー回収を行ったとしても、混合ガスが常圧である場合は、全体として必要なエネルギーが割高となってしまうことが課題であった。
【0009】
また、物理吸収液の処理量は、圧力に比例して増加するため、常圧近傍の排気ガスを対象とした場合には、処理量が低下してしまい、多量の物理吸収液を使用せざるを得ないことも課題であった。それらの理由から、高圧ガスを対象とした場合には、物理吸収法は有効であるものの、常圧近傍の排気ガスなどに適用することは困難であった。
【0010】
一方、二酸化炭素など酸性ガスの分圧が低い混合ガスを対象とする場合には、これまで、アミン類化合物を水に溶解した吸収液を用いた化学吸収法が一般に用いられてきた。しかしながら、化学吸収法は、二酸化炭素を回収するために、〜120℃程度の高温に加熱しなければならず、そのための熱エネルギーが必要である。それによって、化学吸収法は、排熱などが利用できる工場からの排ガスの処理を除いては、二酸化炭素の回収時に新たな熱エネルギーが必要となり、消費エネルギーの低減を図る上で大きな課題となっていた。更に、二酸化炭素回収時に溶媒である水が揮発してしまい、過剰の潜熱を要することも問題であった。以上のような事情から、当技術分野においては、これらの問題を解決することを可能とする新しいガス分離技術の開発が強く要請されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−296211号公報
【特許文献2】特開2009−106909号公報
【特許文献3】特願2009−102472号
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】金久保光央、“第6章 イオン液体物理吸収法によるCO2の分離・回収技術”、p.p.125−144、「CO2の分離・回収と貯留・隔離技術」、NTS(2009)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、常圧近傍の混合ガスに物理吸収法を適用した場合に発生する課題、ならびに、化学吸収法で必要となる二酸化炭素回収時の熱エネルギーの問題を解決することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、それらの長所を巧みに利用して、物理吸収および化学吸収の双方の機構を具備した酸性ガス分離用吸収液(ハイブリッド吸収液を開発することに成功し、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明は、物理吸収および化学吸収の双方の機構を具備した酸性ガス分離用吸収液(ハイブリッド吸収液、および、該ハイブリッド吸収液を用いて、常圧近傍の排気ガスを対象とする場合においても、ガスの処理量を低下させることなく、必要な吸収液の液量を低減させ、吸収液の送液に掛ける消費エネルギーを削減することを可能とする新しい二酸化炭素の酸性ガス分離精製方法およびその装置を提供することを目的とするものである。
【0015】
また、本発明は、物理吸収法において、常圧近傍の混合ガスから酸性ガスを分離回収するのに必要とされていた多量の物理吸収液を使用する必要がなく、また、化学吸収法で必要とされていた高温加熱の必要がなく、物理吸収液の処理量の低減と、化学吸収液の高温加熱処理の省略を実現可能とする物理吸収法と化学吸収法を組み合わせた新しい酸性ガス分離用吸収液(ハイブリッド吸収液と、該吸収液を用いた二酸化炭素の酸性ガス分離精製方法およびその装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)酸化炭素の酸性ガスを含む混合ガスから二酸化炭素の酸性ガスを選択的に除去する二酸化炭素の酸性ガス分離用吸収液であって、
上記吸収液が、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド([BMIM][TfN])またはCHCN、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム アセテート([BMIM][CHCOO])とからな
気圧〜1.0MPaの常圧近傍の混合ガスを対象として吸収液/ガスの流量比が1以下の低い条件でも二酸化炭素の酸性ガスを選択的に除く作用を有する、ことを特徴とする二酸化炭素の酸性ガス分離用吸収液。
(2)前記(1)に記載のガス分離用吸収液を用いて、二酸化炭素の酸性ガスを含む混合ガスから二酸化炭素の酸性ガスを分離する方法であって、
大気圧〜1.0MPaの常圧近傍の混合ガスを対象として吸収液/ガスの流量比が1以下の低い条件で、かつ、前記酸性ガス分離用吸収液の[BMIM][TfN])またはCHCNを揮発させない温度範囲で、ガス分離操作を行うこと、
それにより、1)二酸化炭素の酸性ガス分離用吸収液の蒸発潜熱によるエネルギーロスを抑え、2)前記混合ガスの処理量の低下を招くことなく、添加する[BMIM][CHCOO]の吸収液の量を減らし、3)該吸収液の酸性ガス成分の吸収分による二酸化炭素の酸性ガスの処理量を減らし、酸性ガスを熱回収するために必要な熱エネルギーを低減するこを特徴とするガス分離方法。
(3)前記(1)に記載の酸性ガス分離用吸収液を用いて、二酸化炭素の酸性ガスを含む混合ガスから、該酸性ガス成分を大気圧〜1.0MPaの常圧近傍の所定の圧力下で分離する装置であって、
吸収液の[BMIM][TfN])またはCHCNと、[BMIM][CHCOO]を収容する吸収液タンク、酸性ガス分離用吸収液を充填する循環ポンプ、二酸化炭素の酸性ガスおよび非酸性ガスを含む混合ガスを充填する循環ポンプ、前記酸性ガス分離用吸収液と、前記混合ガスとを接触させて前記酸性ガス分離用吸収液に二酸化炭素の酸性ガスを吸収させるための気液混合器、該気液混合器から排出された酸性ガス分離用吸収液と前記二酸化炭素の酸性ガスが取り除かれた非酸性ガスを分離するための気液分離器、を具備することを特徴とする二酸化炭素の酸性ガス分離精製装置。
【0017】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、常圧近傍の混合ガスを対象とした場合において、二酸化炭素など酸性ガスを取り除くことができる物理吸収液を用いて、常圧近傍の所定圧力においても、混合ガス中の二酸化炭素を、前記物理吸収液に物理吸収させ、その圧力よりも低い圧力に減圧することで、二酸化炭素を回収することを可能とするものである。
【0018】
本発明は、常圧近傍の混合ガスにも適用可能であるため、圧縮に要するエネルギーはそれほど大きくない。また、排ガスとして得られる圧力で作動すれば、新たな圧縮エネルギーは不要となり、消費エネルギーの低減を図ることが可能である。
【0019】
本発明で用いる物理吸収液としては、常圧近傍においても、高い二酸化炭素吸収量を保持でき、揮発性が低く、沸点の高い、イオン液体や有機溶剤が望ましい。一方、化学吸収法で一般的に用いられる水は、二酸化炭素の吸収量に乏しく、ハイブリッド吸収液の物理吸収液としては、あまり適切ではない。
【0020】
本発明では、上記の物理吸収液に、該物理吸収液中で良好に作動する化学吸収液を所定量加えることで、化学吸収機能を付与することが重要である。これにより、処理する混合ガスに対して、大量の吸収液を用いなくても、化学吸収により、効率的に二酸化炭素を除去することが可能となる。本発明は、このような上記の物理吸収液に、該物理吸収液中で良好に作動する化学吸収液を所定量加えることで、化学吸収機能を付与したハイブリッド吸収液と、その利用技術を提供するものである。
【0021】
すなわち、本発明は、物理吸収液と化学吸収液を含有するガス分離用ハイブリッド吸収液であって、常圧近傍において、二酸化炭素の酸性ガスを含む混合ガスから、該酸性ガス成分を常圧近傍の所定の圧力下において、物理吸収により取り除く作用を有する物理吸収液と、該物理吸収液中で酸性ガス成分を吸収して被処理混合ガスに対して必要とされる吸収液の量を減らすことを可能とする化学吸収液とを含有することを特徴とするものである。
【0022】
本発明において、常圧近傍とは、いわゆる常圧およびその前後の圧力範囲、具体的には、大気圧〜1.0MPa程度の範囲の圧力を意味するものとして定義される。
【0023】
本発明は、前記吸収液において、物理吸収によるガス分離作用を利用することで、ガスの処理量の低下を招くことなく、添加する化学吸収液の量を減らすことを可能としたこと、前記吸収液を利用することで、化学吸収液の酸性ガス成分の吸収分による酸性ガスの処理量を減らし、熱回収するために必要な熱エネルギーの低減を可能とすること、を好ましい実施態様としている。更に、上述した大気圧〜1.0MPa程度の常圧近傍においてガス処理を行うことで、高圧条件が必要とされる装置的な負荷を軽減し、初期の設備費ならびに定常的な維持管理費の低減が可能となる。
【0024】
本発明では、前記の物理吸収液が、イオン液体、有機溶剤、あるいは水酸基を有する化合物からなる非水系の吸収液であること、前記の化学吸収液が、イオン液体からなる吸収液、あるいは水酸基を有する化合物からなる吸収液中で反応して酸性ガスを化学吸収するアミン類吸収剤からなる吸収液であること、を好ましい実施態様としている。
【0025】
本発明で用いられる物理吸収液としては、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド([BMIM][TfN]、CCN、が挙げられる。また、本発明で用いられる化学吸収液としては、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム アセテート([BMIM][CHCOO])が挙げられる。
【0026】
更に、本発明は、上記ハイブリッド吸収液を用いて、混合ガスから酸性ガスを分離する方法であって、前記ハイブリッド吸収液中の物理吸収液を揮発させない温度範囲でガス分離操作を行うことにより、物理吸収液の蒸発潜熱によるエネルギーロスを抑える工程、を含むことを特徴とするものである。
【0027】
本発明は、燃焼排ガスなどの混合ガスから二酸化炭素などの酸性ガス成分を効率よく分離回収し、それに必要なエネルギーおよびコストの低減化を図り、また、水素など非酸性ガス成分を含んだ混合ガスから酸性ガス成分を分離し、高純度の水素ガスに精製して効率的に供給することを可能とする新しいハイブリッド吸収液を提供するものである。
【0028】
また、本発明は、前記のハイブリッド吸収液を用いて、混合ガスから酸性ガスを分離する方法において、前記ハイブリッド吸収液の物理吸収液を揮発させない温度範囲でガス分離操作を行うことにより、蒸発潜熱によるエネルギーロスを抑える工程、を含むことを特徴とするガス分離方法を提供するものである。
【0029】
更に、本発明は、図1、2に示される流通式ガス分離装置であって、吸収液を収容する吸収液タンク、これらの吸収液を混合して調製した吸収液を充填する循環ポンプ、酸性ガスおよび非酸性ガスを含む混合ガスを充填する循環ポンプ、前記吸収液と、前記混合ガスとを接触させて吸収液に二酸化炭素の酸性ガスを吸収させるための気液混合器、該気液混合器から排出された吸収液と前記酸性ガスが取り除かれた非酸性ガスを分離するための気液分離器を具備することを特徴とする二酸化炭素の酸性ガス分離精製装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0030】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)本発明の酸性ガス分離用吸収液を用いることで、常圧近傍の排気ガスを対象としても、ガスの処理量を低下させることなく、効率的に物理吸収法を適用することが可能となり、これにより、所定の排気ガスを処理するために必要な吸収液の液量を低減させ、吸収液の送液に掛る消費エネルギーを削減することができる。
(2)物理吸収によって二酸化炭素が所定量取り除かれるため、[BMIM][CHCOO]の添加量を抑えることができ、それによって、二酸化炭素の回収に必要となる熱エネルギーを低減することができ、消費エネルギーを削減することが可能となる。
(3)[BMIM][CHCOO]による二酸化炭素の熱回収を[BMIM][TfN])またはCHCNの揮発が起こらない温度条件で行うことで、これまでのアミン水溶液で蒸発潜熱として奪われていた熱エネルギーの損失を防ぐことが可能となる。
(4)本発明の酸性ガス分離用吸収液を用いることで、二酸化炭素酸性ガスを選択的に吸収分離するプロセス全体に渡る消費エネルギーを著しく低減することが可能となる。
(5)本発明の酸性ガス分離用吸収液を用いて大気圧〜1.0MPa程度の常圧近傍においてガス処理を行うことで、高圧条件に必要とされる装置的な負荷を軽減し、初期の設備費ならびに定常的な維持管理費の低減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】流通式ガス分離精製装置の概略を示す。
図2】流通式ガス分離精製装置の外観を示す。
図3】各吸収液を用いて行ったガス分離試験の結果(25℃)を示す。
図4】物理吸収液として1−ヘキサノールを用いた場合の、ガス分離試験の結果(25℃)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0033】
本実施例では、図1に概略を示し、図2に外観を示した流通式ガス分離精製装置を用いて、ガス分離実験を行った。以下に、図面に基づいてその手順を具体的に説明する。
1.循環ポンプ、恒温水槽、循環式冷却器を作動させ、シリンジポンプおよび気液混合・分離器などを所定の温度に保持した。
【0034】
2.ポンプ−B(ガス側)とポンプ−A(液体側)に、それぞれ標準ガスと吸収液を充填した。
3.ガスクロマトグラフィーを起動した。
4.背圧弁を全開にして、圧力計のゼロ点補正を行った。また、この時点で、大気圧の値を記録し、以下、絶対圧として制御した。
【0035】
5.ガス側ポンプの出口側バルブを徐々に開き、標準ガスをラインへと流した。流量を所定の値とし、ポンプ−Bを作動させた。気液混合器内のスターラを回し、圧力計の表示が目的の圧力に達した時点で背圧弁をゆっくりと開け、ガスクロマトグラフィー側トラップの排気管を液面下に下げて、気泡を見ながら調整した。ガスの流れが安定するまで、背圧弁を微調整しながら30分くらい保持した。
【0036】
6.吸収液側ポンプのバルブを閉じたままポンプ−Aを作動させた。圧力が目標値より少し高くなってから、出口側バルブを開けた。
7.反応器内部を観察し、ガスの気泡と吸収液の滴下を確認した。
【0037】
8.減圧弁および背圧弁を調節して、目標の圧力と気液分離器内の液量を適切に保持し、定常状態を保つようにした。
9.処理ガスをサンプリングして、ガスクロマトグラフィーで分析した。
10.ガス分離実験装置を定常状態に保ち、処理ガスを複数回サンプリングし、分析値が一定するのを確認し、平衡状態の値とした。
【0038】
1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム ビス(トリフルオロメチルスルホニル)アミド([BMIM][TfN]と略記)、アセトニトリル、水の3種類の物理吸収液を用いて、25℃において、上記の手順に従って、ガス分離精製実験を行った。なお、標準ガスとして、24.51%あるいは24.08%の二酸化炭素を含む窒素ベースの混合ガスを用いた。
【0039】
また、上記の物理吸収液に、化学吸収剤として、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム アセテート([BMIM][CHCOO]と略記)を所定量加えたハイブリッド吸収液を用いて、同様に、ガス分離精製実験を行った。それらの結果を、表1、2および図3に示す。なお、混合ガスならびに吸収液の流量比は所定圧力条件のものをそのまま用い、標準状態換算していない値として示した。
【0040】
【表1】
【0041】
【表2】
【0042】
いずれの物理吸収液の場合も、化学吸収剤の添加により、処理ガス中の二酸化炭素濃度は著しく低下することが分かった。その傾向は、混合ガスに対するハイブリッド吸収液の流量比が小さいほど顕著であった。これは、流量比が低い条件において、物理吸収液のみでは、二酸化炭素を取り除くことが容易ではないが、ハイブリッド化した吸収液を用いることで、効率良く二酸化炭素を吸収分離することができることを示している。
【実施例2】
【0043】
本実施例では、実施例1と同様の手順で、標準ガス(24.45%二酸化炭素を含む窒素ベースの混合ガス)からの二酸化炭素の吸収分離実験を行った。物理吸収液としては、1−ヘキサノールを用い、化学吸収剤としては、1,8−diazabicyclo−[5,4,0]−undec−7−ene(以下、DBUと略記)を用いた。実験は、温度25℃、圧力0.4および2MPaの条件において、流量比を変更して行った。それらの結果を、表3および図4に示す。
【0044】
【表3】
【0045】
実施例1と同様に、化学吸収剤であるDBUの添加により、処理ガス中の二酸化炭素濃度は著しく低下することが分かる。流量比が0.5の場合には、1mol−%(約1.5wt−%に相当)の微量のDBUの添加でも、二酸化炭素濃度を2%以下に減らすことができた。更に、5mol−%(約7.8wt−%に相当)のDBUを添加した場合には、流量比を0.2に下げても、二酸化炭素濃度は、0.2%未満、流量比を0.1に下げても、2%未満の優れた結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上詳述したように、本発明は、酸性ガス分離用吸収液(ハイブリッド吸収液ならびにガス分離精製方法およびその装置に係るものであり、本発明により、上記の吸収液を用いることで、常圧近傍の排気ガスを対象としても、ガスの処理量を低下させることなく、効率的に物理吸収法を適用することが可能となり、これにより、所定の排気ガスを処理するために必要な吸収液の液量を低減させ、吸収液の送液に掛る消費エネルギーを削減することができる。本発明では、物理吸収によって二酸化炭素が所定量取り除かれるため、化学吸収液の添加量を抑えることができ、それによって、二酸化炭素の回収に必要となる熱エネルギーを低減でき、消費エネルギーを削減することが可能となり、また、化学吸収液による二酸化炭素の熱回収を、物理吸収液の揮発が起こらない温度条件で行うことで、これまでのアミン水溶液で蒸発潜熱として奪われていた熱エネルギーの損失を防ぐことが可能となる。以上に示した通り、本発明により、酸性ガス分離用吸収液(ハイブリッド吸収液を用いることで、二酸化炭素酸性ガスを選択的に吸収分離するプロセス全体に渡る消費エネルギーを著しく低減することが可能となる。本発明は、火力発電所、鉄鋼プラント、化学プラントなどの排ガス中に含まれる二酸化炭素の酸性ガスを分離回収する方法や、化石燃料や天然ガスなどに含まれる炭化水素系化合物を水蒸気あるいは部分酸化により改質した合成ガス、天然ガスなどに含まれる二酸化炭素の酸性ガスを除去して分離精製する方法や、二酸化炭素の回収や水素の精製システムについての新技術・新製品を提供するものとして有用である。
【符号の説明】
【0047】
1 ポンプB
2 バルブ
3 バルブ
4 予熱部
5 ポンプA
6 バルブ
7 バルブ
8 循環式冷却器
9 恒温水槽
10 温度センサー
11 背圧弁
12 圧力計
13 減圧弁
14 ガスクロマトグラフ装置
15 記録計
図1
図2
図3
図4