【実施例】
【0050】
〔実施例及び比較例で用いた材料〕
・PHA:G5 JAPAN社製PHA−18(3HB:4HB=82:18)(以下「PHA−18」と記載する。)
・PLLA:LACEA(三井化学社製、Mw:140 kDa)
・PLGA:Purasorb(登録商標) PDLG(Purac社製、Mw:140k Da、PLA:PGA=75:25)
・クロロホルム(CHCl
3):特級試薬、純度99.0%以上、キシダ化学株式会社
・リン酸カルシウム系骨セメント:バイオペックス−R(アドバンス フルセット)(HOYA社製)
・メチルメタクリレート系骨セメント:オストロンII(ジーシー社製)
【0051】
〔3次元構造体(不織布)の作製〕
(実施例1)
2gのPHA−18をクロロホルムに溶解し、PHA濃度を6重量%となるようにした。このときの溶液の粘度は2.8Pa・sであった。ガラス製注射筒に上記溶液10mLを入れた。接地した回転ドラムにアルミホイルを巻き付けてコレクターとした。22Gの注射針を取り付け、針部分に正電荷となるように10kVの電圧を印加し、0.35mm/minで押しだして、コレクター上に紡糸して厚さ0.1mmの不織布を作製した。繊維径は約10μmであった。得られた不織布の融点及びガラス転移温度を示差走査熱量計にて調べたところ、融点は130℃、ガラス転移温度は−20℃であった。
【0052】
(比較例1)
2gのPLLAをクロロホルムに溶解した後、メタノール(和光純薬製、特級)を加え、PLLA:クロロホルム:メタノール=10:67.5:22.5重量比となるようにした。このときの溶液の粘度は0.5Pa・sであった。ガラス製注射筒に上記溶液10mLを入れた。接地した回転ドラムにアルミホイルを巻き付けてコレクターとした。22Gの注射針を取り付け、針部分に正電荷となるように15kVの電圧を印加し、0.35mm/minで押しだして、コレクター上に紡糸して厚さ0.1mmの不織布を作製した。繊維径は約2μmであった。得られた不織布の融点及びガラス転移温度を示差走査熱量計にて調べたところ、融点は170℃、ガラス転移温度は56℃であった。
【0053】
(比較例2)
2gのPLLAをクロロホルムに溶解し、PLLA濃度が13重量%となるようにした。このときの溶液の粘度は3Pa・sであった。ガラス製注射筒に上記溶液10mLを入れた。接地した回転ドラムにアルミホイルを巻き付けてコレクターとした。22Gの注射針を取り付け、針部分に正電荷となるように15kVの電圧を印加し、0.35mm/minで押しだして、コレクター上に紡糸して厚さ0.1mmの不織布を作製した。繊維径は約10μmであった。得られた不織布の融点及びガラス転移温度を示差走査熱量計にて調べたところ、融点は170℃、ガラス転移温度は56℃であった。
【0054】
図3(a)は実施例1で作製したPHA−18(10μm)の不織布、(b)は比較例1で作製したPLLA(2μm)の不織布、(c)は比較例2で作製したPLLA(10μm)の不織布、のSEM写真である。
【0055】
また、
図4は、上記実施例1及び比較例1、2で作製した不織布を、長さ20mm×幅5mm×厚さ約0.1mmに裁断し、空気中、室温、クロスヘッドスピード5mm/minの条件下での応力−歪み曲線を示す。
図4に示すように、直径2μmのPLLAは、歪み量が約50%を越えると繊維の切断が始まった。なお、直径2μmのPLLAは、高い最大応力を示しているが、これは繊維同士がくっついて緻密化している部分があるためと考えられる。また、直径10μmのPLLAは、歪み量が約20%を超えると繊維の切断が始まった。一方、直径10μmのPHA−18は、歪み量が20%〜230%位まで応力に変化なく、全く切れることなく延びており、延び性能が優れていることが確認された。
【0056】
〔3次元構造体(綿状材料)の作製〕
(実施例2)
4gのPHA−18Lをクロロホルムに溶解し、PHA濃度が6重量%となるようにした。このときの溶液の粘度は2.8Pa・sであった。ガラス製注射筒に上記溶液10mLを入れた。400×200×40mmのプラスチックバットにエタノール1.5Lを入れ、この底に、接地した直径10mmのステンレス板を沈めた。注射筒に22Gの注射針を取り付け、針部分に正電荷となるように10kVの電圧を印加し、0.35mm/minで押しだして、エタノール中に紡糸した。浮遊している繊維をピンセットで回収し、濾紙に乗せて室温で乾燥した。繊維の直径は約10μmであった。得られた綿状物質の融点及びガラス転移温度を示差走査熱量計にて調べたところ、融点は130℃、ガラス転移温度は−20℃であった。
【0057】
(比較例3)
4gのPLLAをクロロホルムに溶解し、PLLA濃度が10重量%となるようにした。このときの溶液の粘度は2.5Pa・sであった。ガラス製注射筒に上記溶液10mLを入れた。400×200×40mmのプラスチックバットにエタノール1.5Lを入れ、この底に、接地した直径10mmのステンレス板を沈めた。注射筒に22Gの注射針を取り付け、針部分に正電荷となるように20kVの電圧を印加し、0.35mm/minで押しだして、エタノール中に紡糸した。浮遊している繊維をピンセットで回収し、濾紙に乗せて室温で乾燥した。繊維の直径は約10μmであった。得られた不織布の融点及びガラス転移温度を示差走査熱量計にて調べたところ、融点は170℃、ガラス転移温度は56℃であった。
【0058】
(比較例4)
4gのPLGAをクロロホルムに溶解し、PLGA濃度が16重量%となるようにした。このときの溶液の粘度は3Pa・sであった。ガラス製注射筒に上記溶液10mLを入れた。400×200×40mmのプラスチックバットにエタノール1.5Lを入れ、この底に、接地した直径10mmのステンレス板を沈めた。注射筒に22Gの注射針を取り付け、針部分に正電荷となるように15kVの電圧を印加し、0.35mm/minで押しだして、エタノール中に紡糸した。浮遊している繊維をピンセットで回収し、濾紙に乗せて室温で乾燥した。繊維の直径は約10μmであった。得られた不織布の融点及びガラス転移温度を示差走査熱量計にて調べたところ、融点は170℃、ガラス転移温度は50℃であった。
【0059】
上記実施例2及び比較例3、4で作製した綿状材料を、長さ20mm×幅5mm×厚さ約10mmに裁断した。なお、実施例2及び比較例3、4で作製された材料は、綿状でふわふわした状態であることから、厚さは大凡の寸法である。ただし、作製した何れの材料も、重量は約1.8gであった。
図5は、これら材料の、空気中、室温、クロスヘッドスピード5mm/minの条件下での荷重−歪み曲線を示す。
図5に示すように、PLLA、PLGAは歪み量約200%まで荷重がかかった後は、繊維が急速に切断していった。なお、グラフ上は、500〜1000%まで延びるように見えるが、繊維自身はあまり伸びないため、繊維の切断がどんどん進んでいた。一方、PHA−18は、622%まで、全く切断せずに延びた後、繊維の切断が徐々に進んだ。しかしながら、622%以上では切断した繊維はあるものの、
図5に示すように、PHA−18の綿状材料に荷重をかけた際のカーブは緩やかである。このデータから、切断した繊維の量はそれほど多くなく、引き続き繊維は延びていることは明らかであり、PLLA又はPLGAから作製された綿状材料と比較して、PHAを含む材料から作製された綿状材料の延び特性が優れていることが確認された。
【0060】
〔リン酸カルシウム系骨セメントの注入実験〕
(実施例3)
口径15mm、長さ50mmのガラス瓶に、瓶を傾けた状態でシリコン樹脂を注入・硬化させることで、瓶底全面からキャップの一端部に向かって斜めになるようにシリコン樹脂が硬化した不均一形状モデルを作製した。次に、上記実施例1で作製した不織布を袋状にし、バイオペックス−R(アドバンス フルセット)中の注入シリンジの先端に取り付け、根元を糸で縛り固定した。練和方法及び充填方法を、6mLセット・液量4.0mLとした以外は、添付のマニュアル通りにバイオペックスのペーストを調整した。次いで、上記の通り作製した不均一形状モデル内に不織布を取り付けた注入シリンジを挿入し、調整したバイオペックスをセット中の注射器を用いて注入した。
【0061】
(比較例5)
上記比較例2で作製したPLLAの不織布を用いた以外は、実施例3と同様に実験を行った。
【0062】
図6は、実施例3及び比較例5において、ガラス瓶で作製した不均一形状モデル内に、袋状の不織布を取り付けた注入シリンジを挿入し、バイオペックスを注入する前の状態を示す写真である。
【0063】
図7は、実施例3及び比較例5において、バイオペックスを注入中の状態を示す写真で、実施例3のPHAで作製した不織布は、バイオペックスの注入量に応じてゴム風船のように伸長した。一方、比較例5のPLLAで作製した不織布の場合、袋の表面からセメントが浸みだしてしまい、小さな塊となった。
【0064】
図8は、比較例5において、バイオペックスを注入中の状態を横方向から見た拡大写真で、写真から明らかなように、PLLAから作製された不織布は伸長性に乏しいことから、一定以上伸長した後はバイオペックスの注入圧力が増しても伸長することができず、不織布の隙間からバイオペックスが浸みだしてしまった。
【0065】
これに対し、PHAから作製された不織布は、伸長性に富むことから、
図9に示すように、バイオペックスを注入するにつれて伸長し、挿入箇所が不均一な形状であっても、当該形状に沿って隙間を埋めるように伸長していくことが確認された。
【0066】
〔メチルメタクリレート系骨セメントの注入実験〕
(実施例4)
上記実施例2で作製した綿状材料を袋状にし、オストロンII中の注入シリンジの先端に取り付け、根元を糸で縛り固定した。練和方法及び充填方法は、ピンク色に着色した以外は添付のマニュアル通りに行いメチルメタクリレートのペーストを調整した。次いで、調整したメチルメタクリレートのペーストをセット中の注射器を用いて袋状の綿状材料内に注入した。
【0067】
(比較例6)
上記比較例3で作製したPLLAの綿状材料を用いた以外は、実施例4と同様に実験を行った。
【0068】
図10は、メチルメタクリレート系骨セメントを注入し、20分経過後の写真である。
図10から明らかなように、PHAから作製された綿状材料は、外部から着色がほとんど確認されなかった。一方、PLLAから作製された綿状材料は、PHAから作製された綿状材料と比較して、変色したこと確認された。これは、メチルメタクリレートが硬化する際の発熱により、PHAから作製された綿状材料と比べて、PLLAから作製された綿状材料の繊維とメチルメタクリレート系骨セメントとの反応が進み、繊維構造に乱れが生じたためと考えられる。以上の結果より、本発明のPHAを含む材料から作製された綿状材料は、硬化時に発熱するメチルメタクリレート系骨セメントに対しても、漏洩防止効果があることが確認された。
【0069】
〔生分解性髄内釘の作製〕
(実施例5)
先ず、紐編機を用いて、PLLAの糸の丸紐を作製した。紐編機はMarusan卓上型紐編機 CK−N(圓井繊維機械株式会社)を使用した。PLLAの糸は直径0.2mmのモノフィラメントを使用し、12本の編み針で平編みにし、直径5mm程度の筒状の丸紐を作製した。
次に、作製した丸紐を150mmの長さに切断し、3層に重ね、内側に直径4mmのテフロンチューブを挿入した。さらに、重ねた丸紐同士が溶着するように、約10mLの溶剤をハケを用いて満遍なく塗布した。溶剤は、ジクロロメタン(試薬特級、和光純薬社製)とメタノール(和光一級、和光純薬社製)を3:1の割合で混合した溶液に、2wt%の割合でPLLAを溶解したものを使用した。
3層に重ねた丸紐が溶着した後、内挿していたテフロンチューブを引き抜き、最後に端部を切り揃えて、外径約5mm、内径約4mmの髄内釘を作製した。
【0070】
〔骨脆弱性骨折動物の作製〕
骨脆弱性を伴う骨粗鬆症動物モデルを作成するため、生後20〜25週、体重約3.5kgの雌兎を用い、Castanedaらの方法に従い、卵巣摘出後、2週後より糖質ステロイドホルモン1.0mg/kg/dayの筋肉内注射を計4週間施行した。次いで、大腿骨遠位部に電動カッターを用い1/2周性の骨折を作成し、髄内釘を挿入するスペースを作る為、ドリルリーマーにより兎の大腿骨遠位部(膝関節軟骨面)に直径7mmの小孔を作成して髄内リーミングを施行し、骨脆弱性骨折兎モデルとした。
【0071】
〔骨脆弱性骨折動物の実験〕
(実施例6)
上記〔骨脆弱性骨折動物の作製〕で作製された骨脆弱性骨折兎モデル4羽を用い動物実験を行った。全身麻酔下、上記小孔より大腿骨髄内へ、実施例5で作製した髄内釘を挿入した。挿入の際には、髄内釘の周囲に上記実施例1で作製したPHA不織布を巻き、バイオペックスを注入する際に、ペーストが骨外へ漏洩しないようにした。バイオペックスの調整は、上記実施例3と同様に行った。注入後、約15分でバイオペックスの硬化が概ね完了した。
【0072】
(比較例7)
髄内釘及びPHA不織布を使用しない以外は、実施例6と同様の手順により、骨脆弱性骨折兎モデル4羽に対してバイオペックスを注入した。
【0073】
兎は術後1〜2時間で麻酔から覚醒し、歩行を開始した。1週間経過後と1カ月経過後にレントゲン写真を撮影したところ、実施例6の4羽中、1週間経過時に1羽については骨幹部骨折が見られたが、他の3羽は、
図11(a)に示すように、1カ月経過後も再骨折せずに順調に治癒が進んでいることが確認された。
【0074】
一方、比較例7の4羽についても、1週間経過後と1カ月経過後にレントゲン写真を撮影したところ、4羽中、1羽は1カ月経過後も骨折は認められなかったが、他の3羽については、
図11(b)に示すように、1週間で再骨折が確認された。上記結果から、髄内釘とバイオペックスを併用した治療法の有用性は明らかとなった。
【0075】
〔強度試験〕
(実施例7)
外径16mm×内径13mm×長さ35mmのアクリルパイプを2つ縦に並べたものを型枠とし、予め軽くテーピングして筒状にした。上記実施例1で作製したPHA不織布を、外径約10mm、内径約7mmとした以外は実施例5と同様の方法により作製した髄内釘(長さは65mmにカット)に巻いて、アクリルパイプに挿入した。次に、バイオペックスの粉剤を恒温器(ISUZU SKM−111S)、同液剤をウォーターバス(EYELA NTT−220)にてそれぞれ30℃に事前加温しておき、上記実施例3と同様にバイオペックスのペーストを調整後、髄内釘の内側から、ペーストを注入して試験片とした。なお、注入後は10分間、擬似体液(SBF)に浸漬し、インキュベーター(ISUZU SFR−114S)にて37℃に保持することとした。
【0076】
上記のように作製した試験片で、三点曲げ試験を行った。三点曲げ試験は、
図12(a)に示す強度試験機(MTS 858 Mini Bionix II)にて、ヘッドスピード0.5mm/minの条件で行った。
図12(b)は、試料とヘッド部分の拡大写真である。なお、実施例7及び後述する比較例8、9のn数は5とした。
【0077】
(比較例8)
髄内釘を使用しなかった以外は、実施例7と同様に試験片を作製し、三点曲げ試験を行った。
【0078】
(比較例9)
髄内釘及びPHA不織布を使用しなかった以外は、実施例7と同様に試験片を作製し、三点曲げ試験を行った。
【0079】
図13は、髄内釘有(実施例7)及び髄内釘無(比較例8、9)の強度試験結果(応力−変位図)を示し、ヘッドの移動時間と曲げ応力値との関係を示す図である。なお、
図13〜15中、BPとあるのはバイオペックスを意味する。また、比較例8、9の強度試験結果は、ほぼ同じ結果であった為、
図13中では一つのグラフで示した。
図13から明らかなように、髄内釘を入れることにより、長い時間ストレスがかかっていても破断せず、曲げ強度が格段に増すことが明らかになった。
【0080】
図14は、髄内釘有(実施例7)及び髄内釘無(比較例8、9)の、曲げ応力の最大値を示し、髄内釘を入れることで、曲げ応力の最大値が、4〜5倍向上することが明らかとなった。
【0081】
図15は、髄内釘有(実施例7)及び髄内釘無(比較例8、9)の、破壊に要したエネルギーの比較を示し、髄内釘を入れることで、破壊に要するエネルギーは格段に向上した。
【0082】
上記の結果より、本発明のPHAを含む材料から作製された3次元構造体、生分解性材料から作製された髄内釘及び骨セメントを組み合わせて用いると、骨伝導性があり好ましいものの、折れや曲げに弱いバイオペックスを単独で用いた場合と比較して、各段に強度が増すことが明らかになった。したがって、従来のメチルメタクリレートで骨折治療が行われていた個所でも、骨伝導性のある骨セメントの利用が可能となる。