(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0014】
(1)ナトリウムイオン二次電池用正極活物質
本発明のナトリウムイオン二次電池用正極活物質は、Li(リチウム)とNa(ナトリウム)とFe(鉄)とO(酸素)とを有するリチウムナトリウム系化合物からなる。リチウムナトリウム系化合物をナトリウムイオン二次電池の正極活物質として用いた場合に、充電時にはリチウムナトリウム系化合物からNaイオンが放出され、放電時にはリチウムナトリウム系化合物にNaイオンが吸蔵される。
【0015】
リチウムナトリウム系化合物は、オリビン構造をもつとよい。オリビン構造のリチウムナトリウム系化合物として、リチウムナトリウム鉄シリケートを例にとって説明する。リチウムナトリウム鉄シリケートは、LiO
4と、NaO
4と、FeO
4と、SiO
4とから構成されている。これらの酸化物は、いずれも中心元素の周囲を4つの酸素原子で囲み、四面体構造をしている。LiO
4と、NaO
4と、FeO
4と、SiO
4との四面体構造は、それぞれLi−O四面体と、Na−O四面体と、Fe−O四面体と、Si−O四面体と称する。
【0016】
また、リチウムナトリウム系化合物は、Li(リチウム)とNa(ナトリウム)とFe(鉄)とO(酸素)との他に、遷移金属元素を含んでもよい。遷移金属元素は、2価と3価など複数の価数をとることができる元素であるとよい。リチウムナトリウム系化合物の構成元素となり得る遷移金属元素は、Mn、Co、Niなどを挙げることができる。
【0017】
リチウムナトリウム系化合物は、充放電の際に、吸蔵・放出しない中心元素を内包した四面体を有することが好ましい。充放電の際に吸蔵・放出しない中心元素を内包した四面体は、構造ピラーとしての役割を担い、リチウムナトリウム系化合物の構造の安定化に貢献する。充放電の際に、挿入脱離しない中心元素となり得るものは、例えば、シリコン(Si)、リン(P)、硫黄(S)が挙げられる。
【0018】
リチウムナトリウム系化合物は、リチウム系化合物のリチウムサイトに存在していたリチウムがナトリウムで置換されてなることが好ましい。リチウム系化合物をナトリウムイオン二次電池の正極活物質として用いることで、充放電によりリチウム系化合物のリチウムサイトにNaが挿入されて、リチウムナトリウム系化合物を形成することができる。これを、リチウム系化合物がオリビン構造のリチウム鉄シリケートLi
2FeSiO
4である場合を例にとって説明する。
【0019】
図1の左上図に示すように、Li
2FeSiO
4は、Li、Fe、Si、及びOを必須成分としている。
図1の右上図に示すように、リチウム系化合物では、Li−O四面体とFe−O四面体とSi−O四面体とが、オリビン構造の中で規則的に配置されている。
【0020】
Li
2FeSiO
4に第1回目充電を行うと、
図1の左下図に示すように、Li−O四面体の一部の中のLi
+が電解液に放出される。また、残りのLi−O四面体のLiサイトに存在していたLiと、Fe−O四面体のFeサイトに存在していたFeとは互いに位置交換して、中心元素サイトにLi又はFeが再挿入された(Li/Fe)−O四面体が形成される。(Li/Fe)−O四面体では、中心元素サイトにLiとFeとが無秩序に再挿入されているため、第1回目充電後では、Li−O四面体とFe−O四面体とが不規則に配列している。一方、Si−O四面体はほとんど変化しない。このようにして、充電相が形成される。
【0021】
次に、1回目の放電を行うと、
図1の右下図に示すように、Liイオンの抜けた部分に、Naイオンが挿入されて、Na−O四面体が形成される。このようにして、放電相が形成される。即ち、Liの少なくとも一部は、Naに置換される。このときに、リチウムナトリウム鉄シリケートが形成される。
【0022】
充放電により形成されたリチウムナトリウム鉄シリケートは、それ以後の充放電において、Naの挿入・脱離を繰り返す。2回目以降の放電容量がサイクル数が増すに連れて徐々に減少することから、放電ですべてのNaが放出されるとは考えにくい。よって、1回目の放電により一旦挿入されたNaは、2回目以後の充電時においてもリチウムナトリウム鉄シリケートに若干残り、Naを含むリチウムナトリウム鉄シリケートを維持する。よって、ナトリウムイオン二次電池にリチウム鉄シリケートを正極活物質として用いると、1回目放電後にはナトリウムを含むリチウムナトリウム鉄シリケートの形態を維持する。
【0023】
上記では、リチウムナトリウム系化合物がリチウムナトリウム鉄シリケートである場合を例にとって説明した。これに限らず、その他のリチウムナトリウム系化合物も、ナトリウムを元来含まないリチウム系化合物に、Naイオンを伝達イオンとする電池反応を行うことで形成される。
【0024】
リチウムナトリウム系化合物は、Naイオンを吸蔵・放出し得る化合物であることが好ましい。Naイオンを吸蔵・放出し得るリチウムナトリウム系化合物は、例えば、LiとNaとFeとSiとOとを有するリチウムナトリウムシリケート系化合物、及びLiとNaとFeとPとOとを有するリチウムナトリウムホスフェート系化合物の少なくとも1種からなることが好ましい。リチウムナトリウムシリケート系化合物及びリチウムナトリウムホスフェート系化合物は、いずれもオリビン構造をもち、それぞれNaを元来含まないリチウムシリケート系化合物及びリチウムホスフェート系化合物に電池反応を行うことで形成することができる。
【0025】
リチウムナトリウムシリケート系化合物の充放電時の相変化は、上記でリチウムナトリウム鉄シリケートを例にとって説明した通りである。
【0026】
リチウムナトリウムシリケート系化合物は、組成式Li
2+a―b―cNa
cA
bFe
1−xM
xSiO
4+δ(式中、AはK、Rb、Csの群から選ばれた少なくとも一種の元素であり、MはMg、Ca、Al、Ni、Nb、Ti、Cr、Cu、Zn、Zr、V、Mo及びWからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素である。各添字は次のとおりである。0≦a<1、0≦b<0.2、0<c≦2、0≦x≦0.5、δ≧0)で表されることが好ましい。リチウムナトリウムシリケート系化合物は、オリビン構造をもつことが好ましく、また、単斜晶であり、空間群P2
1/nに帰属するのがよい。
【0027】
リチウムナトリウムシリケート系化合物は、リチウムシリケート系化合物にNaイオンを伝達イオンとして電池反応を行うことで形成される。リチウムシリケート系化合物は、例えば、組成式Li
2+a―bA
bFe
1−xM
xSiO
4+δ(式中、AはK、Rb、Csの群から選ばれた少なくとも一種の元素であり、MはMg、Ca、Al、Ni、Nb、Ti、Cr、Cu、Zn、Zr、V、Mo及びWからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素である。各添字は次のとおりである。0≦a<1、0≦b<0.2、0≦x≦0.5、δ≧0)で表されることが好ましい。リチウムシリケート系化合物は、例えば、溶融塩法、固相法、水熱法などにより製造することができる。
【0028】
リチウムナトリウムホスフェート系化合物は、Li−O八面体とNa−O八面体とFe−O八面体とP−O四面体とから構成されている。充放電時に、Pを中心元素とするP−O四面体はほとんど変化せず、Fe−O八面体及びLi−O八面体が(Fe/Li)−O八面体になるとともに、Liの少なくとも一部が放出され、Liが抜けたLiサイトにNaが吸蔵・放出される。充放電時には、P−O四面体はほとんど変化せず、ピラーとしての役割を担う。
【0029】
リチウムナトリウムホスフェート系化合物は、リチウムホスフェート系化合物のリチウムサイトに存在していたリチウムがナトリウムで置換されてなることが好ましい。リチウムホスフェート系化合物をナトリウムイオン二次電池の正極活物質として用いることで、充放電によりリチウムホスフェート系化合物のリチウムサイトにNaが挿入されて、リチウムナトリウムホスフェート系化合物を形成することができる。
【0030】
リチウムナトリウムホスフェート系化合物は、オリビン構造をもち、例えば、リチウムホスフェート系化合物にNaイオンを伝達イオンとして電池反応を行うことで形成される。リチウムホスフェート系化合物が電池反応によりリチウムナトリウムホスフェート系化合物に変換される機構は、
図1に示すリチウムナトリウムシリケート系化合物の電池反応と同様である。即ち、リチウムホスフェート系化合物の第1回目充電により、Liが放出される。次に、Naイオンを伝達媒体とした第1回目放電反応により、Liが放出された空間に、Naが吸蔵されて、リチウムナトリウム系化合物が生成される。第2回目以後の充電・放電により、Naの放出・吸蔵が繰り返される。このように、リチウムナトリウムホスフェート系化合物は、リチウムホスフェート系化合物に対して、Naイオンをイオン伝達媒体とする電池反応を行うことにより生成される。
【0031】
リチウムホスフェート系化合物としては、LiFePO
4、Li
3Fe
2(PO
4)
3、Li
2FeP
2O
7、Li
2FePO
4Fなどが挙げられる。この中、Li
2FeP
2O
7、LiFePO
4、Li
2FePO
4Fは、オリビン型結晶構造をもち、Li
3Fe
2(PO
4)
3はナシコン型結晶構造をもつ。中でも、LiFePO
4が好ましい。
【0032】
本発明の正極活物質は、リチウムナトリウム系化合物を有する。正極活物質は、例えば、リチウムナトリウム系化合物のみからなる。または、正極活物質は、リチウムナトリウム系化合物と導電性材料とからなる複合材料であることが好ましい。この場合には、正極活物質の導電性が向上し、容量が増加する。
【0033】
リチウムナトリウム系化合物と導電性材料とからなる複合材料について以下に説明する。
【0034】
電性材料は、例えば、炭素材料からなるとよい。炭素材料は、炭素原料が熱分解することで形成されたアモルファス状炭素などからなるとよい。炭素原料は、例えば、デキストリン、スクロースなどの糖類を用いる。または、炭素原料は、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)、気相法炭素繊維(VGCF;Vapor Grown Carbon Fiber)などを用いることがよい。
【0035】
複合材料は、複数の一次粒子が凝集してなる二次粒子を形成しているとよい。一次粒子は、リチウムナトリウム系化合物からなるコア部と、炭素材料からなりコア部の表面を被覆する炭素被覆部とからなる。一次粒子の中のコア部は、平均直径が比較的小さく、二次粒子の中で微分散した状態にある。コア部は、リチウムナトリウム系化合物からなり、特に不純物の少ない単相であることがよい。複合材料を電池の正極活物質として用いたときに、コア部は、ナトリウムイオンを吸蔵・放出する電池反応を行う。そして、コア部の表面は、炭素材料からなる炭素被覆層により被覆されている。炭素被覆層は導電性(電子伝導性)があり、コア部間の導電性を高める。このため、複合材料を正極活物質として用いた電池は、充放電特性に優れる。
【0036】
複合材料の全体を100質量%としたときに、リチウムナトリウム系化合物の質量比は、80質量%以上95質量%以下であることが好ましく、更には、85質量%以上94質量%以下であることが望ましい。リチウムナトリウム系化合物の質量比が過小の場合には、複合材料の中で電池反応に寄与する部分が少なくなり、電池容量が低下するおそれがある。リチウムナトリウム系化合物の質量比が過大である場合には、相対的に炭素被覆部が少なくなり、複合材料の導電性が低下するおそれがある。
【0037】
炭素被覆部は、炭素材料(炭素粒子)からなる。炭素粒子は複合材料の導電性を高める。炭素粒子は、コア部の表面の一部又は表面全体を被覆している。
【0038】
複合材料の全体を100質量%としたときに、炭素材料の質量比は、5質量%以上20質量%以下であることが好ましく、更には、6質量%以上15質量%以下であることが望ましい。炭素材料の質量比が過小の場合には、複合材料の導電性が低下するおそれがある。炭素材料の質量比が過大である場合には、相対的にコア部の質量比が低下して、複合材料のうち電池反応に寄与する部分が少なくなり、複合材料の電池容量が低下するおそれがある。
【0039】
リチウムナトリウム系化合物を導電性材料と複合化する複合化方法は、例えば、1)エネルギー付与工程及び熱処理工程を行う方法、2)エネルギー付与工程と、造粒工程と、熱処理工程とを行う方法などがある。
【0040】
1)の複合化方法では、エネルギー付与工程で、リチウムナトリウム系化合物の原料である化合物原料と、炭素材料の原料である炭素原料に、ミリング、メカノフュージョンなどにより機械的エネルギーを付与することで混合する。炭素原料は、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)、気相法炭素繊維(VGCF;Vapor Grown Carbon Fiber)などを用いることがよい。炭素原料は、デキストリン、スクロースなどの糖類を用いてもよい。
【0041】
2)の複合化方法では、エネルギー付与工程で、リチウムナトリウム系化合物の原料である化合物原料と、炭素材料の原料である炭素原料に、ミリングにより機械的エネルギーを付与することで混合する。次に、例えばスプレードライ処理などの噴霧乾燥による造粒工程で、化合物原料の周囲を炭素原料で被覆してなる一次粒子を形成しつつ、一次粒子を複数凝集させて二次粒子を造粒する。そして、熱処理工程で、化合物原料からリチウム系化合物を生成させる。この場合、炭素原料は、デキストリン、スクロースなどの糖類を用いるとよい。
【0042】
この複合化方法の段階では、導電性材料と複合化される化合物原料は、ナトリウムが含まれていてもよい。また、化合物原料には、ナトリウムが含まれていなくてもよい。この段階でリチウム系化合物にナトリウムが含まれていない場合には、後のナトリウム電池を組んで充電することでナトリウムが吸蔵されて、リチウムナトリウム系化合物が生成される。
【0043】
(2)ナトリウムイオン二次電池用正極
ナトリウムイオン二次電池用正極は、上記ナトリウムイオン二次電池用正極活物質を有する。この正極は、上記ナトリウムイオン二次電池用正極活物質と、集電体とからなるとよい。
【0044】
例えば、上記正極活物質に、アセチレンブラック(AB)、ケッチェンブラック(KB)、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber:VGCF)等の導電助材、ポリフッ化ビニリデン(Polyvinylidine Difluoride:PVdF)、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)等の結着材、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等の溶媒を加えてペースト状として、これを集電体に塗布することによって正極を作製することができる。導電助材の使用量については、特に限定的ではないが、例えば、正極活物質100質量部に対して、5〜20質量部とすることができる。また、結着材の使用量についても、特に限定的ではないが、例えば、正極活物質100質量部に対して、5〜20質量部とすることができる。また、その他の方法として、正極活物質と、上記の導電助材および結着材を混合したものを、乳鉢やプレス機を用いて混練してフィルム状とし、これを集電体へプレス機で圧着する方法によっても正極を製造することが出来る。
【0045】
集電体としては、特に限定はなく、従来から使用されている材料、例えば、アルミ箔、アルミメッシュ、ステンレスメッシュなどを用いることができる。更に、カーボン不織布、カーボン織布なども集電体として使用できる。
【0046】
ナトリウムイオン二次電池用正極は、その形状、厚さなどについては特に限定的ではないが、例えば、正極活物質を充填した後、圧縮することによって、厚さを10〜200μm、より好ましくは20〜100μmとすることが好ましい。従って、使用する集電体の種類、構造等に応じて、圧縮後に上記した厚さとなるように、正極活物質の充填量を適宜決めればよい。
【0047】
(3)ナトリウムイオン二次電池
ナトリウムイオン二次電池は、上記したナトリウムイオン二次電池用正極を備えている。ナトリウムイオン二次電池は、上記したナトリウムイオン二次電池用正極と、負極と、電解液とを有する。
【0048】
負極は、金属ナトリウムであってもよい。また、負極は、ナトリウムイオンを吸蔵・放出可能であってナトリウムと合金化可能な元素又は/及びナトリウムと合金化可能な元素を有する元素化合物を有するとよい。前記ナトリウムと合金化反応可能な元素は、Sn(錫)、C(炭素)、Si(珪素)の少なくとも1種を有するとよい。Cを含む負極材料としては、例えば、ハードカーボンなどの炭素系材料が挙げられる。Siを含む負極材料は、SiOx(0.5≦x≦1.5)などのシリコン系材料が挙げられる。一般には、負極として金属ナトリウムを用いた場合にはナトリウム二次電池、負極として金属ナトリウム以外の材料を用いた場合にはナトリウムイオン二次電池と称される。
【0049】
電解液として、非水系溶媒に電解質を溶解させたものを用いるとよい。電解質は、NaイオンとLiイオンのいずれのイオンでも、塩の陽イオンとして結合し得るものがよい。LiはNaよりもイオン化傾向が高いため,Naが電解液に溶解しているときには、Liも電解液に溶解していることが多い。このため、電解液中のNaイオンだけでなく、Liイオンも、イオン伝達に貢献することができる。かかる電解質としては、NaPF
6、NaBF
4、NaClO
4などが挙げられる。
【0050】
電解液を100質量%としたときに、電解質の濃度は、0.5mol/Lから1.7mol/Lであることが好ましい。非水系溶媒は、公知のエチレンカーボネート、ジエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネートなどを用いることができる。
【0051】
上記ナトリウムイオン二次電池は、車両に搭載することができる。車両は、電気車両又はハイブリッド車両などであるとよい。ナトリウムイオン二次電池は、例えば、車両に搭載された走行用モータに連結されていて、駆動源として用いられているとよい。この場合には、長時間高い駆動トルクを出力させることができる。また、上記ナトリウムイオン二次電池は、パーソナルコンピュータ、携帯通信機器などの、車両以外のものにも搭載することができる。
【0052】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例1】
【0053】
リチウム鉄シリケートを正極活物質として用いた各種二次電池を作成し、電池特性を測定した。
【0054】
(正極活物質の作製)
エネルギー付与工程において、酸化第二鉄(Fe
2O
3)(高純度化学株式会社製、純度99.99%)1.0モルと、炭酸リチウムLi
2CO
3(キシダ化学株式会社製、純度99.5%)1.1モルと、シリカSiO
2(日本アエロジル株式会社製)1.0モルと、デキストリン水和物(和光純薬工業株式会社製)1.2モルに湿式混合を行った。湿式混合は、ビーズミル(直径100μmのZrO
2ビーズ)を用いて、3.5時間行った。
【0055】
造粒工程において、上記で得られた混合溶液に熱噴霧装置によりスプレードライ処理を行った。熱噴霧装置は、藤崎電気株式会社製の商品名MDL-050Mである。熱噴霧装置によりスプレードライ処理を行うに当たっては、ガス供給部に給気風量0.80m
3/min.の空気を供給しながら、噴霧器に上記で得た混合溶液を供給した。噴霧器でのノズルエアの一次圧力は0.7MPaG、エア流量は40mL/min.とし、混合溶液の送液速度は流量20mL/min.とした。乾燥室の入り口温度は200℃とした。乾燥室の内部でのガスの圧力は4kPaとした。ガス排出部での排ガス温度は91℃とした。
【0056】
熱処理工程において、上記で得られた粉末を、雰囲気CO
2:H
2(70:30cc)、温度700℃、2時間の熱処理を行った。室温まで冷却した後、処理品のXRD(X線回折)測定とSEM(走査電子顕微鏡)評価を行った。その結果、オリビン型構造、単斜晶、空間群P2
1/nに属するLi
2FeSiO
4とカーボンとからなる複合材料が得られたことがわかった。
【0057】
複合材料をSEM(走査型電子顕微鏡)観察したところ、二次粒子は、ほぼ球状を呈しており、表面にもやもやとした形状の炭素被覆層が認められた。二次粒子の内部には、オリビン構造をもつLi
2FeSiO
4からなるコア部と、コア部の表面を覆う炭素被覆層とからなる一次粒子が多数凝集していた。
【0058】
(ナトリウム半電池の作製及びその電気特性評価)
上記の複合材料を用いて2種類のナトリウム電池を作製し、その電池評価を行った。
【0059】
<ナトリウム電池1>
まず、次の組成をもつ電極を作製した。電極組成は、質量比で、上記で作製したLi
2FeSiO
4とカーボンの複合材料:アセチレンブラック(AB):ポリフッ化ビニリデン(PVDF)=85:5:10 とした。前記の電極組成の電極を、140℃で3時間真空乾燥した。
【0060】
また、電解液として、エチレンカーボネート(EC):ジエチレンカーボネート(DEC)=1:1(体積比)にNaPF
6を溶解した。電解液の組成は、EC:DEC=1:1(体積比)、1mol/LのNaPF
6である。
【0061】
セパレータとしてのガラスフィルター、負極としてのナトリウム金属箔を、上記の電極及び電解液とともに用いて、コイン型のナトリウム半電池を試作した。
【0062】
ナトリウム半電池について30℃にて充放電試験を行った。試験条件は、電流密度0.05mA/cm
2にて電圧を1.0−4.1Vの間で充放電を繰り返した。初回充電のみ4.1Vにて10時間定電圧充電した。充放電試験の結果を
図2に示した。
【0063】
図2に示すように、第1回目充電容量が70mAh/g程度であり、低かった。それ以後は、放電容量及び充電容量ともに150mAh/g程度と高かった。
【0064】
<ナトリウム電池2>
次に、上記の電池反応前の複合材料を、正極活物質として用いてリチウム半電池を作製した。リチウム半電池は、対極をリチウム金属とし、電解液は1mol/Lの電解質LiPF
6を含む。電解液の溶媒の組成は、エチレンカーボネート(EC)とジメチレンカーボネートからなり、EC:DMC(体積比)=1:1である。このリチウム半電池について、温度30℃、電流密度0.05mA/cm
2にて、初回のみ4.8Vまで定電圧充電を行った。
【0065】
このリチウム半電池により充電後に得られた電極を用いて、上記のナトリウム半電池を作製した。このナトリウム半電池に上記と同条件で充放電試験を行った。但し、初回放電により充放電試験を行った。その充放電試験結果を
図3に示す。
図3に示すように、第1回目の充電容量を含めて、150mAh/g以上の高い放電容量及び充電容量であった。
【0066】
(参考例1:リチウム電池1)
リチウム電池1として、上記の複合材料を用いてリチウム半電池を作製し、充放電試験を行った。リチウム電池1の正極は、上記のナトリウム半電池の正極と同様である。負極はリチウム金属である。電解液は、1mol/Lの電解質LiPF
6を非水系溶媒に溶解させてなる。非水系溶媒は、エチレンカーボネート(EC)とジメチレンカーボネートからなり、EC:DMC(体積比)=1:1の組成比である。
【0067】
このリチウム半電池について、温度30℃、電流密度0.05mA/cm
2、電圧を1.5−4.5Vの間(初回のみ4.8Vまで定電圧充電を行った)で充放電試験を行った。その結果を
図4に示した。表1には、ナトリウム電池1,2及びリチウム電池1の電池特性をまとめた。
【0068】
リチウム電池1の充放電曲線と、ナトリウム電池1,2の充放電曲線とを比較する。以下のように、標準水素電極SHEに対するNaの電位差は、標準水素電極SHEに対するLiの電位差に比べて小さい。
Li
+ + e
− → Li E
0=−3.04V vs SHE
Na
+ + e
− → Na E
0=−2.71V vs SHE
【0069】
このため、同じ正極活物質Li
2FeSiO
4に対して電池反応を行ったときに、ナトリウム半電池の正極活物質でNaイオンの吸蔵・放出により生じる放電電圧・充電電圧は、リチウム半電池の正極活物質でLiイオンの吸蔵・放出により生じる放電電圧・充電電圧よりも低くなる。実際、
図2〜
図4に示すように、両電池について充放電曲線を作成すると、ナトリウム電池1,2の放電電圧は、リチウム電池1の放電電圧よりも低くなった。このことは、ナトリウム電池1、2の正極活物質で、ナトリウムの吸蔵・放出が行われているためであると推定される。
【0070】
次に、リチウム電池1で電池反応を行ったときに、正極活物質Li
2FeSiO
4の充放電前、第1回目の充電を行った後の充電相、第1回目の放電を行った後の放電相の、格子定数a(Å),b(Å),c(Å)、a軸とc軸の角度β(°)、単位格子体積(Å
3)を評価した。その結果を表2に示した。表2の中の( )内の数値は標準偏差を示す。
【0071】
【表1】
【0072】
【表2】
【0073】
表2に示すように、充電相のときには、充放電前に比べて、格子定数a、b、cのいずれも増加していた。a軸とc軸の角度βも、充電相では充放電前のときに比べて大きく変化した。また、放電相では、充電相のときよりも若干充放電前の数値に戻る傾向があった。
【0074】
充放電前のLi
2FeSiO
4の計算密度は、3.21g/cm
3であった。第1回目の充電を行った後の充電相の計算密度は3.00g/cm
3であった。第1回目の放電を行った後の放電相の計算密度は3.13g/cm
3であった。
【0075】
このように、Li
2FeSiO
4の充電相では、充放電前のときに比べて、格子定数が大きく、密度が小さくなった。
【0076】
表2には、リチウム半電池で電池反応を行ったときに、正極活物質Li
2FeSiO
4の構造変化を示した。ナトリウムイオン電池で電池反応を行ったときにも、正極活物質Li
2FeSiO
4において、表2に示すようなリチウム挿入脱離による構造変化と同様の構造変化が生じると考えられる。
【0077】
即ち、
図1の左下図に示すように、正極活物質Li
2FeSiO
4を用いたナトリウム電池では、第1回目充電時に、Li
2FeSiO
4からLiが脱離して、空隙が形成される。
図1の右下図に示すように、次の第1回目放電時には、LiFeSiO
4にNaが挿入されて、リチウムナトリウム鉄シリケートが形成される。それ以後の充電・放電により、リチウムナトリウム鉄シリケートではNaの挿入・脱離が繰り返される。
【0078】
図4に示すように、リチウム電池1では、第1回目充電容量が180mAh/g程度と高いが、第1回目放電容量は150mAh/g程度と格段に低くなった。このことは、第1回目充電時に正極活物質から放出されたLiイオンの一部は、後の放電により吸蔵されず、初期効率が低いことを表す。第1回目充電時に正極活物質Li
2FeSiO
4からLiイオンが放出されると、そこには空隙が形成され、体積密度が減少する。次の放電時には、LiFeSiO
4の空隙の一部にLiイオンが吸蔵され、体積密度が若干増加する。このため、充放電の際には、Li
2FeSiO
4の体積密度が若干変化すると推定される。
【0079】
これに対して、
図3に示すように、ナトリウム電池2では、リチウム電池1で充電した後の電極をナトリウム対極と組み合わせており、第1回目充電容量と第1回目放電容量が同程度であった。これは、Naイオンの挿入・脱離の初期効率が高いためと考えられる。
【0080】
図3に示すナトリウム電池2の充電容量・放電容量が、
図4に示すリチウム電池1の1回目充電容量以降の充電容量・放電容量よりも高い。この理由は、Naイオンの挿入・脱離反応がLiイオンの場合よりも起こりやすいためであると考えられる。
【実施例2】
【0081】
リチウム鉄ホスフェートを正極活物質として用いた各種二次電池を作製し、各電池の電池特性を測定した。
【0082】
(正極活物質の作製)
シュウ酸鉄FeC
2O
4・2H
2O(キシダ化学株式会社製、純度99.9%)1.0モルと、炭酸リチウムLi
2CO
3(キシダ化学株式会社製、純度99.5%)1.1モルと、燐酸水素アンモニウムNH
4H
2PO
4(アルドリッチ、純度99%)1.0モルに湿式混合を行った。湿式混合は、ボールミル装置(フリッチジャパン製P−7)、溶媒アセトンを用いて行った。混合条件は、500rpmにて2時間であった。その後、溶媒を蒸発させて、窒素雰囲気にて熱処理(800℃、24時間)を行った。処理品のXRD測定を行った結果、オリビン構造をもち、斜方晶、空間群Pnmbに属するLiFePO
4であることがわかった。
【0083】
次に、エネルギー付与工程において、上記で得られたLiFePO
4粉末にスクロース(和光純薬工業株式会社製)を1:1の重量比で混合した。混合方法はボールミリングであり、回転速度は300rpm、回転時間は120分であった。熱処理工程において、この混合品を窒素雰囲気、温度700℃、時間2時間で熱処理を行った。室温まで冷却した。処理品のXRD測定とSEM評価を行った結果、LiFePO
4と炭素材料とを複合化した複合材料が得られた。
【0084】
(ナトリウム電池3の作製及びその電気特性評価)
次に、上記の複合材料を、正極活物質として用いて次の組成をもつ電極を作製した。電極組成は、質量比で、LiFePO
4とカーボンの複合材料:アセチレンブラック(AB):ポリフッ化ビニリデン(PVDF)=85:5:10とした。前記の電極組成の電極を140℃で3時間真空乾燥した。この電極を用いてリチウム半電池を作製し、1回のみ充電を行った。リチウム半電池の構成は、対極をリチウム金属とし、電解液は1mol/Lの電解質LiPF
6と、非水系溶媒とからなる。非水系溶媒は、エチレンカーボネート(EC)とジメチレンカーボネートからなり、EC:DMC(体積比)=1:1の組成比であった。このリチウム半電池について、温度30℃、電流密度0.05mA/cm
2にて、4.2Vまで定電流で充電を行った。
【0085】
リチウム半電池による1回の充電後に得られた電極を用いて、ナトリウム半電池を作製した。電解液の組成は、エチレンカーボネート(EC):ジエチレンカーボネート(DEC)=1:1(体積比)、1mol/LのNaPF
6であった。セパレータとしてのガラスフィルター、負極としてのナトリウム金属箔を、上記の電極及び電解液とともに用いて、コイン型のナトリウム半電池を試作した。これを、ナトリウム電池3とした。
【0086】
ナトリウム電池3について30℃にて充放電試験を行った。試験条件は、0.05mA/cm
2にて電圧を2.0−4.2Vの間で充放電を繰り返した。但し、初回放電により充放電試験を行った。充放電試験の結果を
図5に示した。
【0087】
図5に示すように、充電平均電圧が3.1V程度であり、放電平均電圧は2.8V程度であった。第1回目放電容量は、141mAh/g程度であった。第2回目放電容量は、130mAh/g程度であり、第1回目放電容量よりも低かった。
【0088】
(参考例2:リチウム電池2)
リチウム電池2として、上記の複合材料(LiFePO
4と炭素材料との複合体)を用いてリチウム半電池を作製し、充放電試験を行った。リチウム半電池の正極は、上記のナトリウム電池3の正極と同様である。負極材料はリチウム金属である。電解液は、1mol/Lの電解質LiPF
6を非水系溶媒に溶解させてなる。非水系溶媒の組成は、エチレンカーボネート(EC)とジメチレンカーボネートからなり、EC:DMC(体積比)=1:1であった。
【0089】
リチウム電池2について、上記のナトリウム電池3と同条件で、充放電試験を行い、その結果を
図6に示した。
図6に示すように、リチウム電池2の第1回目充電容量が140mAh/g程度であった。第1回目放電容量は131mAh/g程度であった。第2回目充電容量は、132mAh/g程度であり、第1回目充電容量よりも8mAh/g程度低かった。ナトリウム電池3とリチウム電池2の電池特性を表3にまとめた。
【0090】
【表3】
【0091】
図5のナトリウム電池3の充放電曲線と、
図6のリチウム電池2の充放電曲線とを比較すると、ナトリウム電池3の放電電圧は、リチウム電池2よりも低かった。このことから、正極活物質LiFePO
4においても、ナトリウムイオンの吸蔵、放出が行われていると考えられる。
【0092】
また、
図6に示すように、リチウム電池2では、第1回目の充電時の充電容量が大きく、第1回目放電容量及びそれ以後の充電・放電容量は第1回目の充電容量よりも低かった。このことは、第1回目充電時に、正極活物質LiFePO
4からLiが放出され、その一部が次の第1回目の放電時にLiFePO
4に吸蔵されなかったと考えられる。
【0093】
これに対して、
図5に示すように、予めLi半電池で充電した後の電極をNa極と組み合わせたナトリウム電池3では、第1回目放電容量及び第2回目以後の充電・放電の容量は、第1回目充電容量と同程度以上の大きい値であった。この理由は、Naイオンの挿入・脱離反応が安定に行われているためと推定される。