特許第5900942号(P5900942)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5900942
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月6日
(54)【発明の名称】核酸挿入用ベクター
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20160324BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
【請求項の数】9
【全頁数】54
(21)【出願番号】特願2015-541733(P2015-541733)
(86)(22)【出願日】2014年10月30日
(86)【国際出願番号】JP2014079515
(87)【国際公開番号】WO2015068785
(87)【国際公開日】20150514
【審査請求日】2015年8月20日
(31)【優先権主張番号】特願2013-230349(P2013-230349)
(32)【優先日】2013年11月6日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100183254
【弁理士】
【氏名又は名称】森山 彩子
(72)【発明者】
【氏名】山本 卓
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 賢一
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 哲史
(72)【発明者】
【氏名】坂根 祐人
【審査官】 松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−500018(JP,A)
【文献】 DNA鑑定,2013年10月21日,Vol.5,p.1-8
【文献】 Proc. Natl. Acad. Sci. USA,2012年,Vol.109, No.27,p.10915-20
【文献】 実験医学,2013年 1月,Vol.31, No.1,p.95-100
【文献】 ウイルス,2014年 6月,Vol.64, No.1,p.75-82
【文献】 Science,2013年 2月,Vol.339,p.823-6
【文献】 Genome Research,2013年 3月,Vol.23,p.539-46
【文献】 Biotechnol. Bioeng.,2013年 3月,Vol.110, No.3,p.871-80
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヌクレアーゼによって、細胞に含まれる核酸における所定の部位に所望の核酸を挿入するためのベクターであって、
ここで、前記細胞に含まれる核酸は、5’末端から3’末端の方向において、順に、第1のヌクレオチド配列からなる領域、前記所定の部位、および第2のヌクレオチド配列からなる領域を含み、
前記ヌクレアーゼは、前記細胞に含まれる前記所定の部位に対して特異的な切断を行うものであり、
前記ベクターは、5’末端から3’末端の方向において、順に、5’側のgRNA標的配列または第1のDNA結合ドメインによって認識されるヌクレオチド配列、第1のヌクレオチド配列からなる領域、前記所望の核酸、第2のヌクレオチド配列、および3’側のgRNA標的配列または第2のDNA結合ドメインによって認識されるヌクレオチド配列からなる領域を含み、
前記ベクターは、前記ヌクレアーゼによって、5’末端から3’末端の方向において、順に、第1のヌクレオチド配列からなる領域、前記所望の核酸、および第2のヌクレオチド配列からなる領域を含む核酸断片を生じさせるものであり、
前記細胞に含まれる核酸における第1のヌクレオチド配列と前記ベクターにおける第1のヌクレオチド配列がマイクロホモロジー媒介性結合によって連結され、前記細胞に含まれる核酸における第2のヌクレオチド配列と前記ベクターにおける第2のヌクレオチド配列がマイクロホモロジー媒介性結合によって連結され、それによって前記所望の核酸が挿入され、
第1のヌクレオチド配列が3塩基長〜10塩基長であり、かつ第2のヌクレオチド配列が3塩基長〜10塩基長である、
ベクター。
【請求項2】
第1のDNA結合ドメインおよび第2のDNA結合ドメインを含むヌクレアーゼによって、細胞に含まれる核酸における所定の部位に所望の核酸を挿入するためのベクターであって、
ここで、前記細胞に含まれる核酸は、5’末端から3’末端の方向において、順に、第1のヌクレオチド配列からなる領域、前記所定の部位、および第2のヌクレオチド配列からなる領域を含み、
前記細胞に含まれる核酸において、第1のヌクレオチド配列からなる領域、前記所定の部位、および第2のヌクレオチド配列からなる領域は、それぞれ、第1のDNA結合ドメインによって認識されるヌクレオチド配列からなる領域と、第2のDNA結合ドメインによって認識されるヌクレオチド配列からなる領域との間にあり、
ここで、前記ベクターは、5’末端から3’末端の方向において、順に、第1のヌクレオチド配列からなる領域、前記所望の核酸、および第2のヌクレオチド配列からなる領域を含み、
前記ベクターにおいて、第1のヌクレオチド配列からなる領域、および第2のヌクレオチド配列からなる領域は、それぞれ、第1のDNA結合ドメインによって認識されるヌクレオチド配列からなる領域と、第2のDNA結合ドメインによって認識されるヌクレオチド配列からなる領域との間にあり、
前記ベクターは、前記ヌクレアーゼによって、5’末端から3’末端の方向において、順に、第1のヌクレオチド配列からなる領域、前記所望の核酸、および第2のヌクレオチド配列からなる領域を含む核酸断片を生じさせるものであり、
前記細胞に含まれる核酸における第1のヌクレオチド配列と前記ベクターにおける第1のヌクレオチド配列がマイクロホモロジー媒介性結合によって連結され、前記細胞に含まれる核酸における第2のヌクレオチド配列と前記ベクターにおける第2のヌクレオチド配列がマイクロホモロジー媒介性結合によって連結され、それによって前記所望の核酸が挿入され、
第1のヌクレオチド配列が3塩基長〜10塩基長であり、かつ第2のヌクレオチド配列が3塩基長〜10塩基長である、
ベクター。
【請求項3】
前記ヌクレアーゼがホモダイマー型のヌクレアーゼであり、前記ベクターが環状ベクターである、請求項2に記載のベクター。
【請求項4】
ヌクレアーゼがCas9ヌクレアーゼである、請求項1に記載のベクター。
【請求項5】
ヌクレアーゼがTALENである、請求項2に記載のベクター。
【請求項6】
細胞に含まれる核酸における所定の部位に所望の核酸を挿入するためのキットであって、請求項1〜のいずれか1項に記載のベクター、およびヌクレアーゼを発現させるためのベクターを含む、キット。
【請求項7】
細胞に含まれる核酸における所定の部位に所望の核酸をin vitroで、あるいは非ヒト生物においてin vivoで挿入する方法であって、請求項1〜のいずれか1項に記載のベクター、およびヌクレアーゼを発現させるためのベクターを、細胞に導入する工程を含む、方法。
【請求項8】
請求項に記載の方法によって細胞に含まれる核酸における所定の部位に所望の核酸を挿入する工程を含む、所望の核酸を含む細胞を製造する方法
【請求項9】
請求項8に記載の方法によって細胞を製造する工程、および製造された細胞を分化させる工程を含む、所望の核酸を含む非ヒト生物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞内の核酸における所定の部位に所望の核酸を挿入するため方法、ならびにそのためのベクター、キット、および当該方法によって取得された細胞に関する。さらに、本発明は、所望の核酸を含む細胞を含む生物、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
DNA結合ドメインとDNA切断ドメインからなるヌクレアーゼサブユニットを複数含むポリペプチドとして、TALEN(TALE Nuclease)やZFN(Zinc Finger Nuclease)などが知られている(特許文献1〜4、非特許文献1)。これらの人工ヌクレアーゼは、DNA結合ドメインの結合部位において複数のDNA切断ドメインが近接して多量体を形成することによって、DNAの二本鎖切断を引き起こす。DNA結合ドメインは、複数のDNA結合モジュールを繰り返して含み、それぞれのDNA結合モジュールが、DNA鎖中の特定の塩基対を認識する。そのため、DNA結合モジュールを適切に設計することによって、特定のヌクレオチド配列に特異的な切断を行うことができる。特定のヌクレオチド配列に特異的な切断を行う他のヌクレアーゼとしては、CRISPR/CasシステムなどのRNA誘導型ヌクレアーゼ(非特許文献2)や、CRISPR/CasシステムとFoklヌクレアーゼを融合させたRNA誘導型Foklヌクレアーゼ(Fokl−dCas9)(非特許文献3)が知られている。これらのヌクレアーゼによる切断の修復の際に生じるエラーや組換えを利用することによって、ゲノムDNA上の遺伝子の欠失、挿入、および変異導入などの各種の遺伝子改変が行われている(特許文献5〜6、非特許文献4参照)。
【0003】
人工ヌクレアーゼを用いて細胞に所望の核酸を挿入する方法として、非特許文献5〜8に記載された方法が知られている。非特許文献5には、TALENを用いて、相同組換えによって外来DNAを挿入する方法が記載されている。また、非特許文献6には、ZFNを用いて、相同組換えによって外来DNAを挿入する方法が記載されている。しかしながら、相同組換えを利用するベクターは、長鎖に及び、簡便に作製することができない。また、細胞や生物種によっては、相同組換え効率が低いことがあるため、これらの方法は、限られた細胞および生物種にしか使用することができない。所望の核酸を挿入した細胞を安定的に有する改変生物を取得するためには、動物胚に目的とする核酸を導入した後に分化させて成体を得ることが効果的であるが、動物胚においては、相同組換え効率が低く、これらの方法は非効率的である。動物胚に外来性DNAを導入する技術として、ssODN媒介性遺伝子修飾が知られているが、この技術においては、約数10bp程度の短いDNAしか導入できない。
【0004】
非特許文献7および8に記載された方法は、相同組換えを利用せずに人工ヌクレアーゼを用いて細胞に核酸を挿入する方法である。非特許文献7は、ZFNおよびTALENを用いて、細胞内の核酸と挿入すべき外来DNAを切断し、両者の切断部位を非相同末端結合(NHEJ)の作用によって連結することによって、外来DNAを挿入する方法を開示している。しかしながら、非特許文献7に記載の方法においては、挿入する核酸の向きが制御されておらず、挿入する核酸のつなぎ目も正確ではない。非特許文献8に記載の方法は、向きの制御と正確な連結を可能にするために、ヌクレアーゼによる切断によって細胞内の核酸から生じる一本鎖末端と、外来性DNAから生じる一本鎖末端とを相互にアニーリングさせて連結している。しかしながら、非特許文献8に記載の方法は、挿入後のDNAに対する再度の切断を防ぐために、ヘテロダイマー型のZFNおよびTALENを使用しなければならず、活性の高いホモダイマー型の人工ヌクレアーゼを用いることができない。また、非特許文献8に記載の方法は、動物胚への所望の核酸の挿入には用いられていない。さらに、非特許文献8に記載の方法は、誤った箇所への一本鎖末端のアニーリングが生じる頻度が高く、正確な挿入を受けた細胞が得られる頻度は高くなかった。なお、非特許文献5〜8には、CRISPR/CasシステムなどのRNA誘導型ヌクレアーゼやFokl−dCas9などのRNA誘導型Foklヌクレアーゼを用いる方法は記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2011/072246号
【特許文献2】国際公開第2011/154393号
【特許文献3】国際公開第2011/159369号
【特許文献4】国際公開第2012/093833号
【特許文献5】特表2013−513389号公報
【特許文献6】特表2013−529083号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Nat Rev Genet.2010 Sep;11(9):636−46.
【非特許文献2】Nat Protoc.2013 Nov;8(11):2281−308.
【非特許文献3】Nat Biotechnol.2014 Jun;32(6):569−76.
【非特許文献4】Cell.2011 Jul 22;146(2):318−31.
【非特許文献5】Nat Biotechnol.2011 Jul 7;29(8):731−4.
【非特許文献6】Nat Biotechnol.2009 Sep;27(9):851−7.
【非特許文献7】Biotechnol Bioeng.2013 Mar;110(3):871−80.
【非特許文献8】Genome Res.2013 Mar;23(3):539−46.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明は、長鎖のベクターの作製などの煩雑な工程を必要とすることなく、様々な生物種の細胞内の核酸の所定の部位に、所望の核酸を、正確かつ簡便に挿入することができる方法であって、比較的長鎖に及ぶ核酸を挿入することもでき、ホモダイマー型のDNA切断ドメインを含むヌクレアーゼ、RNA誘導型ヌクレアーゼ、またはRNA誘導型Foklヌクレアーゼと組み合わせて使用することができる方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、核酸を挿入することを目的とする所定の部位を挟む第1のヌクレオチド配列からなる領域と第2のヌクレオチド配列からなる領域に着目し、細胞内の核酸に含まれるこれらの領域からなる部分に対して特異的な切断を行うヌクレアーゼを設計した。また、本発明者らは、5’末端から3’末端の方向において、順に、第1のヌクレオチド配列からなる領域、挿入を目的とする所望の核酸、および第2のヌクレオチド配列からなる領域を含むベクターを設計した。そして、本発明者らは、設計したベクターを細胞に導入し、前記ヌクレアーゼを細胞に作用させて、細胞内の核酸における前記の所定の部位において切断を生じさせた。また、ベクターに対してもヌクレアーゼを作用させて、5’末端から3’末端の方向に、順に、第1のヌクレオチド配列からなる領域、前記所望の核酸、および第2のヌクレオチド配列からなる領域を含む核酸断片を生じさせた。すると、細胞内において、前記細胞内の核酸における第1のヌクレオチド配列と前記ベクターにおける第1のヌクレオチド配列がマイクロホモロジー媒介性結合(MMEJ)によって連結され、前記細胞内の核酸における第2のヌクレオチド配列と前記ベクターにおける第2のヌクレオチド配列がMMEJによって連結された。これにより、所望の核酸が、細胞の核酸の所定の部位に正確に挿入された。挿入は、数kb以上の比較的長鎖に及ぶ核酸について可能であった。用いたヌクレアーゼは、挿入前の細胞内の核酸に含まれる第1のヌクレオチド配列からなる領域、および第2のヌクレオチド配列からなる領域からなる部分に対して特異的な切断を行うものであるが、連結後の核酸は、前記所望の核酸の挿入により、当該部分の一部分を失っている。そのため、細胞内に存在するヌクレアーゼによる再度の切断を受けず、安定的に保持され、所望の核酸の挿入は、高頻度で生じた。
【0009】
当該方法は、多くの細胞において機能するマイクロホモロジー媒介性末端結合によって連結を行うものであるため、相同組換え効率が低い発生段階の細胞などに対しても、所望の核酸を正確に高頻度で挿入することができ、適用できる生物および細胞の種類の範囲が広い。また、当該方法は、ヌクレアーゼを導入するためのベクターと、核酸を挿入するためのベクターの細胞に対する挿入を同時に行うことができ、操作が簡便である。さらに、当該方法は、マイクロホモロジー媒介性末端結合による細胞内の核酸の部分の変化によって、挿入後の核酸に対する再度の切断を防ぐことができるため、ヌクレアーゼに含まれるDNA切断ドメインとして、活性の高いホモダイマー型のドメインを使用することもでき、実験材料の選択の幅が広い。
【0010】
すなわち、本発明は、第1の態様において、ヌクレアーゼによって、細胞に含まれる核酸における所定の部位に所望の核酸を挿入するためのベクターであって、
ここで、前記細胞に含まれる核酸は、5’末端から3’末端の方向において、順に、第1のヌクレオチド配列からなる領域、前記所定の部位、および第2のヌクレオチド配列からなる領域を含み、
前記ヌクレアーゼは、前記細胞に含まれる前記の第1のヌクレオチド配列からなる領域、および前記の第2のヌクレオチド配列からなる領域からなる部分に対して特異的な切断を行うものであり、
前記ベクターは、5’末端から3’末端の方向において、順に、第1のヌクレオチド配列からなる領域、前記所望の核酸、および第2のヌクレオチド配列からなる領域を含む、
ベクター、を提供するものである。
【0011】
すなわち、本発明は、第2の態様において、第1のDNA結合ドメインおよび第2のDNA結合ドメインを含むヌクレアーゼによって、細胞に含まれる核酸における所定の部位に所望の核酸を挿入するためのベクターであって、
ここで、前記細胞に含まれる核酸は、5’末端から3’末端の方向において、順に、第1のヌクレオチド配列からなる領域、前記所定の部位、および第2のヌクレオチド配列からなる領域を含み、
前記細胞に含まれる核酸において、第1のヌクレオチド配列からなる領域、前記所定の部位、および第2のヌクレオチド配列からなる領域は、それぞれ、第1のDNA結合ドメインによって認識されるヌクレオチド配列からなる領域と、第2のDNA結合ドメインによって認識されるヌクレオチド配列からなる領域との間にあり、
ここで、前記ベクターは、5’末端から3’末端の方向において、順に、第1のヌクレオチド配列からなる領域、前記所望の核酸、および第2のヌクレオチド配列からなる領域を含み、
前記ベクターにおいて、第1のヌクレオチド配列からなる領域、および第2のヌクレオチド配列からなる領域は、それぞれ、第1のDNA結合ドメインによって認識されるヌクレオチド配列からなる領域と、第2のDNA結合ドメインによって認識されるヌクレオチド配列からなる領域との間にあり、
前記ベクターは、前記ヌクレアーゼによって、5’末端から3’末端の方向において、順に、第1のヌクレオチド配列からなる領域、前記所望の核酸、および第2のヌクレオチド配列からなる領域を含む核酸断片を生じさせるものである、
ベクター、を提供するものである。
【0012】
また、本発明は、第3の態様において、前記細胞に含まれる核酸における第1のヌクレオチド配列と前記ベクターにおける第1のヌクレオチド配列がマイクロホモロジー媒介性結合(MMEJ)によって連結され、前記細胞に含まれる核酸における第2のヌクレオチド配列と前記ベクターにおける第2のヌクレオチド配列がMMEJによって連結され、それによって前記所望の核酸が挿入される、第1または第2の態様に記載のベクター、を提供するものである。
【0013】
また、本発明は、第4の態様において、前記ヌクレアーゼがホモダイマー型のヌクレアーゼであり、前記ベクターが環状ベクターである、第2の態様に記載のベクター、を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、第5の態様において、ヌクレアーゼがCas9ヌクレアーゼである、第1の態様に記載のベクター、を提供するものである。
【0015】
また、本発明は、第6の態様において、ヌクレアーゼがTALENである、第2の態様に記載のベクター、を提供するものである。
【0016】
また、本発明は、第7の態様において、細胞に含まれる核酸における所定の部位に所望の核酸を挿入するためのキットであって、第1の態様〜第6の態様のいずれか1つに記載のベクター、およびヌクレアーゼを発現させるためのベクターを含む、キットを提供するものである。
【0017】
また、本発明は、第8の態様において、細胞に含まれる核酸における所定の部位に所望の核酸を挿入する方法であって、第1の態様〜第6の態様のいずれか1つに記載のベクター、およびヌクレアーゼを発現させるためのベクターを、細胞に導入する工程を含む、方法を提供するものである。
【0018】
また、本発明は、第9の態様において、第8の態様に記載の方法によって取得された細胞を提供するものである。
【0019】
また、本発明は、第10の態様において、第9の態様に記載の細胞を含む生物を提供するものである。
【0020】
また、本発明は、第11の態様において、第8の態様に記載の方法によって取得された細胞を分化させる工程を含む、所望の核酸を含む生物の製造方法を提供するものである。
【0021】
また、本発明は、第12の態様において、第11の態様に記載の方法によって製造された生物を提供するものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明のベクターを用いれば、長鎖のベクターの作製などの煩雑な工程を必要とすることなく、細胞や生物種における相同組換え効率によらずに、広く様々な生物種の細胞内の核酸の所定の部位に、所望の核酸を、フレームシフトを起こさずに、正確かつ簡便に挿入することができ、数kb以上の比較的長鎖に及ぶ核酸を挿入することもできる。また、本発明のベクターを用いる核酸の挿入方法は、高ヌクレアーゼ活性を有するホモダイマー型のDNA切断ドメインを含むヌクレアーゼと組み合わせて使用することができる。あるいは、本発明のベクターを用いる核酸の挿入方法は、CRISPR/CasシステムなどのRNA誘導型ヌクレアーゼと組み合わせて使用することもできる。さらに、本発明のベクターを用いれば、つなぎ目を正確にデザインすることができ、インフレームで機能ドメインをノックインすることができるため、標識となる遺伝子を含む核酸を使用すれば、当該遺伝子の発現を検出することによって、目的とする挿入が生じた生物を簡易に同定することができ、所望の核酸が挿入された生物を、簡便かつ高頻度で取得することができる。また、本発明のベクターを用いる核酸の挿入方法は、相同組換え効率の低い動物胚などの未分化細胞に対して用いることができるため、本発明のベクターを用いて未分化細胞に所望の核酸を挿入し、得られた未分化細胞を分化させることによって、所望の核酸を安定的に保持する成体生物を簡便に取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、TALENを用いて、所望の核酸を含むベクター全体が挿入される場合の、tyr遺伝子座へのターゲットインテグレーションの概略図を示す。
図2図2は、TALENを用いて、所望の核酸を含むベクターの一部分が挿入される場合の概略図を示す。
図3図3は、CRISPR/Casシステムを用いた本発明のベクター設計の概略図を示す。
図4a図4aは、CRISPR/Casシステムを用いて、所望の核酸を含むベクター全体が挿入される場合の概略図を示す。
図4b図4bは、CRISPR/Casシステムを用いて、所望の核酸を含むベクター全体が挿入される場合の概略図を示す。
図5図5は、Fokl−dCas9を用いて、所望の核酸を含むベクター全体が挿入される場合の概略図を示す。
図6図6は、TALEN及びターゲットインテグレーション用ベクター(TAL−PITChベクター)を微量顕微注入した胚の表現型を示す。図6は、TALEN R +ベクター注入胚(ネガティブコントロール群;A)、及びTALEN mix +ベクター注入胚(実験群;B)の明視野像(上段)とGFP蛍光像(下段)を示す。
図7図7は、ネガティブコントロール群及び実験群における表現型の割合を示す。異常発生胚(灰色、Abnormal)を除いて、表現型を4つ(Full、Half、Mosaic、Non)に分類した。個体数はそれぞれのグラフの上部に示す。
図8図8は、標的遺伝子座へのドナーベクター(TAL−PITChベクター)導入の検出を示す。下の図は、tyrTALENの標的配列上流及び下流、ベクター側のプライマーセットを用いたPCR産物の電気泳動写真である。上の図はプライマーの位置を示す。下の図において、矢印は、ベクターがインテグレーションされたことを示すバンドを示す。数字は図6の個体番号に対応する。
図9図9Aおよび図9Bは、挿入部位とドナーベクター(TAL−PITChベクター)のつなぎ目のシーケンス解析を示す。No.3及び4(図6)由来のPCR産物(図8;5’側及び3’側)をシーケンスした結果を示す。MMEJ依存的に導入された際に期待される配列を上段に示す。TALEN標的配列には下線を付している。中央付近のボックスはそれぞれ5’側、3’側のMMEJによって短くなったスペーサー周辺配列を示す。欠失はダッシュライン(−)で示し、挿入は斜体文字で示す。
図10図10は、CRISPR/Casシステムを用いる、HEK293T細胞のFBL遺伝子座へのターゲットインテグレーションの概略図である。
図11A図11Aおよび図11Bは、ドナーベクター(CRIS−PITChベクター)の全長配列を示す。mNeonGreenのコード配列は緑色、2Aペプチドのコード配列は紫色、ピューロマイシン耐性遺伝子のコード配列は青色で、それぞれ示される。下線は5’側および3’側のgRNA標的配列を示す。
図11B図11Aの続きである。
図12図12は、3種類のgRNAおよびCas9を発現するベクターと、ドナーベクター(CRIS−PITChベクター)とを共導入したHEK293T細胞の表現型を示す、mNeonGreen蛍光像である。
図13図13は、挿入部位とドナーベクター(CRIS−PITChベクター)のつなぎ目のシーケンス解析を示す。MMEJ依存的に導入された際に期待される配列を上段に示す。欠失はダッシュライン(−)で示し、挿入は二重下線で示し、置換は下線で示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
第1の態様の本発明によって提供されるベクターは、細胞に含まれる核酸における所定の部位に所望の核酸を挿入するためのものである。細胞に含まれる核酸としては、たとえば、細胞のゲノムDNAが挙げられる。細胞の由来としては、ヒト;ウシ、ミニブタ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター、マウス、ラット、サルなどの非ヒト哺乳動物;鳥類;ゼブラフィッシュなどの魚類;カエルなどの両生類;爬虫類;ショウジョウバエなどの昆虫類;甲殻類などが挙げられる。また、細胞の由来としては、シロイヌナズナなどの植物などが挙げられる。細胞は、培養細胞であってもよい。細胞は、胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)などの多能性幹細胞などの、成熟度の高い組織細胞に分化し得る能力をもつ未成熟な細胞であってもよい。胚性幹細胞、人工多能性幹細胞は、無限に増殖可能であり、機能的な細胞の大量供給源として有益である。
【0025】
第1の態様の本発明のベクターを挿入する細胞は、5’末端から3’末端の方向において、順に、第1のヌクレオチド配列からなる領域、核酸を挿入することを目的とする所定の部位、および第2のヌクレオチド配列からなる領域を含む核酸を含む。第1のヌクレオチド配列、および第2のヌクレオチド配列は、挿入するベクターに含まれる配列との関係を示すための便宜的な表記である。第1のヌクレオチド配列、および第2のヌクレオチド配列は、前記所定の部位と直接的に隣接していてもよいし、特定の塩基配列からなる領域を介して隣接していてもよい。特定の塩基配列からなる領域を介して隣接する場合、当該特定の塩基配列は、好ましくは、1塩基長〜7塩基長、より好ましくは、1塩基長〜3塩基長である。第1のヌクレオチド配列は、好ましくは、3塩基長〜10塩基長、より好ましくは、4塩基長〜8塩基長、さらに好ましくは、5塩基長〜7塩基長である。また、第2のヌクレオチド配列は、好ましくは、3塩基長〜10塩基長、より好ましくは、4塩基長〜8塩基長、さらに好ましくは、5塩基長〜7塩基長である。
【0026】
第1の態様の本発明によって提供されるベクターは、ヌクレアーゼによって、細胞に含まれる核酸における所定の部位に所望の核酸を挿入するためのものである。第1の態様の本発明において、前記ヌクレアーゼは、前記細胞に含まれる前記の第1のヌクレオチド配列からなる領域、および前記の第2のヌクレオチド配列からなる領域からなる部分に対して特異的な切断を行うものである。このようなヌクレアーゼとしては、第1のDNA結合ドメインおよび第2のDNA結合ドメインを含むヌクレアーゼが挙げられるが、このヌクレアーゼについては、本明細書のうち、第2の態様の本発明によって提供されるベクターを説明する箇所において説明する。前記のような特異的な切断を行う他のヌクレアーゼとしては、CRISPR/CasシステムによるヌクレアーゼなどのRNA誘導型ヌクレアーゼが挙げられる。CRISPR/Casシステムにおいては、PAMと呼ばれる部分が、Cas9ヌクレアーゼによる二本鎖切断に必須である。Cas9ヌクレアーゼには、たとえば、Streptococcus pyogenes由来のSpCas9、Streptococcus thermophilus由来のStCas9が挙げられる。SpCas9のPAMは「5’−NGG−3’」配列であり(Nは任意のヌクレオチドである)、二本鎖切断が起こる箇所は、PAMより3塩基上流(5’末端側)に位置する。CRISPR/CasシステムにおけるガイドRNA(gRNA)は、二本鎖切断が起こる箇所の5’側に位置する塩基配列を認識する。そして、CRISPR/Casシステムにおける二本鎖切断が生じる箇所は、細胞に含まれる核酸において、所望の核酸を挿入することを目的とする前記の所定の部位に対応する。当該所定の部位の両端には、第1のヌクレオチド配列からなる領域と、第2のヌクレオチド配列からなる領域が存在する。そのため、細胞における核酸に含まれるPAMよりも5’末端側に位置する塩基配列を認識するgRNAを用いるCRISPR/Casシステムは、第1のヌクレオチド配列からなる領域および第2のヌクレオチド配列からなる領域からなる部分に対して特異的な切断を行うことができる。
【0027】
第1の態様の本発明によって提供されるベクターは、5’末端から3’末端の方向において、順に、第1のヌクレオチド配列からなる領域、細胞に挿入することを目的とする所望の核酸、および第2のヌクレオチド配列からなる領域を含む。ベクターに含まれる第1のヌクレオチド配列からなる領域は、前記の細胞に含まれる核酸における第1のヌクレオチド配列からなる領域と同一である。また、ベクターに含まれる第2のヌクレオチド配列からなる領域は、前記の細胞に含まれる核酸における第2のヌクレオチド配列からなる領域と同一である。ベクターに含まれる第1のヌクレオチド配列、および第2のヌクレオチド配列と、細胞に含まれる核酸における第1のヌクレオチド配列、および第2のヌクレオチド配列との関係を、図1を一例として説明する。図1のTALEN siteに含まれるAAcatgagが、第1のヌクレオチド配列である。第1のヌクレオチド配列におけるAAは、第1のDNA結合ドメインによって認識されるヌクレオチド配列と、第1のヌクレオチド配列との重複部分である。図1のTALEN siteに含まれるattcagaAが、第2のヌクレオチド配列である。第2のヌクレオチド配列の大文字のAは、第2のヌクレオチド配列と、第2のDNA結合ドメインによって認識されるヌクレオチド配列との重複部分である。一方、図1のドナーベクターに含まれるAttcagaaは、第2のヌクレオチド配列である。第2のヌクレオチド配列に含まれる大文字のAは、第1のDNA結合ドメインによって認識されるヌクレオチド配列と、第1のヌクレオチド配列との重複部分である。図1のドナーベクターに含まれるaacatgaは、第1のヌクレオチド配列である。図1のドナーベクターに含まれるCMVおよびEGFPをコードする配列は、細胞に挿入することを目的とする所望の核酸である。図1のドナーベクターの模式図に示されるように、第1のヌクレオチド配列(aacatgag)からなる領域を起点として順に説明すると、図1のドナーベクターは、5’末端から3’末端の方向に向けて、順に、第1のヌクレオチド配列からなる領域、細胞に挿入することを目的とする所望の核酸、および第2のヌクレオチド配列からなる領域を含む。図1のドナーベクターと図1のTALEN siteとの対比で説明すると、TALEN siteにおいては、第1のヌクレオチド配列の3’末端と第2のヌクレオチド配列の5’末端が、隣接または接触しているのに対して、ドナーベクターにおいては、第2のヌクレオチド配列の3’末端と第1のヌクレオチド配列の5’末端が、隣接または接触している。この点で、図1の一例においては、細胞における核酸における第1のヌクレオチド配列と第2のヌクレオチド配列との位置関係は、ベクターにおけるこれらの位置関係と比較して、逆転している。このような関係は、図1のドナーベクターが環状ベクターであること、ならびにヌクレアーゼがベクターにおける第1のヌクレオチド配列からなる領域および第2のヌクレオチド配列からなる領域を含む部分に対して切断を行うことに起因する。このように、第1の態様の本発明のベクターは、好ましくは、環状ベクターである。また、第1の態様の本発明のベクターが、環状ベクターである場合には、第1の態様の本発明のベクターに含まれる第2のヌクレオチド配列の3’末端と、第1のヌクレオチド配列の5’末端は、好ましくは、隣接している、または直接的に連結している。第1の態様の本発明のベクターが、環状ベクターであって、第2のヌクレオチド配列と第1のヌクレオチド配列とが隣接する場合には、第2のヌクレオチド配列の3’末端と、第1のヌクレオチド配列の5’末端は、好ましくは、1〜7塩基長、より好ましくは、1〜5塩基長、さらに好ましくは、1〜3塩基長の塩基配列からなる領域によって隔てられている。

【0028】
第2の態様の本発明によって提供されるベクターは、第1のDNA結合ドメインおよび第2のDNA結合ドメインを含むヌクレアーゼによって、所望の核酸を挿入するためのものである。
【0029】
DNA結合ドメインの由来としては、植物病原菌XanthomonasのTALE(Transcription Activator−Like Effector)、ジンクフィンガー(Zinc finger)などが挙げられる。DNA結合ドメインは、好ましくは、塩基対を特異的に認識する1または複数のDNA結合モジュールを、N末端側から連続的に含む。1つのDNA結合モジュールは、1つの塩基対を特異的に認識する。したがって、第1のDNA結合ドメイン、および第2のDNA結合ドメインは、それぞれ、特定のヌクレオチド配列からなる領域を認識する。第1のDNA結合ドメインが認識するヌクレオチド配列と第2のDNA結合ドメインが認識するヌクレオチド配列は、同一であってもよいし、異なってもよい。DNA結合ドメインに含まれるDNA結合モジュールの数は、DNA切断ドメインのヌクレアーゼ活性の高さとDNA配列認識特異性の高さの両立性の観点から、好ましくは、8〜40、より好ましくは、12〜25、さらにより好ましくは、15〜20である。DNA結合モジュールとしては、たとえば、TALエフェクターリピート(effector repeat)などが挙げられる。1つのDNA結合モジュールの長さとしては、例えば、20〜45、30〜38、32〜36、または34などが挙げられる。DNA結合ドメインに含まれるDNA結合モジュールの長さは、好ましくは、全てのDNA結合モジュールに関して同一である。第1のDNA結合ドメインおよび第2のDNA結合ドメインは、好ましくは、由来、特性などが同一である。
【0030】
RNA誘導型Foklヌクレアーゼ(Fokl−dCas9)を用いる場合、gRNAと複合体を形成したFokl−dCas9が、上述した第2の態様におけるDNA結合ドメインを含むヌクレアーゼに相当する。dCas9はその触媒活性が不活性化されたCas9であり、二本鎖切断が起こる箇所の近傍に位置する塩基配列を認識するgRNAに導かれ、核酸に結合する。つまり、gRNAと複合体を形成したdCas9が、上述した第2の態様におけるDNA結合ドメインに相当する。
【0031】
第1のDNA結合ドメインおよび第2のDNA結合ドメインを含むヌクレアーゼは、好ましくは、第1のDNA結合ドメインおよび第1のDNA切断ドメインを含む第1のヌクレアーゼサブユニット、ならびに第2のDNA結合ドメインおよび第2のDNA切断ドメインを含む第2のヌクレアーゼサブユニットを含む。
【0032】
第1のDNA切断ドメインおよび第2のDNA切断ドメインは、好ましくは、第1のDNA結合ドメインおよび第2のDNA結合ドメインがそれぞれDNAに結合した後、相互に接近して多量体を形成し、向上したヌクレアーゼ活性を取得する。このようなDNA切断ドメインとしては、制限酵素Foklに由来するものなどが挙げられる。DNA切断ドメインは、ヘテロダイマー型のDNA切断ドメインであってもよく、ホモダイマー型のDNA切断ドメインであってもよい。第1のDNA切断ドメインと第2のDNA切断ドメインが接近すると、多量体が形成され、向上したヌクレアーゼ活性が得られるが、第1のDNA切断ドメインと第1のDNA切断ドメインが接近しても、多量体が形成されず、向上したヌクレアーゼ活性が得られず、また、第2のDNA切断ドメインと第2のDNA切断ドメインが接近しても、多量体が形成されず、向上したヌクレアーゼ活性が得られない場合、当該第1のDNA切断ドメインと当該第2のDNA切断ドメインは、ヘテロダイマー型のDNA切断ドメインである。また、第1のDNA切断ドメインと第1のDNA切断ドメインが接近すると、多量体を形成し、ヌクレアーゼ活性の向上が生じる場合、当該第1のDNA切断ドメインは、ホモダイマー型のDNA切断ドメインである。ホモダイマー型のDNA切断ドメインを用いる場合には、一般的に、高いヌクレアーゼ活性が得られる。第1のDNA切断ドメインおよび第2のDNA切断ドメインは、好ましくは、由来、特性などが同一である。
【0033】
TALENを用いる場合、第1のヌクレアーゼサブユニットにおいて、第1のDNA結合ドメインと第1のDNA切断ドメインは、20〜70、25〜65、または30〜60、好ましくは、35〜55、より好ましくは、40〜50、更に好ましくは、45〜49、最も好ましくは、47のアミノ酸からなるポリペプチドにより接続されている。ZFNを用いる場合、第1のヌクレアーゼサブユニットにおいて、第1のDNA結合ドメインと第1のDNA切断ドメインは、0〜20、または2〜10、好ましくは、3〜9、より好ましくは、4〜8、更に好ましくは、5〜7のアミノ酸からなるポリペプチドにより接続されている。Fokl−dCas9を用いる場合、第1のヌクレアーゼサブユニットにおいて、dCas9とFoklは、1〜20、1〜15、または1〜10、好ましくは、2〜8、より好ましくは、3〜7、更に好ましくは、4〜6、最も好ましくは、5のアミノ酸からなるポリペプチドにより接続されている。第2のヌクレアーゼサブユニットについても同様である。このような長さのポリペプチドにより接続された第1のヌクレアーゼサブユニットは、第1のヌクレオチド配列からなる領域、および第2のヌクレオチド配列からなる領域からなる部分の長さに対する特異性が高く、特定の長さのスペーサー領域に対して特異的に切断を行うため、非特異的な切断によって目的外の部位へ核酸が挿入される頻度が低く、また、後述のマイクロホモロジー媒介性末端結合による連結後の核酸に対する再度の切断が生じる頻度が低く、好ましい。
【0034】
第2の態様の本発明によって提供されるベクターによる挿入を目的とする細胞に含まれる核酸において、第1のヌクレオチド配列からなる領域は、第1のDNA結合ドメインによって認識されるヌクレオチド配列からなる領域と、第2のDNA結合ドメインによって認識されるヌクレオチド配列からなる領域との間にある。また、第2のヌクレオチド配列からなる領域は、第1のDNA結合ドメインによって認識されるヌクレオチド配列からなる領域と、第2のDNA結合ドメインによって認識されるヌクレオチド配列からなる領域との間にある。また、前記所定の部位は、第1のDNA結合ドメインによって認識されるヌクレオチド配列からなる領域と、第2のDNA結合ドメインによって認識されるヌクレオチド配列からなる領域との間にある。当該核酸において、第1のヌクレオチド配列からなる領域を囲むDNA結合ドメインによって認識される2つのヌクレオチド配列の組合せは、第2のヌクレオチド配列からなる領域を囲むDNA結合ドメインによって認識される2つのヌクレオチド配列の組合せと異なっていてもよい。この場合、第1のヌクレオチド配列からなる領域の周辺を切断するためのヌクレアーゼと、第2のヌクレオチド配列からなる領域の周辺を切断するためのヌクレアーゼには、別異のものが用いられる。前記細胞に含まれる核酸において、第1のDNA結合ドメインによって認識されるヌクレオチド配列からなる領域と、第2のDNA結合ドメインによって認識されるヌクレオチド配列からなる領域は、好ましくは、5〜40塩基長の、より好ましくは、10〜30塩基長の、さらに好ましくは、12〜20塩基長のヌクレオチド配列からなる領域によって隔てられている。両者を隔てる領域の塩基長は、第1のヌクレオチド配列の塩基長、および第2のヌクレオチド配列の塩基長の合計の塩基長と同一であってもよいが、異なってもよい。たとえば、前記細胞に含まれる核酸において、第1のヌクレオチド配列の3’末端と、第2のヌクレオチド配列の5’末端とが直接に接触すること、第1のDNA結合ドメインによって認識されるヌクレオチド配列と、第1のヌクレオチド配列との間に重複がないこと、ならびに第2のヌクレオチド配列と第2のDNA結合ドメインによって認識されるヌクレオチド配列との間に重複がないことの条件を満たす場合には、前記の両者を隔てる領域の塩基長は、第1のヌクレオチド配列の塩基長、および第2のヌクレオチド配列の塩基長の合計の塩基長と同一である。しかしながら、これらの条件から選ばれる1または複数が満たされない場合には、前記の両者を隔てる領域の塩基長は、第1のヌクレオチド配列の塩基長、および第2のヌクレオチド配列の塩基長の合計の塩基長と異なる。細胞に含まれる核酸において、第1のヌクレオチド配列からなる領域は、第1のDNA結合ドメインによって認識されるヌクレオチド配列からなる領域と部分的に重複していてもよい。また、細胞に含まれる核酸において、第2のヌクレオチド配列からなる領域は、第2のDNA結合ドメインによって認識されるヌクレオチド配列からなる領域と部分的に重複していてもよい。部分的な重複がある場合、重複する部分は、好ましくは、1〜6塩基長、より好ましくは、1〜5塩基長、さらに好ましくは、2〜4塩基長のヌクレオチド配列からなる。部分的な重複がある場合には、後述のマイクロホモロジー媒介性末端結合による連結によって、DNA結合ドメインによって認識される2つの領域を隔てる部分であって、第1のヌクレオチド配列からなる領域、および第2のヌクレオチド配列からなる領域を含んでいた部分の長さがより大きく減少するため、連結後の再度の切断を一層受けにくく、挿入した核酸がより安定的に保持され、好ましい。
【0035】
第2の態様の本発明によって提供されるベクターにおいて、第1のヌクレオチド配列からなる領域、および第2のヌクレオチド配列からなる領域は、それぞれ、第1のDNA結合ドメインによって認識されるヌクレオチド配列からなる領域と、第2のDNA結合ドメインによって認識されるヌクレオチド配列からなる領域との間にある。当該ベクターにおいて、第1のヌクレオチド配列からなる領域を囲むDNA結合ドメインによって認識される2つのヌクレオチド配列の組合せは、第2のヌクレオチド配列からなる領域を囲むDNA結合ドメインによって認識される2つのヌクレオチド配列の組合せと異なっていてもよい。この場合、第1のヌクレオチド配列からなる領域の周辺を切断するためのヌクレアーゼと、第2のヌクレオチド配列からなる領域の周辺を切断するためのヌクレアーゼには、別異のものが用いられる。ベクターにおいて、第1のDNA結合ドメインによって認識されるヌクレオチド配列からなる領域は、第2のDNA結合ドメインによって認識されるヌクレオチド配列からなる領域と対比して、5’末端側に存在してもよく、3’末端側に存在してもよい。しかしながら、ベクターにおいて、第1のヌクレアーゼ配列の3’末端側に位置し、第1のDNA結合ドメインまたは第2のDNA結合ドメインによって認識されるヌクレオチド配列は、細胞に含まれる核酸における第2のヌクレオチド配列の3’末端側に位置し、第1のDNA結合ドメインまたは第2のDNA結合ドメインによって認識される配列とは異なることが好ましい。また、ベクターにおいて、第2のヌクレアーゼ配列の5’末端側に位置し、第1のDNA結合ドメインまたは第2のDNA結合ドメインによって認識されるヌクレオチド配列は、細胞に含まれる核酸における第1のヌクレオチド配列の5’末端側に位置し、第1のDNA結合ドメインまたは第2のDNA結合ドメインによって認識される配列とは異なることが好ましい。これらの場合、ヘテロダイマー型のDNA切断ドメインを含むヌクレアーゼを組み合わせて用いることによって、所望の核酸の挿入後に生じる再度の切断の頻度を、より低減することができる。また、ベクターは、第1のDNA結合ドメインおよび第2のDNA結合ドメインを含む1または複数のヌクレアーゼによって、1ヶ所の切断部位を生じるものであってもよく、2ヶ所以上の切断部位を生じるものであってもよい。2ヶ所の切断部位を生じるベクターとしては、たとえば、5’末端から3’末端の方向において、順に、第1のDNA結合ドメインによって認識されるヌクレオチド配列からなる領域、第1のヌクレオチド配列からなる領域、第2のDNA結合ドメインによって認識されるヌクレオチド配列からなる領域、細胞に挿入することを目的とする所望の核酸、第1のDNA結合ドメインによって認識されるヌクレオチド配列からなる領域、第2のヌクレオチド配列からなる領域、および第2のDNA結合ドメインによって認識されるヌクレオチド配列からなる領域、を含むベクターが挙げられる。2ヶ所の切断部位を生じるベクターを用いる場合には、ヌクレアーゼによる切断によって、ベクターに含まれる不要な核酸を除去することができるため、不要な核酸を含まない所望の細胞を、より安全に取得することができる。
【0036】
第2の態様の本発明によって提供されるベクターにおいて、第1のDNA結合ドメインによって認識されるヌクレオチド配列からなる領域と、第2のDNA結合ドメインによって認識されるヌクレオチド配列からなる領域とを隔てる領域であって、第1のヌクレオチド配列からなる領域、または第2のヌクレオチド配列からなる領域を含む領域は、好ましくは、5〜40塩基長、より好ましくは、10〜30塩基長、さらに好ましくは、12〜20塩基長のヌクレオチド配列からなる。第1のDNA結合ドメインによって認識されるヌクレオチド配列からなる領域と、第2のDNA結合ドメインによって認識されるヌクレオチド配列からなる領域とを隔てる領域が、第1のヌクレオチド配列、および第2のヌクレオチド配列の両方を含む場合には、前記の隔てる領域の塩基長は、第1のヌクレオチド配列の塩基長と、第2のヌクレオチド配列の塩基長の合計と、同一である、または概ね同一である。前述のように、第1のヌクレオチド配列は、好ましくは、3塩基長〜10塩基長、より好ましくは、4塩基長〜8塩基長、さらに好ましくは、5塩基長〜7塩基長である。また、前述のように、第2のヌクレオチド配列は、好ましくは、3塩基長〜10塩基長、より好ましくは、4塩基長〜8塩基長、さらに好ましくは、5塩基長〜7塩基長である。第1のヌクレオチド配列もしくは第2のヌクレオチド配列からなる領域と、DNA結合ドメインによって認識されるヌクレオチド配列からなる領域とに重複がある場合、第1のヌクレオチド配列からなる領域と第2のヌクレオチド配列からなる領域とに重複がある場合、または第1のヌクレオチド配列からなる領域と第2のヌクレオチド配列からなる領域とが直接的に接続しない場合には、前記の隔てる領域の塩基長は、第1のヌクレオチド配列の塩基長および第2のヌクレオチド配列の塩基長の合計の塩基長と同一にはならず、概ね同一であるにとどまる。
【0037】
第1または第2の態様の本発明によって提供されるベクターにおいて、たとえば、前記細胞に含まれる核酸における第1のヌクレオチド配列と前記ベクターにおける第1のヌクレオチド配列はマイクロホモロジー媒介性結合(MMEJ)によって連結され、前記細胞に含まれる核酸における第2のヌクレオチド配列と前記ベクターにおける第2のヌクレオチド配列はMMEJによって連結され、それによって、前記所望の核酸が、前記細胞に含まれる核酸における所定の部位に挿入される。
【0038】
第2の態様の本発明によって提供されるベクターにおいて、たとえば、前記ヌクレアーゼはホモダイマー型のヌクレアーゼであり、前記ベクターは環状ベクターである。
【0039】
第1の態様の本発明によって提供されるベクターにおいて、たとえば、前記ヌクレアーゼはCRISPR/CasシステムによるヌクレアーゼなどのRNA誘導型ヌクレアーゼである。好ましくは、前記ヌクレアーゼはCas9ヌクレアーゼである。
【0040】
第2の態様の本発明によって提供されるベクターにおいて、前記ヌクレアーゼは、好ましくはZFN、TALENまたはFokl−dCas9であり、より好ましくはTALENである。ZFN、TALENまたはFokl−dCas9はホモダイマー型であってもよく、ヘテロダイマー型であってもよい。前記ヌクレアーゼは、好ましくはホモダイマー型のZFN、TALENまたはFokl−dCas9であり、より好ましくはホモダイマー型のTALENである。
【0041】
上述したヌクレアーゼにはそれらの変異体も含まれる。このような変異体は、前記ヌクレアーゼの活性を示す限り、どのようなものであってもよい。このような変異体には、たとえば、前記ヌクレアーゼのアミノ酸配列において、数個、たとえば1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、または50個のアミノ酸が置換、欠失および/または付加されたアミノ酸配列を含むヌクレアーゼが挙げられる。
【0042】
本発明によって提供されるベクターに含まれる所望の核酸は、たとえば、10〜10000塩基長からなるものであってよく、数キロ塩基長からなるものであってもよい。所望の核酸は、遺伝子をコードする核酸を含んでもよい。コードされる遺伝子は任意の遺伝子とすることができ、たとえば、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼなどの化学発光基質を変換する酵素をコードする遺伝子が挙げられる。所望の核酸は、光シグナルによって発現を検出することができる遺伝子をコードする核酸を含んでもよい。この場合、ベクター導入後の細胞における光シグナルの有無を検出することによって、挿入の成否を簡便に確認することができ、所望の核酸が挿入された細胞を取得する効率および頻度が向上する。光シグナルによって発現を検出することができる遺伝子としては、緑色蛍光タンパク質(GFP)、ヒト化ウミシイタケ緑色蛍光タンパク質(hrGFP)、増強緑色蛍光タンパク質(eGFP)、黄緑色蛍光タンパク質(mNeonGreen)、増強青色蛍光タンパク質(eBFP)、増強シアン蛍光タンパク質(eCFP)、増強黄色蛍光タンパク質(eYFP)、赤色蛍光タンパク質(RFPまたはDsRed)などの蛍光タンパク質をコードする遺伝子;ホタルルシフェラーゼ、ウミシイタケルシフェラーゼなどの生物発光タンパク質をコードする遺伝子が挙げられる。
【0043】
本発明によって提供されるベクターにおいて、第1のヌクレオチド配列からなる領域と前記の所望の核酸は、好ましくは、直接的に隣接している。また、前記の所望の核酸と第2のヌクレオチド配列からなる領域は、好ましくは、直接的に隣接している。また、前記所望の核酸が遺伝子などの機能的因子を含む場合には、当該ベクターに含まれる第1のヌクレオチド配列、および第2のヌクレオチド配列は、当該機能的因子の一部をコードするものであってもよい。
【0044】
本発明によって提供されるベクターは、環状のベクターであってもよく、直鎖状のベクターであってもよい。好ましくは、本発明によって提供されるベクターは環状ベクターである。本発明のベクターとしては、プラスミドベクター、コスミドベクター、ウイルスベクター、人工染色体ベクターなどが挙げられる。人工染色体ベクターとしては、酵母人工染色体ベクター(YAC)、細菌人工染色体ベクター(BAC)、P1人工染色体ベクター(PAC)、マウス人工染色体ベクター(MAC)、ヒト人工染色体ベクター(HAC)が挙げられる。また、ベクターの成分としては、DNA、RNAなどの核酸、GNA、LNA、BNA、PNA、TNAなどの核酸アナログなどが挙げられる。ベクターは、糖類などの核酸以外の成分によって修飾されていてもよい。
【0045】
第7の態様において、本発明は、細胞に含まれる核酸における所定の部位に所望の核酸を挿入するためのキットを提供する。第7の態様の本発明のキットは、第1の態様〜第6の態様のいずれか1つの本発明のベクターを含む。また、第7の態様の本発明のキットは、ヌクレアーゼを発現させるためのベクターを含む。ヌクレアーゼを発現させるためのベクターとしては、たとえば、第1のDNA結合ドメインおよび第2のDNA結合ドメインを含むヌクレアーゼを発現させるためのベクターが挙げられる。前記ヌクレアーゼを発現させるためのベクターにおいて、ベクターとしては、プラスミドベクター、コスミドベクター、ウイルスベクター、人工染色体ベクターなどが挙げられる。前記ヌクレアーゼを発現させるためのベクターとしては、たとえば、第1のDNA結合ドメインおよび第1のDNA切断ドメインを含む第1のヌクレアーゼサブユニットをコードする遺伝子を含む第1のベクター、ならびに第2のDNA結合ドメインおよび第2のDNA切断ドメインを含む第2のヌクレアーゼサブユニットをコードする遺伝子を含む第2のベクターからなるベクターセットが挙げられる。あるいは、前記第1のヌクレアーゼサブユニットをコードする遺伝子と前記第2のヌクレアーゼサブユニットをコードする遺伝子の両方を含むベクターが挙げられる。前記第1のベクターと前記第2のベクターは、別異の核酸断片中に存在してもよく、同一の核酸断片中に存在してもよい。第1のヌクレオチド配列からなる領域の周辺を切断するためのヌクレアーゼと、第2のヌクレオチド配列からなる領域の周辺を切断するためのヌクレアーゼに、別異のものが用いられる場合には、第7の態様の本発明のキットは、前述の第1のベクターおよび第2のベクターからなるベクターセットを、複数含む。ヌクレアーゼとして、CRISPR/Casシステムによるヌクレアーゼを用いる場合には、第7の態様の本発明のキットは、第1の態様の本発明のベクターにおける第1のヌクレオチド配列からなる領域の近辺を切断するgRNAおよびヌクレアーゼを発現させるためのベクター、第1の態様の本発明のベクターにおける第2のヌクレオチド配列からなる領域の近辺を切断するgRNAおよびヌクレアーゼを発現させるためのベクター、および細胞に含まれる核酸における所定の部位を切断するためのgRNAおよびヌクレアーゼを発現させるためのベクターを含んでもよい。CRISPR/Casシステムによるヌクレアーゼを発現するためのベクターは、1ヶ所の切断につき、gRNAを発現するためのベクター、およびCas9を発現するためのベクターを含んでもよい。上述したgRNAおよびCas9を発現させるためのベクターは、gRNAをコードする遺伝子とCas9をコードする遺伝子の両方を含むベクターであってもよい。あるいは、gRNAをコードする遺伝子を含むベクター、およびCas9をコードする遺伝子を含むベクターからなるベクターセットであってもよい。異なる機能を有する複数のベクターは、同一の核酸断片上に存在してもよいし、異なる核酸断片上に存在してもよい。
【0046】
第8の態様において、本発明は、細胞に含まれる核酸における所定の部位に所望の核酸を挿入する方法を提供する。第8の態様の本発明の方法は、第1の態様〜第6の態様のいずれか1つの本発明のベクター、ならびにヌクレアーゼを発現させるためのベクターを、細胞に導入する工程を含む。ヌクレアーゼを発現させるためのベクターとしては、たとえば、上述のような、第1のDNA結合ドメインおよび第2のDNA結合ドメインを含むヌクレアーゼを発現させるためのベクターが挙げられる。あるいは、第1のDNA結合ドメインおよび第1のDNA切断ドメインを含む第1のヌクレアーゼサブユニットをコードする遺伝子を含む第1のベクター、ならびに第2のDNA結合ドメインおよび第2のDNA切断ドメインを含む第2のヌクレアーゼサブユニットをコードする遺伝子を含む第2のベクターからなるベクターセットが挙げられる。細胞への導入は、これらのベクターを、生体外で培養された細胞に接触させて行ってもよく、これらのベクターを生体に投与して、生体内に存在する細胞に間接的に接触させて行ってもよい。これらのベクターは、同時に、あるいは別々に、細胞へ導入することができる。これらのベクターを別々に細胞へ導入する場合、例えば、予めヌクレアーゼを発現させるためのベクターを細胞に導入して、当該ヌクレアーゼの安定発現株または誘導型発現株を作製し、次いで、作製した安定発現株または誘導型発現株に、第1の態様〜第6の態様のいずれか1つの本発明のベクターを導入してもよい。上述した細胞への導入工程を行うと、細胞内において、前記の第1のDNA結合ドメインおよび第2のDNA結合ドメインを含むヌクレアーゼなどのヌクレアーゼが機能して、前記ベクターから、5’末端から3’末端の方向に、順に、第1のヌクレオチド配列からなる領域、挿入を目的とする所望の核酸、および第2のヌクレオチド配列からなる領域を含む核酸断片が生じる。また、前記工程によって、細胞内の核酸における所定の部位において切断が生じる。その後、細胞内において、前記細胞内の核酸における第1のヌクレオチド配列と前記ベクターにおける第1のヌクレオチド配列がマイクロホモロジー媒介性結合(MMEJ)によって連結され、前記細胞内の核酸における第2のヌクレオチド配列と前記ベクターにおける第2のヌクレオチド配列がMMEJによって連結される。これにより、所望の核酸が、細胞の核酸の所定の部位に正確に挿入される。第1の態様の本発明のベクターを用いる場合、組み合わせて用いるヌクレアーゼは、挿入前の細胞内の核酸に含まれる第1のヌクレオチド配列からなる領域、および第2のヌクレオチド配列からなる領域からなる部分に対して特異的な切断を行うが、連結後の核酸は、所望の核酸の挿入により、当該部分を含まなくなっている。たとえば、CRISPR/Casシステムによるヌクレアーゼを用いる場合には、連結後、全てのgRNA標的配列は、PAM配列、およびそれに隣接する3塩基分の配列を失う。そのため、細胞内に存在するヌクレアーゼによる再度の切断を受けず、安定的に保持され、所望の核酸の挿入は、高頻度で生じる。なお、連結後の核酸が、PAM配列またはそれに隣接する塩基を失うような、第1の態様の本発明のベクターとCRISPR/Casシステムとの組合せは、両者に含まれる第1のヌクレオチド配列、第2のヌクレオチド配列、これらのヌクレオチド配列に隣接する配列を参照して、適宜設計することができる。設計の一例を、概略図として、図3に示す。第2の態様の本発明のベクターを用いる場合には、連結後の核酸は、2つのDNA結合ドメインを隔てるスペーサー領域が連結前に比して短くなっているため、細胞内に存在するヌクレアーゼによる再度の切断を受けず、安定的に保持され、所望の核酸の挿入は、高頻度で生じる。なお、複数のDNA結合ドメインを含むヌクレアーゼの切断活性は、DNA結合ドメインによって認識される領域に挟まれるスペーサー領域の長さに依存するものであり、当該ヌクレアーゼは、特定の長さを有するスペーサー領域に対して特異的な切断を行う。連結後の核酸において、2つのDNA結合ドメインを隔てるスペーサー領域は、好ましくは、1〜20塩基長、より好ましくは、2〜15塩基長、さらに好ましくは、3〜10塩基長のヌクレオチド配列からなる。
【0047】
本発明において、細胞に含まれる核酸における所定の部位に所望の核酸を挿入するためのベクターと、ヌクレアーゼを発現するためのベクターは、同一のベクターであってもよく、別異のベクターであってもよい。CRISPR/Casシステムによるヌクレアーゼを用いる場合には、細胞に含まれる核酸における所定の部位に所望の核酸を挿入するためのベクター、ヌクレアーゼを発現するためのベクター、およびgRNAを発現するためのベクターが、同一のベクターであってもよく、別異のベクターであってもよい。
【0048】
本発明のベクターを用いて所望の核酸を挿入する場合、所望の核酸を含むベクターの一部分が、細胞内の核酸における所定の部位に挿入されてもよい。あるいは、所望の核酸を含むベクター全体が、細胞内の核酸における所定の部位に挿入されてもよい。図1は、TALENにより、所望の核酸を含むベクター全体が挿入される場合の概略図を表している。図2は、TALENにより、所望の核酸を含むベクターの一部分が挿入される場合の概略図を表している。図3は、CRISPR/Casシステムにより、所望の核酸を含むベクターの一部分が細胞内の核酸における所定の部位に挿入される場合の概略図を表している。また、図4は、CRISPR/Casシステムにより、所望の核酸を含むベクター全体が挿入される場合の概略図を表している。図5は、Fokl−dCas9により、所望の核酸を含むベクター全体が挿入される場合の概略図を表している。
【0049】
第9の態様において、本発明は、第8の態様の本発明の方法によって取得された細胞を提供する。第9の態様の本発明の細胞は、第8の態様の方法における導入を行った後、挿入の生じた細胞を選択することによって取得することができる。細胞の選択は、たとえば、挿入することを目的とする核酸が特定のレポータータンパク質をコードする遺伝子を含む場合には、当該レポータータンパク質の発現を検出し、検出された発現の量を指標とした選択を行うことによって、簡便かつ高頻度で行うことができる。
【0050】
第10の態様において、本発明は、第9の態様の本発明の細胞を含む生物を提供する。第8の態様の本発明の方法において、ベクターを生体に投与して、生体内に存在する細胞への間接的な接触を行う場合、第10の態様の本発明の生物が得られる。
【0051】
第11の態様において、本発明は、第8の態様の本発明の方法によって取得された細胞を分化させる工程を含む、所望の核酸を含む生物の製造方法を提供する。第8の態様の本発明の方法において、生体外で培養された細胞にベクターを接触させて、所望の核酸を含む細胞を得た後、得られた細胞を分化させることによって、所望の核酸を含む成体生物が製造される。
【0052】
第12の態様において、本発明は、第11の態様の本発明の方法によって製造された生物を提供する。当該製造された生物は、生物内の細胞に含まれる核酸の所定の部位に所望の核酸を含んでおり、当該所望の核酸の機能に応じて、遺伝子、タンパク質、脂質、糖類などの生体物質の機能解析などの各種の用途に用いることができる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例の範囲に限定されるものではない。
【0054】
実施例1. TALENを利用したターゲットインテグレーション
本実施例では、TALENとドナーベクター(TAL−PITChベクター)を用いて、アフリカツメガエル(Xenopus laevis)のチロシナーゼ(tyr)遺伝子のExon1に蛍光タンパク質遺伝子の発現力セットを導入(ターゲットインテグレーション)した。
【0055】
1−1. TALENの作製:
TALENプラスミドは以下のように作製した。pFUS_B6ベクター(Addgene)を鋳型とし、In−Fusionクローニング(クロンテック)によって作製したベクターと、単一のDNA結合ドメインを有するプラスミドを混合し、Golden Gate反応によって4つのDNA結合ドメインを連結した(STEP1プラスミド)。その後pcDNA−TAL−NC2ベクター(Addgene)を鋳型としてIn−Fusionクローニング(クロンテック)によって作製したベクターと、前述のSTEP1プラスミドを混合し、2段階目のGolden Gate反応によってTALENプラスミドを得た。プラスミドの全長配列を配列表の配列番号1〜2(Left_TALEN)、および配列番号3〜4(Right_TALEN)に示す。
【0056】
1−2. ターゲットインテグレーション用ドナーベクター(TAL−PITChベクター)の作製:
tyrTALEN標的配列のスペーサーの前半(第1のヌクレオチド配列)と後半(第2のヌクレオチド配列)を入れ替えた、改変TALEN配列を持つプラスミドを作製した(図1)。鋳型プラスミドにはpCS2+のClalとXbalサイトにEGFPを挿入したpCS2/EGFPを使用し、上記の配列を付加するプライマーセット(Xltyr−CMVEGFP−F+Xltyr−CMVEGFP−R;配列を後述の表1に示す)を用いてInverse PCRを行った。次に、PCR反応液にDpnl(New England Biolabs)を加え、鋳型プラスミドを消化した。精製した反応液をセルフライゲーションし、サブクローニングを行った。シーケンス解析で正確な挿入が確認されたクローンからプラスミドを調製し、ドナーベクターとした(配列を、配列表の配列番号5〜6に示す。配列番号5において、98番目〜817番目のヌクレオチド配列は、EGFPのORF配列を示す。これは、pCS2+のClal/Xbal siteに挿入されている。配列番号5において、1116番目〜1167番目のヌクレオチド配列は、改変TALENによる認識配列を示す。)。
【0057】
1−3. アフリカツメガエルへの微量顕微注入:
実験前日に、ヒト下垂体性性腺刺激ホルモン(あすか製薬)をアフリカツメガエルのオスに150unit、メスに600unit投与した。翌日、採卵した卵に精子懸濁液を数滴加え人工受精させた。約20分後に3%システイン溶液を加え、受精卵を脱ゼリーした後、0.1×MMR(両生類用リンガー液)で数回洗浄し、5%フィコール/0.3×MMRに移し替えた。上記1−1および1−2で作製したチロシナーゼTALEN mRNA mix(Left、Right 250pg each)とドナーベクター(100pg)を受精卵に微量顕微注入法によって共導入した(実験群)。ネガティブコントロールとして、TALEN mRNA Rightのみ(250pg)とドナーベクター(100pg)を共導入した。胚は20℃で培養し、胞胚期に0.1×MMRに移し替え、発生を進めた。
【0058】
1−4. ターゲットインテグレーションの検出:
TALENとベクターを共導入した胚(オタマジャクシ期)を蛍光実体顕微鏡下で観察し、GFP蛍光の有無を判定した。コントロール群及び実験群の胚から個体ごとにゲノムDNAを抽出し、標的サイトへのドナーベクター導入をPCRによって判定した。TALEN標的配列の上流及び下流、ベクター側に設計したプライマーのセットを用いて、ゲノムとベクターの5’側と3’側のつなぎ目をPCRにより増幅した。5’側はtyr−genomic−FとpCS2−R、3’側はtyr−genomic−RとpCS2−Fのプライマーセットを用いた(配列は、後述の表1に示す)。アガロース電気泳動で確認の後、目的サイズのバンドを切り出して、pBluescript SK ベクターにサブクローニングした。コロニーPCRでインサート配列を増幅し、ダイレクトシークエンスにより解析した。シークエンスはCEQ−8000(ベックマン・コールター)を用いた。
【0059】
結果:
ドナーベクター導入胚(オタマジャクシ期)における、実験群(TALEN mix +ベクター注入胚)及びネガティブコントロール群(TALEN R +ベクター注入胚)の表現型を図6A、および図6Bに示す。実験群ではtyr遺伝子が破壊されるため、網膜色素上皮やメラニン保有細胞において色素を欠く(アルビノ)表現型を示し、加えて全身で強いGFP蛍光を発する個体が多数観察された(図6B)。ネガティブロントロール群ではアルビノは観察されず、一部においてモザイクなGFP蛍光を発する個体が観察された(図6A)。実験群、ネガティブコントロール群の表現型の割合を、Full:GFP蛍光が全身で見られる個体、Half:左右のどちらか半分が蛍光を持つ個体、Mosaic:モザイクな蛍光を持つ個体、Non:GFP蛍光が観察されない個体の4つに分類した(図7)。ネガティブコントロール群ではFullとHalfの個体が全く見られなかったのに対し、実験群では生存した個体の約20%がFullの表現型を、約50%がHalfの表現型を示した。
次に、図6で観察した、Fullの表現型を示すオタマジャクシ5個体とネガティブコントロール群の3個体から、それぞれゲノムDNAを抽出しジェノタイピングを行った。ゲノム上の挿入箇所とベクターのつなぎ目を確認するために、tyrTALEN標的配列の上流及び下流、ベクター側に設計したプライマーのセットを用いて、標的部位とドナーベクターの5’側と3’側のつなぎ目をPCRにより増幅した(図8)。PCR産物を電気泳動したところ、実験群No.1、3、4(5’側)、No.2、3、4(3’側)において、予想サイズのバンドが確認された(図8、矢印)。一方、ネガティブコントロール群ではPCR産物は確認されなかった。次に、つなぎ目の配列を調べるために、NO.3、4で検出された、5’側及び3’側のPCR産物をサブクローニングし、シーケンス解析を行った。その結果、No.3の5’側のつなぎ目はMMEJで連結された場合に期待される配列が100%(5/5クローン)の割合で、3’側のつなぎ目は80%(4/5クローン)の割合で確認された(図9A)。No.4の5’側のつなぎ目は10塩基欠失または3塩基挿入の配列が、3’側のつなぎ目は期待される配列が100%(3/3)の割合で確認できた(図9B)。
【0060】
上記1−1から1−4において用いたプライマーの配列を、以下の表1に示す。
【表1】
【0061】
実施例2. CRISPR/Cas9システムを利用したHEK293T細胞へのターゲットインテグレーション
本実施例では、CRISPR/Cas9システムを利用して、HEK293T細胞のフィブリラリン(FBL)遺伝子の最後のコーディングエクソンに蛍光タンパク質遺伝子の発現カセットを導入(ターゲットインテグレーション)した。本実施例の概要を図10に示す。簡潔に言うと、HEK293T細胞に、図10においてオレンジ色、赤色および緑色で示される3種類のgRNAおよびCas9を発現するベクターと、ドナーベクター(CRIS−PITChベクター)とを共導入し、ピューロマイシンによるセレクション後、DNAシーケンシングおよび蛍光観察を行った。
【0062】
2−1. gRNAおよびCas9発現ベクターの作製:
3種類のgRNAおよびCas9を同時に発現するベクターを、SCIENTIFIC REPORTS 2014 Jun 23;4:5400. doi: 10.1038/srep05400に記載されている通りに作製した。簡潔に言うと、Golden Gate反応によって複数のgRNA発現カセットを連結できるようpX330 ベクター(Addgene; Plasmid 42230)を改変し、改変型のpX330 ベクター3種類に、アニーリングした合成オリゴヌクレオチドをそれぞれ挿入した。具体的には、オリゴヌクレオチド13と14をアニーリングさせて、ゲノム切断用gRNA(図10のオレンジ色)の生成のための合成オリゴヌクレオチドを作製した。また、オリゴヌクレオチド15と16をアニーリングさせて、ドナーベクターの5’側の切断用gRNA(図10の赤色)の生成のための合成オリゴヌクレオチドを作製した。さらに、オリゴヌクレオチド17と18をアニーリングさせて、ドナーベクターの3’側の切断用gRNA(図10の緑色)の生成のための合成オリゴヌクレオチドを作製した。各プラスミドに作製した各合成オリゴヌクレオチドを挿入した後、Golden Gate反応によってベクターを統合して、3種類のgRNAおよびCas9を同時に発現するベクターを得た。
【0063】
2−2. ターゲットインテグレーション用ドナーベクター(CRIS−PITChベクター)の作製:
CRIS−PITChベクターは以下のように作製した。pCMV(Stratagene)をベースとするベクター上で、CMVプロモーターを除きつつ、5’側のgRNA標的配列、mNeonGreenコード配列、2Aペプチドコード配列、ピューロマイシン耐性遺伝子のコード配列、3’側のgRNA標的配列という並びになるように、In−Fusionクローニングを用いてベクターを構築した。図11Aおよび図11Bに構築したベクターの全長配列(配列番号23)を示す。図11Aおよび図11Bにおいて、mNeonGreenのコード配列は緑色(配列番号23の1566番目〜2273番目のヌクレオチド)、2Aペプチドのコード配列は紫色(配列番号23の2274番目〜2336番目のヌクレオチド)、ピューロマイシン耐性遺伝子のコード配列は青色(配列番号23の2337番目〜2936番目のヌクレオチド)で、それぞれ示される。下線は5’側および3’側のgRNA標的配列を示す。
【0064】
2−3. HEK293T細胞への導入:
HEK293T細胞への導入は以下のように行った。HEK293T細胞を、ウシ胎児血清を10%含有するダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)で培養した。培養した細胞を、プラスミドを導入する前日に6ウェルプレートへ1ウェル当たり1×10細胞の細胞密度で播種した。プラスミドの導入にはLipofectamine LTX(ライフテクノロジーズ)を用い、gRNAおよびCas9発現ベクターを400ng、CRIS−PITChベクターを200ng導入した。プラスミドの導入後、細胞を薬剤フリーの培地で3日間培養した後、1μg/mLのピューロマイシンを含む培地で6日間培養した。その後、限界希釈によって96ウェルプレート上で単一細胞クローニングを行った。
【0065】
2−4. ターゲットインテグレーションの検出:
gRNAおよびCas9を発現するベクターと、CRIS−PITChベクターとを共導入したHEK293T細胞を、共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察し、蛍光の有無を判定した。次に、ピューロマイシン耐性細胞クローンからゲノムDNAを抽出し、標的サイトへのドナーベクター導入を確認した。CRISPR標的配列の上流及び下流、ベクター側に設計したプライマーのセットを用いて、ゲノムとベクターの5’側と3’側のつなぎ目をPCRにより増幅した。5’側はプライマー19と20、3’側はプライマー21と22のプライマーセットを用いた(配列は、後述の表2に示す)。アガロース電気泳動で確認の後、目的のサイズのバンドを切り出して、ダイレクトシークエンスにより解析した。シークエンスはABI 3130xl Genetic analyzer(ライフテクノロジーズ)を用いた。
【0066】
結果:
共焦点レーザー顕微鏡での観察結果を図12に示す。FBLは核小体に特異的なタンパク質であるため、FBL遺伝子への蛍光タンパク質遺伝子のターゲットインテグレーションが成功した場合、蛍光タンパク質は核小体に局在する。図12に示される通り、FBLタンパク質の局在パターン(核小体)と一致する蛍光像が得られた。次に、ゲノムと導入されたベクターの5’側と3’側のつなぎ目の配列を調べた。その結果、5’側のつなぎ目はMMEJで連結された場合に期待される配列が50%(2/4クローン)の割合で存在し、残り2クローンは9塩基の欠失または挿入を生じるものであった(図13)。3’側のつなぎ目は、完全に期待通りの配列になったものは0%(0/4クローン)であったが、1塩基の置換のみが確認されたものが1クローン存在し、その他は1塩基の欠失、5塩基の欠失、7塩基の欠失がそれぞれ1クローンずつ確認された(図13)。なお、同様に、CRISPR/Cas9システムを利用して、HCT116細胞のβ−アクチン(ACTB)遺伝子座に蛍光タンパク質遺伝子の発現カセットを導入(ターゲットインテグレーション)した場合にも、上述したHEK293T細胞におけるターゲットインテグレーションと同様の結果が得られた。
【0067】
上記2−1から2−4において用いたオリゴヌクレオチドの配列を、以下の表2に示す。
【表2】
[配列表]
図3
図11B
図13
図1
図2
図4a
図4b
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図12