特許第5900963号(P5900963)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5900963ケーブルの線路定数の測定方法および装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5900963
(24)【登録日】2016年3月18日
(45)【発行日】2016年4月6日
(54)【発明の名称】ケーブルの線路定数の測定方法および装置
(51)【国際特許分類】
   G01R 27/16 20060101AFI20160324BHJP
【FI】
   G01R27/16
【請求項の数】8
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2012-151780(P2012-151780)
(22)【出願日】2012年7月5日
(65)【公開番号】特開2014-16167(P2014-16167A)
(43)【公開日】2014年1月30日
【審査請求日】2015年1月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(72)【発明者】
【氏名】野田 琢
(72)【発明者】
【氏名】仲松 寿浩
(72)【発明者】
【氏名】銘苅 壮宏
【審査官】 西島 篤宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−242158(JP,A)
【文献】 米国特許第06456097(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 27/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相ケーブルにおいて、終端の心線を接地し、始端の何れか一相のケーブルの心線と大地の間に、商用周波数よりも高い所定の周波数の交流電圧を印加して前記一相を往路、大地を帰路とした場合の第1のインピーダンスshを計測する第1の計測工程と、
前記三相ケーブルにおいて、終端の心線を接地し、始端の三相ケーブルの心線を一括した端子と大地の間に前記交流電圧を印加して三相一括したケーブルを往路、大地を帰路とする第2のインピーダンス3hを計測する第2の計測工程と、
前記第1のインピーダンスsh中の実数部である第1の抵抗shおよび第2のインピーダンス3h中の実数部である第2の抵抗3hとに基づき、前記ケーブルと大地とで構成される電路の表皮効果による周波数特性を考慮した周波数の関数である第3の抵抗(ω)および第4の抵抗(ω)を推算する第1の抵抗推算式(下記式(A))および第2の抵抗推算式(下記式(B))を生成する抵抗推算式生成工程と、
前記第1のインピーダンスsh中の虚数部である第1のリアクタンスshおよび第2のインピーダンス3h中の虚数部である第2のリアクタンス3hに基づき、前記ケーブルと大地とで構成される電路の前記表皮効果による周波数特性を考慮した周波数の関数である第3のリアクタンス(ω)および第4のリアクタンス(ω)を推算する第1のリアクタンス推算式(下記式(C))および第2のリアクタンス推算式(下記式(D))を生成するリアクタンス推算式生成工程と、
前記第1の抵抗推算式(式(A))および第2の抵抗推算式(式(B))の周波数に任意の周波数f(ω=2πf)を代入することにより前記任意の周波数における前記第3の抵抗R(ω)および第4の抵抗(ω)を推算する抵抗推算工程と、
前記第1のリアクタンス推算式(式(C))および第2のリアクタンス推算式(式(D))の周波数に任意の周波数f(ω=2πf)を代入することにより前記任意の周波数における前記第3のリアクタンスX(ω)および第4のリアクタンス(ω)を推算するリアクタンス推算工程と、
前記抵抗推算工程で推算した第3の抵抗(ω)と前記リアクタンス推算工程で推算した第3のリアクタンス(ω)とに基づき第3のインピーダンスを生成する第1のインピーダンス生成工程と、
前記抵抗推算工程で推算した第4の抵抗(ω)と前記リアクタンス推算工程で推算した第4のリアクタンス(ω)とに基づき第4のインピーダンスを生成する第2のインピーダンス生成工程とを有することを特徴とするケーブルの線路定数の測定方法。
【数1】
(ここで、ωは角周波数、ω=2πf、lは線路亘長、μは真空中の透磁率、Rdcは前記三相ケーブルの直流抵抗である。)
(ここで、ωは角周波数、ω=2πf、lは線路亘長、μは真空中の透磁率である。)
【請求項2】
請求項1に記載するケーブルの線路定数の測定方法において、
前記任意の周波数は、商用周波数であり、
前記所定の周波数は、前記商用周波数付近に観測される測定誤差が無視できる程度に高い周波数で、かつ終端の心線を接地したケーブルの始端の心線から見た入力インピーダンス周波数特性における最初の反共振点の周波数未満の周波数帯域に設定したことを特徴とするケーブルの線路定数の測定方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載するケーブルの線路定数の測定方法において、
表皮効果を考慮した前記ケーブルの大地帰路のインピーダンスの抵抗分を周波数の関数である式(1)で近似してkRsを定数とした式(2)を仮定するとともに、
前記第1のインピーダンスの抵抗分を周波数の関数である式(3)で表し、
上式(3)を変形して係数kRsを表す式(4)を得、前記第1のインピーダンスの実数部である第1の抵抗Rshを式(4)に代入することで係数kRsの値を得、式(4)で求めた係数kRsを式(3)に代入することにより第1の抵抗推算式を生成し、該第1の抵抗推算式にω=2πf(fは任意の周波数)を代入することにより、周波数fにおける第3の抵抗の推算値を得、
前記第2のインピーダンスの抵抗分を周波数の関数である式(5)で表し、
上式(5)を変形して係数kR3を表す式(6)を得、前記第2のインピーダンスの実数部である第2の抵抗R3hを式(6)に代入することで係数kR3の値を得、式(6)で求めた係数kR3を式(5)に代入することにより第2の抵抗推算式を生成し、該第2の抵抗推算式にω=2πfを代入することにより、周波数fにおける第4の抵抗の推算値を得、
さらに表皮効果を考慮した前記ケーブルのインピーダンスのリアクタンス分を周波数の関数である式(7)で近似してkを定数とした式(8)を仮定するとともに、
前記第1のインピーダンスのリアクタンス分を周波数の関数である式(9)で表し、
上式(9)を変形して係数kXsを表す式(10)を得、前記第1のインピーダンスの虚数部である第1のリアクタンスXshを式(10)に代入することで係数kXsの値を得、式(10)で求めた係数kXsを式(9)に代入することにより第1のリアクタンス推算式を生成し、該第1のリアクタンス推算式にω=2πfを代入することにより、周波数fにおける第3のリアクタンスの推算値を得、
前記第2のインピーダンスのリアクタンス分を周波数の関数である式(11)で表し、
上式(11)を変形して係数kX3を表す式(12)を得、前記第2のインピーダンスの虚数部である第2のリアクタンスX3hを式(12)に代入することで係数kX3の値を得、式(12)で求めた係数kX3を式(11)に代入することにより第2のリアクタンス推算式を生成し、該第2のリアクタンス推算式にω=2πfを代入することにより、周波数fにおける第4のリアクタンスの推算値を得ることを特徴とするケーブルの線路定数の測定方法。
【数2】
ここで、lは線路亘長、ωは各周波数、μは真空中の透磁率である。
【数3】
【数4】
ただし、Rdcは前記ケーブルの直流抵抗である。
【数5】
ただし、ω=2πfである。
【数6】
【数7】
【数8】
ここで、γ=1.7811・・・はベッセル定数、RGMRは導体の幾何学的平均半径、ρは大地抵抗率である。
【数9】
【数10】
【数11】
【数12】
【数13】
【請求項4】
請求項3に記載するケーブルの線路定数の測定方法において、
前記係数kRs、前記係数kR3を、係数kRs=係数kR3=係数kとして取り扱い、前記係数kRs及び前記係数kR3の何れか一方のみを求め、求めた何れの一方の係数を前記式(3)及び前記式(5)に代入することにより前記第1の抵抗推算式及び前記第1の抵抗推算式を生成することを特徴とするケーブルの線路定数の測定方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4の何れか一つに記載するケーブルの線路定数の測定方法において、
前記第3のインピーダンスおよび第4のインピーダンスに基づき前記ケーブルの正相分インピーダンスおよび零相分インピーダンスを演算することを特徴とするケーブルの線路定数の測定方法。
【請求項6】
三相ケーブルにおいて、終端の心線を接地し、始端の何れか一相のケーブルの心線と大地の間に、商用周波数よりも高い所定の周波数の交流電圧を印加し、前記一相を往路、大地を帰路として実測した第1のインピーダンスshを表す第1のインピーダンスデータ中の実数部である第1の抵抗shに基づき前記ケーブルと大地とで構成される電路の表皮効果による周波数特性を考慮した周波数の関数である第1の抵抗推算式(下記式(A))を生成する第1の抵抗推算式生成部と、
前記三相ケーブルにおいて、終端の心線を接地し、始端の三相のケーブルの心線を一括した端子と大地の間に、前記交流電圧を印加し、三相一括したケーブルを往路、大地を帰路として実測した第2のインピーダンス3hを表す第2のインピーダンスデータ中の実数部である第2の抵抗3hに基づき前記電路の表皮効果による周波数特性を考慮した周波数の関数である第2の抵抗推算式(下記式(B))を生成する第2の抵抗推算式生成部と、
前記第1のインピーダンスデータ中の虚数部である第1のリアクタンスshに基づき前記電路の表皮効果による周波数特性を考慮した周波数の関数である第1のリアクタンス推算式(下記式(C))を生成する第1のリアクタンス推算式生成部と、
前記第2のインピーダンスデータ中の虚数部である第2のリアクタンス3hに基づき前記電路の表皮効果による周波数特性を考慮した周波数の関数である第2のリアクタンス推算式(下記式(D))を生成する第2のリアクタンス推算式生成部と、
前記第1の抵抗推算式(式(A))の周波数として任意の周波数f(ω=2πf)を代入することにより前記任意の周波数に変換した第3の抵抗(ω)を推算する第1の抵抗推算部と、
前記第2の抵抗推算式(式(B))の周波数として前記任意の周波数f(ω=2πf)を代入することにより前記任意の周波数に変換した第4の抵抗(ω)を推算する第2の抵抗推算部と、
前記第1のリアクタンス推算式(式(C))の周波数に前記任意の周波数f(ω=2πf)を代入することにより前記任意の周波数に変換した第3のリアクタンス(ω)を推算する第1のリアクタンス推算部と、
前記第2のリアクタンス推算式(式(D))の周波数に前記任意の周波数f(ω=2πf)を代入することにより前記任意の周波数に変換した第4のリアクタンス(ω)を推算する第2のリアクタンス推算部と、
前記第1の抵抗推算部および第1のリアクタンス推算部で推算した第3の抵抗(ω)および第3のリアクタンス(ω)に基づき第3のインピーダンスを表すデータを生成する第1のインピーダンス生成部と、
前記第2の抵抗推算部および第2のリアクタンス推算部で推算した第4の抵抗(ω)および第4のリアクタンス(ω)に基づき第4のインピーダンスを表すデータを生成する第2のインピーダンス生成部とを有することを特徴とするケーブルの線路定数の測定装置。
【数14】
(ここで、ωは角周波数、ω=2πf、lは線路亘長、μは真空中の透磁率、Rdcは前記三相ケーブルの直流抵抗である。)
(ここで、ωは角周波数、ω=2πf、lは線路亘長、μは真空中の透磁率、Rdcは前記三相ケーブルの直流抵抗である。)
(ここで、ωは角周波数、ω=2πf、lは線路亘長、μは真空中の透磁率である。)
(ここで、ωは角周波数、ω=2πf、lは線路亘長、μは真空中の透磁率である。)
【請求項7】
請求項6に記載するケーブルの線路定数の測定装置において、
前記任意の周波数は、商用周波数であり、
前記所定の周波数は、前記商用周波数付近に観測される測定誤差が無視できる程度に高い周波数で、かつ終端の心線を接地したケーブルの入力インピーダンス周波数特性における最初の反共振点の周波数未満の周波数帯域に設定したことを特徴とするケーブルの線路定数の測定装置。
【請求項8】
請求項6又は7に記載するケーブルの線路定数の測定装置において、
前記第3のインピーダンスおよび第4のインピーダンスに基づき前記ケーブルの正相分インピーダンスおよび零相分インピーダンスを演算する正相分インピーダンス演算部と、零相分インピーダンスを演算する零相分インピーダンス演算部とを有することを特徴とするケーブルの線路定数の測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はケーブルの線路定数の測定方法および装置に関し、特に短距離地中ケーブルに適用して有用なものである。
【背景技術】
【0002】
架空および地中送配電線の電気的特性を表す定数を線路定数と呼ぶ。一次的な線路定数としては、線路単位長あたりの直列インピーダンスと並列アドミタンスがある。直列インピーダンスは抵抗分とリアクタンス分からなり、多相線路であれば相互誘導も存在する。並列アドミタンスは、コンダクタンス分を考慮する場合もあるが、通常、キャパシタンス分だけからなる。
【0003】
これら直列インピーダンスと並列アドミタンスから、二次的な線路定数として、伝搬定数や特性インピーダンスなどが算出される。各種の電力系統解析において、送配電線の模擬には線路定数が必須となる。このとき、たとえ高精度な解析手法を用いたとしても、解析に使用する線路定数の精度が良くなければ精度の高い解析結果を望むことはできない。このように、送配電線の線路定数を精度良く得ることは、精度の高い電力系統解析の基礎となる。
【0004】
ここで、ケーブルに課電して電圧・電流を測定するという従来の方法においては、正相分インピーダンスは、商用周波数の平衡した三相電圧を印加することにより直接測定している。
【0005】
なお、長距離交流海底ケーブルの高調波領域の線路定数を実測し、結果を開示した公知文献として非特許文献1が存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「長距離交流海底ケーブルの高調波領域の線路定数測定」;電力中央研究所 研究報告書 H04017、平成17年7月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、短距離の地中ケーブルでは、例えば正相分直列インピーダンスが抵抗分・リアクタンス分とも数Ω以下と小さな値となり、ケーブルに課電して電圧・電流を測定するという従来の方法では、正確なインピーダンス値の測定が難しい。これは、インピーダンスの値が小さいため、測定される電圧が小さく、バックグラウンドからの誘導電圧や測定器自体のインピーダンスの影響を受けやすくなるためである。特に、変電所などで商用周波の直列インピーダンスを測定する場合、近傍の高電圧機器から商用周波の誘導を受けて測定精度が低下してしまう。
【0008】
本発明は、上記従来技術に鑑み、商用周波数をはじめ、任意の周波数におけるケーブルの線路定数を精度良く測定することができるケーブルの線路定数の測定方法および装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成する本発明の第1の態様は、
三相ケーブルにおいて、終端の心線を接地し、始端の何れか一相のケーブルの心線と大地の間に、商用周波数よりも高い所定の周波数の交流電圧を印加して前記一相を往路、大地を帰路とした場合の第1のインピーダンスshを計測する第1の計測工程と、
前記三相ケーブルにおいて、終端の心線を接地し、始端の三相ケーブルの心線を一括した端子と大地の間に前記交流電圧を印加して三相一括したケーブルを往路、大地を帰路とする第2のインピーダンス3hを計測する第2の計測工程と、
前記第1のインピーダンスsh中の実数部である第1の抵抗shおよび第2のインピーダンス3h中の実数部である第2の抵抗3hとに基づき、前記ケーブルと大地とで構成される電路の表皮効果による周波数特性を考慮した周波数の関数である第3の抵抗(ω)および第4の抵抗(ω)を推算する第1の抵抗推算式(下記式(A))および第2の抵抗推算式(下記式(B))を生成する抵抗推算式生成工程と、
前記第1のインピーダンスsh中の虚数部である第1のリアクタンスshおよび第2のインピーダンス3h中の虚数部である第2のリアクタンス3hに基づき、前記ケーブルと大地とで構成される電路の前記表皮効果による周波数特性を考慮した周波数の関数である第3のリアクタンス(ω)および第4のリアクタンス(ω)を推算する第1のリアクタンス推算式(下記式(C))および第2のリアクタンス推算式(下記式(D))を生成するリアクタンス推算式生成工程と、
前記第1の抵抗推算式(式(A))および第2の抵抗推算式(式(B))の周波数に任意の周波数f(ω=2πf)を代入することにより前記任意の周波数における前記第3の抵抗R(ω)および第4の抵抗(ω)を推算する抵抗推算工程と、
前記第1のリアクタンス推算式(式(C))および第2のリアクタンス推算式(式(D))の周波数に任意の周波数f(ω=2πf)を代入することにより前記任意の周波数における前記第3のリアクタンスX(ω)および第4のリアクタンス(ω)を推算するリアクタンス推算工程と、
前記抵抗推算工程で推算した第3の抵抗(ω)と前記リアクタンス推算工程で推算した第3のリアクタンス(ω)とに基づき第3のインピーダンスを生成する第1のインピーダンス生成工程と、
前記抵抗推算工程で推算した第4の抵抗(ω)と前記リアクタンス推算工程で推算した第4のリアクタンス(ω)とに基づき第4のインピーダンスを生成する第2のインピーダンス生成工程とを有することを特徴とするケーブルの線路定数の測定方法にある。
【0010】
【数1】
(ここで、ωは角周波数、ω=2πf、lは線路亘長、μは真空中の透磁率、Rdcは前記三相ケーブルの直流抵抗である。)
(ここで、ωは角周波数、ωh=2πfh、lは線路亘長、μ0は真空中の透磁率である。)
【0011】
本発明の第2の態様は、
第1の態様に記載するケーブルの線路定数の測定方法において、
前記任意の周波数fは、商用周波数であり、前記所定の周波数fは、前記商用周波数付近に観測される測定誤差が無視できる程度に高い周波数で、かつ終端の心線を接地したケーブルの始端の心線から見た入力インピーダンス周波数特性における最初の反共振点の周波数未満の周波数帯域に設定したことを特徴とするケーブルの線路定数の測定方法にある。
本発明の第3の態様は、
第1または第2の態様に記載するケーブルの線路定数の測定方法において、
表皮効果を考慮した前記ケーブルの大地帰路のインピーダンスの抵抗分を周波数の関数である式(1)で近似してkRsを定数とした式(2)を仮定するとともに、
前記第1のインピーダンスの抵抗分を周波数の関数である式(3)で表し、
上式(3)を変形して係数kRsを表す式(4)を得、前記第1のインピーダンスの実数部である第1の抵抗Rshを式(4)に代入することで係数kRsの値を得、式(4)で求めた係数kRsを式(3)に代入することにより第1の抵抗推算式を生成し、該第1の抵抗推算式にω=2πf(fは任意の周波数)を代入することにより、周波数fにおける第3の抵抗の推算値を得、
前記第2のインピーダンスの抵抗分を周波数の関数である式(5)で表し、
上式(5)を変形して係数kR3を表す式(6)を得、前記第2のインピーダンスの実数部である第2の抵抗R3hを式(6)に代入することで係数kR3の値を得、式(6)で求めた係数kR3を式(5)に代入することにより第2の抵抗推算式を生成し、該第2の抵抗推算式にω=2πfを代入することにより、周波数fにおける第4の抵抗の推算値を得、
さらに表皮効果を考慮した前記ケーブルのインピーダンスのリアクタンス分を周波数の関数である式(7)で近似してkを定数とした式(8)を仮定するとともに、
前記第1のインピーダンスのリアクタンス分を周波数の関数である式(9)で表し、
上式(9)を変形して係数kXsを表す式(10)を得、前記第1のインピーダンスの虚数部である第1のリアクタンスXshを式(10)に代入することで係数kXsの値を得、式(10)で求めた係数kXsを式(9)に代入することにより第1のリアクタンス推算式を生成し、該第1のリアクタンス推算式にω=2πfを代入することにより、周波数fにおける第3のリアクタンスの推算値を得、
前記第2のインピーダンスのリアクタンス分を周波数の関数である式(11)で表し、
上式(11)を変形して係数kX3を表す式(12)を得、前記第2のインピーダンスの虚数部である第2のリアクタンスX3hを式(12)に代入することで係数kX3の値を得、式(12)で求めた係数kX3を式(11)に代入することにより第2のリアクタンス推算式を生成し、該第2のリアクタンス推算式にω=2πfを代入することにより、周波数fにおける第4のリアクタンスの推算値を得ることを特徴とするケーブルの線路定数の測定方法にある。
【0012】
【数1】
ここで、lは線路亘長、ωは各周波数、μは真空中の透磁率である。
【0013】
【数2】
【0014】
【数3】
ただし、Rdcは前記ケーブルの直流抵抗である。
【0015】
【数4】
ただし、ω=2πfである。
【0016】
【数5】
【0017】
【数6】
【0018】
【数7】
ここで、γ=1.7811・・・はベッセル定数、RGMRは導体の幾何学的平均半径、ρは大地抵抗率である。
【0019】
【数8】
【0020】
【数9】
【0021】
【数10】
【0022】
【数11】
【0023】
【数12】
【0024】
本発明の第4の態様は、
前記係数kRs、前記係数kR3を、係数kRs=係数kR3=係数kとして取り扱い、前記係数kRs及び前記係数kR3の何れか一方のみを求め、求めた何れの一方の係数を前記式(3)及び前記式(5)に代入することにより前記第1の抵抗推算式及び前記第1の抵抗推算式を生成することを特徴とするケーブルの線路定数の測定方法にある。
【0025】
本発明の第5の態様は、
第1〜第4の態様の何れか一つに記載するケーブルの線路定数の測定方法において、
前記第3のインピーダンスおよび第4のインピーダンスに基づき前記ケーブルの正相分インピーダンスおよび零相分インピーダンスを演算することを特徴とするケーブルの線路定数の測定方法にある。
【0026】
本発明の第6の態様は、
三相ケーブルにおいて、終端の心線を接地し、始端の何れか一相のケーブルの心線と大地の間に、商用周波数よりも高い所定の周波数の交流電圧を印加し、前記一相を往路、大地を帰路として実測した第1のインピーダンスshを表す第1のインピーダンスデータ中の実数部である第1の抵抗shに基づき前記ケーブルと大地とで構成される電路の表皮効果による周波数特性を考慮した周波数の関数である第1の抵抗推算式(下記式(A))を生成する第1の抵抗推算式生成部と、
前記三相ケーブルにおいて、終端の心線を接地し、始端の三相のケーブルの心線を一括した端子と大地の間に、前記交流電圧を印加し、三相一括したケーブルを往路、大地を帰路として実測した第2のインピーダンス3hを表す第2のインピーダンスデータ中の実数部である第2の抵抗3hに基づき前記電路の表皮効果による周波数特性を考慮した周波数の関数である第2の抵抗推算式(下記式(B))を生成する第2の抵抗推算式生成部と、
前記第1のインピーダンスデータ中の虚数部である第1のリアクタンスshに基づき前記電路の表皮効果による周波数特性を考慮した周波数の関数である第1のリアクタンス推算式(下記式(C))を生成する第1のリアクタンス推算式生成部と、
前記第2のインピーダンスデータ中の虚数部である第2のリアクタンス3hに基づき前記電路の表皮効果による周波数特性を考慮した周波数の関数である第2のリアクタンス推算式(下記式(D))を生成する第2のリアクタンス推算式生成部と、
前記第1の抵抗推算式(式(A))の周波数として任意の周波数f(ω=2πf)を代入することにより前記任意の周波数に変換した第3の抵抗(ω)を推算する第1の抵抗推算部と、
前記第2の抵抗推算式(式(B))の周波数として前記任意の周波数f(ω=2πf)を代入することにより前記任意の周波数に変換した第4の抵抗(ω)を推算する第2の抵抗推算部と、
前記第1のリアクタンス推算式(式(C))の周波数に前記任意の周波数f(ω=2πf)を代入することにより前記任意の周波数に変換した第3のリアクタンス(ω)を推算する第1のリアクタンス推算部と、
前記第2のリアクタンス推算式(式(D))の周波数に前記任意の周波数f(ω=2πf)を代入することにより前記任意の周波数に変換した第4のリアクタンス(ω)を推算する第2のリアクタンス推算部と、
前記第1の抵抗推算部および第1のリアクタンス推算部で推算した第3の抵抗(ω)および第3のリアクタンス(ω)に基づき第3のインピーダンスを表すデータを生成する第1のインピーダンス生成部と、
前記第2の抵抗推算部および第2のリアクタンス推算部で推算した第4の抵抗(ω)および第4のリアクタンス(ω)に基づき第4のインピーダンスを表すデータを生成する第2のインピーダンス生成部とを有することを特徴とするケーブルの線路定数の測定装置にある。
【0027】
【数14】
(ここで、ωは角周波数、ω=2πf、lは線路亘長、μは真空中の透磁率、Rdcは前記三相ケーブルの直流抵抗である。)
(ここで、ωは角周波数、ω=2πf、lは線路亘長、μは真空中の透磁率、Rdcは前記三相ケーブルの直流抵抗である。)
(ここで、ωは角周波数、ω=2πf、lは線路亘長、μ0は真空中の透磁率である。)
(ここで、ωは角周波数、ω=2πf、lは線路亘長、μは真空中の透磁率である。)
【0028】
本発明の第7の態様は、
第6の態様に記載するケーブルの線路定数の測定装置において、
前記任意の周波数fは、商用周波数であり、
前記所定の周波数fは、前記商用周波数付近に観測される測定誤差が無視できる程度に高い周波数で、かつ終端の心線を接地したケーブルの入力インピーダンス周波数特性における最初の反共振点の周波数未満の周波数帯域に設定したことを特徴とするケーブルの線路定数の測定装置にある。
【0030】
本発明の第の態様は、
第6又は7の態様の何れか一つに記載するケーブルの線路定数の測定装置において、
前記第3のインピーダンスおよび第4のインピーダンスに基づき前記ケーブルの正相分インピーダンスおよび零相分インピーダンスを演算する正相分インピーダンス演算部と、零相分インピーダンスを演算する零相分インピーダンス演算部とを有することを特徴とするケーブルの線路定数の測定装置にある。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、線路インピーダンスが比較的大きくなる高周波領域でインピーダンスの測定を行い、その後表皮効果に起因するケーブルの周波数特性を考慮して、例えば商用周波数である任意の周波数の値を推算するので、正相分インピーダンスが抵抗分およびリアクタンス分とも小さい短距離ケーブルであっても高精度に所定のインピーダンスを計測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明の実施の形態に係る測定方法によりインピーダンスを計測する測定対象の短距離ケーブルを布設する管路の一例を横断面で示す説明図である。
図2図1の各管路に布設され本発明の実施の形態に係る測定方法によりインピーダンスを計測する測定対象である地中ケーブルの横断面を示す説明図である。
図3】三相地中ケーブルの何れか一相の短距離ケーブルのインピーダンスZsh(第1のインピーダンス)を計測する場合の態様を示す説明図である。
図4】三相地中ケーブルを三相一括した短距離ケーブルのインピーダンスZ3h(第2のインピーダンス)を計測する場合の態様を示す説明図である。
図5】終端の心線を接地した短距離ケーブルの始端の心線から見た入力インピーダンスの周波数特性を示す特性図である。
図6】本発明の実施の形態に係る地中ケーブルの線路定数の測定装置を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。なお、本発明の実施形態は、線路定数を測定する任意の周波数を商用周波数fとする場合である。
【0034】
図1は本発明の実施の形態に係る測定方法によりインピーダンスを計測する測定対象の短距離ケーブルを布設する管路の一例を概念的に示す説明図である。同図に示すように、本例は、2回線の送電線地中ケーブルを布設するためのものであり、それぞれの回線が布設された3本の管路から構成される。このとき、これら2回線の管路を管路2(2R,2S,2T)、管路3(3R,3S,3T)とする。
【0035】
図2に示すように、各管路2(2R,2S,2T)、3(3R,3S,3T)には、本発明の実施の形態に係る測定方法によりインピーダンスを計測する測定対象である地中ケーブルが布設してある。本例における地中ケーブルは管路1孔1条布設の送電ケーブルで、公称電圧66kV、亘長約1kmの短距離ケーブル1であり、この短距離ケーブル1が地中でポリコンFRP管である管路2、3のそれぞれの中に1条ずつ布設してある。
【0036】
かかる短距離ケーブル1のインピーダンス計測は次のような手順で実施される。
【0037】
図3に示すように、三相地中ケーブルの何れか一相の短距離ケーブル1の一端部に所定周波数の交流電圧を印加して前記一相を往路、大地を帰路とする第1のインピーダンスZshを計測する。具体的には何れか一相の短距離ケーブル1の端部と大地との間にインピーダンスアナライザ4を接続し、インピーダンスが比較的大きくなる所定の周波数fである高周波数領域まで周波数を変化させ、所定の周波数fでの第1のインピーダンスZshを測定する。かかる第1のインピーダンスZshは、三相地中ケーブルを構成する各相の短距離ケーブル1に関して同様のインピーダンス計測を行い、各相インピーダンスの平均値として与えられる。このように平均値を求めることによりインピーダンスを高精度に測定することができるが、各相の短距離ケーブル1が同一構成、同一長である点を考慮すれば、何れか一相の測定値を採用することでも構わない。
【0038】
次に、図4に示すように、三相地中ケーブルを三相一括した短距離ケーブル1のそれぞれの一端部に所定の周波数fの交流電圧を印加して三相一括した短距離ケーブル1を往路、大地を帰路とする第2のインピーダンスZ3hを計測する。
【0039】
ここで、所定の周波数fは、図5に示す終端接地の場合の短距離ケーブル1の入力インピーダンス周波数特性において商用周波数付近に観測されるノイズが多い周波数領域Aの周波数よりも高い周波数で、かつ前記入力インピーダンス周波数特性における最初の反共振点fの周波数未満のなるべく低い周波数領域に設定する。最初の反共振点fまでの入力インピーダンス周波数数特性は、抵抗とインダクタンスの特性、すなわち、Z=Rl+jωLl(ただし、R、Lはそれぞれ単位長当たりの線路抵抗およびインダクタンス、lは線路長、ωは角周波数である)に近いので、第1および第2のインピーダンスZsh、Z3hが、かかる特性を示す周波数領域であって、周波数領域Aよりも高周波領域に所定の周波数fを設定すれば良いからである。本形態の短距離ケーブル1において、最初の反共振点fは周波数が10〔Hz〕近傍に存在するので、所定の周波数fは、周波数領域Aを越える程度に高い周波数で、かつ反共振点fの周波数未満の、例えば10〔Hz〕近傍の領域に設定すれば良い。
【0040】
上述の如き手順により計測した第1および第2のインピーダンスZsh、Z3hの値は、短距離ケーブル1の導体(心線)および大地の表皮効果により商用周波数における値より抵抗分が大きく、リアクタンス分が小さくなる。したがって、表皮効果の影響が除去されるように、第1および第2のインピーダンスZsh、Z3hの値に基づき、本形態における任意の周波数である商用周波数(f)での値を推算する必要がある。そこで、次のような処理を行っている。
【0041】
表皮効果とは、周波数が高くなると電流が導体や大地の表面に集まる性質で、これにより等価的に電流が流れることのできる断面積が小さくなり、抵抗が大きくなる。図3図4に示す結線で測定した第1および第2のインピーダンスZsh、Z3hの実数部、すなわち第1および第2の抵抗Rsh、R3hは、導体の抵抗と大地帰路の抵抗の和として与えられ、上記表皮効果の影響を受ける。
【0042】
表皮効果を考慮した導体内部のインピーダンスはSchelkunoffにより与えられているが、導体(多くの場合は銅)の抵抗率は大地の抵抗率に比べて何桁も小さいため、導体の表皮効果は大地の表皮効果に比べて相当小さい。そこで、導体については表皮効果が生じず、その抵抗分は直流抵抗Rdcに等しいと仮定する。直流抵抗Rdcの値については、基本的にケーブルメーカーが提供する測定値を入手すればよい。ただ、直流抵抗Rdcの値を直接測定したとしても、きわめて簡単に実測することができる。
【0043】
一方、表皮効果を考慮した地中線の大地帰路インピーダンスは、厳密にはPollaczekにより与えられているが、低周波領域における抵抗分は次式(1)で近似できることが知られている 。
【0044】
【数13】
【0045】
ここで、lは線路亘長、μは真空中の透磁率である。理想的に均質な大地では上式(1)が成立するが、実際の大地では、大地抵抗率が場所や深さによって変化したり、思わぬ埋設物が存在するなどして、大地の抵抗分はこれらの影響を大きく受けてしまう。ただし、周波数に比例する特性は概ね成立していると考えられるから、kを定数として次式(2)を仮定する。
【0046】
【数14】
【0047】
以上より図3に示す場合の第1のインピーダンスの抵抗分は、短距離ケーブル1の直流抵抗をRdcとすれば、次式(3)で表される。
【0048】
【数15】
【0049】
係数kRsは、周波数fにおける実測値である第1のインピーダンスZshがあれば、その実数部第1の抵抗Rshが上式(3)に等しいとして決定することができる。すなわち、次式(4)で表される。
【0050】
【数16】
ただし、ω=2πfである。
【0051】
このようにして係数kRsを決定すれば、式(3)の値は周波数fにおける実測値と一致し、また、導出過程より大地の表皮効果による周波数特性を再現すると考えられる。したがって、式(3)にω=2πf(fは商用周波数)を代入することで、第1の抵抗推算式R(ω)により商用周波数fにおける推算値である第3の抵抗Rを得る。
【0052】
同様に、図4に示す場合の第2のインピーダンスの抵抗分は次式(5)で表される。
【0053】
【数17】
【0054】
係数kR3は、周波数fにおける実測値である第2のインピーダンスZ3hがあれば、その実数部である第2の抵抗R3hが上式(5)に等しいとして決定することができる。すなわち、次式(6)で表される。
【0055】
【数18】
ただし、ω=2πfである。
【0056】
このようにして係数kR3を決定すれば、式(5)の値は周波数fにおける実測値と一致し、また、導出過程より大地の表皮効果による周波数特性を再現すると考えられる。したがって、式(5)にω=2πf を代入することで、第1の抵抗推算式R(ω)の場合と同様に、第2の抵抗推算式R(ω)により商用周波数fにおける推算値である第4の抵抗Rを得る。
【0057】
なお、本形態では係数kRsと係数kR3とをそれぞれ上式(4)、(6)により別々に求めたが、係数kRs=係数kR3=係数kとして取り扱うこともできる。すなわち、一相の場合の第1のインピーダンスZshの実数部である第1の抵抗Rshに基づき求めた係数kRsを使用して式(6)の第2の抵抗推算式を表現することができ、逆に三相一括の場合の第2のインピーダンスZshの実数部である第2の抵抗R3hに基づき求めた係数kR3を使用して式(4)の第1の抵抗推算式を表現することができる。一相の場合も三相一括の場合も、電流の帰路は大地であるため周波数の関数である大地の抵抗R(ω)は同じであるからである。ただし、三相一括の場合は、直流抵抗Rdcを上記式(6)に示すように、三等分した値とする。
【0058】
一方、リアクタンス分の周波数特性は次のように考えることができる。すなわち、周波数が高くなると、表皮効果により電流が導体や大地の表面に集まり、同時に磁界も導体や大地の中に入り込めなくなる。これにより、インダクタンスが減少する。図3および図4の結線でそれぞれ測定した第1および第2のインピーダンスZsh、Z3hの虚数部、すなわち第1および第2のリアクタンスXsh、X3hも表皮効果の影響を受ける。
【0059】
抵抗分の場合と同様に、影響が小さい導体の表皮効果を無視し、大地の表皮効果のみを考慮することとして、周波数fでの実測値から商用周波数fにおける値を推算する。低周波領域において、大地帰路のリアクタンス分は次式(7)で近似できる 。
【0060】
【数19】
ここで、γ=1.7811・・・はベッセル定数、RGMRは導体の幾何学的平均半径、ρは大地抵抗率である。
【0061】
上式(7)はさらにkを定数として次式(8)で表される。
【0062】
【数20】
【0063】
次に、導体が銅の場合の表皮深さ(電流が導体表面から入り込める深さ)を計算すると、60Hzで8mm程度と小さく、導体内部のリアクタンスについては表皮効果だけでなくリアクタンス値そのものを無視しても差し支えないことが分かる。したがって、図3に示す場合の第1のインピーダンスのリアクタンス分は式(9)で表される。
【0064】
【数21】
【0065】
ここで、周波数fにおける第1のインピーダンスZshの実測値があれば、その虚数部である第1のリアクタンスXshが式(9)に等しいとして、係数kXsを決定することができる。すなわち、抵抗分の場合と同様に、次式(10)で係数kXsを決定すれば、式(9)で求まる値は周波数fにおいて実測値に一致し、また、導出過程より大地の表皮効果による周波数特性を再現すると考えられる。
【0066】
【数22】
【0067】
同様に、図4に示す場合の第2のインピーダンスのリアクタンス分は式(11)で表される。
【0068】
【数23】
【0069】
この場合でも、周波数fにおける第2のインピーダンスZ3hの実測値があれば、その虚数部である第2のリアクタンスX3hが式(11)に等しいとして、係数kX3を決定することができる。すなわち、抵抗分の場合と同様に、次式(12)で係数kX3を決定すれば、式(11)で求まる値は周波数fにおいて実測値に一致し、また、導出過程より大地の表皮効果による周波数特性を再現すると考えられる。
【0070】
ここで、X(ω)とX(ω)では幾何学的平均半径RGMRの値が異なるため、定数kはkXsとkX3の2種類となる。
【0071】
【数24】
【0072】
以上により、式(9)、式(11)が角周波数ωを関数とする第1および第2のリアクタンス推算式X(ω)、X(ω)となり、これら式(9)、式(11)に商用周波数であるω=2πfを代入することで、商用周波における推算値である第3および第4のリアクタンスX、Xを得ることができる。
【0073】
次に、対称分への変換について説明する。式(3)、(5)により求めた商用周波における直列インピーダンスの第3および第4の抵抗Rs、R分および式(9)、(10)により求めた商用周波における第3および第4のリアクタンスX、X分より、商用周波における図3および図4の場合の第3および第4のインピーダンスZ、Zはそれぞれ次式(13)、(14)で求めることができる。
【0074】
【数25】
【0075】
【数26】
【0076】
ここで、Zは、このケーブル系を3×3のインピーダンス行列Zで表現した場合の対角成分(自己分)に対応する。一方、Zは三相一括のインピーダンスであり零相インピーダンスの1/3に相当する。
【0077】
したがって、正相分インピーダンスZは、次式(15)で求めることができる。
【0078】
【数27】
【0079】
一方、零相分インピーダンスZは、次式(16)で求めることができる。
【0080】
【数28】
【0081】
かかる本形態の地中ケーブルの線路定数の測定方法では、三相地中ケーブルにおいて、終端の心線を接地し、始端の何れか一相のケーブルの心線と大地の間に、商用周波数よりも高い所定の周波数fの交流電圧を印加して前記一相を往路、大地を帰路とした場合のインピーダンスZsh(例えば、各相の短距離ケーブル1の平均のインピーダンスZsh)を計測するとともに、前記三相地中ケーブルにおいて、終端の心線を接地し、始端の三相地中ケーブルの心線を一括した端子と大地の間に前記周波数fの交流電圧を印加して三相一括したケーブルを往路、大地を帰路とした場合のインピーダンスZ3hを計測している。
【0082】
しかも、このときの周波数fは商用周波数f付近に観測される測定誤差が無視できる程度に高い周波数で、かつ終端接地の場合の短距離ケーブル1の入力インピーダンス周波数特性における最初の反共振点fの周波数未満の周波数帯域に設定している。
【0083】
この結果、商用周波数f付近に観測される測定誤差の影響を除去して高精度の計測値を得ることができる。
【0084】
さらに、本形態では、表皮効果の影響を係数k、kXs、kX3に基づき式(3)、(5)、(8)、(9)で商用周波数fにおける値として推算することができるので、表皮効果の影響も可及的に除去することができる。
【0085】
図1に示すような2回線に関し、図2に示すような布設を行った管路1孔1条布設送電ケーブルである短距離ケーブル1に関する線路定数を本形態により測定した場合の結果を表1に、また同条件での線路定数の計算結果を表2に示す。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
表1と表2との結果を比較すれば、本形態による測定結果が理論的な計算結果によく一致していることが分かる。
【0089】
上述の如き地中ケーブルの線路定数の測定方法は次の実施の形態に係る測定装置を用いることにより実現し得る。ここで、本形態に係る測定装置を図面に基づき詳細に説明する。
【0090】
図6は、本発明の実施の形態に係る地中ケーブルの線路定数の測定装置を示すブロック図である。同図に示すように、第1のインピーダンス記憶部11は、第1のインピーダンスデータD1(Zsh=Rsh+jXsh)を記憶する。第1のインピーダンスデータD1は、終端を接地した三相地中ケーブルの何れか一相の短距離ケーブル1(図1参照;以下同じ)の心線に、商用周波数よりも高い所定の周波数fの交流電圧を印加し、前記一相を往路、大地を帰路として実測した第1のインピーダンスZshを表す。ここで、第1のインピーダンスZshは各相の短距離ケーブル1毎に実測して得られる測定値を平均して求めるのが好ましい。ただ、各相の短距離ケーブル1が同一構成、同一長である点を考慮すれば、何れか一相の測定値を第1のインピーダンスデータD1として採用することでも構わない。
【0091】
第2のインピーダンス記憶部12は、第2のインピーダンスデータD2(Z3h=R3h+jX3h)を記憶する。第2のインピーダンスデータD2は、終端を接地した三相地中ケーブルを三相一括した短距離ケーブル1の各心線に、前記交流電圧を印加し、三相一括した短距離ケーブル1を往路、大地を帰路として実測した第2のインピーダンスZ3hを表す。
【0092】
抵抗推算式生成部13は、第1の抵抗推算式生成部14と第2の抵抗推算式生成部15からなる。第1の抵抗推算式生成部14は、第1のインピーダンスZshの実数部である第1の抵抗Rshを抽出するとともに、第1の抵抗Rshに基づき短距離ケーブル1と大地とで構成される電路の表皮効果による周波数特性を考慮した周波数の関数である第1の抵抗推算式R(ω)を生成する。具体的には式(4)で求めた係数kRsを式(3)に代入する。第2の抵抗推算式生成部15は、第2のインピーダンスZ3hの実数部である第2の抵抗R3hを抽出するとともに、第2の抵抗R3hに基づき短距離ケーブル1と大地とで構成される電路の表皮効果による周波数特性を考慮した周波数の関数である第2の抵抗推算式R(ω)を生成する。具体的には式(6)で求めた係数kR3を式(5)に代入する。ここで、係数kRsおよび係数kR3の何れか一方を使用することもできる。前述の如く、係数kRs=係数kR3として取り扱うことができるからである。
【0093】
リアクタンス推算式生成部16は、第1のリアクタンス推算式生成部17と第2のリアクタンス推算式生成部18からなる。第1のリアクタンス推算式生成部17は、第1のインピーダンスZshの虚数部である第1のリアクタンスXshを抽出するとともに、第1のリアクタンスXshに基づき短距離ケーブル1と大地とで構成される電路の表皮効果による周波数特性を考慮した周波数の関数である第1のリアクタンス推算式X(ω)を生成する。具体的には式(11)で求めた係数kXsを式(9)に代入する。第2のリアクタンス推算式生成部18は、第2のインピーダンスZ3hの虚数部である第2のリアクタンスX3hを抽出するとともに、第2のリアクタンスX3hに基づき短距離ケーブル1と大地とで構成される電路の表皮効果による周波数特性を考慮した周波数の関数である第2のリアクタンス推算式X(ω)を生成する。具体的には式(12)で求めた係数kX3を式(10)に代入する。
【0094】
抵抗推算部19は、第1の抵抗推算部20と第2の抵抗推算部21からなる。第1の抵抗推算部20では、第1の抵抗推算式R(ω)の周波数として、本形態では商用周波数fを代入することにより商用周波数fに変換して第3の抵抗Rを推算する。具体的には、式(3)にω=2πfを代入する。第2の抵抗推算部21では、第2の抵抗推算式R(ω)の周波数として、商用周波数fを代入することにより商用周波数fに変換して第4の抵抗Rを推算する。具体的には、式(5)にω=2πfを代入する。
【0095】
リアクタンス推算部22は、第1のリアクタンス推算部23と第2のリアクタンス推算部24からなる。第1のリアクタンス推算部23では、第1のリアクタンス推算式X(ω)の周波数として、商用周波数fを代入することにより商用周波数fに変換して第3のリアクタンスXを推算する。具体的には、式(9)にω=2πfを代入する。第2のリアクタンス推算部24では、第2のリアクタンス推算式X(ω)の周波数として、商用周波数fを代入することにより商用周波数fに変換して第4のリアクタンスXを推算する。具体的には、式(10)にω=2πfを代入する。
【0096】
第1のインピーダンス生成部25では、第1の抵抗推算部20で推算した第3の抵抗Rおよび第1のリアクタンス推算部23で推算した第3のリアクタンスXに基づき第3のインピーダンスZを生成し、これを表す第3のインピーダンスデータD3を出力する。
【0097】
第2のインピーダンス生成部26では、第2の抵抗推算部21で推算した第4の抵抗Rおよび第2のリアクタンス推算部24で推算した第4のリアクタンスXに基づき第4のインピーダンスZを生成し、これを表す第4のインピーダンスデータD4を出力する。
【0098】
正相分インピーダンス演算部27では、第3のインピーダンスZと第4のインピーダンスZとに基づき正相分インピーダンスZを演算する。具体的には、式(15)の演算を行って、正相分インピーダンスZを表す正相分インピーダンスデータD5を出力する。
【0099】
零相分インピーダンス演算部28では、第3のインピーダンスZと第4のインピーダンスZとに基づき零相分インピーダンスZを演算する。具体的には、式(16)の演算を行って、零相分インピーダンスZを表す零相分インピーダンスデータD6を出力する。
【0100】
本形態によれば、ノイズの影響を除去し得る高周波領域で実測した第1のインピーダンスZshおよび第2のインピーダンスZ3hを商用周波数fの値に変換しているので、短距離ケーブル1と大地とで構成される電路の表皮効果による影響を除去して商用周波数fにおける短距離ケーブル1の第1のインピーダンスZおよび第2のインピーダンスZを高精度に測定することができる。
【0101】
また、第1のインピーダンスZおよび第2のインピーダンスZに基づき演算される正相分インピーダンスZおよび零相分インピーダンスZも高精度な測定値となる。
【0102】
なお、上記実施の形態では、周波数を変化させてインピーダンスを測定できるインピーダンスアナライザを用い、インピーダンスが比較的大きくなる高周波領域における測定結果から商用周波のインピーダンスを求めるようにしたが、これに限るものではない。既知のインピーダンス計測器であれば、特別な制限なく適用することができる。例えば、ブリッジ回路を用いた計測装置をはじめ、LCメータとそのデータを処理するパソコンとの組み合わせ等で好適に計測することができる。
【0103】
また、推算式を生成して推算する抵抗およびリアクタンスは商用周波数における推算値としたが、これに限る必要もない。ノイズが大きい、図5に示す周波数領域Aにおける周波数を所定の周波数とした場合には、上述の如き測定方法を適用することにより、所望のインピーダンスを精度良く計測することができる。
【0104】
さらに、上記実施の形態では測定対象を地中ケーブルとして説明したが、他のケーブルへの適用、例えば架空ケーブルへの適用を排除するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明は、電力の発電、送電、変電、配電を行う産業分野や、工場内で電力の供給を行う産業分野、電子通信を行う産業分野で有効に利用することができる。
【符号の説明】
【0106】
1 短距離ケーブル
2、3 管路
4 インピーダンスアナライザ
sh 第1のインピーダンス
3h 第2のインピーダンス
第3のインピーダンス
第4のインピーダンス
sh 第1の抵抗
3h 第2の抵抗
第3の抵抗
第4の抵抗
sh 第1のリアクタンス
3h 第2のリアクタンス
第3のリアクタンス
第4のリアクタンス
(ω) 第1の抵抗推算式
(ω) 第2の抵抗推算式
(ω) 第1のリアクタンス推算式
(ω) 第2のリアクタンス推算式
D1〜D4 第1〜第4のインピーダンスデータ
D5 正相分インピーダンスデータ
D6 零相分インピーダンスデータ
図1
図5
図6
図2
図3
図4